説明

転炉スラグダストを使った舗装材料

【課題】製鋼産業において、転炉還元スラグは不安定な結晶構造を持ち、且つCaO/SiO2 比が高く、自己消化して崩壊し、粉末状となって排出され、大部分は産業廃棄物として処分されている。本発明は、これらスラグ粉末がCO2ガスによって徐々に硬化する気硬性組成物である点に着目して道路舗装材料として適する条件、或いは特徴を持つものを低コストで製造することを目的課題とするものである。
【解決手段】転炉還元スラグは水硬性はないが、CO2 と反応して硬化することは古くから知られている。しかし、反応速度が遅く、舗装材としては適さないことから組成物中に水溶性の炭酸塩類を原料として加え、加水分解によって反応するCO2 を利用して反応率を大幅に促進し舗装材料とし、従来のコンクリ−ト材料を超える物性を持つ材料として課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼用転炉の還元スラグを自然又は強制的に消化させて粉末状となったダストを主原料として成形体を造成するに当たり、組成内部において加水分解してCO2 成分を放出する水溶性炭酸塩を内蔵させ、短期間に硬化反応を促進させる舗装材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、気硬性を持つ転炉スラグダストにCO2 ガスを反応させて硬化体を造る技術は古くから知られ、1960年代にはドイツにおいて「Hutten Stein」 の名称で製造された。また、1980年代には転炉スラグダストを消石灰、砂などを混合した組成物を成形し、水蒸気と石炭燃焼ガスの雰囲気内で養生硬化させる技術がアメリカの特許139274号、137322号、147522号、149682号などで、多数知られている。
【0003】
また、国内では、転炉スラグダスト粉末をブロック体に成形した後、水蒸気で飽和させたCO2養生室で約12日間反応させた硬化体を海洋藻場形成材料とした例も最近発表されている(無機マテリアル学会学会誌2004年11月号)。
特許文献としては、特開2004−90585号は、粘土及びセメントを結合材として成形する硬化体の原料の一部分として転炉スラグダストを利用するものであり、気硬性硬化の特徴を利用したものではない。また、特開2004−9942ではポルトランドセメントによる水硬性組成物において、水酸化カルシウムの含有量を限定したものであり、気硬性硬化の特徴を利用したものでない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−9942号公報(要約)
【特許文献2】特開2004−90585号公報(要約)
【非特許文献1】無機マテリアル学会学会誌2004年11月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先ず本発明の課題の概要について説明する。本発明の目的、及び特徴とする硬化反応機構は、転炉スラグダストの物質的な特徴であるCO2による硬化反応であるが、更に舗装の目的や作用に応じて気硬性硬化と水硬性硬化反応を合わせて持った舗装が求められていることが課題の概要である。
そこで第1の課題は、背景技術で説明したように、舗装工事はCO2 で硬化作用を生ずることが出来ない為、組成物内において加水分解によって組成内でCO2を放出して初めて急速な強度の発現が出来るものであり、施工1日後の圧縮強度は10kg/cm2以上であり、4週後強度は少なくとも圧縮強度30kg/cm2(簡易舗装基準)が必要となる。
更に一般車道グレ−ドでは4週後曲げ強度50kg/cm2の物性を発現出来るものが求められる。
【0006】
次に第2の課題は、道路舗装工事は如何に早く通行可能であるかという条件が経済性の支配要因となり、初期強度の発現性が必要条件であると共に、屋外環境は気温、湿度、雨などによって変化し、気硬性硬化反応のみでは安定な品質が得られない為、セツコウ、セメントなどの水硬性硬化作用を持つ材料と共存させる必要がある。
【0007】
本発明の主原料である転炉スラグダストは以下表1に示すような平均化学成分を持つ。
【0008】
【表1】

【0009】
表1によれば、CaO/SiO2 比が極めて高く、主結晶相は2CaOSiO2 であるが、極めて結合の不安定なr2CaOSiO2 であり、産出後に大気中に放置すると湿気を吸って約10%以上膨張して消化即ちダステイングし、粉末状となるものである。これらの消化された粉末をX線回折すると、多量のCaO、Ca(OH)2と遊離SiO2 、CaFなどを含むものであった。
更に、これら原料の炭酸化による硬化反応は[背景技術]に示されるように成形体外表層よりCO2 ガスを強制的に浸透させて硬化させるものであるが、これらの反応は極めて遅く、表層部は硬化しても内部は未反応状態となり、体積膨張を起こして崩壊するようになることが最大の欠点となっている。
【0010】
本発明は、上記の従来技術が有していた欠点、問題点を解決しようとするものであり、その要点は、該成形体の内部から炭酸化反応を誘発させて強度の均質な硬化体を製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の課題を解決する手段として、該組成物中に加水分解によりCO2 を生成する水溶性炭酸塩としてコスト及び使用条件から炭酸ソ−ダ、重炭酸ソ−ダを選び、配合量も組成物全体の2〜5重量%の範囲を選んだ。また、成形体の中の反応は濃度の高い炭酸水による反応であり、成形水分の蒸発によってCO2 ガスを放散させないように成形体の見掛密度を1.5〜2.2g/mlの範囲とした。実験してみると原料単味を密度2.0/mlに圧縮成形したものに炭酸ソ−ダ5重量%を加えて同条件で成形したものを1日及び3日経過時曲げ強度を測定してみると約3倍から4倍の強度を発現した。更にこれらを水中に入れて観察すると単味品は崩壊したが炭酸ソ−ダ5%入りのものは崩壊しなかった。また初期強度の発現は炭酸ソ−ダ2%以下では不充分であり、5%を超えて加えたものは表面が白華した。以上によりこの手段が適切であることがわかった。
【0012】
上記第2の課題を解決する手段としては初期強度を炭酸化反応で高め、長期強度及び室外気象条件に対する安定な施工をする為に水硬性組成物としてエトリンガイト(3CaOAl2
O33CaSO432H2O )を選んだ。エトリンガイトの理論組成はCaO13.5%、CaSO432.5%、H2O:46%
から成り、H2O を除くとCaO:25%、Al2O3:15%、CaSO4:60% となる。転炉スラグダストはAl2
O3含有率が低いため、他の材料からAl2O3 成分を導入する。道路工事で発生する掘削残土はシルト質でAl2O3 を15%程度含むものであり、これらを整粒して使用出来るが、リサイクル資源として前記請求項4に示すような原料成分中でAl2O3 成分を10%以上含むものを選択して使用する。セツコウは廃セツコウボ−ドを処理した半水セツコウを使用して組成中のAl2O3 含有率を少なくとも5%以上に組成調整してエトリンガイトの生成含有量を30%以上にする。実験によれば、これらの組成物において炭酸ソ−ダを添加しないものでも強度の発現や施工条件への適用は充分であるが、成形体を水中へ入れておくと崩壊した。しかし、炭酸ソ−ダを2〜5%加えたものは崩壊しなかった。特にエトリンガイトの生成によって多量の結晶水を持った組成物中では分解生成したCO2は放散することなく有効に保たれ、長期的に炭酸化反応を持続させるものであり、約3ケ月経過後の曲げ強度は一般のコンクリ−ト強度を超える高強度のものであった。これにより、この手段も有効であることが明らかとなった。
【発明の効果】
【0013】
1)機能的な特徴としての効果
転炉ダストの炭酸化硬化反応は従来技術では成形体の外部から供給するCO2ガス養生法をとっていて10数日間の養生によっても反応率は20%にも達しない遅いものであるが、本発明では成形体内部に生成するCO2による反応であり、成形後大気中で1日経過したものは曲げ強度30kg/cm2 を示し、3日後強度は50kg/cm2 となり、一般車道用の道路舗装の規格をクリア出来るものでありこの硬化期間の短縮は従来の約10倍の効果があるものであった。なお、これら成形体の長期強度を推定する為、炭酸ガス養生室で7日間養生したものは曲げ強度90〜100kg/cm2 を示した。更に、これら硬化体の特徴は40〜50μmの均一な気孔が30〜40%含まれ、比表面積も約5m2
/gに達する微細気孔体であり、一般土壌のシルト土壌の物性に近く、有効な保水性と、適度の透水性を持つ、従来にない特徴を持ち、ヒ−トアイランド抑止効果も併有期待出来るものである。
2)経済的効果
転炉還元スラグダストは未だ充分な利用技術がなく、大部分は産業廃棄物として高額な費用を負担して処理されるものであり、かつ一般鉄鋼スラグ類のように硬い塊状のものでなく、粉末状で排出され、粉砕整粒にかかるコストも大幅に削減できる条件にある。炭酸化剤としての炭酸ソ−ダのコストを加算しても従来一般のコンクリ−ト舗装用の材料コストより30%以上低コストで使用出来ると共に、初期強度の発現は2倍以上早く、仕上がりコストは大幅にダウン出来るという絶大な効果を奏するものである。
3)環境に対する機能効果
前述したような保水性によるヒ−トアイランド抑止と共に大気中のCO2 を吸着するので、地球温暖化防止、かつ該舗装の長期的な強度を促進するという三重の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は道路舗装材料として施工工事現場において原料を秤量配合し、施工面に散布した後、振動転圧、必要によりロ−ラ−転圧を行って見掛け密度を1.5g/ml以上に施工するものであるが、転炉スラグダストは予め少なくとも500μm以下に粉砕し、炭酸塩を加えてプレミックス粉末として用意する。また、前記請求項4及び5のように水硬性組成物の場合もそれぞれの原料の粒度を調整して混合された粉末状として供給し、施工現場において必要な骨材成分を加えて組成物として施工する。
【実施例1】
【0015】
(材料)
転炉還元スラグダスト(粒度≦250μm)単味100%
重量比5%のNa2CO3
以上2種を混合したもの。
(混水量)
外掛け重量比16〜18%を加えて混合、混練。
(施工)
サイズ1000mm ×1000mm×深さ100mmの鋼製型枠に材料を200kg 用意し、振動転圧しながら全部充填して、施工体密度を2.0g/ml とし、1日後型枠を取り外した。
(強度の測定)
施工完了後24時間経過時、3日経過時、7日経過時、28日経過時に施工体からサンプルを切り出し、40mm×40mm×160 mmとして曲げ強度を測定した。
測定結果は表2の如くであった。
【0016】
【表2】

【0017】
以上のようにNa2CO3を5%添加したものは1日後強度で6倍、3日後強度で3倍と、初期強度の発現が極めて大きいものであり、本発明の効果を立証するものであった。また、一般車道舗装の規格強度である28日後強度45kg/cm2 を充分満足するものであった。
【実施例2】
【0018】
(材料)
転炉還元スラグダスト(粒度≦250μm) 60%
Na2 CO3 5%
半水セッコウ 25%
耐火煉瓦(ろう石煉瓦)粉 10%
(混水量)
外掛け重量比16〜18%を加えて混合、混練。
(施工)
サイズ1000mm ×1000mm×深さ100mmの鋼製型枠に材料を200kg 用意し、振動転圧しながら全部充填して、施工体密度を2.0g/ml とし、1日後型枠を取り外した。
(強度の測定)
施工完了後24時間経過時、3日経過時、7日経過時、28日経過時に施工体からサンプルを切り出し、40mm×40mm×160 mmとして曲げ強度を測定した。
測定結果は表3の如くであった。
【0019】
【表3】

【0020】
初期立ち上がりの強度は実施例1の場合より遅いが、施工後24時間で歩行可能な強度を発現し、施工工事回転率が早くなる。また、4週後は規格強度をコンクリ−ト舗装と同時に発現するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明はまず、従来大部分が産業廃棄物として埋め立て処分されている転炉還元スラグダストを利用して、舗装材料として現在の市場製品を超える高強度を持ち、且つヒ−トアイランド抑止効果のある舗装材を約30%以上の低コストで使用出来る、大きい経済的効果を持つ。その上に本発明品は現場施工後もCO 2 を吸着するので、地球温暖化防止にも貢献し得る。従って、本発明の産業上の利用の可能性は極めて大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状化した転炉スラグダストを50重量%以上含み主原料とし、必要により水硬性材料を20〜45重量%、更に必要に応じ、全体が100%となる前提で、Al2 O3 成分を10重量%以上含む無機質廃材30重量%を、副原料として用い、これに水溶性炭酸塩類を2〜5重量%添加し混合均一化した組成物に水を加えて見掛け密度を1.5〜2.2g/mlの範囲とし転圧圧縮成形して施工したことを特徴とする転炉スラグダストを使った舗装材料。
【請求項2】
前記水溶性炭酸塩が炭酸ソ−ダ及び/又は重炭酸ソ−ダである請求項1に記載の転炉スラグダストを使った舗装材料。
【請求項3】
前記粉状化した転炉スラグダストを45〜78重量%、水硬性セメント類を10〜20重量%、半水セッコウを10〜30重量%、水溶性炭酸塩を2〜5重量%の範囲に配合混合調整された組成物に水を加えて見掛け密度を1.5〜2.2g/mlに調整してあり、転圧圧縮成形して施工するものである請求項1又は2に記載の転炉スラグダストを使った舗装材料。
【請求項4】
前記、粉状化した転炉スラグダストを30〜72重量%,かつ、前記廃棄無機質材料で掘削残土、耐火煉瓦、屋根瓦、陶磁器質材料、高炉スラグ、石炭灰、砕石廃砂であって、Al2 O3 成分を10重量%以上含む材料のうち1種以上を10〜30重量%,半水セツコウ及び/又は水硬性セメントの1種以上を10〜40重量%,水溶性炭酸塩2〜5重量%との組成物に水を加えて、見掛け密度を1.5〜2.2g/mlの範囲に調整したものを転圧圧縮成形して施工するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の転炉スラアグダストを使った舗装材料。

【公開番号】特開2006−233576(P2006−233576A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49534(P2005−49534)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(505068664)
【出願人】(000129611)株式会社クレー・バーン技術研究所 (11)
【Fターム(参考)】