説明

軸肥大加工用スリーブ、軸肥大加工装置及びこれを用いた軸肥大加工方法

【課題】棒状のワークピースに対して軸肥大加工を施して肥大部を形成すると同時に、ワークピースの端部に対しても加工することができる軸肥大加工用スリーブ、軸肥大加工装置及びこれを用いた軸肥大加工方法を提供する。
【解決手段】金属製のワークピース2を軸線Aに沿って縮める方向に加圧し、前記軸線Aと交差する方向にエネルギを加えて前記ワークピース2の任意の部位を肥大させる際に、前記ワークピース2の端部を保持する軸肥大加工用スリーブ1であって、前記ワークピース2が挿入される穴部5aと、該穴部5aの任意の断面における少なくとも一部の内周面に形成され、前記穴部5a内に挿入された前記ワークピース2の外径よりも内側に形成されている一又は複数の縮径部13とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸肥大させるべき棒状のワークピースの両端を保持するスリーブ状の軸肥大加工用スリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸肥大加工機が特許文献1に記載されている。この軸肥大加工機によって、肥大部を有する棒状のワークピースを得ることができる。肥大部は、ワークピースに一体に形成されるので、種々の軸部品の製造に大変便利である。この肥大部を有するワークピースに対し、端部を加工したいという要求がある。この端部加工を肥大部形成とともに行うことができれば便利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−200697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、棒状のワークピースに対して軸肥大加工を施して肥大部を形成すると同時に、ワークピースの端部に対しても加工することができる軸肥大加工用スリーブ、軸肥大加工装置及びこれを用いた軸肥大加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明では、金属製のワークピースを軸線に沿って縮める方向に加圧し、前記軸線と交差する方向にエネルギを加えて前記ワークピースの任意の部位を肥大させる際に、前記ワークピースの端部を保持する軸肥大加工用スリーブであって、前記ワークピースが挿入される穴部と、該穴部の任意の断面における少なくとも一部の内周面に形成され、前記穴部内に挿入された前記ワークピースの外径よりも内側に形成されている一又は複数の縮径部とを備えたことを特徴とする軸肥大加工用スリーブを提供する。
【0006】
好ましくは、前記縮径部には、前記穴部の内周方向に沿って一定間隔で断続的に形成されているものが含まれる。
【0007】
また、本発明では、前記ワークピースが配置されるべき基準線に沿って配置された請求項2に記載の軸肥大加工用スリーブ及び前記ワークピースの一端を保持する保持スリーブと、該保持スリーブに接続され、前記保持スリーブを前記基準線に沿って前記軸肥大加工用スリーブに向けて加圧する加圧手段と、前記軸肥大加工用スリーブに接続され、前記軸肥大加工用スリーブを前記ワークピースの軸線と交差する方向にエネルギを加えるエネルギ供給手段とを備えたことを特徴とする軸肥大加工装置を提供する。
【0008】
また、本発明では、上記軸肥大加工装置を用いた軸肥大加工方法であって、前記保持スリーブに前記ワークピースの一端を挿入して保持し、前記加圧手段により前記保持スリーブを前記基準線に沿って移動させて前記ワークピースの他端を前記軸肥大加工用スリーブの前記穴部内に挿入し、前記穴部内において前記縮径部に前記ワークピースを押し当てながらさらに挿入し、前記エネルギ供給手段を用いて前記ワークピースに肥大部を形成することを特徴とする軸肥大加工方法を提供する。
【0009】
好ましくは、前記ワークピースは、中空の円筒形状からなるパイプである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、穴部の任意の断面における少なくとも一部に、穴部内に挿入されたワークピースの外径よりも内側に形成されている縮径部が形成されているため、この縮径部を用いてワークピース端部の加工を行うことができる。具体的には、ワークピースが穴部内に挿入されることでワークピースの端面が縮径部に突き当たり、さらに押し込まれることで縮径部がワークピースの長手方向に沿って相対的に移動する。このため、縮径部によりワークピース端部の加工が可能となる。縮径部を穴部の内周面の周方向に沿って全域に形成すれば、ワークピース端部を縮径するような絞り加工ができる。一部に形成すれば、ワークピース端部の長手方向に沿って縮径部の軌跡を形成することができる。すなわち、縮径部が形成された穴部の断面形状と同形状の外形をワークピースの端部に形成することができる。このようなスリーブを軸肥大加工用のスリーブとして用いることにより、ワークピースに対して軸肥大加工を施して肥大部を形成すると同時に、ワークピースの端部に対しても加工することができ、加工工数の減少を実現できる。
【0011】
また、縮径部を穴部の内周方向に沿って一定間隔で断続的に形成すれば、ワークピース端部にスプライン形状を形成することができる。これを軸肥大加工用のスリーブに形成することで、効率よく迅速に加工できる。
【0012】
特に、発明者等は中空の円筒形状からなるパイプをワークピースとして軸肥大加工と同時にスプライン加工を行うことを実際に確認している。パイプの軸心にマンドレル(ピン)を挿入することなく肥大部とスプライン形状を同時に形成できることは、大変有用である。すなわち、本発明ではパイプは外側のみを保持される。なお、マンドレルを使用しても当然に本発明は実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る軸肥大加工用スリーブを用いて本発明に係る軸肥大加工方法を順番に説明するための概略図である。
【図2】本発明に係る軸肥大加工用スリーブを用いて本発明に係る軸肥大加工方法を順番に説明するための概略図である。
【図3】本発明に係る軸肥大加工用スリーブを用いて本発明に係る軸肥大加工方法を順番に説明するための概略図である。
【図4】本発明に係る軸肥大加工用スリーブの断面図である。
【図5】本発明に係る軸肥大加工方法で形成された肥大部を有するワークピースの概略側面図である。
【図6】本発明に係る軸肥大加工装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、本発明に係る軸肥大加工用スリーブ1は、金属棒材のワークピース2を軸線に沿って縮める方向に加圧し、軸線と交差する方向にエネルギを加えてワークピース2の任意の部位を肥大させる際、すなわちワークピース2に肥大部3(図3参照)を形成する際に、ワークピース2の端部を保持するためのものである。ワークピース2の一方の端部は本発明に係る軸肥大加工用スリーブ1に保持される。ワークピース2の他方の端部は略円筒形状からなる保持スリーブ4に保持される。これらスリーブ1、4はそれぞれホルダ12a、12bに固定される。
【0015】
ワークピース2の保持を具体的に説明すると、スリーブ1、4には穴部5a、5bが形成されている。ワークピース2の他端が保持スリーブ4の穴部5bに挿入されて保持された状態(図1の状態)で、ホルダ12bを対向配置されたホルダ12a方向に移動させ、ワークピース2の一端を穴部5a内に挿入して保持する(図2の状態)。そして、通常の軸肥大加工を行い、ワークピース2に肥大部を形成する(図3の状態)。
【0016】
ここで、穴部5aの任意の断面における少なくとも一部の内周面には、穴部5a内に挿入されたワークピース2の外径よりも内側に形成されている縮径部13が形成されている。この例における縮径部13は、図4に示すように、穴部5aの内周方向に沿って一定間隔で断続的に形成されている。
【0017】
このような縮径部13を有する穴部5aにワークピース2を挿入することで、縮径部13を用いてワークピース2端部の加工を行うことができる。具体的には、ワークピース2が穴部5a内に挿入されることでワークピース2の端面が縮径部13に突き当たり、さらに押し込まれることで縮径部13がワークピース2の長手方向に沿って相対的に移動する。このため、縮径部13によりワークピース2端部の加工が可能となる。図4のように、縮径部13を穴部5aの内周方向に沿って一定間隔で断続的に形成すれば、ワークピース2端部にスプライン形状7を形成することができる。このようなスリーブ1を軸肥大加工用のスリーブ1として用いることにより、ワークピース2に対して軸肥大加工を施して肥大部3を形成すると同時に、ワークピース2の端部に対しても加工することができ、加工工数の減少を実現できる。
【0018】
なお、縮径部13を穴部5aの内周面の周方向に沿って全域に形成すれば、ワークピース2端部を縮径するような絞り加工ができる。一部に形成すれば、ワークピース2端部の長手方向に沿って縮径部13の軌跡を形成することができる。すなわち、縮径部13が形成された穴部5aの断面形状と同形状の外形をワークピース2の端部に形成することができる。上記のような絞り加工を形成するための縮径部13を複数組み合わせて使用すれば、ワークピース2の端部の外形を所望の形状に形成しつつ、スプライン加工も施すことができる。例えば、穴部5aの入口側の全周をワークピース2の径よりも小さくして第1の縮径部とし、この第1の縮径部の奥に、第1の縮径部よりも内側に位置する図4で示したような縮径部13を第2の縮径部として形成すれば、もともとのワークピース2よりも径を小さく(絞り加工)しつつその外形にスプライン加工を施すことができる。
【0019】
本発明に係る軸肥大加工用スリーブ1を用いた軸肥大加工装置9は、図6に示すように、加圧手段10と、例えば傾動手段11からなるエネルギ供給手段とを有している。スリーブ1、4は、ワークピース2に対して左右両端に配置され、ワークピース2が配置されるべき基準線Aに沿って配置されている。スリーブ1、4は、図示しない案内手段等によって、基準線Aに沿って互いに接離可能である。ワークピース2は、肥大されるべき部位が露出した状態で保持される。すなわち、スリーブユニット7は所定の離間距離を保ってワークピース2を保持する。
【0020】
加圧手段10は、ホルダ12bに接続され、ホルダ12bを基準線Aに沿ってホルダ12aに向けて加圧するものである(矢印P方向)。これにより、ワークピース2はスリーブ1の穴部5a内に挿入され、突き当たって軸方向に圧縮される。
【0021】
傾動手段11は、ホルダ12aに接続され、スリーブ1をワークピース2の軸線と交差する方向に傾動させるものである(矢印T方向)。このとき、ホルダ12aを基準線A廻りに回転させる回転手段(不図示)も用いてワークピース2は回転される。エネルギ供給手段として、このような傾動手段11を用いてもよいし、ホルダ12aを首振り旋回運動させたり、交番捻り運動させたり、交番衝撃トルクを加えたりするようなものを用いてもよい。
【0022】
ワークピース2に形成される肥大部3は、加圧手段10を用いてワークピース2を軸方向に圧縮し、傾動手段11を用いてワークピース2の任意の位置にエネルギを加えることで形成される。この軸肥大加工を行っていると同時に、縮径部13によるワークピース2の端部加工を行う。実際には、加圧手段10を用いてワークピース2が軸肥大加工用スリーブ1の穴部5aに挿入されている間に、縮径部13がワークピース2の表面に沿って相対的に移動することでワークピース2を塑性流動させて加工を行う。塑性流動したワークピース2はその肉が端面側に移動するので、これを許容するように予めホルダ12aとスリーブ1との間には隙間14が形成されている。なお、図3に示すように、ホルダ12aにピン15を設け、このピン15を穴部5aに挿通させている場合には、ピン15とワークピース2の端面との間が隙間14となる。
【0023】
なお、ワークピース2として、中空の円筒形状からなるパイプ6を用いてもよい(図5参照)。発明者等は中空の円筒形状からなるパイプ6をワークピース2として軸肥大加工と同時にスプライン加工を行うことを実際に確認している。パイプ6の軸心にマンドレルを挿入することなく肥大部とスプライン形状を同時に形成できることは、大変有用である。すなわち、本発明では、ワークピース2の外側のみを保持して軸肥大加工が可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 軸肥大加工用スリーブ
2 ワークピース
3 肥大部
4 保持スリーブ
5a、5b 穴部
6 パイプ
7 スプライン形状
9 軸肥大加工装置
10 加圧手段
11 傾動手段(エネルギ供給手段)
12a、12b ホルダ
13 縮径部
14 隙間
15 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のワークピースを軸線に沿って縮める方向に加圧し、前記軸線と交差する方向にエネルギを加えて前記ワークピースの任意の部位を肥大させる際に、前記ワークピースの端部を保持する軸肥大加工用スリーブであって、
前記ワークピースが挿入される穴部と、
該穴部の任意の断面における少なくとも一部の内周面に形成され、前記穴部内に挿入された前記ワークピースの外径よりも内側に形成されている一又は複数の縮径部と
を備えたことを特徴とする軸肥大加工用スリーブ。
【請求項2】
前記縮径部には、前記穴部の内周方向に沿って一定間隔で断続的に形成されているものが含まれることを特徴とする請求項1に記載の軸肥大加工用スリーブ。
【請求項3】
前記ワークピースが配置されるべき基準線に沿って配置された請求項2に記載の軸肥大加工用スリーブ及び前記ワークピースの一端を保持する保持スリーブと、
該保持スリーブに接続され、前記保持スリーブを前記基準線に沿って前記軸肥大加工用スリーブに向けて加圧する加圧手段と、
前記軸肥大加工用スリーブに接続され、前記軸肥大加工用スリーブを前記ワークピースの軸線と交差する方向にエネルギを加えるエネルギ供給手段とを備えたことを特徴とする軸肥大加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載の軸肥大加工装置を用いた軸肥大加工方法であって、
前記保持スリーブに前記ワークピースの一端を挿入して保持し、
前記加圧手段により前記保持スリーブを前記基準線に沿って移動させて前記ワークピースの他端を前記軸肥大加工用スリーブの前記穴部内に挿入し、
前記穴部内において前記縮径部に前記ワークピースを押し当てながらさらに挿入し、
前記エネルギ供給手段を用いて前記ワークピースに肥大部を形成することを特徴とする軸肥大加工方法。
【請求項5】
前記ワークピースは、中空の円筒形状からなるパイプであることを特徴とする請求項4に記載の軸肥大加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−99766(P2013−99766A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245565(P2011−245565)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】