説明

転がり軸受の潤滑構造

【課題】転がり軸受によるオイルの攪拌抵抗を低減する。
【解決手段】転がり軸受の潤滑構造1は、転動体52を保持する第一保持器54を有する第一転がり軸受50と、第二保持器64を有する第二転がり軸受60と、第一転がり軸受50および第二転がり軸受60を保持するケース10と、ケース10内に配置されて第一保持器54および第二保持器64を連結する連結部材70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の潤滑構造に関し、特に、オイルを用いた転がり軸受の潤滑構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受の潤滑構造は、たとえば特開2007−225037号公報(特許文献1)、特開2007−138992号公報(特許文献2)および特開2004−263838号公報(特許文献3)に開示されている。
【特許文献1】特開2007−225037号公報
【特許文献2】特開2007−138992号公報
【特許文献3】特開2004−263838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術の特許文献1では、円錐ころ軸受の保持器内周側と内輪外周面との間にラビリンスシール部を設け、転がり軸受へのオイル流入量を減らし、攪拌抵抗を低減している。しかしながら、内輪と保持器との間に隙間を有しているため、オイル流入量の低減が不十分であるという問題があった。
【0004】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、オイルの攪拌抵抗を低減することが可能な転がり軸受の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った転がり軸受の潤滑構造は、転動体を保持する保持器を有する第一転がり軸受と、転動体を保持する第二保持器を有し、第一転がり軸受に対して軸方向に対向して設けられる第二転がり軸受と、第一および第二転がり軸受を保持し、第一および第二転がり軸受間にオイルを供給するオイル通路が設けられたケースと、ケース内に配置されて第一および第二保持器を連結する連結部材とを備える。
【0006】
このように構成された転がり軸受の潤滑構造では、第一および第二保持器間を連結する連結部材が設けられているため、保持器と内輪間に流入するオイルを減少させることができる。その結果、攪拌抵抗損失を低減させることができる。
【0007】
好ましくは、連結部材の少なくともいずれか一方のスラスト端面は、第一および第二保持器の少なくとも一方との間に軸方向の隙間を設けた隙間嵌めとされている。
【0008】
好ましくは、連結部材には内周面と外周面を連通する連通部が設けられている。
好ましくは、連結部材には径方向に延在してオイルの軸方向の移動を規制する規制部が設けられている。
【0009】
好ましくは、連結部材は筒状であり、連結部材の外周面がオイル通路に対向している。
好ましくは、第一および第二転がり軸受は円錐ころ軸受である。
【0010】
好ましくは、連結部材側に第一および第二転がり軸受の円錐ころの小径側が位置している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。さらに、各実施の形態を組合せることも可能である。
【0012】
図1は、この発明の実施の形態1に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。図1を参照して、動力伝達装置の一部分として用いられる転がり軸受の潤滑構造1は、ケース10を有し、ケース10内に潤滑構造1が収められている。ケース10内にシャフト20が回転可能に保持されている。シャフト20の先端にはピニオンギヤ30が設けられており、ピニオンギヤ30はリングギヤ40と噛み合っている。ピニオンギヤ30の回転軸とリングギヤ40の回転軸が平行でなく、交差しない、いわゆるハイポイドギヤを構成している。この例では、ピニオンギヤ30がリングギヤ40の回転軸の下側に位置しているが、これに限られず、ピニオンギヤ30がリングギヤ40の回転軸の上側に位置している構成とされていてもよい。
【0013】
また、ピニオンギヤ30の回転軸とリングギヤ40の回転軸が交差するベベルギヤとされていてもよい。
【0014】
ケース10には、第一転がり軸受50と、第二転がり軸受60とが互いに軸方向に距離を隔てて対向して配置されている。第一転がり軸受50および第二転がり軸受60がシャフト20を回転可能に保持している。ケース10内にはオイル通路11が設けられており、オイル通路11内をオイルが通過することで、シャフト20およびそれを保持する第一転がり軸受50および第二転がり軸受60が潤滑される。リングギヤ40がオイルを掻き揚げ、その掻き揚げられたオイルがオイル通路11を経由してシャフト20へ供給される。
【0015】
ケース10内のオイルがコンパニオンフランジ91側へ漏れることを防止するためにオイルシール92とスリンガ93が設けられている。
【0016】
図2は、図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。図2を参照して、第一転がり軸受50は、内輪53と、外輪51と、内輪53および外輪51間に配置される転動体52と、転動体52を保持する第一保持器54を有する。第二転がり軸受60は、内輪63と、外輪61と、内輪63と外輪61の間に介在する転動体62と、転動体62を保持する第二保持器64とを有する。
【0017】
第一保持器54と第二保持器64とが連結部材70で連結されている。連結部材70は筒状であり、連結部材70の内周面171がシャフトに対向し、外周面172がケース10に対向する。
【0018】
転動体52は、第一転がり軸受50の円周方向に複数並んでおり、その複数の転動体52間の距離が第一保持器54で保持されている。転動体62は第二転がり軸受60の円周方向に複数並んでおり、その複数の転動体62間の距離が第二保持器64で保持されている。転動体52,62の小径側に円筒状の連結部材70が設けられている。第一保持器54および第二保持器64の各々には円筒部55,65が設けられており、その円筒部55,65上に連結部材70が配置されている。
【0019】
図2の隙間嵌め領域1a,1bでは、円筒部55,65と、連結部材70とが隙間嵌めとなっており、必ずいずれか一方においてスラスト端面74と保持器との間に隙間が設けられている。
【0020】
図3は、図2中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。図3を参照して、連結部材70のスラスト端面74と第二保持器64との間には隙間Xが挙げられる。第一保持器54および第二保持器64間の距離が最小となっても、この距離Xは0以上となるように設定する。
【0021】
図4は、連結部材の斜視図である。図4を参照して、連結部材70は、小径部分と大径部分とを有する円筒形状である。なお、図4で示すように小径部と大径部を必ずしも有する必要はなく、一様な径であってもよい。また、連結部材70は必ずしも円筒である必要はなく、角筒形状であってもよい。
【0022】
すなわち、転がり軸受の潤滑構造1は、転動体52を保持する第一保持器54を有する第一転がり軸受50と、転動体62を保持する第二保持器64を有し、第一転がり軸受50に対して軸方向に対向して設けられる第二転がり軸受60と、第一転がり軸受50および第二転がり軸受60を保持し、第一転がり軸受50および第二転がり軸受60間にオイルを供給するオイル通路11が設けられたケースとしてのケース10と、ケース10内に配置されて第一保持器54および第二保持器64を連結する連結部材70とを備える。連結部材70の少なくとも一方のスラスト端面74は、第一保持器54および第二の保持器64の少なくともいずれか一方との間に軸方向の隙間Xを設けた隙間嵌めとされている。連結部材70は筒状であり、その外周面172がオイル通路11に対向する。
【0023】
このように構成された転がり軸受の潤滑構造1では、第一転がり軸受50および第二転がり軸受60に矢印81,82で示す方向に流入するオイル、具体的には、第一保持器54,第二保持器64と、内輪53,63との間から転動体52,62へ流入するオイル量を大幅に制限することができる。これにより、円錐ころである転動体52,62の攪拌抵抗を大幅に小さくすることができる。
【0024】
また、連結部材70と第一保持器54および第二保持器64の円筒部55,65とは摺動可能となっているため、第一保持器54,第二保持器64間に回転差が生じた場合であっても抵抗の発生を抑制することができる。
【0025】
(実施の形態2)
図5は、この発明の実施の形態2に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。図6は、図5中のVIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。図5および図6を参照して、この実施の形態では、転がり軸受温度が上昇しやすいなどの厳しい使用条件で使用される場合において、実施の形態1の構成に加えて連結部材70に内周面171と外周面172とを連結する連通孔75,76を設けている。さらに、オイルの軸方向の移動を規制する規制部材71,72を設けている。
【0026】
連通孔75,76については、この実施の形態では、仕切り板としての規制部材71,72よりも外側、すなわち第一転がり軸受50,第二転がり軸受60側に設けられているが、これに限られず、連通孔を2つの規制部材71,72の間に設けてもよい。
【0027】
また、連通孔75,76は、連結部材70の円周方向に沿って複数設けることが可能である。
【0028】
規制部材71,72は、円周方向に連続してあってもよく、さらに連続せずに、断続的に設けられてもよい。この場合、円周方向に複数の切欠きが規制部材71,72に設けられることになる。
【0029】
このように構成された転がり軸受の潤滑構造1では、規制部材71,72を設けることにより、連通孔75,76のうち片方の孔から流入したオイルが反対側へ流れるのを防止できる。そのため、確実に必要油量をそれぞれの第一転がり軸受50,第二転がり軸受60に供給することができる。
【0030】
(実施の形態3)
図7は、この発明の実施の形態3に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。図7を参照して、この発明の実施の形態3に従った転がり軸受の潤滑構造1は、連結部材70の中央部に、外周面172側に規制部材77が設けられている。この規制部材77を設けることで、オイルの矢印81,82の流れが確実となる。さらに、第一転がり軸受50および第二転がり軸受60のいずれかへ流れたオイルが反対側へ移動することを抑制できる。これにより、フロント軸受としての第一転がり軸受50からリヤ軸受としての第二転がり軸受60へのオイルの流れを抑制でき、第一転がり軸受(フロント軸受)50へ確実にオイルを供給することができ、潤滑不足を解消することができる。
【0031】
(実施の形態4)
図8は、この発明の実施の形態4に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。図8を参照して、この実施の形態4に従った転がり軸受の潤滑構造1では、第一保持器54および第二保持器64の内周側に連結部材70が設けられている点で、実施の形態1から3に従った構成と異なる。
【0032】
このような構成であっても、実施の形態1から3と同様の効果がある。
以上、この発明の実施の形態について説明したが、ここで示した実施の形態はさまざまに変形することが可能である。まず、この例では、円錐ころ軸受について説明したが、他の軸受、たとえば転動体がボール形状、ニードル形状であってもよい。また、転動体が軸方向に複数並ぶ軸受であってもよい。
【0033】
さらに、転がり軸受の使用部位に関しては、本発明では、作動装置に動力を入力する回転シャフトを保持する転がり軸受として示したが、これに限られず、回転部を支持するさまざまな部位で、本発明を適用することが可能である。
【0034】
また、車両のいわゆるパワートレイン装置だけでなく、エンジンなどの回転部分にも本発明に従った転がり軸受の潤滑構造を採用することが可能である。
【0035】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態1に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。
【図2】図1中のIIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。
【図3】図2中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。
【図4】連結部材の斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態2に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。
【図6】図5中のVIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。
【図7】この発明の実施の形態3に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。
【図8】この発明の実施の形態4に従った転がり軸受の潤滑構造の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 転がり軸受の潤滑構造、10 ケース、20 シャフト、30 ピニオンギヤ、40 リングギヤ、50 第一転がり軸受、51,61 外輪、52,62 転動体、53,63 内輪、54 第一保持器、55,65 円筒部、60 第二転がり軸受、64 第二保持器、70 連結部材、71,72,77 規制部材、81,82 矢印。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を保持する第一保持器を有する第一転がり軸受と、
転動体を保持する第二保持器を有し、前記第一転がり軸受に対して軸方向に対向して設けられる第二転がり軸受と、
前記第一および第二転がり軸受を保持し、前記第一および第二転がり軸受間にオイルを供給するオイル通路が設けられたケースと、
前記ケース内に配置されて前記第一および第二保持器を連結する連結部材とを備えた、転がり軸受の潤滑構造。
【請求項2】
前記連結部材の少なくともいずれか一方のスラスト端面は、前記第一および第二保持器の少なくとも一方との間に軸方向の隙間を設けた隙間嵌めとされている、請求項1に記載の転がり軸受の潤滑構造。
【請求項3】
前記連結部材には内周面と外周面を連通する連通部が設けられている、請求項1または2に記載の転がり軸受の潤滑構造。
【請求項4】
前記連結部材には径方向に延在してオイルの軸方向の移動を規制する規制部が設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の転がり軸受の潤滑構造。
【請求項5】
前記連結部材は筒状であり、前記連結部材の外周面が前記オイル通路に対向する、請求項1から4のいずれか1項に記載の転がり軸受の潤滑構造。
【請求項6】
前記第一および第二転がり軸受は円錐ころ軸受である、請求項1から5のいずれか1項に記載の転がり軸受の潤滑構造。
【請求項7】
前記連結部材側に前記第一および第二転がり軸受の円錐ころの小径側が位置している、請求項6に記載の転がり軸受の潤滑構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−174634(P2009−174634A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13798(P2008−13798)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】