説明

車輪用軸受装置

【課題】軽量・コンパクト化と共に、低コスト化を図りつつ、クリープを防止して耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪を回転自在に支承する車輪用軸受2を備えた第1世代構造の車輪用軸受装置において、ハブ輪1の基部4の内周に車輪用軸受2が圧入される嵌合部10と、この嵌合部10からインナー側に縮径する位置決め部11が形成され、外輪15のインナー側の端部外周に外径面15bから僅かに小径に形成された小径部15cと、この小径部15cを介して漸次インナー側に縮径する位置決め部30が形成されると共に、これら位置決め部11、30の傾斜角θが、5°≦θ≦45°に設定されたテーパ面に形成されて嵌合され、ハブ輪1に対して外輪15が軸方向に位置決めされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の車輪を回転自在に支承する車輪用軸受装置、詳しくは、軽量・コンパクト化と共に、低コスト化を図りつつ、クリープを防止して耐久性を向上させた車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置は、車輪を取り付けるためのハブ輪を複列の転がり軸受を介して回転自在に支承するもので、駆動輪用と従動輪用とがある。構造上の理由から、駆動輪用では内輪回転方式が、従動輪用では内輪回転と外方部材回転の両方式が一般的に採用されている。この車輪用軸受装置には、懸架装置を構成するナックルとハブ輪との間に複列アンギュラ玉軸受等からなる車輪用軸受を嵌合させた第1世代と称される構造から、外方部材の外周に直接車体取付フランジまたは車輪取付フランジが形成された第2世代構造、また、ハブ輪の外周に一方の内側転走面が直接形成された第3世代構造、あるいは、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材の外周にそれぞれ内側転走面が直接形成された第4世代構造とに大別されている。
【0003】
こうした車輪用軸受装置において、近年、省資源あるいは公害等の面から燃費向上に対する要求は厳しいものがある。自動車部品において、特に、車輪用軸受装置の軽量化はこうした要求に応える要因として注目され、強く望まれて久しい。しかし、一方、軽量化のためにハブ輪を中空構造にすることが考えられるが、この軽量化に伴い剛性の低下が生じる。すなわち、大きな荷重がかかった時にハブ輪に変形が生じ、異常振動や内側転走面の早期剥離、あるいは、ハブ輪と、このハブ輪に圧入された内輪とが相対回転する、所謂クリープが生じることがある。ここで、クリープとは、嵌合シメシロ不足や嵌合面の加工精度不良等により軸受が周方向に微動し、嵌合面が鏡面化し、場合によっては、かじりを伴い焼付きや溶着する現象をいう。
【0004】
こうした問題を解決したものとして、図10に示すような車輪用軸受装置が知られている。この車輪用軸受装置は、ハブ輪60と車輪用軸受50、およびシャフト57を主要な構成としている。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図10の左側)、中央寄り側をインナー側(図10の右側)という。
【0005】
ハブ輪60はFC25等のねずみ鋳鉄あるいはFCD45等の球状黒鉛鋳鉄からなり、円筒状の基部61の一端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ62を一体に有し、この車輪取付フランジ62の円周等配位置に車輪を固定するハブボルト用のボルト孔63が植設されている。また、車輪取付フランジ62の外端部から軸方向に延びる円筒状のブレーキドラム64が連設され、その内周にシュー面65が形成されている。ハブ輪60の基部61の内周部には車輪用軸受50が嵌合され、シャフト57に対して車輪を回転自在に支承している。
【0006】
車輪用軸受50は、内周に複列の外側転走面51a、51aが形成された外輪51と、外周にこれら複列の外側転走面51a、51aに対向する内側転走面52aがそれぞれ形成された一対の内輪52、52と、これら内輪52と外輪51の両転走面間に保持器53、53を介して転動自在に収容された複列のボール54、54と、外輪51と内輪52との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシール55、55とを備えている。そして、内輪52、52の小径(正面)側の端面が突合せ状態で衝合し、所謂背面合せタイプの複列のアンギュラ玉軸受を構成している。
【0007】
外輪51および内輪52は、炭素量が比較的少ないSCr420やSCM415等の浸炭鋼からなる鋼板をプレス加工あるいはローリング加工(以下、塑性加工と言う)によって形成されている。そして、浸炭焼入れによって表面硬さを50〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0008】
ここで、一対の内輪52、52の内周面52b、52bにセレーション(またはスプライン)56、56が形成されている。そして、一対の内輪52、52がシャフト57の軸部58に圧入されることにより、これらのセレーション56、56が軸部58に食い込み、長期間に亘ってクリープを確実に防止することができ、耐久性を向上させることができる。
【0009】
シャフト57は、車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ66を一体に有し、この車体取付フランジ66から肩部67を介して軸方向に延びる軸部58が突設されている。軸部58の端部には、ねじ部59が形成されている。
【0010】
ハブ輪60の基部61の内周には車輪用軸受50が嵌合される嵌合部68と、この嵌合部68のインナー側の端部に鍔部69が形成されると共に、アウター側の端部には止め輪70が装着され、車輪用軸受50の外輪51が、この止め輪70と鍔部69とで挟持された状態で軸方向に位置決め固定されている。一方、車輪用軸受50の内輪52、52は、シャフト57の軸部58に圧入されると共に、シャフト57の肩部67と固定ナット71に挟持された状態で軸方向に位置決め固定されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−267519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
然しながら、従来の車輪用軸受装置では、ハブ輪60の基部61に鍔部69を形成することで、基部61自体が軸方向に長くなり、ホイールスペースを制約する。特に、フロントホイールでは、ブレーキ装置だけでなく、操舵機能も有するため、極力省スペースに軸受部を収めることが望ましい。
【0013】
前述した以外の軸方向の位置決めを行う構造として、止め輪付軸受や外輪の外周に鍔を一体に有する軸受があるが、この種の位置決め構造では、クリープによって嵌合部が摩耗する恐れがある。このクリープを防止する方法として、ハウジングと外輪とのシメシロを大きくすることが一般的であるが、シメシロを大きくすることにより、軸受内部すきまが減少し、最終的な組立後の軸受予圧が過大になって短寿命になる恐れがあった。
【0014】
特に、トラック用の大径の車輪用軸受では、相手ハウジングの寸法公差や外輪の外径寸法公差が、乗用車用の車輪用軸受に比べて大きいため、組立後の予圧のバラツキが大きくなって過大予圧になる可能性がある。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、軽量・コンパクト化と共に、低コスト化を図りつつ、クリープを防止して耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、円筒状の基部の一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有するシャフトと、このシャフトと前記基部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置において、前記ハブ輪の基部の内周に前記車輪用軸受が圧入される嵌合部と、この嵌合部からインナー側に縮径する位置決め部が形成され、前記外輪のインナー側の端部外周に漸次インナー側に縮径する位置決め部が形成されると共に、これら位置決め部が所定の傾斜角からなるテーパ面に形成されて嵌合され、前記ハブ輪に対して前記外輪が軸方向に位置決めされている。
【0017】
このように、車輪を回転自在に支承する車輪用軸受を備えた第1世代構造の車輪用軸受装置において、ハブ輪の基部の内周に車輪用軸受が圧入される嵌合部と、この嵌合部からインナー側に縮径する位置決め部が形成され、外輪のインナー側の端部外周に漸次インナー側に縮径する位置決め部が形成されると共に、これら位置決め部が所定の傾斜角からなるテーパ面に形成されて嵌合され、ハブ輪に対して外輪が軸方向に位置決めされているので、低コスト化で軽量・コンパクト化を図ることができると共に、楔効果によって耐クリープ性を高め、耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
【0018】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記位置決め部の傾斜角θが、5°≦θ≦45°に設定されていれば、位置決め部に負荷される荷重の径方向分力が大きくなって耐クリープ性が低下するのを防止すると共に、ハブ輪への組立時のガイド面としての機能を有し、ハブ輪への組立時における軸方向の位置決め精度を確保することができる。
【0019】
また、請求項3に記載の発明のように、前記外輪の外径面から僅かに小径に形成された小径部が形成され、この小径部を介して前記位置決め部が形成されていれば、小径部が逃げ部となり、ハブ輪との嵌合状態を良好にすることができる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明のように、前記外輪の外径面と前記位置決め部の繋ぎ部が所定の曲率半径からなる円弧状に形成されていれば、ハブ輪へ外輪を圧入する際、かじり等が発生するのを防止して安定した組立を行うことができる。
【0021】
好ましくは、請求項5に記載の発明のように、前記繋ぎ部の曲率半径Roが、0.5R≦R≦5.0Rに設定されていれば、ダイヤモンドドレッサーで成形砥石をドレスしながら同時研削する場合、砥石のダレを防止し、寸法・形状を安定して成形することができると共に、外輪の幅寸法を増大させることなく位置決め部のテーパ面を確保し、軽量・コンパクト化を図ることができる。
【0022】
また、請求項6に記載の発明のように、前記外輪の外径面と位置決め部が総型砥石によって同時に研削加工されていれば、外径面と位置決め部の同軸度が確保され、外輪の位置決め精度を高めることができると共に、寸法・形状が安定し、かじり等が発生するのを防止することができる。
【0023】
また、請求項7に記載の発明のように、前記ハブ輪または外輪の位置決め部の近傍に環状の逃げ部が形成され、この逃げ部に弾性部材が装着されていれば、嵌合部に雨水等の異物が侵入するのを防止することができ、気密性を向上させることができる。
【0024】
また、請求項8に記載の発明のように、前記ハブ輪の位置決め部と前記外輪の位置決め部の当接面にグリースまたはシーリング剤が塗布されていれば、嵌合部に雨水等の異物が侵入するのを防止して、気密性を向上させることができると共に、耐クリープ性が向上する。
【0025】
また、請求項9に記載の発明のように、前記ハブ輪の嵌合部に環状溝が形成され、この環状溝に止め輪が装着されると共に、この前記止め輪と前記位置決め部とで前記車輪用軸受の外輪が挟持された状態で軸方向に位置決め固定されていても良い。
【0026】
また、請求項10に記載の発明のように、前記車輪用軸受の内輪が前記シャフトの軸部に圧入されると共に、この軸部の端部にねじ部が形成され、当該内輪が前記シャフトの肩部と固定ナットに挟持された状態で軸方向に位置決め固定され、この固定ナットを所定の締付トルクで緊締することにより、前記車輪用軸受に所定の予圧が付与されていれば、軸受剛性を高め、転がり疲労寿命を向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る車輪用軸受装置は、円筒状の基部の一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有するシャフトと、このシャフトと前記基部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置において、前記ハブ輪の基部の内周に前記車輪用軸受が圧入される嵌合部と、この嵌合部からインナー側に縮径する位置決め部が形成され、前記外輪のインナー側の端部外周に漸次インナー側に縮径する位置決め部が形成されると共に、これら位置決め部が所定の傾斜角からなるテーパ面に形成されて嵌合され、前記ハブ輪に対して前記外輪が軸方向に位置決めされているので、低コスト化で軽量・コンパクト化を図ることができると共に、楔効果によって耐クリープ性を高め、耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の車輪用軸受を示す縦断面図である。
【図3】(a)は、図2の一方のシール単体を示す拡大断面図、(b)は、図2の他方のシール単体を示す拡大断面図である。
【図4】図2の位置決め部を示す要部拡大図である。
【図5】図4の外輪の研削工程を示す説明図である。
【図6】図4の変形例を示す要部拡大図である。
【図7】図6の外輪の研削工程を示す説明図である。
【図8】図4の他の変形例を示す要部拡大図である。
【図9】図4の他の変形例を示す要部拡大図である。
【図10】従来の車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
円筒状の基部の一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有するシャフトと、このシャフトと前記基部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、これら内輪と前記外輪の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置において、前記ハブ輪の基部の内周に前記車輪用軸受が圧入される嵌合部と、この嵌合部からインナー側に縮径する位置決め部が形成され、前記外輪のインナー側の端部外周に外径面から僅かに小径に形成された小径部と、この小径部を介して漸次インナー側に縮径する位置決め部が形成されると共に、これら位置決め部が傾斜角θが、5°≦θ≦45°に設定されたテーパ面に形成されて嵌合され、前記ハブ輪に対して前記外輪が軸方向に位置決めされている。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の車輪用軸受を示す縦断面図、図3(a)は、図2の一方のシール単体を示す拡大断面図、(b)は、図2の他方のシール単体を示す拡大断面図、図4は、図2の位置決め部を示す要部拡大図、図5は、図4の外輪の研削工程を示す説明図、図6は、図4の変形例を示す要部拡大図、図7は、図6の外輪の研削工程を示す説明図、図8は、図4の他の変形例を示す要部拡大図、図9は、図4の他の変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図1の左側)、中央寄り側をインナー側(図1の右側)という。
【0031】
この車輪用軸受装置は従動輪用であって、ハブ輪1と車輪用軸受2、およびシャフト3を主要な構成としている。ハブ輪1はFC25等のねずみ鋳鉄あるいはFCD45等の球状黒鉛鋳鉄からなり、円筒状の基部4のアウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ5を一体に有し、基部4の内周部に車輪用軸受2が嵌合され、シャフト3に対して車輪を回転自在に支承している。
【0032】
シャフト3は、車体(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ6を一体に有し、この車体取付フランジ6から肩部7を介して軸方向に延びる軸部8が突設され、この軸部8の端部にねじ部9が形成されている。
【0033】
シャフト3はS45C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中炭素鋼で形成され、肩部7から軸部8に亙って高周波焼入れによって表面硬さを50〜64HRCの範囲に硬化処理されている。これにより、軸部7等に負荷される曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、車輪用軸受2の嵌合部の耐フレッティング性が向上する。
【0034】
ハブ輪1の基部4の内周には車輪用軸受2が嵌合される嵌合部10と、この嵌合部10のインナー側の端部に後述する位置決め部11が形成されると共に、アウター側の端部に形成された環状溝12に止め輪13が装着され、車輪用軸受2の外輪15が、この止め輪13と位置決め部11とで挟持された状態で軸方向に位置決め固定されている。
【0035】
一方、車輪用軸受2の内輪16、17は、シャフト3の軸部8に圧入されると共に、シャフト3の肩部7と固定ナット14に挟持された状態で軸方向に位置決め固定されている。ここで、固定ナット14を所定の締付トルクで緊締することにより、所定の軸受予圧が付与されている。なお、ハブ輪1のアウター側の端部開口部には図示しないエンドキャップが装着され、外部から車輪用軸受2に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0036】
車輪用軸受2は、図2に拡大して示すように、内周にそれぞれ外向きに開いたテーパ状の複列の外側転走面15a、15aが一体に形成された外輪(外方部材)15と、外周にこれら複列の外側転走面15a、15aに対向するテーパ状の内側転走面16aが形成された一対の内輪16、17と、両転走面間に保持器18を介して転動自在に収容された複列の転動体(円錐ころ)19、19とを備えている。内輪16、17の内側転走面16aの大径側には転動体19を案内するための大鍔部16bが形成されると共に、小径側には転動体19の脱落を防止するための小鍔部16cが形成されている。そして、一対の内輪16、17の小径側端面が突き合された状態でセットされ、背面合せタイプの車輪用軸受を構成している。
【0037】
ここで、一対の内輪16、17は基本的には、寸法・形状等、同一仕様であるが、内輪16、17の大径側の構成が異なる。具体的には、アウター側の内輪16に対してインナー側の内輪17の内径面取り部の大きさが異なる。これにより、シャフト3の肩部7の面取り寸法を大きく設定することができ、軸部7に負荷される曲げ荷重に対して充分な機械的強度を確保することができる(図1参照)。
【0038】
外輪15と一対の内輪16、17との間に形成される環状空間の開口部にはシール20、21が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0039】
アウター側のシール20は、図3(a)に拡大して示すように、外輪15のアウター側の端部内周に圧入された芯金22と、この芯金22に加硫接着によって一体に接合されたシール部材23とからなる一体型シールで構成されている。芯金22は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。シール部材23はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、内輪16の外径に所定の径方向シメシロを介して摺接する二股状のラジアルリップ23a、23bを一体に有している。
【0040】
一方、インナー側のシール21は、(b)に拡大して示すように、断面が略L字状に形成されて互いに対向配置された環状のシール板24とスリンガ25とからなる、所謂パックシールを構成している。シール板24は、外輪15のインナー側の端部内周に圧入される芯金26と、この芯金26に一体に加硫接着されたシール部材27とからなる。芯金26はオーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。
【0041】
シール部材27はNBR等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して形成された一対のサイドリップ27a、27bと、このサイドリップ27bの内径側に軸受内方側に傾斜して形成されたグリースリップ27cを有している。
【0042】
スリンガ25は、オーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、内輪17の外径に圧入される円筒部25aと、この円筒部25aから径方向外方に延びる立板部25bとからなる。そして、シール部材27の一対のサイドリップ27a、27bが立板部25bに所定の軸方向シメシロを介して摺接されると共に、グリースリップ27cが円筒部25aに所定の径方向シメシロを介して摺接されている。また、符号28は、立板部25bのアウター側の側面に接合されたパッキン部材で、スリンガ25と内輪17の外径との嵌合部の気密性を高めている。
【0043】
なお、シール部材23、27の材質としては、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)等をはじめ、ACM(ポリアクリルゴム)や、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0044】
外輪15と内輪16、17および転動体19はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、一対の内輪16、17の小径側端部には環状溝16d、16dが形成され、この環状溝16dに連結環29が装着されている。この連結環29は、工具鋼やばね鋼等の鋼板をプレス加工により断面略コの字状に、全体として有端のリング状に形成され、表面に調質あるいは焼入れにより40〜55HRCの範囲に硬化処理が施されている。なお、ここでは、車輪用軸受2として転動体19に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成された車輪用軸受2を例示したが、これに限らず転動体にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成されていても良い。
【0045】
ここで、本実施形態では、図4に示すように、ハブ輪1のインナー側の端部内周に位置決め部11が形成されている。この位置決め部11は、嵌合部10から漸次インナー側に縮径する所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。一方、外輪15は、ハブ輪1との嵌合状態を良好にするため、インナー側の端部外周に、ハブ輪1の嵌合部10に嵌合する外径面15bから僅かに小径に形成された逃げ部となる小径部15cが形成され、この小径部15cから漸次インナー側に縮径する位置決め部30が形成されている。この位置決め部30は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成され、ハブ輪1の位置決め部11に嵌合し、ハブ輪1のアウター側の端部に装着された止め輪13とで挟持された状態で、ハブ輪1に対して外輪15が軸方向に位置決め固定されている(図1参照)。
【0046】
このように、本実施形態では、ハブ輪1と外輪15がそれぞれテーパ嵌合する位置決め部11、30を備えているので、低コスト化で軽量・コンパクト化を図ることができると共に、楔効果によって耐クリープ性を高め、耐久性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。
【0047】
なお、傾斜角θは45°以下、好ましくは、5°≦θ≦45°に設定されている。傾斜角θが45°を超えると、位置決め部11、30に負荷される荷重の径方向分力が小さくなって耐クリープ性が低下すると共に、ハブ輪1への組立時のガイド面としての機能が低下する。また、傾斜角θが5°未満では、ハブ輪1への組立時に、軸方向の位置決め精度が低下して好ましくない。
【0048】
また、本実施形態では、図5に示すように、外輪15の外径面15bと位置決め部30が総型砥石32によって同時に研削加工によって形成されている。これにより、外径面15bと位置決め部30の同軸度が確保され、組立性が向上すると共に、外輪15の位置決め精度を高めることができる。
【0049】
図6は、図4の変形例である。前述した実施形態と同様、ハブ輪31のインナー側の端部内周に位置決め部11が形成されている。この位置決め部11は、嵌合部10から環状の逃げ部31aを介して漸次インナー側に縮径する所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。一方、外輪33は、インナー側の端部外周に、ハブ輪31の嵌合部10に嵌合する外径面15bから漸次インナー側に縮径する位置決め部30が形成されている。この位置決め部30は所定の傾斜角θからなるテーパ面に形成され、ハブ輪31の位置決め部11に嵌合されている。
【0050】
本実施形態では、外輪33の外径面15bと位置決め部30の繋ぎ部33aが所定の曲率半径Roからなる円弧状に形成されている。これにより、ハブ輪31へ外輪33を圧入する際、かじり等が発生するのを防止して安定した組立を行うことができる。
【0051】
さらに、図7に示すように、外輪33の外径面15bと位置決め部30および繋ぎ部33aが総型砥石32’によって同時に研削加工によって形成されている。これにより、外径面15bと位置決め部30の同軸度が確保され、外輪33の位置決め精度を高めることができると共に、繋ぎ部33aの寸法・形状が安定し、かじり等が発生するのを確実に防止することができる。
【0052】
なお、繋ぎ部33aの曲率半径Roは0.5R≦R≦5.0Rに設定されている。この繋ぎ部33aの曲率半径Roが0.5未満では、ダイヤモンドドレッサーで成形砥石をドレスしながら同時研削する際、砥石がダレてしまい、寸法・形状が安定して成形できない可能性がある。また、5.0を超えると、位置決め部30のテーパ面を確保することができなく、外輪33の幅寸法が増大し、軽量・コンパクト化を阻害して好ましくない。
【0053】
図8は、図4の他の変形例である。この実施形態は、前述した実施形態と基本的には外輪15の小径部15cに弾性部材34が装着されていることが異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0054】
ハブ輪1のインナー側の端部内周に位置決め部11が形成され、この位置決め部11に嵌合する位置決め部30が外輪15の外径面15bから小径部15cを介してインナー側の端部外周に形成されている。そして、ハブ輪1と外輪15の小径部15cとの間に形成される環状空間にOリング等からなる弾性部材34が装着されている。これにより、嵌合部に雨水等の異物が侵入するのを防止することができ、気密性を向上させることができる。
【0055】
図9は、図4の他の変形例である。この実施形態は、前述した実施形態と基本的には位置決め部の構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0056】
ハブ輪1のインナー側の端部内周に位置決め部11が形成され、この位置決め部11に嵌合する位置決め部30が外輪15の外径面15bから小径部15cを介してインナー側の端部外周に形成されている。そして、ハブ輪1の位置決め部11と外輪15の位置決め部30との当接面にグリースが塗布されている(図中2点鎖線にて示す)。これにより、嵌合部に雨水等の異物が侵入するのを防止して、気密性を向上させることができると共に、耐クリープ性が向上する。
【0057】
なお、グリースに変えてシーリング剤35をハブ輪1の位置決め部11と外輪15の位置決め部30との当接面間だけでなく、ハブ輪1の端面1aと外輪15の端面15dにはみ出して塗布しても良い。これにより、一層嵌合部の気密性を向上させることができる。
【0058】
シーリング剤35としては、エポキシ樹脂系をはじめフェノール樹脂系、あるいは、ポリウレタン系やポリエチレン系接着剤等を例示することができる。また、液状ガスケットと称されるものでも良い。これは、変性エステル樹脂を主成分としたペースト状の不乾性で、剥離することなく嵌合部を閉塞することができる(商品名;スリーボンド1121)。また、変性エステル樹脂を主成分としたもの以外に、例えば、フェノール系、アクリル系、あるいはシリコン系樹脂を主成分としたものであっても良い。さらに、スティールパテのような硬化するパテや、シリコンシーリング剤のような非硬化の弾性パテでも良い。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る車輪用軸受装置は、内輪回転あるいは外輪回転に拘わらず、車輪を回転自在に支承し、外輪および内輪がプレス製の車輪用軸受を備えた第1世代構造の車輪用軸受装置に適用できる。無論、外輪および内輪がプレス製でない場合でも適用でき、また、第2世代構造の車輪用軸受装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1、31 ハブ輪
2 車輪用軸受
3 シャフト
4 ハブ輪の基部
5 車輪取付フランジ
6 車体取付フランジ
7 肩部
8 軸部
9 ねじ部
10 嵌合部
11、30 位置決め部
12、16d 環状溝
13 止め輪
14 固定ナット
15、33 外輪
15a 外側転走面
15b 外輪の外径面
15c 外輪の小径部
15d 外輪の端面
16、17 内輪
16a 内側転走面
16b 大鍔部
16c 小鍔部
18 保持器
19 転動体
20 アウター側のシール
21 インナー側のシール
22、26 芯金
23、27 シール部材
23a、23b ラジアルリップ
24 シール板
25 スリンガ
25a 円筒部
25b 立板部
27a、27b サイドリップ
27c グリースリップ
28 パッキン部材
29 連結環
31a 逃げ部
32、32’ 総型砥石
34 弾性部材
35 シーリング剤
50 車輪用軸受
51 外輪
51a 外側転走面
52 内輪
52a 内側転走面
52b 内輪の内周面
53 保持器
54 ボール
55 シール
56 セレーション
57 シャフト
58 シャフトの軸部
59 ねじ部
60 ハブ輪
61 基部
62 車輪取付フランジ
63 ボルト孔
64 ブレーキドラム
65 シュー面
66 車体取付フランジ
67 肩部
68 嵌合部
69 鍔部
70 止め輪
Ro 繋ぎ部の曲率半径
θ 位置決め部の傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の基部の一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有するハブ輪と、
車体に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有するシャフトと、
このシャフトと前記基部との間に嵌合され、前記車輪を回転自在に支承する車輪用軸受とを備え、
この車輪用軸受が、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外輪と、
外周に前記複列の外側転走面に対向する内側転走面が形成された一対の内輪と、
これら内輪と前記外輪の両転走面間に保持器を介して転動自在に収容された複列の転動体とを備えた車輪用軸受装置において、
前記ハブ輪の基部の内周に前記車輪用軸受が圧入される嵌合部と、この嵌合部からインナー側に縮径する位置決め部が形成され、前記外輪のインナー側の端部外周に漸次インナー側に縮径する位置決め部が形成されると共に、これら位置決め部が所定の傾斜角からなるテーパ面に形成されて嵌合され、前記ハブ輪に対して前記外輪が軸方向に位置決めされていることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記位置決め部の傾斜角θが、5°≦θ≦45°に設定されている請求項1記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記外輪の外径面から僅かに小径に形成された小径部が形成され、この小径部を介して前記位置決め部が形成されている請求項1記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記外輪の外径面と前記位置決め部の繋ぎ部が所定の曲率半径からなる円弧状に形成されている請求項1記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記繋ぎ部の曲率半径Roが、0.5R≦R≦5.0Rに設定されている請求項4記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記外輪の外径面と位置決め部が総型砥石によって同時に研削加工されている請求項1記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記ハブ輪または外輪の位置決め部の近傍に環状の逃げ部が形成され、この逃げ部に弾性部材が装着されている請求項1記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記ハブ輪の位置決め部と前記外輪の位置決め部の当接面にグリースまたはシーリング剤が塗布されている請求項1記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記ハブ輪の嵌合部に環状溝が形成され、この環状溝に止め輪が装着されると共に、この前記止め輪と前記位置決め部とで前記車輪用軸受の外輪が挟持された状態で軸方向に位置決め固定されている請求項1記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記車輪用軸受の内輪が前記シャフトの軸部に圧入されると共に、この軸部の端部にねじ部が形成され、当該内輪が前記シャフトの肩部と固定ナットに挟持された状態で軸方向に位置決め固定され、この固定ナットを所定の締付トルクで緊締することにより、前記車輪用軸受に所定の予圧が付与されている請求項1記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−40664(P2013−40664A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179051(P2011−179051)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】