説明

透明セラミックス及びその製造方法並びにその透明セラミックスを用いたデバイス

【課題】特に、従来の立方晶ガーネット・ホスト材料系のシンチレータよりもより優れた特性を発揮できる透明セラミックスシンチレータの提供。
【解決手段】(1)下記一般式ARE12…式A(但し、REは一般式PrRE’3−x、又はCeRE’3−x(RE’はY、Yb及びLuの少なくとも一種、xは0.0001≦x≦0.3000である)、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)で示される酸化物を主体とし、かつ、(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有するガーネット型多結晶体からなる透明セラミックスシンチレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明セラミックス及びその製造方法並びにその透明セラミックスを用いたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
陽電子放出核種断層撮影装置(PET)装置においては、比較的エネルギーの高いガンマ線(消滅ガンマ線:511eV)が同時計数により検出されるため、感度が高くかつ高速応答が得られるシンチレーション検出器が採用されている。検出器特性には、高計数率特性又は偶発同時計数ノイズ除去のための高い時間分解能が要求され、さらに体内からの散乱線除去のためにエネルギー分解能が良いことも望まれる。
【0003】
これらの要求を満たす検出器に適するシンチレータとして、検出効率の点から密度が高く原子番号が大きいこと(光電吸収比が高いこと)、高速応答の必要性や高エネルギー分解能の点から発光量が多く、蛍光寿命(蛍光減衰時間)の短いことが必要である。また、近年のシステムでは、多層化・高分解能化のため、多量のシンチレータを微細で細長い形状で稠密に並べる必要から、取り扱い易さ、加工性、さらには価格も重要な選定要因となっている。
【0004】
Tl:NaIは、発光量が多く比較的安価であるため、シンチレーション検出器に最も一般的に使用されていたが、低密度ゆえに検出器の感度向上が期待できない。しかも、潮解性による取り扱いにくさがある。
【0005】
これに対し、BiGe12(BGO)は、蛍光波長490nm,屈折率は2.15、密度は7.13g/cmでTl:NaIの2倍の密度を持つため、ガンマ線に対してより高い線エネルギー吸収係数をもつ。また、Tl:NaIには吸湿性があるのに対し、BGOは吸湿性がなく、加工し易いという利点もある。欠点としては、BGOの蛍光変換効率がTl:NaIのそれの8%と小さいので、ガンマ線に対する光出力はTl:NaIより小さく、またエネルギー分解能は1MeVのガンマ線に対してTl:NaIは7%に対して、BGOでは15%である。また、蛍光減衰時間が300nsec程度と非常に長い等の欠点もある。
【0006】
Ce:GdSiO(Ce:GSO)は、我が国で開発されたものであり、BGOと比べ検出感度ではやや劣るが、密度(6.71g/cm)、光量(BGOの2倍)、応答速度(30〜60nsec )、放射線耐性(>105gray)ともにバランスのとれた高性能シンチレータである。しかしながら、やや遅い立ち上がり、放射線に対するpositive−hysteresis(照射によって光量が増加する性質)、強い劈開性という問題も有する。
【0007】
現在、最先端とされるシンチレータ結晶は、Ce添加LuSiO(Ce:LSO)であり、高密度(〜7.39g/cm)・短寿命(約50nsec)・高発光量(BGOの3倍以上)という優れたシンチレータ特性を有する。このLSO結晶はチョコラルスキー法で作製可能であるため、CTI Molecular Imaging Inc.(CTI)、Crystal Photonics Inc.(CPI)等の米国企業を中心に数百億円の市場を有する。しかしながら、2150℃という極めて高い融点と線膨張係数の異方性が高いことから、製造・加工のコストが高く、歩留まりも悪いという問題を抱えている。一般に、高融点酸化物単結晶の融液成長にはイリジウム(Ir)という金属が坩堝材として用いられるが、2000℃を超える温度は、Irの軟化温度に近いため、LSOの結晶製造には極めてシビアな温度制御が要求される。加えて、Ir坩堝の使用可能寿命も短いため、膨大な坩堝改鋳費用も製造メーカーにとって大きな負担となっている。さらに、この超高温を実現するために高周波発振機も高出力が必要となることから、総じてランニングコストが高くなっている。
【0008】
一方、シンチレータ用発光材料として使用されているCe:GSO、Ce:LSOは、発光元素であるCeが多量に含まれる方が発光量は増えるが、数%を超えるとコンセントレーションクエンチング(濃度消光)が顕著となり、シンチレータ効果を示さなくなってしまう。
【0009】
さらに、Ce、Prは希土類イオンの中でもLaに次いで大きく、母結晶における代表的な希土類イオン(Y, Gd, Lu)と比して有意に大きいため、Ce、Prの実効偏析係数が1から大きくずれてしまう。すなわち、育成方向に沿ったCe、Prの組成変動が避けられない。この現象は、蛍光減衰時間、発光量等の物性値を変化させてしまう原因となり、高精度仕様のPET等に用いる際に大きな問題となっている。
【0010】
このような中で、現在、コストも含め、一層高いエネルギー吸収係数を有し、エネルギー分解能や時間分解能の高い次世代シンチレータの開発が望まれている。一方、医療用画像装置においても、PETのみならず、X線CTの重要性も高い。また、非破壊検査全般も考慮に入れると、X線CT、放射線透過検査用のシンチレータ結晶も重要度が高い。これらの目的のシンチレータ結晶はCe:GSO、Ce:LSO等のように短寿命であることよりもTl:NaIやCsIのように高発光量であることが望まれる。しかしながら、NaI又はCsIの吸湿性はシンチレータ結晶の取り扱いを難しくしている点で、コスト高の原因になっている。
【0011】
また、放射能測定の一種としてカロリメトリー法がある。カロリメトリー法(熱量法)は、放射能を含む物質の状態、化学的性質にほとんど無関係に放射能を知ることができる測定法である。精度の高い熱量測定法が開発されたため、放射能の絶対測定法として利用されている。
【0012】
この方法を用いた放射線検知装置であるカロリメータにおいても、高いエネルギー吸収係数を有し、高発光量のシンチレータの要請が高い。これらの観点からは、現在では、コストが低く、高いエネルギー吸収係数を有し、非吸湿性で高発光量の次世代シンチレータの開発が望まれている。
【0013】
これに対し、(PrRE)(O1−p(但し、REはY,Sc,Yb,Lu,La,Ceから選ばれた1種または2種以上であり、MはAl,Ga,Si,Li,Na,K,Cs,Rb,Mg,Ca,Sr,Ba,Sc,Zr,Hf,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Pd,Cd,Pbのいずれか1種以上であり、かつ0<a<10、0<b<10、0<c<50であり、pは0または1である。)で表されることを特徴とするシンチレータ用単結晶が提案されている(特許文献1)。
【0014】
しかしながら、上記技術は、単結晶は融液成長法により作製されているため、LuがAlのサイトを一部占有することに起因するアンチサイト欠陥が存在し、その欠陥準位に束縛された励起子からの発光が長寿命成分となっている。この長寿命成分はPET等のフォトンカウンティングを行う検出器等に用いられる場合、パイルアップの原因になり、大きな欠点である。
【0015】
また、融液成長法で単結晶を作製する際は、偏析現象のため、賦活剤であるPr濃度を高くすることができない。単結晶の場合、透明度を確保できるPrの濃度はLuに対して0.3%以下である。このため、上記技術では、高い透明性と高い発光量とを両立することは困難である。
【0016】
一方、立方晶ガーネット・ホスト材料と、前記立方晶ガーネット・ホスト材料中に分布しかつ賦活剤として作用するプラセオジムとを含むことを特徴する透明な固体シンチレータ材料が提案されている(特許文献2)。立方晶ガーネット・ホスト材料としては、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)(GdGa12)、ガドリニウム・スカンジウム・ガリウム・ガーネット(GdScGa12)、ガドリニウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット(GdScAl12)、ルテチウム・アルミニウム・ガーネット(LuAl12)及びイットリウム・ガリウム・ガーネット(YGa12)が挙げられている。
【0017】
しかしながら、上記特許文献1の固体シンチレータ材料は、なお透明性が低い。しかも、特許文献1では、セラミックスを透明にする手段は、1)溶液中で均一な組成と粒度分布をもつ原料の使用、2)加圧焼結であること等の一般的な内容を開示するにとどまる。
【0018】
さらに非特許文献1においても湿式合成法(尿素法)で均一なCe:LuAG粉末を使って真空焼結およびHIP(Hot Isostatic Press)することで透光性の前記焼結体を得ることに成功している。しかし、得られた焼結体の可視領域での透過率は厚さ1.5mmで70%にも満たない状態であるので、光学特性は十分とは言えない。
【0019】
以上のように先行技術に関しては、少なくとも透明性という点においてさらなる改良がなければ実用的に利用することが極めて難しい状況にある。例えば、シンチレータ、特にPET等の高エネルギー放射線を検出する場合、放射線を遮断するには数十mmレベルの媒質厚さが必要なので、従来の透光性レベルでなく単結晶に匹敵する光学特性が必要であるので、一般的な改良手段では実現はほとんど不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】WO2006/049284
【特許文献2】特開2001−72968
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Hui-Li, et.al., “Fabrication of TransparentCerium-Doped Luthetium Aluminum Garnet Ceramics by Co-precipitation Routes”, J.Am, Ceram.Soc., 89 [7] 2356-58 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従って、本発明の主な目的は、特に、従来の立方晶ガーネット・ホスト材料系のシンチレータよりもより優れた特性を発揮できるシンチレータとして有用な透明セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる多結晶体(セラミックス)がシンチレータ等として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
すなわち、本発明は、下記の透明セラミックス及びその製造方法並びにその透明セラミックスを用いたデバイスに係る。
1. (1)下記一般式A
RE12 …式A
(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)で示される酸化物を主体とし、かつ、(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有するガーネット型多結晶体からなる透明セラミックス。
2. 前記REが一般式PrRE’3−x、又はCeRE’3−x(但し、RE’はY、Yb、Gd及びLuの少なくとも1種を示し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表される、前記項1に記載の透明セラミックス。
3. 前記RE’が一般式PrLu3−x又はCeLu3−x(但し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表される、前記項2に記載の透明セラミックス。
4. 互いに組成が異なる前記多結晶体の複数を接合してなるコンポジッドである、前記項1〜3のいずれかに記載の透明セラミックス。
5. 前記多結晶体が、1)平均結晶粒子径1〜100μmであり、2)厚さ10mmにおける直線透過率60%以上であり、3)厚さ10mmにおける干渉計による屈折率変動2λ以下である、前記項1〜4のいずれかに記載の透明セラミックス。
6. 前記RE及びMの中から選ばれた少なくとも1種の蛍光元素が放射線の入射方向に対して濃度分布を持つ、前記項1〜5のいずれかに記載の透明セラミックス。
7. 前記多結晶体中におけるSi、Ca及びMgが酸化物換算で[(CaO量+MgO量)/SiO量]≦4となるように含有されている、前記項1〜6のいずれかに記載の透明セラミックス。
8. ガーネット型酸化物多結晶体からなる透明セラミックスを製造する方法であって、
(A)(1)RE及びM(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)ならびに(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有し、かつ、その平均一次粒子径が0.01〜1μmの範囲にある原料粉末を成形して圧粉体を得る第1工程、
(2)前記圧粉体を600〜1200℃で仮焼する第2工程、及び
(3)前記仮焼体又はその焼成体を1600〜1850℃で焼成する第3工程
を含む製造方法。
9. 前記原料粉末中におけるSi、Ca及びMgが酸化物換算で[(CaO量+MgO量)/SiO量]≦4となるように含有されている、前記項8に記載の製造方法。
10. 前記項1〜7のいずれかに記載された透明セラミックスからなるシンチレータ。
11. 前記項10に記載されたシンチレータと光応答手段とを組み合わせてなることを特徴とする放射線検出器。
12. 前記項11に記載の放射線検出器を含む放射線検査装置。
13. 前記放射線検査装置は、陽電子放出核種断層撮影装置(PET)である、前記項12に記載の放射線検査装置。
14. 前記陽電子放出核種断層撮影装置は、2次元型PET、三次元型PET、タイム・オブ・フライト(TOF)型PET、深さ検出(DOI)型PET又はそれらの組み合わせからなる、前記項12に記載の放射線検査装置。
15. 前記放射線検査装置が、磁気共鳴画像装置(MRI)、コンピューター断層撮影装置(CT)及びシングルフォトン断層法(SPECT)の少なくとも1種と組み合わされている、前記項12に記載の放射線検査装置。
16. X線コンピューター断層撮影装置(CT)及びX線撮影(放射線透過検査)の少なくとも1種であって、非破壊検査用に用いる、前記項12に記載の放射線検査装置。
17. 前記放射線検査装置はカロリーメータである、前記項12に記載の放射線検査装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明の透明セラミックス及びその製造方法によれば、次のような優れた効果を得ることができる。
【0026】
(1)本発明の透明セラミックスをシンチレータとして用いる場合、従来のBGO、GSO等に比べて次に示すような有利な効果を達成できる。すなわち、本発明の透明セラミックスシンチレータは、潮解性がなく、GSO(高密度(〜6.71g/cm)・短寿命(60nsec以下)・高発光量(BGOの2倍以上))と同等以上の物性を有し、NaI以上の高発光量(BGOの5倍以上))を有する。
また、本発明の製造方法は、製造コストの面でも有利である。上記のように優れたシンチレータ材料を、GSO、LSOに比して簡便な製造方法により産業的価値の高い酸化物多結晶透明セラミックスを提供することができる。
【0027】
(2)本発明の透明セラミックスをシンチレータとして用いる場合は、特許文献1のようなシンチレータ用単結晶に比べて光学的均質性が高く、蛍光イオンの高濃度添加が可能である。
また、本発明の製造方法は、特許文献1のようなシンチレータ用単結晶の製造方法に比べて、材料構造の自由度が高く(ニアネット造型や複合構造素子作製が可能)、作製の容易さ(高い歩留り、短納期、量産可能)等の点で有利である。例えば、同一組成のLuAG単結晶等に比してもコスト/性能面で非常に産業的価値の高い酸化物多結晶透明セラミックスを提供することができる。
【0028】
(3)本発明の透明セラミックスは、特許文献2及び非特許文献1のような固体シンチレータ材料(多結晶体)に比べて透明性が優れている。特許文献2および非特許文献1ではそれぞれ蓚酸塩法及び尿素法で蛍光元素を含むガーネット粉末を合成することにより透明なセラミックスを合成できると記載されているが、組成及び製造法の開示からみてもその特性は従来レベルの透光性又は散乱源を大量に含む透明セラミックであり、少なくともシンチレータとして実用化するためにはさらなる改良が必要であることが容易に推定できる。これに対し、本発明の透明セラミックスは、特定の組成(又は製法)を採用することにより、従来の多結晶体に比して優れた透明性を発揮することができる。その結果、従来の多結晶体よりも多量の蛍光元素を含有することができる。
【0029】
(4)本発明の製造方法は、特許文献2のような固体シンチレータ材料(多結晶体)に比べて材料の透明度、すなわち放射線照射の際に発生した蛍光を媒質内部でロスなくかつ正確に検出器に伝送(すなわち、蛍光光量が大きく、蛍光発生の位置を精度良く)できるため、光(シンチレータ材料)から電気信号(PM(フォトマル)等の検出器)への変換効率が高く、解像度に優れた検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】多結晶透明LuAGセラミックスの製造工程図を示す。
【図2】Pr濃度の異なるYAGセラミックスの外観(研磨後)を示す図である。
【図3】Pr濃度の異なるLuAGセラミックスの外観(研磨後)を示す図である。
【図4】0.1, 0.2原子%Pr:YAGセラミックスとBGO単結晶の発光特性を示す。BGOの発光ピークを10倍に拡大して比較している。
【図5】Pr0.2原子%, Sc1原子%:YAG, Pr0.2原子%, Sc1原子%:LuAG, Pr0.2原子%, Sr5原子%, Hf5原子%:LuAG及びBGOにおけるRadioluminを示す。
【図6】Pr0.2原子%:YAGにおける蛍光減衰時間の測定結果を示す図である。
【図7】Pr0.2原子%:LuAG多結晶透明セラミックス、Pr0.2原子%:LuAG単結晶のγ線励起による蛍光寿命比較を示す。
【図8】ホスト組成の異なるPr添加セラミックシンチレーターの外観(試料厚さ25mm)を示す。
【図9】0.5原子%:LuAGセラミックス(写真左)と0.5原子%Ce:(Lu0.895Y0.10)3(Sr0.20 Al0.60Hf0.10Zr0.10)5O12 セラミックスの外観(試料厚さ25mm)を示す。
【図10】0.2原子%Ce:LuAG多結晶透明セラミックスのγ線励起による発光量と蛍光減衰時間の測定結果を示す図である。
【図11】Pr濃度の異なるLuAGセラミックスの透過スペクトル(試料厚さ10mm)を示す。
【図12】同一組成のPr:LuAG単結晶及びセラミックスの外観及び偏光観察の結果を示す図である。
【図13】コンポジットタイプ、セラミックシンチレーターの製造プロセスの概要を示す図である。
【図14】放射線の入射方向にPr濃度分布を持つコンポジットセラミックスの外観を示す図である。
【図15】Prの濃度分布(0.1,0.2,0.3原子%)を有するコンポジットPr:LuAG多結晶透明セラミックスのγ線励起による発光量の測定結果を示す図である。
【図16】発光量及び蛍光寿命測定装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.透明セラミックス
本発明の透明セラミックスは、
(1)下記一般式A
RE12 …式A
(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)で示される酸化物を主体とし、かつ、(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有するガーネット型多結晶からなることを特徴とする。
【0032】
すなわち、本発明の透明セラミックスは、上記一般式Aで示される組成にa)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSi(以下「焼結助剤」ともいう。)を含むガーネット型酸化物多結晶から構成される。以下、一般式Aに係る組成及び焼結助剤について説明する。
【0033】
一般式Aにおける前記REは、ランタノイド元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu)及びYの少なくとも1種である。この場合、REは非放射元素であるY、Gd、La及びLuから選ばれた少なくとも1種を主成分として含み、蛍光元素として非放射元素以外のランタノイド元素(以下「ランタノイド蛍光元素」ともいう。)を10モル%以下、好ましくは3モル%以下、より好ましくは1モル%以下を含む組成により構成されることがシンチレータ応用等の見地より望ましい。すなわち、Y、Gd、La及びLuから選ばれた少なくとも1種と10モル%以下のランタノイド蛍光元素とからなる組成がREとして好適に採用することができる。例えば、一般式PrRE’3−x又はCeRE’3−x(但し、RE’は非放射元素であるY、Gd、La及びLuの少なくとも1種を示し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表される組成を好適に採用することができる。この中でも一般式PrLu3−x又はCeLu3−x(但し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表される組成が前記REとしてより好ましい。
【0034】
一般式Aにおける前記Mは、Sr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種である。この中でも、例えばAlを好適に用いることができる。
【0035】
さらに、本発明の透明セラミックスでは、a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm、好ましくは5003000重量ppm、より好ましくは500〜2500重量ppm含有する。例えば、実施例に示すように700〜1700重量ppmの範囲とすることができる。この場合、多結晶体中におけるSi、Ca及びMgが酸化物換算で[(CaO量+MgO量)/SiO量]≦4となるように含有されていることが望ましい。
【0036】
本発明で好ましい組成の具体例としては、例えばホストがルテニウムアルミニウムガーネット(LuAG)である。すなわち、蛍光イオンとしてPr又はCeを含み、さらに焼結助剤が500〜3000重量ppm含有したPr:LuAG又はCe:LuAGが挙げられる。より具体的には、Pr0.003Lu2.997Al5O12〜Pr0.30Lu2.70Al5O12 又はCe0.003Lu2.997Al5O12〜Ce0.30Lu2.70Al5O12を基本構成とし、かつ、焼結助剤を500〜3000重量ppm含有するセラミックスが挙げられる。
【0037】
本発明の透明セラミックスシンチレータを構成する多結晶体は、ガーネット型酸化物であり、その純度は通常99重量%以上である。但し、本発明の効果を妨げない範囲内で他の結晶系が含まれていても良い。
【0038】
また、本発明の透明セラミックスは、1)平均結晶粒子径1〜100μmであり、2)厚さ10mmにおける直線透過率60%以上であり、3)厚さ10mmにおける干渉計による屈折率変動2λ以下であることが好ましい。このような特性を有する本発明透明セラミックスは、特にシンチレータとして優れた特性を発揮することができる。
【0039】
本発明の透明セラミックスは、1つのガーネット型酸化物多結晶体から構成されていても良いし、複数のガーネット型酸化物多結晶体から構成されていても良い。すなわち、複数の多結晶体を接合してなるコンポジットも本発明に包含される。この場合、各多結晶体は、互いに同じ組成であっても良いし、異なる組成であっても良い。
【0040】
また、本発明の透明セラミックスでは、蛍光元素の濃度分布が制御されていることが好ましい。これは、例えば上記のコンポジットの組合せ等により実施することができる。これにより、例えば本発明の透明セラミックスをシンチレータとして用いる場合、放射線の入射方向に対して蛍光元素の濃度分布(濃度の不均一性)をもたせることができる。より具体的には、例えば蛍光元素の濃度が0.1原子%、0.2原子%、0.5原子%及び1.0原子%である4つの濃度領域をもつ棒状のセラミックスを作製し、それぞれのDecay timeの違いを利用してγ線が発生した位置(腫瘍等の病変部の位置)をより精密に特定することが可能となる。
【0041】
2.透明セラミックスの製造方法
本発明の透明セラミックスは、下記の製造方法より好適に製造することができる。すなわち、ガーネット型酸化物多結晶体からなる透明セラミックスを製造する方法であって、
(A)(1)RE及びM(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)ならびに(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有し、かつ、その平均一次粒子径が0.01〜1μmの範囲にある原料粉末を成形して圧粉体を得る第1工程、
(2)前記圧粉体を600〜1200℃で仮焼する第2工程、及び
(3)前記仮焼体又はその焼成体を1600〜1850℃で焼成する第3工程
を含む製造方法により製造することができる。
【0042】
第1工程
第1工程では、(1)RE及びM(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)ならびに(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有し、かつ、その平均一次粒子径が0.01〜1μmの範囲にある原料粉末を成形して圧粉体を得る。
【0043】
原料粉末の組成としては、RE及びM(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)を含む。上記RE成分及びM成分としては、前記の一般式Aで示されるものであれば良い。原料粉末の調製に際しては、一般式Aで示される組成を構成する各成分そのもののほか、各成分の供給源となる化合物を用いることができる。上記化合物としては、例えば酸化物、水酸化物等を用いることができる。これらの原料中には、目的とする組成以外の不純物が極力少ないものが好ましい。特に、PrやCeがシンチレータ材料の蛍光物質となった場合、本蛍光元素の発光波長付近に吸収や発光をもつ元素(例えばTb、Tm等)、価数が容易に変動して着色(吸収帯を形成)する元素(例えばEu、Yb等)等は不純物として好ましくない。また、ホスト材料を構成するランタノイド元素においては安定同位体の占める割合が多いものほど良い。例えば、ホストをLuAGとした場合のLuは175Luが安定同位体であるが、その量が多いのものほど放射線検出時のノイズを低減できるので好ましい特性となる。すなわち、Luの放射性同位体(176Lu)存在比は2.592%であるが、シンチレータ応用の場合、同位体からのシグナルがバックグラウンドとなるため、原料として用いるLu中の同位体(176Lu)存在比は2.592%以下が好ましい。より好ましくは、 2%以下である同原料を選択することも重要となる。
【0044】
また、各成分における原料粉末の純度(例えば酸化物の場合は酸化物としての純度)は通常99.5重量%以上、好ましくは99.9重量%(3N)以上、より好ましくは99.99重量%(4N)以上の高純度原料を用いる。これらの各成分を、目的組成(ガーネットの化学量論組成かつ必要な蛍光元素を含む組成)となるように秤量、混合したものを用いる。
【0045】
本発明の製造方法では、共沈法等の湿式合成法により予め目的組成として得られたガーネット組成(例えばPr:LuAG組成)の前駆体等も原料粉末として用いることもできる。
【0046】
原料粉末中には、a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有する。これらの成分が含まれることにより、本発明透明セラミックスシンチレータとなる多結晶体の焼結段階において焼結助剤等としての役割を果たし、その結果として従来の多結晶体のシンチレータに比して優れた性能を得ることができる。原料粉末の調製に際しては、Si、Ca又はMgそのもののほか、各成分の供給源となる化合物を用いることができる。上記化合物としては、例えば酸化物、ハロゲン化物(塩化物、フッ化物等)、水酸化物、無機酸塩等の形態で配合することができる。
【0047】
本発明の製造方法では、原料粉末中におけるSi、Ca及びMgが酸化物換算で[(CaO量+MgO量)/SiO量]≦4となるように含有されていることが望ましい。特に、塩基性成分としてのCaO及びMgOの少なくとも1種ならびに酸性成分としてのSiOを含み、かつ、Σ塩基性成分の総量/酸性成分の総量比(重量比)が4以下、特に3以下であるように制御することが好ましい。本発明では、焼結助剤の塩基度((CaO量+MgO量)/SiO量)(以下「塩基度」ともいう。)を調整することで極めて優れた光学特性のセラミックスを実現できる。合成条件を最適化したセラミックスの光学特性は単結晶に類比する。さらに、蛍光元素の高濃度添加も可能であるが、これは特に焼結助剤の効果である。これは蛍光寿命を制御できるので同一材料であっても超高速のシンチレータの開発を可能とする。また、蛍光元素濃度の異なるコンポジット構造が合成可能であることは従来の単結晶や先行特許では実現することができなかったものであり、そのような構造により高い精度と分解能をもつ新しい機能創製も実現できることから先行特許とは格段の優位性がある。
【0048】
原料粉末の平均一次粒子径は通常0.01〜1μmであり、好ましくは0.01〜0.5μmである。原料粉末の平均一次粒子径は、公知の方法により適宜調節することができる。
【0049】
原料粉末の調製(混合)は、公知又は市販の混合機等を使用すれば良く、乾式又は湿式のいずれであっても良い。湿式の場合は、例えばエタノール(工業用アルコールである変性タイプでも良い)、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤を使用すれば良い。また、原料に吸湿性や水和性がない湿式原料粉末(ガーネット粉末)を用いる場合あるいは反応焼結の場合であってもLu+Al+Pr11のように水とほとんど反応しない原料の組合せであれば、溶媒に純水を利用することもできる。また、必要に応じて有機バインダー(樹脂系バインダー)、分散剤等の公知の添加剤を適宜配合することもできる。
【0050】
第1工程では、必要に応じて成形に先立って原料粉末を造粒することもできる。造粒方法は特に限定されず、攪拌造粒、転動造粒、スプレードライ等の公知の造粒方法を採用することができる。例えば、原料粉末及び有機溶剤を含むスラリーをスプレードライ法により原料粉末の造粒物を得ることができる。この場合の造粒物(顆粒)の平均粒径は限定的ではないが、通常は10〜100μm程度とすることが望ましい。
【0051】
原料粉末を成形する方法は特に限定されず、例えば一軸プレス成形、冷間静水圧プレス法(CIP法)等の公知の方法を1種又は2種以上組み合わせて採用することができる。例えば、1次成形として一軸プレス成形をした後にCIP法により好適に圧粉体を得ることができる。
【0052】
成形する際の圧力は、用いる原料粉末の粒径、原料粉末の組成等に応じて適宜設定することができるが、一般的には得られる成形体の理論密度の40〜65%程度の密度となるように加圧することが好ましい。例えば、CIP法による場合は10〜500MPaの範囲内で適宜設定することができる。
【0053】
第2工程
第2工程では、前記圧粉体を600〜1200℃で仮焼する。これによって仮焼体を得る。
【0054】
仮焼温度は通常600〜1200℃であり、好ましくは700〜1000℃とする。仮焼時間は、仮焼温度、圧粉体のサイズ等に応じて適宜設定すれば良い。仮焼雰囲気は、通常は大気中又は酸化性雰囲気とすれば良い。
【0055】
第3工程
第3工程では、前記仮焼体又はその焼成体を1600〜1850℃で焼成(本焼成)する。これにより本発明の透明セラミックスを焼結体として得ることができる。
焼成温度は通常1600〜1850℃であるが、好ましくは1620〜1850℃とし、より好ましくは1650〜1850℃とする。焼成温度が低すぎる場合は、緻密化が不十分であるので十分な透明度が得られない、焼成温度が高すぎると異常粒成長(不均一な微構造組織)や焼結体の変形等の問題を生じる。焼成時間は、焼成温度、圧粉体のサイズ等に応じて適宜設定すれば良い。
【0056】
焼成雰囲気は、特に限定されず、例えば大気中、酸化性雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空中、水素ガス雰囲気等のいずれも採用することができ、原料の組成、目的とするセラミックス等に応じて適宜選択することができる。
【0057】
また、第3工程では、前記仮焼体を焼成した焼成体も本焼成に供することができる。すなわち、第2工程で得られた仮焼体を1400〜1800℃で焼成した後、さらに圧力10〜200MPa及び温度1400〜1850℃の温度範囲で熱間等方圧プレス法(HIP)して得られた焼成体を本焼成することができる。このような焼成スケジュールにより焼成によって、より高い透明度及び光学的均一性を有する焼結体を得ることができる。
【0058】
さらに、第3工程では、例えば前記HIP処理した焼結体を真空、水素、He又は酸素雰囲気中で1650〜1850℃の温度範囲で熱処理(再焼結)することでさらに透明度の高い(より光学ロスと光学的不均一性のが少ない)焼結体を得ることができる。
【0059】
以上の製造方法で得られたガーネット型酸化物多結晶体は、平均粒子サイズ(結晶粒子の平均粒子径)が1〜100μmである。シンチレータとしての使用、特にγ線検出用及び放射線をシャットアウトするためには必要最低厚さが10mm程度は必要であるが、上記多結晶体は厚み10mmにおける直線透過率が60%以上であるので実用に十分耐えうる。また、作製された多結晶体は、Pr:LuAG単結晶で見られるようなコアの発生、偏析係数の小さなPr添加に伴うPrの偏析(インクリュージョンの析出)、組成変動の問題等が起こらないため、素子間の性能のバラツキが小さく、非常に高い信頼性があるほか、歩留まりが高い等の経済的効果も非常に大きい。また、焼結助剤として添加されるSi、Ca又はMgの酸化物は、透明性の向上に寄与する一方で、d、f電子が存在しない元素であることから直接発光に関与せず、添加した蛍光元素への悪影響を及ぼすこともない。また、単独で添加したSiの一部がガーネットの4配位を専有した場合、陽イオン欠陥が発生するが、電子トラップサイドを形成しないので、残光の問題は生じない。また、Siにさらに適量のMg及び/又はCaを共添加した場合は、Si添加により発生した陽イオン欠陥を電荷補償できるので光学特性はより好ましいものとなる。前記塩基度が4以下、好ましくは3以下、最も好ましくは0.5〜2.5の範囲に設定されている場合には、シンチレータ機能の性能をより飛躍的に向上させることが可能となる。
【0060】
3.放射線検出器及び検査装置
本発明の透明セラミックスは、様々な光学的な用途に用いることができる。特に、シンチレータとして有用である。すなわち、本発明は、前記の本発明の透明セラミックスからなるシンチレータを包含する。
【0061】
本発明のシンチレータは、従来の単結晶シンチレータと同様にして用いることができ、従来よりシンチレータが使用されている用途に用いることができる。例えば、放射線検出器のシンチレータの代替品として本発明シンチレータをそのまま用いることもできる。とりわけ、本発明の透明セラミックスからなるシンチレータと光応答手段とを組み合わせることにより放射線検出器としての使用が可能となる。さらに、これらの放射線検出器を放射線検出器として備えたことを特徴とする放射線検査装置としても使用可能である。
【0062】
放射線検査装置としては、医用画像処理装置(例えば、PET、X線CT、SPECT等)が好適である。上記PETとしては特に限定されることはないが、2次元型PET、三次元型PET、TOF型PET、深さ検出(DOI)型PET等の1つ又はこれらの組合せを好適に採用することができる。
【0063】
本発明の透明セラミックスシンチレータに位置検出型光電子増倍管(PS−PMT)、フォトダイオード(PD)又はアバランシェ―フォトダイオード(APD)と光応答手段とを組み合わせることにより放射線検出器として使用することができる。さらに、これらの放射線検出器を放射線検出器として備えた放射線検査装置としても使用可能である。放射線検査装置は、単体で使用しても良いし、これと磁気共鳴画像(MRI)、コンピューター断層撮影装置(CT)及びシングルフォトン断層法(SPECT)のいずれか少なくとも1つと組み合わせて使用しても良い。
【0064】
本発明における酸化物多結晶透明セラミックスシンチレータと位置検出型光電子増倍管(PS−PMT)、フォトダイオード(PD)又はアバランシェ―フォトダイオード(APD)と光応答手段とを組み合わせた放射線検出器を放射線検出器として備えた放射線検査装置は、カロリメータ用の放射線検知装置として使用しても良い。
【0065】
本発明における酸化物多結晶透明セラミックスシンチレータに位置検出型光電子増倍管(PS−PMT)、フォトダイオード(PD)又はアバランシェ―フォトダイオード(APD)と光応答手段とを組み合わせた放射線検出器は、X線CT及び放射線透過検査用装置の少なくとも1つと組合せて使用しても良い。
【0066】
<実施の形態>
図1には、本発明の代表例として、LuAGセラミックス(添加元素はPr,Ce,Eu等の任意)製造のフロー図を示す。主原料は純度99.5重量%以上のAlとLu(湿式法で合成された目的組成の原料を用いても差支えない)であり、1)これらの原料に焼結助剤、分散剤、バインダー、そして蛍光物質(蛍光物質の酸化物)を適量添加→2)粉砕・混合→3)顆粒作製(スプレードライ)→4)顆粒の成型(金型プレス、CIP)→5)有機成分の除去(仮焼)→6)一次焼結→7)加圧焼結→8)二次焼結→9)加工のプロセスから構成される。焼結工程では一次焼結だけでも十分透明度の高いセラミックスを作製することも可能であるが、さらに透明度を高める場合(材料の光学ロスを低減し、放射線の検出感度を高めたい場合)は必要に応じて前記7)あるいは前記7)及び8)のプロセスを追加することによりさらに高性能のセラミックスを得ることができる。
【0067】
以下に本発明の実施の形態として、 (PrxY1-x)3Al5O12及び(PrxLu1-x)3Al5O12で表されるガーネット型酸化物多結晶透明セラミックスを一例として示す。
【0068】
得られた多結晶透明YAGセラミックスは、いずれも透明なバルク体であった。本材料合成に関してはY2O3,
Al2O3, Pr6O11粉末の一次粒子サイズがそれぞれ0.07, 0.3, 0.2μmの粉末を使い、焼結助剤の総量が1500重量ppmとして(MgO+CaO)/SiO2=1.3に設定した圧粉体を真空中1750℃で5時間焼結している。
【0069】
図2は、0.2原子%Pr,
0.4原子%Pr, 1.0原子%Pr, 及び2.0原子%Pr:YAGセラミックスの外観写真である。それぞれの組成の化学式はPr0.006Y2.994Al5O12、Pr0.012Y2.988Al5O12、Pr0.030Y2.970Al5O12及びPr0.060Y2.940Al5O12である。本材料合成に関してはY2O3,
Al2O3, Pr6O11粉末の一次粒子サイズがそれぞれ0.5, 0.3, 0.3μmのものを使い、焼結助剤の総量が2000重量ppmとして(MgO+CaO)/SiO2=1.8に設定した圧粉体を真空中1550℃で2時間仮焼結した後、98MPaのAr雰囲気にて1600℃で2時間HIP処理、さらに1750℃で5時間真空焼結している。得られたPr:YAGセラミックスはいずれも透明なバルク体であった。
【0070】
図3は、0.2原子%Pr,
0.4原子%Pr, 1.0原子%Pr, 及び2.0原子%Pr:LuAGセラミックスの外観写真である。それぞれの組成の化学式はPr0.006Lu2.994Al5O12、Pr0.012Lu2.988Al5O12、Pr0.030Lu2.970Al5O12
及びPr0.060Lu2.940Al5O12である。本材料合成に関してはLu2O3,
Al2O3, Pr6O11粉末の一次粒子サイズがそれぞれ0.5, 0.3, 0.3μmのものを使い、焼結助剤の総量が2000重量ppmとして(MgO+CaO)/SiO2=1.8に設定した圧粉体を真空中1550℃で2時間仮焼結した後、98MPaのAr雰囲気にて1600℃で2時間HIP処理、さらに1750℃で5時間真空焼結している。得られたPr:LuAGセラミックスはいずれも透明なバルク体であった。
【0071】
図4は、Pr0.1原子%:YAG、Pr0.2原子%:YAG及びBGOにおける発光特性をRadioluminescenceにて測定した結果である。図5は、Pr0.2原子%、1原子%Sc:LuAG、Pr0.2原子%、1原子%Sc:LuAG 、Pr0.2原子% : YAG、5原子%Sr、5原子%Hf:LuAG及びBGOにおける発光特性をRadioluminescenceにて測定した結果である。図4及び図5におけるセラミックスの蛍光強度は、既存のBGO単結晶の蛍光強度を大きく上回ることが確認できた。図6は、Pr0.2原子%:YAGにおける蛍光減衰時間(Photoluminescence decay)を、図7はPr0.2原子%:LuAGにおける蛍光減衰時間をPhotoluminescenceにて測定した結果である。図6及び図7に用いたPr:YAG系とPr:LuAG系焼結体ではPr濃度が違うものもあるが、基本的に図1に示したサンプルと同様の条件で作製した。図6のセラミックスでは11nsの高速の減衰時間がPr:YAGセラミックスから計測された。また、図7では同一組成の単結晶とセラミックスの蛍光減衰時間の測定を行なっているが、セラミックスの高速成分の減衰時間が18nsと非常に早く、低速成分の減衰がほとんど観測されない(換言すれば単結晶材料の初期蛍光減衰時間が長く、残光(ノイズ)成分が長時間残っている。)。セラミックのもつ高速の蛍光減衰時間と残光成分の少なさは、高速応答と信頼性の高さを示すものであり、セラミック材料のシンチレータとしての優位性を示している。
【0072】
図8には、厚さ25mmのPr0.2原子%, Sc1原子%:YAG、Pr0.2原子%, Sc1原子%:YAG、Pr0.2原子%, Sc5原子%, Hf5原子%:LuAG多結晶セラミックス(研磨後)の外観写真を示す。いずれのセラミックスも光学品質であり、シンチレータとして十分実用に利用できる品質である。本材料合成に関してはY2O3,
Al2O3, Pr6O11, Sc2O3粉末の一次粒子サイズがそれぞれ0.07, 0.3, 0.2及び0.9μmのものを使い、焼結助剤の総量が1000重量ppmとして(MgO+CaO)/SiO2=0.6に設定した圧粉体を真空中1740℃で5時間焼結した。LuAG系材料ではLu2O3,
Al2O3, Pr6O11, Sc2O3,
MgO, HfO2の一次粒子サイズがそれぞれ0.6, 0.3, 0.3, 0.8, 0.1及び1.0μmのものを使い、焼結助剤の総量が2500重量ppmとして(MgO+CaO)/SiO2=2.5に設定した圧粉体を真空中1590℃で2時間かけて仮焼結した後、198MPaのAr雰囲気にて1630℃で2時間HIP処理、さらに1780℃で5時間真空焼結を実施している。
【0073】
図9には、0.5原子%:LuAGセラミックスと0.5原子%Ce:(Lu0.895Y0.10)3(Sr0.20 Al0.60Hf0.10 Zr0.10)5O12 セラミックスの外観写真を示す。Ce系材料においてもCeを比較的高濃度に固溶でき、かつ、非常に透明度の優れたセラミックスを合成できる。
【0074】
図10には、図9に示した0.5原子%Ce:LuAGセラミックスのγ線励起による発光量の測定結果と蛍光減衰時間の測定結果を示す。合成した0.5原子%Ce:LuAGセラミックスの蛍光は非常に強く、約90nsの高速の蛍光減衰時間を示しており、粒界などの欠陥構造がCeイオンの電子移動に対しても影響していないこと(すなわち、粒界付近の欠陥構造が電子トラップ等を引き起すことによる残光等の問題がないこと)が判明し、高速のシンチレータとして有用であることが確認できた。
【0075】
図11は試料厚さ10mmで0.15、0.3、0.45、0.8原子%濃度のPr:LuAGセラミックスの透過スペクトルを示した。LuAG結晶に対するCeやPr元素の偏析係数が非常に小さく(0.1〜0.2程度)、従来の単結晶育成技術では結晶中にこれらの蛍光物質を安定かつ大量(Prの場合は0.2〜0.3原子%程度が限界)に導入することは困難である。本発明では、本透過率が示すように蛍光物質を大量に導入しても高い透過率を維持できるという画期的な好結果を示した。これらの結果からもわかるように、本発明におけるPrを含む酸化物多結晶透明セラミックスシンチレータの発光は、同一組成(同一濃度のPr)の単結晶シンチレータと同等レベルに非常に高い絶対光収率である。単結晶材料には低濃度(約0.2〜0.3原子%)のPrしか均一固溶できないが、セラミック材料には単結晶材料に比べて10倍レベル程度以上の蛍光元素の導入も可能であることが確認されている。さらに、低濃度領域におけるPrの蛍光減衰時間は20ns未満程度であるが、Pr濃度の上昇に伴って蛍光減衰時間はさらに短くなることも確認されており、図13〜図15に示したコンポジット・セラミックシンチレータ(蛍光元素濃度を段階的に変化させ、同時に蛍光減衰時間も蛍光元素濃度に従って変動させた材料)により、さらにシンチレータとしての機能向上にも寄与できる画期的な素子形成が可能となる。
【0076】
図12には、0.3原子%Pr:LuAGセラミックスとチョクラルスキー法で作製した同一組成の単結晶の外観と偏光像を示す。セラミックスと単結晶共にガラスのような高い透明度を示しており、両者ともに気泡(ボイド)、インクリュージョン等の欠陥は肉眼では見えない。ところが、偏光板を通して(クロスニコルにて)材料を観察すると単結晶材料には顕著な複屈折が観察され、光学的に均一でないことが容易に判断できる。一方、セラミックス材料には偏光板を通して複屈折の観察できない、或いは単結晶に比べて非常に小さく、光学材料としての均一性が非常に優れていることがわかる。
【0077】
図13には、コンポジットセラミックス(段階的に複数の蛍光元素を含むもの、或いは同一蛍光元素であるがその濃度分布が異なるセラミックス)の作製方法を示す。基本的な作製手順は、図1に示した単純構造のセラミック材料と同一である。コンポジットを作製するときには、目的に応じて2つの方法を選択できる。その1では予め組成の異なる数種類の圧粉体を作製しておき、プレス工程で圧粉体どうしをスタッキングした圧粉体(複合圧粉体)を作製した上で成型体を焼成していく方法と単純構造の焼結体を作製し、焼結体どうしの接合面を精密研摩して拡散接合する方法を選択することができる。
【0078】
図14には、0.2、0.6、1.5、2.5原子%のPr濃度をもつYAG, LuAG, Pr:Lu(Al, Ga, Sc)Gコンポジットの焼結後及び研摩後の外観写真を示す。いずれのコンポジットセラミックスに関しても組成の異なる材料間の接合界面は目視できないほど精密に接合(シームレス接合)されており、材料全体に渡って透明な複合素子となっていることが確認できる。
単結晶材料ではこのような積層構造のシンチレータ素子を作製することは非常に困難であり、さらにイオン半径の大きなPrを単結晶内に高濃度かつ均一に固溶させることは不可能に近い。無論、Prに限定されることなく、Ce、Eu等の蛍光元素を含むシンチレーターセラミックスを同様に作製できる。
【0079】
図15には、0.1、0.2及び0.3原子%Pr濃度をもつコンポジットLuAGセラミックスにγ線を照射したときの発光量の測定結果を示す。Pr濃度の変化に伴って、異なる波高値、さらにそれぞれの素子領域ではPr濃度の増加に伴い蛍光減衰時間も短くなることが確認されていることから、コンポジットセラミックスのDOI検出で有効な素子となる可能性が示されている。これらの結果より、本発明の透明セラミックスは、PET又はX線CT技術にとっても画期的な診断技術となることが期待される。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0081】
<実施例1〜120及び比較例1〜18>
図1にはLuAGセラミックス作製のプロセスを示す。表1〜表20に示した実施例は図1に示すプロセスに示された方法に従って試料を作製した。
【0082】
表1〜表20(実施例)及び表21〜表23(比較例)に示した原料及び条件にて酸化物多結晶透明セラミックスをそれぞれ製造した。また、比較例にはチョクラルスキー法で作製した0.2原子%Pr:LuAG単結晶及び0.2原子%Pr:YAG単結晶の特性も記載している。
【0083】
表1〜表20に記載した例では原料粉末に対してSiO、CaO、MgO等の焼結助剤所定量添加し、さらに分散剤としてカルボン酸含有共重合物とポリオキシアルキレンモノアリキルエーテル混合液0.3重量%、アクリル系バインダー5重量%をそれぞれ添加した後、これらをポットミルで混合することによりスラリー(固形粉末と溶媒の混合物)を得た。次いで、上記混合物をスプレードライすることにより粒径数十μmの顆粒を得た。この顆粒を用い、1次成形として金型成形を行った後、2次成形としてCIPを行うことにより成形体を得た。得られた成形体を大気中600〜1000℃で仮焼した後、所定の雰囲気中1400〜1850℃で焼成(一次焼成)した。高品質の透明セラミックスを得る目的において前記焼成体をHIP処理し、さらに二次焼結を行なうことにより酸化物多結晶透明セラミックスを得た。
【0084】
得られた酸化物多結晶透明セラミックスについて、平均結晶粒子径(平均粒子サイズ)、直線透過率、屈折率変動等について調べた。その結果を表1〜表20に示す。また、比較例のサンプルについての同様の測定結果を表21〜表23に示す。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0085】
(1)平均結晶粒子径
走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡による観察により任意に選んだ視野における100個の結晶粒子の長径の算術平均値を平均結晶粒子径とした。
【0086】
(2)直線透過率
試料厚さ10mmの厚み方向において、波長400nm及び3200nm(特に400nmから1500nmまでの範囲で蛍光元素による吸収のない領域)での光透過のベースラインにおける直線透過率を測定した。本発明において、「ベースライン」は、波長−透過率の透過スペクトルにおいて、ドーパント(蛍光元素)による吸収が発現しない場合はそのままの透過スペクトルを示し、ドーパントによる吸収が発現する場合は8に用いたPr:YAGとPr:LuAG焼結体ではPr濃度の違いはあるが、基本的に図1及び図2に示したサンプルと同様の条件で作製した。その吸収がないものとして外挿(仮想)した透過スペクトルを示す。なお、本発明では、上記の直線透過率は、市販の分光分析装置「スペクトロメーター、商品名U3500」(日立製作所(株)製)を用い、表面粗度Rmsを1nm以下に研磨したφ15mm(直径は任意サイズ)で厚さ10mmの試料を用い、分光器のスリット幅を0.2から5nm、スキャンスピードを60〜600nm/minの範囲で測定した値である。
【0087】
(3)屈折率変動
y干渉計(例えばフィゾー干渉計)を使い、λ/4(λ=633nm)以上の平坦度かつ両面の平行度15秒以内に機械研摩された厚さ5mmの試料を用いて屈折率変動Δnを試料測定面の90%以上の領域において透過波面計測したときのフリンジを測定した。
【0088】
(4)発光量及び蛍光寿命
図16に示すような装置で測定した。ガンマ線源として137Csを用いた。受光素子としてPMT(H6521:浜松ホトニクス製)を用い、キューブ状に整形したPr:LuAGの5面をテフロン(登録商標)製テープで覆い、シンチレーション光を1面のみから得られるようにした。シンチレーション光が出る面にPMTを設置し、PMTに高電圧をかけてシグナルを増幅して読み出しを行った。波高値はpre-ampで増幅し、Pulse shape ampで波形を整え、multi channel analyzerを経てコンピューターに信号として取得した。蛍光寿命は、Digital oscilloscopeの信号を収集し、平均値を算出した。
【0089】
表1は主に0.2原子%Pr:LuAGセラミックスの合成で原料の一次粒子サイズと仮焼条件を変化させたもの、表2は成型圧力を変動させたもの、表3は焼結助剤のSiOを単独で使用し、その添加量を変動させたものである。なお、表1〜表3では、焼結助剤のSiO単独で使用し、HIPを利用しないプロセスで透明セラミックスを製造した。
【0090】
表4は、焼結助剤のSiOを単独で使用し、HIP条件や二次焼結条件を変動させたものである。
【0091】
表5は、LuAGセラミックス中のPr濃度と焼結助剤のSiO量を変動し、またLuAGセラミックスに他の蛍光元素であるCeとEuを添加した例を示している。
【0092】
表6〜表8は、主に焼結助剤としてSiOとCaO及び/又はMgOを添加することで焼結助剤の塩基度を調整した例であり、HIPを利用していない。
【0093】
表9は、焼結助剤の塩基度を固定したものであり、実施例49〜51はHIP処理をしていないものであり、実施例52〜54はさらにHIP処理を行なったものである(本例では二次焼結は行なっていない。)
【0094】
表10は、表9と同様に焼結助剤の塩基度を固定し、HIP条件を変動させ二次焼結条件を固定して作製した例を示している。この実施例ではNd、Er、Yb等のレーザー活性元素を添加し、その発光を増幅してレーザー増幅を試みたが非常に高い効率で発振した。その他にも、Sm、Tb、Dyを添加して紫外線とX線により励起したときの発光状態を調べた。表11は表10と同様に焼結助剤の塩基度を固定し、LuAGセラミック中のPr濃度、及びYAGセラミックス中のPr濃度を変動させた例、表12は主にHIPでの温度、時間、圧力媒体、圧力条件を変動させたものである。
【0095】
表12〜表14は、本発明の前記一般式AにおいてRE又はMサイトをGd、Sc、Ga等に一部置換した組成のセラミックスを作製したものであるが、焼結助剤の塩基度を固定し、その他の製造条件を若干変化させたときのものである。
【0096】
表15〜表16は、共沈法等で予め目的組成(焼結体の最終組成)の原料粉末を作製し、この原料粉末を使い、焼結助剤、その他の合成条件を変動させたものである。
【0097】
表17〜表18は、表12〜表14で実施した類似組成のセラミックスを焼結助剤がSiO単独の時の例を示している。いずれの組成のセラミックも試料厚さ10mmで60%以上の高い透過率を示しており、十分実用に耐えうる光学特性である。
【0098】
これらの表を総合的に見て明らかなように、焼結助剤がSiO単独より、MgO及びCaOから選ばれた1種以上とSiOとを用いて塩基度を調整したもの、或いは一次焼結のみより、HIP処理、 HIP処理して更に二次焼結した材料光学特性(透過率と光学的均一性)が高くなっていることがわかる。
【0099】
表19〜表20は、表2及び表11に記載された実施例に関して、蛍光元素をCeに変えて同一条件で作製した時のデータを示した。本表に記載されたセラミックスも非常に高い透過特性を有しており、シンチレータ材料として極めて有用な特性を示している。
【0100】
表21〜表23は、一例として本発明の範囲外の原料粒度、組成、微構造、製造条件等で作製したセラミックスの結果であるが、明らかに光学特性は悪くなっていることがわかる。また、単結晶材料は干渉計と偏光観察により単結晶の一部に存在する良質部を比較材料としたが、この材料でも本発明品とは同等又はそれ以下という状況である。Pr:LuAGやPr:YAG単結晶の場合、Prの偏析が多く観察され作製したインゴット中で光学的に均一な部分は全体の10%程度しかなく、シンチレータとして利用できる部位も限定されている。また、比較的良質部でも光学的均一性(屈折率の均一性)はセラミック材料に劣っており、品質の安定性等の観点でも課題を残している。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
【表6】

【0107】
【表7】

【0108】
【表8】

【0109】
【表9】

【0110】
【表10】

【0111】
サンプルの作製に際して、実施例27のみ20%O・80%Arガスで加圧し、それ以外はArガスをHIPの圧力媒体として使用した。
【0112】
実施例55、59及び60については、試料表面の平坦度をλ/10に光学研磨した後、両面にAR(反射防止)コーティングを施した。試料をレーザー共振機の挿入し、実施例55、59及び60の試料を波長808、1530及び940nmの半導体レーザーで励起して発振実験を行なった結果、スロープ効率55%、67%及び72%という極めて高い効率で発振することに成功した。このことから、蛍光イオンの種類によってはレーザー発振素子として利用できることが確認できた。実施例56〜58のSm, Tb,Dy添加品に関しても波長245nmの紫外線及びX線照射で極めて明るい蛍光を発していることが確認されており、蛍光体やシンチレータとして利用可能なことが確認できた。
【0113】
【表11】

【0114】
【表12】

【0115】
【表13】

【0116】
【表14】

【0117】
【表15】

【0118】
【表16】

【0119】
【表17】

【0120】
【表18】

【0121】
【表19】

【0122】
【表20】

【0123】
【表21】

【0124】
【表22】

【0125】
【表23】

【0126】
<比較例19>
比較例19として特開2001−72968で記載された蓚酸塩法で均一に0.2原子%Prを含有した一次粒子サイズ0.3μm、純度99.9重量%のLuAG粉末を作製した。この粉末には本発明に記載された焼結助剤は添加せず、アルコールと粉砕媒体であるアルミナボールを添加して12時間ポットミル混合・粉砕、その後乾燥処理を行った。粉末は金型成型後、196MPaでCIP成型、その後700℃で仮焼した。真空炉にて1500℃で2時間焼結して相対密度99%の焼結体を得た。この焼結体を1650℃で2時間HIP処理(圧力媒体Ar、 圧力196MPa)して理論密度に近い焼結体にした。焼結体の透明度を向上させる目的で、真空炉にて1800℃で15時間焼結した。1)HIP後、2)HIP後に真空焼成した焼結体を試料厚さ10mmとして両面を光学研磨した後、透過率を測定したが1)は3%、2)は8%の透過率しか得られなかった。この材料の透過率は非常に乏しく、γ線検出には不向きであるが、現状汎用されているX線CT用には利用できるレベルであった。無論、本発明の方が透過率が格段に高いので、X線CTとしての感度は勿論、信頼性の観点においても優れていることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記一般式A
RE12 …式A
(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)で示される酸化物を主体とし、かつ、(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有するガーネット型多結晶体からなる透明セラミックス。
【請求項2】
前記REが一般式PrRE’3−x、又はCeRE’3−x(但し、RE’はY、Yb、Gd及びLuの少なくとも1種を示し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表される、請求項1に記載の透明セラミックス。
【請求項3】
前記RE’が一般式PrLu3−x又はCeLu3−x(但し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表される、請求項2に記載の透明セラミックス。
【請求項4】
互いに組成が異なる前記多結晶体の複数を接合してなるコンポジッドである、請求項1〜3のいずれかに記載の透明セラミックス。
【請求項5】
前記多結晶体が、1)平均結晶粒子径1〜100μmであり、2)厚さ10mmにおける直線透過率60%以上であり、3)厚さ10mmにおける干渉計による屈折率変動2λ以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の透明セラミックス。
【請求項6】
前記RE及びMの中から選ばれた少なくとも1種の蛍光元素が放射線の入射方向に対して濃度分布を持つ、請求項1〜5のいずれかに記載の透明セラミックス。
【請求項7】
前記多結晶体中におけるSi、Ca及びMgが酸化物換算で[(CaO量+MgO量)/SiO量]≦4となるように含有されている、請求項1〜6のいずれかに記載の透明セラミックス。
【請求項8】
ガーネット型酸化物多結晶体からなる透明セラミックスを製造する方法であって、
(A)(1)RE及びM(但し、REはランタノイド元素及びYの少なくとも1種、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)ならびに(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有し、かつ、その平均一次粒子径が0.01〜1μmの範囲にある原料粉末を成形して圧粉体を得る第1工程、
(2)前記圧粉体を600〜1200℃で仮焼する第2工程、及び
(3)前記仮焼体又はその焼成体を1600〜1850℃で焼成する第3工程
を含む製造方法。
【請求項9】
前記原料粉末中におけるSi、Ca及びMgが酸化物換算で[(CaO量+MgO量)/SiO量]≦4となるように含有されている、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載された透明セラミックスからなるシンチレータ。
【請求項11】
請求項10に記載されたシンチレータと光応答手段とを組み合わせてなることを特徴とする放射線検出器。
【請求項12】
請求項11に記載の放射線検出器を含む放射線検査装置。
【請求項13】
前記放射線検査装置は、陽電子放出核種断層撮影装置(PET)である、請求項12に記載の放射線検査装置。
【請求項14】
前記陽電子放出核種断層撮影装置は、2次元型PET、三次元型PET、タイム・オブ・フライト(TOF)型PET、深さ検出(DOI)型PET又はそれらの組み合わせからなる、請求項12に記載の放射線検査装置。
【請求項15】
前記放射線検査装置が、磁気共鳴画像装置(MRI)、コンピューター断層撮影装置(CT)及びシングルフォトン断層法(SPECT)の少なくとも1種と組み合わされている、請求項12に記載の放射線検査装置。
【請求項16】
X線コンピューター断層撮影装置(CT)及びX線撮影(放射線透過検査)の少なくとも1種であって、非破壊検査用に用いる、請求項12に記載の放射線検査装置。
【請求項17】
前記放射線検査装置はカロリーメータである、請求項12に記載の放射線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−235388(P2010−235388A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85121(P2009−85121)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(506175530)株式会社ワールドラボ (2)
【Fターム(参考)】