説明

連続可変式伝動装置液及びその製造方法

α−アルキルスチレンの水素化環式二量体及び低温粘度制御剤を含む連続可変式伝動装置液。この液は、α−アルキルスチレンの線状二量体を20重量%より多く含まず、またこの液の100℃での動粘度は、約2.5×10−6/sを超える。二量体化α−アルキルスチレンは、(a)α−アルキルスチレンを、α−アルキルスチレン用溶剤及び遊離酸の不存在下、α−アルキルスチレンのオリゴマー化を行う温度及び圧力条件下で担持酸触媒と接触させて、α−アルキルスチレンの環式二量体を含むオリゴマー化生成物を製造し、更に(b)該α−アルキルスチレンの環式二量体を、水素化触媒の存在下に水素化して、α−アルキルスチレンの完全水素化環式二量体を製造することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般には、牽引駆動とも言われる連続可変式伝動装置(CVT)と併用される伝動装置液に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
牽引(traction)駆動としても知られている連続可変式伝動装置(CVT)は、慣用の自動伝動装置とは根本的に相違(departure)している。CVTのプッシュベルト型は、Hub Van Doone博士により発明され、これを導入してから、多くの自動車は、プッシュベルトCVTシステムを装備するようになった。CVTプッシュベルトは、オランダ、TilburgのVan Doorne’s Transmissie VBで製造されている。このような伝動装置及びこれに使用されるベルト及び潤滑油の更に詳細な説明については、米国特許No.5,750,477及びそこに引用された文献に見られる。要するに、この種の伝動装置の操作の中心は、ベルト・プーリーシステムである。このプーリーシステムは、V形横断面の1対のプーリーを有し、各プーリーは、可動綱車、固定綱車及び油圧(hydraulic)シリンダーで構成される。プーリー間にベルトが走行する。ベルトは、金属バンドで共に保持された1組の金属部品で構成される。操作の際は、この駆動性プーリーは、ベルトを、駆動したプーリーまで押し、これにより動力を入力部(input)から出力部(output)に移動させる。伝動装置駆動比は、ベルトがプーリー面に低く又は高く乗るように、可動綱車を開けたり、閉めたりすることにより制御する。このような操作法で入力軸と出力軸間のギア比を連続的に調節できる。
【0003】
CVTに使用される液体は、満足に操作するためには、機械的設計と全く同様に重要であることが、CVTの商業的使用から明らかとなった。潤滑油は、プーリーアッセンブリー、遊星ギア及びその他のギア、湿式クラッチ板、及びベアリングと接触する金属ベルトを潤滑する、伝動装置を冷却する、及び油圧信号及び動力を運ぶという幾つかの機能を満足しなければならない。油圧は、ベルト牽引、伝動比、及びクラッチ噛み合いを制御する。したがって、液体は、金属/金属接触に対し、比較的高い摩擦係数を維持すると共に、適当な程度のせん断安定性を示さなければならない。
【0004】
牽引駆動の作動部品は、時には接触しているものとして示されるが、一般には、部品間に液膜が付与されるものと認められている。液体の膜は、金属−金属の回転接触部よりもむしろ、負荷帯域に導入され、また動力は、膜のせん断により伝達され、液体は、接触領域での高圧により非常に粘性となる。したがって、液体の性質及び特性により、牽引駆動の性能及び能力は、大部分決定される。牽引液は、動力伝達性能を最大にするため、高いせん断抵抗(“牽引係数(traction coefficient)”として測定することが多い)を有する。低粘度、特に低温で低粘度であると、低温条件下で効率的な操作を行うためにも望ましい。液体は、理想的には牽引装置の他の成分に対し良好な潤滑特性及び適合性を示さなければならない。このような液体は、接触表面で熱を除去すると共に摩擦を防止し、かつベアリング及びその他、駆動と関連する作動部品を潤滑するのにも役立つ。
【0005】
これまで各種の異なる牽引駆動液が開発され、開示されている。例えば米国特許No.6,372,696、同5,422,027、同6,262,000、同6,451,745、同6,103,673参照。しかし、高温で高い牽引係数を有する幾つかの化合物は、高粘度のため、比較的大きなチャーニング(churning)ロスを生じ、こうして伝動効率が低下し、しかも低温で牽引駆動ユニットを始動させる能力が比較的劣る場合が多い。一方、低粘度、したがって高伝動効率の化合物は、高温では比較的低い牽引係数を有し、油温度が非常に高くなるのに従って、粘度は低下し、牽引駆動ユニットでの潤滑に支障をきたす。したがって、比較的高い牽引係数、及び粘度安定性や、せん断安定性のような良好な低温特性を有する牽引液又はCVT液が必要である。
【特許文献1】米国特許No.5,750,477
【特許文献2】米国特許No.6,372,696
【特許文献3】米国特許No.5,422,027
【特許文献4】米国特許No.6,262,000
【特許文献5】米国特許No.6,451,745
【特許文献6】米国特許No.6,103,673
【特許文献7】米国特許No.6,565,478
【特許文献8】米国特許No.2,629,751
【特許文献9】米国特許No.3,411,369
【特許文献10】米国特許No.3,440,894
【特許文献11】米国特許No.3,595,797
【特許文献12】米国特許No.3,929,923
【特許文献13】米国特許No.3,975,278
【特許文献14】米国特許No.3,997,617
【特許文献15】米国特許No.4,046,703
【特許文献16】米国特許No.3,411,369
【特許文献17】米国特許No.3,440,894
【特許文献18】米国特許No.3,595,797
【特許文献19】米国特許No.3,975,278
【特許文献20】米国特許No.4,046,703
【特許文献21】米国特許No.4,521,324
【特許文献22】米国特許No.4,525,290
【特許文献23】米国特許No.4,556,503
【特許文献24】米国特許No.5,422,027
【特許文献25】米国特許No.6,103,673
【特許文献26】米国特許No.6,262,000
【特許文献27】米国特許No.4,337,309
【特許文献28】米国特許No.6,372,696
【特許文献29】米国特許No.6451,745
【特許文献30】PCT公開WO 91/13133
【特許文献31】米国特許No.6,124,249
【特許文献32】米国特許No.5,110,488
【特許文献33】米国特許No.3,492,231
【特許文献34】米国特許No.6,251,840
【特許文献35】米国特許No.6,372,696
【非特許文献1】M.A.Plint[Proceedings of the Inst.of Mech.Engrs.,Vol.180,pp225,313(1965−66)]
【非特許文献2】A.W.Crookによる“The Lubrication of Rollers,I”[Phil.Trans.A 255,281(1963a)]
【非特許文献3】Toru Matsuoka等、“Development of Toroidal Traction Drive CVTF for Automobiles”、SAE technical paper 2002−01−1696
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明の実施態様は、以下の局面の1つ以上において前記必要性を満足する。一局面では、本発明は、比較的高い牽引係数及び良好な低温特性を有する連続可変式伝動装置(CVT)液に関する。このCVT液は、α−アルキルスチレンの水素化環式二量体及び低温粘度制御剤を含むか、これら成分の混合により得られる連続可変式伝動装置(CVT)液であって、α−アルキルスチレンの線状二量体を約20重量%未満含有すると共に、ASTM D−445に従って測定した100℃での動粘度が約2.5×10−6/sを超えるものである。低温粘度制御剤は、該液体の−30℃での粘度を低下させるのに十分な量存在しなければならない。
【0007】
他の一局面では、本発明は、CVT液用の基油として使用できる二量体化α−アルキルスチレンの製造方法に関する。この方法は、(a)α−アルキルスチレンを、α−アルキルスチレン用溶剤及び遊離酸の不存在下、α−アルキルスチレンのオリゴマー化を行う温度及び圧力条件下で担持酸触媒と接触させて、α−アルキルスチレンの環式二量体を製造する工程、及び(b)該α−アルキルスチレンの環式二量体を、水素化触媒の存在下に水素化して、α−アルキルスチレンの完全水素化環式二量体を製造する工程を含む。連続可変式伝動装置液(但し、α−アルキルスチレンの線状二量体を20重量%より多く含まない)は、前記完全水素化環式二量体を油添加物と混合することにより配合される。幾つかの実施態様では、α−アルキルスチレンは、α−メチルスチレンであり、また完全水素化二量体は、1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルヒドリンダンである。本発明の実施態様に従って配合したCVT液は、比較的高い牽引係数及び良好な低温特性を有する。
本発明の他の局面及び各種実施態様の特徴及び特性は、以下の説明で明らかとなる。
図面の簡単な説明
適用なし。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
発明の実施態様の説明
以下の説明において、開示した数は全て、これと関連して用語“約”又は“ほぼ”を使用したかどうかに関係なく、概略値である。これらの値は、1%、2%、5%以下、又は時には10〜20%変化してよい。下限R及び上限Rを持った数値範囲を開示した場合、この範囲内の数Rは、いずれも詳細に開示される。特に、この範囲内の下記数Rは、R=R+k(R−R)で詳細に開示される。但し、kは1%の増加量を持った1%〜100%の範囲の変数である(即ち、kは1%、2%、3%、4%、5%、...、50%、51%、52%、...、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である)。更に、2つのRにより境界を定めた数値範囲も、詳細に開示される。ここで引用した文献は、全体をここに援用する。
【0009】
本発明の実施態様は、比較的高い牽引係数及び良好な低温特性を有する連続可変式伝動装置(CVT)液を提供する。このCVT液は、α−アルキルスチレンの水素化環式二量体及び該液体の−30℃での粘度を低下させるのに十分な量の低温粘度制御剤を含有するとともに、α−アルキルスチレンの線状二量体を約20重量%未満含有する。CVT液は、ASTM D−445に従って測定した100℃での動粘度が、好ましくは約2.5×10−6/sを超えるものである。幾つかの実施態様では、動粘度は、100℃で約3.0×10−6/s、100℃で約3.5×10−6/s、100℃で約4.0×10−6/s、100℃で約4.5×10−6/s、100℃で約5.0×10−6/s、100℃で約6.5×10−6/s、100℃で約7.0×10−6/s、100℃で約7.5×10−6/s、100℃で約8.0×10−6/s、100℃で約8.5×10−6/s、100℃で約9.0×10−6/s、100℃で約9.5×10−6/s、又は100℃で約2.5×10−6/sを超える。また動粘度は、100℃で約10.0×10−6/s、100℃で約11.0×10−6/s、100℃で約12.0×10−6/s、100℃で約13.0×10−6/s又はそれ以上を超えてもよい。このCVT液は、いかなる設計の連続可変式伝動装置においても潤滑油として使用できる。これら種類の連続可変式伝動装置は、例えば米国特許No.6,565,478及び同5,750,477に開示されている。
【0010】
ここで使用した用語“液体の−30℃での粘度を低下させるのに十分な量”は、CVT液が、低温粘度制御剤を約1〜約20重量%含有することを意味する。幾つかの実施態様では、“液体の−30℃での粘度を低下させるのに十分な量”は、約3〜約15重量%又は約5〜約10重量%を意味する。
CVT液は、比較的高い牽引係数を有することが好ましい。例えば、幾つかの実施態様では、100℃での牽引係数は、約0.07、0.08、0.09又は0.10を超える。他の実施態様では、100℃での牽引係数は、約0.101、0.102、0.103、0.104、0.105、0.106、0.107、0.108又は0.109を超える。幾つかの他の実施態様では、100℃での牽引係数は、約0.11、0.12、0.13、0.14又は0.15を超える。
【0011】
CVT液の一低温性能は、ブルックフィールド粘度で、これは“Low−Tmperature Viscosity of Automotive Fluid Lubricants Measured by Brookfield Viscosity”と題するASTM D2983に従って測定できる。この試験法は、全体をここに援用する。CVT液の−30℃でのブルックフィールド粘度は、約100Pa・s未満である。幾つかの実施態様では、このブルックフィールド粘度は、約90、80、70、60、50、40、30、20、10又は5Pa・s未満である。好ましくは、約5〜約70Pa・sの範囲である。
【0012】
前述のように、CVT液は、基油としてα−アルキルスチレンの水素化二量体を含有する。この水素化二量体の製造方法は、(a)α−アルキルスチレンを、α−アルキルスチレン用溶剤及び遊離酸の不存在下、α−アルキルスチレンのオリゴマー化を行う温度及び圧力条件下で担持酸触媒と接触させて、α−アルキルスチレンの環式二量体を含むオリゴマー化生成物を製造する工程、及び(b)該α−アルキルスチレンの環式二量体を、水素化触媒の存在下に水素化して、α−アルキルスチレンの完全水素化環式二量体を製造する工程を含む。α−アルキルスチレンの線状二量体を約20重量%未満含有するCVT液は、完全水素化環式二量体を1つ以上の添加物(例えば低温粘度制御剤)と混合することにより配合される。
【0013】
α−アルキルスチレンのアルキル基は、いかなる炭素数の直鎖、分岐鎖又は環式のヒドロカルビル基でもよいが、炭素数20未満の直鎖ヒドロカルビル基が好ましい。ここで使用した“アルキル”は、炭素及び水素を含有する有機基を言い、炭素数1〜約20の直鎖、分岐鎖又は環式炭化水素を持ってよい。アルキルとしては、限定されるものではないが、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、フェニル、ナフチル、アンスラニル、ベンジル、及びそれらの異性体が挙げられる。幾つかの実施態様では、アルキル基は、メチル又はエチルのように、1〜4の炭素原子を有する。したがって、好ましい二量体は、α−メチルスチレン及びα−エチルスチレンの、水素化環式二量体;α−メチルスチレンとα−エチルスチレンとの水素化環式共二量体;及びそれらの混合物である。α−メチルスチレンの水素化二量体は、1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルヒドリンダンとも呼ばれる。以下に1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルヒドリンダンの製造法を説明する。ここでは1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルヒドリンダンの合成を例示するが、その他のα−アルキルスチレンの環式二量体も、以下の方法により、変形し又は変形しないで得られる。
【0014】
α−メチルスチレンの二量体化は、α−メチルスチレンを、好ましくは溶剤の不存在下に、環式二量体を80%以上生成する条件下で酸性イオン交換樹脂カラムに通し、次いでこのα−メチルスチレンの環式二量体を1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルヒドリンダンに転化する条件下でこの生成物を完全水素化することにより行われる。水素化の前に、少量の、α−メチルスチレンの三量体を除去するため、環式二量体は、任意に真空蒸留する。酸は担持して、遊離酸(担持されない酸)が実質的に存在しないようにすることが好ましい。換言すれば、二量体化は、担持されない酸(即ち、遊離酸)が実質的にない状態で起こる。幾つかの実施態様では、二量体化反応には、遊離酸が全くない。
【0015】
一実施態様では、酸性樹脂は、酸性スルホン化ジビニルベンゼン/スチレン共重合体の強酸性樹脂Amberlyst(登録商標)15である。樹脂カラムは、約0〜約150℃の温度、約15〜約44psig(約103〜約303kPaゲージ)の圧力及び約1秒〜約200分の滞留時間で操作する。樹脂カラムは、約60〜約120℃の温度、約15〜約30psig(100〜200kPaゲージ)の圧力及び約5秒〜約20分の滞留時間で操作することが好ましい。
【0016】
この二量体化カラム生成物の水素化は、水素化触媒、好ましくは炭素上のパラジウムと、約120〜約220℃、好ましくは約160〜200℃の温度、及び約500〜約2,000psig(3,447〜13,789kPaゲージ)、好ましくは約700〜約1,000psig(4,826〜6,895kPaゲージ)の水素圧で約4〜24時間、接触させることにより行われる。水素化生成物は、α−メチルスチレンの完全水素化三量体を除去するため、約0.1〜約150mmHgの圧力で任意に真空蒸留する。
【0017】
二量体化触媒
本発明方法で使用される酸性イオン交換触媒は、固体過(super)酸と考えてよい。ジビニルベンゼン/スチレン共重合体、パーフルオロ化エポキシド及びフェノールホルムアルデヒド樹脂のような重合体にスルホン酸基が結着している。このようなスルホン化重合体は、AlCl、SnCl、TiCl、SbF及びBFのようなハロゲン化ルイス酸と反応させることにより、酸性度を高めてもよい。
二量体化工程で使用される好ましい触媒は、Rohm & Haas Companyの製品である強酸性樹脂Amberlyst(登録商標)15である。或いは、同等の結果を得るには必ずしも必要ではないが、その他の酸性担持触媒も使用できる。このような触媒の例は、E.I.Dupont製のパーフルオロ化エポキシド/ビニル/スルホン酸共重合体であるNation(登録商標)−H及びDow Chemical Company製の強酸性イオン交換樹脂Dowex−50である。或いは、Rohm & Haas製のAmberlite CG−50又はAmberlite IRC−50Sのようなカルボン酸官能価を有する弱酸性イオン交換樹脂が使用できる。
【0018】
反応器
酸性イオン交換樹脂粒子は、円筒形反応器の固体床配列に入れることが好ましい。本発明の幾つかの実施態様では、触媒は粒子形態であり、固定床に配置される。したがって、新たなα−メチルスチレンと生成物との混合は、最小限となり、また原料の、ほぼ完全に環式二量体からなる生成物への転化は、α−メチルスチレンの線状二量体、即ち、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン又はその2−ペンテン異性体への連続反応、次いで環式二量体、即ち、1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルインダンを形成するフリーデルクラフト反応によって起こるものと思われる。以下の例では、樹脂床の長さと直径との比は、約5/1であるが、約1/10〜約1/20の範囲の比が使用できるものと予想される。樹脂粒子の大きさは、普通、約200メッシュから大きな網状ビーズまでである。
【0019】
反応器中の滞留時間、即ち、α−メチルスチレンが触媒と接触している時間は、生成物の所望収率及び反応で選ばれた温度に従って、約1秒〜約200分、好ましくは約5秒〜約20分である。一般に、滞留時間及び環式二量体の所望収率に従って、周囲温度〜約150℃、好ましくは約60〜約120℃の温度が使用される。操作圧力は、約15〜約44psig(100〜300kPaゲージ)、好ましくは約15〜約30psig(100〜200kPaゲージ)である。当業者ならば、所望収率の環式二量体製造するための最適条件を与えるため、変数(例えば滞留時間、温度、長さ/直径)の均衡化を行うことは理解している。
【0020】
二量体の水素化
二量体は、水素化工程前に少量の三量体から分離できるが、反応器にはα−メチルスチレンだけを供給する必要があるので、80%以上の高収率の生成物は、直ちに水素化工程に供給できる。
水素化は、公知の触媒、例えば珪藻土上のニッケル、シリカ/アルミナ上のニッケル、ラネーニッケル、炭素上のパラジウム、及び白金等を用いて行える。以下の例では、炭素上に担持したパラジウムを用い、効果的であることが判った。担持触媒を用いる場合、通常、担持触媒は、固定床反応器中に入れ、次いで原料を、好適な条件下で水素と混合しながら、触媒上に通す。温度は、約120〜約250℃、好ましくは約160〜200℃でなければならない。反応器中の水素の圧力は、約5,000〜約2,000psig(3,447〜13,789kPaゲージ)、好ましくは約700〜約1,000psig(4,826〜6,895kPaゲージ)である。好適な時間後、α−メチルスチレンの環式二量体は、二量体のフェニル基がシクロヘキシル基に転化された完全な水素化形態に転化される。
【0021】
水素分離後、生成物は、更に伝動装置液の配合用基油として直接使用してもよいし、或いはα−メチルスチレンの水素化三量体を除去するため、蒸留により精製してもよい。下記例3から判るように、環式二量体を約95%及び三量体を5%含む水素化生成物の牽引係数は、水素化線状二量体の牽引係数よりも優れている。三量体を除去後、牽引係数は更に改良される。
【0022】
以上の方法は、以下の利点の1つ以上を有する。固定床に一回通過の接触反応では、α−メチルスチレンは、環式二量体に80%以上の収率で転化される。この生成物は、直ちに、完全水素化形態に転化して、更に伝動装置液の配合用基油として直接使用できるし、或いは少量の、α−メチルスチレンの水素化三量体を除去するため蒸留し、次いで水素化できる。三量体は、水素化工程後、蒸留により除去してもよい。二量体化工程では希釈剤を必要とせず、α−メチルスチレンは、商業用の純粋な形態で供給される。したがって、二量体化反応の生成物から希釈剤を分離する必要はないし、また水性洗浄を必要としない。α−メチルスチレンの三量体を含む水素化生成物の牽引係数は、水素化線状二量体の牽引係数よりも大きく、また牽引係数は、三量体の分離により更に改良される。
【0023】
以上の方法は、詳細に説明したが、方法の条件は変化できる。例えばこの方法は、米国特許No.2,629,751、同3,411,369、同3,440,894、同3,595,797、同3,929,923、同3,975,278、同3,997,617及び同4,046,703に開示される二量体化及び水素化工程を行うことにより変形できる。これらの特許は、全体をここに援用する。
【0024】
本発明の他の一局面は、主成分として、α−アルキルスチレンの水素化環式二量体を含む牽引液又はCVT液に関する。低温粘度及びその他の所望特性を改良する必要がある場合、この水素化環式二量体には、1つ以上の添加物と組合わせてよい。このような添加物としては、限定されるものではないが、低温粘度制御剤、分散剤、洗剤、粘度指数向上剤、燐化合物及び摩擦改良剤が挙げられる。牽引液又はCVT液の配合については、米国特許No.3,411,369、同3,440,894、同3,595,797、同3,975,278、同4,046,703、同4,521,324、同4,525,290、同4,556,503、同5,422,027、同6,103,673、同6,262,000、同4,337,309、同6,372,696及び同6451,745に教示されている。これらの特許は、全体をここに援用する。これらの特許に開示される各種添加物又は成分は、牽引液又はCVT液に使用してよい。
【0025】
基油
本発明の実施態様による牽引液用の基油は、α−メチルスチレンの水素化環式二量体で、牽引液に対し50重量%以上の量、含まれる。しかし、幾つかの実施態様では、この水素化環式二量体は、牽引液中に約20〜約50重量%しか存在しない。一方、他の実施態様では、これより多量、例えば約60重量%、約70重量%、約80重量%、約85重量%又は約90重量%以上、使用される。幾つかの牽引液は、水素化環式二量体を約95重量%以下〜約99重量%以下含有してよい。幾つかの実施態様では、牽引液は、水素化されているか又は水素化されていない線状二量体を全く又は実質的に含まない。しかし、他の実施態様では、線状二量体は、牽引液に対し、約10重量%以下〜約20重量%以下存在してもよい。好ましい実施態様では、線状二量体は、牽引液に対し、約5重量%未満存在する。幾つかの実施態様では、牽引液中に水素化二量体の他、水素化三量体が存在する。他の実施態様では、牽引液は、α−アルキルスチレンの三量体又はこれより高級のオリゴマーを全く又は実質的に含まない。
【0026】
ここで用いた用語“α−アルキルスチレンの線状二量体を実質的に含まない”は、CVT液がα−アルキルスチレンの線状二量体を約20重量%未満含有することを意味する。幾つかの実施態様では、“α−アルキルスチレンの線状二量体を実質的に含まない”は、15重量%未満、10重量%未満、5重量%未満、3重量%未満、1重量%未満又は0.5重量%未満を意味する。
幾つかの実施態様では、CVT液は、α−アルキルスチレンの三量体又はこれより高級のオリゴマーを実質的に又は全く含まない。ここで用いた用語“α−アルキルスチレンの三量体又はこれより高級のオリゴマーを実質的に含まない”は、CVT液がα−アルキルスチレンの線状二量体を約5重量%未満含有することを意味する。幾つかの実施態様では、これは、1重量%未満又は0.5重量%未満を意味する。
【0027】
低温粘度制御剤
牽引液の第二成分は、低温粘度制御剤である。低温粘度制御剤(以下に説明する任意成分の粘度指数向上剤とは区別すべきものである)は、この目的に有用であることが知られている各種の材料から選択される。低温粘度制御剤は、(a)炭素原子数12以上の線状α−オレフィンのオリゴマー又は重合体、(b)ナフテン系油、(c)合成エステル油、又は(d)ポリエーテル油、或いはそれらの混合物から選択される。これら材料は、前述のように、基液よりも低粘度、約100℃で通常、約2.5×10−6/s(2.5cSt)以下、好ましくは約1.5〜2.5又は約1.8〜2.3×10−6/s(1.5〜2.5又は1.8〜2.3cSt)の粘度である点で基液とは区別できる。これらも低温(例えば−30℃)で通常、或る程度の易動度を保持し、これらを添加した液体の低温粘度を低下できる材料である。一方、他の実施態様では、低温粘度制御剤は、3.0×10−6/s(3cSt)、4.0×10−6/s(4cSt)、5.0×10−6/s(5cSt)、6.0×10−6/s(6cSt)又はそれ以上のように、2.5×10−6/s(2.5cSt)を超える粘度を有する材料であってもよい。
【0028】
線状α−オレフィンの重合体又はオリゴマーは、周知の市販品である。一例の市販材料は、Ethyl Corporationの2×10−6/s(2cSt)ポリ−α−オレフィン製品であるEthylflo(商標)162である。好ましい材料は、炭素原子数12〜40、好ましくは16〜20のα−オレフィンの重合体又はオリゴマーである。この種の材料は、炭素原子数12未満のα−オレフィンモノマーのフラクションを多量に(significant)含まない。即ち、このようなモノマーは、約5重量%未満、好ましくは約1重量%未満であるか、更に好ましくは実質的に含まない。“オリゴマー又は重合体”という説明は、一般に低分子量の材料が望ましく、またオリゴマーと重合体との間には特に明確な境界がないので使用した。二量体(重合度=2)のような低級材料が含まれる。本発明に好適な材料は、通常、分子量が約100〜約1000、好ましくは約150〜約600、最も好ましくは約250〜約600、或いは約250〜約500又は約250〜約400のものである。
【0029】
ナフテン系油は、普通、石油から誘導された周知の市販品である。好ましい材料は、水素化ナフテン系油で、これらも周知である。例えば、Calumet Lubricants CompanyのHydrocal(商標)38及びDiamond Shamrockの40 Pale Oil(商標)が挙げられる。低温粘度制御剤として使用するのに好適な合成エステル油としては、ポリヒドロキシ化合物と主としてモノカルボン酸アシル化剤とのエステル、主としてモノヒドロキシ化合物とポリカルボン酸アシル化剤とのエステル、モノヒドロキシ化合物とモノカルボン酸アシル化剤とのエステル、及び前記種類の混合物が挙げられる。これに関連して、接頭辞“ポリ”は、事情に応じて、2つ以上の、ヒドロキシ基又はカルボキシル基を指す。エステル(粘度制御剤いずれのものも)の分子量は、材料が前記粘度を保持しながら、操作条件下で不快に揮発して大きな蒸発減量を受けないように十分高くなければならない。PCT公開(publication)WO 91/13133には、特定の合成エステル油及びその製造法が開示されている。合成エステル油は、Henkel CorporationからEmery(商標)合成潤滑油基原料として、またImperial Chemical Industries PLCからEmkarate(商標)潤滑油基原料として入手できる。
【0030】
低温粘度制御剤として使用するのに好適なポリエーテル油としては、ポリアルキレンオキシド、特にポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、及びそれらの混合物が挙げられる。ポリエーテル油の分子量は、通常、適切な粘度及び不揮発性の維持に好適な範囲である。このような材料は、周知の市販品で、Imperial Chemical Industries PLCからEmkarox(商標)ポリアルキレングリコールとして入手できる。
基液の場合のように、低温粘度制御剤は、水素化材料であることが多い。これらの各成分は、炭素−炭素不飽和含有分子を約20%未満、好ましくは約15%未満、更に好ましくは約10%未満含み、最も好ましくは炭素−炭素不飽和を実質的に含まず、即ち、多くとも、性能に測定可能か、又は重大な影響を与えないほど低水準の不飽和を保持する。
【0031】
牽引液中の低温粘度制御剤の量は、好ましくは、CVT液の−30℃での粘度を100Pa・s(100,000cP)以下、例えば約2〜約100Pa・s(2,000〜100,000cP)、好ましくは約5〜約80又は約70Pa・s(5,000〜80,000又は70,000cP)、更に好ましくは約10〜約50Pa・s(10,000〜50,000cP)にするような量である。前述のように、好ましくは低温粘度制御剤の量は、牽引液に対し、約1〜約20重量%、好ましくは約3〜約15重量%、更に好ましくは約5〜約10重量%でなければならない。
【0032】
粘度指数向上剤
高温での粘度を増大させるため、配合物には粘度指数向上剤を添加する。一般的に言えば、粘度改質剤(又は粘度指数向上剤)には2種類がある。一方は、比較的極性のエステル型、例えば無水マレイン酸スチレン共重合体の長鎖エステルであるLUBRIZOL 7671(商標)がある(各々、ポリメタクリレート共重合体であるLUBRIZOL 7764(商標)及びLUBRIZOL 7783(商標)も参照)。他方は、非極性水素化オレフィン共重合体(OCP)型、例えばLUBRIZOL 7075(商標)がある(各々、非晶質炭化水素重合体であるINFINEUM SV 200(商標)及びINFINEUM SV 150(商標)のような水素化スチレン−ジエン共重合体も含まれる)。
【0033】
好ましい極性エステル型粘度改質剤は、LUBRIZOL(Wickliffe,OH)製のLUBRIZOL(商標)7671である。LUBRIZOL(商標)7671は、ポリメタクリレート型増粘剤で、植物油用の流動点降下剤としても働く。他の極性エステル型粘度改質剤としては、LUBRIZOL(Wickkliffe,OH)製のLUBRIZOL(商標)7764、LUBRIZOL(商標)7776、LUBRIZOL(商標)7785、LUBRIZOL(商標)7786が挙げられる。これらは、ポリメタクリレート共重合体粘度指数向上剤である。
【0034】
下記表と同様な特性を有する極性エステル型粘度改質剤も有用である。
【表1】

【0035】
好ましい非極性水素化オレフィン共重合体型粘度改質剤は、LUBRIZOL(Wickliffe,OH)製のLUBRIZOL 7075(商標)シリーズである。このシリーズは、Lubrizolの次世代非分散性オレフィン共重合体(OCP)型粘度改質剤である。水素化オレフィン共重合体は、乗用車モーターオイルや重質ディーゼルエンジンオイルに最も広く使用されている種類の粘度改質剤である。1960年代中期に開発された水素化オレフィン共重合体は、主として分子量及びエチレン対プロピレン比が異なる。これらの重合体は、通常のエンジン操作温度での粘度変化を効果的に最小にする。これらは、費用効果が高い上、殆どいかなる本線エンジンオイルの配合にも適している。これらの重合体は、乗用車及び重質ディーゼルエンジンオイル用の最近の国際及び原機器製造業者(OEM)規格に適合する費用効果の高い方法を提供する。
【0036】
下記表の特性を有する非極性水素化水素化オレフィン共重合体型粘度改質剤も実施態様に有用であるかも知れない。
【表2】

【0037】
LUBRIZOL 7075(商標)は、LUBRIZOL(Wickliffe,OH)製の好ましいオレフィン共重合体型粘度改質剤である。その他のオレフィン共重合体型粘度改質剤としては、LUBRIZOL 7070(商標)シリーズ、7077(商標)シリーズ、7740(商標)シリーズ;INFINEUM SV 140(商標)、SV 145(商標)、SV 200(商標)、SV 300(商標)、SV 305(商標)(EXXONMOBIL,TX)及びPARATONE(商標)8900シリーズ(CHEBRON,CA)が挙げられる。
【0038】
前記極性エステル型とは異なる下記特性を有するエステル型粘度改質剤も実施態様では有用であるかも知れない。
【表3】

【0039】
エステル型粘度指数向上剤は、約0〜約3.0重量%、更に好ましくは約0.2〜約2.5重量%、最も好ましくは約0.5〜約2重量%の量、添加でき、また水素化オレフィン共重合体型粘度指数向上剤は、約0〜約6.0重量%、更に好ましくは約1〜約5重量%、最も好ましくは約2〜約4重量%の量、添加できる。
【0040】
他の好適な慣用の粘度指数向上剤又は粘度改質剤は、オレフィン重合体、例えばポリブテン、スチレンと、イソプレン及び/又はブタジエンの水素化重合体及び共重合体並びに三元共重合体、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートの重合体、アルキルメタクリレートとN−ビニルピロリドン又はジメチルアミノアルキルメタクリレートとの共重合体である。これらは、公知の配合技術に従って最終油に望まれる粘度範囲にする必要がある際に使用される。
【0041】
フリーラジカル開始剤の存在下にスチレンと無水マレイン酸とを共重合した後、この共重合体をC〜C18アルコールでエステル化することにより得れれたエステルも粘度向上添加物として有用である。このスチレンエステルは、一般に多官能性希少(premium)粘度改質剤と考えられる。スチレンエステルは、粘度向上性の他、流動点降下剤であり、またエステル化完了前に若干の未反応無水物又はカルボン酸基を残してエステル化を終えると、分散性を示す。これらの酸基は、次に第一アミンとの反応によりアミドに転化できる。スチレンと無水マレイン酸とを共重合すると、ポリスチレンよりもガラス転移温度が高く、かつ特定の官能基と化学反応的な共重合体(SMA)が作られる。こうして、SMA重合体は、無水マレイン酸の相互作用又は反応が所望の界面効果を与えるようなブレンド又は複合物に使用することが多い。ROHMAX USA(Horsham,PA)から市販されている幾つかのSMA重合体としては、VISCOPLEX(商標)2−360、VISCOPLEX(商標)2−500、VISCOPLEX(商標)3−540、VISCOPLEX(商標)4−671、VISCOPLEX(商標)6−054がある。
【0042】
他の種類の好適な粘度指数向上剤は、ポリメタクリレート(PMA)系粘度改質剤である。好適な粘度改質剤は、例えば(a)エステル基の炭素原子数が約9〜約25のメタクリル酸エステル、(b)エステル基の炭素原子数が約7〜約12のメタクリル酸エステル、(但し、前記両エステル基は、2−(C1−4アルキル)置換基を有する)、及び任意に(c)エステル基の炭素原子数が約2〜約8のメタクリル酸エステル(但し、前記メタクリル酸エステル(a)及び(b)とは異なる)、芳香族ビニル化合物及び窒素含有ビニル化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1つのモノマーから誘導された単位(但し、これらエステルの約60重量%以下は、エステル基の炭素原子数が11以下である)を有する共重合体である。このような共重合体は、米国特許No.6,124,249に開示されている。この特許は、全体をここに援用する。
【0043】
市販のPMA系粘度改質剤は、Lubrizol Corporationから以下の商品名で入手できる。Lubrizol(登録商標)7776:流動点降下性及び0〜2のOrbahnせん断安定性指数を有する非分散性ポリメタクリレート粘度改質剤、Lubrizol(登録商標)7786:感環境用植物油に希釈した、流動点降下性及び10のOrbahnせん断安定性指数を有する非分散性ポリメタクリレート粘度改質剤、及びLubrizol(登録商標)7794:環境に敏感な用途の植物油に希釈した、流動点降下性及び20のOrbahnせん断安定性指数を有する非分散性ポリメタクリレート粘度改質剤。
【0044】
潤滑油配合物の他の一成分は、油溶性亜鉛塩であってよい。亜鉛塩の種類に特に制約はないが、チオ燐酸亜鉛又はジチオ燐酸亜鉛材料であってはならない。ジアルキルジチオ燐酸亜鉛(ZDDP)は、潤滑油の分野で広く知られいる。この燐酸亜鉛は、恐らく少量又は僅かな量を除いて、CVT液中に存在してはならない。実際に、CVT液は、最小の銅腐蝕を示す配合物を得るため、いかなるチオホスフェート誘導体も実質的に含有してはならない。一実施態様では、潤滑油配合物は、活性硫黄原子を含むあらゆる種類の化合物を実質的に含有しない。“活性硫黄原子”とは、伝動装置の金属部品との反応に役立つ(或いは十分反応しそうな、又は反応に役立つようになる)硫黄原子を意味する。元素状硫黄の他、活性硫黄原子を含有できるか、発生できる材料には、硫化オレフィン、チオカルバメート及びジチオカルバメートを含む普通の耐摩耗剤が含まれる。“実質的に含まない”とは、チオホスフェート材料の量が、銅腐蝕について、液体の性能に実用的に測定可能な影響を与えないように十分少量であることを意味する。数値換算では、この量は、普通、組成物100万部当りジアルキルジチオ燐酸亜鉛200部未満、好ましくは50又は10ppm未満に相当する。
【0045】
銅腐蝕はASTM規格試験No.130で測定する。実質的にチオホスフェート塩を含まないで組成物を配合し、149℃で3時間試験した時、銅腐蝕の等級が1B又はそれより良好である。
油溶性亜鉛塩は、炭素原子数4以上、好ましくは6以上のヒドロカルビル基を少なくとも1つ有する種である。ヒドロカルビル基は、一般に所要の油溶性を付与するために必要であり、基の特定の長さ又はその他の特性は、含まれる亜鉛塩の種類に応じて変化できる。好適な亜鉛塩としては、燐酸、亜燐酸、スルホン酸、カルボン酸、フェノール、及びサリチル酸、の亜鉛塩が挙げられる。
【0046】
ここで使用した用語“ヒドロカルビル置換基”又は“ヒドロカルビル基”は、当業者に周知の普通の意味で使用される。特に、分子の残部に直接、結着して、顕著な炭化水素の特徴を有する基を言う。ヒドロカルビル基の例としては、以下のものが挙げられる。
(1)炭化水素置換基、即ち、脂肪族(例えばアルキル又はアルケニル)、脂環式(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル)置換基;芳香族−、脂肪族−及び脂環式−置換芳香族置換基;及び環が分子の他の一部分を介して完成された環式置換基(例えば2つの置換基が一緒になって環を形成する)。
(2)置換炭化水素置換基、即ち、本発明に関連して、前記顕著な炭化水素置換基を変えない非炭化水素基を含む置換基(例えばハロ(特にクロロ及びフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、及びスルホキシ)。
(3)ヘテロ置換基、即ち、本発明に関連して、顕著な炭化水素特性を保持しながら、特に炭素で構成される環又は鎖に炭素以外を含む置換基。ヘテロ原子としては、硫黄、酸素、窒素があり、またピリジル、フリル、チエニル及びイミダゾリルのような置換基を包含する。一般には、ヒドロカルビル基の10個の炭素毎に2つ以下、好ましくは1つ以下の非炭化水素基が存在する。通常、ヒドロカルビル基には非炭化水素基は存在しない。
【0047】
所望ならば、活性硫黄を含有するヒドロカルビル基は、銅腐蝕に所望通りに寄与しない程度まで回避できる。
一実施態様では、亜鉛塩は、ヒドロカルビル燐酸亜鉛である。このホスフェートは、モノ−又はジヒドロカルビルホスフェートであってよい。各ヒドロカルビル基は、独立に、1〜30の炭素原子、好ましくは1〜24の炭素原子、更に好ましくは1〜12の炭素原子を有するが、前述のように、少なくとも1つのヒドロカルビル基は、6以上の炭素原子を有する。好ましい実施態様では、各ヒドロカルビル基は、独立にアルキル又はアリール基である。いずれの基もアリール基である場合、通常、6〜24の炭素原子、更に好ましくは6〜18の炭素原子を有する。ヒドロカルビル基の例としては、ブチル、アミル、ヘキシル、オクチル、オレイル又はクレジルが挙げられるが、好ましくはオクチル及びクレジルである。
【0048】
ヒドロカルビル燐酸亜鉛は、燐酸又はその無水物、好ましくは五酸化燐とアルコールとを30〜200℃、好ましくは80〜150℃で反応させ、次いで亜鉛塩基で中和することにより製造できる。燐酸は、一般にアルコールと約1:3.5、好ましくは1:2の比で反応させる。反応生成物は、通常、モノヒドロカルビル燐酸亜鉛とジヒドロカルビル燐酸亜鉛との約1:1、更に一般には2:1〜1:2又は3:1〜1:3の相対比の混合物を含む。モノヒドロカルビル材:ジヒドロカルビル材の比が約1:1の混合物は、アルコールとPとの単純な化学量論量の反応で製造できる。
3ROH+P→RO−P(=O)−(OH)+(RO)−P(=O)−OH
【0049】
アルコールは、市販の適当な鎖長のいずれのアルコール又はそれらの混合物でもよい。これらのアルコールは、脂肪族置換脂環式アルコール、脂肪族置換芳香族アルコール、脂肪族置換複素環式アルコール、脂環式置換脂肪族アルコール、複素環式置換脂肪族アルコール、複素環式置換脂環式アルコール及び複素環式置換芳香族アルコールを含む脂肪族、脂環式、芳香族又は複素環式アルコールでよい。アルコールは、メタノール、ブタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、ドデカノール及びシクロヘキサノールのような1価アルコールでよい。或いは、ジ−、トリ−及びテトラエチレングリコールを含むエチレングリコール;ジ−、トリ−及びテトラプロピレングリコールを含むプロピレングリコール;グリセロール等のアルキレンポリオールのような多価アルコールでもよい。アルコール基準で殆どがC22アルコールであるC18〜C28第一アルコールの混合物も有用なアルコールである。天然産のトリグリセリドから誘導された鎖長C〜C18の1価アルコールの各種混合物も有用で、Procter & Gamble Companyを含む種々の供給者から入手できる。
【0050】
亜鉛塩の他の種類としては、カルボン酸亜鉛がある。これらの塩は、亜鉛塩基とカルボン酸との中和生成物と見ることができる。前述のように、カルボン酸は、適当な溶解性を与えるため、炭素原子数は、6以上でなければならない。カルボン酸は、脂肪族又は芳香族モノ−又はポリカルボン酸(或いは酸生成性化合物)でよい。このようなカルボン酸には、低分子量又は高分子量のカルボン酸(例えば炭素原子数8以上)が含まれる。通常、所望の溶解性を与えるため、カルボン酸の炭素原子数は、約8以上、例えば8〜400、好ましくは10〜50、更に好ましくは10〜22でなければならない。
【0051】
カルボン酸は、飽和及び不飽和酸を含む。有用な酸の例としては、ドデカン酸、デカン酸、トール油酸、10−メチルテトラデカン酸、3−エチルヘキサデカン酸、及び8−メチルオクタデカン酸、パルミチン酸、スレアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸、ヘキサトリアコンタン酸、テトラプロビレニル置換グルタル酸、ポリブテン(平均Mn=200〜1500)から誘導されたポリブテニル置換コハク酸、ポリプロペン(平均Mn=200〜1000)から誘導されたポリプロペニル置換コハク酸、オクタデシル置換アジピン酸、クロロステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、9−メチルステアリン酸、ジクロロステアリン酸、リシノール酸、レスケレル(lesquerellic)酸、ステアリル安息香酸、エイコサニル置換ナフトエ酸、ジラウリルデカヒドロナフタレンカルボン酸、これら酸のいずれかの混合物、それらのアルカリ塩及びアルカリ土類金属塩、それらのアンモニウム塩、それらの無水物、又はそれらのエステルもしくはトリグリセリドが挙げられる。脂肪族カルボン酸の好ましい基としては、炭素原子数約12〜30の飽和又は不飽和高級脂肪酸がある。その他の酸としては、置換又は非置換の安息鉱酸、フタル酸及びサリチル酸又は無水物を含む芳香族カルボン酸、特に炭素原子数約6〜80のヒドロカルビル基で置換されたものがある。好適な置換基としては、ブチル、イソブチル、ペンチル、オクチル、ノニル、ドデシル、及び前記ポリアルケン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体及び酸化エチレン−プロピレン共重合体から誘導された置換基が挙げられる。
【0052】
特に好ましいカルボン酸亜鉛は、オレイン酸亜鉛で、オレイン酸を塩基性亜鉛化合物で中和することにより製造できる。他のカルボン酸亜鉛は、サリチル酸亜鉛である。
亜鉛化合物は、一般に酸化亜鉛又は水酸化亜鉛でそのままの化学量論量の酸−塩基中和により形成される単純(中和)塩でよい。亜鉛塩は、過剰塩基性(overbased)塩でもよい。或いは米国特許No.5,110,488(第9〜10欄)に記載されるように、亜鉛塩は、1当量の亜鉛塩基を1当量よりも若干少量の酸と反応させた塩基性塩でもよい。このような材料の例は、僅かに“過剰亜鉛の(over−zinc−ed)”オレエート、即ち、Znオレエートである。これは、一般に一連の過剰塩基材料で、当業者に周知であり、米国特許No.3,492,231及び特にここに援用した多くの特許に一般に開示されている。
【0053】
油溶性亜鉛塩の量は、配合物に、少なくとも0.125、好ましくは少なくとも0.125又は0.127〜0.150、更に好ましくは0.130〜0.140又は0.135の高い鋼−オン−鋼(steel−on−steel)動摩擦係数を与えるのに十分な量でなければならない。対応する静摩擦係数は、0.14〜0.2である。摩擦係数は、ASTM G−77により110℃で測定する。配合物の摩擦係数は改良される。即ち、亜鉛塩のない同じ組成物の摩擦係数よりも高くなる。
油溶性亜鉛塩の好ましい量は、換言すると、潤滑油配合物に対し、0.05〜1.0重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%である。亜鉛塩は、配合物に好ましくは0.15重量%以下、更に好ましくは0.01〜0.1重量%与える。
【0054】
その他の添加物
本発明の実施態様に使用される液体は、通常、連続可変伝動装置液又は自動伝動装置液(ATF)用に好適な1つ以上の他の添加物も含有してよい。このような他の添加物としては、他の摩擦改良剤、及び酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、芳香族第二アミン酸化防止剤、油溶性銅化合物、及び燐含有酸化防止剤がある。他の成分としては、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、及びトリルトリアゾールとアミン、例えば2−エチルヘキシルアミンとのメチレン結合生成物のような金属失活剤がある。このような金属失活剤は、プッシュベルトCVTの金属−金属摩擦の調節にも有用かも知れない。他の成分としては、イソデシルスルホラン(即ち、イソデシル−3−スルホラウリルエーテル)のように、シールを柔軟に保持するように設計したシール膨潤組成物が挙げられる。また流動点降下剤、例えばアルキルナフタレン、ポリメタクリレート、酢酸ビニル/フマレート又は/マレエート共重合体、及びスチレン/マレエート共重合体も使用できる。また腐蝕防止剤、染料、流動化剤、泡立ち防止剤、分散剤、洗剤及び耐摩耗剤も挙げられる。これら任意の材料は、当業者に公知で、一般に市販され、また多くは米国特許No.6,251,840に更に詳細に記載されている。これら各材料は、従来の機能的量で存在してよい。
【0055】
米国特許No.6,372,696に開示された種類の洗剤及び分散剤は、潤滑の分野で公知であり、更なる情報については、この特許を参照できる。これらは、牽引液の耐久性を改良するために選択され、一般に約20重量%以下存在する。
【0056】
牽引液に存在してよい他の添加物は、燐化合物である。当業者ならば、牽引液に使用される以上のいずれでも或いは全てでもよいことは理解している。これら添加物は、性能及び費用の両方を考慮して、牽引液の性能を最適化するように選択される。例示のように、添加物は、粘度及び牽引係数に大きな影響を与えることができる。
【0057】
本発明実施態様の組成物は、普通は、十分に配合した潤滑油又は機能液として供給するか、或いは最初に濃厚物として製造する。濃厚物では、各種成分の相対量は、粘度を潤滑する油の量を適当量減らす他は、十分配合した組成物と殆ど同じである。これに従って、残りの成分の絶対%量は増やす。こうして油の適当量に濃厚物を加えると、本発明の最終配合物が得られる。本発明の通常の濃厚物は、例えば亜鉛塩を0.5〜20重量%、即ち、最終ブレンドに通常使用される濃度の約10倍含有してよい。
【0058】
牽引係数の測定
牽引係数は、一般に米国特許No.3,975,278に開示されるように測定され、周知の測定法である。この方法では、牽引係数は、回転円盤機械上で測定される。この機械は、可変速度装置で液体の性能を予測するように設計され、他方のローラーに一方のローラーを負荷して所要速度で駆動可能な200個の鋼ローラーを有する。これらローラー間に液体を導入し、適用した負荷ローラーの表面速度、これら2つのローラー間の相対滑り速度及びローラー間の接触により一方のローラーから他方のローラーに伝送されたトルクとの間の関係が、可変速度駆動での液体の潜在性能の尺度となる。この回転円盤機械に関する文献としては、M.A.Plint[Proceedings of the Inst.of Mech.Engrs.,Vol.180,pp225,313(1965−66)];A.W.Crookによる“The Lubrication of Rollers,I”[Phil.Trans.A 255,281(1963a)]がある。これらの文献は、全体をここに援用する。更に、摩擦係数は、Toru Matsuoka,Noboru Ishida,Shinichi Komatsu及びMitsuo Matsuno(三菱石油、日本)による“Development of Toroidal Traction Drive CVTF for Automobiles”と題するSAE technical paper 2002−01−1696に記載の4ローラー機械でも測定できる。この文献は、全体をここに援用する。
【0059】
この試験を行うには、PCS Insruments,78 Stanley Gardens,London W3 7SZ,英国のMini TractionMachine(MTM)試験システムが使用できる。この試験は、滑り/回転接触を作るため、各々、独立に駆動され、試験片(各サンプルは約30g)で潤滑された、磨いた19.1mm(3/4インチ)鋼球及び46mm径鋼円盤間に形成されたEHD接触部で液体の挙動を評価する方法である。試験は、1.25Gpaのヘルツ接触圧で行う。接触部入口での試験油の温度は、連続的に測定し、100℃に制御し、システムを熱安定化するまで、十分な時間をかけた。回転速度は、2.5m/sに維持する。両試験片の表面速度を同時に変化させることにより、0%から10%まで連続的に変化する滑り対回転比を得る。各試験中、牽引力を連続的に測定し、またこの測定値から牽引係数を計算する。牽引係数fは、
=F/P
で定義される。式中、Fは、部材間に作用した接線力又は牽引力の測定値であり、Pは部材間の正常負荷力又は接触力である。
【0060】
以下の例は、本発明の実施態様を例示するものである。全ての数値は、概略である。数値範囲を示した場合、範囲外の実施態様は、なお本発明の範囲に入る可能性があるものと理解すべきである。各例で述べた特定の詳細は、本発明に必要な特徴と解釈すべきではない。
【実施例1】
【0061】
例1
加熱用テープで包むと共に、温度を監視するため、カラムの内部及び外部に熱電対を挿入した直径1.0cm、長さ5cmの垂直鋼カラムをTygon(登録商標)管でポンプに接続した。このカラムに、6gのAmberlyst 15(Rohm & Haas)を装填した。生のα−メチルスチレン(即ち、溶剤のない)をカラムに上向きに送った。カラムの他端で生成物を収集し、GC分析にかけた。種々の滞留時間及び温度での生成物の成分を下記表に示す。C−13 NMR分析により、生成物は、α−メチルスチレンの環式二量体、即ち、1−フェニル−1,3,3−トリメチルインダンであることが判る。したがって、α−メチルスチレンは、まず線状二量体、即ち、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン又はその対応する2−ペンテン異性体に二量体化されるものと結論された。この線状二量体は、更にカラムを移動中、触媒と接触して、分子内フリーデル−クラフトアルキル化が起こり、環式二量体が得られる。この方法は、いかなる溶剤も含まないか、或いは水性洗浄を必要としない。
【0062】
1リットルのα−メチルスチレンがカラムを通過後も、触媒は活性であることが判った。モノマーの重合体への転化率は、ほぼ100%であった。120℃及び高い送り速度では、生成物は、殆ど完全に環式二量体の1−フェニル−1,3,3−トリメチルインダンである。C−13 NMR:151.86ppm、150.68ppm、148.39ppm、127.70ppm、126.93ppm、126.38ppm、125.20ppm、124.70ppm、122.25ppm、77.52ppm、76.88ppm、76.25ppm、58.95ppm、50.49ppm、42.55ppm、30.63ppm、30.40ppm及び30.10ppm。
【0063】
【表4】

【実施例2】
【0064】
例2
例1の試験4のカラムから集めた生成物を、触媒として、活性炭上の2%Pdの存在下、195℃で24時間、900psi(6205kPa)のHにより完全水素化した。触媒ろ過後、水素化生成物を連続可変伝動装置(CVT)液として、直ぐ使用した。更に真空下、蒸留により、純粋な水素化環式二量体の1−シクロヘキシル−1,3,3−トリメチルインダンを得た。このものは、沸点125℃〜140℃/0.5mmHg、100℃での動粘度:3.9cSt、40℃での動粘度:22.3cSt、C−13 NMR:53.2ppm、50.69ppm、48.82ppm、45.60ppm、44.87ppm、39.79ppm、31.14ppm、28.3−24.03ppm(多重ピーク)、及び20.37ppmである。これに対し水素化線状二量体である2,4−ジシクロヘキシル−4−メチルペンタンのC−13 NMRは、44.22ppm、42.42ppm、41.32ppm、24.45−23.86ppm(多重ピーク)、22.04ppm、21.94ppm及び15.95ppmである。
【実施例3】
【0065】
PCS Insruments,78 Stanley Gardens,London、英国W#7SZ製のMini TractionMachine(MTM)により、牽引係数を測定した。試験条件の概要は次の通りである。球及び円盤の速度は、負荷なしで共に1m/秒である。いったん温度を50℃に平衡化し、30N負荷(〜0.88Gpa)を適用する。滑りロール比は、1から50まで段階的に1の増加量で増大させる。滑り/ロール比に対する牽引係数を記録し、滑り/ロール比50%の終りで牽引係数を読む。
【0066】
水素化環式二量体を95%含有する例2の生成物の牽引係数を測定すると、0.1062であった。α−メチルスチレンの三量体を精製、除去後のほぼ純粋な1−シクロヘキシル−1,3,3−トリメチルヒドリンダンの牽引係数は、0.1093であった。これに対し、α−メチルスチレンの線状二量体のサンプルを水素化して2,4−ジシクロヘキシル−4−ペンタンとし、牽引係数を測定すると、0.1048であった。
【実施例4】
【0067】
例4
幾つかの実験では、1つ以上の他の基油、粘度指数向上剤及び低温粘度制御剤を含有させ、牽引液を配合した。下記第1表では、α−メチルスチレンの水素化環式二量体に、Imperial Chmical Industriesの低温粘度制御剤Emkarate 1130を変化量添加した。
【0068】
【表5】

【0069】
この表から判るように、室温より高い温度での粘度は、悪影響を与えないが、牽引係数は、Emkarate 1130の量が増えるのに従って、低下した。
第2表に示した第二実験では、α−メチルスチレンの水素化環式二量体に、第二の基油として、4cStポリ(α−オレフィン)合成炭化水素であるPAO4を添加し、更に粘度指数向上剤として、LubrizolのOCPタイプVI向上剤Lz7075を添加した。
【0070】
【表6】

【0071】
これらの結果から判るように、第二基油は、粘度及び牽引係数を低下させた。VI向上剤を加えると、粘度が増大し、また環式二量体単独で測定した値よりも牽引係数が低下した(試験1に比べて試験3)。試験4では、第二基油の実質的フラクション+VI向上剤を加えると、100℃での粘度は増大したが、−30℃での粘度は低下し、一方、牽引係数は低下した。試験5では、VI向上剤がないと、粘度は低下し、また試験4に比べて牽引係数は増大した。
【0072】
第三の実験では、粘度指数向上剤の種類を変えた他は、3種の添加物全ての効果を探究した。第3表から判るように、VI向上剤を含まず、粘度が低下した試験4以外は、粘度はほぼ一定であった。
【0073】
【表7】

【0074】
【表8】

【0075】
以上のように、本発明の実施態様は、市販のCVT液に匹敵する牽引係数を有するが、−30℃でのブルックフィールド粘度で示されるように、低温性能が改良されたCVT液を提供する。前述のように、このCVT液は、低温流動性に優れ、低粘度を有する他、室温から高温に亘る広範な温度で比較的高い牽引係数を有し、チャーニングロスが少なく、こうして高い伝動効率が得られる。したがって、このCVT液により、燃料経済を改良すべきである。α−アルキルスチレンの水素化二量体の製造方法は、比較的簡単で容易に実行できる。したがって、この方法は、費用効果が高い。その他の特性及び利点は、当業者ならば明らかである。
【0076】
本発明を少数の実施態様について説明したが、一実施態様の特定の特徴を、本発明の他の実施態様に集中させるべきではない。単一の実施態様が、本発明の全ての局面を代表するものではない。幾つかの実施態様では、組成物は、ここでは述べなかった多数の化合物を含有してもよい。以上説明した実施態様から、変化及び変形が存在する。CVT液の製造方法は、多数の行動又は工程を含むものとして説明した。これらの行動又は工程は、特に断わらない限り、いかなる順序又は順番で実施してもよい。更に、以上説明した材料の幾つかは、最終配合物中で相互作用させてもよく、その結果、最終配合物の成分は、最初に添加した成分とは異なってもよい。例えば金属イオン(例えば洗剤の金属イオン)は、他の分子の他の酸性部位に移動できる。これにより形成された生成物(本発明の組成物を意図する用途に使用して形成された生成物を含む)について、簡単に説明できるものではない。しかし、このような全ての変形及び反応生成物は、本発明の範囲内に含まれ、本発明は、以上説明した成分の添加混合により製造された組成物を包含する。付属の特許請求の範囲は、本発明の範囲内に入るこれら全ての変形及び変化をカバーすることを意図する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アルキルスチレンの水素化環式二量体及び低温粘度制御剤を含むか、これら成分の混合により得られる連続可変式伝動装置(CVT)液であって、α−アルキルスチレンの線状二量体を約20重量%未満含有すると共に、ASTM D−445に従って測定した100℃での動粘度が約2.5×10−6/sを超える該CVT液。
【請求項2】
前記液の100℃での動粘度が、約3.0×10−6/sを超える請求項1に記載のCVT液。
【請求項3】
前記液の100℃での動粘度が、約3.0×10−6/s〜約8.0×10−6/sの範囲である請求項1に記載のCVT液。
【請求項4】
前記液の100℃での動粘度が、約8.0×10−6/sを超える請求項1に記載のCVT液。
【請求項5】
前記液の牽引係数(100℃)が、少なくとも約0.08である請求項1に記載のCVT液。
【請求項6】
前記液の牽引係数(100℃)が、約0.08〜約0.109である請求項1に記載のCVT液。
【請求項7】
前記液の牽引係数(100℃)が、少なくとも約0.109である請求項1に記載のCVT液。
【請求項8】
前記液のブルックフィールド粘度(−30℃)が、約100Pa・s未満である請求項1に記載のCVT液。
【請求項9】
前記液のブルックフィールド粘度(−30℃)が、約100Pa・s〜約5Pa・sである請求項1に記載のCVT液。
【請求項10】
前記液のブルックフィールド粘度(−30℃)が、約5Pa・s未満である請求項1に記載のCVT液。
【請求項11】
前記α−アルキルスチレンの水素化環式二量体が、約80重量%より多く存在する請求項1に記載のCVT液。
【請求項12】
前記α−アルキルスチレンの水素化環式二量体が、約85重量%より多く存在する請求項1に記載のCVT液。
【請求項13】
前記α−アルキルスチレンの水素化環式二量体が、約90重量%より多く存在する請求項1に記載のCVT液。
【請求項14】
前記低温粘度制御剤の100℃での粘度が、2.5×10−6/sを超える請求項1に記載のCVT液。
【請求項15】
更に、分散剤、洗剤、粘度指数向上剤、摩擦改良剤、耐摩耗剤、又はそれらの混合物から選ばれた添加物を含む請求項1に記載のCVT液。
【請求項16】
前記低温粘度制御剤が、炭素原子数12以上の線状α−オレフィンのオリゴマー又は重合体、ナフテン系油、合成エステル油、ポリエーテル油、又はそれらの混合物から選ばれる請求項1に記載のCVT液。
【請求項17】
前記低温粘度制御剤の100℃での粘度が、2.5×10−6/s未満である請求項1に記載のCVT液。
【請求項18】
前記低温粘度制御剤が、炭素原子数12〜約20の線状α−オレフィンのオリゴマー又は重合体を含み、かつ該オリゴマー又は重合体の分子量が、約250〜約600である請求項1に記載のCVT液。
【請求項19】
前記低温粘度制御剤が、ナフテン系油を含む請求項1に記載のCVT液。
【請求項20】
前記α−アルキルスチレンが、α−メチルスチレンである請求項1に記載のCVT液。
【請求項21】
α−アルキルスチレンを、α−アルキルスチレン用溶剤及び遊離酸の不存在下、α−アルキルスチレンのオリゴマー化を行う温度及び圧力条件下で担持酸触媒と接触させて、α−アルキルスチレンの環式二量体を含むオリゴマー化生成物を製造する工程、及び
該α−アルキルスチレンの環式二量体を、水素化触媒の存在下に水素化して、α−アルキルスチレンの完全水素化環式二量体を製造する工程、
を含む、二量体化α−アルキルスチレン及びその生成物の製造方法。
【請求項22】
更に、前記完全水素化環式二量体を添加物と混合して、α−アルキルスチレンの線状二量体を約20重量%未満含有する連続可変式伝動装置液を形成する工程を含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記伝動装置液が、α−アルキルスチレンの三量体又はこれより高級のオリゴマーを約5重量%未満含有する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記α−アルキルスチレンが、α−メチルスチレンである請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記完全水素化二量体が、1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルヒドリンダンである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記1−シクロヘキシル−1,1,3−トリメチルヒドリンダンが、連続可変式伝動装置液を形成するため、油添加物と混合される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記伝動装置液が、α−メチルスチレンの線状二量体を約20重量%未満含有する請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記伝動装置液が、α−メチルスチレンの三量体又はこれより高級のオリゴマーを約5重量%未満含有する請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記担持酸触媒が、酸性イオン交換樹脂のカラムである請求項22に記載の方法。
【請求項30】
前記酸性イオン交換樹脂が、強酸性イオン交換樹脂である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記α−アルキルスチレンが、約25℃〜約250℃の温度で酸性イオン交換樹脂カラムに通される請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記α−アルキルスチレンの酸性イオン交換樹脂カラムでの滞留時間が、約1秒〜約250分の範囲である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記酸性イオン交換樹脂カラムのカラム圧が、約15psig(103kPa)〜約44psig(303kPa)の範囲である請求項29に記載の方法。
【請求項34】
更に、前記α−アルキルスチレンの環式二量体の水素化前に、該環式二量体をα−アルキルスチレンの他のオリゴマーから分離する工程を含む請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2006−501353(P2006−501353A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541636(P2004−541636)
【出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/030058
【国際公開番号】WO2004/031330
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】