説明

近赤外線吸収能を有する反射防止材

【課題】近赤外線吸収剤として酸化タングステン系粒子を使用して、透明性に優れ、反射色味が青色を示さない、画像表示装置用前面フィルターに用いられる近赤外線吸収能を有する反射防止材を提供すること。
【解決手段】基材の一方の面に、樹脂と酸化タングステン系化合物粒子からなる近赤外線吸収剤を含む近赤外線吸收層、及び紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の光をより強く反射する、該近赤外線吸收層よりも低屈折率の層、が順次積層されることを特徴とする反射防止材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止材に関し、特にはプラズマディスプレイパネル(以下「PDP」ともいう。)用のフィルターとして特に優れる近赤外線吸収能を有する反射防止材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの大型化、薄型化に伴い、PDPが注目を集めている。PDPは近赤外線を発することが知られており、近赤外線によって、コードレスホン、近赤外線リモートコントロール装置を使用するビデオデッキなど、周辺にある電子機器に悪影響を及ぼし、正常な動作を阻害するおそれがあった。そこで、種々のPDP用近赤外線フィルターが提案され、特に近赤外線吸収力が大きく、かつ耐久性に優れたものとして、近赤外線吸収材料に平均分散粒径が800nm以下の、タングステン酸化物微粒子及び/又は複合タングステン酸化物微粒子を用いた近赤外線吸収フィルターが提案されている(特許文献1参照)。
さらに、これに低屈折率層を積層して反射防止機能をも付与した反射防止材が提案されている(特許文献1、2参照)。ただし、これらには、低屈折率層は、可視光波長域全域にわたる反射防止を考慮した発明のみが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−154516号公報
【特許文献2】特開2006−201463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化タングステン系化合物粒子を近赤外線吸収剤とするとき、可視光線波長帯域において十分な透明性を確保しようとすると、酸化タングステン系化合物粒子の粒径を100nm以下の微粒子とする必要がある。その場合、該粒子のレイリー散乱(散乱断面積が波長の4乗に反比例;短波長の青色光をより強く反射する)により、色相が青味を帯びる。これは、画像表示装置用前面フィルター用途においては、画像の色相再現を妨げるため、不都合である。
そこで、本発明の課題は、近赤外線吸収剤として酸化タングステン系化合物粒子を使用して、透明性に優れ、反射色味が青色を示さない、画像表示装置用前面フィルターに用いられる近赤外線吸収能を有する反射防止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、基材上に酸化タングステン系化合物粒子含有近赤外線吸收層、低屈折率層を積層した反射防止材において、低屈折率層の干渉色(反射防止処理の際の残留反射色)を紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の可視光に設定し、酸化タングステン系化合物粒子の散乱色と混色して無彩色化することで、反射色味の青色が低減できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、基材の一方の面に、樹脂と酸化タングステン系化合物粒子からなる近赤外線吸収剤を含む近赤外線吸收層H1、及び紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の可視光を反射する、該近赤外線吸收層H1よりも低屈折率の層L1、が順次積層された反射防止材を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、近赤外線吸収剤として酸化タングステン系化合物粒子を使用して、透明性に優れ、反射色味が青色を示さない、画像表示装置用前面フィルターに用いられる近赤外線吸収能を有する反射防止材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の反射防止材は、基材の一方の面に、樹脂と酸化タングステン系化合物粒子からなる近赤外線吸収剤を含む近赤外線吸收層H1、及び紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の可視光をより強く反射する、該近赤外線吸收層H1よりも低屈折率の層L1、が順次積層された構成を有する。
基材としては、特に制限はなく、従来反射防止材の基材として公知の物、即ち材料としてはプラスチック又はガラスの中から透明なものを適宜選択して用いることができる。また、基材の形態としては、フィルム、シート、或は板の各種形態を用いることができ、厚みとしては、20〜5000μm程度の範囲のものが用いられる。
【0008】
プラスチック基材としては、上述のようにフィルム、シート、或は板のいずれの形態でも用いることができ、具体的材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、シクロオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂などのポリオレフィンフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチルなどのアクリル樹脂フィルム;ポリスチレンフィルム;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩化ビニル系フィルム;セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレートなどのセルロース系フィルム;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの酢酸ビニル系樹脂フィルム;ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系フィルム;ポリイミド、ポリエーテルイミドなどのポリイミド系フィルム;ポリアミドフィルム;ポリビニルアルコールフィルム;ポリエーテルエーテルケトンフィルム;フッ素樹脂フィルム;ポリビニルブチラールフィルム等を挙げることができる。
ガラスは主に板の形態で用いられ、具体的材料としては、ソーダ硝子、カリ硝子、石英硝子、硼珪酸硝子等を挙げることができる。
これらのうち、透明性、表面平滑性、機械的強度等の点からポリエステル樹脂を材料とする厚さ50〜200μm程度のフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
また、ガラス基材も、光学的特性、機械的特性の点から好ましい。
【0009】
上記基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいが、PDP用としては無色透明が好ましい。
これらの基材の厚さは特に制限はなく、使用形態に応じて、上述のように20〜5000μm程度のものが適宜選定される。フィルム乃至シート形態の場合、25〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲であり、板形態の場合、1000〜5000μm程度の範囲である。また、基材として、上記プラスチックフィルムを用いる場合には、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から好ましい。
【0010】
本発明における近赤外線吸收層H1は、樹脂と酸化タングステン系化合物粒子からなる近赤外線吸収剤を含む近赤外線吸收層であり、後述するように反射防止層形成のための高屈折率層でもある。また、近赤外線吸收層H1は、使用する樹脂として架橋乃至重合(硬化)した樹脂を選択することにより、ハードコート層としても機能させることができる。
ここで用いる樹脂は、酸化タングステン系化合物粒子からなる近赤外線吸収剤を結着させるためのバインダーの機能を果たし、基材上に近赤外線吸収層を形成することができるものであれば特に制限はなく、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらのうち、加工適性、耐久性等の点で電離放射線硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂が好適に挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、非常に短時間の照射時間で硬化させることが可能であり、生産効率が高いとの観点から、電離放射線硬化性樹脂が好ましく、特に装置が簡便である紫外線硬化性樹脂が好ましい。
【0011】
電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波又は荷電粒子線、例えば紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋乃至重合反応により、硬化する樹脂を意味する。このような電離放射線硬化性樹脂としては、例えば電離放射線重合性プレポリマー及び/又は電離放射線重合性モノマーを挙げることができる。
【0012】
上記電離放射線重合性プレポリマー(オリゴマーともいう。)としては、分子中にラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーとして、例えばポリエステル(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリオール(メタ)アクリレート系、トリアジン(メタ)アクリレート系等の(メタ)アクリレート系プレポリマー、不飽和ポリエステル系プレポリマーなどが挙げられる。なお、ここで、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。また、カチオン重合性プレポリマーとして、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。また、ポリチオール系プレポリマーとして、例えば、トリメチロールプロパントリチオグリコレートプレポリマー、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレートプレポリマー等が挙げられる。
次に、電離放射線重合性モノマー(単量体ともいう)としては、多官能性(メタ)アクリレートが好ましく、具体的にはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの電離放射線重合性プレポリマー及び電離放射線重合性モノマーは1種単独で、該プレポリマーの中から選択した2種以上を組み合わせて、該モノマーの中から選択した2種以上を組み合わせて、又は該プレポリマーの中から選択した1種以上と該モノマーの中から選択した1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0013】
電離放射線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、光重合用開始剤を樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されず、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する重合性モノマーや重合性オリゴマーに対しては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタールなどが挙げられる。
また、分子中にカチオン重合性官能基を有する重合性オリゴマー等に対しては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等が挙げられる。
また、光増感剤としては、例えばp−ジメチル安息香酸エステル、第三級アミン類、チオール系増感剤などを用いることができる。
【0014】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、汎用の2液硬化型アクリル樹脂(アクリルポリオール硬化物)などを例示することができる。
【0015】
本発明において近赤外線吸収層H1に用いる近赤外線吸収剤としては、近赤外線の吸収率が高く、かつ可視光線の透過率が高いことから、下記一般式(I)で示される酸化タングステン系化合物を使用する。
MxWyOz ・・・(I)
ここで、M元素はCs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Wはタングステンを示し、Oは酸素を示す。
上記一般式(I)で示される酸化タングステン系化合物のうち、特にM元素がCsで表わされるセシウム含有酸化タングステンが、近赤外線吸収能が高いことから好適である。
【0016】
また、上記一般式(I)において、添加されるM元素の添加量はタングステンの含有量を基準としたx/yの値として、0.001≦x/y≦1.1の関係を満足することが好ましく、特にx/yが0.33付近であることが、好適な近赤外線吸収能を示す点で好ましい。また、x/yが0.33付近であると、六方晶の結晶構造をとりやすく、該結晶構造をとることによって、耐久性の点でも好適である。
また、上記一般式(I)における酸素の含有量は、タングステンの含有量を基準としたz/yの値として、2.2≦z/y≦3.0の関係を満足することが好ましい。より具体的には、Cs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Ba0.33WO3などを挙げることができる。
上記酸化タングステン系化合物は1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用することもできる。
【0017】
本発明で使用される酸化タングステン系化合物粒子は、可視光線波長帯域において十分な透明性を確保するために、その平均粒子径が40〜100nmであることが肝要である。平均粒子径が40nm未満であると近赤外線吸収能が不十分となり、一方、平均粒子径が100nmを超えると、透明性が低下してしまう。さらに好ましい近赤外吸収性能を発揮させるためには、該平均粒子径が40〜80nmであることが好ましく、40〜60nmであることがさらに好ましい。
なお、本発明における平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡により撮像し、無作為に、例えば50個の近赤外線吸収剤を抽出して該粒子径を測定し、これを平均したものである。また、粒子の形状が球形でない場合には、長径を測定して算出したものと定義する。
【0018】
上記近赤外線吸収剤の近赤外線吸収層H1における含有量は、単位面積あたりの含有量で表した場合、0.01g/m2〜10g/m2の範囲であることが好ましい。含有量が0.01g/m2以上であれば、十分な近赤外線吸収効果が現れ、10g/m2以下であれば、十分な量の可視光線を透過できる。
【0019】
本発明においては、上述のように近赤外線吸収剤として酸化タングステン系化合物粒子を用いることを特徴とするが、本発明の効果を奏する範囲内で、有機系や金属錯体等の他の近赤外線吸収剤を併用することもできる。例えば、ジイモニウム系化合物、アルミニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、有機金属錯体、シアニン系化合物、アゾ化合物、ポリメチン系化合物、キノン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、トリフェニルメタン系化合物等を併用することもできる。
【0020】
また、本発明における層H1には、酸化タングステン系化合物による青味を、より確実に低減するために、低屈折率の層L1の形成に加えて、更に、金属酸化物微粒子を含有させることが好ましい。かかる金属酸化物微粒子としては本発明の効果を奏する範囲であれば、材料自体に制限はないが、上記近赤外線吸収剤との間で屈折率差が小さいものが好ましく、特に酸化ジルコニウム及び酸化チタンが好適に挙げられる。例えば、Cs0.33WO3(セシウム含有酸化タングステン)の屈折率は2.5〜2.6であるが、酸化ジルコニウム及び酸化チタンの屈折率は、それぞれ2.0〜2.2及び2.2〜2.7の範囲であるため、当該近赤外線吸収剤との屈折率差を0.3程度以下にすることができる。これらの金属酸化物微粒子は、1種を単独で、又は2種以上を併用することもできる。
【0021】
本発明において近赤外線吸収層H1に金属酸化物微粒子を含有させる場合、その平均粒子径は5〜30nmであることが好ましい。平均粒子径が5nm未満であると、透過色調の青味を低減できず、平均粒子径が30nmを超えると、透過色調の青味を低減できないと同時に白濁を生じる場合がある。本発明の効果をより高いレベルで達成するとの観点からは、該金属酸化物微粒子の平均粒子径は10〜20nmの範囲であることがより好ましい。
また、金属微粒子の形状については特に制限はないが、通常、球形が用いられる。
なお、金属酸化物微粒子の平均粒子径は、近赤外線吸収剤と同様に透過型電子顕微鏡を用いた方法により測定したものである。
【0022】
上記金属酸化物微粒子の近赤外線吸収層H1における含有量は、前記酸化タングステン系化合物100質量部に対して50〜200質量部であることが好ましい。50質量部以上であると、透過色調の青味を消すことができ、一方、200質量部以下であると白濁の問題が生じない。
【0023】
本発明の近赤外線吸収層H1の厚さは、各種塗工法によって形成する場合は、2〜20μmの範囲が好ましい。厚さが2μm以上であると、近赤外線を十分に吸収することができ、一方、20μm以下であると、通常の塗工法で形成が可能である。以上の観点から、近赤外線吸収層H1の厚さは3〜15μmの範囲がさらに好ましく、5〜10μmの範囲が特に好ましい。なお、近赤外線吸収層H1の厚さを変えることで近赤外線の吸収効率を制御することができる。
【0024】
本発明において近赤外線吸収層H1の形成は、基材上に近赤外線吸収層形成用塗工液を塗布し、乾燥・硬化して近赤外線吸収層を形成する方法が簡便で好ましい。
本発明における近赤外線吸収層形成用塗工液は、必要に応じ、適当な溶剤中に、前記樹脂、酸化タングステン系化合物、所望により添加される前記金属酸化物微粒子、所望により用いられる前記光重合開始剤、及び所望により添加される添加剤を所定の割合で加え、溶解又は分散させることにより、調製することができる。
本発明においては、酸化タングステン系化合物粒子、及び所望により添加される金属酸化物微粒子を溶剤中に分散させることが重要であり、分散方法としては、乾式法、湿式法等各種挙げられる。本発明においては、湿式法が有効であり、具体的には、ボールミル、サンドミル、媒体攪拌ミル、超音波照射等が挙げられる。また、近赤外線吸収剤である酸化タングステン系化合物粒子の分散に際し、溶媒の選定、分散剤の選定及びpHを調整することで近赤外線吸収剤を安定に液体中に分散保持することが可能となる。各種分散剤は、使用する溶媒やバインダー等との相性で各種選択可能である。
【0025】
溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、イソホロンなどのケトン;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、或いは水などが挙げられる。
また、ここで添加し得る各種添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤などが挙げられる。
塗工液の濃度、粘度については、コーティング可能な濃度、粘度であればよく、特に制限されない。
【0026】
基材に上記塗工液を塗工する方法としては、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、グラビアロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などを用いることができる。塗工し、塗膜を形成させた後、乾燥し、該樹脂が電離放射線硬化性樹脂の場合はこれに電離放射線を照射して、又は該樹脂が熱硬化性樹脂の場合はこれに加熱して、該塗膜を硬化させることにより、近赤外線吸収層が形成される。
電離放射線としては、例えば、紫外線、可視光線、X線、γ線等の電磁波、電子線、α線、各種イオン線等の荷電粒子線などが挙げられるが、実用上代表的なものは紫外線又は電子線である。紫外線は、高圧水銀ランプ、プラズマ励起型水銀灯、ブラックライト(紫外線輻射蛍光灯)、キセノンランプなどで得られる。一方電子線は、電子線加速器などによって得られる。この電離放射線の中では、特に紫外線が、大気中に照射でき、照射装置として簡便なものを使用することができる点で好適である。なお、電子線を使用する場合は、重合開始剤を添加することなく、硬化膜を得ることができるという利点がある。
【0027】
本発明における近赤外線吸収層H1は、高屈折率の微粒子である酸化タングステン系粒子を含有するため(セシウム含有酸化タングステンの屈折率は2.5程度)、高屈折率層を構成し、下記低屈折率層L1を積層することで、反射防止層が形成できる。
【0028】
次に、本発明の反射防止材を構成する低屈折率層L1について説明する。
本発明における低屈折率層L1は紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の可視光をより強く反射する、近赤外線吸收層H1よりも低屈折率の層であり、近赤外線吸収層H1の上に積層する。尚、ここで、「紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の可視光をより強く反射する」とは、低屈折率層L1からの反射光の分光反射率分布(スペクトル)が、相対的に、紫色から青色にかけての帯域での反射率に比べて、青色よりも長波長域(緑〜黄〜橙〜赤)に於ける反射率の方が、より大きいことを意味する。
すなわち、透明基材/酸化タングステン系粒子含有近赤外線吸収兼高屈折率層H1/低屈折率層L1の積層体において、低屈折率層L1の干渉色(反射防止処理の際の残留反射色)を紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の可視光(緑〜黄〜橙〜赤の帯域の一部帯域又は全帯域)に設定し、酸化タングステン系粒子の紫色から青色にかけての帯域の光を多く含む散乱色と混色して無彩色化することで、青色味を低減せしめるものである。
低屈折率層L1の干渉色(反射防止処理の際の残留反射色)を青色帯域よりも長波長域の可視光(緑〜黄〜橙〜赤の帯域の一部帯域又は全帯域)に設定するとは、積層体の反射率極小波長λ1を380〜600nm(紫〜青〜緑〜橙の範囲のいずれかの波長)に設定することであり、例えば、次のように行なうことができる。
【0029】
図1(A)の如く、樹脂層中にセシウム含有酸化タングステン粒子(粒径70nm程度)を分散させた近赤外線吸收兼高屈折率層10の反射色はレイリー散乱により青味を帯び、図1(B)の如く、短波長程反射率が増加した分光反射率R(λ)10を呈する。
一方、赤色光を多めに反射する(反射防止性能が、赤色光ほど、相対的に低下する)反射防止膜を構成するためには、図2(A)の如く、近赤外線吸收兼高屈折率層10(屈折率nH1)上に、第1低屈折率層20(屈折率nL1、厚みhL1)を積層する。その際、反射極小波長λ1を赤色帯域に隣接してこれよりも短波長帯域の緑〜橙域(波長500〜600nm程度)とすべく、反射防止膜の分野では周知慣用の理論式である式1、式2を用いて、λ1が500〜600nm程度となるような第1低屈折率層20の屈折率nL1、厚みhL1を選択する。
【0030】
【数1】

【0031】
この場合、積層体の分光反射率R(λ)10+20は、セシウム含有酸化タングステン粒子のレイリー散乱による分光特性への寄与(図1(A))を無視して、純粋に、光干渉による反射防止効果の寄与のみを図示すれば、原理的に図2(B)のようになる。すなわち、赤色域の他に、青〜紫域の光も反射して反射光は、純粋な赤色ではなく、紫系の色になる。しかしながら、これでも(セシウム含有酸化タングステン粒子に基づく)青色味の低減としては実用上十分なものである。
【0032】
本発明の反射防止材は、基材の一方の面に近赤外線吸收兼高屈折率層H1の上に低屈折率層L1を積層したものであるが、上記図2(B)における、残る青〜紫域の反射光も低減させ、しかも赤色域の反射光を減衰させないために、図3(B)の如く、反射極小波長λ2を上記λ1(緑〜橙域)に隣接してこれよりも更に短波長帯域の緑〜紫域(波長380〜500nm程度)となる反射防止膜を、追加積層することが好ましい。
ただし、反射防止膜は、直下の層よりも低屈折率の層を形成する必要があるため、上記の第1低屈折率層20上に直接形成するのではなく、図3(A)の如く、改めて第2高屈折率層30(屈折率nH2)を形成した上で、その直上に第2低屈折率層40(屈折率nL2、厚みhL2)を積層する必要がある。
その際の各パラメータは、式3、式4を用いて求める。すなわち、λ2が380〜500nm程度となるような第2低屈折率層40の屈折率nL2、厚みhL2を選択する。
【0033】
【数2】

【0034】
そうすると、図3(B)の如く、前記の、近赤外線吸收兼高屈折率層10/第1低屈折率層20、の積層体の場合よりも反射極小波長λ2が短波長側にズレた分光反射率R(λ)30+40を得ることができる。但し、図3(B)は、純粋に、第2低屈折率層40及び第2高屈折率層30の光干渉による反射防止効果の寄与のみを図示する。
そして、以上の各層の積層体(近赤外線吸收兼高屈折率層10/第1低屈折率層20/第2高屈折率層30/第2低屈折率層40;図4(A))を作ると、総合的な分光反射率特性R(λ)10+20+30+40は、図4(B)の如く、図1(B)の近赤外線吸收兼高屈折率層10のみの場合(R(λ)10)に比べて相対的に平坦になり、無彩色化され、本発明の目的がよりよく達成される。勿論、可視光線全帯域にわたって反射率自体も低減し、良好な反射防止効果も奏する。
なお、以上では、近赤外線吸收兼高屈折率層10も含めて、高屈折率層と低屈折率層の積層構造を1組(図2(A))、及び2組(図3(A))形成した例を挙げた。但し、近赤外線吸收兼高屈折率層10に起因する青色味を無彩色化する上で必要であれば、高屈折率層と低屈折率層の積層構造を、以上と同様の設計要領に基づいて、3組以上組み合わせることもできる(図示及び具体例の詳述は略す)。
【0035】
すなわち、本発明は、近赤外線吸收兼高屈折率層H1上に低屈折率層L1を積層する形態(本発明の反射防止材の第1形態)のみならず、最上層が低屈折率層となるように、高屈折率層/低屈折率層の対を2対以上積層した形態(本発明の反射防止材の第2形態)も好ましい態様として提供するものである。
【0036】
低屈折率層を構成する材料としては、ケイ素酸化物、フッ化物、フッ素含有樹脂等が用いられ、具体的にはSiO2(屈折率n=1.45)、MgF2(屈折率n=1.38)、LiF(屈折率n=1.36)、NaF(屈折率n=1.33)、CaF2(屈折率n=1.44)、3NaF・AlF3(屈折率n=1.4)、AlF3(屈折率n=1.37)、Na3AlF6(屈折率n=1.33)などがある。本発明においては、これらの無機材料を微粒子化し、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化性樹等のバインダー樹脂中に分散した材料が、容易に低屈折率層を設けることができる点で好ましい。
低屈折率層の形成方法としては、まず上記で述べた材料を例えば溶剤に希釈し、スピンコーティング、ロールコーティング、グラビアロールコーティング等を用いるウェットコーティング法によって低屈折率層形成材料を塗布し、次いで、乾燥後、熱や電離放射線(紫外線の場合は上述の光重合開始剤を使用する)等により塗膜を硬化せしめる方法、或は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマCVD、イオンプレーティング等による気相法によって、低屈折率層形成材料を堆積せしめる方法よって得ることができる。
【0037】
また、低屈折率層には、空隙を有する微粒子を用いてもよい。空隙を有する微粒子とは、微粒子の内部に気体が充填された構造及び/又は気体を含む多孔質構造体を形成し、微粒子本来の屈折率に比べて微粒子中の気体の占有率の増大にともなって屈折率が低下する微粒子を意味する。微粒子の形態、構造、凝集状態、塗膜内部での微粒子の分散状態により、内部及び/又は表面の少なくとも一部に微細空隙乃至微細気泡を包含したり、随伴したりする構造(ナノポーラス構造)の形成が可能な微粒子も含まれる。空隙を有する微粒子は、無機物、有機物のいずれでもあってよく、例えば、金属、金属酸化物、樹脂からなるものが挙げられ、好ましくは、酸化珪素(シリカ)微粒子が挙げられる。
【0038】
さらに、5〜30nmのシリカ超微粒子を水もしくは有機溶剤に分散したゾルとフッ素系の皮膜形成剤を混合した材料を使用することもできる。該5〜30nmのシリカ超微粒子を水もしくは有機溶剤に分散したゾルは、ケイ酸アルカリ塩中のアルカリ金属イオンをイオン交換等で脱アルカリする方法や、ケイ酸アルカリ塩を鉱酸で中和する方法等で知られた活性ケイ酸を縮合して得られる公知のシリカゾル、アルコキシシランを有機溶媒中で塩基性触媒の存在下に加水分解と縮合することにより得られる公知のシリカゾル、さらには上記の水性シリカゾル中の水を蒸留法等により有機溶剤に置換することにより得られる有機溶剤系のシリカゾル(オルガノシリカゾル)が用いられる。これらのシリカゾルは水系及び有機溶剤系のどちらでも使用することができる。有機溶剤系シリカゾルの製造に際し、完全に水を有機溶剤に置換する必要はない。前記シリカゾルはSiO2として0.5〜50質量%濃度の固形分を含有する。シリカゾル中のシリカ超微粒子の構造は球状、針状、板状等様々なものが使用可能である。
【0039】
本発明の反射防止材の第2形態における第2高屈折率層30は、下記のような、一般的な高屈折率層の形成方法により形成することができる。
高屈折率層の形成は、屈折率を高くするために高屈折率のバインダー樹脂を使用するか、高い屈折率を有する超微粒子をバインダー樹脂に添加することによって行なうか、あるいはこれらを併用することによって行なう。高屈折率層の屈折率は1.55〜2.70の範囲にあることが好ましい。
【0040】
高屈折率層に用いる樹脂については、透明なものであれば任意の樹脂が使用可能であり、熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、電離放射線(紫外線を含む)硬化型樹脂などを用いることができる。熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を用いることができ、これらの樹脂に、必要に応じて架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、粘度調整剤等を加えることができる。
【0041】
高い屈折率を有する超微粒子としては、例えば、紫外線遮蔽の効果をも得ることができる、ZnO(屈折率n=1.9)、TiO2(屈折率n=2.3〜2.7)、CeO2(屈折率n=1.95)の微粒子、また、帯電防止効果が付与されて埃の付着を防止することもできる、アンチモンがドープされたSnO2(屈折率n=1.95)又はITO(屈折率n=1.95)の微粒子が挙げられる。その他の微粒子としては、Al23(屈折率n=1.63)、La23(屈折率n=1.95)、ZrO2(屈折率n=2.05)、Y23(屈折率n=1.87)等を挙げることができる。これらの微粒子は単独又は混合して使用され、有機溶剤又は水に分散したコロイド状になったものが分散性の点において良好であり、その粒径としては、1〜100nm、塗膜の透明性から好ましくは、5〜20nmであることが望ましい。
高屈折率層を設けるには、上記で述べた材料を例えば溶剤に希釈し、スピンコーティング、ロールコーティング、印刷等の方法で基体上に設けて乾燥後、熱や放射線(紫外線の場合は上述の光重合開始剤を使用する)等により硬化させればよい。
【0042】
本発明の近赤外線吸収能を有する反射防止材は、PDPなど画像表示装置の表面に、直接的にあるいは間接的に設けることができるように、基材の他の面には粘着剤層を設ける。
また、本発明の反射防止材の下の画像表示装置側に、電磁波遮蔽層、ネオン光吸収層、紫外線吸収層、調色層、耐衝撃層、ミクロルーバ層(特開2007−272161号公報等記載のもの)などを設けることにより、本発明の反射防止材に他の機能を付加することができる。なお、ネオン光吸収層、紫外線吸収層等は必ずしもこれらを単独にそれぞれ層として有する必要はなく、本発明の反射防止材を構成する各層あるいは粘着剤層のいずれかにその材料を含有させてもよい。
【0043】
本発明の近赤外線吸収能を有する反射防止材は、可視光線透視性と近遮蔽性とを兼備するため、プラズマディスプレイ(PDP)、ブラウン管(CRT)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)などの画像表示装置用として好適であり、特にプラズマディスプレイ用として好適である。
また、その他、建築物の窓に設置して日光中の赤外線を遮断し室内の保温効果を向上せしめる為の窓用赤外線遮断用部材、露出計のシリコン光ダイオード、感光性フィルムの赤外域の分光感度を補正する為の写真機用の赤外線遮蔽フィルター、赤外線から眼を保護する為の保護眼鏡、赤外線に分光感度の高い感光素子(シリコン光ダイオード等)を使用した暗視装置において該感光素子を強度の赤外線源から保護する為の赤外線遮蔽フィルタ、植物の成長、発芽、開花、結実等に影響する赤外線を吸収して作物のこれら成長等を制御する為の農業用シート、白熱電球、水銀灯、蛍光灯等の照明器具からの赤外線輻射を吸收して、室内、被照明体、或は周辺雰囲気の温度上昇を防止する為の照明器具用赤外線遮断フィルター等の各種用途に使用可能である。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)反射色味の評価
各実施例及び比較例で製造したフィルム形態の反射防止材を、黒色アクリル樹脂板の上に、透明粘着剤(日東電工(株)製CS−9621)を用いて貼り合せた後、(株)協真エンジニアリング製オートクレーブ機にて、70℃、0.5MPaの条件で30分保持した。その後、人口太陽燈で光を照射した。アクリル樹脂板上での明るさは、2500ルクスとした。人口太陽燈、人間、アクリル樹脂板の位置関係としては、アクリル板を水平に置き、斜め上方30度の角度(角度はアクリル樹脂板の法線から測る。以下同様。)から観察し、光は斜め上方45度の方向から照射した。反射色味の評価は人が目視により行った。
(2)近赤外域透過率
光線透過率の測定は、JIS A 5759に準ずる方法で行った。透過率測定は分光光度計((株)島津製作所製「UV3100」)を使用して、波長850nm、1000nmの光線透過率を求めた。
【0045】
実施例1
(1)ハードコート層(近赤外線吸收層)形成用塗工液の調製
ウレタンアクリレートプレポリマー[日本合成社製、商品名「UV1700B」]5質量部、ポリエステルアクリレートプレポリマー[東亞合成社製、商品名「M9050」]5質量部に、光重合開始剤として、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア184」]0.4質量部を添加し、次いでセシウム含有酸化タングステン分散液[住友金属鉱山社製、商品名「YMF−01」、セシウム含有酸化タングステン(タングステンに対しセシウム33モル%含有、平均粒子径44nm)含有の分散液]55質量部(固形分換算)を混合したのち、メチルイソブチルケトン(MIBK)10質量部を加えて、紫外線硬化性樹脂組成物の形態のハードコート層(近赤外線吸収層)形成用塗工液1を調製した。
(2)低屈折率層形成用塗工液の調製
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)1.95質量部に、光重合開始剤として、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガキュア184」]0.1質量部を添加し、次いで処理シリカゾル含有溶液[空隙を有する微粒子(平均粒子径60nm)、シリカゾル固形分20質量%、溶媒;メチルイソブチルケトン]12.3質量部、及びシリカ粒子含有溶液[ナカライテスク社製、商品名「sicastar」、巨大粒子(平均粒子径100nm)、シリカ粒子固形分20重量%、溶媒;メチルイソブチルケトン]1.23質量部を混合したのち、メチルイソブチルケトン83.5質量部を加えて、紫外線硬化性樹脂組成物の形態の低屈折率層形成用塗工液1を調製した。
(3)反射防止フィルムの製造
基材として、厚さ80μmのトリアセテートセルロース(TAC)フィルムを用意し、このフィルムの表面に紫外線硬化性モノマーと近赤外線吸収剤を含むハードコート層形成用塗工液1を、湿潤重量20g/m2(乾燥重量10g/m2)塗布(バーコーティング)し、次いで、40℃にて60秒間乾燥することにより、溶媒を除去した。その後、紫外線照射装置を用いて、照射線量50mJ/cm2で紫外線照射を行うことにより、塗工液を硬化させて、厚み10μmのハードコート層を形成した。
次に、形成したハードコート層の表面に、低屈折率層用塗工液1を、乾燥重量0.1g/m2塗布(バーコーティング)し、次いで、40℃にて60秒間乾燥した。その後、紫外線照射装置を用いて、照射線量200mJ/cm2で紫外線照射を行うことにより、実施例1の反射防止フィルムを製造した。低屈折率層の硬化後の膜厚は、90nm、屈折率が1.44になるように形成した。ここで形成された低屈折率層の反射率極小波長は520nmと計算され、反射光は赤色である。
この反射防止フィルムについて、上記方法にて評価した。評価結果を第1表に示す。
【0046】
実施例2
低屈折率層用塗工液1を乾燥重量0.07g/m2で塗布し、硬化後の膜厚を65nmとした以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを製造した。ここで形成された低屈折率層の反射率極小波長は380nmと計算され、反射光は橙色である。この反射防止フィルムについて、実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0047】
比較例1
実施例1において、ハードコート層を、ハードコート層形成用塗工液1でセシウム含有酸化タングステン分散液を添加しない組成のハードコート層形成用塗工液2から形成した以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを製造した。ここで形成された低屈折率層の反射率極小波長は実施例1と同様520nmと計算され、反射光は赤色である。この反射防止フィルムについて、実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0048】
比較例2
実施例1において、低屈折率層用組成物1を乾燥重量0.05g/m2で塗布し、硬化後の膜厚を45nmとした以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを製造した。ここで形成された低屈折率層の反射率極小波長は260nmと計算され、反射光はやや赤味がかった無色である。この反射防止フィルムについて、実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0049】
比較例3
実施例1において、低屈折率層用組成物1を乾燥重量0.15g/m2で塗布し、硬化後の膜厚を140nmとした以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを製造した。ここで形成された低屈折率層の反射率極小波長は810nmと計算され、反射光は、やや青味がかった無色である。この反射防止フィルムについて、実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
比較例4
実施例1において、ハードコート層上に低屈折率層用組成物1を非形成とした以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを製造した。反射色は青色であった。これは、該ハードコート層中に分散するセシウム含有酸化タングステン粒子のレイリー散乱に起因するものと思われる。この反射防止フィルムについて、実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0050】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(A)はセシウム含有酸化タングステン粒子含有近赤外線吸収層を示す模式図であり、(B)はそのものの分光反射率曲線を示す概念図である。
【図2】(A)はセシウム含有酸化タングステン粒子含有近赤外線吸収層に第1低屈折率層を積層した積層構造を示す模式図であり、(B)はそのものの分光反射率曲線を示す概念図である。
【図3】(A)は第2高屈折率層に第2低屈折率層を積層した積層構造を示す模式図であり、(B)はそのものの分光反射率曲線を示す概念図である。
【図4】(A)は図2の積層構造の上に図3の積層構造を形成した積層構造を示す模式図であり、(B)はそのものの分光反射率曲線を示す概念図である。
【符号の説明】
【0052】
1 セシウム含有酸化タングステン粒子
2 樹脂
10 近赤外線吸収層H1
20 第1低屈折率層L1
30 第2高屈折率層H2
40 第2低屈折率層L2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に、樹脂と酸化タングステン系化合物粒子からなる近赤外線吸収剤を含む近赤外線吸收層H1、及び紫色から青色にかけての帯域よりも長波長域の可視光をより強く反射する、該近赤外線吸收層H1よりも低屈折率の層L1、が順次積層されることを特徴とする近赤外線吸収能を有する反射防止材。
【請求項2】
酸化タングステン系化合物粒子が、セシウム含有酸化タングステン粒子である請求項1に記載の反射防止材。
【請求項3】
近赤外線吸收層H1に、酸化金属微粒子を含有させてなる請求項1又は2のいずれかに記載の反射防止材。
【請求項4】
低屈折率の層L1が、中空シリカを含む請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止材。
【請求項5】
基材の他方の面に、粘着剤層を有する請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の反射防止材を画像表示側前面に設置してなる画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−2825(P2010−2825A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163108(P2008−163108)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】