説明

転炉吹錬制御方法

【課題】転炉吹止め時における溶鋼中りん濃度の制御精度を高めることが可能な転炉吹錬制御方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、転炉吹錬時における排ガス成分及び排ガス流量を定期的に測定して、測定値を得る測定工程と、転炉吹錬の操業条件及び測定工程で得られた測定値に基づいて脱りん速度定数を推定する定数推定工程と、推定された脱りん速度定数を用いて、転炉吹錬中の溶鋼中りん濃度を逐次推定する濃度推定工程と、推定された溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下であるか否かを判断する濃度判断工程と、該濃度判断工程で、推定された溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度を超えていると判断された場合に、濃度推定工程で推定される溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下となるように、転炉吹錬の操業条件を変更する変更工程と、を有する、転炉吹錬制御方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉吹錬制御方法に関し、特に、溶鋼中りん濃度を制御する転炉吹錬制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉吹錬において吹止め時の溶鋼成分の制御、その中でも特に溶鋼中りん濃度の制御は、鋼の品質管理上非常に重要である。溶鋼中りん濃度の制御のために、吹込み酸素量、生石灰・スケール等の副原料投入量や投入タイミング、上吹きランス高さ、上吹き酸素流量、底吹きガス流量等が、一般に操作量として用いられている。これらの操作量は、目標りん濃度や溶銑情報、及び、過去の操業実績に基づいて作成された基準等、吹錬開始前に得られる情報で決定されることが多い。
【0003】
しかし、同じような操業条件でも実際の吹錬における脱りん挙動の再現性は低く、上記のような吹錬開始前に得られる情報のみに基づいて決定された操作量による吹錬では、吹止め時の溶鋼中りん濃度のばらつきが大きくなるという問題があった。
【0004】
上記問題に対応すべく、吹錬中に定周期で得られる排ガス成分や排ガス流量の測定値を活用した技術がこれまでに提案されている。例えば特許文献1には、吹錬中の排ガス組成や流量、酸素ガス流量、副原料投入量及び溶銑成分から酸素バランスを逐次計算することにより求められる蓄積酸素量に基づき、転炉内のFeO生成量を推定し、その推定したFeO量に応じて、上吹きランス高さ、酸素ガス流量及び底吹きガス流量のうち少なくともいずれか一つを調整して、処理後のりん濃度を低減する高炭素極低りん鋼の溶製方法が開示されている。また、特許文献2には、排ガスの分析値と排ガス流量から計算される脱炭酸素効率の実績値が、あらかじめ処理パターンごとに設定した目標変化曲線に追従するように、ランス高さ、送酸速度、底吹ガス種類と量のうちのいずれか1つもしくは2以上を調整する溶銑脱りん方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−206930号公報
【特許文献2】特開2010−13685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、上吹き酸素に関してはその流量調整方法の言及に留まっており、目標りん濃度を得るために必要な吹込み酸素量に関する記載がない。目標りん濃度を得るためには、上吹き酸素流量のみならず上吹き酸素量を適切に調整する必要があるため、特許文献1に開示されている技術によって、所定の溶鋼中りん濃度を得ることは困難と予想される。また、特許文献2に開示されている技術も特許文献1に開示されている技術と同様に、上吹き酸素の流量の調整方法については言及しているが、目標りん濃度を得るために必要な吹込み酸素量に関する記載がない。それゆえ、特許文献2に開示されている技術によって、所定の溶鋼中りん濃度を得ることは困難と予想される。
【0007】
また、特許文献1及び特許文献2では、操作量として、上吹きランス高さ、酸素ガス流量及び底吹きガス流量を取り上げているが、これらの操作量は、脱りん以外の吹錬特性(脱炭酸素効率、着熱効率、及び、スラグ滓化率等)に及ぼす影響が非常に大きい。そのため、これらの値を頻繁に変更することは、スロッピング等の異常時を除いて、一般に推奨されない。すなわち、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術には、転炉の操業安定化に対する配慮が不十分という問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、転炉吹止め時における溶鋼中りん濃度の制御精度を高めることが可能な転炉吹錬制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
吹錬中の溶鋼中りん濃度[P][%]の時間変化が下記式(1)の1次反応式で表されると仮定する。
【0010】
【数1】

ここで、[P]iniは溶鋼中りん濃度初期値(溶銑りん濃度)[%]であり、kは脱りん速度定数[s−1]である。
【0011】
正確な脱りん速度定数kが得られれば、吹止め時の溶鋼中りん濃度を高精度に推定することができる。但し、一般に、実際の吹錬における脱りん速度定数は一定ではなく、さまざまな操業要因の影響を受けて変動すると考えられる。そこで、本発明者らは、溶銑成分や溶銑温度のようなスタティックな情報だけでなく、定周期で測定した排ガス成分や排ガス流量の測定値のような吹錬中のダイナミックな情報を活用することにより、脱りん速度定数の推定精度の向上を試みた。以下に、溶鋼中りん濃度の推定方法、及び、脱りん速度定数の推定方法について説明する。
【0012】
はじめに、溶鋼中りん濃度の推定方法について説明する。
上記式(1)より、吹錬開始からt秒後における溶鋼中りん濃度は、下記式(2)で表される。
【0013】
【数2】

【0014】
過去の操業実績データを使って、チャージ毎の脱りん速度定数を求めることができる。あるチャージiの脱りん速度定数kは下記式(3)で表される。
【0015】
【数3】

ここで、[P]end,iは吹止め時の溶鋼中りん濃度[%]であり、tend,iは吹止め時点までの経過時間[s]である。
【0016】
過去の操業実績データを使って、上記式(3)から求めた脱りん速度定数の度数分布を、図1に示す。図1より、脱りん速度定数は、ばらつきが大きいことが分かる。本発明者らは鋭意研究の結果、上記式(3)にしたがって算出した脱りん速度定数kを目的変数、種々の操業要因(X)を説明変数とする、下記式(4)で表される回帰式を予め作成しておき、実際の吹錬時には、その時の操業要因を用いて下記式(4)から脱りん速度定数を推定し、これを上記式(2)に適用して溶鋼中りん濃度を推定する構成とすることにより、操業要因の変化に対応した溶鋼中りん濃度の推定が可能になることを知見した。操業要因の例を表1に示す。
【0017】
【数4】

ここで、α及びαは回帰係数であり、Xは操業要因である。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明者らは鋭意研究の結果、吹錬中の排ガス流量、排ガス成分、上底吹きガス流量、副原料投入量、及び、溶銑成分から酸素収支を計算して得られる炉内蓄積酸素量原単位O(算出方法は後述)が、脱りん速度定数kに大きく影響することを見出した。具体的には、炉内蓄積酸素量原単位Oが大きい場合には、脱りん速度定数kが大きくなる傾向が認められた。
【0020】
以下に示す脱りん反応を促進させるためには、スラグ中のCaO濃度及びスラグ中のFeO濃度を高める必要があるが、炉内蓄積酸素量がほぼ(FeO)に対応することからすると、上記の傾向は妥当なものと考えられる。
3(CaO)+5(FeO)+2[P]=(3CaO・P)+5[Fe]
ここで、( )はスラグ内を示し、[ ]は溶銑内を示す。
【0021】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするため、添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明は、少なくとも、転炉吹錬時における排ガス成分及び排ガス流量を定期的に測定して、測定値を得る測定工程(S2)と、転炉吹錬の操業条件(操業要因とも言う。以下において同じ。)及び測定工程で得られた測定値に基づいて、脱りん速度定数を推定する定数推定工程(S5)と、該定数推定工程で推定された脱りん速度定数を用いて、転炉吹錬中の溶鋼中りん濃度を逐次推定する濃度推定工程(S6)と、該濃度推定工程で推定された溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下であるか否かを判断する濃度判断工程(S7)と、該濃度判断工程で、推定された溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度を超えていると判断された場合に、濃度推定工程で推定される溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下となるように、転炉吹錬の操業条件を変更する変更工程(S8)と、を有することを特徴とする、転炉吹錬制御方法である。
【0023】
また、上記本発明において、測定値に、転炉吹錬中の溶鋼温度が含まれていても良い。
【0024】
また、上記本発明において、測定値に、転炉吹錬中の溶鋼温度及び溶鋼中炭素濃度が含まれていても良い。
【0025】
また、上記本発明において、測定値に、転炉吹錬中の溶鋼温度、溶鋼中炭素濃度、及び、スラグ中酸素濃度が含まれていても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、転炉吹止め時の溶鋼中りん濃度を高精度で推定することが可能になるので、転炉吹止め時における溶鋼中りん濃度の制御精度を高めることが可能な転炉吹錬制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】脱りん速度定数の度数分布を示す図である。
【図2】脱りん速度定数の推定結果を説明する図である。
【図3】吹止め時における溶鋼中りん濃度の推定結果を説明する図である。
【図4】本発明の転炉吹錬制御方法を説明するフロー図である。
【図5】本発明の転炉吹錬制御方法を実施可能なシステムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下の説明において、流量は、特に断らない限り、基準状態(0℃、101325Pa)における流量である。
【0029】
炉内蓄積酸素量原単位Oの算出方法を、以下に示す。炉内蓄積酸素量原単位Oは、生成したスラグ中のFeOに対応する。
【0030】
排ガス中のCO流量[m/h]、排ガス中のCO流量[m/h]、排ガス中のO流量[m/h]、及び、排ガス中のN流量[m/h]は、それぞれ、下記式(5)、(6)、(7)、(8)で表される。以下の式において、hCO、hCO2、及び、hO2は排ガス成分[%]であり、Qoffgasは排ガス流量[m/h]であり、i_delayは排ガス分析遅れ[−]である。
【0031】
【数5】

【0032】
【数6】

【0033】
【数7】

【0034】
【数8】

【0035】
また、炉内で発生したCO流量[m/h]、及び、炉内で発生したCO流量[m/h]は、以下の式で表される。
【0036】
【数9】

【0037】
【数10】

【0038】
炉内蓄積酸素変化量dO[m/s]は、次の式で表される。
【0039】
【数11】

ここで、上吹き酸素流量及び炉内へ投入された副原料に含まれる酸素流量の合計が炉内への入力酸素に相当する。また、炭素と結合し排ガスのCOやCOとして炉外へと排出される酸素流量が炉外への出力酸素に相当する。
【0040】
上記式(11)で表される炉内蓄積酸素変化量dOを用いて、炉内蓄積酸素量原単位O[m/ton]は、次の式で表される。
【0041】
【数12】

ここで、(%SiO)消費酸素は、SiO形成で消費される酸素量[m]であり、Wstは溶鋼重量[ton]である。調査検討の結果、炉内蓄積酸素量原単位Oを算出する際には、表1における溶銑[Mn]、溶銑[P]、及び、溶銑[Ti]を考慮する必要はなく、溶銑[Si]のみを考慮すれば十分であることを知見した。表1における溶銑[Si]は、式(12)における(%SiO)消費酸素を算出する際に使用する。
【0042】
以上説明した溶鋼中りん濃度の推定方法では、吹錬中のサブランスによる測定値は、必須の情報ではない。すなわち、吹錬開始後に、溶銑条件、副原料投入情報、及び、測定した排ガス情報を用いて、上記方法により炉内蓄積酸素量原単位を算出し、算出した炉内蓄積酸素量原単位、上吹きランス高さ、上吹き酸素流量、及び、底吹きガス流量等の操業要因の情報を、上記式(4)に代入することにより、脱りん速度定数を推定する。そして、推定した脱りん速度定数を上記式(2)へ代入し、推定する任意の時点における、吹錬開始からの経過時間の実績値を使って、溶鋼中りん濃度を逐次推定することができる。逐次推定の計算周期は、排ガス情報(排ガス流量計、排ガス分析計)のサンプリング周期(例えば、1〜10秒程度)と同じにすれば良い。
【0043】
上記式(4)の説明変数として、排ガス情報を活用して得られる炉内蓄積酸素量原単位、上吹きランス高さ、上吹き酸素流量、及び、底吹きガス流量等の吹錬中のダイナミックな情報を用いて推定した、脱りん速度定数kの結果を図2に示す。また、推定した脱りん速度定数kを上記式(2)へ代入して算出した、溶鋼中りん濃度の推定結果を図3に示す。図2に示したように、重決定R=0.61となり、上記式(4)を用いて推定した脱りん速度定数kと、脱りん速度定数kの実績値とは強く相関していた。すなわち、上記式(4)を用いることにより、脱りん速度定数を高精度に推定することができた。また、図3に示したように、推定した脱りん速度定数を上記式(2)へ代入することにより、溶鋼中りん濃度を高精度に推定することができた。
【0044】
次に、目標溶鋼中りん濃度を得るために必要な操作量の算出方法について、説明する。
【0045】
吹錬開始時点から現時点までの経過時間をt、現時点の操業条件から得られた脱りん速度定数の推定値をkとすると、この時の溶鋼中りん濃度の推定値[P]は、下記式(13)から得られる。
【0046】
【数13】

【0047】
吹錬終了予定時間がtであるとすると、吹止め時の溶鋼中りん濃度の予測値[P]は、下記式(14)から得られる。但し、下記式(14)では、現時点の脱りん速度定数kが現時点から吹錬終了時まで変わらないと仮定している。
【0048】
【数14】

【0049】
上記式(14)から得られる[P]が目標溶鋼中りん濃度[P]aimよりも小さければ、脱りん促進のためのアクション(操作量の変更)は特に必要ない。しかしながら、上記式(14)から得られる[P]が目標溶鋼中りん濃度[P]aimよりも大きい場合には、脱りん促進のための操作量の変更が必要になる。本発明では、必要な操作量の変更量を、下記表2に示した優先度にしたがって決定する。操作量の中で、ランス高さ、上吹き酸素流量、及び、底吹きガス流量は、脱りん以外の吹錬特性(脱炭酸素効率、着熱効率、スラグ滓化率等)に及ぼす影響が非常に大きいため、その優先度を最も低く設定する。また、吹込み酸素量の増加は容易な脱りん促進方法であるため、吹込み酸素量の優先度をスケール量や生石灰量よりも高く設定する。
【0050】
【表2】

【0051】
<優先度1の操作量>
上記式(14)から得られる[P]が目標溶鋼中りん濃度[P]aimよりも大きい場合は、まず、目標溶鋼中りん濃度[P]aimを満足するために必要な吹錬時間tを下記式(15)にて求める。
【0052】
【数15】

【0053】
そして、吹錬終了予定時間tからの超過時間Δt(=t−t)がある許容範囲内であれば、操作量として吹込み酸素量を選択し、超過時間Δt(=t−t)の間に吹込まれる酸素量を考慮して予定吹込酸素量を下記式(16)のように修正し、これに従って吹錬を行う。超過時間Δt(=t−t)の許容範囲は、例えば、処理後[C]の下限値を考慮することにより決定することができる。
【0054】
【数16】

ここで、ΔO2,aimは予定吹込酸素量[m]であり、右辺第1項は修正前の予定吹込酸素量[m]であり、O2,pは設定酸素流量[m/s](上吹き酸素流量[m/s])である。なお、吹錬終了予定時間t、及び、予定吹込酸素量ΔO2,aimは、酸素収支式と温度収支式とから構成される一般的な吹錬制御システムによって算出済みであるとする。
【0055】
<優先度2の操作量>
上記優先度1のアクションでも、溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度[P]aim以下にならないと予想される場合(例えば、上記超過時間Δt(=t−t)がある許容範囲を超過する場合)には、スケールや生石灰を追加投入して、脱りん速度定数自体を大きくすることにより、脱りん能を向上させて対応する。すなわち、吹錬時間tで溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度[P]aimになる脱りん速度定数kは、下記式(17)で表され、現時点の脱りん速度定数kをkにするために必要な追加スケール投入量ΔWscaleは下記式(18)で表される。得られた追加スケール投入量がある許容範囲内であれば、得られたスケール量を追加投入する。これに対し、得られた追加スケール投入量がある許容範囲外であるために、スケールを追加投入するのみでは上記kが得られない場合には、下記式(19)にて追加生石灰投入量ΔWCaOを求め、スケールを追加投入するとともに得られた追加生石灰量を投入する。追加スケール投入量の上限値は、例えば、スケール投入設備の投入能力によって決定することができ、追加生石灰投入量の上限値は、例えば、生石灰投入設備の投入能力によって決定することができる。なお、生石灰の追加投入よりもスケールの追加投入を優先するのは、スケールの方が脱りん促進の即効性が生石灰よりも高いからである。
【0056】
【数17】

【0057】
【数18】

【0058】
【数19】

ここで、αscaleは上記式(4)におけるスケールの回帰係数であり、αCaOは上記式(4)における生石灰の回帰係数である。
【0059】
<優先度3の操作量>
スケール及び生石灰を追加投入しても、溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下にならないと予想される場合(例えば、上記ΔWscale及び上記ΔWCaOが何れも許容範囲を超過する場合)には、脱りん速度定数自体を大きくするために、ランス高さ(メインランスの高さ)、上吹き酸素流量、及び、底吹きガス流量を適宜操作する。ランス高さ変更量Δlance[mm]は、下記式(20)から得られる。得られたランス高さ変更量がある許容範囲内であれば、ランス高さを変更する。これに対し、得られたランス高さ変更量がある許容範囲外であるために、ランス高さを変更するのみでは上記kが得られない場合には、ランス高さを変更するとともに上吹き酸素流量を操作する。上吹き酸素流量の変更量ΔFO[m/s]は、下記式(21)から得られる。得られた上吹き酸素流量の変更量がある許容範囲内であれば、ランス高さを変更するとともに上吹き酸素流量を変更する。これに対し、得られた上吹き酸素流量の変更量がある許容範囲外であるために、ランス高さ及び上吹き酸素流量を変更するのみでは上記kが得られない場合には、ランス高さ及び上吹き酸素流量を変更するとともに底吹きガス流量を操作する。底吹きガス流量の変更量ΔFbottom[m/s]は、下記式(22)から得られる。
【0060】
【数20】

【0061】
【数21】

【0062】
【数22】

ここで、αlanceは上記式(4)におけるランス高さの回帰係数であり、αFO2は上記式(4)における上吹き酸素流量の回帰係数であり、αFbottomは上記式(4)における底吹きガス流量の回帰係数である。
【0063】
次に、吹錬中にサブランスによる測定値が得られた場合における、溶鋼中りん濃度の推定方法を説明する。但し、吹錬開始からサブランス測定時点までの溶鋼中りん濃度は、上記の方法で逐次推定できているものとする。
【0064】
サブランス測定で溶鋼温度が測定される場合には、サブランス測定溶鋼温度を操業要因に含む形態の回帰式(上記式(4))を予め準備しておき、サブランス測定で溶鋼温度が得られたタイミング以降は、得られた溶鋼温度を上記式(4)へと代入して脱りん速度定数を推定し、上記式(13)を用いて溶鋼中りん濃度を推定する。
【0065】
一方、サブランス測定で、溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度が測定される場合には、サブランス測定溶鋼中炭素濃度及びサブランス測定溶鋼温度を操業要因に含む形態の回帰式(上記式(4))を予め準備しておく。そして、サブランス測定で溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度が得られたタイミング以降は、得られた溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度を上記式(4)へと代入して脱りん速度定数を推定し、上記式(13)を用いて溶鋼中りん濃度を推定する。
【0066】
他方、サブランス測定で、溶鋼中炭素濃度、溶鋼温度、及び、スラグ中酸素濃度が測定される場合には、サブランス測定溶鋼中炭素濃度、サブランス測定溶鋼温度、及び、サブランス測定スラグ中酸素濃度を操業要因に含む形態の回帰式(上記式(4))を予め準備しておき、サブランス測定により得られたスラグ中酸素濃度を用いて、下記式(23)から修正済み炉内蓄積酸素量原単位を求める。そして、サブランス測定で溶鋼中炭素濃度、溶鋼温度、及び、スラグ中酸素濃度が得られたタイミング以降は、得られた溶鋼中炭素濃度及びサブランス測定溶鋼温度と、修正済み炉内蓄積酸素量原単位とを上記式(4)へと代入して脱りん速度定数を推定し、上記式(13)を用いて溶鋼中りん濃度を推定する。
【0067】
【数23】

ここで、O’は修正済み炉内蓄積酸素量原単位[m/ton]であり、Oは炉内蓄積酸素量原単位[m/ton]であり、Oslagはスラグ中酸素濃度[%]であり、η及びηは回帰係数である。
【0068】
目標溶鋼中りん濃度を得るために必要な操作量の算出計算は、吹錬中のサブランスによる測定値を用いない場合と同じ手順で実施することができる。
【0069】
以上より、サブランス測定を実施しない場合も含めたさまざまなサブランス測定の形態に応じて、適切な回帰式(推定式)を適用することにより、溶鋼中りん濃度を高い精度で推定することが可能になるとともに、目標溶鋼中りん濃度を得るために必要な操作量を適切に算出することができる。それゆえ、推定した溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度を超える場合には、操作量を変更することにより、溶鋼中りん濃度を目標溶鋼中りん濃度以下へと高精度に制御することが可能になる。
【0070】
図4は、本発明の転炉吹錬制御方法を説明するフロー図である。図4に示したように、本発明の転炉吹錬制御方法は、入力工程(S1)と、測定工程(S2)と、炉内蓄積酸素量原単位算出工程(S3)と、操業要因特定工程(S4)と、定数推定工程(S5)と、濃度推定工程(S6)と、濃度判断工程(S7)と、変更工程(S8)と、吹錬判断工程(S9)と、を有している。
【0071】
入力工程(以下において、「S1」という。)は、チャージ毎の溶銑重量、溶銑成分(C、Si、Mn、P等)、溶銑温度、及び、溶銑率等の溶銑条件のデータ、吹錬開始から吹錬終了までの所要時間、上吹き酸素流量、底吹きガス流量、副原料(例えば、スケールや生石灰等)の投入量、並びに、目標溶鋼中りん濃度を、後述するシステムに入力する工程である。
【0072】
測定工程(以下において、「S2」という。)は、排ガス流量計を用いて排ガス流量を測定し、排ガス成分分析計を用いて排ガス成分を測定する工程である。
【0073】
炉内蓄積酸素量原単位算出工程(以下において、「S3」という。)は、上記S1で入力されたデータ、上記S2の測定結果、及び、上記式(5)〜(12)から、炉内蓄積酸素量原単位を算出する工程である。
【0074】
操業要因特定工程(以下において、「S4」という。)は、上記式(4)で用いられる操業要因を特定する工程である。サブランスによる測定結果を用いて脱りん速度定数を推定する場合には、S4で特定される操業要因に、溶鋼温度、又は、溶鋼中炭素濃度及び溶鋼温度、又は、溶鋼中炭素濃度、溶鋼温度、及び、スラグ中酸素濃度が含まれる。これに対し、サブランスによる測定結果を用いずに脱りん速度定数を推定する場合、S4で特定される操業要因には、溶鋼中炭素濃度、溶鋼温度、及び、スラグ中酸素濃度が含まれない。
【0075】
定数推定工程(以下において、「S5」という。)は、上記S3で算出された炉内蓄積酸素量原単位、及び、上記S4で操業要因が特定された上記式(4)を用いて、脱りん速度定数を推定する工程である。サブランスによるスラグ中酸素濃度の測定結果を用いて脱りん速度定数を推定するために、上記S4で特定された操業要因にスラグ中酸素濃度が含まれている場合、S5では、回帰係数、上記S3で算出された炉内蓄積酸素量原単位、及び、測定されたスラグ中酸素濃度の結果を上記式(23)に代入して修正済み炉内蓄積酸素量原単位を求める。そして、求めた修正済み炉内蓄積酸素量原単位を、上記式(4)に代入することにより、脱りん速度定数を推定する。
【0076】
濃度推定工程(以下において、「S6」という。)は、上記S1で入力された溶銑りん濃度[P]ini、上記S5で推定された脱りん速度定数、及び、吹錬開始時からの経過時間tを上記式(13)に代入し、溶鋼中りん濃度を推定する工程である。
【0077】
濃度判断工程(以下において、「S7」という。)は、上記S6で推定した溶鋼中りん濃度が、上記S1で入力された目標溶鋼中りん濃度以下であるか否かを判断する工程である。S7で肯定判断がなされた場合には、上記S6で推定した溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下であるため、操業要因の操作量を変更する必要がない。それゆえ、S7で肯定判断がなされた場合には、後述する変更工程を経ることなく、吹錬判断工程へと進む。これに対し、S7で否定判断がなされた場合には、上記S6で推定した溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度を超えており、現在の操業条件による吹錬を継続すると、吹錬終了時における溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度を超える可能性がある。それゆえ、S7で否定判断がなされた場合には、吹錬終了時における溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下となるように、引き続き、変更工程を行う。
【0078】
変更工程(以下において、「S8」という。)は、上記S7で否定判断がなされた場合に、操作量を変更する工程である。操作量の変更は、表2に記載した優先度順に行われる。操作量の変更量は、上記式(16)〜(22)によって算出することができる。S8で変更された操作量は、後述するシステムへと入力される。
【0079】
吹錬判断工程(以下において、「S9」という。)は、上記S7で肯定判断がなされた場合にはS7に続いて、上記S7で否定判断がなされた場合には上記S8に続いて行われる工程であり、吹錬中である否かを判断する工程である。S9で肯定判断がなされた場合には、上記S2へと戻って以下同様の処理が繰り返される。これに対し、S9で否定判断がなされた場合には、本発明の吹錬制御方法を終了する。
【0080】
以上の手順に従えば、吹錬開始時から吹錬終了時までの溶鋼中りん濃度を、排ガス情報を活用して高精度に推定可能であり、吹止め時の溶鋼中りん濃度を、目標溶鋼中りん濃度に精度良く的中させることができる。
【0081】
図5は、本発明の転炉吹錬制御方法を実施可能な転炉吹錬制御システム10を説明する図である。図5に示したように、転炉吹錬制御システム10は、溶銑データ1、目標データ2、パラメータ3、及び、排ガス情報データ編集部4から送られたデータを用いて溶鋼中りん濃度を推定する溶鋼中りん濃度推定部5と、操作量算出部6と、入出力部7とを有し、排ガス情報データ編集部4では、排ガス流量計8及び排ガス成分分析計9による測定結果が用いられる。
【0082】
より具体的には、溶銑データ1は、チャージ毎の溶銑重量、溶銑成分(C、Si、Mn、P等)、溶銑温度、溶銑率等の溶銑条件のデータであり、目標データ2は、チャージ毎の溶鋼目標成分(C、Si、Mn、P等)、溶鋼目標温度のデータである。また、パラメータ3では、上記式(4)の回帰係数や上記式(23)の回帰係数等が設定される。排ガス情報データ編集部4では、溶銑データ1と排ガス情報(排ガス流量及び排ガス成分)と上吹き酸素流量と副原料投入量とに基づいて、炉内蓄積酸素量原単位が算出される。
【0083】
溶鋼中りん濃度推定部5では、溶銑データ1、上吹き酸素流量、副原料投入量、パラメータ3で設定した回帰係数、及び、排ガス情報データ編集機能4で算出した炉内蓄積酸素量原単位、並びに、サブランス12による測定結果を用いる場合にはサブランス測定値を上記式(4)へと代入して脱りん速度定数が推定される。そして、推定した脱りん速度定数を用いて、上記式(13)に基づいて溶鋼中りん濃度が推定される。
【0084】
操作量算出部6では、目標データ2の目標溶鋼中りん濃度を満足するための各操作量の変更量が具体的に計算される。操作量算出部6において変更量が計算されると、吹込み酸素量を変更する場合には、メインランス11へと供給される酸素の供給ON/OFFを制御する部位へ、酸素の供給を止めるべき時間(変更後の時間)に関する情報が送られ、スケール量や生石灰量を変更する場合には、転炉へスケールや生石灰を投入する部位へ、投入すべきスケールや生石灰に関する情報(変更後の量に関する情報)が送られる。また、ランス高さを変更する場合には、メインランス11の高さを制御する部位へ、変更後のメインランス11の高さに関する情報が送られ、上吹き酸素流量を変更する場合には、メインランス11へと供給される酸素の流量を制御する部位へ、変更後の酸素流量に関する情報が送られ、底吹きガス流量を変更する場合には、転炉へと供給される底吹きガスの流量を制御する部位へ、変更後の底吹きガス流量に関する情報が送られる。
【0085】
また、入出力部7は、推定した溶鋼中りん濃度や計算した各操作量の変更量を表示する機能のほか、目標データ2及びパラメータ3の修正入力等のインターフェイス機能を有している。
【0086】
このように構成されるシステム10を用いて、本発明の転炉吹錬制御方法を実施することにより、転炉吹止め時における溶鋼中りん濃度の制御精度を高めることが可能になる。
【0087】
以上、現時点において実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う転炉吹錬制御方法も本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0088】
1…溶銑データ
2…目標データ
3…パラメータ
4…排ガス情報データ編集部
5…溶鋼中りん濃度推定部
6…操作量算出部
7…入出力部
8…排ガス流量計
9…排ガス成分分析計
10…転炉吹錬制御システム
11…メインランス
12…サブランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、転炉吹錬時における排ガス成分及び排ガス流量を定期的に測定して、測定値を得る測定工程と、
転炉吹錬の操業条件及び前記測定工程で得られた前記測定値に基づいて、脱りん速度定数を推定する定数推定工程と、
前記定数推定工程で推定された前記脱りん速度定数を用いて、前記転炉吹錬中の溶鋼中りん濃度を逐次推定する濃度推定工程と、
前記濃度推定工程で推定された前記溶鋼中りん濃度が目標溶鋼中りん濃度以下であるか否かを判断する濃度判断工程と、
前記濃度判断工程で、推定された前記溶鋼中りん濃度が前記目標溶鋼中りん濃度を超えていると判断された場合に、前記濃度推定工程で推定される前記溶鋼中りん濃度が前記目標溶鋼中りん濃度以下となるように、前記転炉吹錬の操業条件を変更する変更工程と、
を有することを特徴とする、転炉吹錬制御方法。
【請求項2】
前記測定値に、前記転炉吹錬中の溶鋼温度が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項3】
前記測定値に、前記転炉吹錬中の溶鋼温度及び溶鋼中炭素濃度が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項4】
前記測定値に、前記転炉吹錬中の溶鋼温度、溶鋼中炭素濃度、及び、スラグ中酸素濃度が含まれることを特徴とする、請求項1に記載の転炉吹錬制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−23696(P2013−23696A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156478(P2011−156478)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】