説明

近赤外線・電磁波遮蔽用積層体及びその製造方法

【課題】近赤外線及び電磁波の遮蔽性に優れ廉価な近赤外線・電磁波遮蔽用積層体及びその製造方法の提供。
【解決手段】透明基材の一面上に、酸化タングステン系及び/又はフタロシアニン系近赤外線吸収剤を含む近赤外線遮蔽層を形成し、その上に無電解メッキ用触媒インクを、メッシュパターンに印刷し、その上に無電解金属メッキを施し、必要によりさらに電解金属メッキを施して、電磁波遮蔽用金属メッシュ層を形成して積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイ等に搭載される光学フィルターに好適に使用できる近赤外線・電磁波遮蔽用積層体及びその製造方法に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、近赤外線の遮蔽性、可視光線の透過性及び、電磁波遮蔽性に優れ、かつ、廉価な近赤外線・電磁波遮蔽用積層体、及び前記の特性を有する近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を簡単な製造プロセスにより廉価に製造することができる近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイ装置には、一般に発光モジュールの前面のガラスに、装置から発生する近赤外線および電磁波を遮蔽するための、近赤外線遮蔽層および電磁波遮蔽層を有する近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を含む光学フィルターが設置されている。また、光学フィルターには、近赤外線遮蔽、電磁波遮蔽以外の機能、例えば、視認性の向上のために、反射防止性を付与する手段が含まれることが多い。
【0003】
民主用プラズマディスプレイテレビの普及には、コストダウンが重要であり、光学フィルターにおいても低価格化が要求されている。光学フィルターは、一般に、透明フィルム上に電磁波遮蔽層が積層された電磁波遮蔽性フィルムと、透明フィルム上に近赤外線遮蔽層が積層された近赤外線遮蔽性フィルムと、透明フィルム上に反射防止層が積層された反射防止性フィルムとを含む複数の各種機能性フィルムを貼り合わせて製造されるため、製造工程が多く、生産性が低く、製造コストが高いことなどが問題となっている。
【0004】
また、前記の電磁波遮蔽層には、透明フィルム上に形成された銅箔に、フォトリソプロセスによるエッチングを施して、格子状に形成したエッチングメッシュ膜が使用されることが一般的である。しかし、前記エッチングメッシュ膜の製造には、透明フィルム上にラミネートされた銅箔に、パターニングされたレジスト樹脂膜を形成した前記銅箔にエッチングを施して、メッシュパターンの銅箔層を形成する方法が用いられるため、工程が複雑となり、使用される材料の無駄が多く、製造コストが高いという問題がある。またエッチング条件の管理が難しいために、製造歩留まりが悪く、そのため製造コストがさらに高くなるという問題もある。
【0005】
そこで、製造コスト及び生産性に関する上記問題点を解決するために、電磁波遮蔽層と近赤外線遮蔽層とを、1枚の透明フィルム上に積層することが試みられており、例えば、特開2006−313918号公報(特許文献1)及び特開2006−243757号公報(特許文献2)には、スパッタリングにより銀などの金属や、錫含有酸化インジウムなどの金属酸化物を交互に積層して成膜することにより、近赤外線遮蔽能と電磁波遮蔽能を併せ持つ近赤外線・電磁波遮蔽用積層体が開示されている。また、特開2002−3118433号公報(特許文献3)には、エッチング法により形成された金属薄膜からなるメッシュを、可視光及び/または近赤外の特定波長を吸収する有機系吸収剤が含有されている接着剤または粘着剤を介して、透明フィルム上に積層して製造され、かつ、近赤外線遮蔽能と電磁波遮蔽能を併せ有する近赤外線・電磁波遮蔽用積層体が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2の方法の場合、スパッタリング装置には大規模な真空設備を必要とするため製造コストが高く、さらにプラズマディスプレイに要求される電磁波遮蔽能と近赤外線遮蔽性能を満足に得るためには、電磁波遮蔽層と近赤外線遮蔽層とを7層〜9層以上の多層に積層する必要があるため、十分に製造コストを下げることが難しい。
また、特許文献3の方法の場合、エッチング法を用いて金属薄膜からなるメッシュを形成するため、メッシュ自体の製造コストが高くなり、十分なコスト低減と製造工程の簡略化が期待できない。
【0007】
そこで、1枚の透明フィルム上に近赤外線遮蔽層と電磁波遮蔽層とを積層して、近赤外線遮蔽能と電磁波遮蔽能とを併せ有する近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を廉価に製造する方法として、透明フィルムの表面上に形成された近赤外線遮蔽層上に、量産性に優れ、かつ廉価な印刷法を用いる無電解メッキ処理により金属メッシュ膜を形成する方法が考えられるが、印刷法を用いる無電解メッキ処理による場合、良好な印刷性と密着性を確保するためには、無電解メッキ用触媒インクの受容層が下地として必要となるため、この無電解メッキ用触媒インク受容層に近赤外線吸収剤を含有させることができれば特別な工程を増やさずに複合化が可能となり、大きなコスト低減が期待できるとされている。
しかし、従来、近赤外線吸収剤にはイモニウム類等の有機系色素が使用されているが、これらの有機系色素の耐酸性、及び耐アルカリ性が低いため、無電解メッキ処理などの工程を施すと劣化し、このため近赤外線遮蔽層の上に、金属薄膜からなるメッシュを、印刷法を用いる無電解メッキ処理により形成することが困難であった。
【0008】
【特許文献1】特開2006−313918号公報
【特許文献2】特開2006−243757号公報
【特許文献3】特開2002−311843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、近赤外線の遮蔽性、及び可視光線の透過性に優れ、さらに電磁波遮蔽性にも優れ、かつ、廉価な近赤外線・電磁波遮蔽用積層体、及び前記特性を有する近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を、簡単な工程で、廉価に製造することができる近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題解決のため鋭意検討した結果、特定の近赤外線吸収剤を用いれば、透明フィルムの表面上に形成された近赤外線遮蔽層上に、量産性に優れ、かつ廉価な印刷法を用いる無電解メッキ処理により金属メッシュ膜を形成することが可能になり、特別な工程を増やすことなく、近赤外線の遮蔽性、可視光線の透過性に優れ、電磁波遮蔽性にも優れた近赤外線、電磁波遮蔽用積層体を廉価に製造し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体は、透明基材と、この透明基材の一主面上に形成された近赤外線遮蔽層と、この近赤外線遮蔽層上に形成された電磁波遮蔽用金属メッシュ層とが積層一体化された近赤外線・電磁波遮蔽用積層体であって、
前記の近赤外線遮蔽層は、酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂を含有し、
前記の電磁波遮蔽用金属メッシュ層は、前記近赤外線遮蔽層上に形成されたメッシュ状無電解メッキ用触媒層上に無電解メッキを施して形成されたものであることを特徴とするものである。
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体において、前記電磁波遮蔽用金属メッシュ層が、前記無電解メッキを施した後、さらに電解メッキを施して、形成されたものであることが好ましい。本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法は、透明基材の一主面上に、酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂と、前記の近赤外線吸収剤とバインダー樹脂を溶解または分散する溶剤とを含有する近赤外線遮蔽性組成物を塗布・乾燥して近赤外線遮蔽層を形成する工程と、次に、この近赤外線遮蔽層上に、無電解メッキ用触媒インクをメッシュ状に印刷して無電解メッキ用触媒層を形成し、このメッシュ状無電解メッキ用触媒層上に無電解メッキを施してメッシュ状の無電解メッキ層を形成することを含む電磁波遮蔽用金属メッシュ層形成工程とを含むことを特徴とするものである。
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法の前記電磁波遮蔽用金属メッシュ層形成工程において、前記メッシュ状無電解メッキ層上に電解メッキを施してメッシュ状の電解メッキ層を形成することをさらに含むことが好ましい。
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法の前記電磁波遮蔽用金属メッシュ層形成工程において、前記無電解メッキ用触媒インクの印刷が、グラビア印刷法を用いて施されることが好ましい。
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法において、前記のグラビア印刷法による無電解メッキ用触媒インクの印刷が、グラビア印刷用の版胴上の溝に無電解メッキ用触媒インクをメッシュ状に充填し、これに、前記透明基材上の近赤外線遮蔽層を、所定の時間圧着させ、それによって前記版胴上の無電解メッキ用触媒を前記近赤外線吸収層上に、転写シート(ブランケット)を使用することなく転写することにより施されることが好ましい。
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法において前記無電解メッキ用触媒の転写における前記所定の圧着時間が、0.5秒〜10秒であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
「近赤外線・電磁波遮蔽用積層体」
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の実施形態(1)が、図1に示されている。図1において近赤外線電磁波遮蔽用積層体10は、透明基材2と、この透明基材2上に形成された近赤外線遮蔽層4と、この近赤外線遮蔽層4上に形成された電磁波遮蔽用金属メッシュ層3を有し、これらの層2,3及び4が一体のシート状に積層されている。
【0013】
さらに、図1において、前記の近赤外線遮蔽層4は、酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂から形成され、前記の電磁波遮蔽用金属メッシュ層3は、図2に模式的にその断面が示されているように、前記近赤外線遮蔽層4上に形成された無電解メッキ用触媒層21上に無電解メッキ層22が形成され、必要により、この無電解メッキ層22上に電解メッキ層23が形成されている。
【0014】
前記の近赤外線吸収剤は、耐薬品性の高いもの、特に無電解メッキ用触媒層形成用インク、無電解メッキ浴及び電解メッキ浴に対して高い耐性を有し、かつ、プラズマディスプレイに要求される850nm〜1000nmの近赤外領域における遮蔽能と、可視光域の透過性とに優れている。
【0015】
前記の特性を備えた酸化タングステン系の近赤外線吸収剤としては、例えば、一般式:Wyz〔ただし、Wはタングステン原子を表し、Oは酸素原子を表し、2.2≦z/y≦2.999〕で表されるタングステン酸化物の微粒子、及び、一般式:Mxyz〔ただし、MはH、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIのうちから選択された1種以上の原子を表し、Wはタングステン原子を表し、Oは酸素原子を表し、0.001≦x/y≦1.1,2.2≦z/y≦3.0〕で表される複合タングステン酸化物の微粒子を例示することができ、これらの酸化タングステン系の近赤外線吸収剤は、市販されているものから、適宜に選択して使用することができる。
【0016】
前記近赤外線吸収剤として、酸化タングステン系の近赤外線吸収剤を用いる場合、近赤外線遮蔽層4中の含有量に特に制限はないが、良好な近赤外線遮蔽特性と可視光線透過性を得るには、0.5〜5g/m2であることが好ましく、より好ましくは1〜3g/m2である。これよりも、酸化タングステン系の近赤外線吸収剤の含有量が、1g/m2より低いと近赤外域に十分な遮蔽能が得られず、逆に3g/m2よりも、高いと可視光域の透過率が著しく低下する。
酸化タングステン系の近赤外線吸収剤の平均粒子径は、近赤外線遮蔽性、透明性、塗布性の観点から0.01μm〜0.1μmであることが好ましい。また、酸化タングステン系の近赤外線吸収剤は、透明性の観点から、近赤外線遮蔽層中において、分散粒子径が0.1μm以下になるように分散されていることが好ましい。
【0017】
前記の特性を備えたフタロシアニン系の近赤外線吸収剤としては、例えば、下記の一般式(I)により表される化合物から選ばれるものを例示することができ、市販されているものを好適に用いることができる。
【化1】

一般式(I)において、8個のαは、それぞれ互に独立に、−SR1、−OR2及び、−NHR3基並びにハロゲン原子から選ばれた1員を表し、但し、少なくとも1個のαは、−NHR3基を表し、8個のβは、それぞれ互に独立に、−SR1、−OR2及びハロゲン原子から選ばれた少なくとも1員を表し、但し、少なくとも1個のβは、−SR1または−OR2基を表し、かつ前記8個のα及びβの少なくとも1個は、ハロゲン原子及び−OR2基を表し、
1、R2及びR3は、それぞれ互に独立に、置換基を有する、又は有していないフェニル基、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、及び7〜20個の炭素原子を有するアラルキル基から選ばれる1員を表し、
Mは1個の金属原子、1個以上の水素原子、1個の金属酸化物及び金属ハロゲン化物から選ばれる1員を表す。
【0018】
近赤外線吸収剤として、フタロシアニン類の有機色素を用いる場合、フタロシアニン類は、近赤外線域において、特定の波長に吸収ピークを有するものが多いため、遮蔽を必要とする波長に応じて、使用するフタロシアニン類の種類を選択する必要がある。また、プラズマディスプレイに要求される850nm〜1000nmの波長を十分に遮蔽するには、2種類以上のフタロシアニン類を併用することが好ましい。
近赤外線遮蔽層4中に含まれるフタロシアニン類の含有量には特に制限はないが、良好な近赤外線遮蔽特性と可視光線透過性を得るには、0.01〜2g/m2であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1g/m2である。含有量が0.01g/m2よりも低いと近赤外域に十分な遮蔽能が得られないことがあり、逆に2g/m2よりも、含有量が高いと可視光域の透過率が著しく低下することがある。
【0019】
近赤外線吸収剤として、上述の酸化タングステン系近赤外線吸収剤とフタロシアニン系近赤外線吸収剤とを併用してもよい。酸化タングステン系近赤外線吸収剤とフタロシアニン系近赤外線吸収剤を併用する場合の含有量及び配合比率は、所望の近赤外線遮蔽能と可視光線透過率が得られるように適宜に設定が可能であり、所望性能に応じて、適宜調製すればよい。
【0020】
前記近赤外線遮蔽層用のバインダー樹脂としては、耐薬品性の高いもの、特に無電解メッキ用触媒層形式用インク、無電解メッキ浴及び電解メッキ浴に対して高い耐性を有する樹脂を用いることが好ましく、例えば、エチルセルロース、プロピルセルロース等のセルロース系誘導体、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、及びロジンエステル樹脂等の1種以上を用いることができ、2種類以上が混合されていてもよい。
【0021】
また、前記のバインダー樹脂として、特に、例えばポリビニルブチラール樹脂等のように、適度の柔軟性を有する樹脂を使用することが好ましい。近赤外線遮蔽層4が適度な柔軟性を有すると、本発明の下記製造方法において好適に使用されるグラビア印刷において、無電解メッキ用触媒インクが胴版から近赤外線遮蔽層4上に転写される際、近赤外線遮蔽層4が、胴版の画像部(溝)に追従して十分に接触し、且つ溝中に進入することができることにより、転写性も良好となる。
【0022】
近赤外線遮蔽層4は、上述のとおり、無電解メッキ用触媒インクを印刷する時に、受容層としての働きを有することが好ましく、また、所定のパターンに従って印刷された無電解メッキ用触媒インク層21の垂れ、滲みの防止効果と、前記近赤外線遮蔽層4と印刷された無電解メッキ用触媒インク層21の密着強度を向上させる働きが必要である。したがって、無電解メッキ用触媒インクを印刷する時の受容層としての性能を高めるために、酸化物微粒子(以下、「触媒インク受容用酸化物微粒子」と記す場合がある)が添加されていることが好ましい。このような触媒インク受容用酸化物微粒子としては、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)等を例示することができ、2種類以上の酸化物微粒子を混合して用いてもよい。これらの触媒インク受容用酸化物微粒子の平均粒子径は0.01μm〜5μmであることが好ましく、より好ましくは平均粒子径が0.01μm〜0.1μmの触媒インク受容用酸化物微粒子を用い、その分散粒子径が0.1μm以下となるように近赤外線遮蔽層4中に分散させると、得られる近赤外線遮蔽層4の透明性、密着性が向上するので好ましい。
触媒インク受容用酸化物微粒子の、近赤外線遮蔽層4中における含有量としては、50重量%以下であることが好ましい。それが50重量%を超えると、近赤外線遮蔽層4の透明性が低下するので好ましくない。
【0023】
近赤外線遮蔽層において、フィラー(近赤外線吸収剤又は近赤外線吸収剤と触媒インク受容用酸化物微粒子との混合物を表す)とバインダー樹脂との配合比率は、質量比で、90/10〜10/90であることが好ましく、フィラーの比率が90/10よりも高いと、透明基材1と近赤外線遮蔽層4との密着強度が弱くなり、また、透過率も低下してヘーズ値が高くなることがある。逆にフィラーの比率が10/90よりも低いと、密着強度が弱くなり、かつ無電解メッキ用触媒インクの受容層としての効果が低くなり、無電解メッキ触媒層21を形したとき、これに垂れ、滲みなどを発生することがある。
【0024】
また、近赤外線遮蔽層4の厚さは、0.5〜5μmであることが好ましく、より好ましくは1〜3μmである。近赤外線遮蔽層4の厚さが0.5μmよりも薄いと、無電解メッキ用触媒インクの受容層としての効果が不十分になることがあり、近赤外線遮蔽層4の厚さが5μmよりも厚いと無電解メッキ触媒層21に割れを発生することがある。
【0025】
前記の透明基材1としては、透明プラスティック、透明プラスティックボード、ガラス等を例示することができる。
前記の透明プラスティック、透明プラスティックボードの材質としては、光学的特性、機械的特性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、テレフタル酸−イソフタル酸−エチレングリコール共重合体、テレフタル酸−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール共重合体などのポリエステル系樹脂、ナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いることが好ましい。
【0026】
前記のメッシュ状パターンの無電解メッキ用触媒層21は、例えば、触媒作用を有する貴金属超微粒子を担持している酸化物微粒子(以下、「担持用酸化物微粒子」と記すことがある)と、黒色顔料と、高分子樹脂から構成されるインクにより形成される。
前記の触媒作用を有する貴金属超微粒子としては、例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)等があげられ、2種類以上の貴金属が混合されて用いられてもよい。
また、前記の担持用酸化物微粒子としてはアルミナ(Al23)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)等があげられ、2種類以上の担持用酸化物微粒子が混合されていてもよい。
【0027】
前記貴金属超微粒子と前記担持用酸化物微粒子との質量比率は0.5/99.5〜5/95であることが好ましく、より好ましくは1/99〜2/98である。貴金属超微粒子の質量比率が0.5/99.5よりも低いと無電解メッキの触媒として機能しないこともあり、またそれが5/95よりも高いと、必要以上に高価な貴金属を使用することとなりコストアップの原因となる。
また、貴金属超微粒子を担持用酸化物微粒子に担持させることにより、触媒インクのチクソトロピー性が増大して、印刷適性が向上し、良好な印刷形状が得られる。
【0028】
前記の黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、チタンブラック等があげられる。前記黒色顔料の無電解メッキ用触媒層中における含有量は0.03〜3.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量%である。その含有量が0.03質量%よりも少ないと、無電解メッキ用触媒層裏面のメッシュの黒色度が不足することがあり、ディスプレイに搭載した場合、良好なコントラストが得られないことがある。また、それが30質量%よりも高いと、無電解メッキ用触媒層裏面のメッシュの黒色度は良好で、良好なコントラストも得られるが、印刷性が不十分になることがある。
【0029】
前記無電解メッキ用触媒インクに含まれる高分子樹脂としては、本発明の製造方法に用いる印刷方に適性があり、アルカリ性の無電解メッキ液に対する耐性の高い樹脂であればよく、例えばエチルセルロース、ロジンエステル系樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いることができ、これらの2種類以上を混合して用いてもよい。上記の高分子樹脂の中でもエチルセルロースを用いるとグラビア印刷に好適である。
また、前記の貴金属超微粒子を担持している酸化物微粒子と、高分子樹脂との配合比率は、質量比で40/60〜80/20であることが好ましく、より好ましくは60/40〜70/30である。酸化物微粒子の比率が60/40よりも低いと含まれている貴金属超微粒子が高分子樹脂でほとんど覆われてしまい、無電解メッキの触媒として機能しないことがあり、70/30よりも高いと印刷性が不良になり、且つ高分子樹脂による近赤外線遮蔽層の硬化、近赤外線遮蔽層との密着性が不十分になることがある。
【0030】
前記のメッシュ状パターンの無電解メッキ用触媒層のメッシュ空孔率の形状には制限はなく、例えば、正三角形、二等辺三角形、直角三角形などを包含する三角形、正方形、長方形、平行四辺形、菱形、台形などを包含する四角形、六角形、八角形、十二角形などを包含する他の多角形、円、楕円などであることができ、これらのいずれか単独からなるパターンの繰り返し、あるいはこれらの2種以上を組み合わせて構成することもできる。
【0031】
前記のメッシュ状パターンの無電解メッキ用触媒層21上に、無電解メッキ法による無電解メッキが施され無電解金属メッキ層22が形成される。この無電解メッキ層22を構成する金属としては、例えば、銅(Cu)、及びニッケル(Ni)などがあげられる。
そして、必要により、この無電解メッキ層22上に、電磁波を有効に遮蔽する能力を更に高めるために電解メッキ法により所望の厚さの電解メッキ層23が形成される。この電解メッキ層23を構成する金属としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などがあげられる。
前記の無電解メッキ層22と電解メッキ層23との合計厚さは、通常30μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以上5μm以下である。
前記の電磁波遮蔽用金属メッシュパターン層の再外表部は、可視光の反射を抑え、コントラストを高めて視認性を向上させるために、黒色の層であることが好ましい。
【0032】
このように前記の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体10における電磁波遮蔽用メッシュ層は、無電解メッキ用触媒層21の表面に、無電解メッキによる第1の導電層として、無電解メッキ層22を形成し、及び必要に応じて電解メッキによる第2の導電層として、電解メッキ層により構成される。
導電性の電磁波遮蔽用メッシュ層の金属線により構成されるメッシュ組織において、金属線の間隔が通常約100〜500μm、また金属線幅が通常約10〜80μmであることが好ましく、より好ましくは、線の間隔が約125〜500μmで、線の幅が約10〜40μmである。金属線の間隔が500μmより大きいと、メッシュ状パターンが目に付きやすくなってディスプレイ画面の視認性が低下する傾向を生ずることがあり、一方、100μmより小さいと、メッシュ状パターンが細かくなって可視光線の透過率が低下し、ディスプレイ画面が暗くなる傾向を生ずることがある。
【0033】
また、金属線幅が約80μmを越えると、メッシュ状パターンが目立ちやすくなってディスプレイ画面の視認性が低下する傾向にあり、また金属線幅が約10μmより小さいメッシュ状パターンは、その形式が難しくなる傾向にあるので、金属線幅が通常10μm以上80μm以下であることが好ましい。金属線の厚さは、約1μm以上であることが好ましいが、通常は約30μm以下であることが好ましい。金属線の厚さが約1μmより小さいと、電磁波の遮蔽が不十分となることがあり、また線間隔を調整して明るさ(光線透過率)を同じようにする場合、印刷は難しくなるが、金属線幅を40μm以下程度に設定し、金属線間隔を狭くする方が、電磁波遮蔽能が大きくなるので好ましい。なお、正方形以外のパターンの場合、その線間隔は正方形に換算した値であり、これは金属線幅及び光線透過率の測定値から求められる。
【0034】
なお、必要により図1に示されているように前記の電磁波遮蔽用メッシュ層3上に、粘着層6を介して機能層5を積層してもよく、この機能層5は、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体10の光学特性の改善や、保護機能、機械的強度向上等のように、上述の層構成からは実現できないその他の機能を、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体10に付与するためのものである。この機能層5の具体例としては、反射防止機能層、防眩機能層、ネオン光遮蔽機能層、紫外線吸収機能層、傷つき防止機能のためのハードコート層等の公知の機能層を例示することができる。
なお、前記の機能層5は、前記透明基材1の裏面、即ち、透明基材1の、近赤外線遮蔽層4が積層されていない他の主面上に、粘着層6を介して積層されていてもよい。
【0035】
前記粘着層6を構成する粘着剤には、特に制限はなく、公知の粘着剤として慣用されているもののなかから、適度な粘着性、透明性、塗布性を有し、酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と反応して近赤外線及び可視光線領域の透過スペクトルに影響を与えないものを適宜選択して用いることができる。
このような粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等を例示することができ、特に、耐光性が良好なアクリル系粘着剤が好ましい。
【0036】
上記のような構成を有する、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体は、近赤外線吸収剤として、耐酸性、耐アルカリ性に優れた酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤を用いているため、無電解メッキ処理などの工程により劣化することがなく、近赤外線遮蔽性、可視光線の透過性においては850nm〜1000nmの近赤外線領域の透過率が10%以下であり、全光線透過率が40%以上という優れた性能を有し、さらに電磁波遮蔽性においても30〜1000MHzにおける電磁波シールド性が50dB以上の優れた性能を有し、しかも優れた廉価性を有しており、プラズマディスプレー等に搭載される光学フィルターとして好適に用いることができる。
【0037】
「近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法」
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を製造するための本発明方法は、透明基材の一主面上に、酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂と、前記の近赤外線吸収剤とバインダー樹脂を溶解または分散する溶剤とを含有する近赤外線遮蔽性組成物を、塗布し、塗布膜を乾燥して、近赤外線遮蔽層を積層する工程と、この近赤外線遮蔽層上に、無電解メッキ用触媒インクをメッシュ状に印刷し、必要により乾燥して無電解メッキ用触媒層を形成し、このメッシュ状の無電解メッキ用触媒層上に無電解メッキを施してメッシュ状の無電解メッキ層を形成する電磁波遮蔽用金属メッシュ層形成工程と、を含むものであり、必要に応じて、前記のメッシュ状無電解メッキ層上に電解メッキを施してメッシュ状の電解メッキ層を形成する工程が付加される。
【0038】
以下、各工程ごとに、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法について詳述する。
近赤外線遮蔽性組成物の調製
酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂と、必要に応じて酸化物微粒子とを、前記の近赤外線吸収剤とバインダー樹脂と酸化物微粒子を溶解または分散する溶剤に混合して近赤外線遮蔽性組成物を調製する。
混合方法は特に制限はなく、従来公知の各種混合法を適宜採用することができる。
【0039】
前記の近赤外線遮蔽性組成物中における、前記酸化タングステン系の近赤外線吸収剤、バインダー樹脂、触媒インク用酸化物微粒子の添加量には特に制限はなく、所望の特性の近赤外線遮蔽層が得られるように適宜設定すればよい。
近赤外線遮蔽性組成物に用いられる溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系、シクロヘキサノン等の環化脂肪族系、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系、イソプロピルアルコール等のアルコール系の溶剤が使用可能であり、近赤外線吸収剤および触媒インク用酸化物微粒子の分散が可能で、前記バインダー樹脂を溶解可能であれば特に限定されない。また触媒インク用酸化物微粒子の分散をしやすくするためにリン酸エステル系の分散剤等を添加してもよい。
【0040】
近赤外線遮蔽層の形式
前記近赤外線遮蔽性組成物を透明基材の一主面上に塗布し、塗布膜を乾燥して、近赤外線遮蔽層を透明基材の一主面上に形成積層する。
【0041】
近赤外線遮蔽性組成物を、透明基材の一主面上に塗布する塗工方法としては、グラビア印刷、バーコート印刷、オフセット印刷等の従来公知の塗工方法を採用することができる。
前記の塗布膜の乾燥方法も特に制限されるものでなく、近赤外線遮蔽層中に残留する溶剤量が3質量%以下、好ましくは1質量%以下となるまで乾燥するのが好ましい。近赤外線遮蔽層中に残留する溶剤量が3質量%を超えると、長期の近赤外線遮蔽性が低下する虞がある。
【0042】
無電解メッキ用触媒層の形成
前記近赤外線遮蔽層上に無電解メッキ用触媒インクを所望のメッシュパターンをもって印刷し、必要により乾燥してメッシュ状の無電解メッキ用触媒層を形成する。
前記の無電解メッキ触媒インクは、例えば、前述のとおり、触媒作用を有する貴金属超微粒子が担持された酸化物微粒子と、黒色顔料と、高分子樹脂と溶剤とを含むものである。
【0043】
前記の無電解メッキ用触媒インクの有機溶剤としては、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、α−テルピネオール等があげられ、前記高分子樹脂を溶解可能で、用いる印刷法に適正があれば特に限定されない。
【0044】
また、無電解メッキ用触媒インクの粘度は1〜500Pa・sであることが好ましく、より好ましくは50〜200Pa・sである。無電解メッキ用触媒インクの粘度が500Pa・sよりも高いと、本発明の製造方法において好適に用いられるグラビア印刷において、均一に無電解メッキ用触媒インクを供給することができず、印刷ムラを発生することがある。一方、無電解メッキ用触媒インクの粘度が1Pa・sよりも低いと無電解メッキ用触媒インクのチクソトロピー性が不十分になり、糸引き等を生じて良好な印刷形状が得られないことがある。
【0045】
無電解メッキ用触媒層中における前記高分子樹脂の含有量としては1〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは6〜10質量%である。前記高分子樹脂の含有量が15質量%よりも多いと無電解メッキ用触媒インクの粘度が高くなり過ぎ、印刷が困難になることがあり、前記高分子樹脂の含有量が1質量%よりも低いと、無電解メッキ用触媒インクの粘度が低くなり過ぎ、これも印刷に不適当になることがある。
【0046】
無電解メッキ用触媒インクを、前記近赤外線遮蔽層上にメッシュ状に印刷する方法としては、グラビア印刷法を用いることが好ましく、しかも、ラビア印刷用の版胴上の無電解メッキ用触媒インクに、前記透明基材上の近赤外線遮蔽層を、例えば0.5〜10秒間圧着させることにより、前記無電解メッキ用触媒を前記近赤外線吸収層に転写する方法、すなわちグラビア直刷り法を用いることが好ましい。
【0047】
図3は、このようなグラビア直刷り法の概要を説明するための説明図である。図3においてグラビア直刷機30は、第1バックアップロール31、グラビア版32、ドクターブレード33、第2バックアップルール34を含むものである。第1及び第2バックアップロール31,34の位置を、印刷速度に応じて、一定の圧着時間が得られるように調整することにより、転写シート(即ちブランケット)を使用することなく、グラビア版32から直接、透明基材上の近赤外線遮蔽層35上に、無電解用触媒インク36を転写し、無電解メッキ用触媒層38を形成することが可能となっている。
【0048】
前記の圧着時間が0.5秒よりも短ければ、近赤外線遮蔽層への溶剤の吸収が不十分となって版の溝に充填された無電解メッキ用触媒インクの粘度が高くならず、糸引き等が発生して良好な印刷形状が得られないことがある。圧着時間が10秒よりも長いと、逆に溶剤が吸収され過ぎて、無電解メッキ用触媒インクの粘度が高くなり過ぎ、近赤外線遮蔽層上への無電解メッキ用触媒インク転写が困難となることがある。
【0049】
このようなグラビア直刷り法を採用することにより、無電解メッキ用触媒インクの近赤外線遮蔽層への転写性と転写率が向上する。
また、グラビア版の溝の深度を調整することにより、ブランケットを使用する通常のグラビア印刷に比べて、より厚い厚さのインク層を印刷することが可能となり、触媒の単位面積当りの付和量が増加し、それによって、無電解メッキによる金属の析出が容易となる。
更に、転写シート(即ち、ブランケット)を使用せずに無電解メッキ用触媒インクを転写するようにしているので、メッシュを構成する格子線が連続したメッシュ状パターンを形成することができ、製品の製造歩留りが向上する。
【0050】
また、このようなグラビア直刷り法によれば、グラビア版と近赤外線遮蔽層とを一定時間圧着させることにより、グラビア版の溝に充填された無電解メッキ用触媒インク中の溶剤が受容層である近赤外線遮蔽層中に吸収され、無電解メッキ用触媒インクの粘度が急激に高くなり、そのため溝に充填された無電解メッキ用触媒インクは、グラビア版の画像形状をそのままに維持して、近赤外線遮蔽層側に転写される。
また、近赤外線遮蔽層に吸収された溶剤は、一旦、近赤外線遮蔽層表面のバインダー樹脂を溶解し、この溶解バインダー樹脂層と印刷された無電解メッキ用触媒インク層とがその界面で相溶するため、乾燥後の、近赤外線遮蔽層と無電解メッキ用触媒層との密着強度が強くなる。印刷後に乾燥するときは、印刷された無電解メッキ用触媒層の乾燥割れを考慮して、100℃以下で行うことが好ましい。
【0051】
このようなグラビア直刷り法を採用することにより、線幅が10〜20μm前後の微細なパターンを高速で、例えば30m/分前後という高速で、設計された画像形状を維持したまま、近赤外線遮蔽層上に印刷することができる。
【0052】
無電解金属メッキ層の形状
前記メッシュ状の無電解メッキ用触媒層上に、無電解メッキを施してメッシュ状の無電解メッキ層を形成する。
本発明方法に用いられる無電解メッキには、従来公知の無電解メッキ法を採用することができ、例えば、無電解銅メッキ浴、またはニッケルメッキ浴中において、メッシュ状の無電解メッキ用触媒層上に金属を析出させる。
【0053】
電解金属メッキ層の形状
前記メッシュ状の無電解金属メッキ層上に必要に応じて電解メッキを施して、電解金属メッキ層を形成し、電磁波遮蔽層の導電性を更に向上させてその電磁波遮蔽効果を高めることができる。
電解メッキ方法としては、従来公知の無電解メッキ法を採用することができ、無電解メッキ層上に析出させる金属としては、例えば銅、またはニッケルを用い、導電性及び耐久性に優れた電解金属メッキ層を形成することができる。
【0054】
上述の方法により製造された前記電磁波遮蔽用金属メッシュ層の最外表部は、可視光の反射を抑え、コントラストを高めて視認性を向上させるため、黒色の層であることが好ましい。最外表部に黒色の層を形成するには、黒色金属層又は黒色電着層で被覆する方法や、酸化又は硫化処理による黒色化方法などが採用できる。
黒色金属層で被覆するには、例えば、黒色ニッケルメッキ処理やクロメートメッキ処理、スズ、ニッケル及び銅を用いる黒色三元合金メッキ処理、スズ、ニッケル及びモリブデンを用いる黒色三元合金メッキ処理などを施せばよい。
【0055】
また、黒色電着層は、電着により設けられる黒色の層であって、例えば、黒色顔料が電着樹脂中に分散されている黒色塗料を用いて電着塗装することにより、形成することができる。黒色顔料としては、例えばカーボンブラックなどが挙げられ、導電性を有する黒色顔料を用いることが好ましい。電着樹脂は、アニオン系樹脂であってもよいし、カチオン系樹脂であってもよく、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる、これらの電着樹脂は、それぞれ単独で又は2種以上混合して用いることができる。さらに、金属表面を酸化処理又は硫化処理によって黒色化することもできる。黒色化のための酸化処理や硫化処理は、それぞれ公知の方法で行うことができる。
【0056】
本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法によれば、近赤外線吸収剤として、耐酸性、耐アルカリ性に優れた酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤を用いているため、量産性に優れて廉価な印刷法を用いた無電解メッキ処理により金属メッシュ膜を設計どおりの微細なパターンで形成することができ、特別な工程を増やすことなく、近赤外線の遮蔽性、可視光線の透過性に優れ、電磁波遮蔽性にも優れた近赤外線・電磁波遮蔽用積層体が廉価に製造することが可能になる。
【実施例】
【0057】
下記に実施例及び比較例を掲げ、本発明を詳細に説明する。
【0058】
(実施例1)
酸化タングステン系の近赤外線吸収剤として、住友金属鉱山(株)製のタングステン複合酸化物(Cs0.33WOx(ただし、x=2.2〜2.99))分散液(固形分:18.5質量%)を用いた。
ポリビニルブチラール240gをメチルエチルケトン1800g中に溶解した後、得られたタングステン複合酸化物分散液の1297gとシクロヘキサノン552gとをトルエン2111gに加え、ホモジナイザーで混合して近赤外線遮蔽塗料を調製した。
得られた近赤外線遮蔽塗料を125μm厚のPETフィルム上にマイクログラビア印刷により塗工し、大気雰囲気中において、120℃の温度下で2分間乾燥して、前記PETフィルム上に積層された膜厚2μmの近赤外線遮蔽層を有する近赤外線遮蔽性PETフィルムを得た。
【0059】
次に、パラジウム超微粒子3.5gと、γ−アルミナ微粒子171.5gとを、アルコール中に分散、凝集させ、これを固液分離させた後、乾燥し、パラジウム超微粒子を担持しているγ−アルミナ微粒子を得た。一方、エチルセルロース樹脂90gを、α−テルピネオール472g及びブチルカルビトールアセテート236gの混合液中に溶解した後、これに前記のパラジウム超微粒子を担持しているγ−アルミナ微粒子と、カーボンブラック9gとを加え、三本ロールミルで混合、分散し、無電解メッキ用触媒インクを調製した。
【0060】
得られた無電解メッキ触媒インクを、前記の近赤外線遮蔽性PETフィルムの近赤外線遮蔽層上に、図3のグラビア印刷法により10m/分の印刷速度(圧着時間は2秒間)で、線幅L/ピッチS=20/280μmのメッシュパターンに印刷して無電解メッキ用触媒層を形成し、これを大気雰囲気中、80℃の温度下で5分間乾燥した。無電解メッキ用触媒層が近赤外線遮蔽層上に積層されている近赤外線遮蔽性PETフィルムを得た。得られた印刷メッシュの形状は非常に良好で外観上の問題は無かった。
【0061】
前記無電解メッキ用触媒層が積層されている近赤外線遮蔽性PETフィルムを、奥野製薬(株)製の無電解銅メッキ液、OPC−750中に、25℃で40分間侵漬、メッシュ状パターンの無電解メッキ用触媒層上に銅を析出させた。得られたメッシュ状パターンの無電解銅メッキ層の表面に、ニッケル/錫の合金メッキを施してそれを黒色化させた。近赤外線・電磁波遮蔽用積層体が得られた。
【0062】
実施例1の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を評価した。評価結果を表1に示す。なお、評価項目及び評価方法は、下記のとおりである。
(1)外観観察:近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を目視観察し、メッシュ状パターンに断線、滲み、変色が認められないものを「問題なし」と評価し、変色が認められたものを「変色」と評価した。
(2)線幅L/ピッチS:光学顕微鏡で観察して、線幅L及びピッチSを、それぞれ10箇所測定し、平均の線幅L/ピッチSを算出した。
(3)シート抵抗:JIS K−7194「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に定められる測定方法に従って測定した。
(4)光学特性:日本分光(株)製の分光光度計(UV/VIS/NIR Spectrometer V−570)を使用して全光線透過率、850nm、950nmでの透過率、透過スペクトルを測定した。
実施例1の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の、透過スペクトルデータを図5に示す。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽性PETフィルムを製造した。但し、アルミナ(触媒インク受容用酸化物微粒子)粉末60g、リン酸エステル系分散剤7gをトルエン333g中に入れ、サンドミルによりアルミナ分散液を作製し、ポリビニルブチラール240gをメチルエチルケトン1800gに溶解させた後、前記タングステン複合酸化物分散液1297gと前記アルミナ分散液とシクロヘキサノン552gとトルエン1711gを加え、ホモジナイザーで混合し、近赤外線遮蔽塗料を調製した。
【0064】
次に、実施例1と同様にして、無電解メッキ用触媒層が近赤外線遮蔽層上に積層された近赤外線遮蔽性PETフィルムを製造した。得られた印刷メッシュの形状は非常に良好で外観上の問題は無かった。
この無電解メッキ用触媒層を有する近赤外線遮蔽性PETフィルムから、実施例1と同様にして、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を製造した。この近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
実施例1と同様にして、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を製造した。但し、フタロシアニン系の近赤外線吸収剤として、IR−10A(日本触媒製)、TX−EX−906B(日本触媒製)、TX−EX−910B(日本触媒製)、を用い、IR−10A 16.8g、TX−EX−906B 9g、TX−EX−910B 15gをメチルエチルケトン1200gに溶解し、フタロシアニン溶液を調製した。またアルミナ粉末(触媒インク受容用酸化物微粒子)60g、リン酸エステル系分散剤7gをトルエン333g中に入れ、サンドミルによりアルミナ分散液を作製した。
また、ポリビニルブチラール240gをメチルエチルケトン1800g中に溶解し、この溶液に前記フタロシアニン溶液と、前記アルミナ分散液と、シクロヘキサノン552gと、トルエン1767.2gとを加え、均一に混合し、近赤外線遮蔽塗料を調製した。
この近赤外線遮蔽塗料を用いて、実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽性PETフィルムを作製した。
【0066】
次に、実施例1と同様にして、無電解メッキ用触媒層が近赤外線遮蔽層上に積層されている近赤外線遮蔽性PETフィルムを作製した。得られた印刷メッシュの形状は非常に良好で外観上の問題は無かった。
さらに、実施例1と同様にして、前記無電解メッキ用触媒層付き近赤外線遮蔽性PETフィルムから、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を製造した。この近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
実施例1と同様にして、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を製造した。但し、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の無電解メッキ層上に、奥野製薬(株)製の電気銅メッキ液、トップルチナSFを用い、25℃の温度下、3A/dm2、5分間の条件下で電気銅メッキを施した。さらに、この電気銅メッキ層上に、ニッケル/錫の合金メッキを施して、メッシュ表面を黒色化させて近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を得た。
この近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0068】
(実施例5)
近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を実施例4と同様にして製造し評価した。但し、メッシュパターン状の無電解メッキ用触媒層の線幅L/ピッチSを、10/290μmに変更した。評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例6)
近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を実施例14と同様にして製造し、評価した。但し、無電解メッキ用触媒インク中のアルミナ粉末をジルコニア粉末に変更し、また、メッシュパターン状の無電解メッキ用触媒層の線幅L/ピッチSを10/290μmに変更し、更に、印刷速度を20m/分に変更した。評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を、実施例1と同様にして製造し、評価した。但し、近赤外線吸収材料として、ジイモニウム色素CIR−1085(日本カーリット製)を用い、CIR−1085を36gをメチルエチルケトン1200gに溶解し、ジイモニウム溶液を調製した。またアルミナ粉末60g、リン酸エステル系分散剤7gをトルエン333g中に入れ、サンドミルによりアルミナ分散液を作製した。さらに、ポリビニルブチラール240gをメチルエチルケトン1800gに溶解させた後、これに前記ジイモニウム溶液と前記アルミナ分散液とシクロヘキサノン552gとトルエン1772gとを加え、混合して近赤外線遮蔽塗料を調製した。
この近赤外線遮蔽塗料を用いて、実施例1と同様にして、近赤外線・電磁波遮蔽用積層体を製造した。この近赤外線・電磁波遮蔽用積層体においては、近赤外線遮蔽層が変色しており、外観上の不具合を生じていた。評価結果を表1を示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から、明らかなように、実施例1〜6の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体は、比較例のそれと比較して、近赤外線吸収剤の劣化がなく、外観上の問題(変色)が発生せず、光学特性も優れたもの(波長850nm及び950nmにおける透過率が低く、すなわち近赤外線領域における遮蔽性が良好)であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の一例の断面説明図。
【図2】本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の一例の要部の断面説明図。
【図3】本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法の一例において無電解メッキ触媒インクの印刷に用いられるグラビア直刷様の構造を示す説明図。
【図4】本発明の近赤外線電磁波遮蔽用積層体の電磁波遮蔽層のメッシュパターンの一例を示す平面写点図。
【図5】本発明の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の一例(実施例1)の透過スペクトルを示す線図。
【符号の説明】
【0074】
10 近赤外線・電磁波遮蔽用積層体
2 透明基材
3 電磁波遮蔽用金属メッシュ層
4 近赤外線遮蔽層
5 機能層
6 粘着層
21 無電解メッキ用触媒層
22 無電解メッキ層
23 電解メッキ層
30 グラビア直刷機
31 第1バックアップロール
32 グラビア版
33 ドクターブレード
34 第2バックアップロール
35 近赤外線遮蔽層付き透明基材
36 無電解メッキ用触媒インク
37 圧着年分
38 無電解メッキ用触媒インク層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、この透明基材の一主面上に形成された近赤外線遮蔽層と、この近赤外線遮蔽層上に形成された電磁波遮蔽用金属メッシュ層とが積層一体化された近赤外線・電磁波遮蔽用積層体であって、
前記の近赤外線遮蔽層は、酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂を含有し、
前記の電磁波遮蔽用金属メッシュ層は、前記近赤外線遮蔽層上に形成されたメッシュ状無電解メッキ用触媒層上に無電解メッキを施して形成されたものであることを特徴とする近赤外線・電磁波遮蔽用積層体。
【請求項2】
前記電磁波遮蔽用金属メッシュ層が、前記無電解メッキを施した後、さらに電解メッキを施して、形成されたものである、請求項1に記載の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体。
【請求項3】
透明基材の一主面上に、酸化タングステン系及び/またはフタロシアニン系の近赤外線吸収剤と、バインダー樹脂と、前記の近赤外線吸収剤とバインダー樹脂を溶解または分散する溶剤とを含有する近赤外線遮蔽性組成物を塗布・乾燥して近赤外線遮蔽層を形成する工程と、次に、この近赤外線遮蔽層上に、無電解メッキ用触媒インクをメッシュ状に印刷して無電解メッキ用触媒層を形成し、このメッシュ状無電解メッキ用触媒層上に無電解メッキを施してメッシュ状の無電解メッキ層を形成することを含む電磁波遮蔽用金属メッシュ層形成工程とを含むことを特徴とする近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法。
【請求項4】
前記電磁波遮蔽用金属メッシュ層形成工程において、前記メッシュ状無電解メッキ層上に電解メッキを施してメッシュ状の電解メッキ層を形成することをさらに含む、請求項3に記載の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法。
【請求項5】
前記電磁波遮蔽用金属メッシュ層形成工程において、前記無電解メッキ用触媒インクの印刷が、グラビア印刷法を用いて施される、請求項3に記載の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法。
【請求項6】
前記のグラビア印刷法による無電解メッキ用触媒インクの印刷が、グラビア印刷用の版胴上の溝に無電解メッキ用触媒インクをメッシュ状に充填し、これに、前記透明基材上の近赤外線遮蔽層を、所定の時間圧着させ、それによって前記版胴上の無電解メッキ用触媒を前記近赤外線吸収層上に、転写シート(ブランケット)を使用することなく転写することにより施される、請求項5に記載の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法。
【請求項7】
前記無電解メッキ用触媒の転写における前記所定の圧着時間が、0.5秒〜10秒である、請求項6に記載の近赤外線・電磁波遮蔽用積層体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−211010(P2008−211010A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46746(P2007−46746)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】