説明

近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法

【課題】簡便な近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法を実現する。
【解決手段】
1)共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて生体の特定成分を測定する工程、
2)近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を用いて前記共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて測定した生体の同部位の特定成分を測定する工程、
3)工程1で測定した共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値と、工程2で測定した近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値とを比較し、近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値を用いて生体の特定成分値を共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値に校正する工程、
4)所定時間経過後に前記工程3の作業を少なくとも一度行う工程、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法に関し、特に共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を基準として近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を校正する非侵襲校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、血液中の血糖値等の成分の濃度等を測定する場合には、注射器で人体から血液を採取したり、指先や耳たぶを穿刺したりして、血液を実際に採取して行われることが多い。それに対して、近年、このように生体を侵襲して血液を採取せずに、生体に光を照射してその生体による反射光や生体を透過した光を検出して光が生体により吸収された度合(吸光度)に基づいて目的の成分の濃度等を測定する手法が提案されている(特許文献1〜4および非特許文献1参照)。
【0003】
特に、非特許文献1に記載の手法では、図2に示すように、人体の表皮組織a1、真皮組織a2、皮下組織a3からなる皮膚組織において、表皮組織a1では毛細血管があまり発達しておらず、皮下組織a3は主に脂肪組織で構成されているのに対して、表皮組織a1と皮下組織a3との間の真皮組織a2では組織内に毛細血管が発達しており、グルコース(glucose)が高い浸透性を有しており血管中から組織内に浸透することから、真皮組織a2内のグルコース濃度が血液中の血糖値と相関があると推定される。
【0004】
そして、その推定の下に、入射用光ファイバFinと検出用光ファイバFdetからなるプローブPを皮膚に当接させ、入射用光ファイバFinから近赤外光Rを照射して真皮組織a2内を透過させて検出用光ファイバFdetで検出し、その吸光度から真皮組織a2中のグルコース濃度を測定して、その測定結果に基づいて血液中の血糖値を予測する近赤外分光分析法が提案されている。
【0005】
また、特許文献1には図3に示すような共焦点光学系を用いた生体成分測定装置が記載されている。図3について簡単に説明する。
この生体成分測定装置は、生体Aの生体成分のデータを収集するための共焦点光学系2と、得られたデータを解析するためのデータ解析系3とで構成されている。
【0006】
共焦点光学系2には、載置台21が設けられ、この上に被験者の腕等の生体Aが載置される。生体Aの上方には、2波長以上のレーザ光を出射可能なレーザ22が備えられており、この例では、波長可変レーザが用いられる。
【0007】
レーザ22の後段には、レーザ光を平行光とするためのコリメータレンズ23が配置されており、コリメータレンズ23の後段には、光軸に対して略45°の傾斜を有してハーフミラー24が配置されており、レーザ光はハーフミラー24を透過する。
【0008】
ハーフミラー24の後段には、レーザ22から出射して平行光とされたレーザ光を集束するための対物レンズ25が配置されており、生体Aの内部組織に照射される。
生体Aの内部組織で反射された反射光は、対物レンズ25で屈折して平行光とされ、ハーフミラー24により反射され、略90°光路変換されるようになっている。
【0009】
ハーフミラー24の側方には、光路変換された反射光が入射され、それを集束するレンズ26が配置されており、ハーフミラー24で反射した光は、レンズ26の側方に設けられたピンホール27の位置で集束し、ピンホール27を通過して、例えばフォトダイオードで構成された受光素子28に受光される。
【0010】
ピンホール27は、絞りを設けたり、径が異なる複数のピンホールを設けてそれらを切り替え可能に構成すること等により、通過する反射光の光量を調整できるように構成可能である。
【0011】
受光素子28からは、受光した反射光の光量に応じて強さや大きさが増減する電流や電圧がデータ信号として出力され、そのデータ信号がA/D変換器29によりA/D変換されて、生体成分測定装置1のデータ解析系3に送信される。
【0012】
図4に示すように、データ解析系3は、CPU31やROM32、RAM33、入出力インターフェース34がバス35に接続されて構成されるコンピュータで構成されている。CPU31は、ROM32に記憶されているデータ解析用のプログラム等の各種プログラムを読み出してRAM33に適宜展開して各種処理を実行する。
【0013】
データ解析において、CPU31は、波長の異なる2波長以上の波長の各レーザ光の出射により受光素子28からA/D変換器29や入出力インターフェース34を介して入力される複数のデータ信号に基づいて生体Aの生体成分の定量を行う。
【0014】
具体的には、血糖値すなわち血液内のグルコース濃度の定量を行う場合、ROM32には、図5に示すような血液内のグルコース濃度とレーザ光の吸光度との検量線が記憶されており、CPU31は、この検量線に基づいて生体Aの生体成分の定量を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−301944号公報
【特許文献2】特開平10−155775号公報
【特許文献3】特開平10−216112号公報
【特許文献4】特開平10−325794号公報
【特許文献5】特開平11−155840号公報
【非特許文献1】丸尾勝彦、外8名,「光学的血糖値測定システムの開発状況」,医科器械学,日本医科器械学会,2003年8月,第73巻,第8号,p.406−414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、非特許文献1に記載の手法では、皮膚組織のうち表皮組織や皮下組織影響が軽減されることがある程度期待できるが、入射された光Rは表皮組織を通過した後、真皮組織を透過し、表皮組織を通過して検出用光ファイバにより検出されるため、真皮組織におけるグルコース濃度を選択的に検出しているとは言い難い。
【0017】
また、入射用光ファイバと検出用光ファイバとの間隔が固定されていると、表皮組織や真皮組織の厚みなど皮膚組織の個人差に対応できずに誤差を生じる要因となってしまう。 さらに、近赤外分光法を用いた生体成分測定装置では数時間おきに検量線再構築のために、血糖値の侵襲測定が必要であった。
【0018】
次に、特許文献1に記載された共焦点光学系を用いた生体成分測定装置は、測定精度は高いが部品点数が多く、光学部品の位置合わせ精度と熟練が要求され、また、組み立てに時間が係り高価であるという問題がある。
【0019】
従って本発明は、共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を基準として近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を校正することにより、非侵襲で簡便な近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法においては、
1)共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて生体の特定成分を測定する工程、
2)近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を用いて前記共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて測定した生体の同部位の特定成分を測定する工程、
【0021】
3)工程1で測定した共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値と、工程2で測定した近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値とを比較し、近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値を用いて生体の特定成分値を共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値に校正する工程、
4)所定時間経過後に前記工程3の作業を少なくとも一度行う工程、
を含むことを特徴とする。
【0022】
請求項2においては、請求項1に記載の近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法において、
前記生体の特定成分は血糖値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したことから明らかなように本発明の請求項1、2によれば、
1)共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて生体の特定成分を測定する工程、
2)近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を用いて前記共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて測定した生体の同部位の特定成分を測定する工程、
3)工程1で測定した共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値と、工程2で測定した近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値とを比較し、近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値を用いて生体の特定成分値を共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値に校正する工程、
4)所定時間経過後に前記工程3の作業を少なくとも一度行う工程、
を含んでいるので、価格の安い近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を用いて共焦点光学系を用いた生体成分測定装置と同等の精度を確保することができ、非侵襲で簡便な近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【図2】近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定方法を示す説明図である。
【図3】共焦点光学系を用いた生体成分測定装置のブロック構成図である。
【図4】生体成分測定装置のデータ解析系のブロック構成図である。
【図5】グルコース濃度と重み付けされた吸光度との検量線の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を基準とした近赤外分光法を用いた生体成分測定装置の非侵襲校正のフローチャートである。
なお、それぞれの生体成分測定装置の構成については従来例で説明したものと同様なのでここでの説明は省略する。
【0026】
また、ステップ1の測定開始に先立って、それぞれの生体成分測定装置により同一の被検者の生体を用いて生体成分(例えば血糖値)の値を測定し、それぞれの生体成分測定装置の値が一致するように調整されているものとする。
なお、調整は例えば一台の共焦点光学系を用いた生体成分測定装置に対して少なくとも一台の近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置に対して行うものとする。そして、実際の測定に際しては共焦点光学系を用いた生体成分測定装置は基準用として測定は行わず、例えば血糖値の測定は近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を用いて行う。
【0027】
ステップ1の測定開始後、所定時間が経過したら、ステップ2において、共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて被検体の例えば血糖値を測定し、同様に同じ被検者の生体を近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を用いて測定する。
【0028】
ぞれぞれの測定値に誤差がない場合はステップ4に進んで計測を継続する。誤差が生じている場合はステップ3に進んで共焦点光学系を用いた生体成分測定装置の測定値に合うように近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の測定値を校正する。
【0029】
校正が終わったらステップ4に進んで計測を継続する。そして所定の時間が経過したらステップ2の動作を繰り返す。
なお、共焦点光学系を用いた生体成分測定装置と近赤外分光法を用いた生体成分測定装置との比較校正の時間間隔は近赤外分光法を用いた生体成分測定装置の検量線が真値とずれる時間を目安に行う。
【0030】
上記の方法によれば、共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を基準とした近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の非侵襲校正が可能となる。
【0031】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば、図3に示す各種レンズは複数枚のレンズの組み合わせであってもよく、図示通りの構成に限るものではない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0032】
1 生体成分測定装置
2 共焦点光学系
3 データ解析系
4 移動駆動機構
22 レーザ
24 ハーフミラー
25 対物レンズ系
26 レンズ系
27 ピンホール
28 受光素子
A 生体
a1 表皮組織
a2 真皮組織
a3 皮下組織
F 焦点位置
Fin 入射用光ファイバ
Fdet 検出用光ファイバ
P プローブ
R 近赤外光
X、Y 表皮表面に平行な平面方向
Z 深さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて生体の特定成分を測定する工程、
2)近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置を用いて前記共焦点光学系を用いた生体成分測定装置を用いて測定した生体の同部位の特定成分を測定する工程、
3)工程1で測定した共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値と、工程2で測定した近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値とを比較し、近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置による測定値を用いて生体の特定成分値を共焦点光学系を用いた生体成分測定装置による測定値に校正する工程、
4)所定時間経過後に前記工程3の作業を少なくとも一度行う工程、
を含むことを特徴とする近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法。
【請求項2】
前記生体の特定成分は血糖値であることを特徴とする近赤外分光分光法を用いた生体成分測定装置の校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−19978(P2012−19978A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160533(P2010−160533)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】