説明

通し柱の補強構造

【課題】 通し柱の湾曲を防止して、胴差し仕口個所から折損する危険を軽減する。
【解決手段】 通し柱1の下端を基礎4に固定した第1の引き寄せボルト8に緊結し、上端を上端横架材7aに第2の引き寄せボルト16で緊結し、通し柱1の側面に固定した複数の中継金物9を利用して第1と第2の引き寄せボルト間をタイトボルト10で緊結する。中間横架材6aの個所では、タイトボルト12を中間横架材6aに貫通させ両端を中間横架材6aが接合した個所の上下に固定した中継金物11,13に結合して緊結する。
湾曲に対するタイトボルトの抵抗により、通し柱1が胴差し仕口個所から折損するのが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木造軸組み住宅の通し柱を補強する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
2階建てや3階建ての木造軸組み住宅では、建物の隅部や直線壁となる個所の中央部に複数階通しの柱(通し柱)を用いることがある。通し柱には、梁や桁等の横架材を胴差しする仕口個所があり、この個所では、横架材の端部を差し込む「ほぞ」が穿たれていて通し柱の断面欠損個所となっている。ほぞの深さは柱寸法の約1/3(120mm角であれば40mm)までとの規制があるが、柱の欠損個所であることに変わりなく、しかも、1本の通し柱のほぼ同じ個所に横架材が2方向(建物隅部の梁と桁)や3方向(梁と通し柱両側の桁等)、場合によっては、4方向から集中し、柱断面の欠損は大きい。
一方、2階建て住宅の場合、地震などの揺れがあると、梁などの横架材が通し柱を側方から押すように作用し、通し柱を湾曲させる。通し柱が湾曲する場合、断面欠損の大きな前記仕口個所に応力が集中して、4方向にほぞがあると側方へ約20mmの変位で柱が折損すると考えられている。3方向では30mm,2方向では40mmとされている。このため地震時に通し柱が折れる事態が心配される。
【0003】
特許文献1では、躯体四隅の通し柱(6)における梁(10)を接合する仕口個所に、断面L字形の中間固定部(A´)を取り付けている。これにより、仕口個所が補強されることが推測されるが、この中間固定部(A´)は梁固定部(D)とあわせて通し柱と梁との「接合状態」を補強しようとするもので、通し柱の補強ではない。
特許文献2の連結補強具(100)は、梁(110)を貫通し柱(6)に両端を結合した第1軸(200)と、梁(110)を貫通し両端を梁(110)に固定した第2軸とをその端部同士を連結アームで結合した構造であり、やはり、梁(110)と上下の間柱の「接合状態」を維持するための補強部材である。第1軸(200)は、梁(110)を貫通して柱(6)に両端を結合した構造であるが、通し柱(6)が湾曲することを防止して補強しようとする技術的思想は見出せない。
特許文献3は、通し柱の中間仕口部分を鉄板により補強するものであるが、鉄板を通し柱の胴差し仕口個所に巻きつける構造であり、胴差し仕口個所の補強にはなっても、鉄板にほぞ差し込み用の孔を予め形成しておくとか、補強用鉄板の端部同士を溶接しなければならない煩わしがあって、実際的ではない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−194813号公報
【特許文献2】特開2003−221873号公報
【特許文献3】特開2004−92241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、簡単な金物と作業で通し柱そのものを直接に補強する構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
通し柱の側面に中継金物を固定し、これを利用して引き寄せボルトとタイトボルトを通し柱の側面に沿って、基礎から上端横架材まで連続させて緊締し、通し柱を基礎と上端横架材に固定すると同時に通し柱の湾曲を防止する。中継金物を利用した引き寄せボルトとタイトボルトによる補強ラインは、通し柱の複数の側面に取り付けることがある。
【発明の効果】
【0007】
通し柱の下端(基礎側)と上端(上端横架材側)が確実に固定されるとともに、緊締状態の引き寄せボルトとタイトボルトは、通し柱が湾曲しようとするときの抵抗部材となり、地震時に、通し柱が折損する危険を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
通し柱の下端を、基礎に固定された引き寄せボルト(アンカーボルト)で土台に緊結し、上端を上端横架材に固定された引き寄せボルトで上端横架材に緊結し、中間に固定した中継金物間をこれらに両端を結合したタイトボルトで緊結する。引き寄せボルトとタイトボルトは通し柱に沿って上下方向の同一線上に配置されることが好ましい。
【実施例1】
【0009】
図1は、2階建ての木造軸組み住宅における通し柱1を補強ライン2,3で補強した構造である。通し柱1は、下端が基礎4上の土台5に載置され、中間に2階床構造の梁となる中間横架材6aと桁となる中間横架材6bが接合され、上端に屋根小屋組みの梁となる上端横架材7aと桁となる7bが接合されている。
補強ライン2,3の構成は同じで、通し柱1の下端側から第1の引き寄せボルト8(アンカーボルト)、第1の中継金物9、第1のタイトボルト10、第2の中継金物11、第2のタイトボルト12および第3の中継金物13、第3のタイトボルト14、第4の中継金物15及び第2の引き寄せボルト16で構成されている。
【0010】
第1〜第4の中継金物9,11,13,15は同じ構造であり、図2、図4に示すように、両側の取り付け板部17と中央で断面U字形をした係合部18とで構成され、係合部18は上係合部18aと下係合部18bに分かれ、間にスペース19が形成されている。スペース19には長ナット20が配置される。スペース19の間隔と長ナット20の軸方向寸法はほぼ同じかわずかに小さくしてあり、スペース19で長ナット20が回転できるようになっている。
【0011】
第1の引き寄せボルト8(図1)は、基礎4に下端部を固定されたアンカーボルトであり、上部を土台5に貫通させて上方に突出させてある。第2の引き寄せボルト16は、上端横架材7aに貫通させ下部を下方へ突出させるもので、上部は上端横架材7aに固定される。固定の態様はワッシャとナットによるなどさまざまであるが、この実施例では座金付きボルトを利用している。第1〜第3のタイトボルト10,12,14は、いずれも鋼棒の両端に左ねじと右ねじを形成したもので、これらのねじを長ナット20に螺合することができる。
【0012】
補強ライン2は、次のように形成される。
上端横架材7aに貫通させた第2の引き寄せボルト16の下部を第4の中継金物15の上係合部18aに挿し通してスペース19に配置した長ナット20で仮止めしておく。
第4の中継金物15の下係合部18bに第3のタイトボルト14の上部を挿し通して前記の長ナット20で仮止めし、さらに、第3のタイトボルト14の下部を第3の中継金物13の上係合部18aに挿し通して長ナット20で仮止めしておく。
中間横架材6aを貫通させた第2のタイトボルト12の上部を前記第3の中継金物13の下係合部18bに挿し通して前記の長ナット20で仮止めし、さらに、第2のタイトボルト12の下部を第2の中継金物11の上係合部18aに挿し通して長ナット20で仮止めしておく。
【0013】
第2の中継金物11の下係合部18bに第1のタイトボルト10の上部を挿し通して前記の長ナット20で仮止めし、さらに、第1のタイトボルト10の下部を第1の中継金物9の上係合部18aに挿し通して長ナット20で仮止めし、第1の中継金物9の下係合部18bに第1の引き寄せボルト8の上部を挿し通して長ナット20に螺合させる。第1のタイトボルト10の下部と第1の引き寄せボルト8の上部とを第1の中継金物9で結合する作業は、第1の中継金物9をけんどん式に移動させて行う。
【0014】
このようにして、各部材が一連に連結されたなら、第1〜第4の中継金物9,11,13,15を通し柱1に取り付け板部17で固定する。ついで、各中継金物における長ナット20を回転して上端横架材7aと基礎4間の引き寄せボルト8、16及びタイトボルト10,12,14を締め上げ緊結する。この際、前記の各部材が通し柱1の側面に沿った上下方向の直線に沿って整列することが好ましい。
【0015】
以上から明らかなように、第1、第2の引き寄せボルト8,16により、通し柱1は基礎4と上端横架材7a間に緊結されるとともに、通し柱1に固定された第1〜第4中継金物9,11,13,15間を結合したタイトボルトが緊結される。通し柱1の縦方向の曲げには凸曲と凹曲があるが、これに応じて、通し柱1が曲がろうとするとき、タイトボルト10,12,14に引き伸ばしあるいは圧縮の力が作用する。しかし、タイトボルト10などの引き伸ばしや圧縮には大きな力が要るので、通し柱1は曲げに対する抵抗力が増し、折損の危険が軽減される。各中継金物における長ナット20は上係合部18aと下係合部18b間のスペース19にあって、上下方向のいずれにもほとんど移動しないから、緊結されたタイトボルトによる曲げに対する抵抗力は凹凸双方に有効である。
また、この実施例は、同じ通し柱1に第2の補強ライン3を形成している。第2の補強ライン3は第1の補強ライン2と同じ構成であるが、第1の補強ライン2とは異なる側面(桁方向)に設定され、前記の凹凸湾曲が生じる面とは直行した面の凹凸湾曲に抵抗するよう配置されている。
【0016】
図3、図5は、中継金物9(11,13,15も同じ)に対する係合構造の他の例であって、前記のような長ナット20を用いずに、通常ナット21を引き寄せボルト8あるいはタイトボルト10の端部に螺合させて中継金物9と係合させてある。それぞれの通常ナット21は引き寄せボルト8やタイトボルト10が緊締されることにより、上係合部18aと下係合部18bに反対向きに係合する。この係合構造では、それぞれにナットを用いることで、長ナット20のように、一つの中継金物9で結合される引き寄せボルト8のねじ方向とタイトボルト10のねじの方向を異なるものにする必要がなく、また、通常ナット21を利用できるので、コストを低減することができる。
【0017】
図6,7は、中継金物9(11,13,15も同じ)に関する他の例であって、係合部18a,18bの断面形状が鍵穴形とされている。この中継金物9では係合部18a,18bの個所における引き寄せボルト8やタイトボルト10の遊動が抑制されるので、通し柱1の湾曲を防止する機能が強化される。
以上、2階建ての場合について説明したが、柱の湾曲を防止するとの観点からすれば、本願の発明は、1階建て住宅の柱や2階建て以上の住宅の通し柱などにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】施工状態を概略で示した側面図。
【図2】中継金物部分の拡大図であり、(イ)は正面図、(ロ)は側面図。
【図3】他の中継金物部分の拡大図であり、(イ)は正面図、(ロ)は側面図。
【図4】中継金物の斜視図(長ナット)。
【図5】中継金物の斜視図(通常ナット)。
【図6】他の中継金物の斜視図(長ナット)。
【図7】他の中継金物の斜視図(通常ナット)。
【符号の説明】
【0019】
1 通し柱
2 補強ライン
3 補強ライン
4 基礎
5 土台
6a,6b 中間横架材
7a,7b 上端横架材
8 第1の引き寄せボルト(アンカーボルト)
9 第1の中継金物
10 第1のタイトボルト
11 第2の中継金物
12 第2のタイトボルト
13 第3の中継金物
14 第3のタイトボルト
15 第4の中継金物
16 第2の引き寄せボルト
17 取り付け板部
18a 上係合部
18b 下係合部
19 スペース
20 長ナット
21 通常ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎上の土台に、複数階を貫く通し柱が立設され、これに中間横架材と上端横架材が接合される木造軸組み住宅において、下部を基礎に固定し土台に貫通させた引き寄せボルトの上部を、通し柱に固定した基部中継金物に結合し、中間横架材を上下に貫通させたタイトボルトの下部と上部を、通し柱に固定した中間中継金物にそれぞれ結合し、上端横架材に貫通させた引き寄せボルトの上部を上端横架材に固定するとともに下部を、通し柱に固定した端部中継金物に結合し、さらに、隣り合う中継金物間をタイトボルトで結合し、それぞれ中継金物との間で緊締してあることを特徴とした通し柱の補強構造。
【請求項2】
引き寄せボルトと中継金物およびタイトボルトとで形成する補強ラインが、通し柱の4側面のうち複数の面に形成してあることを特徴とした請求項1に記載した通し柱の補強構造。
【請求項3】
中継金物は長ナットによって、上方と下方の引き寄せボルトないしタイトボルトの端部を結合するものであることを特徴とした請求項1または請求項2に記載した通し柱の補強構造。
【請求項4】
中継金物は、上方と下方の引き寄せボルトないしタイトボルトをそれぞれの端部に螺合させる通常ナットにより結合するものであることを特徴とした請求項1または請求項2に記載した通し柱の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−299609(P2006−299609A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121320(P2005−121320)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(395021066)ナイス株式会社 (23)
【出願人】(398041764)株式会社カナイ (27)
【Fターム(参考)】