説明

転がり軸受装置

【課題】昇温に伴う軸受ハウジングと軸との寸法変化の差が大きくても予圧を維持することができる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】円錐ころ軸受11の外輪32の軸方向外端面と、これに対向する軸受ハウジング25の側壁面25Aとの間にリング状の中空弾性体40を配置する。中空弾性体40の内部には、固体であるリング状部材41と液体42とを封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円錐コロ軸受、アンギュラ玉軸受などの予圧をかけて使用する転がり軸受を組み込んだ転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円錐ころ軸受やアンギュラ玉軸受は、軸方向の予圧をかけた状態で使用される。例えば、トランスミッションユニット等の自動車用のギア式駆動伝達ユニットには、その要所(例えばトランスミッションユニットでは終減速装置部分)に円錐ころ軸受が採用されており、図6(a)に示すように、円錐ころ軸受111の内輪133に回転軸115を圧入するとともに、トランスミッションケースの軸受ハウジング125に外輪132を圧入し、その後に軸方向一方側(矢印a)へ向けて予圧を付与するようになっている。予圧を与えると、外輪132は円錐ころ134の傾斜した転動面上での分力を受けて軸方向及び径方向に変位し、その右端面132cと外周面132bとが軸受ハウジング125の内端面125cと内周面125aとに押しつけられて予圧が支持される。
【0003】
一方、近年は軽量化の一環として、トランスミッションケース(軸受ハウジング)をAl合金などの軽金属で構成することが行なわれている。Alは構造材料中でも線膨張係数が最も高く(室温で約23.5×10−6/℃:以下、線膨張係数の単位はppm/℃と略記する))、回転軸や円錐ころ軸受を構成する鋼(Fe系材料)の線膨張係数(室温で約12ppm/℃)とは相当の差がある。
【0004】
回転軸と軸受ハウジングとが同じ材料である場合、温度による寸法変化も同じであるので、円錐ころ軸受にかかる予圧に大きな変化はない。しかし、軸受ハウジングを軽金属で構成すると、温度上昇によって軸受ハウジングが回転軸よりも大きく寸法変化し、予圧が抜けてしまうおそれがある。
具体的には、図6(b)に示すように、トランスミッションが昇温すると、軸受ハウジング125及び回転軸115が膨張するが、その膨張による寸法変化の差によって、外輪132の内周軌道面132aが円錐ころ134の転動面から矢印b方向に離間する。つまり、円錐ころ軸受111のアキシャル隙間及びラジアル隙間が温度により大きく変化し、予圧不足となる。このような予圧不足は、ギヤのガタツキを招き、騒音発生の原因となる。
【0005】
下記特許文献1には、内輪の軸方向端面とこれに対向する回転軸の側壁面との間に環状の板バネを介装し、この板バネの弾性復元力によって予圧を付与する技術が開示されている。この技術では、昇温によって軸受ハウジングが回転軸よりも大きく寸法変化したときでも、その寸法差が板バネの弾性変形範囲内であれば、バネ力によって予圧をかけることが可能であるが、昇温に伴う軸受ハウジングと回転軸との寸法変化の差が大きくなるほど板バネの弾性変形量が小さくなり、バネ力が減少するので、十分な予圧を付与し難くなる。
【特許文献1】特開2003−184873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、昇温に伴う軸受ハウジングと軸との寸法変化の差が大きくても予圧を維持することができる転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の転がり軸受装置は、転動体と、この転動体が転動する軌道面を外周に備えた内輪と、前記転動体が転動するとともに前記転動体からの径方向荷重と軸方向一方側へ向く荷重とを受ける軌道面を内周に備え、且つ、第1の線膨張係数を有する外輪と、を備えた転がり軸受と、
前記外輪の外周面が嵌合する内周面を備え、且つ、第1の線膨張係数よりも大きい第2の線膨張係数を有する軸受ハウジングと、
前記内輪の内周面に嵌合し、且つ、前記第2の線膨張係数よりも小さい第3の線膨張係数を有する軸と、
前記外輪の軸方向一方側の端面とこれに対向する軸受ハウジングの外輪支持面との間、又は、前記内輪の軸方向他方側の端面とこれに対向する前記軸の内輪支持面との間に配置され、弾性材料により中空構造に形成された中空弾性体と、を備え、
中空弾性体の内部に、前記第2の線膨張係数よりも大きな第4の線膨張係数を有する固体部材と、液体とが封入されていることを特徴とする。
【0008】
これによれば、昇温によって軸受ハウジングが軸よりも軸方向に大きく膨張すると、転がり軸受に対する予圧が減少しようとするが、昇温によって中空弾性体内の固体部材と液体も膨張し、中空弾性体が弾性変形して膨らむため、軸受ハウジングと軸との間の寸法変化の差を吸収し、転がり軸受にかかる予圧を維持することができる。
【0009】
前記固体部材は、合成樹脂製であることが好ましい。これによって、高い線膨張係数を容易に得ることができる。
また、前記液体は、当該転がり軸受装置で用いられる潤滑油と同種のものであることが好ましい。これによって仮に中空弾性体が破損して液体が漏れたとしても転がり軸受装置に対して悪影響を及ぼすことはない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、昇温に伴う軸受ハウジングと軸との寸法変化の差が大きくても予圧を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の第1実施形態に係る転がり軸受装置を示す側面断面図である。この転がり軸受装置は、トランスミッション10に転がり軸受11を組み込むことにより構成されている。トランスミッション10は、ケース12と、ケース12の内部に組み込まれたギヤボックス13と、ギヤボックス13を貫通するように互いに平行に設けられた入力軸14及び出力軸(軸)15とを備えている。入力軸14及び出力軸15は、ギヤボックス13内の変速ギヤ16により連動して回転するようになっている。
【0012】
変速ギヤ16は、例えば、マニュアルタイプとされており、入力軸14に互いに歯数の異なる複数枚の入力ギヤ18を設けるとともに、出力軸15に互いに歯数の異なる出力ギヤ19を設け、得るべき変速比又は前進/後退の区別に応じて、入力軸14上のギヤ18と出力軸15上のギヤ19との噛み合いの組み合わせを切り替えることによって変速可能となっている。これら入力ギヤ18及び出力ギヤ19にはスパーギヤやヘリカルギヤが用いられる。また、変速ギヤ16は、遊星ギヤ機構等を用いたオートマチックタイプであってもよい。
【0013】
入力軸14の両端は、ケース12内の内側に固定された円筒ころ軸受21及び玉軸受22によりそれぞれ回転可能に支持されている。出力軸15の両端は、円錐ころ軸受11,23によりそれぞれ支持されている。軸方向一方側(左側)の円錐ころ軸受11は、ケース12と一体の軸受ハウジング25に嵌合され、軸方向他方側(右側)の円錐ころ軸受23は、ケース12と一体の軸受ハウジング26に当て止め固定されている。双方の円錐ころ軸受11,13には、定位置予圧方式によって予圧が付与されている。
【0014】
図2は、本発明の要部を拡大して示す断面図である。左側の円錐ころ軸受11は、外輪32と、内輪33と、外輪32及び内輪33の間に配置された複数の円錐ころ(転動体)34とを備えている。外輪32の外周面は、軸受ハウジング25の内周面に嵌合され、外輪32の内周面には、円錐ころ34が斜接して転動する内周軌道面32aが形成されている。内輪33の外周面には、円錐ころ34が斜接して転動する外周軌道面33aが形成され、内輪33の内周面には出力軸15が嵌合されている。内輪33と円錐ころ34との接触角および円錐ころ34と外輪32との接触角は、軸方向内側(右側)から軸方向外側(左側)に向けて拡径するように設定されている。なお、ここで接触角は、JISB0104−1991に規定された呼び接触角に準じる。
これらの構成は、右側の円錐ころ軸受23(図1)についても、軸方向内側が左側に、軸方向外側が右側になる点以外は、同様である。
【0015】
外輪32の軸方向外側(左側)の端面と、この端面に対向する軸受ハウジング25の側壁面(外輪支持面)25Aとの間には、本発明に係る中空弾性体40が介在している。この中空弾性体40は、ゴム等の弾性材料により形成され、内部が中空である。また、中空弾性体40は、断面4角形のリング状に形成され、軸受ハウジング25の内周面に嵌合可能な寸法の外径と、外輪32の内径と略同一の内径とを有している。中空弾性体40の内部には、固体であるリング状部材(固体部材)41と、液体42とが封入されている。
【0016】
リング状部材41は4角形断面の中実構造となっている。また、リング状部材41は、中空弾性体40内に隙間をあけて収められるように、中空弾性体40内部の内外径及び軸方向幅よりも小さい内外径及び軸方向幅を有している。
液体42は、中空弾性体40とリング状部材41との間に形成される隙間に充填され、中空弾性体40内で密封されている。液体42としては、好ましくは油が用いられ、例えば、トランスミッション10内の潤滑に用いられる潤滑油(ギヤオイル)と同種のものが用いられる。
【0017】
なお、中空弾性体40に使用するゴムの材質は、液体(油)42との接触を考慮して、機械的強度と耐油性とを両立できるゴム、例えば、ニトリルゴム(特に、水素化ニトリルゴム)、アクリルゴム、シリコンゴム及びフッ素ゴム等が好適である。
【0018】
円錐ころ軸受11の外輪32は、第1の線膨張係数を有している。これに対して、軸受ハウジング25は、第1の線膨張係数よりも大きい第2の線膨張係数を有している。また、出力軸15は、第2の線膨張係数よりも小さい第3の線膨張係数を有している。リング状部材41は、第2の線膨張係数よりも大きい第4の線膨張係数を有している。
【0019】
例えば、円錐ころ軸受11は、外輪32、内輪33及び転動体34が、いずれも鋼製(例えば、軸受鋼、はだ焼鋼、浸炭鋼)にて形成され、軸受ハウジング25は、軽金属製(Al又はMgのいずれかを主成分(50質量%以上の含有率)とする金属製)にて形成され、出力軸15は、鋼製(例えば、機械構造用低合金鋼製)にて形成されている。リング状部材41は、合成樹脂製にて形成されている。
【0020】
好ましくは、軸受ハウジング25は、加工性及び耐食性の観点からAlまたはAl合金が使用され、Al合金としては、例えばダイキャスト用Al合金が使用される。本実施形態では、ケース12(図1)もAl合金製であり、軸受ハウジング25はケース12の内面に一体化されている。また、リング状部材41は、好ましくは、ポリアミド系樹脂(ポリアミド66(PA66)等)が使用される。
【0021】
軸受ハウジング25の構成主成分であるAlの線膨張係数(第2の線膨張係数)は23〜24ppm/℃、出力軸15及び円錐ころ軸受11の構成主成分であるFeの線膨張係数(第1,第3の線膨張係数)は、約12〜13ppm/℃である。リング状部材41の構成主成分であるPA66の線膨張係数(第4の線膨張係数)は、約100ppm/℃である。また、液体42としての潤滑油の熱膨張率は、約760ppm/℃である。
また、一般に、自動車のトランスミッションにおける軸受使用環境温度は−40℃以上150℃以下の範囲(寒冷地及び高速連続運転等を除いた通常到達温度は、50℃以上80℃以下)である。
【0022】
円錐ころ軸受11及び円錐ころ軸受23には、軸受ハウジング25,26、出力軸15等の寸法設定によって予め軸方向外方へ向く予圧が付与されている。
トランスミッション10の温度が比較的低温で一定に保たれている場合、軸受ハウジング25、外輪32、出力軸15の熱膨張による寸法変化の差はさほど生じず、予圧も一定に保たれる。
【0023】
トランスミッション10が昇温すると、出力軸15よりもトランスミッション10及び軸受ハウジング25,26の方が線膨張係数が大きいため、トランスミッション10及び軸受ハウジング25,26が大きく膨張し、外輪32が円錐ころ34から離間しようとする。
この際、外輪32と軸受ハウジング25との間には中空弾性体40が介在し、中空弾性体40内のリング状部材41は、トランスミッション10や軸受ハウジング25よりも線膨張係数が大きいため、トランスミッション10や軸受ハウジング25よりも比率的に大きく膨張する。また、液体42も昇温により場合によっては気化し、体積が増大(膨張)する。
【0024】
そして、リング状部材41及び液体42が膨張すると、中空弾性体40が軸方向及び径方向に弾性変形して膨らみ、トランスミッション10及び軸受ハウジング25と、出力軸15との寸法変化の差を埋めるとともに、外輪32を軸方向内方(右方向)へ押圧し、予圧を維持する。
したがって、昇温によって予圧不足となることはほとんど無く、ギヤのガタツキや騒音の発生を好適に防止することができる。
【0025】
なお、リング状部材41は、トランスミッション10や軸受ハウジング25よりも線膨張係数が大きいが、これらよりも寸法は小さいため、昇温による実質的な寸法変化はトランスミッション10や軸受ハウジング25よりも小さくなる。しかしながら、中空弾性体40には、さらに熱膨張率が高い液体42も封入されていることから、リング状部材41単独ではカバーしきれないトランスミッション10及び軸受ハウジング25と出力軸15との寸法変化の差を液体42によって補うことができる。
【0026】
トランスミッション10の変速やクラッチ(図示略)の断接等によって、出力軸15を介して円錐ころ軸受11に衝撃荷重が加わった場合、液体42や中空弾性体40の弾性によって衝撃荷重を吸収することができる。
一方、中空弾性体40内にリング状部材41が設けられていないと、衝撃荷重による中空弾性体40の変形が過度となり、出力軸15のガタツキやギヤの衝突音が大きくなる恐れがあるが、中空弾性体40内にはリング状部材41も設けられているので、中空弾性体40の過度の変形を防止することができる。
【0027】
液体42として、トランスミッション10で用いられる潤滑油と同種のものを用いると、仮に中空弾性体40が破損して液体42が漏れたとしても、トランスミッション10に悪影響を及ぼすことはない。
【0028】
図3は、本発明の第2実施形態に係る要部の拡大図である。本実施形態は、中空弾性体40が、円錐ころ軸受11における内輪33の軸方向内側(右側)の端面と、出力軸15の側壁面(内輪支持面)15Aとの間に介在しているものである。本実施形態においても第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0029】
図4(A)は、本発明の第3の実施形態に係る要部の拡大図である。本実施形態は、中空弾性体40の内周側に規制部材50を備えたものであり、その他の構成は第1実施形態(図2)と同様である。
この規制部材50は、軸受ハウジング25に一体形成され、側壁面25Aから軸方向内方(右方)に突出している。また、規制部材50は環状に形成されている。
【0030】
規制部材50の環状の外周面50aは、中空弾性体40の内周面40aに当接し、この内周面40aを径方向内側から保持している。そのため、中空弾性体40の径方向内方への膨張が規制され、昇温に伴う中空弾性体40の膨張方向を軸方向に集中させることができる。
【0031】
また、中空弾性体40は、規制部材50よりも軸方向内方に突出するように、寸法が設定されている。そのため、出力軸15側からの衝撃荷重を中空弾性体40によって好適に緩和することができる。
【0032】
図4(B)は、第3実施形態の変形例を示す要部の拡大図である。この変形例では、規制部材50が軸受ハウジング25とは別体の部材として構成されている。
この場合、規制部材50は、適宜手段によって軸受ハウジング25に固定される。例えば、軸受ハウジング25にネジ穴を形成し、規制部材50に貫通孔を形成し、この貫通孔に挿入したネジをネジ穴に螺合することによって、規制部材50を固定することができる。また、軸受ハウジング50に規制部材50を接着してもよい。
【0033】
別の固定方法として、規制部材50の軸方向外端部(左端部)に径方向外方に延びる拡径部を設け、この拡径部を軸受ハウジング25の内周面に圧入することができる。この場合、規制部材50の圧入が熱膨張によって緩むことがないように、軸受ハウジング25と同じ熱膨張係数の材料で規制部材50を形成することが好ましい。
【0034】
図4(A)(B)に示す規制部材50は、中空弾性体40の内周面40aを保持する外周面50aを少なくとも有していればよい。したがって、規制部材50は、環状に形成するに限らず板状(円板状)に形成することもできる。
また、規制部材50は、低温時(中空弾性体40の熱膨張が小さいとき)に、その外周面50aと中空弾性体40の内周面40aとの間の少なくとも一部に、隙間ができるように形成されていてもよい。この場合、出力軸15側から軸方向の衝撃荷重が付与されたとしても、中空弾性体40内の液体42が移動して中空弾性体40が上記隙間に膨らむことによって、衝撃を緩和することが可能である。
【0035】
また、規制部材50の外周面50aと中空弾性体40の内周面40aとを圧着や接着によって一体化することもできる。この場合、規制部材50は、軸受ハウジング25と一体形成(図4(A))又は軸受ハウジング25に固定(図4(B))しなくてもよい。更にこの場合、規制部材50が軸受ハウジング25と別体であれば、規制部材50及び中空弾性体40を軸受ハウジング25に一体的に組み込むことができる。
【0036】
図5は、本発明の第4実施形態に係る要部の拡大図である。本実施形態は、中空弾性体40の外周側に規制部材52を備えたものであり、その他の構成は、第2実施形態(図3)と同様である。
この規制部材52は環状に形成され、環状の内周面52aを有している。内周面52aの軸方向内側(右側)は出力軸15の外周面15bに圧入され、軸方向外側(左側)は、中空弾性体40の外周面40bに当接し、この外周面40bを径方向外側から保持している。そのため、中空弾性体40の径方向外方への膨張が規制され、昇温に伴う中空弾性体40の膨張方向を軸方向に集中させることができる。
【0037】
中空弾性体40は、規制部材52よりも軸方向外方に突出するように配置されており、これによって、出力軸15側からの衝撃荷重を中空弾性体40によって好適に緩和することができる。
【0038】
規制部材52は、中空弾性体40の外周面40bを保持するための環状の内周面52aを少なくとも有していればよい。
また、規制部材52は、別の固定方法により出力軸15に固定してもよい。例えば、出力軸15に径方向のネジ穴を形成し、規制部材52に径方向の貫通孔を形成し、この貫通孔に挿入したネジを出力軸15のネジ穴に螺合することによって、規制部材52を出力軸15に固定することができる。また、規制部材52を出力軸15に接着してもよい。
【0039】
また、規制部材52は、低温時(中空弾性体40の熱膨張が小さいとき)に、その内周面52aと中空弾性体40の外周面40bとの間の少なくとも一部に、隙間ができるように形成されていてもよい。この場合、出力軸15側から軸方向の衝撃荷重が付与されたとしても、中空弾性体40内の液体42が移動して中空弾性体40が上記隙間に膨らむことによって、衝撃を緩和することが可能である。
【0040】
また、規制部材52の内周面52aと中空弾性体40の外周面40bとは、圧着や接着等によって一体化することができる。この場合、規制部材52は、出力軸15に固定(一体化)しなくてもよい。更にこの場合、規制部材52と中空弾性体40とを出力軸15に一体的に組み込むことができる。
【0041】
本発明は、上記各実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。例えば、中空弾性体40はリング状に形成されているが、周方向に分断した円弧形状に形成するとともに複数の中空弾性体40を周方向所定間隔に配置してもよい。中空弾性体40は、右側の円錐ころ軸受23に対しても設けることができる。
リング状部材41の断面形状は、四角形に限らず他の多角形や円形とすることができる。多角形とする場合には、接触によって中空弾性体40を破らないように角部をR形状にするのが好ましい。
【0042】
上記実施形態では、トランスミッションに用いられる転がり軸受装置を示しているが、四輪駆動車の駆動分配軸用のギヤユニット等、他の装置にも適用することができる。また、転がり軸受としては、円錐ころ軸受に限らずアンギュラ玉軸受、深みぞ玉軸受等の予圧を使用する他の転がり軸受であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転がり軸受装置であるトランスミッションを示す断面図である。
【図2】転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【図6】従来の転がり軸受装置の要部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 トランスミッション(転がり軸受装置)
11 円錐ころ軸受(転がり軸受)
15 出力軸(軸)
25 軸受ハウジング
32 外輪
33 内輪
34 円錐ころ(転動体)
40 中空弾性体
41 リング状部材(固体部材)
42 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体と、この転動体が転動する軌道面を外周に備えた内輪と、前記転動体が転動するとともに前記転動体からの径方向荷重と軸方向一方側へ向く荷重とを受ける軌道面を内周に備え、且つ、第1の線膨張係数を有する外輪と、を備えた転がり軸受と、
前記外輪の外周面が嵌合する内周面を備え、且つ、第1の線膨張係数よりも大きい第2の線膨張係数を有する軸受ハウジングと、
前記内輪の内周面に嵌合し、且つ、前記第2の線膨張係数よりも小さい第3の線膨張係数を有する軸と、
前記外輪の軸方向一方側の端面とこれに対向する軸受ハウジングの外輪支持面との間、又は、前記内輪の軸方向他方側の端面とこれに対向する前記軸の内輪支持面との間に配置され、弾性材料により中空構造に形成された中空弾性体と、を備え、
中空弾性体の内部に、前記第2の線膨張係数よりも大きい第4の線膨張係数を有する固体部材と、液体とが封入されていることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記固体部材が、合成樹脂製である請求項1記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記液体が、当該転がり軸受装置内で用いられる潤滑油と同種のものである請求項1又は2記載の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−185191(P2008−185191A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21400(P2007−21400)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】