説明

通電加工食品の製造方法

【課題】
本発明の課題は、水又は希薄溶液に浸漬した食品材料の表層部と中央部とを均一にかつ十分に昇温することが出来る、簡便かつ低コストな通電加熱食品の製造方法を提供することである。
【解決手段】
上記課題の解決手段として、本発明は、内部に一対の電極1、2を対設する容器3に、水または希薄な電解質溶液Bと共に、電解質を含む食品材料Aを、これらの電極に接触させることなく、かつ水または希薄な電解質溶液中に浸漬した状態で収容し、食品材料Aから水または希薄な電解質溶液Bに溶出した電解質により通電可能な状態になった後、食品材料Aに通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品材料を水または希薄な電解質溶液中に浸漬した状態で通電加熱することによる通電加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハム、ソーセージ等の食品の加熱殺菌において、これらの食品材料の湯煮または蒸煮が行われている。これらの加熱殺菌方法では、まず食品材料の表層部が昇温し、熱伝導により食品材料の表層部から中央部へと昇温していく。従って、食品材料の中央部を十分に加熱殺菌するためには、表層部は過加熱状態となり、食品の色調などの品質を劣化させる可能性がある。
【0003】
湯煮または蒸煮による加熱に代わるものとして、食品材料の有する固有の電気抵抗を利用し、食品材料に電流を流してジュール加熱(通電加熱)する方法が開発されており、この方法によれば、食品材料をその内部から短時間に加熱することができるため、各種食品の加熱への応用が進められてきた。このような通電加熱による食品材料の加熱の態様としては、食品材料を、電解質を含む外溶液(例えば、食塩水)とともに絶縁性容器内に収容し、この容器内に配設された一対の電極間に電圧を印加することによって、外溶液を介して食肉材料に通電し、食品材料をジュール加熱により発熱させる方法が提案されている(特許文献1および特許文献2)。しかし、これらの方法により十分な殺菌価が得られるまで食肉材料を加熱すると、食品材料の表層部または中央部の一方が過加熱となり、製品である食品の色調などの品質が落ちる。
【0004】
具体的には、外溶液の電解質濃度が高過ぎると、外溶液の高い導電率に起因して外溶液に過剰な電流が流れ、食品材料には比較的小さい電流しか流れない。従って、通電加熱によって外溶液が優先的に加熱され、外溶液の温度は、食品材料より速く上昇する。従って、外溶液と食品材料との間の温度差が生じてしまう。温度が上昇することによって導電率はさらに上昇するので、外溶液に流れる電流はさらに増加し、従って、外溶液の昇温速度はさらに上がる。これに対して食品材料の昇温速度は、比較的変化が小さいままであるので、外溶液と食品材料との温度差はさらに広がってしまう。この結果、食品材料は、その表層部が過加熱となってしまう。
【0005】
一方、外溶液の電解質濃度が低過ぎると、食品材料および外溶液に流れる電流が小さくなるため、食品材料を十分に加熱出来ないか、または加熱出来ても非常に時間がかかってしまう。さらに、食品材料を十分に加熱出来る場合であっても、食品材料に比較的電流が流れやすいのに対して外溶液には比較的電流が流れにくいため、食品材料と外溶液とで通電加熱による昇温速度に差が生じてしまう。この場合、食品材料の温度と共に導電率が上昇するのに対し、外溶液の温度はあまり変化しないので導電率の変化も小さい。従って、通電加熱によって食品材料と外溶液との温度差はさらに広がる。この結果、食品材料は、その中央部が過加熱となってしまう。また、食肉材料の表層部を加熱するために、70℃〜80℃に加熱した熱水を用いた通電加熱方法も提案されている(特許文献3)。しかし、この方法は、熱水により食品材料の表層部を先に加熱してしまうので、食品材料を均一に加熱することが出来ず、食品の色調などの品質を劣化させてしまう。
【0006】
従って、いずれの場合においても、食品材料の表層部と中央部との間に温度差が生じてしまい、食品の色調などの品質を劣化させてしまう。
【特許文献1】特開昭61−132137号
【特許文献2】特開昭63−296672号
【特許文献3】特開平10−229853号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、水又は希薄溶液に浸漬した食品材料の表層部と中央部とを均一にかつ十分に昇温することが出来る、簡便かつ低コストの通電加熱食品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、食品材料から外溶液に微量の電解質が溶出することにより、外溶液として水または希薄な電解質溶液を用いて食品材料を十分に加熱することが出来ることを見出した。本発明者は、微量の電解質を含む外溶液に通電作用を施す際、電極と食品材料との距離によって食品材料の昇温速度が異なること、そして食品材料および外溶液の昇温速度を、通電作用を施す際の印加電圧によって調整出来ることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、食品材料と電極との距離および印加電圧を調整して通電加熱を施すことによって、水または希薄な電解質溶液に浸漬した食品材料の表層部および中央部を均一かつ十分に昇温出来ることを見出し、さらに上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、内部に一対の電極を対設する容器に、水または希薄な電解質溶液と共に、電解質を含む食品材料を、該電極に接触させることなく、かつ該水または希薄な電解質溶液中に浸漬した状態で収容し、食品材料から水または希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法を提供する。
【0010】
以下、本発明方法について、詳細に説明する。
【0011】
図1に本発明の通電加熱装置の概略図を示す。ここで、1,2は、電極であり、3は、これらの電極を対設する容器である。Aは、電解質を含む食品材料であり、Bは、水または希薄な電解質溶液である。
【0012】
本発明における電解質を含む食品材料は、動物性食品材料を含む。本発明における動物性食品材料としては、ハム、プレスハム、ソーセージ等の畜肉材料、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、はんぺん、つみれ等の魚肉練り製品材料が例示される。本発明において、ハム、ソーセージ、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ等が好ましく、ハム、ソーセージが特に好ましい。食品材料の形状は、通常、ある程度の厚みがある塊状であり、好ましくは、中心軸のある筒状(円筒、角筒、楕円筒等)である。通電前の本発明の食品材料の電解質濃度は、通常0.5〜5重量%程度であり、好ましくは、1〜3重量%程度である。
【0013】
本発明において、材料となる食品材料は、通気性もしくは透湿性の包装材料で包装されていても未包装でもよいが、通気性包装で包装されているのが好ましい。ここで、通気性または透湿性の包装材料は、電解質の透過が可能で、食品材料の形状が保たれるものであればよい。
【0014】
本発明において用いられる溶液中の電解質としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などの無機塩が挙げられるが、これらに限定されない。本発明における溶液中の電解質としては、塩化ナトリウム(食塩)が好ましい。
【0015】
本発明において用いられる食品材料中の電解質としては、塩化ナトリウムが好ましい。
【0016】
本明細書中において、希薄な電解質溶液とは、約0.02M以下の上記塩類の水溶液をいう。
【0017】
電解質溶液のpHは、食品材料が酸変性、アルカリ変性しない範囲であればよい。
【0018】
本明細書中において、水とは、水道水だけでなく蒸留水および超純水を含む。
【0019】
本発明方法はまず、内部に一対の電極を対設する容器に、電解質を含む食品材料を、水または希薄な電解質溶液である外溶液と共に、かつ水または希薄な電解質溶液中に浸漬した状態で収容する。食品材料は、電極に接触しないよう、間隔を空けて収容する。また、食品材料の側面および下面は、容器の壁面および底部に接触しないよう、間隔を空けて収容する。食品材料の上面と水面の距離、ならびに食品材料の側面および下面と容器の壁面および底面との距離は、いずれも0.1cm〜10cm程度であることが好ましく、1cm〜2cm程度であることがより好ましい。
【0020】
ここで、食品材料を均一に加熱するためには、通電前の外溶液の温度は、通常0〜50℃程度、好ましくは5〜20℃程度の温度のものを用い、通電前の食品材料の温度は、通常0〜40℃程度であり、好ましくは5〜20℃程度の温度のものを用いる。
【0021】
また、食品材料の体積に対して0.5〜3倍程度の体積の外溶液を用いることによって、外溶液への食肉材料の電解質濃度の溶出による、食品材料の電解質濃度の損失は、ほとんどなくなる。
【0022】
次いで、対設する電極に電圧を印加し、食品材料を通電加熱する。電圧は、直流電源を用いても交流電源を用いて印加してもよいが、通常、交流電源を用いて印加する。その際、周波数は、商業周波数である50〜60Hz程度でも、20kHz程度の高周波数でもよい。ここで、電極と食肉材料との距離に対する印加電圧の比率が、通常20V/cm程度、好ましくは40V/cm程度となるように、印加電圧、および電極と食品材料との距離を設定する。
【0023】
本発明方法において、電極と食品材料との距離とは、2つの電極と食品材料の両端との間に夫々出来る距離(電極に面する食品材料の端部が曲面である場合または電極表面が曲面である場合には、その最も近接する位置での距離)の平均値を示す。
【0024】
印加電圧は、通常、50〜1000V程度、好ましくは、100〜500V程度である。
【0025】
本発明の通電加熱における最終温度は、通常60℃〜100℃程度であり、好ましくは70℃〜90℃程度である。
【0026】
この工程によって、食品材料から外溶液に溶出した微量の電解質を介して食品材料が通電加熱されるので、希薄な電解質溶液または水の中に浸漬した食品材料を、その表層部と中央部を均一に昇温することが出来る。
【0027】
また、通電加工中に、印加電圧を変化させることによって、食品材料および水または希薄な電解質溶液をより均一に加熱することが出来る。
【発明の効果】
【0028】
本発明方法によって、通電加工の間、食品材料の表層部および中央部を均一に昇温することが出来る。従って、本発明方法は、通電加工中に食品材料の表層部と中央部とで温度差を生じる従来法で加工された食品に比べて、色調などの品質に優れた食品を製造することが出来る。また、本発明方法は、電解質溶液の調整に起因する余分な製造コスト、ランニングコストをかけることなく通電加熱により食品を加熱殺菌することが出来る。また、本発明方法の殺菌効力は、湯煮による加工と同等である。
【0029】
また、本発明方法においては、食品材料(包装容器ではなく)を電極に接触させることなく外溶液に浸漬した状態で通電加熱するので、表面に凹凸のある食品材料を通電加熱処理することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下の実施例において、本発明の特定の実施形態を記載するが、これらの実施例は、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0031】
外溶液の電解質濃度と昇温の関係
容器(幅80mm×長さ150mm×深さ80mm)を超純水、水道水あるいは1.7mM、8.6mM食塩水800mlで満たし、周波数可変電源(最大電流値:3A)を用いて電流周波数60Hzまたは20kHz、250Vで通電作用を施した。図2に水温の上昇パターンを示す。通電作用を施すことで水温は8.6mM食塩水では速やかに上昇するが、水道水や1.7mM食塩水では徐々に上昇し、超純水では上昇しない。次に、細切した塩漬肉350gを通気性非可食ケーシングに充填して食品材料(70mmφ×130mm)を作製した。容器(幅80mm×長さ150mm×深さ80mm)に、外溶液(超純水または1.7mM〜17mM食塩水450ml)とともに、食品材料を、電極に接触させることなく収容した後、20kHz高周波電源(最大電流値:5A)を用いて200Vで通電作用を施した。電極と食肉材料の距離は1cmとなる。温度センサを食肉材料の表層部(上部および下部)および中央部に埋め込み、経時的に温度測定をした。同時に、温度センサを用いて食肉材料の上部、下部の外溶液の温度を測定した。図3に夫々の電解質濃度の外溶液に浸漬した食肉材料および外溶液の昇温パターンを示す。外溶液に超純水を用いた場合(図3(a))においても外溶液に食塩水を用いた場合(図3(b)〜図3(d))と同様に通電作用を施すことによって食肉材料および外溶液が昇温する。
【実施例2】
【0032】
通電電流の周波数と昇温の関係
細切した塩漬肉350gを通気性非可食ケーシングに充填して食品材料(70mmφ×130mm)を作製した。容器(幅80mm×長さ150mm×深さ80mm)に、外溶液(1.7mM食塩水450m1)とともに、食品材料を、電極に接触させることなく収容した後、周波数可変電源(最大電流値:3A)を用いて電流周波数60Hzまたは20kHz、70Vで通電作用を施した。電極と食品材料の距離は1cmとなる。実施例1と同様に、食品材料および外溶液の温度を経時的に測定した。図4に夫々の周波数で通電処理を施した食品材料および外溶液の昇温パターンを示す。商業周波数60Hz(図4(a))と高周波数20kHz(図4(b))とで食品材料および外溶液の昇温パターンに違いはないことから、通電作用による昇温パターンは通電電流の周波数に影響を受けない。
【実施例3】
【0033】
通電電圧と昇温の関係
細切した塩漬肉350gを通気性非可食ケーシングに充填して食品材料(70mmφ×130mm)を作製した。容器(幅80mm×長さ150mm×深さ80mm)に、外溶液(超純水450ml)とともに、食品材料を、電極に接触させることなく収容した後、20kHz高周波電源(最大電流値:5A)を用いて100V、200V、および300Vで通電作用を施した。電極と食肉材料の距離は1cmとなる。実施例1と同様に、食品材料および外溶液の温度を経時的に測定した。図5に夫々の通電電圧(図5(a)、100V;図5(b)、200V;図5(c)、300V)での食品材料および外溶液の昇温パターンを示す。通電電圧が高くなるにしたがって昇温速度は速くなる。
【実施例4】
【0034】
電極と食品材料の距離と昇温の関係
細切した塩漬肉を通気性非可食ケーシングに充填して様々な大きさの食品材料(食品材料 大:70mmφ×490mm、食品材料 中:70mmφ×400mm、食品材料 小:70mmφ×300mm)を作製した。容器(幅80mm×長さ500mm×深さ80mm)に、外溶液(超純水)とともに、食品材料を、電極に接触させることなく収容した後、周波数可変電源(最大電流値:3A)を用いて200Vで通電作用を施した。電極と食品材料の距離は食品材料 大、食品材料 中、食品材料 小でそれぞれ0.5cm、5cm、10cmとなる。実施例1と同様に、食品材料および外溶液の温度を経時的に測定した。図6に夫々の電極と食品材料の距離および印加電圧における食品材料および外溶液の昇温パターンを示す(図6(a)、0.5cm、200V;図6(b)、5cm、200V;図6(c)、10cm、200V;図6(d)、10cm、400V)。電極と食品材料の距離は昇温速度に影響し、距離が短いほど昇温速度は速い。また、昇温速度が遅い場合、通電電圧を高くすることで速やかに昇温できる。
【実施例5】
【0035】
均一な昇温のための通電電圧の調整
細切した塩漬肉350gを通気性非可食ケーシングに充填して食品材料(70mmφ×130mm)を作製した。容器(幅80mm×長さ150mm×深さ80mm)に、外溶液(超純水450m1)とともに、食品材料を、電極に接触させることなく収容した後、周波数可変電源(最大電流値:3A)を用いて電流周波数60Hzまたは20kHz、200Vで通電作用を施した。電極と食肉材料の距離は1cmとなる。電流値が最大電流値3Aに達した時点で電圧を100Vに下げ、さらに電流値が最大電流値に達した時点で電圧を50Vとして通電作用を施した。実施例1と同様に、食品材料および外溶液の温度を経時的に測定した。図7に通電電圧を変化させた場合の食品材料および外溶液の昇温パターンを示す(図7(a)、60Hz;図7(b)、20kHz)。通電電圧が一定であること以外図7(b)と同様の条件で通電加熱を施した図5(b)との比較から、通電作用を施す際に通電電圧を変化させることによって、食品材料および外溶液をより均一に昇温出来ることがわかる。
【実施例6】
【0036】
通電処理と湯煮処理による殺菌価と製品の品質
一定量の耐熱性乳酸菌(Enterococcus faecalis, IFO12968)を含む細切した塩漬肉350gを通気性非可食ケーシングに充填して食品材料(70mmφ×130mm)を作製した。容器(幅80mm×長さ150mm×深さ80mm)に、外溶液(超純水450m1)とともに、食品材料を、電極に接触させることなく収容した後、周波数可変電源(最大電流値:3A)を用いて電流周波数60Hzまたは20kHz、200Vで通電作用を施した。電極と食品材料の距離は1cmとなる。また、80℃で食肉材料を湯煮して対照区を作製した。試験区、対照区共に70℃に達した時点で加熱を止め、食品材料を氷冷した。各試験区および対照区の中央部の昇温パターンを示す(図8)。食品材料の中央部温度が70℃に達するのに要する時間は、対照区では43分、周波数60Hzで通電処理した試験区では15分、周波数20kHzでは12分であった。耐熱性乳酸菌のZ値を4.7とした場合の63℃に相当する加熱時間を算出すると、80℃湯煮では139.9分、60Hz通電処理では58.1分、20kHz通電処理では54.2分であった。試験区および対照区の両方で、63℃30分間相当以上の加熱殺菌がなされているが、対照区においては、63℃換算で食品材料が過剰に加熱されてしまっている。また、各試験区および対照区について、夫々、中央部の温度が30、50、70℃に到達した時点で食肉材料を氷冷して生残菌数を測定した。昇温中の各温度における耐熱性乳酸菌の生残率を図9に示す。耐熱性乳酸菌は50℃達温時で1オーダー、70℃達温時で約6オーダー減少し、通電周波数による殺菌価の違いは見られなかった。また、殺菌後の食品のナトリウム、食塩、亜硝酸根、ビタミンB1含有量を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
通電加工食品と湯煮による加熱食品では、ナトリウム、食塩、亜硝酸根、ビタミンB1の含有量に大きな違いが見られない。この結果は、本願発明の通電加工食品が、湯煮による加熱食品より短時間で作製され、かつ同等の安全性と品質を維持した食品であることを示している。
【実施例7】
【0039】
通電処理と湯煮処理による製品の色調
細切した塩漬肉350gを通気性非可食ケーシングに充填して食品材料(70mmφ×130mm)を作製した。試験区として、この食品材料を本発明の方法により通電加熱して75℃の達温温度に達するまで加熱した後、ただちに氷水で急冷した。その際、通電加熱は、印加電圧200V、60Hzの交流電流で行った。対照として、同じ食品材料を、中央部温度が65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃の達温温度に達するまで湯煮により加熱した後、ただちに氷水にて急冷した。さらに、同様に細切りし通気性非可食ケーシングに充填した塩漬肉を、中央部が75℃の達温温度に達するまで蒸煮により加熱した後、ただちに氷水にて急冷した。湯煮温度および蒸煮温度は達温温度より5℃高く設定した。各処理後の食品材料の色調(L、a、b)を色彩色差計で測定した。測定結果を以下の表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
湯煮処理した塩漬肉においては、中心温度が上がるほどL値、b値が高くなった。通電処理の場合、処理時間が短いため、食品材料の損傷が小さく、b値の上昇が抑制される。この結果は、本発明の方法で通電処理した食品が、湯煮および蒸煮よりb値が低く、すなわち、黄色味が抑えられ、良好な色調を有することが示している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明の通電加熱装置の概略図を示す。
【図2】図2は、各種溶液の通電加熱による昇温パターンを示す。ここで、図2において、◆は、超純水を20kHzの周波数で通電した系の昇温パターンを示す。■は、水道水を20kHzの周波数で通電した系の昇温パターンを示す。□は、水道水を60Hzの周波数で通電した系の昇温パターンを示す。●は、1.7mM食塩水を20kHzの周波数で通電した系の昇温パターンを示す。▲は、8.6mM食塩水を20kHzの周波数で通電した系の昇温パターンを示す。△は、8.6mM食塩水を60Hzの周波数で通電した系の昇温パターンを示す。
【図3】図3は、種々の電解質濃度の外溶液に浸漬した食肉材料および外溶液の昇温パターンを示す。ここで、●は、食品材料上部の昇温パターンを示す。▲は、食品材料中央部の昇温パターンを示す。■は、食品材料下部の昇温パターンを示す。○は、外溶液上部の昇温パターンを示す。□は、外溶液下部の昇温パターンを示す。
【図4】図4は、20kHz及び60Hzの周波数で通電処理を施した食肉材料および外溶液の昇温パターンを示す。ここで、●は、食品材料上部の昇温パターンを示す。▲は、食品材料中央部の昇温パターンを示す。■は、食品材料下部の昇温パターンを示す。○は、外溶液上部の昇温パターンを示す。□は、外溶液下部の昇温パターンを示す。
【図5】図5は、種々の通電電圧での食肉材料および外溶液の昇温パターンを示す。ここで、●は、食品材料上部の昇温パターンを示す。▲は、食品材料中央部の昇温パターンを示す。■は、食品材料下部の昇温パターンを示す。○は、外溶液上部の昇温パターンを示す。□は、外溶液下部の昇温パターンを示す。
【図6】図6は、種々の電極と食肉材料の距離における食肉材料および外溶液の昇温パターンを示す。ここで、●は、食品材料上部の昇温パターンを示す。▲は、食品材料中央部の昇温パターンを示す。■は、食品材料下部の昇温パターンを示す。□は、外溶液下部の昇温パターンを示す。
【図7】図7は、通電電圧を変化させた場合の食肉材料および外溶液の昇温パターンを示す。ここで、●は、食品材料上部の昇温パターンを示す。▲は、食品材料中央部の昇温パターンを示す。■は、食品材料下部の昇温パターンを示す。○は、外溶液上部の昇温パターンを示す。□は、外溶液下部の昇温パターンを示す。
【図8】図8は、20kHz及び60Hzでの通電処理、ならびに湯煮処理における食肉材料中央部の昇温パターンを示す。
【図9】図9は、20kHz及び60Hzでの通電処理、ならびに湯煮処理におけるE.Faecalisの生残曲線を示す。ここで、●は、20kHzでの通電処理におけるE.Faecalisの生残曲線を示す。○は、60Hzでの通電処理におけるE.Faecalisの生残曲線を示す。▲は、80℃湯煮処理におけるE.Faecalisの生残曲線を示す。
【符号の説明】
【0043】
1 電極
2 電極
3 容器
A 電解質を含む食品材料
B 水または希薄な電解質溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一対の電極を対設する容器に、水または希薄な電解質溶液と共に、電解質を含む食品材料を、該電極に接触させることなく、かつ該水または希薄な電解質溶液中に浸漬した状態で収容し、該食品材料から該水または希薄な電解質溶液に溶出した電解質により通電可能な状態になった後、該食品材料に通電作用を施して殺菌処理せしめることを特徴とする通電加工食品の製造法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記電極と前記食品材料との距離に対する印加電圧の比率が、20V/cm以上となる条件下で通電作用を施すことを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記食品材料の電解質濃度が0.5〜5重量%の範囲にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記食品材料が、ハム、ソーセージ、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、およびかまぼこからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−61084(P2006−61084A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248069(P2004−248069)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【出願人】(591105801)丸大食品株式会社 (19)
【Fターム(参考)】