説明

軸受装置

【課題】スラストころ軸受の取り付けに支障を来すことなく、ラジアル保持器とスラスト保持器とが相互に接触して損傷するのを防止することができる軸受装置を提供する。
【解決手段】スラストころ軸受3は、シャフト51の大径部51bの端面51b1に沿ってシャフト51と同心に配置された円環平板状の軌道部31aを有する単一のスラスト軌道輪31を備える。スラスト軌道輪31は、軌道部31aの外周部から軸方向外側に延びて大径部51bの外周部に取り付けられた取付部31bと、軌道部31aの外周部から当該軌道部31aよりも軸方向内側に延びるとともにスラストころ軸受3のスラスト保持器33の外周面を摺接させて当該スラスト保持器33を回転案内する保持器案内部31cとを有する。スラスト保持器33の内周面33b1は、ラジアルころ軸受2のラジアル保持器22の外周面22a1に対して径方向に隙間を空けて対向配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアル荷重を受けるラジアルころ軸受とスラスト荷重を受けるスラストころ軸受とを備えた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の変速機において遊星歯車(プラネタリギヤ)を軸体に対して回転自在に支持する軸受装置として、ラジアル荷重を受けるラジアルころ軸受とスラスト荷重を受けるスラストころ軸受とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、従来の軸受装置を示す断面図である。この軸受装置のラジアルころ軸受110は、軸体201の外周面と遊星歯車202の内周面との間に転動可能に配置された複数のラジアルころ111と、ラジアルころ111を周方向に沿って所定間隔毎に保持するラジアル保持器112とを有している。
【0004】
また、スラストころ軸受120は、軸体201と一体のキャリア203の端面に配置された円環平板状のスラスト軌道輪121と、スラスト軌道輪121と遊星歯車202の端面との間に転動可能に配置された複数のスラストころ122と、スラストころ122を円周方向に沿って所定間隔毎に保持するスラスト保持器123とを有している。このスラスト保持器123は、その内周面123aが軸体201の外周面を摺接することにより、回転案内される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−272740号公報(図6参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の軸受装置にあっては、ラジアル保持器112とスラスト保持器123とが軸方向に隣接して配置されているため、ラジアル保持器112の軸方向外側の端面112aとスラスト保持器123の軸方向内側の端面123bとが相互に接触して、ラジアル保持器112及びスラスト保持器123が損傷するという問題があった。
【0007】
上記問題を解決するために、スラストころ122と遊星歯車202との間にスラスト軌道輪121と同一形状のスラスト軌道輪を別途設け、このスラスト軌道輪にラジアル保持器112の端面112aを接触させて、当該ラジアル保持器112の端面112aとスラスト保持器123の端面123bとの接触を回避することが考えられる。
【0008】
しかし、この場合には、遊星歯車202とキャリア203との間に、新たにスラスト軌道輪を配置するスペースを確保する必要がある。このため、前記スラスト軌道輪の配置スペースを確保することができない場合には、スラストころ軸受を取り付けることができないという問題が生じる。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、スラストころ軸受の取り付けに支障を来すことなく、ラジアル保持器とスラスト保持器とが相互に接触して損傷するのを防止することができる軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明の軸受装置は、小径部と当該小径部よりも大径の大径部とが軸方向に隣接して形成された軸体の前記小径部の軸心回りに、環状部材を回転自在に支持する軸受装置であって、前記軸受装置は、前記小径部の外周面と前記環状部材の内周面との間に転動可能に配置される複数のラジアルころと、前記ラジアルころを円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状のラジアル保持器とを有するラジアルころ軸受と、前記大径部のうちの前記環状部材側の端面に沿って前記軸体と同心に配置されかつ円環平板状の軌道部を有する単一のスラスト軌道輪と、前記スラスト軌道部と前記環状部材の端面との間に転動可能に配置される複数のスラストころと、このスラストころを円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状のスラスト保持器とを有するスラストころ軸受と、を備え、前記スラスト軌道輪は、前記軌道部の外周部から軸方向外側に延びて前記大径部の外周部に取り付けられる取付部と、前記軌道部の外周部又は前記取付部から前記軌道部よりも軸方向内側に延びるとともに前記スラスト保持器の外周面を摺接させて当該スラスト保持器を回転案内する保持器案内部とを有し、前記スラスト保持器の内周面が、前記ラジアル保持器の外周面に対して径方向に隙間を空けて対向配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、スラスト軌道輪の取付部を軸体の大径部の外周部に取り付け、スラスト保持器の外周面を保持器案内部に摺接させて回転案内するとともに、スラスト保持器の内周面をラジアル保持器の外周面に対して径方向に隙間を空けて対向配置したので、ラジアル保持器とスラスト保持器とが相互に接触するのを回避することができる。しかも、スラストころ軸受は、単一のスラスト軌道輪により構成されているため、環状部材と軸体の大径部との間に複数のスラスト軌道輪を配置するスペースを確保しなくてもよい。したがって、スラストころ軸受の取り付けに支障を来すことなく、ラジアル保持器とスラスト保持器とが相互に接触して損傷するのを防止することができる。
【0011】
また、前記スラスト保持器が、前記スラストころを離脱不能に保持し、前記スラスト軌道輪の前記保持器案内部に、前記スラスト保持器の外周部に当接して前記スラスト保持器が前記スラスト軌道輪から離脱するのを規制する規制部が形成されていることが好ましい。
この構成によれば、スラストころを離脱不能に保持するスラスト保持器を、規制部によりスラスト軌道輪から離脱しないように規制することができるため、スラスト軌道輪、スラストころ及びスラスト保持器を予めユニット化しておくことができる。これにより、スラストころ軸受の軸体に対する組み付け工数を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の軸受装置によれば、複数のスラスト軌道輪を配置することなく、ラジアル保持器とスラスト保持器とが接触するのを回避することができるため、スラストころ軸受の取り付けに支障を来すことなく、ラジアル保持器とスラスト保持器とが相互に接触して損傷するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る軸受装置を示す断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る軸受装置を示す断面図である。
【図4】従来の軸受装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の軸受装置の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る軸受装置を示す断面図である。この軸受装置1は、例えば、自動車の変速機においてシャフト(軸体)51の小径部51a(後述)の軸心回りに環状部材である遊星歯車(プラネタリギヤ)52を回転自在に支持するものである。
【0015】
シャフト51には、小径部51aと、この小径部51aよりも大径の大径部51b(キャリア)とが軸方向に隣接して形成されている。軸受装置1は、ラジアル荷重を受けるラジアルころ軸受2と、スラスト荷重を受けるスラストころ軸受3とを備えている。
【0016】
ラジアルころ軸受2は、シャフト51の小径部51aと遊星歯車52との間に配置された複数のラジアル針状ころ21と、このラジアル針状ころ21を周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状のラジアル保持器22とを有している。ラジアル針状ころ21は、小径部51aの外周面51a1と遊星歯車52の内周面52bとの間に転動可能に配置されている。
【0017】
ラジアル保持器22は、軸方向両端部に配置された一対の円環部22a(図1では軸方向一端部のみ図示)と、両円環部22aの間で軸方向に延びかつ円周方向に沿って所定間隔毎に配列されて両円環部22aを連結している複数の柱部22bとを有している。隣接する柱部22bと一対の円環部22aとによって囲まれたポケット22c内には、ラジアル針状ころ21が収容されている。
【0018】
スラストころ軸受3は、円環平板状の軌道部31aを有する単一のスラスト軌道輪31と、スラスト軌道輪31の後述する軌道面31a1と遊星歯車52の大径部51b側の端面52aとの間に転動可能に配置された複数のスラスト針状ころ32と、このスラスト針状ころ32を円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状のスラスト保持器33とを有している。
【0019】
スラスト軌道輪31は、前記軌道部31aと、大径部51bの外周部に取り付けられた取付部31bと、スラスト保持器33を回転案内する保持器案内部31cと、スラスト保持器33がスラスト軌道輪31から離脱するのを規制する規制部31dとを有している。
【0020】
軌道部31aは、大径部51bの遊星歯車52側の端面51b1に沿ってシャフト51と同心に配置されており、軸方向内側の側面にはスラスト針状ころ32が転動する軌道面31a1が形成されている。軌道部31aの内周面31a2は、小径部51aの外周面に対して径方向に隙間を空けて配置されている。軌道部31aの軌道面31a1よりも径方向内側には、ラジアル保持器22の円環部22aの端面が摺接するガイド面31a3が一体形成されている。
【0021】
取付部31bは、軌道部31aの外周端から軸方向外側に延びる円筒部31b1と、円筒部31b1の円周方向の複数箇所(例えば3〜4箇所)において当該円筒部31b1の軸方向外側端から径方向内側に延びる円環部31b2とを有している。この円環部31b2を大径部51bの軸方向外側の端面51b2に係止することにより、スラスト軌道輪31が大径部51bに取り付けられている。
【0022】
保持器案内部31cは、軌道部31aの外周端から当該軌道部31aよりも軸方向内側に延びて円筒状に形成されている。この保持器案内部31cの内周面は、スラスト保持器33の円環部33a(後述)の外周面が摺接することにより、スラスト保持器33を回転案内するようになっている。
【0023】
規制部31dは、保持器案内部31cの軸方向外側端から径方向内側に延びて形成されている。この規制部31dにスラスト保持器33の円環部33aが当接することにより、スラスト保持器33がスラスト軌道輪31に対して離脱するのを規制するとともに、スラスト保持器33がスラスト針状ころ32の軸心に対して偏心するのを抑制している。
【0024】
スラスト保持器33は、径方向外側に配置された円環部33aと、径方向内側に配置された円環部33bと、両円環部33a,33bの間で径方向に延びかつ円周方向に沿って所定間隔毎に配列されて両円環部33a,33bを連結している複数の柱部33cとを有している。
【0025】
また、スラスト保持器33には、隣接する柱部33cと一対の円環部33a,33bとによって囲まれたポケット33dが、スラスト保持器33の全周に亘って放射状に複数形成されている。このポケット33d内には、スラスト針状ころ32が収容されている。
【0026】
図2は、図1のA−A断面図である。スラスト保持器33は、スラスト針状ころ32を離脱不能に保持している。具体的には、隣接する柱部33cのポケット側33dの側面に、スラスト針状ころ32を隙間を有して保持する円弧面33c1が形成されており、この一対の円弧面33c1の間にスラスト針状ころ32を無理嵌めすることにより、スラスト針状ころ32がスラスト保持器33から離脱するのを防止している。
【0027】
円環部33bの内周面33b1は、ラジアル保持器22の円環部22aの外周面22a1に対して径方向に隙間を空けた状態で対向配置されている。また、円環部33bの内周面33b1は、遊星歯車52の内周面52bよりも径方向外側に配置されている。
【0028】
以上の構成の軸受装置1によれば、スラスト軌道輪31の取付部31bをシャフト51の大径部51bの外周部に取り付け、スラスト保持器33の外周面を保持器案内部31cに摺接させて回転案内するとともに、スラスト保持器33の内周面33b1をラジアル保持器22の外周面22a1に対して径方向に隙間を空けて対向配置したので、ラジアル保持器22とスラスト保持器33とが相互に接触するのを回避することができる。しかも、スラストころ軸受3は、単一のスラスト軌道輪31によって構成されているため、遊星歯車52とシャフト51の大径部51bとの間に複数のスラスト軌道輪を配置するスペースを確保しなくてもよい。したがって、スラストころ軸受3の取り付けに支障を来すことなく、ラジアル保持器22とスラスト保持器33とが相互に接触して損傷するのを防止することができる。
【0029】
また、スラスト針状ころ32を離脱不能に保持するスラスト保持器33を、規制部31dによりスラスト軌道輪31から離脱しないように規制することができるため、スラスト軌道輪31、スラスト針状ころ32及びスラスト保持器33を予めユニット化しておくことができる。これにより、スラストころ軸受3のシャフト51に対する組み付け工数を低減することができる。
【0030】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る軸受装置を示す断面図である。本実施形態では、スラスト軌道輪31の取付部31bと保持器案内部31cとが断面略U字状に一体形成されている。取付部31bは、軌道部31aの外周端から軸方向外側に延びて筒状に形成されており、大径部51bの外周面に係止されている。保持器案内部31cは、取付部31bの軸方向外側端から径方向外側に屈曲して軌道部31aよりも軸方向内側に延びて形成されている。本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0031】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、スラスト軌道輪31の取付部31bの円環部31b2は、大径部51bの端面51b2又は外周面に係止されているが、大径部51bの外周面に溝を形成し、この溝に円環部31b2を係止させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1:軸受装置、2:ラジアルころ軸受、3:スラストころ軸受、21:ラジアル針状ころ(ラジアルころ)、22:ラジアル保持器、31:スラスト軌道輪、31a:軌道部、31b:取付部、31c:保持器案内部、31d:規制部、32:スラスト針状ころ(スラストころ)、33:スラスト保持器、51:シャフト(軸体)、51a:小径部、51b:大径部、52:遊星歯車(環状部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径部と当該小径部よりも大径の大径部とが軸方向に隣接して形成された軸体の前記小径部の軸心回りに、環状部材を回転自在に支持する軸受装置であって、
前記軸受装置は、前記小径部の外周面と前記環状部材の内周面との間に転動可能に配置される複数のラジアルころと、前記ラジアルころを円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状のラジアル保持器とを有するラジアルころ軸受と、
前記大径部のうちの前記環状部材側の端面に沿って前記軸体と同心に配置されかつ円環平板状の軌道部を有する単一のスラスト軌道輪と、前記スラスト軌道部と前記環状部材の端面との間に転動可能に配置される複数のスラストころと、このスラストころを円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状のスラスト保持器とを有するスラストころ軸受と、を備え、
前記スラスト軌道輪は、前記軌道部の外周部から軸方向外側に延びて前記大径部の外周部に取り付けられる取付部と、前記軌道部の外周部又は前記取付部から前記軌道部よりも軸方向内側に延びるとともに前記スラスト保持器の外周面を摺接させて当該スラスト保持器を回転案内する保持器案内部とを有し、
前記スラスト保持器の内周面が、前記ラジアル保持器の外周面に対して径方向に隙間を空けて対向配置されていることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記スラスト保持器が、前記スラストころを離脱不能に保持し、
前記スラスト軌道輪の前記保持器案内部に、前記スラスト保持器の外周部に当接して前記スラスト保持器が前記スラスト軌道輪から離脱するのを規制する規制部が形成されている請求項1に記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−47225(P2012−47225A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188403(P2010−188403)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】