説明

転がり軸受

【課題】水分に対するシーリング効果を維持しつつ、製造コストを軽減し、摺動面の摩擦抵抗を軽減し、軸受のトルクの上昇を抑えることができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受1は、内輪2と、外輪3と、両軌道面2a,3a間に転動自在に配された複数の転動体4と、静止輪である外輪3に形成されたシール溝3bに取り付けられ、回転輪である内輪2に形成されたシール溝2bの摺動面2dに当接するシール部材10とを備えている。シール部材10の一方の端部13が、シール溝3bを覆う鍔部14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材を備えた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内輪及び外輪がステンレス鋼で構成された転がり軸受においては、洗濯機の回転主軸等に用いた場合、水蒸気等の水分が存在する環境下で用いられることから、転がり軸受の内部への水分の侵入を防止する構造を有することが要求される。
内部への水分の浸入を防止する転がり軸受の構造としては、ゴム等を材料とした接触シールを内輪と外輪との間に架橋させて設置するのが一般的である。具体的には、静止輪としての外輪に接触シールの一端を固定し、回転輪としての内輪の摺動面上に接触シールの他端を当接させる。そして、外輪に対して内輪が回転したときには、接触シールの他端上を内輪の摺動面が摺動し、常に摺動面上に接触シールの他端が密着されていることによって、転がり軸受の内部への水分の侵入を防止する構造をなす(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−177956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、転がり軸受の材料として、一般的な鋼を採用すると、水分の存在下では、シール部材が当接する摺動面に錆が発生することがある。そして、この錆は、摺動面上に凹凸形状を形成するため、摺動面と、シール部材との密着性が低下し、結果として、転がり軸受の内部に水分が浸入してしまう問題があった。
錆の発生を防ぐ対策としては、転がり軸受の材料に耐食性金属を使用することが挙げられるが、鋼より高価となるため、製造コストが上昇する問題があった。
【0005】
また、常に摺動面上に接触シールの他端が密着されているため、摺動面において摩擦抵抗が発生し、結果として、軸受のトルクを上昇させる問題もあった。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、水分に対するシーリング効果を維持しつつ、製造コストを軽減し、摺動面の摩擦抵抗を軽減し、軸受のトルクの上昇を抑えることができる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、一般的な軸受鋼材(SUJ2等)に安価な防錆性の被膜処理を摺動面に施すことが有効であることを知見した。
本発明は、本発明者らによる上記知見に基づくものであり、上記課題を解決するための本発明のある態様の転がり軸受は、内輪と、外輪と、上記内輪及び上記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、上記内輪又は上記外輪のいずれか静止輪側に形成された円環状のシール溝に一方の端部が固定され、上記外輪又は内輪のいずれか回転輪側に形成されたシール溝の摺動面に他方の端部が当接するシール部材とを備える転がり軸受において、亜鉛及び錫を含む耐食性被膜が上記摺動面に形成され、上記シール部材の一方の端部が、静止輪側のシール溝を覆う鍔部を有する。
【0007】
本発明のある態様の転がり軸受がこのような構成をなすことにより、亜鉛及び錫を含む耐食性被膜を上記摺動面に形成したので、水分に対するシーリング効果を維持しつつ、摺動面の摩擦抵抗を軽減し、軸受のトルクの上昇を抑えた転がり軸受を提供することができる。防錆性を有する固体潤滑剤を摺動面に対してショットブラストすると、物理的衝突エネルギー(衝突熱)により摺動面に固体潤滑剤が溶着され、耐食性とともに潤滑性も有する耐食性被膜が形成される。その結果、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C)以上の優れた防錆性が付与されるとともに、潤滑性も付与される。固体潤滑剤のショットブラストは、ショットピーニングと同様に一般的なショットブラスト装置,ショットピーニング装置で行うことが可能であり、多数の摺動面に対して一度に処理することができるので、短時間且つ安価に処理を行うことができる。
【0008】
ショットブラスト装置,ショットピーニング装置は特に限定されるものではなく、空気圧式,遠心力式等の装置が使用できる。また、ショットブラスト時の雰囲気環境は、適宜調整することが好ましい。例えば、真空用途の転がり軸受に耐食性被膜を形成する場合には、遠心力式ショットブラスト装置を用いて減圧下又は真空にてショットブラストを行うことが好ましい。さらに、より細かい粒径の固体潤滑剤をショットする場合には、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うと、固体潤滑剤の酸化が少なくなるため好適である。
【0009】
さらに、耐食性被膜により防錆性が付与されているので、摺動面に防錆油を塗布する必要がない。さらに、摺動面に防錆油を塗布することなく防錆性が付与されているので、防錆油により悪影響を受ける部材(例えば高分子材料製の部材)の周辺に本発明のある態様の転がり軸受を配置することも可能である。なお、固体潤滑剤としては、内輪,外輪を構成する鋼(母材)の主成分である鉄よりも卑な金属と貴な金属との両方を併せて使用することが好ましい。
【0010】
特に、上記シール部材の一方の端部が、静止輪側のシール溝を覆う鍔部を有することにより、転がり軸受によれば、内輪が回転輪とされ、外輪が固定輪とされ、外輪のシール溝部分に水が溜まることが想定される洗濯機の主軸に用いられた場合に、シール溝に水が浸入しにくくなり、更なる防水性を発揮する。
また、本発明の他の態様の転がり軸受として、上記シール部材の他方の端部が、円環状の溝部によって隔てられた複数のリップ部を有してもよい。
【0011】
本発明の他の態様の転がり軸受がこのような構成をなすことにより、シール部材に空気抜き穴を設置することなく、外側(シール部材における固定輪(外輪)側)のリップ部によって内圧を下げ、内側(シール部材における回転輪(内輪)側)のリップ部によって水の浸入を防ぐことができる。
また、本発明の他の態様の転がり軸受として、上記耐食性被膜は、亜鉛粒子をショットブラストした後に錫粒子をショットブラストすることにより形成されたものであってもよい。
【0012】
本発明の他の態様の転がり軸受がこのような構成をなすことにより、内輪,外輪を構成する鋼の主成分である鉄よりも卑な金属である亜鉛を含有する耐食性被膜が摺動面に形成されていると、錆が発生しやすいような環境(例えば高湿環境)下であっても、鉄よりも卑な亜鉛が優先的に酸素と結合して酸化亜鉛となるので、鉄が酸素と結合して錆となることが抑制される。また、耐食性被膜には鉄よりも貴な金属であり錆びにくい錫が含まれているので、母材が保護されて発錆が抑制される。さらに、比較的硬質の酸化亜鉛の粉末が、摺動面に形成された耐食性被膜の表面上に生成すると、転がり軸受の音響性能に悪影響を及ぼすおそれがあるが、耐食性被膜に錫が含まれているので、耐食性被膜の表面上に酸化亜鉛の粉末が生成することが抑制される。
【0013】
亜鉛粒子をショットブラストした後に錫粒子をショットブラストすることにより形成された耐食性被膜は、下記のような2層構造、合金構造、複合化構造、海島構造、又はこれらのうち2つ以上の構造が混在した構造をなしていると思われる。すなわち、2層構造とは、耐食性被膜が内側の亜鉛層と表面側の錫層の2層からなる構造である。また、合金構造とは、耐食性被膜のほぼ全体が亜鉛と錫との合金からなる構造である。さらに、複合化構造とは、耐食性被膜のほぼ全体が亜鉛と錫との混合物からなる構造であり、且つ、内側(母材側)から表面側に向かって亜鉛の割合が徐々に減少し且つ錫の割合が徐々に増加する構造である。さらに、海島構造とは、亜鉛の母相中に錫が島状に分布している構造である。これらのうち2つ以上の構造が混在した構造の一例を示すと、内側(母材側)の亜鉛層と中間の合金層と表面側の錫層との3層からなる3層構造が挙げられる。
【0014】
なお、亜鉛粒子(鉄より卑な金属粒子)と錫粒子(鉄より貴もしくは鉄と同等)との混合粒子、又は、亜鉛と錫との合金の粒子をショットブラストしてもよい。また、錫粒子をショットブラストした後に亜鉛粒子をショットブラストしてもよい。
また、本発明の他の態様の転がり軸受として、上記耐食性被膜の亜鉛の含有量が5質量%以上80質量%以下であり、錫の含有量が95質量%以下20質量%以上であってもよい。
【0015】
本発明の他の態様の転がり軸受がこのような構成をなすことにより、このような構成の耐食性被膜は、優れた防錆性及び潤滑性を有する。なお、耐食性被膜の亜鉛の含有量は10質量%以上50質量%以下、錫の含有量は90質量%以下50質量%以上であることがより好ましく、亜鉛の含有量は20質量%以上40質量%以下、錫の含有量は80質量%以下60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
また、本発明の他の態様の転がり軸受として、上記耐食性被膜の厚さが、0.1μm以上5μm以下であってもよい。
本発明の他の態様の転がり軸受がこのような構成をなすことにより、耐食性被膜の厚さが5μm超過であると、耐食性被膜を均一に被覆することが困難となるとともに、耐食性被膜の脱落が生じやすくなり、転がり軸受にとって異物となるおそれがある。一方、耐食性被膜の厚さが0.1μm未満であると、十分且つ持続的な耐食性が得られないおそれがある。
【0017】
なお、耐食性被膜の厚さは、ショットブラストの条件、例えば噴射圧力(例えば0.29〜0.69MPa)や噴射時間(例えば10〜20分)によって制御することが可能である。また、耐食性被膜の厚さは、耐食性被膜の形成前後の質量差から、その単位をμmからg/mに換算して表すこともできる。亜鉛で構成された耐食性被膜の場合は、1μmが7.1g/mに相当する。
また、本発明の他の態様の転がり軸受として、軸受の構造がアンギュラ玉軸受であってもよい。
【0018】
本発明の他の態様の転がり軸受がこのような構成をなすことにより、転がり軸受の内外径の幅寸法を同一にしたままで、転動体の数を増やすことが可能であり、軸受の付加容量を増やせるので、大容量のドラム式洗濯機の主軸として用いることができる。また、転動体をセラミックとした場合に、軸受形式をアンギュラとすれば、転動体1個あたりの負荷を減少できるため、信頼性向上の効果がある。特に、アルミナ−ジルコニア等の、いわゆる低コストセラミックの転動体の場合、転動体が増えてもコスト増は僅かなため、コストの低減を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水分に対するシーリング効果を維持しつつ、製造コストを軽減し、摺動面の摩擦抵抗を軽減し、軸受のトルクの上昇を抑えることができる転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る転がり軸受の第1の実施形態における構造を示す部分縦断面図である。
【図2】本発明に係る転がり軸受の第2の実施形態における構造を示す部分縦断面図である。
【図3】本発明に係る転がり軸受の第3の実施形態における構造を示す部分縦断面図である。
【図4】本発明に係る転がり軸受の第4の実施形態における構造を示す部分縦断面図である。
【図5】本発明に係る転がり軸受の第5の実施形態における構造を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る転がり軸受の第1の実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。この深溝玉軸受1は、軌道面2aを外周面に有する円環状の内輪2と、内輪2の軌道面2aに対向する軌道面3aを内周面に有する円環状の外輪3と、両軌道面2a,3a間に転動自在に配された複数の転動体4と、を備えている。
外輪3において、深溝玉軸受1の回転軸方向の軌道面3aの内側面及び外側面には、シール溝3b,3cが深溝玉軸受1の回転軸と同軸の円環状にそれぞれ形成されている。シール溝3bには、後述するシール部材10の一方の端部13が取り付けられる。シール溝3cには、シール部材20の一方の端部13が取り付けられる。
【0022】
また、内輪2において、深溝玉軸受1の回転軸方向の軌道面2aの内側面及び外側面には、シール溝2b,2cが深溝玉軸受1の回転軸と同軸の円環状にそれぞれ形成されている。シール溝2bは、後述するシール部材10の他方の端部12が当接する摺動面2dを有する。シール溝2cは、シール部材20の他方の端部22が当接する摺動面2eを有する。摺動面2d,2eとしては、シール溝2b,2cの内側壁面が好ましい。また、内輪2及び外輪3の間には、各転動体4を保持する保持器5が設けられている。
そして、内輪2の内周面には軸部材60が嵌入されるとともに、回転ドラムの軸受支持部70に外輪3の外周面が嵌め込まれている。これにより、上記回転ドラムが深溝玉軸受1により回転可能に支持されている。
【0023】
摺動面2d,2eには、耐食性被膜30が形成されている。この耐食性被膜30は、防錆性を有する固体潤滑剤を摺動面2d,2eに対してショットブラストすることにより形成される。
この耐食性被膜30を構成する固体潤滑剤の種類は、防錆性を有していれば特に限定されるものではないが、例えば亜鉛及び錫を含むことが好ましい。亜鉛及び錫を含む耐食性被膜30は、亜鉛粒子をショットブラストした後に錫粒子をショットブラストすることにより形成することが好ましい。ただし、錫粒子をショットブラストした後に亜鉛粒子をショットブラストすることにより形成してもよいし、亜鉛粒子と錫粒子との混合物をショットブラストすることにより形成してもよい。
【0024】
この耐食性被膜30の厚さとしては、0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。厚さが0.1以上であれば、例えば、外輪3に対して内輪2が回転することによる耐食性被膜30の脱落が生じにくく、シーリング効果を維持しつつ、摺動面2d,2eの摩擦抵抗を軽減し、転がり軸受1のトルクの上昇を抑えることができる。一方、耐食性被膜30の厚さが0.1μm未満であると、摺動面2d,2eにおける十分且つ持続的な耐食性が得られないおそれがある。また、耐食性被膜30の厚さが5μm超であると、その厚さによって耐食性被膜30に当接するシール部材10,20の弾性力が低下し、十分なシール機能を維持することが困難となるおそれがある。そして、耐食性被膜30には、バニシ仕上げが施されることが更に好ましい。
【0025】
シール部材10は、円環状の芯材11にゴムや合成樹脂などの弾性材を被覆させてなり、芯材11のラジアル方向に延びて形成されている。シール部材10の一方の端部13は、外輪3に形成されたシール溝3bに取り付けられている。シール部材10の他方の端部12は、芯材11の弾性力によって、内輪2に形成されたシール溝2bを構成する摺動面2dに当接している。
【0026】
シール部材20もシール部材10と同様に、円環状の芯材21にゴムや合成樹脂などの弾性材を被覆させてなり、芯材21のラジアル方向に延びて形成されている。シール部材20の一方の端部23は、外輪3に形成されたシール溝3cに取り付けられている。シール部材20の他方の端部22は、芯材11の弾性力によって、内輪2に形成されたシール溝2cを構成する摺動面2eに当接している。
【0027】
シール部材10,20に用いられる弾性材の材料としては、導電性のゴムが好ましい。シール部材10,20の被覆材の材料として導電性のゴムを採用することにより、シール部材10,20と、内輪2及び外輪3とが複数の箇所で接触しているため、導通確保の信頼性を高いものとすることができる。
耐食性被膜30を形成するために、摺動面2d,2eに固体潤滑剤をショットピーニングする処理方法については、特開2002−139052号公報に記載がある。この処理方法は、固体潤滑剤をショットピーニングすることで、物理的衝突エネルギー(衝突熱)により母村表面(摺動面2d,2e)に耐食性被膜30を溶着する方法である。
【0028】
本実施形態の転がり軸受における防錆性能の評価は、重量変化により評価することができる。耐食性の評価方法としては、錆が発生した面積を目視で測定してもよいが、特開平8−327342号公報に記載された評価方法を用いることが好ましい。この評価方法は、金属の錆発生面では、正常面より鏡面反射光が少なく、乱反射光が多いことを利用して、両反射強度の比によって錆発生面を認識し、自動的に錆発生面積を求める方法である。なお、この評価方法では、測定の迅速化及び省力化を達成したとされているが、本実施形態では、錆発生度合いを面積ではなく、「錆発生量=被評価金属の重量増加量」と定義することにより、従来技術より具体的な数値で錆を定量化することを可能にした。また、評価する金属は定められた試験片である必要がなく、形状を問わず錆を評価することが可能である。さらに、重量測定のみで判断可能なので、特別な装置や準備が不要である。
【0029】
耐食性被膜30は、摺動面2d,2e以外、例えば、内輪2の内側面、及び外輪3の外側面、保持器5、シール部材10,20、又はその他の付属の部材に形成されてもよい。耐食性被膜30を形成する方法については、摺動面2d,2e上に耐食性被膜30を形成する前述の方法と同様である。特に、これら保持器5、又はその他の付属の部材が鋼製である場合は、前述と同様の防錆効果が期待できる。保持器5の表面に耐食性被膜を形成することにより、少なくとも転動体との摺動部分において潤滑と防錆の効果が期待できる。また、その他の付属の部材の表面に耐食性被膜を形成することにより、外部環境との接点があるため、水分と接触する状況下などでは防錆効果が期待できる。間座やセパレータも同様である。さらに、通常の転がり軸受では、軸受外面の防錆のために防錆油を塗布することがあるが、軸受外面に塗布された防錆油が高温に晒されると、上記と同様に不快臭を発したり、気化蒸発して軸受の周辺環境に悪影響を与えることも考えられる。特に、軸受の近傍に樹脂製部品がある場合はその可能性が大きくなる。本実施形態の転がり軸受であれば、軸受外面の防錆油の塗布を省くことも可能であるため、上記のような問題が生じにくい。
【0030】
また、本実施形態では、シール部材10,20の表面、及びシール部材10,20の周辺に位置する各部材の表面に、撥水性の被膜が形成されてもよい。また、耐食性被膜30上に撥水性の被膜が形成されてもよい。この撥水性の被膜の形成については、特開2002−339995号公報の段落〔0025〕〜〔0029〕に開示された技術を用いることが好ましい。
【0031】
また、近年では、インバータタイプの洗濯機が増加傾向であるため、インバータモータから発生する誘導電流によって引き起こされる電食の発生を軽減することを目的として、転動体4の材料をセラミックとしてもよい。
さらに、内輪2の内壁面や、外輪3の外壁面等の表面に、樹脂被膜や、セラミック容射層を形成してもよい。樹脂被膜の形成は、絶縁のみならず、転がり軸受1が発する振動をハウジングに伝達しにくくし、低振動化や、低騒音化に効果がある。
【0032】
(第2の実施形態)
図2は、本発明に係る転がり軸受の第2の実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。なお、本実施形態の説明においては、前述した第1の実施形態と重複する構成についての説明を省略する。
図2に示すように、本実施形態の転がり軸受1は、シール部材10の他方の端部12に、複数のリップ部12a,12bが形成されている。外側のリップ部12bは、上面の数箇所に溝が形成されている。そして、シール溝2bと、複数のリップ部12a,12bとにより領域Sが形成される。以下、シール部材20についても同様の構成であるため、その説明を省略する。
また、シール部材10には、一方の端部13とは別に分岐し、外輪3の側面部の一部を円環状に覆うように形成された鍔部14が形成される。そして、シール溝3bと、一方の端部13と、鍔部14とにより領域Sが形成される。鍔部14は、シール溝3bが形成されることによってできた外縁部3dを、一方の端部13と共に挟むように形成される。
【0033】
転がり軸受の密封剤として用いられる従来のシール部材は、転がり軸受の運転(回転)時において、転がり軸受の内部の温度が上昇し、外部との間に圧力差が生じることを軽減するために、シール部材を貫通する貫通孔を設けることがあった。しかし、この貫通孔は、転がり軸受の内部に水分や埃等を侵入させるおそれがある。また、洗濯機の支持用主軸に用いられる従来の転がり軸受は、非接触の金属シールド板を装着したSUJ2鋼等よりなる軸受が使用され、この軸受と洗濯槽との間にオイルシール等を装着して、軸受部分に水分がかからないように設計されている。そのため、本実施形態の転がり軸受1では、シール部材10の他方の端部12に形成された複数のリップ部12a,12bのうち、外側(シール部材10における固定輪(外輪3)側)のリップ部12bの上面(シール溝2bとの接触面)の数箇所に形成された溝が、他方の端部12が摺動面に当接した際に、この溝を通じて内圧を下げる効果を奏する。さらに、内側(シール部材10における回転輪(内輪2)側)のリップ部12aは、摺動面2d上に形成された耐食性被膜30に当接し、転がり軸受1の内部に水分が浸入することを防ぐ効果を奏する。
【0034】
また、摺動面2dに当接する他方の端部12が、複数のリップ部12a,12bを有することにより、軸受と洗濯槽との間にオイルシールを装着する必要がなくなり、装置の部品点数を減少させ、コストダウンを実現する効果を奏する。また、本実施形態の転がり軸受を用いることで、洗濯機の主軸を回転させるために必要なトルクも低減可能となるため、製品としての省エネルギーを促進する効果を奏する。
また、本実施形態の転がり軸受1は、洗濯機の主軸として、内輪2が回転輪として使用され、外輪3が固定輪として使用された場合に、鍔部14,24の形成によってシール溝3b,3cに水が浸入しにくくなり、更なる防水性を発揮する。
【0035】
なお、シール部材10には、複数のリップ部12a,12b、及び鍔部14の少なくともいずれか一方が形成されればよい。
リップ部12a,12bによって形成される円環状の溝部12cと耐食性被膜30とによって形成される領域S、及びシール部材10の一方の端部13と鍔部14とシール溝3bとによって形成される領域Sの少なくともいずれか一方には、高粘度の流体が封入されることが好ましい(図2参照)。
【0036】
領域S及び領域Sの少なくともいずれか一方に封入される高粘度の流体は、高粘度のグリースであることが好ましく、さらに、導電性の高いグリース、導電性の高い油、イオン性液体等であることがより好ましく、耐水性、耐熱性、及び低トルク性の少なくともいずれかを備えたグリースであれば特に好ましい。具体的には、ジウレアを増長剤とし、ポリ―α―オレフィンを基油とし、カーボンブラックを添加したグリースが挙げられる。グリースの混和ちょう度としては、200〜300が好ましい。また、基油の粘度としては、30〜500mm/s(40℃)が好ましい。
領域S及び領域Sの少なくともいずれか一方に封入される流体の量としては、領域S,Sの各容積の10〜70体積%とすることが好ましい。
【0037】
領域S及び領域Sの少なくともいずれか一方に封入される流体の量が、領域S,Sの各容積の70体積%超過であると、トルクが大きくなるおそれがあるとともに、流体の漏洩が多くなるおそれがある。一方、10体積%未満であると、大気環境下での使用においては潤滑性が低くなり転がり軸受の耐久性が不十分となるおそれがある。真空環境下又は油脂類を嫌う環境下では、流体の封入量は少ない方が好ましい。
このような流体を用いることにより、内輪2と外輪3との間の導電性確保のみならず、転がり軸受1の内部への水分の侵入の防止効果の向上、並びに、外輪3に対して内輪2を回転させたときのトルクの減少等の効果が得られる。
【0038】
(第3の実施形態)
上記実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受を挙げて説明したが、転がり軸受の種類は深溝玉軸受に限定されるものではなく、本発明は様々な種類の転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,自動調心ころ軸受,針状ころ軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。これらの中でも、アンギュラ玉軸受に適用することが好ましい。
【0039】
図3は、本発明に係る転がり軸受の第3の実施形態における構成を示す部分縦断面図である。なお、本実施形態の説明においても、前述した第1の実施形態と重複する構成についての説明を省略する。図3に示すように、本実施形態における転がり軸受は、転動体4の球面部と、内輪及び外輪のそれぞれの接触面との接触方向が、回転中心軸と直交する直交面に対して所定の接触角を有するアンギュラタイプの軸受である。
【0040】
本実施形態のように、転がり軸受の構造をアンギュラタイプとすることで、転がり軸受の内外径の幅寸法が同一であっても、転動体の数を増やすことが可能であり、転がり軸受の付加容量を増やせるので、大容量のドラムに適している。
また、転動体をセラミックとした場合、転がり軸受の構造をアンギュラとすれば、転動体1個あたりの負荷を減少できるため、転がり軸受の駆動の信頼性が向上する効果がある。特に、アルミナ−ジルコニア等の、いわゆる低コストセラミックの転動体の場合、転動体が増えてもコスト増は僅かなため、アンギュラ方式は有効な手段である。
【0041】
(第4の実施形態)
図4は、本発明に係る転がり軸受の第4の実施形態における構成を示す部分縦断面図である。なお、本実施形態の説明においても、前述した第1の実施形態と重複する構成についての説明を省略する。図4に示すように、転がり軸受1の外輪3の外周面に溝部3eを形成し、この溝部3eにOリング40を取り付けてもよい。また、図示はしないが、内輪3の内周面に形成した溝部にOリングを取り付けてもよい。転がり軸受1の外輪3の外周面及び内輪2の内周面の少なくともいずれか一方にOリングを取り付けることによって、クリープの防止のみならず、転がり軸受1と、回転ドラムの軸部材60や軸受支持部70
との間に隙間がある場合に、その隙間から外部へ出ようとする水分を止めることができる。なお、Oリング40が取り付けられる溝部3eに上記耐食性被膜30を施してもよい。
【0042】
(第5の実施形態)
図5は、本発明に係る転がり軸受の第5の実施形態における構成を示す部分縦断面図である。なお、本実施形態の説明においても、前述した第1の実施形態と重複する構成についての説明を省略する。図4に示すように、静止輪である外輪3の外側壁面上に肉厚部50を形成して、外輪3の側面において当接する領域が拡大されるように鍔部15を形成してもよい。また、外輪3の側面において、鍔部25が埋設される溝部3fを形成し、外輪3の側面と鍔部25の表面とが略面一になるように設置してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 転がり軸受
2 内輪
2a 軌道面
2b シール溝
2c シール溝
2d 摺動面
3 外輪
3a 軌道面
3b シール溝
3c シール溝
4 転動体
10 シール部材
12 他方の端部
12a 第1のリップ部
12b 第2のリップ部
13 一方の端部
14 鍔部
30 耐食性被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪又は前記外輪のいずれか静止輪側に形成された円環状のシール溝に一方の端部が固定され、前記外輪又は内輪のいずれか回転輪側に形成されたシール溝の摺動面に他方の端部が当接するシール部材とを備える転がり軸受において、亜鉛及び錫を含む耐食性被膜が前記摺動面に形成され、
前記シール部材の一方の端部が、静止輪側のシール溝を覆う鍔部を有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記シール部材の他方の端部が、円環状の溝部によって隔てられた複数のリップ部を有することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記耐食性被膜は、亜鉛粒子をショットブラストした後に錫粒子をショットブラストすることにより形成されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記耐食性被膜の亜鉛の含有量が、5質量%以上80質量%以下であり、錫の含有量が95質量%以下20質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記耐食性被膜の厚さが、0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
軸受の構造が、アンギュラ玉軸受であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−7492(P2013−7492A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−226277(P2012−226277)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【分割の表示】特願2009−33912(P2009−33912)の分割
【原出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】