説明

近赤外線カットフィルタガラス

【課題】フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスであってもフツリン酸塩系ガラスと同等程度に耐候性が高く、かつガラスが失透し難く生産性が良好である近赤外線カットフィルタガラスを提供すること。
【解決手段】モル%表示で、P 30〜50%、Al 2〜15%、NaO+KO 7〜40%、CuO 0.1〜25%、BaO 2〜40%、RO+ZnO 10〜40%(ただし、ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量)を含有し、実質的にLiOを含有しないことを特徴とする近赤外線カットフィルタガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルスチルカメラやカラービデオカメラなどの色補正フィルタに使用され、耐候性が良好であり、かつ生産性が高い近赤外線カットフィルタガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ等に使用されるCCDやCMOSなどの固体撮像素子は、可視領域から1100nm付近の近赤外領域にわたる分光感度を有している。したがって、そのままでは良好な色再現性を得ることができないので、赤外線を吸収する特定の物質が添加された近赤外線カットフィルタガラスを用いて視感度を補正している。この近赤外線カットフィルタガラスは、近赤外域の波長を選択的に吸収し、かつ高い耐候性を有するように、フツリン酸塩系ガラスにCuOを添加した光学ガラスが開発され使用されている。これらガラスとしては、特許文献1に組成が開示されている。
特許文献1等に記載のフツリン酸塩系ガラスは、高い耐候性を有するというメリットを備える反面、ガラス溶融・成型中にガラス成分中のフッ素が揮散することで脈理と呼ばれる筋状の不均質層が発生しやすく、ガラスに高い均質性が要求される光学用途においては、製造の難易度が高く収率が低いというデメリットがある。
他方、フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスにより、実用的な耐候性と安定性を有し、低価格で大量生産可能な近赤外線カットフィルタガラスが特許文献2において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−83834号公報
【特許文献2】特開2006−248850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献2に記載のフッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスからなる近赤外線カットフィルタガラスは、ガラスの安定性はよいものの、耐候性の点ではフツリン酸塩系ガラスと比較すると劣っており実用的なガラスとして十分とはいえない。
そこで、本発明者らは、フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスにおいて、フツリン酸塩系ガラスと同等の耐候性を有するガラス組成を探索した結果、特定のガラス組成範囲において、良好な耐候性を有するガラスを見出し、本発明に至った。そしてこのガラスは、安定性が高くガラス溶融・成型時において失透が発生し難いため、生産性も良好であることが確認された。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ガラスの耐候性がフツリン酸塩系ガラスと同等程度に高く、かつガラスが失透し難く生産性が良好なフッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスからなる近赤外線カットフィルタガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ガラス成分において、LiO を含有せず、BaOを含有することでガラスが失透し難く生産性が良好であり、しかもアルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との比率を所定範囲とすることで、耐候性が大幅に向上したガラスが得られることを見出した。
すなわち、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、モル%表示で、
30〜50%、
Al 2〜15%、
NaO+KO 7〜40%、
CuO 0.1〜25%、
BaO 2〜40%、
RO+ZnO 10〜40%(ただし、ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量)
を含有し、実質的にLiOを含有しないことを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、モル%表示で、
(NaO+KO)/RO(ただし、ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量)が0.7〜1.7であることを特徴とする。
また、本発明の近赤外線カットフィルタガラスは、液相温度が1000℃以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスであってもフツリン酸塩系ガラスと同等程度に耐候性が高く、かつガラスが失透し難く生産性が良好である近赤外線カットフィルタガラスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】3成分系のガラスにおける耐候性の傾向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、上記構成により目的を達成したものであり、本発明のガラスを構成する各成分の含有量(モル%表示)を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0010】
は、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であり、また近赤外領域のカット性を高めるための必須成分であるが、30%未満ではガラスの安定性が低く失透が発生し、50%を超えると耐候性が低下するため好ましくない。好ましくは30〜45%である。
【0011】
Al は、ガラスに含有することでガラスの耐候性を著しく向上させる効果がある必須成分であるが、2%未満ではその効果が十分でなく、15%を超えるとガラスの溶解温度が高くなることでガラス中のCuイオンが還元され、可視領域の透過率が下がるため好ましくない。好ましくは5〜10%である。
【0012】
NaOもしくはKOは、ガラスに含有することでガラスの溶解温度を下げ、ガラスの安定性を高める効果がある必須成分であるが、両者の合計量が7%未満ではその効果が十分でなく失透が発生する傾向があり、40%を超えると耐候性が低下するため好ましくない。好ましくは20〜30%である。
【0013】
LiOは、ガラスの溶解温度を下げ、可視領域の透過率の低下を抑制する成分であるが、含有することでガラス溶解・成形時において失透が発生しやすくガラスの安定性が著しく悪化するため、本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては実質的に含有すべきでない。なお、本明細書において、実質的にLiOを含有しないとは、不可避的不純物を除いては、LiOを含有しないことを意味する。
【0014】
BaOは、ガラスに含有することでガラスの耐候性を向上させる必須成分であるが、2%未満ではその効果が十分に得られず、40%を超えるとガラスの安定性が低下し失透が発生する傾向があり好ましくない。好ましくは5〜20%である。
【0015】
RO(ただし、ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量)およびZnOは、溶融性を向上させる成分であるが、その合計量が10%未満ではその効果が十分に得られず、40%を超えるとガラスの安定性が低下し失透が発生するため好ましくない。ROとZnOの合計量は、好ましくは15〜35%であり、より好ましくは24〜30%である。また、ROは、好ましくは20〜30%であり、ZnOは、好ましくは0〜10%である。
【0016】
(NaO+KO)/RO(ただし、ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量)は、0.7〜1.7の範囲を外れると耐候性が著しく悪化するため好ましくない。好ましくは0.7〜1.5である。
これについて、本発明者は、フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスにおけるリン酸、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の3成分が耐候性に与える影響を調査した結果、アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との比率がモル%表示においてほぼ等量である場合に、耐候性が著しく向上することを見出した。その一例として、P−NaO−CaOの3成分系ガラスにおいて、各成分を変化させた際の耐候性の良し悪しの傾向の調査結果を図1に示す。なお、調査したガラスには上記3成分以外には、CuOのみ含有した。ガラスの耐候性は、温度120℃、相対湿度100%の条件下に8時間保持した後のガラスを観察し、それぞれガラスの外観変化を相対的に対比し評価を行った。図1における◎、○、△、×は、良い方から◎、○、△で、×が悪いことを意味する。この評価結果より、詳細な理由は明確にわからないが、リン酸、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の3成分のガラスにおいて、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の比率がモル%表示においてほぼ等量である場合、特異的に耐候性が高いことが確認された。
【0017】
CuOは、ガラスに含有することでガラスに赤外線吸収性能を付与する必須成分であるが、0.1%未満ではその効果が十分でなく、25%を超えるとガラスの安定性が低くなり好ましくない。好ましくは4〜15%である。
【0018】
Sbは、ガラスに含有することで溶解温度を下げ、可視領域の透過率の低下を抑制する成分であり、0.1%未満では効果が十分でなく、環境負荷物質であるため、本発明の近赤外線カットフィルタガラスにおいては含有量はできるだけ抑えることが好ましい。好ましくは0.1〜3%である。
【0019】
本発明のガラスは、液相温度が1000℃以下であることが好ましい。液相温度が1000℃を超えると、ガラスを成形する際、成形温度を高く設定しなければならない。それに伴い、成形されるガラスのガラス中の銅成分の1価と2価との平衡が1価により、波長400nm付近を吸収するため可視域の透過率特性が悪化する。好ましくは900℃以下であり、より好ましくは700〜850℃である。
【0020】
本発明のガラスは次のようにして作製することができる。ます得られるガラスが上記組成範囲となるように原料を秤量、混合する。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において800〜1100℃の温度で加熱溶解する。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、徐冷し、切断・研磨して平板状のサンプルを得る。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例1〜11と比較例1〜4を表1及び表2に示す。なお、表中のガラス組成はモル%で示す。これらガラスは、表に示す組成となるよう原料を秤量・混合し、内容積約300ccの白金ルツボ内に入れて、800〜1100℃で2〜4時間溶融、清澄、撹拌後、およそ300〜500℃に予熱した縦50mm×横50mm×高さ20mmの長方形のモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷してサンプルとした。ガラスは、サンプル作製時に目視で観察し、泡や脈理のないことを確認した。耐候性、液相温度、失透性について以下の方法により評価を行った。
【0022】
耐候性の測定は、厚さが1mmとなるよう両面光学研磨加工した所定形状(20mm×20mm×1mm)のガラスについて、温度120℃、相対湿度100%の条件下に8時間保持した後のガラスを観察し、外観上の変化の有無を判定した。
失透性の測定は、上記条件にてガラスを溶融した際の失透発生の有無を確認した。
液相温度の測定は、白金皿に1cm角のサイコロ状に加工したガラスを載せ、あらかじめ昇温しておいた炉に投入し1時間溶融、その後白金皿を取り出し急冷したガラスを顕微鏡により観察し、結晶の有無を確認する方法において、結晶が発生しない温度の下限であり、かつこの温度より10℃低い温度では結晶が発生する場合をもって液相温度とした。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表1及び表2から明らかなように比較例4のガラスは、実施例のガラスと比べて120℃×100%×8hの高温高湿下においたときにヤケが発生し外観が変化することより耐候性が悪いことがわかる。これは、比較例4のガラスは、実施例のガラスと比べてAlの含有量が低いこと及び(NaO+KO)とROの割合においてアルカリ金属酸化物が多いことがその理由として考えられる。また、比較例1ないし比較例3のガラスは、いずれのガラスも溶融時に失透が発生した。これは、比較例1のガラスはLiOを含有していること及び(NaO+KO)とROの割合においてアルカリ土類金属酸化物が多いこと、また比較例2及び比較例3のガラスはBaOを含有していないことがその理由として考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスであってもフツリン酸塩系ガラスと同等程度に耐候性が高く、かつガラスが失透し難く生産性が良好である近赤外線カットフィルタガラスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%表示で、
30〜50%、
Al 2〜15%、
NaO+KO 7〜40%、
CuO 0.1〜25%、
BaO 2〜40%、
RO+ZnO 10〜40%(ただし、ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量)
を含有し、実質的にLiOを含有しないことを特徴とする近赤外線カットフィルタガラス。
【請求項2】
モル%表示で、
(NaO+KO)/RO(ただし、ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量)が0.7〜1.7であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線カットフィルタガラス。
【請求項3】
液相温度が1000℃以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の近赤外線カットフィルタガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2011−121792(P2011−121792A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278743(P2009−278743)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】