説明

透かし埋め込み装置と方法ならびに透かし抽出装置と方法

【課題】 電子透かしは、画像の幾何学変換に対する耐性が要求される。
【解決手段】 透かしスペクトル生成処理部10は、透かし埋め込み対象の原画像を2次元離散フーリエ変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転および平行移動に関して不変な領域において、原画像に埋め込むべき透かしの振幅スペクトルを生成する。透かしスペクトル逆変換処理部30は、透かしスペクトル生成処理部10により生成された透かしの振幅スペクトルを直交座標系の空間領域に逆変換することにより、直交座標系の2次元透かしデータを生成する。透かし埋め込み部40は、2次元透かしデータを原画像に埋め込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子透かし技術に関し、特に透かし埋め込み装置と方法ならびに透かし抽出装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット利用人口が急増し、今やインターネット利用の新たなステージともいえるブロードバンド時代に入っている。ブロードバンド通信では通信帯域が格段に広がるため、音声、静止画、動画などデータ量の大きいコンテンツの配信も気軽にできるようになる。このようなデジタルコンテンツの流通が盛んになると、コンテンツの著作権の保護がより一層求められる。
【0003】
ネットワーク上に流通するコンテンツのデータは他人に容易にコピーされ、著作権に対する保護が十分ではないのが現状である。そこで著作権を保護するために、コンテンツの作成者や利用者の情報を電子透かしとしてコンテンツデータに埋め込む技術が開発されている。この電子透かし技術を用いることにより、ネットワーク上で流通するコンテンツデータから電子透かしを抽出して、不正利用を検出したり、不正コピーの流通経路を追跡することが可能となる。
【0004】
電子透かしは、不正利用者による改ざんを防止するために、利用者には分からないようにコンテンツデータに埋め込まれる。しかしコンテンツデータは、流通過程や利用過程で、圧縮符号化や各種フィルタリングなどの信号処理が加えられたり、ユーザにより加工されたり、あるいは透かし情報が改ざんされるなど、さまざまな操作を受けることがあり、その過程で埋め込まれた電子透かしデータの一部が変更されたり、消失する可能性がある。したがって電子透かしはこういった操作に対する耐性が要求される。
【0005】
電子透かしは、回転、スケーリング、および平行移動のような画像の幾何学変換に対しても耐性が要求される。幾何学変換に対する透かしの耐性を向上するためにいろいろな電子透かし技術が提案されている。たとえば、非特許文献1および2には、対数極座標変換と離散フーリエ変換を組み合わせることにより、回転、スケーリング、および平行移動に関して不変な透かしを提供することのできる電子透かし技術が提案されている。
【非特許文献1】Joseph J.K. O'Ruanaidh and Thierry Pun, "Rotation, scale and translation invariant digital image watermarking," Proc. IEEE International Conference on Image Processing 1997 (ICIP 97), Santa Barbara, CA, USA, vol.1, pp.536-539, October 1997.
【非特許文献2】C. Lin, M.Wu, J. A. Bloom, I.J. Cox, M.L.Miller and Y.M. Lui,"Rotation, Scale, and Translation Resilient Public Watermarking for Images", IEEE Transactions on Image Processing, vol.10, issue 5, pp.767-782, May 2001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1および2の方法では、透かし埋め込み時および透かし抽出時に行われる直交座標系から対数極座標系への変換もしくはその逆変換が、デジタル画像のピクセルが離散点であることから、1対1の対応にならないため、透かし信号に大きなノイズが加わり、透かしを正しく抽出できないという問題があった。
【0007】
また、非特許文献1および2のような幾何学変換耐性のある電子透かし技術は、透かし抽出の際、埋め込まれた透かしが既知であることを前提としているものが多く、透かしの有無を検出することができても、埋め込まれた透かしデータそのものを推定することはできないという限界もあった。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたもので、その目的は、画像の幾何学変換に対して耐性があり、透かしの検出精度が安定した電子透かし技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の透かし埋め込み装置は、透かし埋め込み対象の原画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転および平行移動に関して不変な領域において、前記原画像に埋め込むべき透かしの振幅スペクトルを生成する透かしスペクトル生成部と、前記透かしの振幅スペクトルを直交座標系の空間領域に逆変換することにより、直交座標系の2次元透かしデータを生成する透かしスペクトル逆変換部と、前記2次元透かしデータを前記原画像に埋め込む透かし埋め込み部とを含む。
【0010】
本発明の別の態様は、透かし抽出装置である。この装置は、透かしが埋め込まれている可能性のあるテスト画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換することにより、直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成する2次元空間周波数変換部と、前記直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを対数極座標変換することにより、対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成する対数極座標変換部と、前記対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルをさらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより、回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを生成する角度方向空間周波数変換部と、前記回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを利用して、対数極座標系の半径方向に沿って透かしの有無を全探索することにより透かしを抽出する透かし抽出部とを含む。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、透かし埋め込み方法である。この方法は、原画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標系に変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転およぶ平行移動に関して不変な領域において、対数極座標系の半径方向に冗長性のある透かしの振幅スペクトルを生成し、その透かしの振幅スペクトルを逆変換して得られる2次元透かしデータを原画像に埋め込む。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、透かし抽出方法である。この方法は、透かしが埋め込まれている可能性のあるテスト画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標系に変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転および平行移動に関して不変な領域において、対数極座標系の半径方向に沿って透かしの有無を全探索することにより前記テスト画像に埋め込まれた透かしを抽出する。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、コンピュータプログラムである。このプログラムは、透かし埋め込み対象の原画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転および平行移動に関して不変な領域において、前記原画像に埋め込むべき透かしの振幅スペクトルを生成するステップと、前記回転および平行移動に関して不変な領域において生成された透かしの振幅スペクトルを対数極座標系の角度方向に逆空間周波数変換することにより、対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを生成するステップと、前記対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを逆対数極座標変換することにより、直交座標系の透かしの振幅スペクトルを生成するステップと、前記直交座標系の透かしの振幅スペクトルを逆空間周波数変換することにより、直交座標系における2次元透かしデータを生成するステップと、前記2次元透かしデータを前記原画像に埋め込むステップとをコンピュータに実行させる。
【0014】
本発明のさらに別の態様も、コンピュータプログラムである。このプログラムは、透かしが埋め込まれている可能性のあるテスト画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換することにより、直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成するステップと、前記直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを対数極座標変換することにより、対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成するステップと、前記対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルをさらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより、回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを生成するステップと、前記回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを利用して、対数極座標系の半径方向に沿って透かしの有無を全探索することにより透かしを抽出するステップとをコンピュータに実行させる。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、画像の幾何学変換に対する透かしの耐性を強化することができ、透かしを高い精度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。[1]節で画像の幾何学変換に関する不変性について定式化し、[2]節および[3]節で実施の形態に係る透かし埋め込み方法および透かし抽出方法を説明し、[4]節でそれらの方法の実装上の工夫を述べ、[5]節で実施の形態に係る透かし埋め込み装置および透かし抽出装置を説明する。
【0018】
[1]対数極座標変換と離散フーリエ変換によるRT不変性
RST不変な(rotation, scaling and translation invariant)電子透かし技術を実現するためにフーリエ・メリン変換(Fourier-Mellin transform)を用いる。フーリエ・メリン変換は、対数極座標変換された画像上で離散フーリエ変換(DFT)を行うことにより実現することができる。フーリエ・メリン変換によるRST不変性は、次のように定式化することができる。
【数1】

ここで、変換画像i’(x,y)は、原画像i(x,y)を角αだけ回転し、倍率σだけスケーリングし、変位(x,y)だけ平行移動したものである。
【0019】
変換画像i’(x,y)の離散フーリエ変換の振幅(magnitude)|I’(f,f)|は次式で与えられる。
【数2】

ここで、F{・}は2次元離散フーリエ変換を示す。任意の画像の離散フーリエ変換の振幅は、平行移動に対して不変であるから、これを平行移動に関して不変な領域、あるいは簡単にT不変領域と呼ぶ。
【0020】
対数極座標変換(log-polar mapping)(f,f)=(eρcosθ,eρsinθ)を式(2)に適用することにより、次式が得られる。
【数3】

式(3)を対数極座標系に書き直すと、次式のようになる。
【数4】

【0021】
式(4)によれば、|I’(ρ,θ)|をさらに離散フーリエ変換して振幅を求めると、RST不変になる。なぜなら、|I’(ρ,θ)|の離散フーリエ変換の振幅は、T不変であり、式(4)の変位(logσ,α)に依存しないから、結果的にスケーリングσと回転αについても不変となるからである。
【0022】
非特許文献1では、このRST不変領域で透かしを埋め込み、抽出する方法が試みられているが、いろいろな問題があり、一般にはうまくいかない。そこで対数極座標変換だけを用いる代替案が研究されている。非特許文献2は、対数極座標でサンプリングされた離散フーリエ変換の振幅スペクトルを対数半径軸ρに沿って加算することにより得られる平行移動とスケーリングに関して不変な領域に透かしを埋め込む方法を提案する。回転不変は、こうして得られる1次元領域で全探索をすることにより達成されるが、この方法は、誤検出が生じる可能性が高く、全探索するときの回転角の探索間隔よりも細かい角度の回転には対処することができない。
【0023】
それとは対照的に、我々は、回転と平行移動に関して不変な領域(以下、RT不変(rotation and translation invariant)領域という)に透かしを埋め込むことを提案する。このRT不変領域は、対数極座標変換された離散フーリエ変換の振幅を角θに沿ってさらに1次元離散フーリエ変換したときの振幅スペクトルである。画像f(x,y)が与えられたとき、その画像についての対数極座標変換された離散フーリエ変換の振幅|F(ρ,θ)|は、式(2)〜(4)に示した方法で得られ、そのRT不変領域における表現は次のように定義される。
【数5】

ここでFθ{・}は、θ軸に沿った1次元離散フーリエ変換を示す。
【0024】
式(5)を用いると、式(4)をRT不変領域のデータに次のように変換することができる。
【数6】

【0025】
スケーリングに起因する平行移動logσについては、ρ軸に沿って単純な探索を行うことによって対処する。サブピクセル単位のρ軸の平行移動による影響を補償するために、透かしは冗長に埋め込まれる。これについては、[3]節で述べる。
【0026】
[2]透かし埋め込み方法
図1は、実施の形態に係る透かし埋め込み方法を説明する図である。ここで、|C(・,・)|および|∠C(・,・)|はそれぞれ、複素データC(・,・)の振幅(magnitude)および位相(phase)を示す。以下、透かしを埋め込む対象となる画像をカバー画像(cover image)、透かしが埋め込まれた画像を透かし入り画像(watermarked image)、透かしを抽出する対象となる画像をテスト画像(test image)と呼ぶ。透かし埋め込み方法は次の手順(1)〜(5)からなり、図1ではステップS10〜S28で示される。
【0027】
(1)次の(a)〜(c)の手順により、カバー画像c(x,y)から2つの位相∠C^(ρ,fθ)、∠C(f,f)を取得する。
【0028】
(a)カバー画像c(x,y)に離散フーリエ変換を施し、振幅|C(f,f)|と位相∠C(f,f)を取得する(S10)。
(b)振幅|C(f,f)|を対数極座標変換することにより、振幅|C(ρ,θ)|を得る(S12)。
(c)振幅|C(ρ,θ)|にθ軸に沿った1次元離散フーリエ変換を施すことにより、位相∠C^(ρ,fθ)を得る(S14)。
【0029】
(2)誤り訂正符号(ECC)によりl(エル)ビットの透かし系列w=(w,w,…,wl−1)を符号化し、nビットの符号系列t=(t,t,…,tn−1)を得る(S16)。その後、t(i=0,1,…,n−1)をマンチェスタ符号で変調することにより、次のマンチェスタ符号系列を得る(S18)。
【数7】

【0030】
(3)マンチェスタ符号系列mを次式にしたがってRT不変領域に配置することにより、2次元RT不変透かし|W^(ρ,fθ)|を生成する(S20)。
【数8】

かつ、
【数9】

ここでj=0,1,…,2n−1であり、fは、RT不変領域において低周波帯域に透かしが埋め込まれないように禁止するための正のオフセット周波数である。式(9)は、RT不変領域における対称性を実現し、T不変領域で透かしが実数になることを保証する。
【0031】
(4)次の(a)〜(c)の手順により、|W^(ρ,fθ)|を2次元空間領域の透かしw(x,y)に逆変換する。
【0032】
(a)|W^(ρ,fθ)|上で位相∠C^(ρ,fθ)を用いて1次元逆離散フーリエ変換を施すことによって、対数極座標変換された離散フーリエ変換の振幅領域における透かし|W(ρ,θ)|を得る(S22)。
【0033】
(b)透かし|W(ρ,θ)|に逆対数極座標変換を適用することにより、|W(f,f)|を得る(S24)。T不変領域の対称性の性質に従うため、|W(ρ,θ)|は|W(f,f)|の半分にのみ写像される。ここで0≦tan−1(f/f)≦πであり、残りの半分は次式により生成される。
【数10】

【0034】
(c)振幅|W(f,f)|と位相∠C(f,f)を用いて逆離散フーリエ変換を透かしに施して、2次元空間の形式の透かしw(x,y)に変換する(S26)。
【0035】
(5)ヒューマンビジュアルシステム(HVS)によって人間の視覚上、画質に劣化が目立たないように、2次元空間の透かしw(x,y)とカバー画像c(x,y)を結合する(S28)。
【0036】
まとめると、本実施の形態の透かし埋め込み方法は、まずRT不変領域で透かしを生成し、次にそれを2次元空間領域に逆変換し、その領域において透かしとカバー画像を結合する。
【0037】
上記の手順(2)において、ターボ符号のような誤り訂正符号で透かし系列を符号化することにより、幾何学的な歪みによるノイズに対する頑強性を劇的に高めることができる。ターボ符号はまた、透かし抽出過程でテスト画像に透かしが存在するかどうかを決定するためのツールとしても機能する。これについては[3]節で述べる。マンチェスタ符号は、カバー画像から受けるノイズに対して頑強であり、しかもターボ復号に与える軟値を作りやすいことから、利用される。
【0038】
手順(3)において、同じ透かしデータがρからρ=ρ+s−1までにわたり、s回埋め込まれる。透かしは中間の周波数帯域に埋め込まれるべきである。中間周波数帯域においては、対数極座標変換による歪みや圧縮などの攻撃による影響を受けにくいため、透かしの完全性(integrity)を保ちやすい。
【0039】
また、RT不変領域において低周波数帯域で埋め込まれた透かしは、カバー画像自身がRT不変領域で強い低周波成分のバイアスを含んでいるため、カバー画像の集中したエネルギーによって打ち消される傾向がある。その結果、透かしはRT不変領域のfよりも低い周波数帯域には埋め込まれない。
【0040】
非特許文献1に述べられているように、逆離散フーリエ変換の過程でカバー画像から得られる位相情報を用いることにより、カバー画像に似た透かしを生成することができる。我々は、この考えを手順(4)(a)でRT不変な透かしに適用される1次元逆離散フーリエ変換に拡張する。適切な位相が適用されると、透かしw(x,y)はカバー画像c(x,y)に非常によく似たものとなる。ランダムな位相を用いて生成される他の透かしと比べると、この透かしw(x,y)は、歪み量については同程度に保ちながら、より強いパワーで埋め込むことができる。したがって、同じ知覚的な品質のもと、透かしパワーを増加させて、透かし埋め込み後の歪みに対する頑強性を高めることができる。
【0041】
2次元空間領域において実数の透かしを生成するために、透かし埋め込み手順全体を通じて、式(10)で示すT不変領域における対称性の性質と、式(9)で示すRT不変領域における対称性の性質が維持される。
【0042】
[3]透かし抽出方法
図2は、実施の形態に係る透かし抽出方法を説明する図である。透かし抽出方法は次の手順(1)〜(6)からなり、図2ではステップS30〜S46で示される。
【0043】
(1)透かし埋め込み後に歪みが生じているか、あるいは透かしが元々埋め込まれていない可能性のあるテスト画像c(x,y)をRT不変領域における振幅|C^(ρ,fθ)|に変換する。この変換は、以下のように、[2]節の透かし埋め込み方法の手順(1)(a)〜(c)と同様に行うことができる。
【0044】
(a)テスト画像c(x,y)に離散フーリエ変換を施し、振幅|C(f,f)|を取得する(S30)。
(b)振幅|C(f,f)|を対数極座標変換することにより、振幅|C(ρ,θ)|を得る(S32)。
(c)振幅|C(ρ,θ)|にθ軸に沿った1次元離散フーリエ変換を施すことにより、振幅|C^(ρ,fθ)|を得る(S34)。
【0045】
(2)振幅|C^(ρ,fθ)|にρ軸に沿ったローパスフィルタを適用する(S36)。
【0046】
(3)すべてのρについて、次式のように軟値v(ρ)=(v(ρ),…,vn−1(ρ))を得る(S38)。
【数11】

ここでi=0,…,n−1である。これはマンチェスタ符号を復号することに相当する。
【0047】
(4)すべてのρについて、軟値v(ρ)をd(ρ)=(d(ρ),…,dl−1(ρ))にECC復号する(S40)。
【0048】
(5)すべてのρについて、ECC復号されたd(ρ)が透かしの候補として妥当であるかどうかを評価するために、d(ρ)をECC符号化し、さらに符号化後のビット0を−1へ変換する処理を行うことでv’(ρ)を求め(S42)、v(ρ)とv’(ρ)の相関係数c(ρ)を計算する(S44)。
【0049】
(6)透かしd=(d,…,dl−1)を次のように推定する(S46)。
【数12】

ただし、i=0,…,l−1である。仮に透かしベクトルdの1つ以上のビットが無効であれば、透かしベクトルdは無効であるとみなされ、テスト画像c(x,y)は透かし無し画像と判断される。
【0050】
まとめると、透かし抽出手順は、まず透かし入り画像をRT不変領域に変換し、次にρ軸に沿って透かしが存在するかどうかを全探索する。
【0051】
上記の手順(1)において、|C(ρ,θ)|は|C(f,f)|の半分から生成されるだけである。すなわち、0≦tan−1(f/f)<πを満たすデータから|C(ρ,θ)|を生成する。これは、実数の画像c(x,y)に対して、|C(f,f)|は回転角πに関して対称であり、|C(f,f)|=|C(−f,−f)|、すなわち対数極座標系において|C(ρ,θ)|=|C(ρ,θ+π)|であるからである。このことは、π≦θ<2πにおける|C(ρ,θ)|は冗長であることを意味し、それゆえ、0≦θ<πにおける|C(ρ,θ)|だけが透かし抽出の際に生成される。
【0052】
手順(2)では、透かしを保存しつつ高周波ノイズを削除するために、ローパスフィルタが適用される。これは、同じ符号化された透かしが、ρ軸に沿ってs回埋め込まれており、いずれもρ軸に沿って低周波数帯域に存在しているからである。この冗長な埋め込みとローパスフィルタリングのおかげで、スケーリングによってサブピクセル単位のρ軸方向の平行移動が起きても、透かし信号そのものには何ら重大な影響はない。
【0053】
手順(3)では、手順(1)と同様に、RT不変領域の対称性の性質|C^(ρ,−fθ)|=|C^(ρ,fθ)|のゆえに、fθ<0に対する|C^(ρ,fθ)|は軟値v(ρ)の生成に使用されない。
【0054】
手順(5)および手順(6)における全探索(exhaustive search)は、任意の透かし無し画像から抽出された軟値v(ρ)は、ランダムデータからなり、最も近いECC符号語からの距離が、透かし入り画像から抽出された軟値と比べて、大きくなる確率が高いという仮定に基づいている。この仮定は、軟値v(ρ)が透かし無し画像についてはv’(ρ)と強い相関をもつ可能性が低いという結果を導く。
【0055】
この仮定のもと、c(ρ)>τをもつ透かし候補d(ρ)はすべて妥当であると判断され、式(12)に示すように、透かしdは、すべての妥当な透かし候補の重み付き和によって推定される。
【0056】
透かし入り画像に対する式(12)の重み付き和|Σρ|c(ρ)>τc(ρ)d(ρ)|は、c(ρ)>τを満足するv(ρ)の数は、透かしの入っていない画像と比べて、圧倒的に多いため、一般にはずっと大きな値をもつ。透かしの入ってない画像でも、大きなc(ρ)を取るv(ρ)がまれに発生するが、そのような例外的に大きなc(ρ)に起因する抽出誤差は、式(12)の閾値μによって効果的に最小限に抑えることができる。
【0057】
[4]実装上の工夫
この節では、上記の透かし埋め込み方法および抽出方法における4つの実装上の課題を取り上げ、それに対する解決手段を示す。なお、これらの解決手段は、上記の透かし埋め込み方法および抽出方法の性能をいろいろな条件に対応できるようにさらに向上するためのものであり、特定の条件のもとで透かし埋め込みや抽出を行うときや、透かしの抽出精度の要求レベルが高くないときなどの場合には、必須の構成としなくてもよい。
【0058】
[4.1]画像境界において生じる離散フーリエ変換のスペクトルの人工生成物
離散フーリエ変換の際、画像境界の各エッジにおいて不連続性が大きくなる。画像の各エッジは、T不変領域において強い「十字」型の人工生成物に変換される。この人工生成物は、非特許文献2に述べられているように、クロッピングにより自由に変形可能な画像境界に関する情報だけを含んでおり、画像自身については何ら情報を伝達しない。対数極座標変換の後、この人工生成物はρ軸に沿った2本の増幅した直線になり、それはさらにRT不変領域においては、透かしを含めてすべての周波数帯域を歪ませる高振幅のインパルスの列に変換される。この現象は次のように定式化できる。
【数13】

ここでT(f,f)は、画像境界が角φだけ回転した画像のT不変領域における「十字」型の人工生成物である。式(13)は、すべてのρに対して、T不変領域では、
【数14】

と変換され、RT不変領域では、
【数15】

と変換される。ここでNはθ軸に沿った最大周波数である。
【0059】
上記の説明において、「十字」型の人工生成物は、T不変領域におけるDC成分に集中するインパルスの2本の直交する直線として理想的に論じられている。より正確なモデルとしては、式(13)および(14)において使用したデルタ関数の代わりに、RT不変領域において指数関数的に減衰するインパルス列を生成するガウス分布関数を用いて人工物を近似した方がよい。デルタ関数またはガウス分布関数を用いたいずれのモデルであっても、「十字」型の人工生成物が透かしに著しい歪みを与えうることを説明することができる。したがって、この人工生成物は透かし抽出の際に除去もしくは補償されなければならない。RT不変領域においてこの人工生成物を補償することは実際的ではないことがわかっている。なぜなら、人工生成物の振幅は、推定が困難な画像境界の強さに依存するからである。
【0060】
当面の解決策は、T不変領域において「十字」型の人工生成物を検出し、除去することである。「十字」型の人工生成物はT不変領域では極端に局所化している。「十字」型の検出方法の一つとして、次のラドン変換を用いる方法がある。
【数16】

【0061】
画像を角φの直線に投影することにより、角φ+π/2をもつすべての直線はその投影上で強いパルスを生成する。この理由により、ラドン変換は非常に正確な直線抽出ツールとして知られている。「十字」型の人工生成物は基本的に、離散フーリエ変換の振幅領域において2本の直交する直線であり、ラドン領域上では2つのパルスとして容易に検出することができる。いったんこの「十字」型の人工生成物の角度が検出されれば、この人工生成物に近い周波数をゼロに設定することにより、この人工生成物は取り除かれる。
【0062】
[4.2]離散フーリエ変換の振幅スペクトル上の離散フーリエ変換
透かし埋め込みの際、透かしはRT不変領域において生成され、埋め込みのために2次元空間領域に逆変換される。この逆変換には、1次元逆離散フーリエ変換、それに引き続いて逆対数極座標変換、それからさらにもう一つの逆離散フーリエ変換の実行が関わる。逆対数極座標変換による歪みの影響を無視したとしても、2つの逆離散フーリエ変換を続けて実行するだけで、透かしが完全に歪んでしまう。図3は、この問題を説明する単純な例であり、一対の対称性のあるRT不変領域のインパルスが、2回の逆離散フーリエ変換と2回の離散フーリエ変換を続けて施された後、高調波(harmonics)になって分散している。
【0063】
この歪みの原因は次のように述べることができる。[2]節で述べたように、図3の一対の対称性のあるインパルスからなる透かしは、RT不変領域の対称性の性質に従って生成される。それゆえ、最初の1次元逆離散フーリエ変換によって、この透かしは、図3に示すように、対数極座標変換された離散フーリエ変換のスペクトル領域上においては、ある特定の周波数をもつコサイン波から成る実信号W(ρ,θ)に変換される。また、透かしはRT不変領域において|fθ|<fなる周波数fθには埋め込まれないから、|W^(ρ,fθ=0)|=0であり、W(ρ,θ)は同じ量の正と負のデータをもつことになる。すなわちEθ[W(ρ,θ)]=|W^(ρ,0)|=0である。
【0064】
しかしながら、この実数信号W(ρ,θ)は、完全にはT不変ではない。W(ρ,θ)の唯一のT不変部分は、W(ρ,θ)の絶対値である振幅|W(ρ,θ)|である。W(ρ,θ)の符号の情報は、位相∠W(ρ,θ)に記憶されており、正のW(ρ,θ)に対しては、位相∠W(ρ,θ)は0であり、負のW(ρ,θ)に対しては、位相∠W(ρ,θ)はπである。位相∠W(ρ,θ)はT不変ではないから、平行移動によって歪みが生じる。このため、透かし抽出の過程では、テスト画像の位相は捨てられる。また、2回目の逆離散フーリエ変換の過程で、位相∠W(ρ,θ)は[2]節で述べたように、カバー画像から抽出された位相によって上書きされる。結果として、振幅|W(ρ,θ)|だけが保存されることになり、透かしに完全に歪みが生じる結果となる。
【0065】
この問題を定義する一つの方法は、この絶対値演算を、対数極座標変換された離散フーリエ変換のスペクトル領域の透かしW(ρ,θ)に対して関数A(ρ,θ)を乗算することして扱うことである。この関数A(ρ,θ)は、
【数17】

と定義され、W(ρ,θ)に適用される絶対値演算は、次のようにモデル化される。
【数18】

【0066】
式(17)および(18)を用いると、T不変領域における絶対値演算は、T不変領域でA(ρ,θ)をW(ρ,θ)に乗算することとしてモデル化することができ、これは、RT不変領域においてA^(ρ,fθ)とW^(ρ,fθ)の畳み込み演算をすることと等価である。位相データ置換後のW(ρ,θ)は、カバー画像から抽出されたランダムな位相信号∠C^(ρ,fθ)を用いて生成されている信号であるから、ほぼ同じ量の正と負のデータから構成されており、少ないDC成分を含む可能性が高い。それゆえ、W(ρ,θ)から導かれる関数A(ρ,θ)も、きわめて小さいDC成分の項をもつことが予測される。結果的に、A^(ρ,fθ)をW^(ρ,fθ)に畳み込むことによりW^(ρ,fθ)の周波数シフトが発生するため、|W^(ρ,fθ)|は再生不可能になる。
【0067】
この問題に対する一つの解決策は、1次元逆離散フーリエ変換から得られる信号がT不変領域で完全にゼロより大きくなるように、透かしにDC成分のオフセットを加えることである。しかしながら、そのようなDC成分のオフセットを生成するためには過度の信号パワーが必要であり、そのためにカバー画像に重大な歪みが生じるため、この解決策は必ずしも望ましいものではない。
【0068】
別の解決策は、W(ρ,θ)の負の値をゼロに設定することである。前述のモデルを使えば、この演算は、W(ρ,θ)に次式のB(ρ,θ)を乗算することとして表現することができる。
【数19】

【0069】
RT不変領域でB^(ρ,fθ)とW^(ρ,fθ)の畳み込みを行うと、W^(ρ,fθ)が歪むことになるが、透かしの重要な部分はそのまま残る。B(ρ,θ)の全スペクトルのエネルギーのかなりの部分がDC成分からなるからである。これは最良の解決策ではないことは確かであるが、提案するシステムに適用できるもっとも容易な解決策である。事実、この問題に対して最良の解決策を見つけることはできないために、非特許文献2のRST不変な透かしの研究では、2回目の離散フーリエ変換の実行を行わない透かしシステムが代案として提案されている。
【0070】
[4.3]フォワードマッピングおよびバックワードマッピングを用いた対数極座標変換と逆対数極座標変換
任意の幾何学的変換に関して、対数極座標変換および逆対数極座標変換は、フォワードマッピングもしくはバックワードマッピングという2つの異なる手法で実装することができる。要約すれば、フォワードマッピングは、ソース(source)画像の各ピクセルの値をデスティネーション(destination)画像の対応する位置に投影するが、バックワードマッピングにおいては、各デスティネーション画像のピクセル値は、ソース画像上の対応する位置でサンプリングすることにより求められる。本節では、両手法の利点と欠点を議論し、どちらの手法で対数極座標変換および逆対数極写像を実装すべきかを決定する。
【0071】
フォワードマッピングは次式で表すことができる。
【数20】

ここでs(x,y)およびd(x,y)はそれぞれソース画像sおよびデスティネーション画像d上の点(x,y)における離散的なサンプルである。(x,y)=((x,y),…,(xN−1,yN−1))は、ソース画像s上のN個の離散(discrete)点の組であり、それぞれはデスティネーション画像d上の離散点(x,y)に最近傍の連続(continuous)点(x’,y’)に写像される。係数aは連続点(x’,y’)から離散点(x,y)までの距離にもとづく補間係数である。
【0072】
なお、離散点は、xおよびyを整数としたときの点(x,y)として定義され、連続点は、xおよびyを実数としたときの点(x,y)で定義される。また、「最近傍」という概念は、|x’−x|<0.5かつ|y’−y|<0.5として定義される。この定義をここでの議論全体で用いる。
【0073】
補間をするためにソース画像sから取られたサンプル数Nは、ソースからデスティネーションへのマッピングが1対1対応でないため、デスティネーション画像d上の離散点(x,y)の位置によって変わる。ソース画像から取られた多くのサンプルが離散点(x,y)の最近傍の連続点に写像される場合、すなわちNが大きい場合、d(x,y)を正確に近似することができる。なぜならこの点の正確な値に関する十分な情報が利用できるからである。それとは対照的に、ソース画像から取られたほんのわずかなサンプルだけが離散点(x,y)の最近傍の連続点に写像される場合、すなわちNが小さい場合、d(x,y)は、この点についての情報が欠けているためにあまり正確ではない。最悪の場合、ソース画像sからどんなサンプルも離散点(x,y)に写像されない、すなわちN=0であるなら、d(x,y)は不定となり、これはたいていの画像処理アプリケーションにとって望ましいことではない。
【0074】
バックワードマッピングは次式で表すことができる。
【数21】

ここでs(x,y)およびd(x,y)はそれぞれソース画像sおよびデスティネーション画像d上の点(x,y)における離散的なサンプルである。デスティネーション画像d上の離散点(x,y)はソース画像s上の連続点(x,y)に逆写像される。ここで、仮にソース画像sが連続であれば、d(x,y)=s(x,y)である。実際は、ソース画像sは離散画像であるから、d(x,y)は補間により、(x,y)に近いソース画像s上の離散サンプルの重み付き和に近似される。式(21)ではバイリニア補間が使用されているが、これはBスプライン補間のようなより発展した手法に変更することもできる。いずれの場合でも、ソース画像sから取られた一定数のサンプルは、デスティネーション画像上の各点を補間するために利用され、ソース画像sから取られたこれらのサンプルは(x,y)の周りに均一に分散している。
【0075】
ソース画像sから取られた一定数のサンプルが補間の際に利用されるため、バックワードマッピングは、すべてのデスティネーションピクセルd(x,y)がソース画像sから計算された値をもつことを保証する。このことはフォワードマッピングに優る利点としてよく知られている。この性質は、ソース画像上のM個のサンプルからなる小さな領域がデスティネーション画像d上のM+T個のサンプルからなる少しだけ大きい領域に写像される必要がある場合に、特に望ましい。ここでTは十分に小さいものとする。この場合、余分なT個のサンプルは補間により十分に近似することができる。しかし、ソース画像から取られた一定数のサンプルを用いることにより、次の不都合が生じる場合もある。それは、不適切なサンプルが含まれたり、あるいは適切なサンプルが除外されたりすることによって、d(x,y)は補間の際に誤って近似されることがありうることを意味する。この問題は、ソース画像s上の適切なサンプルが(x,y)の周りに均一に分布していない場合に、特に深刻になる。なお、ここで、適切なサンプルとは、補間に利用されたときに、補間されたデータの精度を高めるサンプルのことである。
【0076】
提案する透かしシステムでは、中間の周波数帯域に埋め込まれるべき透かしデータが、T不変領域で逆対数極座標変換されるとき、対数極領域におけるM個のサンプルの透かしデータは、直交座標領域におけるM+T個のサンプルに写像される。このようにして、逆対数極座標変換後のT個の超過サンプルは直交座標領域における透かしデータのサンプル間に十分な距離をもたせることになる。結果として、隣接するサンプルが重なり合うことによる干渉の影響は小さく、透かしの信号の完全性は十分に保存される。この状況はバックワードマッピングにとってより好ましいことであるから、逆対数極座標変換の実装にはバックワードマッピングが利用される。
【0077】
それとは対照的に、透かし抽出の対数極座標変換の際、カバー画像はRST歪み、特に透かし埋め込み後のスケーリングを受けることが前提であるため、T不変領域における透かしの位置が変化し、抽出器には透かしの埋め込み位置がわからない。(3)式によれば、カバー画像がスケールアップする、すなわちσ>1であるなら、T不変領域は倍率σ−1でスケールダウンするため、もともと中間周波数で埋め込まれた透かしは周波数のより低い方の範囲に移動する。この場合、デスティネーション画像のサンプル数に対するソース画像上のサンプル数が少ないため、アンダーサンプリングにより透かしは壊されてしまう。このことは、T不変領域においては、低周波数のサンプルの個数は、中間周波数のサンプルの個数よりもはるかに少ないために発生する問題である。したがって、このような場合はこの議論では考えられていない。
【0078】
逆に、カバー画像がスケールダウンする、すなわちσ<1であるなら、透かしは周波数のより高い方の範囲に移動する。この場合は、直交座標領域におけるM個のサンプルの透かしデータは、対数極座標領域のM−S個のサンプルに写像される。ただし、Sは正数である。さらに、対数極座標領域のある点に対する直交座標領域の適切なサンプルは、均一には分布していない。この2つの理由により、対数極座標変換の実装にはフォワードマッピングが利用される。
【0079】
上記の結論とは反対に、非特許文献2は、本質的にはフォワードマッピングに相当する逆対数極座標変換の近似バージョンと、バックワードマッピングによる対数極座標変換の実装とを用いている。この正反対の結論は、透かし領域の違いによる。彼らの方法では、透かしは対数極座標変換された離散フーリエ変換領域に埋め込まれるのに対して、我々の提案するシステムでは、透かしは、対数極座標変換された離散フーリエ変換領域の周波数領域であるRT不変領域に埋め込まれる。彼らの結論は、対数極座標変換された離散フーリエ変換領域における個々のサンプルの完全性を保持することができるのに対して、我々の結論は、対数極座標変換された離散フーリエ変換領域の周波数成分であるRT不変データの信号の完全性を保持するのにより適している。
【0080】
[4.4]離散フーリエ変換の振幅のハイパスフィルタリング
[2]節で述べたように、カバー画像が一般的な自然画像で構成される場合、RT不変領域の低周波帯域にエネルギーが集中する傾向があるため、透かしはfよりも低い周波数fθには埋め込まれない。透かし抽出過程で、カバー画像のこの集中したエネルギーは、T不変領域へ変換後の信号においては低周波数成分を多く含むこととなり、対数極座標変換という非線形のサンプリングによって透かしに干渉する傾向がある。対数極座標変換の前にT不変データに対してハイパスフィルタを適用することにより、このバイアスを除去するようにすれば、透かし抽出の頑強性が向上する。
【0081】
[5]透かし埋め込み装置と透かし抽出装置
上記の透かし埋め込み方法および透かし抽出方法を利用した透かし埋め込み装置100および透かし抽出装置200を説明する。以下では、透かし埋め込み装置100および透かし抽出装置200の構成を説明し、各構成要素の動作については既に述べた[2]〜[4]節の内容を参照する。
【0082】
図4は、実施の形態に係る透かし埋め込み装置100の構成図である。これらの構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた離散フーリエ変換機能および透かし埋め込み機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組み合わせによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0083】
原画像変換処理部20は、原画像c(x,y)をT不変領域およびRT不変領域に変換して、T不変領域における原画像c(x,y)の位相スペクトル∠C(f,f)とRT不変領域における原画像c(x,y)の位相スペクトル∠C^(ρ,fθ)を生成し、これらの位相情報を透かしスペクトル逆変換処理部30に与える。
【0084】
原画像変換処理部20は、2次元離散フーリエ変換部22と、対数極座標変換部24と、角度方向離散フーリエ変換部26とを含む。
【0085】
2次元離散フーリエ変換部22は、原画像c(x,y)を直交座標系のx、yの2方向に離散フーリエ変換することにより、直交座標系の原画像c(x,y)の振幅スペクトル|C(f,f)|と位相スペクトル∠C(f,f)を生成し、振幅スペクトル|C(f,f)|は対数極座標変換部24に供給され、位相スペクトル∠C(f,f)は透かしスペクトル逆変換処理部30に供給される。
【0086】
対数極座標変換部24は、2次元離散フーリエ変換部22により生成された直交座標系の原画像の振幅スペクトル|C(f,f)|を対数極座標変換することにより、対数極座標系の原画像の振幅スペクトル|C(ρ,θ)|を生成し、角度方向離散フーリエ変換部26に供給する。
【0087】
角度方向離散フーリエ変換部26は、対数極座標変換部24により生成された対数極座標系の原画像の振幅スペクトル|C(ρ,θ)|をさらに対数極座標系の角度θ方向に離散フーリエ変換することにより、RT不変領域における原画像の位相スペクトル∠C^(ρ,fθ)を生成し、透かしスペクトル逆変換処理部30に供給する。
【0088】
透かしスペクトル生成処理部10は、原画像c(x,y)に埋め込むべき透かしデータwの入力を受けて、RT不変領域において透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を生成する。ここで、RT不変領域は、透かし埋め込み対象の原画像c(x,y)を直交座標系のx、yの2方向に離散フーリエ変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標変換した上で、さらに対数極座標系の角度θ方向に離散フーリエ変換することにより得られる領域であり、[1]節で述べたように、この領域は、回転および平行移動に関して不変な領域である。
【0089】
透かしスペクトル生成処理部10は、ECC符号化部12と、マンチェスタ符号化部14と、RT不変領域透かし配置部16とを含む。ECC符号化部12は、2次元透かしw(x,y)を誤り訂正符号化し、マンチェスタ符号化部14は、ECC符号化部12により符号化された符号系列をマンチェスタ符号により変調処理する。
【0090】
RT不変領域透かし配置部16は、マンチェスタ符号系列の各ビットをRT不変領域の所定の領域に配置することにより、RT不変領域における透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を生成する。
【0091】
RT不変領域透かし配置部16は、対数極座標系の半径ρ方向の区間[ρ,ρ]に同じ透かしビットをs回重複してもたせ、半径ρ方向に冗長性のある透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を生成する。透かしビットをもたせる半径ρの値が区間[ρ,ρ]に制限されているため、T不変領域の透かしの振幅スペクトル|W(f,f)|で考えると、中間周波数帯域に透かし情報をもつことになる。
【0092】
また、RT不変領域透かし配置部16は、所定の低周波数fよりも大きい中間周波数帯域に透かしビットをもたせ、RT不変領域の低周波数帯域には透かし情報をもたない透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を生成する。
【0093】
透かしスペクトル逆変換処理部30は、透かしスペクトル生成処理部10により生成されたRT不変領域における透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を直交座標系の空間領域に逆変換することにより、直交座標系の2次元透かしw(x,y)を生成する。
【0094】
透かしスペクトル逆変換処理部30は、角度方向逆離散フーリエ変換部32と、逆対数極座標変換部34と、2次元逆離散フーリエ変換部36とを含む。
【0095】
角度方向逆離散フーリエ変換部32は、透かしスペクトル生成処理部10により生成されたRT不変領域における透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を対数極座標系の角度θ方向に逆離散フーリエ変換することにより、対数極座標系の透かしの振幅スペクトル|W(ρ,θ)|を生成する。角度方向逆離散フーリエ変換部32は、原画像変換処理部20の角度方向離散フーリエ変換部26により生成された、RT領域における原画像の位相スペクトル∠C^(ρ,fθ)を利用して、この逆離散フーリエ変換を行う。
【0096】
逆対数極座標変換部34は、角度方向逆離散フーリエ変換部32により生成された対数極座標系の透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を逆対数極座標変換することにより、直交座標系の透かしの振幅スペクトル|W(f,f)|を生成する。
【0097】
[4.3]節で述べたように、逆対数極座標変換部34は、対数極座標系の透かしの振幅スペクトル|W^(ρ,fθ)|を直交座標系の透かしの振幅スペクトル|W(f,f)|に逆対数極座標変換する際、バックワードマッピングの手法を用いるのがより好ましい。バックワードマッピングは、写像先の画像上の離散点を逆写像して写像元の画像上の対応する連続点を求め、写像元の画像上の対応する連続点の近傍にある複数の離散点を補間することにより写像先の画像上の離散点の値を計算する方法であり、写像先のすべての画像上の離散点が写像元の画像から計算された値をもつことが保証される。
【0098】
2次元逆離散フーリエ変換部36は、逆対数極座標変換部34により生成された直交座標系の透かしの振幅スペクトル|W(f,f)|を逆離散フーリエ変換することにより、直交座標系の2次元透かしw(x,y)を生成する。2次元逆離散フーリエ変換部36は、原画像変換処理部20の2次元離散フーリエ変換部22により生成された、T不変領域における原画像の位相スペクトル∠C(f,f)を利用して、この逆フーリエ変換を行う。
【0099】
透かし埋め込み部40は、透かしスペクトル逆変換処理部30により生成された2次元透かしw(x,y)を原画像c(x,y)に埋め込み、透かし入り画像c(x,y)を生成する。
【0100】
図5は、実施の形態に係る透かし抽出装置200の構成図である。これらの構成も、CPU、メモリなどのハードウエア、離散フーリエ変換機能および透かし抽出機能のあるソフトウエアの任意の組み合わせによっていろいろな形で実現することができる。
【0101】
テスト画像変換処理部50は、透かしが埋め込まれている可能性のあるテスト画像c(x,y)をRT不変領域に変換し、RT不変領域におけるテスト画像c(x,y)の振幅スペクトル|C^(ρ,fθ)|を生成し、半径方向ローパスフィルタ59に与える。
【0102】
テスト画像変換処理部50は、2次元離散フーリエ変換部52と、対数極座標変換部54と、角度方向離散フーリエ変換部56とを含む。
【0103】
2次元離散フーリエ変換部52は、テスト画像c(x,y)を直交座標系のx、yの2方向に離散フーリエ変換することにより、直交座標系のテスト画像c(x,y)の振幅スペクトル|C(f,f)|を生成し、対数極座標変換部54に供給する。
【0104】
対数極座標変換部54は、2次元離散フーリエ変換部52により生成された直交座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(f,f)|を対数極座標変換することにより、対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(ρ,θ)|を生成し、角度方向離散フーリエ変換部56に供給する。
【0105】
[4.3]節で述べたように、対数極座標変換部54は、直交座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(f,f)|を対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(ρ,θ)|に対数極座標変換する際、フォワードマッピングの手法を用いるのがより好ましい。フォワードマッピングは、写像元の画像上の複数の離散点を補間することにより、写像元の画像上の複数の離散点に対応する写像先の画像上の離散点の値を計算する方法である。
【0106】
角度方向離散フーリエ変換部56は、対数極座標変換部54により生成された対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(ρ,θ)|をさらに対数極座標系の角度θ方向に離散フーリエ変換することにより、RT不変領域におけるテスト画像の振幅スペクトル|C^(ρ,fθ)|を生成し、半径方向ローパスフィルタ59に供給する。
【0107】
半径方向ローパスフィルタ59は、テスト画像変換処理部50により生成された、RT不変領域におけるテスト画像の振幅スペクトル|C^(ρ,fθ)|に対して対数極座標系の半径方向に沿った低周波数帯域のみを通過させるフィルタリングを行い、高周波数成分が除去されたテスト画像の振幅スペクトル|C^(ρ,fθ)|を透かし抽出処理部60に供給する。
【0108】
透かし抽出処理部60は、RT不変領域におけるテスト画像の振幅スペクトル|C^(ρ,fθ)|を利用して、対数極座標系の半径方向に沿って透かしの有無を全探索することによりテスト画像に埋め込まれた透かしを抽出する。
【0109】
透かし抽出処理部60は、透かし候補抽出部62と、ECC復号部64と、ECC符号化部66と、相関評価部68と、透かし推定部70とを含む。
【0110】
透かし候補抽出部62は、対数極座標系における異なる複数の半径ρをもつテスト画像の振幅スペクトル|C^(ρ,fθ)|を利用して、複数の透かし候補の軟値を求める。透かしは対数極座標系のρ方向に冗長に埋め込まれており、また、スケーリングにより、透かしの埋め込み位置がρ軸方向に平行移動している可能性がある。そこで、透かし候補抽出部62は、ρ軸に沿って複数の透かし候補の軟値v(ρ)を抽出する。埋め込まれた透かしデータはマンチェスタ符号化されていることから、透かし候補の軟値の抽出にはマンチェスタ復号が用いられる。
【0111】
透かし候補抽出部62は、抽出した透かし候補の軟値v(ρ)をECC復号部64と相関評価部68に与える。
【0112】
ECC復号部64は、透かし候補抽出部62により与えられた透かし候補の軟値v(ρ)を誤り訂正復号することにより、透かし候補の判定値d(ρ)を求め、ECC符号化部66と透かし推定部70に与える。
【0113】
ECC符号化部66は、透かし候補の判定値d(ρ)を再び誤り訂正符号化することにより、比較対象の硬値v’(ρ)を生成し、相関評価部68に与える。
【0114】
相関評価部68は、透かし候補抽出部62により与えられた透かし候補の軟値v(ρ)と、ECC符号化部66により与えられた比較対象の硬値v’(ρ)の相関c(ρ)を評価し、透かし推定部70に与える。
【0115】
透かし推定部70は、ECC復号部64により与えられた透かし候補の判定値d(ρ)と相関評価部68により与えられた相関c(ρ)とを利用して、相関の強度により、複数の透かし候補v(ρ)の妥当性を判断し、妥当な透かし候補v(ρ)の判定値d(ρ)を用いて、埋め込まれた透かしの最終的な判定値dを求める。
【0116】
図4の透かし埋め込み装置100および図5の透かし抽出装置200は、透かしの頑強性を一層高め、透かし検出精度をさらに向上させるために、いくつかの付加的な機能構成を設けることができる。以下、これらの付加的な構成を設けた透かし埋め込み装置100および透かし抽出装置200を説明する。これらの付加的な構成は、必須の構成ではなく、また、必要に応じて任意の組み合わせで設けることができる。
【0117】
図6は、図4の透かし埋め込み装置100の原画像変換処理部20の別の構成を示す図である。原画像変換処理部20は、2次元離散フーリエ変換部22の後段で、かつ対数極座標変換部24の前段に、ハイパスフィルタ27と不連続成分除去部28をさらに含む。
【0118】
ハイパスフィルタ27は、2次元離散フーリエ変換部22により生成された直交座標系の原画像の振幅スペクトル|C(f,f)|に対して高周波数帯域のみを通過させるフィルタリングを行い、不連続成分除去部28に供給する。
【0119】
不連続成分除去部28は、ハイパスフィルタ27により低周波数成分が除去された直交座標系の原画像の振幅スペクトル|C(f,f)|をラドン変換することにより、原画像c(x,y)の回転角を求め、原画像c(x,y)のエッジを離散フーリエ変換したことに起因する[4.1]節で述べた「十字」形状の不連続成分を直交座標系の原画像の振幅スペクトル|C(f,f)|から除去する。不連続成分除去部28は、不連続成分の除去された直交座標系の原画像の振幅スペクトル|C(f,f)|を対数極座標変換部24に供給する。
【0120】
対数極座標変換部24は、ハイパスフィルタ27により低周波数成分が除去され、不連続成分除去部28により不連続成分の除去された直交座標系の原画像の振幅スペクトル|C(f,f)|を対数極座標変換する。
【0121】
[4.4]節で述べたように、ハイパスフィルタ27は、対数極座標変換の前に、T不変領域において低周波数のバイアスを除去するため、原画像c(x,y)のT不変領域での低周波成分が透かしに干渉するのを防ぐことができる。また、不連続成分除去部28は、ハイパスフィルタ27によりT不変領域における低周波数のバイアスが除去された後の振幅スペクトル|C(f,f)|をラドン変換するため、「十字」型の人工生成物の検出精度が高まる。
【0122】
ここでは、ハイパスフィルタ27と不連続成分除去部28の両方を含む構成を示したが、どちらか一方のみを含む構成であってもよい。
【0123】
図7は、図4の透かし埋め込み装置100の透かしスペクトル逆変換処理部30の別の構成を示す図である。透かしスペクトル逆変換処理部30は、角度方向逆離散フーリエ変換部32の後段で、かつ逆対数極座標変換部34の前段に、透かしスペクトル調整部38を含む。
【0124】
透かしスペクトル調整部38は、角度方向逆離散フーリエ変換部32により生成された対数極座標系の透かしスペクトルW(ρ,θ)の負の値をゼロに設定する調整を行う。別の方法として、透かしスペクトル調整部38は、角度方向逆離散フーリエ変換部32により生成された対数極座標系の透かしスペクトルW(ρ,θ)が負の値をもたないようにDC成分のオフセットを加える調整を行ってもよい。このように透かしスペクトルW(ρ,θ)を調整するのは、[4.2]節で述べたように、透かしスペクトルW(ρ,θ)の逆変換処理の過程で透かしスペクトルW(ρ,θ)の位相情報が失われることに対処するためである。透かしスペクトル調整部38は、調整後の透かしスペクトルW(ρ,θ)を逆対数極座標変換部34に供給する。
【0125】
図8は、図5の透かし抽出装置200のテスト画像変換処理部50の別の構成を示す図である。テスト画像変換処理部50は、2次元離散フーリエ変換部52の後段で、かつ対数極座標変換部54の前段に、ハイパスフィルタ57と不連続成分除去部58をさらに含む。
【0126】
ハイパスフィルタ57は、2次元離散フーリエ変換部52により生成された直交座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(f,f)|に対して高周波数帯域のみを通過させるフィルタリングを行い、不連続成分除去部58に供給する。
【0127】
不連続成分除去部58は、ハイパスフィルタ57により低周波数成分が除去された直交座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(f,f)|をラドン変換することにより、テスト画像c(x,y)の回転角を求め、「十字」形状の不連続成分を直交座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(f,f)|から除去する。不連続成分除去部28は、不連続成分の除去された直交座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(f,f)|を対数極座標変換部54に供給する。
【0128】
対数極座標変換部54は、ハイパスフィルタ57により低周波数成分が除去され、不連続成分除去部58により不連続成分の除去された直交座標系のテスト画像の振幅スペクトル|C(f,f)|を対数極座標変換する。
【0129】
以上述べたように、本実施の形態によれば、対数極座標変換と離散フーリエ変換にもとづいてRST変換に対して耐性のある電子透かし技術を提供することができる。本実施の形態の電子透かしシステムは、透かしを回転と平行移動に関して不変な領域に埋め込み、スケーリングに対しては対数極座標系の対数半径軸に沿った全探索によって対処する。
【0130】
本実施の形態の電子透かしシステムは、画像の2次元離散フーリエ変換後の中間周波数帯域に透かしを埋め込むため、直交座標系から対数極座標系への変換もしくはその逆変換の際に透かし信号に加わるノイズの増幅を軽減することができる。したがって、安定した精度で透かしを抽出することができる。
【0131】
また、本実施の形態の電子透かしシステムでは、透かし抽出時に、透かしの入っていない原画像や埋め込まれた透かしについての情報を必要とせず、透かしの有無だけでなく、透かし自体の検出も可能である。
【0132】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施の形態に係る透かし埋め込み方法を説明する図である。
【図2】実施の形態に係る透かし抽出方法を説明する図である。
【図3】2回の離散フーリエ変換による影響を説明する図である。
【図4】実施の形態に係る透かし埋め込み装置の構成図である。
【図5】実施の形態に係る透かし抽出装置の構成図である。
【図6】図4の原画像変換処理部の別の構成図である。
【図7】図4の透かしスペクトル逆変換処理部の別の構成図である。
【図8】図5のテスト画像変換処理部の別の構成図である。
【符号の説明】
【0134】
10 透かしスペクトル生成処理部、 12 ECC符号化部、 14 マンチェスタ符号化部、 16 RT不変領域透かし配置部、 20 原画像変換処理部、 22 2次元離散フーリエ変換部、 24 対数極座標変換部、 26 角度方向離散フーリエ変換部、 28 不連続成分除去部、 30 透かしスペクトル逆変換処理部、 32 角度方向逆離散フーリエ変換部、 34 逆対数極座標変換部、 36 2次元逆離散フーリエ変換部、 38 透かしスペクトル調整部、 40 透かし埋め込み部、 50 テスト画像変換処理部、 52 2次元離散フーリエ変換部、 54 対数極座標変換部、 56 角度方向離散フーリエ変換部、 58 不連続成分除去部、 59 半径方向ローパスフィルタ、 60 透かし抽出処理部、 62 透かし候補抽出部、 64 ECC復号部、 66 ECC符号化部、 68 相関評価部、 70 透かし推定部、 100 透かし埋め込み装置、 200 透かし抽出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透かし埋め込み対象の原画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転および平行移動に関して不変な領域において、前記原画像に埋め込むべき透かしの振幅スペクトルを生成する透かしスペクトル生成部と、
前記透かしの振幅スペクトルを直交座標系の空間領域に逆変換することにより、直交座標系の2次元透かしデータを生成する透かしスペクトル逆変換部と、
前記2次元透かしデータを前記原画像に埋め込む透かし埋め込み部とを含むことを特徴とする透かし埋め込み装置。
【請求項2】
前記透かしスペクトル生成部は、対数極座標系の半径方向に重複して透かし情報をもたせた透かしの振幅スペクトルを生成することを特徴とする請求項1に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項3】
前記透かしスペクトル生成部は、所定の周波数以上の中間周波数帯域に透かし情報をもたせた透かしスペクトルを生成することを特徴とする請求項1または2に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項4】
前記透かしスペクトル逆変換部は、
前記回転および平行移動に関して不変な領域において生成された透かしの振幅スペクトルを対数極座標系の角度方向に逆空間周波数変換することにより、対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを生成する角度方向逆空間周波数変換部と、
前記対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを逆対数極座標変換することにより、直交座標系の透かしの振幅スペクトルを生成する逆対数極座標変換部と、
前記直交座標系の透かしの振幅スペクトルを逆空間周波数変換することにより、直交座標系の2次元透かしデータを生成する2次元逆空間周波数変換部とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の透かし埋め込み装置。
【請求項5】
前記原画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換することにより、直交座標系の原画像の振幅スペクトルと位相スペクトルを生成する2次元空間周波数変換部をさらに含み、
前記2次元逆空間周波数変換部は、前記直交座標系の原画像の位相スペクトルを用いて、前記直交座標系の透かしの振幅スペクトルを逆空間周波数変換することを特徴とする請求項4に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項6】
前記直交座標系の原画像の振幅スペクトルを対数極座標変換することにより、対数極座標系の原画像の振幅スペクトルを生成する対数極座標変換部と、
前記対数極座標系の原画像の振幅スペクトルをさらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより、回転および平行移動に関して不変な領域における原画像の位相スペクトルを生成する角度方向空間周波数変換部とをさらに含み、
前記角度方向逆空間周波数変換部は、前記回転および平行移動に不変な領域における原画像の位相スペクトルを用いて、前記回転および平行移動に関して不変な領域における透かしの振幅スペクトルを対数極座標系の角度方向に逆空間周波数変換することを特徴とする請求項5に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項7】
前記2次元空間周波数変換部により生成された前記直交座標系の原画像の振幅スペクトルをラドン変換することにより、前記原画像の回転角を求め、前記原画像のエッジを空間周波数変換したことに起因する不連続成分を前記直交座標系の原画像の振幅スペクトルから除去する不連続成分除去部をさらに含むことを特徴とする請求項5または6に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項8】
前記角度方向逆空間周波数変換部により生成される前記対数極座標系の透かしのスペクトルの負の値をゼロに設定することにより、前記対数極座標系の透かしスペクトルを調整する透かしスペクトル調整部をさらに含み、
前記逆対数極座標変換部は、前記透かしスペクトル調整部により調整された前記対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを逆対数極座標変換することを特徴とする請求項4に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項9】
前記角度方向逆空間周波数変換部により生成される前記対数極座標系の透かしのスペクトルが負の値をもたないように直流成分のオフセットを加えることにより、前記対数極座標系の透かしスペクトルを調整する透かしスペクトル調整部をさらに含み、
前記逆対数極座標変換部は、前記透かしスペクトル調整部により調整された前記対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを逆対数極座標変換することを特徴とする請求項4に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項10】
前記逆対数極座標変換部は、対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを直交座標系の透かしの振幅スペクトルに逆対数極座標変換する際、写像先の画像上の点を逆写像して写像元の画像上の対応する画像位置を求め、前記写像元の画像上の対応する画像位置周辺の複数の点を補間することにより前記写像先の画像上の点の値を計算するバックワードマッピングによって、写像元の対数極座標系の透かしのスペクトルを写像先の直交座標系の透かしのスペクトルに写像することを特徴とする請求項4に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項11】
前記2次元空間周波数変換部により生成された前記直交座標系の原画像の振幅スペクトルに対して高周波数帯域のみを通過させるフィルタリングを行うハイパスフィルタをさらに含み、
前記対数極座標変換部は、前記ハイパスフィルタにより低周波数成分が除去された前記直交座標系の原画像の振幅スペクトルを対数極座標変換することを特徴とする請求項6に記載の透かし埋め込み装置。
【請求項12】
透かしが埋め込まれている可能性のあるテスト画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換することにより、直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成する2次元空間周波数変換部と、
前記直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを対数極座標変換することにより、対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成する対数極座標変換部と、
前記対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルをさらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより、回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを生成する角度方向空間周波数変換部と、
前記回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを利用して、対数極座標系の半径方向に沿って透かしの有無を全探索することにより透かしを抽出する透かし抽出部とを含むことを特徴とする透かし抽出装置。
【請求項13】
前記回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルに対して対数極座標系の半径方向に沿った低周波数帯域のみを通過させるフィルタリングを行うローパスフィルタをさらに含み、
前記透かし抽出部は、前記ローパスフィルタにより高周波数成分が除去された前記テスト画像の振幅スペクトルをもとに、透かしを抽出することを特徴とする請求項12に記載の透かし抽出装置。
【請求項14】
前記透かし抽出部は、
対数極座標系における異なる複数の半径をもつテスト画像の振幅スペクトルを利用して、複数の透かし候補の軟値を求める透かし候補抽出部と、
前記透かし候補の軟値を誤り訂正復号することにより、透かし候補の判定値を求める復号部と、
前記透かし候補の判定値を再び誤り訂正符号化することにより、比較対象の硬値を生成する符号化部と、
前記透かし候補の軟値と前記比較対象の硬値の相関を評価する相関評価部と、
前記相関の強度により、前記複数の透かし候補の妥当性を判断し、妥当な透かし候補の判定値を用いて、埋め込まれた透かしの最終的な判定値を求める透かし推定部とを含むことを特徴とする請求項12または13に記載の透かし抽出装置。
【請求項15】
前記2次元空間周波数変換部により生成された前記直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルをラドン変換することにより、前記テスト画像の回転角を求め、前記テスト画像のエッジを空間周波数変換したことに起因する不連続成分を前記直交座標系におけるテスト画像の振幅スペクトルから除去する不連続成分除去部をさらに含むことを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載の透かし抽出装置。
【請求項16】
前記対数極座標変換部は、直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルに対数極座標変換する際、写像元の画像上の複数の点を補間することにより、前記写像元の画像上の複数の点に対応する写像先の画像上の点の値を計算するフォワードマッピングによって、写像元の直交座標系のテスト画像のスペクトルを写像先の対数極座標系のテスト画像のスペクトルに写像することを特徴とする請求項12に記載の透かし抽出装置。
【請求項17】
前記2次元空間周波数変換部により生成された前記直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルに対して高周波数帯域のみを通過させるフィルタリングを行うハイパスフィルタをさらに含み、
前記対数極座標変換部は、前記ハイパスフィルタにより低周波数成分が除去された前記直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを対数極座標変換することを特徴とする請求項12に記載の透かし抽出装置。
【請求項18】
原画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標系に変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転およぶ平行移動に関して不変な領域において、対数極座標系の半径方向に冗長性のある透かしの振幅スペクトルを生成し、その透かしの振幅スペクトルを逆変換して得られる2次元透かしデータを原画像に埋め込むことを特徴とする透かし埋め込み方法。
【請求項19】
透かしが埋め込まれている可能性のあるテスト画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標系に変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転および平行移動に関して不変な領域において、対数極座標系の半径方向に沿って透かしの有無を全探索することにより前記テスト画像に埋め込まれた透かしを抽出することを特徴とする透かし抽出方法。
【請求項20】
透かし埋め込み対象の原画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換して得られる振幅スペクトルを対数極座標変換した上で、さらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより得られる回転および平行移動に関して不変な領域において、前記原画像に埋め込むべき透かしの振幅スペクトルを生成するステップと、
前記回転および平行移動に関して不変な領域において生成された透かしの振幅スペクトルを対数極座標系の角度方向に逆空間周波数変換することにより、対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを生成するステップと、
前記対数極座標系の透かしの振幅スペクトルを逆対数極座標変換することにより、直交座標系の透かしの振幅スペクトルを生成するステップと、
前記直交座標系の透かしの振幅スペクトルを逆空間周波数変換することにより、直交座標系における2次元透かしデータを生成するステップと、
前記2次元透かしデータを前記原画像に埋め込むステップとをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項21】
透かしが埋め込まれている可能性のあるテスト画像を直交座標系の縦横2方向に空間周波数変換することにより、直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成するステップと、
前記直交座標系のテスト画像の振幅スペクトルを対数極座標変換することにより、対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルを生成するステップと、
前記対数極座標系のテスト画像の振幅スペクトルをさらに対数極座標系の角度方向に空間周波数変換することにより、回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを生成するステップと、
前記回転および平行移動に関して不変な領域におけるテスト画像の振幅スペクトルを利用して、対数極座標系の半径方向に沿って透かしの有無を全探索することにより透かしを抽出するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−186626(P2006−186626A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377655(P2004−377655)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】