説明

軽質留分の製造方法及びプラスチックの処理方法

【課題】塩素を含むプラスチックから塩素を含まない軽質留分を得ることができる軽質留分の製造方法及びプラスチックの処理方法の提供。
【解決手段】塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱し前記プラスチックを溶解して、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、前記プラスチック溶解物を触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解生成物を得る水素化分解工程と、前記水素化分解生成物を分離処理し、第1軽質留分を得る第1分離工程と、前記第1軽質留分に芳香族マグネシウムハライド化合物を添加した後、前記第1軽質留分中の塩素を脱離する脱離処理をして、第2軽質留分を得る塩素脱離工程と、前記第2軽質留分が含む塩素を分離除去し、塩素を含まない第3軽質留分を得る第2分離工程とを具備する、軽質留分の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質留分の製造方法及びプラスチックの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物系プラスチックに代表される塩素を含むプラスチック(塩素を化学的に結合したプラスチックに限らず、塩素含有物質を物理的に含むプラスチックの集合も含む。以下同じ。)を水素化分解して軽質留分等の有用成分を得る従来法として、例えば特許文献1に記載の方法が挙げられる。
特許文献1には、加熱されて液化された廃プラスチックを含む液状の単環又は多環系芳香族化合物に水素を加えて水素化分解反応(水添分解反応)させることで軽質分(軽質留分)が得られることが記載されている。そして、この軽質分を更に環化触媒の存在下で反応させることで、ベンゼン等を生成させることができることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−321682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような従来法においては、塩素を含むプラスチックから塩素を含まない軽質留分を得ることが困難であった。これは水素化分解して得られる水素化分解生成物中に芳香族塩素化合物が含まれ、これを取り除くことが困難なためである。
このような塩素を含む水素化分解生成物を蒸留等すれば軽質留分が得られるが、これらにも塩素が含まれるので、例えばそのまま燃料油として利用することはできなかった。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、塩素を含むプラスチックから塩素を含まない軽質留分を得ることができる軽質留分の製造方法及びプラスチックの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を重ね、軽質留分中の有機塩素化合物は反応により高分子化する際に塩素分を脱離する場合があることを見出し、この現象を利用することで低塩素濃度の軽質留分を得ることができるという知見を得て、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は以下の(1)〜(3)である。
(1)塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱し前記プラスチックを溶解して、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、前記プラスチック溶解物を触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解生成物を得る水素化分解工程と、前記水素化分解生成物を分離処理し、第1軽質留分を得る第1分離工程と、前記第1軽質留分に芳香族マグネシウムハライド化合物を添加した後、前記第1軽質留分中の塩素を脱離する脱離処理をして、第2軽質留分を得る塩素脱離工程と、前記第2軽質留分が含む塩素を分離除去し、塩素を含まない第3軽質留分を得る第2分離工程とを具備する、軽質留分の製造方法。
(2)前記第1軽質留分及び前記第3軽質留分の沸点が200〜330℃である、上記(1)に記載の軽質留分の製造方法。
(3)塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱し前記プラスチックを溶解して、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、前記プラスチック溶解物を触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解生成物を得る水素化分解工程と、前記水素化分解生成物を分離処理し、第1軽質留分を得る第1分離工程と、前記第1軽質留分に芳香族マグネシウムハライド化合物を添加した後、前記第1軽質留分中の塩素を脱離する脱離処理をして、第2軽質留分を得る塩素脱離工程と、前記第2軽質留分が含む塩素を分離除去する第2分離工程とを具備する、プラスチックの処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塩素を含むプラスチックから塩素を含まない軽質留分を得ることができる軽質留分の製造方法及びプラスチックの処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の軽質留分の製造方法及びプラスチックの処理方法(以下、これらを合わせて「本発明」という)について説明する。
本発明の軽質留分の製造方法及びプラスチックの処理方法は、同様の溶解工程、水素化分解工程、第1分離工程、塩素脱離工程及び第2分離工程を具備する。
以下、各々の工程について説明する。
【0009】
初めに、本発明の溶解工程について説明する。
本発明の溶解工程は、塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱し前記プラスチックを溶解して、プラスチック溶解物を得る工程である。
【0010】
ここで、前記混合物中において塩素は後に説明するプラスチックや溶剤と化学的に結合して存在していてもよいし、塩素含有物質(無機化合物や有機化合物等)として存在していてもよい。また、塩素単独(原子、イオン、分子等)として存在してもよい。
前記混合物中におけるこのような塩素の含有率は特に限定されないものの、通常、0.01〜10質量%である。
【0011】
また、前記混合物が含有するプラスチックの種類は特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンが挙げられる。前記混合物は2種類以上のプラスチックを含有してもよい。
また、プラスチックは、塩化ビニル樹脂等、塩素を化学的に結合したプラスチックであってもよく、塩素含有物質を物理的に含むプラスチックの集合であってもよい。このような塩素を含むプラスチックとしては、例えば、都市ごみや産業廃棄物の廃プラスチックが挙げられる。
【0012】
また、このようなプラスチックの粒度は特に限定されないが、数ミリ以下であると、後に説明するこのプラスチックの溶解がより容易になり、処理時間を比較的短くできるので好ましい。このプラスチックの粒度が比較的大きい場合や処理時間をより短くしたい場合等では、前記プラスチックを予め粗砕することが好ましい。
【0013】
また、前記混合物中における前記プラスチックの含有率は特に限定されないものの、通常、4〜40質量%であり、20〜35質量%であることが好ましく、25〜30質量%であることがより好ましい。
【0014】
また、前記混合物が含有する溶剤は、前記プラスチックを溶解(流動化)することができるものであれば特に限定されない。
これらの中でも、相溶性があるという点で単環、二環、三環程度の芳香族化合物(各種誘導体も含む)又はこれらの中の2以上を含むものであることが好ましい。
更に、これらの中でも、コールタール及びそれを蒸留して得られるコールタール留分がより好ましい。後述するように前記混合物が熱硬化性樹脂や紙類を含有する場合であってもこれらを流動化できるため、溶解工程で得られたプラスチック溶解物を次工程へポンプ移送することが可能となるからである。
コールタール留分としては、例えば、通常用いられるコールタール蒸留プラントで製造することができるクレオソート油留分、アントラセン油留分等が挙げられる。また、コールタールやその留分はコールタールピッチを含有していてもよい。
【0015】
また、前記混合物中における前記溶剤の含有率は特に限定されないものの、通常、40〜95質量%であり、55〜75質量%であることが好ましく、60〜72質量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明の溶解工程において混合物は、このような塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有するものであるが、その他の成分、例えば熱硬化性樹脂や紙類等を含有してもよい。このようなその他の成分の前記混合物中における含有率は特に限定されないが、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の溶解工程は、このような混合物を加熱して前記プラスチックを溶解し、プラスチック溶解物を得る工程である。
ここで、前記混合物を加熱する方法は特に限定されない。例えば従来公知の方法でよい。また、加熱した際の混合物の温度は、含有する前記プラスチックの少なくとも一部を溶解することができる温度であればよく、その種類や粒度等によって変わる。概ね、150〜400℃程度であることが好ましい。この温度よりも低すぎると溶解速度が遅くなる場合がある。そして、溶解するために用いる設備(例えば溶解槽)の大型化が必要になる場合がある。また、この温度よりも高すぎると前記プラスチック又はコールタール等の溶剤に含有される化合物が重縮合して、ピッチ留分等となる反応が顕著となり操業上不都合となる場合がある。また、250℃超で溶解する場合は、揮発分(軽質留分等)のが多くなる場合があるので、密閉容器の中で溶解するのが好ましい。
【0018】
このような溶解工程により、プラスチック溶解物を得ることができる。
【0019】
次に本発明の水素化分解工程について説明する。
本発明の水素化分解工程は、上記のような溶解工程で得られた前記プラスチック溶解物を触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解反応を行い、水素化分解生成物を得る工程である。
【0020】
本発明の水素化分解工程では、前記プラスチック溶解物に後述する触媒を添加等した後に、通常の水素化分解反応で適用される温度及び圧力等の条件にて水素を加えて、例えば密閉容器内で水素化分解反応をさせることで水素化分解生成物を得ることができる。
水素化分解反応を行う反応条件は通常の範囲であれば特に限定されない。例えば反応温度は300〜500℃程度とすることができ、400〜450℃程度が好ましい。また、容器内圧力は1.0〜20.3MPa(10〜200気圧)程度とすることができ、5.1〜10.1MPa(50〜100気圧)程度が好ましい。また、反応時間は10分〜10時間程度とすることができる。
また、水素化分解反応は液相、気相のいずれで行ってよく、流動床、固定床、スラリー床等のいずれの反応形式で行ってもよい。
【0021】
本発明の水素化分解工程で用いる触媒は、上記のような水素化分解反応によって前記プラスチック溶解物と水素とから水素化分解生成物を生成させる反応を促進する触媒としての作用を有するものであれば特に限定されない。
例えば、Co−Mo系触媒、Ni−Mo系触媒、Ni−W系触媒、鉄触媒(鉄含有物質であり、例えば、酸化鉄、硫化鉄、硫酸鉄、塩化鉄及びそれらの焼成物)が挙げられる。複数の種類の触媒を混合して用いてもよい。また、これらの触媒は、必要によりアルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ゼオライト等の担体に担持させて用いることができる。
【0022】
このような触媒の中でも鉄触媒が好ましく、粒子状の酸化鉄(例えば、製鋼での転炉吹錬で発生する転炉ダスト)がより好ましい。鉄触媒は塩素と反応し、塩素を固定する作用をも奏し、かつ、塩素を固定した(塩素と反応した)後であっても前記プラスチック溶解物と水素とから水素化分解生成物を生成させる反応を促進する触媒としての作用を有するからである。
【0023】
また、前記触媒の性状は特に限定されないが粒子状で用いることが好ましく、0.01〜10mm程度の平均粒径を有する粉体であることがより好ましい。前記触媒をスラリー状とした後に前記プラスチック溶解物に添加等して用いてもよい。
更に、前記触媒が粒子状の鉄触媒であると、比重差を利用して後に有用成分と容易に分離することできるので好ましい。
【0024】
なお、前記溶解工程において前記プラスチックがポリスチレンを含む場合、上記のような処理を行うことで、ポリスチレンは分子鎖(主鎖)の切断と水素化分解反応が生じ、主に前記水素化分解生成物中にエチルベンゼンが生成する。更には、アルキル鎖の分解・不均化反応でBTX類(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等)やメタン、エタン等が生成する。
通常、熱分解のみではベンゼン環に不飽和のアルケンが付いているスチレンの生成が多い。しかし、水素化分解反応では反応が温和に進むことと、ポリスチレンの主鎖の切断部分に水素原子が供給されることにより、ベンゼン環にアルキル鎖(飽和炭化水素)が付加しているエチルベンゼンが多くなる。ポリエチレンやポリプロピレンが存在する場合は、主鎖の切断が主体となるため前記分離回収工程にて、主にC3〜C4のガス留分を生成する。
また、前記プラスチックがフェノール樹脂で代表される熱硬化性樹脂、ポリエチレンテレフタレート等を含む場合、これらの一部は後述する重質留分(ピッチも含む)となる。一方、コールタール等の溶剤に関しては、ガス中の水素との反応により主として若干の水素化分解が起こることが多いが、ほんの一部は重縮合反応のため後述するピッチ留分を生成することもある。
【0025】
このような水素化分解工程により水素化分解生成物を得ることができる。
【0026】
次に本発明の第1分離工程について説明する。
本発明の第1分離工程は、前記水素化分解生成物を分離処理し、第1軽質留分を得る工程である。
【0027】
前記水素化分解生成物から第1軽質留分を得ることができる分離処理の方法は、特に限定されず例えば従来公知の方法を適用することができる。従来公知の方法としては、例えば蒸留法が挙げられる。
このような方法で分離して得た第1軽質留分は、沸点が200〜330℃であることが好ましい。理由は、後述する塩素及び高分子化合物との分離の際、軽質留分が重縮合して重質化しない温度で蒸留を行えるからである。
なお、後述する第3軽質留分も、同様の理由で沸点が同温度範囲であることが好ましい。
【0028】
このような第1分離工程により第1軽質留分を得ることができる。この第1軽質留分は塩素を含む。
なお、通常、軽質留分と合わせてベンゼン類留分、重質留分、ガス留分等を回収することができる。
【0029】
次に本発明の塩素脱離工程について説明する。
本発明の塩素脱離工程は、前記第1軽質留分に芳香族マグネシウムハライド化合物を添加した後、前記第1軽質留分中の塩素を脱離する脱離処理をして、第2軽質留分を得る工程である。
【0030】
上記のように第1軽質留分は塩素を含むが、少なくともその一部は有機塩素化合物として存在している。この塩素脱離工程では、この有機塩素化合物中の塩素と芳香族マグネシウムハライド化合物とを反応させることで、この有機塩素化合物から塩素を脱離する。
【0031】
本発明の塩素脱離工程では、初めに、前記第1軽質留分に芳香族マグネシウムハライド化合物を添加する。
この芳香族マグネシウムハライド化合物としては、ハロゲン化芳香族化合物、例えばハロゲン化ベンゼン、ハロゲン化ベンジル等と金属マグネシウムとを無水エーテル中で反応させて得る有機金属化合物(グリニャール試薬)を用いることができる。このようなグリニャール試薬としては、例えば、フェニルマグネシウムブロマイド、フェニルマグネシウムクロライド、パラトリルマグネシウムクロライド、ベンジルマグネシウムクロライド、フェネチルマグネシウムクロライドが挙げられる。
【0032】
このような芳香族マグネシウムハライド化合物を前記第1軽質留分に添加した後、これらを反応させることで、前記第1軽質留分中の塩素を脱離する脱離処理を行うことできる。これらを反応させる具体的な方法としては、例えば加熱処理する方法が挙げられる。
この加熱処理における反応温度は20〜200℃が好ましく、50〜120℃がより好ましく、60〜90℃が更に好ましい。
また、反応時間は、0.1〜12時間が好ましく、1〜6時間がより好ましく、2〜4時間が更に好ましい。
また、この芳香族マグネシウムハライド化合物の前記第1軽質留分への添加量は特に限定されないものの、通常、前記第1軽質留分の100質量部に対して、0.05〜3質量部であり、0.1〜1質量部であることが好ましく、0.3〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0033】
このような脱離処理により前記第1軽質留分中のこの有機塩素化合物中の塩素と芳香族マグネシウムハライド化合物とを反応させ、この有機塩素化合物から塩素を脱離することができる。
例えば前記有機塩素化合物がジクロロトルエンである場合、以下に示すような反応が起こり、この有機塩素化合物から塩素を脱離することができ、同時に塩化マグネシウムが生じ、更に分子量が増加して高沸点の化合物が生成すると想像する。
【0034】
【化1】

【0035】
このような塩素脱離工程により第2軽質留分を得ることができる。
この第2軽質留分は、上記の脱離処理により脱離された塩素(前記芳香族マグネシウムハライド化合物と塩素との反応物)を含む。
【0036】
次に本発明の第2分離工程について説明する。
本発明の第2分離工程は、前記第2軽質留分が含む塩素を分離除去し、塩素を含まない第3軽質留分を得る工程である。
【0037】
前記第2軽質留分から塩素を分離除去する方法は特に限定されない。例えば従来公知の方法を適用することができる。従来公知の方法としては、例えば蒸留法や比重分離法(遠心分離法等)が挙げられる。
これらの中でも蒸留法が好ましい。この理由は、前記塩素脱離工程で生成された前記第2軽質留分中の前記芳香族マグネシウムハライド化合物と塩素との反応物(例えば塩化マグネシウム)の沸点が高く(例えば塩化マグネシウムの沸点は1412℃)、軽質留分の沸点との温度差が大きいので、より塩素含有率の低い第3軽質留分を得ることができるからである。
【0038】
このような第2分離工程により塩素を含まない第3軽質留分を得ることができる。
なお、本発明において「塩素を含まない」又はこれと同様の文言(「塩素を含まず」等)は、塩素を全く含まないもののみならず、塩素をほとんど含まないものも含む概念である。また、「塩素をほとんど含まない」とは、塩素の含有率が概ね0.01質量%以下であることを意味する。
【0039】
次に、本発明の実施態様について図1の概略図を用いて説明する。なお、これは一実施態様であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
図1に示した本発明の一実施態様について説明する。
図1に示した実施態様では、プラスチックとして塩素を含むプラスチックである廃プラスチック11を用い、溶剤としてコールタール12を用いている。そして、これらを溶解槽1に投入し、この中で混合して混合物としている。また、この実施態様では、溶解槽1に触媒13を投入している。このように触媒は、加熱しプラスチック溶解物とする前の混合物に予め含ませておいてもよい。
そして、触媒13を含むこの混合物を溶解槽1において150〜400℃の温度に加熱して廃プラスチック11を溶解してプラスチック溶解物を得ている。
【0041】
次に、得られたプラスチック溶解物及び触媒13をポンプにより配管を通じて水素化分解反応器3に送液する。
この水素化分解反応器3には、水素又は水素を主成分とする水素ガス15を供給する。このとき、図1に示すように、経済性向上を指向して水素化分解反応器3から排出されるガスの大部分を循環して、水素濃度を所定濃度に維持するように一部を排ガス21として捨て、水素ガス15をメークアップすることが好ましい。ただし、水素の全量を新たに供給し、水素化分解反応器3から排出されるガスの全量を捨てる、このプラントの加熱源とする、あるいはほかの用途等に用いる、ということでもよい。
そして、前述のような反応条件(反応形式、反応温度、反応圧力、反応時間等)にて水素化分解反応を行う。
【0042】
このような水素化分解を行うことで、水素化分解反応器3において水素化分解生成物を得ることができる。この水素化分解生成物は触媒の触媒効果によりベンゼン類を含む。
【0043】
次に、得られた水素化分解生成物をポンプにより配管を通じて第1蒸留搭6に送液する。そして、ここで蒸留することで、C3〜C4を主体とするガス留分22、ベンゼン類(BTX類)留分23、第1軽質留分27及び重質留分25に分留(分離)することができる。
このようにして第1軽質留分27を得ることができる。
【0044】
なお、図1では蒸留搭は1つ(第1蒸留塔6のみ)であるが、常圧蒸留塔と減圧蒸留塔とを併設して、分留を細分化してもよい。
【0045】
次に、得られた第1軽質留分27を配管を通じて塩素脱離器7へ送る。
そして、この塩素脱離器7へ芳香族マグネシウムハライド化合物14を上記のような添加量で添加した後、この塩素脱離器7内で、上記のような反応条件(反応温度、反応時間等)にて加熱処理を行う。
このようにして第2軽質留分28を得ることができる。
【0046】
次に得られた第2軽質留分28を配管を通じて第2蒸留搭8へ送る。
そして、ここで蒸留することで、第2軽質留分28が含む塩素(芳香族マグネシウムハライド化合物14と塩素との反応物)を分離して蒸留残渣26として除去し、第3軽質留分24を得ることができる。
なお、高分子化等して沸点が高くなった成分は蒸留残渣26に含まれる。
【0047】
このようにして得られた第3軽質留分は、腐食対策をしていない一般的なボイラー用の燃料油や、カーボンブラック製造用の原料油として利用することできる。
【実施例】
【0048】
本発明の実施例及び比較例を示す。
<実施例1>
図1に示した態様と同様の処理工程により、本発明を実施した。
まず、ポリスチレン30質量%、ポリエチレン35質量%、ポリプロピレン30質量%及び塩化ビニル5質量%で含むプラスチックを用意した。このプラスチックは都市ごみ系のものを模擬している。
また、溶剤としてアントラセン油、触媒として転炉ダスト(Feを主成分とする)、芳香族マグネシウムハライド化合物としてフェニルマグネシウムクロライドを用意した。
【0049】
次に、これらプラスチック11、溶剤12、触媒13を200℃に保持した溶解槽1に供給した。供給量はプラスチックが9.6kg/hr、溶剤が22.4kg/hr、触媒が1.5kg/hrとした。
そして、溶解槽1でこれらを0.5hr溶解し(滞留時間が0.5hr)、プラスチック溶解物を得た。
【0050】
次に、得られたプラスチック溶解物を配管を通じて水素化分解反応器3へ送液した。そして、プラスチック溶解物を水素化分解反応器3にて水素化分解した。ここでの反応温度は450℃、反応圧力は10.1MPa(100気圧)、滞留時間は1hrとした。なお、水素化分解反応器3への水素ガスの供給は2.5Nm/hrとした。
【0051】
次に、得られた水素化分解生成物を第1蒸留塔6へ送り、C3〜C4を主体とするガス留分22、沸点が200℃までのBTXを主体とするベンゼン類留分23、沸点が200〜330℃の水添タール留分である第1軽質留分27、及び沸点が330℃超である重質留分25に分留した。
【0052】
次に、得られた第1軽質留分27を塩素脱離器7へ送り、芳香族マグネシウムハライド化合物14を0.05kg/hrで添加した後、加熱処理した。ここで反応温度は80〜90℃とし、滞留時間は3hrとした。
なお、塩素脱離器7にはニッケル粉末も添加した。これは触媒として作用し、例えばジフェニルトルエン等の生成反応を促進させる効果を奏する。
このようにして第2軽質留分28を得た。
【0053】
次に、得られた第2軽質留分28を第2蒸留搭8へ送り、ここで分留し、沸点が200〜330℃の第3軽質留分24を得た。
【0054】
次に、このようにして得られた第3軽質留分24及びベンゼン類留分23の中に含まれる塩素分を定量した。分析結果を第1表に示す。
【0055】
<比較例1>
実施例1における塩素脱離器7及び第2蒸留搭8による処理を行わなかったこと以外は、全て実施例1と同様とした操作及び分析を行った。すなわち実施例1における第1軽質留分27の分析を行った。分析結果を第1表に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
第1表に示した分析結果から、実施例1に係る第3軽質留分中の塩素量が比較例1と比較して低下していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明の構成を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1・・・溶解槽
3・・・水素化分解反応器
6・・・第1蒸留塔
7・・・塩素脱離器
8・・・第2蒸留塔
11・・・廃プラスチック
12・・・コールタール(溶剤)
13・・・触媒
14・・・芳香族マグネシウムハライド化合物
15・・・水素ガス
21・・・排ガス
22・・・ガス留分
23・・・ベンゼン類留分
24・・・第3軽質留分
25・・・重質留分
26・・・蒸留残渣
27・・・第1軽質留分
28・・・第2軽質留分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱し前記プラスチックを溶解して、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、
前記プラスチック溶解物を触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解生成物を得る水素化分解工程と、
前記水素化分解生成物を分離処理し、第1軽質留分を得る第1分離工程と、
前記第1軽質留分に芳香族マグネシウムハライド化合物を添加した後、前記第1軽質留分中の塩素を脱離する脱離処理をして、第2軽質留分を得る塩素脱離工程と、
前記第2軽質留分が含む塩素を分離除去し、塩素を含まない第3軽質留分を得る第2分離工程と
を具備する、軽質留分の製造方法。
【請求項2】
前記第1軽質留分及び前記第3軽質留分の沸点が200〜330℃である、請求項1に記載の軽質留分の製造方法。
【請求項3】
塩素と、プラスチックと、溶剤とを含有する混合物を加熱し前記プラスチックを溶解して、プラスチック溶解物を得る溶解工程と、
前記プラスチック溶解物を触媒の存在下で水素と反応させ、水素化分解生成物を得る水素化分解工程と、
前記水素化分解生成物を分離処理し、第1軽質留分を得る第1分離工程と、
前記第1軽質留分に芳香族マグネシウムハライド化合物を添加した後、前記第1軽質留分中の塩素を脱離する脱離処理をして、第2軽質留分を得る塩素脱離工程と、
前記第2軽質留分が含む塩素を分離除去する第2分離工程と
を具備する、プラスチックの処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−308655(P2007−308655A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141417(P2006−141417)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】