説明

送受信器

【課題】レーダで主流となるパルススイッチとホモダイン検波の組み合わせにおいて、キャリア信号のリークを低減した送信器を提供する。また、バイポーラパルスをデジタル回路で正確かつ迅速に受信できる受信器を提供する。
【解決手段】本発明の送受信器は、デジタル回路部2、送信回路部3、送信アンテナ4、受信回路部5、受信アンテナ6、及び高周波発信器7から構成される。送信回路部3は、内部にミキサ12とスイッチ13を有している。スイッチ13を開閉することでキャリア信号8の漏れを抑制している。受信回路部5は、IQ復調器31、2つを1組とした2組のAD変換器37,38と39、40、及び遅延時間設定部41、42からなる。各々2つずつのAD変換器でバイポーラパルスのI成分52及びQ成分53をサンプリングさせるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離測定や通信等に用いられる送信回路及び受信回路に関わるものであり、特に高周波数帯域のインパルス信号を用いた送信回路及び受信回路の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、数GHzの高周波数帯を適用した超広帯域無線システムであるUWB(Ultra Wide Band)を利用した通信やレーダの開発が進められている。特に、23〜31GHzの準ミリ波帯や、79GHz付近のミリ波帯において4〜6GHz程度の広帯域が、数十mの近距離を高精度に測定するための車載レーダ用の帯域としてに利用されようとしている。
【0003】
UWBレーダに用いるインパルス信号は、高速スイッチ、広帯域ミキサ等を用いて比較的低コストで発生する技術がある。
【0004】
ミキサにより生成した短パルスをレーダに用いる場合の送信回路の模式図を図7に示す。ミキサ74によるパルス発生には、デジタル回路72からのインパルス信号73(ベースバンド帯域)を用いる。所望のキャリア信号76を高周波発振器75で生成し、インパルス信号73を所望の周波数帯域で使用するためにアップコンバートした信号を送信していた。
【0005】
インパルス信号73には、通常ユニポーラ信号が用いられており、特に通信に用いられる受信回路では、極性を判定するテンプレートを適用するために、凸のパルス(以下では山という)と下に凸のパルス(以下では谷という)の両方をサンプリングする必要がある。そのために、一方の前記山又は谷のサンプリング・タイミングに対し他方の谷又は山のサンプリングを前記山と谷との時間差分(以下では遅延時間と呼ぶ)だけ遅らせて行う必要がある。この遅延時間は、所定の受信信号に対応して決められた固定値であり、前記UWBに適用される前記ユニポーラパルスではたかだか1ns程度である。
【0006】
従来は、前記遅延時間を実現するために、例えば、遅延回路として2本のマイクロストリップラインを用い、一方のマイクロストリップラインを他方よりも所定の距離だけ長くして時間差を実現するといったアナログ的な遅延回路を用いていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の送受信器では、以下のような問題があった。
すなわち、前記ミキサが高い性能のアイソレーションを有しない場合には、前記高周波発信器の前記キャリア信号が前記ミキサを経由して送信アンテナ側に漏れ、前記送信アンテナから放出されてしまっていた。そのため、前記インパルス信号が出力されていない間もリーク信号が送信され、受信器はこのリーク信号も受信していた。前記リーク信号が前記受信器で受信されてその情報が蓄積されると、前記インパルス信号が対象物で反射されて前記受信器で受信される本来の信号が、前記リーク信号でマスクされて検出することができなくなるといった問題があった。
【0008】
また、前記問題を解決するために、前記高周波発信器の電源を前記インパルス信号が出力されない期間だけOFFにするといった手段も考えられるが、この場合には前記高周波発信器のON/OFFによる過渡応答が前記インパルス信号に悪影響を与える恐れがあった。さらには、前記高周波発信器のON/OFFを繰り返すことで、前記高周波発信器が破損する恐れもあった。
【0009】
一方受信回路に関しては、従来は前記遅延時間を実現するためにアナログ的な遅延回路を用いていたが、アナログ的な方法では前記遅延時間を正確に実現するのが困難であった。例えば、遅延回路として2本のマイクロストリップラインを用い、一方のマイクロストリップラインを他方よりも所定の距離だけ長くして時間差を実現していたが、このような遅延回路ではマイクロストリップラインを伝送する際、パルスの形状も減衰や反射により劣化してしまい、受信信号の検出性能が劣化する、という問題があった。
【0010】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、レーダで主流となるパルススイッチと、ホモダイン検波の組み合わせにおいて、キャリア信号のリークを低減した送信器を提供することを目的とする。
また、前記遅延時間をデジタル回路で正確に実現した受信器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の送受信器の第1の態様は、デジタル回路で生成した所定のインパルス信号を所定の高周波数帯域にアップコンバートして送信アンテナから送信させる送信回路と、受信アンテナで受信した前記インパルス信号をサンプリングする受信回路からなる送受信器であって、前記所定の高周波数帯域のキャリア信号を発生させる高周波発信器を備え、前記送信回路は、前記インパルス信号列を前記キャリア信号によりアップコンバートさせるミキサと、前記高周波発信器と前記ミキサとの間に設けられ前記デジタル回路からの制御により開閉するスイッチとからなるとともに、前記受信回路は、前記受信アンテナで受信した受信信号を前記キャリア信号によりダウンコンバートさせる別のミキサと、前記別のミキサでダウンコンバートされた前記受信信号の波形を整形するLPF(Low Pass Filter)と、前記LPFで整形された前記受信信号を前記デジタル回路から入力したタイミングでサンプリングしてAD変換する第一のAD変換器と、前記デジタル回路から入力した前記タイミングを所定の時間だけ遅らせる遅延時間設定部と、前記LPFで整形された前記受信信号を前記遅延時間設定手段から入力したタイミングでサンプリングしてAD変換する第二のAD変換器とからなることを特徴とする送受信器である。
【0012】
第2の態様は、前記送信回路の前記スイッチは、前記ミキサと前記送信アンテナの間に設けられることを特徴とする送受信器である。
【0013】
第3の態様は、前記受信回路において、前記別のミキサと前記LPFに代えてIQ復調器を用いると共に、前記IQ復調器から出力されるI成分またはQ成分を前記第一のAD変換器及び前記第二のAD変換器に入力する一方、他方の前記Q成分または前記I成分を前記デジタル回路から入力したタイミング及び前記遅延時間設定手段から入力したタイミングでそれぞれサンプリングしてAD変換する第三のAD変換器及び第四のAD変換器と、からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の送受信器である。
【0014】
第4の態様は、前記受信回路にレーダ復調部を追加し、前記受信信号をサンプリングする前記タイミングは、前記レーダ復調部が所定の対象物を検出したときのサンプリング周期を用いて決定されることを特徴とする送受信器である。
【0015】
第5の態様は、前記受信信号をサンプリングする前記タイミングは、所定の時間幅内で順次変更して更新される周期に基づいて決定され、前記受信信号から所定の対象物が検出された後は前記周期を固定して決定される、ことを特徴とする送受信器である。
【0016】
第6の様態は、前記所定の対象物が移動したことが、前記レーダ復調部により検知された場合は、固定した前記周期を再度設定することを特徴とする送受信器である。
【0017】
第7の態様は、前記受信回路は、前記高周波発信器と前記別のミキサあるいは前記IQ復調器との間に別のスイッチを追加したことを特徴とする送受信器である。
【0018】
第8の態様は、前記受信信号をサンプリングする前記タイミングは、前記送信回路から送信されるインパルス信号を生成するタイミングを基に決定されることを特徴とする送受信器である。
【0019】
第9の態様は、前記高周波発信器は準ミリ波、例えば26GHz帯や、ミリ波、例えば79GHz帯の前記キャリア信号を発生させ、前記送信アンテナから送信されるインパルス信号の帯域は4GHz以上であることを特徴とする送受信器である。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、前記スイッチを設けることにより、前記インパルス信号が送信されていない期間に前記キャリア信号が前記ミキサから漏洩して送信アンテナから送信されるのを大幅に低減することが可能な送信回路を提供することができる。また、前記スイッチの制御を適切に行うことにより、前記スイッチのアイソレーションを高めることができるだけでなく、安価なスイッチを用いることができるという優れた効果が得られる。
【0021】
一方、所定の時間遅れを持たせた2つのAD変換器を組み合わせて用いることで、前記インパルス信号の2つの極性を精度良くサンプリングさせることができる受信回路を提供することができる。また、前記バイポーラパルスの2つのピークを別々にサンプリングさせるようにすることで、安価なAD変換器を用いることができるという優れた効果が得られる。
【0022】
上記の通り、本発明の前記送信回路と前記受信回路からなる送受信器では、低ノイズの送信と精度が高く処理の速い受信を低コストで実現できるといった優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態に係る送信回路及び受信回路は、バイポーラパルスからなる高周波帯域のインパルス信号に係るものである。
【0024】
図1は、本発明の実施形態である送受信器1の全体構成を示す概略図である。送受信器1は、デジタル回路部2、送信回路部3、送信アンテナ4、受信回路部5、受信アンテナ6、及び高周波発信器7から構成されている。
【0025】
デジタル回路部2は、送信回路部3及び受信回路部5の制御や信号処理等を行うものであり、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いることができる。また、デジタル回路部2にはパルス生成部11が内設され、所定の周期で所定のパルス幅のインパルス信号を生成するためのパルスパターン21を作成してパルス生成部11に提供している。
【0026】
パルス生成部11で用いられるパルスパターン21及びパルス生成部11で生成されるインパルス信号22の一実施例を図2に示す。パルスパターン21からインパルス信号22を生成するために、パルス生成部11として例えばLVDSを用いることができる。
【0027】
図2では、インパルス信号22としてバイポーラパルスを用いている。当該バイポーラパルスは、上に凸のパルス(山)と下に凸のパルス(谷)を組み合せた波形をしており、前記山の後に前記谷を組み合わせたものと前記谷の後に前記山を組み合わせたものの2種類がある。
【0028】
高周波発信器7は、所定の高周波数帯域で送受信を行わせるためのキャリア信号8を発信するものである。前記所定の高周波数帯域として、例えば24GHz帯が用いられる。
【0029】
以下ではまず、送信回路部3について説明する。
送信回路部3は、内部にミキサ12とスイッチ13を有する構成としている。
ミキサ12は、パルス生成部11から出力されるインパルス信号22と高周波発信器7から出力されるキャリア信号8とを掛け合わせることで、インパルス信号22を所定の周波数帯にアップコンバートするためのものである。アップコンバートされたインパルス信号22は、送信アンテナ4から外部に送信される。
【0030】
本発明の送信回路部3では、高周波発信器7とミキサ12との間にスイッチ13を設けることを特徴とする。
【0031】
図7に示すような従来の送信回路では、ミキサ74のアイソレーション性能が十分に高いものでないと、インパルス信号73が出力されていない期間に高周波発信器75から出力されているキャリア信号76がミキサ74から漏洩して送信アンテナ77から外部に送信されてしまう恐れがあった。高周波帯域の信号に対するアイソレーション性能を高めたミキサも開発されているが、極めて高価なため送信回路のコストが高くなるという問題があった。
【0032】
図2に示すインパルス信号22が、例えば24GHz帯において4GHz以上の広帯域を利用する場合には、インパルス信号22のパルス幅23は500ps程度となる。このようなインパルス信号22を100MHzかそれ以下の頻度で発信させると、インパルス信号22間の時間間隔24が10ns以上となる。すなわち、インパルス信号22が発信されていない時間は、インパルス信号22が発信されている時間に比べて数十倍以上長いことになる。
【0033】
キャリア信号8がミキサ12から漏洩して送信アンテナ4から出力されている場合には、インパルス信号22が発信されている期間に比べてはるかに長い期間、漏洩したキャリア信号8が送信アンテナ4から出力されその一部が受信アンテナ6で受信されることになる。その結果、インパルス信号22が反射して受信される本来の信号が、漏洩したキャリア信号8が反射して受信される信号によってマスクされてしまうという問題があった。
【0034】
そこで、本発明の送信回路部3では、高周波発信器7とミキサ12との間にスイッチ13を設け、インパルス信号22が出力される期間のみスイッチ13を閉にしてキャリア信号8がミキサ12に出力されるようにし、インパルス信号22が出力されていない期間はスイッチ13を開にしてキャリア信号8がミキサ12に出力されない構成としている。これにより、インパルス信号22が出力されていない期間に、キャリア信号8がミキサ12を漏洩して送信アンテナ4から送信されるのを回避することが可能となる。
【0035】
スイッチ13を開閉させるための制御用信号25は、デジタル回路部2においてパルス生成部11に提供するパルスパターン21に合わせて作成され、スイッチ13に出力される。スイッチ13を開閉させるための制御用信号25及びスイッチ13の開閉動作の応答の一実施例を、パルス生成部11で生成されるインパルス信号22と対応させて図3に示す。図3において、グラフ26は制御用信号25に従って開閉するスイッチ13の閉状態の割合を示している。
【0036】
スイッチ13は、少なくともインパルス信号22が出力されている期間は十分に閉となっているのが望ましい。従って、スイッチ13の応答性を考慮して、制御用信号25は図3に示すようなステップ状の信号とするのが好ましい。スイッチ13のアイソレーション特性の一実施例を図4に示すが、スイッチ13のアイソレーション特性27は、開閉の応答時間が長いほどアイソレーション性能が高くなり、応答時間を短くするに従って低下していく。
【0037】
レーダ等に用いられる送信回路3では、上記の通りキャリア信号8の漏洩を回避することが重要である。従って、スイッチ13のアイソレーション性能が高ければ高いほど望ましいことになる。
【0038】
しかしながら、アイソレーション性能を高めるために応答時間を必要以上に長くすると、過渡時を含めたスイッチ13の閉時間がインパルス信号22のパルス幅に比べて大幅に長くなってしまう。その結果、スイッチ13の前記閉時間のうちインパルス信号22が出力されていない時間が長くなり、その間キャリア信号8がミキサ12に出力され続け、ミキサ12から漏洩して送信アンテナ4から送信された信号の影響が大きくなってしまう。
【0039】
そこで、本発明の送信回路部3では、スイッチ13の応答時間を適切に選ぶことで、キャリア信号8がミキサ12に出力されるのを抑制している。すなわち、例えばインパルス信号22のパルス幅が500psの場合には、スイッチ13の応答時間を1〜3ns程度にするのが好ましい。この程度の期間、ミキサ12からキャリア信号8が漏洩して送信アンテナ4から送信されたとしても、その程度の漏洩はレーダの分解能に悪影響を与えることは無い。
【0040】
むしろ、スイッチ13の応答時間を1〜3ns程度にすることで、スイッチ13のアイソレーションを高めることができるだけでなく、安価なスイッチを用いることができるという優れた効果が得られる。
【0041】
なお、本実施形態では、スイッチ13を高周波発信器7とミキサ12間に設けたが、別の実施形態として、ミキサ12の下流側にスイッチ13を設けることも可能である。インパルス信号22が出力されていない期間、ミキサ12からキャリア信号8が漏洩するのを抑制できるものであれば、インパルス信号22の波形等に悪影響を与えない限り、スイッチ13の設置位置を上記実施形態に限るものではない。
【0042】
次に、本発明の受信回路の好ましい実施形態を、図面に基づいて説明する。
送信アンテナ4から送信された信号は、車両、人等の対象物で反射され受信アンテナ6で受信される。図1の受信回路部5において、受信信号51はIQ復調器31に送られ、IQ復調器31で再びベースバンド帯域に戻されるとともにI成分52とQ成分53に分離される。
【0043】
IQ復調器31は、受信アンテナ6で受信した受信信号51を分岐して2つのミキサ32、33に入力する一方、高周波発信器7からキャリア信号8をそれぞれのミキサ32、33に入力して受信信号51を再びベースバンド帯域にダウンコンバートする。この際、ミキサ33には、キャリア信号8の位相を位相調整部34でπ/2だけずらしたものを入力する。
【0044】
これにより、位相のずれに起因する受信信号51のI成分及びQ成分を、それぞれのミキサ32、33で分離して抽出することができる。抽出された前記I成分及び前記Q成分は、それぞれLPF(Low Pass Filter)35、36で整形された後、I成分52、Q成分53としてIQ復調器31から出力される。
【0045】
IQ復調器31から出力されるI成分52は分岐されて2つのAD変換器37,38に入力される一方、Q成分53は分岐されて2つAD変換器39、40に入力される。
【0046】
図1に示す本発明の受信回路5の実施形態では、バイポーラパルスの山と谷を正確に捉えるために、2つのAD変換器を1組とした2組4つのAD変換器37、38、39、40を用いている。前記バイポーラパルスの山と谷を1つのAD変換器でサンプリングさせることも可能ではあるが、そのためには4GHzの帯域に対応できるADを用いる必要がある。しかしながら、4GHz対応のAD変換器は高価なため、コスト面で大きな問題となる。
【0047】
これに対し、本発明の受信回路5のように2つのAD変換器を用いて前記バイポーラパルスの山と谷を別々にサンプリングさせるようにすることにより、40MHz程度に対応できるAD変換器を使用することが可能となり、コストを大幅に低減することが可能となる。さらに、デジタル回路部2における信号処理も迅速に行えるようになる。
【0048】
各々2つずつのAD変換器の組み合わせにおいて、一方のAD変換器37及び39は、デジタル回路部2から与えられるタイミング54でI成分52及びQ成分53のサンプリングを行っている。これに対し、他方のAD変換器38及び40は、それぞれ遅延時間設定部41及び42においてデジタル回路部2から与えられるタイミング54を前記遅延時間分だけ遅らせたタイミングを求め、前記遅延時間分だけ遅らせたタイミングでI成分52及びQ成分53をサンプリングするようにしている。
【0049】
本発明の送信回路部3で生成され送信されるインパルス信号22は、デジタル回路部2のクロックにより作成されたものであり、インパルス信号22の波形である前記バイポーラパルスの山と谷との時間差、すなわち前記遅延時間は前記クロックの周期に相当する。当該クロック周期はデジタル回路部2にデジタル値で記憶されていることから、前記遅延時間を遅延時間設定部41、42に正確に設定することが可能である。これにより、従来困難であった前記遅延時間の実現が、本発明の受信回路部5では遅延時間設定部41、42で正確に設定できるようになる。
【0050】
I成分52及びQ成分53のサンプリングを行うタイミング54は、デジタル回路部2において所定の時刻を基準に所定の周期T毎に設定されてAD変換器37、39及び遅延時間設定部41、42に出力される。前記所定の時刻は、送信回路3からインパルス信号22が送信されるタイミングとすることができる。また、周期Tは、所定の距離にある対象物と通信するために一定とすることも可能であるし、レーダとして測距も行う場合には可変とすることができる。
【0051】
また、前記遅延時間をτ1としたとき、AD変換器38、40は、デジタル回路部2から出力されるタイミング54より遅延時間τ1だけ遅延させたタイミングでサンプリングを行う。AD変換器37、38、39、40で前記バイポーラパルスの山と谷をサンプリングするタイミングを、模式的に図5に示す。
【0052】
図5に示す通り、I成分52に対しては、前記バイポーラパルスの前のピークがAD変換器37でサンプリングされ、前記バイポーラパルスの後ろのピークがAD変換器38でサンプリングされる。同様に、Q成分53に対しては、前記バイポーラパルスの前のピークがAD変換器39でサンプリングされ、前記バイポーラパルスの後ろのピークがAD変換器40でサンプリングされる。
【0053】
図1に示す受信回路5では、バイポーラパルスの山と谷の両方をサンプリングするために、2台のAD変換器を1組としてサンプリングを行わせるようにしたが、測距用としてレーダ復調のみを行う場合には1台のAD変換器でも可能である。すなわち、レーダ復調のみを行う場合は、バイポーラパルスの2つのピークをとらえる必要は必ずしも無く、インパルス信号22を受信したことがわかればよい。さらに、レーダ復調のみを行う場合は、送信波形はバイポーラパルスである必要は必ずしも無く、ユニポーラパルスでもよい。
【0054】
また、受信信号51の位相情報を保持するために図1ではIQ復調器31を用いたが、必ずしもIQ復調器を用いる必要は無く、特にレーダ用に測距のみを行う場合にはこれを用いないことも可能である。IQ復調器を用いない場合は、それに代わって受信信号51をダウンコンバートするためのミキサとLPFを設ける必要がある。また、通信用としてデータ復調を行う場合には2台のAD変換器が必要であるが、レーダ復調のみを行う場合には1台のAD変換器でよい。
【0055】
図1では、受信回路部5にもスイッチ43を設けている。これは、デジタル回路部2から与えられるタイミング54で受信信号51のサンプリングを行うとき以外は、キャリア信号8がミキサ32、33から漏洩してサンプリング処理に何らかの悪影響を与えるのを回避するためである。
【0056】
本発明の受信回路の別の実施形態を図面を用いて以下に説明する。
図6では、図1の受信回路部5に測距用に受信信号51を処理するレーダ復調部62が追加されている。また、図1に示された受信回路部5は、本実施形態では通信用のデータ復調部63としている。従って、本実施形態の受信回路部61は、レーダ復調部62とデータ復調部63から構成されている。
【0057】
レーダ復調部62は、IQ復調器64と2つのAD変換器65、66から構成されている。また、受信信号51をサンプリングするとき以外はキャリア信号8の入力を遮断するためのスイッチ67を設けてもよい。AD変換器65、66は、デジタル回路部2から与えられるタイミング68でサンプリングを行う。
【0058】
測距用のレーダ送受信器では、対象物までの距離を測定するために、送信アンテナから信号が送信され、前記信号が前記対象物で反射され、反射された前記信号が受信アンテナで受信されサンプリングされるまでの時間差で対象物までの距離を測定している。具体的には送信信号69を送信してからサンプリングされるまでの時間(サンプリング周期)を所定の時間幅τ2で順次変更しながら送受信を繰り返し、前記対象物で反射された信号が検出されたときのサンプリング周期を求めている。
【0059】
図6に示す本実施形態では、送信回路部3から送信される信号を測距用と通信用に兼用することができ、例えばレーダ復調部で受信信号51を処理して前記対象物を検知させ、前記対象物が検知されたときのサンプリング周期をデータ復調部のサンプリング周期に設定することにより、前記対象物からの信号を受信できるようにすることが可能である。
【0060】
また、図1に示す実施形態においては、受信回路5を測距用としてサンプリング周期Tを順次変更して対象物を検知させ、対象物が検知された後はサンプリング周期Tを固定して対象物との通信を行わせることも可能である。さらに、前記対象物が移動したことが、前記レーダ復調部により検知された場合は、固定した前記周期Tを再度設定し、前記対象物と持続的に通信を行わせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、本発明の実施形態である送受信器の全体構成を示す概略図である。
【図2】図2はパルス生成部11で用いられるパルスパターン21及びパルス生成部11で生成されるインパルス信号22の一実施例を示す。
【図3】図3は、インパルス信号とスイッチを開閉させるための制御用信号及びスイッチの開閉動作の応答の一実施例を示す。
【図4】図4は、スイッチのアイソレーション特性の一実施例を示す。
【図5】図5は、AD変換器でバイポーラパルスの山と谷をサンプリングするタイミングを模式的に示す。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態であるレーダ復調部を追加した送受信器の全体構成を示す概略図である。
【図7】図7は、ミキサにより生成した短パルスをレーダに用いる場合の従来の送路の模式図を示す。
【符号の説明】
【0062】
1・・・送受信器
2、72・・・デジタル回路部
3・・・送信回路部
4、77・・・送信アンテナ
5、61・・・受信回路部
6・・・受信アンテナ
7、75・・・高周波発信器
8、76・・・キャリア信号
11・・・パルス生成部
12、32,33、74・・・ミキサ
13、67・・・スイッチ
21・・・パルスパターン
22、73・・・インパルス信号
23・・・パルス幅
24・・・インパルス信号間の時間間隔
25・・・制御用信号
26・・・スイッチの閉状態の割合
27・・・アイソレーション特性
31、64・・・IQ復調器
34・・・位相調整部
35、36・・・LPF
37、38、39、40、65、66・・・AD変換器
41、42・・・遅延時間設定部
51・・・受信信号
52・・・I成分
53・・・Q成分
54、68・・・タイミング
62・・・レーダ復調部
63・・・データ復調部
69…送信信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル回路で生成した所定のインパルス信号を所定の高周波数帯域にアップコンバートして送信アンテナから送信させる送信回路と、受信アンテナで受信した前記インパルス信号をサンプリングする受信回路からなる送受信器であって、
前記所定の高周波数帯域のキャリア信号を発生させる高周波発信器を備え、
前記送信回路は、
前記インパルス信号列を前記キャリア信号によりアップコンバートさせるミキサと、
前記高周波発信器と前記ミキサとの間に設けられ前記デジタル回路からの制御により開閉するスイッチと
からなるとともに、前記受信回路は、
前記受信アンテナで受信した受信信号を前記キャリア信号によりダウンコンバートさせる別のミキサと、
前記別のミキサでダウンコンバートされた前記受信信号の波形を整形するLPF(Low Pass Filter)と、
前記LPFで整形された前記受信信号を前記デジタル回路から入力したタイミングでサンプリングしてAD変換する第一のAD変換器と、
前記デジタル回路から入力した前記タイミングを所定の時間だけ遅らせる遅延時間設定部と、
前記LPFで整形された前記受信信号を前記遅延時間設定手段から入力したタイミングでサンプリングしてAD変換する第二のAD変換器と
からなることを特徴とする送受信器。
【請求項2】
前記送信回路の前記スイッチは、
前記ミキサと前記送信アンテナの間に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の送受信器。
【請求項3】
前記受信回路において、
前記別のミキサと前記LPFに代えてIQ復調器を用いると共に、
前記IQ復調器から出力されるI成分またはQ成分を前記第一のAD変換器及び前記第二のAD変換器に入力する一方、
他方の前記Q成分または前記I成分を前記デジタル回路から入力したタイミング及び前記遅延時間設定手段から入力したタイミングでそれぞれサンプリングしてAD変換する第三のAD変換器及び第四のAD変換器と、
からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の送受信器。
【請求項4】
前記受信回路にレーダ復調部を追加し、
前記受信信号をサンプリングする前記タイミングは、前記レーダ復調部が所定の対象物を検出したときのサンプリング周期を用いて決定される
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の送受信器。
【請求項5】
前記受信信号をサンプリングする前記タイミングは、
所定の時間幅内で順次変更して更新される周期に基づいて決定され、
前記受信信号から所定の対象物が検出された後は前記周期を固定して決定される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の送受信器。
【請求項6】
前記所定の対象物が移動したことが、前記レーダ復調部により検知された場合は、固定した前記周期を再度設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の送受信器。
【請求項7】
前記受信回路は、
前記高周波発信器と前記別のミキサあるいは前記IQ復調器との間に別のスイッチを追加した
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の送受信器。
【請求項8】
前記受信信号をサンプリングする前記タイミングは、
前記送信回路から送信されるインパルス信号を生成するタイミングを基に決定される
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の送受信器。
【請求項9】
前記高周波発信器は準ミリ波帯、又はミリ波帯の前記キャリア信号を発生させ、
前記送信アンテナから送信されるインパルス信号の帯域は4GHz以上である
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の送受信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−203718(P2006−203718A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15044(P2005−15044)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】