説明

透明導電性体およびその製造方法

【課題】平滑性が高く高導電性でかつ透過性にすぐれた透明導電性体、および、その簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を有し、導電層の表面粗さRaが5.0nm以下であることを特徴とする透明導電性体。また、透明導電性体を製造する方法であって、カーボンナノチューブ分散液を、分散溶媒の沸点以上に加熱した透明基材上に塗布する透明導電性体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性体およびその製造方法に関する。より詳細には、平滑性が高く高導電性で、かつ透過性に優れる透明導電性体およびその簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、中でも特に2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブは、自体が優れた真性の導電性を有し、導電性材料として使用されることが期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブを用いた透明導電性体は公知である。カーボンナノチューブの特性を損なうことなく、耐久性が高く高導電性で透過性にすぐれた透明導電性体、その製造方法が報告されている。(例えば特許文献1参照)
【0004】
また、少数ではあるがカーボンナノチューブ導電性フィルムの平滑性向上に関する発明もされており、表面粗さRa=5.0nmという平滑性に優れたカーボンナノチューブ導電フィルムが開示されている。(例えば特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−163959号公報
【特許文献2】特開2009−252493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、得られる透明導電性体の平滑性については特に考慮されていない。
【0007】
また、特許文献2について、予め離型性支持体に前記補助電極、導電性繊維を含有する透明導電層をこの順番に積層した後、該補助電極と透明導電層とを透明支持体に転写するという、非常に工程数の多い製造法であるため、生産性高く製造することは困難と考えられる。
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、平滑性にすぐれた透明導電性体とそれを生産性高く製造することが出来る製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する過程において、カーボンナノチューブ分散液を、分散溶媒の沸点以上に加熱した透明基材上に塗布することが重要であることを見出し、本発明に到ったものである。
【0010】
すなわち本発明は、下記の構成からなる。
【0011】
(I)少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を有し、導電層の表面粗さRaが5.0nm以下であることを特徴とする透明導電性体。
【0012】
(II)前記(I)の透明導電性体を製造する方法であって、カーボンナノチューブ分散液を、分散溶媒の沸点以上に加熱した透明基材上に塗布して乾燥せしめる透明導電性体の製造方法。
【0013】
(III)分散溶媒が水であり、塗布時の透明基材の温度が100℃〜150℃であり、塗布後の乾燥時間が1秒〜60秒である前記(II)に記載の透明導電性体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カーボンナノチューブからなる導電層を有し、表面粗さRaが5.0nm以下であることを特徴とする透明導電性体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における透明導電性体の製造方法を模式的に表した図である。
【図2】本発明の透明導電性体の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【図3】本発明の透明導電性体の原子間力顕微鏡(AFM)像から得られた表面粗さRaのヒストグラムである。
【図4】従来の透明導電性体と本発明の透明導電性体の物性データを、表面抵抗と透過率を軸としてプロットしたグラフである。
【図5】従来塗布法による透明導電性体の原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【図6】従来の透明導電性体の原子間力顕微鏡(AFM)像から得られた表面粗さRaのヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
本発明の透明導電性体は、透明基材と該透明基材の少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層とを有し、導電層の表面粗さRaが5.0nm以下であることを特徴とする透明導電性体である。
【0018】
表面粗さRaは、表面凹凸の中心線(平均値)からの距離(絶対値)の算術平均であり、原子間力顕微鏡(以降、AFMと記す:Shimadzu,SPM9600など)によりカーボンナノチューブからなる導電層の表面測定後、装置付属のソフトにより粗さ分析を行うことで取得可能である。
【0019】
本発明において、使用するカーボンナノチューブの種類は特に限定されない。ただ、上記記述の平滑性、また優れた透明導電性を発揮させるには、カーボンナノチューブを分散溶媒中に均一に高分散させ、基材に塗布することが好ましい。また、透明導電性に優れた透明導電性体を得るには、結晶化度の高い高品質のカーボンナノチューブを用いることが好ましい。かかる点から、5層以下のカーボンナノチューブが好ましく、特に2層カーボンナノチューブがカーボンナノチューブ100本中50本以上であると、導電性ならびに分散性が極めて高く好ましい。
【0020】
カーボンナノチューブは、例えば以下のように製造される。マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと前記触媒とを500〜1200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを酸化処理することにより得られる。すなわち上記カーボンナノチューブの合成法により、単層〜5層のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブを得ることができる。カーボンナノチューブは、製造した後、酸化処理を施すことにより単層〜5層の割合を、特に2層〜5層の割合を増加させることができる。酸化処理は例えば、焼成処理する方法により行われる。焼成処理の温度は本発明のカーボンナノチューブが得られる限り、特に限定されないが、通常、300〜1000℃の範囲で選択される。酸化温度は雰囲気ガスに影響されるため、酸素濃度が高い場合には比較的低温で、酸素濃度が低い場合には比較的高温で焼成処理することが好ましい。カーボンナノチューブの焼成処理としては、例えば大気下、カーボンナノチューブの燃焼ピーク温度±50℃の範囲内で焼成処理をする方法が挙げられるが、酸素濃度が大気よりも高い場合はこれよりも低目の温度範囲、低い場合には高めの温度範囲が選択されるのが通常である。
【0021】
本発明において用いる透明基材は、少なくとも波長550nmの光を50%以上透過させる性能を有するものであることが好ましい。本発明に用いられる透明基材としては、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。厚み250μm以下で巻き取り可能なフィルムであっても、厚み250μmを超える基板であってもよい。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを挙げることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。また、これらの複数の透明基材を組み合わせて用いることもできる。例えば、樹脂とガラスとを組み合わせた透明基材、2種以上の樹脂を積層した透明基材などの複合透明基材であってもよいし、樹脂フィルムにハードコートを設けたようなものであっても良い。透明基材の種類は上述に限定されることはなく、用途に応じて透明性や耐久性やコスト等から最適なものを選ぶことができる。
【0022】
カーボンナノチューブを用いて透明導電性体を作成する場合、通常、図1に示すように、ワイヤーバー4を用いてカーボンナノチューブ分散液2を加熱手段3上の透明基材1に塗布し、その後分散溶媒を乾燥させてカーボンナノチューブ層を透明基材1上に固定化して作成される。ワイヤーバーとは、例えば、直径約5.5mm, 長さ約400mmステンレス棒に、種々の太さのステンレス製ワイヤーを隙間無く巻き付けたもの(ワイヤーの直径の単位をミル単位で表した数値の番号が、No.3,5,8の様な番手である)であり、巻き付けたワイヤーの直径により、ワイヤー間の隙間が異なるので、塗布量の調整が可能である。このようなワイヤーバーを用いれば、極めて簡単にコーティング厚を調整することができる。
【0023】
本発明の製造方法では、カーボンナノチューブ分散液2を、予め分散溶媒の沸点以上に加熱した透明基材1上に塗布を行う。このようにすることで、分散溶媒の蒸発に伴うカーボンナノチューブの再凝集を防ぐことができる。よって、カーボンナノチューブの再凝集による凝集体の直径増加による平滑性の悪化が抑制され、表面粗さの小さい均一な表面を有するフィルムを作製することができる。
【0024】
本発明において、カーボンナノチューブの分散液2を塗布する方法は特に限定されない。公知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スロットダイコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、数回に分けて行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。
【0025】
本発明において、透明基材1を加熱する加熱手段3は、特に限定されない。例えば、ホットプレート、熱風オーブン、無風オーブン、加熱ロールなどである。
【0026】
本発明において、カーボンナノチューブ分散液2を得るのに使用する分散剤や分散溶媒は特に限定されないが、上記記述の平滑性、また優れた透明導電性を発揮させるには、水を分散溶媒として使用しカーボンナノチューブを均一に高分散させ、透明基材1に塗布することが好ましい。例えば分散溶媒として水を用いた場合、使用する分散剤としては特に親水基であるカルボン酸基、スルホン酸基、水酸基が含まれたポリマーを使用することが好ましい。かかる親水基が含まれたポリマーの骨格としては、例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ビニル樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、ポリアニリン等の導電性ポリマー、スチレンスルホン酸又はその塩、α−メチルスチレンスルホン酸又はその塩等が挙げられ、これらは単独または併用することができる。また、上記塩を構成する物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、アンモニア、あるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチルアミン、ブチルアミン、ヤシ油アミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン等の有機アミン、または、これらのポリエチレンオキシドを用いることができるが、これらに限定されるものではない。中でも特に好適なものは、ポリスチレンスルホン酸のアンモニウム塩とポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩であり、中でもポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩がカーボンナノチューブの導電性を低下させることなく、導電特性を効率的に発揮することができ好ましい。
【0027】
上記スルホン酸基含有芳香族ポリマーは、例えば、スチレンスルホン酸又はその塩、または、α−メチルスチレンスルホン酸又はその塩と、他のモノマー単位とを共重合させることにより製造することができる。上記他のモノマー単位としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等の芳香族炭化水素モノマー、ビニルトルエンスルホン酸又はその塩、ビニルナフタレンスルホン酸又はその塩等の芳香族スルホン酸モノマー、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、シクロペンタジエン等の共役ジエン類、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、シクロペンタジエン等の共役ジエンのスルホン化物またはその塩、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はこれらの酸の一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、およびこれらの酸とアルコール、ポリエチレングリコール、イセチオン酸等の水酸基含有化合物とのエステル類が挙げられる。これらの他のモノマーは、1種単独あるいは2種以上を併用することができる。
【0028】
一方、上記スルホン酸基、水酸基を含まない分散剤ポリマーとして、キシラン、ヒドロキシプロピルセルロースがあげられる。
【0029】
溶媒として水を用いた場合は、透明基材1の温度は水の沸点である100℃から150℃とし、塗布後の加熱時間は1秒から60秒とすることが望ましい。この加熱温度範囲が望ましい理由として、水の蒸発温度以上である点、また150℃以上の加熱によりカーボンナノチューブの導電性が低下する点、の2点が挙げられる。また、この加熱時間範囲が望ましい理由として、最低1秒は乾燥に必要である点、また60秒以上の加熱によりカーボンナノチューブの導電性が低下する点、の2点があげられる。
【0030】
本発明においては、分散溶媒として非水系溶媒も適用することができる。かかる非水系溶媒の例としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを挙げることができる。
【0031】
カーボンナノチューブと分散剤とを水系溶媒中で塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合し、組成物を製造することができる。中でも、超音波を用いて分散することが、得られる分散液2のカーボンナノチューブの分散性が向上することから好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブ分散液2の塗布厚み(ウェット厚)は塗布液の濃度にも依存するため、望む光線透過率、表面抵抗値が得られれば特に規定する必要はない。本発明におけるカーボンナノチューブの塗布量は、透明導電性を必要とする種々の用途に適用するために、カーボンナノチューブ分散液2の塗布厚みや塗布回数により適宜調整することが可能である。
【0033】
例えば、カーボンナノチューブからなる導電層の厚みを厚くすることにより表面抵抗は低く、カーボンナノチューブからなる導電層の厚みを薄くすることにより高く、なる傾向があるので、かかる方法により、表面抵抗値を調整することができる。カーボンナノチューブの塗布量が1mg/m〜40mg/mであれば透明導電性体の550nmの光線透過率/透明基材1の550nmの光線透過率を50%以上とすることができるためこの範囲で調整することが好ましい。さらに、カーボンナノチューブの塗布量を30mg/m以下とすれば透明導電性体の550nmの光線透過率/透明基材1の550nmの光線透過率を60%以上とすることができるため、より好ましい。さらに、カーボンナノチューブの塗布量を20mg/m以下とすれば透明導電性体の550nmの光線透過率/透明基材1の550nmの光線透過率を70%以上、カーボンナノチューブの塗布量を10mg/m以下とすれば透明導電性体の550nmの光線透過率/透明基材1の550nmの光線透過率を80%以上とすることできるのでさらに好ましい。透明基材1の550nmの光線透過率とは、透明基材1に表面樹脂層がある場合は、表面樹脂層も含めた光線透過率をいう。
【0034】
また、カーボンナノチューブの塗布量により透明導電性体の表面抵抗値も容易に調整可能であり、カーボンナノチューブの塗布量が1mg/m〜40mg/mであれば透明導電性体の表面抵抗値は100〜104Ω/□とすることができ、好ましい。さらに、芳香族ポリマーや各種添加剤の含有量にもよるが、カーボンナノチューブの塗布量を40mg/m以下とすれば透明導電性体の表面抵抗値を101Ω/□以下とすることができる。
【0035】
カーボンナノチューブの塗布量を30mg/m以下とすれば透明導電性体の表面抵抗値を102Ω/□以下とすることができる。さらに、カーボンナノチューブの塗布量が20mg/m以下であれば、103Ω/□以下、カーボンナノチューブの塗布量を10mg/m以下であれば104Ω/□以下とすることができる。
【0036】
カーボンナノチューブ分散液2を、透明基材1上に塗布する時、カーボンナノチューブ分散液2中に濡れ剤を添加しても良い。非親水性の透明基材1へは特に界面活性剤やアルコール等の濡れ剤をカーボンナノチューブ分散液2中に添加することで、透明基材1上にカーボンナノチューブ分散液2がはじかれることなく塗布することができる。かかる目的に使用される濡れ剤としてはアルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコールが好ましい。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために塗布後の乾燥時に容易に除去可能なためである。分散溶媒として非水溶媒を用いる場合にはアルコールと水との混合液を用いることも好ましい。
【0037】
本発明の透明導電性体は、主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の透明電極として用いられる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。本実施例で用いた測定法を以下に示す。
【0039】
(1)表面粗さRa
表面粗さRaについては、AFM(Shimadzu,SPM9600)によりカーボンナノチューブからなる導電層の表面測定後、付属のソフトウェアにより粗さ解析を行った。
【0040】
AFMカンチレバーは、ノンコンタクト・モード高共振周波数タイプのプローブ(ナノセンサーズ(NANOSENSORS)社の型番PPP-NCHR)を用いた。15μm×15μmの視野で表面観察後、透明基材のPET層に含まれるシリカ粒子を含まない1μm×1μmの領域(図2、5中の領域A)25点についてRaを算出し、これらの平均値を算出した。
【0041】
(2)表面抵抗値
5cm×10cmにサンプリングした透明導電性体のカーボンナノチューブからなる導電層の中央部を4端子法で測定した。用いた測定器はダイアインスツルメンツ(株)製の抵抗率計MCP−T360型、4探針プローブはダイアインスツルメンツ(株)製MCP−TPO3Pを用いた。
【0042】
(3)550nm透過率
JIS−K7361(1997年)に基づき、光線透過率は、サンプル(透明基材、透明導電性体)を分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、波長550nmでの光線透過率を測定して得た。
【0043】
(実施例1)
以下に、カーボンナノチューブ透明導電性体の作成方法および評価結果を示す。
【0044】
[触媒調製1]
約24.6gのクエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業社製)をイオン交換水6.2kgに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷社製MJ−30)を約1000g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理した後に、懸濁液を10 Lのオートクレーブ容器中に導入した。この時、洗い込み液としてイオン交換水0.5kgを使用した。密閉した状態で160℃に加熱し6時間保持した。その後オートクレーブ容器を放冷し、容器からスラリー状の白濁物質を取り出し、過剰の水分を吸引濾過により濾別し、濾取物中に少量含まれる水分は120℃の乾燥機中で加熱乾燥した。得られた固形分を固形分/イオン交換水比が1/1となるようにイオン交換水を加え、混練り機で10分混ぜた後、押し出し機にて内径0.8mmの孔から押し出した。押し出し後、乾燥しながら粉砕し、20〜32メッシュ(0.5〜0.85mm)の篩にて整粒した。左記の顆粒状の触媒体を電気炉中に導入し、大気下600℃で3時間加熱した。また、濾液をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析したところ鉄は検出されなかった。このことから、添加したクエン酸鉄(III)アンモニウムは全量酸化マグネシウムに担持されたことが確認できた。さらに触媒体のEDX分析結果から、触媒体に含まれる鉄含有量は0.38wt%であった。
【0045】
[触媒調製2]
クエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業社製)2.46gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷化学工業社製 MJ−30)を100.0g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理し、懸濁液を減圧下、40℃で濃縮堅固した。得られた粉末を120℃で加熱乾燥してメタノールを除去し、酸化マグネシウム粉末に金属塩が担持された触媒体を得た。得られた固形分は篩い上で、乳鉢で細粒化しながら、32メッシュ(0.5mm)以下の粒径になるまで乳鉢で細粒化した。得られた細粒は、60メッシュ(0.25mm)パスの細粒が30wt%程度含まれるものであった。得られた触媒体に含まれる鉄含有量は0.37wt%であった。前記の操作を繰り返し、以下の実験に供した。
【0046】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造:工程1]
触媒調整例1で調製した固体触媒体132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けてマスフローコントローラーを用いて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにマスフローコントローラーを用いてメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。この際の固体触媒体の重量をメタンの流量で割った接触時間(W/F)は、169min・g/L、メタンを含むガスの線速が6.55cm/secであった。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却した。
【0047】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒体とカーボンナノチューブとを含有するカーボンナノチューブ含有組成物を取り出した。
【0048】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造:工程2]
カーボンナノチューブ含有組成物製造:工程1で得られた触媒体とカーボンナノチューブとを含有するカーボンナノチューブ含有組成物を、4.8Nの塩酸水溶液中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体である酸化マグネシウムとを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液に投入、脱酸化マグネシウム処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返した。その後、イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ含有組成物を保存した。
【0049】
得られたウェット状態のカーボンナノチューブ含有組成物の乾燥重量分に対して、約300倍の重量の濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加した。その後、約140℃のオイルバスで25時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。
【0050】
[カーボンナノチューブ分散液製造]
20mLの容器にカーボンナノチューブ含有組成物製造:工程2で得られた含水ウェット状態のカーボンナノチューブ組成物を乾燥時換算で15mg、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマ社製90kDa,50〜200cps)水溶液4.5gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。硝酸を用いてpHを4.0に合わせ超音波ホモジナイザー出力20W、7.5分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この上清液にイオン交換水とエタノールを添加し、カーボンナノチューブが0.08wt%、エタノールが4wt%となるように濃度を調整した。
【0051】
[透明導電性体の製造]
透明基材としてコロナ処理済みPETフィルム(東レ(株)製 ルミラー U46)を用い、上述のようにして得たカーボンナノチューブ分散液を、ホットプレート上で120℃、60秒加熱したコロナ処理済みPETフィルム(東レ(株)製 ルミラー U46)上に、No.3,5,8のワイヤーバーを用いて塗布して、ホットプレート上にて120℃、10秒間乾燥させカーボンナノチューブからなる導電層を固定化した。
【0052】
この透明導電性体をイオン交換水にて30秒間リンスし、分散剤を除去した。リンス後、透明導電性体に付着した水滴をエアダスターで除去、その後常温で乾燥させた。
透明導電性体作成後、AFM(Shimadzu,SPM9600)により表面を観察した。(図2)
【0053】
表面粗さRaについては、PET層に含まれるシリカ粒子を含まない領域(図2の領域A)にて測定し、平均値を算出したところ、Ra=4.20nmと算出された。ヒストグラムを図3に示す。
【0054】
(実施例2)
ホットプレート上で150℃、60秒加熱したコロナ処理済みPETフィルム上に、No.3のワイヤーバーを用いて塗布し、ホットプレート上にて150℃、1秒間乾燥させカーボンナノチューブからなる導電層を固定化した以外は、実施例1と同じ材料、方法により透明導電性体を製造し、同様に測定を実施した。表面粗さは、Ra=3.85nm、表面抵抗は、179.3Ω/□、透過率は、85.5%であった。
【0055】
表面抵抗値と透過率とについて測定した結果を表1、図4に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
(比較例1)
上記実施例1で用いたものと同じカーボンナノチューブ分散液をコロナ処理済みPETフィルム(東レ(株)製ルミラーU46)上にNo.3,5,8のワイヤーバーを用いて、25℃で塗布した後、125℃の乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブからなる導電層を固定化した。
【0058】
このようにして得た透明導電性体をイオン交換水にて30秒間リンスし、分散剤を除去した。リンス後、透明導電性体に付着した水滴をエアダスターで除去、その後常温で乾燥させた。
【0059】
実施例1と同様にして表面を観察した。(図5)
【0060】
表面粗さRaについて実施例1と同様にして得たヒストグラムを図6に示す。
【0061】
表面抵抗値と透過率とについて実施例1と同様にして測定した結果を表1、図4に示す。
【0062】
以上、発明の実施例について述べてきたが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る透明導電性体およびその製造方法は、高い平滑性および導電性が要求される導電性材料等として利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 基材
2 分散液
3 加熱手段
4 ワイヤーバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を有し、導電層の表面粗さRaが5.0nm以下であることを特徴とする透明導電性体。
【請求項2】
請求項1の透明導電性体を製造する方法であって、カーボンナノチューブ分散液を、分散溶媒の沸点以上に加熱した透明基材上に塗布して乾燥せしめることを特徴とする透明導電性体の製造方法。
【請求項3】
分散溶媒が水であり、塗布時の透明基材の温度が100℃〜150℃であり、塗布後の乾燥時間が1秒〜60秒である、請求項2に記載の透明導電性体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−22873(P2012−22873A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159474(P2010−159474)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】