説明

軸受の潤滑剤を分析するための測定装置および方法

本発明は、軸受(2)の潤滑剤(1)を分析するための測定装置に関するものであり、測定装置は電磁放射の送信器(7)と、受信器(12)と、送信器(7)と受信器(12)の間に配置された試料領域(8)とを含んでいる。軸受の中にある潤滑剤の状態についての現在の情報を得ることを可能にするように上述した測定装置を構成するという課題は、本発明によると、試料領域(8)が少なくとも区域的に軸受(2)の内部(5)に配置されており、受信器(12)は試料領域(8)から受信される電磁放射のスペクトルを供給することによって解決される。さらに本発明は、軸受(2)ならびに軸受(2)のためのシール材を対象としており、および、軸受(2)の潤滑剤(1)の状態を検出して監視する方法を対象としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に転がり軸受または滑り軸受である軸受の潤滑剤を分析するための請求項1の前提部に記載された測定装置、請求項8に記載の軸受、軸受のための請求項11に記載のシール材、ならびに、特に転がり軸受または滑り軸受である軸受の潤滑剤の状態を検出して監視する請求項12に記載の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に転がり軸受または滑り軸受である軸受の潤滑剤の状態を、特に潤滑剤の化学的組成を、検出して監視することが実際の現場で知られている。潤滑剤の化学的組成の変化は、潤滑剤における経年劣化プロセスを示す指標となり、潤滑剤をいつ交換または補充しなければならないかを表している。
【0003】
ここで「潤滑剤」と呼ぶのは、本件出願の枠内においては、軸受で潤滑をするために使用され、摩擦や磨耗を低減させ、ケースによってはそれ以外の機能を果たす役目をすることができ、たとえば軸受コンポーネントの間の力伝達のため、軸受の冷却のため、腐食防止剤として、振動減衰のため、あるいは封止剤としての役目をすることができる潤滑剤である。
【0004】
潤滑剤に関してキャパシタンス測定を行うことが知られている。しかしその場合、層厚が測定結果に大きな影響を及ぼしてしまう。そのうえ測定結果が大きくばらつき、再現可能性が低いことが判明している。また、キャパシタンス測定は潤滑剤の化学的組成に関する指標を間接的に与えるにすぎず、たとえば、キャパシタンス測定の測定結果は、潤滑剤の中にある金属の導電性粒子によって影響をうける。
【0005】
さらに、潤滑剤の試料を軸受から採取して電磁放射により照射し、それによって試料のスペクトルを記録して分析することが知られている。特に、中赤外ないし近赤外(MIRないしNIR)のスペクトル領域における、軸受外部での潤滑油試料の赤外分光分析が知られている。測定は軸受の外部で行われ、すなわち、軸受内部の特別な物理的または化学的な周辺条件のもとで行われるわけではない。しかも試料採取は高いコストがかかり、特に、軸受がアクセスしにくい場合および/または試料採取のために軸受を静止させなくてはならない場合にはそうである。そのうえ、試料が採取される軸受内部の個所が、分光計の測定結果に影響を及ぼす。潤滑剤は、軸受の作動時に軸受内部空間のなかで分散する各成分の混合物だからである。また、軸受の内部で、潤滑剤が異なる個所で異なる程度に経年劣化することも問題となることが判明している。
【0006】
特許文献1は、支承部の動作状態を監視する装置を記載している。その場合、軸受の潤滑剤の現在の状態は、軸受のすぐ近傍に、軸受から外に出てくる潤滑剤を収容して分析する収容装置が設けられるようにして判定される。この分析は、軸受の潤滑剤に含まれている金属粒子の検証と、潤滑剤の温度の検出だけに限定されている。軸受内部における潤滑剤の化学的組成について情報を得ることは、意図されていない。
【0007】
特許文献2は、転がり軸受から潤滑剤、特に潤滑油の試料を採取する装置を記載している。その場合、転がり軸受の軸受リングに穴が穿設されており、この穴を通して潤滑油試料を採取することができる。この場合にも、潤滑剤の状態をただちに現場測定することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第3510408A1号明細書
【特許文献2】独国実用新案出願公開第9311938U1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、軸受の中にある潤滑剤の状態についての現在の情報を得ることを可能にする、冒頭に述べた種類の軸受のための測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は本発明により、請求項1の構成要件を備える冒頭に述べた測定装置について、請求項8に記載の軸受について、ないし請求項11に記載の軸受のためのシール材について解決され、また、請求項12に記載の軸受の潤滑剤の状態を検出して監視する方法を一例として実施することが可能になる。
【0011】
試料領域が軸受の内部に配置されているので、時間コストのかかる試料採取が不要となる。むしろ潤滑剤を現場で、すなわち軸受内部の物理的または化学的な条件のもとで、測定するという可能性が提供される。それにより、試料採取およびこれに続く分析ユニットへの搬送が行われる場合の測定結果の狂いがなくなる。
【0012】
軸受の作動中、軸受を継続して監視することができる。この監視は自動式に行うことができ、たとえば、検出されたスペクトルが所定の基準から外れていると、ただちにアラームが発せられる。
【0013】
試料から出る電磁放射のスペクトルの記録は、潤滑剤の化学的な状態についての情報を短時間のうちにもたらす。電磁放射は、潤滑剤そのものに影響を及ぼしたり変化させることがない。また、今日行われている試料採取とは異なり、潤滑剤の損失につながってこれを補充しなければならないこともない。スペクトル自体が、潤滑剤に含まれる粒子のような異物にほぼ左右されることのない、潤滑剤の組成に関する化学的な情報をもたらす。
【0014】
試料領域は軸受の内壁に沿って配置されており、特に、機械的な負荷をうけ、潤滑が必然的に必要である軸受の内壁の区域に沿って配置されることが意図されており、それによって軸受の機能性を可能にし、ないしは維持するのが好ましい。転がり軸受の場合、試料領域はたとえば両方の軸受リングのうちの一方で転動体の回転軌道に、または回転軌道のすぐ近傍に配置されるのが好都合である。他ならぬ転動体と軸受リングの間の接触ゾーンでこそ、潤滑が必要からである。試料領域の配置は、潤滑剤の実際の状態についての直接的な情報にとって決定的に重要である。これに加えて、潤滑剤がなくなっているという状況も認識することができ、少なくとも、潤滑剤が必要である個所に潤滑剤がない状況、もしくはなくなっている状況も認識することができる。
【0015】
試料領域では、送信器から発信される電磁放射の反射が行われ、特に全反射が行われることが意図されるのが好ましい。このとき反射スペクトル、たとえば拡散反射におけるスペクトル、ないし全反射におけるスペクトルは、潤滑剤の化学的組成についての情報をもたらす。スペクトルを記録するための測定原理としての反射ないし全反射は表面敏感性があり、検証されるべき潤滑剤が少量あるだけで確実に検出できるという利点がある。しかも、軸受の内部空間へ電磁放射が入るのを回避することが可能である。さらに、反射ないし全反射の場合には、送信器と受信器を互いに隣接して配置することが可能であり、それによって測定構造を小型に設計することができる。
【0016】
送信器、受信器、および試料領域はひとつの構造的ユニットにまとめられており、試料領域は軸受の内部との境界面を含んでおり、この境界面で反射または全反射が行われることが意図されるのが好ましい。構造的ユニットは簡単かつ迅速に取り付けることができ、ないしは軸受で取り替えることができる。構造的ユニットとの接触面は境界面によってのみ形成され、この境界面は、電磁放射の反射ないし全反射の機能に関して、ないしは幾何学的な設計に関して、ないしは境界面の材料に関して最適化することができる。
【0017】
受信器は赤外領域で、特に近赤外領域または中赤外領域で電磁放射を検出してスペクトル分析することが意図されるのが好ましい。それにより、測定装置は赤外分光計の形式で設計される。この場合、特に中赤外ないし近赤外における赤外放射は、潤滑剤の特徴的な赤外活性のある基の化学的性質についての正確な情報をもたらす潤滑剤の分子振動を励起するのが好ましいことが判明している。その一方で赤外放射は、紫外放射やX線放射とは異なり、潤滑剤の化学的組成に影響を与えない。さらに、赤外領域で、特に近赤外領域ないし中赤外領域で、多くの赤外透過性の物質が1よりも明らかに大きい屈折率を有しているのが好ましく、それにより、境界面で全反射が起こるときの視射角が大きくなりすぎない。特に、赤外放射は光学濃度の高い媒体へ入力結合することができ、それにより、光学濃度の低い媒体との境界面で、たとえば潤滑剤を備える転がり軸受の内部との境界面で、全反射が起こり、エバネッセント場が光学濃度の高い媒体から光学濃度の低い媒体に入り、すなわち潤滑剤に入り、それにより、試料スペースが軸受の内部に位置することになり、光学濃度の高い媒体は、特に窓のような形式で構成された光学濃度の高い媒体は、軸受の内部の範囲外に位置することになる。光学濃度の高い媒体だけでなく、測定装置のその他の部分も軸受の内部には達しないので、それらが軸受を作動時に妨げることがなく、それにもかかわらず、軸受の内部に達するエバネッセント場を通じて、軸受の内部における化学的状況の測定を可能にし、特に、潤滑剤の状態の化学分析を可能にする。
【0018】
受信器は、C−H振動の複合モードの領域で電磁放射を検出して分析することが意図されるのが特別に好ましい。この場合に考慮されている状況は、C−H振動、特にC−H伸縮振動は高い吸収係数を有しているために、該当する波長領域の少量ないし薄い層がすでにほぼ完全な吸収を引き起こすので、後置された受信器が利用可能な信号を受けられなくなるということである。その場合、特にスペクトルの評価については、たとえば個々の吸収ピークの位置や強度といったスペクトルのディテールも存在しなくなるので、情報は実質的にC−H結合そのものの検証だけに限定されざるを得ない。C−H複合モードの領域では、吸収係数がこれよりも明らかに低い。そこではスペクトルの詳細を認識することができ、場合により、吸収の強さから潤滑剤の層の厚さを推定することができる。ここで「複合モード」とは、狭義の複合モードならびに倍音振動を意味している。C−H伸縮振動については、たとえばC−H複合モードを約2000から約2450nmの領域で評価するのが適しており、または、上述した複合モードの第一高調波振動を約1350から約1450nmの領域で評価するのが適している。C−H伸縮振動の第一高調波振動の領域も、約1630から約1800nmの領域で評価することができ、同様に、C−H伸縮振動の第二高調波振動の領域を約1200nmの領域で評価することができる。前述した複合モード、複合モードの高調波振動、または第一高調波振動は、いずれも低い吸収係数という利点をもたらす。
【0019】
したがってC−H複合モードの領域は、軸受の潤滑剤の状態を、特に化学的組成を検出して監視するための方法にとって特別に適している。この方法は、1つの好ましい実施形態では、軸受についてC−H複合モードの領域を特定の時点で、たとえば軸受の使用開始前に、または軸受の動作中に継続的に検出してスペクトル分析することを意図している。それによってスペクトルが時系列をもたらし、その推移が潤滑剤の経年劣化と品質低下に呼応している。潤滑剤の化学的組成の変化が時系列で反映される。たとえば、時間的に連続して記録されたスペクトルを相互に関連づけ、ないしは、軸受の使用開始前に記録しておいたスペクトルと比較することが意図されていてよい。前述した方法は、たとえば上に説明した測定装置によって実施することができる。しかしながら当然、スペクトルがC−H複合モードの領域で検出、評価されるのでありさえすれば、軸受から潤滑剤の試料を採取し、これを軸受の外部で分光計によって調べることが意図されていても同様によい。
【0020】
測定装置の送信器は、小型に構成され、熱放出による損失をさほど有していないダイオード、特に赤外ダイオードを含んでいるのが好ましい。
【0021】
上述した測定装置は、軸受だけでなく、軸受のためのシール材にも配置することができる。軸受がたとえば転がり軸受として構成されている場合、測定装置は構造的ユニットとして、転がり軸受の軸受リングのうちの1つにある穴に収容されていてよい。
【0022】
本発明のその他の利点および構成要件は、本発明の実施例についての説明、ならびに添付の特許請求の範囲から明らかとなる。
【0023】
次に、添付の図面を参照しながら、1つの好ましい実施例を用いて本発明を詳しく説明、解説する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による測定装置の実施例を、本発明による軸受の実施例の一区域で模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、転がり軸受として構成された部分的に示す軸受の潤滑剤1の化学的組成を分析するための測定装置を示している。転がり軸受2は、区域的に図示している外輪3と、転がり軸受2の内部5に配置され、外輪3の内面にある回転軌道6で転動する転動体4とを含んでいる。潤滑剤1は、少なくとも部分的に、転動体4の回転軌道6の領域にある。
【0026】
測定装置は、赤外ダイオードとして構成された送信器7と、転がり軸受2の内部5との境界面9を形成する赤外透過性の窓10に接する試料領域8とを含んでいる。試料領域8の領域で、潤滑剤1は部分的に境界面9に当接している。境界面9は湾曲するように構成されており、境界面9の湾曲は、回転軌道6の領域における外輪3の内面の湾曲に呼応している。境界面9は、転がり軸受2の内壁の一区域である。潤滑剤1で覆われた、転がり軸受2の内部5のほうを向く境界面9の領域が、赤外放射で貫通される試料領域8を形成する。転動体4は回転軌道6から離れて境界面9へ、さらに再び回転軌道6へと移行し、その際に、この潤滑剤1が境界面9へと運ばれる。境界面9のところにある潤滑剤1は、境界面9における転動体4の強すぎる摩擦を防止するとともに、回転軌道6ないし境界面9の領域における摩擦係数の差異を補償する。
【0027】
窓10の外方を向いている側11には、2つが図示されている送信器7の出力部が結合されている。送信器7は、受信器12のまわりで環状に配置されている。さらに、受信器12に後置された信号処理のためのユニット13が示されている。信号処理は、特に、さまざまに異なるスペクトルが記録されたときの温度の電子補正を含むことができ、そのために、図示しない温度測定ユニットの信号が処理される。受信器12は近赤外および中赤外の領域で反応することができ、試料領域8にある潤滑剤9のスペクトルを供給するように設計されている。特に、上述したスペクトル領域はC−H振動の複合モードの領域を包摂している。
【0028】
送信器7、受信器12、および転がり軸受2の内部5の試料領域8に隣接する境界面9を含む窓11は、ひとつの構造的ユニット14を形成しており、この構造的ユニットは実質的にロッド状に構成されるとともに、外輪3の壁面にある穴の中に配置されており、それにより、境界面9が外輪3の内面と実質的に同一平面上に並ぶようになっており、それによって測定装置の試料領域8は、すなわち、分析されるべき試料を有している送信器7と受信器12の間の領域は、転がり軸受2の内部5に配置されており、特に、転がり軸受2の外輪3の内壁に沿って配置されている。
【0029】
本発明は次のように機能する:
送信器7は、中赤外および近赤外の成分も有している電磁放射を送信する。送信器7の出口は窓10の内面11に結合され、内面11と境界面9との間で往復するように反射される。このとき窓10の材料は、窓10の中にある放射が約45°の角度で境界面9に当たり、それによって全反射が生じるように選択されている。全反射の場合、放射は転がり軸受2の内部5に入るのではなく、潤滑剤の領域で、境界面9からの距離が増すにつれて指数的に減衰するエバネッセント場が形成される。エバネッセント場の領域では、すなわち、境界面9に直接後続する転がり軸受2の内部5の部分区域では、潤滑剤1のC−H結合によってエバネッセント場が部分的に吸収される。特に、エバネッセント場は転がり軸受2の内部の試料領域8をかすめて通過する。したがって、窓10の外方を向いている側11で受信器12により受信される場は、試料領域8で吸収された値だけ弱まっている。
【0030】
受信器12は放射を分光分析する。このときC−H伸縮振動の領域では、スペクトルに関わる詳細を認識させないほぼ完全な吸収が生じている。C−H複合モードの領域では、潤滑剤1の化学的組成の推定を可能にする個々の吸収線を認識することができる。受信器12は、特に、試料領域8を貫通する放射のスペクトルを複合モードの領域で判定し、特にC−H伸縮振動の第二高調波の領域で、すなわち近赤外領域(800から2500nmの波長領域;中赤外は2500から50000nmの波長領域に相当)の約1200nmの波長で判定する。
【0031】
さまざまに異なる時点でスペクトルが受信器12によって記録されれば、潤滑剤1の経年劣化を分光的に追跡し、転がり軸受2の内部5における潤滑剤1の状態を監視することができる。複合モードも含めたC−H振動の特徴的な吸収線の強度を援用したうえで、十分な潤滑剤1が存在しているかどうか判定することができ、さらには、潤滑剤1の化学的組成がどのようであるかを判定することができる。スペクトルの比較によって、たとえば基準スペクトルとの照合によって、スペクトルに関する変化を知ることができ、そうした変化は、潤滑剤1が使い尽くされる時点について、ないしは、化学的組成が変わって遅くとも取り替えなくてはならない時点について、情報を得ることを可能にする。
【0032】
上に説明した実施例では、窓10の境界面9は湾曲するように構成されていたのに対して、外方を向いている窓10の側11は平坦に構成されていた。当然ながら、境界面9も同じく平坦に構成されて、外方を向いている窓10の側11と平行になっていてもよく、それにより、窓10の中での赤外放射の反射は2つの平面平行な面9,11の間で行われることになる。このような種類の面9,11の構成は、典型的なATRジオメトリーに相当している。ここで「ATR」(attenuated total reflection)とは、光学濃度の高い材料に放射が入力結合され、この放射が光学濃度の高い材料中で、光学濃度の低い材料との境界面のあいだで全反射される試料構成を有する、減衰全反射に基づく測定原理を意味しており、この場合、全反射が行われるたびに、光学濃度の低い材料の領域で境界面のところにある試料が測定される。このとき、両方の平面平行な面9,11を備える窓10は、転動体4の回転軌道に配置されていてよく、または、転動体4の回転軌道の横に並んで配置されていてよく、後者の構成は、転動体4が窓10へ機械的に負荷をかけることがないという利点をもたらし、それと同時に、側方で窓10に向かって押し出される潤滑剤によって、潤滑剤を化学的に分析するという可能性を提供する。
【0033】
上に説明した実施例では湾曲した境界面9は、実質的に、当接する外輪3の内面とともに終わっている。当然ながら境界面は、外輪または内輪の接する面に対して間隔を有することもでき、それによって潤滑剤を中に溜めることができる凹部が生じることになり、この凹部の中にある潤滑剤を、この場合には平坦な境界面9を有している窓10のところで、化学的に分析することができる。凹部は転動体4の回転軌道に配置されていてよく、または、好ましくは転動体4の回転軌道の横に並んで配置されていてよく、このとき転動体4は潤滑剤を絶えず凹部の中へと運ぶ。その場合、試料領域8は凹部の中に位置しており、すなわち転がり軸受2の内部5に位置している。
【0034】
上に説明した実施例では、送信器7、受信器12、および境界面9を含む窓10から構成される構造的ユニット14は、外輪3の本体にある穴の中で定置に配置されていた。当然ながら構造的ユニット14が、ないし境界面9を含む窓10だけが、穴の中で変位可能なように配置されていてもよく、たとえば、ユニット14ないし窓10の上で転動体4が回転するたびに、その回転が転動体を穴の中で軸受2の内部5から離れるように押圧し、それに対してユニット14は、たとえばばね手段によって、軸受2の内部5に向かう方向へ初期応力をかけられるようになっていてよい。
【0035】
上に説明した構成はATR測定を可能にするばかりでなく、同じく拡散式の反射測定も可能にする。その場合、送信器7は窓10を通じて試料領域8を照射し、試料領域では拡散反射のときに潤滑油での吸収が起こる。反射された放射は受信器12に集められ、特に、受信器12に直接向かい合っている試料スペース8の領域が評価される。受信器12には、反射された放射を集めて評価ユニットに集束させる光学系が設けられていてよい。
【0036】
以上、転がり軸受2に構造的に統合された測定装置を取り上げて、本発明について説明してきた。当然ながら、この測定装置は同じく滑り軸受またはピボット軸受のために設けられていてもよい。
【0037】
同じく当然ながら、測定装置は軸受のシール材に組み込まれていてもよい。そのために、送信器ないし受信器がシール材の本体に取り付けられていることが意図されていてよい。特に、送信器、受信器、および境界面を含む窓からなる構造的ユニットを全体としてシール材の本体へ統合することが意図されていてよく、それにより、試料領域が軸受の内部5に配置される。その別案として、前述した構造的ユニットを軸受の内部でシール材の近傍に設け、場合によりシール材に固定して設けることが意図されていてよい。さらに、上述した両方の構成の別案として、送信器および受信器からなるユニットをシール材の外部に設けるとともに、光を伝達する接続部をシール材の本体に設けることが意図されていてよく、それにより、送信器の放射が、光を伝達する接続部によって軸受の内部5の試料領域へ伝えられ、軸受の内部5から、光を伝達する接続部によって受信器へと伝えられ、そこでスペクトルの化学分析が行われる。このとき、上述したユニットはシール材に取付可能であり、ただしこのユニットはシール材の外部に配置されているので、シール材の具体的な構成に左右されることはなく、また、さまざまな種類のシール材に適している。シール材へのユニットの取付部は、たとえば必要に応じて軸受のシール材に取り付けられるクリップとして、取外し可能に構成することができる。光を伝達する接続部は光導波路を含むことができ、その外方を向く接続部へ、上述したユニットが差込モジュールのような形式で取外し可能なように差込可能である。さらに当然ながら、シール材における送信器および受信器の配置の上述した選択肢を組み合わせることもでき、たとえば、送信器がシール材の内側に配置され、受信器がシール材の外側に配置されるようにすることができ、または、送信器がシール材の本体に固定されているが、受信器は交換可能にシール材に取り付けられるようにすることができ、これは特に、受信器によってさまざまに異なるスペクトル領域を分析することができるケースに備えてである。
【0038】
さらに、試料スペース8と送信器7の間に光導波路が配置されることが意図されていてよい。その場合、1つないし複数の送信器7は軸受の外部に設けられていてよい。同様に、試料スペース8と受信器12の間に光導波路が設けられていてよい。その場合、試料スペース8は、送信器7に付属する光導波路の出力部と、受信器12に付属する光導波路の入力部との間に設けられた、軸受の内部5の領域によって形成される。
【0039】
さらに当然ながら、C−H振動ばかりでなくこれ以外のモード、たとえば水または一般にO−H基のモードや、添加剤の官能基のモードも検出して分析することができる。
【0040】
以上において「複合モード」に関連して述べているところでは、当然ながら、「複合モード」という用語は直接的な意味における複合モードのほか、基本振動であれ複合モードであれ倍音振動も含んでいるものとする。
【符号の説明】
【0041】
1 潤滑剤
2 転がり軸受
3 外輪
4 転動体
5 転がり軸受2の内部
6 回転軌道
7 送信器
8 試料領域
9 境界面
10 窓
11 窓10の外方を向いている側
12 受信器
13 信号処理のためのユニット
14 構造的ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受(2)の潤滑剤(1)を分析するための測定装置であって、前記測定装置は電磁放射の送信器(7)と、受信器(12)と、前記送信器(7)と前記受信器(12)の間に配置された試料領域(8)とを含んでいる、そのような測定装置において、前記試料領域(8)は少なくとも区域的に前記軸受(2)の内部(5)に配置されており、前記受信器(12)は前記試料領域(8)から受信される電磁放射のスペクトルを供給することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記試料領域(8)は前記軸受(2)の内壁に沿って配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記試料領域(8)では、または前記試料領域の近傍では、前記送信器(7)から発信される電磁放射の反射が行われ、特に全反射が行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記送信器(7)、前記受信器(12)、および前記試料領域(8)との境界面(9)はひとつの構造的ユニット(14)にまとめられており、前記試料領域(8)は前記軸受の内部(5)に前記境界面(9)を含んでおり、この境界面で反射または全反射が行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記受信器(12)は赤外領域で、特に近赤外領域または中赤外領域で、電磁放射を検出してスペクトル分析することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記受信器(12)はC−H振動の複合モードの領域で電磁放射を検出して分析することを特徴とする、請求項5に記載の測定装置。
【請求項7】
前記送信器(7)はダイオードであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項8】
前記送信器(7)と前記試料領域(8)の間に光を伝達する接続部を有していることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項9】
前記試料領域(8)と前記受信器(12)の間に光を伝達する接続部を有していることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項10】
光を伝達する前記接続部は光導波路を含んでいることを特徴とする、請求項8または9に記載の測定装置。
【請求項11】
軸受(2)、特に転がり軸受または滑り軸受において、前記軸受の潤滑剤を分析するための測定装置を含んでいる、そのような軸受において、前記測定装置は請求項1から7のいずれか一項に基づいて構成されていることを特徴とする軸受。
【請求項12】
前記軸受は軸受リング(3)を含んでおり、前記測定装置の少なくとも前記試料領域(8)は前記軸受リング(3)に沿って、または隣接して配置されていることを特徴とする、請求項11に記載の軸受。
【請求項13】
前記軸受(2)は軸受シール材を含んでおり、前記測定装置の少なくとも前記試料領域(8)は前記軸受シール材に配置されていることを特徴とする、請求項11に記載の軸受。
【請求項14】
軸受のための、特に転がり軸受または滑り軸受のためのシール材であって、前記軸受の潤滑剤を分析するための測定装置を含んでいる、そのようなシール材において、前記測定装置は請求項1から10のいずれか一項に基づいて構成されていることを特徴とするシール材。
【請求項15】
前記送信器および/または前記受信器は前記シール材の本体に取り付けられている、請求項14に記載のシール材。
【請求項16】
前記シール材の本体には前記試料領域を前記送信器および/または前記受信器と接続する光を伝達する接続部が設けられている、請求項14または15に記載のシール材。
【請求項17】
軸受の、特に転がり軸受または滑り軸受の潤滑剤の状態を検出して監視する方法において、
潤滑剤の試料に電磁放射を照射するステップと、
照射された試料のスペクトルをスペクトルの近赤外領域または中赤外領域におけるC−H複合モードの領域で検出するステップとを有していることを特徴とする方法。
【請求項18】
照射された試料のスペクトルは軸受の使用開始前および/または作動中にさまざまに異なる時点で検出され、C−H複合モードの領域でスペクトルの変化が判定される、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−538280(P2010−538280A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523270(P2010−523270)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国際出願番号】PCT/DE2008/001432
【国際公開番号】WO2009/030202
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(510068035)シェフラー テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany
【出願人】(501479868)カール・フロイデンベルク・カーゲー (73)
【氏名又は名称原語表記】Carl Freudenberg KG
【住所又は居所原語表記】Hoehnerweg 2−4, D−69469 Weinheim, Germany
【Fターム(参考)】