軸受装置
【課題】 歪の検出感度を大きくし、軸受にかかる予圧を感度良く測定することができる軸受装置を提供する。
【解決手段】 間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材7を設け、この起歪部材7は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部11caを設けた起歪体部11と、この起歪体部11の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部10であって各起歪部11caに荷重を印加する荷重負荷体部10とを有する。
【解決手段】 間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材7を設け、この起歪部材7は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部11caを設けた起歪体部11と、この起歪体部11の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部10であって各起歪部11caに荷重を印加する荷重負荷体部10とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械の主軸スピンドルなどに使用される軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械のスピンドル装置では、加工精度および効率の向上のため、軸受の予圧管理が求められており、そのため軸受予圧検出の要求がある。従来の軸受予圧検出方法では、例えば、外輪間座に歪センサを設ける方法等が提案されている(特許文献1参照)。
また、本件出願人は、非回転輪間座に、リング部材から成る起歪部を設け、その起歪部の歪を検出して軸受にかかる予圧を測定する方法を提案している(特許文献2参照)
【特許文献1】特開平2−164241号公報
【特許文献2】特願2007−127763
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記外輪間座に歪センサを設ける方法は、間座の剛性が大きいため検出感度が小さいという問題がある。
非回転輪間座に起歪部を設けた方法では、軸方向に突出する環状凸形の部材を、起歪部の一側面全周にわたり押圧することで荷重を加えていた。このため、起歪部の荷重を受ける一側面には、引張りひずみしか生じず、歪の検出感度が低くなる場合がある。
【0004】
この発明の目的は、歪の検出感度を大きくし、軸受にかかる予圧を感度良く測定することができる軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の軸受装置は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の軌道輪間に間座を介在させた軸受装置において、前記間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材を設け、この起歪部材は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部を設けた起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部であって各起歪部に荷重を印加する荷重負荷体部とを有し、前記各起歪部に、起歪部の歪を検出する検出手段を設けたことを特徴とする。
【0006】
この構成によると、間座の軸方向の一部に設けたリング状の起歪部材が、この間座の両端間に作用する軸方向力により歪を生じる。この起歪部材は、起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に設けた荷重負荷体部とを有し、これら起歪体部、荷重負荷体部を一体に設けている。起歪体部の円周方向複数箇所に設けた起歪部は、この起歪体部の他の箇所よりも弾性変形を生じ易いため、歪の検出感度を、従来技術のものに比べて大きくすることができる。
前記起歪体部および荷重負荷体部を一体に設けたため、これらの接触部でのずれや、接触部で発生し得る摩擦等を未然に防止することができる。したがって、検出手段により、起歪部の歪を、前記接触部でのずれ、摩擦等に影響されることなく、正確に検出することができる。したがって、軸受にかかる予圧を感度良く且つ正確に測定することができる。
【0007】
この発明において、一つの素材から起歪部材全体を、切削または鋳造により一体に加工しても良い。この場合、加工後の起歪部材の取り扱いが容易となり、起歪部材の軸受装置への組み付けを容易に行うことができる。また、起歪部材全体として剛性を高めつつ、起歪部を弾性変形させ易くすることができる。
この発明において、別体でそれぞれ製作した起歪体部と荷重負荷体部を、接合して一体の起歪部材を得るようにしても良い。この場合、起歪体部と荷重負荷体部を、圧入、接着、溶接、または螺子止め等により接合して一体の起歪部材を得ることができる。この場合、一つの素材から起歪部材全体を切削加工により一体に形成するよりも、製作工数の低減を図ることが可能となる。また、起歪体部と荷重負荷体部を別体で製作するため、間座幅の異なる種々の組合わせに容易に対応することができる。換言すれば、軸受に付与する予圧調整を容易化することができる。
【0008】
前記荷重負荷体部のうち、起歪体部の軸方向一端に臨む軸方向端部に、軸方向に突出して各起歪部に荷重を印加する凸部を設けても良い。例えば、円周方向複数箇所に設けられた凸部が、各起歪部に荷重を印加して弾性変形させ得る。
この発明において、前記荷重負荷体部の軸方向端部に、前記凸部と、起歪部に荷重を印加しない凹部とを円周上に沿って設けても良い。この場合、起歪体部には、凸部によって押される箇所と、押されない箇所とが生じる。これにより、起歪部の歪の軸方向の検出感度をより大きくすることができる。
【0009】
前記検出手段により検出される起歪部からの歪から、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段を設けても良い。この予圧検出手段により検出される予圧によって、工作機械等の主軸を所望の回転精度に維持すると共に、前記主軸の剛性を適度に管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の軸受装置は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の軌道輪間に間座を介在させた軸受装置において、前記間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材を設け、この起歪部材は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部を設けた起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部であって各起歪部に荷重を印加する荷重負荷体部とを有し、前記各起歪部に、起歪部の歪を検出する検出手段を設けたため、歪の検出感度を大きくし、軸受にかかる予圧を感度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図8、図20および図21と共に説明する。
図1に示すように、この第1の実施形態に係る軸受装置は、ハウジング1に軸2を複数の軸受3で回転自在に支持したものである。この軸受装置は、例えば、工作機械のスピンドル装置に応用され、その場合、軸2はスピンドル装置の主軸2となる。
【0012】
主軸2には、軸方向に離隔した複数の軸受3を締まり嵌め状態で嵌合し、内輪3i,3i間に内輪間座4を、外輪3g,3g間に外輪間座5を介在させている。軸受3は、内輪3iと外輪3gの間に複数の転動体Tを介在させた転がり軸受であり、これら転動体Tは保持器Rtで保持されている。軸受3は、軸方向の予圧を付与することが可能な軸受であり、アンギュラ玉軸受、深溝玉軸受、またはテーパころ軸受等が用いられる。図示の例ではアンギュラ玉軸受が用いられ、2個の軸受3,3が背面組合わせで設置されている。
【0013】
図1、図2に示すように、外輪間座5はリング状の間座本体6と、リング状の起歪部材7とを有する。前記間座本体6は、第1の分割間座本体6aと、第2の分割間座本体6bとを有する。軸方向一方に設けられる第1の分割間座本体6aと、軸方向他方に設けられる第2の分割間座本体6bとの間に、前記リング状の起歪部材7を挟み込んでいる。図1に示すように、これら第1,第2の分割間座本体6a,6b、および起歪部材7の幅寸法、つまり外輪間座5の幅寸法H1は、内輪間座4の幅寸法H2と異なっており、一方の軸受3の内輪端面に筒状部材8を介して当接するナット9を締め付けることにより、これら外輪間座5、内輪間座4の幅寸法差に応じて軸受に予圧が付与される。
【0014】
図2に示すように、前記間座本体6のうち、右側の第1の分割間座本体6aは、この軸方向右端部が前記一方の軸受3の外輪背面3gaに当接し、軸方向左端部が、前記起歪部材7のうちの荷重負荷体部10に当接する。この第1の分割間座本体6aの軸方向右端部は、外径側に外輪背面3gaに当接する当接面6aaと、この当接面6aaに段部6abを介して内径側に連なる軸受3に当接しない非当接面6acとを有する。
第1の分割間座本体6aの軸方向左端部は、いわゆるラジアル平面に沿った平坦状に形成されている。この軸方向左端部のうち内径側部分を除く残余の部分6adが、荷重負荷体部7の右端面全体に当接する。
【0015】
第2の分割間座本体6bは、図1に示すように、この軸方向左端部が他方の軸受3の外輪背面3gaに当接し、軸方向右端部がラジアル平面を成して、起歪部材7のうちの起歪体部11に当接する。この第2の分割間座本体6bの軸方向左端部は、外径側に外輪背面3gaに当接する当接面6baと、この当接面6baに段部6bbを介して内径側に連なる軸受3に当接しない非当接面6bcとを有する。
【0016】
起歪部材7について説明する。
起歪部材7は、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の部材である。この起歪部材7は、起歪体部11と、荷重負荷体部10とを有する。この荷重負荷体部10は、起歪体部11の軸方向一端に一体に設けている。
起歪体部11は、図2、図3に示すように、この半径方向外周部分に厚肉部11aと、この厚肉部11aから、段差部11bを介して内径側に一体に連なる薄肉部11cとを有する。薄肉部11cは厚肉部11aよりも薄肉であり、この起歪体部11をアキシアル平面で切断して視た断面が、前記薄肉部11cを自由端とする形状を成す。
【0017】
前記薄肉部11cに複数の起歪部11caを設けている。すなわち、起歪体部11は、図2、図3、図5ないし図8に示すように、円周方向複数箇所、この例では6箇所に、この起歪体部11の他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部11caを設けている。これら起歪部11caを、図3に示すように、円周方向一定間隔おきに、換言すれば角度α(α=60度)間隔おきに設けている。
【0018】
各起歪部11caは、図3、図5ないし図8に示すように、主に、凹形状部12と貫通孔13とによって実現される。すなわち凹形状部12は、第2の分割間座本体6bに臨む起歪体部11の一表面部11dを、60度間隔おきに凹形状に座ぐり形成してなる。この各凹形状部12は、例えば、半径方向中間付近から半径方向内方に開放されている。各凹形状部12の底面部分を成す板厚は、他の箇所つまり起歪部11caではない箇所の板厚よりも薄肉に形成されている。また、前記貫通孔13は、各凹形状部12が形成される周方向位置の半径方向外方に、矩形孔形状に形成されている。ただし、貫通孔13は、必ずしも矩形孔形状に限定されるものではない。
【0019】
各凹形状部12の底面部分は、架設された橋形状を成す。前記凹形状部12および貫通孔13によって、起歪部11caは、起歪体部11の他の箇所よりも剛性が相対的に小さくなるように構成されている。これにより起歪部11caは、前記他の箇所よりも弾性変形を生じ易く、したがって、後述する歪の検出感度を大きくし得る。
また、起歪体部11のうち、厚肉部11aと薄肉部11cとの段差部11b付近に、複数、この例では3箇所の溝14を形成している。これら溝14は、起歪部11caの軸方向変位を大きくするための溝である。これら3箇所の溝14は、荷重負荷体部10の後述する3つの凸部10a(図2)の円周方向位置に対応する円周方向等配位置となる。各溝14は、所定の貫通孔13からこの貫通孔13の周方向隣りの貫通孔13に至る角度α(α=約60度)の円弧溝である。また、各溝14は、第2の分割間座本体6bに臨む貫通しない溝である。
【0020】
前記起歪体部11の右端に一体に設けられた荷重負荷体部10は、図2、図4ないし図6に示すように、複数(この例では3つ)の凸部10aと、複数(この例では3つ)の凹部10bとを有する。ただし、凸部10a、凹部10bは、3つに限定されるものではない。これら凸部10aは、荷重負荷体部10における軸方向端部の円周方向三箇所に、軸方向にやや突出し、各起歪部11caに荷重を印加する。各凸部10aは、図6に示すように、軸方向から見て円弧状に形成され、この間座の半径方向内周付近において、対応する起歪部11caの所定の貫通孔13付近からこの貫通孔13の周方向隣りの貫通孔13付近に至る円弧状である。3つの凸部10aは円周等配位置に設けられ、3つの凹部10bも円周方向等配位置に設けられる。したがって、起歪体部11と荷重負荷体部10とは、3つの凸部10aの円周方向位置に対応する3つの接触部15で接合されている。
【0021】
各接触部15は、起歪部11caの所定の貫通孔13付近からこの貫通孔13の周方向隣りの貫通孔13付近に至る角度60度未満の円弧状の接触部である。これら3つの接触部15は、120度等配の円周等配位置に形成される。
起歪体部11は、荷重負荷体部10の凸部10aによって押された箇所が軸方向に変位し、押されない箇所は軸方向に殆んど変位しない。このように起歪体部11は、各起歪部11caの円周方向中間付近を境界として、凸部10aによる押圧箇所と非押圧箇所とが存在する。このため、起歪部11caには、同一端面上において、圧縮ひずみを生じる圧縮部16と、引張りひずみを生じる引張部17の両方が生じる。このように、起歪体部11は、凸部10aと凹部10bとを有する荷重負荷体部10からの荷重により、各起歪部11caの同一端面上に圧縮ひずみと引張りひずみの両方を生じるようになっている。
【0022】
起歪体部11と荷重負荷体部10を一体に設けた起歪部材7は、例えば、一つの素材から起歪部材全体を切削加工して製作することができる。また、一つの素材から起歪部材全体を鋳造により製作可能である。これらの場合、加工後の起歪部材7の剛性を高めつつ、起歪部11caを弾性変形させ易くすることができる。
【0023】
歪センサ18について説明する。
図2、図5、図8に示すように、各起歪部11caの右端面に、各起歪部11caの歪を検出する2つの歪センサ18,18を設けている。検出手段としての各歪センサ18は、歪ゲージ等で構成される。図8に示すように、各起歪部11caにおける2つの歪センサ18,18は、この各起歪部11caの円周方向中心位置と起歪体部11caの軸中心とを通る仮想線L1に対し、対称位置で所定小距離離隔して配置される。2つの歪センサ18,18を各起歪部11caの同一端面(前記右端面)に設置し、これら2つの歪センサ18,18により、各起歪部11caに生じた圧縮ひずみおよび引張りひずみを検出可能としている。本実施形態では、図2、図5に示すように、各起歪部11caの右端面に座ぐり部19を形成し、この座ぐり部19に2つの歪センサ18,18を設けている。ただし、座ぐり部19を形成することなく、2つの歪センサ18,18を設けても良い。この場合であっても、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0024】
各歪センサ18の出力部である配線18aは、ハウジング1に設けられた図示外の孔を介してハウジング1外に引き出され、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段20(図1)に電気的に接続されている。予圧検出手段20は、前記配線18aを介して入力される電気信号に比例する予圧量を算出する電子回路等からなる。この予圧検出手段20は、上記電気信号と予圧量との関係を演算式またはテーブル等で設定した図示外の関係設定手段を有し、検出した歪に基づく電気信号を前記関係設定手段に照らし予圧量を算出する。
【0025】
この関係設定手段は演算手段20aを含み、この演算手段20aは、検出された各起歪部11caにおける圧縮ひずみと引張りひずみの絶対値を合計する。
演算手段20aとしてブリッジ回路による検出方法について、図20、図21と共に説明する。周方向に隣り合う2つの起歪部11ca,11caを一対とし、そこに接着した4つの歪ゲージにより図20に示すようなブリッジ回路を構成する。各起歪部11caにおいて、一方が圧縮ひずみ検出用歪ゲージ18Aaであり、他方が引張ひずみ検出用歪ゲージ18Abである。本実施形態では円周方向6箇所に起歪部11caを設けているので、3つのブリッジ回路が構成される。各ブリッジ回路は、増幅回路20aaを介して加算回路20abに電気的に接続されている。したがって、各ブリッジ回路からの出力電圧は、増幅回路20aaにより増幅された後、加算回路20abにより加算される。その後センサ出力される。
また、予圧検出手段20は、例えば、ピークホールド処理により前記電気信号のピーク電圧を測定し、このピーク電圧が所定の閾値外となったとき、軸受予圧が所望の予圧ではないと判定するようにしても良い。予圧検出手段20は、独立して設けられた電子回路であっても、スピンドル装置を制御する制御装置の一部であっても良い。また、前記演算手段20aを予圧検出手段20と独立に設け、電気的に接続しても良い。
【0026】
上記構成の作用、効果を説明する。
スピンドル装置の図示外の駆動源により主軸2が回転し、軸受3の温度が上昇して内輪3iが膨張し、予圧が初期設定値よりも大きくなると、外輪間座5の両端間に加わる軸方向力が増加する。この外輪間座5の起歪部材7のうち各起歪部11caに、荷重負荷体部10の凸部10aから軸方向力が加わると、各起歪部11caにおける前記接触部15に近い部分に、圧縮応力が作用する。これと共に、前記各起歪部11caにおける前記接触部15から離隔した部分に、引張り応力が作用する。各起歪部11caの同一端面上に設けた2つの歪センサ18,18のうち、前記接触部に近い部分に配置した一方の歪センサ により、圧縮ひずみを検出する。前記接触部15から周方向に離隔した他方の歪センサ18により、引張りひずみを検出する。
【0027】
予圧検出手段20は、検出した歪に基づく電気信号を前記関係設定手段に照らし予圧量を算出する。したがって、起歪部11caに印加される荷重と電気信号との関係を予め調べておけば、軸受装置に組み込まれた軸受3の初期予圧および運転時に増加した予圧を知ることができる。
外輪間座5の軸方向の一部に設けたリング状の起歪体部11が、この間座の両端間に作用する軸方向力により歪を生じる。この起歪体部11の円周方向複数箇所に設けた起歪部11caは、他の箇所よりも弾性変形を生じ易いため、歪の検出感度を、従来技術のものに比べて大きくすることができる。したがって、軸受にかかる予圧を感度良く測定することができる。
【0028】
特に、前記起歪体部11および荷重負荷体部10を一体に設けたため、これらの接触部15でのずれや、接触部15で発生し得る摩擦等を未然に防止することができる。したがって、歪センサ18により、起歪部11caの歪を、前記接触部15でのずれ、摩擦等に影響されることなく、正確に検出することができる。したがって、軸受にかかる予圧を感度良く且つ正確に測定することができる。
【0029】
前記荷重負荷体部10のうち、起歪体部11の軸方向一端に臨む軸方向端部に、軸方向に突出して各起歪部11caに荷重を印加する凸部10aを設けたため、円周方向複数箇所に設けられた凸部10aが、各起歪部11caに荷重を印加して弾性変形させ得る。また、荷重負荷体部10の軸方向端部に、凸部10aと、起歪部11caに荷重を印加しない凹部10bとを円周上に沿って設けたため、起歪体部11には、凸部10aによって押される箇所と、押されない箇所とが生じる。これにより、起歪部11caの歪の軸方向の検出感度をより大きくすることができる。また、起歪体部11のうち、厚肉部11aと薄肉部11cとの段差部11b付近に、複数の溝14を形成したため、前記凸部10aによって押される箇所と、押されない箇所との軸方向変位量を、さらに大きくすることができる。したがって、起歪部11caの歪の軸方向の検出感度をさらに大きくすることができる。
【0030】
起歪体部11は、荷重負荷体部10からの荷重により、各起歪部11caの同一端面上に圧縮ひずみと引張りひずみの両方を生じるものとしている。これら圧縮ひずみと引張りひずみとを検出することができる。この場合、起歪体部11の裏表つまり一端面および他端面に、歪センサを設ける必要がないため、軸受装置に歪センサ18を構成し易くすることができる。各起歪部11caの同一端面上に歪センサ18を設ける場合、両端面に歪センサを設けるよりも、組立工数の低減を図ることができる。したがって、設計の自由度を高めると共に、製造コストの低減を図ることができる。
【0031】
歪センサ18により検出される起歪部11caからの歪から、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段20を設けたため、この検出される予圧によって、主軸2を所望の回転精度に維持するとともに、この主軸2の剛性を適度に管理することが可能となる。
また、検出された各起歪部11caにおける圧縮ひずみと引張ひずみの絶対値を合計する演算手段20aを設けたため、歪の検出感度を確実に大きくすることが可能となる。この場合、主軸2の回転精度を、より精度良く維持することができる。
【0032】
次に、この発明の第2の実施形態を図9ないし図12と共に説明する。
以下の説明において、第1の実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0033】
第1の実施形態では、図1に示すように、各起歪部11caの右端面に歪センサ18を設けたが、第2の実施形態に係る起歪部材7Aは、各起歪部11caの左端面に各起歪部11caの歪を検出する2つの歪センサ18,18を設けている。この場合、起歪体部11の薄肉部11cの肉厚を調整すると共に、貫通孔13を形成することで、起歪部11caを容易に形成することができる。第2の実施形態によると、例えば、図5に示すような座ぐり部19を形成することなく、2つの歪センサ18,18を簡単に設けることができる。この場合、加工工数の低減を図ることができる。その他第1の実施形態と同様の構成となっており、同様の作用、効果を奏する。
【0034】
図13ないし図15に示すこの発明の第3の実施形態では、荷重負荷体部10Aを第1,第2の実施形態のものより、薄肉で且つ小径化している。この場合、荷重負荷体部10Aの軽量化を図り、起歪部材7B全体の軽量化を図ることができる。これにより、組立ての作業性を高めることができる。それ故、後述する別体で製作した起歪体部11と荷重負荷体部10Aを、接合する際の作業負荷を軽減することが可能となる。その他、第1,第2の実施形態と同様の構成となっており、同様の作用、効果を奏する。
また、図16ないし図18に示すこの発明の第4の実施形態は、各起歪部11caの左端面に各起歪部11caの歪を検出する2つの歪センサ18,18を設けている。その他第3の実施形態と同様の構成となっており、同様の作用、効果を奏する。
【0035】
この発明の他の実施形態として、図19に示すように、別体でそれぞれ製作した起歪体部11と荷重負荷体部10を、例えば、圧入、接着、溶接または螺子止め等により接合することにより一体の起歪部材を得ることも可能である。この場合、一つの素材から起歪部材全体を切削加工により一体に形成するよりも、製作工数の低減を図ることが可能となる。また、起歪体部11と荷重負荷体部10を別体で製作するため、間座幅の異なる種々の組合わせに容易に対応することができる。換言すれば、軸受に付与する予圧調整を容易化することができる。その他、前記各実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0036】
以上説明した軸受装置を、スピンドル装置以外の装置、ロボット等に適用することも可能である。本実施形態では、2個の軸受を背面組み合わせで設置したが、正面組み合わせで設置する場合もあり得る。また、軸受の個数は2個に必ずしも限定されるものではない。本実施形態では、外輪間座の軸方向の一部に起歪部材を設けたが、前記スピンドル装置以外の装置において、例えば、内輪間座の軸方向の一部に起歪部材を設けても良い。この場合、この場合、外輪回転となり、起歪部の出力用の配線を、軸内部を通して軸受装置外に引き出すことが望ましい。
図3等に示すような溝を、起歪体部において厚肉部と薄肉部との段差部以外に形成しても良い。なお、複数の起歪部の箇所数は、6箇所に限定されるものではない。起歪体の貫通孔を非貫通孔にすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る軸受装置等の断面図である。
【図2】同軸受装置の要部の断面図である。
【図3】同軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図4】同起歪部材の正面図である。
【図5】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図6】図4のA−A線断面図である。
【図7】図3の要部を拡大して表す図である。
【図8】図6の要部を拡大して表す図である。
【図9】この発明の第2の実施形態に係る軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図10】同起歪部材の正面図である。
【図11】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図12】図10のB−B線断面図である。
【図13】この発明の第3の実施形態に係る軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図14】同起歪部材の正面図である。
【図15】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図16】この発明の第4の実施形態に係る軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図17】同起歪部材の正面図である。
【図18】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図19】別体で製作した起歪体部と荷重負荷体部を接合する形態を説明する図である。
【図20】ブリッジ回路の構成を表す図である。
【図21】センサ回路のブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
3…軸受
4…内輪間座
5…外輪間座
7…起歪部材
10…荷重負荷体部
10a…凸部
10b…凹部
11…起歪体部
11ca…起歪部
18…歪センサ
20…予圧検出手段
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械の主軸スピンドルなどに使用される軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械のスピンドル装置では、加工精度および効率の向上のため、軸受の予圧管理が求められており、そのため軸受予圧検出の要求がある。従来の軸受予圧検出方法では、例えば、外輪間座に歪センサを設ける方法等が提案されている(特許文献1参照)。
また、本件出願人は、非回転輪間座に、リング部材から成る起歪部を設け、その起歪部の歪を検出して軸受にかかる予圧を測定する方法を提案している(特許文献2参照)
【特許文献1】特開平2−164241号公報
【特許文献2】特願2007−127763
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記外輪間座に歪センサを設ける方法は、間座の剛性が大きいため検出感度が小さいという問題がある。
非回転輪間座に起歪部を設けた方法では、軸方向に突出する環状凸形の部材を、起歪部の一側面全周にわたり押圧することで荷重を加えていた。このため、起歪部の荷重を受ける一側面には、引張りひずみしか生じず、歪の検出感度が低くなる場合がある。
【0004】
この発明の目的は、歪の検出感度を大きくし、軸受にかかる予圧を感度良く測定することができる軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の軸受装置は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の軌道輪間に間座を介在させた軸受装置において、前記間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材を設け、この起歪部材は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部を設けた起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部であって各起歪部に荷重を印加する荷重負荷体部とを有し、前記各起歪部に、起歪部の歪を検出する検出手段を設けたことを特徴とする。
【0006】
この構成によると、間座の軸方向の一部に設けたリング状の起歪部材が、この間座の両端間に作用する軸方向力により歪を生じる。この起歪部材は、起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に設けた荷重負荷体部とを有し、これら起歪体部、荷重負荷体部を一体に設けている。起歪体部の円周方向複数箇所に設けた起歪部は、この起歪体部の他の箇所よりも弾性変形を生じ易いため、歪の検出感度を、従来技術のものに比べて大きくすることができる。
前記起歪体部および荷重負荷体部を一体に設けたため、これらの接触部でのずれや、接触部で発生し得る摩擦等を未然に防止することができる。したがって、検出手段により、起歪部の歪を、前記接触部でのずれ、摩擦等に影響されることなく、正確に検出することができる。したがって、軸受にかかる予圧を感度良く且つ正確に測定することができる。
【0007】
この発明において、一つの素材から起歪部材全体を、切削または鋳造により一体に加工しても良い。この場合、加工後の起歪部材の取り扱いが容易となり、起歪部材の軸受装置への組み付けを容易に行うことができる。また、起歪部材全体として剛性を高めつつ、起歪部を弾性変形させ易くすることができる。
この発明において、別体でそれぞれ製作した起歪体部と荷重負荷体部を、接合して一体の起歪部材を得るようにしても良い。この場合、起歪体部と荷重負荷体部を、圧入、接着、溶接、または螺子止め等により接合して一体の起歪部材を得ることができる。この場合、一つの素材から起歪部材全体を切削加工により一体に形成するよりも、製作工数の低減を図ることが可能となる。また、起歪体部と荷重負荷体部を別体で製作するため、間座幅の異なる種々の組合わせに容易に対応することができる。換言すれば、軸受に付与する予圧調整を容易化することができる。
【0008】
前記荷重負荷体部のうち、起歪体部の軸方向一端に臨む軸方向端部に、軸方向に突出して各起歪部に荷重を印加する凸部を設けても良い。例えば、円周方向複数箇所に設けられた凸部が、各起歪部に荷重を印加して弾性変形させ得る。
この発明において、前記荷重負荷体部の軸方向端部に、前記凸部と、起歪部に荷重を印加しない凹部とを円周上に沿って設けても良い。この場合、起歪体部には、凸部によって押される箇所と、押されない箇所とが生じる。これにより、起歪部の歪の軸方向の検出感度をより大きくすることができる。
【0009】
前記検出手段により検出される起歪部からの歪から、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段を設けても良い。この予圧検出手段により検出される予圧によって、工作機械等の主軸を所望の回転精度に維持すると共に、前記主軸の剛性を適度に管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の軸受装置は、軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の軌道輪間に間座を介在させた軸受装置において、前記間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材を設け、この起歪部材は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部を設けた起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部であって各起歪部に荷重を印加する荷重負荷体部とを有し、前記各起歪部に、起歪部の歪を検出する検出手段を設けたため、歪の検出感度を大きくし、軸受にかかる予圧を感度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図8、図20および図21と共に説明する。
図1に示すように、この第1の実施形態に係る軸受装置は、ハウジング1に軸2を複数の軸受3で回転自在に支持したものである。この軸受装置は、例えば、工作機械のスピンドル装置に応用され、その場合、軸2はスピンドル装置の主軸2となる。
【0012】
主軸2には、軸方向に離隔した複数の軸受3を締まり嵌め状態で嵌合し、内輪3i,3i間に内輪間座4を、外輪3g,3g間に外輪間座5を介在させている。軸受3は、内輪3iと外輪3gの間に複数の転動体Tを介在させた転がり軸受であり、これら転動体Tは保持器Rtで保持されている。軸受3は、軸方向の予圧を付与することが可能な軸受であり、アンギュラ玉軸受、深溝玉軸受、またはテーパころ軸受等が用いられる。図示の例ではアンギュラ玉軸受が用いられ、2個の軸受3,3が背面組合わせで設置されている。
【0013】
図1、図2に示すように、外輪間座5はリング状の間座本体6と、リング状の起歪部材7とを有する。前記間座本体6は、第1の分割間座本体6aと、第2の分割間座本体6bとを有する。軸方向一方に設けられる第1の分割間座本体6aと、軸方向他方に設けられる第2の分割間座本体6bとの間に、前記リング状の起歪部材7を挟み込んでいる。図1に示すように、これら第1,第2の分割間座本体6a,6b、および起歪部材7の幅寸法、つまり外輪間座5の幅寸法H1は、内輪間座4の幅寸法H2と異なっており、一方の軸受3の内輪端面に筒状部材8を介して当接するナット9を締め付けることにより、これら外輪間座5、内輪間座4の幅寸法差に応じて軸受に予圧が付与される。
【0014】
図2に示すように、前記間座本体6のうち、右側の第1の分割間座本体6aは、この軸方向右端部が前記一方の軸受3の外輪背面3gaに当接し、軸方向左端部が、前記起歪部材7のうちの荷重負荷体部10に当接する。この第1の分割間座本体6aの軸方向右端部は、外径側に外輪背面3gaに当接する当接面6aaと、この当接面6aaに段部6abを介して内径側に連なる軸受3に当接しない非当接面6acとを有する。
第1の分割間座本体6aの軸方向左端部は、いわゆるラジアル平面に沿った平坦状に形成されている。この軸方向左端部のうち内径側部分を除く残余の部分6adが、荷重負荷体部7の右端面全体に当接する。
【0015】
第2の分割間座本体6bは、図1に示すように、この軸方向左端部が他方の軸受3の外輪背面3gaに当接し、軸方向右端部がラジアル平面を成して、起歪部材7のうちの起歪体部11に当接する。この第2の分割間座本体6bの軸方向左端部は、外径側に外輪背面3gaに当接する当接面6baと、この当接面6baに段部6bbを介して内径側に連なる軸受3に当接しない非当接面6bcとを有する。
【0016】
起歪部材7について説明する。
起歪部材7は、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の部材である。この起歪部材7は、起歪体部11と、荷重負荷体部10とを有する。この荷重負荷体部10は、起歪体部11の軸方向一端に一体に設けている。
起歪体部11は、図2、図3に示すように、この半径方向外周部分に厚肉部11aと、この厚肉部11aから、段差部11bを介して内径側に一体に連なる薄肉部11cとを有する。薄肉部11cは厚肉部11aよりも薄肉であり、この起歪体部11をアキシアル平面で切断して視た断面が、前記薄肉部11cを自由端とする形状を成す。
【0017】
前記薄肉部11cに複数の起歪部11caを設けている。すなわち、起歪体部11は、図2、図3、図5ないし図8に示すように、円周方向複数箇所、この例では6箇所に、この起歪体部11の他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部11caを設けている。これら起歪部11caを、図3に示すように、円周方向一定間隔おきに、換言すれば角度α(α=60度)間隔おきに設けている。
【0018】
各起歪部11caは、図3、図5ないし図8に示すように、主に、凹形状部12と貫通孔13とによって実現される。すなわち凹形状部12は、第2の分割間座本体6bに臨む起歪体部11の一表面部11dを、60度間隔おきに凹形状に座ぐり形成してなる。この各凹形状部12は、例えば、半径方向中間付近から半径方向内方に開放されている。各凹形状部12の底面部分を成す板厚は、他の箇所つまり起歪部11caではない箇所の板厚よりも薄肉に形成されている。また、前記貫通孔13は、各凹形状部12が形成される周方向位置の半径方向外方に、矩形孔形状に形成されている。ただし、貫通孔13は、必ずしも矩形孔形状に限定されるものではない。
【0019】
各凹形状部12の底面部分は、架設された橋形状を成す。前記凹形状部12および貫通孔13によって、起歪部11caは、起歪体部11の他の箇所よりも剛性が相対的に小さくなるように構成されている。これにより起歪部11caは、前記他の箇所よりも弾性変形を生じ易く、したがって、後述する歪の検出感度を大きくし得る。
また、起歪体部11のうち、厚肉部11aと薄肉部11cとの段差部11b付近に、複数、この例では3箇所の溝14を形成している。これら溝14は、起歪部11caの軸方向変位を大きくするための溝である。これら3箇所の溝14は、荷重負荷体部10の後述する3つの凸部10a(図2)の円周方向位置に対応する円周方向等配位置となる。各溝14は、所定の貫通孔13からこの貫通孔13の周方向隣りの貫通孔13に至る角度α(α=約60度)の円弧溝である。また、各溝14は、第2の分割間座本体6bに臨む貫通しない溝である。
【0020】
前記起歪体部11の右端に一体に設けられた荷重負荷体部10は、図2、図4ないし図6に示すように、複数(この例では3つ)の凸部10aと、複数(この例では3つ)の凹部10bとを有する。ただし、凸部10a、凹部10bは、3つに限定されるものではない。これら凸部10aは、荷重負荷体部10における軸方向端部の円周方向三箇所に、軸方向にやや突出し、各起歪部11caに荷重を印加する。各凸部10aは、図6に示すように、軸方向から見て円弧状に形成され、この間座の半径方向内周付近において、対応する起歪部11caの所定の貫通孔13付近からこの貫通孔13の周方向隣りの貫通孔13付近に至る円弧状である。3つの凸部10aは円周等配位置に設けられ、3つの凹部10bも円周方向等配位置に設けられる。したがって、起歪体部11と荷重負荷体部10とは、3つの凸部10aの円周方向位置に対応する3つの接触部15で接合されている。
【0021】
各接触部15は、起歪部11caの所定の貫通孔13付近からこの貫通孔13の周方向隣りの貫通孔13付近に至る角度60度未満の円弧状の接触部である。これら3つの接触部15は、120度等配の円周等配位置に形成される。
起歪体部11は、荷重負荷体部10の凸部10aによって押された箇所が軸方向に変位し、押されない箇所は軸方向に殆んど変位しない。このように起歪体部11は、各起歪部11caの円周方向中間付近を境界として、凸部10aによる押圧箇所と非押圧箇所とが存在する。このため、起歪部11caには、同一端面上において、圧縮ひずみを生じる圧縮部16と、引張りひずみを生じる引張部17の両方が生じる。このように、起歪体部11は、凸部10aと凹部10bとを有する荷重負荷体部10からの荷重により、各起歪部11caの同一端面上に圧縮ひずみと引張りひずみの両方を生じるようになっている。
【0022】
起歪体部11と荷重負荷体部10を一体に設けた起歪部材7は、例えば、一つの素材から起歪部材全体を切削加工して製作することができる。また、一つの素材から起歪部材全体を鋳造により製作可能である。これらの場合、加工後の起歪部材7の剛性を高めつつ、起歪部11caを弾性変形させ易くすることができる。
【0023】
歪センサ18について説明する。
図2、図5、図8に示すように、各起歪部11caの右端面に、各起歪部11caの歪を検出する2つの歪センサ18,18を設けている。検出手段としての各歪センサ18は、歪ゲージ等で構成される。図8に示すように、各起歪部11caにおける2つの歪センサ18,18は、この各起歪部11caの円周方向中心位置と起歪体部11caの軸中心とを通る仮想線L1に対し、対称位置で所定小距離離隔して配置される。2つの歪センサ18,18を各起歪部11caの同一端面(前記右端面)に設置し、これら2つの歪センサ18,18により、各起歪部11caに生じた圧縮ひずみおよび引張りひずみを検出可能としている。本実施形態では、図2、図5に示すように、各起歪部11caの右端面に座ぐり部19を形成し、この座ぐり部19に2つの歪センサ18,18を設けている。ただし、座ぐり部19を形成することなく、2つの歪センサ18,18を設けても良い。この場合であっても、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0024】
各歪センサ18の出力部である配線18aは、ハウジング1に設けられた図示外の孔を介してハウジング1外に引き出され、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段20(図1)に電気的に接続されている。予圧検出手段20は、前記配線18aを介して入力される電気信号に比例する予圧量を算出する電子回路等からなる。この予圧検出手段20は、上記電気信号と予圧量との関係を演算式またはテーブル等で設定した図示外の関係設定手段を有し、検出した歪に基づく電気信号を前記関係設定手段に照らし予圧量を算出する。
【0025】
この関係設定手段は演算手段20aを含み、この演算手段20aは、検出された各起歪部11caにおける圧縮ひずみと引張りひずみの絶対値を合計する。
演算手段20aとしてブリッジ回路による検出方法について、図20、図21と共に説明する。周方向に隣り合う2つの起歪部11ca,11caを一対とし、そこに接着した4つの歪ゲージにより図20に示すようなブリッジ回路を構成する。各起歪部11caにおいて、一方が圧縮ひずみ検出用歪ゲージ18Aaであり、他方が引張ひずみ検出用歪ゲージ18Abである。本実施形態では円周方向6箇所に起歪部11caを設けているので、3つのブリッジ回路が構成される。各ブリッジ回路は、増幅回路20aaを介して加算回路20abに電気的に接続されている。したがって、各ブリッジ回路からの出力電圧は、増幅回路20aaにより増幅された後、加算回路20abにより加算される。その後センサ出力される。
また、予圧検出手段20は、例えば、ピークホールド処理により前記電気信号のピーク電圧を測定し、このピーク電圧が所定の閾値外となったとき、軸受予圧が所望の予圧ではないと判定するようにしても良い。予圧検出手段20は、独立して設けられた電子回路であっても、スピンドル装置を制御する制御装置の一部であっても良い。また、前記演算手段20aを予圧検出手段20と独立に設け、電気的に接続しても良い。
【0026】
上記構成の作用、効果を説明する。
スピンドル装置の図示外の駆動源により主軸2が回転し、軸受3の温度が上昇して内輪3iが膨張し、予圧が初期設定値よりも大きくなると、外輪間座5の両端間に加わる軸方向力が増加する。この外輪間座5の起歪部材7のうち各起歪部11caに、荷重負荷体部10の凸部10aから軸方向力が加わると、各起歪部11caにおける前記接触部15に近い部分に、圧縮応力が作用する。これと共に、前記各起歪部11caにおける前記接触部15から離隔した部分に、引張り応力が作用する。各起歪部11caの同一端面上に設けた2つの歪センサ18,18のうち、前記接触部に近い部分に配置した一方の歪センサ により、圧縮ひずみを検出する。前記接触部15から周方向に離隔した他方の歪センサ18により、引張りひずみを検出する。
【0027】
予圧検出手段20は、検出した歪に基づく電気信号を前記関係設定手段に照らし予圧量を算出する。したがって、起歪部11caに印加される荷重と電気信号との関係を予め調べておけば、軸受装置に組み込まれた軸受3の初期予圧および運転時に増加した予圧を知ることができる。
外輪間座5の軸方向の一部に設けたリング状の起歪体部11が、この間座の両端間に作用する軸方向力により歪を生じる。この起歪体部11の円周方向複数箇所に設けた起歪部11caは、他の箇所よりも弾性変形を生じ易いため、歪の検出感度を、従来技術のものに比べて大きくすることができる。したがって、軸受にかかる予圧を感度良く測定することができる。
【0028】
特に、前記起歪体部11および荷重負荷体部10を一体に設けたため、これらの接触部15でのずれや、接触部15で発生し得る摩擦等を未然に防止することができる。したがって、歪センサ18により、起歪部11caの歪を、前記接触部15でのずれ、摩擦等に影響されることなく、正確に検出することができる。したがって、軸受にかかる予圧を感度良く且つ正確に測定することができる。
【0029】
前記荷重負荷体部10のうち、起歪体部11の軸方向一端に臨む軸方向端部に、軸方向に突出して各起歪部11caに荷重を印加する凸部10aを設けたため、円周方向複数箇所に設けられた凸部10aが、各起歪部11caに荷重を印加して弾性変形させ得る。また、荷重負荷体部10の軸方向端部に、凸部10aと、起歪部11caに荷重を印加しない凹部10bとを円周上に沿って設けたため、起歪体部11には、凸部10aによって押される箇所と、押されない箇所とが生じる。これにより、起歪部11caの歪の軸方向の検出感度をより大きくすることができる。また、起歪体部11のうち、厚肉部11aと薄肉部11cとの段差部11b付近に、複数の溝14を形成したため、前記凸部10aによって押される箇所と、押されない箇所との軸方向変位量を、さらに大きくすることができる。したがって、起歪部11caの歪の軸方向の検出感度をさらに大きくすることができる。
【0030】
起歪体部11は、荷重負荷体部10からの荷重により、各起歪部11caの同一端面上に圧縮ひずみと引張りひずみの両方を生じるものとしている。これら圧縮ひずみと引張りひずみとを検出することができる。この場合、起歪体部11の裏表つまり一端面および他端面に、歪センサを設ける必要がないため、軸受装置に歪センサ18を構成し易くすることができる。各起歪部11caの同一端面上に歪センサ18を設ける場合、両端面に歪センサを設けるよりも、組立工数の低減を図ることができる。したがって、設計の自由度を高めると共に、製造コストの低減を図ることができる。
【0031】
歪センサ18により検出される起歪部11caからの歪から、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段20を設けたため、この検出される予圧によって、主軸2を所望の回転精度に維持するとともに、この主軸2の剛性を適度に管理することが可能となる。
また、検出された各起歪部11caにおける圧縮ひずみと引張ひずみの絶対値を合計する演算手段20aを設けたため、歪の検出感度を確実に大きくすることが可能となる。この場合、主軸2の回転精度を、より精度良く維持することができる。
【0032】
次に、この発明の第2の実施形態を図9ないし図12と共に説明する。
以下の説明において、第1の実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0033】
第1の実施形態では、図1に示すように、各起歪部11caの右端面に歪センサ18を設けたが、第2の実施形態に係る起歪部材7Aは、各起歪部11caの左端面に各起歪部11caの歪を検出する2つの歪センサ18,18を設けている。この場合、起歪体部11の薄肉部11cの肉厚を調整すると共に、貫通孔13を形成することで、起歪部11caを容易に形成することができる。第2の実施形態によると、例えば、図5に示すような座ぐり部19を形成することなく、2つの歪センサ18,18を簡単に設けることができる。この場合、加工工数の低減を図ることができる。その他第1の実施形態と同様の構成となっており、同様の作用、効果を奏する。
【0034】
図13ないし図15に示すこの発明の第3の実施形態では、荷重負荷体部10Aを第1,第2の実施形態のものより、薄肉で且つ小径化している。この場合、荷重負荷体部10Aの軽量化を図り、起歪部材7B全体の軽量化を図ることができる。これにより、組立ての作業性を高めることができる。それ故、後述する別体で製作した起歪体部11と荷重負荷体部10Aを、接合する際の作業負荷を軽減することが可能となる。その他、第1,第2の実施形態と同様の構成となっており、同様の作用、効果を奏する。
また、図16ないし図18に示すこの発明の第4の実施形態は、各起歪部11caの左端面に各起歪部11caの歪を検出する2つの歪センサ18,18を設けている。その他第3の実施形態と同様の構成となっており、同様の作用、効果を奏する。
【0035】
この発明の他の実施形態として、図19に示すように、別体でそれぞれ製作した起歪体部11と荷重負荷体部10を、例えば、圧入、接着、溶接または螺子止め等により接合することにより一体の起歪部材を得ることも可能である。この場合、一つの素材から起歪部材全体を切削加工により一体に形成するよりも、製作工数の低減を図ることが可能となる。また、起歪体部11と荷重負荷体部10を別体で製作するため、間座幅の異なる種々の組合わせに容易に対応することができる。換言すれば、軸受に付与する予圧調整を容易化することができる。その他、前記各実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0036】
以上説明した軸受装置を、スピンドル装置以外の装置、ロボット等に適用することも可能である。本実施形態では、2個の軸受を背面組み合わせで設置したが、正面組み合わせで設置する場合もあり得る。また、軸受の個数は2個に必ずしも限定されるものではない。本実施形態では、外輪間座の軸方向の一部に起歪部材を設けたが、前記スピンドル装置以外の装置において、例えば、内輪間座の軸方向の一部に起歪部材を設けても良い。この場合、この場合、外輪回転となり、起歪部の出力用の配線を、軸内部を通して軸受装置外に引き出すことが望ましい。
図3等に示すような溝を、起歪体部において厚肉部と薄肉部との段差部以外に形成しても良い。なお、複数の起歪部の箇所数は、6箇所に限定されるものではない。起歪体の貫通孔を非貫通孔にすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る軸受装置等の断面図である。
【図2】同軸受装置の要部の断面図である。
【図3】同軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図4】同起歪部材の正面図である。
【図5】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図6】図4のA−A線断面図である。
【図7】図3の要部を拡大して表す図である。
【図8】図6の要部を拡大して表す図である。
【図9】この発明の第2の実施形態に係る軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図10】同起歪部材の正面図である。
【図11】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図12】図10のB−B線断面図である。
【図13】この発明の第3の実施形態に係る軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図14】同起歪部材の正面図である。
【図15】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図16】この発明の第4の実施形態に係る軸受装置の起歪部材を軸方向一方から見た側面図である。
【図17】同起歪部材の正面図である。
【図18】同起歪部材を軸方向他方から見た側面図である。
【図19】別体で製作した起歪体部と荷重負荷体部を接合する形態を説明する図である。
【図20】ブリッジ回路の構成を表す図である。
【図21】センサ回路のブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
3…軸受
4…内輪間座
5…外輪間座
7…起歪部材
10…荷重負荷体部
10a…凸部
10b…凹部
11…起歪体部
11ca…起歪部
18…歪センサ
20…予圧検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の軌道輪間に間座を介在させた軸受装置において、
前記間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材を設け、
この起歪部材は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部を設けた起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部であって各起歪部に荷重を印加する荷重負荷体部とを有し、
前記各起歪部に、起歪部の歪を検出する検出手段を設けた軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、一つの素材から起歪部材全体を、切削または鋳造により一体に加工した軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、別体でそれぞれ製作した起歪体部と荷重負荷体部を、接合して一体の起歪部材を得た軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記荷重負荷体部のうち、起歪体部の軸方向一端に臨む軸方向端部に、軸方向に突出して各起歪部に荷重を印加する凸部を設けた軸受装置。
【請求項5】
請求項4において、前記荷重負荷体部の軸方向端部に、前記凸部と、起歪部に荷重を印加しない凹部とを円周上に沿って設けた軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記検出手段により検出される起歪部からの歪から、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段を設けた軸受装置。
【請求項1】
軸方向に並ぶ複数の転がり軸受の軌道輪間に間座を介在させた軸受装置において、
前記間座の軸方向の一部に、この間座の両端間に作用する軸方向力によって歪を生じるリング状の起歪部材を設け、
この起歪部材は、円周方向複数箇所に、他の箇所よりも弾性変形を生じ易い起歪部を設けた起歪体部と、この起歪体部の軸方向一端に一体に設けた荷重負荷体部であって各起歪部に荷重を印加する荷重負荷体部とを有し、
前記各起歪部に、起歪部の歪を検出する検出手段を設けた軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、一つの素材から起歪部材全体を、切削または鋳造により一体に加工した軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、別体でそれぞれ製作した起歪体部と荷重負荷体部を、接合して一体の起歪部材を得た軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記荷重負荷体部のうち、起歪体部の軸方向一端に臨む軸方向端部に、軸方向に突出して各起歪部に荷重を印加する凸部を設けた軸受装置。
【請求項5】
請求項4において、前記荷重負荷体部の軸方向端部に、前記凸部と、起歪部に荷重を印加しない凹部とを円周上に沿って設けた軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記検出手段により検出される起歪部からの歪から、転がり軸受の予圧を検出する予圧検出手段を設けた軸受装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2009−127765(P2009−127765A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304368(P2007−304368)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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