説明

通信システム、歩行者用交通信号灯器及び交通信号制御機

【課題】アンテナ設置用の支柱を不要とでき、かつ、道路の美観を損なうことのない通信システムを提供する。
【解決手段】道路に設置される歩行者用信号灯器1を備え、この歩行者用信号灯器1は、発光体としてLED7を有する光学ユニット2と、この光学ユニット2に組み込まれ当該歩行者用信号灯器1の設置位置の近傍である第1領域A1に対して指向性を有しているアンテナ4とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通信システム、歩行者用交通信号灯器及び交通信号制御機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全の促進や交通事故の防止を目的として、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)が提案されている。このITSでは、道路に通信装置(インフラ装置)が設置されており、この通信装置のアンテナから発せられた情報を、道路を走行する車両の車載機が受信し、この情報を活用することにより、車両の走行についての安全性を向上させることができる(特許文献1参照)。
このような路車間通信を無線によって行なう場合、無線通信の見通しを確保する観点から、歩道等に設置した支柱から車道側にアームを張り出し、このアーム上に通信装置のアンテナを取り付けている。また、前記アームを設けなくても見通しが確保できる場合、前記支柱にアンテナを取り付けることが可能となる。
【0003】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記通信装置のアンテナを道路に設置するために、アンテナ専用の支柱を新たに設けることは経済的でなく、また、道路の美観の点でも好ましくない。
そこで、道路には車両感知器や光ビーコンのヘッド等が設置されているため、これらを取り付けている支柱やアームにアンテナを併設することが考えられる。しかし、この場合においても、美観の点で好ましくない。
【0005】
そこで、アンテナ設置用の支柱を不要とでき、かつ、道路の美観を損なうことのない新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の歩行者用信号灯器は、発光体を有する光学ユニットと、前記光学ユニットに組み込まれ、道路における設置位置の近傍である領域に対して指向性を有しているアンテナとを備えているものである。
【0007】
また、本発明は、前記歩行者用信号灯器に接続され、前記歩行者用信号灯器の点灯及び消灯を行なう交通信号制御機であって、前記アンテナを介して、前記領域に存在する通信相手に対して、前記歩行者用信号灯器の表示に関する信号情報を送信するように構成されているものである。
【0008】
また、本発明の通信システムは、道路に設置される歩行者用信号灯器と、この歩行者用信号灯器の設置位置付近に設置される車両用信号灯器とを備え、前記歩行者用信号灯器は、発光体を有する光学ユニットと、この光学ユニットに組み込まれ当該歩行者用信号灯器の設置位置の近傍である第1領域に対して指向性を有している第1アンテナとを有し、前記車両用信号灯器は、発光体を有する光学ユニットと、この光学ユニットに組み込まれ前記設置位置から離れた第2領域に対する指向性を有している第2アンテナとを有しているものである。
【0009】
本発明によれば、アンテナ(第1アンテナ)を歩行者用信号灯器が有する光学ユニットに組み込ませることで、当該アンテナを目立たなくすることができ、さらに、アンテナ設置用の専用の支柱を不要とすることができる。そして、アンテナによって、歩行者用信号灯器の設置位置の近傍である領域(第1領域)を通信領域とすることができる。
また、一般的に、歩行者用信号灯器は(車両用信号灯器に比べて)低い位置に設置される。低い位置にある歩行者用信号灯器の光学ユニットにアンテナ(第1アンテナ)が組み込まれていることから、このアンテナによる電波は遠くまで飛びにくい。このため、このアンテナを、歩行者用信号灯器の設置位置の近傍である領域に対する指向性を有するものとしやすい。
また、第2アンテナを車両用信号灯器が有する光学ユニットに組み込ませることで、当該第2アンテナを目立たなくすることができ、さらに、第2アンテナ設置用の専用の支柱を不要とすることができる。そして、第2アンテナによって、歩行者用信号灯器の設置位置から離れた第2領域を通信領域とすることができる。
また、一般的に、車両用信号灯器は、歩行者用信号灯器に比べて高い位置に設置される。高い位置にある車両用信号灯器の光学ユニットに第2アンテナが組み込まれていることから、この第2アンテナによる電波を遠くまで飛ばしやすい。このため、この第2アンテナを、前記設置位置から離れた第2領域に対する指向性を有するアンテナとしやすい。
【0010】
また、前記第1アンテナは、前記発光体の前端よりも後方に設けられた状態として前記光学ユニット内に格納されているアンテナ素子を有しているのが好ましい。
これによれば、第1アンテナのアンテナ素子を、光学ユニット内に格納し目立たなくすることができる。そして、第1アンテナのアンテナ素子が光学ユニット内に格納されていても、このアンテナ素子は、発光体の前端よりも後方に設けられているため、アンテナ素子が、発光体による前方への発光(灯光)の妨げになることを防止することができる。
【0011】
または、前記歩行者用信号灯器が有している前記光学ユニットは、可視光透過性を有し前記発光体を前方で覆うカバー部材を有し、前記第1アンテナは、前記カバー部材から前記発光体の前端までの範囲に設けられているアンテナ素子を有し、前記アンテナ素子は可視光透過性を有しているのが好ましい。
これによれば、第1アンテナを、カバー部材から発光体の前端までの範囲として光学ユニットに組み込ませることができる。これにより、アンテナを目立たなくすることができる。そして、アンテナ素子は発光体の前端よりも前方に設けられているが、アンテナ素子は可視光透過性を有しているため、発光体による前方への発光(灯光)の妨げになることを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、アンテナを信号灯器が有する光学ユニットに組み込ませることで、当該アンテナを目立たなくすることができ、さらに、アンテナ設置用の専用の支柱を不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔通信システム全体について〕
図1はこの発明の通信システムの実施の一形態を説明する道路の斜視図である。この通信システムは、道路に設置されている歩行者用信号灯器1を備えており、この歩行者用信号灯器1は、複数(図例では上下の二つ)の光学ユニット2と、この光学ユニット2に組み込まれているアンテナ4とを有している。
歩行者用信号灯器1は、十字路にある交差点Xに設置されている。なお、図1では説明を容易とするために、歩行者用信号灯器1を一つのみ示しているが、図2の平面図に示しているように、交差点Xの四角部のそれぞれに、歩行者用信号灯器1は設置されている。
【0014】
また、図2に示しているように、交差点Xに四方向から道路が繋がっており、各道路を横断する方向に対向して一対の歩行者用信号灯器1が設置されている。
また、後に説明するが、この通信システムは、この交差点Xに設置されている車両用信号灯器51(図1参照)を備えている。車両用信号灯機51は道路の上方位置に設置されている。この車両用信号灯器51についても、交差点Xに複数設置されている。
【0015】
〔歩行者用信号灯器1について〕
図3は歩行者用信号灯器1の正面図である。図1と図3とにおいて、交差点Xにおける路側に支柱40が設置されており、この支柱40に、歩行者用信号灯器1が道路に向けられて取り付けられている。
図3において、歩行者用信号灯器1は、上下に二つの光学ユニット2と、これら光学ユニット2を組み込んでいる筐体3とを有している。上の光学ユニット2は赤の灯色を有しており、下の光学ユニット2は青の灯色を有している。各光学ユニット2にはひさし3aが取り付けられている。
【0016】
支柱40には、歩行者用信号灯器1の点灯及び消灯を制御する制御装置(交通信号制御機)5が取り付けられている。または、この制御装置5は、筐体3内に設けられたものであってもよい。
また、制御装置5は、後述するアンテナ4を介した無線通信制御を行うように構成することができるが(あるいは無線通信制御を行う装置を同一筐体内に内蔵させることができるが)、別々の装置としても良い。別々とする場合、前記無線通信制御を行う装置は、信号灯器1の点灯等を制御する制御装置の近傍(同一の支柱40)に設置することが好ましい。
【0017】
図4は歩行者用信号灯器1が有する光学ユニット2の分解斜視図である。図5はこの光学ユニット2の断面図である。光学ユニット2は、発光体としての発光ダイオード7(以下LEDという)、複数のLED7が前面に実装された基板8、マスク板22、拡散板23、収容部材6及びカバー部材9を有している。
【0018】
図5において、LED7はレンズ部38を有し、このレンズ部38内にLED素子(図示せず)が設けられている。
基板8は、その表面や裏面に配線パターンが形成されており、LED7の端子37と繋がっている。基板8上には複数のLED7が面状に広がって配設されている。
マスク板22は、透明板(透明樹脂板)に遮光膜を部分的に施したものであって、図4に示しているように、人形図柄の透光部22a及びこの透光部22a以外の部分を遮光する遮光部22bが設けられている。
拡散板23はLED7の光を拡散させる部材であり、樹脂製とすることができる。拡散板23はマスク板22の後方に設けられている。
【0019】
図5において、収容部材6は、底部(底壁)6aと、この底部6aの周縁から立設した側部(側壁)6bとを有している皿形状であり、前方に開口している。その開口側である前部に、カバー部材9が取り付けられている。これにより、収容部材6とカバー部材9との間に収容空間部Sが形成されており、この収容空間部Sに、マスク板22、拡散板23、LED7及び基板8が収容されている。そして、マスク板22、拡散板23及び基板8は収容部材6に固定されている。収容空間部Sのうち、基板8よりも前方を前空間部S1とし、基板8よりも後方を後空間部S2としている。マスク板22及び拡散板23は、前空間部S1に設けられている。
【0020】
カバー部材9は可視光透過性を有しており(可視光に対して透明であり)複数のLED7を前方で覆っている。なお、この光学ユニット2において、前方とは光の投光側であり(カバー部材9側であり)、後方とは収容部材6の底部6a側である。
【0021】
図6は、光学ユニット2の正面図である。この図6では、カバー部材9、マスク板22及び拡散板23を外した状態としている。
そして、この光学ユニット2に第1アンテナ4が組み込まれている。図4〜図6に示している第1アンテナ4はパッチアンテナであり、パッチ素子11とグランド素子12とを有している。図5において、パッチ素子11とグランド素子12とは、前記光学ユニット2内に、つまり前記収容空間部Sに、格納(収容)されている。これにより、歩行者用信号灯器1の光学ユニット2のそれぞれに第1アンテナ4が組み込まれた構成となる。パッチ素子11とグランド素子12の形態等については、後に説明する。
【0022】
図1に示しているように、歩行者用信号灯器1に組み込まれた第1アンテナ4は、歩行者用信号灯器1の設置位置の近傍である交差点X内の第1領域A1に対して指向性を有するように設定されている。なお、第1アンテナ4は、交差点X内のみならず、交差点Xの近傍の領域(交差点Xの路側、交差点Xの出入り口部分の道路)に対して指向性を有していてもよい。また、道路を挟んで対面で設置されている他の歩行者用信号灯器に取り付けたアンテナと通信させてもよい。
【0023】
この第1アンテナ4は、例えば、交差点X内に存在している車両C1又は軽車両の車載機(図示せず)との間で無線通信を行なうものとして利用される。この場合、第1アンテナ4と車載機との間で路車間通信が可能となる。また、この第1アンテナ4による他の通信相手としては、交差点X内、交差点X近傍の横断歩道又は路側(歩道)を通行する歩行者が所有している携帯端末がある。なお、これら車載機、携帯端末との間の無線通信は、前記制御装置5の制御によって行なわれる。
【0024】
〔車両用信号灯器51について〕
図1において、歩行者用信号灯器1の設置位置付近に、つまり同じ交差点Xに、車両用信号灯器51が設置されている。この車両用信号灯器51は、後にも説明するが、歩行者用信号灯器1と同様に、発光体としてLEDを有する光学ユニット52を複数(図1では三つ)備えている。そして、光学ユニット52に第2アンテナ54が組み込まれている。この第2アンテナ54は、交差点Xから離れた道路上の第2領域A2に対する指向性を有するように構成されている。
【0025】
この車両用信号灯器51に組み込まれている第2アンテナ54は、交差点Xに向かって走行してくる車両C2の車載機との間で無線通信(路車間通信)を行なうものとして利用される。なお、この路車間通信は、車両用信号灯器51を制御する制御装置55(図13参照)によって行なわれるように構成することができるが、この制御装置55と、歩行者用信号灯器1を制御する前記制御装置5との間で通信が行なわれ、両制御装置5,55によって共同して路車間通信を行なうように構成してもよい。
【0026】
〔第1アンテナ4及び第2アンテナ54について〕
図1に示しているように、歩行者用信号灯器1の光学ユニット2は、交差点X及びその近傍に存在する歩行者に対して灯色を示すことを主に目的としている。このために、歩行者用信号灯器1は、車両用信号灯器51に比べて低い位置に設置されている。さらに、歩行者用信号灯器1の光学ユニット2の投光方向は、交差点Xから離れた遠方ではなく、交差点X乃至その近傍の領域に向けられれば充分である。
【0027】
そこで、この低い位置にある歩行者用信号灯器1に通信用の第1アンテナ4を組み込み込んでいる。これにより、歩行者用信号灯器1は低い位置にあることから、第1アンテナ4からの電波は遠くまで飛びにくく、図7の道路の側面図に示しているように、この第1アンテナ4の指向性を、光学ユニット2の投光方向と同様に、歩行者用信号灯器1の設置位置の近傍である交差点X乃至その近傍の領域(第1領域A1)に向けたものとすることができる。この結果、第1領域A1を、第1アンテナ4による通信領域とすることができる。
【0028】
このような歩行者用信号灯器1に対して、車両用信号灯器51の光学ユニット52は、交差点Xから離れた位置(例えば交差点Xから20〜30m手前)に存在する車両C2に対して灯色を示すことを主に目的としている。このために、車両用信号灯器51は道路(交差点X)の上方の高い位置に設置されている。これにより、車両用信号灯器51の光学ユニット52における投光方向を、交差点Xから離れた遠方とすることができる。
【0029】
そこで、この高い位置にある車両用信号灯器51に通信用の第2アンテナ52を組み込み、車両用信号灯器51の光学ユニット52の投光方向と、この光学ユニット52に組み込んだ第2アンテナ54の指向性とを同じ方向(略同じ方向)とする。このように、高い位置にある車両用信号灯器51の光学ユニット52に第2アンテナ54が組み込まれていることから、電波を遠くまで飛ばしやすく、この第2アンテナ54が、交差点Xから離れた道路上の第2領域A2に対する指向性を有するものとなる。この結果、第2領域A2を、第2アンテナ4の通信領域とすることができる。
【0030】
このように、通信システムは、歩行者用信号灯器1に設けた第1アンテナ4を、交差点X内乃至その近傍の第1領域A1における送受信用アンテナとし、車両用信号灯器51に設けた第2アンテナ54を、交差点Xから離れた道路上の第2領域A2における送受信用アンテナとして、使い分けることができる。この使い分けの制御は、前記制御装置5,55が行なう。
【0031】
また、制御装置5は、第1アンテナ4を介して、第1領域A1に存在する車両C1(通信相手)に対して、各種情報を送信するように構成するために、図2に示しているように、歩行者用信号灯器1に設けられた第1アンテナ4の指向性を、交差点Xの中央部を含む方向に向けるのが好ましい。この場合、交差点Xの中央部に存在している車両C1、例えば右折しようと中央部で停止している車両C1の車載機と、前記制御装置5との間で、第1アンテナ4を介して無線通信を行なうことができる。
このために、制御装置5は各種情報を予め入手している(記憶している)。これによれば、情報が第1アンテナ4から送信され、これを車両C1が受信することにより、車両C1はこの情報に基づいて例えば運転支援制御を行なうことができる。
【0032】
前記情報としては、交差点Xにおける歩行者用信号灯器1の現在及び将来の表示(灯色)に関する信号情報、車両用信号灯器51の現在及び将来の表示に関する信号情報、交差点Xへ向かって走行してくる他の車両についての車両情報、交差点Xを右左折しようとしているのであれば、当該進行方向に関する情報等がある。また、ある地点から別の地点までの旅行時間に関する情報や、車両の走行軌跡に関するプローブ情報等を含めてもよい。
この情報が第1アンテナ4から送信され、これを車両C1が受信することにより、車両C1は、交差点内においてまたは交差点通過後に、この情報を運転支援制御に活用することができる。
【0033】
前記運転支援制御として、交差点Xから右折しようとしている車両C1が第1アンテナ4から受信した信号が、車両用信号灯器51の灯色に関する情報であって、進行可能(右折可能)となる(青の)灯色となるまでの時間情報を含む場合、その時間情報の長短に応じて、車両C2(車載コンピュータ)は自動的にアイドリングストップをしたり、エンジン始動させたりする制御を行なうことができる。
または他の運転支援制御として、交差点Xに存在している車両C1が第1アンテナ4から受信した情報が、その車両C1がその交差点Xを通り過ぎた後の走行方向前方の道路情報や、交差点Xに向かって走行している別の車両についての車両情報であって、この情報が危険予知に関するものである場合、車載機はドライバに対してその旨を音声によって報知したり、ヘッドアップディスプレイやナビゲーション装置の画面上に文字や図柄によって報知したりすることができる。
【0034】
また、図2に示しているように、交差点Xの各角部に設けられている歩行者用信号灯器1に第1アンテナ4を設け、それぞれの第1アンテナ4が第1領域A1に対する指向性を有しているのが好ましい。この場合、交差点X内において、一つの歩行者用信号灯器1の第1アンテナ4と、通信相手である車両C1の車載機(歩行者の携帯端末)との間に、例えば背の高い別の車両(図示せず)が停車中となり、当該一つの歩行者用信号灯器1の第1アンテナ4による通信が遮断されていても、車両C1の車載機(歩行者の携帯端末)は、別の第1アンテナ4との間で通信を行なうことができる。さらに、交差点Xの各角部に設置されている歩行者用信号灯器1に第1アンテナ4が設けられている場合、交差点Xの広い範囲を通信領域とすることができる。
【0035】
そして、歩行者用信号灯器1が有している光学ユニット2に第1アンテナ4を組み込んでいるため、また、車両用信号灯器51が有する光学ユニット52に第2アンテナ54を組み込んでいるため、第1アンテナ4、第2アンテナ54を目立たなくすることができ、また、アンテナ設置用の専用の支柱を不要とすることができる。
【0036】
〔歩行者用信号灯器1の第1アンテナ4について(その1)〕
第1アンテナ4の構造について説明する。
図5と図6とにおいて、第1アンテナ4はパッチアンテナであり、パッチ素子11とグランド素子12とを有している。パッチ素子1は、矩形の平面状に形成されており、基板8から前方へ立設した支持部材13によって支持されかつ固定されている。支持部材13は絶縁部材からなる。そして、パッチ素子11は、カバー部材9からLED7の前端39までの範囲Aに設けられている。
【0037】
また、パッチ素子11及びグランド素子12は、マスク板22及び拡散板23よりも後方に設けられている。カバー部材9は、その後面(背面)9aが凹曲面であって、前面9bが凸曲面であり、パッチ素子11はカバー部材9の後面9aから後方に離れて設けられている。なお、パッチ素子11の輪郭は矩形以外に円形であってもよい(図示せず)。
なお、ここではカバー部材9を凹凸の曲面としたが、信号灯器1がLED灯器であれば、平面とすることもできる。
【0038】
グランド素子12は、矩形の平面状(平板状)に形成されており、基板8の前面8aにおいて当該基板8に取り付けられている。例えば、グランド素子12は、収容部材6に基板8と共にネジによって共締めされる。またはグランド素子12は、基板8に立設させた前記支持部材13によって支持されかつ固定されていてもよい。そして、このグランド素子12は、パッチ素子11の後方であって、前後方向について基板8とLED7の前端39との間に設けられている。また、グランド素子12の輪郭形状はパッチ素子11の輪郭形状よりも大きくなっている。
【0039】
これにより、グランド素子12とパッチ素子11とが、前空間部S1内に設けられ、パッチ素子11は、カバー部材9からLED7の前端39までの範囲Aに設けられ、グランド素子12はパッチ素子11の後方に設けられた状態となる。そして、グランド素子12とパッチ素子11とが、前後方向に対向した配置となり、この第1アンテナ4の指向性を歩行者用信号灯器1から前方へ向かう方向とすることができる。なお、この第1アンテナ4の前方への指向性は、左斜め前方又は右斜め前方であってもよい。
そして、歩行者用信号灯器1は歩行者等に対して見通しが良い位置に設置されることから、このアンテナ指向性によって、交差点Xにおける車両C1(図1参照)の車載機や歩行者の携帯端末との間で、良好な通信状態が得られる。
【0040】
また、この第1アンテナ4が格納された歩行者用信号灯器1を、路車間で無線通信を行なう高度道路交通システム(ITS)に利用するために、使用周波数を715MHz〜725MHzと設定する場合、グランド素子12とパッチ素子11との前後方向の間隔を10〜40mmに設定することができる。なお、これはグランド素子12とパッチ素子11との間に、空気が介在している場合である。
【0041】
また、この図5の実施形態では、基板8の前面8aからLED7の前端39までの距離が小さくても、パッチ素子11をこの前端39よりも前方に配置することができるため、グランド素子12とパッチ素子11との前後方向の間隔を所望の値に設定しやすい。
グランド素子12とパッチ素子11との間が空気のみによって絶縁されている場合、両者の間隔は20〜30mm程度であるが、グランド素子12とパッチ素子11との間に絶縁部材として樹脂板が設けられていてもよく(図示せず)、この場合、両者間の誘電率が変化するため両者の間隔を前記値よりも小さくすることができる。この絶縁部材としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、フッ素樹脂板、ガラスエポキシ、FRP又はポリアセタール板がある。なお、この絶縁部材について、フッ素樹脂、ガラスエポキシ、ポリアセタール等のように、光の透過性が乏しい素材を採用し、LED7の前端39よりも前方に配置する場合には、可視光透過性を確保するため、この絶縁部材に開口部(孔)を有する構造とすれば良い。
また、グランド素子12とパッチ素子11とは平行に配置されていてもよいが、アンテナ指向性を斜め前方に調整するために、例えばアンテナ指向性が左前方又は右前方に向くように、パッチ素子11及びグランド素子12の一方又は双方が、基板8に対して傾いて配置されていてもよい。
【0042】
なお、歩行者用信号灯器1は交差点Xにおける歩行者への視認性に鑑みて、通常、基板8自体を少し下方に傾けて設置してある。そのため、パッチ素子11及びグランド素子12を基板8に平行に取り付けることによって、アンテナ4の指向性も水平方向よりも下方に向く。さらに、アンテナ4との間の無線通信領域を、交差点Xの中央部側へと限定的としたり確実性を増したりすることを目的として、基板8に対してパッチ素子11及びグランド素子12を右方に向かうように又は左方に向かうように傾けても良い。
【0043】
また、グランド素子12とLED7とは前後方向の位置について重複していることから、グランド素子12には、LED7(LED7のリード線)を挿通させる開口部として複数の孔14が形成されている。この孔14の配置は、LED7の配置と一致させてあり、グランド素子12は網目構造となっている。
これにより、グランド素子12がLED7に干渉することがないように、グランド素子12の孔14にLED7を挿し入れ、グランド素子12を所定の位置に設置することができる。そして、この形態によれば、グランド素子12はLED7の前端39よりも後方となるため、グランド素子12がLED7による前方への発光(灯光)の妨げになることを防止することができる。
なお、グランド素子12に形成している前記開口部の構成としては、図示しているように、素子に孔14をあけて素子と干渉しないようにLED7を配置することができ、または、図示しないが、孔は設けていないが、例えば素子の導電体部分(導体部分)を蛇行状に配置して(導電体部分を一筆書きになるように配置して)、素子と干渉しないようにLED7を配置することもできる。
【0044】
収容部材6(底部6a)には、第1アンテナ4用の同軸ケーブル15を接続させる端子部19が取り付けられており、この端子部19に、図3の制御装置5から延びる同軸ケーブル15を接続することができる。そして、この端子部19から後空間部S2へ延びる同軸ケーブル15aが、第1アンテナ4と接続されている。同軸ケーブル15aは、内導体15b、絶縁体15c、外導体15d及び被覆部15eを有しており、この同軸ケーブル15aの内導体15bがパッチ素子11に接続されており、外導体15dがグランド素子12に接続されている。なお、内、外導体15b,15dと各素子11,12(各素子の導電体部分)とを半田によって接続し固定することができるが、半田以外の方法であってもよい。
なお、図1の制御装置5から延びるLED7用の電源ケーブル(図示せず)が、収容部材6の底部6aに取り付けた端子部(図示せず)を介して、LED用基板8と接続されている。
【0045】
図8は第1アンテナ4を内蔵した光学ユニット2の正面図である。なお、説明を容易とするために、LED7を省略して図示している。
LED7の前端39よりも前方にあるパッチ素子11は、このLED7の前方への投光を阻害しないように、パッチ素子11の厚さ方向(前後方向)に、可視光透過性を有している(可視光に対して透明である)。
なお、ここにいうパッチ素子11における可視光透過性とは、パッチ素子11の導電体部分(導体部分)が透明又は半透明である場合のみならず、パッチ素子11を構成する導電体部分は可視光を遮断するが、パッチ素子11の導電体部分が設けられていない部分を可視光がすり抜けて、パッチ素子11の後方において発光された可視光がパッチ素子11の前方に到達する状態をも含む。
【0046】
具体的に説明すると、パッチ素子11は、可視光透過用の開口を有する導電体からなる。つまり、図8に示しているように、パッチ素子11をメッシュ構造による導電体とすることにより、パッチ素子11は可視光透過性を有している。このように、パッチ素子11をメッシュ構造とするために、導線によって(導線を編んで)形成することができる。
【0047】
このパッチ素子11を、例えば、径(幅)が1mmである導線によってメッシュ構造とする場合、この導線のピッチ(メッシュの間隔)を所定の値として(例えば20mmとして)上下方向及び左右方向に編み、網目状金属素子とすることができる。このピッチが20mmである場合、そのピッチは約1/20波長となり、使用する周波数を約720MHz、波長を約420mmとすることができる。
また、パッチ素子11のメッシュ数(メッシュ粗さ)は変更自在であり、粗くしてパッチ素子11の面を四分割した網目状金属素子としてもよい(図示せず)。これ以外に、図示しないが、一面を二分割したもの、三分割したもの等であってもよい。
【0048】
メッシュの間隔は、特に限定されないが、1/5波長以下とするのが好ましく、特に1/10波長以下が好ましい。メッシュの間隔が小さい程高い周波数まで対応することができる。
なお、導線の強度を確保するため、導線の径(幅)は0.5mm以上が好ましく、一方で光の透過率を高めるために、2mm以下とすることが好ましい。ただし、導線を樹脂板の上に蒸着させる方法などによって製造する場合には、強度について考慮する必要性が乏しいため、その導線の幅は0.5mm以下であっても良い。
【0049】
また、図示しないが、パッチ素子11を外形枠構造(フレーム構造)による導電体とすることにより、可視光透過性を有するものとしてもよい。この外形枠構造は、面状とするパッチ素子11の輪郭部分にのみ導線が設けられて得た構造である。
【0050】
また、パッチ素子11をメッシュ構造乃至外形枠構造とする場合、前記のような導線を利用する以外に、板部材の表面に金属膜(金属薄膜)による網目を形成してもよい。この場合、図5の二点鎖線で示しているように、可視光透過性のある板部材16が、カバー部材9とLED7の前端39との間に設けられており、この板部材16の表面又は裏面(図例では表面)にメッシュ構造乃至外形枠構造であるパッチ素子11を形成してもよい。そして、この板部材16が前記支持部材13に取り付けられている。
【0051】
板部材16としては、例えば透明の樹脂板とすることができる。板部材16は可視光を充分に透過する材料であるのが好ましく、例えば、ポリカードネート、アクリル、ポリエチレンテレフタラート、ガラスなどによれば薄くても強度の面で優れ、また、安価で好ましい。
板部材16を利用する場合の具体例としては、板部材16の面に、例えば線幅10μmであってピッチ(メッシュの間隔)を100μmとする導線部からなる微細なメッシュを形成すればよい。このように板部材16に微細なメッシュを形成する場合、線幅が1μm以上で50μm以下であり、ピッチが50μm以上で1000μm以下とするのが好ましい。
なお、メッシュ形状は、図示したような四角形状に限らず、三角形状、ハニカム形状とすることができ、また、全体として放射形状(蜘蛛の巣形状)等とすることができる。
【0052】
また、パッチ素子11が可視光透過性を有しているものとするために、パッチ素子11を可視光透過性を有する薄膜導電体(薄膜金属)から形成することができる。そして、この薄膜導電体を前記板部材16に形成することでパッチ素子11を薄く、所定の形状に形成することができる。この場合、薄膜導電体の厚さを1μm以上であり100μm以下とするのが好ましく、これにより、可視光透過性を有するものとなる。
【0053】
パッチ素子11を板部材16に形成する方法として、以下のものがある。パッチ素子11を単独で形成し、これを板部材16に貼り付ける。この場合、パッチ素子11を板部材16に粘着部材(粘着テープ)によって接着する。または、板部材16に対して金属蒸着を行なうことでパッチ素子11を形成してもよい。または、板部材16に対して印刷によってパッチ素子11を形成してもよい。または、板部材16に対して金属メッキを施してパッチ素子11を形成してもよい。
【0054】
グランド素子12は金属板から形成されている。そして、パッチ素子11及びグランド素子12の材質としては、導電性があり、導電率の高い材料が好ましく、例えば、銅、真鍮などの銅合金、アルミが好ましく、鉄、ニッケル又はその他の金属とすることもできる。また、高周波は表面に電流が流れることから、板部材16に金属蒸着したものや、金属メッキ(金や銀のメッキ)を施したものでもよい(図示せず)。
なお、光学ユニット2の収容部材6は、鋼板、アルミ又は樹脂製である。カバー部材9は、レンズであり、ガラス又は樹脂製である。
なお、ここではカバー部材9を凹凸の曲面としたが、信号灯器1がLED灯器であれば、カバー部材9をレンズではなく、平面なガラス等の平板とすることもできる。
【0055】
第1アンテナ4を光学ユニット2に内蔵したアンテナ内蔵型である歩行者用信号灯器1の他の実施形態を説明する。図9は、この歩行者用信号灯器1が備えている光学ユニット2及びアンテナ4を示している断面図である。この歩行者用信号灯器1は前記実施形態と同様に、光学ユニット2と、第1アンテナ4とを備えており、光学ユニット2は、LED7が実装されている基板8、可視光透過性を有しLED7を前方で覆うカバー部材9、マスク板22及び拡散板23などを有している。そして、第1アンテナ4は、カバー部材9からLED7の前端39までの範囲Aに設けられているパッチ素子11と、このパッチ素子11の後方にあるグランド素子12とを有しており、パッチ素子11は可視光透過性を有している。
【0056】
この図9の実施形態と前記実施形態(図5)との相違点は、パッチ素子11の取り付け構造及びグランド素子12の位置であり、その他の構成は同様である。
すなわち、カバー部材9の後面9aにパッチ素子11が形成されている。つまり、パッチ素子11はカバー部材9の後面9aに引っ付いて形成されている。この場合、パッチ素子11は、カバー部材9の凹曲面に沿った曲面形状のものである。
そして、グランド素子12は、LED7の前端39よりも前方に設けられている。
【0057】
この場合、グランド素子12についても、可視光透過性を有している。グランド素子12をパッチ素子11と同じ構成とすることにより、可視光透過性を有するものとすることができる。すなわち、グランド素子12は、メッシュ構造乃至外形枠構造による導電体からなる。また、グランド素子12は、可視光透過性を有する薄膜導電体からなるものとすることができる。
さらに、図5のパッチ素子11を板部材16に形成している場合と同様に、図9において、光学ユニット2は、可視光透過性のある板部材17(図9の二点鎖線)を有しており、グランド素子12をこの板部材17の前面又は後面に形成することができる。なお、板部材17に対するグランド素子12の形成方法は、前記パッチ素子11の場合と同様である。
【0058】
この図9の実施形態では、グランド素子12がLED7の前端39よりも前方に設けられているが、グランド素子12は可視光透過性を有しているため、LED7の前端39から前方への発光(灯光)の妨げになることを防止することができる。なお、この場合、図5のグランド素子12に必要であった孔14は不要となる。
また、図9のグランド素子12は、マスク板22及び拡散板23よりも後方に設けられているが、他の形態として、(図示しないが)マスク板22及び拡散板23よりも前方に設けられていてもよい。
さらに、他の形態として、LED基板8に形成した回路配線(配線パターン部)を、前記グランド素子として使用(兼用)することもできる。
【0059】
以上の各実施形態では、パッチ素子11及びグランド素子12は、前記空間部Sのうちの前空間部S1に設けられている。
また、図9の実施形態では、パッチ素子11をカバー部材9の後面9aに設けているが、表面9bに設けてもよい(図示せず)。この場合、表面9bに形成したパッチ素子11の上にさらに保護用のカバーシート(図示せず)を被せて設けるのが好ましい。このカバーシートは可視光透過性を有するものである。
【0060】
以上のようにカバー部材9の後面9a(又は前面9b)にパッチ素子11を設ける場合、前記図5の実施形態において板部材16にパッチ素子11を形成したのと同様に、パッチ素子11を薄く所定の形状に形成することが容易となる。また、パッチ素子11を形成するための別部材が不要となる。
【0061】
以上の各実施形態によれば、パッチ素子11及びグランド素子12を有する第1アンテナ4は、歩行者用信号灯器1の光学ユニット2に組み込まれたものとなる。なお、図3の歩行者用信号灯器1は二つの光学ユニット2を有しており、それぞれの光学ユニット2に第1アンテナ4を組み込むことができる。これにより、第1アンテナ4を目立たなくして歩行者用信号灯器1に設置することができ、道路の美観を損なうことがない。
そして、第1アンテナ4が歩行者用信号灯器1の光学ユニット2に組み込まれていることから、アンテナ設置用の専用の支柱を不要とすることができる。また、パッチ素子11はLED7の前端39よりも前方に設けられているが、パッチ素子11は可視光透過性を有しているため、LED7による前方への発光(灯光)の妨げになることを防止することができる。
さらに、アンテナ4が露出した状態(突出した状態)にないため、信号灯器1を取り付けるための支柱40及びアーム41(図1)の設計において、アンテナ4が受ける風荷重を追加的に考慮する必要がない。また、アンテナ4に対する防雨、防錆、防塵についても追加的に考慮する必要がない。
【0062】
〔歩行者用信号灯器1の第1アンテナ4について(その2)〕
図10は、第1アンテナ4が組み込まれている光学ユニット2の他の実施の形態を示している断面図である。この実施形態の第1アンテナ4は、前記と同様にパッチアンテナであり、パッチ素子11は、基板8から前方へ離れて設けられているが、LED7の前端39(レンズ部38の前端39)よりも後方に位置している。
グランド素子12は、前記図5の実施形態と同じであり、前後方向について基板8とLED7の前端39との間の位置であり、かつ、パッチ素子11の後方に設けられている。
【0063】
図10において、パッチ素子11とLED7とは前後方向の位置について重複していることから、パッチ素子11には、LED7を挿通させる開口部として複数の孔24が形成されている。さらに、グランド素子12とLED7とは前後方向の位置について重複していることから、グランド素子12には、LED7(LED7の端子37)を挿通させる開口部として複数の孔14が形成されている。これら孔24及び孔14の配置は、LED7の配置と一致させてあり、パッチ素子11及びグランド素子12は網目構造となっている。
【0064】
この実施の形態によれば、第1アンテナ4が光学ユニット2内に格納されていても、パッチ素子11及びこれの後方にあるグランド素子12はLED7の前端39よりも後方に設けられているため、パッチ素子11及びグランド素子12が、LED7による前方への発光(灯光)の妨げになることを防止することができる。
【0065】
また、このように、パッチ素子11及びグランド素子12が、前方への発光(灯光)の妨げになることを防止するために、パッチ素子11はLED7の前端39よりも後方に設けられているが、この「前端39よりも後方」には、パッチ素子11の前面11aとLED7の前端39との前後方向の位置が、略一致している場合を含む。なお、この略一致とは、LED7の前端39の前後方向の位置が、パッチ素子11の厚さ方向の範囲内に存在している場合である。
【0066】
また、他の実施形態として、図示しないが(図10を参考に説明すると)、グランド素子12を、基板8の後方に設けてもよい。すなわち、パッチ素子11は、前空間部S1であって、基板8の前面8aからLED7の前端39までの範囲Aに設けられているが、グランド素子12は、後空間部S2に設けられている。
この実施形態によれば、所望の性能となるパッチアンテナ4とするため、パッチ素子11とグランド素子12との間に、前後方向の所定の広い間隔を設けることができる。つまり、前記のとおり、使用周波数を715MHz〜725MHzとするために、グランド素子12とパッチ素子11との前後方向の間隔を所定の値(10〜40mm)に確保し易くなる。
【0067】
〔アンテナ4の詳細について(その3)〕
図11と図12は、第1アンテナ4が組み込まれている光学ユニット2の別の実施の形態を示している正面図と断面図である。この実施形態の第1アンテナ4は、平衡型のアンテナである。
この実施の形態では、カバー部材9とLED7の前端39との間にアンテナ用基板16が設けられており、このアンテナ用基板16上に第1アンテナ4が形成されている。このアンテナ用基板16には、さらにストリップ線路31が形成されており、ストリップ線路31も光学ユニット2に組み込まれている。
【0068】
図示している第1アンテナ4は、平衡二線で給電されるダイポールアンテナである。アンテナ4は、アンテナ用基板16の一面側(後面側)に薄膜導電体としてパターン形成された線路からなり、図11に示しているように、ダイポール部26と平衡給電線部27a,27bと平衡給電線を短絡する部分28とを有している。ダイポール部26は、左右一対のアンテナ素子26a,26bからなる。平衡給電線部27a,27b、部分28がストリップ線路のグランドも兼ねている。
【0069】
ストリップ線路31は、前記アンテナ用基板16の他面側(前面側)に薄膜導電体としてパターン形成された線路からなる。ストリップ線路31は、アンテナ用基板16の他面側であって給電線部27bの裏側となる位置で直線的に延びて形成され、そして、ダイポール部26のアンテナ素子26a,26b間の中央部においてU字状に方向を反転し、アンテナ用基板16の他面側であって給電線部27aの裏側となる位置で直線的に延びて形成されている。このストリップ線路31と平衡給電線部27a,27b、前記部分28によってバルン(平衡不平衡変換部)が構成されている。つまり、この実施形態では、ダイポールアンテナ4及びバルンが一つのアンテナ用基板16に形成されたバルン一体型のアンテナを有している。なお、図示しないが、バルンをアンテナ用基板16とは別の部分に設けてもよく、バルン別体型のアンテナとしてもよい。
【0070】
収容部材6(底部6a)には、アンテナ4用の同軸ケーブル15を接続させる端子部19が取り付けられており、この端子部19に、図1の制御装置5から延びる同軸ケーブル15を接続することができる。そして、この端子部19から後空間部S2へ延びる同軸ケーブル15aが、アンテナ4と接続されている。同軸ケーブル15aは、内導体(中心導体)15b、絶縁体(図示せず)、外導体15d及び被覆部15eを有しており、この同軸ケーブル15の中心導体15bが前記ストリップ線路31に接続されており、外導体15dがグランド(給電線部27b)に接続されている(図12参照、なお、図12は図11を下から見た断面図である)。内、外導体15b,15dと各部とを半田によって接続し固定することができるが、半田以外の方法であってもよい。
【0071】
アンテナ用基板16は矩形の平板からなり、LED基板8から前方へ立設した支持部材13によって、LED7の前端39よりも前方となって支持されかつ固定されている。支持部材13は絶縁部材からなる。そして、アンテナ用基板16は、LED基板8に対して前方で対向して配置されている。
アンテナ用基板16は誘電体の基板であり、可視光透過性を有する材質からなる。材質の具体例としては、ガラス、ポリカーボネート、アクリル又はポリエチレンテレフタラートがある。また、アンテナ用基板16の厚さは1mm程度である。
【0072】
この歩行者用信号灯器1において、アンテナ4及びストリップ線路31は、LED7の前端39よりも前方に設けられていることから、このLED7の前方への投光を阻害しないように、アンテナ4及びストリップ線路31は、アンテナ用基板16の一面から他面へと貫く方向(前後方向)に可視光透過性を有している構成としている。つまり、アンテナ8及びストリップ線路31が形成されているアンテナ用基板16は、その全面において、厚さ方向(前後方向)に可視光透過性を有している(可視光に対して透明である)。
【0073】
このための構成を具体的に説明すると、アンテナ用基板16は、前記のとおり透明でありそれ自体が可視光透過性を有している。そして、このアンテナ用基板16上のアンテナ4及びストリップ線路31をメッシュ構造とすることにより、可視光透過性を有しているものとしている。アンテナ4及びストリップ線路31を、可視光透過性を有するための構成は、図5の形態と同様であり、アンテナ4及びストリップ線路31をメッシュ構造とすることができる。この場合、アンテナ用基板16の一面及び他面に、金属膜(金属薄膜)による網目を形成している。また、アンテナ4及びストリップ線路31が可視光透過性を有しているものとするために、これらを、可視光透過性を有する薄膜導電体(薄膜金属)とすることができる。
【0074】
また、図示しないが、この第1アンテナ4を、カバー部材9に形成してもよい。つまり、アンテナ4を、カバー部材9にパターン形成した線路により構成することができる。この場合、カバー部材9は、LED7等を保護するための部材の他に、前記アンテナ用基板16として兼用されており、カバー部材9の後面9aにアンテナ4が形成され、前面9bにストリップ線路31が形成されている。
この場合においても、アンテナ4及びストリップ線路31を、カバー部材9の後面9a及び前面9bにパターン形成したメッシュ構造による線路とすることができ、また、パターン形成した薄膜導電体による線路とすることができる。これにより、アンテナ4及びストリップ線路31は、前後方向について可視光透過性を有するものとなる。
また、この場合、表面9bに形成したストリップ線路31の上にさらに保護用のカバーシートを被せて設けるのが好ましい。このカバーシートは可視光透過性を有するものである。
【0075】
〔車両用信号灯器51の第2アンテナ52について〕
図13はこの発明の通信システムが備えている車両用信号灯器51の実施の一形態を示す正面図である。
交差点X(図1参照)の路側に支柱が設置され、図13において、この支柱90から車道側にアーム91が張り出されて設けられており、このアーム91に車両用信号灯器51が取り付けられている。
【0076】
車両用信号灯器51は、複数(図例では三つ)の光学ユニット52と、これら光学ユニット52を組み込んでいる筐体53とを有している。三つの光学ユニット52は、赤、黄、青の灯色を有している。各光学ユニット52にはひさし(図示せず)が取り付けられる。また、支柱90には、車両用信号灯器51を制御する制御装置55が取り付けられている。
【0077】
図14、図15及び図16は、一つの光学ユニット52の斜視図、正面図及び断面図である。この光学ユニット52と、歩行者用信号灯器1の光学ユニット2とは、全体輪郭形状、マスク板22及び拡散板23(図4参照)について異なるが、その他は同じである。光学ユニット52は、発光体としての発光ダイオード57(以下LEDという)と、複数のLED57が前面58aに実装された基板58と、収容部材56と、カバー部材59とを有している。基板58は、その表面や裏面に配線パターンが形成されており、LED57の端子87と繋がっている。基板58上には複数のLED57が面状に広がって配設されている。
【0078】
収容部材6は、底部(底壁)56aと、この底部56aの周縁から立設した側部(側壁)56bとを有している皿形状であり、前方に開口している。その開口側である前部に、カバー部材59が取り付けられている。これにより、収容部材56とカバー部材59との間に収容空間部Sが形成されており、この収容空間部SにLED57及び基板58が収容されている。そして、基板58は収容部材56に固定されている。収容空間部Sのうち、基板58よりも前方を前空間部S1とし、基板8よりも後方を後空間部S2としている。
【0079】
カバー部材59は可視光透過性を有しており(可視光に対して透明であり)複数のLED57を前方で覆っている。なお、この光学ユニット52において、前方とは光の投光側であり(カバー部材59側であり)、後方とは収容部材56の底部56a側である。
【0080】
そして、この光学ユニット52に第2アンテナ54が組み込まれている。第2アンテナ54と第1アンテナ4とは、輪郭形状が異なるが、その他は同じである。
第2アンテナ54はパッチアンテナであり、パッチ素子61とグランド素子62とを有している。すなわち、図16において、パッチ素子61とグランド素子62とが、前記光学ユニット52内に、つまり前記収容空間部Sに、格納(収容)されている。
【0081】
パッチ素子61は、円形の平面状に形成されており、基板58から前方へ立設した支持部材63によって支持されかつ固定されている。支持部材63は絶縁部材からなる。そして、パッチ素子61は、カバー部材59からLED57の前端89までの範囲Aに設けられている。また、図16において、カバー部材59は、その後面(背面)59aが凹曲面であって、前面59bが凸曲面であり、パッチ素子61はカバー部材59の後面59aから後方に離れて設けられている。
なお、ここではカバー部材59を凹凸の曲面としたが、車両用信号灯器51がLED灯器であれば、平面とすることもできる。
【0082】
グランド素子62は、円形の平面状(平板状)に形成されており、基板58の前面58aにおいて当該基板58に取り付けられている。例えば、グランド素子62は、収容部材56に基板58と共にネジによって共締めされる。またはグランド素子62は、基板58に立設させた前記支持部材63によって支持されかつ固定されていてもよい。そして、このグランド素子62は、パッチ素子61の後方であって、前後方向について基板58とLED57の前端89との間に設けられている。
【0083】
これにより、グランド素子62とパッチ素子61とが、前空間部S1内に設けられ、パッチ素子61は、カバー部材59からLED57の前端89までの範囲Aに設けられ、グランド素子62はパッチ素子61の後方に設けられた状態となる。そして、グランド素子62とパッチ素子61とが、前後方向に対向した配置となり、この第2アンテナ54の指向性は車両用信号灯器51から前方へ向かう方向となる。すなわち、光学ユニット52による投光方向と、アンテナ指向性とを略一致させることができ、車両用信号灯器51は車両に対して見通しが良い位置に設置されることから、このアンテナ指向性によって、車両の車載機(図示せず)との間で、良好な通信状態が得られる。
【0084】
グランド素子62とパッチ素子61とは平行に配置されていてもよいが、アンテナ指向性を調整するために、パッチ素子61及びグランド素子62の一方又は双方が、基板58に対して傾いて配置されていてもよい。
また、車両用信号灯器51はドライバへの視認性に鑑みて、通常、基板58自体を少し下方に傾けて設置してある。そのため、パッチ素子61及びグランド素子62を基板58に平行に取り付けることによって、アンテナ54の指向性も下方に向くが、路車間での無線通信領域を限定的としたり確実性を増したりすることを目的として、基板58よりもさらに下方に傾けるようにしても良い。
【0085】
LED57の前端89よりも前方にあるパッチ素子61は、このLED57の前方への投光を阻害しないように、パッチ素子61の厚さ方向(前後方向)に、可視光透過性を有している(可視光に対して透明である)。可視光透過性を有するための構成は、歩行者用信号灯器1の第1アンテナ4の場合と同じであるため、説明を省略する。
また、グランド素子62の構成、その他の部材の構成についても、歩行者用信号灯器1の場合と同じであるため、説明を省略する。
【0086】
さらに、パッチ素子61及びグランド素子62の取り付け構造、及び、これら素子を設ける前後方向の位置等についても、歩行者用信号灯器1と同様の構成とすることができる。例えば、パッチ素子61は、LED57の前端89よりも後方に設けられていてもよい。また、この第2アンテナ54についても、第1アンテナ4と同様に、パッチアンテナ以外として平衡型のもの(例えばダイポールアンテナ)とすることができる。
【0087】
また、この発明の通信システム及び歩行者用信号灯器1は、前記実施形態に限定されるものではない。例えば、歩行者用信号灯器1が設置される交差点Xは、スクランブル交差点であってもよい。この場合、この交差点に設置された複数の歩行者用信号灯器1のいくつかは、その光学ユニット2の投光方向が交差点の中央部に向かうように設置される。したがって、この光学ユニット2に組み込んだ第1アンテナ4の指向性を正面前方に向ければ、交差点の中央部を含む領域が通信領域となる。
また、信号灯器が有する発光体はLED以外に電球であってもよい。また、図2では、対向している一対の歩行者用信号灯器1のうちの一方にのみ、アンテナ4を設けた構成としているが、双方にアンテナ4を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この発明の通信システムの実施の一形態を説明する道路の斜視図である。
【図2】交差点の平面図である。
【図3】歩行者用信号灯器の正面図である。
【図4】歩行者用信号灯器が有する光学ユニットの分解斜視図である。
【図5】光学ユニットの断面図である。
【図6】光学ユニットの正面図である。
【図7】道路の側面図である。
【図8】第1アンテナを内蔵した光学ユニットの正面図である。
【図9】他の実施形態の歩行者用信号灯器が備えている光学ユニット及びアンテナを示している断面図である。
【図10】別の実施形態の歩行者用信号灯器が備えている光学ユニット及びアンテナを示している断面図である。
【図11】さらに別の実施形態の歩行者用信号灯器が備えている光学ユニット及びアンテナを示している正面図である。
【図12】図11の光学ユニット及びアンテナを示している断面図である。
【図13】この発明の通信システムが備えている車両用信号灯器の実施の一形態を示す正面図である。
【図14】車両用信号灯器が有する光学ユニットの斜視図である。
【図15】車両用信号灯器が有する光学ユニットの正面図である。
【図16】車両用信号灯器が有する光学ユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 歩行者用信号灯器
2 光学ユニット
4 第1アンテナ
7 LED(発光体)
9 カバー部材
11 パッチ素子(アンテナ素子)
12 グランド素子(アンテナ素子)
51 車両用信号灯器
52 光学ユニット
54 第2アンテナ
A1 第1領域
A2 第2領域
X 交差点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光体を有する光学ユニットと、
前記光学ユニットに組み込まれ、道路における設置位置の近傍である領域に対して指向性を有しているアンテナと、を備えていることを特徴とする歩行者用交通信号灯器。
【請求項2】
道路に設置される歩行者用信号灯器と、この歩行者用信号灯器の設置位置付近に設置される車両用信号灯器とを備え、
前記歩行者用信号灯器は、発光体を有する光学ユニットと、この光学ユニットに組み込まれ当該歩行者用信号灯器の設置位置の近傍である第1領域に対して指向性を有している第1アンテナとを有し、
前記車両用信号灯器は、発光体を有する光学ユニットと、この光学ユニットに組み込まれ前記設置位置から離れた第2領域に対する指向性を有している第2アンテナとを有していることを特徴とする通信システム。
【請求項3】
前記第1アンテナは、前記発光体の前端よりも後方に設けられた状態として前記光学ユニット内に格納されているアンテナ素子を有している請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記歩行者用信号灯器が有している前記光学ユニットは、可視光透過性を有し前記発光体を前方で覆うカバー部材を有し、
前記第1アンテナは、前記カバー部材から前記発光体の前端までの範囲に設けられているアンテナ素子を有し、
前記アンテナ素子は可視光透過性を有している請求項2に記載の通信システム。
【請求項5】
請求項1に記載の歩行者用信号灯器に接続され、前記歩行者用信号灯器の点灯及び消灯を行なう交通信号制御機であって、
前記アンテナを介して、前記領域に存在する通信相手に対して、前記歩行者用信号灯器の表示に関する信号情報を送信するように構成されていることを特徴とする交通信号制御機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−37490(P2009−37490A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202286(P2007−202286)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】