説明

透明導電性フイルム及び該フイルムを用いた分散型エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 高い光透過率を有する低抵抗な透明導電性フイルムと、それを用いた高輝度で長寿命の分散型エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】 透明な高分子フイルムの一方の面に、導電性を有する透明薄膜層、および該薄膜上に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びUV硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含有する遮断層を有する透明導電性フイルムであって、
前記導電性を有する透明薄膜層の表面抵抗率が0.1以上100Ω/□以下であり、且つ前記遮断層を構成する材料の屈折率が1.6以上1.9未満であることを特徴とする透明導電性フイルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光透過率を有する低抵抗な透明導電性フイルム及び、それを用いた高輝度で長寿命の分散型エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL蛍光体は電圧励起型の蛍光体であり、EL蛍光体粉末を電極の間に挟んだ発光素子として分散型EL素子と薄膜型EL素子が知られている。分散型EL素子の一般的な形状は、EL蛍光体粉末を高誘電率のバインダー中に分散したものを蛍光体層とし、少なくとも一方が透明な二枚の電極の間に該層を挟み込んだ構造からなり、両電極間に交流電場を印加することにより蛍光体層が発光する。EL蛍光体粉末を用いて作製された分散型EL素子は数mm以下の厚さとすることが可能で、面発光体であり、発熱が少なく、発光効率が良いなど数多くの利点を有する為、道路標識、各種インテリアやエクステリア用の照明、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の光源、大面積の広告用の照明光源等をしての用途が期待されている。
しかし、蛍光体粉末を用いて作製された発光素子は、他の原理に基づく発光素子に較べて発光輝度が低く、また発光寿命が短いという欠点があり、この為従来から種々の改良が試みられてきた。
【0003】
上記EL素子用透明電極としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム上に、透明導電性材料としてスズをドープした酸化インジウム(ITO)をスパッタリング等により製膜したものが一般的に用いられている。EL素子内部では、ITO表面と蛍光体層との界面で屈折率差に起因する反射が生じ、EL素子の発光輝度(光取り出し効率)が低下する。ITO表面の反射率を低減する方法として、屈折率が1.6以下の低屈折率透明薄膜をITO上に製膜する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら特に大面積のEL素子を作製する場合に用いられる100Ω/□以下の低抵抗なITOフイルムでは、その反射が大きくなり、大幅にEL素子の発光輝度が低下してしまうといった問題点があった。
【0004】
一方で、一般的にEL素子の劣化要因の一つとしては、蛍光体層と透明電極との接触する界面が、熱や酸素等により劣化し、発光面が黒化することが知られている。これを解決するために、パラジウム微粉末を分散させた高誘電率樹脂層を蛍光体層と透明電極の間に付与することが開示されている(特許文献2)。また、他の劣化要因として一般的に知られている蛍光体層と透明電極の剥離に関しては、密着性を改良するための手法がいくつか開示されている(特許文献3、4)。
【特許文献1】特開平7−257945号公報
【特許文献2】特開平5−325645号公報
【特許文献3】特開平8−288066号公報
【特許文献4】特開平10−134963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法ではEL素子の発光輝度を高めることができないばかりでなく、発光輝度を高めようとして高周波数高電圧駆動(例えば周波数800Hz以上、または電圧100V以上の駆動)させようとすると、素子の耐久性が悪化してしまうという問題点があった。
【0006】
従って本発明は、光透過率が高く低抵抗な透明導電性フイルム、及びそれを用いた高輝度で長寿命の分散型EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の通りである。
(1)透明な高分子フイルムの一方の面に、導電性を有する透明薄膜層、および該薄膜上に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びUV硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含有する遮断層を有する透明導電性フイルムであって、
前記導電性を有する透明薄膜層の表面抵抗率が0.1Ω/□以上100Ω/□以下であり、且つ前記遮断層を構成する材料の屈折率が1.6以上1.9未満であることを特徴とする透明導電性フイルム。
(2)前記遮断層の厚みが0.01μm以上1.5μm未満であることを特徴とする前記(1)に記載の透明導電性フイルム。
(3)前記導電性を有する透明薄膜層の表面抵抗率が1Ω/□以上85Ω/□以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の透明導電性フイルム。
(4)透明導電性フイルムと背面電極との間に、少なくとも蛍光体層を挟持してなる分散型エレクトロルミネッセンス素子であって、該透明導電性フイルムが、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の透明導電性フイルムであることを特徴とする分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光透過率が高く低抵抗な透明導電性フイルムを提供することができる。さらに前記透明導電性フイルムを用いた分散型EL素子(EL素子とも記す)は、大画面化が可能であるとともに、発光輝度に優れ、耐久性にも優れ、更に長寿命を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の透明導電性フイルムは、透明な高分子フイルム上に、導電性を有する透明薄膜層(以下、単に「透明薄膜層」と称する)を有し(本明細書では、透明な高分子フイルム上に導電性を有する透明薄膜層を積層してなる積層体を「透明導電性基材」と表すこともある)、さらに該透明薄膜上に、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びUV硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含有する遮断層を有してなる。
【0010】
<透明導電性基材>
透明導電性基材は、ポリエチレンテレフタレートやトリアセチルセルロースベース等の透明な高分子フイルム上に、インジウム・錫酸化物や錫酸化物、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫、酸化亜鉛等(いずれも屈折率1.9〜2.0程度)の透明導電性材料を蒸着、塗布、印刷等の方法で一様に付着、製膜することで得られる。
また、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造を用いても良い。さらに、ポリアニリン、ポリピロールなどの共役系高分子などの導電性ポリマーも好ましく用いることができる。
これら透明導電性材料に関しては、東レリサーチセンター発行「電磁波シールド材料の現状と将来」、特開平9−147639号公報等に記載されている。
【0011】
また上記透明導電性基材としては、上記透明な高分子フイルムに上記透明導電性材料を付着・製膜してなる透明な導電性シートや導電性ポリマーに、一様な網目状、櫛型あるいはグリッド型等の金属および/または合金の細線構造部を配置した導電性面を作成して通電性を改善した透明導電性シートを用いることも好ましい。
【0012】
本発明において、透明薄膜層の表面抵抗率は0.1Ω/□以上100Ω/□以下であり、1Ω/□以上85Ω/□以下であることがより好ましく、5Ω/□以上80Ω/□以下が特に好ましい。透明薄膜層の表面抵抗率は、JIS K6911に記載の測定方法に準じて測定された値である。
【0013】
<遮断層>
本発明の透明導電性フイルムは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びUV硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含有する遮断層を、少なくとも1層、前記透明薄膜層上に有し、該遮断層を構成する材料の屈折率が1.6以上1.9未満であることを大きな特徴とする。該遮断層を構成する材料の屈折率は1.65以上1.85以下であることがより好ましく、1.70以上1.80以下であることが特に好ましい。
上記遮断層により、透明導電性フイルムの光透過率が向上し、さらに該フイルムをEL素子に適用した際には、透明薄膜層と蛍光体層の屈折率差に起因する反射を低減することによるEL素子の輝度向上及び透明薄膜層と蛍光体層界面の劣化を低減することによるEL素子の長寿命化(耐久性向上)を同時に達成できることを本発明者は見出した。
【0014】
遮断層の厚みは0.01μm以上1.5μm未満が好ましく、より好ましくは0.02μm以上1.2μm未満であり、特に好ましくは0.05μm以上1.0μm未満である。上記範囲内において、十分な反射低減効果及び耐久性向上効果が得られるが、0.01μm未満の場合は、蛍光体粒子に有効に電界がかかり初期輝度の低下が少ないが反射低減及び耐久性向上効果が少なく、1.5μm以上の場合は耐久性向上効果はあるものの初期輝度が低くなり、好ましくない。
【0015】
遮断層を形成する材料は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びUV硬化性樹脂からなる群から、屈折率が1.6以上1.9未満であるものを選択すれば如何なるものであってもよい。熱可塑性樹脂としては例えば、ポリスチレン(屈折率〜1.62)、ポリ塩化ビニリデン(屈折率1.60〜1.63)、ポリエチレンテレフタレート(屈折率1.65)などが好適に用いられ、熱硬化性樹脂としてはフェノール−ホルムアルデヒド樹脂(屈折率〜1.7)やエポキシ樹脂(屈折率1.61)などが好適に用いられ、UV硬化性樹脂としては多官能アクリル酸エステル化合物などが挙げられ、熱硬化性樹脂は、UV硬化性樹脂と混合することも好ましい。使用する遮断層の有機高分子化合物は、絶縁体であっても導電体で有っても良い。特に、軟化点の高い、具体的には軟化点が120℃以上が好ましく、さらに好ましくは140℃以上、最も好ましくは170℃以上の有機高分子化合物を少なくとも1つ含んでなることが好ましい。軟化点を120℃以上とすることにより、遮断層の厚さがより薄くても、耐久性向上効果を得ることができる。
これら軟化点については、例えば『ポリマーハンドブック第3版:ウィリー インターサイエンス社』の第VI章記載のガラス転位点を参考とすることができる。
【0016】
これらのうち、軟化点が高く好ましいものとしては、ビスフェノールAとテレフタル酸及びイソフタル酸からなるポリエステル(ユニチカ(株)製:UポリマーU−100)、または4,4'−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノールとビスフェノールAとテレフタル酸及びイソフタル酸からなるポリエステルが挙げられる。
【0017】
上記遮断層は、上記有機高分子化合物を遮断層の構成材料のうち体積比で20%以上(遮断層の固形分中の割合)用いることが好ましく、より好ましくは50%以上、最も好ましくは70%以上用いる。これにより、本発明の遮断層の効果をより有効に発揮することができる。複数の材料で構成してある遮断層の屈折率としては、それぞれの材料の屈折率を体積比率で比例配分した数値とする。たとえば、屈折率1.5の材料を体積比20%、屈折率1.2の材料を体積比80%の場合の遮断層の屈折率としては、1.5×0.2+1.2×0.8=1.26となる。
遮断層が含んでもよい他の化合物としては、具体的には、金属単体、金属酸化物、金属塩化物、金属窒化物、金属硫化物などの粒子が挙げられ、実質的に透明性を損なわない範囲で含有することができる。例えば、Au、Ag、Pd、Pt、Ir、Rh、Ru、Cu、SnO2、In23、SnドープIn23、TiO2、BaTiO3、SrTiO3、Y23、Al23、ZrO2、PdCl2、AlON、ZnSなどの粒子、またはシリカゲル、アルミナの粒子が挙げられる。また、他の有機高分子化合物としては、特に制限無く用いることができる。ここで実質的な透明とは、450nm、550nm、610nmで測定した場合の透過率が全て50%以上であることを表す。また、染料、蛍光染料、蛍光顔料、透明有機粒子または本発明の効果を失わない程度(EL素子全体の輝度のうち30%以下)の発光体粒子を存在させても良い。
【0018】
これら有機高分子化合物またはその前駆体は、適当な有機溶媒(例えば例えばジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、N−メチルピロリドンなど)に溶解し透明薄膜層上あるいは蛍光体層に塗布して形成することができる。
【0019】
また遮断層は、前記屈折率の範囲内であれば無機化合物と有機高分子化合物との組み合わせで構成されているものも好ましい。無機化合物としては金属単体、二酸化ケイ素、その他金属酸化物、金属窒化物などが挙げられる。遮断層は、無機化合物の薄膜層を形成していてもよく、その形成方法としては、スパッタ法、CVD法などが採用できる。
【0020】
遮断層は、反射低減だけでなく、蛍光体粒子と透明薄膜層との接触を遮断するため、電圧を印加し長時間発光を継続させた場合に起こる蛍光体粒子と透明薄膜層の界面の劣化を顕著に抑制する効果がある。結果として、高輝度高効率を維持したまま、高耐久化を達成するものである。特に高輝度発光条件(周波数800Hz以上、電圧100V以上)で高耐久化を達成できる。
【0021】
本発明の透明導電性フイルムは、輝度を向上させるため、また白色発光を実現する上で、波長420nm〜650nmの領域の光を80%以上透過することが好ましく、より好ましくは90%以上透過することが好ましい。白色発光を実現する上では、波長380nm〜680nmの領域の光を80%以上透過することがより好ましい。透明導電性フィルムの光透過率は、分光光度計によって測定することができる。
【0022】
<蛍光体層>
本発明のEL素子は、前記透明導電性フイルム(以下、透明電極ともいう)と背面電極との間に、少なくとも蛍光体層を挟持してなる構造を有する。
蛍光体層は、蛍光体粒子粉末を屈折率1.40以上1.6未満の有機バインダーに分散して、その分散液を塗布し形成することができる。
上記有機バインダーとしては、誘電率の高い素材が望ましく、例えば3フッ化1塩化エチレン(屈折率1.425)、フッ化ビニリデン(屈折率1.42)などを重合単位として含む高分子化合物、シアノエチルセルロース系樹脂(屈折率約1.49)、ポリビニルアルコール(屈折率約1.5)などが挙げられ、これらを全部または一部含んでなることが好ましい。中でもシアノエチルセルロース系樹脂が誘電率が高いため好適に用いられる。
このような有機バインダーと上記蛍光体粒子との配合割合は、蛍光体層中の上記蛍光体粒子の含有量が固形分全体に対して30〜90質量%となる割合とするのが好ましく、60〜85質量%となる割合とするのが更に好ましい。これにより蛍光体層の表面を平滑に形成することができる。
有機バインダーとしては、シアノエチルセルロース系樹脂を蛍光体層全体に対し、質量比で20%以上、更に好ましくは50%以上使用するのが特に好ましい。
【0023】
このようにして得られる蛍光体層の厚みは30μm以上60μm未満が好ましく、より好ましくは35μm以上45μm未満である。30μm以上において、蛍光体層の表面の良好な平滑性を得ることができ、また、50μm未満において蛍光体粒子に有効に電界をかけることができ、好ましい。
【0024】
<蛍光体粒子>
本発明に好ましく用いられる蛍光体粒子としては、具体的には第II族元素および第VI族元素からなる群から選ばれる元素の一つあるいは複数と、第III族元素および第V族元素からなる群から選ばれる一つあるいは複数の元素とからなる半導体の粒子であり、必要な発光波長領域により任意に選択される。例えば、CdS,CdSe,CdTe,ZnS,ZnSe,ZnTe,CaS,SrS,GaP,GaAsなどが挙げられる。中でも、ZnS,CdS,CaSなどが好ましく用いられる。
【0025】
本発明における蛍光体粒子は、当業界で広く用いられる焼成法(固相法)で形成することができる。例えば、硫化亜鉛の場合、液相法で10nm〜50nmの微粒子粉末(通常生粉と呼ぶ)を作成し、これを一次粒子すなわち母体物質として用いる。硫化亜鉛には高温安定型の六方晶系と低温安定型の立方晶系の2つの結晶系があるが、いずれを使用してもよく、また混在していてもよい。これに付活剤や共付活剤と呼ばれる不純物、融剤ともに坩堝にて900℃〜1300℃の高温で30分〜10時間焼成し、中間蛍光体粒子を得る。好ましいサイズ、変動係数の低い蛍光体粒子を得るのに好ましい焼成温度は950℃〜1250℃、さらに好ましくは1000℃〜1200℃である。また好ましい焼成時間は30分〜6時間、さらに好ましくは1時間〜4時間である。また融剤としては、40質量%以上用いることが好ましい。さらには50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましい。ここにおける融剤の割合は、融剤の割合(質量%)=融剤の質量/(原料蛍光体1次粒子の質量+融剤の質量)で示される。例えば、銅付活硫化亜鉛蛍光体のように、生粉に付活剤である銅を予め混入させておく場合においては、付活剤である銅も蛍光体原料粉末と一体となっており、このような場合は、銅も含め原料蛍光体の質量として計量するものとする。
【0026】
融剤は、室温の質量と焼成温度での質量は異なる場合がある。例えば塩化バリウムは、室温ではBaCl2・2H2Oの状態で存在しているが、焼成温度では水和水が失われ、BaCl2となっていると考えられる。しかし、ここでの融剤の割合とは、室温で安定な状態での、融剤の質量をもとに計算される。
【0027】
さらに、本発明では、上記焼成によって得られる中間蛍光体粉末中に含まれる過剰の付活剤、共付活剤及び融剤を除去するためにイオン交換水で洗浄することが好ましい。
【0028】
焼成によって得られる中間蛍光体粒子の内部には、自然に生じた面状の積層欠陥(双晶構造)が存在する。これにさらにある範囲の大きさの衝撃力を加えることにより、粒子を破壊することなく、積層欠陥の密度を大幅に増加させることができる。衝撃力を加える方法としては、中間蛍光体粒子同士を接触混合させるか、アルミナ等の球体を混ぜて、混合させる(ボールミル)か、粒子を加速させ衝突させる方法などが従来知られている。特に硫化亜鉛の場合、立方晶系と六方晶系の2つの結晶系が存在し、前者では最密原子面((111)面)はABCABC・・・の三層構造をなし、後者ではc軸に垂直な最密原子面がABAB・・・の二層構造を形成している。このため、硫化亜鉛結晶にボールミル等で衝撃を与えた場合、立方晶系で最密原子面のすべりが起こり、C面が抜けると、部分的にABABの六方晶となり、刃状転位が生じ、またAB面が逆転して双晶が生じることもある。一般に結晶中の不純物は格子欠陥部分に集中するため、積層欠陥を有する硫化亜鉛を加熱して硫化銅などの付活剤を拡散させると積層欠陥に析出する。付活剤の析出部分と母体の硫化亜鉛との界面が蛍光体粒子の発光中心となることから、本発明においても輝度向上のためには積層欠陥の密度が高いことが好ましい。
【0029】
次いで、得られた中間体蛍光体粉末に第2回目の焼成をほどこす。第2回目は、第1回目より低温の500℃〜800℃で、また短時間の30分〜3時間の加熱(アニーリング)をする。これにより、付活剤を積層欠陥に集中的に析出させることができる。
その後、該中間蛍光体を、塩酸等の酸でエッチングして表面に付着している金属酸化物を除去し、さらに表面に付着した硫化銅を、KCN等で洗浄して除去する。続いて乾燥を施して蛍光体粒子を得る。
【0030】
蛍光体粒子のサイズは1μm以上20μm未満、変動係数は3%以上35%未満が好ましい。上記範囲内の粒子により蛍光体層を充分平滑に形成することができるため、高輝度、長寿命なEL素子を得ることができる。
【0031】
また、他の蛍光体の形成方法として、レーザー・アブレーション法、CVD法、プラズマ法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法などと、流動油面蒸着を組み合わせた方法、等の気相法と、複分解法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、凍結乾燥法、等の液相法や、尿素溶融法、噴霧熱分解法なども用いることができる。
【0032】
本発明の蛍光体粒子の平均サイズや変動係数は、例えば堀場製作所製・レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920のような、レーザー散乱による方法を用いることができる。ここで、平均粒径はメジアン径を指すものとする。
【0033】
また本発明の蛍光体粒子は付活剤として銅を含む硫化亜鉛であること、さらには6族から10族までの第2遷移系列に属する金属元素を少なくとも1種類含有することが好ましい。中でもモリブデン、白金が好ましい。これらの金属は硫化亜鉛中に硫化亜鉛1モルに対して1×10-7モルから1×10-3モルの範囲で含まれることが好ましく、1×10-6モルから5×10-4モル含まれることがより好ましい。これらの金属は硫化亜鉛微粉末と所定量の硫酸銅と共に脱イオン水に添加し、スラリー状にした上でよく混合し、乾燥してから共付活剤や融剤と共に焼成を行うことで硫化亜鉛粒子に含有させることが好ましいが、これらの金属を含む錯体粉末をフラックスと混合しておきこの共付活剤や融剤を用いて焼成を行い硫化亜鉛粒子に含有させることも好ましい。いずれの場合も金属を添加する際の原料化合物としては使用する金属元素を含む任意の化合物を使用することが出来るが、より好ましくは、金属または金属イオンに酸素、または窒素が配位した錯体を用いることが好ましい。配位子としては無機化合物でも有機化合物であってもよい。これらにより、より一層の輝度向上及び長寿命化が可能となる。
【0034】
蛍光体粒子は、粒子の表面に非発光シェル層を有することがより好ましい。このシェル層形成は、蛍光体粒子のコアとなる半導体微粒子の調製に引き続いて化学的な方法を用いて0.1μm以上の厚みで設置するのが好ましい。好ましくは0.1μm以上1.0μm以下ある。
非発光シェル層は、酸化物、窒化物、酸窒化物や、母体蛍光体粒子上に形成した同一組成で発光中心を含有しない物質から作成することができる。また、母体蛍光体粒子材料上にエピタキシャルに成長させた異なる組成の物質により形成することができる。
【0035】
非発光シェル層の形成方法として、レーザー・アブレーション法、CVD法、プラズマ法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法などと、流動油面蒸着を組み合わせた方法、等の気相法と、複分解法、ゾルゲル法、超音波化学法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、尿素溶融法、凍結乾燥法、等の液相法や噴霧熱分解法なども用いることができる。
【0036】
特に、蛍光体の粒子形成で好適に用いられる、尿素溶融法や噴霧熱分解法は、非発光シェル層の合成にも適している。
例えば、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層を付設する場合は、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解し、溶融した尿素溶液中に、硫化亜鉛蛍光体を添加する。硫化亜鉛は尿素に溶解しないため、粒子形成の場合と同様に溶液を昇温し、尿素由来の樹脂中に硫化亜鉛蛍光体と非発光シェル層材料が均一に分散した固体を得る。この固体を微粉砕した後、電気炉中で樹脂を熱分解させながら焼成する。焼成雰囲気として、不活性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、アンモニア雰囲気、真空雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
また、例えば、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に噴霧熱分解法で非発光シェル層を付設する場合は、非発光シェル層材料となる金属塩が溶解した溶液中に、硫化亜鉛蛍光体を添加する。この溶液を霧化し、熱分解することで、硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に非発光シェル層が生成する。熱分解の雰囲気や追加焼成の雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物からなる非発光シェル層を表面に有する硫化亜鉛蛍光体粒子が合成できる。
【0037】
<絶縁層>
絶縁層は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い絶縁破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。これらは金属酸化物、窒化物から選択され、例えばBaTiO3、KNbO3、LiNbO3、LiTaO3、Ta23、BaTa26、Y23、Al23、AlONなどが用いられる。これらは均一な膜として設置されても良いし、また有機バインダーを含有する粒子構造を有する膜として用いても良い。例えば、Mat.Res.Bull.36巻、1065ページに記載されているようにBaTiO3微粒子とBaTiO3ゾルとから構成した膜などが用いられる。
【0038】
絶縁層に用いることができる有機バインダーとしては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂が挙げられる。これらの樹脂に、BaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる
【0039】
<赤色発光材料>
本発明のEL素子では、上記で例示した、白色発光を作るために青緑に発光する硫化亜鉛粒子の他に赤色に発光する赤色発光材料を使用することができる。赤色発光材料は蛍光体層中に分散しても、絶縁層中に分散してもよく、蛍光体層と透明電極の間や透明電極に対して蛍光体層と反対側に位置させてもよい。
【0040】
本発明のEL素子において、白色発光時の赤色の発光波長として好ましくは600nm以上650nm以下である。この範囲に含まれる赤色発光波長を得るには、赤色発光材料を絶縁層に含有させることが最も好ましい。赤色発光材料を含む絶縁層は、本発明におけるEL素子中の絶縁層が全て赤色発光材料を含む層とすることも好ましいが、EL素子中の絶縁層を2つ以上に分割し、そのうちの一部が赤色発光材料を含む層とすることがより好ましい。赤色発光材料を含む層は、赤色発光材料を含まない絶縁層と蛍光体層の間に位置することが好ましく、両側を赤色発光材料を含まない絶縁層で挟まれる様に位置させることも好ましい。
【0041】
赤色発光材料を含む層を赤色発光材料を含まない絶縁層と蛍光体層の間に位置させる場合、赤色発光材料を含む層は1μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上17μm以下である。赤色発光材料を添加した絶縁層中の赤色発光材料の濃度は、BaTiO3に代表される誘電体粒子に対しての質量%で、1質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。赤色発光材料を含む層が両側から赤色発光材料を含まない絶縁層に挟まれる様に位置する場合、赤色発光材料を含む層は1μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上10μm以下である。赤色発光材料を添加した絶縁層中の赤色発光材料の濃度は、誘電体粒子に対しての質量%で、1質量%以上30質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上20質量%以下である。赤色発光材料を含む層が両側から赤色発光材料を含まない絶縁層に挟まれる様に位置する場合には赤色発光材料を含む層に誘電体粒子を含有させず、高誘電率バインダーと赤色発光材料のみの層にすることも好ましい。
【0042】
ここで使用される赤色発光材料が粉末の状態にある時の発光波長として好ましくは600nm以上750nm以下であることが好ましく、より好ましくは610nm以上650nm以下であり、最も好ましくは610nm以上630nm以下である。この発光材料がEL素子に添加され、EL発光時の赤色の発光波長としては前述の様に600nm以上、650nm以下であることが好ましく、より好ましくは605nm以上630nm以下であり、最も好ましくは608nm以上、620nm以下である。
【0043】
赤色発光材料を含む層のバインダーとしては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂が好ましい。
【0044】
本発明の赤色発光材料としては、蛍光顔料または蛍光染料を好ましく用いることが出来る。これらの発光中心をなす化合物としては、ローダミン、ラクトン、キサンテン、キノリン、ベンゾチアゾール、トリエチルインドリン、ペリレン、トリフェンニン、ジシアノメチレンを骨格として持つ化合物が好ましく、他にもシアニン系色素、アゾ染料、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ジシランオリゴチエニレン系ポリマー、ルテニウム錯体、ユーロピウム錯体、エルビウム錯体を用いることも好ましい。これらの化合物は単独で用いても複数種類を用いてもよい。また、これらの化合物はさらにポリマー等に分散した後に使用してもよい。
【0045】
<背面電極>
光を取り出さない側の背面電極は、導電性の有る任意の材料が使用出来る。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作成する素子の形態、作成工程の温度等により適時選択されるが、導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。更に、耐久性を向上させる観点から、背面電極の熱伝導率は高いことが重要で、2.0W/cm・deg以上、特に2.5W/cm・deg以上であることが好ましい。
また、EL素子の周辺部に高い放熱性と通電性を確保するために、金属シートや金属メッシュを背面電極として用いることも好ましい。
【0046】
<EL素子の製造方法>
本発明のEL素子において、蛍光体層、絶縁層、及び遮断層は、材料を溶剤に溶解してなる塗布液を調製し、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布して形成することが好ましい。特に、スクリーン印刷法のような印刷面を選ばない方法やスライドコート法のような連続塗布が可能な方法を用いることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法は、蛍光体粒子や誘電体材料の微粒子を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液を、スクリーンメッシュを通して塗布する。メッシュの厚さ、開口率、塗布回数を選択することにより膜厚を制御できる。分散液を換えることで、蛍光体層や絶縁層のみならず、背面電極層なども形成でき、さらにスクリーンの大きさを変えることで大面積化が容易である。
また、蛍光体層と遮断層の密着性を向上させるため、遮断層の表面には蛍光体層で使用する有機バインダー(特にシアノエチルセルロース系樹脂が好適)をあらかじめ塗布しておくことが好ましい。
これらの塗布に供する場合、蛍光体層、絶縁層、遮断層の構成材料に適当な有機溶剤を加えた塗布液を調製して用いることが好ましい。好ましく用いられる有機溶剤としては、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0047】
また、上記塗布液の粘度としては、0.1〜5Pa・sが好ましく、0.3〜1.0Pa・sが特に好ましい。蛍光体層形成用塗布液又は誘電体粒子含有の絶縁層形成用塗布液の粘度が、0.1Pa・s未満の場合には、塗膜の膜厚ムラが生じやすくなり、また分散後の時間経過とともに蛍光体粒子又は誘電体粒子が分離沈降してしまうことがある。一方、蛍光体層形成用塗布液又は絶縁層形成用塗布液の粘度が5Pa・sを超える場合には、比較的高速での塗布が困難となる。なお、前記粘度は、塗布温度と同じ16℃において測定される値である。
【0048】
蛍光体層は、スライドコーター又はエクストルージョンコーターなどを用いて、塗膜の乾燥膜厚が30μm以上で60μm未満になるように連続的に塗布して形成することが特に好ましい。
【0049】
前記各層は、少なくとも塗布から乾燥工程までを連続工程とすることが好ましい。乾燥工程は、塗膜が乾燥固化するまでの恒率乾燥工程と、塗膜の残留溶媒を減少させる減率乾燥工程に分けられる。本発明では、各層のバインダー比率が高い場合、急速乾燥させると表面だけが乾燥し塗膜内で対流が発生し、いわゆるベナードセルが生じやすくなり、また急激な溶媒の膨張によりブリスター故障を発生しやすくなり、塗膜の均一性を著しく損う。逆に、最終の乾燥温度が低いと、溶媒が各機能層内に残留してしまい、防湿フイルムのラミネート工程等のEL素子化の後工程に影響を与えてしまう。したがって、乾燥工程は、恒率乾燥工程を緩やかに実施し、溶媒が乾燥するのに充分な温度で減率乾燥工程を実施することが好ましい。恒率乾燥工程を緩やかに実施する方法としては、支持体が走行する乾燥室をいくつかのゾーンに分けて、塗布工程終了後からの乾燥温度を段階的に上昇することが好ましい。
【0050】
<封止方法>
本発明のEL素子は、最後に封止フイルムを用いて、外部環境からの湿度や酸素の影響を排除するよう加工するのが好ましい。EL素子を封止する封止フイルムは、40℃−90%RHにおける水蒸気透過率が0.1g/m2/day以下が好ましく、0.05g/m2/day以下がより好ましい。さらに40℃−90%RHでの酸素透過率が0.1cm3/m2/day/atm以下が好ましく、0.01cm3/m2/day/atm以下がより好ましい。
【0051】
このような封止フイルムとしては、有機物膜と無機物膜の積層膜が好ましく用いられる。有機物膜としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられ、特にポリビニルアルコール系樹脂がより好ましく用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂などは吸水性があるため、あらかじめ真空加熱などの処理を施すことで絶乾状態にしたものを用いることがより好ましい。これらの樹脂を塗布などの方法によりシート状に加工したものの上に、無機物膜を蒸着、スパッタリング、CVD法などを用いて堆積させる。堆積させる無機物膜としては、酸化ケイ素、窒化珪素、酸窒化珪素、酸化ケイ素/酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどが好ましく用いられ、特に酸化ケイ素がより好ましく用いられる。より低い水蒸気透過率や酸素透過率を得たり、無機物膜が曲げ等によりひび割れることを防止するために、有機物膜と無機物膜の形成を繰り返したり、無機物膜を堆積した有機物膜を接着剤層を介して複数枚貼り合わせて多層膜とすることが好ましい。有機物膜の膜厚は、5〜300μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。無機物膜の膜厚は、10〜300nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。積層した封止フイルムの膜厚は、30〜1000μmが好ましく、50〜300μmがより好ましい。
【0052】
この封止フイルムでELセルを封止する場合、2枚の封止フイルムでELセルを挟んで周囲を接合封止しても、1枚の封止フイルムを半分に折って封止フイルムが重なる部分を接合封止しても良い。封止フイルムで封止されるEL素子は、EL素子のみを別途作成しても良いし、封止フイルムを支持体として封止フイルム上に直接EL素子を作成することもできる。
【0053】
高度な水蒸気透過率や酸素透過率を有する封止フイルムを用いた場合、封止フイルム面からの水分や酸素の侵入は防止できるが、封止フイルム同士の接合部分からの水分や酸素の侵入が問題となるため、ELセルの周囲に乾燥剤層を配置することが望ましい。乾燥剤層に用いられる乾燥剤としては、CaO、SrO、BaOなどのアルカリ土類金属酸化物、酸化アルミニウム、ゼオライト、活性炭、シリカゲル、紙や吸湿性の高い樹脂などが好ましく用いられるが、特にアルカリ土類金属酸化物が吸湿性能の点でより好ましい。これらの吸湿剤は粉体の状態でも使用することはできるが、例えば樹脂材料と混合して塗布や成形などによりシート状に加工したものを使用したり、樹脂材料と混合した塗布液をディスペンサーなどを用いて、ELセルの周囲に塗布したりして乾燥剤層を配置することが好ましい。EL素子の周囲のみならず、ELセルの下面や上面を乾燥剤で覆うことがより好ましい。この場合、光を取り出す面には透明性の高い乾燥剤層を選択することが好ましい。透明性の高い乾燥剤層としては、ポリアミド系樹脂等を用いることができる。
【0054】
封止フイルム同士の接着には、ホットメルト型接着剤又はUV硬化型接着剤が好ましく用いられるが、特に水分透過率と作業性の点でUV硬化型接着剤がより好ましい。ホットメルト型接着剤としてはポリオレフィン系樹脂等、UV硬化型接着剤としてはエポキシ系樹脂等を用いることができる。封止フイルム同士の接着に際しては、封止フイルム全面に接着剤を塗布しELセルと乾燥剤層を配置した後、貼り合わせて熱やUV照射により硬化させても、封止フイルムにELセルと乾燥剤層を配置した後、封止フイルム同士が重なり合う領域に接着剤を塗布して硬化させても良い。
【0055】
封止フイルムの貼り合わせは、プレス機などを用いて圧力をかけながら熱やUV照射する方法で行うことができるが、封止フイルム内部又は封止装置を真空又は露点管理された不活性ガス中で行うことが、EL素子の寿命を向上させるのでより好ましい。
【0056】
<用途>
本発明のEL素子の用途は、特に限定されるものではないが、光源としての用途を考えると、発光色は白色が好ましい。発光色を白色とする方法としては、例えば、銅とマンガンが付活され、焼成後に徐冷された硫化亜鉛蛍光体粒子のように単独で白色発光する蛍光体粒子を用いる方法や、3原色または補色関係に発光する複数の蛍光体粒子を混合する方法が好ましい(青−緑−赤の組み合わせや、青緑−オレンジの組み合わせなど)。また、特開平7−166161号公報、特開平9−245511号公報、特開2002−62530号公報に記載の青色のように短い波長で発光させて、蛍光顔料や蛍光染料を用いて発光の一部を緑色や赤色に波長変換(発光)させて白色化する方法も好ましい。さらに、CIE色度座標(x,y)は、x値が0.30〜0.43の範囲で、かつy値が0.27〜0.41の範囲が好ましい。
【0057】
本発明はEL素子を高輝度(例えば600cd/m2以上)で発光させて用いる用途で特に有効である。具体的には本発明はEL素子の透明電極と背面電極の間に、100V以上500V以下の電圧を印加する駆動条件、または800Hz以上4000KHz以下の周波数の交流電源で駆動する条件で使用する場合に有効である。
【0058】
本発明の透明導電性フイルムは、分散型EL素子だけでなく、液晶ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイなどの表示素子の電極、太陽電池などの光電変換素子の窓電極、電磁波シールドの電磁波遮蔽膜、あるいは透明タッチパネルなどの入力装置の電極等にも適用できる。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明の透明導電性フイルム及び該フイルムを用いたEL素子の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
<透明導電性フイルムA>
透明なPETフイルムの一方の面に真空中にてArガス、O2ガスを導入し(酸素分圧:4〜7%)、ITO薄膜をスパッタリング法にて2000〜2500Å形成することで表面抵抗率20Ω/□の透明導電性基材を得た。
上記透明導電性基材のITO(屈折率2.0)上に、遮断層としてビスフェノールAとテレフタル酸及びイソフタル酸からなるポリエステル(ユニチカ製U−100:屈折率=1.61)を厚さ0.08μmとなるように塗布し、さらにその上にEL素子作製時の密着性を良化させるために、EL素子の蛍光体層に使用するシアノエチルプルラン(屈折率1.499)及びシアノエチルポリビニルアルコール(屈折率1.494)の混合物からなる接着層を厚さ0.08μmとなるように塗布することで、透明導電性フイルムAを得た。
<透明導電性フイルムB>
遮断層を酢酸ビニル樹脂(屈折率=1.46)にした以外、透明導電性フイルムAと同様に行った。
<透明導電性フイルムC>
ビスフェノールAとテレフタル酸及びイソフタル酸からなるポリエステルの厚さを2μmとなるように塗布すること以外透明導電性フイルムAと同様に行った。
<透明導電性フイルムD>
ビスフェノールAとテレフタル酸及びイソフタル酸からなるポリエステルの厚さを0.008μmとなるように塗布すること以外透明導電性フイルムAと同様に行った。
<透明導電性フイルムE>
ビスフェノールAとテレフタル酸及びイソフタル酸からなるポリエステルの厚さを12μmとなるように塗布すること以外透明導電性フイルムAと同様に行った。
<透明導電性フイルムF>
PET上へのITOスパッタリング後の透明導電性基材の表面抵抗率が150Ω/□であること以外透明導電性フイルムAと同様に行った。
<透明導電性フイルムG>
遮断層を塗布しないこと以外、透明導電性フイルムAと同様に行った。
上記で得られた各種透明導電性フイルムの550nmでの光透過率を測定した。透明導電性基材の表面抵抗率と併せて、結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から判るように、本発明の要件を満たす遮断層の設置により反射が低減されることで光透過率が大幅に向上しており、さらに遮断層として、一般的にEL素子の蛍光体層に使用されるシアノエチルセルロース系樹脂(シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール)よりも屈折率の高いビスフェノールAとテレフタル酸及びイソフタル酸からなるポリエステルを使用した場合に、より高い光透過率が得られることがわかった。
【0063】
(実施例2)
<EL素子A>
厚み100μmのアルミニウム電極(背面電極)上に、以下に示す各層を第1層、第2層、第3層の順序で、それぞれの層形成用塗布液を塗布して形成し、更に上記透明導電性フイルムAを接着層側が背面電極側を向くように、接着層側と第3層である蛍光体層が隣接するようにして190℃のヒートローラーで窒素雰囲気下で圧着した。
【0064】
以下に示す各層の添加物量は、EL素子1平方メートルあたりの質量を表す。
各層は、ジメチルホルムアミドを加えて粘度を調節した塗布液とした上で塗布して作製し、その後110℃で10時間乾燥させた。
【0065】
第1層:絶縁層(赤色発光材料含有せず)
シアノエチルプルラン 7.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 5.0g
チタン酸バリウム粒子(平均球相当直径0.05μm) 50.0g
第2層:絶縁層(赤色発光材料含有)
シアノエチルプルラン 7.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 5.0g
チタン酸バリウム粒子(平均球相当直径0.05μm) 50.0g
蛍光染料(620nmに発光ピークを有する) 3.0g
第3層:蛍光体層
シアノエチルプルラン 18.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 12.0g
蛍光体粒子 120.0g
【0066】
蛍光体粒子の製法、特性については以下に示す。
ZnS(フルウチ化学製・純度99.999%)150gに水を加えてスラリーとし、0.416gのCuSO4・5H2Oを含む水溶液を加え、さらに亜鉛に対して0.0001モル%の塩化金酸ナトリウムを添加し、一部にCuを置換したZnS生粉(平均粒径100nm)を得た。得られた生粉25.0gに、BaCl2・2H2O:4.2g、MgCl2・6H2O:11.2g、SrCl2・6H2O:9.0gを加え、1200℃で4時間焼成を行い、蛍光体中間体を得た。上記の粒子をイオン交換水で10回水洗し、乾燥した。得られた中間体をボールミルにて粉砕し、その後700℃で4時間でアニールした。
得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行い、蛍光体粒子Aを得た。得られた蛍光体粒子Aは平均粒子サイズ17μm、変動係数33%であった。
【0067】
このようにして得られた塗布物に前述したように透明導電性フイルムA(透明電極)を圧着し、背面電極、透明電極それぞれに電極端子(厚み60μmのアルミニウム板)を配線してから、封止フイルム(ポリ塩化三フッ化エチレン:厚み200μm)にて密封し、EL素子Aとした。
【0068】
(EL素子B〜G)
透明導電性フイルムAの替わりに透明導電性フイルムB〜Gをそれぞれ使用した以外、EL素子Aと同様に行い、EL素子B〜Gを得た。
【0069】
以上のようにして得られたEL素子に、周波数1000Hzの交流電源を用いて150Vの電圧を印加した場合の、EL素子Gの輝度を100とした場合の相対輝度を表2に示す。また、同じ交流電源を用いて、初期輝度600cd/m2を示すよう電圧を調整し、該条件で連続点灯後、輝度が300cd/m2に低下するまでの時間(輝度半減時間)を調べた。結果を併せて表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
表2において、EL素子A、B及びGを比較すると、高屈折率な遮断層を有するAがBやGに比べて、蛍光体層と透明薄膜層との間の反射が低減されているため初期輝度が高く、さらに蛍光体層中の蛍光体粒子と透明薄膜層との接触を遮断するため耐久性も良好な結果が得られていることがわかる。またEL素子A、C、D、Eを比較すると、遮断層の厚みが薄すぎると(EL素子D)と遮断効果が少なくなるため耐久性向上効果が少なく、厚すぎると(EL素子E)、発光層に有効な電界がかからなくなり初期輝度が低くなってしまう。
【0072】
EL素子において本発明の透明導電性フイルムを用いた場合、反射低減効果だけでなく、遮断効果や電界効果など複数の効果が現れることから、本発明における遮断層の厚みとして好ましい範囲は0.01〜1.5μmである。
【0073】
これらの結果より、本発明のような遮断層を設けることで、高い光透過率を有する透明導電性フイルムが得られるだけでなく、該フイルムをEL素子に用いた場合、初期輝度が高く、さらには耐久性の良好な高性能なEL素子を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な高分子フイルムの一方の面に、導電性を有する透明薄膜層、および該薄膜上に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びUV硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含有する遮断層を有する透明導電性フイルムであって、
前記導電性を有する透明薄膜層の表面抵抗率が0.1Ω/□以上100Ω/□以下であり、且つ前記遮断層を構成する材料の屈折率が1.6以上1.9未満であることを特徴とする透明導電性フイルム。
【請求項2】
前記遮断層の厚みが0.01μm以上1.5μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フイルム。
【請求項3】
前記導電性を有する透明薄膜層の表面抵抗率が1Ω/□以上85Ω/□以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電性フイルム。
【請求項4】
透明導電性フイルムと背面電極との間に、少なくとも蛍光体層を挟持してなる分散型エレクトロルミネッセンス素子であって、該透明導電性フイルムが、請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電性フイルムであることを特徴とする分散型エレクトロルミネッセンス素子。

【公開番号】特開2007−12466(P2007−12466A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192448(P2005−192448)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】