説明

透光性電磁波シールド板

【課題】導電性繊維メッシュを用いて品質の安定した透光性電磁波シールド板を提供する。
【解決手段】相似形の大形透明板2と小形透明板3とを周縁に帯状の非重畳部S1〜S4を残して重ね合わせると共に、その両透明板2、3の間の全体に非重畳部S1〜S4に外縁を食み出させつつ導電性繊維メッシュ5を挟み込み、非重畳部S1〜S4より広い幅の導電性帯状片10をその幅方向の一端又は両端を非重畳部S1〜S4から突出させつつ非重畳部S上に沿って延在させ、その非重畳部S1〜S4に押圧部材12を押し当ててメッシュ5の食み出し部と帯状片10とを面接触させる。好ましくは、押圧部材12を非重畳部S1〜S4に沿って両透明板2、3の段差に埋め込む帯状の導電性ガスケット13とし、大形透明板2を小形透明板3より厚いものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透光性電磁波シールド板に関し、とくに一対の透明板の間に導電性繊維メッシュを挟み込んだ透光性電磁波シールド板に関する。
【背景技術】
【0002】
インテリジェントビル等の建築物において、コンピュータ等の電子機器の受動的又は能動的シールドを目的として、建築物の全体又は一部分を電磁波シールド空間とする要望がある。また最近は、医療施設等においてMRI(磁気共鳴画像診断)装置等の強磁気利用装置の利用が増えており、MRI検査室等を電磁波シールド空間とする要望も増えている。電磁波シールド空間は導電性の電磁波シールド板を用いて空間周囲の壁、床、天井等を全て覆う構造を基本とし、窓等を設ける場合は透光性のある電磁波シールド板(以下、透光性シールド板ということがある)を用いる必要がある。そのような透光性シールド板として、図5(A)に示すように、一対の重ね合わせた透明板(例えばガラス製又は透明樹脂製)32、33の間に透明接着剤層(例えばエチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)系接着剤等の層)35、36を介して導電性メッシュ(例えば金属繊維製メッシュ等)34を挟み込んだシールド板が用いられている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
図5(A)の透光性シールド板31は、透明板32、33の間に挟み込んだ導電性メッシュ34の先端(外縁)を透明板32、33から突出させ、突出させた導電性メッシュ34の先端を何れかの透明板32、33の表面側に折り曲げ、折り曲げた導電性メッシュ34を両透明板32の表面間に跨る導電性被覆材(例えば導電性テープ等)37で被覆したものである。図示例は一辺の断面図のみを示すが、他の辺も同様の構造である。図5(B)は、図示例のシールド板31を電磁波シールド空間の窓枠等のサッシ20に取り付ける方法を示す。図示例のサッシ20は、周囲の壁等に導通する導電性被覆29を有している。例えばサッシ20の押し縁21を取り外してセッティングブロック22上にシールド板31を載置し、シールド板31の導電性被覆材37とサッシ20の導電性被覆材29との間にメッシュ構造導電体(例えば金属線を編んでメッシュ構造としたもの)26を埋め込むことにより、メッシュ構造導電体26及びサッシ20を介してシールド板31を周囲の壁等と導通させる。このように図示例のシールド板31は、サッシ20への取り付け及び取り外しが簡単であり、電磁波シールド空間の施工の容易化を図れる利点がある。なお、図中の符号27はサッシ20のバックアップ材を示し、符号28はシーリング材を示す。
【0004】
またMRI検査室等では、被験者の安心感を確保すると共に外側から被験者の観察ができるように、電磁波シールド空間に比較的大きな窓を設けたいとの要望もある。特許文献4は、図5のような透光性シールド板31を用いて、図4に示すような透光性のある壁又は広い窓をMRI検査室等に設ける方法を提案している。MRI検査室等では比較的周波数の高い電波シールドと共に比較的周波数の低い磁気シールドが必要である。図示例では透光性シールド板31を平行に並べて二重にすると共に、そのシールド板31の間に複数の磁性板41を長さ方向中心軸が同一面上に所定間隔でほぼ平行に並ぶように積層した簾体(以下、磁気シールド簾体ということがある)40を配置して三重構造としている。図示例のような磁気シールド簾体40は、各磁性板41の断面積及び比透磁率に対して各磁性板41の相互間隔の断面積を十分小さくし、磁性板41中の磁束の通りやすさ(磁性板のパーミアンス)をその間隔中の磁束の通りやすさ(間隔のパーミアンス)より大きくすることにより、磁気シールド性能と透光性とを同時に備えた構造とすることができる(特許文献5参照)。図示例のように透光性シールド板31と磁気シールド簾体40とを平行に並べて三重構造とすることにより、電波シールド性と磁気シールド性と透光性とを同時に備えた壁又は広い窓とすることができる。図中の符号20は透光性シールド板31を周囲の床又は天井等と導通させる図5(B)と同様のサッシを示し、符号39は複数の透光性シールド板31を相互に導通させて列状に連結する接合部材を示す。
【0005】
【特許文献1】特開平09−100143号公報
【特許文献2】特開平11−312893号公報
【特許文献3】特開2004−359517号公報
【特許文献4】特開2007−035767号公報
【特許文献5】国際公開2004/084603号公報
【特許文献6】特開2003−025470号公報
【特許文献7】特開2005−311189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば図4のようなMRI検査室等では、透光性シールド板31に、50%以上の可視光を透過する透光性と、5MHz〜1GHzの電磁波を80〜100dB以上遮蔽するシールド性能とが同時に要求されることがある。このような高い透光性とシールド性能とを有する透光性シールド板31とするためには、メッシュ34の繊維の線径を細くすると共に繊維密度(織り密度)を高めることが有効である。しかし、図5のように金属繊維製の導電性メッシュ34を用いた透光性シールド板31は、透光性とシールド性能とを同時に高めることが難しい問題点がある。
【0007】
すなわち、金属繊維は線径を細かく(例えば50μm以下に)すると繊維にヨレ等が発生しやすくなり、織り密度を高く(例えば100本/1インチ以上に)すると製織性が悪くなるため、何れもメッシュ34の透光性を低下させる原因となりうる。逆に、線径を太くしてある程度強度のある金属繊維を用いると、表面の光沢により光反射が大きく(眩しく)なって透光性が低下してしまう。金属繊維表面に黒色酸化被膜を設けて光反射を抑制する技術も開発されているが、黒色酸化被膜の絶縁性によりメッシュ34の表面導電性が低下するため、図5(A)のように導電性被覆材37で被覆する前にメッシュ34の先端の黒色酸化被膜を薄化又は除去する作業等が必要となる(特許文献1〜3参照)。このような作業は非常に手間がかかると共に品質を安定させることが難しく、透光性シールド板31のシールド性能低下の原因となりうる。
【0008】
これに対し、合成繊維又は天然繊維を所要織り密度で製織したメッシュ織物の表面に金属被膜を設けた導電性メッシュ(以下、導電性繊維メッシュということがある)を用いることにより、透光性シールド板31の電磁波シールド性能と透光性とを同時に高めることが期待できる。例えば、繊維の線径を20〜50μmとし、織り密度を50〜300本/インチとした黒色導電性繊維メッシュが開発されおり(特許文献6及び7参照)、そのような導電性繊維メッシュを図5(A)の金属繊維製の導電性メッシュ34に代えて用いることが考えられる。
【0009】
しかし導電性繊維メッシュは、折り曲げ等の外力が加わると表面の金属被覆が剥離しやすく、外力により導電性(外部との導通性)が低下しやすい問題点がある。例えば図5(A)のように透明板32、33から突出させたメッシュの外縁を折り曲げて導電性被覆材等で被覆する方法では、折り曲げ箇所でメッシュの少なくとも一部分の金属被覆が剥離して導電性が低下し、透光性シールド板31を設計通りのシールド性能とすることができないおそれがある。導電性繊維メッシュを用いて品質の安定した透光性シールド板31を製造するためには、メッシュに加わる外力をできるだけ小さく抑えて表面の金属被覆の剥離を防ぐ工夫が必要である。
【0010】
そこで本発明の目的は、導電性繊維メッシュを用いて品質の安定した透光性電磁波シールド板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1の実施例を参照するに、本発明の透光性電磁波シールド板1は、相似形の大形透明板2と小形透明板3とを周縁に帯状の非重畳部S1〜S4を残して重ね合わせた透明板対(2+3)、非重畳部S1〜S4に外縁を食み出して両透明板2、3間の全体に挟み込まれた導電性繊維メッシュ5、非重畳部S1〜S4より広い幅を有し且つ幅方向の一端又は両端を非重畳部S1〜S4から突出させつつ非重畳部S上に沿って延在させた導電性帯状片10(同図(B)及び(C)参照)、及び非重畳部S1〜S4に押し当ててメッシュ5の食み出し部と帯状片10とを面接触させる押圧部材12を備えてなるものである。
【0012】
好ましくは、図1(A)に示すように、導電性繊維メッシュ5の外縁を非重畳部S1〜S4の全幅にわたり食み出させる。導電性繊維メッシュ5は、例えば金属被覆したメッシュ織物の表面に微細凹凸を形成し且つその微細凹凸上に黒色導電性被覆をメッキした黒色導電性繊維メッシュとすることができる。望ましくは図2(A)に示すように、導電性帯状片10を、非重畳部S1〜S4から幅方向両端を突出させて非重畳部S1〜S4と両透明板2、3の周縁部とを被覆する導電性テープ10aとする。或いは図2(B)に示すように、導電性帯状片10を、非重畳部S1〜S4上の全幅にわたり幅方向一端を延在させると共に幅方向他端を非重畳部S1〜S4から突出させて大形透明板2の周縁部を被覆する導電性テープ10bとしてもよい。
【0013】
更に好ましくは、図2(A)に示すように押圧部材12を、非重畳部S1〜S4に沿って両透明板2、3の段差に埋め込む帯状の導電性ガスケット13とする。或いは図3〈C)に示すように、非重畳部S1〜S4に沿って大形透明板2を厚さ方向に貫く複数の貫通孔2aを設け、押圧部材12をその貫通孔2aに挿入して固定するボルト16としてもよい。図2及び図3に示すように、大形透明板2(厚さW2)を小形透明板3(厚さW3)より厚い透明板とすることが望ましい。更に望ましくは、図3に示すように、透明板対2、3の周縁部に密着して非重畳部S1〜S4及び押圧部材12に嵌め込む導電性枠体18を設ける。図2(A)及び図3(A)に示すように、本発明の透光性電磁波シールド板1には、シールド板1の周縁部を嵌め込む導電性サッシ20、及びシールド板1とサッシ20との間隙に埋め込んで両者を導通させる導電性弾性部材23又は24を含めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の透光性電磁波シールド板1は、相似形の大形透明板2と小形透明板3とを周縁に帯状の非重畳部S1〜S4を残して重ね合わせると共に、その両透明板2、3の間の全体に非重畳部S1〜S4に外縁を食み出させつつ導電性繊維メッシュ5を挟み込み、非重畳部S1〜S4より広い幅の導電性帯状片10をその幅方向の一端又は両端を非重畳部S1〜S4から突出させつつ非重畳部S上に沿って延在させ、その非重畳部S1〜S4に押圧部材12を押し当ててメッシュ5の食み出し部と帯状片10とを面接触させるので、次のような効果を奏する。
【0015】
(イ)大型透明板2の周縁の非重畳部S1〜S4上において導電性繊維メッシュ5と導電性帯状片10とを押圧して面接触させるので、メッシュ5に加わる折り曲げ外力を小さく抑えて金属被覆の剥離を防ぐことができ、導電性ひいてはシールド性能の品質の安定した透光性シールド板1とすることができる。
(ロ)また、導電性繊維メッシュ5の外縁を非重畳部S1〜S4の全幅にわたり食み出させ、メッシュ5と導電性帯状片10との接触面積をできるだけ広げることにより、メッシュ5と帯状片10との接触不良による導電性の品質劣化を防ぐことができる。
(ハ)表面に微細凹凸を形成すると共にその微細凹凸上に黒色導電性被覆がメッキされた導電性繊維メッシュ5を用いることにより、凹凸の光散乱と黒色の光吸収とにより反射光を低減することができ、透光性の高い透光性電磁波シールド板1とすることができる。
(ニ)押圧部材12を両透明板2、3の段差に沿って埋め込む帯状の導電性ガスケット13とすることにより、導電性帯状片10だけでなくガスケット13を通じて外部と導通可能な透光性シールド板1とすることができる。
(ホ)導電性帯状片10として透明板2及び/又は3の周縁部を被覆する導電性テープ10aを用いることにより、透光性シールド板1の製造又は施工の容易化を図ると共に、サッシへの取り付け及び取り外し容易な透光性シールド板1とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、一対の相似形の大形透明板2と小形透明板3との間に導電性繊維メッシュ5を挟み込んだ本発明の透光性電磁波シールド板1の実施例を示す。図示例の透明板2、3はそれぞれ矩形の透明ガラス又は透明樹脂板であり、例えば同図(A)に示すように中心点を位置合わせして重ね合わせた場合に、周縁の四辺にそれぞれ幅d1〜d4の帯状の非重畳部(小形透明板2と重ならない大形透明板2のみからなる部分)S1〜S4が形成される。ただし、透明板2、3の形状は矩形に限定されず、円形又は多角形としてもよい。また、図示例の導電性繊維メッシュ5は大形透明板2とほぼ同じ形状であり、大形透明板2と重ね合わせて小形透明板3との間に挟み込むことにより、メッシュ5の外縁を非重畳部S1〜S4に食み出させる。四辺の非重畳部S1〜S4の幅d1〜d4は例えば5〜10mm程度とするが、後述する導電性帯状片10とメッシュ5の食み出し部分との接触面積を考慮して適当に決めることができ、非重畳部S1〜S4の各々の幅d1〜d4が多少相違していてもよい。
【0017】
導電性繊維メッシュ5の一例は、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維又は絹等の天然繊維である線径20〜50μm程度の長繊維を密度50〜300本/インチ程度で平織りしてメッシュ織物とし、その製織後のメッシュ織物の表面に無電解メッキ法等で金属被覆(例えば銅被覆)を形成したものである。好ましくは、そのようなメッシュ織物の金属被覆表面に黒色導電性被覆を設ける。例えば、金属被覆されたメッシュ織物の表面にエッチング処理又は凹凸メッキ処理により0.1〜1μm程度の微細凹凸を形成し、更にその微細凹凸上にメッキ処理により黒色導電性被覆(例えば黒色ニッケル亜鉛合金、黒色ニッケル錫合金等)を形成して黒色導電性繊維メッシュ5とする。或いは、金属被覆されたメッシュ織物の表面に酸化処理を行うことで微細凹凸を形成し、その凹凸表面にマイグレート防止処理又は防錆被膜形成処理により黒色導電性被膜を形成して黒色導電性繊維メッシュ5とすることもできる。導電性繊維メッシュ5の表面に微細凹凸を形成することにより、入射した光の反射光を散乱させて防眩性を与えることができる。また、その凹凸表面に黒色導電性被覆を形成することで、導電性を低下させることなく光反射を抑制することができる。このような導電性繊維メッシュ5の製造方法は特許文献7及び特許文献6に詳述されている。ただし、導電性繊維メッシュ5の表面に微細凹凸を形成することは本発明に必須の条件ではない(後述の実施例3参照)。
【0018】
なお、図示例では導電性繊維メッシュ5の外縁が非重畳部S1〜S4の各々の全幅にわたり食み出すようにメッシュ5と大形透明板2とをほぼ同じ面積としているが、メッシュ5の面積は大形透明板2より若干小さくても小形透明板3より大きければ足り、逆にメッシュ5の外縁の一部分(例えば10〜20mm)が大形透明板2の周縁から食み出していてもよい。図2(A)に示すように、大形透明板2の周縁から食み出したメッシュ5の外縁は折り曲げられるが、後述するように本発明では非重畳部S1〜S4におけるメッシュ5と導電性帯状片10との面接触により十分な導電性を確保できるので、折り曲げ箇所でメッシュ5の一部分の金属被覆が剥離しても導電性低下の問題は生じない。
【0019】
両透明板2、3と導電性繊維メッシュ5とは、例えば図5に示す従来の透明電磁波シールド板31と同様に、透明板2、3とメッシュ5との間にそれぞれ透明接着剤層(例えばEVA系接着剤層等)を設け、真空加熱圧着法等により貼り合わせて一体化することができる。更に本発明の透光性電磁波シールド板1は、そのように貼り合わせた両透明板2、3の非重畳部S1〜S4上に沿って延在する導電性帯状片10と、非重畳部S1〜S4に押し当ててメッシュ5の食み出し部分と帯状片10とを面接触させる押圧部材12とを有する。帯状片10は非重畳部S1〜S4より幅の広いものとし、図示例のように幅方向の一端又は両端を非重畳部S1〜S4から突出させる。
【0020】
導電性帯状片10は、例えば図2(A)に示すように、幅方向両端を非重畳部S1〜S4の両側に突出させて非重畳部S1〜S4と両透明板2、3の周縁部とを被覆する導電性テープ10aとすることができる。図示例では、接着面も導電性を有する銅箔テープ等の導電性テープ10aを用い、その導電性テープ10aの接着面の幅方向中央部分を非重畳部S1〜S4に食み出した導電性繊維メッシュ5に接触させて貼り付け、幅方向両端を折り曲げて両側の透明板2、3の表面を含む周縁部に貼り付けている。帯状片10は、メッシュ5を外部(例えば同図の導電性弾性部材23、24)と電気的に接続させるものであり、図示例のように透明板2、3の周縁が表面まで覆われるように十分に幅の広い導電性テープ10aを用いることが望ましい。
【0021】
或いは図2(B)に示すように、導電性帯状片10を、幅方向一端を非重畳部S1〜S4に重ねて延在させると共に幅方向他端を非重畳部S1〜S4から突出させて大形透明板2の周縁部を被覆する導電性テープ10bとしてもよい。例えば、導電性テープ10bの幅方向一端を非重畳部S1〜S4に食み出した導電性繊維メッシュ5と大形透明板2との間に挿入し、その接着面を透明板2の非重畳部Sに貼り付けると共に非接着面をメッシュ5と接触させ、幅方向他端を折り曲げて透明板2の表面を含む周縁部を覆う。このように導電性テープ10bの非接着面をメッシュ5と接触させる場合は、導電性テープ10bの接着面の導電性は必要としない。また、図2(A)のように比較的導電性の低い接着面を介して導電性テープ10aとメッシュ5とを接触させた場合に比し、接着面を介さずに導電性テープ10bの非接着面をメッシュ5と接触させる図2(B)の構成によれば、導電性テープ10bとメッシュ5との高い導通性を確保することができる。接着面を介して導電性テープ10aとメッシュ5とを接触させる場合は、導通を確保するために両者を大きな押圧力で押し当てる必要があるのでメッシュ5を傷つける危険性も生じるが、図2(B)の構成によれば導電性テープ10bとメッシュ5とを比較的小さい押圧力で確実に導通させることができ、メッシュ5の損傷の危険性もなくなる。
【0022】
好ましくは、図2(C)に示すように、導電テープ10a、10bの両者により導電性帯状片10を構成する。図示例では、図2(B)と同様に設けた導電性テープ10bをメッシュ5と接触させて両者を導通させ、更に図2(A)と同様に配置した導電性テープ10aにより非重畳部S1〜S4と両透明板2、3の周縁部とを被覆してメッシュ5を導電性テープ10a、10bの間に挟み込んで固定している。この場合、図2(A)と同様に導電性の接着面を有する導電性テープ10aを用いてもよいが、メッシュ5は導電性テープ10bの非接着面と導通しているので、導電性テープ10aの接着面の導電性はなくてもよい。図示例のように導電テープ10bの表面に露出したメッシュ5(図2(B)参照)を導電性テープ10aで被覆することにより、後述する押圧部材12によってメッシュ5が傷つくおそれをなくし、透光性シールド板1の取扱いの容易性及びシールド性能の品質安定性を高めることができる。
【0023】
押圧部材12は、導電性繊維メッシュ5の食み出し部分と導電性帯状片10とを大形透明板2の非重畳部S1〜S4に押圧して面接触させるものであり、例えば図2に示すように、非重畳部S1〜S4に沿って両透明板2、3の段差に埋め込む帯状のガスケット13とすることができる。非重畳部S1〜S4でメッシュ5の一部分に帯状片10を押圧して導通させることにより、図5のようにメッシュ5を折り曲げる必要性がなくなり、メッシュ5に加わる外力を小さく抑えて金属被覆の剥離を防ぐことができる。好ましくは、押圧部材12を導電性のガスケット13とし、導電性帯状片10だけでなくガスケット13を通じてメッシュ5を外部(例えば同図の導電性弾性部材23)と電気的に接続する。ただし、押圧部材12はガスケット13に限定されるものではなく、例えば図3(C)に示すように、大形透明板2の非重畳部S1〜S4に設けた貫通孔2aに挿入して固定するボルト16を押圧部材12としてもよい。
【0024】
なお、図2(B)の実施例では、押圧部材12の押し当て時に導電性繊維メッシュ5と導電性帯状片10(導電性テープ10b)との間に横ズレ等が生じないように、予め接着剤15付きプレート材14によりメッシュ5と帯状片10とを貼り付けたうえで、そのプレート材14上に押圧部材12を押し当てている。メッシュ5と帯状片10との横ズレ等を防止することにより、メッシュ5に加わる外力を更に小さく抑えることができる。ただし、このようなプレート材14は本発明に必須のものではなく、例えば図2(A)のように帯状片10(導電性テープ10a)をメッシュ5と貼り付けている場合は、メッシュ5と帯状片10との横ズレ等が生じにくいのでプレート材14を省略できる。
【0025】
また図2に示すように、押圧部材12を押し当てる非重畳部S1〜S4に十分な強度を与えるため、大形透明板2を十分な厚さとすることが望ましい。大形及び小形透明板2、3の厚さW2、W3は透光性電磁波シールド板1の全体の厚さに応じて定める必要があるが、押圧部材12の押し当て力を考慮して、大形透明板2の厚さW2を小形透明板3の厚さW3より相対的に大きく(W2>W3)することが望ましく、例えば大形透明板2の厚さW2を小形透明板3の厚さW3の1.5〜3倍、好ましくは2倍程度とする。
【0026】
図2(A)は、本発明の透光性電磁波シールド板1をサッシ20(図4参照)に取り付ける方法を示す。図示例では、周囲の床等に導通する金属性サッシ20を用い、そのサッシ20内のセッティングブロック22上にシールド板1を載置したうえで、シールド板1の導電性帯状体10及び押圧部材12とサッシ20との間に導電性バッカー等の導電性弾性部材23を埋め込むことにより、押圧部材12を透明板2の非重畳部S1〜S4に押圧すると共に、帯状片10(及び導電性とした押圧部材12)を介して導電性繊維メッシュ5とサッシ20とを導通させる。或いは、導電性弾性部材23に代えて又は加えて、図示例のようにシールド板1とサッシ20との間に導電性チューブ等の導電性弾性部材24を埋め込み、その弾性部材24及び帯状変10を介してメッシュ5とサッシ20とを導通させてもよい。
【0027】
本発明の透光性電磁波シールド板1は、大型透明板2の周縁の非重畳部S1〜S4において導電性繊維メッシュ5と導電性帯状片10とを面接触させ、その帯状片10を非重畳部S1〜S4から突出させて外部(例えば図2(A)の導電性弾性部材23、24)と接触させるので、メッシュ5に加わる折り曲げ外力を小さく抑えて金属被覆の剥離を防ぐことができ、シールド性能の品質の安定した透光性シールド板1とすることができる。
【0028】
こうして本発明の目的である「導電性繊維メッシュを用いて品質の安定した透光性電磁波シールド板」を提供できる。
【0029】
好ましくは、本発明の透光性電磁波シールド板1に、図3(A)及び(B)に示すように透明板対2、3の周縁部に密着して両透明板対2、3と押圧部材12とを一体化する導電性枠体18を含める。シールド板1の周縁に導電性枠体18を嵌め込んで導電性帯状片10(及び導電性とした押圧部材12)と枠体18とを接触させることにより、同図(A)に示すようにシールド板1の枠体18をサッシ20に嵌め込んで両者の間に導電性弾性部材23、24を埋め込むだけで、シールド板1の固定と電気導電性の確保とを同時に達成することができ、シールド板1の取扱い及びシールド板1を用いた電磁波シール空間の施工の容易化を図ることができる。また、周縁に枠体18を設けたシールド板1は、電磁波シール空間の間取り変更等に応じて容易にサッシ20から取り外すことができ、再利用することも可能となるため、シールド板1のリペア性を高めることができる。なお、導電性枠体18を嵌め込む場合は、シールド板1と枠体18との間に隙間埋め材18aを挿入又は充填して水等の浸入を防止することが望ましい。
【0030】
図3(C)は、大形透明板2の非重畳部S1〜S4に沿ってその透明板2を厚さ方向に貫く複数の貫通孔2aを設け、その大形透明板2の周縁端面及び表面に密着する貫通孔付き断面L字型の導電性枠体19を嵌め込み、透明板2の非重畳部S1〜S4から差し込んだボルト16を透明板2及び枠体19の貫通孔2aに挿通してナット17で固定することにより、非重畳部S1〜S4の導電性繊維メッシュ5の食み出し部分と導電性帯状片10とを面接触させた実施例を示す。この場合は、ボルト16及びナット17により押圧部材12が構成される。またこの場合は、図示例のように、ボルト16の押し当て時に導電性繊維メッシュ5と導電性帯状片10との間に横ズレ等が生じないように、図2(B)の場合と同様に予め接着剤15付きプレート材14によりメッシュ5と帯状片10とを貼り付け、そのプレート材14の貫通孔を通してボルト16を挿入することが望ましい。
【実施例1】
【0031】
繊度8dtexのポリエステルモノフィラメントを織り密度132本/インチで製織したメッシュ織物の表面に無電解メッキ法により銅被覆を設け、その銅被覆の表面に凹凸メッキ処理により微細凹凸を形成し、更に微細凹凸上に黒色ニッケル亜鉛合金をメッキした黒色導電性繊維メッシュ5を用いて本発明の透光性電磁波シールド板1を試作した。本実験では、導電性繊維メッシュ5を一対の大形透明ガラス2(厚さW2=8mm)及び小形透明ガラス3(厚さW3=4mm)の間にEVA系接着剤層(400μm)を介して挟み込み、真空加熱圧着法で貼り合せることによりシールド板1を作成した。大形透明ガラス2の一辺の長さを小形透明ガラス3よりも1cm大きくし、一対のガラス2、3の周縁に幅5mmの帯状の非重畳部Sを設けて段差を付けた。また導電性繊維メッシュ5は、その外縁が大形透明ガラス3の周縁から18mm食み出すように大きさを定めた。
【0032】
図3(A)に示すように、導電性帯状片10として非重畳部Sと両透明ガラス2、3の周縁部とを被覆する導電性テープ10aを用い、非重畳部Sに食み出した導電性繊維メッシュ5を導電性テープ10aにより両側の大形透明ガラス2及び小形透明ガラス3に固定した。更に、その導電性テープ10aの上から導電ガスケット12を押し当て、その外側に導電性枠体18を嵌め込むことにより、両透明ガラス2、3と導電ガスケット12とを一体化させた透光性電磁波シールド板1とした。このシールド板1を電磁波シールド空間の金属性サッシ20に嵌め込み、シールド板1とサッシ20との間隙に電性パッカー23及び導電性チューブ24を埋め込んでシールド板1とサッシ20とを固定した。シールド板1を固定したのちシールド空間においてシールド性能及び透光性を測定したところ、10〜150MHzの電磁波に対する100dB以上のシールド効果と可視光に対する50%以上の透過性とが得られ、何れも設計どおりの性能であることが確認できた。このことから、本発明の透明シールド板1において導電性繊維メッシュ5の金属被覆が剥離されていないことが確認できた。
【実施例2】
【0033】
実施例1と同じ銅被覆されたメッシュ織物の表面に酸化処理を行うことで微細凹凸を形成し、その凹凸表面にマイグレート防止処理又は防錆被膜形成処理(特許文献6参照)により黒色導電性被膜を形成した艶消し効果のある黒色導電性繊維メッシュ5を用いて本発明の透光性電磁波シールド板1を試作した。実験例1と同様に、その黒色導電性メッシュ5を一対の大形透明ガラス2(厚さ8mm)及び小形透明ガラス3(厚さ4mm)の間に挟み込み、真空加熱圧着法で貼り合せることによりシールド板1を形成し、図3(A)のように非重畳部Sに食み出した導電性繊維メッシュ5を導電性テープ10aで透明ガラス2、3に固定すると共に導電性テープ10a上に導電ガスケット12を押し当て、更にその外側に導電性枠体18を嵌め込んで透光性電磁波シールド板1とした。このシールド板1を、実験例1と同様に電磁波シールド空間のサッシ20に固定してシールド性能及び透光性を測定したところ、実施例1と同程度のシールド性能及び透光性が得られ、何れも設計どおりの性能であることが確認できた。このことから、銅被覆表面に酸化処理を行うことで凹凸を形成した場合も、本発明の透明シールド板1により導電性繊維メッシュ5の金属被覆が剥離せず導電性が維持されていることが確認できた。
【実施例3】
【0034】
更に、繊度13dtexのポリエステルモノフィラメントを織り密度135本/インチで製織したメッシュ織物の表面に銅被覆を設け、その銅被覆表面に微細凹凸を形成せずに黒色ニッケル錫合金をメッキした黒色導電性繊維メッシュ5を用いて本発明の透光性電磁波シールド板1を試作した。実験例1と同様に、その黒色導電性メッシュ5を透明ガラス2、3の間に挟み込んで貼り合せ、非重畳部Sに食み出した導電性繊維メッシュ5を導電性テープ10aで透明ガラス2、3に固定すると共に導電性テープ10a上に導電ガスケット12を押し当て、更にその外側に導電性枠体18を嵌め込んで透光性電磁波シールド板1とした。このシールド板1を実験例1と同様に電磁波シールド空間のサッシ20とを固定してシールド性能及び透光性を実験により確認したところ、実施例1のシールド板1に比して外観が若干低下するもののほぼ同程度のシールド性能及び透光性が得られ、何れも設計どおりの性能であることが確認できた。このことから、表面に微細凹凸が形成されていない導電性繊維メッシュ5を用いた場合も、本発明の透明シールド板1により導電性繊維メッシュ5の金属被覆の剥離が防止できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の透光性シールド板の一実施例の説明図である。
【図2】本発明の透光性シールド板の非重畳部の構造を示す垂直断面図の一例である。
【図3】本発明の透光性シールド板の非重畳部の構造を示す垂直断面図の他の一例である。
【図4】透光性シールド板と透光性磁気シールド簾体とを組み合わせた電磁波シールド壁の説明図である。
【図5】従来の透光性シールド板の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1…透光性電磁波シールド板 2…大形透明板
2a…貫通孔 3…小型透明板
5…導電性繊維メッシュ
10…導電性帯状片 10a、10b…導電性テープ
12…押圧部材 13…導電性ガスケット(又はパッキン)
14…プレート材 15…接着剤
16…ボルト 17…ナット
18…導電性枠体 18a…隙間埋め材
19…導電性枠体
20…導電性サッシ 21…押し縁
22…セッティングブロック 23…導電性弾性部材(パッカー)
24…導電性弾性部材(チューブ) 25…支持突起
26…メッシュ構造導電体 27…バックアップ材
28…シーリング材 29…導電性被覆
31…透光性電磁波シールド板 32…透明板
33…透明板 34…導電性メッシュ
35…接着剤層 36…接着剤層
37…導電性被覆材(導電性テープ) 39…接合部材
39a…支持突起
40…磁気シールド簾体 41…磁性板
S…非重畳部 d…非重畳部の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相似形の大形透明板と小形透明板とを周縁に帯状の非重畳部を残して重ね合わせた透明板対、前記非重畳部に外縁を食み出して両透明板間の全体に挟み込まれた導電性繊維メッシュ、前記非重畳部より広い幅を有し且つ幅方向の一端又は両端を非重畳部から突出させつつ非重畳部上に沿って延在させた導電性帯状片、及び前記非重畳部に押し当ててメッシュの食み出し部と帯状片とを面接触させる押圧部材を備えてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項2】
請求項1のシールド板において、前記導電性繊維メッシュの外縁を非重畳部の全幅にわたり食み出させてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項3】
請求項1又は2のシールド板において、前記導電性繊維メッシュを、金属被覆したメッシュ織物の表面に微細凹凸を形成し且つその微細凹凸上に黒色導電性被覆をメッキした黒色導電性繊維メッシュとしてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項4】
請求項1から3の何れかのシールド板において、前記導電性帯状片を、前記非重畳部から幅方向両端を突出させて非重畳部と両透明板の周縁部とを被覆する導電性テープとしてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項5】
請求項1から3の何れかのシールド板において、前記導電性帯状片を、前記非重畳部上の全幅にわたり幅方向一端を延在させると共に幅方向他端を非重畳部から突出させて大形透明板の周縁部を被覆する導電性テープとしてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項6】
請求項1から5の何れかのシールド板において、前記押圧部材を、前記非重畳部に沿って両透明板の段差に埋め込む帯状の導電性ガスケットとしてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項7】
請求項1から5の何れかのシールド板において、前記非重畳部に沿って大形透明板を厚さ方向に貫く複数の貫通孔を設け、前記押圧部材を各貫通孔に挿入して固定するボルトとしてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項8】
請求項1から7の何れかのシールド板において、前記大形透明板を小形透明板より厚い透明板としてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項9】
請求項1から8の何れかのシールド板において、前記透明板対の周縁部に密着して非重畳部及び押圧部材に嵌め込む導電性枠体を設けてなる透光性電磁波シールド板。
【請求項10】
請求項1から9の何れかのシールド板において、前記電磁波シールド板の周縁部を嵌め込む導電性サッシ、及び前記シールド板とサッシとの間隙に埋め込んで両者を導通させる導電性弾性部材を設けてなる透光性電磁波シールド板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−62432(P2010−62432A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228238(P2008−228238)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】