説明

通信装置、通信方法および通信プログラム

【課題】利用可能帯域に応じて、特定点を中心に画像データの圧縮分布を変更できる通信装置、通信方法および通信プログラムを提供する。
【解決手段】圧縮分布決定処理が開始される(S1)。圧縮分布決定処理では、利用可能帯域を計測し、その計測結果に基づき、利用可能帯域に対応する圧縮分布表が決定される。次いで、補正量決定処理が開始される(S2)。補正量決定処理では、画像データにおける特定点の移動状態等に基づき、圧縮分布表のQP値をブロック単位で補正するための補正量表が作成される。次いで、画像データの送信処理が開始される(S3)。送信処理では、圧縮分布表が、補正量表にしたがって補正され、その補正された圧縮分布表で符号化された画像データが相手側の通信装置1に送信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信できる通信装置、通信方法および通信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ネットワーク経由で画像及び音声を送受信することによって、遠隔会議が実施できる通信装置が利用されている。送信する画像にはカメラで撮影した映像や、資料等があるが、そのような画像の中で重要な部分はその全体の一部であることがほとんどである。例えば、画像の中で重要なのは、人物の顔やポインタなどで指示されている箇所周辺であり、それ以外の部分は必ずしも重要ではない。そこで、例えば、画像の中から関心領域を設定し、その関心領域の量子化ステップをそうでない領域の量子化ステップより細かくして量子化する画像符号化伝送装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−72885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インターネット等のネットワークで使用できる帯域(帯域幅:Available Bandwidth)は、時間や地域などの様々な要因で変化する。送信側の送信ビットレートと受信側の受信ビットレートとが同一となる送信ビットレートを利用可能帯域とする。この時、符号化の出力する符号化データをそのままネットワークへ送信する場合に、符号化の出力ビットレートが利用可能帯域を超えてしまうと、インターネット上で画像データのロスが発生し、重要な部分も含めた画像全体の品質が低下するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、利用可能帯域に応じて、特定点を中心に画像データの圧縮分布を変更できる通信装置、通信方法および通信プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る通信装置は、ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置であって、前記ネットワークの利用可能帯域を算出する利用可能帯域算出手段と、前記画像データにおける特定点を決定する特定点決定手段と、前記利用可能帯域算出手段によって算出された前記利用可能帯域に基づき、前記特定点決定手段によって決定された前記特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて前記画像データの圧縮率が異なる圧縮分布を決定する圧縮分布決定手段と、当該圧縮分布決定手段によって決定された前記圧縮分布に基づき、前記画像データを圧縮する圧縮手段と、当該圧縮手段によって圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する送信手段とを備えている。
【0007】
第1態様に係る通信装置では、ネットワーク経由で他の通信装置に画像データが送信される。利用可能帯域算出手段は、ネットワークの利用可能帯域を算出する。特定点決定手段は、画像データにおける特定点を決定する。圧縮分布決定手段は、利用可能帯域算出手段によって算出された利用可能帯域に基づき、圧縮分布を決定する。圧縮分布は、特定点決定手段によって決定された特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて画像データの圧縮率を段階的に異ならせたものである。圧縮手段は、圧縮分布決定手段によって決定された圧縮分布に基づき、画像データを圧縮する。送信手段は、圧縮手段によって圧縮された圧縮データを他の通信装置に送信する。このように、利用可能帯域に応じて、圧縮分布を決定するので、パケットロスや、遅延の発生を防止できる。例えば、圧縮分布において、特定点の圧縮率を他部位に比べて低くすることで、圧縮データを受信した他の通信装置では、特定点を中心に画像を鮮明に表示できる。
【0008】
また、第1態様において、前記圧縮分布決定手段は、前記利用可能帯域に対応する圧縮分布の情報である圧縮分布情報を記憶する圧縮分布情報記憶手段に記憶した前記圧縮分布情報に基づき、前記利用可能帯域算出手段によって算出された前記利用可能帯域に対応する前記圧縮分布を決定するようにしてもよい。これにより、利用可能帯域に応じた圧縮分布を決定できるので、利用可能帯域に応じた出力ビットレートでパケットを送信できる。よって、パケットロスや、遅延の発生を確実に防止できる。
【0009】
また、第1態様において、前記圧縮手段による前記圧縮データの出力ビットレートを計測する出力ビットレート計測手段と、前記利用可能帯域算出手段によって算出された前記利用可能帯域の送信ビットレートである基準送信ビットレートと、前記出力ビットレート計測手段によって計測された前記出力ビットレートとの差分に基づき、前記圧縮分布決定手段によって決定された前記圧縮分布の前記圧縮率を補正する第1圧縮分布補正手段とを備えてもよい。利用可能帯域は、ネットワーク状況によって変化するものである。圧縮分布決定手段によって決定された圧縮分布でも、利用可能帯域の送信ビットレートと、出力ビットレート計測手段によって計測された出力ビットレートとにずれを生じる場合がある。そこで、第1圧縮分布補正手段が、そのずれに基づいて圧縮分布の圧縮率を補正するので、常に、利用可能帯域に応じて画像データを送信できる。
【0010】
また、第1態様において、前記画像データを表示可能な表示画面を備え、前記特定点決定手段は、前記画像データにおける人物の顔、前記画像データに重ねて前記表示画面に表示させるポインタ、若しくは前記画像データの中心位置のいずれかを前記特定点として決定してもよい。特定点を、人物の顔、ポインタ、若しくは画像データの中心位置のいずれかに決定することで、画像データの中で人が最も注目する重要部分を鮮明に表示できる。
【0011】
また、第1態様において、前記画像データにおける前記特定点の移動状態を算出する移動状態算出手段と、当該移動状態算出手段によって算出された前記特定点の移動状態に基づき、前記圧縮分布決定手段によって決定された前記圧縮分布の前記圧縮率を補正する第2圧縮分布補正手段とを備えてもよい。画像データの中で特定点が移動する場合、圧縮分布で設定した圧縮率から特定点がずれてしまう。そこで、移動状態算出手段が特定点の移動状態を算出する。第2圧縮分布補正手段が、移動状態算出手段によって算出された特定点の移動状態に基づき、圧縮分布の圧縮率を補正する。これにより、特定点が移動する場合でも、その移動状態に応じて特定点を鮮明に表示できる。
【0012】
また、第1態様において、前記移動状態とは、前記画像データ内を移動する前記特定点の過去の位置の情報である位置情報から算出される前記特定点の座標位置の平均と偏差であって、前記第2圧縮分布補正手段は、前記平均を前記圧縮分布の中心とし、当該中心から少なくとも前記偏差分を含む領域を偏差領域とした場合に、前記偏差領域内の圧縮率を下げ、前記偏差領域以外の領域の圧縮率を上げるように前記圧縮分布を補正してもよい。移動状態を過去の位置情報から算出される特定点の座標位置の平均と偏差とすることで、特定点の移動状態を明確に把握できる。そして、平均を圧縮分布の中心とし、当該中心から少なくとも偏差分を含む領域を偏差領域とした場合に、第2圧縮分布補正手段は、偏差領域内の圧縮率を下げ、偏差領域以外の領域の圧縮率を上げるように圧縮分布を補正するので、画像データの全体の圧縮率を下げ過ぎることなく、特定点が移動する偏差領域内の部分を鮮明に表示できる。
【0013】
また、第1態様において、前記画像データの中心の座標位置と、前記特定点の座標位置とのずれを算出する位置ずれ算出手段と、当該位置ずれ算出手段によって算出された前記ずれに応じて、前記圧縮分布の前記圧縮率を下げるように補正する第3圧縮分布補正手段とを備えてもよい。画像データの中心の座標位置と、特定点の座標位置とのずれが大きければ大きいほど、画像データの全体の圧縮率は過剰に上がってしまう。そこで、第3圧縮分布補正手段は、そのずれに応じて、圧縮分布の圧縮率を下げるように補正する。これにより、特定点の座標位置が、画像データの中心の座標位置から大きくずれた場合に、圧縮率の過剰な上昇を防止できる。
【0014】
また、第1態様において、前記圧縮分布における前記圧縮率の補正量の分布の情報である補正量分布情報を記憶する補正量分布情報記憶手段に記憶された前記補正量分布情報に、前記圧縮分布情報によって決定された前記圧縮分布の分布態様を付加する分布態様付加手段を備えてもよい。補正量分布情報に、圧縮分布の分布態様を付加することによって、特定点を中心に補正されるので、特定点をより鮮明に表示できる。
【0015】
本発明の第2態様に係る通信方法は、ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置によって行われる通信方法であって、前記ネットワークの利用可能帯域を算出する利用可能帯域算出ステップと、前記画像データにおける特定点を決定する特定点決定ステップと、前記利用可能帯域算ステップにおいて算出された前記利用可能帯域に基づき、前記特定点決定ステップにおいて決定された前記特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて前記画像データの圧縮率が異なる圧縮分布を決定する圧縮分布決定ステップと、当該圧縮分布決定ステップにおいて決定された前記圧縮分布に基づき、前記画像データを圧縮する圧縮ステップと、当該圧縮ステップにおいて圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する送信ステップとを備えたことを特徴とする。
【0016】
第2態様に係る通信方法は、ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置によって行われる。まず、利用可能帯域算出ステップにおいて、ネットワークの利用可能帯域を算出する。次いで、特定点決定ステップにおいて、画像データにおける特定点を決定する。次いで、圧縮分布決定ステップにおいて、利用可能帯域算ステップにおいて算出された利用可能帯域に基づき、特定点決定ステップにおいて決定された特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて画像データの圧縮率を段階的に異ならせた圧縮分布を決定する。次いで、圧縮ステップにおいて、圧縮分布決定ステップにおいて決定された圧縮分布に基づき、画像データを圧縮する。次いで、送信ステップにおいて、圧縮ステップにおいて圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する。このように、利用可能帯域に応じて、圧縮分布を決定するので、パケットロスや、遅延の発生を防止できる。例えば、圧縮分布において、特定点の圧縮率を他部位に比べて低くすることで、圧縮データを受信した他の通信装置では、特定点を中心に画像を鮮明に表示できる。
【0017】
本発明の第3態様に係る通信プログラムは、ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置の動作を制御する通信プログラムであって、コンピュータに、前記ネットワークの利用可能帯域を算出する利用可能帯域算出ステップと、前記画像データにおける特定点を決定する特定点決定ステップと、前記利用可能帯域算ステップにおいて算出された前記利用可能帯域に基づき、前記特定点決定ステップにおいて決定された前記特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて前記画像データの圧縮率が異なる圧縮分布を決定する圧縮分布決定ステップと、当該圧縮分布決定ステップにおいて決定された前記圧縮分布に基づき、前記画像データを圧縮する圧縮ステップと、当該圧縮ステップにおいて圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する送信ステップとを実行させることを特徴とする。
【0018】
第3態様に係る通信プログラムは、コンピュータに実行させるものであって、ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置の動作を制御するものである。まず、利用可能帯域算出ステップにおいて、ネットワークの利用可能帯域を算出する。次いで、特定点決定ステップにおいて、画像データにおける特定点を決定する。次いで、圧縮分布決定ステップにおいて、利用可能帯域算ステップにおいて算出された利用可能帯域に基づき、特定点決定ステップにおいて決定された特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて画像データの圧縮率を段階的に異ならせた圧縮分布を決定する。次いで、圧縮ステップにおいて、圧縮分布決定ステップにおいて決定された圧縮分布に基づき、画像データを圧縮する。次いで、送信ステップにおいて、圧縮ステップにおいて圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する。このように、利用可能帯域に応じて、圧縮分布を決定するので、パケットロスや、遅延の発生を防止できる。例えば、圧縮分布において、特定点の圧縮率を他部位に比べて低くすることで、圧縮データを受信した他の通信装置では、特定点を中心に画像を鮮明に表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】会議システム100の構成を示すブロック図である。
【図2】画像データGの圧縮分布を示す概念図である。
【図3】HDD13の各種記憶エリアを示す概念図である。
【図4】圧縮分布表51Aの概念図である。
【図5】圧縮分布表51Bの概念図である。
【図6】圧縮分布表51に画像データGを重ね合わせた状態を示す図である。
【図7】補正量表61の概念図である。
【図8】補正後の圧縮分布表51Aの概念図である。
【図9】圧縮分布表選択テーブル1341の概念図である。
【図10】補正量決定テーブル1351の概念図である。
【図11】メイン処理のフローチャートである。
【図12】圧縮分布決定処理のフローチャートである。
【図13】補正量決定処理のフローチャートである。
【図14】第1補正量決定処理のフローチャートである。
【図15】第2補正量決定処理のフローチャートである。
【図16】送信処理のフローチャートである。
【図17】補正量分布補正処理のフローチャートである。
【図18】第3補正量決定処理のフローチャートである。
【図19】特定点Tが、画像データGの中心P2の位置からずれている状態を示す図である。
【図20】圧縮分布のQP値からγを差し引いた状態を示すグラフである。
【図21】ポインタを特定点とした場合の画像データGにおける圧縮分布を示す概念図である。
【図22】複数の特定点を考慮した場合の画像データGにおける圧縮分布を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の通信装置を具現化した一実施の形態である通信装置1を備えた会議システム100について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いられるものである。図面に記載されている装置の構成、各種処理のフローチャート等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0021】
まず、会議システム100の構成について、図1を参照して説明する。会議システム100は、少なくとも2つの通信装置1を備える。通信装置1は、ネットワーク8を介して他の通信装置1と接続する。通信装置1は、他の通信装置1との間で各種データの通信を行う。会議システム100は、複数の拠点のユーザがテレビ会議を行うためのシステムである。各通信装置1は、画像データおよび音声データをパケット化して互いに送受信することで、複数の拠点の映像および音声を共有する。通信装置1は、ネットワーク8を介したデータ通信を実行できるものであればよい。具体的には、テレビ会議を実行するために各拠点に配置される専用のテレビ会議端末であってもよいし、種々の情報処理を行うパーソナルコンピュータであってもよい。
【0022】
本発明の概要について説明する。図1に示す通信装置1では、通信相手である他の通信装置1との間で利用可能な帯域(以下、利用可能帯域と呼ぶ。)が計測される。画像データは、その計測された利用可能帯域に対応する圧縮分布で圧縮して符号化された状態で相手側に送信される。例えば、図2に示すように、カメラ33(図1参照)で撮影した人物の画像データGを相手側に送信する場合、人物の顔の中心位置をユーザの注目を最も惹きやすい「特定点」として抽出し、その特定点を中心とした圧縮分布を画像データGにかける。
【0023】
図2では、色の濃い領域ほど圧縮率が高いことを概念的に示している。特定点を含む所定の領域は最も低い圧縮率で圧縮する。それ以外の部分は、特定点からの距離に応じて段階的に圧縮率を高くして圧縮する。このような圧縮分布を、計測した利用可能帯域に応じて使い分ける。これにより、パケットロス、遅延の発生を防止できると共に、顔の部分を中心により鮮明に表示できる。
【0024】
次に、通信装置1の電気的構成について、図1を参照して説明する。通信装置1は、通信装置1の制御を司るCPU10を備えている。CPU10には、ROM11、RAM12、ハードディスクドライブ(以下、「HDD」という。)13、および入出力インターフェース19が、バス18を介して接続されている。
【0025】
ROM11は、通信装置1を動作させるためのプログラムおよび初期値等を記憶している。RAM12は、制御プログラム及び本発明の通信プログラムで使用される各種の情報を一時的に記憶する。HDD13は、制御プログラム等の各種の情報を記憶する不揮発性の記憶装置である。HDD13の代わりに、EEPROMまたはメモリカード等の記憶装置を用いてもよい。
【0026】
入出力インターフェース19には、音声入力処理部21、音声出力処理部22、映像入力処理部23、映像出力処理部24、操作部25、および外部通信I/F26が接続されている。音声入力処理部21は、音声を入力するマイク31からの音声データの入力を処理する。音声出力処理部22は、音声を出力するスピーカ32の動作を処理する。映像入力処理部23は、映像を撮像するカメラ33からの画像データの入力を処理する。映像出力処理部24は、画像を表示画面(図示外)に表示する表示装置34の動作を処理する。操作部25は、ユーザが通信装置1に各種指示を入力するために用いられる。外部通信I/F26は、通信装置1をネットワーク8に接続する。
【0027】
次に、HDD13の各種記憶領域について、図3を参照して説明する。HDD13には、プログラム記憶エリア131と、圧縮分布表記憶エリア132と、補正量表記憶エリア133と、圧縮分布表選択テーブル記憶エリア134と、補正量決定テーブル記憶エリア135と、特定点履歴情報記憶エリア136と、等が各々設けられている。
【0028】
プログラム記憶エリア131には、本発明の通信プログラムを記憶している。圧縮分布表記憶エリア132には、利用可能帯域に応じて複数の圧縮分布表51(例えば、図4,図5に示す圧縮分布表51A,51Bを指し、総称する場合は「圧縮分布表51」と呼ぶ。)を記憶している。補正量表記憶エリア133には、圧縮分布表51の圧縮率を各ブロック毎に補正するための補正量表61(図7参照)を記憶している。
【0029】
圧縮分布表選択テーブル記憶エリア134には、利用可能帯域の計測結果に基づいて、圧縮分布表51を選択するための圧縮分布表選択テーブル1341(図9参照)を記憶している。補正量決定テーブル記憶エリア135には、計測した利用可能帯域の送信ビットレートと、出力ビットレートとの差分から、圧縮分布表51の補正量を決定するための補正量決定テーブル1351(図10参照)を記憶している。特定点履歴情報記憶エリア136には、所定時間毎の画像データ上の特定点Tの座標の履歴である特定点履歴情報が記憶されている。
【0030】
次に、圧縮分布表51について、図4,図5を参照して説明する。図4に示す圧縮分布表51Aは、帯域が広い場合に使用される圧縮分布表51である。図5に示す圧縮分布表51Bは、帯域が狭い場合に使用される圧縮分布表51である。これら圧縮分布表51は、複数のブロックに分割した画像データについて、各ブロック毎に圧縮率を決定するパラメータ(以下、QP値と呼ぶ。)を設定したデータテーブルである。
【0031】
圧縮分布表51Aを一例として説明する。図4に示すように、圧縮分布表51Aは、x軸、y軸の2次元の表であり、例えば、x×y=32×24の合計768ブロックに分割されている。各ブロックにはそれぞれQP値が設定されている。QP値は、圧縮分布表51の中央が最低であり、その中心から離れるにつれて段階的に高くなっている。
【0032】
このような圧縮分布表51を用いて、画像データの圧縮分布を決定する。画像データは、複数のブロックに分割される。例えば、1ブロックのサイズを4(pix)×4(pix)と決めた場合、480(pix)×360(pix)の画像データのサイズの場合、10800個のブロックに分割される。複数にブロックに分割された画像データについて、上記した圧縮分布表51を用いて、ブロック単位でQP値を決定する。
【0033】
図6に示すように、画像データGには特定点T(図6では、顔の中心位置を特定点Tに設定)が設定される。その特定点Tが圧縮分布表51の中心にくるように、画像データGが圧縮分布表51に合わせられる。特定点Tが画像データGの中心位置にあるときに、利用可能帯域において最も最適な圧縮ができるように、圧縮分布表51のQP値がブロック毎に設定されている。よって、特定点Tが画像データGの中心からずれた場合、画像データGの全体のQP値は高くなる。よって、画像データGの符号化の出力ビットレートが利用可能帯域の送信ビットレートを超えないように調整できる。
【0034】
圧縮分布表51Aのy=11におけるQP値分布は、図4の下のグラフに示すように、広く浅くなっている。これは、圧縮分布表51Aが広い利用可能帯域のときに使用されるので、画像データの特定点を中心に幅広くできるだけ鮮明に表示するためである。これに対し、圧縮分布表51Bのy=11におけるQP値分布は、図5の下のグラフに示すように、圧縮分布表51Aの圧縮分布と比較した場合に、狭く深くなっている。これは、圧縮分布表51Bが狭い利用可能帯域のときに使用されるので、画像データにおける特定点だけでも鮮明に表示するためである。なお、これら圧縮分布表51A,51Bの分布態様は何れも一例であって自由に変更できる。
【0035】
本実施形態では、計測された利用可能帯域に基づき、複数の圧縮分布表51の中から最適な圧縮分布表51が選択される。例えば、本実施形態では、利用可能帯域の送信ビットレートが64(kbps)であった場合は、圧縮分布表51B(図5参照)が選択される。利用可能帯域におけるパケットの送信ビットレートが128(kbps)であった場合、圧縮分布表51A(図4参照)が選択される。
【0036】
次に、補正量表61について、図7を参照して説明する。補正量表61は、例えば、特定点の移動状態、画像データにおける特定点の位置、画像データの符号化の出力ビットレート等に応じて、圧縮分布表51のQP値をブロック単位で補正するものである。補正量表61も、x軸、y軸の2次元の表であり、圧縮分布表51と同様に、x×y=32×24の合計768ブロックに分割されている。補正量表61のブロック数は、圧縮分布表51のブロック数に対応している。各ブロックには補正量としてのQP値が各々設定されている。
【0037】
例えば、図4に示す圧縮分布表51Aを、図7に示す補正量表61で補正する場合、圧縮分布表51Aの各ブロックのQP値に対して、補正量表61の各ブロックのQP値を対応するブロック毎にそれぞれ加算する。この場合、図8に示すように、圧縮分布表51AのQP値がブロック毎に補正される。y=11の圧縮分布を比較すると、補正前で、広く浅い圧縮分布(図4参照)であったのが、狭く深い圧縮分布(図8参照)に修正されている。
【0038】
次に、圧縮分布表選択テーブル1341について、図9を参照して説明する。圧縮分布表選択テーブル1341には、複数の帯域(kbps)に対して、圧縮分布表51の表番号が対応付けられて記憶されている。例えば、圧縮分布表51Aには表番号=2が付され、圧縮分布表51Bには表番号=1が付されている。図9に示すテーブルでは、帯域=64(kbps)に対して表番号=1、帯域=128(kbps)に対して表番号=2、帯域=256(kbps)に対して表番号=3が設定されている。例えば、利用可能帯域の計測結果が64(kbps)であった場合は、表番号=1の圧縮分布表51Bが選択される。このような圧縮分布表選択テーブル1341を用いることで、現在の利用可能帯域に適切な圧縮分布を有する圧縮分布表51を選択できる。
【0039】
次に、補正量決定テーブル1351について、図10を参照して説明する。本実施形態では、画像データの符号化の出力ビットレートを計測し、利用可能帯域の送信ビットレートとのずれ(差分)を監視する。補正量決定テーブル1351は、そのずれに応じて、圧縮分布表51の各QP値の補正量を決定するために用いる。補正量決定テーブル1351には、出力ビットレートと送信ビットレートとの差分(kbps)に対して、補正量(QP値)が各々記憶されている。図10に示すテーブルでは、差分=50(kbps)に対して補正量=1、差分=100(kbps)に対して補正量=2、差分=150(kbps)に対して補正量=3が設定されている。これら補正量は、補正量表61(図7参照)の各QP値にそれぞれ加算することで、圧縮分布表51のQP値に反映される。
【0040】
次に、CPU10によって実行されるメイン処理について、図11のフローチャートを参照して説明する。メイン処理は、他の通信装置1との間でデータを送受信する指示が入力されて、相手側と通信が確立すると、HDD13のプログラム記憶エリア131(図3参照)に記憶されている通信プログラムが呼び出されて実行される。メイン処理では、以下に説明する3つの処理が平行して実行される。
【0041】
まず、圧縮分布決定処理が開始される(S1)。圧縮分布決定処理では、利用可能帯域を計測し、その計測結果に基づき、利用可能帯域に対応する圧縮分布表51が決定される。次いで、補正量決定処理が開始される(S2)。補正量決定処理では、画像データにおける特定点の位置(後述する第1補正量決定処理)、特定点の移動状態(後述する第2補正量決定処理)等に基づき、圧縮分布表51のQP値をブロック単位で補正するための補正量表61が作成される。次いで、画像データの送信処理が開始される(S3)。送信処理では、まず、圧縮分布表51が、補正量表61にしたがって補正される。次いで、その補正された圧縮分布表51で符号化された画像データが相手側の通信装置1に送信される。
【0042】
次いで、相手側の通信装置1との通信が切断されたか否かが判断される(S4)。通信が継続している間は(S4:NO)、S4に戻って待機状態となる。通信が切断された場合(S4:YES)、画像データの送信処理が終了され(S5)、補正量決定処理が終了され(S6)、圧縮分布決定処理が終了されて(S7)、メイン処理が終了する。
【0043】
以下、圧縮分布決定処理、補正量決定処理、画像データの送信処理について順に説明する。なお、圧縮分布決定プログラム、補正量決定プログラム、画像データの送信プログラムは、HDD13のプログラム記憶エリア131(図3参照)に記憶されている。メイン処理の指示により、各種プログラムがHDD13から呼び出されて実行される。
【0044】
まず、圧縮分布決定処理について、図12のフローチャートを参照して説明する。まず、メイン処理から終了指示があったか否かが判断される(S11)。終了指示がない場合(S11:NO)、利用可能帯域が計測される(S12)。計測方式として、例えば、パケットの送信間隔および受信間隔を利用して利用可能帯域を計測する方式が採用できる。
【0045】
利用可能帯域の計測原理について説明する。通信装置1は、データを複数のパケットにパケット化し、複数のパケットを連続して相手側の通信装置1にネットワーク8を介して送信する。パケットを送信する際の送信ビットレート(bps)が、通信装置1と他の通信装置1との間で使用できる帯域(bps)以下であれば、パケットは渋滞しない。この場合、通信装置1によって送信された複数のパケットを相手側の通信装置1が受信する間隔(受信間隔)は、理論的に送信間隔と同一となる。一方、送信ビットレートが帯域よりも高ければ、パケットは渋滞し、受信間隔は送信間隔よりも長くなる。
【0046】
帯域を計測する場合、通信装置1は、送信間隔を徐々に長くしながら、または徐々に短くしながら、複数のパケットを送信する。あるパケットが送信された場合の送信ビットレートは、以下の式(1)で求められる。
・送信ビットレート(bps)=パケットサイズ(bit)/前回のパケット送信時と今回のパケット送信時との時間間隔(s)・・・・・(1)
【0047】
送信間隔を徐々に長くしながら複数のパケットを送信すると、送信ビットレートが帯域よりも高い間は、受信間隔が送信間隔よりも長くなる。しかし、送信間隔が長くなり、送信ビットレートが帯域以下となれば、受信間隔と送信間隔とが同一となる。よって、「受信間隔−送信間隔」の値が変化する時点のビットレートを、利用可能帯域として計測できる。なお、利用可能帯域を計測する方式は、上記方式に限らず、他の方式でもよい。
【0048】
次いで、計測した利用可能帯域に基づき、圧縮分布表51が選択される(S13)。ここでは、HDD13に記憶された圧縮分布表選択テーブル1341(図9参照)が参照され、計測された利用可能帯域の計測値(kbps)に対応する圧縮分布表51が選択される。例えば、計測結果が128(kbps)であった場合、表番号=2である圧縮分布表51A(図4参照)が選択される。
【0049】
次いで、画像データのサイズに基づき、圧縮分布表51のサイズが修正される(S14)。図6に示すように、画像データGのx長をn、y長をmとした場合、圧縮分布表51のx長が2n、y長が2mとなるように、圧縮分布表51が拡大/縮小処理される。拡大処理については、線形補完、又は隣のブロックと同じ値を追加してサイズを拡大すればよい。縮小処理については、一定の間隔でブロックを間引くことによってサイズを縮小すればよい。拡大/縮小処理の方法については、これらの方法に限定されない。
【0050】
このようなサイズ関係にすることで、画像データGの特定点Tが画像データGの端や角に移動した場合でも、画像データGを圧縮分布表51内に収めることができる。こうして、圧縮分布表51のサイズが修正されると、S11に戻り、メイン処理から終了指示があるまでは(S11:NO)、利用可能帯域が計測され、その計測された圧縮分布表51が随時更新される(S12〜S14)。メイン処理から終了指示があった場合は(S11:YES)、処理を終了する。
【0051】
次に、補正量決定処理について、図13のフローチャートを参照して説明する。まず、メイン処理から終了指示があったか否かが判断される(S21)。終了指示がない場合(S21:NO)、画像データの中から特定点の座標が取得される(S22)。図6に示すように、本実施形態では、周知の画像処理技術を用いて、顔の中心位置の座標が特定点Tの座標として取得される。顔の中心位置とは、例えば、人物の顔領域のうち、特徴点である両目、口の3点で形成される三角形の中心位置である。特定点Tの座標は、特定点Tの移動に合わせてHDD13の特定点履歴情報記憶エリア136(図3参照)に随時記憶される。
【0052】
次いで、圧縮分布表51の適用範囲が決定される(S23)。図6に示すように、画像データGの特定点Tが圧縮分布表51の中心に位置するように、画像データGが圧縮分布表51に重ねられる。この場合に、画像データGのサイズに対応する領域が、圧縮分布表51における適用範囲となる。つまり、圧縮分布表51の中心座標と、画像データGにおける特定点Tの座標とで、圧縮分布表51の適用範囲の開始点(左上の角の座標)が決定される。その開始点を起点として画像データGのサイズ分が圧縮分布表51から切り出される。続いて、その適用範囲に基づいて第1補正量決定処理が実行される(S24)。
【0053】
次に、第1補正量決定処理について、図14のフローチャートを参照して説明する。図19に示すように、圧縮分布表51において、適用範囲K(画像データGと同位置)の中心座標Pと、圧縮分布表51の中心座標との間の距離が大きいほど、適用範囲は圧縮分布表51の中心からずれる。この場合、適用範囲内にはQP値の高いブロックが占めることになるので、画像データG全体を過剰に圧縮してしまう。そこで、第1補正量決定処理では、適用範囲K(画像データG)の中心座標P2と、圧縮分布表51の中心座標P1(画像データGの特定点Tの座標)との間の距離(距離d1)に応じて、圧縮分布表51のQP値を減らす方向に補正する。
【0054】
まず、適用範囲Kの中心座標P2と、圧縮分布表51の中心座標P1との間の距離d1が算出される(S31)。次いで、適用範囲Kの中心座標P2と、適用範囲の起点Q(圧縮分布表51の左上角の座標)との距離d2が算出される(S32)。そして、以下の式を用いて補正量αが算出される(S33)。
・α=C×(d1/d2)
※Cは定数
【0055】
例えば、特定点Tが画像データGの角にあるときにd1は最大となるので、補正量αは最大となる。これに対し、特定点Tが画像データGの中央にあるときにd1はゼロになるので、補正量αはゼロになる。そこで、算出された補正量αの値が、補正量表61の各ブロックの値から差し引かれる(S34)。よって、距離d1が大きいほど、補正量表61の各ブロックのQP値は小さくなり、圧縮分布表51の各ブロックのQP値も小さくなるので、画像データG全体の圧縮率を下げることができる。これにより、特定点Tの位置に合わせて、画像データGを最適な圧縮率で符号化できる。こうして、第1補正量決定処理が終了し、図13のフローに戻り、第2補正量決定処理が実行される(S25)。
【0056】
次いで、第2補正量決定処理について、図15のフローチャートを参照して説明する。画像データにおいて特定点は移動することが多い。第2補正量決定処理では、特定点の移動状態に合わせ、特定点の動く範囲内で画像が鮮明になるように、移動する範囲内のQP値を下げるための補正量表61(図7参照)を作成する。しかしながら、単に移動する範囲内のQP値を下げただけでは、画像データ全体の圧縮率は下がってしまい、利用可能帯域を超えてしまう虞がある。そこで、圧縮分布表51のQP値の積分値が補正前後で変わらないように、移動する範囲以外の部分についてはQP値を高くできる補正量表61を作成する。
【0057】
まず、画像データにおいて、過去の所定回の特定点の座標と、今回の特定点の座標とから、特定点の座標の平均および偏差が算出される(S41)。過去の所定回の特定点の座標は、HDD31の特定点履歴情報記憶エリア136(図3参照)に記憶された特定点履歴情報から取得される。例えば、図4に示す圧縮分布表51Aが選択されている場合、まず、算出された平均値が圧縮分布表51Aの中心(図4中、丸い黒点)に設定される(S42)。さらに、平均値から〔偏差×2〕に相当するブロック数の範囲が「偏差範囲」として決定される(S43)。〔偏差×2〕を用いた場合、統計学上約95%の確率で、移動する特定点の位置を偏差範囲内に収めることができる。
【0058】
例えば、偏差が3ブロックに相当していた場合、〔偏差×2〕に相当するブロック数は6であるので、圧縮分布表51Aの中心からxy方向に6ブロックに相当する範囲が偏差範囲(図4の太線に囲まれた範囲)となる。図4の圧縮分布表51Aにおける偏差範囲は、12×12の144ブロックに相当する。
【0059】
ここで、補正量(QP値)を10とした場合、図4の圧縮分布表51Aでは、偏差範囲内のQP値は全て10以下であるので、各ブロックから10を差し引くと、マイナスになってしまう。本実施形態では、QP値は0〜51の数値で設定されているので、偏差範囲内のQP値をゼロにすれば最低の圧縮率になる。そこで、圧縮分布表51Aの偏差範囲のQP値を全てゼロにするために、補正量表61の偏差範囲内に相当する各ブロックのQP値から、圧縮分布表51Aの偏差範囲内の各ブロックのQP値がそれぞれ差し引かれる(S44)。
【0060】
例えば、図4に示す圧縮分布表51Aのx=11、y=7のブロックのQP値は「6」であるので、図7に示す補正量表61のx=11、y=7のブロックのQP値から「6」が差し引かれる。よって、補正量表61のx=11、y=7のブロックのQP値は「−6」となる。なお、偏差範囲内のQP値が10以上である場合は、補正量をそのまま差し引けばよい。
【0061】
次いで、偏差範囲外のブロックのQP値について算出される(S45)。偏差範囲内のブロックから差し引いたQP値の総合計は736であるので、その736が偏差範囲以外のブロックで均等に割り振られる。圧縮分布表51Aの全ブロック数は768、偏差範囲内のブロック数は144であるので、偏差範囲外のブロック数は624である。
【0062】
そこで、まずQP値の総合計736を、偏差範囲外のブロック数の624で除して得られる整数は「1」である。この「1」が補正量表61の偏差範囲外の624個のブロックに順に割り振られる。さらに、736から624を差し引いた112は余りであるので、その余りが補正量表61の4つの角付近のブロックに順に割り振られる。例えば、左上の角→右上の角→右下の角→左下の角の順に、余りが各ブロックに割り振られる。このようにして、補正量表61における偏差範囲外に相当する各ブロックに対して補正量(QP値)が順に足される(S46)。
【0063】
すると、図7に示す補正量表61が完成する。図7の下に示すグラフに示すように、補正量表61におけるy=11のQP値の圧縮分布は、偏差範囲である中央部分がマイナスとなり、その両側の部分がプラスとなる。なお、中央部分から離れるにつれて補正量であるQP値はプラス側において「1→2」と段階的に高くなっている。例えば、このような補正量表61(図7参照)で圧縮分布表51A(図4参照)を補正すると、図8に示す圧縮分布表51Aのように、各ブロックのQP値が補正される。図8の下のグラフに示すように、圧縮分布表51Aにおけるy=11のQP値の圧縮分布は、図4に示す広く浅い分布態様から、特定点Tが移動する偏差範囲で深い分布態様に補正されている。
【0064】
こうして、HDD31の補正量表記憶エリア133(図3参照)に記憶された補正量表61がさらに修正され、第2補正量決定処理が終了し、図13のフローに戻る。次いで、S21に戻り、メイン処理から終了指示があるまでは(S21:NO)、特定点Tの座標が取得され(S22)、特定点Tの位置、移動状態に基づき、第1補正量決定処理(S24)、第2補正量決定処理(S25)が実行され、補正量表61が随時更新される。メイン処理から終了指示があった場合は(S21:YES)、処理を終了する。
【0065】
次に、画像データの送信処理について、図16のフローチャートを参照して説明する。まず、メイン処理から終了指示があったか否かが判断される(S51)。終了指示がない場合(S51:NO)、送信すべき画像データが取得される(S52)。次いで、最初の送信であるか否かが判断される(S53)。ここでは、後述するように、RAM12(図1参照)に符号化の出力ビットレートが記憶されていない場合は、最初の送信であるので(S53:YES)、補正量分布補正量が実行される(S55)。
【0066】
補正量分布補正処理について、図17のフローチャートと、図20とを参照して説明する。補正量表61が、圧縮分布表51の圧縮分布に基づいて補正される(S61)。この補正処理では、補正量表61の補正量について、圧縮分布表51のQP値の分布態様を付与する。例えば、y=aにおいて、図20の上のグラフに示すQP値の分布曲線を有する圧縮分布表51を想定する。このときのx方向において、x1〜x2までのQP値の積分値をAとする。このような圧縮分布表51からγ(QP値)を差し引いたときに、図20の下のグラフに示すように、x1〜x2の間においてx軸(QP値=0)と2つの交点x3、x4を有するQP値の分布曲線を想定する。このときのx方向において、x1〜x3までのQP値の積分値をBとし、x4〜x2までのQP値の積分値をCとし、x3〜x4までのQP値の積分値をDとする。このとき、B+C=Dを満たせば、図20の下のグラフに示す圧縮分布を補正量表61に足しても総量は変わらない。
【0067】
つまり、γは以下の式を満たす値である。
・A−(x2−x1)×γ=B+C−D=0
・γ=A/(x2−x1)
【0068】
従って、補正量表61の各ブロック毎のQP値に対して、圧縮分布表51のQP値を各ブロック毎に足して、γを差し引くことで、圧縮分布表51のQP値の分布態様を付与した補正量表61を作成できる。なお、γは元の圧縮分布表51に対して固定値であるので、各圧縮分布表51に対応するγを予めHDD31等に記憶させてもよい。
【0069】
そこで、補正量分布補正処理で補正された補正量表61のQP値が、ブロック単位で圧縮分布表51の各QP値に足される(S62)。これにより、圧縮分布表51に対して、圧縮分布表51のQP値の圧縮分布を反映した補正ができるので、特定点の画質をさらに向上できる。こうして、補正量分布補正処理が終了し、図16のフローに戻る。
【0070】
次に、補正量表61で補正された圧縮分布表51で、取得された画像データが圧縮して符号化される(S56)。続いて、画像データの符号化の出力ビットレートが計測される(S57)。計測された出力ビットレートは、RAM12(図1参照)に記憶される。なお、RAM12(図1参照)に記憶された出力ビットレートは、送信処理が終了するとクリアされる。そして、符号化された画像データが相手側の通信装置1に送信される(S58)。画像データの送信後、S51に戻り、メイン処理の終了指示がない場合(S51:NO)、上記同様に、次の画像データが取得される(S52)。
【0071】
次いで、RAM12(図1参照)には、前回記憶した符号化の出力ビットレートが記憶されているので、最初の送信ではない。この場合(S53:NO)、出力ビットレートと、計測した利用可能帯域の送信ビットレートとのずれを補正するために、第3補正量決定処理が実行される(S55)。
【0072】
次に、第3補正量決定処理について、図18のフローチャートを参照して説明する。まず、計測した利用可能帯域の送信ビットレートである基準送信ビットレート(kbps)と、RAM12に記憶された出力ビットレート(kbps)との差分(kbps)が算出される(S71)。算出した差分は、RAM12(図1参照)に記憶される。次いで、HDD31に記憶された補正量決定テーブル1351(図10参照)を参照し、補正量が決定される(S72)。例えば、差分が50(kbps)であった場合、補正量=1に決定される。
【0073】
続いて、基準送信ビットレートの方が、出力ビットレートよりも大きいか否かが比較される(S73)。基準送信ビットレートの方が、出力ビットレートよりも大きい場合(S73:YES)、使用帯域にまだ余裕があるので、補正量表61の各ブロックのQP値から補正量決定テーブル1351で決定した補正量が差し引かれる(S74)。これにより、補正量表61の全体のQP値が下がる、圧縮分布表51のQP値も下がることになる。つまり、使用帯域に余裕があることから、圧縮分布表51のQP値を下げることで、画像データの圧縮率を全体的に低くして、画質をより向上することができる。
【0074】
一方、出力ビットレートの方が、基準送信ビットレートよりも大きい場合(S73:NO)、利用可能帯域を超えているので、補正量表61の各ブロックのQP値から補正量決定テーブル1351で決定した補正量が足される(S75)。これにより、補正量表61の全体のQP値が上がるので、圧縮分布表51のQP値も上がることになる。つまり、利用可能帯域を超えていることから、圧縮分布表51のQP値を上げることで、画像データの圧縮率を全体的に高くする。これにより、出力ビットレートと基準送信ビットレートとの間にずれがなくなるので、パケットロスや、遅延の発生等を防止できる。
【0075】
こうして、第3補正量決定処理が終了し、図16のフローに戻る。そして、上記したのと同様に、補正量分布補正処理が実行され(S55)、圧縮して符号化(S56)、符号化の出力ビットレート計測(S57)、画像データの送信(S58)が順に実行される。その後、S51に戻り、メイン処理の終了指示がない場合は(S51:NO)、S52〜S58の処理が繰り返される。メイン処理の終了指示があった場合は(S51:YES)、送信処理を終了する。
【0076】
なお、以上の説明において、図12のS12を実行するCPU10が本発明の「利用可能帯域算出手段」に相当し、図13のS22を実行するCPU10が本発明の「特定点決定手段」に相当し、S23の処理を実行するCPU10が本発明の「圧縮分布決定手段」に相当し、図16のS56の処理を実行するCPU10が本発明の「圧縮手段」に相当し、S58の処理を実行するCPU10が本発明の「送信手段」に相当する。
【0077】
図16のS57の処理を実行するCPU10が本発明の「出力ビットレート計測手段」に相当し、S54の処理を実行するCPU10が本発明の「第1圧縮分布補正手段」に相当し、図15のS41の処理を実行するCPU10が本発明の「移動状態算出手段」に相当し、S42〜S46の処理を実行するCPU10が本発明の「第2圧縮分布補正手段」に相当し、図14のS31の処理を実行するCPU10が本発明の「位置ずれ算出手段」に相当し、S33,S34の処理を実行するCPU10が本発明の「第3圧縮分布補正手段」に相当し、図16のS55の処理を実行するCPU10が本発明の「分布態様付加手段」に相当する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の通信装置1では、通信相手である他の通信装置1との間で利用可能な帯域(以下、利用可能帯域と呼ぶ。)が計測される。画像データは、その計測された利用可能帯域に対応する圧縮分布で圧縮して符号化された状態で相手側に送信される。画像データを相手側に送信する場合、画像データからユーザの注目を最も惹きやすい「特定点」を抽出し、その特定点を中心とした圧縮分布を画像データにかける。具体的には、特定点の周囲は最も低い圧縮率で圧縮し、それ以外の部分は、特定点からの距離に応じて段階的に圧縮率を高くして圧縮する。このような圧縮分布を、計測した利用可能帯域に応じて使い分ける。これにより、パケットロス、遅延の発生を防止できると共に、顔の部分を中心により鮮明に表示できる。
【0079】
本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、様々な変形が可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施形態では、特定点Tとして、人物の顔の中心位置に設定した場合について説明したが、例えば、表示装置34の表示画面上に表示されるポインタを特定点Tとして設定してもよい。この場合も同様に、例えば、図21に示すように、ポインタを中心に圧縮率が最も低く、そのポインタから離れるにつれて圧縮率を段階的に高くすることができる。ポインタで指された箇所は、ユーザが最も注目する箇所であるので、例えば、各通信装置1の間で共通の資料データを共有して表示する場合に適用するとよい。また、画像データの中心位置を特定点として設定してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、特定点Tを1つにした場合について説明したが、複数の特定点Tを設定してもよい。例えば、図22に示すように、表示装置34の表示画面上に2つのポインタが表示される場合、一方のポインタを中心に設定される圧縮分布と、他方のポインタを中心に設定される圧縮分布とを合成すればよい。
【0081】
また、上記実施形態では、本発明における「通信プログラム」は通信装置1のHDD13に記憶されているが、CD−ROM等の他の記憶媒体に記憶されていてもよいことは言うまでもない。
【0082】
また、上記実施形態では、特定点を中心に画像データ全体に圧縮を掛けているが、画像データ内において、特定点を含む所定領域内だけに圧縮をかけるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 通信装置
8 ネットワーク
10 CPU
13 HDD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置であって、
前記ネットワークの利用可能帯域を算出する利用可能帯域算出手段と、
前記画像データにおける特定点を決定する特定点決定手段と、
前記利用可能帯域算出手段によって算出された前記利用可能帯域に基づき、前記特定点決定手段によって決定された前記特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて前記画像データの圧縮率が異なる圧縮分布を決定する圧縮分布決定手段と、
当該圧縮分布決定手段によって決定された前記圧縮分布に基づき、前記画像データを圧縮する圧縮手段と、
当該圧縮手段によって圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する送信手段と
を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記圧縮分布決定手段は、
前記利用可能帯域に対応する圧縮分布の情報である圧縮分布情報を記憶する圧縮分布情報記憶手段に記憶した前記圧縮分布情報に基づき、前記利用可能帯域算出手段によって算出された前記利用可能帯域に対応する前記圧縮分布を決定することを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記圧縮手段による前記圧縮データの出力ビットレートを計測する出力ビットレート計測手段と、
前記利用可能帯域算出手段によって算出された前記利用可能帯域の送信ビットレートである基準送信ビットレートと、前記出力ビットレート計測手段によって計測された前記出力ビットレートとの差分に基づき、前記圧縮分布決定手段によって決定された前記圧縮分布の前記圧縮率を補正する第1圧縮分布補正手段と
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記画像データを表示可能な表示画面を備え、
前記特定点決定手段は、前記画像データにおける人物の顔、前記画像データに重ねて前記表示画面に表示させるポインタ、若しくは前記画像データの中心位置のいずれかを前記特定点として決定することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の通信装置。
【請求項5】
前記画像データにおける前記特定点の移動状態を算出する移動状態算出手段と、
当該移動状態算出手段によって算出された前記特定点の移動状態に基づき、前記圧縮分布決定手段によって決定された前記圧縮分布の前記圧縮率を補正する第2圧縮分布補正手段と
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の通信装置。
【請求項6】
前記移動状態とは、前記画像データ内を移動する前記特定点の過去の位置の情報である位置情報から算出される前記特定点の座標位置の平均と偏差であって、
前記第2圧縮分布補正手段は、
前記平均を前記圧縮分布の中心とし、当該中心から少なくとも前記偏差分を含む領域を偏差領域とした場合に、
前記偏差領域内の圧縮率を下げ、前記偏差領域以外の領域の圧縮率を上げるように前記圧縮分布を補正することを特徴とする請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記画像データの中心の座標位置と、前記特定点の座標位置とのずれを算出する位置ずれ算出手段と、
当該位置ずれ算出手段によって算出された前記ずれに応じて、前記圧縮分布の前記圧縮率を下げるように補正する第3圧縮分布補正手段と
を備えたことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の通信装置。
【請求項8】
前記圧縮分布における前記圧縮率の補正量の分布の情報である補正量分布情報を記憶する補正量分布情報記憶手段に記憶された前記補正量分布情報に、前記圧縮分布情報によって決定された前記圧縮分布の分布態様を付加する分布態様付加手段を備えたことを特徴とする請求項3乃至7の何れかに記載の通信装置。
【請求項9】
ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置によって行われる通信方法であって、
前記ネットワークの利用可能帯域を算出する利用可能帯域算出ステップと、
前記画像データにおける特定点を決定する特定点決定ステップと、
前記利用可能帯域算ステップにおいて算出された前記利用可能帯域に基づき、前記特定点決定ステップにおいて決定された前記特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて前記画像データの圧縮率が異なる圧縮分布を決定する圧縮分布決定ステップと、
当該圧縮分布決定ステップにおいて決定された前記圧縮分布に基づき、前記画像データを圧縮する圧縮ステップと、
当該圧縮ステップにおいて圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する送信ステップと
を備えたことを特徴とする通信方法。
【請求項10】
ネットワーク経由で他の通信装置に画像データを送信可能な通信装置の動作を制御する通信プログラムであって、
コンピュータに、
前記ネットワークの利用可能帯域を算出する利用可能帯域算出ステップと、
前記画像データにおける特定点を決定する特定点決定ステップと、
前記利用可能帯域算ステップにおいて算出された前記利用可能帯域に基づき、前記特定点決定ステップにおいて決定された前記特定点を中心として、前記特定点を含む所定領域において前記特定点からの距離に応じて前記画像データの圧縮率が異なる圧縮分布を決定する圧縮分布決定ステップと、
当該圧縮分布決定ステップにおいて決定された前記圧縮分布に基づき、前記画像データを圧縮する圧縮ステップと、
当該圧縮ステップにおいて圧縮された圧縮データを前記他の通信装置に送信する送信ステップと
を実行させることを特徴とする通信プログラム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図2】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−234288(P2011−234288A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105235(P2010−105235)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】