説明

連続式酸洗冷間圧延設備及び冷間圧延材の製造方法

【課題】連続式酸洗冷間圧延設備の入側サイクルタイムを削減し、ライン全体の生産能率の向上が可能になる。
【解決手段】先行鋼帯の端部と後行鋼帯の端部とを切断し、切断後の前記先行鋼帯と前記後行鋼帯とを突き合わせ、該突き合わせ部をレーザ溶接して溶接鋼帯を得る溶接工程と、
前記溶接鋼帯を酸洗して酸洗鋼帯を得る酸先工程と、前記酸洗鋼帯を冷間圧延して冷間圧延材を得る冷間圧延工程と
を備える冷間圧延材の製造方法であって、更に、前記溶接工程と前記酸先工程との間で前記溶接鋼帯の接合部のエッジに切り欠き部を形成する第1工程、および、酸洗工程と冷間圧延工程との間で酸洗鋼帯の接合部のエッジに切り欠きを形成する第2の工程とを備え、先行鋼帯と後行鋼帯との板幅差と酸洗工程と冷間圧延工程との間での板幅変更の有無の情報に基づき、第1の工程、第2の工程または第1の工程と第2の工程との組み合わせのいずれかを選択することによって、冷間圧延材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼帯を酸洗してから冷間圧延するための連続式酸洗冷間圧延設備と、冷間圧延材の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱延鋼帯を酸洗処理する酸洗工程と、酸洗処理された熱延鋼帯を冷間圧延する冷間圧延工程とを直結させた連続式酸洗冷間圧延設備に関する提案が、多数なされている。例えば特許文献1には、上流から下流に向けて、先行鋼帯と後行鋼帯とを溶接する溶接機、溶接された溶接鋼帯を酸洗する酸洗槽、鋼帯の板幅を変更するサイドトリマ、および酸洗された酸洗鋼帯を冷間圧延する冷間圧延機をこの順に配置し、各装置の間に鋼帯を蓄積するルーパを配置した連続式酸洗冷間圧延設備に係る発明が開示されている。この連続式酸洗冷間圧延設備は様々な装置の集合体であるので、その設置には広い敷地を確保する必要がある。特許文献1により開示された発明では、鋼帯の進路を変更するヘリカルターナー等を用いることによって、連続式酸洗冷間圧延設備を限られた敷地内に設置することが試みられている。
【0003】
この連続式酸洗冷間圧延設備では、通常、上述した溶接機、酸洗槽および冷間圧延機に加えて、さらに、溶接機と酸洗槽との間に、溶接部を検出するためのパンチ穴を溶接鋼帯に形成するためのパンチャ装置と、溶接部を含む溶接鋼帯の幅方向の端部に切り欠きを形成するためのノッチャ装置とが配置される。これらの装置について説明する。
【0004】
図7は、溶接機により先行鋼帯1と後行鋼帯2とを溶接して得られた溶接鋼帯3の接合部4の近傍を示す説明図である。一般的に、連続的に鋼帯を処理する連続ラインでは、先行鋼帯1と後行鋼帯2とを接続する溶接機が設置され、この溶接機により接合された接合部4が到達することを検知して酸洗槽や冷間圧延機の操業条件が変更されている。そのため、図7に示すように、接合点4の近傍に直径10mm程度のパンチ穴5を穿設しておき、光学式の検出器によりパンチ穴5の設置位置を正確に検出することによって接合部4の位置を把握する。
【0005】
また、図8(a)は、先行鋼帯1と後行鋼帯2との各種の接合状況を示す説明図である。溶接される先行鋼帯1および後行鋼帯2は、図8(a)の(2)および(3)に示すようにそれぞれの板幅が異なったり、あるいは図8(a)の(1)に示すように板幅が同じ場合であっても溶接する際に幅方向への位置ズレを生じたりすることがある。これらのように、接合部4の端部に鋼帯1の後端または鋼帯2の先端が段差状に突出したまま冷間圧延を行うと、接合部4に過大な応力が集中して板破断を生じたり、あるいは急激な板幅変化に伴って圧延荷重が急激に変動して圧延形状が不安定になる等の問題を生じる。そこで、図8(b)の(1)〜(3)に示すように、接合部4の端部になだらかな切り欠き6を形成することが行われる。
【0006】
このため、連続式酸洗冷間圧延設備の溶接機の下流には、パンチ穴5を形成するためのパンチャ装置と、切り欠き6を形成するためのノッチャ装置とが配置され、溶接鋼帯3へのパンチ穴5および切り欠き6の形成が行われる。
【0007】
図9(a)は、溶接鋼帯3へのパンチ穴5および切り欠き6の形成手順を示す説明図である。図9(a)に示すように、先行鋼帯1の後端を送った後に後行鋼帯2の先端を送り、先行鋼帯1の後端と後行鋼帯2の先端とを切断し、先行鋼帯1および後行鋼帯2をいずれも停止してから溶接機によりこれらを溶接して溶接鋼帯3とし、溶接鋼帯3の接合部4をパンチャ装置およびノッチャ装置へ移送して溶接鋼帯3を停止し、その後にパンチャ装置によるパンチ穴5の形成と、ノッチャ装置による切り欠き6の形成とが行われる。
【0008】
この後、溶接鋼帯3は酸洗槽に送られるが、酸洗槽での酸洗は溶接鋼帯3を走行した状態で行うため、溶接機と酸洗槽との間には、溶接鋼帯3を蓄積することにより溶接機および酸洗槽それぞれのサイクルタイムの差を吸収するための酸洗槽入側ルーパが設けられる。
【0009】
この連続式酸洗冷間圧延設備では、特に、単重が小さい鋼帯を処理する場合や、酸洗槽や冷間圧延機等の処理能力が高い場合には、連続式酸洗冷間圧延設備全体の生産能率は酸洗槽入側ルーパよりも上流側に配置されるパンチャ装置やノッチャ装置のサイクルタイム(入側サイクルタイム)によって律速されることとなる。
【特許文献1】特開平7−164008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、連続式酸洗冷間圧延設備においてパンチャ装置およびノッチャ装置の所定の位置に溶接鋼帯3を正確に停止するためには、溶接鋼帯3の重量が大きくその慣性力も大きいことから、パンチャ装置およびノッチャ装置への移送を低速で行う必要がある。このため、溶接鋼帯3にパンチ穴5や切り欠き6を形成するための時間が必要になることのみならず、パンチャ装置やノッチャ装置への溶接鋼帯3の移送を低速で行うことにも起因して入側サイクルタイムは不可避的に増加し、この連続式酸洗冷間圧延工程全体の生産能率が低下する。
【0011】
入側サイクルタイムを短縮するために、熱延鋼帯の払い出し用のリールを複数基並設して先行鋼帯の後端に後行鋼帯の先端を溶接する際に生じるアイドルタイムを短縮することも行われるが、これでは、連続式酸洗冷間圧延設備のライン長、すなわち連続式酸洗冷間圧延設備を設置するために必要な敷地面積を増加させてしまい、連続式酸洗冷間圧延設備の設備コストがさらに嵩んでしまう。
【0012】
本発明の目的は、熱延鋼帯を酸洗して冷間圧延するための連続式酸洗冷間圧延設備の入側サイクルタイムを削減することにより、連続式酸洗冷間圧延設備の設備コストを増加せずにその生産能率を向上することができる連続式酸洗冷間圧延設備及び冷間圧延材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
酸洗槽入側ルーパを備える鋼帯の連続ラインにおいても、特にコイル単重が小さい場合や、酸洗槽や冷間圧延機の処理能力が高い場合には、この酸洗槽入側ルーパよりも上流側に配置される設備のサイクルタイムがこの連続ライン全体の生産能率を律速するため、酸洗槽入側ルーパよりも上流側に配置される装置の入側サイクルタイムを削減することが、連続ラインの生産能率向上のためには、極めて重要である。
【0014】
本発明者らは、このような認識のもと鋭意検討を重ねた結果、酸洗槽と冷間圧延機との間に配置され、ノッチャにより形成された切り欠きにその回転刃を挿入して走行状態にある酸洗鋼帯の幅方向の端部をトリムすることによって酸洗鋼帯の板幅を変更するためのサイドトリマ装置(走間トリマ)に着目した。そして、停止状態にある溶接鋼帯の接合部を含む幅方向の端部に切り欠きを形成するノッチャ装置と、走行状態にある酸洗鋼帯の板幅を変更するサイドトリマ装置とを備える連続式酸洗冷間圧延設備において、先行鋼帯および後行鋼帯の板幅差と、サイドトリマ装置でのトリミング作業の有無とに基づいてノッチャ装置による切欠きの形成の有無を決定し、ノッチャ装置による切り欠きの形成を行う必要がない場合にはサイドトリマ装置により切り欠きの形成を行うことにより、ノッチャ装置による切り欠きの形成に起因した入側サイクルタイムを削減でき、これにより、連続式酸洗冷間圧延設備全体の生産能率を向上することが可能となることを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0015】
本発明は、上流から下流に向かって、先行鋼帯と後行鋼帯とを突き合わせ、この突き合わせ部を溶接して接合部を有する溶接鋼帯を得る溶接装置、この溶接鋼帯を酸洗して酸洗鋼帯を得る酸洗槽、およびこの酸洗鋼帯を冷間圧延する冷間圧延機を直結して配置した連続式酸洗冷間圧延設備であって、溶接鋼帯の接合部を含む幅方向の端部に切り欠きを形成するノッチャ装置と、酸洗鋼帯を走行させながら酸洗鋼帯の板幅の変更が可能なサイドトリマ装置とを、溶接装置と酸洗槽との間、および酸洗槽と冷間圧延機との間とにそれぞれ配置し、先行鋼帯と後行鋼帯との板幅差、ならびにサイドトリマ装置でのトリミング作業の有無の情報に基づいて、ノッチャ装置による切り欠きの形成の要否を判定し、この判定の結果に基づいて、ノッチャ装置およびサイドトリマ装置それぞれの運転パターンを決定する運転パターン決定手段とを備えることを特徴とする連続式酸洗冷間圧延設備である。
【0016】
この本発明に係る連続式酸洗冷間圧延設備では、接合部の位置を検出するためのパンチ穴を、先行鋼帯の後端部が溶接装置に停止してから溶接が完了するまでの間に形成することが可能なパンチャ装置を備えることが好ましい。
【0017】
これらの本発明に係る連続式酸洗冷間圧延設備では、溶接装置が、レーザビームを発振するファイバ状結晶体から構成される発振媒体を備えるファイバーレーザ溶接機を備えることが好ましい。
【0018】
これらの本発明に係る連続式酸洗冷間圧延設備では、溶接装置が、突き合わせ部を加熱する加熱手段を備えることが好ましい。
さらに、これらの本発明に係る連続式酸洗冷間圧延設備は、溶接装置の上流に配置される鋼帯払い出し装置が鋼帯表面を洗浄する洗浄手段を有することが好ましい。
【0019】
別の観点からは、本発明は、先行鋼帯の後端部と後行鋼帯の先端部とを切断し、切断後の先行鋼帯と後行鋼帯とを突き合わせ、この突き合わせ部をレーザ溶接して接合部を有する溶接鋼帯を得る溶接工程と、溶接鋼帯を酸洗して酸洗鋼帯を得る酸先工程と、酸洗鋼帯を冷間圧延して冷間圧延材を得る冷間圧延工程とを備える冷間圧延材の製造方法であって、さらに、溶接工程と酸先工程との間で溶接鋼帯の接合部を含む幅方向の端部に切り欠きを形成する第1の工程、および、酸洗工程と冷間圧延工程との間で酸洗鋼帯の接合部を含む幅方向の端部に切り欠きを形成する第2の工程とを備え、先行鋼帯および後行鋼帯の板幅差、および酸洗工程と冷間圧延工程との間でのトリミング作業の有無の情報に基づいて、第1の工程、第2の工程または第1の工程と第2の工程との組み合わせのいずれかを選択することを特徴とする冷間圧延材の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱延鋼帯を酸洗して冷間圧延するための連続式酸洗冷間圧延設備の入側サイクルタイムを削減でき、これにより、連続式酸洗冷間圧延設備の設備コストを増加せずにその生産能率を向上することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る連続式酸洗冷間圧延設備及び冷間圧延材の製造方法を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら、説明する。
図1は、本実施の形態の連続式酸洗冷間圧延設備10の構成を模式的に示す説明図である。
【0022】
図1に示すように、この連続式酸洗冷間圧延設備10は、上流から下流に向かって、鋼帯払い出し装置20と、溶接装置13と、ノッチャ装置14と、酸洗槽15と、サイドトリマ17と、冷間圧延機16と、鋼帯巻き取り装置25と、運転パターン決定手段とを備えるので、これらについて順次説明する。
[鋼帯払い出し装置20]
図2は、溶接装置13の上流に配置される鋼帯払い出し装置20を示す説明図である。同図に示すように、鋼帯払い出し装置20は、鋼帯表面に洗浄水21を噴射し、鋼帯表面を洗浄する洗浄手段(図示しない)を備えることが望ましい。この理由を説明する。
【0023】
図2に示すように、コイル状に巻き取られた熱延鋼帯20aを処理ラインに装入し巻き戻す際に、腰折れと呼ばれる表面異常を防止するため、プレッシャーロール20bと呼ばれる圧下装置が設けられる。プレッシャーロール20bにより鋼帯20aには曲げ歪が与えられ、スケールブレーカーとしての役割も果たし、コイルの払い出しの際には鋼帯20aから剥離したスケールの粉塵(粉)が発生する。スケール粉塵は、ライン内に蓄積したり通板ロールの表面に付着したりして設備の操業環境を阻害するため、鋼帯20aの表面を洗浄水21で洗浄することにより剥離スケールの除去を行うことが望ましい。
【0024】
このような洗浄手段としては、例えば特許第3458746号により開示されるような公知の手段を用いればよく、特定の手段には限定されない。
この洗浄手段により鋼帯表面を洗浄することによって、鋼帯の位置や装置の作動位置を検出するために設けた光センサの誤検出を防止することができるので、望ましい。
【0025】
なお、図2における符号22は鋼帯の搬送方向を水平方向に変更するデフレクターロールであり、符号23はレベラーであり、さらに符号24は鋼帯の水切りを行うリンガーロールである。
[溶接装置13]
本実施の形態の溶接装置13は、先行鋼帯11と後行鋼帯12とを溶接するためのものであり、せん断装置(図示しない)、溶接機(図示しない)およびパンチャ装置19から構成される。
【0026】
せん断装置は、先行鋼帯11の後端部と、後行鋼帯12の先端部とを切断するための公知のせん断装置である。
また、溶接機は、フラッシュバット溶接機またはレーザ溶接機である。レーザ溶接機としては、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、または、発振媒体が並列に配置された複数のファイバー状結晶体からなるファイバーレーザを用いることができる。
【0027】
なお、ファイバーレーザ溶接機は、並列に配置された複数のファイバー状の結晶体から構成される複数の発振媒体から構成される発振機を備え、発振機から発振されたレーザビームは、光ファイバーで伝送され、光学系で集光されて突き合わせ部に照射され溶接が行われ、高出力で高効率の溶接が可能となる。すなわち、熱延鋼帯を酸洗処理する連続式酸洗ラインや、酸洗や冷間圧延を連続で行う連続式酸洗冷間圧延ラインの入側でのコイルの接合には、一般的にフラッシュバット溶接やレーザ溶接が採用される。処理する鋼帯の板厚や鋼種、サイクルタイム等によりどちらのタイプの溶接機を用いるかを選択するが、ラインによってはサイクルタイムで優位なフラッシュバット溶接機と、多鋼種や薄板材にまで適用可能なレーザ溶接機とをともに設置し、処理する鋼帯によって使い分けることも行われている。
【0028】
しかしながら、最近はレーザパワーの高出力化等によりサイクルタイムの面でのフラッシュバット溶接機の優位性がほとんど無くなり、多鋼種で適用可能なレーザ溶接機が主流になりつつある。さらに、従来の熱延鋼帯処理ラインで採用されてきたレーザ溶接は、炭酸ガスレーザであったが、ファイバー伝送可能なレーザの高出力化に伴い採用されるレーザも選択されてきている。その中でもファイバーレーザは近年高出力化可能な装置として注目されている。さらに、従来の炭酸ガスレーザでは直線の光路を何度か反射させて、最後に集光して接合部にレーザ光を導く必要がありその光軸調整が非常に煩雑であり、また装置の設置場所等といった多くの制約条件があったが、ファイバー伝送可能となることによりそれら制約を無くすことが可能になっている。
【0029】
さらに、パンチャ装置19は、ダイスとパンチとを備え、溶接装置31より下流に配置された検出装置により接合部を検出するためのパンチ穴を形成することが可能な公知の装置である。なお、図1における黒三角印は検出装置を示す。
【0030】
本実施の形態では、溶接装置13により先行鋼帯11の後端部と後行鋼帯12の先端部を切断除去するために先行鋼帯11と後行鋼帯12の走行を停止してから溶接が完了し、先行鋼帯11と後行鋼帯12が走行を開始するまでの間に、先行鋼帯11および後行鋼帯12の溶接部を検出するためのパンチ穴を空けることが可能なパンチャ装置19を、溶接装置13に備えるため、ノッチャ装置14による切り欠きの形成が不要な場合には、ノッチャ装置14による切り欠きの形成のために鋼帯を停止することが不要となり、入側サイクルタイムが短縮し、生産能率が一層向上する。
【0031】
図9(b)は、本実施の形態におけるパンチャ装置19によるパンチ穴の形成手順を示す説明図である。
同図に示すように、溶接装置13では、鋼帯の走行を停止した状態で、先行鋼帯11の後端部と後行鋼帯12の先端部をせん断装置で切断するとともに、ダイスとポンチとを有するパンチャ装置19により先行鋼帯11または後行鋼帯12の切断部の近傍にパンチ穴を形成し、次いで、先行鋼帯11と後行鋼帯12とを突き合わせ、この突き合わせ部をフラッシュバット溶接機またはレーザ溶接機で溶接することにより溶接鋼帯とし、この溶接が完了した後に溶接鋼帯の走行を開始する。パンチャ装置19によるパンチ穴の形成は溶接完了までに行えばよく、これにより、ノッチャ装置14による切り欠きの形成が不要な場合には、ノッチャ装置14による切り欠きの形成のために鋼帯を停止することが不要となる。なお、本実施の形態の溶接装置31はパンチャ装置19を備え、溶接工程中にパンチ穴を形成するものであるが、これとは異なり、溶接装置31の下流に、例えばノッチャ装置14に近接してパンチャ装置19を配置し、溶接完了後の溶接鋼帯にパンチ穴を形成するようにしてもよい。
【0032】
さらに、この溶接装置13は、先行鋼帯11および後行鋼帯12の突き合わせ部分を加熱する加熱手段を備えるのが望ましい。突き合わせ部分に洗浄水等の水分が残存すると、溶接の際のレーザ照射により発生する水蒸気により、アンダーフィルやブローホール等の溶接欠陥が発生して健全な溶接が形成されずに接合強度の低下を招くため、溶接部で先行鋼帯11および後行鋼帯12が破断する恐れがある。このため、洗浄装置により濡れた突き合わせ部をこの加熱手段により加熱して、レーザ溶接トーチが通過する前に鋼帯表面の水分を蒸発させて乾燥状態にしておくことにより、溶接欠陥の発生を抑制して健全な接合部を確実に形成することができ、冷間圧延工程などでの溶接部破断を防止できる。
【0033】
加熱手段は、誘導加熱方式とするのが望ましく、鋼帯の表面温度を200℃以上×1.0秒以上に加熱することが望ましい。
[ノッチャ装置14]
ノッチャ装置14は、ダイスとポンチとから構成され、停止状態の溶接鋼帯の接合部を含む端部に切り欠きを形成する公知のノッチャ装置である。
[酸洗槽15]
酸洗槽15は、溶接鋼帯を連続的に通板することにより溶接鋼帯に酸液を供給して、表面にスケールを除去するための公知の装置である。
【0034】
なお、図1における符号26はテンションレベラーを示し、符号27はリンス槽を示す。また、符号18aは酸洗槽15の入側に配置される入側ルーパを示し、符号18bは酸洗槽15と後述するサイドトリマ17との間に配置される中間ルーパを示し、さらに、符号18cは後述する冷間圧延機16の入側に配置されるミル前ルーパを示す。
[サイドトリマ17]
サイドトリマ17は、回転刃を備え、酸洗槽15と冷間圧延機16との間にあって走行状態にある酸洗鋼帯の幅方向の端部を切断することにより鋼帯の板幅を変更することが可能な公知の走間変更トリマーである。
[冷間圧延機16]
冷間圧延機16は、酸洗された溶接鋼帯を圧延する公知の圧延機である。
[鋼帯巻き取り装置25]
鋼帯巻き取り装置25は、冷間圧延された鋼帯をコイルに巻き取るための装置である。
[運転パターン決定手段]
運転パターン決定手段は、溶接装置13で接合した溶接鋼帯のコイルつなぎ目(接合部)を含む幅方向の端部に切り欠きを、ノッチャ装置14またはサイドトリマ17のいずれかにより形成し、切り欠きを形成する装置の使い分けを先行鋼帯11と後行鋼帯12の板幅条件ならびに走間トリマ17でのトリミング作業の有無の情報によって判定するための装置である。
【0035】
図3は、運転パターン決定手段における判定の内容を示すフロー図である。同図に示すように、ビジコン31から出力される先行鋼帯11と後行鋼帯12との板幅差およびサイドトリマ17でのトリミング作業の有無の情報に基づいて、プロコン32でノッチャ装置14による切り欠きの形成の有無を判定し、この判定結果に基づいてノッチャ装置運転パターン、サイドトリマ装置運転パターン、ライン運転パターンを決定する。
【0036】
そして、決定したノッチャ装置運転パターン、サイドトリマ装置運転パターン、ライン運転パターンを、それぞれ、ノッチャ制御装置33、ライン運転制御装置34、トリマー制御装置35に出力する。
【0037】
例えば、先行鋼帯11および後行鋼帯12ともにサイドトリマ17でトリミング作業を実施しない場合には、サイドトリマ17による切り欠きの形成が出来ないため、切り欠きの形成をノッチャ装置14で行う必要が有ると判断し、上述した図8(b)の(1)〜(3)に示すように、ノッチャ装置14により鋼帯の接合部を含む幅方向の端部に、切り欠きを形成する。
【0038】
逆に、先行鋼帯11および後行鋼帯12ともにサイドトリマ17によりトリミング作業をする場合には、切り欠きの形成をサイドトリマ17で行うことができるため、ノッチャ装置14で切り欠きを形成する必要がなくなり、ノッチャ装置14での切り欠きの形成のための走行停止が不要となる。
【0039】
すなわち、サイドトリマ17でトリミング作業を行う場合であってサイドトリマ17で切り欠きの形成が可能であるとき、例えば(a)先行鋼帯11および後行鋼帯12の板幅差が比較的小さく、かつ先行鋼帯11および後行鋼帯12のいずれもがサイドトリマ17によるトリミング作業を行われる場合や(b)先行鋼帯11および後行鋼帯12の板幅差が比較的小さく、かつ先行鋼帯11はサイドトリマ17によるトリミング作業を行われるものの後行鋼帯12はサイドトリマ17によるトリミング作業を行われない場合には、ノッチャ装置14による切り欠きの形成は不要となり、これにより、入側サイクルタイムを短縮でき、連続式酸洗冷間圧延設備10の生産能率が向上する。
【0040】
図8(c)の(1)〜(3)は、それぞれ、図8(a)の(1)〜(3)に示す場合において、ノッチャ装置14を用いずにサイドトリマ17により切り欠き6’を形成した状態を模式的に示す説明図である。
【0041】
図1において、先行鋼帯11および後行鋼帯12が接続された溶接鋼帯は、入側ルーパ18aから中間ルーパ18bを経てサイドトリマ17に到達する。サイドトリマ17は、先行鋼帯11および後行鋼帯12の板幅仕様に応じて、溶接鋼帯を移動させながらその端部をトリムして板幅を変更する。この際、板幅の変更は、図8(c)の(1)〜(3)に示すように、接合部4を含む鋼帯の端部を切断することによりなだらかな切り欠き6’を形成する。このようにしてサイドトリマ17により切り欠き6’を形成することによっても、冷間圧延の際に発生する板破断や急激な荷重変化に伴う形状不良を発生させること、冷間圧延を行うことが可能になる。
【0042】
なお、サイドトリマ17により板幅を変更するように判断される場合であっても、先行鋼帯11および後行鋼帯12の板幅の差が大きい場合、特に後行鋼帯12の板幅が先行鋼帯11の板幅よりも広い場合には、後行鋼帯12の先端の接合部の端部が酸洗槽15を通過する際に折れ曲がる可能性が有るため、ノッチャ装置14により切り欠きを形成することが望ましい。具体的には、先行鋼帯11よりも後行鋼帯12の幅が例えば100mm以上大きい場合には、サイドトリマ17ではなくノッチャ装置14により切り欠きを形成し、次いでサイドトリマ17により板幅変更を行いながら切り欠き6’を形成することが望ましい。こうして形成された切り欠き6’によって、冷間圧延機16では急激な荷重変化を抑制しつつ安定した冷間圧延を行うことができる。
【0043】
なお、以上の説明では、鋼帯払い出し装置20が、1基の入側払い出しリールにより構成される場合を例にとったが、これに限定されるものではなく、図4に示すように、2基の入側払い出しリールにより構成してもよい。これにより、入側サイクルタイムをさらに短縮することができる。
【0044】
図5(a)〜図5(c)は、入側設備から入側ルーパ20へ送り込まれる鋼帯の速度を時間経過とともに示すグラフである。
図5(a)は、溶接装置13の下流にパンチャ装置19とノッチャ装置14とを備える場合において、先行鋼帯11と後行鋼帯12との板幅差およびサイドトリマ17でのトリミング作業の有無の情報に基づき、ノッチャ装置14による切り欠きの形成を必要と判断したときの入側設備における鋼帯の速度パターンを示す。一方、図5(b)は、溶接装置13の下流にパンチャ装置19とノッチャ装置14とを備える場合において、先行鋼帯11と後行鋼帯12との板幅差およびサイドトリマ17でのトリミング作業の有無の情報に基づき、サイドトリマ17により切り欠きの形成を行い、ノッチャ装置14による切り欠きの形成を不要と判断したときの入側設備における鋼帯の速度パターンを示す。
【0045】
図5(b)に示す場合には、図5(a)において(iv)’で示すノッチャ装置14での切り欠きの形成時間が不要となるので、(iv)で示すパンチャ装置19の動作が完了した時点で鋼帯の走行を開始することが可能であり、その分だけ入側サイクルタイムを短縮することができる。
【0046】
また、図5(c)に示す場合は、図1に示すように、パンチャ装置19を具備した溶接装置13の下流にノッチャ装置14を設けた場合において、先行鋼帯11と後行鋼帯12との板幅差およびサイドトリマ17でのトリミング作業の有無の情報に基づき、ノッチャ装置14による切り欠きの形成を不要と判断したときの入側設備における鋼帯の速度パターンを示したものである。この場合、溶接機13で先行鋼帯11の後端および後行鋼帯12の先端を切断除去する工程からこれらの溶接が完了するまでの間にパンチ穴が形成されるため、溶接完了後に、パンチ穴の形成ならびにノッチャ装置14での切り欠きの形成のための鋼帯の停止が不要となるので、入側サイクルタイムは大幅に短縮される。
【0047】
なお、図示していないが、図1に示す設備において、ノッチャ装置14による切り欠きの形成を必要と判断したときには、図5(c)において(ii)で示す溶接の後にノッチャ装置14へ鋼帯を移動してノッチャ装置14による切り欠きの形成が行われる。
【0048】
さらに、図6(a)〜図6(c)は、払い出しリールを2基設置した場合における、入側設備から入側ルーパへ送り込まれる鋼帯の速度を時間経過とともに示すグラフであり、払い出しリールを2基とした以外の条件は図5(a)〜図5(c)に示す場合と同様である。
【0049】
図6(a)〜図6(c)に示すグラフを、図5(a)〜図5(c)に示すグラフと対比することから理解されるように、払い出しリールを2基配置することにより、入側サイクルタイムをさらに短縮することが可能である。
【0050】
このようにして本実施の形態によれば、熱延鋼帯を酸洗して冷間圧延するための連続式酸洗冷間圧延設備の入側サイクルタイムを削減することにより、連続式酸洗冷間圧延設備の設備コストを増加せずにその生産能率を向上することができるようになる。
【実施例】
【0051】
さらに、本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
図1に示す連続式酸洗冷間圧延設備10を用いて、図3および図9(b)に示すように、先行鋼帯11と後行鋼帯12との板幅差、およびサイドトリマ17でのトリミング作業の要否のビジコン31の情報に基づき、プロコン32によりノッチャ装置14による切り欠きの形成の有無を判定し、ノッチャ装置14による切り欠きの形成が不要である場合には、サイドトリマ17により切り欠きの形成を行う本発明のシミュレーション計算を行い、その効果を検証した。
【0052】
なお、比較例として、溶接機13の下流にパンチャ装置19とノッチャ装置14を配置した以外は図4に示す連続式酸洗冷間圧延設備10と同様に構成された連続式酸洗冷間圧延設備を用いて、全ての接合部に対してノッチャ装置14による切り欠きの形成を行う前提のシミュレーション計算を行った。
【0053】
このシミュレーションでは、平均板厚4.1mm、平均板幅1155mmの鋼帯を用い、コイル平均単重は21.2トンとし、サイドトリマ17でのトリミング作業の比率は55%とした。
【0054】
その結果、本発明例の連続式酸洗冷間圧延設備の生産能率は、比較例の連続式酸洗冷間圧延設備の生産能率に比較して、約8%も向上した。なお、トリミング作業の比率が増加するにつれて能率向上の効果も増大することもわかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、実施の形態の連続式酸洗冷間圧延設備の構成を模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、溶接装置の上流に配置される鋼帯払い出し装置を示す説明図である。
【図3】図3は、運転パターン決定手段の判定の内容を示すフロー図である。
【図4】図4は、2基の入側払い出しリールにより構成される鋼帯払い出し装置を有する連続式酸洗冷間圧延設備の構成を模式的に示す説明図である。
【図5】図5(a)〜図5(c)は、入側設備から入側ルーパへ送り込まれる鋼帯の速度を時間経過とともに示すグラフである。
【図6】図6(a)〜図6(c)は、払い出しリールを2基設置した場合における、入側設備から入側ルーパへ送り込まれる鋼帯の速度を時間経過とともに示すグラフである。
【図7】図7は、溶接機により先行鋼帯と後行鋼帯とを溶接して得られた溶接鋼帯の接合部の近傍を示す説明図である。
【図8】図8(a)は、先行鋼帯と後行鋼帯との各種の接合状況を示す説明図であり、図8(b)は、ノッチャ装置により切り欠きを形成した状況を示す説明図であり、図8(c)は、サイドトリマにより切り欠きを形成した状況を示す説明図である。
【図9】図9(a)は、溶接鋼帯へのパンチ穴および切り欠きの形成手順を示す説明図であり、図9(b)は、本実施の形態におけるパンチャ装置によるパンチ穴の形成手順を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 先行鋼帯
2 後行鋼帯
3 溶接鋼帯
4 接合部
5 パンチ穴
6,6’ 切り欠き
10 連続式酸洗冷間圧延設備
13 溶接装置
14 ノッチャ装置
15 酸洗槽
16 冷間圧延機
17 サイドトリマ
18a 入側ルーパ
18b 中間ルーパ
18c ミル前ルーパ
19 パンチャ装置
20 鋼帯払い出し装置
20a 熱延鋼帯
20b プレッシャーロール
21 洗浄水
22 デフレクターロール
23 レベラー
24 リンガーロール
25 鋼帯巻き取り装置
26 テンションレベラー
27 リンス槽
31 ビジコン
32 プロコン
33 ノッチャ制御装置
34 ライン運転制御装置
35 トリマー制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流から下流に向かって、先行鋼帯と後行鋼帯とを突き合わせ、該突き合わせ部を溶接して接合部を有する溶接鋼帯を得る溶接装置、該溶接鋼帯を酸洗して酸洗鋼帯を得る酸洗槽、および該酸洗鋼帯を冷間圧延する冷間圧延機を直結して配置した連続式酸洗冷間圧延設備であって、
前記溶接鋼帯の前記接合部を含む幅方向の端部に切り欠きを形成するノッチャ装置と、前記酸洗鋼帯を走行させながら該酸洗鋼帯の板幅の変更が可能なサイドトリマ装置とを、前記溶接装置と前記酸洗槽との間、および前記酸洗槽と前記冷間圧延機との間とにそれぞれ配置し、前記先行鋼帯と前記後行鋼帯との板幅差、ならびに前記サイドトリマ装置でのトリミング作業の有無の情報に基づいて、前記ノッチャ装置による前記切り欠きの形成の要否を判定し、該判定の結果に基づいて、前記ノッチャ装置および前記サイドトリマ装置それぞれの運転パターンを決定する運転パターン決定手段と
を備えることを特徴とする連続式酸洗冷間圧延設備。
【請求項2】
前記接合部の位置を検出するためのパンチ穴を、前記先行鋼帯の後端部と前記後行鋼帯の先端部が前記溶接装置に停止してから前記溶接が完了するまでの間に、形成することが可能なパンチャ装置を備える請求項1に記載の連続式酸洗冷間圧延設備。
【請求項3】
前記溶接装置は、レーザビームを発振するファイバ状結晶体から構成される発振媒体を備えるファイバーレーザ溶接機を備える請求項1または請求項2に記載の連続式酸洗冷間圧延設備。
【請求項4】
前記溶接装置は、前記突き合わせ部を加熱する加熱手段を備える請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の連続式酸洗冷間圧延設備。
【請求項5】
前記溶接装置の上流に配置される鋼帯払い出し装置は、鋼帯表面を洗浄する洗浄手段を有する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の連続式酸洗冷間圧延設備。
【請求項6】
先行鋼帯の後端部と後行鋼帯の先端部とを切断し、切断後の前記先行鋼帯と前記後行鋼帯とを突き合わせ、該突き合わせ部をレーザ溶接して接合部を有する溶接鋼帯を得る溶接工程と、前記溶接鋼帯を酸洗して酸洗鋼帯を得る酸先工程と、前記酸洗鋼帯を冷間圧延して冷間圧延材を得る冷間圧延工程とを備える冷間圧延材の製造方法であって、さらに、
前記溶接工程と前記酸先工程との間で前記溶接鋼帯の前記接合部を含む幅方向の端部に切り欠きを形成する第1の工程、および、前記酸洗工程と前記冷間圧延工程との間で前記酸洗鋼帯の前記接合部を含む幅方向の端部に切り欠きを形成する第2の工程とを備え、
前記先行鋼帯および前記後行鋼帯の板幅差、および前記酸洗工程と前記冷間圧延工程との間でのトリミング作業の有無の情報に基づいて、前記第1の工程、前記第2の工程または前記第1の工程と前記第2の工程との組み合わせのいずれかを選択すること
を特徴とする冷間圧延材の製造方法。
【請求項7】
前記溶接工程で、前記先行鋼帯または前記後行鋼帯に前記接合部を検出するためのパンチ穴を形成する請求項6に記載の冷間圧延材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−23099(P2010−23099A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189865(P2008−189865)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】