説明

連接棒の軸受メタル交換装置及びその交換方法、ピストン支持治具

【課題】連接棒の軸受メタル交換に際し、ピストンをシリンダから抜き出さずに作業用窓を通してエンジン内部での作業を可能ならしめ、軸受メタルの交換作業時間の短縮を図る。
【解決手段】ピストン昇降治具20は、クランク軸2の回動によって点検対象に係るピストン6の軸線方向に位置決めされた一対のバランスウェイト8の係止凹部18間に両端が支持され軸方向の移動を規制する規制板24a,24bを備えた軸部材23と該軸部材23の外周に設けた着座部とから成る受け部材22と、着座部に下端部が支持されて作動ロッドを上昇移動するアクチュエータと、作動ロッドの先端に装着された状態でピストンスカート部6aのボス6c下面を支持するピストン保持具とを備え、連接棒支持治具は、エンジン本体3内部のフレーム12に締結ボルトを介して取付けられ、連結部材9に向けて延出する支持板の先端にあって連結部材9に係合する掛止具を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中型もしくは大型のエンジン、特に発電用エンジンに使用されるピストンの連接棒に連結された上下部冠に装着される軸受メタルの交換時に用いられる連接棒の軸受メタル交換装置及びその交換方法、ピストン支持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電用エンジン等に使用される連接棒の軸受メタルは、ゴミの噛込みや前記軸受メタルの取付け不良等の異常が、クランク軸受系、コンロッド軸受系の何れか一方の系の軸受に生じていた場合に、全ての軸受に付いて分解して調べなければならず、対応が面倒となる問題を有していた。
このような各軸受系の異常の区別を可能にすることで、異常時の対応を無駄なく早急に行うことができるようにした技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に記載されるエンジンは、シリンダブロック本体に、クランク軸が軸受メタルとしてのメインベアリングを介して、軸受キャップとしてのメインベアリングキャップにて取付けられている。また、上記クランク軸には、軸受メタルとしてのコネクチングロッドベアリングを介して、上端部がピストンに連結されたコネクチングロッド(連接棒)がコネクチングロッドキャップに取付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−76650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のエンジンでは、例えばコネクチングロッドベアリング(軸受メタル)に異常が生じて当該軸受メタルを交換する場合は、コネクチングロッドからコネクチングロッドキャップを分離した状態でシリンダカバーを取外し、開口したシリンダヘッドからピストンをコンロッドと共に外部へ抜き出す作業が必要となる。
このようなピストンの抜き出し作業は、クレーンを使用してシリンダカバー付き揺腕(給・排気弁用)を取外す作業で、ピストンと給・排気弁の干渉回避のため全シリンダ(V型エンジンの場合は左右16気筒)に対して実施しなければならない。
従って、軸受メタルの交換には点検・補修作業も含めると多大な作業時間を要することとなり、分解・組立工数が増大するため稼働時間の低減を招く要因となっていた。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、連接棒の軸受メタル交換に際し、ピストンをシリンダから抜き出さずに作業用窓を通してエンジン内部での作業を可能ならしめ、軸受メタルの交換作業時間の短縮を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る連接棒の軸受メタル交換装置は、エンジンのクランクピンを支持する軸受メタルを内装した分割可能な上下部冠を、連接棒下端に締結具を介して連結された連結部材から分離する際に使用される装置において、ピストンを所定位置まで上昇するジャッキ手段と、該ジャッキ手段により上昇したピストンを前記連結部材に係合保持するピストン支持手段とを備えた連接棒の軸受メタル交換装置であって、
前記ジャッキ手段は、クランク軸の回動によって点検対象に係るピストンの軸線方向に位置決めされた一対のバランスウェイトの凹部に支持され軸方向の移動を規制する規制部材を備えた軸部材と該軸部材の外周に設けた着座部とから成る受け部材と、前記着座部に下端部が支持されて作動ロッドを上昇移動するアクチュエータと、前記作動ロッドの先端に装着された状態で前記ピストンスカート部内壁の一部を支持するピストン保持具とを備えることを特徴とする。
【0008】
かかる発明によれば、軸受メタルの交換時において、前記上下部冠から連接棒下端の連結部材を分離する際は、クランク軸の回動によって点検対象に係るピストンの軸線方向に角度位置決めされた一対のバランスウェイトの凹部に軸方向の移動が規制された状態で受け部材の軸部材を支持し、連結部材と上下部冠を連結する締結具を外す。
この状態で、前記軸部材の着座部に支持されたアクチュエータの作動により、作動ロッドを介して前記ピストンを上昇移動することで、前記上下部冠が連結部材から分離される。
然る後に、前記上下部冠をクランクピンから開放し、摩耗した軸受メタル、または焼き付け等が生じた軸受メタルの交換作業に供することができる。
これにより、連接棒の軸受メタルの交換時には、従来のようにピストンをシリンダヘッドから抜き出さずに、作業用窓を通してエンジン内部での作業が可能となり、軸受メタルの点検や交換作業に要する時間を従来の作業時間に比し、大凡1/3に短縮することができる。
【0009】
また、本発明において好ましくは、前記ピストン支持手段は、前記エンジン内部のフレームに締結具を介して取付けられ、前記連結部材に向けて延出する支持板の先端にあって前記連結部材に係合する掛止具を備えることを特徴とする。
かかる構成によれば、ピストン支持手段をエンジン内部のフレームに締結具を介して取付けることで、先端に掛止具を設けた支持板が連結部材に向けて延出した状態となる。そこで、前記ジャッキ手段のアクチュエータの作動によりピストンを上昇移動することで上下部冠は連結部材から分離することができる。
然る後、分離された連結部材は、アクチュエータの作動により再び下降することで前記掛止具に係合される。
これにより、前記連結部材は上昇位置に保持されるので、前記ジャッキ手段を取外すことができ作業領域が確保されるため、クランクピンから上下部冠の開放作業ないし軸受メタルの交換作業能率を向上することができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、前記ジャッキ手段の受け部材は、丸軸状を成す軸部材の両側に前記一対のバランスウェイトの内側面間に接するように挿嵌される一対の規制板が所定間隔離間して固設されると共に、前記両規制板外側の軸部材外周には、前記アクチュエータ下端を支持する凹状の着座部が形成されていることを特徴とする。
かかる構成によれば、一対のバランスウェイトの凹部に支持される受け部材の丸軸状を成す軸部材が、隣接する一対のバランスウェイトの内側面間に接するように外方から挿嵌した一対の規制板によって軸方向の移動が規制される。この状態で凹状の着座部が軸部材を中心に回動可能に支持されているので、着座部に支持されるアクチュエータの方向性に自由度が得られる。
これによって、ピストンスカート部内壁の一部となるボス下面の安定した部位を前記アクチュエータにより、干渉無く支持することができる。
【0011】
また、本発明に係る連接棒の軸受メタル交換方法は、エンジンのクランクピンを支持する軸受メタルが内装された分割可能な上下部冠を、該上下部冠に締結具を介して連結されている連接棒下端の連結部材から分離する手段として、ピストンを所定位置まで上昇するジャッキ手段と、該ジャッキ手段により上昇したピストンをその位置に係合保持するピストン支持手段とを用いて軸受メタルの交換を行う連接棒の軸受メタル交換方法において、
クランク軸を回動させ、バランスウェイトの凹部が点検対象に係るピストンの軸線方向に位置決めされる工程と、前記ジャッキ手段の軸部材を、前記バランスウェイトの凹部で支持させる工程と、前記連結部材と上下部冠を連結する締結具を外した状態で、前記ジャッキ手段の前記軸部材外周に設けられた着座部に下端部が支持されたアクチュエータの作動ロッドを上昇移動させ、前記作動ロッド上端のピストン保持具により前記ピストンのスカート内部の一部が支持上昇され、前記連結部材から前記上下部冠を分離する工程と、前記エンジン内部のフレームに締結具を介して、前記ピストン支持手段を取付ける工程と、前記作動ロッドを下降させて前記連結部材を前記ピストン支持手段の支持板先端の掛止具に係合保持する工程と、前記ジャッキ手段を取外し、前記クランクピンに装着された上下部冠を開放して前記軸受メタルを交換する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明において好ましくは、前記アクチュエータの作動により上昇移動した連結部材は、前記作動ロッドを緩動下降移動する際に、前記連結部材をガイド手段に係合して該連結部材の締結孔を前記支持板先端の掛止具に向けて案内することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るピストン支持治具は、エンジンのクランクピンを支持する軸受メタルを内装した分割可能な上下部冠を、連接棒下端に締結具を介して連結された連結部材から分離する際に使用される治具において、ピストンを上昇させる動作で連接棒下端の連結部材から上下部冠を分離するピストン昇降治具と、前記連結部材を所定高さ位置に保持する連接棒支持治具とを備えたピストン支持治具であって、
前記ピストン昇降治具は、クランク軸の回動によって点検対象に係るピストンの軸線方向に位置決めされた一対のバランスウェイトの凹部間に支持され軸方向の移動を規制する規制部材を備えた軸部材と該軸部材の外周に設けた着座部とから成る受け部材と、前記着座部に下端部が支持されて作動ロッドを上昇移動するアクチュエータと、前記作動ロッドの先端に装着された状態で前記ピストンのスカート部内部の一部を支持するピストン保持具とを備えることを特徴とする。
【0014】
かかる発明によれば、ピストン昇降治具は、軸部材が一対のバランスウェイトの凹部間に軸方向の移動が規制された状態で支持されているので、前記軸部材の着座部に下端が支持されたアクチュエータの軸線方向の自由度が得られるため、ピストンの位置決め作業が容易になりピストンスカート部内部の一部となるボス下面の安定した部位を干渉無く支持することができ、作動ロッドの上昇移動によりピストンを安定した状態で保持することができる。
この状態で、予め上下部冠と連結部材を連結する締結具を取外すことで、アクチュエータによりピストンを上昇移動させるだけでクランクピンに装着された上下部冠と連結部材を自動的に分離することができる。
然る後に、上下部冠を分離開放し内装されている軸受メタルの点検または交換を行うことができる。
このように、軸受メタルの交換時に、ピストン昇降治具を用いることで作業能率が向上し、従来の作業時間に比し1/3の作業時間に短縮することができる。而も、前記ピストン昇降治具を用いることでエンジン内での狭い作業空間内でも安全に作業を実施することができる。
【0015】
また、本発明において好ましくは、前記連接棒支持治具は、前記エンジン内部のフレームに取付けられる断面コ字型の取着部を一端に設け、該取着部から連結部材に向けて延出する支持板の先端上面に前記連結部材の締結孔に係合する掛止具を突設し、前記取着部の天板をフレームの下面に当接した状態で前記フレームを前記天板との間で締結具を介して挟持する押え板とから構成されることを特徴とする。
かかる構成によれば、連接棒支持治具をエンジン内部のフレームに締結具を介して取付けることで、先端に掛止具を設けた支持板が連結部材に向けて延出した状態となる。そこで、前記ジャッキ手段のアクチュエータの作動によりピストンを上昇移動することで上下部冠を分離した連結部材は、再び下降することで前記掛止具が前記連結部材の締結孔に係合する。
これにより、連接棒支持治具は、エンジン内部のフレームを利用して取付けることができるので、構造が簡素化され取付け作業を単純化することができる。
また、前記ピストンは、前記連結部材の締結孔に掛止具が係合した状態で上昇位置に保持されるので、前記ジャッキ手段を取外すことができるため作業領域が確保され、クランクピンから上下部冠を開放する作業、ないし軸受メタルの交換作業を向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上記載のごとく本発明によれば、エンジン内部に点検対象に係るピストンを所定位置まで上昇するジャッキ手段と、該ジャッキ手段により上昇したピストンを前記連結部材に係合保持するピストン支持手段とを備えることで、連接棒の軸受メタル交換に際し、前記ピストンをシリンダから抜き出さずに作業用窓を通してエンジン内部での軸受メタルの摩耗量測定、或いは焼き付け等の点検作業、または交換作業が可能となり、軸受メタルの点検や交換作業に要する時間を従来の作業時間に比し、大凡1/3に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る連接棒の軸受メタルの交換が実施されるエンジンの一部断面を示す全体斜視図である。
【図2】点検対象に係るピストンをピストン昇降治具により上昇位置に保持した状態を示すエンジンのクランク軸と直交する断面図である。
【図3】点検対象に係るピストンをピストン昇降治具により上昇位置に保持した状態を示すエンジンのクランク軸と平行な断面図である。
【図4】点検対象に係るピストンの連接棒下端の連結部材を連接棒支持治具で支持している状態を示すエンジンのクランク軸と直交する部分断面図である。
【図5】ジャッキ手段の分解組立斜視図である。
【図6】ピストン支持手段の分解組立斜視図である。
【図7】(a)、(b)は、ピストン昇降治具により上昇位置に保持した状態で連結部材から上下部冠を分離する操作説明図である。
【図8】(a)、(b)は、ピストン昇降治具に代えて連接棒支持治具により連結部材を係合保持した状態で上下部冠を開放する状態を示す操作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る連接棒の軸受メタルの交換が実施されるエンジンの一部断面を示す全体斜視図、図2は点検対象に係るピストンをピストン昇降治具により上昇位置に保持した状態を示すエンジンのクランク軸と直交する断面図、図3は点検対象に係るピストンをピストン昇降治具により上昇位置に保持した状態を示すエンジンのクランク軸と平行な断面図、図4は点検対象に係るピストンの連接棒下端の連結部材を連接棒支持治具で支持している状態を示すエンジンのクランク軸と直交する部分断面図である。
【0020】
図1において、1は発電用V型エンジン(12から18気筒)、2はV型に配置される左右のシリンダ4,5内を往復移動するピストン6の連接棒となるコネクチングロッド(以下コンロッド7と称する)によって回転駆動されるクランク軸、8はクランク軸に装着されるバランスウェイトである。尚、本実施形態ではエンジン本体3の出力側から見て右側を主に説明する。
【0021】
例えば発電用V型エンジン1は、クランク軸2を中心としてエンジン本体3の出力側左右にカム箱10a,10bが形成されており、それらの下面には下方の部屋と区画するフレーム12が形成されており、フレーム12には潤滑油の落下孔14が形成されている。
また、前記エンジン1の両側面には複数の作業用の窓が設けられており、内部中央を長手方向に通るクランク軸2に装着されるバランスウェイト8や後述する上下部冠の点検作業や分解・組立作業ができるような所定広さの作業空間が形成されている。
【0022】
ここで、本発明に係るコンロッド7の軸受メタル交換装置に付き、図2〜図4及び図5、図6を参照して説明する。
図5はピストン昇降治具の分解組立斜視図、図6は連接棒支持治具の分解組立斜視図である。図2〜図4においてピストン6は、エンジン本体3の内部にV型に配置されたシリンダ5(右側)内部に上下移動可能に挿嵌されると共に、ピストン6のスカート部6aに装着されたピストンピン6bにはコンロッド7が揺動可能に連結されている。コンロッド7下端に設けた連結部材9には、2つの締結孔9a,9bが形成されており、前記締結孔9a,9bを挿通した締結ボルト19により後述する上下部冠17が結合されている。
【0023】
前記上下部冠17は、図2に示すように対面する接合面に半円形状の円弧部を形成した上部冠17aと下部冠17bと、上部冠17aと下部冠17bの2分割された円弧部内周に夫々張付けられる半割り状の軸受メタル60a,60bから成る軸受メタル60とから構成されている。
而して、上部冠17aと下部冠17bをクランクピン2aの外周に装着した状態で締結ボルト58ないし位置決めピン(図示せず)を介して一体的に結合することで、前記クランクピン2aの外周に回転可能に取付けられる。
【0024】
前記軸受メタル交換装置は、本発明の点検対象となる軸受メタル60a,60bを点検・交換する際に使用される装置で、前記ピストン6を所定位置まで上昇するジャッキ手段(以下ピストン昇降治具20と称する)と、該ピストン昇降治具20により上昇したピストン6をコンロッド7下端の連結部材9を係合保持するピストン支持手段(以下連接棒支持治具40と称する)とを備えている。
【0025】
先ず、図5に示すピストン昇降治具20を、バランスウェイト8の平坦面とクランクアーム2bで形成される係止凹部18に支持するために、クランク軸2を回動させて図2に示すように点検対象に係る右側ピストン6とは反対側(左側)のピストンが上死点に位置するようクランク軸2の軸心Oを通る水平軸線に対し前記クランク軸2の軸心Oとクランクピン2aの軸心P間を結ぶ直線とのなす角度θ(クランクアーム2bの角度)が58度となるよう位置決めさせて、バランスウェイト8の平坦面とクランクアーム2bが交差する係止凹部18を右側のピストン昇降治具20の軸線に対向させる。
これにより、ピストン昇降治具20は一対のバランスウェイト8の前記係止凹部18が点検対象に係る右側ピストン6の軸線方向に対向し、前記係止凹部18に受け部材22が支持される。
【0026】
すなわち、前記ピストン昇降治具20は、前記係止凹部18間にクランク軸2と平行に両端が支持され軸方向の移動を規制する規制部材24(後述する)を備えた軸部材23と該軸部材23の外周に設けた一対の着座部26a,26bとから成る受け部材22と、前記着座部26a,26bの何れかに下端部が挿嵌支持されて作動ロッド33を上昇移動するアクチュエータ28と、前記作動ロッド33の先端に装着された状態で前記ピストンスカート部6a内壁の一部であるピストンピン6bのボス6c下面を支持するピストン保持具35とを備えている。
【0027】
前記規制部材24は、隣接する一対のバランスウェイト8の内側面間に接するように
挿嵌される一対の円板状を呈する規制板24a,24bから成り、円筒状鋼管で構成される軸部材23の両側に所定間隔離間して固設されている。
また、規制板24a,24b両外側直近の軸部材23外周面には、座板25が夫々接合され前記両座板25の上面には凹状を成す一対の着座部26a,26bが固設されている。
【0028】
前記アクチュエータ28は、油圧で作動する油圧ジャッキであって、油圧シリンダ29の両端に油圧を給・排出するポートに夫々ニードル流量調整弁を備えたジョイント32a,32bが接続され、ピストンロッド30の昇降移動速度の調整を行っている。また、作動ロッド33は、ピストンロッド30の先端に取着された大径部33aと小径部33bからなる段付き軸で構成されており、作動ロッド33先端の小径部33bにはピストン保持具35(図5参照)が着脱可能に挿嵌支持されている。
【0029】
前記ピストン保持具35は、作動ロッド33の小径部33bに挿嵌可能な支持管36と、支持管36の上端に水平に固定された受け部材37aと、該受け部材37aの上面に貼着された軟質ゴム37bとから構成されている。
【0030】
これにより、ピストン昇降治具20は、一対のバランスウェイト8の平坦な支持面とクランクアーム2bが交差する係止凹部18が点検対象に係る右側ピストン6の軸線方向に対向し、前記係止凹部18に受け部材22が一対の規制板24a,24bにより軸方向の移動が規制された状態で支持される。これにより、支持構造が簡素化されるため取付け作業を単純化することができる。
【0031】
次に、本発明に係るピストン支持治具に付き図4〜図6を参照して詳述する。
尚、前述した部材と同一部材については重複する説明を省略する。
前記ピストン支持治具は、図5に示したように、ピストン6を上昇させる動作でコンロッド7下端の連結部材9から上下部冠17を分離するピストン昇降治具20と、前記連結部材を所定高さ位置に保持する連接棒支持治具40とから構成されている。
【0032】
ここでは、前記ピストン昇降治具20に関する説明は重複するため省略し、該ピストン昇降治具20と合せて使用される連接棒支持治具40に付き説明する。
前記連接棒支持治具40を取付ける際は、ピストン6は未だピストン昇降治具20により保持された状態になっている。
すなわち、前述したピストン昇降治具20は、アクチュエータ28の作動により点検の対象に係るピストン6を上昇させて予め締結が解除された上下部冠17から連結部材9を分離するもので、両者を分離した後は上方に一時保持された状態となっている。
この状態で上下部冠17を上部冠17aと下部冠17bとに分離することが可能となるので、クランクピン2aの外周から取外すことができるが、エンジン内部の狭い空間での分離作業を容易にするために次に述べる連接棒支持治具40が使用される。
【0033】
すなわち、前記連接棒支持治具40は、図6に示すようにエンジン本体3内部の右側カム箱10aの底面を構成するフレーム12の下面に取付けるための断面コ字型の取着部42が支持板48の一端に立設した一対の縦板44a,44bに後方に傾斜させて設けてあり、前記取着部42から連結部材9に向けて延出する支持板48の先端上面には、前記連結部材9の2つの締結孔9a,9bの下端に係合可能な一対の円錐軸状に形成される掛止具46a,46bが突設している。
そこで、連接棒支持治具40は、前記取着部42の天板43をフレーム12の下面に当接した前記天板43と押え板50との間で前記フレーム12を、締結ボルト55を介して挟持した状態で保持される。
【0034】
前記ピストン支持治具40は、図4、図6に示すようにカム箱10aの作業窓15より手作業にて前記天板43中央のボルト孔45と前記フレーム12の潤滑油落下孔14及び押え板50中央に形成されたボルト孔52を軸線上に合わせておき、天板43の下面から前記天板43のボルト孔45、潤滑油落下孔14及び押え板50のボルト孔52に締結ボルト55を挿通し、座金53を介して前記締結ボルト5にナット56を締結することで、前記フレーム12の下面にピストン支持治具40を確実に取付けることができる。
【0035】
次に、本発明の連接棒の軸受メタル交換方法に付き、図7(a)、(b)及び図8(a),(b)を参照して説明する。
図7(a)、(b)は、ピストン昇降治具20により上昇位置に保持した状態で連結部材9から上下部冠17を分離する操作説明図、図8(a)、(b)は、ピストン昇降治具20に代えて連接棒支持治具40により連結部材9を係合保持した状態で上下部冠17を開放する状態を示す操作説明図である。
図7(a)において、先ず、連結部材9に上下部冠17を締結している締結ボルト19を緩めて、前記上下部冠17から締結ボルト19を引き抜いた状態でピストン昇降治具20を作動させる。
【0036】
前記ピストン昇降治具20の操作に際し、クランク軸2の回動によって点検対象に係る右側のピストン6とは反対側(左側)のピストンが上死点に位置するようにクランク軸2の軸心Oを通る水平軸線に対するクランクアーム2bの角度θを水平軸線に対し58度の角度位置に位置決めすることで、バランスウェイト8の平坦な面と交差する係止凹部18を右側のピストン6の軸線に対向させる。
この状態で、先ずカム箱10aの下方に設けた大型の作業窓よりピストン昇降治具20の一部である受け部材22(図5参照)を手作業にてエンジン本体3の内部に挿入し、受け部材22を構成する軸部材23両端を前記係止凹部18間に支持すると同時に、
円板状の規制板24a,24bを隣接する一対のバランスウェイト8の内側面間に接するように外方から挿嵌する。
【0037】
次いで、前記係止凹部18間に支持された軸部材23の一方の着座部26a上にアクチュエータ28の下端部を支持すると共に、前記アクチュエータ28上端の作動ロッド33先端にピストン保持具35を装着することでピストン昇降治具20が組立てられる。
そこで、前記着座部26aに下端が支持されたアクチュエータ28を作動させて作動ロッド33を上昇移動すると、図7(b)に示すように、ピストンスカート部6a内部に形成されるピストンピン6bのボス6c下面が作動ロッド33先端のピストン保持具35により支持される。
この状態で、ピストン6を所定高さまで上昇することにより、ピストン6に連結されたコンロッド7下端の連結部材9は、クランクピン2aに保持されている上下部冠17から完全に分離される。
【0038】
次に、図8(a)に示すカム箱10aのフレーム12の下面に、潤滑油落下孔14を通して連接棒支持治具40の取着部42が取付けられると、支持板48先端上面に突設した掛止具46a,46bが上昇位置に保持された状態にある連結部材9の2つの締結孔9a,9bに対応する。
そこで、アクチュエータ28を作動させる際に、ニードル流量調整弁を調整することで、前記連結部材9を徐々に緩動下降移動させると、図8(b)に示すように2つの締結孔9a,9bに前記掛止具46a,46bが挿入係合して連結部材9が保持される。その後、前記ピストン昇降治具20はとり外される。
尚、好ましくは、連結部材9を緩動下降移動する際のガイド手段として、図示しない板状または棒状のガイド部材をエンジン内壁に縦方向に傾斜させて支持し、前記連結部材9の外周を滑らせて2つの締結孔9a,9bを掛止具46a,46bに向けて案内することもできる。
【0039】
次いで、クランクピン2aに装着されている上下部冠17は、連結部材9から分離されているので、連結ボルト58を緩めて引き抜くことで、上部冠17aと下部冠17bが分割されて開放される。これにより、半割り状の軸受メタル60a,60bを取り出すことができ、摩耗状態や焼き付きの状態を点検・交換作業を行うことができる。
【0040】
点検作業が終了すると、摩耗状況または焼き付き等の損傷状況に応じて新しい軸受メタルと交換するか、シリコン等を塗布するメンテナンスを行った軸受メタルを円弧部内周に夫々張付けて上部冠17aと下部冠17bを連結ボルト58により一体的に連結する。
このようにして、点検が完成した軸受メタルを組み込んだ上下部冠17は、今迄実施した工程とは逆の工程により再び前記連結部材9に取り付けられると、初期の状態に復元することができる。
【0041】
かかる実施形態によれば、軸受メタル60(60a,60b)の交換時において、上下部冠17からコンロッド7下端の連結部材9を分離する際は、クランク軸2の回動によってピストン6の軸線方向に向けて角度位置決めされた一対のバランスウェイト8の係止凹部18間に軸部材23の両端を支持すると共に、隣接する一対のバランスウェイト8の内側面間に接するように挿嵌された規制板24a,24bにより軸方向の移動が規制される。
これにより、着座部26a,26bが軸部材23を中心として回動自在に支持されているので、着座部26a,26bに下端が挿嵌支持されるアクチュエータの方向性に自由度が得られ、ピストンの位置決め作業を容易に行うことができる。
従って、ピストンスカート部内壁の一部となるボス下面の安定した部位を干渉無く支持することができる。
【0042】
次いで、上下部冠17と連結部材9を連結している締結ボルト19を抜き出した状態で、軸部材23の一方の着座部26aに支持されたピストン昇降治具20のアクチュエータ28を作動させて、作動ロッド33を所定位置まで上昇移動させると、クランクピン2aに装着されている上下部冠17から連結部材9が分離される。
そこで、エンジン本体3のカム箱10aの底面を構成するフレーム12下面にピストン支持治具40を取付け、前記アクチュエータ28により連結部材9を徐々に緩動下降させると、ピストン支持治具40の掛止具46a,46bが2つの締結孔9a,9bの下端に係合し、連結部材9が前記ピストン支持治具40に保持される。
【0043】
然る後に、ピストン昇降治具20を取外した状態でクランクピン2aに装着されている上下部冠17を開放し、摩耗した軸受メタル、または焼き付け等が生じた軸受メタルの交換作業に供することができる。
これにより、コンロッド7に連結されている連結部材9に内装されている軸受メタル60の交換時には、従来のようにピストンをシリンダヘッドから抜き出さずに、エンジン本体3の作業用窓15ないしその下方に設けた大型の作業用窓(図示せず)を通してエンジン内部での作業が可能となり、軸受メタルの点検や交換作業に要する時間を従来の作業時間に比し、大凡1/3に短縮することができる。
【0044】
また、ピストン支持治具40は、エンジン本体3内部の右側カム箱10aの底面を構成するフレーム12の下面に取付けられる断面コ字型の取着部42が支持板48の一端に設け、取着部42から連結部材9に向けて延出する支持板48の先端上面には、連結部材9の2つの締結孔9a,9bの下端に係合可能な一対の円錐軸状に形成される掛止具46a,46bが突設している。
このように、ピストン支持治具40は、取着部42の天板43をフレーム12の下面に当接した前記天板43と押え板50との間で前記フレーム12を、締結ボルト55を介して挟持した状態で保持されるので、構造が簡素化されるだけでなく取付け作業を単純化することができる。
【0045】
なお、コンロッド7下端の連結部材9は、クランクピン2aに保持されている上下部冠17から分離できる構成になっているので、連結部材9と上下部冠17の間に所定厚さのライナーを介装させることができる。これにより、シリンダ内部の圧縮比を改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
中型もしくは大型の例えば発電用エンジン等に使用されるピストンの連接棒に連結された上下部冠に装着される軸受メタルの交換時に、ジャッキ手段やピストン支持手段を用いてピストンないし連結部材を位置決め保持することができるので、クランク軸に装着される上下部冠の軸受けメタルの保守作業を単純化することができ、発電以外にも船舶等の大型エンジンに用いられる上下部冠の組み替え作業の利用に適する。
【符号の説明】
【0047】
1 発電用V型エンジン
2 クランク軸
2a クランクピン
3 エンジン本体
4,5 シリンダ
6 ピストン
6a ピストンスカート部
7 コンロッド(連接棒)
8 バランスウェイト
9 連結部材
9a,9b 連結部材の締結孔
12 フレーム
17 上下部冠
17a 上部冠
17b 下部冠
18 凹部
20 ジャッキ手段(ピストン昇降治具)
22 受け部材
23 軸部材
24 規制部材
24a,24b 規制板
26a,26b 着座部
28 アクチュエータ
33 作動ロッド
35 ピストン保持具
40 ピストン支持手段(連接棒支持治具)
42 取着部
43 天板
46a,46b 掛止具
46a,46b 掛止具
48 支持板
50 押え板
55 締結ボルト(締結具)
60,60a,60b 軸受メタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクピンを支持する軸受メタルを内装した分割可能な上下部冠を、連接棒下端に締結具を介して連結された連結部材から分離する際に使用される装置において、ピストンを所定位置まで上昇するジャッキ手段と、該ジャッキ手段により上昇したピストンを前記連結部材に係合保持するピストン支持手段とを備えた連接棒の軸受メタル交換装置であって、
前記ジャッキ手段は、クランク軸の回動によって点検対象に係るピストンの軸線方向に位置決めされた一対のバランスウェイトの凹部に支持され軸方向の移動を規制する規制部材を備えた軸部材と該軸部材の外周に設けた着座部とから成る受け部材と、前記着座部に下端部が支持されて作動ロッドを上昇移動するアクチュエータと、前記作動ロッドの先端に装着された状態で前記ピストンスカート部内壁の一部を支持するピストン保持具とを備えることを特徴とする連接棒の軸受メタル交換装置。
【請求項2】
前記ピストン支持手段は、前記エンジン内部のフレームに締結具を介して取付けられ、前記連結部材に向けて延出する支持板の先端にあって前記連結部材に係合する掛止具を備えることを特徴とする請求項1に記載の連接棒の軸受メタル交換装置。
【請求項3】
前記ジャッキ手段の受け部材は、丸軸状を成す軸部材の両側に前記一対のバランスウェイトの内側面間に接するように挿嵌される一対の規制板が所定間隔離間して固設されると共に、前記両規制板外側の軸部材外周には、前記アクチュエータ下端を支持する凹状の着座部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の連接棒の軸受メタル交換装置。
【請求項4】
エンジンのクランクピンを支持する軸受メタルが内装された分割可能な上下部冠を、該上下部冠に締結具を介して連結されている連接棒下端の連結部材から分離する手段として、ピストンを所定位置まで上昇するジャッキ手段と、該ジャッキ手段により上昇したピストンをその位置に係合保持するピストン支持手段とを用いて軸受メタルの交換を行う連接棒の軸受メタル交換方法において、
クランク軸を回動させ、バランスウェイトの凹部が点検対象に係るピストンの軸線方向に位置決めされる工程と、
前記ジャッキ手段の軸部材を、前記バランスウェイトの凹部で支持させる工程と、
前記連結部材と上下部冠を連結する締結具を外した状態で、前記ジャッキ手段の前記軸部材外周に設けられた着座部に下端部が支持されたアクチュエータの作動ロッドを上昇移動させ、前記作動ロッド上端のピストン保持具により前記ピストンのスカート内部の一部が支持上昇され、前記連結部材から前記上下部冠を分離する工程と、
前記エンジン内部のフレームに締結具を介して、前記ピストン支持手段を取付ける工程と、
前記作動ロッドを下降させて前記連結部材を前記ピストン支持手段の支持板先端の掛止具に係合保持する工程と、
前記ジャッキ手段を取外し、前記クランクピンに装着された上下部冠を開放して前記軸受メタルを交換する工程とを有することを特徴とする連接棒の軸受メタル交換方法。
【請求項5】
前記アクチュエータの作動により上昇移動した連結部材は、前記作動ロッドを緩動下降移動する際に、前記連結部材をガイド手段に係合して該連結部材の締結孔を前記支持板先端の掛止具に向けて案内することを特徴とする請求項4に記載の連接棒の軸受メタル交換方法。
【請求項6】
エンジンのクランクピンを支持する軸受メタルを内装した分割可能な上下部冠を、連接棒下端に締結具を介して連結された連結部材から分離する際に使用される治具において、ピストンを上昇させる動作で連接棒下端の連結部材から上下部冠を分離するピストン昇降治具と、前記連結部材を所定高さ位置に保持する連接棒支持治具とを備えたピストン支持治具であって、
前記ピストン昇降治具は、クランク軸の回動によって点検対象に係るピストンの軸線方向に位置決めされた一対のバランスウェイトの凹部間に支持され軸方向の移動を規制する規制部材を備えた軸部材と該軸部材の外周に設けた着座部とから成る受け部材と、前記着座部に下端部が支持されて作動ロッドを上昇移動するアクチュエータと、前記作動ロッドの先端に装着された状態で前記ピストンのスカート部内部の一部を支持するピストン保持具とを備えることを特徴とするピストン支持治具。
【請求項7】
前記連接棒支持治具は、前記エンジン内部のフレームに取付けられる断面コ字型の取着部を一端に設け、該取着部から連結部材に向けて延出する支持板の先端上面に前記連結部材の締結孔に係合する掛止具を突設し、前記取着部の天板をフレームの下面に当接した状態で前記フレームを前記天板との間で締結具を介して挟持する押え板とから構成されることを特徴とする請求項6に記載のピストン支持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−139777(P2012−139777A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294081(P2010−294081)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】