説明

転がり軸受、転がり軸受の加工方法及び加工装置

【課題】保持溝の内側面が膨出変形することなく、保持溝の側縁に高強度の爪を形成することができるようにすること。
【解決手段】リテーナ12に形成された複数の保持溝13にローラ15が保持されたローラベアリングを加工する場合、保持溝13の内面に受け金23を当てた状態で、リテーナ12の表裏両面をパンチ24,25により同時に圧潰する。これにより、保持溝13の内外の両側縁20にローラ15の脱落を防止するための爪18,19を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リテーナに形成された複数の保持溝にローラが保持されたローラベアリング等の転がり軸受、その加工方法及び加工装置に関するものであって、特に保持溝の縁部にローラ等の回転体の脱落を防止するための保持片を有する転がり軸受、その加工方法及び加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の転がり軸受としてのローラベアリングの加工方法としては、例えば特許文献1〜特許文献3に開示されるような構成が提案されている。特許文献1に記載の加工方法においては、リテーナの表裏両面を同時に圧潰することにより、保持溝の内外の両縁部に保持片を形成している。特許文献2及び特許文献3に記載の加工方法においては、保持溝の内側面に設けられた突起の表面を厚み方向にしごき加工することにより、保持溝の内外の両縁部に保持片を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−115322号公報
【特許文献2】特開平7−151153号公報
【特許文献3】特開2000−18258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらの従来方法においては、次のような問題があった。
特許文献1に記載の加工方法では、リテーナの表裏両面を圧潰して保持溝の縁部に爪を形成する際に、保持溝の開口周縁部に作用する圧潰力により、保持溝の内側面が内方に膨出変形するおそれがあった。このように、保持溝の内側面が膨出変形すると、保持溝の内幅が狭くなって、ローラの円滑な回転を得ることができなかった。
【0005】
また、特許文献2及び特許文献3に記載の加工方法では、しごき加工により保持片を形成しているため、保持片の強度を十分に確保することができず、保持溝内にローラを長期間にわたって安定状態に保持することができなかった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、保持溝の内側面が膨出変形することなく、リテーナの圧潰により保持溝の縁部に高強度の保持片を形成することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、転がり軸受の発明では、円筒状のリテーナに形成した複数の保持溝に回転体が回転可能に保持されるとともに、リテーナに形成された保持片により回転体を保持溝内に保持するようにした転がり軸受において、前記リテーナの表面を圧潰することにより保持溝のリテーナ軸線方向またはその軸線方向と直交する方向に延びる側縁に前記保持片を形成するとともに、前記側縁の内面をリテーナの軸線またはその軸線方向と直交する線を中心とした放射方向の面上に形成したことを特徴する。なお、ここで、表面とは、裏面も含むものとする。
【0008】
転がり軸受の加工方法の発明においては、前記保持溝の内側面に受け金を当てた状態でリテーナの表面を圧潰することにより、保持溝の側縁に回転体の脱落を防止するための保持片を形成し、保持溝内に回転体を収容した後に保持片を曲げてその保持片により回転体を保持することを特徴する。
【0009】
前記加工方法の発明においては、前記リテーナの表裏両面を同時に圧潰して前記側縁に保持片を形成することが好ましい。
前記加工方法の発明においては、保持溝のリテーナ軸線方向に延びる側縁に保持片を形成するとともに、その保持片をリテーナの軸線を中心とした放射方向に突出させることが好ましい。
【0010】
転がり軸受用リテーナ加工装置の発明においては、円筒状のリテーナに形成された保持溝の内側面を受けるための受け金と、その受け金によって受けられた部分の側縁の表面を圧潰することによりその側縁に保持片を形成するための第1パンチと、その第1パンチによって形成された保持片を保持溝側に曲げるための第2パンチとを備えたことを特徴とする。
【0011】
従って、この発明においては、保持溝の内面に受け金を当てた状態で、リテーナの表面を圧潰して、保持溝の側縁に保持片が形成される。このため、保持溝の開口周縁部に作用する圧潰力で、保持溝の内側面が内方に膨出変形するおそれを、受け金によって阻止することができる。よって、回転体の回転抵抗が高くなることを抑制することができる。また、しごき加工でなく圧潰加工により保持片を形成しているので、保持片の強度を十分に確保することができて、保持溝内にローラを長期間にわたって安定状態に保持することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、保持溝の内側面が膨出変形することなく、回転体の円滑な回転を得ることができるとともに、保持溝の側縁に高強度の保持片を形成することができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の加工方法により製造されるローラベアリングを示す斜視図。
【図2】図1のローラベアリングの一部を拡大して示す部分正面図。
【図3】図2の3−3線における部分断面図。
【図4】図2の4−4線における断面図。
【図5】実施形態のローラベアリングの加工方法における爪形成工程を示す要部平断面図。
【図6】図5の爪形成工程の一部を拡大して示す要部平断面図。
【図7】同爪形成工程の要部縦断面図。
【図8】図5及び図6の工程に続くローラ挿入工程を示す要部平断面図。
【図9】図8の工程に続く爪曲げ工程を示す要部平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明を具体化した一実施形態を、図面に従って説明する。まず、転がり軸受としてのローラベアリングの構造について説明する。
図1及び図2に示すように、ローラベアリング11のリテーナ12は、真鍮の削り出し加工等により円筒状に形成されている。図1及び図3に示すように、リテーナ12にはその軸線Cの方向に沿って延びる複数の保持溝13が所定の等間隔おきに形成されている。各保持溝13間には柱部14が形成されている。図3及び図4に示すように、各保持溝13内には、回転体としてのローラ15が回転可能に収容されている。
【0015】
前記各柱部14の外面の両側縁20には、保持溝13内に突出してローラ15の外周側への脱落を防止するための保持片としての第1爪18が形成されている。各柱部14上の外面の両側縁20には、保持溝13内に突出してローラ15の内周側への脱落を防止するための保持片としての第2爪19が形成されている。
【0016】
次に、前記のように構成されたローラベアリング11の加工方法,加工装置及びローラベアリング11の作用について説明する。
このローラベアリング11の加工においては、まず真鍮の削り出し加工等により円筒状のリテーナ12が形成される。この場合、リテーナ12には、複数の保持溝13及び柱部14が所定の等間隔おきで交互に形成される。前記保持溝13は、その両側縁20が前記軸線Cと平行に延びるとともに、両側縁20の内面13a,13bが軸線Cを中心とした放射方向の面上に位置する。
【0017】
続いて、図5〜図7に示すように、リテーナ12の各保持溝13の一側縁20における外周側及び内周側の両側縁20に爪18,19が形成される。
すなわち、図5及び図6に示すように、リテーナ12が加工装置の外周側ストリッパ21と内周側ストリッパ22との間に挟持される。そして、リテーナ12の外周側から保持溝13内に受け金23が挿入されて、その受け金23の先端側面が保持溝13の一側内面13aに当接される。この受け金23は、外周側ストリッパ21に形成した間隙21a内に設けられて、保持溝13に対して進退移動される。この状態で、外周側ストリッパ21の孔21bを通る第1パンチとしての一対の外周側パンチ24によりリテーナ12の外周側からリテーナ12の両端部が圧潰される。これと同時に、内周側ストリッパ22の間隙部22aを通る一対のパンチ部25aによりリテーナ12の内周側から同じくリテーナ12の両端部が圧潰される。この場合、図6及び図7に示すように、受け金23の先端部には、内周側パンチ25の各パンチ部25aとの干渉を避けるための一対の凹部23aが設けられている。
【0018】
このように、パンチ24,25でリテーナ12の表面及び裏面が圧潰されることにより、図5及び図6に示すように、保持溝13の一側縁20における外周側及び内周側に位置するように、第1爪18及び第2爪19が同時に形成される。この場合、受け金23の一側面には第1爪18が前記軸線Cを中心とした放射方向に突出するように規制する凹部23bが形成されているため、外側の第1爪18は凹部23bの形状に従ってリテーナ12の外周面から放射方向の外方に向かって突出するように形成される。内側の第2爪19は、受け金23の先端の凹部23a内に向かって保持溝13側に若干突出するように形成される。
【0019】
そして、このとき、保持溝13の一側内面13aには受け金23が当接されているため、その一側内面13aは平面状態に保たれ、両パンチ24,25から保持溝13の開口周縁部に作用する圧潰力により、保持溝13の内側面が内方に膨出状に変形するおそれはない。
【0020】
このようにして、図5に矢印で示すように、リテーナ12が一方向に間欠回転されながら、前記受け金23及び両パンチ24,25の進退動作が繰り返し行われて、リテーナ12上の各保持溝13の一側縁20に第1爪18及び第2爪19が順に形成される。
【0021】
各保持溝13の一側縁20に対する爪18,19の形成が終了した後、リテーナ12が上下反転されて、外周側ストリッパ21と内周側ストリッパ22との間に再度挟持される。この状態で、前記と同様に受け金23が保持溝13の他側内面13bに当接された状態で、両パンチ24,25によってリテーナ12の両端部が圧潰されることにより、各保持溝13の他側縁20に第1爪18及び第2爪19が形成される。
【0022】
続いて、図8に示すように、リテーナ12の外周側から各保持溝13内にローラ15が組み入れられる。その後、図9に示すように、リテーナ12が前記外周側ストリッパ21及び内周側ストリッパ22とは異なる外周側ストリッパ26と内周側ストリッパ27との間に挟持される。この状態で、外周側ストリッパ26の孔26aを通る第2パンチとしての外周側パンチ28よりリテーナ12の外周側から柱部14の外面両側縁20の合計4箇所の第1爪18が圧潰されるとともに、内周側ストリッパ27の孔27aを通る同じく第2パンチとしての内周側パンチ29によりリテーナ12の内周側から柱部14の両側縁20の合計4箇所の第2爪19が曲げられる。このとき、図8から明らかなように、内周側の爪19は保持溝13側に突出している。また、図9に2点鎖線で示すように、外周側の爪18が軸線Cを中心とした径方向の外方(放射方向)を指向している。このため、外周側パンチ28及び内周側パンチ29が径方向の内方及び外方にそれぞれ移動すると、両爪18,19がローラ15を保持する側に曲げられ、ローラ15が保持溝13内に脱落しないように保持される。
【0023】
以上のようにして加工されたローラベアリングは、保持溝13の両側縁の内側面が膨らむことなく平面状に形成される。従って、保持溝13の内幅を広く形成できて、ローラ15の円滑な回転を得ることができる。
【0024】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この実施形態においては、保持溝13の内面13a,13bに受け金23を当てた状態で、リテーナ12の表裏両面を圧潰して、保持溝13の側縁20にローラ15の脱落を防止するための爪18,19が形成されている。このため、保持溝13の開口周縁部に作用する圧潰力で、保持溝13の内側面が内方に膨出変形するおそれを、受け金23により阻止することができる。よって、保持溝13の内側面が膨出変形することを回避できて、保持溝13内にローラ15を組み付け保持した場合に、ローラ15の回転抵抗が高くなることを抑制することができる。また、しごき加工でなく圧潰加工により爪18,19を形成しているので、爪18,19の強度を十分に確保することができて、ローラベアリングを長期間使用しても、保持溝13内にローラ15を安定状態に保持することができる。
【0025】
(2) この実施形態においては、前記リテーナ12の表裏両面をパンチ24,25により同時に圧潰して、保持溝13の内外の両側縁20に爪18,19を同時に形成している。このため、保持溝13の内外の爪18,19の加工能率を向上させることができる。
【0026】
(3) この実施形態においては、前記保持溝13内にローラ15を組み付けた後に、爪18,19をパンチ28,29により保持溝13側に曲げてローラ15を保持している。このため、保持溝13内へのローラ15の組み付けを爪18,19に干渉することなく容易に行うことができるとともに、そのローラ15の組み付け後に爪18,19を曲げることによって、ローラ15を保持溝13内に安定に保持することができる。
【0027】
(4) この実施形態においては、保持溝13の前記軸線Cの延長方向に延びる側縁20に第1爪18を形成するとともに、その第1爪18の軸線Cを中心とした放射方向に突出させている。このため、第1爪18が保持溝13側に傾斜することになり、外周側パンチ28で第1爪18を軸線C側に押圧すれば、第1爪18は自然に保持溝13側に曲がってローラ15を保持する。従って、第1爪18を簡単にローラ保持位置に配置させることができる。
【0028】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記実施形態において、受け金23をリテーナ12の内周側から保持溝13内に挿入して、保持溝13の内側面に当てるようにすること。
【0029】
・ 保持溝13の長さ(図1及び図2の上下方向の寸法)を短くして、保持溝13内に保持される回転体を鋼球(ボール)とすること。従って、この構成の場合、本発明はボールベアリングにおいて具体化される。
【0030】
・ 前記実施形態では、保持溝13の両側縁20に爪18,19を形成したが、一方の側縁20のみに爪18,19を形成すること。
・ 爪18,19を図1及び図2の上下方向に長いものとすること。
【0031】
・ 前記実施形態では爪18,19を一対として、各側縁20の2箇所に設けたが、1箇所または3箇所以上に設けること。
・ 前記実施形態では、爪18,19をリテーナ12の軸線Cと平行な側縁20に設けたが、軸線Cと直交する線と平行な側縁に設けること。
【符号の説明】
【0032】
11…ローラベアリング、12…リテーナ、13…保持溝、13a…内面、13b…内面、15…ローラ、18…第1爪、19…第2爪、20…側縁、23…受け金、24…爪形成用の外周側パンチ、25…爪形成用の内周側パンチ、28…爪曲げ用の外周側パンチ、29…爪曲げ用の内周側パンチ、C…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のリテーナに形成した複数の保持溝に回転体が回転可能に保持されるとともに、リテーナに形成された保持片により回転体を保持溝内に保持するようにした転がり軸受において、
前記リテーナの表面を圧潰することにより保持溝のリテーナ軸線方向またはその軸線方向と直交する方向に延びる側縁に前記保持片を形成するとともに、前記側縁の内面をリテーナの軸線またはその軸線方向と直交する線を中心とした放射方向の面上に形成したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
円筒状のリテーナに形成した複数の保持溝に回転体が保持された転がり軸受の加工方法において、
前記保持溝の内側面に受け金を当てた状態でリテーナの表面を圧潰することにより、保持溝の側縁に回転体の脱落を防止するための保持片を形成し、保持溝内に回転体を収容した後に保持片を曲げてその保持片により回転体を保持することを特徴とする転がり軸受の加工方法。
【請求項3】
前記リテーナの表裏両面を同時に圧潰して前記側縁に保持片を形成することを特徴とする請求項2に記載の転がり軸受の加工方法。
【請求項4】
前記保持溝のリテーナ軸線方向に延びる側縁に保持片を形成するとともに、その保持片をリテーナの軸線を中心とした放射方向に突出させることを特徴とする請求項2または3に記載の転がり軸受の加工方法。
【請求項5】
円筒状のリテーナに形成された保持溝の内側面を受けるための受け金と、
その受け金によって受けられた部分の側縁の表面を圧潰することによりその側縁に保持片を形成するための第1パンチと、
その第1パンチによって形成された保持片を保持溝側に曲げるための第2パンチと
を備えたことを特徴とする転がり軸受の加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−233507(P2012−233507A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100961(P2011−100961)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】