説明

近赤外光の透過を遮断するのに有用なポリマーフィルムの調製方法

本発明は、赤外(IR)遮断用被膜、およびIR遮断用被膜をポリマーの表面に塗布するための方法である。該方法は、溶解させたポリマーを含む溶媒の混合物にIR遮断用材料を分散させるステップと、標準印刷方法を使用して、塊状ポリマー、好ましくはシートまたはフィルムの表面の少なくとも一部分を被覆するステップとを含む。本発明は、ポリマー中間層が光遮断特性に加えて、ガラスへの接着を改善させた安全ガラス積層物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外(IR)および/または近赤外(NIR)光を遮断するのに有用なフィルムに関する。本発明は、具体的にはその表面の少なくとも一部分上にIRおよび/またはNIR−遮断用被膜を有するポリマー、およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車および建築物において太陽熱利得を制御する手段への興味がますます増大している。様々な被覆ガラスは、窓を通り抜けて太陽熱利得を低減すると提案されている。しかし、一般に銀または他の金属化合物の薄膜であるこれらの被膜は、一般に起電エネルギーも遮蔽する。この効果によって、携帯電話、全地球測位衛星(GPS)ユニット、および有料道路の自動通行料徴収装置など様々な現代の必需品が動作しなくなる。しかし、遮断用粒子が相互によく分離すると、起電エネルギーは、処理された窓を通過できることが実証された。
【0003】
分散された遮断用粒子を含み、ガラスまたは他の基板に被着させた被膜は、周知である。例えば、米国特許公報(特許文献1)、米国特許公報(特許文献2)、および米国特許公報(特許文献3)を参照のこと。これらの粒子には、UV吸収化合物、可視色顔料、NIR(熱)吸収化合物、またはこれらの単位の任意の組合せが含まれ得る。しかし、当技術分野で知られているエネルギー遮断用被膜は、一般にいくつかのポリマー表面、具体的にはポリビニルブチラール(PVB)に対する接着が不十分である。ポリマー中間層と、エネルギー遮断用被膜およびガラスとの間の良好な接着が、積層安全ガラスにおいて適切な機能に必要な要件である。弱すぎる接着は、安全ガラス積層物の剥離に導く恐れがあり、強すぎる接着は、衝撃破損に導く恐れがある。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,518,810号明細書
【特許文献2】米国特許第6,579,608号明細書
【特許文献3】米国特許第6,506,487号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明は、赤外線遮断用粒子を含む被膜で少なくとも部分的に覆われた表面を有するポリマーである。ポリマーは、フィルムまたはシートの形態にある。
【0006】
別の態様では、本発明は、ジメチルホルムアミド(DMF)中に、酸化インジウムスズ(ITO)およびポリビニルブチラールを含む分散物である組成物である。
【0007】
別の態様では、本発明は、赤外線遮断用粒子を含む被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を有するポリマーフィルムまたはシートの調製方法である。IR遮断用被膜は、(1)IR遮断用粒子をPVBおよびジメチルホルムアミド(DMF)の混合物に分散させて、IR遮断用インクを得るステップと、(2)IR遮断用インクをポリマー表面の少なくとも一部分に印刷するステップとを含む方法で塗布する。
【0008】
さらに別の態様では、本発明は、IR遮断用粒子を含むIR遮断用被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を有するポリマーフィルムまたはシートの調製方法であり、前記IR遮断粒子がPVBに分散されており、前記方法が、IR遮断用粒子、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびPVBの混合物を粉砕装置に通して、IR遮断用粒子を分散させ、IR遮断用インクを得るステップと、インクをポリマーフィルムまたはシートの表面に印刷するステップとを含む方法である。
【0009】
別の態様では、本発明は、ポリマーフィルムまたはシートを含む積層物であって、フィルムまたはシートは、IR遮断用粒子およびPVBを含むIR遮断用被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を含む積層物である。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、少なくとも2層のポリマーフィルムまたはシートを含む積層物であって、前記2層のうちの少なくとも1つが、IR遮断用粒子およびPVBを含むIR遮断用被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を有する積層物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書の定義は、特有の場合に別段の限定のない限り、本明細書の全体に渡って使用される用語に適用する。
【0012】
本明細書では、1つまたは複数のポリマーを含む液体に関して「溶液」という用語は、可溶性ポリマー、および他のポリマーを含めて他の物質は、液体中に非溶解の形態で存在することもできるが、少なくとも1つの溶質がポリマーである液体を指す。
【0013】
本明細書では、「分散物」および「懸濁液」という用語は、互換性があり、粒子状物質を含む液体を指す。分散物は、沈殿、凝集、離漿などに対して安定、不安定、または部分的に安定とすることができる。
【0014】
本明細書では、「エネルギー遮断」および「IR遮断」という用語は、エネルギー、または具体的に赤外エネルギーの透過を減少させる特性を指す。遮断は、例えば吸収、反射など任意の機構で生じることができる。
【0015】
本明細書では、「赤外」という用語は、近赤外を含む。
【0016】
「有限量」および「有限値」という用語は、0に等しくない量を指す。
【0017】
「約」という用語は、量、サイズ、配合、パラメータ、ならびに他の量および特性が厳密でなく、かつ厳密である必要もないが、所望通りに、許容誤差、変換係数、端数計算、測定誤差など、および当業者に知られている他の因子を反映して、近似、および/またはより大きいもしくはより小さくてもよいことを意味する。一般に、量、サイズ、配合、パラメータ、または他の量もしくは特性は、明確にそのようなものであると記載されているか否かに関わらず「約」または「近似」である。
【0018】
一実施形態では、本発明は、ポリマーマトリックスに予め分散させた赤外線遮断用材料の被膜をその表面の少なくとも一部分に被着させたポリマーである。本発明での使用に適したポリマーは、ガラスをもつ積層物での使用にも適したものであり、好ましくは建築用または自動車用のグレイジングに有用である。例えば、適切なポリマーは、光スペクトルの可視領域における光が透過するものである。より具体的には、適切なポリマーには制限なく、ポリエステル;ポリウレタン;ポリ塩化ビニル;ポリアセタール;ポリビニルブチラール(PVB);およびエチレンとエチレン性不飽和カルボン酸および/またはその誘導体の共重合から得られた酸コポリマーおよびコポリマーイオノマーが含まれる。好ましくは、ポリマーはポリビニルブチラールである。
【0019】
ポリマーは、制限無く流延フィルム押出方法またはブローフィルム押出方法を含めて様々な通常の押出方法など通常の方法によってフィルムまたはシートに形成することができる。
【0020】
少なくとも1つのその表面上のポリマーは、赤外線遮断用材料を含む被膜で少なくとも部分的に覆われている。赤外線遮断用材料は、赤外光、好ましくは具体的には近赤外光の透過に干渉する任意の材料とすることができる。このような材料は知られており、通常のものと見なすことができる。このような材料には、例えば酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、六ホウ化ランタン、および酸化鉄が含まれる。好ましくは、IR遮断用材料は形が粒子である。通常は、粒子は、積層物の透過性に悪影響を及ぼさないように超微粒子サイズを有している。好ましくは、本発明のIR遮断用粒子は、ATOまたはITOを含む。さらにより好ましくは、IR遮断用粒子はITOを含む。
【0021】
当業者は、適切なレベルのIR遮断用被膜中のIR遮断用粒子を、例えば被膜のヘイズや積層物中の別の表面への被覆表面の接着などの物理的諸特性とのバランスを保つ所望のレベルの透過率に基づいて確認することができる。しかし、好ましくは、IR遮断用材料は、分散物、すなわちIR遮断用材料、DMFおよびポリマーの全重量に対して最高約30重量%、より好ましくは約10重量%〜約20重量%、およびさらにより好ましくは約15重量%の有限量で被膜中に存在する。
【0022】
本発明では、IR遮断用粒子は、例えばジメチルホルムアミド(DMF)などの有機溶媒、およびポリマーの結合剤を含むマトリックス中の小粒子分散物としてポリマーの表面に塗布する。好ましくは、ポリマーの結合剤を有機溶媒に溶解する。好ましくは、ポリマーの結合剤は、被覆ポリマーと同じ、または適合性がある。「適合性がある」は、ポリマーの結合剤が被覆ポリマーの表面に強力に接着することができる。ポリマーの結合剤は、粒子がポリマー表面に接着するのを助け、積層物中の隣接層への被覆ポリマーの接着を改善するように機能する。
【0023】
好ましくは、ポリマーの結合剤はPVBを含む。より好ましくは、ポリマーの結合剤は、本質的にPVBからなる。さらにより好ましくは、ポリマーの結合剤は、本質的に約23%の遊離ヒドロキシルを有するPVBからなる。
【0024】
当業者は、適切なレベルのポリマーの結合剤を被膜の所望の特性に基づいて確認することができる。しかし、好ましくは、ポリマーの結合剤は、IR遮断用粒子分散物の全重量に対して最高約20重量%の有限量、より好ましくは約3〜約13重量%のレベル、およびさらにより好ましくは約8重量%のレベルで存在する。注目すべきは、IR遮断用被膜が、23%の遊離ヒドロキシルPVBを約8重量%含むことである。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、IR遮断用材料の分散物を、ポリマー材料の表面の少なくとも一部分に塗布するための方法であって、分散物を表面に印刷するステップを含む方法である。好ましくは、ポリマー材料は、フィルムまたはシートの形態にある。好ましくは、印刷ステップは、フレキソ印刷やグラビア印刷など通常の方法である。方法は、IR遮断用粒子を、アイガー(Eiger)ミルなどの粉砕またはミル装置に通して、IR遮断用材料の粒径を低減し、かつ/または材料を有機溶媒もしくはポリマーマトリックスに分散させるステップを含むことができる。したがって、IR遮断用材料は、乾燥して、または有機溶媒中の分散物として、またはポリマーマトリックス中の分散物として粉砕装置に通すことができる。このようにして得られた分散インクを、ポリマーの少なくとも1つの表面の少なくとも一部分に印刷することができる。好ましくは、インクをポリマーの表面に直接印刷する。被覆ポリマーを、当技術分野で知られている適切な任意の手段で、例えば熱または真空の両方の適用で場合によっては乾燥することができる。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、IR遮断用材料を含む被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つのポリマー層を含む積層物である。適切でかつ好ましいポリマー層およびIR遮断用被膜は、上記に記載するとおりである。積層物は、好ましくは少なくとも1枚のガラスシートを含むが、ガラス代替物である硬質透明層における別の材料を含むことができる。
【0027】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも2つのポリマー層の積層物を含み、その少なくとも1つはIR遮断用材料を含む被膜で少なくとも部分的に覆われている。さらに、適切でかつ好ましいポリマー層およびIR遮断用被膜は、上記に記載するとおりである。複数のシートを、隣接および近接層として一緒に積層することができ、あるいは他の積層で分離することもできる。被覆ポリマーは、同じまたは異なるIR遮断用材料を含めて同じ材料または異なる材料を含むことができる。好ましい一実施形態では、1つの被膜または複数の被膜を2つのポリマー層の間に配置する。より好ましくは、2つのポリマー層は、近接している。別の好ましい実施形態では、積層物は、ガラスまたはガラス代替物である硬質透明層における別の材料の少なくとも1つの外層を含む。より好ましくは、積層物は、ガラスまたは別の硬質透明材料の2つの外層を含む。
【0028】
本発明の積層物中のポリマーの被覆表面を、積層物の外部表面から、または積層物の外部表面へ延伸させることができ、あるいは積層物の外部表面とすることができる。様々な積層構築物を、グレイジング技術分野の技術者は想定することができる。
【実施例】
【0029】
実施例および比較例は、例示の目的で提示されているにすぎず、いかなる方法によっても本発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
(実施例1)
酸化インジウムスズ(40gm)を300gmの6.4%PVBをDMF溶液に分散する。分散物を、アイガー(Eiger)ミル中、周囲温度で約4時間、または混合物の外観が均一に見えるまでミルにかける。次いで、輪転式グラビア印刷方法を使用して、3GOをベースとするPVBシート(30ミル)に分散物をハンドディッピングにより被覆する。ウェブ速度は50fpmであった。PVBシートを、最高4層のITO分散物でなつ印した。印刷がそれぞれ終わった後、印刷したPVBシートから試料を切り出した。
【0031】
被覆PVBシートの試料を、厚さ2.3mmの透明ガラス2層の間に積層した。ヘイズ、プメリング、および275〜2500nmの範囲の波長を有する光の透過率を測定することによってガラス積層物を試験する。
【0032】
図1に示す同様の実験の光透過率の結果は、NIR波長を含めてより長い波長における光の透過率は、本発明の被膜を塗布すると大幅に低下することをはっきりと実証している。さらに、透過率は、ITOのレベルの増加に伴ってより一層低下する。
【0033】
本発明の好ましい実施形態は、上記に記述され、具体的に例示されていることは確かであるが、本発明をこのような実施形態に限定するものではない。以下の特許請求の範囲に記載する本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な修正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】エネルギー遮断用被膜で非被覆または被覆したPVBシートを有する一連のガラス積層物の光透過スペクトルのグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線遮断用粒子を含む被膜で少なくとも部分的に覆われた表面を有するポリマーであって、該ポリマーがフィルムまたはシートの形態にあることを特徴とするポリマー。
【請求項2】
赤外線遮断用粒子が、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、六ホウ化ランタン、および酸化鉄からなる群から選択される材料を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
ジメチルホルムアミド(DMF)中に、酸化インジウムスズ(ITO)およびポリビニルブチラールを含む分散物であることを特徴とする組成物。
【請求項4】
23%の遊離ヒドロキシルポリビニルブチラールを8重量%含むことを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
赤外線遮断用被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を有するポリマーフィルムまたはシートの調製方法であって、赤外線遮断用被膜をポリマーフィルムまたはシートに印刷によって塗布するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
赤外線遮断用被膜を、赤外線遮断用材料、ポリビニルブチラール、およびジメチルホルムアミドを含むインクとして塗布することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
赤外線遮断用被膜が、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、六ホウ化ランタン、および酸化鉄からなる群から選択される赤外線遮断用材料を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
IR遮断用粒子を含むIR遮断用被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を有するポリマーフィルムまたはシートの調製方法であり、前記IR遮断粒子がPVBに分散さされており、前記方法が、IR遮断用粒子を粉砕装置に通して、IR遮断用粒子を分散させ、IR遮断用インクを得るステップと、インクをポリマーフィルムまたはシートの表面に印刷するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
IR遮断用粒子を、ジメチルホルムアミド、ポリビニルブチラール、またはジメチルホルムアミドとポリビニルブチラールの両方とともに粉砕装置に通すことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
IR遮断用粒子が、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、六ホウ化ランタン、および酸化鉄からなる群から選択される赤外線遮断用材料を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
ポリマーフィルムまたはシートを含む積層物であって、フィルムまたはシートが、IR遮断用粒子およびPVBを含むIR遮断用被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を含むことを特徴とする積層物。
【請求項12】
IR遮断用粒子が、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、六ホウ化ランタン、および酸化鉄からなる群から選択される赤外線遮断用材料を含むことを特徴とする請求項11に記載の積層物。
【請求項13】
少なくとも2層のポリマーフィルムまたはシートを含む積層物であって、前記2層のうちの少なくとも1つが、IR遮断用粒子およびPVBを含むIR遮断用被膜で少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの表面を有することを特徴とする積層物。
【請求項14】
IR遮断用粒子が、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、六ホウ化ランタン、および酸化鉄からなる群から選択される赤外線遮断用材料を含むことを特徴とする請求項13に記載の積層物。

【図1】
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【公表番号】特表2007−514050(P2007−514050A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545483(P2006−545483)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/042477
【国際公開番号】WO2005/059013
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】