説明

送信電力制御回路

【課題】低消費電力を実現する低コストの送信電力制御回路を提供する。
【解決手段】入力された入力信号を減衰させる利得調整手段(PINダイオード6)と、前記利得調整手段の出力信号を増幅する増幅手段(増幅器7)とからなる送信電力制御回路において、前記増幅手段のドレインバイアス供給端子(ドレインバイアス供給端子4)へ供給するドレイン電流に応じて前記利得調整手段の減衰量を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送信電力制御回路に関し、特に無線通信装置の送信回路等で利用される送信電力増幅器の送信電力制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信装置の送信回路等に利用される送信電力増幅器の送信電力制御回路においては、送信器の出力を一定に保つため、送信電力増幅器の出力を検波し、その電圧に応じて入力レベルを制御する方式がとられていた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図7及び図8は、それぞれ従来の送信電力制御回路の構成を示す図である。
図7及び図8に示す送信電力制御回路は、いずれも増幅器7(送信電力増幅器)の入力側に設けられたPINダイオード6(利得調整手段)の利得を制御することにより、出力端子2から出力される出力信号の信号レベルを所定のレベルに調整する回路である。
【0004】
図7及び図8に示す送信電力制御回路において、PINダイオード6は、入力端子1に入力される入力信号の信号レベルを減衰させ、増幅器7は、この減衰された信号レベルを増幅する。なお、図7及び図8において、増幅器7に設けられた端子は、それぞれゲートバイアス供給端子3及びドレインバイアス供給端子4である。
【0005】
図7に示す送信電力制御回路(以下、従来回路1とする)においては、方向性結合器13は、増幅器7の出力電力を、検波ダイオード14(検波器)に分配する。検波ダイオード14は、分配された出力電力により、増幅器7の出力を検波し、CPU等のデジタル制御回路15へ出力する。また、デジタル制御回路15は、この検波ダイオード14からの検波出力と、基準電圧源(不図示)の基準電圧との差分を出力する。この差分出力がPINダイオード6のバイアス回路11を介して、PINダイオード6(可変減衰手段)に負帰還され、PINダイオード6は、増幅器7の出力を一定に保つ動作を行う。
【0006】
一方、図8に示す送信電力制御回路(以下、従来回路2とする)は、上記のフィードバック制御を行わない方式であり、検波ダイオード14(検波器)、方向性結合器13及びデジタル制御回路15を不要とする。そのため、従来回路2においては、PINダイオード6のバイアス制御電圧端子19から入力される信号レベルにより、PINダイオード6の減衰量を制御し、出力端子2から出力される出力信号の信号レベルを所定のレベルに調整する。
【0007】
図9は、上述した図7及び図8に示す増幅器7におけるドレイン電流と利得Gとの関係を示す図である。図9に示すように、増幅器7に供給するドレイン電流を、I(L)、I(M)、I(H)と切り替えることで、増幅器7の利得Gは、G(L)、H(M)、G(H)と、ほぼ線形に変化する。
また、図10は、増幅器7におけるドレイン電流とインターセプトポイントOIP3との関係を示す図である。ここで、増幅器7のインターセプトポイントOIP3とは、増幅器7の入出力特性における線形性の限界点を示す指標であり、次のように定義されている。
【0008】
増幅器7は、通常、トランジスタ等の半導体素子を用いているため、増幅器7の入出力特性の非直線性により相互変調歪が発生するようになる。増幅器7においては、入力信号レベルが大きくなるに従って、3次の相互変調歪(IMD3)が支配的になるため、相互変調歪の特性を示す指標として、3次のインターセプトポイント(OIP3)が用いられている。
【0009】
このインターセプトポイントOIP3に対して要求される規格(性能値)は、送信出力レベルに対して異なる。
図10は、増幅器7に供給するドレイン電流と、インターセプトポイントOIP3及び増幅器7の消費電力との関係を示す図である。図10に示すように、送信出力レベルの設定を、低いレベルから高いレベルへ、低レベル(L)、中間レベル(M)、高レベル(H)とすると、インターセプトポイントは、OIP3(L)<OIP3(M)<OIP3(H)と、出力レベルに応じて要求されるレベルが変化する。また、これらの送信出力レベルに対応したインターセプトポイントOIP3各々を満足するため、増幅器7に供給すべきドレイン電流は、送信出力レベルの設定が低いところから、順にI(L),I(M)、I(H)とすると、I(L)<I(M)<I(H)となり、図10に示すように、この順番に増幅器7の消費電力も増加する。
つまり、送信電力制御回路の消費電力の大部分を占める増幅器7の消費電力を変化させるため、増幅器7に供給するドレイン電流を変化させても、インターセプトポイントOIP3に対して要求される規格を満たすことが可能である。
【0010】
図11は、増幅器7に供給するドレイン電流をI(L)、I(M)、I(H)とドレイン電流毎に変化させた場合、各々の場合における送信電力制御回路の入出力特性及び電力付加効率を示す図である。ここで、電力付加効率とは、電源から供給された直流電力がどれだけ出力電力に変換されるかを示す評価量であり、増幅器7により付加された電力(出力電力から入力電力を差し引いた電力)を、増幅器7に与えた電源電圧とその供給電流の積、つまり増幅器7の消費電力で除した電力比率である。
【0011】
図11に示すドレイン電流毎の入出力特性及び電力付加効率から分かるように、増幅器7のドレイン電流が大きいI(H)のときは、出力電力として高い出力パワーまで出すことができるが、低出力のときには電力付加効率が低下する。逆に増幅器7のドレイン電流が小さいI(L)のときは、出力電力は低い出力パワーとなるが、低出力レベルでの電力付加効率はよい。
【0012】
したがって、図11に示すように、増幅器7の出力レベルが高いレベル設定から低いレベル設定に応じて、増幅器7のドレイン電流を、上記インターセプトポイントOIP3の規格を満たすように、I(H)からI(M)、I(L)へと、出力レベルに応じて切り替えて供給すれば、ドレイン電流に対して広範囲で高い電流付加効率を有する低消費電力の送信電力制御回路を提供することができる。
【0013】
しかし、図9に示すように、増幅器7は、供給されるドレイン電流により、そのゲインが変化する。そのため、従来の送信電力制御装置においては、増幅器7と増幅器7の前段に設けられた利得調整手段(PINダイオード6)とによりAGC(自動利得制御)回路を構成し、AGC回路により増幅器7の出力を一定レベルにする制御が行われる。
図12は、PINダイオード6(利得調整手段)への供給電流(横軸)と可変減衰量(縦軸)との関係を示す図である。増幅器7にドレイン電流I(H)、I(M)、I(L)を供給する場合のPINダイオード6への供給電流を、横軸に垂直に破線で示している。上述した従来回路1及び従来回路2のいずれにおいても、利得調整手段であるPINダイオード6は、各ドレイン電流に対応して、出力端子2からの出力レベルを所定のレベルにするように動作する。
【0014】
つまり、入力パワーが大きく、出力パワーが大きくなる場合(送信出力レベルが高レベル(H)の場合)、PINダイオード6の減衰量を大きくするため、図中ドレイン電流I(H)切替で示す供給電流をPINダイオードへ供給して、入力端子1への入力信号を大きく減衰させる。また、入力パワーが小さく、出力パワーが小さくなる場合(送信出力レベルが高レベル(L)の場合)、図中ドレイン電流I(H)切替で示す供給電流をPINダイオードへ供給して、PINダイオードの可変減衰量を小さくして入力端子1への入力信号の減衰を抑制する。
このように、増幅器7に供給するドレイン電流I(H)、I(M)、I(L)に対応させて、PINダイオード6への供給電流を小さい量から大きな量へと変化させて、図12に示すようにPINダイオード6の可変減衰量を大きい量から小さい量まで精度よく制御できれば、従来回路1及び従来回路2の送信電力制御回路においても、低消費電力で、出力レベルが所定レベルとなるように制御することが可能となる。
【0015】
図13は、上述した従来回路1(図7に示す回路)及び従来回路2(図8に示す回路)において、実際に増幅器7に供給するドレイン電流をI(L)、I(M)、I(H)と変化させたときの、入力電力(横軸)と出力電力(縦軸)の関係を示す図である。
フィードバック方式をとらない従来回路2では、入力電力と出力電力の関係において、線形性が保たれず、出力電力が急峻に変化しているので、送信電力の制御ループが発散する可能性がある。ここでいう制御ループとは、例えばマイクロ波帯のPoint-To-Point通信において対向局からのレベル応答をいう。
従来回路2においては、検波ダイオード14等を有していないので送信電力制御装置の製造コストを低コストで製造できるが、図13に示すように、ドレイン電流I(H)、I(M)、I(L)と変化させたときの送信電力の入出力特性において、線形性が保たれていないといえる。
【0016】
このため、従来回路1では、増幅器7のドレイン電流を変更した場合に入力電力と出力電力の関係の線形性を保つため、フィードバック方式をとり、図7に示す方向性結合器13、検波ダイオード14(検波器)及びデジタル制御回路15が必要であった。つまり、増幅器7の出力電力を方向性結合器13により検波ダイオード14へ分配し、検波ダイオード14は検波電圧をデジタル制御回路15へ出力する。デジタル制御回路15は、この検波電圧に基づいて、PINダイオード6へのバイアス制御電圧に、増幅器7のゲイン変化分(図13における従来回路1と従来回路2のゲインの差分)に相当する補正電圧値を複雑な計算に基づいて加算し、出力レベルを所定のレベルにする制御を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−219620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、従来回路1では、上記の様に、出力電力を検波ダイオード14に分配するための方向性結合器13、デジタル制御回路15に検波出力する検波ダイオード14、及び検波電圧を基に複雑な補正値計算を行うデジタル制御回路15が必要となるため、送信電力制御回路の製造コストが増大するという問題があった。
【0019】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、入出力特性の線形性を維持しつつ、従来回路1より製造コストの低減した低消費電力の送信電力制御回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明の送信電力制御回路は、入力された入力信号を減衰させる利得調整手段と、前記利得調整手段の出力信号を増幅する増幅手段とからなる送信電力制御回路において、前記増幅手段のドレインバイアス供給端子へ供給するドレイン電流に応じて前記利得調整手段の減衰量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の送信電力制御回路は、増幅手段のドレインバイアス供給端子へ供給するドレイン電流に応じて前記利得調整手段の減衰量を、入力信号の入力電力が大きい場合、減衰量を大きく、入力信号の入力電力が小さい場合、減衰量を小さくするように制御する。これにより、入出力特性の線形性を維持しつつ、従来回路が有する方向性結合器13、検波ダイオード14、及びデジタル制御回路15を用いた回路構成が不要となり、従来回路より製造コストの低減した低消費電力の送信電力制御回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の送信電力制御回路の回路構成を示す図である。
【図2】増幅器7のドレイン電流とOPアンプ8の出力電圧との関係を示す図である。
【図3】本発明、従来回路1及び従来回路2において、増幅器7のドレイン電流によりPINダイオード6を制御した時のPINダイオード6への供給電流と可変減衰量との関係を示す図である。
【図4】本発明、従来回路1及び従来回路2において、増幅器7のドレイン電流を変化させたときの入出力特性である。
【図5】本発明の効果を説明するための図である。
【図6】本発明の送信電力制御回路の他の回路構成を示す図である。
【図7】従来回路1の回路構成を示す図である。
【図8】従来回路2の回路構成を示す図である。
【図9】増幅器7のドレイン電流と利得Gとの関係を示す図である。
【図10】増幅器7のドレイン電流と、増幅器7のインターセプトポイントOIP3及び消費電力との関係を示す図である。
【図11】送信電力制御回路のドレイン電流に対する入出力特性と電力付加効率を示す図である。
【図12】PINダイオード6への供給電流と可変減衰量との関係を示す図である。
【図13】従来回路1及び従来回路2の入出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下で説明する全ての図面において、同一の構成要素には同一の符号を付加し、適宜説明を省略する。
【0024】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の送信電力制御回路の回路構成を示す図である。
図1に示すように、本発明の送信電力制御回路は、PINダイオード6、増幅器7、OPアンプ8、LOGアンプ9(ログアンプ)、差動増幅器10、PINダイオード6のバイアス回路11、及びバイアス抵抗12から構成される。
図1において、入力端子1は、送信電力制御装置の入力端子であり、出力端子2は、送信電力制御装置の出力端子である。
また、図1に示すように、ゲートバイアス供給端子3は、増幅器7のゲートのバイアス供給端子であり、ドレインバイアス供給端子4は、増幅器7のドレインのバイアス供給端子である。
【0025】
増幅器7(増幅手段)は、従来回路と同様の回路構成であるので、詳細な説明は省略するが、例えば、電界効果トランジスタFETの1段のAMP構成になっている。
また、当該電界効果トランジスタFETは、例えばソース電極が接地され、ゲート電極が第1の整合回路と第1のカップリングコンデンサとの直列回路を介して入力端子1に接続される。そして、第1のカップリングコンデンサと第1の整合回路の接続点に、第2の整合回路を介してゲートバイアス供給端子3が接続され、このゲートバイアス供給端子3に電界効果トランジスタFETのゲート側のバイアス電圧が供給される。
【0026】
また、電界効果トランジスタFETは、ドレイン電極が第3の整合回路と第2のカップリングコンデンサの直列回路を介して出力端子2に接続される。そして、第3の整合回路と第2のカップリングコンデンサの接続点に、第4の整合回路を介してバイアス抵抗12の一端が接続される。
本実施形態において、バイアス抵抗12の他端は、図1に示すように、ドレインバイアス供給端子4に接続され、ドレイン側のバイアス電圧が供給される。なお、本実施形態において、ドレインバイアス供給端子4からバイアス抵抗12を介して、増幅器7の上記電界効果トランジスタFETのドレイン側に供給する電流を、以下の説明においてドレイン電流とする。
【0027】
増幅器7におけるドレイン電流と利得Gとの関係は、従来回路1及び従来回路2と同じく、図9に示すように、増幅器7に流れるドレイン電流を、I(L)、I(M)、I(H)と切り替えることで、増幅器7の利得Gは、G(L)、H(M)、G(H)と、ほぼ線形に変化する。
【0028】
OPアンプ8(operational amplifier,オペレーショナル・アンプリファイア)は、非反転入力端子と反転入力端子と、一つの出力端子を備えた演算増幅器であり、本実施形態においては、ドレインバイアス供給端子4と増幅器7との間に設けられたバイアス抵抗12の両端の電位差を差動増幅するOPアンプ(第1の差動アンプ)である。
図2は、OPアンプ8の入出力特性を示す図であり、横軸に増幅器7へ供給するドレイン電流、縦軸にドイレン電流に対応するOPアンプ8の出力電圧を示している。
図2に示すように、バイアス抵抗12を流れるドレイン電流と、OPアンプ8の出力電圧は線形の関係にある。OPアンプ8は、図2に示す特性に従って、増幅器7へ供給されるドレイン電流に対応した電圧レベルの信号を、次段のLOGアンプ9へと出力する。
【0029】
LOGアンプ9(ログアンプ)は、OPアンプ8の出力電圧を、電圧レベルが小さい場合は出力レベルを大きく、電圧レベルが大きい場合は出力レベルを小さくするように、ロガリズム的に増幅し、次段の差動増幅器10へと出力する。ここで、LOGアンプ9を用いる理由は、図12に示すPINダイオード6の特性が、PINダイオード6への供給電流が大きい場合(PINダイオード6へのバイアス制御電圧が大きい場合)、可変減衰量が大きく、供給電流が小さい場合(PINダイオード6へのバイアス制御電圧が小さい場合)、可変減衰量が小さく、供給電流(バイアス制御電圧)と可変減衰量の関係が対数関数で示される特性となっているためである。
【0030】
そのため、LOGアンプ9は、ドレイン電流が大きい場合、OPアンプ8の出力レベルが大きくなるので、これを小さく増幅し、PINダイオード6へのバイアス制御電圧を小さくする(バイアス供給電流を小さくし、可変減衰量を小さくする)ように増幅結果を出力する。また、ドレイン電流が小さい場合、OPアンプ8の出力レベルが小さくなるので、これを大きく増幅し、PINダイオード6へのバイアス制御電圧を大きくする(バイアス供給電流を大きくし、可変減衰量を大きくする)ように増幅結果を出力する。
つまり、LOGアンプ9の入出力特性を、PINダイオード6へのバイアス制御電圧と可変減衰量との特性とは逆カーブとなる特性(逆LOG函数の特性、或いは指数関数的特性)となるように設定する。
これにより、PINダイオード6において、増幅器7へ供給するドレイン電流に対して、良好な直線性を持った入力信号の減衰特性を得ることができる。
【0031】
差動増幅器10(第2の差動アンプ)は、LOGアンプ9の出力電圧と、基準電圧端子5に供給される電圧とを比較し、両者の差分を増幅し、増幅結果を、ローパスフィルタを有するPINダイオード6のバイアス回路11を介して、PINダイオード6へバイアス制御電圧として出力する。PINダイオード6は、この差動増幅器10の増幅結果結果であるバイアス制御電圧に応じて、入力端子1に入力される入力信号を減衰させ、つまり、増幅器7の入力電力を可変制御する。ここで、基準電圧端子5に供給される電圧とは、差動アンプの出力レベルを規定する基準電圧であって、希望する増幅器7の出力電力(出力レベル)に応じて、予め設定される電圧である。
【0032】
本実施形態における帰還(フィードバック)制御は、次のように行われる。すなわち、差動増幅器10において、OPアンプ8及びLOGアンプ9により増幅されたバイアス抵抗12の端子間電圧が、基準電圧と比較され、両者の差分の増幅結果がPINダイオード6のバイアス回路11を介してPINダイオード6(利得調整手段)にバイアス制御電圧としてフィードバックされ、増幅器7の出力段階での送信電力が一定になるように負帰還制御される。
【0033】
つまり、送信電力が設定値より大きくなるとバイアス抵抗12の端子間電圧は大きくなり、PINダイオード6の可変減衰量が大きくなるように働き、結果として送信電力が小さくなるように働く。逆に、送信電力が設定値より小さいときはバイアス抵抗12の端子間電圧は小さくなり、PINダイオード6の可変減衰量が小さくなり、送信電力が大きくなるように働く。この負帰還制御により送信電力は増幅器7の出力において一定に保たれ、このとき差動増幅器10に入力するLOGアンプ9の出力電圧と基準電圧とは、ほぼ同一電圧となる。つまり、送信電力制御回路の出力レベル(増幅器7の出力)は基準電圧により制御可能である。
【0034】
図3は、本実施形態において、増幅器7のドレイン電流によりPINダイオード6を制御した時のPINダイオード6への供給電流と可変減衰量との関係を示す図である。図3においては、併せて、上述した従来回路1及び従来回路2におけるPINダイオード6への供給電流と可変減衰量との関係を従来回路として示している。
図3に示すように、本実施形態において、ドレイン電流をI(L)、I(M)、I(H)と変えたときに、PINダイオード6への供給電流と可変減衰量は、従来回路に比べて、ドレイン電流の小さい領域で可変減衰量を大きくとることができる。
【0035】
また、図4は、本実施形態、従来回路1及び従来回路2において、増幅器7のドレイン電流を変化させたときの送信電力制御回路の入出力特性であり、横軸は入力電力、縦軸は出力電力を示す。
本実施形態の送信電力制御回路においてドレイン電流にて制御を行う場合、図4に示すように、従来回路2とは異なり、ドレイン電流をI(H)、I(M)、I(L)と異なる電流値に切り替えても、送信出力は入力に対して線形性を保っており、従来回路1と同様に入出力特性の線形性を有する回路であることが分かる。
なお、図4において従来回路1と入力電力と出力電力との線形性は同等であるが、従来回路1では上述の通り、図7に示す方向性結合器13、検波ダイオード14及びデジタル制御回路15が必要であるので、製造コストの観点から本発明の方が低コストに製造可能である。
【0036】
図5は、本発明の効果を説明するための図であり、本発明の送信電力制御回路及び従来回路1の入出力特性及び電力付加効率を示す図である。
図5に示すように、送信電力制御回路の出力電力において、出力レベルが高いレベル設定(電力閾値th1とする)の場合は、大きいドレイン電流I(H)を増幅器7に供給し、高い出力レベルの出力を可能にする。また、出力レベルが低レベル設定(電力閾値th3とする)の場合は、小さいドレイン電流I(L)を増幅器7に供給することにより増幅器7の電力付加効率を高める。
つまり、送信電力制御回路の出力レベルの設定を、電力閾値th1>電力閾値th2>電力閾値th3とすると、ある電力閾値th1より低い電力閾値th2へ設定する場合、ドレイン電流をI(H)からI(M)へと切り替える。また、さらに電力閾値th2より低い電力閾値th3へ設定する場合、ドレイン電流をI(M)からI(L)へと切り替える。
【0037】
これにより、本実施形態によれば、図5に示すように、従来回路1と同様の入出力特性の線形性を有しつつ、従来回路1に比べて、電力付加効率において優れた低消費電力の送信電力制御回路を提供できる。また、本発明によれば、従来回路1におけるデジタル制御回路15による複雑な補正計算が不要で、かつ、方向性結合器13、検波ダイオード14等の不要な、安価な回路構成で増幅器7のバイアス変更する場合であっても、出力電力においてゲインが一定となるような回路装置を提供することができる。
【0038】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の送信電力制御回路の他の回路構成を示す図である。図6において、図1に示す送信電力制御回路と同一の構成部分には、同一の符号を付しており、その説明は重複を避けるため省略する。
図6において、図1と相違する点は、利得調整手段がPINダイオード6ではなく、増幅器7の前段に設けられた増幅器16(Variable AMP、可変増幅器)である点である。増幅器16は、ドレインバイアス供給端子17、ゲートバイアス供給端子を備える。このゲートバイアス供給端子には、差動増幅器10の出力が入力される。
【0039】
また、図6に示す送信電力制御回路においては、PINダイオードを用いないため、図1に示す送信電力制御回路と相違して、LOGアンプ9は不要である。そのため、OPアンプ8の出力が、差動増幅器10(第3の差動アンプ)の一方の入力に接続され、差動増幅器10の他方の入力は、電源からの電圧端子18に接続される。
【0040】
このように、第2の実施の形態の送信電力制御回路においては、OPアンプ8により増幅されたバイアス抵抗12の端子間電圧が、電源電圧と比較され、両者の差分の増幅結果が増幅器16のゲートバイアス供給端子を介して増幅器16(利得調整手段)にフィードバックされ、増幅器7の出力段階での送信電力が一定になるように負帰還制御される。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の送信電力制御回路は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1…入力端子、2…出力端子、3…ゲートバイアス供給端子、4,17…ドレインバイアス供給端子、5…基準電圧端子、6…PINダイオード、7,16…増幅器、8…OPアンプ、9…LOGアンプ、10…差動増幅器、11…PINダイオード6のバイアス回路、12…バイアス抵抗、13…方向性結合器、14…検波ダイオード、15…デジタル制御回路、18…電源からの電圧端子、19…PINダイオード6のバイアス制御電圧端子、OIP3…インターセプトポイント、G…利得、I…ドレイン電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された入力信号を減衰させる利得調整手段と、前記利得調整手段の出力信号を増幅する増幅手段とからなる送信電力制御回路において、
前記増幅手段のドレインバイアス供給端子へ供給するドレイン電流に応じて前記利得調整手段の減衰量を制御することを特徴とする送信電力制御回路。
【請求項2】
前記ドレインバイアス供給端子に接続されるバイアス抵抗の両端に生じる電圧差を増幅し、前記バイアス抵抗に流れる前記ドレイン電流に対して線形な電圧を出力する第1の差動アンプを備え、
前記第1の差動アンプの出力に応じて前記利得調整手段の減衰量を制御することを特徴とする請求項1に記載の送信電力制御回路。
【請求項3】
前記利得調整手段はPINダイオードを有し、
前記第1の差動アンプの出力を対数変換するログアンプと、
前記ログアンプの出力と、前記増幅手段の出力レベルを規定する基準電圧との差分を増幅する第2の差動アンプと、を備え、
前記第2の差動アンプの出力により前記PINダイオードの減衰量を制御して前記入力信号の信号レベルを調整することを特徴とする請求項2に記載の送信電力制御回路。
【請求項4】
前記利得調整手段は可変増幅器であって、
前記第1の差動アンプの出力と、電源電圧との差分を増幅する第3の差動アンプを備え、
前記第3の差動アンプの出力により前記可変増幅器の減衰量を制御して前記入力信号の信号レベルを調整することを特徴とする請求項2に記載の送信電力制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−151539(P2012−151539A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6607(P2011−6607)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】