説明

透明導電膜の製造方法、透明導電膜および塗布液

【課題】低抵抗かつ高透過率の透明導電膜を低コストで製造できる方法の提供。
【解決手段】塗布液を基材上に塗布し、乾燥させた後加熱処理する工程を有する透明導電膜の製造方法であって、塗布液が、(a)比誘電率が3〜15であり、かつ気圧0.1MPaの状態での沸点が40〜120℃である、水と混和しない含フッ素有機溶剤A、(b)表面張力が25mN/m以上であり、気圧0.1MPaの状態での沸点が50〜250℃の範囲でかつ含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高い、水と混和しない有機溶剤B、(c)水、(d)メディアン径が5μm以下である導電性粒子及び(e)増粘剤及び/又は界面活性剤を含有しており、(a)含フッ素有機溶剤Aの含有量が20〜90質量%、(b)有機溶剤Bの含有量が3〜60質量%、(c)水の含有量が5〜50質量%、(d)導電性粒子の含有量が1〜12質量%であるW/O型エマルジョンからなる透明導電膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜の製造方法、該方法によって得られる透明導電膜および該方法に用いられる塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は帯電防止膜、透光性電磁波遮蔽膜、ディスプレイやタッチパネル用の透明電極など幅広い分野において使用されており、用途に応じて様々な特性が求められている。
【0003】
例えば透光性電磁波遮蔽膜として用いられる透明導電膜を形成する方法として、格子状の金属配線を形成する方法があるが、この方法はフォトリソグラフィープロセスやめっきプロセスを必要とするため煩雑であり、高コストである。
【0004】
また、透明電極として用いられる透明導電膜は、一般に錫を添加した酸化インジウムの薄膜(ITO膜)からなっているが、原料の資源枯渇が問題となっており代替材料が求められている。また、ITO膜は成膜に時間がかかる上に高価な設備を必要とするなど様々な問題がある。
【0005】
これまでに透明導電膜を簡便に形成する様々な方法が提案されている。下記特許文献1では、銀化合物を含む溶液を基材上に噴霧して網目状構造を形成した後に還元処理する方法が示されている。下記特許文献2では、金属のナノ粉末を含む乳濁液を塗布して網目状構造を形成するプロセスが示されている。
【特許文献1】特開平10−312715号公報
【特許文献2】特表2005−530005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の方法では、簡便な塗布方法によって透明導電膜を形成できるものの、網目状構造の制御が困難であり、低抵抗かつ高透過率な透明導電膜を得ることが難しい。
【0007】
また、上記特許文献2の方法では、低抵抗かつ高透過率の透明導電膜を得るためにはd90径が0.1μm以下の銀粒子を必要とするため高コストになってしまう。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、低抵抗かつ高透過率の透明導電膜を低コストで製造できる方法、該方法によって得られる透明導電膜および該方法に用いられる塗布液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は塗布液を基材上に塗布し、乾燥させた後、加熱処理する工程を有する透明導電膜の製造方法であって、前記塗布液が、(a)比誘電率が3〜15であり、かつ気圧0.1MPaの状態での沸点が40〜120℃である、水と混和しない含フッ素有機溶剤A、(b)表面張力が25mN/m以上であり、気圧0.1MPaの状態での沸点が50〜250℃の範囲でかつ含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高い、水と混和しない有機溶剤B、(c)水、(d)メディアン径が5μm以下である導電性粒子および(e)増粘剤および/または界面活性剤を含有しており、前記(a)含フッ素有機溶剤Aの含有量が20〜90質量%、(b)有機溶剤Bの含有量が3〜60質量%、(c)水の含有量が5〜50質量%、(d)導電性粒子の含有量が1〜12質量%であるW/O型エマルジョンからなることを特徴とする透明導電膜の製造方法を提供する。
【0010】
また本発明は、本発明の製造方法によって得られる透明導電膜を提供する。
【0011】
また本発明は、塗布液を基材上に塗布し、乾燥させた後、加熱処理する工程を有する透明導電膜の製造方法に用いられる塗布液であって、(a)比誘電率が3〜15であり、かつ、気圧0.1MPaの状態での沸点が40〜120℃である、水と混和しない含フッ素有機溶剤A、(b)表面張力が25mN/m以上であり、気圧0.1MPaの状態での沸点が50〜250℃の範囲で、かつ、含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高い、水と混和しない有機溶剤B、(c)水、(d)メディアン径が5μm以下である導電性粒子および(e)増粘剤および/または界面活性剤を含有しており、前記(a)含フッ素有機溶剤Aの含有量が20〜90質量%、(b)有機溶剤Bの含有量が3〜60質量%、(c)水の含有量が5〜50質量%、(d)導電性粒子の含有量が1〜12質量%であるW/O型エマルジョンからなる塗布液を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低抵抗かつ高透過率の透明導電膜を低コストで製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、塗布液を基材上に塗布し、乾燥させた後、加熱処理することにより、透明導電膜を製造する。本発明における塗布液は、(a)比誘電率が3〜15であり、かつ気圧0.1MPaの状態での沸点が40〜120℃である、水と混和しない含フッ素有機溶剤A、(b)表面張力が25mN/m以上であり、気圧0.1MPaの状態での沸点が50〜250℃の範囲でかつ含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高い、水と混和しない有機溶剤B、(c)水、(d)メディアン径が5μm以下である導電性粒子および(e)増粘剤および/または界面活性剤を含有しており、前記(a)含フッ素有機溶剤Aの含有量が20〜90質量%、(b)有機溶剤Bの含有量が3〜60質量%、(c)水の含有量が5〜50質量%、(d)導電性粒子の含有量が1〜12質量%であるW/O型エマルジョンからなる。これにより、本発明の塗布液は、含フッ素有機溶剤Aと有機溶剤Bを含有する有機溶剤相中に水滴が分散したW/O型(油中水滴型)エマルジョンとして得ることができ、導電性粒子は有機溶剤相中に分散される。この塗布液が基材上に塗布された後に乾燥される過程で、多数の水滴が有機溶剤相を介して互いに隣接している状態が形成され、この状態において導電性粒子は該水滴どうしの界面に沿って配列される。そして、この状態で乾燥されることにより導電性粒子による網目状構造が形成され、しかる後に加熱処理を施して導電性粒子を焼結させることにより透明導電膜が得られる。
[(a)含フッ素有機溶剤A]
本発明で用いられる含フッ素有機溶剤Aは、比誘電率が3〜15であり、沸点が40〜120℃であり、水と混和しない。
【0014】
本発明において、溶剤の極性の指標として比誘電率を用いる。該比誘電率は静電容量法により測定して求める。測定は温度25℃、周波数10kHzの条件で行う。比誘電率の値が高いほど溶剤の極性は高い。
【0015】
本発明において、溶剤の沸点は気圧0.1MPaの状態での値とする。溶剤の沸点の値が低いほど、蒸発速度は速い。
【0016】
本発明において、含フッ素有機溶剤Aが「水と混和しない」とは、温度25℃の含フッ素有機溶剤Aの100gに溶解する水の量が0.3g以下であることを意味する。
【0017】
本発明では、含フッ素有機溶剤Aを塗布液に含有させる。これにより、塗布液中において、導電性粒子の分散性(均一性)が良くなり、塗布液を基材上に塗布して、網目状構造を形成した際、導電性粒子の配列状態が良好となり、低抵抗の透明導電膜が得られる。
【0018】
含フッ素有機溶剤Aが導電性粒子の分散性に優れている理由としては、含フッ素有機溶剤Aの比誘電率が特定の範囲であり適度な極性を有すること、および含フッ素化合物からなるため表面張力が低くて導電性粒子表面となじみやすいことが挙げられる。また、含フッ素有機溶剤Aには水がほとんど溶解しないため、水と混合してW/O型エマルジョンとした場合でも導電性粒子の分散性が低下しない。
【0019】
さらに、塗布液に表面張力が比較的低い含フッ素有機溶剤Aを含有させることにより、塗布液の良好な塗布性が得られる。
【0020】
含フッ素有機溶剤Aの極性が、比誘電率が3以上であると、導電性粒子の良好な分散性が得られる。一方、該比誘電率が15以下であると、含フッ素有機溶剤Aに水が溶解し難く、安定性が良好なW/O型エマルジョン状態が得られる。含フッ素有機溶剤Aの比誘電率のより好ましい範囲は3〜10である。
【0021】
塗布液に含まれている溶剤の蒸発速度が速すぎると塗布液の取り扱い性が悪く、遅すぎると塗布液を乾燥させる際に溶剤の蒸発に時間がかかり非効率的である。
【0022】
含フッ素有機溶剤Aの沸点が40〜120℃であると適度な蒸発速度が得られるため、塗布液の取り扱い性が良く、乾燥工程を効率的に行える。含フッ素有機溶剤Aの沸点のより好ましい範囲は50〜90℃である。
【0023】
本発明において、含フッ素有機溶剤Aが2種以上の含フッ素有機溶剤の混合物である場合、「含フッ素有機溶剤Aの沸点が上記の範囲内である」ということは、該混合物に含まれる各含フッ素有機溶剤の沸点の全てが(共沸混合物の場合は共沸点が)、上記の範囲内であることを意味する。
【0024】
温度25℃の状態で含フッ素有機溶剤Aの100gに溶解する水の量が0.3g以下となる程度に、含フッ素有機溶剤Aと水との混和性が低いと、W/O型(油中水滴型)エマルジョンの安定性が良く、良好な網目状構造が得られる。より良好な状態の網目状構造を得るためには、該含フッ素有機溶剤A100gに溶解する水の量が0.15g以下であることがより好ましい。該含フッ素有機溶剤A100gに溶解する水の量は、0gでもよい。
【0025】
含フッ素有機溶剤Aの好ましい例としては、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(略称:HCFC−225ca)、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(略称:HCFC−225cb)等のハイドロクロロフルオロカーボン類;1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(略称:HFC−43−10mee)、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(略称:HFC−569sf)等のハイドロフルオロカーボン類;1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(略称:HFE−347pc−f)、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロ−4−メトキシブタン(略称:HFE−449s)、2−(ジフルオロメトキシメチル)−1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(略称:HFE−449mmyc)、1−エトキシ−1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロブタン(略称:HFE−569sf)、2−(エトキシジフルオロメチル)−1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(略称:HFE−569mmyc)等のハイドロフルオロエーテル類が挙げられる。ここに例示した含フッ素有機溶剤はいずれも、温度25℃の溶剤100gに溶解する水の量が0.3g以下である。
【0026】
上記に挙げた含フッ素有機溶剤のうちで、より好ましいのは3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(略称:HCFC−225ca)、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(略称:HCFC−225cb)である。
【0027】
含フッ素有機溶剤Aは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
塗布液中における含フッ素有機溶剤Aの含有量は20〜90質量%である。20質量%以上であると導電性粒子の良好な分散性が得られ、90質量%以下であると塗布液の安定性が良好となる。より好ましい含有量の範囲は30〜85質量%である。
[(b)有機溶剤B]
本発明で用いられる有機溶剤Bは、表面張力が25mN/m以上であり、沸点が50〜250℃の範囲であって含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高く、水と混和しない。
【0029】
本発明において、溶剤の表面張力の値は輪環法によって求める。測定は温度25℃で行う。
【0030】
本発明における有機溶剤Bは、表面張力が高くて水と混和しないため、これを前記含フッ素有機溶剤Aとともに塗布液に含有させることにより、基材上での有機溶剤相の濡れ広がりが適度に防止されるため、線幅が細い網目状構造が形成される。網目状構造の線幅が細いほど透明導電膜における透過率が高くなる。
【0031】
また有機溶剤Bは含フッ素有機溶剤Aよりも沸点が高いため、塗布液が乾燥される過程で有機溶剤Bよりも含フッ素有機溶剤Aの方が先に蒸発する。これにより、水滴どうしの間に存在する有機溶剤相の表面張力が効率よく上昇するため、有機溶剤Bの添加によって網目状構造の線幅が細くなる効果が良好に得られる。
【0032】
有機溶剤Bの表面張力が25mN/m以上であると、線幅が細い網目状構造が良好に得られる。有機溶剤Bの表面張力は26mN/m以上であることが好ましい。該表面張力の上限は、基材に対する塗布液の良好な塗布性が得られる範囲であればよい。具体的には50mN/m以下が好ましく、45mN/m以下がより好ましく、40mN/m以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明において、有機溶剤Bが2種以上の有機溶剤の混合物の場合、「有機溶剤Bの表面張力が上記の範囲内である」ということは、該混合物に含まれる各有機溶剤の表面張力の全てが、上記の範囲内であることを意味する。
【0034】
有機溶剤Bの沸点が50〜250℃であると適度な蒸発速度が得られるため、塗布液の取り扱い性が良く、乾燥工程を効率的に行える。有機溶剤Bの沸点のより好ましい範囲は50〜200℃であり、さらに好ましい範囲は60〜160℃である。沸点が160℃以上の有機溶剤を用いる場合、その使用量は、乾燥工程の効率の点から、有機溶剤B全体における割合が15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0035】
また有機溶剤Bの沸点と、塗布液中に共存している含フッ素有機溶剤Aの沸点との差は有機溶剤Aが含フッ素有機溶剤Bよりも先に蒸発することによる上記効果を良好に得るために、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。
【0036】
本発明において、有機溶剤Bが2種以上の有機溶剤の混合物の場合、「有機溶剤Bの沸点が上記の範囲内である」ということは、該混合物に含まれる各有機溶剤の沸点の全てが、上記の範囲内であることを意味する。また「有機溶剤Bの沸点が含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高い」とは、該混合物に含まれる各有機溶剤の沸点のうち最も低い温度が、含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高いことを意味する。また「有機溶剤Bの沸点と含フッ素有機溶剤Aの沸点との差」は該混合物に含まれる各有機溶剤の沸点のうち最も低い温度と、含フッ素有機溶剤Aの沸点との差を意味する。含フッ素有機溶剤Aが混合物である場合、ここでの含フッ素有機溶剤Aの沸点は、共沸混合物の場合は共沸点を指し、共沸しない混合物の場合は含フッ素有機溶剤Aに含まれる各含フッ素有機溶剤の沸点のうち最も高い温度を指す。
【0037】
有機溶剤Bとして、水酸基、エステル基、ケトン基、アミド基、アミノ基、およびカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種類の極性基を有する有機溶剤B1を用いると、塗布液を塗布した後、溶剤が蒸発する過程で水滴どうしが合一しやすくなり、より網目サイズの大きい網目状構造が得られる点で好ましい。
【0038】
かかる極性基を有する有機溶剤B1の好ましい例としては1−ブトキシ−2−プロパノール、シクロヘキサノン、酢酸−3−メトキシブチル、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。有機溶剤B1としては、1−ブトキシ−2−プロパノール、シクロヘキサノールが特に好ましい。
【0039】
有機溶剤B1は1種類を用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0040】
有機溶剤Bとして、上記群に含まれる極性基を持たない有機溶剤B2を用いることも好ましい。かかる有機溶剤B2の好ましい例としてはトルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、1,2−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンが挙げられる。上記に例示した有機溶剤B2はいずれも、表面張力が高く、沸点が適度に高く、水と混和しないため本発明に好適である。有機溶剤B2は、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが特に好ましい。
【0041】
有機溶剤B2は1種類を用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0042】
本発明における有機溶剤Bとして、極性基を有する有機溶剤B1だけを用いてもよく、極性基を持たない有機溶剤B2だけを用いてもよく、有機溶剤B1の1種以上と有機溶剤B2の1種以上を併用してもよい。有機溶剤B1と有機溶剤B2を併用することがより好ましい。
【0043】
本発明において、有機溶剤Bが「水と混和しない」とは、極性基を有する有機溶剤B1においては、温度25℃の有機溶剤B1の100gに溶解する水の量が15g以下であることを意味する。より良好な状態の網目状構造を得るためには12g以下がより好ましい。上記に有機溶剤B1の例として挙げた各溶剤はいずれも、温度25℃の溶剤100gに溶解する水の量が15g以下である。
【0044】
また極性基を持たない有機溶剤B2においては、温度25℃の有機溶剤B2の100gに溶解する水の量が0.5g以下であることを意味する。より良好な状態の網目状構造を得るためには0.3g以下がより好ましい。上記に有機溶剤B2の例として挙げた各溶剤はいずれも、温度25℃の溶剤100gに溶解する水の量が0.5g以下である。
【0045】
塗布液中における有機溶剤Bの含有量は3〜60質量%である。3質量%以上であると有機溶剤Bの添加効果が充分に得られる。60質量%以下であると、含フッ素有機溶剤Aとの比率のバランスが良好となり、塗布液における導電性粒子の分散性および塗布性が良好であるとともに、乾燥後には線幅が細い網目状構造が得られ、低抵抗かつ高透過率な透明導電膜を実現できる。
【0046】
有機溶剤Bとして極性基を有する有機溶剤B1を用いる場合、その使用量は、塗布液中における含有量が15質量%以下であることが好ましい。10質量%以下がより好ましく、6質量%以下がさらに好ましい。該有機溶剤B1の含有量が15質量%以下であると水滴が壊れ難く塗布液の安定性が良い。有機溶剤B1の添加効果を充分に得るには、有機溶剤B1を塗布液中0.3質量%以上配合させることが好ましい。
[(c)水]
塗布液中における水の含有量は5〜50質量%の範囲である。水の含有量が上記の範囲であると、網目状構造において導電性粒子が存在しない領域(水滴に相当する領域)が適度な面積割合で形成され、良好な透過率が得られる。水の含有量は10〜40質量%の範囲がより好ましい。
[(d)導電性粒子]
導電性粒子としては、メディアン径が5μm以下のものが用いられる。
【0047】
本発明における導電性粒子のメディアン径は、0.4μm以上の場合はレーザー回折散乱法により求め、0.4μm未満の場合は動的光散乱法により求める。レーザー回折散乱法で求めたメディアン径が0.4μm未満であり、かつ動的光散乱法で求めたメディアン径が0.4μm以上となった場合は、動的光散乱法で求められる値を用いる。
【0048】
導電性粒子のメディアン径が5μm以下であると、導電性粒子どうしの良好な接触状態が得られ、低抵抗な透明導電膜が得られる。2.5μm以下がより好ましく、1.5μm以下がさらに好ましい。
【0049】
該導電性粒子のメディアン径の下限値は特に制限されない。小さいほど取り扱い性が困難となりコストも高くなるため、0.005μm以上が好ましい。0.03μm以上がより好ましく、0.15μm以上がさらに好ましい。
【0050】
導電性粒子としては金属粒子が好ましく、特に、金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウムおよびルテニウムからなる群より選ばれる1種以上を含む金属粒子が好ましい。前記群より選ばれる1種のみからなる金属粒子でもよく、前記群より選ばれる1種以上を含む合金からなる金属粒子でもよい。前記群をなす金属はいずれも導電性が高いため、低抵抗な透明導電膜を得るうえで好ましい。
【0051】
金属粒子の形状は球状、粒状、針状、フレーク状など任意の形状のものを用いることができる。
【0052】
導電性粒子は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明において、導電性粒子は、W/O型エマルジョンからなる塗布液中で有機溶剤相中に分散される。そのために導電性粒子の表面は疎水性であることが好ましく、必要に応じて疎水化処理されていることが好ましい。
【0054】
例えば表面が親水性である金属粒子は、疎水化処理剤を用いて予め疎水化処理しておくことが好ましい。疎水化処理剤としては、炭素数が8〜24の脂肪酸または脂肪族アミンが好適である。具体例としてはステアリン酸、オレイン酸、オクチルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、オクタデシルアミンが挙げられる。疎水化処理剤を用いた表面処理方法としては、乾式混合法、湿式混合法、フラッシング法等の公知の手法を用いることができる。
【0055】
塗布液中における導電性粒子の含有量が1〜12質量%であると低抵抗かつ高透過率の透明導電膜が得られる。該導電性粒子の含有量は1.5〜10質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
[(e)増粘剤および/または界面活性剤]
本発明における塗布液には(e1)増粘剤と(e2)界面活性剤の一方または両方が添加されている。
(e1)増粘剤
(e1)増粘剤は増粘効果を有するものであり、これを塗布液に含有させることにより、W/O型エマルジョンの安定性が向上する。また塗布液に揺変性を付与して液だれを防止できるため、塗布液の塗布性を向上できる。(e1)増粘剤としては、変性尿素、変性ポリアクリルアミド、変性セルロース、水添ひまし油、脂肪酸アマイド、酸化ポリエチレン、12−ヒドロキシステアリン酸等が好適に用いられる。(e1)増粘剤は1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。増粘剤として、界面活性剤としての作用を有するものを用いてもよく、変性尿素または変性ポリアクリルアミドが特に好ましい。
(e2)界面活性剤
(e2)界面活性剤とは分子内に親水性基と疎水性基の両方を有する化合物であり、これを塗布液に含有させることにより、W/O型エマルジョンの安定性が向上する。
【0056】
本発明における(e2)界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、高分子界面活性剤のうちいずれを用いてもよい。界面活性剤として、増粘剤としての作用を有するものを用いてもよい。
【0057】
界面活性剤の具体例としてはラノリン、ロジン、コレステリン、レシチン、及びこれらの誘導体、重金属セッケン、ソルビタン脂肪酸エステル類が挙げられる。(e2)界面活性剤は1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
上記に挙げた界面活性剤のうち、HLB(親水親油バランス)値が3〜9の範囲であるソルビタン脂肪酸エステル類が特に好適である。ソルビタン脂肪酸エステル類のHLB値はグリフィン法から求められる値(HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量)とする。かかるソルビタン脂肪酸エステルの具体例としては、モノオレイン酸ソルビタンエステル、モノステアリン酸ソルビタンエステル、モノパルミチン酸ソルビタンエステル、モノラウリン酸ソルビタンエステルが挙げられる。
【0059】
塗布液中における(e1)増粘剤と(e2)界面活性剤の合計含有量は0.03〜2質量%の範囲が好ましい。0.03質量%以上添加することにより安定なエマルジョンが得られる。2質量%を超えると透明導電膜の導電性が阻害されるおそれがある。0.05〜1質量%の範囲がより好ましい。
【0060】
塗布液中における(e1)増粘剤の含有量は0〜2質量%の範囲が好ましく、0〜1質量%の範囲がより好ましい。(e1)増粘剤が0質量%の場合は、(e2)界面活性剤を必須成分として塗布液に含有させる。
【0061】
塗布液中における(e2)界面活性剤の含有量は0〜2質量%の範囲が好ましく、0〜1質量%の範囲がより好ましい。(e2)界面活性剤が0質量%の場合は、(e1)増粘剤を必須成分として塗布液に含有させる。
[その他の成分]
本発明における塗布液には、上記(a)〜(e)の各成分のほかに、水と混和する有機溶剤(以下、水混和性有機溶剤という)が含有されていてもよい。
【0062】
本発明において、水混和性有機溶剤が「水と混和する」とは、該水混和性有機溶剤が水酸基、エステル基、ケトン基、アミド基、アミノ基、およびカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種類の極性基を有する場合では、温度25℃の水混和性有機溶剤の100gに溶解する水の量が15gを超えることを意味する。また前記極性基を持たない場合では、温度25℃の水混和性有機溶剤の100gに溶解する水の量が0.5gを超えることを意味する。
【0063】
例えば、溶液状の(e1)増粘剤を用いる場合、これに含まれている水混和性の有機溶剤(例えばN−メチルピロリドン)が、上記水混和性有機溶剤に該当する。
【0064】
塗布液中における水混和性有機溶剤の含有量は10質量%以下であることが好ましい。該水混和性有機溶剤の含有量が10質量%以下であると液滴が壊れ難く、塗布液の安定性が良い。該水混和性有機溶剤の含有量は6質量%以下がより好ましく、4質量%以下がさらに好ましい。
【0065】
また、塗布液に前記(d)導電性粒子とは別に、任意成分として導電性粒子前駆体を添加してもよい。導電性粒子前駆体とは、加熱処理や紫外線照射処理等によって金属が生成する物質であり、これを塗布液に含有させることで透明導電膜の導電性を向上させる効果が期待できる。
【0066】
かかる導電性粒子前駆体として、金属酸化物、有機金属化合物、有機金属塩等を用いることができ、好ましい具体例としては酸化銀、水酸化銅、脂肪酸銀が挙げられる。
【0067】
塗布液中における導電性粒子前駆体の含有量は、塗布液の安定性の点で3質量%以下であることが好ましい。2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
また、透明導電膜の強度向上や基材への密着性向上を目的として、バインダーを適宜添加してもよい。具体例としてはアクリル樹脂、エチルセルロース、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール等が挙げられる。バインダーの含有量は、透明導電膜の導電性の点で2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0069】
また、塗布液に黒色顔料を適宜添加してもよい。塗布液に黒色顔料を添加することで、透明導電膜の反射率を低減して、膜の外観を向上させることができる。黒色顔料としては各種カーボン材料や金属酸化物を用いることができる。具体例としてはカーボンブラック、カーボンナノチューブ、チタンブラック、酸化鉄が挙げられる。
[塗布液]
本発明における塗布液は、上記(a)〜(e)の各成分および必要に応じてその他の成分を混合し、撹拌してW/O型エマルジョンとすることによって得られる。
【0070】
上記(a)〜(e)の各成分の混合順序は特に規定されないが、以下の順序で混合することが好ましい。
【0071】
まず、(a)含フッ素有機溶剤Aおよび(b)有機溶剤Bに(e)増粘剤および/または界面活性剤を添加して均一に混合する。次に(d)導電性粒子を加えて均一に混合した後、最後に(c)水を加えて撹拌し、均一に乳化させる。このように水を最後に加えることで、導電性粒子の凝集を抑制できる。
【0072】
乳化させる手段としてはインペラー式撹拌機、ローター/ステーター式分散機、超音波分散機、高圧分散機など公知の装置を用いることができる。
[基材]
透明導電膜を形成する基材の材質としては、ガラス、樹脂、セラミックス等任意のものを適宜用いることができる。塗布液が塗布される面(塗布面)は平坦面であることが好ましい。
【0073】
基材の塗布面は、静滴法による水の接触角が20〜60°の範囲であることが好ましい。
【0074】
前記水の接触角は塗布液中の水相の濡れ性の指標となる。該水の接触角が小さすぎると基材上で水相が濡れ広がり易い。該水の接触角が大きすぎると基材が水に濡れ難いため、有機溶剤相が濡れ広がり易い。水の接触角が上記の範囲内であると、水相の適度な濡れ性が得られ、導電性粒子による良好な網目状構造が得られ易い。該水の接触角は25〜55°がより好ましい。
【0075】
基材の塗布面は、静滴法による1−ブロモナフタレンの接触角が8〜45°の範囲であることが好ましい。
【0076】
前記1−ブロモナフタレンの接触角が8°以上であると、網目状構造の内部(水滴に相当する領域)において、導電性粒子が残渣として残る現象が生じ難い。理由は定かではないが、1−ブロモナフタレンの接触角が8°未満である基材は導電性粒子を吸着しやいために残渣として残ると推測される。このような残渣は光散乱増加の原因となり、透明導電膜の外観を悪化させるおそれがある。1−ブロモナフタレンの接触角が45°より大きい場合は水の接触角が60°より大きくなる恐れがあるため好ましくない。該1−ブロモナフタレンの接触角は10〜42°がより好ましく、12〜38°がさらに好ましい。
【0077】
基材の塗布面における水の接触角および/または1−ブロモナフタレンの接触角が、より好ましくは両方の接触角が、それぞれ上記の好ましい範囲となるように、必要に応じて、基材の濡れ性を調整することが好ましい。
【0078】
基材の濡れ性を調整する方法の一つとして、基材をシラン化合物を用いて表面処理する方法が挙げられる。一般にシラン化合物としては、アルコキシシランが用いられる。
【0079】
具体的には、シラン化合物を含む溶液を基材上に塗布して加熱する方法で行われる。該溶液を基材上に塗布する方法としては、バーコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、フローコート等の公知の方法を用いることができる。シラン化合物の塗布量は、基材に対して、固形分換算で、0.5g/mで以下であることが好ましい。0.5g/mを超えると材料の無駄が多いため非効率的である。
【0080】
アルコキシシランの具体例としては、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。エトキシ基を有するシラン化合物の替わりにメトキシ基を有するシラン化合物を用いてもよい。シラン化合物は1種類を使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0081】
また基材として、ポリマーフィルムのように、水の接触角が大きい材質のものを用いる場合は、基材の濡れ性を調整する方法として、紫外線照射処理、紫外線オゾン処理、放射線照射処理、コロナ放電処理、またはプラズマ処理が有効である。これらの処理を行うと基材表面に親水性の官能基が導入され、水の接触角が低下する。
【0082】
基材に対して、上述したシラン化合物による処理を行った後に、紫外線照射処理、紫外線オゾン処理、放射線照射処理、コロナ放電処理、またはプラズマ処理を行ってもよい。
[透明導電膜の製造方法]
本発明の方法により透明導電膜を製造するには、まず塗布液を基材上に塗布する。
【0083】
基材上に塗布液を塗布する方法としては、バーコート、ダイコート、ロールコート、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、フローコート等の公知の方法を用いることができる。
【0084】
塗布液の塗布量は、基材に対して、固形分として0.1〜15g/mの範囲が好ましい。0.1g/m以上であると抵抗値の低い透明導電膜が得られ易く、15g/m以下であると透過率の高い透明導電膜が得られ易い。0.5〜10g/mの範囲がより好ましい。
【0085】
次いで、基板上の塗布液を乾燥させる。この乾燥工程により塗布液中の溶剤および水が、それぞれの蒸発速度に応じて順次除去され、導電性粒子による網目状構造が形成される。この乾燥工程において、塗布液中の溶剤および水の全部が完全に除去されてもよく、または網目状構造を構成している導電性粒子が流動しない程度であれば、溶剤および水の一部が残ってもよい。
【0086】
乾燥条件は特に規定されない。大気中で放置して自然乾燥させてもよく、雰囲気中の温度や湿度を適宜調整してもよく、有機溶剤の蒸気を用いて雰囲気制御を行ってもよい。
【0087】
乾燥後、加熱処理を行って、網目状構造を形成している導電性粒子を焼結させることにより透明導電膜が得られる。
【0088】
この加熱処理は、大気中で行ってもよく、蟻酸蒸気の存在下で行ってもよい。蟻酸蒸気の役割は明確ではないが、蟻酸蒸気の存在下で加熱処理すると、導電性粒子表面の酸化膜が除去され、処理温度が低温でも導電性粒子どうしの焼結が進行しやすくなると推測される。したがって、基材としてポリマーフィルム基材などの耐熱性が低い材質を用いる場合は、加熱処理を蟻酸蒸気の存在下で行うことが好ましい。
【0089】
加熱処理における処理温度は、蟻酸蒸気の存在下で行う場合は50〜101℃の範囲が好ましい。50℃以上であると導電性粒子どうしを充分に焼結し易い。導電性粒子の焼結が不充分であると透明導電膜の抵抗値が高くなる。101℃を超えると蟻酸の沸点以上の温度となるため取扱いが難しくなる。
【0090】
加熱処理を蟻酸蒸気がない状態で行う場合、処理温度は120℃以上が好ましい。120℃以上であると導電性粒子どうしを充分に焼結し易い。上限は基材の変形が生じない温度であればよく、基材の耐熱性に応じて設定できる。例えば600℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましい。
【0091】
加熱時間は、導電性粒子どうしの焼結が充分に行われる範囲で適宜設定できる。短すぎると焼結が不充分となり、長すぎると非効率的である。例えば、1〜120分の範囲が好ましい。
【0092】
また、上記加熱処理後に、透明導電膜の導電性を向上させるために、網目状構造上に銅やニッケルなどの金属をめっき処理してもよい。めっき方法は電界めっきでも無電解めっきでもよい。
【0093】
また、透明導電膜の外観を向上させるために黒化処理を行ってもよい。黒化処理方法としては酸化処理、硫化処理、黒色めっき処理等が挙げられる。
【0094】
また、光学特性の向上と膜強度の向上のためにオーバーコート層の形成やポリマーフィルムのラミネート処理を行ってもよい。
【0095】
また、基材上に網目状構造を形成した後に、これを、他の基材上に転写してもよい。転写は、上記加熱処理の前に行ってもよく、加熱処理の後に行ってもよい。
【0096】
本発明の方法によれば、導電性粒子の焼結体からなる網目状構造を有する透明導電膜が得られる。
【0097】
本発明によれば、特定の組成を有する塗布液を用いることにより、塗布液においては導電性粒子が良好な均一状態で分散され、塗布液を乾燥させて網目状構造を形成する過程においては線幅が細い網目状に導電性粒子が配列されるため、低抵抗かつ高透過率の透明導電膜が得られる。
【0098】
また、塗布液における導電性粒子の分散状態および網目状構造における導電性粒子の配列状態の安定性が高くて再現性が良いため、低抵抗かつ高透過率の透明導電膜を再現性良く製造できる。
【0099】
さらに本発明の方法はメディアン径が5μm以下の範囲の導電性粒子を使用でき、比較的粒径が大きくて安価な導電性粒子を用いることができるため、低コストで透明導電膜を製造できる。
【0100】
また、本発明の方法は難しい操作を必要とせず、簡便に低抵抗かつ高透過率の透明導電膜を製造できる。
【0101】
本発明によれば、例えば表面抵抗が0.1〜10Ω/□、好ましくは0.1〜2.0Ω/□であり、可視光の全光線透過率(以下、単に透過率ということもある。)が70〜95%、好ましくは75〜90%である透明導電膜が得られる。かかる透明導電膜は、透光性電磁波遮蔽膜や透明電極として好適である。特に建築物用の電磁波遮蔽窓やプラズマディスプレイパネル用の電磁波遮蔽膜として好適に用いられる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を具体的な実施例を用いて説明する。
[基材の調製]
以下の方法で基材に表面処理を施して3種の基材A〜Cを用意した。いずれの基材も、表面処理を施した面を塗布面とする。なお、基材の接触角の測定は、水の場合および1−ブロモナフタレンの場合のいずれも、接触角計(協和界面科学株式会社製、CA−X150型)を用いて静滴法で行った。接触角測定を行う際の液量は1μLとした。
(基材A)
エタノール10gに3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン0.25g、テトラエトキシシラン1.1gおよび1質量%硝酸水溶液2.1gを加えて2時間撹拌した。この液をガラス板上にスピンコートして、150℃で30分間の加熱処理を行い、シリカ膜を形成し、基材Aとした。なお、シリカ膜の塗工量は、固形分換算で0.2g/mであった。
【0103】
基材Aの水の接触角は52.9°、1―ブロモナフタレンの接触角は21.6°であった。
(基材B)
ポリエチレンテレフタラートフィルムの片面にポリウレタンからなるプライマー層を形成した積層フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム株式会社製、商品名ダイアホイル、型番O301E188U42)の、プライマー層が形成されている面の表面に光表面処理装置(セン特殊光源株式会社製、型番PL7−200)にて低圧水銀灯を光源とする紫外線を9分間照射して基材Bとした。
【0104】
基材Bの水の接触角は32.7°、1―ブロモナフタレンの接触角は15.5°であった。
(基材C)
基材Bと同じ積層フィルムの、プライマー層が形成されていない面の表面に、光表面処理装置にて紫外線を3分間照射して基材Cとした。
【0105】
基材Cの水の接触角は41.5°、1―ブロモナフタレンの接触角は5.0°であった。
【0106】
[透明導電膜の物性評価]
透明導電膜の透過率測定には分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジー製、型番U−4100)を用いた。測定は波長600nmで行った。透明導電膜を形成する前に基材のみで測定した時の透過率を透過率100%とした。
【0107】
透明導電膜の表面抵抗は次に示す方法により求めた。基材上で透明導電膜が形成されている部分が20mm×30mmの長方形となるように透明導電膜の一部を削って除去した。続いて透明導電膜が露出している部分が20mm×20mmの正方形となるように、透明導電膜の両端に導電性ペースト(藤倉化成株式会社製、商品名ドータイト、型番D−550)をそれぞれ5mm×20mmの長方形状に塗布した。導電性ペーストを70℃で1時間乾燥させて電極を形成した。透明導電膜の両端にある電極間の抵抗値をディジタルテスター(横河電機株式会社製、型番7544−02F)を用いて測定し、表面抵抗とした。
[実施例1]
下記表1に示す配合で塗布液を調製した。各成分は以下のものを用いた。
(a)含フッ素有機溶剤A:HCFC−225caとHCFC−225cbの混合物(商品名AK−225、旭硝子株式会社製)(共沸点54℃、比誘電率4.5)、6.1g。
(b)有機溶剤B:極性基を有する有機溶剤B1として1−ブトキシ−2−プロパノール(沸点170℃、表面張力26.4mN/m)、0.14g、および極性基を持たない有機溶剤B2としてトルエン(沸点111℃、表面張力28.3mN/m)、0.75g。
(c)水:蒸留水1.8g。
(d)導電性粒子:メディアン径1.0μmの粒状銀粉(商品名AgC156I、福田金属箔粉株式会社製)、0.38g。
(e1)増粘剤:変性尿素のN−メチルピロリドン溶液(商品名BYK−410、固形分含有量52質量%、ビックケミージャパン株式会社製)、14.6mg。このうち約7.6mgが変性尿素で、約7mgがN−メチルピロリドン(水混和性有機溶剤)。
(e2)界面活性剤:ソルビタンモノオレート(HLB値4.3)、6.4mg。
【0108】
まず、(a)含フッ素有機溶剤Aおよび(b)有機溶剤Bに、(e1)増粘剤および(e2)界面活性剤を添加して混合し、さらに(d)導電性粒子を加えて5分間超音波を照射し分散液とした。この分散液に(c)水を加えて激しく撹拌し、さらに5分間超音波を照射してW/O型エマルジョンの塗布液とした。
【0109】
得られた塗布液を、基材Aに、固形分として、2.5g/mだけフローコートした後に室温で乾燥させ、さらに大気中で150℃30分の加熱処理を行ったところ透明導電膜が得られた。
【0110】
透明導電膜は表面抵抗1.1Ω/□、透過率85.0%であった。透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図1に示す網目状構造が形成されていた。
[実施例2]
導電性粒子を、メディアン径2.3μmのフレーク状銀粉(商品名AgC239、福田金属箔粉株式会社製)0.38gに変更した他は実施例1と同様にして透明導電膜を製造した。
【0111】
得られた透明導電膜は表面抵抗1.5Ω/□、透過率76.8%であった。透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図2に示す網目状構造が形成されていた。
[実施例3]
基材として基材Bを用い、乾燥後の熱処理を蟻酸蒸気を含む雰囲気中で70℃30分の熱処理に変更した他は実施例1と同様にして透明導電膜を製造した。
【0112】
得られた透明導電膜は表面抵抗0.9Ω/□、透過率78.7%であった。透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図3に示す網目状構造が形成されていた。
[実施例4]
基材として基材Cを用いた以外は実施例3と同様にして透明導電膜を製造した。
【0113】
得られた透明導電膜は表面抵抗1.5Ω/□、透過率76.4%であった。透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図4に示す網目状構造が形成されていた。網目状構造内部に銀粒子の残渣が多く見られた。
[実施例5]
塗布液の組成を以下の通りに変更した以外は実施例1と同様にして透明導電膜を製造した。
(a)含フッ素有機溶剤A:実施例1と同じ混合物、8.0g。
(b)有機溶剤B:極性基を有する有機溶剤B1としてシクロヘキサノール(沸点161℃、表面張力33.4mN/m)、0.14g、および極性基を持たない有機溶剤B2としてキシレン(沸点140℃、表面張力29.0mN/m)、0.6g。
(c)水:蒸留水1.9g。
(d)導電性粒子:実施例1と同じ粒状銀粉、0.40g。
(e1)増粘剤:実施例1と同じ変性尿素のN−メチルピロリドン溶液、15.5mg。このうち約8.1mgが変性尿素で、約7.4mgがN−メチルピロリドン(水混和性有機溶剤)。
(e2)界面活性剤:実施例1と同じソルビタンモノオレート、6.6mg。
【0114】
得られた透明導電膜は表面抵抗1.2Ω/□、透過率78.4%であった。透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図5に示す網目状構造が形成されていた。
[比較例1]
塗布液の組成を、表1に示すように含フッ素有機溶剤Aを含有しない組成に変更した他は実施例1と同様にして、基材A上に透明導電膜を形成した。各成分は実施例1と同じものを用いた。なお組成の変更に際しては、(a)成分と(b)成分の合計の体積%、および(c)〜(e)の各成分の体積%がそれぞれ実施例1とほぼ同様となるように配合量を調整した。
【0115】
まず、(b)有機溶剤Bに、(e1)増粘剤および(e2)界面活性剤を添加して混合し、さらに(d)導電性粒子を加えて5分間超音波を照射し分散液とした。この分散液に(c)水を加えて激しく撹拌し、さらに5分間超音波を照射してW/O型エマルジョンの塗布液とした。
【0116】
得られた塗布液を基材Aにフローコートした後に室温で乾燥させ、さらに150℃30分の加熱処理を行った。
【0117】
得られた透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図6に示す網目状構造が形成されていたが、銀粒子の分散性が不十分であり導電性は得られなかった。透過率は76.0%であった。
[比較例2]
塗布液の組成を、表1に示すように有機溶剤Bを含有しない組成に変更した他は実施例1と同様にして、基材A上に透明導電膜を形成した。各成分は実施例1と同じものを用いた。なお組成の変更に際しては、(a)成分と(b)成分の合計の体積%、および(c)〜(e)の各成分の体積%がそれぞれ実施例1とほぼ同様となるように配合量を調整した。
【0118】
まず、(a)含フッ素有機溶剤Aに、(e1)増粘剤および(e2)界面活性剤を添加して混合し、さらに(d)導電性粒子を加えて5分間超音波を照射し分散液とした。この分散液に(c)水を加えて激しく撹拌し、さらに5分間超音波を照射してW/O型エマルジョンの塗布液とした。
【0119】
得られた塗布液を基材Aにフローコートした後に室温で乾燥させ、さらに150℃30分の加熱処理を行った。
【0120】
得られた透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図7に示すように網目状構造は形成されておらず、導電性は得られなかった。透過率は69.5%であった。
[比較例3]
導電性粒子を、メディアン径7.1μmの粒状銀粉(商品名AgC132、福田金属箔粉株式会社製)0.38gに変更した他は実施例1と同様にして透明導電膜を製造した。
【0121】
得られた透明導電膜を光学顕微鏡で観察したところ図8に示す網目状構造が形成されていたが、導電性は得られなかった。透過率は87.3%であった。
【0122】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】実施例1における透明導電膜の光学顕微鏡像である。
【図2】実施例2における透明導電膜の光学顕微鏡像である。
【図3】実施例3における透明導電膜の光学顕微鏡像である。
【図4】実施例4における透明導電膜の光学顕微鏡像である。
【図5】実施例5における透明導電膜の光学顕微鏡像である。
【図6】比較例1における透明導電膜の光学顕微鏡像である。
【図7】比較例2における透明導電膜の光学顕微鏡像である。
【図8】比較例3における透明導電膜の光学顕微鏡像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を基材上に塗布し、乾燥させた後、加熱処理する工程を有する透明導電膜の製造方法であって、
前記塗布液が、(a)比誘電率が3〜15であり、かつ、気圧0.1MPaの状態での沸点が40〜120℃である、水と混和しない含フッ素有機溶剤A、(b)表面張力が25mN/m以上であり、気圧0.1MPaの状態での沸点が50〜250℃の範囲で、かつ、含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高い、水と混和しない有機溶剤B、(c)水、(d)メディアン径が5μm以下である導電性粒子および(e)増粘剤および/または界面活性剤を含有しており、前記(a)含フッ素有機溶剤Aの含有量が20〜90質量%、(b)有機溶剤Bの含有量が3〜60質量%、(c)水の含有量が5〜50質量%、(d)導電性粒子の含有量が1〜12質量%であるW/O型エマルジョンからなることを特徴とする透明導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記(d)導電性粒子が金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウムおよびルテニウムからなる群より選ばれる1種以上を含む請求項1に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記(d)導電性粒子の表面が疎水化処理されている請求項1または2に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項4】
前記(a)含フッ素有機溶剤Aが、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロ−4−メトキシブタン、2−(ジフルオロメトキシメチル)−1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1−エトキシ−1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロブタンおよび2−(エトキシジフルオロメチル)−1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記基材の塗布面における、静滴法による水の接触角が20〜60°である請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記基材の塗布面における、静滴法による1−ブロモナフタレンの接触角が8〜45°である請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明導電膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の透明導電膜の製造方法によって得られる透明導電膜。
【請求項8】
塗布液を基材上に塗布し、乾燥させた後、加熱処理する工程を有する透明導電膜の製造方法に用いられる塗布液であって、
(a)比誘電率が3〜15であり、かつ、気圧0.1MPaの状態での沸点が40〜120℃である、水と混和しない含フッ素有機溶剤A、(b)表面張力が25mN/m以上であり、気圧0.1MPaの状態での沸点が50〜250℃の範囲で、かつ、含フッ素有機溶剤Aの沸点よりも高い、水と混和しない有機溶剤B、(c)水、(d)メディアン径が5μm以下である導電性粒子および(e)増粘剤および/または界面活性剤を含有しており、前記(a)含フッ素有機溶剤Aの含有量が20〜90質量%、(b)有機溶剤Bの含有量が3〜60質量%、(c)水の含有量が5〜50質量%、(d)導電性粒子の含有量が1〜12質量%であるW/O型エマルジョンからなることを特徴とする塗布液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−234299(P2007−234299A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52012(P2006−52012)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】