説明

転がり軸受

【課題】ポンプを設ける必要がなく、コストを低くして簡単な構成で潤滑剤を内輪と外輪との間へ供給することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受1は、軌道21が形成された内輪20と、軌道13が形成された外輪10と、内輪20及び外輪10の各々の軌道21,13において転動する転動体30とを備え、潤滑剤であるグリースGを内輪20と外輪10との間へ供給するものである。内輪20には永久磁石22が設けられ、外輪10には導線により形成されたコイル14が設けられている。そして、外輪10には、コイル14を形成する導線に接続された発熱体15と、発熱体15が発熱することによって溶融するグリースGが蓄えられたグリース貯留部11と、溶融したグリースGをグリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ供給するためのグリース供給口12とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤を内輪と外輪との間へ供給する構造を有する転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、外周に軌道が形成された軌道輪である内輪と、内周に軌道が形成された軌道輪である外輪と、内輪及び外輪の各々の軌道において転動する転動体とを備えた転がり軸受において、潤滑剤を内輪と外輪との間(即ち、転がり軸受内)へ供給する構造を有するものが知られている。このような転がり軸受は、内輪と外輪との間へ潤滑剤を供給することによって、転動体と内輪及び外輪の各々の軌道に薄い油膜を形成して、転がり軸受の寿命を向上させることができる。
【0003】
上述の潤滑剤を内輪と外輪との間へ供給する構造を有する転がり軸受として、例えば、固定輪(即ち、内輪及び外輪のうち一方)側に、転動体あるいは固定輪や回転輪(内輪及び外輪のうち他方)の軌道面(軌道)に対して潤滑剤である潤滑油を供給する給油ユニットを付設することが提案されている。この給油ユニットは、潤滑油を貯留するタンクと、タンク内の潤滑油を吸引して吐出するマイクロポンプ(ポンプ)と、マイクロポンプを駆動する駆動部とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−108388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、タンク内の潤滑油を吸引して吐出するポンプが必要であるため、内輪と外輪との間へ潤滑剤を供給するための構成が複雑になるという問題があった。また、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する圧電素子や、圧電素子によって駆動されるダイアフラム等を有するポンプが必要であるため、コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ポンプを設ける必要がなく、コストを低くして簡単な構成で潤滑剤を内輪と外輪との間へ供給することができる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、外周に軌道が形成された内輪と、内周に軌道が形成された外輪と、内輪及び外輪の各々の軌道において転動する転動体とを備え、潤滑剤であるグリースを内輪と外輪との間へ供給する転がり軸受において、内輪及び外輪のうち、一方には永久磁石が設けられ、他方には導線により形成されたコイルと、コイルを形成する導線に接続された発熱体と、発熱体が発熱することによって溶融するグリースが蓄えられたグリース貯留部と、溶融したグリースをグリース貯留部から内輪と外輪との間へ供給するためのグリース供給口とが設けられていることを特徴とする。
【0007】
同構成によれば、軌道輪である内輪及び外輪のうち、コイルが設けられた他方には、コイルを形成する導線に接続された発熱体と、発熱体が発熱することによって溶融するグリースが蓄えられたグリース貯留部と、溶融したグリースをグリース貯留部から内輪と外輪との間へ供給するためのグリース供給口とが設けられている。このため、内輪と外輪が相対的に回転することに伴い、軌道輪である内輪及び外輪のうち、一方に設けられた永久磁石によって、他方に設けられたコイル内の磁束が変化する。従って、内輪と外輪の相対的な回転速度に応じたコイル内の磁束の変化によって電磁誘導が起こり、コイルには電磁誘導により発生した誘導電流が流れる。この誘導電流が、コイルを形成する導線に接続された発熱体に流れることによって、グリース貯留部に熱を加えることができ、グリースを溶融することができる。そして、溶融したグリースが、グリース供給口を介して、グリース貯留部から内輪と外輪との間へ供給される。その結果、ポンプを設ける必要がなく、コストを低くして簡単な構成で潤滑剤であるグリースを内輪と外輪との間へ供給することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の転がり軸受であって、グリース供給口は、発熱体が発熱することによって溶融したグリースが毛細管現象によってグリース貯留部から内輪と外輪との間へ移動するように形成されていることを特徴とする。
【0009】
同構成によれば、グリース供給口は、発熱体が発熱することによって溶融したグリースが毛細管現象によってグリース貯留部から内輪と外輪との間へ移動するように形成されている。このため、発熱体が発熱することによって溶融したグリースが、毛細管現象によってグリース貯留部から内輪と外輪との間へ移動する。従って、グリースを内輪と外輪との間へ効果的に供給することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コストを低くして簡単な構成で潤滑剤を内輪と外輪との間へ供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明に係る実施形態について、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、図中の矢印Rは、円周方向を示している。
本実施形態に係る転がり軸受1は、図1に示すように、環状に形成された軌道輪である外輪10及び内輪20と接触して円周方向に転動する球状の転動体30が設けられたものである。また、転がり軸受1を囲むように形成された固定部材であるハウジング(不図示)が、外輪10の外周10aに取り付けられている。
【0012】
外輪10には、図1のA−A断面図である図2に示すように、外輪10により形成された空間(即ち、外輪10内)に形成されているグリース貯留部11と、グリースGをグリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ(即ち、図中の矢印Bが示す方向へ)供給するためのグリース供給口12とが設けられている。グリース貯留部11には、半固体状の潤滑剤であるグリースGが蓄えられるとともに、グリース貯留部11から内輪20と外輪10との間までは、グリース供給口12で連通されている。
【0013】
グリース貯留部11に蓄えられたグリースGは、潤滑油中に増ちょう剤を分散させた構造粘性を有するものであって、例えば、転がり軸受1が使用されない常温においては流動性の低い固体状であるが、温度が高くなると溶融して流動性が高い液体状となる。従って、グリース貯留部11に熱を加えることによってグリースGを溶融することができ、溶融した液体状のグリースGが、グリース供給口12を介して、グリース貯留部11から外輪10と内輪20との間(即ち、転がり軸受1内)へ供給される。
【0014】
また、外輪10の内周10bには、転動体30が接触して転動するための軌道13が設けられるとともに、さらに、導線が巻かれて形成されたコイル14が設けられている。コイル14は、例えば、エナメル線等の導線が、内輪20の外周20aに対して垂直な軸を中心として巻かれて形成されているものである。
【0015】
さらに、外輪10には、コイル14を形成する導線に接続された発熱体15が設けられている。この発熱体15は、抵抗の大きいニクロム線等の電熱線により形成され、グリース供給口12を通って、グリース貯留部11内まで延びて設けられている。従って、コイル14を形成する導線に接続された発熱体15に電流が流れることによって、電気エネルギーが熱エネルギーへ変換されて、グリース貯留部11に熱を加えることができる。
【0016】
内輪20の外周20aには、転動体30が接触して転動するための軌道21が設けられるとともに、さらに、磁極が円周方向に沿って交互に着磁された環状の永久磁石22が設けられている。外輪10に設けられたコイル14と内輪20に設けられた永久磁石22は対向しているため、外輪10と内輪20が相対的に回転することに伴い、永久磁石22によってコイル14内の磁束が変化する。従って、内輪20と外輪10の相対的な回転速度に応じたコイル14内の磁束の変化によって電磁誘導が起こり、コイル14(即ち、コイル14を形成する導線)には誘導電流が流れる。
【0017】
また、内輪20の内周20bには、回転軸であるシャフト(不図示)が固定されている。従って、シャフトにトルクが発生することによって、シャフト及び内輪20は、ハウジング及び外輪10に対して、回転しようとする。
【0018】
外輪10及び内輪20の間には、球状の転動体30が設けられている。転動体30は、外輪10の軌道13及び内輪20の軌道21と接触しており、円周方向に転動することができる。従って、シャフトにトルクが発生すると、内輪20が回転して、外輪10と内輪20が相対的に回転する。
【0019】
以上のように構成された転がり軸受1は、外周20aに軌道21が形成された内輪20と、内周10bに軌道13が形成された外輪10と、内輪20及び外輪10の各々の軌道21,13において転動する転動体30とを備え、潤滑剤であるグリースGを内輪20と外輪10の間へ供給するものである。
【0020】
ここで本実施形態においては、上述のごとく、軌道輪である内輪20及び外輪10のうち、一方(即ち、内輪20)には永久磁石22が設けられ、他方(即ち、外輪10)には導線により形成されたコイル14が設けられている。そして、外輪10には、コイル14を形成する導線に接続された発熱体15と、発熱体15が発熱することによって溶融するグリースGが蓄えられたグリース貯留部11と、溶融したグリースGをグリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ供給するためのグリース供給口12とが設けられていることに特徴がある。
【0021】
上記実施形態の転がり軸受1によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)内輪20には永久磁石22が設けられ、外輪10には導線により形成されたコイル14と、発熱体15と、グリース貯留部11と、グリース供給口12とが設けられている。このため、内輪20と外輪10が相対的に回転する(即ち、外輪10に対して内輪20が回転する)ことに伴い、内輪20に設けられた永久磁石22によって、外輪10に設けられたコイル14内の磁束が変化する。従って、内輪20と外輪10の相対的な回転速度に応じたコイル14内の磁束の変化によって電磁誘導が起こり、コイル14には電磁誘導により発生した誘導電流が流れる。この誘導電流がコイル14を形成する導線に接続された発熱体15に流れることによって、グリース貯留部11に熱を加えることができ、グリースGを溶融することができる。そして、溶融したグリースGが、グリース供給口12を介して、グリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ供給される。その結果、ポンプを設ける必要がなく、コストを低くして簡単な構成で潤滑剤であるグリースGを内輪20と外輪10との間へ供給することができる。
【0022】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の設計変更をすることが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。例えば、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0023】
・上記実施形態の転がり軸受においては、グリース供給口12は、発熱体15を形成する電熱線がグリース貯留部11内まで延びて設けられるために、電熱線が挿入される電熱線挿入孔を兼ねているが、図3に示すように、電熱線挿入孔Dとグリース供給口12とを別に設けてもよい。
【0024】
この場合、図3に示すグリース供給口12は、発熱体15が発熱することによって溶融したグリースGが毛細管現象によってグリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ移動するように形成されている。即ち、グリース供給口12内のグリースGが毛細管現象によって内輪20と外輪10との間へ向けて移動するように、グリース供給口12は、グリースGの表面張力や密度等を考慮して、所定の小さな口径を有するように形成されている。なお、グリース供給口12内のグリースGが毛細管現象によって内輪20と外輪10との間へ移動することができれば、グリース供給口12はどのような形状でもよい。
【0025】
このようにすれば、溶融したグリースGが、毛細管現象によってグリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ移動する。従って、グリースGを内輪20と外輪10との間へ効果的に供給することができる。
【0026】
・また、図4に示すように、電熱線挿入孔Dとグリース供給口12とを別に設けて、グリース貯留部11と軌道13とがグリース供給口12によって連通されていることが好ましい。
【0027】
このようにすれば、グリース供給口12を介して、グリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ供給されるグリースGは、転動体30へ直接塗布されるため、転動体30と内輪20及び外輪10の各々の軌道21,13に薄い油膜を容易に形成することができる。
【0028】
・上記実施形態の転がり軸受においては、内輪20に永久磁石22が設けられ、外輪10にコイル14等が設けられていたが、外輪10に永久磁石が設けられ、内輪20にコイル等が設けられていてもよい。即ち、内輪20及び外輪10のうち、一方に永久磁石が設けられ、他方にコイル等が設けられていればよい。
【0029】
より具体的には、図5に示すように、外輪10(内輪20及び外輪10のうち一方)には、上記実施形態の永久磁石22と同様に着磁された永久磁石16が設けられ、内輪20(内輪20及び外輪10のうち他方)には、上記実施形態のコイル14と同様に形成されたコイル23が設けられている。そして、内輪20には、コイル23を形成する導線に接続された発熱体24と、発熱体24が発熱することによって溶融するグリースGが蓄えられたグリース貯留部25と、溶融したグリースGをグリース貯留部25から内輪20と外輪10との間へ供給するためのグリース供給口26が設けられている。発熱体24とグリース貯留部25とグリース供給口26は、それぞれ、上記実施形態の発熱体15とグリース貯留部11とグリース供給口12と同様の構成である。
【0030】
このようにすれば、永久磁石16は外輪10に設けられ、内輪20は回転する。即ち、コイル23と発熱体24とグリース貯留部25とグリース供給口26が設けられた内輪20が回転する。このため、内輪20が回転することに伴って、溶融したグリースGが、遠心力によってグリース貯留部11から内輪20と外輪10との間へ(即ち、図中の矢印Cが示す方向へ)移動する。従って、グリースGを内輪20と外輪10との間へさらに効果的に供給することができる。
【0031】
・上記実施形態においては、固定部材であるハウジング(不図示)に外輪10が取り付けられ、内輪20が回転する構成であったが、内輪20が固定部材に取り付けられ、外輪10が回転する構成であってもよい。即ち、外輪10と内輪20が相対的に回転することができればよい。
【0032】
・グリース貯留部11は軌道輪により形成された空間(即ち、軌道輪内)に形成されていたが、軌道輪と軌道輪に取り付けられた部材により形成された空間にグリース貯留部11が形成されていてもよい。より具体的には、図6に示すように、外輪10の外周10aには凹部17が設けられ、外輪10の凹部17と外輪10に取り付けられたハウジングHとにより形成された空間にグリース貯留部11が形成されていてもよい。このようにすれば、グリース貯留部11を容易に形成することができる。
【0033】
・転がり軸受1は、内輪20と外輪10の間において、異物の混入等を防ぐために、シール等を備えていてもよい。また、転がり軸受1は、複数の転動体30が、円周方向に所定の間隔を保つように保持器を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受を示す概略構成図。
【図2】本発明の実施形態に係る転がり軸受を示す部分断面図であって、図1のA−A断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る転がり軸受の別例を示す部分断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る転がり軸受の別例を示す部分断面図。
【図5】本発明の実施形態に係る転がり軸受の別例を示す部分断面図。
【図6】本発明の実施形態に係る転がり軸受の別例を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0035】
G…グリース、1…転がり軸受、10…外輪、10b…内周、11…グリース貯留部、12…グリース供給口、13…軌道、14…コイル、15…発熱体、16…永久磁石、20…内輪、20a…外周、21…軌道、22…永久磁石、23…コイル、24…発熱体、25…グリース貯留部、26…グリース供給口、30…転動体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に軌道が形成された内輪と、内周に軌道が形成された外輪と、前記内輪及び外輪の各々の軌道において転動する転動体とを備え、潤滑剤であるグリースを前記内輪と前記外輪との間へ供給する転がり軸受において、
前記内輪及び外輪のうち、一方には永久磁石が設けられ、他方には導線により形成されたコイルと、前記コイルを形成する前記導線に接続された発熱体と、前記発熱体が発熱することによって溶融する前記グリースが蓄えられたグリース貯留部と、溶融した前記グリースを前記グリース貯留部から前記内輪と前記外輪との間へ供給するためのグリース供給口とが設けられていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記グリース供給口は、前記発熱体が発熱することによって溶融した前記グリースが毛細管現象によって前記グリース貯留部から前記内輪と前記外輪との間へ移動するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−63034(P2009−63034A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229913(P2007−229913)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】