説明

軸受用潤滑剤、軸受、およびディスク駆動装置

【課題】広い温度範囲での使用が可能になる等、軸受のさらなる性能向上を図ることができる技術を提供する。
【解決手段】軸受用潤滑剤は、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオールと、1種類以上の炭素数5から12のカルボン酸とからなる下記式(1)で表されるエステル化合物を含み、40℃における動粘度が7〜15mPaで、かつ流動点が−60℃以下である基油を含有する。


(式中、R、Rは、炭素数4から11の炭化水素基を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用潤滑剤およびそれを使用した軸受、および当該軸受を備えたディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータや携帯記録機器等の電子機器における小型化、および低消費電力化は年々進歩している。また、これらの電子機器の使用可能な温度範囲も年々拡大している。それに伴い、これらの電子機器に用いられる高速回転型小型記録媒体、例えば磁気ディスクを用いたディスク駆動装置等には、流体動圧軸受、含浸軸受等を搭載したスピンドルモータが使用されるようになった。これらの電子機器の小型化、低消費電力化や使用可能温度範囲の拡大は、モータの性能向上によるものが大きい。
【0003】
このような状況において、近年ますます電子機器の高速処理、小型化、低消費電力化、長期寿命化、あるいは使用可能温度範囲の拡大への要求が増えている。また一方で、ディスク駆動装置を搭載する機器の用途をモバイル機器等へ拡大するニーズがあり、モータやその搭載機器がより過酷な環境下での使用に耐え得ることや、長寿命であることが求められるようになっている。すなわち、モータやその搭載機器の使用可能温度範囲の拡大と、長寿命であることの両立が強く求められている。
【0004】
モータやその搭載機器の性能向上を実現する手段の一つとしては、モータに搭載された流体動圧軸受等の軸受の性能を高めることがあり、軸受の性能向上を図るために種々の軸受用潤滑剤が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2006−83321号公報
【特許文献2】国際公開第2004/018595号パンフレット
【特許文献2】特開2008−7741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受の性能を向上させるためには、用いられる軸受用潤滑剤の蒸発損失を低減して軸受用潤滑剤の長寿命化を図ることが考えられる。一般的に、軸受用潤滑剤の蒸発損失を低減するためには、軸受用潤滑剤に含まれる基油の分子量を大きくする必要がある。しかしながら、基油の分子量を大きくすると、軸受用潤滑剤の粘度が増大し、軸受でのエネルギー損失が大きくなって消費電力量が増大してしまう。逆に、軸受用潤滑剤の粘度を小さくして軸受でのエネルギー損失を低減するために、基油の分子量を小さくすると、軸受用潤滑剤の蒸発損失が増大してしまう。また、流体動圧軸受の寿命は、内部に保持している軸受用潤滑剤の量に依存するため、軸受用潤滑剤の蒸発損失の増大は、流体動圧軸受の寿命を大幅に短縮してしまう。
【0006】
さらに、流体動圧軸受を備えたディスク駆動装置は、極めて高精度に組み立てられている。したがって、ディスク駆動装置の内部に搭載された軸受の改修は不可能に近い。そのため、軸受が寿命に至ったディスク駆動装置は、軸受以外の部材が十分に使用に耐え得る場合であっても、廃棄して新しいディスク駆動装置に交換しなければならない。このように、寿命に達した軸受一点のために他の部材までも破棄しなければならない状況は、環境資源の問題等の点から望ましくない。
【0007】
また、流体動圧軸受の剛性(以下、適宜軸受剛性という場合がある)は、軸受用潤滑剤の粘度に依存する。そのため、基油の分子量を小さくすると、軸受用潤滑剤の粘度は低下するが、一方で、高温環境下で軸受剛性が極端に低下してしまうという問題があった。特に、慣性と質量の大きな磁気ディスク等を備えたディスク駆動装置では、振動や衝撃等の加速度を受けるとシャフトに大きな応力が加わるため、軸受剛性が低下すると容易にシャフトと軸受との間の金属接触が生じてしまい、その結果、ディスク駆動装置の機能不全が生じてしまう。
【0008】
一方で、基油の分子量を大きくすると、軸受用潤滑剤の粘度が増大して軸受剛性が低温環境下で不必要に増大してしまうという問題があった。特に、上述の磁気ディスク等を備えたディスク駆動装置では、起動に際して大きな駆動電流を流すことになるため、低温環境下での負荷の増大によって消費電流の増大を招き、電池駆動機器等では使用期間が極端に短くなってしまう。
【0009】
このような問題のため、現状では、屋外で使用されるモバイル機器のように、広範な温度範囲で使用される可能性があるモバイル機器へのディスク駆動装置の搭載が制限されていた。
【0010】
また、軸受の性能を向上させるために、用いられる軸受用潤滑剤の流動性を広い温度範囲で確保することが考えられる。上述のような電子機器の高性能化の要望に応じるためには、例えば、流動点が−60℃以下の軸受用潤滑剤が求められると予想される。
【0011】
本発明は、発明者によるこうした認識に基づいてなされたものであり、その目的は、軸受のさらなる性能向上を図ることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は軸受用潤滑剤に関する。この軸受用潤滑剤は、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオールと、1種類以上の炭素数5から12のカルボン酸とからなる下記式(1)で表されるエステル化合物を含み、40℃における動粘度が7〜15mPaで、かつ流動点が−60℃以下である基油を含有することを特徴とする。
【化1】

(式中、R、Rは、炭素数4から11の炭化水素基を表す)
【0013】
この態様によると、軸受のさらなる性能向上を図ることができる。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システム等の間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軸受のさらなる性能向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0017】
(実施形態)
本実施形態に係る軸受用潤滑剤は、流体動圧軸受等の軸受に好適に用いられるものである。以下、本実施形態の軸受用潤滑剤の組成について詳述する。
【0018】
本実施形態に係る軸受用潤滑剤は、下記式(1)で表されるエステル化合物を含む基油を含有する。
【0019】
【化1】

(式中、R、Rは、炭素数4から11の炭化水素基を表す)
【0020】
すなわち、基油は、ジオールとしての2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオールと、1種類以上の炭素数5から12のカルボン酸とからなる脂肪酸ジオールエステルを主体とするものである。なお、基油は、脂肪酸ジオールエステルのみからなるものであってもよい。式(1)において、上述のカルボン酸に由来するR、Rは、炭素数4から11の炭化水素基であり、その炭素数は、好ましくは7から10であり、より好ましくは7または8である。この炭化水素基は、飽和または不飽和であり、また直鎖、分岐または環状構造を含む脂肪族炭化水素である。R、Rは、同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
ここで、炭化水素基R、Rが分岐鎖である場合には、一般に軸受用潤滑剤の流動点を下げることができるが、粘度が増大してしまう場合がある。一方、炭化水素基R、Rが直鎖である場合には、一般に粘度は増大しないが、流動点を下げることが難しい。これに対し、特に、炭素数が8または9の直鎖飽和脂肪族カルボン酸を用いることで、軸受用潤滑剤の粘度を増大させることなく、より好適に流動点を下げることができる。したがって、上述のエステル化合物を構成するカルボン酸は、炭素数8または9の直鎖飽和脂肪族カルボン酸であることが好ましく、さらには、炭素数9の直鎖飽和脂肪族カルボン酸であることが好ましい。一般に、カルボン酸の炭素数が減るにつれて、動粘度の低下と蒸発損失の増大が生じ、カルボン酸の炭素数が増えるにつれて、動粘度の増大と蒸発損失の減少が生じる。
【0022】
エステル化合物のジオールは、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオールである。1,3−プロパンジオールの2位の炭素にメチル基とエチル基が結合しており、そのためエステル化合物が鏡像異性体を含み得る。これにより、軸受用潤滑剤の流動点を下げることができる。また、軸受用潤滑剤の凝固点も下げることができる。なお、2位の炭素にメチル基とエチル基が結合した構造(以下、エチルメチルという場合がある)の場合には、2位の炭素にプロピル基とメチル基が結合した構造(以下、プロピルメチルという場合がある)の場合と比べて軸受用潤滑剤の粘度指数が相対的に高い状態で流動点を下げることができる。一方、2位の炭素に二つのメチル基が結合した構造(以下、ジメチルという場合がある)の場合は、粘度指数はエチルメチルと同程度、すなわちプロピルメチルと比べて相対的に高いが、流動点が高くなってしまう。また、プロピルメチルの場合は、流動点を下げることができるが、粘度指数がエチルメチルおよびジメチルと比べて低くなってしまう。
【0023】
基油は、40℃における動粘度が5〜20mPa、好ましくは7〜15mPaである。基油が上述のような動粘度を有することで、流体動圧軸受等の軸受に好適に用いられる。もしくは、式(1)で表される脂肪酸ジオールエステルの40℃における動粘度が、5〜20mPa、好ましくは7〜15mPaであり得る。また、基油は、流動点が−40℃以下、好ましくは−60℃以下であり、そのため低温条件下においても軸受が回転体を回転可能に支持することができる。
【0024】
本実施形態に係る軸受用潤滑剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびヒンダードアミン系酸化防止剤の少なくとも1つを含む酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は、例えば、軸受用潤滑剤の全重量に対して0.05重量%以上、10.0重量%以下となるように軸受用潤滑剤に包含される。例えば、酸化防止剤は、軸受用潤滑剤の全重量に対して0.1重量%以上となるように軸受用潤滑剤に包含される。
【0025】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のジフェノール系、または、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ構造を3つ以上有するフェノール系の酸化防止剤等が挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は単独で使用しても、2種類以上組み合わせて使用してもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、好ましくは、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ構造を3つ以上有するフェノール系酸化防止剤であり、好ましくは軸受用潤滑剤の全重量に対して0〜10.0重量%の範囲となるように軸受用潤滑剤に包含される。
【0026】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えばジアルキル化ジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、または、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等が挙げられる。これらのアミン系酸化防止剤は単独で使用しても、2種類以上組み合わせて使用してもよい。ヒンダードアミン系酸化防止剤は、好ましくはジオクチルジフェニルアミン、または、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンであり、好ましくは軸受用潤滑剤の全重量に対して0〜10.0重量%の範囲となるように軸受用潤滑剤に包含される。
【0027】
また、本実施形態に係る軸受用潤滑剤は、リン酸エステル類および亜リン酸エステル類の少なくとも1つを包含してもよい。本実施形態において、リン酸エステル類および亜リン酸エステル類は、摩耗調整剤として添加される。
【0028】
摩耗調整剤としてのリン酸エステル類、すなわちリン酸エステル系磨耗調整剤としては、例えばトリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート等のリン酸トリアルキルエステル類、あるいはトリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリスノニルフェニルフォスフェート等のトリアリルフォスフェート類等が挙げられる。これらのリン酸エステル系磨耗調整剤は、好ましくは軸受用潤滑剤の全重量に対して0.01〜5.0重量%の範囲となるように軸受用潤滑剤に包含される。
【0029】
摩耗調整剤としての亜リン酸エステル類、すなわち亜リン酸エステル系磨耗調整剤としては、トリブチルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト等のアルコキシド亜リン酸エステル類、トリフェニルフォスファイト、トリ(オクチルフェニル)フォスファイト等のフェノキシド型亜リン酸エステル類、または、これらの亜リン酸エステル類の複合型等が挙げられる。これらの亜リン酸エステル系磨耗調整剤は、好ましくは軸受用潤滑剤の全重量に対して0.01〜5重量%の範囲となるように軸受用潤滑剤に包含される。
【0030】
また、本実施形態に係る軸受用潤滑剤は、リン系極圧添加剤を包含してもよい。
【0031】
また、本実施形態に係る軸受用潤滑剤において、基油は、式(1)で表されるエステル化合物を軸受用潤滑剤の全重量に対して40重量%以上含むと共に、動粘度が5mPa以上のポリα−オレフィンを含むものであってもよい。
【0032】
また、基油は、式(1)で表されるエステル化合物を軸受用潤滑剤の全重量に対して40重量%以上含むと共に、動粘度が6mPa以上のジエステル類を含むものであってもよい。
【0033】
さらに、基油は、式(1)で表されるエステル化合物を軸受用潤滑剤の全重量に対して40重量%以上含むと共に、動粘度が6mPa以上のトリメチロールプロパン系エステル類を含むものであってもよい。
【0034】
本実施形態に係る軸受用潤滑剤は、回転体を回転可能に支持する軸受に好適に用いられる。本実施形態に係る軸受用潤滑剤を軸受に用いた場合には、回転体と軸受との間の抵抗をより長期間、またより低温の環境下において小さくすることができる。
【0035】
以上説明した本実施形態に係る軸受用潤滑剤の作用効果を総括すると、本実施形態に係る軸受用潤滑剤は、2−エチル−2−メチルプロパンジオールと、1種類以上の炭素数5から12のカルボン酸とからなる上記式(1)で表されるエステル化合物を含み、40℃における動粘度が7〜15mPaで、かつ流動点が−60℃以下である基油を含有する。これにより、低粘度かつ低揮発性の軸受用潤滑剤を得ることができ、軸受用潤滑剤の蒸発損失を低減すると共に、軸受用潤滑剤の粘度の増大を抑えることができる。また、流動点が低く、かつ粘度変化も非常に小さい軸受用潤滑剤をえることができる。その結果、軸受におけるエネルギー損失を長期間にわたって抑えることができる。また、低温環境下においても軸受が安定的に回転体を回転可能に支持することができる。その結果、この軸受けを搭載したモータ、さらにはこのモータを搭載した電子機器の低消費電力化、長期寿命化、および使用可能温度範囲の拡大が可能となる。
【0036】
例えば、本実施形態に係る軸受用潤滑剤を使用した流体動圧軸受をディスク駆動装置に搭載した場合、当該ディスク駆動装置は、軸受用潤滑剤の蒸発損失が改善されることで長期間の使用に耐えることができるようになる。そのため、ディスク駆動装置の交換の頻度が低下し、軸受一点のために軸受以外の多くの部材を廃棄しなければならないという事態を減らすことができる。その結果、限りある資源の無駄な消費を減らすことができる。
【0037】
一方で、軸受用潤滑剤の流動点をより低温にしたことで、低温環境下で軸受剛性が不必要に増大することがなくなるため、負荷の増大等による消費電流の増大を防止できる。そのため、ディスク駆動装置を搭載した機器が電池駆動タイプの場合であっても、当該機器の使用時間を延長することができる。その結果、屋外で使用するモバイル機器等に対してディスク駆動装置を好適に搭載できるようになる。
【0038】
例えば、本発明によれば、ハードディスク駆動装置やこれに適用可能なスピンドルモータ、ポリゴンミラースキャナモータ等の高性能化を図ることができる。
【0039】
また、カルボン酸が炭素数8または9の直鎖飽和脂肪族カルボン酸である場合には、軸受用潤滑剤の粘度を増大させることなく、より好適に流動点を下げることができる。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびヒンダードアミン系酸化防止剤の少なくとも1つを含む酸化防止剤を含有することで、軸受用潤滑剤の酸化を防止して、軸受用潤滑剤のさらなる長寿命化を図ることができる。酸化防止剤が、軸受用潤滑剤の全重量に対して0.05重量%以上、10.0重量%以下となるように包含する場合には、軸受用潤滑剤の低粘度、低揮発性、低流動点等の特性に与える影響を抑えることができる。さらに、リン酸エステル類および亜リン酸エステル類の少なくとも1つを包含する場合には、軸受および回転体の摩耗による損傷を低減することができ、軸受の長寿命化を図ることができる。
【0040】
(軸受およびディスク駆動装置の構成)
続いて、本実施形態に係る軸受用潤滑剤を使用可能な軸受と、当該軸受を備えたディスク駆動装置の構成について説明する。図1は実施形態1に係るディスク駆動装置の構成を示す概略断面図である。以下、説明にあたって便宜上図に示された下方を下、上方を上と表現する。
【0041】
ハードディスクを駆動するディスク駆動装置50は、固定体と、ラジアル流体動圧軸受と、スラスト流体動圧軸受と、回転体と、を備えている。回転体の回転数は、例えば5400回/分である。
【0042】
固定体は、ベース部材5と、このベース部材5に設けられた円筒部5aの外周面に固着されたステータコア6と、円筒部5aの内周面に固着された環状のハウジング部材15と、このハウジング部材15の内周面に固着され円筒部内周面10aを有する環状のシャフト収納部材10と、を含んで構成されている。
【0043】
ステータコア6は、外方向に突出する複数の突極(図示せず)にコイル7が巻回されている。シャフト収納部材10は、円筒部内周面10aを有しシャフトを収納する円筒部10bと、この円筒部10bの一方の端部側に結合され、円筒部10bの外側に延在するフランジ部10cとを有している。ハウジング部材15は、シャフト収納部材10を内周に勘合する円筒部と、円筒部の一方の端部を密閉する底部と、円筒部の他方の端に設けられアキシャル方向(軸方向)の面を有する上端面部とを含み、略カップ状をしている。
【0044】
回転体は、略カップ状のハブ2と、このハブ2の中心孔2aに固着されたシャフト13と、リング状マグネット8と、スラスト部材12と、を含んで構成されている。ハブ2は、中心孔2aと同心で径の小さな第1円筒部2cと、第1円筒部2cの外側に配設された第2円筒部2bと、第2円筒部2bの下端に外延するハブ外延部2dとを有してなり、第1円筒部2cの内周面にスラスト部材12が固着され、第2円筒部2bの内周面にリング状マグネット8が固着されている。
【0045】
シャフト13の上端部には、段部13aが設けてあり、シャフト13の段部13aよりも下側の径は、ハブ2の中心孔2aの径よりもよりもわずかに大きく、段部13aよりも上側の径は、中心孔2aの径と略同一となっている。シャフト13とハブ2とは、シャフト13がハブ2の中心孔2aに圧入され、シャフト13の段部13aより上側の部分の外周面が中心孔2aの内周面と当接し、段部13aが中心孔2aの下端部においてハブ2と係合することにより、両者が連結される。
【0046】
スラスト部材12は、スラスト上面12aとスラスト下面12bとを有し、アキシャル方向に薄い円盤部12cと、円盤部12cの外周側下面において結合され、アキシャル方向に長い下垂部12dとを有している。下垂部12dの内周面は、その先端に向かって半径が小さくなるテーパー状であり、ハウジング部材15の外周面とともに、毛細管現象により動圧軸受の間隙に充填された潤滑剤が外部に漏出するのを防止するキャピラリーシール部を構成している。
【0047】
スラスト部材12の円盤部12cは、シャフト収納部材10のフランジ部10cの下面とハウジング部材15の上端面の間にそれぞれ狭い隙間を介して配置され、下垂部12dの外周は、ハブ2の第1円筒部2cの内周面に固着されている。そして、スラスト上面12aとスラスト下面12bの両面にスラスト動圧溝(図示せず)が設けられ、これによりスラスト流体動圧軸受が形成されている。
【0048】
ラジアル流体動圧軸受は、シャフト13と、シャフト13を収納して回転自在に支持するシャフト収納部材10と、シャフト収納部材10の円筒部内周面10aにアキシャル方向に離隔して配設されたヘリングボーン状の第1及び第2ラジアル動圧溝(図示せず)と、第1及び第2ラジアル動圧溝の中間部に配設した円周状凹部10dと、シャフト13の外周面とシャフト収納部材10の円筒部内周面10aの間隙に充填された軸受用潤滑剤と、を含んで構成されている。
【0049】
本実施形態では、シャフト収納部材10を銅系材料で形成し、前述した流体動圧軸受を用いて、円筒部10bの内径を約2.5mmとし、動圧溝を設ける箇所の円筒部10bの肉厚を約0.6mmとした。また、所定の加工方法を用いて、円筒部内周面10aに深さ約5μmの動圧溝を形成することにより、ヘリングボーン形状の動圧溝を設けた。回転体は、ラジアル流体動圧軸受とスラスト流体動圧軸受とにより回転自在に支持され、ステータコア6とリング状マグネット8の電磁的作用により回転駆動される。
【0050】
さらに、ハブ2の外周には磁気ディスク(図示せず)が載置され、リード/ライト手段(図示せず)によりデータの記録・読み出しがなされる。
【0051】
従来の軸受用潤滑剤および本実施形態に係る軸受用潤滑剤の40℃における動粘度を約9.5cstに調整した場合に、従来の軸受用潤滑剤を用いたディスク駆動装置では、低温の0℃における駆動電流が210mAであったが、本実施形態に係る軸受用潤滑剤を用いたディスク駆動装置では、同条件で150mAとなる電流低減効果を奏した。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0053】
(軸受用潤滑剤)
(実施例1、2、および比較例1、2)
下記表1に記載の成分に従って、実施例1、2に係る基油を作成した。実施例1の基油は、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール ジオクチルエステルであり、実施例2の基油は2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール ジノニルエステルである。また、比較例1としてジオールエステル(DOE)を、比較例2としてネオペンチルグリコール(NPG)(2,2−ジメチルプロパンジオール)を用意した。
【0054】
【表1】

【0055】
(粘度測定、蒸発試験、流動点測定)
粘度測定は、回転粘度計を用いて測定した。測定温度は一般的に使用される40℃とした。蒸発試験は、ガラスビーカに実施例1、2、比較例1、2の各組成物を入れ、このガラスビーカを100℃強制滞留式恒温槽中で240時間放置し、その後の重量変化を蒸発損失として重量%にて算出した。また、蒸発試験後の各組成物について上述の粘度測定を実施し、蒸発試験前後での粘度変化率を測定した。流動点は、JIS K2269に準拠した方法により測定した。
【0056】
その結果、実施例1、2の基油は、比較例1と比べて低粘度であると共に、蒸発量、粘度変化率、流動点において高い性状を有していることが分かった。また、実施例1、2の基油は、比較例2と比べて非常に低い粘度変化率を有していることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施形態1に係るディスク駆動装置の構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0058】
2 ハブ、 2a 中心孔、 2b 第2円筒部、 2c 第1円筒部、 2d ハブ外延部、 5 ベース部材、 5a 円筒部、 6 ステータコア、 7 コイル、 8 リング状マグネット、 10 シャフト収納部材、 10a 円筒部内周面、 10b 円筒部、 10c フランジ部、 10d 円周状凹部、 12 スラスト部材、 12a スラスト上面、 12b スラスト下面、 12c 円盤部、 12d 下垂部、 13 シャフト、 13a 段部、 15 ハウジング部材、 50 ディスク駆動装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオールと、1種類以上の炭素数5から12のカルボン酸とからなる下記式(1)で表されるエステル化合物を含み、40℃における動粘度が7〜15mPaで、かつ流動点が−60℃以下である基油を含有することを特徴とする軸受用潤滑剤。
【化1】

(式中、R、Rは、炭素数4から11の炭化水素基を表す)
【請求項2】
前記カルボン酸が炭素数8または9の直鎖飽和脂肪族カルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載の軸受用潤滑剤。
【請求項3】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびヒンダードアミン系酸化防止剤の少なくとも1つを含む酸化防止剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の軸受用潤滑剤。
【請求項4】
前記酸化防止剤を、軸受用潤滑剤の全重量に対して0.05重量%以上、10.0重量%以下となるように包含することを特徴とする請求項3に記載の軸受用潤滑剤。
【請求項5】
リン酸エステル類および亜リン酸エステル類の少なくとも1つを包含することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の軸受用潤滑剤。
【請求項6】
回転体を回転自在に支持する軸受であって、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の軸受用潤滑剤が用いられたことを特徴とする軸受。
【請求項7】
請求項6に記載した軸受を備えたことを特徴とするディスク駆動装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−138316(P2010−138316A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317062(P2008−317062)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(508100033)アルファナテクノロジー株式会社 (100)
【出願人】(501358002)株式会社バルビス (6)
【Fターム(参考)】