説明

透明耐傷性熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】 表面硬度、耐傷性、表面平滑性に優れる透明熱可塑性樹脂組成物及び成形品を提供する。
【解決手段】 透明性を有するゴム強化アクリル系熱可塑性樹脂組成物に対し、炭素数12〜32の高級脂肪酸と炭素数12〜32の高級アルコールとのエステル化物である高級脂肪酸エステルを1〜5重量部を配合してなる樹脂組成物において、全樹脂成分の合計量に対するゴム質重合体(a)の配合量が2.5〜11.5重量%の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面硬度と摺動性のバランスに優れる透明性を有するゴム強化スチレン系樹脂組成物及びそれからなる成形品に関する。具体的には、爪、段ボール紙等梱包資材と接触した際の耐傷性に優れ、且つ、耐衝撃性及び成形加工性に優れた透明熱可塑性樹脂組成物及び成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム強化スチレン系樹脂に代表されるスチレン系樹脂は、優れた機械的性質、成形加工性及び外観特性を有することから、家庭用電気機器、OA機器、一般雑貨等をはじめとする広範な分野で使用されている。さらに、このゴム強化スチレン系樹脂に対し、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に代表される不飽和カルボン酸アルキルエステルを適量共重合させることによって透明性を付与することができ、この透明樹脂組成物は、前記の家庭用電気機器に代表されるハウジング等の外観部品で使用されている。また、これら透明樹脂は着色した際の発色性に優れることから、意匠性を求める用途に好適である。しかるに、近年の製品のデザイン面における意匠性向上の要求に伴い、透明樹脂を外観部品に使用するに際し、耐傷性、ならびに表面の平滑性が求められる。しかし、従来の優れた耐傷性を有するポリメタクリル酸メチル等のゴム非強化の透明樹脂では衝撃強度が低く、且つ、成形加工における離型時の割れや、ハウジング材などの薄肉化された成形品の強度を保持することができていなかった。
【0003】
透明樹脂に求められる表面の平滑性とは、つまりは摺動性のことである。摺動性を付与することにより、爪や段ボール紙等梱包資材と接触した際の摩擦抵抗が低くなり、耐傷性が向上する。
【0004】
また、一般に、透明性を有するゴム強化スチレン系樹脂のゴム質重合体の配合量を少なくすることで、耐傷性が向上することが知られている。しかしながら、十分な耐傷性を発現させるためにゴム質重合体の配合量を少なくすると、耐衝撃性が下がるため、ハウジング材等に使用できなかった。
【0005】
従来の樹脂の耐傷性を向上させる技術として、ABS樹脂にポリメタクリル酸メチルを加える技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、屈折率の乖離から透明性を損なうため、透明性を要求する用途での使用は好ましくない。また、該文献には摺動性を付与する技術が開示されていない。
【0006】
樹脂に摺動性を付与し表面の平滑性を向上させる技術については、樹脂に高級脂肪酸エステルを配合する技術が開示されている(例えば特許文献2および特許文献3参照)。しかしながら、表面硬度の向上ならびに透明性の発現に関する技術は開示されていない。
【0007】
また、樹脂の透明性を損なわない特定のステアリン酸アミドを添加することで、摺動性を付与する技術が開示されている(例えば特許文献4参照)。しかしながら、表面硬度を向上させる技術については開示されていない。
【0008】
また、透明熱可塑性樹脂組成物の透明性を損なわずに摺動性を付与して耐傷性を向上させるために、ポリシロキサン化合物を配合する技術が開示されている(例えば特許文献5参照)。しかしながら、該文献ではゴム質重合体とビニル系共重合体及びポリシロキサン化合物の配合比が明確化されておらず、表面硬度を向上させることができていない。且つ、特定のポリオルガノシロキサンオイルは非常に高価であり、コストアップの問題もある。
【0009】
以上のように、従来の透明熱可塑性樹脂組成物においては、透明性と耐衝撃性を損なわずに、耐傷性、表面硬度および表面の平滑性を向上させる技術は確立されていなかった。
【特許文献1】特開平01−278553号公報
【特許文献2】特開昭63−3050号公報
【特許文献3】特開平11−279370号公報
【特許文献4】特開2002−128984号公報
【特許文献5】特開2003−20378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた耐傷性と表面硬度を兼ね備え、且つ、成形加工性に優れた透明性ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物及びそれらからなる成形品を提供するものである。
【0011】
具体的には、本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、ハウジング材等に求められる、高度な透明性と耐衝撃性を有すると同時に、表面の平滑性、特に爪、段ボール紙等梱包資材と接触した際の摺動性に優れ、更に、優れた耐傷性と表面硬度を兼ね備え、且つ、成形加工性に優れた透明性ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物及びそれらからなる成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究した結果、透明性を有するゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物に対し、特定の高級脂肪酸エステルを配合してなる樹脂組成物において、ゴム質重合体(a)の配合量とビニル系共重合体(B)の還元粘度および高級脂肪酸エステルの炭素数を規定することにより、高度な透明性を有すると同時に、優れた表面硬度と耐傷性に加え、優れた表面の平滑性と、ハウジング材等に求められる耐衝撃性を有し、且つ、成形加工性に優れた透明性ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、
ゴム質重合体(a)及び不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含有するグラフト共重合体(A)と、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含有するビニル系共重合体(B)の合計100重量部に対し、炭素数12〜32の高級脂肪酸と炭素数12〜32の高級アルコールとのエステル化物である高級脂肪酸エステル(C)を1〜5重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、前記(A)+(B)の合計量に対するゴム質重合体(a)の配合量Pが2.5〜11.5重量%の範囲であることを特徴とする透明熱可塑性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、透明性を有するゴム強化スチレン系樹脂の透明性と耐衝撃性を損なうことなく、耐傷性及び表面硬度に加え、表面の平滑性が優れた透明性ゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。これにより、従来技術では使用困難であった家庭用電気機器やOA機器、一般雑貨などのハウジング材などの薄肉化された成形品への使用が好適になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の透明熱可塑性樹脂組成物について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)と高級脂肪酸エステル(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物である。
【0017】
本発明におけるグラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a)と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含むものである。好ましくは、ゴム質重合体(a)と芳香族ビニル系単量体(b)とシアン化ビニル系単量体(c)と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含むものである。また、必要に応じてこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(e)を含むものである。
【0018】
また、本発明におけるビニル系共重合体(B)は、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含むものである。好ましくは、芳香族ビニル系単量体(b)とシアン化ビニル系単量体(c)と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含むものである。また、必要に応じてこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(e)を含むものである。
【0019】
グラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体(a)には特に制限はないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴム等が使用できる。これらゴム質重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレンブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体又はエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム質重合体のうちでは、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体又はアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が、特に耐衝撃性の観点から好ましく用いられる。
【0020】
これらのゴム質重合体は、1種または2種以上の混合物で使用することが可能であるが、2種以上の混合物で使用する場合には、透明性の観点から、アッベ屈折計を用いた測定した屈折率差が0.03以下となるように、2種以上のゴム質重合体を選択することが好ましい。
【0021】
本発明におけるグラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(a)の重量平均粒子径には特に制限はないが、望ましい衝撃強度を確保するためには、0.1〜0.5μm、特に0.15〜0.4μmの範囲であることが好ましい。ゴム質重合体の重量平均粒子径を0.1〜0.5μmの範囲にすることによって、耐衝撃性と透明性の両立を図ることができる。
【0022】
本発明における芳香族ビニル系単量体(b)には特に制限はなく、具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、オルソメチルスチレン、パラメチルスチレン又はパラ−t−ブチルスチレン等が挙げられ、これらのなかから1種または2種以上を用いることができる。なかでもスチレン、α−メチルスチレンが好ましく、特に好ましくはスチレンである。
【0023】
本発明におけるシアン化ビニル系単量体(c)には特に制限はなく、具体例としては、アクリロニトリル又はメタアクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。なかでもアクリロニトリルの使用が耐衝撃性の点で好ましい。
【0024】
本発明における不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)には特に制限はないが、炭素数1〜6のアルキル基若しくは置換アルキルを持つアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルが好適である。不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシル又は(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドキシペンチルなどが挙げられるが、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
また本発明におけるその他のビニル系共重合体(e)には特に制限はないが、具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、無水イタコン酸、フタル酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン又はp−アミノスチレンなどを挙げることができ、これらは単独ないし、2種以上を用いることができる。
【0026】
本発明におけるグラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体(a)の含有量は特には規定はないが、10〜80重量%が好ましく、より好ましくは20〜70重量%であり、更に好ましくは35〜55重量%である。
【0027】
また、グラフト共重合体(A)及びビニル系共重合体(B)に用いられる単量体混合物の割合に特に規定はないが、芳香族ビニル系単量体(b)は9〜49重量%が好ましく、より好ましくは17〜37重量%である。また、シアン化ビニル系単量体(c)は1〜30重量%が好ましく、より好ましくは3〜20重量%である。また、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)は50〜90重量%が好ましく、より好ましくは60〜80重量%である。これらと共重合可能なその他のビニル系単量体(e)は30重量%以下が好ましい。これらの割合で使用することにより、良好な透明性、耐衝撃性及び成形加工性を得ることができる。
【0028】
本発明の透明熱可塑性樹脂組成物は、特定の高級脂肪酸エステル(C)を配合してなるものである。
【0029】
本発明における高級脂肪酸エステル(C)は、天然ワックス、例えばキャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ミツロウ、ラノリン等から抽出される高級脂肪酸と、高級アルコールのエステル化物あるいは高級脂肪酸と高級アルコールより合成される化合物が好ましい。
【0030】
合成方法としては、脂肪酸とアルコールより脱水反応で合成する直接エステル化、エステルとアルコールまたはエステルと脂肪酸あるいはエステルとエステルの反応で新しいエステルを合成するエステル交換反応、塩化アシルとアルコールより合成する方法などがある。
【0031】
本発明の高級脂肪酸エステル(C)における高級脂肪酸及び高級アルコールの好ましい炭素数は12〜32である。炭素数が12未満では耐熱性が低下し、炭素数が32を超えると耐衝撃性が低下する。
【0032】
高級脂肪酸エステル(C)には特に制限はないが、リグノセリン酸ミリシルエステルが好適である。
【0033】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体(a)の配合量を、耐傷性の発現に必要な量まで少なくし、その結果として低下する耐衝撃性を、特定の還元粘度をもつビニル系共重合体(B)を用い、且つ特定の高級脂肪酸エステル(C)を配合して保持することによって実現できたものである。
【0034】
ゴム質重合体(a)の配合量Pは、グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)の合計量に対して2.5〜11.5重量%の範囲であり、好ましくは3.5〜10.5重量%であり、より好ましくは4〜10重量%である。配合量Pが本発明の範囲未満である場合は耐衝撃性が劣り、本発明の範囲を超えると表面硬度と耐傷性が劣り好ましくない。
【0035】
ビニル系共重合体(B)の還元粘度Rは特に規定はないが、0.27〜0.36dl/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.28〜0.35dl/gであり、更に好ましくは0.29〜0.34dl/gである。還元粘度Rが0.27dl/g未満では衝撃強度が劣り、0.36dl/gを超えると流動性が低下し成形性が悪くなる。
【0036】
高級脂肪酸エステル(C)の配合量は前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、1〜5重量部である。本発明の範囲未満では摺動性が十分ではなく、本発明の範囲を超えると透明性が低下するため好ましくない。
【0037】
本発明におけるグラフト共重合体(A)、ビニル系共重合体(B)の製造方法には特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合又は乳化重合等のいずれの方法であってもよい。単量体の仕込方法としては、初期一括仕込み、単量体の一部または全てを連続仕込み、あるいは単量体の一部または全てを分割仕込みのいずれの方法を用いてもよい。
【0038】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、目的とする耐衝撃性、耐擦傷性を阻害しない限りにおいて、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系、含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンソフェノン系、サクシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系などの光安定剤などの各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類、リン酸エステル類などの可塑剤、臭素化化合物やリン酸エステル、赤燐等の各種難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの難燃助剤、アルキルカルボン酸やアルキルスルホン酸の金属塩、カーボンブラック、顔料又は染料などを添加することもでき、また、各種強化剤や充填材を配合することもできる。
【実施例】
【0039】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例を挙げるが、これらの実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、ここで特に断りのない限り「%」は重量%、「部」は重量部を示す。
【0040】
本実施例に用いた熱可塑性樹脂組成物の樹脂特性の分析方法を下記する。
【0041】
(1)重量平均ゴム粒子径
「Rubber Age Vol.88 p.484〜490(1960)by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法(アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める)に準じて測定した。
【0042】
(2)グラフト率
グラフト共重合体の所定量(m;約1g)にアセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、この不溶分を60℃で5時間減圧乾燥し、その重量(n)を測定した。グラフト率は下記式より算出した。ここでLはグラフト共重合体のゴム含有率(%/100)である。
【0043】
グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100。
【0044】
(3)共重合体(A)の還元粘度(ηsp/c)
測定するサンプルを0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃でηsp/cを測定した。
【0045】
(4)グラフト共重合体(B)中のアセトン不溶分の還元粘度(ηsp/c)
グラフト共重合体サンプル1gにアセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過する。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を60℃で5時間減圧乾燥したものを(3)と同様に0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃でηsp/cを測定した。
【0046】
(5)重合転化率
島津製作所(株)製ガスクロマトグラフ(GC−14A)を用いて未反応モノマー含有量を測定した。重合率は下記式により算出した。
【0047】
重合率(重量%)=[(仕込みモノマー量−未反応モノマー量)/全モノマー量]
×100。
【0048】
(6)共重合体(A)及びゴム質重合体(b)及び熱可塑性樹脂のアセトン可溶分の屈折率
サンプルに、1−ブロモナフタレンを少量滴下し、アッベ屈折計を用いて以下の条件で屈折率を測定した。
【0049】
光源:ナトリウムランプD線、測定温度:20℃。
【0050】
(7)グラフト共重合体(B)中のアセトン不溶分の屈折率
上記(4)と同様の操作により得た減圧乾燥後の析出物をサンプルとして、上記(5)と同様に屈折率を測定した。
【0051】
(8)全光線透過率
80℃熱風乾燥機中で3時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度250℃に設定した東芝(株)製IS50A成形機内に充填し、即時に成形した角板成形品(厚さ3mm)のヘイズ値[%]を東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して測定した。
【0052】
(9)鉛筆硬度
80℃熱風乾燥機中で3時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度230℃に設定した住友(株)製プロマット成形機内に充填し、射出成形により成形した試験片ISO3167 TypeA(多目的試験片)をJIS K5400に準拠し、測定した。
【0053】
(10)耐傷性試験
上記(9)と同様な条件で成形した試験片を協和界面化学社製自動摩擦・摩耗試験機DFPM−SS型により試験荷重:500g、相手材:Pure Leaf M−210、環境条件:23℃、50%RH、ストローク:40mm、回数:20回で測定した。耐擦傷性は試験後の傷を目視にて確認し、傷の本数によって5段階に順位付けを行った。
【0054】
I:30本以上、II:20〜29本、III:11〜19本、
IV:4〜10本、V:0〜3本。
【0055】
(11)動摩擦係数
上記(9)と同様な条件で成形した試験片を、上記(10)と同条件で測定し、測定速度5mm/sにおける動摩擦係数を測定した。
【0056】
(12)シャルピー衝撃強さ
上記(9)と同様な条件で成形した試験片をISO−179(23℃,4mm厚みVノッチ付き)に準拠した方法で測定した。この値が大きいほど、耐衝撃性が優れる。
【0057】
(13)メルトフローレート
80℃熱風乾燥機中で3時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、ISO−1133に準拠し、220℃、98Nの条件で測定した。この値が大きいほど高い流動性を示し、成形加工性に優れる。
【0058】
[参考例1 グラフト共重合体(A−1)の製造]
ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)50部(固形分換算)、純水200部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄(0.01部)及びリン酸ナトリウム0.1部を反応容器に仕込み、窒素置換後65℃に温調し、撹拌下スチレン11.5部、アクリロニトリル4.0部、メタクリル酸メチル34.5部及びn−ドデシルメルカプタン0.3部の単量体混合物を4時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム2.5部及び純水25部の混合物を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後さらに1時間保持して重合を終了させた。
【0059】
重合を終了したラテックスを1.5%硫酸で凝固し、次いで水酸化ナトリウムで中和、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体(A−1)のグラフト成分のグラフト率は47重量%、屈折率は1.516であった。
【0060】
[参考例2 グラフト共重合体(A−2)の製造]
上記A−1の条件のうち、単量体混合物におけるスチレンの量を37.5部とし、アクリロニトリルの量を12.5部とし、メタクリル酸メチルを加えない他は、A−1と同様の方法で重合を行い、比較例に使用するパウダー状のグラフト共重合体を得た。得られたグラフト共重合体(A−2)のグラフト成分のグラフト率は34重量%であった。
【0061】
[参考例3 ビニル系共重合体(B−1)の製造]
20リットルのオートクレーブに0.05部のメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(特公昭45−24151号公報記載)を165部の純水に溶解した溶液を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、アクリロニトリル5.0部、スチレン25部、メタクリル酸メチル70部、アゾビスイソブチロニトリル0.4部及びt−ドデシルメルカプタン0.30部の混合溶液を反応系を撹拌しながら添加し、60℃にて共重合反応を開始した。さらに15分かけて65℃まで昇温した後、50分かけて100℃まで昇温した。到達後30分間100℃でコントロールした後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、本発明を可能にするビーズ状共重合体を得た。得られたビニル系共重合体(B−1)の還元粘度は0.32dl/gであり、屈折率は1.516であった。
【0062】
[参考例4 ビニル系共重合体(B−2)の製造]
上記B−1の条件のうち、混合溶液におけるt−ドデシルメルカプタンの量を0.18部とした他は、B−1と同様の方法で重合を行い、本発明を可能にするビーズ状共重合体を得た。得られたビニル系共重合体(B−2)の還元粘度は0.35dl/gであり、屈折率は1.518であった。
【0063】
[参考例5 ビニル系共重合体(B−3)の製造]
上記B−1の条件のうち、混合溶液におけるt−ドデシルメルカプタンの量を0.40部とした他は、B−1と同様の方法で重合を行い、本発明を可能にするビーズ状共重合体を得た。得られたビニル系共重合体(B−3)の還元粘度は0.28dl/gであり、屈折率は1.518であった。
【0064】
[参考例6 ビニル系共重合体(B−4)の製造]
上記B−1の条件のうち、混合溶液におけるt−ドデシルメルカプタンの量を0.45部とした他は、B−1と同様の方法で重合を行い、比較例に使用するビーズ状共重合体を得た。得られたビニル系共重合体(B−4)の還元粘度は0.25dl/gであり、屈折率は1.516であった。
【0065】
[参考例7 ビニル系共重合体(B−5)の製造]
上記B−1の条件のうち、混合溶液におけるアゾビスイソブチロニトリルの量を0.25部とし、t−ドデシルメルカプタンの量を0.15部とし、60℃にて共重合反応を開始した。さらに15分かけて65℃まで昇温した後、30分かけて100℃まで昇温した。到達後30分間100℃でコントロールした後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、比較例に使用するビーズ状共重合体を得た。得られたビニル系共重合体(B−5)の還元粘度は0.39dl/gであり、屈折率は1.520であった。
【0066】
[参考例8 ビニル系共重合体(B−6)の製造]
上記B−1の条件のうち、混合溶液におけるアクリロニトリルの量を27部とし、スチレンの量を73部とし、メタクリル酸メチルを加えない他は、B−1と同様の方法で重合を行い、比較例に使用するビーズ状共重合体を得た。得られたビニル系共重合体(B−6)の還元粘度は0.55dl/gであり、屈折率は1.558であった。
【0067】
[参考例9 高級脂肪酸エステル(C−1)]
リグノセリン酸(C24)ミリシル(C30)を用いた。
【0068】
[参考例10 高級脂肪酸エステル(C−2)]
ステアリン酸(C18)ブチル(C4)を用いた。該(C−2)は炭素数が本発明の範囲から外れる。
【0069】
[実施例1〜6]
上記参考例で製造したグラフト共重合体(A−1)と、ビニル系共重合体(B−1)、(B−2)又は(B−3)と、高級脂肪酸エステル(C−1)を、表1に示す配合割合としてヘンシェルミキサーで混練した後、40mmφ押し出し機により、押し出し温度250℃でガット状に押し出しペレット化した。次いで、得られたペレットを用いて、成形温度230℃、金型温度40℃で射出成形し、評価用の試験片を作製した。これらの試験片について各物性を測定した結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

実施例1〜9の結果から明らかなように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性(全光線透過率)、鉛筆硬度、耐傷性、動摩擦係数、シャルピー衝撃強さ及び成形性(メルトフローレート)の全てが優れていた。
【0071】
[比較例1〜9]
上記参考例で製造したグラフト共重合体(A−1)又は(A−2)と、ビニル系共重合体(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)、(B−5)又は(B−6)と、高級脂肪酸エステル(C−1)又は(C−2)を、表2又は表3に示す配合割合としてヘンシェルミキサーで混練した後、40mmφ押し出し機により、押し出し温度250℃でガット状に押し出しペレット化した。次いで、得られたペレットを用いて、成形温度230℃、金型温度40℃で射出成形し、評価用の試験片を作製した。これらの試験片について各物性を測定した結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

表2の結果から判るように、比較例1は、熱可塑性樹脂中のゴム質重合体(a)の配合量が本発明の範囲より少なく、衝撃強さが劣っていた。
【0073】
また、比較例2は、実施例9に比べ熱可塑性樹脂中のゴム質重合体(a)の配合量が多く、本発明の範囲から外れるため、透明性、耐衝撃性及び動摩擦係数は満足しているが、鉛筆硬度及び耐傷性が劣っていた。
【0074】
また、比較例3は、グラフト共重合体(A)を含まないため、衝撃強さが劣っていた。
【0075】
また、比較例4は、高級脂肪酸エステル(C−1)の配合量が本発明の範囲より多いため、透明性が劣っていた。
【0076】
また、比較例5は、高級脂肪酸エステル(C)を含まないため、衝撃強さが劣っていた。
【0077】
また、比較例6の高級脂肪酸エステル(C−2)は、実施例2の高級脂肪酸エステル(C−1)に比べ炭素数が少なく、本発明の範囲から外れるため、透明性、鉛筆硬度及び成形性は満足しているが、耐傷性及び動摩擦係数が劣っていた。
【0078】
また、比較例7は、実施例2に比べて、使用しているビニル系共重合体(B−6)がメタクリル酸メチルを含まないため、動摩擦係数、耐衝撃性および成形性は満足しているが、透明性、鉛筆硬度及び耐傷性が劣っていた。
【0079】
また、比較例8は、実施例2に比べ、使用しているグラフト共重合体(A−2)がメタクリル酸メチルを含まないため、動摩擦係数、耐衝撃性および成形性は満足しているが、透明性、鉛筆硬度及び耐傷性が劣っていた。
【0080】
また、比較例9は、実施例9と同量のゴム質重合体を配合し、同質・同量の高級脂肪酸エステルを配合しているが、グラフト共重合体(A−2)及びビニル系共重合体(B−6)にメタクリル酸メチルを含まないため、動摩擦係数、耐衝撃性および成形性は満足しているが、透明性、鉛筆硬度及び耐傷性が劣っていた。
【0081】
すなわち、比較例の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、鉛筆硬度、耐傷性、表面硬度、動摩擦係数、衝撃強さ及び成形性の全てを満足することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体(a)及び不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含有するグラフト共重合体(A)と、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)を含有するビニル系共重合体(B)の合計100重量部に対し、炭素数12〜32の高級脂肪酸と炭素数12〜32の高級アルコールとのエステル化物である高級脂肪酸エステル(C)を1〜5重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、(A)と(B)の合計量に対するゴム質重合体(a)の配合量Pが2.5〜11.5重量%の範囲であることを特徴とする透明熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
グラフト共重合体(A)を構成する単量体混合物が、ゴム質重合体(a)10〜80重量%、芳香族ビニル系単量体(b)9〜49重量%、シアン化ビニル系単量体(c)1〜30重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)50〜90重量%及びこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(e)0〜30重量%からなることを特徴とする、請求項1に記載の透明熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ビニル系共重合体(B)を構成する組成が芳香族ビニル系単量体(b)9〜49重量%、シアン化ビニル系単量体(c)1〜30重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(d)50〜90重量%及びこれらと共重合可能なその他のビニル系単量体(e)0〜30重量%からなることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の透明熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
高級脂肪酸エステル(C)がリグノセリン酸ミリシルエステルであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の透明熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
23℃で測定した厚み3mmにおける全光線透過率が60%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
動摩擦係数が0.25未満であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の透明熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の透明熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。


【公開番号】特開2007−154034(P2007−154034A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350859(P2005−350859)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】