説明

軸内油圧供給構造

【課題】軸長を増加させること無くリテーナ内油路の長さ増加を抑制できる軸内油圧供給構造を提供する。
【解決手段】チェーン駆動のオイルポンプからの油圧を出力する油圧制御機構の出力油圧は、リテーナ内油路とステータシャフト内油路を介して入力軸内油路1a,1bに供給される。ステータシャフト11には第2ステータシャフト内油路13が設けられ、リテーナ3には第2ステータシャフト内油路13と連通する第2リテーナ内油路32が設けられる。第2リテーナ内油路32は、内側開口部13aに連通しステータシャフト側に屈曲する屈曲部32aと、屈曲部32aと油圧制御機構とを第2ステータシャフト内油路13と入力軸方向における同一位置で接続する直線部32bとで構成される。各開口部12a,13aは、対応するリテーナ内油路31,32と、入力軸を垂線とする同一平面上で接続される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧制御機構から出力される油圧を変速機の入力軸内に複数設けられた入力軸内油路に供給する軸内油圧供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の油路を有する変速機の入力軸と、エンジンから成る駆動源の回転により回転されると共に入力軸と同一軸線上に配置されたドライブスプロケットと、ドライブスプロケットの回転がチェーンを介して伝達されるドリブンスプロケットと、ドリブンスプロケットの回転により駆動されるオイルポンプと、オイルポンプから供給される油圧を調圧して出力する油圧制御機構(油圧回路)と、入力軸を回転自在に軸支するステータシャフトと、ステータシャフトを変速機ケースに固定するリテーナとを備え、ステータシャフトに設けられたステータシャフト内油路とリテーナに設けられたリテーナ内油路とを介して油圧制御機構が出力する油圧を入力軸内油路に供給する軸内油圧供給構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−42893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステータシャフトとリテーナとは、組付け性の観点から入力軸の軸線方向で対向し重なり合う部分を設け、この重なり合う部分で両者は連結されている。又、ステータシャフト内油路とリテーナ内油路とは、シール性の観点からステータシャフトとリテーナとが入力軸の軸線方向で重なり合う部分で接続されている。
【0005】
ところで、近年の自動変速機の多段化に伴い摩擦係合要素が増加し、摩擦係合要素に油圧を供給するための油路も増加している。ここで、チェーンを介して駆動されるオイルポンプを用いる場合、油圧制御機構とステータシャフト内油路とを接続するリテーナ内油路は、軸長の増加を防止すべく、チェーンが巻き回されるドライブスプロケットの径方向外方に設けることが望ましい。そして、油圧を摩擦係合要素に迅速に伝達するためには、リテーナ内油路の長さが短いことが望まれる。
【0006】
しかしながら、チェーン駆動タイプのオイルポンプを用いている場合には、チェーンが障害となるためチェーンの内側にはリテーナ内油路を形成できない。従って、リテーナ内油路はチェーンの外側に配置されることとなるが、油路の増加に伴いリテーナ内油路の長さが長くなってしまう。
【0007】
ステータシャフトの外周面にステータシャフト内油路の開口部を設けて、ステータシャフト内油路とリテーナ内油路とを入力軸上におけるステータシャフト内油路の径方向に延びる部分と同一位置で接続することも考えられるが、ステータシャフトの外周面での両油路の接続は、シール性の観点から困難である。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、軸長を増加させること無くリテーナ内油路の長さの増加を抑制できる軸内油圧供給構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、変速機の入力軸を回転自在に内挿するステータシャフトと、該ステータシャフトを変速機ケースに固定するリテーナと、オイルポンプから供給される油圧を調圧して出力する油圧制御機構と、前記入力軸と同軸上に配置されると共に駆動源により回転されるドライブスプロケットと、前記オイルポンプに設けられたドリブンスプロケットと、該ドライブスプロケットと該ドリブンスプロケットとに巻き回され該ドライブスプロケットの回転を該ドリブンスプロケットに伝達するチェーンとを備え、前記ステータシャフト内には、前記入力軸内に設けられた複数の入力軸内油路に夫々連通すると共に径方向に延びてドライブスプロケットの外周よりも径方向外方であって前記チェーンの外側に位置し駆動源側に開口する外側開口部を有する複数の第1ステータシャフト内油路が設けられ、前記リテーナ内には、前記複数の第1ステータシャフト内油路の外側開口部に夫々接続される複数の第1リテーナ内油路が設けられ、前記油圧制御機構から出力される油圧が、該第1リテーナ内油路、前記第1ステータシャフト内油路を介して、入力軸内油路へ供給される軸内油圧供給構造において、前記ステータシャフト内には、前記入力軸内に設けられた入力軸内油路に連通すると共に径方向に延びてドライブスプロケットの外周よりも径方向外方であって前記チェーンの内側に開口する内側開口部を有する第2ステータシャフト内油路が設けられ、前記リテーナ内には、該第2ステータシャフト内油路の内側開口部に接続される第2リテーナ内油路が設けられ、該第2リテーナ内油路は、前記チェーンを避けるように前記ステータシャフト側に屈曲され、前記第1と第2の2つのステータシャフト内油路の各開口部が、対応する前記第1と第2のリテーナ内油路と、前記入力軸を垂線とする同一平面上で接続されることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、第2リテーナ内油路と第2ステータシャフト内油路とを介して、油圧制御機構の出力油圧をチェーンの内側から入力軸内油路へ供給させることができる。従って、油路を設けられる領域が従来のものよりも広くなるため、設計自由度が向上され、油路を短くすることができる。
【0011】
又、第2リテーナ内油路は、第2ステータシャフト内油路の内側開口部に接続されると共に、チェーンを避けるようにステータシャフト側に屈曲され、入力軸上におけるステータシャフト内油路の径方向に延びる部分の径方向外方に位置される。換言すれば、第2リテーナ内油路は、入力軸上におけるチェーンと該チェーンに隣設されたステータシャフト内油路とが位置する領域内に収められている。このため、軸長の増加も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の軸内油圧供給構造の実施形態を示す説明図。
【図2】実施形態の軸内油圧供給構造の第1と第2の2つのリテーナ内油路を示す説明図。
【図3】実施形態の第1リテーナ内油路及び第1ステータシャフト内油路を示す断面図。
【図4】実施形態の第2リテーナ内油路及び第2ステータシャフト内油路を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の軸内油圧供給構造の実施形態を図1〜4に示す変速機を用いて説明する。図1及び図2は、変速機をエンジン側から示した図である。
【0014】
図3及び図4に示すように、実施形態の変速機は、入力軸1を回転自在に内挿するステータシャフト11と、ステータシャフト11を変速機ケース2に固定するリテーナ3と、流体トルクコンバータTCとを備える。流体トルクコンバータTCは、図示省略したエンジンから成る動力源の出力軸と共に回転するポンプインペラPiと、タービンランナTrと、ステータStとを備える。
【0015】
ポンプインペラPiには、ドライブスプロケット41がスプライン結合されている。ドライブスプロケット41は、ポンプインペラPiと共に回転する。オイルポンプOP(図1及び図2参照)にはドリブンスプロケット42が設けられている。ドライブスプロケット41とドリブンスプロケット42にはチェーン43が巻き回されている。駆動源の回転は、ポンプインペラPi、ドライブスプロケット41、チェーン43、ドリブンスプロケット42を介してオイルポンプOPに伝達され、オイルポンプOPが駆動される。又、オイルポンプOPの駆動により、油圧回路から成る油圧制御機構5(図1参照)から調圧された油圧が出力される。
【0016】
ステータシャフト11には入力軸1内に形成された第1入力軸内油路1aに連通する第1ステータシャフト内油路12が形成されている。又、リテーナ3には、油圧制御機構5から出力される油圧をステータシャフト内油路12に導く第1リテーナ内油路31が設けられている。
【0017】
ステータシャフト11とリテーナ3とは、組付け性の観点から、入力軸1の軸線方向で対向する重ね合わせ部分で連結される。又、第1ステータシャフト内油路12と第2リテーナ内油路31とは、シール性、組付け性の観点から重ね合わせ面で接続されている。
【0018】
ここで、チェーン駆動タイプのオイルポンプOPを用いる場合には、軸長の増加を防止すべく、第1リテーナ内油路31を入力軸方向においてチェーン43と同一位置に配置することが望まれる。
【0019】
しかしながら、この場合、チェーン43の内側には、チェーン43が邪魔となるため第1リテーナ内油路31を形成することはできない。従って、チェーン43の外側に第1リテーナ内油路31を設けることとなる。リテーナ内油路の数が少数であれば、第1リテーナ内油路31の長さを短く設計できるが、近年の自動変速機の多段化に伴い入力軸内油路が増加し、リテーナ内油路の数も増加している。
【0020】
従って、入力軸方向におけるチェーン43と同一位置に第1リテーナ内油路31を設ける場合、大きく迂回して第1ステータシャフト内油路12のチェーン43の外側で開口する外側開口部12aに連通させるように第1リテーナ内油路31を設計する必要があり、摩擦係合要素を迅速に制御できなくなる虞がある。
【0021】
本実施形態においては、ステータシャフト11に、ドライブスプロケット41の外周よりも径方向外側であってチェーン43の内側に開口する内側開口部13aを備え、入力軸1内に形成された第2入力軸内油路1bと連通する第2ステータシャフト内油路13を設けている。
【0022】
そして、この内側開口部13aに油圧制御機構5からの油圧を供給する油路として、内側開口部13aからステータシャフト11側に屈曲する屈曲部32aと、屈曲部32aと連通し入力軸方向における第2ステータシャフト内油路13の径方向に延びる部分と同一位置に配置された直線部32bとで構成される第2リテーナ内油路32をリテーナ3に設けている。
【0023】
このように構成することにより、第2リテーナ内油路32は、入力軸方向における第2ステータシャフト内油路13の径方向に延びる部分と同一位置に配置された直線部32bでチェーン43に接触することなくチェーン43の内側まで延び、屈曲部32aでチェーン43の内側に屈曲して内側開口部13aと接続するため、第2リテーナ内油路32により、入力軸方向におけるステータシャフト11のスペースを有効活用してチェーン43を避け、チェーン43の内側に設けられた内側開口部13aにも油圧を供給させることができる。
【0024】
これにより、チェーン43の外側だけでなく内側にもリテーナ内油路を設けることができるため、リテーナ内油路の数が増加してもリテーナ内油路の長さが増加することを抑制することができ、摩擦係合要素の制御性を向上させることができる。
【0025】
又、第2リテーナ内油路32の直線部32bは入力軸方向におけるステータシャフト内油路13と同一位置に配置され、第2リテーナ内油路32の屈曲部32aは入力軸方向におけるドライブスプロケット41と同一位置に配置されているため、軸長の増加を防止することができる。
【0026】
又、第2リテーナ内油路32と第2ステータシャフト内油路13とは、チェーン43の内側の部分で、入力軸方向におけるチェーン43と同一の位置に屈曲し、第2ステータシャフト内油路13の駆動源側の内側開口部13aと対向するように連通されているため、シール性及び組付け性を損うことなく製造することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…入力軸、1a…第1入力軸内油路、1b…第2入力軸内油路、11…ステータシャフト、12…第1ステータシャフト内油路、12a…外側開口部、13…第2ステータシャフト内油路、13a…内側開口部、2…変速機ケース、3…リテーナ、31…第1リテーナ内油路、32…第2リテーナ内油路、41…ドライブスプロケット、42…ドリブンスプロケット、43…チェーン、5…油圧制御機構、TC…流体トルクコンバータ、Pi…ポンプインペラ、Tr…タービンランナ、St…ステータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機の入力軸を回転自在に内挿するステータシャフトと、該ステータシャフトを変速機ケースに固定するリテーナと、オイルポンプから供給される油圧を調圧して出力する油圧制御機構と、前記入力軸と同軸上に配置されると共に駆動源により回転されるドライブスプロケットと、前記オイルポンプに設けられたドリブンスプロケットと、該ドライブスプロケットと該ドリブンスプロケットとに巻き回され該ドライブスプロケットの回転を該ドリブンスプロケットに伝達するチェーンとを備え、
前記ステータシャフト内には、前記入力軸内に設けられた複数の入力軸内油路に夫々連通すると共に径方向に延びてドライブスプロケットの外周よりも径方向外方であって前記チェーンの外側に位置し駆動源側に開口する外側開口部を有する複数の第1ステータシャフト内油路が設けられ、
前記リテーナ内には、前記複数の第1ステータシャフト内油路の外側開口部に夫々接続される複数の第1リテーナ内油路が設けられ、
前記油圧制御機構から出力される油圧が、該第1リテーナ内油路、前記第1ステータシャフト内油路を介して、入力軸内油路へ供給される軸内油圧供給構造において、
前記ステータシャフト内には、前記入力軸内に設けられた入力軸内油路に連通すると共に径方向に延びてドライブスプロケットの外周よりも径方向外方であって前記チェーンの内側に開口する内側開口部を有する第2ステータシャフト内油路が設けられ、
前記リテーナ内には、該第2ステータシャフト内油路の内側開口部に接続される第2リテーナ内油路が設けられ、
該第2リテーナ内油路は、前記チェーンを避けるように前記ステータシャフト側に屈曲され、前記第1と第2の2つのステータシャフト内油路の各開口部が、対応する前記第1と第2のリテーナ内油路と、前記入力軸を垂線とする同一平面上で接続されることを特徴とする軸内油圧供給構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−230151(P2010−230151A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81483(P2009−81483)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】