説明

透明絶縁性組成物

【課題】ガラスの屈折率に近い1.5程度の屈折率、高い絶縁性及び高い安定性有する透明絶縁性液体を提供し、併せて当該透明絶縁性組成物を構成部材とする透過率の高いタッチパネルを提供する。
【解決手段】一般式(Ia)から一般式(Ik)


で表され、その分子量が120以上400以下であり、融点が0℃以下である化合物を含有し、組成物の融点が0℃以下であることを特徴とする透明絶縁性組成物。及び当該組成物を構成部材とするタッチパネル並びにタッチパネルを具備した表示素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光学素子の構成部材として有用な透明絶縁性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明絶縁性組成物は、光学的に透明であり、比較的高い比抵抗を有する流動性を有する物質と定義され、その光学特性を生かして種々の光学素子の構成部材として用いられる。例えば、光学補償のため2枚のSTN(超ねじれネマチック型)表示素子を貼り合わせた構造を有する液晶表示素子の場合に有効に用いることができる。すなわち、二つの表示素子間に空隙が生じると、空気の屈折率(約1.0)と表示素子表面のガラスの屈折率(1.5前後)に差があるため、光学特性が悪化する。この空隙に屈折率が比較的ガラスに近い透明絶縁性組成物を注入することにより、光学特性の悪化を抑えることができる。又、一般に携帯電話の表示部は内部の表示素子を保護するために、カバーとして強化ガラスやアクリル板で覆い、液晶表示素子とカバーの間にすきま(エアギャップ)を持つことで、外からの衝撃によりカバーが割れた場合等においても、液晶表示素子を保護する構造(エアギャップ構造)をとっている。この場合においても、エアギャップにおける屈折率の差により光学特性の悪化を抑える用途に用いることができる。更に、近年情報端末に幅広く応用されているタッチパネルは、入力装置としてポインティングデバイスを、表示装置として液晶表示素子等を同時に有する構造を取り、この場合においても表示素子とポインティングデバイス間における同様の問題を解決する手段として用いることができる。
【0003】
一方、タッチパネルには、幾つかの方式が存在し、マトリクススイッチ型、抵抗型等のペン等の圧力により対抗配置した二枚の基板が接触することを検知する方式においては、対抗配置した二枚の基板間に空隙を配置した構造を有する。この場合においても、タッチパネル中の空隙の影響により表示特性の劣化が発生する。すなわち、電極基板間に空隙が介在する構造を有している場合には、電極基板として用いられるガラスの屈折率(1.5以上)と空気の屈折率(約1.0)との屈折率の差により、光の透過率が低下し表示装置の特性が劣化し、更に、ペン等による入力時において干渉縞が生じることによる表示品位が悪化する問題があった。
【0004】
光学素子中に存在する空隙に屈折率がガラス等に近い液体を封入することにより、光学特性を改善する試みが報告されている。例えば、抵抗型のタッチパネルの電極間の空隙にシリコーンオイルを封入することにより上記問題の解決を図ったもの(特許文献1参照)。空隙にヨウ化メチレンを封入したもの(特許文献2参照)、空隙に含フッ素炭化水素を封入したもの(特許文献3参照)が報告されている。しかし、シリコーンオイルは屈折率が1.4とガラスに較べて低いため十分な効果を得ることができず、ヨウ化メチレンは光学特性の改善効果は高いものの、ヨウ化メチレンは安定性が悪く短時間で劣化する上に、毒性も高くタッチパネルが破損した場合を想定した場合などを想定すると到底実用的な材料とは言えないものであった。又、含フッ素炭化水素においては安定性の点では優れるものの、屈折率が1.3以下と更に低い問題を有していた。
【0005】
更に、タッチパネルの空隙に用いる場合には、抵抗の差による検出精度を損なわないために、封入する液体には高い絶縁性も求められている。しかし、前述のヨウ化メチレンを用いた態様においては、絶縁性が不十分であるという問題も有していた。
【0006】
以上のような種々の用途において、諸特性を満足するような、透明絶縁性組成物は存在せず、その開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−173394号公報(実施例1)
【特許文献2】特開平9−185457号公報(実施例)
【特許文献3】特開平10−133819号公報(請求項、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ガラスの屈折率に近い1.5程度の屈折率、高い絶縁性及び高い安定性を有する透明絶縁性液体を提供し、併せて当該透明絶縁性組成物を構成部材とする透過率の高いタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の液晶化合物を含有し、かつ、一般的な使用温度域で液晶相を発現しないことを特徴とする透明絶縁性組成物の有用性を見出し本願発明の完成に至った。
本願発明は、一般式(Ia)から一般式(Ik)
【0010】
【化1】

【0011】

(式中の任意の水素原子は、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜15のアルケニル基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、又はジフルオロメチル基を表し、該アルキル基又はアルケニル基基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして -O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置換されていても良い。)で表され、その分子量が120以上400以下であり、融点が0℃以下である化合物を含有し、組成物の融点が0℃以下であることを特徴とする透明絶縁性組成物及び当該組成物を構成部材とするタッチパネル並びにタッチパネルを具備した表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透明絶縁性組成物は、ガラスの屈折率に近い1.5程度の屈折率、高い絶縁性及び高い安定性を有することから、マトリクススイッチ型、抵抗型等タッチパネルに使用することにより透過率を改善することができ、タッチパネル以外にも高い屈折率と絶縁性を必要とする種々の用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のタッチパネルの断面図である。
【図2】本願発明のタッチパネルの断面図である。
【符号の説明】
【0014】
1 上側のガラス基板(タッチする側)
2 下側のガラス基板
3 透明導電性膜
4 空隙
5 シール材料
6 透明絶縁性組成物層
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の透明絶縁性組成物は組成物の融点が0℃以下であることを特徴とするが、融点が−10℃以下であることが好ましく、融点が−20℃以下であることがより好ましく、融点が−30℃以下であることが特に好ましい。使用する化合物の性質によっては液晶相を発現する可能性があるが、液晶相を発現すると、光散乱が発生し透過率は大幅に低下するため好ましくない。
【0016】
又、その質量平均分子量が100以上500以下であることが好ましく、100以上400以下が好ましく、100以上350以下がより好ましく、150以上350以下であることが特に好ましい。
【0017】
本願発明の組成物は、一つのみの環構造を有する一般式(Ia)から一般式(Ik)で表される化合物として、これらの環構造に少なくとも一つの置換基を有することが必要であり、二つの置換基を有することが好ましい。この場合、二つの置換基は同一でも異なっていても良いが、異なっていることが好ましい。又、二つの置換基の位置に制限はないが、六員環化合物の場合は、パラ位又はメタ位に置換されていることが好ましく、パラ位がより好ましい。又、ナフタレン環の場合は、2及び7位に置換していることが好ましい。
より具体的には、一般式(Ia)から一般式(Ik)で表される化合物として一般式(II)
【0018】
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜15のアルケニル基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、又はジフルオロメチル基を表し、該アルキル基又はアルケニル基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして -O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置き換えられても良く、
Aは、一般式(Ia-1)から一般式(Ik-1)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中の任意の水素原子は、炭素原子数1から5のアルキル基、フッ素原子又は塩素原子により置換されていても良い。)で表される骨格から選ばれる構造を表す、
ただし、R及びRが同時に水素原子となる場合を除く。)で表される化合物を含有することが好ましい。この場合において、一つのみの環とは単一の環からなる環構造及び幾つかの環が縮合することにより単一の縮合環を形成している環構造の両方を意味する。
【0021】
一般式(II)において、R及びRは、環構造の側鎖基を表すものであるが、これらの置換基が同一である場合より、異なった置換基を表す場合が結晶の析出を避ける観点から望ましい。特に、R及びRにおいて、側鎖長が短い場合には、これらの側鎖が同一の場合より異なっていることが好ましい。具体的には、R及びRが炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表す場合において、これらが異なっていることが好ましく、R及びRが炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を表す場合において、これらが異なっていることがより好ましい。Rは前記の条件の下、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基が好ましく、炭素数3〜15のアルキル基、炭素数3〜15のアルケニル基又は炭素数3〜15のアルコキシ基がより好ましく、炭素数6〜15のアルキル基、炭素数6〜15のアルケニル基又は炭素数6〜15のアルコキシ基が更に好ましい。
【0022】
は前記の条件の下、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジフルオロメチル基、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基が好ましく、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジフルオロメチル基、炭素数3〜15のアルキル基、炭素数3〜15のアルケニル基又は炭素数3〜15のアルコキシ基がより好ましく、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジフルオロメチル基、炭素数6〜15のアルキル基、炭素数6〜15のアルケニル基又は炭素数6〜15のアルコキシ基が更に好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
【0023】
前記より、R及びRの組み合わせとしては、Rが炭素数6〜15のアルキル基、炭素数6〜15のアルケニル基又は炭素数6〜15のアルコキシ基を表し、Rがフッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基又はジフルオロメチル基を表すことが好ましく、Rが炭素数6〜15のアルキル基を表し、Rがフッ素原子を表すことが特に好ましい。
環Aは、次の一般式(Ia-1)から一般式(Ik-1)
【0024】
【化4】

(式中の任意の水素原子は、炭素原子数1から5のアルキル基、フッ素原子又は塩素原子により置換されていても良い。)からなる群より選ばれる骨格がより好ましい。
【0025】
この中でも、一般式(1a-1)、一般式(1a-2)、一般式(1c-1)、一般式(1e-1)又は一般式(1f-1)がより好ましく、一般式(1a-1)、一般式(1c-1)、又は一般式(1e-1)がより好ましく、一般式(1a-1)が特に好ましい。
【0026】
又、一般式(II)で表される化合物はその分子量が120以上400以下であることが必要であるが、120以上350以下が好ましく、150以上350以下がより好ましく、150以上300以下であることが特に好ましい。
【0027】
一般式(II)で表される化合物の含有量は、少なくとも5質量%以上含有することが好ましく、15質量%以上がより好ましく、35%以上が更に好ましく、60%以上が特に好ましく、上限は100%で構成することもできるが、90%以下が好ましく、80%以下が好ましい。
含有する一般式(II)で表される化合物の数は、2種以上が好ましく、2種以上10種以下がより好ましい。
【0028】
(一般式(II)以外に使用することが可能な化合物)
本願発明の透明絶縁性組成物は、前述した一般式(II)で表される化合物の必要な含有率を除くその他の成分として、二つ又は三つの環を有する化合物を添加することができる。
具体的には、一般式(IIIa)又は一般式(IIIb)
【0029】
【化5】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜15のアルケニル基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、又はジフルオロメチル基を表し、該アルキル基又はアルケニル基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして -O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置き換えられても良く、
【0030】
、B及びBはそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は -O- 及び又は -S- に置き換えられてもよい)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は -N- に置き換えられてもよい)
(c) 1,4-シクロヘキセニレン、1,4-ビシクロ(2.2.2)オクチレン、ピペリジン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル及び1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル
からなる群より選ばれる基であり、上記の基(a)、基(b)、基(c)はメチル基、エチル基、CN又はハロゲンで置換されていても良く、
は単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-OCH2-、-CH2O-、-COO-、-OCO-又は-C≡C-を表す。)表される化合物を含有することができる。
【0031】
一般式(IIIa)及び一般式(IIIb)は種々の置換基を有する化合物を含むものであるが、具体的には次に記載する態様が好ましい。
、B又はBとしては次の式(1a)から式(1i)で表される環構造が好ましい。
【0032】
【化6】

【0033】
(これらの環構造において、式(1c)及び式(1f)を除き、式中の水素原子はフッ素原子で置換されていても良い。)
この中でも、式(1a)、式(1c)、式(1f)又は式(1g)がより好ましく、式(1a)、式(1c)又は式(1f)がより好ましく、式(1a)又は式(1c)が特に好ましい。
【0034】
これらの環構造において、B、B又はBが六員環の場合は、パラ位又はメタ位に置換されていることが好ましく、パラ位がより好ましい。又、ナフタレン環の場合は、2及び7位に置換していることが好ましい。
【0035】
及びRは、液晶化合物の側鎖基を表すものであるが、これらの置換基が同一である場合より、異なった置換基を表す場合が結晶の析出を避ける観点から望ましい。
は、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜15のアルキル基がより好ましい。
【0036】
は、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、炭素数1〜15のアルコキシ基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジフルオロメチル基又は水素原子を表すことが好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基又はジフルオロメチル基を表すことがより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
【0037】
前記より、R及びRの組み合わせとしては、Rが炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を表し、Rがフッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基又はジフルオロメチル基を表すことが好ましく、Rが炭素数1〜15のアルキル基を表し、Rがフッ素原子を表すことが特に好ましい。
又はLは単結合、-CH2CH2-、-COO-又は-OCO-が好ましいが、一般式(IIIb)においてはL及びLの何れか一つは単結合であることが好ましい。
【0038】
一般式(IIIa)及び一般式(IIIb)の内、環の数が多い一般式(IIIb)は、一般式(IIIa)と比較して、析出がし易いことから一般式(IIIa)がより好ましい。
【0039】
このような観点から、一般式(IIIa)及び一般式(IIIb)の化合物のより具体的な好ましい形態として、下記の一般式(III-1)〜(III-11)で表される化合物群が好ましい。
【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
(式中、Rは炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を表し、Rは炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基又はジフルオロメチル基を表し、X、X、X、X4、X、X、X及びXはそれぞれ独立的に、水素原子、メチル基又はフッ素原子を表す。)
中でも、一般式(III-1)〜(III-8)が好ましく、一般式(III-1)〜(III-5)がより好ましい。
又、三つの環を有する化合物としては、下記の一般式(III-12)〜(III-23)で表される化合物が好ましい。
【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
(式中、Rは炭素数1〜15のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜15のアルキル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基又はジフルオロメチル基を表し、X、X、X、X4、X、X、X及びXはそれぞれ独立的に、水素原子、メチル基又はフッ素原子を表す。)
一般式(III)で表される化合物を含有す場合、その含有量は30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。
【0047】
又、本願発明の透明絶縁性組成物には、その保存安定性を向上させるために安定剤を添加することもできる。使用できる安定剤としては、例えば、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノアルキルエーテル類、第三ブチルカテコール類、ピロガロール類、チオフェノール類、ニトロ化合物類、β-ナフチルアミン類、β-ナフトール類、ニトロソ化合物等が挙げられる。安定剤を使用する場合の添加量は、組成物全量に対して0.005〜1%の範囲が好ましく、0.02〜0.5%がさらに好ましい。
又、帯電を防止するための帯電防止剤や粘度を調節するための重合体又は重合性化合物を更に添加することもできる。
【0048】
本願発明の透明絶縁性組成物は透明性と絶縁性を必要とする種々の用途に使用できる、例えば、光学補償のため2枚のSTN表示素子を貼り合わせた構造を有する液晶表示素子の二つの表示素子間の空隙の充填、又、表示素子の保護カバーと液晶表示素子に設けられたエアギャップへの充填、タッチパネル等があるが、タッチパネルとして使用することが好ましい。タッチパネルとしては、幾つかの方式が存在し、何れの方式にも使用可能であるが、マトリクススイッチ型、抵抗型等のペン等の圧力により対抗配置した二枚の基板が接触することを検知する方式における空隙の充填に特に好ましく使用できる。
【0049】
タッチパネルとして構成した場合の透過率は、高いことが好ましいが、現実的な値としては90%以上であることが好ましい。
本願発明の透明絶縁性組成物を構成部材とするタッチパネルは、種々の表示素子の構成部材として、表示素子にタッチセンサーとしての機能を付与することができる。
【0050】
更に、本願発明の透明絶縁性組成物は絶縁性液体としての性質を備えているため、車両用トランスやコンデンサーの絶縁油、OF(Oil Filled)ケーブルの絶縁油、トランジスターなどの電子部品の封入絶縁油、ファンカップリングオイルやビスカスカップリングオイルなどの液体継手のカップリングオイル、サーキットブレイカー、ディーゼルエンジン、ドアチェッカー、電子ばかりや車両及び航空機計器などのダンパー油、カメラなどの光学機械、ミシン、編機などの精密機械用潤滑油、燒結合金やプラスチック製の無給油軸受の含浸油、化学プラントや化学実験室などの油浴、ゴム・プラスチック成形時の離型、シェルモールドの鋳型の製造、ダイカスト成形時の離型剤、PPC複写機のトナー付着防止オイル等の目的に使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下、例を挙げて本願発明を更に詳述するが、本願発明はこれらによって限定されるものではない。また、「%」は「質量%」を意味する。
TN-I :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)を液晶相上限温度とする
n :25℃における屈折率
η :20℃における粘性(Pa・s)
R :25℃における比抵抗(Ωcm)
安定性試験:
試験対象となる透明絶縁性組成物を、150℃1時間放置、又は耐光性試験器で30分間照射試験を行った後、組成物を構成する化合物の分解が認められる、透過率の低下又は、比抵抗の低下が認められる場合を×とし、いずれの試験においても問題のないものに○とした。
【0052】
絶縁性:図2の構成を有するタッチパネルに、試験対象となる透明絶縁性組成物を注入した後、その比抵抗を測定し、1×1011Ωcm以上の場合には○とし、1×1011Ωcm未満の場合には×とした
【0053】
(実施例1から5)
以下の一般式(II-1a)及び一般式(II-1b)からなる単環化合物群から選ばれる化合物を用いて、透明絶縁性組成物(M−1)から(M−5)を作製した。
尚、これらの化合物の分子量を式中に示す。
【0054】
【化12】

【0055】
又、一般式(II-1a)から一般式(II-1b)で表される化合物の融点は何れもー20℃以下であった。
これらの組成物の組成及び物性値を以下の表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
これらの透明絶縁性組成物は、液晶相下限温度が低く、その屈折率もガラスの屈折率に近い1.5程度の屈折率を有し、又、粘性も低いものであった。
(実施例6から8)
図2に示す構成を有するタッチパネルを作製し、透明絶縁性組成物として実施例1、2又は3で作製した(M−1)、(M−2)又は(M−3)を使用して各種特性の測定を行いその結果を表2に示す。
【0058】
(比較例1)
図1に示すタッチパネルを作製し、各種特性の測定を行いその結果を表2に示す。尚、比較例1においては、空隙に空気が存在する条件で測定を行った。
(比較例2)
実施例3と同様に、図2に示す構成を有するタッチパネルを作製し、透明絶縁性組成物に替えてヨウ化メチレンを用い各種特性の測定を行いその結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例3と同様に、図2に示す構成を有するタッチパネルを作製し、透明絶縁性組成物に替えてシリコーンオイルを用い各種特性の測定を行いその結果を表1に示す。
(比較例4)
実施例3と同様に、図2に示す構成を有するタッチパネルを作製し、透明絶縁性組成物に替えてフッ化炭化水素であるPF−5080(住友スリーエム(株)の商品名、C818を90%以上含有)を用い各種特性の測定を行いその結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2の測定結果から、ヨウ化メチレンを透明絶縁性物質に替えて用いた比較例2のタッチパネルにおいては、ヨウ化メチレンの屈折率が比較的大きいにも関わらす、安定性が悪いことから、着色に起因する透過率の低下が大きく、その絶縁性も低いものであった。
シリコーンオイル又はフッ化炭化水素を用いた比較例3及び4のタッチパネルは、安定性には問題がないものの、屈折率が低いため、パネルの透過率が十分に高くならない問題を有している。
これらと比較して、本願発明のタッチパネルである実施例3から5のタッチパネルは、屈折率が基板として用いられているガラスに近いため、透過率が高く、安定性などの特性にも優れることが明らかである。
【0061】
(実施例9から11)
前記一般式(II-1a)、一般式(II-1b)及び一般式(II-1c)からなる単環化合物群から選ばれる化合物を用いて、透明絶縁性組成物(M−6)から(M−8)を作製した。
これらの組成物の組成及び物性値を以下の表3に示す。
【0062】
【表3】

これらの透明絶縁性組成物は、液晶相下限温度が低く、その屈折率もガラスの屈折率に近い1.5程度の屈折率を有し、又、粘性も低いものであった。
【0063】
(実施例12から16)
前記一般式(II-1a)、一般式(II-1b)、一般式(II-1c)及び一般式(III-1a)からなる化合物及び一般式(III-1a)からなる化合物群から選ばれる化合物を用いて透明絶縁性組成物(M−9)から(M−13)を作製した。
これらの組成物の組成及び物性値を以下の表4に示す。
【0064】
【表4】

これらの透明絶縁性組成物は、液晶相下限温度が低く、その屈折率もガラスの屈折率に近い1.5程度の屈折率を有し、又、粘性も低いものであった。
【0065】
(実施例17から21)
以下の化合物を用い、実施例1と同様にして透明絶縁性組成物(M−14)から(M−18)を作製した。
【0066】
【化13】

【0067】
【化14】

これらの組成物の組成及び物性値を以下の表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
(実施例22から28)
前記化合物を用い、実施例1と同様にして透明絶縁性組成物(M−19)から(M−25)を作製した。
これらの組成物の組成及び物性値を以下の表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
(実施例29から35)
前記化合物を用い、実施例1と同様にして透明絶縁性組成物(M−26)から(M−32)を作製した。
これらの組成物の組成及び物性値を以下の表7に示す。
【0072】
【表7】

【0073】
この組成物は、液晶相下限温度が−27℃と低く、その屈折率も1.483とガラスの屈折率に近いものであった。又、粘性も14.3と低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Ia)から一般式(Ik)
【化1】

(式中の任意の水素原子は、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜15のアルケニル基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、又はジフルオロメチル基を表し、該アルキル基又はアルケニル基基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして -O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置換されていても良い。)で表され、その分子量が120以上400以下であり、融点が0℃以下である化合物を含有し、組成物の融点が0℃以下であることを特徴とする透明絶縁性組成物。
【請求項2】
分子量が150以上350以下の化合物を含有する請求項1記載の透明絶縁性組成物。
【請求項3】
一般式(Ia)から一般式(Ik)で表される化合物が一般式(II)
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数1〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は少なくとも一つのハロゲンにより置換された炭素数2〜15のアルケニル基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、又はジフルオロメチル基を表し、該アルキル基又はアルケニル基基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして -O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-又は-OCO-O-により置き換えられても良い
Aは、一般式(Ia-1)から一般式(Ik-1)
【化3】

(式中の任意の水素原子は、炭素原子数1から5のアルキル基、フッ素原子又は塩素原子により置換されていても良い。)で表される骨格から選ばれる構造を表す、ただし、R及びRが同時に水素原子となる場合を除く。)で表される化合物であり、その含有量が少なくとも5%である、請求項1記載の透明絶縁性組成物。
【請求項4】
一般式(II)においてR及びRが異なった置換基を表す、請求項3記載の透明絶縁性組成物。
【請求項5】
一般式(II)で表される化合物を少なくとも2種含有する請求項3記載の透明絶縁性組成物。
【請求項6】
透明絶縁性組成物の質量平均分子量が100以上400以下である請求項1から5の何れかに記載の透明絶縁性組成物。
【請求項7】
透明絶縁性組成物の透明絶縁性組成物の粘性が40Pa・s以下であり、比抵抗が1×1010Ωcm以上である請求項1から5の何れかに記載の透明絶縁性組成物。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の透明絶縁性組成物を構成部材とするタッチパネル。
【請求項9】
透過率が90%である請求項8記載のタッチパネル。
【請求項10】
請求項1から7の何れかに記載の透明絶縁性組成物を構成部材とするタッチパネルを具備した表示素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−209844(P2011−209844A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74889(P2010−74889)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】