通常の細胞保護活性を有するが抗凝固活性が低下した活性化プロテインC変異体
抗凝固活性は実質的に減少しているが抗アポトーシス活性は正常なレベルを維持している、組換え型活性化プロテインC(APC)の変異体(変異型)または組換え型プロテインC(プロドラッグ、APCに変換可能)を提供する。このような組換え型APC変異型の3つの例は、KKK191-193AAA-APC、RR229/230AA-APC、およびRR229/230AA+KKK191-193AAA-APCである。本発明のAPC変異体およびプロドラッグは細胞保護的な望ましい特性(抗アポトーシス作用)を有するが、出血のリスクは著しく減少している。本発明は、APCの抗凝固活性とは独立したAPCの細胞保護活性から恩恵を受けるであろう対象を治療するための、本発明のAPC変異体またはプロドラッグの使用方法も提供する。これらの対象には、少なくとも一部がアポトーシスによって惹起される、血管または各種臓器の組織に対する損傷のリスクを有する患者が含まれる。リスクを有する患者には、例えば、(重度)敗血症、虚血/再灌流障害、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性もしくは慢性の神経変性疾患に罹患している患者、または、その他の状態の中でも、臓器移植もしくは化学療法を受けている患者が含まれる。本発明に従って有用である組換え型プロテインCまたはAPCの変異体をスクリーニングする方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
これは、米国特許法第120条の下で優先権が主張されている、2004年7月8日に出願された同時係属中の出願である米国特許出願第10/886,766号の一部継続出願であり、米国特許法第119(e)条の下で2003年7月8日に出願された米国特許仮出願第60/485,792号の恩典が請求され、これらの先行出願の全ての開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、米国衛生研究所(National Institutes of Health)による契約番号第HL52246号の下で米国政府の援助を受けてなされた。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、通常は抗血栓活性、抗炎症活性および抗アポトーシス活性を有する酵素である組換え型プロテインCおよび活性化プロテインCの変異体(変異型)に関する。本発明の組換え型活性化プロテインC変異型は、抗凝固活性が著しく低下したが、抗アポトーシス(細胞保護)活性はほぼ通常の活性を維持しており、従って、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比は野生型または内因性活性化プロテインCよりも変異体において高い値である。本発明は、これらの変異体の使用方法にも関する。本発明の活性化プロテインCはアポトーシスもしくは細胞死の阻害物質として、および/または細胞生存因子として有用であり、特にストレスまたは損傷を受けた神経系および血管の細胞または組織において有用である。本発明は、少なくとも一部がアポトーシスによって惹起される細胞損傷のリスクを有する対象における本発明の変異体の治療的使用、およびこのような変異型タンパク質を含む治療用組成物にさらに関連して、これらの組成物は活性化プロテインC療法の副作用である出血のリスクを抑えつつ所望の細胞保護効果を提供しなければならない。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
プロテインCはビタミンK依存的セリンプロテアーゼ凝固因子群の一つである。プロテインCは、元々、その抗凝固活性および前線維素溶解活性に関して同定された。血液中を循環しているプロテインCは、複合体ナチュラルフィードバックメカニズムを介して血液凝固を調節するためにタンパク分解性活性化を必要とする不活性チモーゲンである。ヒトプロテインCは、主として461個のアミノ酸を有する単一のポリペプチドとして肝臓で産生される。続いて、この前駆体分子は、翻訳後に(i)アミノ酸42個のシグナル配列の開裂、(ii)1本鎖チモーゲンからの155位のリジン残基および156位のアルギニン残基のタンパク分解性除去による2本鎖型の生成(即ち、262個のアミノ酸残基を有するセリンプロテアーゼを含む重鎖にジスルフィド結合によって結合した155個のアミノ酸残基を有する軽鎖)、(iii)軽鎖の先端の42個のアミノ酸にクラスター形成したグルタミン酸残基のカルボキシル化による9個のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基の生成、および(iv)4カ所(1カ所は軽鎖、3カ所は重鎖)でのグリコシル化によって修飾される。この重鎖には、Asp257、His211およびSer360のセリンプロテアーゼの三つ組が含まれる。
【0005】
細胞外プロテアーゼのその他の大半のチモーゲンおよび凝固因子と同様に、プロテインCはチモーゲンおよび酵素の制御を可能とする挿入およびN末端伸長を有するキモトリプシンファミリーのコア構造を有する。興味深いことに、表皮成長因子(EGF)と同様のアミノ酸配列を有する2つのドメインがある。ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、ブタ、ウマおよびウシ由来のプロテインCのヌクレオチドおよびアミノ酸の配列の少なくとも一部、ならびにヒトプロテインCの変異および多型は公知である(GenBankアクセッションP04070を参照)。異なる生物学的活性に影響を及ぼすヒトプロテインCのその他の変異体が公知である。
【0006】
プロテインCの活性化はトロンビンによって介在されて、重鎖の15位のアルギニン残基および16位のロイシン残基(キモトリプシン番号付け)の中間部位で作用する(Kisiel, J. Clin. Invest., 64: 761-769, 1976; Marlar et al., Blood, 59: 1067-1072,1982; Fisher et al. Protein Science, 3: 588-599,1994を参照)。第Xa因子(Haley et al., J. Biol. Chem., 264: 16303-16310, 1989)、ラッセルクサリヘビ毒およびトリプシン(Esmon et al., J. Biol. Chem., 251: 2770-2776, 1976)を含むその他のタンパク質も不活性プロテインCを酵素的に開裂して活性型に変換することが示されている。
【0007】
トロンビンは内皮細胞からなる管腔表面の膜結合型トロンビンレセプターであるトロンボモジュリンに結合して、それによってそのエキソサイト(exocite)Iを介してトロンビンの前凝固活性を遮断し、抗凝固特性を亢進させて、即ち、プロテインCを活性化する。抗凝固剤として、活性化プロテインC(APC)はその補因子であるプロテインSを補助として、トロンビン形成を持続させる固有の抗凝固経路に必要な活性化補因子である第Va因子および第VIIIa因子を開裂させ(Esmon et al., Biochim. Biophys. Acta., 1477: 349-360, 2000a)、これによって第Vi因子および第VIIIi因子の不活化補因子が得られる。
【0008】
トロンビン/トロンボモジュリン複合体に介在されるプロテインCの活性化は、プロテインCが内皮細胞プロテインCレセプター(EPCR)に結合してこれによってプロテインCが内皮細胞の膜表面に局在すると、促進される。EPCRと結合すると、APCの抗凝固活性は阻害される;APCがEPCRから解離すると、特に活性化された血小板または内皮細胞膜上の負に帯電したリン脂質に結合すると、APCはその抗凝固活性を発現する。
【0009】
プロテインC経路の構成要素は、抗凝固活性ばかりでなく抗炎症機能にも寄与する(Griffin et al., Sem. Hematology, 39: 197- 205, 2002)。トロンボモジュリンの抗炎症作用は、最近ではそのレクチン様ドメインに起因するとされているが、マウスを好中球介在性の組織障害から保護することができる(Conway et al., J. Exp. Med. 196: 565-577, 2002)。細胞周期の調節に関与するマウス中心体タンパク質CCD41、つまりセントロサイクリンは、N末端側31個のアミノ酸を欠くマウスEPCRと同一である(Rothbarth et al., FEBS Lett., 458: 77-80, 1999; Fukodome and Esmon, J. Biol. Chem., 270: 5571-5577, 1995)。EPCRは、構造的には、大部分が炎症プロセスに関与するタンパク質のMHCクラス1/CD1ファミリーの同族体である。この同族性はEPCRの機能がAPCまたはプロテインCの内皮膜への局在能力に限定されない可能性があることを示唆する(Oganesyan et al., J. Biol. Chem., 277:24851-24854, 2002)。APCはヒヒにおいて大腸菌(E. coli)注入の致命的影響に対してEPCR依存的保護作用を提供して(Taylor et al., Blood, 95:1680-1686, 2000)、様々なモデルにおいて前炎症性サイトカインの産生をダウンレギュレートして組織因子の発現または血圧を都合よく変化させることができる(Shu et al., FEBS Lett. 477: 208-212, 2000;Isobe et al., Circulation, 104:1171-1175, 2001;Esmon, Ann. Med., 34:598-605, 2002)。
【0010】
炎症は傷害および感染に対する生体の反応である。炎症には3つの主な事象が関与する:(1)傷害または感染領域への血液供給の増加;(2)内皮細胞の退縮によって可能とされる毛細血管透過性の増大;および(3)毛細血管から周辺組織への白血球の移動(以後、細胞浸潤と言う)(Roitt et al., Immunology, Grower Medical Publishing, New York, 1989)。
【0011】
ヒトの場合、多くの深刻な臨床状態が原因となる炎症プロセスを伴う。例えば、多発性硬化症(MS)は中枢神経系の炎症性疾患である。MSの場合、循環白血球が炎症を起こした脳の内皮に浸潤してミエリンを障害し、その結果、神経伝導が損なわれて麻痺を生じる(Yednock et al., Nature 366:63-66 (1992))。全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己抗原指向性の抗体によって引き起こされる組織障害の存在を特徴とする自己免疫疾患である。様々な臓器において抗原に自己抗体が結合すると、補体介在性および炎症細胞介在性の組織障害に至る(Theofilopoulos, A.N., Encyclopedia of Immunology, pp. 1414-1417(1992))。
【0012】
APCは抗凝固活性および抗炎症活性ばかりでなく、抗アポトーシス活性も有する。プロテアーゼ活性化レセプター-1(PAR-1)のAPC活性化がEPCR依存的であることから(Riewald et al., Science, 2296: 1880-1882, 2002; Cheng et al., Nat. Med., 9: 338-342, 2003; Mosnier and Griffin, Biochem. J., 373: 65-70, 2003)、一部の細胞では、EPCRはAPCの抗アポトーシス活性における必須の補因子であることが見出されている。APCの抗凝固活性は、第Va因子および第VIIIa因子の不活性化を必要とし、一方APCによる細胞保護は、2つの受容体であるEPCRおよびPAR-1を必要とする。著しいレベルのEPCRが、例えば骨の造血幹細胞で見つかっている(Balazs, Blood 107:2317-21, 2006)。
【0013】
APCは、NFκBサブユニットの発現を調節することによって、インビトロにおいて内皮細胞におけるスタウロスポリン誘発性アポトーシスを潜在的に阻害することも示されている(Joyce et al., J. Biol. Chem., 276: 11199-11203, 2001)。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)におけるスタウロスポリン誘発性アポトーシスおよび腫瘍壊死因子α介在性のHUVECの傷害は、転写プロファイリングに基づいて、NFκBシグナル伝達の阻害が接着分子のダウンレギュレーションを惹起することを示唆している(Joyce et al.、前記、2001)。APCによる抗アポトーシス遺伝子(例えば、Bcl2-関連タンパク質A1つまりBcl2A1、アポトーシス1の阻害剤つまりclAP1、内皮細胞一酸化窒素シンターゼつまりeNOS)の誘導は、アポトーシスのスタウロスポリンモデルにおけるAPCの抗アポトーシス作用に関連する予想メカニズムとして解釈されている。
【0014】
本明細書で使用される、敗血症という用語は、疑いのあるまたは証明された感染に全身性炎症反応症候群(例えば、発熱、頻脈、頻呼吸または白血球増加)が加わったものと定義される;本明細書で使用される、重度の敗血症という語句は、臓器の機能不全を伴う敗血症と定義される(例えば、低血圧、低酸素血、乏尿、代謝性アシドーシス、血小板減少または鈍麻)(Russell, New Engl. J. Med. 355(16):1699-713, 2006)。重要なことは、敗血症の多くの症例において、感染の原因の立証が不可能であることである。
【0015】
APCは重度敗血症患者において28日間総死亡率を19%押し下げるという顕著な能力を有するが(Bernard et al., New Engl. J. Med. 233:699-709, 2001a)、アンチトロンビンIIIおよび組換え型TFPIのような強力な抗凝固剤は同様の第III相臨床試験において効果を示さなかった(Warren et al., JAMA, 286: 1869-1878, 2001; Abraham et al., Crit. Care Med., 29:2081-2089)。この相違の説明は、最近説明されたAPCの抗アポトーシス活性および抗炎症活性にある可能性がある。敗血症の治療におけるAPCの臨床的成功は、その抗アポトーシスまたは抗炎症活性を介在する直接的な細胞作用に関連する可能性がある。
【0016】
APCの有益な効果を示す多くのインビボ試験に関わらず、細胞に対するAPCの直接的な抗炎症作用および抗アポトーシス作用を司る分子的メカニズムに関する情報は限られている。APCは、抗炎症遺伝子および細胞生存遺伝子に対して注目すべき影響を及ぼして、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)における遺伝子発現を直接調節することができる(Joyce et al.、前記、2001;Riewald et al.、前記、2002)。Riewaldらはこの一部の細胞におけるAPCの直接作用にはPAR-1およびEPCRが必要であることを示しているが(Riewald et al.、前記、2002)、彼らはPAR-1シグナル伝達を伴うAPCの機能的活性に関連するデータを提供しなかった。
【0017】
組換え型活性化プロテインC(rAPC)は、キシグリス(Eli Lilly & Co.)と同じく、重度敗血症の治療のために承認されていて(Hotchkiss and Karl, NEJM, 348: 138-150, 2003; Russell, New Engl. J. Med. 355(16):1699-713, 2006)、本剤は最終的にはその他の有利な出願がなされるであろう。しかし、臨床試験では、APC投与に関連して深刻な出血のリスクが増大することが示されている。この出血リスクの増大はAPC療法の重大な制限事項である。敗血症におけるAPCの効果がその抗炎症活性および細胞生存活性に帰因し得るならば、有益な抗アポトーシス活性または細胞保護活性を維持しつつ抗凝固活性が低下した化合物が望ましい。
【発明の概要】
【0018】
本発明の目的は、少なくとも一部はアポトーシスに関連する細胞損傷の軽減または防止に用いるための治療薬または研究ツールとして組換え型APCの変異体(変異型)またはプロドラッグ(例えば、組換え型プロテインCの変異体)を提供することである。アポトーシスと少なくとも一部関連する細胞損傷、特にこのような細胞損傷のリスクを有するまたは患っている対象において、細胞損傷を軽減または防止する方法を提供することも本発明の目的である。本発明のもう一つの目的は、本発明に従って用いるための変異型候補をスクリーニングするための方法を提供することである。
【0019】
本発明は、野生型に比べて、抗アポトーシス活性に対して低い抗凝固活性を示し、かつ従って、細胞保護物質としての用途を有する、組換え型APCの変異体およびプロドラッグ(プロテインC変異体)を対象とする。このような組換え型APC変異型の3つの例は、KKK191-193AAA-APC(191、192および193のリジンがアラニンに変異)、RR229/230AA-APC(229および230のアルギニンがアラニンに変異)、およびRR229/230AA+KKK191-193AAA-APC(229および230のアルギニンからアラニンへの変異と191、192および193のリジンからアラニンへの変異との組み合わせ(以降、「5A-APC」))である。本発明者らが本明細書で示すように、これらの例示的APC変異体は通常の抗アポトーシス性の細胞保護活性の望ましい特性は維持するが、抗凝固活性の低下により、出血のリスクは著しく低下している。本発明のAPCおよびプロテインC変異体は、野生型APCよりも高い抗アポトーシス活性対抗凝固活性比(即ち、>1.0)を示す。
【0020】
本発明の一つの態様において、少なくとも一部がアポトーシスに関連する障害の防止または軽減の方法が提供される。本態様の一つの関連する局面において、少なくとも一部がアポトーシスに関連する細胞損傷リスクを有する対象の治療の方法が提供される。これらの対象には、少なくとも一部がアポトーシスによって引き起こされる各種臓器の血管または組織に対する障害のリスクを有する患者が含まれる。リスクを有する患者には、例えば、(重度)敗血症、虚血/再灌流障害、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性もしくは慢性神経変性疾患の患者、またはその他の状態の中で臓器移植もしくは化学療法を受けている患者が含まれる。本発明のAPC変異体およびプロドラッグは、APC抗凝固活性に依存しないAPC保護活性から恩典を受ける対象の治療に有用であるはずである。本発明のプロドラッグの態様は、プロテインCのAPCへの変換後に、正常またはほぼ正常な細胞保護活性を維持しつつ抗凝固活性が低下した組換え型プロテインC変異体を伴い得る。例えば、活性化された場合、プロテインCの変異体は1.0よりも高い抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の望ましい割合を示す。
【0021】
本発明のもう一つの態様において、APC変異型は、出血のリスクを大幅に低下させつつ、細胞において有益な細胞保護作用を発揮する治療薬または治療用組成物として提供され得る。本発明のさらにもう一つの態様において、抗凝固活性は低下したが有益な細胞保護活性および抗炎症活性は維持している組換え型APC変異体候補をスクリーニングする方法が提供される。
【0022】
野生型活性化プロテインCに関連する出血のリスクを考慮すると、本発明のAPC変異型は現在入手可能な野生型の組換え型APCを上回る利点を提供する。従って、APCが単にその抗凝固活性のためではなく抗炎症活性または抗アポトーシス活性、すなわち細胞生存活性のために用いられる場合は必ず、本発明のAPC変異型は単独またはその他の物質と併用して優れた治療効果を提供することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1a〜1bは、組換え型野生型(rwt-APC)および組換え型APCの変異体による、Eahy926内皮細胞におけるスタウロスポリン誘発性(STS)アポトーシスの阻害を示す。この図面および他の図面において、3K3A-APCはKKK191-193AAA-APCを表し、229/230-APCはRR229/230AA-APCを表し、かつ306-314-APCはR306A/K311A/R312A/R314A-APCを表す。図1aは、アポトーシス細胞のパーセントとして示したSTS誘発性アポトーシスの用量依存的な減少を示す。図1bは、対照STS(APCなし)に対するアポトーシス細胞のパーセントとして正規化したデータを用いた、STS誘発性アポトーシスの用量依存的な減少を示す。
【図2】組換え型APCの野生型および変異体における抗凝固活性に対する抗アポトーシス(細胞保護)活性の比を示す。
【図3】図3a〜3bは、rwt-APCおよびAPC変異体のアミド溶解活性および抗凝固活性を示す。この図面および他の図面において、S360A-APCは、活性部位のセリン残基がアラニンにより置換されているSer360Ala-APCの変異型を表す。aは、小色素産生性基質であるS-2366に対するrwt-APCおよびAPC変異体のアミド溶解活性を示す。bは、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイを用いて測定したrwt-APCおよびAPC変異体の抗凝固活性を示す。各時点は、少なくとも3回の独立した実験から得られた平均値±S.E.M.を示す。記号は次を示す:□、rwt-APC;○、RR229/230AA-APC;◇、KKK191-193AAA-APC;■、S360A-APC。
【図4】図4a〜4cは、rwt-APCおよび抗凝固活性が障害されたAPC変異体の抗アポトーシス活性を示す。aは、APCによるスタウロスポリン(STS)誘発性アポトーシスの阻害(方法を参照)。APCを添加しない場合に認められたアポトーシス内皮細胞のパーセント(全細胞の18%)を100%とした。各時点は、少なくとも3回の独立した実験から得られた平均値±S.E.M.を示す。記号は次を示す:□、rwt-APC;○、RR229/230AA-APC;◇、KKK191-193AAA-APC;■、S360A-APC、●、スタウロスポリンなし。b、cは、スタウロスポリン(2μM、4時間)によってアポトーシスを誘発した際の、rwt-APCおよびAPC変異体(25nM、5時間)による活性化カスパーゼ-3陽性細胞の減少を示す。bは、存在する総細胞数のパーセントとして示した活性化カスパーゼ-3陽性細胞を示す。「STSなし」の細い線により示されるように、内皮細胞の約2%はスタウロスポリン非存在下で活性化カスパーゼ-3に関して陽性であった。各バーは、2〜4回の独立した実験の平均値±SEMを示す。cは、活性化カスパーゼ-3特異抗体(赤)およびDAPI核染色(青)を用いた活性化カスパーゼ3陽性細胞の免疫蛍光分析を示す。カラムは同一視野を示す。元々の倍率は200倍であった。
【図5】rwt-APCおよびAPC変異体によるアポトーシスの阻害はPAR-1およびEPCRを必要とする。rwt-APCおよび抗凝固活性が障害されたAPC変異体によるスタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスの阻害におけるPAR-1およびEPCR依存性は、PAR-1(白抜きのバー)に対する遮断抗体(WEDE-15 20μg/mlおよびATAP-2 15μg/mlの組み合わせ)またはEPCR(網掛けのバー)に対する遮断抗体(ウサギ抗EPCR 20μg/ml)を用いて調べた。黒塗りのバーは「添加抗体なし」を示す。スタウロスポリン(10μM、1時間)によるアポトーシスの誘発前に、細胞をrwt-APCまたはAPC変異体(5nM)と共に5時間、インキュベートした。アポトーシスはApopercentage色素の取り込みによって分析して、APCを添加しなかった場合に認められたアポトーシス細胞のパーセント(全細胞の20%)(100%とする)に対するパーセントとして表した。「鉛直線」のあるバーは、APCおよびスタウロスポリン非存在下での相対的アポトーシスを示す。各バーは、少なくとも3回の独立した実験から得られた平均値±S.E.M.を示す。
【図6】rwt-APCおよびAPC変異体によるPAR-1 N末端 TR33-62ペプチドのArg41における開裂を示す。HPLCを用いて、APCによるTR33〜62の開裂をTR33〜62ペプチド基質ピークの消失(白抜きの記号)およびTR42〜62ペプチド産物ピークの出現(黒塗りの記号)として経時的にモニタリングした。記号は次を示す:■、□:rwt-APC;●、○、RR229/230AA-APC;◆、◇、KKK191-193AAA-APC;およびX、X:S360A-APC。rwt-APCおよび2つの抗アポトーシス性APC変異体について、3〜5回の独立した実験のプールしたデータポイントを示す。活性部位であるSerを持たないS360A-APCには、開裂は認められなかった(X)。エラーバーは±S.E.M.を示す。
【図7】rwt-APC、5A-APCおよびS360A-APCのアミド溶解活性を示す。
【図8】rwt-APC、5A-APCおよびS360A-APCの抗凝固活性を示す。
【図9】rwt-APCおよび5A-APCによる、単球からのLPS誘発性TNFα放出の阻害を示す。
【図10】rwt-APCおよび5A-APCによる、単球からのLPS誘発性IL-6放出の阻害を示す。
【図11】rwt-APCおよび5A-APCによる、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスの阻害を示す。
【図12】図12a〜12bは、ヒト血漿におけるAPC種の半減期を示す(データは0時点と比較した活性の割合に変換した)。図12aは、時間に対するアミド溶解活性の割合を示す(片対数)。図12bは、時間に対するアミド溶解活性の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
活性化プロテインC(APC)は従来より凝固連鎖における抗凝固酵素と見なされていて、補因子である第Va因子および第VIIIa因子を不活化することによってトロンビン形成およびそれに続くフィブリンクロットの形成を阻害する(Esmon、前記、2000a)。しかし、APCは重度敗血症における死亡率を低下させるという顕著な能力も有するが(Bernard et al.、前記、2001a;Bernard et al., Crit. Care Med., 29: 2051-59, 2001b;Hinds, Brit. Med. J., 323: 881-82, 2001;Kanji et al., Pharmacother., 21: 1389-1402, 2001)、抗トロンビンIIIおよび組織因子経路阻害剤のようなその他の抗凝固剤はこの能力を持たない(Warren et al.、前記、2001;Abraham et al.、前記、2001)。APCのこの特性によって、徹底した研究が十分に行われていないAPCに起因する直接の抗炎症活性および抗アポトーシス活性における研究者の関心はピークに達した(例えば、Cheng et al. Nat. Med., 9: 338-42, 2003; Domotor et al., Blood, 101: 4797-4801, 2003; Fernandez et al., Blood Cells Mol. Dis., 30: 271-276, 2003; Esmon, J. Autoimmun., 15: 113-116, 2000bを参照)。APCには虚血性発作に惹起される障害から脳を保護する可能性もある(Cheng et al.、前記、2003; Esmon Thrombos Haemostas, 83: 639-643, 2000c)。
【0025】
APCの治療薬としての用途における最大の懸念は、APCの抗凝固活性に起因する出血性合併症(Bernard et al.、前記、2001a; Bernard et al.、前記、2001b)のリスクの増大である。本発明のAPC変異体は、有益な抗アポトーシス活性を維持しつつ内因性APCまたは野生型の組換え型APCよりも優れた低い抗凝固活性を有することによって、この問題を解決する。抗凝固活性と抗アポトーシス活性の識別は、この問題の解決における最初の工程であった。本発明者らは、これらの活性の制御におけるEPCRの役割にある程度焦点を絞っている。
【0026】
EPCRは元はプロテインCおよびAPCを等しい親和性で結合し得るレセプターとして発見され(Fukodome and Esmon、前記、1995)、かつEPCRは、明らかにトロンボモジュリン結合トロンビンによる効率的活性化のためにプロテインCの空間的局在化を至適化することによって、トロンビン-トロンボモジュリン複合体によるプロテインCの活性化を促進することが示された(Stearns-Kurosawa, et al., Proc. Nat'l Acad. Sci., USA, 93: 10212-10216, 1996)。おそらく、EPCRはAPCを内皮表面に結合して、APCの活性部位をArg41のPAR-1開裂部位近くに位置させる。逆説的に、EPCR機能はプロテインCの活性化を刺激することによって抗凝固性となり得るが(Stearns-Kurosawa, et al.、前記、1996)、APCの抗凝固活性は実際にはAPCが可溶性EPCRに結合する場合に阻害される(Regan et al., J. Biol. Chem., 271: 17499-17503, 1996)。APCのEPCRへの結合はAPCの抗アポトーシス活性には必須であるため、本発明者らはAPCの抗アポトーシス活性はその抗凝固活性には依存しないと結論付けている。本発明者らは、抗凝固活性は欠くが抗アポトーシス活性は維持する一部のAPC変異型が形成され得ると仮定した。このような変異型は、それらが患者に対して出血リスクの増大を伴うことなく直接の細胞生存活性を提供するならば、治療上、有用であることができる。
【0027】
本発明者らは、APCの異なる型についてそれらの抗アポトーシス活性をアッセイすることによって、その抗アポトーシス活性に必要なAPCの構造エレメントを調べてきた。スタウロスポリン誘発性アポトーシスは抗APCモノクローナル抗体を用いたAPCの前処理またはAPCの熱変性によって遮断されて、それによって、APCの抗アポトーシス活性の特異性が確立された(Mosnier and Griffin、前記、2003)。不活性プロテインCチモーゲン、ならびに活性部位のSerがAlaによって置換された不活性APC変異型であるS360A-APC(Gale et al., Protein Sci., 6: 132-140, 1997)は抗アポトーシス活性を欠いたことから(Mosnier and Griffin、前記、2003)、APCに介在されるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害にはAPC活性部位が必要であることが明らかとなった。これは、APCの抗アポトーシス活性がタンパク分解によって介在されることを意味する。
【0028】
本発明者らによって、EAhy926内皮細胞を用いた修飾スタウロスポリン誘発アポトーシスモデルを用いてAPCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害がPAR-1およびEPCR依存的であることが実証されるまで(Mosnier and Griffin、前記、2003)、スタウロスポリン誘発性アポトーシスのAPC介在性阻害(Joyce et al.、前記、2001)がPAR-1およびEPCRに依存するかどうかは不明であった。ヒト脳内皮細胞における低酸素症誘発性アポトーシスの阻害もPAR-1を必要とすることが示されている(Cheng et al.、前記、2003)。従って、アポトーシスの阻害にはAPCのタンパク分解性活性部位が必要であるという推測に一致して、PAR-2ではなくPAR-1に対する抗体を遮断しながら細胞をプレインキュベートすることによってAPCに介在されるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害が消失した(Mosnier and Griffin、前記、2003)。さらに、APCの抗アポトーシス活性はAPCのEPCRへの結合を遮断する抗EPCR抗体によって消失しており(Mosnier and Griffin、前記、2003)、対照により、抗EPCR抗体のこの作用は抗体をペプチド免疫原と共にプレインキュベートすることによって中和されることが示された(Mosnier and Griffin、前記、2003)。従って、抗体遮断試験に基づいて、APCが内皮細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスを阻害するためにはPAR-1およびEPCRが必要である。
【0029】
EAhy926内皮細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害におけるこのPAR-1およびEPCRの必要性は、低酸素性脳微小血管内皮細胞の場合、これらのレセプターがAPCの抗アポトーシス活性に重要であるという知見と一致する(Cheng et al.、前記、2003)。
【0030】
APCは、トロンビン開裂部位であるArg41において合成細胞外N末端PAR-1ポリペプチドを開裂することができる(Kuliopulos et al., Biochemistry, 38: 4572-4585, 1999)。APCによるこの合成PAR-1ポリペプチドの開裂はトロンビンによる開裂の1/5,000の速度である(Kuliopulos et al.、前記、1999)。トロンビンがArg41においてPAR-1を開裂すると、強力な細胞シグナル伝達経路が開始され得る。APCによるArg41の部位でのPAR-1の開裂によって、MAPキナーゼのリン酸化を含む細胞シグナルが開始される可能性が高い(Riewald et al.、前記、2002)。低酸素状態に置かれた脳内皮細胞の場合、APCシグナル伝達によって、先ず、p53量の増加が阻害される(Cheng et al.、前記、2003)。先行試験から、APCは複数の抗アポトーシス遺伝子がアップレギュレートされるようにHUVECの遺伝子発現特性を直接変化させて(Joyce et al.、前記、2001; Riewald et al.、前記、2002)、プロアポトーシス因子であるBaxの量はAPCによって特異的にダウンレギュレートされるが脳内皮細胞における抗アポトーシス因子であるBcl-2の量はAPCによってアップレギュレートされること(Cheng et al.、前記、2003)が示唆される。Bax/Bcl-2の棄却限界比の具体的変化は、アポトーシスにおける重要な意義を有する可能性が高い。PAR-1依存的APCシグナル伝達のメカニズムに関しては、これらの事象の他にはほとんど言及されていない。PAR-1アゴニストペプチドであるTFLLRNPNDKはEAhy926細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスからの保護作用を示さなかったが、このアゴニストが低酸素症誘発性アポトーシスからの脳内皮細胞の部分的救済を示したことは興味深いことであり、これらの二つのモデルにおけるAPCのPAR-1依存的抗アポトーシス活性には微妙ではあるが重要な差異があることを示唆している。
【0031】
インビボにおけるデータは、APCの抗凝固活性および細胞保護活性の重要な相違点と一致する。マウス虚血/再灌流損傷モデルにおけるAPC誘発性神経保護作用は、フィブリン沈着または血流再開に対して影響を及ぼさない低いAPC用量において観察されており、APCの神経保護作用は、少なくとも一部はPACの抗凝固活性に非依存的であったことを示している(Cheng et al.、前記、2003)。
【0032】
APC非存在下では、PAR-1またはPAR-2アゴニストペプチドのいずれでも、EAhy926細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害は観察されなかった。さらに、PAR-1の原型活性化物質であるトロンビンはスタウロスポリン誘発性アポトーシスを阻害しなかった(Mosnier and Griffin、前記、2003)。PAR-1のこれらのその他の活性化物質が細胞生存活性を提供できないことは、スタウロスポリン誘発性アポトーシスにおけるAPCのPAR-1依存的抗アポトーシス作用がAPCに特異的であることを示す。作用機序には結びつけられないが、本発明者らはEPCR結合APCがPAR-1を開裂して活性化すると、トロンビンまたはPAR-1アゴニストペプチドを引き金とするシグナルに比して、PAR-1の細胞内シグナル伝達の顕著な調節が起こることが推測できる。複雑性のもう一つの潜在的な原因は、報告されたEPCRのAPC核移転介在能力に起因する可能性がある(Esmon、前記、2000c)。様々な細胞モデル系においてAPCによるアポトーシス阻害を惹起する細胞内のシグナルおよび経路については、今後、解明されなければならない。
【0033】
PAR-1を介したAPCのEPCR依存的シグナル伝達の生理学的な関連性は、PAR-1およびEPCRを必要とするマウス虚血/再灌流障害モデルにおけるAPC誘発性神経保護作用によってさらに実証される(Cheng et al.、前記、2003)。APCはストレスを受けた脳内皮細胞ではEPCRおよびPAR-1を介して、またはストレスを受けたニューロンではPAR-1およびプロテアーゼ活性化レセプター-3(PAR-3)を介して作用して、これらのストレスおよび/または損傷を受けた脳細胞において抗アポトーシス経路および/または生存促進経路を活性化し得る。インビトロにおけるヒト脳内皮およびインビボにおける動物体内において(虚血性発作およびNMDAモデル)、APCはストレスまたは損傷を受けた脳細胞においてp53-シグナル伝達アポトーシス促進経路を阻害することができる(国際特許出願第PCT/US03/38764号)。
【0034】
実施例
プロテインCおよび活性化プロテインCの構造-活性の関連性は、時に内因性プロテインCを発現している宿主細胞にトランスフェクトされた発現構築物を用いて産生される変異体ポリペプチドを用いて調べることができる。従って、プロテインCまたは活性化プロテインCの別々のドメインにおける変異がそのタンパク質の機能における活性の低下または亢進にも関連し得る。
【0035】
出血のリスクが低下している、即ち抗凝固活性は低下しているが、一つまたは複数の有益な細胞保護作用は維持している、本発明のAPC変異体およびプロドラッグを作製するために、本発明者らは特定部位の突然変異誘発によってAPCの抗アポトーシス活性と抗凝固活性を識別した。APCのプロテアーゼドメインの様々な表面ループ中の複数のアミノ酸が、アラニンに変異した場合に抗凝固活性は著しく低下するが抗アポトーシス活性には影響されないことが同定された。これらの予想外の知見により、細胞保護活性を維持した組換え型APC変異体の現在および将来の臨床利用に伴う出血性合併症が減少される可能性が高いことから、APCの抗アポトーシス活性を維持したまま抗凝固活性の減少をはかる方法が実現可能でありかつ有意義であることが示されている。
【0036】
APCの抗凝固活性の構造的基盤は、第一にAPCと第Va因子の相互作用を軸としている。第Va因子内のAPC開裂部位はArg306、Arg506およびArg679の残基に位置して、前者の二つの開裂は補因子活性の消失と相関する(Rosing and Tans, Thromb Haemost, 78: 427-433,1997 ; Kalafatis and Mann, J. Biol. Chem., 268: 27246-57, 1993)。Arg506での第Va因子の開裂は速やかに起こって、通常はArg306での開裂に先行する。従って、それが第Va因子の最初の不活化における最も重要な位置と考えられる(Norstrom et al., J. Biol. Chem., 278: 24904-1133, 2003 ; Nicolaes, et al., J. Biol. Chem., 270: 21158-66, 1995)。APCと第Va因子におけるArg506開裂部位の相互作用については徹底した性状解明が行われていて、結果として、APCのプロテアーゼドメインの正に帯電した表面における第Va因子結合部位が定義されている(Gale et al., Blood, 96: 585-593, 2000; Gale et al., J. Biol. Chem. 277: 28836-28840, 2002 ; Friedrich et al., J. Biol. Chem., 276: 23105-08, 2001a ; Knobe et al., Proteins, 35: L218-234,1999 ; Shen et al., Thromb. Haemost., 82: 72-79, 1999)。APCにおける第Va因子結合のためのこの正のエキソサイトは一般にトロンビンの陰イオン結合エキソサイト部位Iと同一領域に位置して、プロテインC残基190〜193(キモトリプシン(CHT)残基36〜39に相当)を含むループ37、残基225〜235(CHT 70〜80)を含むカルシウムイオン結合ループ、および残基301〜316(CHT 142〜153)を含む自己融解(autolysis)ループの残基を含む(Mather et al., EMBO J., 15:6822-31, 1996)。さらに、プロテインCの残基214〜222(CHT 60〜68)を含むループ60の変異はAPCによる第Va因子の不活化に対してはほとんど作用しないが、このループはトロンボモジュリンおよびヘパリンとの相互作用には関連する(Gale et al.、前記、2002; Friedrich et al.、前記、2001a; Knobe et al.、前記、1999; Shen et al.、前記、1999; Friedrich et al., J. Biol. Chem., 276:24122-28, 2001b)。
【0037】
Galeら(前記、2002)は、APCの表面ループ中の変異がその抗凝固活性に影響を及ぼすことを実証している。APC変異型であるKKK191-193AAA-APC(ループ37)、RR229/230AA-APC(カルシウムループ)、RR306/312AA-APC(自己融解ループ)、RKRR306−314AAAA-APC(自己融解ループ)は、それぞれ、本来のAPCの抗凝固活性の10%、5%、17%、および2%未満の活性を有することが示された。続いて、本発明者らは、アポトーシスのスタウロスポリンモデルにおいて、低下した抗凝固活性を有するこれらのAPC変異型、KKK191-193AAA-APC、RR229/230AA-APCおよび5A-APC(例えばMosnier et al.(Blood 104:1740-1744, 2004)を参照のこと)ならびにRR306/312AA-APC(Mosnier & Griffin、未発表データ)がAPCの抗アポトーシス活性を維持していることを見出した。
【0038】
本発明者らが細胞保護活性に対して抗凝固活性に必要なAPCの構造的特性を識別できることを実証するために、本発明者らは抗凝固活性が著しく低下したAPCの組換え型変異体について試験を行った。APCの第Va因子結合部位における特定部位の突然変異の二重、三重、四重、および五重の組み合わせを用いて、本発明者らは抗凝固活性は著しく低下したが小ペプチド(色素形成性)基質における酵素活性は本質的に変化していない1セットのAPC変異体を構築した(Gale et al.、前記、2000;Gale et al.、前記、2002)。抗凝固活性は希釈プロトロンビン凝固アッセイにおいて測定された(Gale et al.、前記、2002)。APC変異型の細胞保護(抗アポトーシス)活性は、MosnierおよびGriffin(前記、2003)によって述べられるように修飾したEAhy926内皮細胞を用いたスタウロスポリン誘発性アポトーシスモデルを用いて試験した。活性部位であるセリン360がアラニンで置換された不活性APC変異型(S360A-APC、表1を参照)(Gale et al.、前記、1997)が抗アポトーシス活性を欠いたことから(Mosnier and Griffin、前記、2003)、APCに介在されるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害にはAPCの活性部位が必要であることが見出された(図1aおよび1b)。Eahy926内皮細胞における組換え型APCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害はApopercentage染色により測定した。組換え型の野生型APC(rwt-APC)によるアポトーシスの阻害は用量依存的であった(図1a)。スタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減は、0.24nM rwt-APCにおいて、スタウロスポリン添加前にAPCを細胞と共に5時間プレインキュベートして達成された。S360A-APC変異型にはアポトーシス活性がないことに留意されたい(図1b)。実施例1〜3記載の変異型、および野生型に対するそれらの活性%は、表1に示す。また、実施例4に示されるように、野生型APCおよび実施例1〜3の変異型APCのそれぞれにおける抗凝固活性に対する抗アポトーシス(細胞保護)活性の比を表1に示す。
【0039】
(表1)APC変異型の概要(希釈プロトロンビン時間(PT)により測定された抗凝固活性)
1 参照(Gale et al., 1997; Gale et al., 2000; Gale et al., 2002)より;より多くの情報は本文および方法を参照されたい。
2 希釈PTの代わりにAPTTにより測定
n/a:該当なし;rwt-APC、組換え型野生型APC;229/230-APC、RR229/230AA-APC;3K3A-APC、KKK191-193AAA-APC;306-314-APC、RKRR306/311/312/314AAAA-APC。
【0040】
実施例1
APCのカルシウム結合ループ内の2つのアルギニン残基であるArg229およびArg230をアラニン残基で置換すると、APCの一つの型であるRR229/230AA-APC(229/230-APC)が形成されて(表1を参照)、残留抗凝固活性はわずかに6.6%であった。RR229/230AA-APCのこの抗凝固活性の低下は、主として、Arg506の位置における第Va因子(FVa)の不活化の減少に起因して、Arg306の位置の第Va因子開裂の影響ははるかに小さかった。
【0041】
RR229/230AA-APCによるアポトーシス阻害における用量依存性(図1aおよび1b)は組換え型野生型(rwt)-APCの場合とほぼ等しかった。RR229/230AA-APCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減は0.27nMで達成された。この実施例は、APCの細胞保護(抗アポトーシス)活性にはAPCの抗凝固活性が必要でないことを示す。
【0042】
実施例2
この実施例では、ループ37の連続する3つのリジン残基が3つのアラニンと置換したAPC変異型KKK191-193AAA-APC(3K3A-APC)、表1を参照)が、希釈プロトロンビン凝固アッセイで求めた通り、わずかに15%の残留抗凝固活性を示した(Gale et al.、前記、2002)。KKK191-193AAA-APCの抗凝固活性の低下はArg506における第Va因子開裂の顕著な減少に起因するものであり(rwt-APCの11%)、Arg306の位置における第Va因子の不活化に対する影響はごく限られたものであった(rwt-APCの67%)(表1)。珍しいことに、図1aおよび1bに示すように、KKK191-193AAA-APCの抗アポトーシス活性はrwt-APCのそれとほぼ等しく、0.20nMにおいてスタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減が認められた。
【0043】
実施例3
この実施例では、いわゆるAPCの自己融解ループ中の5つの塩基性アミノ酸の内の4つがアラニン残基で置換されて、その結果、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)により求められる通り、1.6%の残留抗凝固活性を有するAPCの一つの型であるRKRR306/311/312/314AAAA-APC(306-314-APC、表1を参照されたい)が得られた[765]。RKRR306/311/312/314AAAA-APCの抗凝固活性の低下はArg506における第Va因子開裂の顕著な減少に起因するものであり(rwt-APCの1.4%)、Arg306の位置における第Va因子の不活化に対する影響は比較的小さかった(rwt-APCの16%)。RKRR306/311/312/314AAAA-APC変異型は細胞保護(抗アポトーシス)活性を著しく欠いて(図1aおよび1b)、スタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害はrwt-APCまたはその他の2つのAPC変異型であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCに比してこの変異型APCの著しく高い濃度を必要とした。
【0044】
実施例4
抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比は、図1の抗アポトーシス活性データおよび既報の抗凝固活性(Gale et al.、前記、2000; Gale et al.、前記、2002)に基づいて、rwt-APCおよび実施例1〜3の各APC変異型について算出した(表1を参照)。rwt-APCにおける活性比を1.0とする。図2に示すように、あるプロテアーゼドメイン表面ループ中のある残基に変異を有するAPC変異型が、抗凝固活性に対して8倍〜14倍高い抗アポトーシス活性を示すことができることが、これらの比により示される。2つの変異型であるKKK191-193AAA-APCおよびRR229/230AA-APCはrwt-APCと同等の抗アポトーシス、つまり細胞保護活性を示すが、抗凝固活性が低下することから出血のリスクは1/8〜1/14に減少することが予想される。
【0045】
組換え型APC変異型の抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を用いて、治療の可能性を有する本発明の組換え型APCの変異体を特定することができる。比が>1.0であることは、細胞保護の恩典を有し、かつ、本発明に従って細胞損傷に対する急性または予防的治療を必要とする対象における出血のリスクが減少された、治療的組換え型APC変異型の指標である。好ましくは、組換え型APCの治療的変異体の、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比は、約2よりも大きい。より好ましくは、該比は約4よりも大きい。最も好ましくは、該比は約8よりも大きい。
【0046】
本発明のプロドラッグの態様は、インビトロまたはインビボのいずれかにおいてプロテインCをAPCへ変換した後に、正常またはほぼ正常な細胞保護活性を維持しつつ抗凝固活性の低下を示す、即ち、抗アポトーシス活性:抗凝固活性の比が1.0よりも大きい、組換え型プロテインC変異体を伴い得る。好ましくは、本発明のプロドラッグは抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比が約2よりも大きいAPC変異体に変換され得り、より好ましくはこの比は約4よりも大きく、または最も好ましくはこの比は約8よりも大きい。
【0047】
実施例5
この実施例において、5つのアラニン置換を有するAPC変異体を作製した。このAPC変異体において、APCのカルシウム結合ループ内の2つのアルギニン残基(Arg229およびArg230)が2つのアラニン残基により置換されており、ループ37内の3つの連続するリジン残基(Lys191、Lys192およびLys193)が3つのアラニン残基により置換されていた。結果として生じたAPC変異体は、実施例1のアラニン置換(RR229/230AA-APC)と実施例2のアラニン置換(KKK191-193AAA-APC)を組み合わせて、RR229/230AA+KKK191-193AAA-APCを生じる(5A-APCと表される)。
【0048】
APCの、細胞保護活性と抗凝固活性を区別するために、本発明者らは組換え型のヒト野生型(wt)APCならびにプロテアーゼドメイン変異型である5A-APC(RR229/230AA+KKK191-193AAA)、Glaドメイン変異型であるPTGla-APC(プロトロンビン残基1〜46を有するAPC)(Smirnov et al JBC 1998)および活性部位変異型であるS360A-APCを作製した。活性部位の滴定および色素産生アッセイは、wtAPC、5A-APCおよびPTGla-APCは完全な酵素活性を有したが、S360A-APCはこれを有さなかったことを示した。5A-APCは、抗凝固活性をほとんど有さなかったが(<3%)、PTGla-APCは、wtAPCの抗凝固活性の300%の活性を有した。EPCRへのAPCの結合は、固定化された可溶性EPCRへの結合およびwtEPCRでトランスフェクトしたK293細胞への結合として測定した。本発明者らは、wtAPCおよび5A-APCがそれぞれ、同様の親和性でEPCRに結合可能であるが(それぞれ、Kd,app=37 nMおよび29 nM)、対照的に、PTGla-APCは、EPCRに極めて弱く結合する(Kd,app>300 nM)ことを確認した。本発明者らは次いで、低(hypo-)抗凝固剤5A-APCおよび高(hyper-)抗凝固剤PTGla-APCの抗炎症活性および抗アポトーシス活性を、wtAPCの活性と比較した。APCの抗炎症活性をアッセイするために、U937単球細胞からのLPS誘発性腫瘍壊死因子α(TNFα)分泌の、APCが仲介する阻害を判定した。5A-APCの、LPS誘発性TNFα分泌を阻害する能力は、wtAPCのそれと区別できず、それぞれ5.4 nMおよび6.5 nMにおいて最大半量の阻害が認められた。酵素的に不活性なS360A-APCもプロテインCチモーゲンもLPS誘発性TNFα分泌を阻害せず、これは、機能的なAPC活性部位が必要である事を示している。APC結合を遮断する抗EPCR抗体はwtAPCの抗炎症活性を妨げ、これは、U937細胞上のEPCRへのAPCの結合が必要であることを示す。
【0049】
各APC種の抗アポトーシス活性を、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスアッセイにおいて測定した。5A-APCによるアポトーシスの用量依存的な阻害は、wt-APCによる阻害と区別できず、それぞれ0.70 nMおよび2.0 nMにおいて最大半量の阻害が認められた。wtAPCおよび5A-APCのこの強力な抗アポトーシス活性とは対照的に、高抗凝固剤PTGla-APCは、内皮性アポトーシスの最大半量の阻害に24倍高い濃度を必要とした。予想された通り、S360A-APCは、内皮性アポトーシスの有意な阻害を示さなかった。したがって、3%未満の抗凝固活性を有する5A-APC変異体は、インビトロにおける単球細胞および内皮細胞において正常な抗炎症活性および抗アポトーシス活性を示した。これらのAPC変異体は、APCの、細胞保護活性に対する抗凝固活性の相対的重要度に関するインビボでの評価に有用であり得る。要約すると、これらのデータは、APCの抗凝固作用の構造的要件間の、その抗炎症活性および抗アポトーシス活性と比較した重要な相違点に光を当てる。これらの構造的な見識は、APCの、1つまたは複数の有益な細胞保護作用を保持するが、抗凝固活性の低下に起因する出血の危険性が低い、より安全な治療用APC変異体をもたらしうる。
【0050】
本発明は、次に述べる複数の態様を含む。
【0051】
一つの態様において、本発明のAPC変異体を、インビボまたはインビトロのいずれかにおいてアポトーシスによる細胞死またはストレス誘発性の傷害を受けるリスクのある細胞に対して細胞保護作用を提供するための有効量で用いてよい。本発明の一つの局面において、APC変異体は、抗凝固活性には依存しないAPCの細胞保護活性から恩典を受ける対象に対して治療用量で投与してよい。このような対象には、少なくとも一部がアポトーシスによって引き起こされる血管またはその他の組織臓器に対する障害のリスクを有する患者が含まれる。細胞損傷のリスクは、敗血症、虚血/再灌流障害、卒中、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性神経変性疾患、慢性神経変性疾患、臓器移植、化学療法または脳放射線障害を含む放射線障害のいずれか一つまたは複数の結果であり得る。当業者はその他の疾患または損傷によっても、細胞が少なくとも一部はアポトーシスによって惹起される障害のリスクに曝され得ることを理解するように、細胞損傷のこれらの原因は決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。有効量または治療用量とは、少なくとも一部はアポトーシスによって惹起される細胞損傷の予防または軽減に有効であることが明らかな用量である。本態様のもう一つの局面において、本発明の変異体はインビトロ、インビボ、またはインサイチューにおいて細胞または組織に対して適用してよい。
【0052】
もう一つの態様において、本発明のAPC変異体またはプロドラッグは、本明細書に開示される一つまたは複数の用途を有する薬学的組成物を製剤化するために用いることができる。治療用組成物は、インビトロにおいて培養物中の細胞に対して、インビボにおいて体内の細胞に対して、またはエクスビボにおいて対象外部の細胞に対して投与し得り、これを続いて同一または別の対象の体内に戻すことができる。細胞は、その対象から回収してもよく、対象に移植してもよく、または対象内に含まれてもよい(例えば、インビトロにおける内皮細胞の遺伝的修飾、およびその後のこれらの細胞の脳内皮への復帰)。プロドラッグは、インサイチューにおいてAPCに変換され得ることが予想される。望ましい特性を有する物質を選択するために、インビトロまたはインビボにおいて候補物質をスクリーニングすることもできる。その細胞は内皮由来であり得る(例えば、内皮細胞もしくは平滑筋細胞、または脳血管の内皮由来)。
【0053】
本発明の変異体APCを含む治療用組成物は投与剤形の形で提供され得る。本態様の一つの局面において、本発明の治療用組成物は薬学的に許容される担体をさらに含み得り、その組成物の対象の脳への送達に有用な成分をさらに加えることができる。このような薬学的担体および送達成分は当技術分野において公知である。本発明の組成物へのこのような担体およびその他の成分の添加は、十分に当技術分野における技術の範囲内である。例えば、透過性物質はその内容物を局所領域に放出することが可能であり、またはチューブは貯蔵槽の内容物を脳の遠位部位に誘導することができる。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、中枢神経系への直接適用のために適合化された製剤、または消化管もしくは血液循環を介しての通過に適した製剤として投与することが可能である。または、薬学的組成物を培養培地に加えてもよい。活性化合物の他に、このような組成物は薬学的に許容される担体、ならびに投与を促進するおよび/または取り込みを亢進させることが公知であるその他の成分を加えてよい。組成物は単回用量または異なる時期に投与される反復用量として投与することができる。組成物の単位用量とは、細胞保護作用を提供し、アポトーシスもしくは細胞死を阻害し、かつ/または細胞生存性を促進するが、このような活性の治療的レベルである臨床的に重要な抗凝固作用を提供しない、または、活性化プロテインCの既述の用量に比して少なくとも抗凝固活性が減少した、APC変異型の量である。このような値の測定は当技術分野の技術の範囲内である:医療機関ではこれらの値を標準的なアッセイで日常的に測定して、それらの値は血液学者によって状況に応じて正常または異常として分類される。このような値の測定方法の実施例を以下に説明する。
【0055】
本発明の薬学的組成物は任意の公知の経路で投与することができる。一例として、その組成物は粘膜、肺、表面、またはその他の局所性もしくは全身性の経路(例えば、経腸および非経口)によって投与してよい。特に、中枢神経系において活性化プロテインC、プロドラッグまたは機能性変異体の有効量を到達することが望ましい場合がある。これは、脳内への蓄積注射または外科的埋め込みを伴うことがある。「非経口」には、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、動脈内、髄腔内、およびその他の注射または注入技術が含まれるが、これらに限定的ではない。
【0056】
投与の用量および時期、製剤、ならびに投与経路の適切な選択は、対象における好ましい反応の達成(即ち、有効性または治療効果)、およびそれに対する過度の毒性またはその他の危険性の回避(即ち、安全性)を目標として行うことができる。投与はボーラス注入または連続注入により行ってよい。ボーラスは、一定量(いわゆるボーラス)の薬剤を(例えば、注射によって)一時期に投与することを指す。連続注入は、溶液を血管内に特定の期間にわたって実質的に中断することなく連続して導入することを指す。対象に対して一回だけ投与される製剤のボーラスは簡便な投与計画であるが、脳において活性化プロテインCの有効濃度を達成する場合は、より頻繁な投与が要求される可能性がある。治療は、連続注入(例えば、卒中後3時間)または緩慢な注入(例えば、卒中の6時間以内に投与される場合、24時間ないし72時間)を伴い得る。または、毎日、一日おき、週1回、または月1回投与される可能性がある。薬学的組成物中の活性成分の投与量は、対象においてその化合物またはその誘導体の一過性または持続性の濃度が達成されるように、また、所望の治療反応が得られるように変更することもできる。
【0057】
このように、「治療的」とは、所望の効果(例えば、アポトーシスまたは細胞死の阻害、細胞生存性、細胞保護、神経保護、もしくはそれらの組み合わせの促進)を達成するための条件の通常の操作を伴うような選択を指す。出血のリスクが低いことから、最大細胞保護作用に必要ならば、対象に投与される変異型プロテインCまたは変異型活性化プロテインCの量は組換え型プロテインCまたは活性化プロテインCの用量よりも高くてもよい。このように、「治療量」とは、所望の細胞保護効果は達成するが抗凝固活性が低いために出血のリスクが低下した活性化プロテインC変異体またはプロテインC変異体の総量を指す(ボーラス投与では、例えば、治療すべき対象の種または疾患に応じて、2mg/kgまたはより低い用量、1mg/kgまたはより低い用量、0.5mg/kgまたはより低い用量、0.04 mg/kgまたはより低い用量、0.03 mg/kgまたはより低い用量、0.02 mg/kgまたはより低い用量、0.01 mg/kgまたはより低い用量、0.005 mg/kgまたはより低い用量)。
【0058】
治療量は、例えば、4時間〜96時間かけた連続注入により投与される、約0.01mg/kg/時〜約1.1mg/kg/時から、約24時間かけた約0.01mg/kg/時〜約0.10mg/kg/時程度の少量であり得る。好ましくは、約4時間〜約72時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約4時間〜約48時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約12時間〜約48時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約12時間〜約36時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約4時間〜約36時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約12時間〜約24時間にわたって連続注入により投与される。最も好ましくは、約24時間にわたって連続注入により投与される。
【0059】
治療量は、血中濃度に対する力価に基づいて、0.01μg/ml〜約1.6μg/ml、好ましくは約0.01μg/mlから約0.5μg/mlのAPC量であり得る。所望の治療効果を達成するために必要な量よりも低い用量で投与を開始して、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることも、当技術分野の技術の範囲内である。同様に、本発明のインビトロおよびエクスビボにおける調製物において所望の効果を達成するために変異体の至適濃度、例えば、約1〜100nMを求めることも、当技術分野の技術の範囲内である。
【0060】
さらにもう一つの態様において、本発明に従って治療の可能性を有する組換え型APCのその他の変異体を特定するための候補物質のスクリーニング方法が提供される。本態様の一つの局面は、プロテアーゼドメインの任意の表面ループにおいて組換え型APCまたはプロテインCを変異させる工程、ならびに既述のアッセイにおける変異体APCの抗凝固活性および細胞保護活性を測定する工程を含む。本態様の方法は、変異を起こした該組換え型活性化プロテインCの抗凝固活性を測定する工程;変異を起こした該組換え型活性化プロテインCの抗アポトーシス活性を測定する工程;抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出する工程;該比が1.0よりも大きい場合に組換え型活性化プロテインCを潜在的治療薬として同定する工程をさらに含む。好ましくは、その比は約2よりも大きく、より好ましくはその比は約4よりも大きく、最も好ましくはその比は約8よりも大きい。候補物質がプロドラッグである場合、そのプロドラッグは、インビボまたはインビトロにおいて活性化プロテインC変異体に変換され得るプロテインCの変異体を含み得る。本発明に従って候補プロテインC変異体を望ましい特性についてスクリーニングするため、プロテインC変異体を活性の測定前に活性型(APC)に変換する。
【0061】
本態様のもう一つの局面において、ループ37、カルシウムループおよび自己融解ループからなる群より選択される表面ループのプロテアーゼドメインの一つの残基の位置に少なくとも一つの変異を有する組換え型APCまたはプロテインCの変異体である候補物質のライブラリが選択される。本方法は、プロテインC変異体を活性化プロテインC変異体に変換する工程;細胞を一定量の候補物質の存在下でスタウロスポリンのアポトーシス誘発濃度に曝露することによって一つまたは複数のストレスまたは損傷を受けた細胞における該候補物質の抗アポトーシス活性を測定する工程;(b)と同一の量の同一の候補物質に細胞を曝露して一つまたは複数のストレスまたは損傷を受けた細胞における該候補物質の抗凝固活性を測定して希釈プロトロンビン時間凝固アッセイを実施する工程;(a)において求めた抗アポトーシス活性の(b)の抗凝固活性に対する比を算出する工程;ならびに抗アポトーシス活性:抗凝固活性の比が1.0よりも大きい候補物質を選択する工程を含む。好ましくは、その比は約2よりも大きく、より好ましくはその比は約4よりも大きく、最も好ましくはその比は約8よりも大きい。
【0062】
候補物質に関するこの基本的なスクリーニングスキームのその他の変更は当技術分野の通常の技術の範囲内であり、本発明に含まれる。このような変更の例は、一例として、アポトーシスを誘発するその他の方法ならびにアポトーシス活性および抗凝固活性を測定するためのその他の試験を含む。
【0063】
方法
プロテインC活性化
プロテインCの組換え型は、所定の化学的構造(例えば、固有型、変異型または多型)で作製することができる。例示の通り、ヒトプロテインCをコードする遺伝子は米国特許第4,775,624号に記載されていて、米国特許第4,981,952号に示されるように組換え型ヒトプロテインCを作製するために用いることができる。ヒトプロテインCは、米国特許第6,037,322号に示されるように組換え技術によって組織培養物中で作製して活性化することができる。天然のヒトプロテインCは、米国特許第5,084,274号に示されるように、血漿から精製して、活性化してアッセイすることができる。これらの特許において開示されるヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、プロテインCの参照として用いることができる。
【0064】
本発明の上記の実施例において、組換え型の野生型APC(wt-APC)であるRR229/230AA-APC(229/230-APC)、KKK191/192/193AAA-APC(3K3A-APC)、RKRR306/311/312/314AAAA-APC(306-314-APC)、RR229/230AA+KKK191/192/193AAA-APC(5A-APC)およびS360A-APCは、既報(Gale et al., 前記、1997; Gale et al.,前記、2000; Gale et al., 前記、2002)の通り作製された。プロテインCはトロンビン(3281 U/mg、Enzyme Research Labs, South Bend, IN)により活性化された。2mM EDTAおよび0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を加えたHBS(HEPES緩衝生理食塩液、50mM HEPES、150mM NaCl)中のプロテインC、pH 7.4、濃度600μg/mLに12μg/mLのトロンビンを加えて37℃で2.5時間インキュベートし、続いて、トロンビンを不活化するためにトロンビン1単位当たり1.1単位のヒルジン(Sigma, St Louis, MO)を加えた。使用したトロンビンおよびヒルジンがその後のアッセイに影響を及ぼさないことを確認するために、アミド溶解アッセイ、APTT凝固アッセイおよびFVa不活化アッセイにおいて対照アッセイを実施した。
【0065】
「変異」とは、固有の活性化プロテインCに比してポリヌクレオチドおよびポリペプチドの配列における一つまたは複数の変化を指し、より高活性またはより低活性である少なくとも一つの機能、変化もしくは欠失した既存の機能、自然の状態では存在しない新しい機能、またはそれらの組み合わせを有する。
【0066】
APCの活性部位滴定
すべてのAPC変異型は、HBS中約8μMのAPCおよび0.1mMのp-ニトロフェノール-グアニジノベンゾエートを用いてChaseおよびShawの修正活性部位滴定法(Biochem. Biophys. Res. Commun., 29: 508-514, 1967)により定量して、p-ニトロフェノールの消光係数はpH 7.4において11400M-1cm-1と算出された。
【0067】
APCの動態分析
色素産生性基質であるPefachrome PCa(Pentapharm, Basel, Switzerland)のミカエリス定数(Km)および触媒速度定数(kcat)は、HBS、0.5%BSA、5mM CaCl2、pH 7.4、APC 5.7nMにおいて基質濃度を1.43mMから0.0466mMまで変えて測定した。ミカエリス定数はイーディー‐ホフステープロットを用いて導いた。または、同様の測定において、5mM CaCl2の代わりに5mM EDTAを使用した。発色は、Optimaxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)(Mesters et al., J. Biol. Chem.., 266: 24514-19, 1991)を用いて測定した。
【0068】
細胞培養
EAhy926内皮細胞は、C.J.S. Edgell博士(University of North Carolina, Chapel Hill NC)から入手して、既報(Edgell et al., Proc. Nat'l Acad. Sci., USA, 80: 3734-3737, 1983)の通り、10%ウシ胎児血清(Omega Scientific, Tarzana, CA)、100U/ml ペニシリンGナトリウム(Gibco)、100μg/ml 硫酸ストレプトマイシン(Gibco)、および2mM グルタミン(Gibco)を加えたDMEM高グルコース(Gibco, Grand Island, NY)において空気中5%CO2含有加湿大気中で37℃にて維持した。
【0069】
アポトーシスアッセイ
内皮細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスは、既報のアッセイ(Joyce et al.、前記、2001)の本発明者らによる変法(Mosnier and Griffin、前記、2003)を用いて開始した。その変法は、細胞をゼラチンコーティングしたカバーガラス上で培養する工程、スタウロスポリンの濃度を変化させる工程、および下記のようにスタウロスポリンを添加する前のAPCプレインキュベート時間を至適化する工程を伴う。ATP類似体およびプロテインキナーゼC(PKC)阻害物質であるスタウロスポリンは周知の強力なアポトーシス誘発物質である。Apopercentage色素は細胞膜外表面でのホスファチジルセリン発現の指標であり、従って、従来のアネキシン-V標識により測定される色素と同様である。ホスファチジルセリンの細胞膜外部表面への輸送によって、Apopercentage色素は細胞内側へと一方向に輸送されて、そこで維持および蓄積される。蓄積した色素は赤色/紫色であり、通常の顕微鏡下で視認可能である(Joyce et al.、前記、2001; Mosnier and Griffin、前記、2003)。本発明者らは、アポトーシスのモニタリングのためにこの色素を使用した。または、細胞は、既報(Idziorek et al., J. Immunol. Methods, 185: 249-258, 1995)のようにアポトーシス特異的色素であるYO-PRO-1(10μM、5分)(Molecular Probes, Eugene, OR)を加えて、またはカスパーゼ3様酵素の合成基質であるDEVD-amc(Calbiochem, San Diego, CA)を加えて20分間、インキュベートしてよい。スタウロスポリンは、Apopercentage染色により調べられる通り、EAhy926内皮細胞において時間依存的および濃度依存的なアポトーシスを誘発した(データは示さない)。
【0070】
簡潔に言えば、12mmの円形カバーガラス(Fisherbrand, Pittsburgh, PA)を酸で洗って、蒸留水および95%エタノールですすぎ、均質な液滴が形成されるまでゼラチン(Apopercentage色素を加えた0.5%ゼラチン)に10回浸漬して、風乾した。24穴プレートを用いてEAhy926細胞をゼラチンコーティングしたカバーガラス上で集密まで生育させて、アポトーシスの誘発前にAPCを加えて5時間、インキュベートした。様々なタンパク質を加えてプレインキュベートした後、製造業者の説明書に従って提供された原液の1/20の最終濃度まで希釈したApopercentage色素(Biocolor, Belfast, N. Ireland)を加えた状態でスタウロスポリン(Calbiochem, San Diego, CA)を10μMの最終濃度まで添加して、アポトーシスを誘発した。
【0071】
空気中5%CO2含有加湿大気中で37℃にて1時間インキュベートした後、細胞をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)で洗って、フェノールレッドを含まないDMEM高グルコース 500μl((Gibco, Grand Island, NY)に5%ウシ胎児血清(Omega Scientific, Tarzana, CA)、100U/mlペニシリンGナトリウム(Gibco)、100mg/ml硫酸ストレプトマイシン(Gibco)および2mMグルタミン(Gibco)を加えて、細胞に添加した。
【0072】
洗浄後直ちに、Spot QEデジタルカメラに接続したZeiss IM倒立顕微鏡を用いて細胞を写真撮影した。カバーガラス1枚当たり100倍の倍率で平均4視野の写真を撮影して、画像解析ソフトウェアであるCell Counter(L.O. Mosnier博士, The Scripps Research Institute作製)を用いてアポトーシス細胞の数を数えた。各実験について、細胞の代表的視野を位相差を用いて写真撮影して、存在する細胞総数を数えた。アポトーシスのパーセントは、総細胞数に対するアポトーシス細胞の数として表す。細胞が剥離しないことを確認するために、反復対照実験(MTTに基づくアッセイ、Celltiter 96 Aqueous非放射性細胞増殖アッセイ、Promega, Madison, WI)を実施した。さらに、集密細胞層の崩壊が観察された場合は、そのデータポイントをその後の解析から除外して反復実施した。
【0073】
凝固アッセイ
希釈プロトロンビン時間凝固アッセイは、次の通り、実施された。血漿(50μL)を、0.5%BSAを加えたHBS中APC 50μLと共に、8〜32nMのAPC濃度(最終濃度 2.7〜11nM)において37℃で3分間、インキュベートした。続いて、HBS、0.5%BSA、25mM CaCl2で1:60に希釈したイノビン(Dade Behring Inc., Newark, DE)50μLをを加えて、凝固を開始させた。凝固時間は、ST4凝固計(Diagnostica Stago, Asnieres, France)を用いて測定した。APTT凝固アッセイでは、血漿50μLをAPTT試薬(Platelin LS, Organon Technika Corp, Durham, NC)50μLと混合して、37℃で3分間、プレインキュベートした。次に、APC 2μLを加え、続いてHBSの50μL、0.5% BSA、5mM CaCl2を加えた。凝固時間は、ST4凝固計(Diagnostica Stago, Asnieres, France)を用いて記録した。
【0074】
APC不活化
血漿中に存在するセルピンによるAPCの不活化は、本質的にHeebらのプロトコール(J. Biol. Chem., 265: 2365-2369, 1990)に従って測定された。簡潔に言うと、ヒト血漿またはセルピン阻害物質純品の混合物(PCIおよび/またはα1-抗トリプシン)を37℃でプレインキュベートし、続いて、APCを加えた。所定の時期にアリコートを採取して、APC特異的色素産生性基質を用いてAPC活性を測定した。
【0075】
第Va因子の不活化
FVaの不活化は次の通り測定された。50mM HEPES、pH 7.4、100mM NaCl、0.5% BSA、5mM CaCl2、0.1mM MnCl2を用いて、25μMリン脂質ベジクルを加えた1nM FVaの混合物を調製した。不活化はAPCを添加して開始した。1μlアリコートを経時的に採取して、1.25nM 第Xa因子(FXa)を含む40μLに31μMリン脂質ベシクルと共に加え、次に3μMプロトロンビン10μLを加えた(最終濃度:1nM FXa、20pM FVa、25μMリン脂質ベシクル、および0.6μMプロトロンビン)。2.5分後に、この混合物の15μLアリコートに10mM EDTA、0.5%BSAを含むHBSの55μL、pH 8.2を添加して、消光させた。色素産生性基質であるCBS 34-47(Diagnostica Stago, Asnieres, France)を加えて、プロトロンビン形成速度を、405nmでの吸光度の変化を測定することによって調べた。Fva不活化に関するこれらの擬一次時間経過の曲線の当てはめは、Nicolaesら(前記、1995)に従って等式1を用いて行った:
【0076】
当業者は、本発明によって治療および/または緩和され得るその他の疾病状態および/または症状を認識する。例えば、本発明は、心筋梗塞、その他の心疾患およびそれらの臨床症状、内皮傷害、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、ならびに肝臓、腎臓または中枢神経系(CNS)の不全を治療するために用いることができる。例えば、冠動脈閉塞、不整脈、うっ血性心不全、心筋症、気管支炎、神経外傷、移植片/移植拒絶反応、心筋炎、糖尿病性ニューロパシー、および卒中のように、その他の多くの疾患が本発明の方法によって恩典を受ける。手術、外傷および卒中時に主要な血管床が酸素添加の期間に除去されて(虚血)、その後、再建されて正常な循環が起こると(再灌流)、生命に関わる局所または遠位組織の障害が発生する。細胞死および組織障害は臓器不全または臓器機能の低下に至り得る。本発明の組成物および方法は、このような傷害の治療またはそれらの予防に有用である。
【0077】
要約すると、抗凝固活性は実質的に低下しているが抗アポトーシス活性は正常またはほぼ正常なレベルを維持している本発明の組換え型APC変異型の変異体の3つの例、つまりKKK191-193AAA-APC、RR229/230AA-APCおよびRR229/230AA+KKK191-193AAA-APC(5A-APC)が提供される。本発明は、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の割合が高いという極めて望ましい特性を有するAPC変異体を含む。本発明は、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比が比較的低めであるが依然恩典を有する変異体をさらに含む;このような変異体も、細胞保護作用を示すが出血のリスクは著しく低下していることが期待される。本発明はAPCの変異体に限定されるものではなく、望ましいAPC変異型、即ち、同一の望ましい活性比を有するAPC変異型を産生することのできるプロテインC変異型をさらに含む。本発明は、また、ループ37、カルシウムループまたは自己融解ループ中の変異に限定されるものでもない;本発明は望ましい細胞保護:抗凝固比を示すプロテアーゼドメインのその他の表面ループ中の残基の変異を含む。従って、本発明のAPCおよびプロテインC変異体は、APCの抗凝固活性に依存しないAPCの保護活性から恩典を受ける対象の治療において有用であることが期待される。対象には、様々な臓器における血管または組織に対するアポトーシスによる障害のリスクを有する患者が含まれる。より具体的には、一例として、これらの対象には、その他の状態の中でも、例えば、重度敗血症、虚血/再灌流障害、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性または慢性神経変性疾患、および臓器移植の対象が含まれる。
【0078】
実施例6
方法
本実施例には、変異体であるS360A-APCに関するデータの平均値およびこれらのデータに加えた改良データ解析である表1に組み込まれる補足実験から得られた正確なデータが含まれる。さらに、抗凝固データは、(表2に示すように)PTアッセイではなくAPTTアッセイを用いて収集された。従って、この正確なデータは表2として示す。この実施例は、APC変異体のアミド溶解活性、抗凝固活性および抗アポトーシス活性のより詳細な解析も含む(図3〜6)。この実施例では、次の方法が用いられた。
【0079】
ヒトα-トロンビンはEnzyme Research Laboratories(South Bend,IN)から購入した。クエン酸で抗凝固処理した正常ヒト血漿はGeorge King Bio-Medical, Inc.(Overland Park, KS)から入手した。色素産生性基質であるL-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリン塩酸塩(S-2366)はChromogenix(Franklin, OH)から入手した。
【0080】
組換え型活性化プロテインCの調製
変異型プロテインC発現ベクターを構築し、組換え型プロテインC変異型は、既報(Gale et al.、前記、2002; Gale et al.、前記、1997)の通り、条件付けした培地から精製した。精製したプロテインCはプロトロンビンで活性化した(Gale et al.、前記、2002; Gale et al.、前記、1997)。つまり、2mM EDTAおよび0.5%BSAを加えたHBS(50mM HEPES、150mM NaCl)、pH 7.4中、600μg/mlの濃度のプロテインCに12μg/mlトロンビンを加えて37℃で2.5時間インキュベートした後、トロンビンを不活化するためにトロンビン1単位当たり1.1単位のヒルジンを加えた。その後、NaCl濃度勾配溶出を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによりトロンビンを除去した(Yan et al., Biotechnology, 8: 655-661, 1990)。フィブリン凝固により測定される通り、残留トロンビンはタンパク質の0.00025%(molトロンビン/mol APC)よりも少なかった。rwt-APCおよびAPC変異型の濃度は、ChaseおよびShaw(Chase and Shaw、前記、1967)から改良した活性部位滴定により、既報(Gale et al.、前記、2002)の通り、HBS中〜8μMのAPCおよび0.1mMのp-ニトロフェノール-グアニジノベンゾエートを用いて、p-ニトロフェノールの消衰係数を11,400M-1cm-1(pH 7.4において)として測定した。S360A-APCの濃度は、American Bioproducts(Parsippany, NJ)のAsserachrom Protein C ELISAにより測定した(Gale et al.、前記、1997)。
【0081】
APC活性のアッセイ
アミロイド融解(S-2366)アッセイは既報(Gale et al.、前記、2000; Gale et al.、前記、1997)の通り実施した。APTT凝固時間アッセイは次の手順に従って実施した。血漿(50μl)にカオリン/セファリン(50μl)(C. K. Prest 2, Diagnostica Stago, Parsippany, NJ)を加えて37℃で1分間インキュベートし、続いて0.5%BSAを加えたHBS中APC 25μlを最終APC濃度0.5nM〜32nMで加えて、さらに3分間、インキュベートした。続いて、HBS中50mM CaCl2の50μlを加えて凝固を開始させ、Amelung KC 4aマイクロ凝固計(Sigma Diagnostics, St Louis, MO)を用いて凝固時間を記録した。
【0082】
APCの細胞保護作用は、既報(Mosnier and Griffin、前記、2003)の通り、スタウロスポリン誘発性内皮細胞(EA.hy926)アポトーシスのアッセイにおいて測定した。特記されない場合、スタウロスポリン(10μM、1時間)によってアポトーシスを誘発する前にAPC(0.16〜100nM)を細胞と共に5時間インキュベートして、細胞膜外部表面へのホスファチジルセリンの移動を測定するBiocolor(Belfast, N. Ireland)のApopercentage色素によりアポトーシスを評価した。PAR-1(WEDE-15およびATAP-2はDr L. Brassより厚意により提供)およびEPCR(Zymed)に対する抗体の遮断は、既報(Mosnier and Griffin、前記、2003)の通り用いた。アポトーシス誘導前にAPC(25nM、5時間)と共にインキュベートされたスタウロスポリン処理済(2μM、4時間)EA.hy926内皮細胞の活性化カスパーゼ-3免疫蛍光染色およびDAPI核染色(5μg/ml)に関しては、ウサギ抗活性化カスパーゼ-3抗体(Promega)およびAlexa-fluor-568標識したヤギの抗ウサギ二次抗体(Molecular Probes)を用いて製造業者の説明書に従って行った。
【0083】
PAR-1ペプチド開裂
rwt-APCおよびAPC変異体(500nM)とPAR-1 N末端の末端ペプチド(TR33-62)の相互作用について、PAR-1残基33〜62に相当する合成ペプチド(Bio Synthesis Inc., Lewisville, TX)を用いて試験した。このペプチド配列は
であり、APCによってArg41およびSer42の間で開裂された。基質ペプチドおよびトロンビンまたはArg41におけるAPC開裂の2つのペプチド産物(TR33-41およびTR42-64)を溶解して、逆相HPLCで分析して、本質的に既報(Arosio et al., Biochemistry, 39: 8095-8101, 2000)の通り定量した。認められた開裂がトロンビンの混入に起因するものではないことを確認するために、APCを用いたすべてのTR33-62開裂実験に5nMヒルジンを加えた。
【0084】
結果
表1に要約された部分的に重複した一連の実験でRR229/230AA-APCおよびKKK191-193-AAA-APCの抗アポトーシス活性、抗凝固活性およびアミド溶解活性を測定して、組換え型野生型(rwt)-APCおよび活性部位残基のSer360の代わりにAlaを有する加水分解性不活性変異型であるS360A-APCと比較した(表2)。2つのAPCプロテアーゼドメインループ変異体であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193-AAA-APCは、色素産生性小基質であるS-2366に対して組換え型野生型APC(rwt-APC)と等しい酵素活性を有し(図3a)、APC活性部位の構造および機能が保存されることを示しているが、これらの変異体は第Va因子のArg506における開裂が障害されているために抗凝固活性は著しく低下していた(図3b)(表2を参照)。
【0085】
(表2)組換え型の野生型および変異型のAPC活性*
(APTTにより測定された抗凝固活性)
組換え型野生型APC(rwt-APC)の活性を100%として、変異型APCの値をrwt-APC活性のパーセントとして示す。
† スタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減に必要なAPCの濃度から求めた(図2a)。
‡ rwt-APCおよびAPC変異体(0.5nM〜32nM)について求めたAPTT用量反応データに基づく(図1b)。
$ この表の左二つのカラムに示される細胞保護活性および抗凝固活性における相対活性の比から求めた。
II 先に求められた見かけの二次速度定数(Gale et al.、前記、2002; Gale et al. 、前記、1997)に基づく。
¶ rwt-APCおよびAPC変異体(0.5nM〜32nM)について求めたアミド溶解活性に基づく(図1a)。
# rwt-APCおよびAPC変異体(500nM)によるPAR-1ペプチド(TR33-62)の開裂について図4から求めた触媒効率に基づく。
** 本アッセイ条件下で検出可能な活性なし。
†† S360A-APCの抗凝固活性は第Va因子のタンパク分解にはよらず、rwt-APCとは異なり、APCと血漿のインキュベート時間には依存しない(Gale et al.、前記、1997)。
【0086】
S360A-APCは色素産生活性を持たないが(図3a)、S360A-APCの抗凝固活性はAPTTアッセイの条件において〜23%であった(図3b)。既報の通り、正常なrwt-APCとは対照的に、この抗凝固活性はAPCの血漿とのインキュベート時間には依存せず(Gale et al.、前記、1997)、第Xa因子の阻害および第Va因子へのプロトロンビン結合が起こるようなAPCエキソサイトの第Va因子への結合を伴うと思われる。
【0087】
これらのAPC変異体の細胞保護活性を調べるために、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシス(Joyce et al.、前記、2001; Mosnier and Griffin、前記、2003)について試験を行った。APC介在性のスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害は時間依存的および用量依存的であり、APC活性部位であるPAR-1およびEPCRを必要とする(Mosnier and Griffin、前記、2003)。用いた条件下において、rwt-APCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減は0.16nMで達成された(図4a)。RR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCによる用量依存的アポトーシス阻害はrwt-APCのそれと識別不能であり、最大阻害半減は、それぞれ、0.17nMおよび0.14nMであった(図4a)。活性部位のセリンを核APC変異型であるS360A-APC(Gale et al.、前記、1997)によるアポトーシスの阻害は認められなかった(図4a〜c)。rwt-APCおよびAPC変異体の、スタウロスポリンに曝露した内皮細胞における活性化カスパーゼ3生成阻害能を、免疫組織化学的にモニタリングした。rwt-APCならびに変異体であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCは、活性化カスパーゼ-3陽性細胞をそれぞれ約70%まで等しく低下させたが、活性部位変異型であるS360A-APCは影響を示さなかった(図4b〜c)。このように、APCの正常な抗凝固活性に必須である一部のプロテアーゼ領域残基、つまり、Arg229 およびArg230、ならびにLys191、Lys192およびLys193はAPCの正常な抗アポトーシス活性には必要でない。
【0088】
APCの抗アポトーシス作用はPAR-1およびEPCRを必要とする(Cheng et al.、前記、2003; Mosnier and Griffin、前記、2003)。同様に、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスのアッセイにおけるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCの抗アポトーシス活性は、各APC変異体の細胞保護活性がAPCのレセプターへの結合を遮断するEPCRに対する抗体を加えると、それぞれ、72%および69%阻害されて、また、遮断性の抗PAR-1抗体を加えるとそれぞれ88%および55%阻害されることから、PAR-1およびEPCRを必要とした(図5)。これらの結果は、細胞とrwt-APCのような2つのAPC変異体との相互作用にはPAR-1およびEPCRが必要であることを示している。骨の造血幹細胞は著しいレベルのEPCRを含んでいるため(Balazs, Blood 107:2317-21, 2006)、骨および他の幹細胞に対して細胞保護活性を提供するためにAPCおよびAPC変異体を使用することは、このようなAPC変異体用途の1つの領域を表している。
【0089】
野生型および変異体APCによる、合成PAR-1 N末端ペプチドの開裂
S360A-APCに抗アポトーシス活性がないこと、およびPAR-1が必要であることは、APCの抗アポトーシス活性におけるメカニズム上の重要な工程にPAR-1タンパク分解性活性化が関与することを意味する(Cheng et al.、前記、2003; Mosnier and Griffin、前記、2003)。Arg41における開裂に起因するPAR-1のタンパク分解性活性化に対するAPCの変異の影響について調べるために、PAR-1のN末端配列(33〜62の残基(TR33-62))に相当する合成30-merペプチドをAPC基質として試験を行った。このTR33-62 PAR-1ペプチドはトロンビンによってArg41の位置で開裂される(Arosio et al.、前記、2000)。APCは、もう一つのPAR-1合成N末端ペプチドを、トロンビン開裂部位であるArg41で開裂させる(Kuliopulos et al.、前記、1999)。HPLC定量分析を用いて、本発明者らは、rwt-APCがTR33-62ペプチドをArg41の位置で開裂してトロンビンと同様のフラグメントであるTR33-41およびTR42-62を形成するが、2つの酵素のkcat/Kmの比較に基づいて触媒効率は約1/25,000であることを見出した(データは示さない)。TR33-62の開裂における時間経過をHPLCでモニタリングしてTR33-62基質のピークの消失および産物であるTR42-62の出現を定量した結果、rwt-APC、RR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCにおけるTR33-62開裂の速度に実質的な差はないことが示された(図6)。同様に、rwt-APCを2つの抗アポトーシス性APC変異体であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCと比較すると、EA.hy926内皮細胞において、FURA-2-AM蛍光変化としてモニタリングされるAPC誘発性Ca++細胞内流入に顕著な差がないことが観察された(データは示さない)。これらの結果は、APCがArg41の位置でPAR-1を開裂するという仮説および、抗凝固活性は低下しているが抗アポトーシス活性は正常である本明細書記載の2つのAPC変異体における変異が、APCのプロテアーゼドメインがArg41でPAR-1を開裂する能力を著しく低下させないという仮説に一致する。
【0090】
要約すると、抗凝固活性の低下によって出血のリスクが低下した組換え型APC変異体を作製するために、本発明者らは特定部位の突然変異誘発によってAPCの抗凝固活性と細胞保護活性を識別した。本発明者らは本明細書において、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスアッセイを用いて、抗凝固活性が著しく低下した2つのAPC表面ループ中のAla変異(RR229/230AAおよびKKK191-193AAA)によってプロテアーゼ活性化レセプター-1および内皮細胞プロテインCレセプターを必要とする正常な抗アポトーシス活性を維持する2つのAPC変異体が得られることを示している。さらに、これらの2つのAPC変異体はPAR-1のN末端ペプチドをArg41の位置で開裂する正常な能力を維持する。これらの2つのAPC変異体を相対的抗アポトーシス活性および抗凝固活性に関してrwt-APCと比較するために(APTTにより測定;表1では、抗凝固活性が希釈PTによって測定されたことに留意されたい)、本発明者らは認められたrwt-APCの活性を100%として、各APC変異体の活性パーセントを用量-反応データから算出した(図3および4)。この正規化では、元来、rwt-APCの「細胞保護活性対抗凝固活性」比が1.0となる(表2)。APC変異型について抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出すると(表2)、2つのAPC変異体である229/230-APCおよび3K3A-APCはrwt-APCに比して、それぞれ、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性が7倍および25倍の高い値を示した。これらの比は、抗凝固活性に関して希釈PTアッセイを用いて算出された表1に示す値とほぼ等しい。
【0091】
従って、これらのデータは、第Va因子におけるArg506の位置での開裂の減少を惹起するAPCのRR229/230AAおよびKKK191-193AAAの変異が、PAR-1のArg41での開裂を障害しないことを意味する。
【0092】
実施例7
方法
5A-APC用のプロテインC発現ベクターを、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002)のように構築した。変異(R229A+R230A+K191A+K192A+K193A)を、Quickchange突然変異誘発(Stratagene, Cedar Creek,TX)を使用して導入した。配列分析により、変異の存在を確認した。
【0093】
5つのアラニン置換(R229A+R230A+K191A+K192A+K193A)を含むプロテインC変異体(5A-APC)を、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のようにK293細胞を使用して発現させた。精製した組換え型の5AプロテインCを、ファストフローQセファロースカラムを使用して既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のように調製した。
【0094】
5A-APC(R229A+R230A+K191A+K192A+K193A)を、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のようにトロンビンの活性化により、5AプロテインCから作製した。5A-APC濃度を、ChaseおよびShawにしたがい、活性部位滴定により測定した(Biochem. Biophys. Res. Commun., 29:508-514, 1967)。
【0095】
APC活性のアッセイ
アミド溶解(S-2366)アッセイを、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のように実施した。APTT凝固時間アッセイは次の手順に従って実施した。血漿(50μl)にカオリン/セファリン(50μl)(C. K. Prest, Diagnostica Stago, Parsippany, NJ)を加えて37℃で1分間インキュベートし、続いて0.5%BSAを加えたHBS中APC 25μlを、最終APC濃度0.5nM〜32nMで加えて、さらに3分間、インキュベートした。続いて、HBS中50mM CaCl2の50μlを加えて凝固を開始させ、Amelung KC 4aマイクロ凝固計(Sigma Diagnostics, St Louis, MO)を用いて凝固時間を記録した。
【0096】
APCの抗アポトーシス活性
APCの細胞保護作用は、既報(Mosnier and Griffin、Biochem. J., 373:65-70, 2003)のように、スタウロスポリン誘発性内皮細胞(EA.hy926)アポトーシスのアッセイにおいて測定した。APC(0.16〜100 nM)を、特記されない限り、スタウロスポリンによるアポトーシスの誘導(10μM、1時間)の前に細胞と共に5時間インキュベートし、アポトーシスをYOPRO-1(Molecular Probes)色素の取り込みにより評価した。
【0097】
APCの抗炎症活性
不死化したヒト単球(U937, ATCC (Manassas, VA))を、10%の熱不活性化ウシ胎児血清、ペニシリン(1単位/mL)、ストレプトマイシン(1μg/mL)およびグルタミン(292μg/mL)を加えたRPMIベースの成長培地において培養した。実験に供した細胞は、これらの4〜10継代目であった。各実験の前にトリパンブルー染色により細胞の生存度を試験し、99%を上回ることを確認した。典型的には、240μlのU937細胞(2×106/mL)を、30μlのAPC希釈物または生理食塩水、および30μlの250 ng/mL LPS(リポ多糖、055:B5 Sigma (St. Louis, MO))または生理食塩水と共に18時間CO2インキュベータ内でインキュベートした。次いで、細胞培養物の上清を、各アッセイ混合物の4℃で10分間の遠心分離により回収した。細胞培養物の上清内に分泌されたTNFαおよびIL-6は、製造業者のプロトコルにしたがって(Invitrogen (Carlsbad, CA))、ELISAにより定量的に検出した。
【0098】
結果
上記のように、229/230-APCおよび3K3A-APCは抗凝固活性が低下していたが、これらの変異体の抗アポトーシス活性は本質的に影響を受けなかった(Mosnier et al., Blood. 104:1740-1745, 2004)。これらのAPC変異体(229/230-APCおよび3K3A-APC)の抗凝固活性は低下したが、これらはAPTT凝固アッセイにおいて、検出可能な抗凝固活性をなおも保持した。したがって、本発明者らは、上記の変異が組み合わされたAPC変異体を作製した(R229A+R230A+K191A+K192A+K193Aを有する5A-APC)。この5A-APCは、組換え型の野生型APC(rwt-APC)と比較して抗凝固活性が極度に低下していたが、細胞に対する直接的な保護効果の少なくともいくらかは本質的に影響を受けずかつrwt-APCと区別できなかった。
【0099】
用いた条件下では、rwt-APCおよび5A-APCは共に、類似したアミド溶解活性を有した(図7)。対照的に、活性部位のSerがAlaに変異したAPC変異体であるS360A-APCは、検出可能なアミド溶解活性を有さなかった。APTT凝固アッセイにより、5A-APCの抗凝固活性が極度に低下(用いた条件下で100%と定義したrwt-APCと比較して3%未満)したことが明らかとなった(図8)。これは、同様の条件下でそれぞれ13%および5%の抗凝固活性を有する上記の229/230-APCおよび3K3A-APCと比較して、有意な低下を示す。
【0100】
細胞に対する直接的な保護効果に関して5A-APCの活性を評価するために、単球に対するAPCの抗炎症活性、および内皮細胞に対するAPCの抗アポトーシス活性の両方を分析した。APCの抗炎症活性は、リポ多糖(LPS)誘発性の、単球(U937細胞)からのサイトカイン放出を阻害するその能力により判定した。rwt-APCおよび5A-APCは共に、LPS誘発性の、単球からの腫瘍壊死因子α(TNFα)放出を阻害した(図9)。rwt-APCおよび5A-APCの用量反応滴定は、rwt-APCおよび5A-APCの相対的な効力が区別できないことを示した。LPS誘発性の、単球からのインターロイキン6(IL-6)放出の阻害の分析について、同様の結果が得られた。rwt-APCおよび5A-APCは共に、用量依存的な、単球からのLPS誘発性IL-6放出を阻害した(図10)。LPS誘発性IL-6放出の最大半量の阻害の達成に必要とされるrwt-APCおよび5A-APCの濃度間の相違は観察されなかった。これらの結果は、rwt-APCと比較して5A-APCが正常なAPC抗炎症活性を有することを示す。
【0101】
APCの抗アポトーシス活性は、既報(Mosnier and Griffin, Biochem. J., 373:65-70, 2003; Mosnier et al., Blood. 104:1740-1745, 2004)のように、スタウロスポリン誘発性内皮細胞(EA.hy926)アポトーシスのアッセイにおいて測定した。rwt-APCおよび5A-APCは共に、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスを阻害した(図11)。rwt-APCおよび5A-APCの用量反応滴定により測定された、アポトーシスの最大半量の阻害の達成に必要とされるrwt-APCおよび5A-APCの濃度は、区別できなかった。したがって、5A-APCは、その抗凝固活性は極度に低下しているものの、rwt-APCと比較して本質的に正常な抗アポトーシス活性を有する。これらの結果は、APCのプロテアーゼドメイン表面上の塩基性のエキソサイト残基がAPCの抗凝固活性に必要であるが、APCの、細胞に対する直接的な保護効果(APCの抗炎症活性またはAPCの抗アポトーシス活性など)には必要ではないという原理の証明をさらに実証する。
【0102】
細胞保護活性に対する抗凝固活性についての、APCエキソサイトの特異性の判定は、抗凝固活性は低下したかまたは極めて低いが、細胞に対して本質的に正常な(rwt-APCと比較)有益な保護効果を有するAPC変異体の作製を可能にした。これらのようなAPC変異体は、APCの抗凝固活性に非依存的なAPC保護活性から恩恵を受けるであろう対象に対する治療において有用である。そのようなAPC変異体を用いた治療から恩恵を受けることができる対象は、様々な臓器における血管または組織に対する、少なくとも一部アポトーシスによって惹起される障害のリスクを有する対象を含む。これらの対象は、例えば敗血症もしくは重度の敗血症、虚血/再灌流障害、卒中、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性もしくは慢性の神経変性疾患、放射線損傷に罹患している動物またはヒト、または他の状態の中でも特に臓器移植もしくは化学療法を受けている動物またはヒトを含むと考えられる。
【0103】
組換え型のヒトAPC変異体をヒト血漿に添加し、APC酵素活性の損失を、標準的なアミド溶解アッセイを使用してモニタリングした。図12a〜12bにおいて見られるように、組換え型のヒトwt APCおよびAPC変異体のヒト血漿における半減期は類似していた。これは、APC変異体の抗凝固活性損失の原因が半減期の減少ではないことを示す。
【0104】
本明細書で引用される参考文献および特許は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
これは、米国特許法第120条の下で優先権が主張されている、2004年7月8日に出願された同時係属中の出願である米国特許出願第10/886,766号の一部継続出願であり、米国特許法第119(e)条の下で2003年7月8日に出願された米国特許仮出願第60/485,792号の恩典が請求され、これらの先行出願の全ての開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、米国衛生研究所(National Institutes of Health)による契約番号第HL52246号の下で米国政府の援助を受けてなされた。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、通常は抗血栓活性、抗炎症活性および抗アポトーシス活性を有する酵素である組換え型プロテインCおよび活性化プロテインCの変異体(変異型)に関する。本発明の組換え型活性化プロテインC変異型は、抗凝固活性が著しく低下したが、抗アポトーシス(細胞保護)活性はほぼ通常の活性を維持しており、従って、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比は野生型または内因性活性化プロテインCよりも変異体において高い値である。本発明は、これらの変異体の使用方法にも関する。本発明の活性化プロテインCはアポトーシスもしくは細胞死の阻害物質として、および/または細胞生存因子として有用であり、特にストレスまたは損傷を受けた神経系および血管の細胞または組織において有用である。本発明は、少なくとも一部がアポトーシスによって惹起される細胞損傷のリスクを有する対象における本発明の変異体の治療的使用、およびこのような変異型タンパク質を含む治療用組成物にさらに関連して、これらの組成物は活性化プロテインC療法の副作用である出血のリスクを抑えつつ所望の細胞保護効果を提供しなければならない。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
プロテインCはビタミンK依存的セリンプロテアーゼ凝固因子群の一つである。プロテインCは、元々、その抗凝固活性および前線維素溶解活性に関して同定された。血液中を循環しているプロテインCは、複合体ナチュラルフィードバックメカニズムを介して血液凝固を調節するためにタンパク分解性活性化を必要とする不活性チモーゲンである。ヒトプロテインCは、主として461個のアミノ酸を有する単一のポリペプチドとして肝臓で産生される。続いて、この前駆体分子は、翻訳後に(i)アミノ酸42個のシグナル配列の開裂、(ii)1本鎖チモーゲンからの155位のリジン残基および156位のアルギニン残基のタンパク分解性除去による2本鎖型の生成(即ち、262個のアミノ酸残基を有するセリンプロテアーゼを含む重鎖にジスルフィド結合によって結合した155個のアミノ酸残基を有する軽鎖)、(iii)軽鎖の先端の42個のアミノ酸にクラスター形成したグルタミン酸残基のカルボキシル化による9個のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基の生成、および(iv)4カ所(1カ所は軽鎖、3カ所は重鎖)でのグリコシル化によって修飾される。この重鎖には、Asp257、His211およびSer360のセリンプロテアーゼの三つ組が含まれる。
【0005】
細胞外プロテアーゼのその他の大半のチモーゲンおよび凝固因子と同様に、プロテインCはチモーゲンおよび酵素の制御を可能とする挿入およびN末端伸長を有するキモトリプシンファミリーのコア構造を有する。興味深いことに、表皮成長因子(EGF)と同様のアミノ酸配列を有する2つのドメインがある。ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、ブタ、ウマおよびウシ由来のプロテインCのヌクレオチドおよびアミノ酸の配列の少なくとも一部、ならびにヒトプロテインCの変異および多型は公知である(GenBankアクセッションP04070を参照)。異なる生物学的活性に影響を及ぼすヒトプロテインCのその他の変異体が公知である。
【0006】
プロテインCの活性化はトロンビンによって介在されて、重鎖の15位のアルギニン残基および16位のロイシン残基(キモトリプシン番号付け)の中間部位で作用する(Kisiel, J. Clin. Invest., 64: 761-769, 1976; Marlar et al., Blood, 59: 1067-1072,1982; Fisher et al. Protein Science, 3: 588-599,1994を参照)。第Xa因子(Haley et al., J. Biol. Chem., 264: 16303-16310, 1989)、ラッセルクサリヘビ毒およびトリプシン(Esmon et al., J. Biol. Chem., 251: 2770-2776, 1976)を含むその他のタンパク質も不活性プロテインCを酵素的に開裂して活性型に変換することが示されている。
【0007】
トロンビンは内皮細胞からなる管腔表面の膜結合型トロンビンレセプターであるトロンボモジュリンに結合して、それによってそのエキソサイト(exocite)Iを介してトロンビンの前凝固活性を遮断し、抗凝固特性を亢進させて、即ち、プロテインCを活性化する。抗凝固剤として、活性化プロテインC(APC)はその補因子であるプロテインSを補助として、トロンビン形成を持続させる固有の抗凝固経路に必要な活性化補因子である第Va因子および第VIIIa因子を開裂させ(Esmon et al., Biochim. Biophys. Acta., 1477: 349-360, 2000a)、これによって第Vi因子および第VIIIi因子の不活化補因子が得られる。
【0008】
トロンビン/トロンボモジュリン複合体に介在されるプロテインCの活性化は、プロテインCが内皮細胞プロテインCレセプター(EPCR)に結合してこれによってプロテインCが内皮細胞の膜表面に局在すると、促進される。EPCRと結合すると、APCの抗凝固活性は阻害される;APCがEPCRから解離すると、特に活性化された血小板または内皮細胞膜上の負に帯電したリン脂質に結合すると、APCはその抗凝固活性を発現する。
【0009】
プロテインC経路の構成要素は、抗凝固活性ばかりでなく抗炎症機能にも寄与する(Griffin et al., Sem. Hematology, 39: 197- 205, 2002)。トロンボモジュリンの抗炎症作用は、最近ではそのレクチン様ドメインに起因するとされているが、マウスを好中球介在性の組織障害から保護することができる(Conway et al., J. Exp. Med. 196: 565-577, 2002)。細胞周期の調節に関与するマウス中心体タンパク質CCD41、つまりセントロサイクリンは、N末端側31個のアミノ酸を欠くマウスEPCRと同一である(Rothbarth et al., FEBS Lett., 458: 77-80, 1999; Fukodome and Esmon, J. Biol. Chem., 270: 5571-5577, 1995)。EPCRは、構造的には、大部分が炎症プロセスに関与するタンパク質のMHCクラス1/CD1ファミリーの同族体である。この同族性はEPCRの機能がAPCまたはプロテインCの内皮膜への局在能力に限定されない可能性があることを示唆する(Oganesyan et al., J. Biol. Chem., 277:24851-24854, 2002)。APCはヒヒにおいて大腸菌(E. coli)注入の致命的影響に対してEPCR依存的保護作用を提供して(Taylor et al., Blood, 95:1680-1686, 2000)、様々なモデルにおいて前炎症性サイトカインの産生をダウンレギュレートして組織因子の発現または血圧を都合よく変化させることができる(Shu et al., FEBS Lett. 477: 208-212, 2000;Isobe et al., Circulation, 104:1171-1175, 2001;Esmon, Ann. Med., 34:598-605, 2002)。
【0010】
炎症は傷害および感染に対する生体の反応である。炎症には3つの主な事象が関与する:(1)傷害または感染領域への血液供給の増加;(2)内皮細胞の退縮によって可能とされる毛細血管透過性の増大;および(3)毛細血管から周辺組織への白血球の移動(以後、細胞浸潤と言う)(Roitt et al., Immunology, Grower Medical Publishing, New York, 1989)。
【0011】
ヒトの場合、多くの深刻な臨床状態が原因となる炎症プロセスを伴う。例えば、多発性硬化症(MS)は中枢神経系の炎症性疾患である。MSの場合、循環白血球が炎症を起こした脳の内皮に浸潤してミエリンを障害し、その結果、神経伝導が損なわれて麻痺を生じる(Yednock et al., Nature 366:63-66 (1992))。全身性エリテマトーデス(SLE)は、自己抗原指向性の抗体によって引き起こされる組織障害の存在を特徴とする自己免疫疾患である。様々な臓器において抗原に自己抗体が結合すると、補体介在性および炎症細胞介在性の組織障害に至る(Theofilopoulos, A.N., Encyclopedia of Immunology, pp. 1414-1417(1992))。
【0012】
APCは抗凝固活性および抗炎症活性ばかりでなく、抗アポトーシス活性も有する。プロテアーゼ活性化レセプター-1(PAR-1)のAPC活性化がEPCR依存的であることから(Riewald et al., Science, 2296: 1880-1882, 2002; Cheng et al., Nat. Med., 9: 338-342, 2003; Mosnier and Griffin, Biochem. J., 373: 65-70, 2003)、一部の細胞では、EPCRはAPCの抗アポトーシス活性における必須の補因子であることが見出されている。APCの抗凝固活性は、第Va因子および第VIIIa因子の不活性化を必要とし、一方APCによる細胞保護は、2つの受容体であるEPCRおよびPAR-1を必要とする。著しいレベルのEPCRが、例えば骨の造血幹細胞で見つかっている(Balazs, Blood 107:2317-21, 2006)。
【0013】
APCは、NFκBサブユニットの発現を調節することによって、インビトロにおいて内皮細胞におけるスタウロスポリン誘発性アポトーシスを潜在的に阻害することも示されている(Joyce et al., J. Biol. Chem., 276: 11199-11203, 2001)。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)におけるスタウロスポリン誘発性アポトーシスおよび腫瘍壊死因子α介在性のHUVECの傷害は、転写プロファイリングに基づいて、NFκBシグナル伝達の阻害が接着分子のダウンレギュレーションを惹起することを示唆している(Joyce et al.、前記、2001)。APCによる抗アポトーシス遺伝子(例えば、Bcl2-関連タンパク質A1つまりBcl2A1、アポトーシス1の阻害剤つまりclAP1、内皮細胞一酸化窒素シンターゼつまりeNOS)の誘導は、アポトーシスのスタウロスポリンモデルにおけるAPCの抗アポトーシス作用に関連する予想メカニズムとして解釈されている。
【0014】
本明細書で使用される、敗血症という用語は、疑いのあるまたは証明された感染に全身性炎症反応症候群(例えば、発熱、頻脈、頻呼吸または白血球増加)が加わったものと定義される;本明細書で使用される、重度の敗血症という語句は、臓器の機能不全を伴う敗血症と定義される(例えば、低血圧、低酸素血、乏尿、代謝性アシドーシス、血小板減少または鈍麻)(Russell, New Engl. J. Med. 355(16):1699-713, 2006)。重要なことは、敗血症の多くの症例において、感染の原因の立証が不可能であることである。
【0015】
APCは重度敗血症患者において28日間総死亡率を19%押し下げるという顕著な能力を有するが(Bernard et al., New Engl. J. Med. 233:699-709, 2001a)、アンチトロンビンIIIおよび組換え型TFPIのような強力な抗凝固剤は同様の第III相臨床試験において効果を示さなかった(Warren et al., JAMA, 286: 1869-1878, 2001; Abraham et al., Crit. Care Med., 29:2081-2089)。この相違の説明は、最近説明されたAPCの抗アポトーシス活性および抗炎症活性にある可能性がある。敗血症の治療におけるAPCの臨床的成功は、その抗アポトーシスまたは抗炎症活性を介在する直接的な細胞作用に関連する可能性がある。
【0016】
APCの有益な効果を示す多くのインビボ試験に関わらず、細胞に対するAPCの直接的な抗炎症作用および抗アポトーシス作用を司る分子的メカニズムに関する情報は限られている。APCは、抗炎症遺伝子および細胞生存遺伝子に対して注目すべき影響を及ぼして、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)における遺伝子発現を直接調節することができる(Joyce et al.、前記、2001;Riewald et al.、前記、2002)。Riewaldらはこの一部の細胞におけるAPCの直接作用にはPAR-1およびEPCRが必要であることを示しているが(Riewald et al.、前記、2002)、彼らはPAR-1シグナル伝達を伴うAPCの機能的活性に関連するデータを提供しなかった。
【0017】
組換え型活性化プロテインC(rAPC)は、キシグリス(Eli Lilly & Co.)と同じく、重度敗血症の治療のために承認されていて(Hotchkiss and Karl, NEJM, 348: 138-150, 2003; Russell, New Engl. J. Med. 355(16):1699-713, 2006)、本剤は最終的にはその他の有利な出願がなされるであろう。しかし、臨床試験では、APC投与に関連して深刻な出血のリスクが増大することが示されている。この出血リスクの増大はAPC療法の重大な制限事項である。敗血症におけるAPCの効果がその抗炎症活性および細胞生存活性に帰因し得るならば、有益な抗アポトーシス活性または細胞保護活性を維持しつつ抗凝固活性が低下した化合物が望ましい。
【発明の概要】
【0018】
本発明の目的は、少なくとも一部はアポトーシスに関連する細胞損傷の軽減または防止に用いるための治療薬または研究ツールとして組換え型APCの変異体(変異型)またはプロドラッグ(例えば、組換え型プロテインCの変異体)を提供することである。アポトーシスと少なくとも一部関連する細胞損傷、特にこのような細胞損傷のリスクを有するまたは患っている対象において、細胞損傷を軽減または防止する方法を提供することも本発明の目的である。本発明のもう一つの目的は、本発明に従って用いるための変異型候補をスクリーニングするための方法を提供することである。
【0019】
本発明は、野生型に比べて、抗アポトーシス活性に対して低い抗凝固活性を示し、かつ従って、細胞保護物質としての用途を有する、組換え型APCの変異体およびプロドラッグ(プロテインC変異体)を対象とする。このような組換え型APC変異型の3つの例は、KKK191-193AAA-APC(191、192および193のリジンがアラニンに変異)、RR229/230AA-APC(229および230のアルギニンがアラニンに変異)、およびRR229/230AA+KKK191-193AAA-APC(229および230のアルギニンからアラニンへの変異と191、192および193のリジンからアラニンへの変異との組み合わせ(以降、「5A-APC」))である。本発明者らが本明細書で示すように、これらの例示的APC変異体は通常の抗アポトーシス性の細胞保護活性の望ましい特性は維持するが、抗凝固活性の低下により、出血のリスクは著しく低下している。本発明のAPCおよびプロテインC変異体は、野生型APCよりも高い抗アポトーシス活性対抗凝固活性比(即ち、>1.0)を示す。
【0020】
本発明の一つの態様において、少なくとも一部がアポトーシスに関連する障害の防止または軽減の方法が提供される。本態様の一つの関連する局面において、少なくとも一部がアポトーシスに関連する細胞損傷リスクを有する対象の治療の方法が提供される。これらの対象には、少なくとも一部がアポトーシスによって引き起こされる各種臓器の血管または組織に対する障害のリスクを有する患者が含まれる。リスクを有する患者には、例えば、(重度)敗血症、虚血/再灌流障害、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性もしくは慢性神経変性疾患の患者、またはその他の状態の中で臓器移植もしくは化学療法を受けている患者が含まれる。本発明のAPC変異体およびプロドラッグは、APC抗凝固活性に依存しないAPC保護活性から恩典を受ける対象の治療に有用であるはずである。本発明のプロドラッグの態様は、プロテインCのAPCへの変換後に、正常またはほぼ正常な細胞保護活性を維持しつつ抗凝固活性が低下した組換え型プロテインC変異体を伴い得る。例えば、活性化された場合、プロテインCの変異体は1.0よりも高い抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の望ましい割合を示す。
【0021】
本発明のもう一つの態様において、APC変異型は、出血のリスクを大幅に低下させつつ、細胞において有益な細胞保護作用を発揮する治療薬または治療用組成物として提供され得る。本発明のさらにもう一つの態様において、抗凝固活性は低下したが有益な細胞保護活性および抗炎症活性は維持している組換え型APC変異体候補をスクリーニングする方法が提供される。
【0022】
野生型活性化プロテインCに関連する出血のリスクを考慮すると、本発明のAPC変異型は現在入手可能な野生型の組換え型APCを上回る利点を提供する。従って、APCが単にその抗凝固活性のためではなく抗炎症活性または抗アポトーシス活性、すなわち細胞生存活性のために用いられる場合は必ず、本発明のAPC変異型は単独またはその他の物質と併用して優れた治療効果を提供することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1a〜1bは、組換え型野生型(rwt-APC)および組換え型APCの変異体による、Eahy926内皮細胞におけるスタウロスポリン誘発性(STS)アポトーシスの阻害を示す。この図面および他の図面において、3K3A-APCはKKK191-193AAA-APCを表し、229/230-APCはRR229/230AA-APCを表し、かつ306-314-APCはR306A/K311A/R312A/R314A-APCを表す。図1aは、アポトーシス細胞のパーセントとして示したSTS誘発性アポトーシスの用量依存的な減少を示す。図1bは、対照STS(APCなし)に対するアポトーシス細胞のパーセントとして正規化したデータを用いた、STS誘発性アポトーシスの用量依存的な減少を示す。
【図2】組換え型APCの野生型および変異体における抗凝固活性に対する抗アポトーシス(細胞保護)活性の比を示す。
【図3】図3a〜3bは、rwt-APCおよびAPC変異体のアミド溶解活性および抗凝固活性を示す。この図面および他の図面において、S360A-APCは、活性部位のセリン残基がアラニンにより置換されているSer360Ala-APCの変異型を表す。aは、小色素産生性基質であるS-2366に対するrwt-APCおよびAPC変異体のアミド溶解活性を示す。bは、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイを用いて測定したrwt-APCおよびAPC変異体の抗凝固活性を示す。各時点は、少なくとも3回の独立した実験から得られた平均値±S.E.M.を示す。記号は次を示す:□、rwt-APC;○、RR229/230AA-APC;◇、KKK191-193AAA-APC;■、S360A-APC。
【図4】図4a〜4cは、rwt-APCおよび抗凝固活性が障害されたAPC変異体の抗アポトーシス活性を示す。aは、APCによるスタウロスポリン(STS)誘発性アポトーシスの阻害(方法を参照)。APCを添加しない場合に認められたアポトーシス内皮細胞のパーセント(全細胞の18%)を100%とした。各時点は、少なくとも3回の独立した実験から得られた平均値±S.E.M.を示す。記号は次を示す:□、rwt-APC;○、RR229/230AA-APC;◇、KKK191-193AAA-APC;■、S360A-APC、●、スタウロスポリンなし。b、cは、スタウロスポリン(2μM、4時間)によってアポトーシスを誘発した際の、rwt-APCおよびAPC変異体(25nM、5時間)による活性化カスパーゼ-3陽性細胞の減少を示す。bは、存在する総細胞数のパーセントとして示した活性化カスパーゼ-3陽性細胞を示す。「STSなし」の細い線により示されるように、内皮細胞の約2%はスタウロスポリン非存在下で活性化カスパーゼ-3に関して陽性であった。各バーは、2〜4回の独立した実験の平均値±SEMを示す。cは、活性化カスパーゼ-3特異抗体(赤)およびDAPI核染色(青)を用いた活性化カスパーゼ3陽性細胞の免疫蛍光分析を示す。カラムは同一視野を示す。元々の倍率は200倍であった。
【図5】rwt-APCおよびAPC変異体によるアポトーシスの阻害はPAR-1およびEPCRを必要とする。rwt-APCおよび抗凝固活性が障害されたAPC変異体によるスタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスの阻害におけるPAR-1およびEPCR依存性は、PAR-1(白抜きのバー)に対する遮断抗体(WEDE-15 20μg/mlおよびATAP-2 15μg/mlの組み合わせ)またはEPCR(網掛けのバー)に対する遮断抗体(ウサギ抗EPCR 20μg/ml)を用いて調べた。黒塗りのバーは「添加抗体なし」を示す。スタウロスポリン(10μM、1時間)によるアポトーシスの誘発前に、細胞をrwt-APCまたはAPC変異体(5nM)と共に5時間、インキュベートした。アポトーシスはApopercentage色素の取り込みによって分析して、APCを添加しなかった場合に認められたアポトーシス細胞のパーセント(全細胞の20%)(100%とする)に対するパーセントとして表した。「鉛直線」のあるバーは、APCおよびスタウロスポリン非存在下での相対的アポトーシスを示す。各バーは、少なくとも3回の独立した実験から得られた平均値±S.E.M.を示す。
【図6】rwt-APCおよびAPC変異体によるPAR-1 N末端 TR33-62ペプチドのArg41における開裂を示す。HPLCを用いて、APCによるTR33〜62の開裂をTR33〜62ペプチド基質ピークの消失(白抜きの記号)およびTR42〜62ペプチド産物ピークの出現(黒塗りの記号)として経時的にモニタリングした。記号は次を示す:■、□:rwt-APC;●、○、RR229/230AA-APC;◆、◇、KKK191-193AAA-APC;およびX、X:S360A-APC。rwt-APCおよび2つの抗アポトーシス性APC変異体について、3〜5回の独立した実験のプールしたデータポイントを示す。活性部位であるSerを持たないS360A-APCには、開裂は認められなかった(X)。エラーバーは±S.E.M.を示す。
【図7】rwt-APC、5A-APCおよびS360A-APCのアミド溶解活性を示す。
【図8】rwt-APC、5A-APCおよびS360A-APCの抗凝固活性を示す。
【図9】rwt-APCおよび5A-APCによる、単球からのLPS誘発性TNFα放出の阻害を示す。
【図10】rwt-APCおよび5A-APCによる、単球からのLPS誘発性IL-6放出の阻害を示す。
【図11】rwt-APCおよび5A-APCによる、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスの阻害を示す。
【図12】図12a〜12bは、ヒト血漿におけるAPC種の半減期を示す(データは0時点と比較した活性の割合に変換した)。図12aは、時間に対するアミド溶解活性の割合を示す(片対数)。図12bは、時間に対するアミド溶解活性の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
活性化プロテインC(APC)は従来より凝固連鎖における抗凝固酵素と見なされていて、補因子である第Va因子および第VIIIa因子を不活化することによってトロンビン形成およびそれに続くフィブリンクロットの形成を阻害する(Esmon、前記、2000a)。しかし、APCは重度敗血症における死亡率を低下させるという顕著な能力も有するが(Bernard et al.、前記、2001a;Bernard et al., Crit. Care Med., 29: 2051-59, 2001b;Hinds, Brit. Med. J., 323: 881-82, 2001;Kanji et al., Pharmacother., 21: 1389-1402, 2001)、抗トロンビンIIIおよび組織因子経路阻害剤のようなその他の抗凝固剤はこの能力を持たない(Warren et al.、前記、2001;Abraham et al.、前記、2001)。APCのこの特性によって、徹底した研究が十分に行われていないAPCに起因する直接の抗炎症活性および抗アポトーシス活性における研究者の関心はピークに達した(例えば、Cheng et al. Nat. Med., 9: 338-42, 2003; Domotor et al., Blood, 101: 4797-4801, 2003; Fernandez et al., Blood Cells Mol. Dis., 30: 271-276, 2003; Esmon, J. Autoimmun., 15: 113-116, 2000bを参照)。APCには虚血性発作に惹起される障害から脳を保護する可能性もある(Cheng et al.、前記、2003; Esmon Thrombos Haemostas, 83: 639-643, 2000c)。
【0025】
APCの治療薬としての用途における最大の懸念は、APCの抗凝固活性に起因する出血性合併症(Bernard et al.、前記、2001a; Bernard et al.、前記、2001b)のリスクの増大である。本発明のAPC変異体は、有益な抗アポトーシス活性を維持しつつ内因性APCまたは野生型の組換え型APCよりも優れた低い抗凝固活性を有することによって、この問題を解決する。抗凝固活性と抗アポトーシス活性の識別は、この問題の解決における最初の工程であった。本発明者らは、これらの活性の制御におけるEPCRの役割にある程度焦点を絞っている。
【0026】
EPCRは元はプロテインCおよびAPCを等しい親和性で結合し得るレセプターとして発見され(Fukodome and Esmon、前記、1995)、かつEPCRは、明らかにトロンボモジュリン結合トロンビンによる効率的活性化のためにプロテインCの空間的局在化を至適化することによって、トロンビン-トロンボモジュリン複合体によるプロテインCの活性化を促進することが示された(Stearns-Kurosawa, et al., Proc. Nat'l Acad. Sci., USA, 93: 10212-10216, 1996)。おそらく、EPCRはAPCを内皮表面に結合して、APCの活性部位をArg41のPAR-1開裂部位近くに位置させる。逆説的に、EPCR機能はプロテインCの活性化を刺激することによって抗凝固性となり得るが(Stearns-Kurosawa, et al.、前記、1996)、APCの抗凝固活性は実際にはAPCが可溶性EPCRに結合する場合に阻害される(Regan et al., J. Biol. Chem., 271: 17499-17503, 1996)。APCのEPCRへの結合はAPCの抗アポトーシス活性には必須であるため、本発明者らはAPCの抗アポトーシス活性はその抗凝固活性には依存しないと結論付けている。本発明者らは、抗凝固活性は欠くが抗アポトーシス活性は維持する一部のAPC変異型が形成され得ると仮定した。このような変異型は、それらが患者に対して出血リスクの増大を伴うことなく直接の細胞生存活性を提供するならば、治療上、有用であることができる。
【0027】
本発明者らは、APCの異なる型についてそれらの抗アポトーシス活性をアッセイすることによって、その抗アポトーシス活性に必要なAPCの構造エレメントを調べてきた。スタウロスポリン誘発性アポトーシスは抗APCモノクローナル抗体を用いたAPCの前処理またはAPCの熱変性によって遮断されて、それによって、APCの抗アポトーシス活性の特異性が確立された(Mosnier and Griffin、前記、2003)。不活性プロテインCチモーゲン、ならびに活性部位のSerがAlaによって置換された不活性APC変異型であるS360A-APC(Gale et al., Protein Sci., 6: 132-140, 1997)は抗アポトーシス活性を欠いたことから(Mosnier and Griffin、前記、2003)、APCに介在されるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害にはAPC活性部位が必要であることが明らかとなった。これは、APCの抗アポトーシス活性がタンパク分解によって介在されることを意味する。
【0028】
本発明者らによって、EAhy926内皮細胞を用いた修飾スタウロスポリン誘発アポトーシスモデルを用いてAPCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害がPAR-1およびEPCR依存的であることが実証されるまで(Mosnier and Griffin、前記、2003)、スタウロスポリン誘発性アポトーシスのAPC介在性阻害(Joyce et al.、前記、2001)がPAR-1およびEPCRに依存するかどうかは不明であった。ヒト脳内皮細胞における低酸素症誘発性アポトーシスの阻害もPAR-1を必要とすることが示されている(Cheng et al.、前記、2003)。従って、アポトーシスの阻害にはAPCのタンパク分解性活性部位が必要であるという推測に一致して、PAR-2ではなくPAR-1に対する抗体を遮断しながら細胞をプレインキュベートすることによってAPCに介在されるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害が消失した(Mosnier and Griffin、前記、2003)。さらに、APCの抗アポトーシス活性はAPCのEPCRへの結合を遮断する抗EPCR抗体によって消失しており(Mosnier and Griffin、前記、2003)、対照により、抗EPCR抗体のこの作用は抗体をペプチド免疫原と共にプレインキュベートすることによって中和されることが示された(Mosnier and Griffin、前記、2003)。従って、抗体遮断試験に基づいて、APCが内皮細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスを阻害するためにはPAR-1およびEPCRが必要である。
【0029】
EAhy926内皮細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害におけるこのPAR-1およびEPCRの必要性は、低酸素性脳微小血管内皮細胞の場合、これらのレセプターがAPCの抗アポトーシス活性に重要であるという知見と一致する(Cheng et al.、前記、2003)。
【0030】
APCは、トロンビン開裂部位であるArg41において合成細胞外N末端PAR-1ポリペプチドを開裂することができる(Kuliopulos et al., Biochemistry, 38: 4572-4585, 1999)。APCによるこの合成PAR-1ポリペプチドの開裂はトロンビンによる開裂の1/5,000の速度である(Kuliopulos et al.、前記、1999)。トロンビンがArg41においてPAR-1を開裂すると、強力な細胞シグナル伝達経路が開始され得る。APCによるArg41の部位でのPAR-1の開裂によって、MAPキナーゼのリン酸化を含む細胞シグナルが開始される可能性が高い(Riewald et al.、前記、2002)。低酸素状態に置かれた脳内皮細胞の場合、APCシグナル伝達によって、先ず、p53量の増加が阻害される(Cheng et al.、前記、2003)。先行試験から、APCは複数の抗アポトーシス遺伝子がアップレギュレートされるようにHUVECの遺伝子発現特性を直接変化させて(Joyce et al.、前記、2001; Riewald et al.、前記、2002)、プロアポトーシス因子であるBaxの量はAPCによって特異的にダウンレギュレートされるが脳内皮細胞における抗アポトーシス因子であるBcl-2の量はAPCによってアップレギュレートされること(Cheng et al.、前記、2003)が示唆される。Bax/Bcl-2の棄却限界比の具体的変化は、アポトーシスにおける重要な意義を有する可能性が高い。PAR-1依存的APCシグナル伝達のメカニズムに関しては、これらの事象の他にはほとんど言及されていない。PAR-1アゴニストペプチドであるTFLLRNPNDKはEAhy926細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスからの保護作用を示さなかったが、このアゴニストが低酸素症誘発性アポトーシスからの脳内皮細胞の部分的救済を示したことは興味深いことであり、これらの二つのモデルにおけるAPCのPAR-1依存的抗アポトーシス活性には微妙ではあるが重要な差異があることを示唆している。
【0031】
インビボにおけるデータは、APCの抗凝固活性および細胞保護活性の重要な相違点と一致する。マウス虚血/再灌流損傷モデルにおけるAPC誘発性神経保護作用は、フィブリン沈着または血流再開に対して影響を及ぼさない低いAPC用量において観察されており、APCの神経保護作用は、少なくとも一部はPACの抗凝固活性に非依存的であったことを示している(Cheng et al.、前記、2003)。
【0032】
APC非存在下では、PAR-1またはPAR-2アゴニストペプチドのいずれでも、EAhy926細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害は観察されなかった。さらに、PAR-1の原型活性化物質であるトロンビンはスタウロスポリン誘発性アポトーシスを阻害しなかった(Mosnier and Griffin、前記、2003)。PAR-1のこれらのその他の活性化物質が細胞生存活性を提供できないことは、スタウロスポリン誘発性アポトーシスにおけるAPCのPAR-1依存的抗アポトーシス作用がAPCに特異的であることを示す。作用機序には結びつけられないが、本発明者らはEPCR結合APCがPAR-1を開裂して活性化すると、トロンビンまたはPAR-1アゴニストペプチドを引き金とするシグナルに比して、PAR-1の細胞内シグナル伝達の顕著な調節が起こることが推測できる。複雑性のもう一つの潜在的な原因は、報告されたEPCRのAPC核移転介在能力に起因する可能性がある(Esmon、前記、2000c)。様々な細胞モデル系においてAPCによるアポトーシス阻害を惹起する細胞内のシグナルおよび経路については、今後、解明されなければならない。
【0033】
PAR-1を介したAPCのEPCR依存的シグナル伝達の生理学的な関連性は、PAR-1およびEPCRを必要とするマウス虚血/再灌流障害モデルにおけるAPC誘発性神経保護作用によってさらに実証される(Cheng et al.、前記、2003)。APCはストレスを受けた脳内皮細胞ではEPCRおよびPAR-1を介して、またはストレスを受けたニューロンではPAR-1およびプロテアーゼ活性化レセプター-3(PAR-3)を介して作用して、これらのストレスおよび/または損傷を受けた脳細胞において抗アポトーシス経路および/または生存促進経路を活性化し得る。インビトロにおけるヒト脳内皮およびインビボにおける動物体内において(虚血性発作およびNMDAモデル)、APCはストレスまたは損傷を受けた脳細胞においてp53-シグナル伝達アポトーシス促進経路を阻害することができる(国際特許出願第PCT/US03/38764号)。
【0034】
実施例
プロテインCおよび活性化プロテインCの構造-活性の関連性は、時に内因性プロテインCを発現している宿主細胞にトランスフェクトされた発現構築物を用いて産生される変異体ポリペプチドを用いて調べることができる。従って、プロテインCまたは活性化プロテインCの別々のドメインにおける変異がそのタンパク質の機能における活性の低下または亢進にも関連し得る。
【0035】
出血のリスクが低下している、即ち抗凝固活性は低下しているが、一つまたは複数の有益な細胞保護作用は維持している、本発明のAPC変異体およびプロドラッグを作製するために、本発明者らは特定部位の突然変異誘発によってAPCの抗アポトーシス活性と抗凝固活性を識別した。APCのプロテアーゼドメインの様々な表面ループ中の複数のアミノ酸が、アラニンに変異した場合に抗凝固活性は著しく低下するが抗アポトーシス活性には影響されないことが同定された。これらの予想外の知見により、細胞保護活性を維持した組換え型APC変異体の現在および将来の臨床利用に伴う出血性合併症が減少される可能性が高いことから、APCの抗アポトーシス活性を維持したまま抗凝固活性の減少をはかる方法が実現可能でありかつ有意義であることが示されている。
【0036】
APCの抗凝固活性の構造的基盤は、第一にAPCと第Va因子の相互作用を軸としている。第Va因子内のAPC開裂部位はArg306、Arg506およびArg679の残基に位置して、前者の二つの開裂は補因子活性の消失と相関する(Rosing and Tans, Thromb Haemost, 78: 427-433,1997 ; Kalafatis and Mann, J. Biol. Chem., 268: 27246-57, 1993)。Arg506での第Va因子の開裂は速やかに起こって、通常はArg306での開裂に先行する。従って、それが第Va因子の最初の不活化における最も重要な位置と考えられる(Norstrom et al., J. Biol. Chem., 278: 24904-1133, 2003 ; Nicolaes, et al., J. Biol. Chem., 270: 21158-66, 1995)。APCと第Va因子におけるArg506開裂部位の相互作用については徹底した性状解明が行われていて、結果として、APCのプロテアーゼドメインの正に帯電した表面における第Va因子結合部位が定義されている(Gale et al., Blood, 96: 585-593, 2000; Gale et al., J. Biol. Chem. 277: 28836-28840, 2002 ; Friedrich et al., J. Biol. Chem., 276: 23105-08, 2001a ; Knobe et al., Proteins, 35: L218-234,1999 ; Shen et al., Thromb. Haemost., 82: 72-79, 1999)。APCにおける第Va因子結合のためのこの正のエキソサイトは一般にトロンビンの陰イオン結合エキソサイト部位Iと同一領域に位置して、プロテインC残基190〜193(キモトリプシン(CHT)残基36〜39に相当)を含むループ37、残基225〜235(CHT 70〜80)を含むカルシウムイオン結合ループ、および残基301〜316(CHT 142〜153)を含む自己融解(autolysis)ループの残基を含む(Mather et al., EMBO J., 15:6822-31, 1996)。さらに、プロテインCの残基214〜222(CHT 60〜68)を含むループ60の変異はAPCによる第Va因子の不活化に対してはほとんど作用しないが、このループはトロンボモジュリンおよびヘパリンとの相互作用には関連する(Gale et al.、前記、2002; Friedrich et al.、前記、2001a; Knobe et al.、前記、1999; Shen et al.、前記、1999; Friedrich et al., J. Biol. Chem., 276:24122-28, 2001b)。
【0037】
Galeら(前記、2002)は、APCの表面ループ中の変異がその抗凝固活性に影響を及ぼすことを実証している。APC変異型であるKKK191-193AAA-APC(ループ37)、RR229/230AA-APC(カルシウムループ)、RR306/312AA-APC(自己融解ループ)、RKRR306−314AAAA-APC(自己融解ループ)は、それぞれ、本来のAPCの抗凝固活性の10%、5%、17%、および2%未満の活性を有することが示された。続いて、本発明者らは、アポトーシスのスタウロスポリンモデルにおいて、低下した抗凝固活性を有するこれらのAPC変異型、KKK191-193AAA-APC、RR229/230AA-APCおよび5A-APC(例えばMosnier et al.(Blood 104:1740-1744, 2004)を参照のこと)ならびにRR306/312AA-APC(Mosnier & Griffin、未発表データ)がAPCの抗アポトーシス活性を維持していることを見出した。
【0038】
本発明者らが細胞保護活性に対して抗凝固活性に必要なAPCの構造的特性を識別できることを実証するために、本発明者らは抗凝固活性が著しく低下したAPCの組換え型変異体について試験を行った。APCの第Va因子結合部位における特定部位の突然変異の二重、三重、四重、および五重の組み合わせを用いて、本発明者らは抗凝固活性は著しく低下したが小ペプチド(色素形成性)基質における酵素活性は本質的に変化していない1セットのAPC変異体を構築した(Gale et al.、前記、2000;Gale et al.、前記、2002)。抗凝固活性は希釈プロトロンビン凝固アッセイにおいて測定された(Gale et al.、前記、2002)。APC変異型の細胞保護(抗アポトーシス)活性は、MosnierおよびGriffin(前記、2003)によって述べられるように修飾したEAhy926内皮細胞を用いたスタウロスポリン誘発性アポトーシスモデルを用いて試験した。活性部位であるセリン360がアラニンで置換された不活性APC変異型(S360A-APC、表1を参照)(Gale et al.、前記、1997)が抗アポトーシス活性を欠いたことから(Mosnier and Griffin、前記、2003)、APCに介在されるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害にはAPCの活性部位が必要であることが見出された(図1aおよび1b)。Eahy926内皮細胞における組換え型APCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害はApopercentage染色により測定した。組換え型の野生型APC(rwt-APC)によるアポトーシスの阻害は用量依存的であった(図1a)。スタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減は、0.24nM rwt-APCにおいて、スタウロスポリン添加前にAPCを細胞と共に5時間プレインキュベートして達成された。S360A-APC変異型にはアポトーシス活性がないことに留意されたい(図1b)。実施例1〜3記載の変異型、および野生型に対するそれらの活性%は、表1に示す。また、実施例4に示されるように、野生型APCおよび実施例1〜3の変異型APCのそれぞれにおける抗凝固活性に対する抗アポトーシス(細胞保護)活性の比を表1に示す。
【0039】
(表1)APC変異型の概要(希釈プロトロンビン時間(PT)により測定された抗凝固活性)
1 参照(Gale et al., 1997; Gale et al., 2000; Gale et al., 2002)より;より多くの情報は本文および方法を参照されたい。
2 希釈PTの代わりにAPTTにより測定
n/a:該当なし;rwt-APC、組換え型野生型APC;229/230-APC、RR229/230AA-APC;3K3A-APC、KKK191-193AAA-APC;306-314-APC、RKRR306/311/312/314AAAA-APC。
【0040】
実施例1
APCのカルシウム結合ループ内の2つのアルギニン残基であるArg229およびArg230をアラニン残基で置換すると、APCの一つの型であるRR229/230AA-APC(229/230-APC)が形成されて(表1を参照)、残留抗凝固活性はわずかに6.6%であった。RR229/230AA-APCのこの抗凝固活性の低下は、主として、Arg506の位置における第Va因子(FVa)の不活化の減少に起因して、Arg306の位置の第Va因子開裂の影響ははるかに小さかった。
【0041】
RR229/230AA-APCによるアポトーシス阻害における用量依存性(図1aおよび1b)は組換え型野生型(rwt)-APCの場合とほぼ等しかった。RR229/230AA-APCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減は0.27nMで達成された。この実施例は、APCの細胞保護(抗アポトーシス)活性にはAPCの抗凝固活性が必要でないことを示す。
【0042】
実施例2
この実施例では、ループ37の連続する3つのリジン残基が3つのアラニンと置換したAPC変異型KKK191-193AAA-APC(3K3A-APC)、表1を参照)が、希釈プロトロンビン凝固アッセイで求めた通り、わずかに15%の残留抗凝固活性を示した(Gale et al.、前記、2002)。KKK191-193AAA-APCの抗凝固活性の低下はArg506における第Va因子開裂の顕著な減少に起因するものであり(rwt-APCの11%)、Arg306の位置における第Va因子の不活化に対する影響はごく限られたものであった(rwt-APCの67%)(表1)。珍しいことに、図1aおよび1bに示すように、KKK191-193AAA-APCの抗アポトーシス活性はrwt-APCのそれとほぼ等しく、0.20nMにおいてスタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減が認められた。
【0043】
実施例3
この実施例では、いわゆるAPCの自己融解ループ中の5つの塩基性アミノ酸の内の4つがアラニン残基で置換されて、その結果、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)により求められる通り、1.6%の残留抗凝固活性を有するAPCの一つの型であるRKRR306/311/312/314AAAA-APC(306-314-APC、表1を参照されたい)が得られた[765]。RKRR306/311/312/314AAAA-APCの抗凝固活性の低下はArg506における第Va因子開裂の顕著な減少に起因するものであり(rwt-APCの1.4%)、Arg306の位置における第Va因子の不活化に対する影響は比較的小さかった(rwt-APCの16%)。RKRR306/311/312/314AAAA-APC変異型は細胞保護(抗アポトーシス)活性を著しく欠いて(図1aおよび1b)、スタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害はrwt-APCまたはその他の2つのAPC変異型であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCに比してこの変異型APCの著しく高い濃度を必要とした。
【0044】
実施例4
抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比は、図1の抗アポトーシス活性データおよび既報の抗凝固活性(Gale et al.、前記、2000; Gale et al.、前記、2002)に基づいて、rwt-APCおよび実施例1〜3の各APC変異型について算出した(表1を参照)。rwt-APCにおける活性比を1.0とする。図2に示すように、あるプロテアーゼドメイン表面ループ中のある残基に変異を有するAPC変異型が、抗凝固活性に対して8倍〜14倍高い抗アポトーシス活性を示すことができることが、これらの比により示される。2つの変異型であるKKK191-193AAA-APCおよびRR229/230AA-APCはrwt-APCと同等の抗アポトーシス、つまり細胞保護活性を示すが、抗凝固活性が低下することから出血のリスクは1/8〜1/14に減少することが予想される。
【0045】
組換え型APC変異型の抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を用いて、治療の可能性を有する本発明の組換え型APCの変異体を特定することができる。比が>1.0であることは、細胞保護の恩典を有し、かつ、本発明に従って細胞損傷に対する急性または予防的治療を必要とする対象における出血のリスクが減少された、治療的組換え型APC変異型の指標である。好ましくは、組換え型APCの治療的変異体の、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比は、約2よりも大きい。より好ましくは、該比は約4よりも大きい。最も好ましくは、該比は約8よりも大きい。
【0046】
本発明のプロドラッグの態様は、インビトロまたはインビボのいずれかにおいてプロテインCをAPCへ変換した後に、正常またはほぼ正常な細胞保護活性を維持しつつ抗凝固活性の低下を示す、即ち、抗アポトーシス活性:抗凝固活性の比が1.0よりも大きい、組換え型プロテインC変異体を伴い得る。好ましくは、本発明のプロドラッグは抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比が約2よりも大きいAPC変異体に変換され得り、より好ましくはこの比は約4よりも大きく、または最も好ましくはこの比は約8よりも大きい。
【0047】
実施例5
この実施例において、5つのアラニン置換を有するAPC変異体を作製した。このAPC変異体において、APCのカルシウム結合ループ内の2つのアルギニン残基(Arg229およびArg230)が2つのアラニン残基により置換されており、ループ37内の3つの連続するリジン残基(Lys191、Lys192およびLys193)が3つのアラニン残基により置換されていた。結果として生じたAPC変異体は、実施例1のアラニン置換(RR229/230AA-APC)と実施例2のアラニン置換(KKK191-193AAA-APC)を組み合わせて、RR229/230AA+KKK191-193AAA-APCを生じる(5A-APCと表される)。
【0048】
APCの、細胞保護活性と抗凝固活性を区別するために、本発明者らは組換え型のヒト野生型(wt)APCならびにプロテアーゼドメイン変異型である5A-APC(RR229/230AA+KKK191-193AAA)、Glaドメイン変異型であるPTGla-APC(プロトロンビン残基1〜46を有するAPC)(Smirnov et al JBC 1998)および活性部位変異型であるS360A-APCを作製した。活性部位の滴定および色素産生アッセイは、wtAPC、5A-APCおよびPTGla-APCは完全な酵素活性を有したが、S360A-APCはこれを有さなかったことを示した。5A-APCは、抗凝固活性をほとんど有さなかったが(<3%)、PTGla-APCは、wtAPCの抗凝固活性の300%の活性を有した。EPCRへのAPCの結合は、固定化された可溶性EPCRへの結合およびwtEPCRでトランスフェクトしたK293細胞への結合として測定した。本発明者らは、wtAPCおよび5A-APCがそれぞれ、同様の親和性でEPCRに結合可能であるが(それぞれ、Kd,app=37 nMおよび29 nM)、対照的に、PTGla-APCは、EPCRに極めて弱く結合する(Kd,app>300 nM)ことを確認した。本発明者らは次いで、低(hypo-)抗凝固剤5A-APCおよび高(hyper-)抗凝固剤PTGla-APCの抗炎症活性および抗アポトーシス活性を、wtAPCの活性と比較した。APCの抗炎症活性をアッセイするために、U937単球細胞からのLPS誘発性腫瘍壊死因子α(TNFα)分泌の、APCが仲介する阻害を判定した。5A-APCの、LPS誘発性TNFα分泌を阻害する能力は、wtAPCのそれと区別できず、それぞれ5.4 nMおよび6.5 nMにおいて最大半量の阻害が認められた。酵素的に不活性なS360A-APCもプロテインCチモーゲンもLPS誘発性TNFα分泌を阻害せず、これは、機能的なAPC活性部位が必要である事を示している。APC結合を遮断する抗EPCR抗体はwtAPCの抗炎症活性を妨げ、これは、U937細胞上のEPCRへのAPCの結合が必要であることを示す。
【0049】
各APC種の抗アポトーシス活性を、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスアッセイにおいて測定した。5A-APCによるアポトーシスの用量依存的な阻害は、wt-APCによる阻害と区別できず、それぞれ0.70 nMおよび2.0 nMにおいて最大半量の阻害が認められた。wtAPCおよび5A-APCのこの強力な抗アポトーシス活性とは対照的に、高抗凝固剤PTGla-APCは、内皮性アポトーシスの最大半量の阻害に24倍高い濃度を必要とした。予想された通り、S360A-APCは、内皮性アポトーシスの有意な阻害を示さなかった。したがって、3%未満の抗凝固活性を有する5A-APC変異体は、インビトロにおける単球細胞および内皮細胞において正常な抗炎症活性および抗アポトーシス活性を示した。これらのAPC変異体は、APCの、細胞保護活性に対する抗凝固活性の相対的重要度に関するインビボでの評価に有用であり得る。要約すると、これらのデータは、APCの抗凝固作用の構造的要件間の、その抗炎症活性および抗アポトーシス活性と比較した重要な相違点に光を当てる。これらの構造的な見識は、APCの、1つまたは複数の有益な細胞保護作用を保持するが、抗凝固活性の低下に起因する出血の危険性が低い、より安全な治療用APC変異体をもたらしうる。
【0050】
本発明は、次に述べる複数の態様を含む。
【0051】
一つの態様において、本発明のAPC変異体を、インビボまたはインビトロのいずれかにおいてアポトーシスによる細胞死またはストレス誘発性の傷害を受けるリスクのある細胞に対して細胞保護作用を提供するための有効量で用いてよい。本発明の一つの局面において、APC変異体は、抗凝固活性には依存しないAPCの細胞保護活性から恩典を受ける対象に対して治療用量で投与してよい。このような対象には、少なくとも一部がアポトーシスによって引き起こされる血管またはその他の組織臓器に対する障害のリスクを有する患者が含まれる。細胞損傷のリスクは、敗血症、虚血/再灌流障害、卒中、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性神経変性疾患、慢性神経変性疾患、臓器移植、化学療法または脳放射線障害を含む放射線障害のいずれか一つまたは複数の結果であり得る。当業者はその他の疾患または損傷によっても、細胞が少なくとも一部はアポトーシスによって惹起される障害のリスクに曝され得ることを理解するように、細胞損傷のこれらの原因は決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。有効量または治療用量とは、少なくとも一部はアポトーシスによって惹起される細胞損傷の予防または軽減に有効であることが明らかな用量である。本態様のもう一つの局面において、本発明の変異体はインビトロ、インビボ、またはインサイチューにおいて細胞または組織に対して適用してよい。
【0052】
もう一つの態様において、本発明のAPC変異体またはプロドラッグは、本明細書に開示される一つまたは複数の用途を有する薬学的組成物を製剤化するために用いることができる。治療用組成物は、インビトロにおいて培養物中の細胞に対して、インビボにおいて体内の細胞に対して、またはエクスビボにおいて対象外部の細胞に対して投与し得り、これを続いて同一または別の対象の体内に戻すことができる。細胞は、その対象から回収してもよく、対象に移植してもよく、または対象内に含まれてもよい(例えば、インビトロにおける内皮細胞の遺伝的修飾、およびその後のこれらの細胞の脳内皮への復帰)。プロドラッグは、インサイチューにおいてAPCに変換され得ることが予想される。望ましい特性を有する物質を選択するために、インビトロまたはインビボにおいて候補物質をスクリーニングすることもできる。その細胞は内皮由来であり得る(例えば、内皮細胞もしくは平滑筋細胞、または脳血管の内皮由来)。
【0053】
本発明の変異体APCを含む治療用組成物は投与剤形の形で提供され得る。本態様の一つの局面において、本発明の治療用組成物は薬学的に許容される担体をさらに含み得り、その組成物の対象の脳への送達に有用な成分をさらに加えることができる。このような薬学的担体および送達成分は当技術分野において公知である。本発明の組成物へのこのような担体およびその他の成分の添加は、十分に当技術分野における技術の範囲内である。例えば、透過性物質はその内容物を局所領域に放出することが可能であり、またはチューブは貯蔵槽の内容物を脳の遠位部位に誘導することができる。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、中枢神経系への直接適用のために適合化された製剤、または消化管もしくは血液循環を介しての通過に適した製剤として投与することが可能である。または、薬学的組成物を培養培地に加えてもよい。活性化合物の他に、このような組成物は薬学的に許容される担体、ならびに投与を促進するおよび/または取り込みを亢進させることが公知であるその他の成分を加えてよい。組成物は単回用量または異なる時期に投与される反復用量として投与することができる。組成物の単位用量とは、細胞保護作用を提供し、アポトーシスもしくは細胞死を阻害し、かつ/または細胞生存性を促進するが、このような活性の治療的レベルである臨床的に重要な抗凝固作用を提供しない、または、活性化プロテインCの既述の用量に比して少なくとも抗凝固活性が減少した、APC変異型の量である。このような値の測定は当技術分野の技術の範囲内である:医療機関ではこれらの値を標準的なアッセイで日常的に測定して、それらの値は血液学者によって状況に応じて正常または異常として分類される。このような値の測定方法の実施例を以下に説明する。
【0055】
本発明の薬学的組成物は任意の公知の経路で投与することができる。一例として、その組成物は粘膜、肺、表面、またはその他の局所性もしくは全身性の経路(例えば、経腸および非経口)によって投与してよい。特に、中枢神経系において活性化プロテインC、プロドラッグまたは機能性変異体の有効量を到達することが望ましい場合がある。これは、脳内への蓄積注射または外科的埋め込みを伴うことがある。「非経口」には、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、動脈内、髄腔内、およびその他の注射または注入技術が含まれるが、これらに限定的ではない。
【0056】
投与の用量および時期、製剤、ならびに投与経路の適切な選択は、対象における好ましい反応の達成(即ち、有効性または治療効果)、およびそれに対する過度の毒性またはその他の危険性の回避(即ち、安全性)を目標として行うことができる。投与はボーラス注入または連続注入により行ってよい。ボーラスは、一定量(いわゆるボーラス)の薬剤を(例えば、注射によって)一時期に投与することを指す。連続注入は、溶液を血管内に特定の期間にわたって実質的に中断することなく連続して導入することを指す。対象に対して一回だけ投与される製剤のボーラスは簡便な投与計画であるが、脳において活性化プロテインCの有効濃度を達成する場合は、より頻繁な投与が要求される可能性がある。治療は、連続注入(例えば、卒中後3時間)または緩慢な注入(例えば、卒中の6時間以内に投与される場合、24時間ないし72時間)を伴い得る。または、毎日、一日おき、週1回、または月1回投与される可能性がある。薬学的組成物中の活性成分の投与量は、対象においてその化合物またはその誘導体の一過性または持続性の濃度が達成されるように、また、所望の治療反応が得られるように変更することもできる。
【0057】
このように、「治療的」とは、所望の効果(例えば、アポトーシスまたは細胞死の阻害、細胞生存性、細胞保護、神経保護、もしくはそれらの組み合わせの促進)を達成するための条件の通常の操作を伴うような選択を指す。出血のリスクが低いことから、最大細胞保護作用に必要ならば、対象に投与される変異型プロテインCまたは変異型活性化プロテインCの量は組換え型プロテインCまたは活性化プロテインCの用量よりも高くてもよい。このように、「治療量」とは、所望の細胞保護効果は達成するが抗凝固活性が低いために出血のリスクが低下した活性化プロテインC変異体またはプロテインC変異体の総量を指す(ボーラス投与では、例えば、治療すべき対象の種または疾患に応じて、2mg/kgまたはより低い用量、1mg/kgまたはより低い用量、0.5mg/kgまたはより低い用量、0.04 mg/kgまたはより低い用量、0.03 mg/kgまたはより低い用量、0.02 mg/kgまたはより低い用量、0.01 mg/kgまたはより低い用量、0.005 mg/kgまたはより低い用量)。
【0058】
治療量は、例えば、4時間〜96時間かけた連続注入により投与される、約0.01mg/kg/時〜約1.1mg/kg/時から、約24時間かけた約0.01mg/kg/時〜約0.10mg/kg/時程度の少量であり得る。好ましくは、約4時間〜約72時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約4時間〜約48時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約12時間〜約48時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約12時間〜約36時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約4時間〜約36時間にわたって連続注入により投与される。より好ましくは約12時間〜約24時間にわたって連続注入により投与される。最も好ましくは、約24時間にわたって連続注入により投与される。
【0059】
治療量は、血中濃度に対する力価に基づいて、0.01μg/ml〜約1.6μg/ml、好ましくは約0.01μg/mlから約0.5μg/mlのAPC量であり得る。所望の治療効果を達成するために必要な量よりも低い用量で投与を開始して、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることも、当技術分野の技術の範囲内である。同様に、本発明のインビトロおよびエクスビボにおける調製物において所望の効果を達成するために変異体の至適濃度、例えば、約1〜100nMを求めることも、当技術分野の技術の範囲内である。
【0060】
さらにもう一つの態様において、本発明に従って治療の可能性を有する組換え型APCのその他の変異体を特定するための候補物質のスクリーニング方法が提供される。本態様の一つの局面は、プロテアーゼドメインの任意の表面ループにおいて組換え型APCまたはプロテインCを変異させる工程、ならびに既述のアッセイにおける変異体APCの抗凝固活性および細胞保護活性を測定する工程を含む。本態様の方法は、変異を起こした該組換え型活性化プロテインCの抗凝固活性を測定する工程;変異を起こした該組換え型活性化プロテインCの抗アポトーシス活性を測定する工程;抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出する工程;該比が1.0よりも大きい場合に組換え型活性化プロテインCを潜在的治療薬として同定する工程をさらに含む。好ましくは、その比は約2よりも大きく、より好ましくはその比は約4よりも大きく、最も好ましくはその比は約8よりも大きい。候補物質がプロドラッグである場合、そのプロドラッグは、インビボまたはインビトロにおいて活性化プロテインC変異体に変換され得るプロテインCの変異体を含み得る。本発明に従って候補プロテインC変異体を望ましい特性についてスクリーニングするため、プロテインC変異体を活性の測定前に活性型(APC)に変換する。
【0061】
本態様のもう一つの局面において、ループ37、カルシウムループおよび自己融解ループからなる群より選択される表面ループのプロテアーゼドメインの一つの残基の位置に少なくとも一つの変異を有する組換え型APCまたはプロテインCの変異体である候補物質のライブラリが選択される。本方法は、プロテインC変異体を活性化プロテインC変異体に変換する工程;細胞を一定量の候補物質の存在下でスタウロスポリンのアポトーシス誘発濃度に曝露することによって一つまたは複数のストレスまたは損傷を受けた細胞における該候補物質の抗アポトーシス活性を測定する工程;(b)と同一の量の同一の候補物質に細胞を曝露して一つまたは複数のストレスまたは損傷を受けた細胞における該候補物質の抗凝固活性を測定して希釈プロトロンビン時間凝固アッセイを実施する工程;(a)において求めた抗アポトーシス活性の(b)の抗凝固活性に対する比を算出する工程;ならびに抗アポトーシス活性:抗凝固活性の比が1.0よりも大きい候補物質を選択する工程を含む。好ましくは、その比は約2よりも大きく、より好ましくはその比は約4よりも大きく、最も好ましくはその比は約8よりも大きい。
【0062】
候補物質に関するこの基本的なスクリーニングスキームのその他の変更は当技術分野の通常の技術の範囲内であり、本発明に含まれる。このような変更の例は、一例として、アポトーシスを誘発するその他の方法ならびにアポトーシス活性および抗凝固活性を測定するためのその他の試験を含む。
【0063】
方法
プロテインC活性化
プロテインCの組換え型は、所定の化学的構造(例えば、固有型、変異型または多型)で作製することができる。例示の通り、ヒトプロテインCをコードする遺伝子は米国特許第4,775,624号に記載されていて、米国特許第4,981,952号に示されるように組換え型ヒトプロテインCを作製するために用いることができる。ヒトプロテインCは、米国特許第6,037,322号に示されるように組換え技術によって組織培養物中で作製して活性化することができる。天然のヒトプロテインCは、米国特許第5,084,274号に示されるように、血漿から精製して、活性化してアッセイすることができる。これらの特許において開示されるヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、プロテインCの参照として用いることができる。
【0064】
本発明の上記の実施例において、組換え型の野生型APC(wt-APC)であるRR229/230AA-APC(229/230-APC)、KKK191/192/193AAA-APC(3K3A-APC)、RKRR306/311/312/314AAAA-APC(306-314-APC)、RR229/230AA+KKK191/192/193AAA-APC(5A-APC)およびS360A-APCは、既報(Gale et al., 前記、1997; Gale et al.,前記、2000; Gale et al., 前記、2002)の通り作製された。プロテインCはトロンビン(3281 U/mg、Enzyme Research Labs, South Bend, IN)により活性化された。2mM EDTAおよび0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を加えたHBS(HEPES緩衝生理食塩液、50mM HEPES、150mM NaCl)中のプロテインC、pH 7.4、濃度600μg/mLに12μg/mLのトロンビンを加えて37℃で2.5時間インキュベートし、続いて、トロンビンを不活化するためにトロンビン1単位当たり1.1単位のヒルジン(Sigma, St Louis, MO)を加えた。使用したトロンビンおよびヒルジンがその後のアッセイに影響を及ぼさないことを確認するために、アミド溶解アッセイ、APTT凝固アッセイおよびFVa不活化アッセイにおいて対照アッセイを実施した。
【0065】
「変異」とは、固有の活性化プロテインCに比してポリヌクレオチドおよびポリペプチドの配列における一つまたは複数の変化を指し、より高活性またはより低活性である少なくとも一つの機能、変化もしくは欠失した既存の機能、自然の状態では存在しない新しい機能、またはそれらの組み合わせを有する。
【0066】
APCの活性部位滴定
すべてのAPC変異型は、HBS中約8μMのAPCおよび0.1mMのp-ニトロフェノール-グアニジノベンゾエートを用いてChaseおよびShawの修正活性部位滴定法(Biochem. Biophys. Res. Commun., 29: 508-514, 1967)により定量して、p-ニトロフェノールの消光係数はpH 7.4において11400M-1cm-1と算出された。
【0067】
APCの動態分析
色素産生性基質であるPefachrome PCa(Pentapharm, Basel, Switzerland)のミカエリス定数(Km)および触媒速度定数(kcat)は、HBS、0.5%BSA、5mM CaCl2、pH 7.4、APC 5.7nMにおいて基質濃度を1.43mMから0.0466mMまで変えて測定した。ミカエリス定数はイーディー‐ホフステープロットを用いて導いた。または、同様の測定において、5mM CaCl2の代わりに5mM EDTAを使用した。発色は、Optimaxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)(Mesters et al., J. Biol. Chem.., 266: 24514-19, 1991)を用いて測定した。
【0068】
細胞培養
EAhy926内皮細胞は、C.J.S. Edgell博士(University of North Carolina, Chapel Hill NC)から入手して、既報(Edgell et al., Proc. Nat'l Acad. Sci., USA, 80: 3734-3737, 1983)の通り、10%ウシ胎児血清(Omega Scientific, Tarzana, CA)、100U/ml ペニシリンGナトリウム(Gibco)、100μg/ml 硫酸ストレプトマイシン(Gibco)、および2mM グルタミン(Gibco)を加えたDMEM高グルコース(Gibco, Grand Island, NY)において空気中5%CO2含有加湿大気中で37℃にて維持した。
【0069】
アポトーシスアッセイ
内皮細胞のスタウロスポリン誘発性アポトーシスは、既報のアッセイ(Joyce et al.、前記、2001)の本発明者らによる変法(Mosnier and Griffin、前記、2003)を用いて開始した。その変法は、細胞をゼラチンコーティングしたカバーガラス上で培養する工程、スタウロスポリンの濃度を変化させる工程、および下記のようにスタウロスポリンを添加する前のAPCプレインキュベート時間を至適化する工程を伴う。ATP類似体およびプロテインキナーゼC(PKC)阻害物質であるスタウロスポリンは周知の強力なアポトーシス誘発物質である。Apopercentage色素は細胞膜外表面でのホスファチジルセリン発現の指標であり、従って、従来のアネキシン-V標識により測定される色素と同様である。ホスファチジルセリンの細胞膜外部表面への輸送によって、Apopercentage色素は細胞内側へと一方向に輸送されて、そこで維持および蓄積される。蓄積した色素は赤色/紫色であり、通常の顕微鏡下で視認可能である(Joyce et al.、前記、2001; Mosnier and Griffin、前記、2003)。本発明者らは、アポトーシスのモニタリングのためにこの色素を使用した。または、細胞は、既報(Idziorek et al., J. Immunol. Methods, 185: 249-258, 1995)のようにアポトーシス特異的色素であるYO-PRO-1(10μM、5分)(Molecular Probes, Eugene, OR)を加えて、またはカスパーゼ3様酵素の合成基質であるDEVD-amc(Calbiochem, San Diego, CA)を加えて20分間、インキュベートしてよい。スタウロスポリンは、Apopercentage染色により調べられる通り、EAhy926内皮細胞において時間依存的および濃度依存的なアポトーシスを誘発した(データは示さない)。
【0070】
簡潔に言えば、12mmの円形カバーガラス(Fisherbrand, Pittsburgh, PA)を酸で洗って、蒸留水および95%エタノールですすぎ、均質な液滴が形成されるまでゼラチン(Apopercentage色素を加えた0.5%ゼラチン)に10回浸漬して、風乾した。24穴プレートを用いてEAhy926細胞をゼラチンコーティングしたカバーガラス上で集密まで生育させて、アポトーシスの誘発前にAPCを加えて5時間、インキュベートした。様々なタンパク質を加えてプレインキュベートした後、製造業者の説明書に従って提供された原液の1/20の最終濃度まで希釈したApopercentage色素(Biocolor, Belfast, N. Ireland)を加えた状態でスタウロスポリン(Calbiochem, San Diego, CA)を10μMの最終濃度まで添加して、アポトーシスを誘発した。
【0071】
空気中5%CO2含有加湿大気中で37℃にて1時間インキュベートした後、細胞をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)で洗って、フェノールレッドを含まないDMEM高グルコース 500μl((Gibco, Grand Island, NY)に5%ウシ胎児血清(Omega Scientific, Tarzana, CA)、100U/mlペニシリンGナトリウム(Gibco)、100mg/ml硫酸ストレプトマイシン(Gibco)および2mMグルタミン(Gibco)を加えて、細胞に添加した。
【0072】
洗浄後直ちに、Spot QEデジタルカメラに接続したZeiss IM倒立顕微鏡を用いて細胞を写真撮影した。カバーガラス1枚当たり100倍の倍率で平均4視野の写真を撮影して、画像解析ソフトウェアであるCell Counter(L.O. Mosnier博士, The Scripps Research Institute作製)を用いてアポトーシス細胞の数を数えた。各実験について、細胞の代表的視野を位相差を用いて写真撮影して、存在する細胞総数を数えた。アポトーシスのパーセントは、総細胞数に対するアポトーシス細胞の数として表す。細胞が剥離しないことを確認するために、反復対照実験(MTTに基づくアッセイ、Celltiter 96 Aqueous非放射性細胞増殖アッセイ、Promega, Madison, WI)を実施した。さらに、集密細胞層の崩壊が観察された場合は、そのデータポイントをその後の解析から除外して反復実施した。
【0073】
凝固アッセイ
希釈プロトロンビン時間凝固アッセイは、次の通り、実施された。血漿(50μL)を、0.5%BSAを加えたHBS中APC 50μLと共に、8〜32nMのAPC濃度(最終濃度 2.7〜11nM)において37℃で3分間、インキュベートした。続いて、HBS、0.5%BSA、25mM CaCl2で1:60に希釈したイノビン(Dade Behring Inc., Newark, DE)50μLをを加えて、凝固を開始させた。凝固時間は、ST4凝固計(Diagnostica Stago, Asnieres, France)を用いて測定した。APTT凝固アッセイでは、血漿50μLをAPTT試薬(Platelin LS, Organon Technika Corp, Durham, NC)50μLと混合して、37℃で3分間、プレインキュベートした。次に、APC 2μLを加え、続いてHBSの50μL、0.5% BSA、5mM CaCl2を加えた。凝固時間は、ST4凝固計(Diagnostica Stago, Asnieres, France)を用いて記録した。
【0074】
APC不活化
血漿中に存在するセルピンによるAPCの不活化は、本質的にHeebらのプロトコール(J. Biol. Chem., 265: 2365-2369, 1990)に従って測定された。簡潔に言うと、ヒト血漿またはセルピン阻害物質純品の混合物(PCIおよび/またはα1-抗トリプシン)を37℃でプレインキュベートし、続いて、APCを加えた。所定の時期にアリコートを採取して、APC特異的色素産生性基質を用いてAPC活性を測定した。
【0075】
第Va因子の不活化
FVaの不活化は次の通り測定された。50mM HEPES、pH 7.4、100mM NaCl、0.5% BSA、5mM CaCl2、0.1mM MnCl2を用いて、25μMリン脂質ベジクルを加えた1nM FVaの混合物を調製した。不活化はAPCを添加して開始した。1μlアリコートを経時的に採取して、1.25nM 第Xa因子(FXa)を含む40μLに31μMリン脂質ベシクルと共に加え、次に3μMプロトロンビン10μLを加えた(最終濃度:1nM FXa、20pM FVa、25μMリン脂質ベシクル、および0.6μMプロトロンビン)。2.5分後に、この混合物の15μLアリコートに10mM EDTA、0.5%BSAを含むHBSの55μL、pH 8.2を添加して、消光させた。色素産生性基質であるCBS 34-47(Diagnostica Stago, Asnieres, France)を加えて、プロトロンビン形成速度を、405nmでの吸光度の変化を測定することによって調べた。Fva不活化に関するこれらの擬一次時間経過の曲線の当てはめは、Nicolaesら(前記、1995)に従って等式1を用いて行った:
【0076】
当業者は、本発明によって治療および/または緩和され得るその他の疾病状態および/または症状を認識する。例えば、本発明は、心筋梗塞、その他の心疾患およびそれらの臨床症状、内皮傷害、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、ならびに肝臓、腎臓または中枢神経系(CNS)の不全を治療するために用いることができる。例えば、冠動脈閉塞、不整脈、うっ血性心不全、心筋症、気管支炎、神経外傷、移植片/移植拒絶反応、心筋炎、糖尿病性ニューロパシー、および卒中のように、その他の多くの疾患が本発明の方法によって恩典を受ける。手術、外傷および卒中時に主要な血管床が酸素添加の期間に除去されて(虚血)、その後、再建されて正常な循環が起こると(再灌流)、生命に関わる局所または遠位組織の障害が発生する。細胞死および組織障害は臓器不全または臓器機能の低下に至り得る。本発明の組成物および方法は、このような傷害の治療またはそれらの予防に有用である。
【0077】
要約すると、抗凝固活性は実質的に低下しているが抗アポトーシス活性は正常またはほぼ正常なレベルを維持している本発明の組換え型APC変異型の変異体の3つの例、つまりKKK191-193AAA-APC、RR229/230AA-APCおよびRR229/230AA+KKK191-193AAA-APC(5A-APC)が提供される。本発明は、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の割合が高いという極めて望ましい特性を有するAPC変異体を含む。本発明は、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比が比較的低めであるが依然恩典を有する変異体をさらに含む;このような変異体も、細胞保護作用を示すが出血のリスクは著しく低下していることが期待される。本発明はAPCの変異体に限定されるものではなく、望ましいAPC変異型、即ち、同一の望ましい活性比を有するAPC変異型を産生することのできるプロテインC変異型をさらに含む。本発明は、また、ループ37、カルシウムループまたは自己融解ループ中の変異に限定されるものでもない;本発明は望ましい細胞保護:抗凝固比を示すプロテアーゼドメインのその他の表面ループ中の残基の変異を含む。従って、本発明のAPCおよびプロテインC変異体は、APCの抗凝固活性に依存しないAPCの保護活性から恩典を受ける対象の治療において有用であることが期待される。対象には、様々な臓器における血管または組織に対するアポトーシスによる障害のリスクを有する患者が含まれる。より具体的には、一例として、これらの対象には、その他の状態の中でも、例えば、重度敗血症、虚血/再灌流障害、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性または慢性神経変性疾患、および臓器移植の対象が含まれる。
【0078】
実施例6
方法
本実施例には、変異体であるS360A-APCに関するデータの平均値およびこれらのデータに加えた改良データ解析である表1に組み込まれる補足実験から得られた正確なデータが含まれる。さらに、抗凝固データは、(表2に示すように)PTアッセイではなくAPTTアッセイを用いて収集された。従って、この正確なデータは表2として示す。この実施例は、APC変異体のアミド溶解活性、抗凝固活性および抗アポトーシス活性のより詳細な解析も含む(図3〜6)。この実施例では、次の方法が用いられた。
【0079】
ヒトα-トロンビンはEnzyme Research Laboratories(South Bend,IN)から購入した。クエン酸で抗凝固処理した正常ヒト血漿はGeorge King Bio-Medical, Inc.(Overland Park, KS)から入手した。色素産生性基質であるL-ピログルタミル-L-プロリル-L-アルギニン-p-ニトロアニリン塩酸塩(S-2366)はChromogenix(Franklin, OH)から入手した。
【0080】
組換え型活性化プロテインCの調製
変異型プロテインC発現ベクターを構築し、組換え型プロテインC変異型は、既報(Gale et al.、前記、2002; Gale et al.、前記、1997)の通り、条件付けした培地から精製した。精製したプロテインCはプロトロンビンで活性化した(Gale et al.、前記、2002; Gale et al.、前記、1997)。つまり、2mM EDTAおよび0.5%BSAを加えたHBS(50mM HEPES、150mM NaCl)、pH 7.4中、600μg/mlの濃度のプロテインCに12μg/mlトロンビンを加えて37℃で2.5時間インキュベートした後、トロンビンを不活化するためにトロンビン1単位当たり1.1単位のヒルジンを加えた。その後、NaCl濃度勾配溶出を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによりトロンビンを除去した(Yan et al., Biotechnology, 8: 655-661, 1990)。フィブリン凝固により測定される通り、残留トロンビンはタンパク質の0.00025%(molトロンビン/mol APC)よりも少なかった。rwt-APCおよびAPC変異型の濃度は、ChaseおよびShaw(Chase and Shaw、前記、1967)から改良した活性部位滴定により、既報(Gale et al.、前記、2002)の通り、HBS中〜8μMのAPCおよび0.1mMのp-ニトロフェノール-グアニジノベンゾエートを用いて、p-ニトロフェノールの消衰係数を11,400M-1cm-1(pH 7.4において)として測定した。S360A-APCの濃度は、American Bioproducts(Parsippany, NJ)のAsserachrom Protein C ELISAにより測定した(Gale et al.、前記、1997)。
【0081】
APC活性のアッセイ
アミロイド融解(S-2366)アッセイは既報(Gale et al.、前記、2000; Gale et al.、前記、1997)の通り実施した。APTT凝固時間アッセイは次の手順に従って実施した。血漿(50μl)にカオリン/セファリン(50μl)(C. K. Prest 2, Diagnostica Stago, Parsippany, NJ)を加えて37℃で1分間インキュベートし、続いて0.5%BSAを加えたHBS中APC 25μlを最終APC濃度0.5nM〜32nMで加えて、さらに3分間、インキュベートした。続いて、HBS中50mM CaCl2の50μlを加えて凝固を開始させ、Amelung KC 4aマイクロ凝固計(Sigma Diagnostics, St Louis, MO)を用いて凝固時間を記録した。
【0082】
APCの細胞保護作用は、既報(Mosnier and Griffin、前記、2003)の通り、スタウロスポリン誘発性内皮細胞(EA.hy926)アポトーシスのアッセイにおいて測定した。特記されない場合、スタウロスポリン(10μM、1時間)によってアポトーシスを誘発する前にAPC(0.16〜100nM)を細胞と共に5時間インキュベートして、細胞膜外部表面へのホスファチジルセリンの移動を測定するBiocolor(Belfast, N. Ireland)のApopercentage色素によりアポトーシスを評価した。PAR-1(WEDE-15およびATAP-2はDr L. Brassより厚意により提供)およびEPCR(Zymed)に対する抗体の遮断は、既報(Mosnier and Griffin、前記、2003)の通り用いた。アポトーシス誘導前にAPC(25nM、5時間)と共にインキュベートされたスタウロスポリン処理済(2μM、4時間)EA.hy926内皮細胞の活性化カスパーゼ-3免疫蛍光染色およびDAPI核染色(5μg/ml)に関しては、ウサギ抗活性化カスパーゼ-3抗体(Promega)およびAlexa-fluor-568標識したヤギの抗ウサギ二次抗体(Molecular Probes)を用いて製造業者の説明書に従って行った。
【0083】
PAR-1ペプチド開裂
rwt-APCおよびAPC変異体(500nM)とPAR-1 N末端の末端ペプチド(TR33-62)の相互作用について、PAR-1残基33〜62に相当する合成ペプチド(Bio Synthesis Inc., Lewisville, TX)を用いて試験した。このペプチド配列は
であり、APCによってArg41およびSer42の間で開裂された。基質ペプチドおよびトロンビンまたはArg41におけるAPC開裂の2つのペプチド産物(TR33-41およびTR42-64)を溶解して、逆相HPLCで分析して、本質的に既報(Arosio et al., Biochemistry, 39: 8095-8101, 2000)の通り定量した。認められた開裂がトロンビンの混入に起因するものではないことを確認するために、APCを用いたすべてのTR33-62開裂実験に5nMヒルジンを加えた。
【0084】
結果
表1に要約された部分的に重複した一連の実験でRR229/230AA-APCおよびKKK191-193-AAA-APCの抗アポトーシス活性、抗凝固活性およびアミド溶解活性を測定して、組換え型野生型(rwt)-APCおよび活性部位残基のSer360の代わりにAlaを有する加水分解性不活性変異型であるS360A-APCと比較した(表2)。2つのAPCプロテアーゼドメインループ変異体であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193-AAA-APCは、色素産生性小基質であるS-2366に対して組換え型野生型APC(rwt-APC)と等しい酵素活性を有し(図3a)、APC活性部位の構造および機能が保存されることを示しているが、これらの変異体は第Va因子のArg506における開裂が障害されているために抗凝固活性は著しく低下していた(図3b)(表2を参照)。
【0085】
(表2)組換え型の野生型および変異型のAPC活性*
(APTTにより測定された抗凝固活性)
組換え型野生型APC(rwt-APC)の活性を100%として、変異型APCの値をrwt-APC活性のパーセントとして示す。
† スタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減に必要なAPCの濃度から求めた(図2a)。
‡ rwt-APCおよびAPC変異体(0.5nM〜32nM)について求めたAPTT用量反応データに基づく(図1b)。
$ この表の左二つのカラムに示される細胞保護活性および抗凝固活性における相対活性の比から求めた。
II 先に求められた見かけの二次速度定数(Gale et al.、前記、2002; Gale et al. 、前記、1997)に基づく。
¶ rwt-APCおよびAPC変異体(0.5nM〜32nM)について求めたアミド溶解活性に基づく(図1a)。
# rwt-APCおよびAPC変異体(500nM)によるPAR-1ペプチド(TR33-62)の開裂について図4から求めた触媒効率に基づく。
** 本アッセイ条件下で検出可能な活性なし。
†† S360A-APCの抗凝固活性は第Va因子のタンパク分解にはよらず、rwt-APCとは異なり、APCと血漿のインキュベート時間には依存しない(Gale et al.、前記、1997)。
【0086】
S360A-APCは色素産生活性を持たないが(図3a)、S360A-APCの抗凝固活性はAPTTアッセイの条件において〜23%であった(図3b)。既報の通り、正常なrwt-APCとは対照的に、この抗凝固活性はAPCの血漿とのインキュベート時間には依存せず(Gale et al.、前記、1997)、第Xa因子の阻害および第Va因子へのプロトロンビン結合が起こるようなAPCエキソサイトの第Va因子への結合を伴うと思われる。
【0087】
これらのAPC変異体の細胞保護活性を調べるために、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシス(Joyce et al.、前記、2001; Mosnier and Griffin、前記、2003)について試験を行った。APC介在性のスタウロスポリン誘発性アポトーシスの阻害は時間依存的および用量依存的であり、APC活性部位であるPAR-1およびEPCRを必要とする(Mosnier and Griffin、前記、2003)。用いた条件下において、rwt-APCによるスタウロスポリン誘発性アポトーシスの最大阻害半減は0.16nMで達成された(図4a)。RR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCによる用量依存的アポトーシス阻害はrwt-APCのそれと識別不能であり、最大阻害半減は、それぞれ、0.17nMおよび0.14nMであった(図4a)。活性部位のセリンを核APC変異型であるS360A-APC(Gale et al.、前記、1997)によるアポトーシスの阻害は認められなかった(図4a〜c)。rwt-APCおよびAPC変異体の、スタウロスポリンに曝露した内皮細胞における活性化カスパーゼ3生成阻害能を、免疫組織化学的にモニタリングした。rwt-APCならびに変異体であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCは、活性化カスパーゼ-3陽性細胞をそれぞれ約70%まで等しく低下させたが、活性部位変異型であるS360A-APCは影響を示さなかった(図4b〜c)。このように、APCの正常な抗凝固活性に必須である一部のプロテアーゼ領域残基、つまり、Arg229 およびArg230、ならびにLys191、Lys192およびLys193はAPCの正常な抗アポトーシス活性には必要でない。
【0088】
APCの抗アポトーシス作用はPAR-1およびEPCRを必要とする(Cheng et al.、前記、2003; Mosnier and Griffin、前記、2003)。同様に、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスのアッセイにおけるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCの抗アポトーシス活性は、各APC変異体の細胞保護活性がAPCのレセプターへの結合を遮断するEPCRに対する抗体を加えると、それぞれ、72%および69%阻害されて、また、遮断性の抗PAR-1抗体を加えるとそれぞれ88%および55%阻害されることから、PAR-1およびEPCRを必要とした(図5)。これらの結果は、細胞とrwt-APCのような2つのAPC変異体との相互作用にはPAR-1およびEPCRが必要であることを示している。骨の造血幹細胞は著しいレベルのEPCRを含んでいるため(Balazs, Blood 107:2317-21, 2006)、骨および他の幹細胞に対して細胞保護活性を提供するためにAPCおよびAPC変異体を使用することは、このようなAPC変異体用途の1つの領域を表している。
【0089】
野生型および変異体APCによる、合成PAR-1 N末端ペプチドの開裂
S360A-APCに抗アポトーシス活性がないこと、およびPAR-1が必要であることは、APCの抗アポトーシス活性におけるメカニズム上の重要な工程にPAR-1タンパク分解性活性化が関与することを意味する(Cheng et al.、前記、2003; Mosnier and Griffin、前記、2003)。Arg41における開裂に起因するPAR-1のタンパク分解性活性化に対するAPCの変異の影響について調べるために、PAR-1のN末端配列(33〜62の残基(TR33-62))に相当する合成30-merペプチドをAPC基質として試験を行った。このTR33-62 PAR-1ペプチドはトロンビンによってArg41の位置で開裂される(Arosio et al.、前記、2000)。APCは、もう一つのPAR-1合成N末端ペプチドを、トロンビン開裂部位であるArg41で開裂させる(Kuliopulos et al.、前記、1999)。HPLC定量分析を用いて、本発明者らは、rwt-APCがTR33-62ペプチドをArg41の位置で開裂してトロンビンと同様のフラグメントであるTR33-41およびTR42-62を形成するが、2つの酵素のkcat/Kmの比較に基づいて触媒効率は約1/25,000であることを見出した(データは示さない)。TR33-62の開裂における時間経過をHPLCでモニタリングしてTR33-62基質のピークの消失および産物であるTR42-62の出現を定量した結果、rwt-APC、RR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCにおけるTR33-62開裂の速度に実質的な差はないことが示された(図6)。同様に、rwt-APCを2つの抗アポトーシス性APC変異体であるRR229/230AA-APCおよびKKK191-193AAA-APCと比較すると、EA.hy926内皮細胞において、FURA-2-AM蛍光変化としてモニタリングされるAPC誘発性Ca++細胞内流入に顕著な差がないことが観察された(データは示さない)。これらの結果は、APCがArg41の位置でPAR-1を開裂するという仮説および、抗凝固活性は低下しているが抗アポトーシス活性は正常である本明細書記載の2つのAPC変異体における変異が、APCのプロテアーゼドメインがArg41でPAR-1を開裂する能力を著しく低下させないという仮説に一致する。
【0090】
要約すると、抗凝固活性の低下によって出血のリスクが低下した組換え型APC変異体を作製するために、本発明者らは特定部位の突然変異誘発によってAPCの抗凝固活性と細胞保護活性を識別した。本発明者らは本明細書において、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスアッセイを用いて、抗凝固活性が著しく低下した2つのAPC表面ループ中のAla変異(RR229/230AAおよびKKK191-193AAA)によってプロテアーゼ活性化レセプター-1および内皮細胞プロテインCレセプターを必要とする正常な抗アポトーシス活性を維持する2つのAPC変異体が得られることを示している。さらに、これらの2つのAPC変異体はPAR-1のN末端ペプチドをArg41の位置で開裂する正常な能力を維持する。これらの2つのAPC変異体を相対的抗アポトーシス活性および抗凝固活性に関してrwt-APCと比較するために(APTTにより測定;表1では、抗凝固活性が希釈PTによって測定されたことに留意されたい)、本発明者らは認められたrwt-APCの活性を100%として、各APC変異体の活性パーセントを用量-反応データから算出した(図3および4)。この正規化では、元来、rwt-APCの「細胞保護活性対抗凝固活性」比が1.0となる(表2)。APC変異型について抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出すると(表2)、2つのAPC変異体である229/230-APCおよび3K3A-APCはrwt-APCに比して、それぞれ、抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性が7倍および25倍の高い値を示した。これらの比は、抗凝固活性に関して希釈PTアッセイを用いて算出された表1に示す値とほぼ等しい。
【0091】
従って、これらのデータは、第Va因子におけるArg506の位置での開裂の減少を惹起するAPCのRR229/230AAおよびKKK191-193AAAの変異が、PAR-1のArg41での開裂を障害しないことを意味する。
【0092】
実施例7
方法
5A-APC用のプロテインC発現ベクターを、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002)のように構築した。変異(R229A+R230A+K191A+K192A+K193A)を、Quickchange突然変異誘発(Stratagene, Cedar Creek,TX)を使用して導入した。配列分析により、変異の存在を確認した。
【0093】
5つのアラニン置換(R229A+R230A+K191A+K192A+K193A)を含むプロテインC変異体(5A-APC)を、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のようにK293細胞を使用して発現させた。精製した組換え型の5AプロテインCを、ファストフローQセファロースカラムを使用して既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のように調製した。
【0094】
5A-APC(R229A+R230A+K191A+K192A+K193A)を、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のようにトロンビンの活性化により、5AプロテインCから作製した。5A-APC濃度を、ChaseおよびShawにしたがい、活性部位滴定により測定した(Biochem. Biophys. Res. Commun., 29:508-514, 1967)。
【0095】
APC活性のアッセイ
アミド溶解(S-2366)アッセイを、既報(Gale et al., J. Biol. Chem. 277:28836-28840, 2002; Gale et al., Blood, 96:585-593, 2000; Gale et al., Protein Sci., 6:132-140, 1997)のように実施した。APTT凝固時間アッセイは次の手順に従って実施した。血漿(50μl)にカオリン/セファリン(50μl)(C. K. Prest, Diagnostica Stago, Parsippany, NJ)を加えて37℃で1分間インキュベートし、続いて0.5%BSAを加えたHBS中APC 25μlを、最終APC濃度0.5nM〜32nMで加えて、さらに3分間、インキュベートした。続いて、HBS中50mM CaCl2の50μlを加えて凝固を開始させ、Amelung KC 4aマイクロ凝固計(Sigma Diagnostics, St Louis, MO)を用いて凝固時間を記録した。
【0096】
APCの抗アポトーシス活性
APCの細胞保護作用は、既報(Mosnier and Griffin、Biochem. J., 373:65-70, 2003)のように、スタウロスポリン誘発性内皮細胞(EA.hy926)アポトーシスのアッセイにおいて測定した。APC(0.16〜100 nM)を、特記されない限り、スタウロスポリンによるアポトーシスの誘導(10μM、1時間)の前に細胞と共に5時間インキュベートし、アポトーシスをYOPRO-1(Molecular Probes)色素の取り込みにより評価した。
【0097】
APCの抗炎症活性
不死化したヒト単球(U937, ATCC (Manassas, VA))を、10%の熱不活性化ウシ胎児血清、ペニシリン(1単位/mL)、ストレプトマイシン(1μg/mL)およびグルタミン(292μg/mL)を加えたRPMIベースの成長培地において培養した。実験に供した細胞は、これらの4〜10継代目であった。各実験の前にトリパンブルー染色により細胞の生存度を試験し、99%を上回ることを確認した。典型的には、240μlのU937細胞(2×106/mL)を、30μlのAPC希釈物または生理食塩水、および30μlの250 ng/mL LPS(リポ多糖、055:B5 Sigma (St. Louis, MO))または生理食塩水と共に18時間CO2インキュベータ内でインキュベートした。次いで、細胞培養物の上清を、各アッセイ混合物の4℃で10分間の遠心分離により回収した。細胞培養物の上清内に分泌されたTNFαおよびIL-6は、製造業者のプロトコルにしたがって(Invitrogen (Carlsbad, CA))、ELISAにより定量的に検出した。
【0098】
結果
上記のように、229/230-APCおよび3K3A-APCは抗凝固活性が低下していたが、これらの変異体の抗アポトーシス活性は本質的に影響を受けなかった(Mosnier et al., Blood. 104:1740-1745, 2004)。これらのAPC変異体(229/230-APCおよび3K3A-APC)の抗凝固活性は低下したが、これらはAPTT凝固アッセイにおいて、検出可能な抗凝固活性をなおも保持した。したがって、本発明者らは、上記の変異が組み合わされたAPC変異体を作製した(R229A+R230A+K191A+K192A+K193Aを有する5A-APC)。この5A-APCは、組換え型の野生型APC(rwt-APC)と比較して抗凝固活性が極度に低下していたが、細胞に対する直接的な保護効果の少なくともいくらかは本質的に影響を受けずかつrwt-APCと区別できなかった。
【0099】
用いた条件下では、rwt-APCおよび5A-APCは共に、類似したアミド溶解活性を有した(図7)。対照的に、活性部位のSerがAlaに変異したAPC変異体であるS360A-APCは、検出可能なアミド溶解活性を有さなかった。APTT凝固アッセイにより、5A-APCの抗凝固活性が極度に低下(用いた条件下で100%と定義したrwt-APCと比較して3%未満)したことが明らかとなった(図8)。これは、同様の条件下でそれぞれ13%および5%の抗凝固活性を有する上記の229/230-APCおよび3K3A-APCと比較して、有意な低下を示す。
【0100】
細胞に対する直接的な保護効果に関して5A-APCの活性を評価するために、単球に対するAPCの抗炎症活性、および内皮細胞に対するAPCの抗アポトーシス活性の両方を分析した。APCの抗炎症活性は、リポ多糖(LPS)誘発性の、単球(U937細胞)からのサイトカイン放出を阻害するその能力により判定した。rwt-APCおよび5A-APCは共に、LPS誘発性の、単球からの腫瘍壊死因子α(TNFα)放出を阻害した(図9)。rwt-APCおよび5A-APCの用量反応滴定は、rwt-APCおよび5A-APCの相対的な効力が区別できないことを示した。LPS誘発性の、単球からのインターロイキン6(IL-6)放出の阻害の分析について、同様の結果が得られた。rwt-APCおよび5A-APCは共に、用量依存的な、単球からのLPS誘発性IL-6放出を阻害した(図10)。LPS誘発性IL-6放出の最大半量の阻害の達成に必要とされるrwt-APCおよび5A-APCの濃度間の相違は観察されなかった。これらの結果は、rwt-APCと比較して5A-APCが正常なAPC抗炎症活性を有することを示す。
【0101】
APCの抗アポトーシス活性は、既報(Mosnier and Griffin, Biochem. J., 373:65-70, 2003; Mosnier et al., Blood. 104:1740-1745, 2004)のように、スタウロスポリン誘発性内皮細胞(EA.hy926)アポトーシスのアッセイにおいて測定した。rwt-APCおよび5A-APCは共に、スタウロスポリン誘発性内皮細胞アポトーシスを阻害した(図11)。rwt-APCおよび5A-APCの用量反応滴定により測定された、アポトーシスの最大半量の阻害の達成に必要とされるrwt-APCおよび5A-APCの濃度は、区別できなかった。したがって、5A-APCは、その抗凝固活性は極度に低下しているものの、rwt-APCと比較して本質的に正常な抗アポトーシス活性を有する。これらの結果は、APCのプロテアーゼドメイン表面上の塩基性のエキソサイト残基がAPCの抗凝固活性に必要であるが、APCの、細胞に対する直接的な保護効果(APCの抗炎症活性またはAPCの抗アポトーシス活性など)には必要ではないという原理の証明をさらに実証する。
【0102】
細胞保護活性に対する抗凝固活性についての、APCエキソサイトの特異性の判定は、抗凝固活性は低下したかまたは極めて低いが、細胞に対して本質的に正常な(rwt-APCと比較)有益な保護効果を有するAPC変異体の作製を可能にした。これらのようなAPC変異体は、APCの抗凝固活性に非依存的なAPC保護活性から恩恵を受けるであろう対象に対する治療において有用である。そのようなAPC変異体を用いた治療から恩恵を受けることができる対象は、様々な臓器における血管または組織に対する、少なくとも一部アポトーシスによって惹起される障害のリスクを有する対象を含む。これらの対象は、例えば敗血症もしくは重度の敗血症、虚血/再灌流障害、卒中、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性もしくは慢性の神経変性疾患、放射線損傷に罹患している動物またはヒト、または他の状態の中でも特に臓器移植もしくは化学療法を受けている動物またはヒトを含むと考えられる。
【0103】
組換え型のヒトAPC変異体をヒト血漿に添加し、APC酵素活性の損失を、標準的なアミド溶解アッセイを使用してモニタリングした。図12a〜12bにおいて見られるように、組換え型のヒトwt APCおよびAPC変異体のヒト血漿における半減期は類似していた。これは、APC変異体の抗凝固活性損失の原因が半減期の減少ではないことを示す。
【0104】
本明細書で引用される参考文献および特許は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用量の変異体組換え型活性化プロテインCを対象または細胞に投与する工程を含む、少なくとも一部がアポトーシスにより惹起される損傷から細胞を保護する方法であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;該表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択され;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記方法。
【請求項2】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
組換え型活性化プロテインCの、治療用量のプロドラッグ形態の変異体を対象または細胞に投与する工程を含む、少なくとも一部がアポトーシスにより惹起される損傷から細胞を保護する方法であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;該表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択され;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記方法。
【請求項5】
プロドラッグが組換え型プロテインCの変異体である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
対象が、少なくとも一部がアポトーシスによって惹起される、血管またはその他の臓器に対する細胞損傷のリスクを有する、請求項3記載の方法。
【請求項7】
細胞損傷のリスクが、敗血症、虚血/再灌流障害、卒中、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性神経変性疾患、慢性神経変性疾患、臓器移植、化学療法、および放射線障害のいずれか一つまたは複数の結果である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
慢性神経変性疾患が、アルツハイマー病、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
治療用量が、約4時間〜約96時間の、約0.01mg/kg/時から約1.1mg/kg/時の間の連続注入である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
治療量の組換え型活性化プロテインCに細胞を曝露する工程を含む、少なくとも一部がアポトーシスにより惹起される損傷から細胞を保護する方法であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;該表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択され;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記方法。
【請求項11】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項10記載の方法。
【請求項13】
有効量の組換え型活性化プロテインCを含む治療用組成物であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記治療用組成物。
【請求項14】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
表面ループの少なくとも一つがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
有効量のプロドラッグを含む治療用組成物であって、該プロドラッグがプロテインC変異体を含み、該プロテインC変異体が活性化プロテインC変異体に変換可能であり、該変異体が、抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該活性化プロテインC変異体が表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインC変異体がこの活性化プロテインC変異体の抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記治療用組成物。
【請求項18】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
表面ループの少なくとも一つがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
脳への送達のために適合化される、請求項13または17記載の組成物。
【請求項22】
薬学的に許容される担体、ならびに任意で、投与を促進するおよび/または取り込みを亢進させることが公知であるその他の成分をさらに含む、請求項13または17記載の組成物。
【請求項23】
プロテアーゼドメインを有する組換え型活性化プロテインCの潜在的に治療的な細胞保護性変異体を選択する方法であって、以下の工程を含む方法:活性化プロテインC変異体を作製するために該プロテアーゼドメインの表面ループにおいて組換え型活性化プロテインCを変異させる工程;該活性化プロテインC変異体の抗凝固活性を測定する工程;該活性化プロテインC変異体の抗アポトーシス活性を測定する工程;抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出する工程;および該比が1.0よりも大きい場合、活性化プロテインC変異体を潜在的に治療的であると同定する工程。
【請求項24】
表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項23記載の方法。
【請求項26】
比が約2よりも大きい、請求項23記載の方法。
【請求項27】
比が約4よりも大きい、請求項26記載の方法。
【請求項28】
比が約8よりも大きい、請求項27記載の方法。
【請求項29】
プロテアーゼドメインを有する組換え型プロテインCの潜在的に治療的な細胞保護性変異体を選択する方法であって、以下の工程を含む方法:プロテインC変異体を作製するために該プロテアーゼドメインの表面ループにおいて組換え型プロテインCを変異させる工程;該プロテインC変異体を活性化プロテインC変異体に変換させる工程;該活性化プロテインC変異体の抗凝固活性を測定する工程;該活性化プロテインC変異体の抗アポトーシス活性を測定する工程;抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出する工程;および該比が1.0よりも大きい場合、プロテインC変異体を潜在的に治療的であると同定する工程。
【請求項30】
表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項29記載の方法。
【請求項32】
比が約2よりも大きい、請求項29記載の方法。
【請求項33】
比が約4よりも大きい、請求項32記載の方法。
【請求項34】
比が約8よりも大きい、請求項33記載の方法。
【請求項35】
組換え型活性化プロテインCの潜在的に治療的な細胞保護性変異体を選択する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)プロテインCの変異体または活性化プロテインCの変異体である候補物質のライブラリを提供する工程であって、該プロテインCまたは活性化プロテインCがプロテアーゼドメインを有し、該変異体が該プロテアーゼドメインの表面ループの残基に少なくとも一つの変異を含み、かつ該プロテインC変異体が活性化プロテインC変異体に変換されることができる、前記工程;
(b)プロテインC変異体である該候補物質を活性化プロテインC変異体に変換する工程;
(c)ストレスまたは傷害を受けた一つまたは複数の細胞を、ある量の候補物質の存在下でアポトーシス誘発濃度のスタウロスポリンに曝露することによって、該細胞における(a)または(b)の該活性化プロテインC変異体の抗アポトーシス活性を測定する工程;
(d)希釈プロトロンビン時間凝固アッセイを実施することにより、(c)においてアッセイされた該候補物質の抗凝固活性を測定する工程;
(e)(c)において測定された抗アポトーシス活性の、(d)の抗凝固活性に対する比を算出する工程;および
(f)抗アポトーシス活性:抗凝固活性の比が1.0よりも大きい候補物質を選択する工程。
【請求項36】
表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項35記載の方法。
【請求項38】
比が約2よりも大きい、請求項35記載の方法。
【請求項39】
比が約4よりも大きい、請求項38記載の方法。
【請求項40】
比が約8よりも大きい、請求項39記載の方法。
【請求項41】
請求項23〜40のいずれか一項記載の方法により選択される物質。
【請求項42】
対象の一つまたは複数の細胞型においてストレスまたは傷害の少なくとも一つの影響が改善されるように、組換え型活性化プロテインCの少なくとも一つの変異体の有効量を対象に投与する工程を含む、細胞のストレスまたは傷害を治療する方法。
【請求項43】
細胞が、対象の脳、心臓、腎臓、肝臓、または上皮組織の一つまたは複数に含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項44】
細胞が、対象の脳、心臓、腎臓、肝臓、または上皮組織の一つまたは複数に含まれる、請求項4記載の方法。
【請求項45】
少なくとも一つの変異体が、少なくとも、カルシウムループにおけるRR229/230AAおよびループ37におけるKKK191-193AAAの変異を含む、請求項42記載の方法。
【請求項46】
細胞のストレスまたは傷害が、血液灌流の減少、低酸素、虚血、虚血性発作、放射線照射、酸化剤、再灌流障害、および外傷からなる群より選択される少なくとも一つによって惹起される、請求項45記載の方法。
【請求項47】
細胞が幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項48】
細胞が幹細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項49】
細胞が幹細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項1】
治療用量の変異体組換え型活性化プロテインCを対象または細胞に投与する工程を含む、少なくとも一部がアポトーシスにより惹起される損傷から細胞を保護する方法であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;該表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択され;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記方法。
【請求項2】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
組換え型活性化プロテインCの、治療用量のプロドラッグ形態の変異体を対象または細胞に投与する工程を含む、少なくとも一部がアポトーシスにより惹起される損傷から細胞を保護する方法であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;該表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択され;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記方法。
【請求項5】
プロドラッグが組換え型プロテインCの変異体である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
対象が、少なくとも一部がアポトーシスによって惹起される、血管またはその他の臓器に対する細胞損傷のリスクを有する、請求項3記載の方法。
【請求項7】
細胞損傷のリスクが、敗血症、虚血/再灌流障害、卒中、虚血性発作、急性心筋梗塞、急性神経変性疾患、慢性神経変性疾患、臓器移植、化学療法、および放射線障害のいずれか一つまたは複数の結果である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
慢性神経変性疾患が、アルツハイマー病、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
治療用量が、約4時間〜約96時間の、約0.01mg/kg/時から約1.1mg/kg/時の間の連続注入である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
治療量の組換え型活性化プロテインCに細胞を曝露する工程を含む、少なくとも一部がアポトーシスにより惹起される損傷から細胞を保護する方法であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;該表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択され;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記方法。
【請求項11】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項10記載の方法。
【請求項13】
有効量の組換え型活性化プロテインCを含む治療用組成物であって、該組換え型活性化プロテインCが抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該組換え型活性化プロテインCが表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインCがこの活性化プロテインCの抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記治療用組成物。
【請求項14】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
表面ループの少なくとも一つがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
有効量のプロドラッグを含む治療用組成物であって、該プロドラッグがプロテインC変異体を含み、該プロテインC変異体が活性化プロテインC変異体に変換可能であり、該変異体が、抗凝固活性および細胞保護活性を有し、該活性化プロテインC変異体が表面ループを含むプロテアーゼドメインをさらに有し;該活性化プロテインC変異体がこの活性化プロテインC変異体の抗凝固活性および細胞保護活性に異なる影響を与える少なくとも一つの変異を含み、該少なくとも一つの変異が該プロテアーゼドメインの表面ループの少なくとも一つのアミノ酸残基であり;かつ該少なくとも一つの変異が、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して低下した抗凝固活性をもたらすが細胞保護活性はもたらさない、前記治療用組成物。
【請求項18】
少なくとも一つの変異によって、野生型組換え型または内因性の活性化プロテインCと比較して細胞保護活性が亢進する、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
表面ループの少なくとも一つがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項17記載の組成物。
【請求項20】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
脳への送達のために適合化される、請求項13または17記載の組成物。
【請求項22】
薬学的に許容される担体、ならびに任意で、投与を促進するおよび/または取り込みを亢進させることが公知であるその他の成分をさらに含む、請求項13または17記載の組成物。
【請求項23】
プロテアーゼドメインを有する組換え型活性化プロテインCの潜在的に治療的な細胞保護性変異体を選択する方法であって、以下の工程を含む方法:活性化プロテインC変異体を作製するために該プロテアーゼドメインの表面ループにおいて組換え型活性化プロテインCを変異させる工程;該活性化プロテインC変異体の抗凝固活性を測定する工程;該活性化プロテインC変異体の抗アポトーシス活性を測定する工程;抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出する工程;および該比が1.0よりも大きい場合、活性化プロテインC変異体を潜在的に治療的であると同定する工程。
【請求項24】
表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項23記載の方法。
【請求項26】
比が約2よりも大きい、請求項23記載の方法。
【請求項27】
比が約4よりも大きい、請求項26記載の方法。
【請求項28】
比が約8よりも大きい、請求項27記載の方法。
【請求項29】
プロテアーゼドメインを有する組換え型プロテインCの潜在的に治療的な細胞保護性変異体を選択する方法であって、以下の工程を含む方法:プロテインC変異体を作製するために該プロテアーゼドメインの表面ループにおいて組換え型プロテインCを変異させる工程;該プロテインC変異体を活性化プロテインC変異体に変換させる工程;該活性化プロテインC変異体の抗凝固活性を測定する工程;該活性化プロテインC変異体の抗アポトーシス活性を測定する工程;抗凝固活性に対する抗アポトーシス活性の比を算出する工程;および該比が1.0よりも大きい場合、プロテインC変異体を潜在的に治療的であると同定する工程。
【請求項30】
表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項29記載の方法。
【請求項32】
比が約2よりも大きい、請求項29記載の方法。
【請求項33】
比が約4よりも大きい、請求項32記載の方法。
【請求項34】
比が約8よりも大きい、請求項33記載の方法。
【請求項35】
組換え型活性化プロテインCの潜在的に治療的な細胞保護性変異体を選択する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)プロテインCの変異体または活性化プロテインCの変異体である候補物質のライブラリを提供する工程であって、該プロテインCまたは活性化プロテインCがプロテアーゼドメインを有し、該変異体が該プロテアーゼドメインの表面ループの残基に少なくとも一つの変異を含み、かつ該プロテインC変異体が活性化プロテインC変異体に変換されることができる、前記工程;
(b)プロテインC変異体である該候補物質を活性化プロテインC変異体に変換する工程;
(c)ストレスまたは傷害を受けた一つまたは複数の細胞を、ある量の候補物質の存在下でアポトーシス誘発濃度のスタウロスポリンに曝露することによって、該細胞における(a)または(b)の該活性化プロテインC変異体の抗アポトーシス活性を測定する工程;
(d)希釈プロトロンビン時間凝固アッセイを実施することにより、(c)においてアッセイされた該候補物質の抗凝固活性を測定する工程;
(e)(c)において測定された抗アポトーシス活性の、(d)の抗凝固活性に対する比を算出する工程;および
(f)抗アポトーシス活性:抗凝固活性の比が1.0よりも大きい候補物質を選択する工程。
【請求項36】
表面ループがループ37およびカルシウムループからなる群より選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
少なくとも一つの変異が、カルシウムループにおけるRR229/230AA、およびループ37におけるKKK191-193AAAである、請求項35記載の方法。
【請求項38】
比が約2よりも大きい、請求項35記載の方法。
【請求項39】
比が約4よりも大きい、請求項38記載の方法。
【請求項40】
比が約8よりも大きい、請求項39記載の方法。
【請求項41】
請求項23〜40のいずれか一項記載の方法により選択される物質。
【請求項42】
対象の一つまたは複数の細胞型においてストレスまたは傷害の少なくとも一つの影響が改善されるように、組換え型活性化プロテインCの少なくとも一つの変異体の有効量を対象に投与する工程を含む、細胞のストレスまたは傷害を治療する方法。
【請求項43】
細胞が、対象の脳、心臓、腎臓、肝臓、または上皮組織の一つまたは複数に含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項44】
細胞が、対象の脳、心臓、腎臓、肝臓、または上皮組織の一つまたは複数に含まれる、請求項4記載の方法。
【請求項45】
少なくとも一つの変異体が、少なくとも、カルシウムループにおけるRR229/230AAおよびループ37におけるKKK191-193AAAの変異を含む、請求項42記載の方法。
【請求項46】
細胞のストレスまたは傷害が、血液灌流の減少、低酸素、虚血、虚血性発作、放射線照射、酸化剤、再灌流障害、および外傷からなる群より選択される少なくとも一つによって惹起される、請求項45記載の方法。
【請求項47】
細胞が幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項48】
細胞が幹細胞である、請求項4記載の方法。
【請求項49】
細胞が幹細胞である、請求項10記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−508031(P2010−508031A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534937(P2009−534937)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/082980
【国際公開番号】WO2008/055145
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(509121824)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/082980
【国際公開番号】WO2008/055145
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(509121824)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (1)
【Fターム(参考)】
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