説明

連続鋳造における注入管の使用方法

【課題】極低炭素鋼の鋳造において、注入管に含まれた炭素が溶鋼に混入することを防止する。
【解決手段】連続鋳造工程において、取鍋の溶鋼をタンディッシュ内に注入するときに溶鋼流を通過させるために使用される注入管において、注入管の組成が、C:28〜34%、SiO:19〜25%、Al:41〜49%であり、注入管の前記タンディッシュ内の溶鋼に浸漬される部位の厚みが、40〜60mmである。溶鋼中の炭素含有量が40ppm以下の極低炭素鋼を鋳造するに際して、極低炭素鋼を鋳造する直前のチャージに前記注入管を使用して、注入管の下部を前記タンディッシュ内の溶鋼に浸漬する。直前のチャージの溶鋼成分の炭素含有量は、0.3%以下である。直前のチャージの溶鋼に注入管の下部を浸漬させる浸漬時間は、60分以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造における注入管の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼処理後の極低炭素鋼(例えば、炭素含有量が40ppm以下の炭素鋼)を連続鋳造設備で鋳造する場合には、その連続鋳造の途中で溶鋼へ微量の炭素が混入した場合でも、炭素含有量が規定値を超えてしまいかねないことから、連続鋳造工程の途中において溶鋼への炭素混入(カーボンピックアップ)を極力防止することが必要である。
【0003】
溶鋼へ炭素が混入する要因として、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入する際に使用される注入管に起因するものがある。注入管は、取鍋に取り付けられるとともにその下部がタンディッシュ内の溶鋼に浸漬され、取鍋に設けられたノズルから流出した溶鋼流がタンディッシュに注入されるまでに外気と触れないようにカバーしつつ、溶鋼流を通過させるものである。
【0004】
この注入管は、一般的に、高温強度を確保するために、一定以上の炭素を含有した耐火物(例えば、アルミナカーボン組成の耐火物)である。その一方で、前述したように、この注入管は、その下部がタンディッシュ内の溶鋼に浸漬された状態で使用されるため、その浸漬部分に含有されている炭素が溶鋼中に溶出し、その結果、鋳造対象の極低炭素鋼の炭素含有量が上昇してしまう。
【0005】
特許文献1には、前述の注入管ではないが、取鍋に設けられたノズルであって、その下部がタンディッシュ内の溶鋼に浸漬するような長いノズル(いわゆる、ロングノズル)を使用した、極低炭素鋼の連続鋳造方法が開示されている。ロングノズル自体はアルミナカーボン組成の耐火物であるが、このロングノズルの下部の内面には、ドロマイトクリンカーを含有する、炭素レスの耐火物からなる内装体が内張りされている。このような構成により、炭素含有量が100ppm以下の極低炭素鋼を鋳造する際においても、ロングノズルから溶鋼への炭素の混入が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−125403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したロングノズルでは、ロングノズル内面に内装体を内張りする複雑な構造となる。また、内装体(耐火物)によりコストが高くなる。さらに、溶鋼への炭素混入(カーボンピックアップ)を防止する効果は、内装体がロングノズル内面に残存する時期に限られ、ロングノズルの使用にともなって内装体が除去されるにつれて、ロングノズル自体から溶鋼への炭素の混入が生じ、極低炭素鋼を鋳造することができない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、極低炭素鋼を鋳造するときに、溶鋼への炭素混入(カーボンピックアップ)を防止することができる、連続鋳造における注入管の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の連続鋳造における注入管の使用方法は、連続鋳造工程において取鍋の溶鋼をタンディッシュ内に注入するときに溶鋼流を通過させるために使用される注入管において、前記注入管の組成が、C:28〜34%、SiO:19〜25%、Al:41〜49%であり、前記注入管の前記タンディッシュ内の溶鋼に浸漬される部位の厚みが、40〜60mmであり、溶鋼中の炭素含有量が40ppm以下の極低炭素鋼を鋳造するに際して、前記極低炭素鋼を鋳造する直前のチャージに前記注入管を使用して、前記注入管の下部を前記タンディッシュ内の溶鋼に浸漬する。前記直前のチャージの溶鋼成分は、炭素含有量が0.3%以下である。また、前記直前のチャージの溶鋼に前記注入管の下部を浸漬させる浸漬時間は、60分以上である。ここで、チャージとは、取鍋からタンディッシュへ注入される、取鍋内に収容された溶鋼を示す。
【0010】
本発明によると、極低炭素鋼を鋳造する直前のチャージの鋳造に注入管を使用することにより、注入管の下部(浸漬部位)表面に含有された炭素が溶出し、注入管の浸漬部位の炭素含有量が減少する。この注入管を極低炭素鋼の連続鋳造に再使用することにより、極低炭素鋼の連続鋳造において、注入管から溶鋼への炭素混入を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の連続鋳造における注入管の使用方法によると、極低炭素鋼を鋳造する直前の鋳造に注入管を使用することにより、注入管の下部(浸漬部位)表面に含有された炭素が溶出し、注入管の浸漬部位の炭素含有量を減少させることができる。この注入管を極低炭素鋼の連続鋳造に再使用することにより、極低炭素鋼の連続鋳造において、注入管から溶鋼への炭素混入(カーボンピックアップ)を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明の実施形態による注入管の使用状態を示す模式図であり、(b)は図1(a)に示す注入管の断面図である。
【図2】本発明の実施形態による注入管と同組成の試料を溶鋼へ浸漬したときの、浸漬時間と試料の表面脱炭量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。また、以下の説明において、「%」は「質量%」を示している。
【0014】
(注入管1の使用状態)
図1(a)に示すように、タンディッシュ11の上方には、転炉から連続鋳造設備に搬送された取鍋12が設けられている。取鍋12の底部には、円筒状の注入管1が取り付けられている。取鍋12には、前工程である溶鋼処理において成分と温度が調整された溶鋼が収容されている。タンディッシュ11には、取鍋12から供給された溶鋼2が一時的に収容されている。タンディッシュ11内の溶鋼2は、底部に設けられた浸漬ノズル13を介して鋳型14に注湯される。
【0015】
注入管1は、連続鋳造工程において、取鍋12の溶鋼をタンディッシュ11内に注入する時に、取鍋12からの溶鋼流を通過させるために使用される。注入管1によって、取鍋12からの溶鋼流が大気により汚染されることを防止することができる。具体的には、取鍋12からの溶鋼が酸化することにより介在物が発生することを防止する。注入管1の下部は、タンディッシュ11内に配置されており、後述するように、連続鋳造工程の定常状態においては、常時、タンディッシュ11内の溶鋼2に浸漬している。
【0016】
鋳造を開始したら、取鍋12内の溶鋼は、取鍋12の底部に形成された注入孔(図示せず)から注入管1の内部を通過してタンディッシュ11内へ注入され、その後、浸漬ノズル13を介して鋳型14へ注湯される。その後、溶鋼は、鋳型14内において、冷却され、凝固シェルを形成しながら下流へ搬送され、内部まで完全に凝固して鋳片となる。
【0017】
(注入管1)
本実施の形態に用いられる注入管1は、当業者に常用されているアルミナカーボン組成の耐火物である。図1(b)に示すように、注入管1は、上端から下方に向けて一定の厚み及び一定の内径を維持しながら延在した後、下方に向けて、厚み及び内径が漸増していき、その後、下端まで一定の厚み及び一定の内径を維持しながら延在している。以下に、本実施形態に用いられる注入管1の組成(主要な成分)の一例を示す。
C :28〜34%
SiO:19〜25%
Al:41〜49%
その他(*1):12%以下
*1 その他(Fe,TiO,MgO,NaO,KO,ZrO
【0018】
注入管1は、内径(図1(b)におけるR)が450〜510mmであり、厚み(図1(b)におけるT)が40〜60mmであり、高さ(図1(b)におけるH)が1700mmのものを使用することができる。
【0019】
連続鋳造の定常状態においては、取鍋12からタンディッシュ11内に所定流量で溶鋼が供給されており、タンディッシュ11内には、常時、所定量の溶鋼2が収容されている。このため、連続鋳造の定常状態においては、注入管1の下部が、タンディッシュ11内に保持された溶鋼2に常に浸漬されている。タンディッシュ11内の溶鋼2に浸漬した注入管1の浸漬部位は、注入管1の下端から上方へ向けて最大約400mmの長さ(以下、「浸漬深さ」と呼ぶ)である。注入管1の浸漬部位の厚みは、40〜60mmとなっている。なお、浸漬深さは、タンディッシュ11内の溶鋼量によって変化するが、鋳造工程においては、この重量(溶鋼量)を制御することによって、浸漬深さが一定に管理されている。
【0020】
(連続鋳造における注入管1の使用方法)
次に、連続鋳造における注入管1の使用方法を説明する。本実施の形態に係る注入管1の使用方法は、
(1)極低炭素鋼よりも炭素含有量の高い鋼種の鋳造に未使用の注入管1を使用し、
(2)次に、(1)で使用した注入管を極低炭素鋼の鋳造に再使用する、
という方法である。なお、以下において、「前チャージ」とは、極低炭素鋼を鋳造する前のチャージ、すなわち、上記(1)の未使用の注入管1が使用される鋳造のチャージを示す。また、「チャージ」とは、取鍋からタンディッシュへ注入される、取鍋内に収容された溶鋼を示す。
【0021】
(1)極低炭素鋼よりも炭素含有量の高い鋼種の鋳造に未使用の注入管1を使用する
極低炭素鋼を鋳造する前に、極低炭素鋼よりも炭素含有量の高い鋼種の鋳造に注入管1を使用する。図1(a)に示すように、未使用の注入管1を、空のタンディッシュ11に取り付ける。次に、極低炭素鋼よりも炭素含有量の高い鋼種に調整された溶鋼が収容された取鍋12を、注入管1の直上に搬送し、取鍋12からタンディッシュ11へ溶鋼の供給を開始する。以上のようにして、極低炭素鋼よりも炭素含有量の高い鋼種の鋳造(以下、前チャージの鋳造と呼ぶ)を開始する。
【0022】
鋳造の定常状態では、取鍋12内の溶鋼が、所定の流量で、注入管1の内部を通過してタンディッシュ11内へ供給される。このとき、タンディッシュ11内には、常時、所定量の溶鋼2が保持されている(図1(a))。このため、鋳造の定常状態では、注入管1の下部が、常時、タンディッシュ11内の溶鋼2に浸漬している。取鍋12内の溶鋼の残量が所定値以下となり、取鍋12が略空になったら、取鍋12からタンディッシュ11への溶鋼の供給を停止する。このようにして、前チャージの鋳造が終了する。前チャージの鋳造が終了したら、注入管1をタンディッシュ11から取り出す。
【0023】
上述の前チャージの鋳造において、注入管1の下部では、以下の反応が起こっている。タンディッシュ11内の溶鋼2に浸漬した注入管1の浸漬部位の表面では、注入管1に含まれた炭素(C)とSiOとが反応し、炭素はCOとして溶鋼2中に溶出する(以下、この反応を「脱炭反応」と呼ぶ。)。脱炭反応は、注入管1の浸漬部位の表面で発生し、時間の経過に伴って表面から内部へ進行する。こうして、注入管1の浸漬部位は、表面から内部に向けて所定の厚みだけ脱炭され、この厚みの部位においては炭素含有量が略0(炭素が殆ど含まれていない状態)となる。
【0024】
<注入管1の保管>
タンディッシュ11から取り出した注入管1を、保温ボックス内で保管する。保温容器には、例えば、内部に断熱材が施工された金属製の保温容器(保温ボックス)を用いる。なお、注入管1を保管する際に、注入管1を加熱する必要はないが、高温状態を維持しながら注入管1を保管することが好ましい。また、注入管1の保温は必要に応じて行われ、注入管1を、保管することなく、後述する極低炭素鋼の鋳造に続けて使用してもよい。
【0025】
(2)(1)で使用した注入管を極低炭素鋼の鋳造に再使用する
次に、前チャージの鋳造に使用した注入管1を用いて、前チャージと鋼種の異なる極低炭素鋼を鋳造する。なお、鋳造方法は、前チャージの鋳造方法とほぼ同様な方法であるため、説明を省略する。
【0026】
極低炭素鋼のチャージを含む複数のチャージ(以下、「後チャージ」と示す)の連続鋳造を行いながら、合計鋳造時間が一定時間に達したら、注入管1の使用を停止する。ここで、後チャージは、極低炭素鋼だけに限られず、極低炭素鋼と異なる鋼種のチャージを含んでいてもよい。また、極低炭素鋼の鋳造は、前チャージの鋳造直後に限られない。例えば、後チャージ(複数のチャージ)に極低炭素と異なる他の鋼種(高炭素鋼、中炭素鋼及び低炭素鋼など)のチャージを含め、極低炭素鋼の鋳造の前後に他の鋼種の鋳造を行ってもよい。
【0027】
以下に、本実施形態に係る極低炭素鋼の溶鋼成分(主要成分(主要元素))の一例を示す。
C :40ppm以下
Mn:0.15〜0.25%
Al:0.015〜0.025%
N :44ppm以下
Ti:0.03〜0.07%
P :0.035%以下
S :0.01%以下
*1 その他(Fe,TiO,MgO,NaO,KO,ZrO
【0028】
(注入管1の使用方法における条件)
以下に、上述の注入管1の使用方法における条件を説明する。
【0029】
<前チャージの鋼種(未使用の注入管1が使用される溶鋼の鋼種)>
注入管1の浸漬部位の表面で脱炭反応が起こるかどうかは、溶鋼の炭素含有量が影響している。溶鋼の炭素含有量が多い場合は、浸漬部位の表面で脱炭反応が殆ど起こらない。これは、溶綱中の酸素量が少ないためである。このため、前チャージには、炭素含有量が一定以下の鋼種を用いることが必要である。その一方で、極低炭素鋼のような炭素含有量が少ない鋼種では、溶鋼へ微量な炭素が混入した場合でも、鋼種に影響が生じる。そこで、前チャージでは、脱炭反応が起こりつつ、炭素が溶出しても問題のない鋼種の溶鋼を用いる。具体的には、炭素含有量が0.3%以下である低炭素鋼を用いることが好ましい。なお、炭素含有量が100ppm以上である鋼種、さらには、炭素含有量が0.05%以上であり且つ0.25%以下である鋼種がより好ましい。
【0030】
<前チャージの鋳造において、注入管1をタンディッシュ11内の溶鋼2に浸漬する時間> 浸漬時間が短い場合、注入管1の浸漬部位では十分な脱炭が行われないため、浸漬時間を60分以上とすることが好ましい。
【0031】
以下に、図2を用いて、注入管の浸漬時間と脱炭反応との関係を示す実験例を説明する。図2は、『市川健治、外3名、「浸漬ノズル13材質と溶鋼との反応性(第2報)」、Shinagawa Techinical Report Vol.38 1995 p.33‐41』に示された実験結果である。
【0032】
この実験では、Al‐SiO‐C材質の試料(注入管1と同組成の試料)を溶鋼に浸漬した際の、浸漬時間と試料の表面脱炭量との関係を調べている。試料は、以下の方法により作製された。Cが30%であり、SiOが23%であり、且つ、Alが46%で配合されたものに、フェノール樹脂をバインダーとして加えて混合した後、CIP成形し、成形された物を1000℃で焼成して、Al‐SiO‐C材質の耐火物を得た。この耐火物を20×20×230mmに加工したものを試料とした。なお、試料の作製に際しては、試料の耐スポール性を損なわない範囲で超微粉を最大限に増やし、浸漬試験時の耐火物組織の脆化を最小限に抑止するようにした。
【0033】
上述の方法により作製された試料を、高周波誘導炉によりアルミナ坩堝中で溶解された低炭素鋼の溶鋼に浸漬した。この浸漬時間を10分,30分,60分,120分とした。アルミナ坩堝中の低炭素鋼の成分を、下記表1に示す。なお、試料を溶鋼へ浸漬させたときのアルミナ坩堝中の溶鋼温度は1650±50℃であった。また、実験は、Ar雰囲気下で行われた。
【表1】



【0034】
図2に示すように、浸漬時間が60分以上(60分,120分)では、試料の表面脱炭量が一定となり、脱炭反応が進行していないと考えられる。一方、浸漬時間が60分まででは、試料の表面脱炭量が増加していき、脱炭反応が内部へ進行しているものと考えられる。
【0035】
以上の結果から、試料と同組成の注入管1の浸漬部位に含まれる炭素を低減させるためには、浸漬時間を60分以上とすることが好ましいことがわかる。なお、鋳造の1チャージは約60分で終了するため、注入管1の浸漬部位の脱炭を完了するためには、低炭素鋼を1チャージだけ鋳造すればよい。
【0036】
<注入管1の合計使用時間(合計浸漬時間)>
注入管1は耐火物であるため、注入管1を高温の溶鋼に浸漬したら、浸漬部位が損傷(溶損)する。浸漬部位は、浸漬時間が増加するにつれて厚みが減少し、これが要因となって、注入管1が破損する。このため、注入管1の使用時間を一定時間とする。具体的には、注入管1の合計使用時間(合計浸漬時間)を、1000分以下とすることが好ましい。ここで、「合計使用時間(合計浸漬時間)」は、「前チャージの鋳造及び後チャージ(複数チャージ)の鋳造において注入管1をタンディッシュ11内の溶鋼に浸漬した合計浸漬時間」を意味する。
【0037】
以上に述べたように、本実施の形態の連続鋳造における注入管の使用方法によると以下の効果を奏する。極低炭素鋼を鋳造する前に、極低炭素鋼より炭素含有量の高い鋼種の鋳造に未使用の注入管1を使用することにより、注入管の浸漬部位の表面に含有された炭素が溶鋼へ溶出し、浸漬部位の炭素含有量を減少させることができる。この注入管を極低炭素鋼の鋳造に再使用することにより、極低炭素鋼の鋳造工程において、注入管から溶鋼への炭素混入を防止することができる。
【実施例】
【0038】
次に本発明に係る実施例を説明する。また、以下の説明において、「%」は「質量%」を示している。
【0039】
(実施例1〜10,比較例1〜6)
表1,2に示すように、注入管の組成、極低炭素鋼を鋳造する直前のチャージ(以下、「前チャージ」と示す。)の溶鋼の炭素含有量、前チャージの鋳造において注入管をタンディッシュ内の溶鋼へ浸漬させた時間(浸漬時間)、極低炭素鋼の溶鋼成分、注入管の浸漬深さ、及び、注入管の合計浸漬時間が異なる実施例1〜10及び比較例1〜6について、極低炭素鋼の鋳造における炭素含有量の増加の有無及び注入管の破損の有無を調べた。
【0040】
[注入管の使用方法]
最初に、未使用の注入管を使用して、所定の炭素含有量(表1,2に示す「前チャージの溶鋼のC含有量」)に調整されたチャージを鋳造した(前チャージの鋳造)。なお、注入管には、表1,2に示す以下の組成(主要な成分)のものを使用した。
<注入管組成(未使用)>
C :28〜34%
Al:41〜49%
SiO:19〜25%
その他(*1):12%以下
*1 その他(Fe,TiO,MgO,NaO,KO,ZrO
【0041】
前チャージの鋳造において、注入管の下部をタンディッシュ内の溶鋼へ浸漬した時間を、表1,2に示す「前チャージの鋳造における浸漬時間」とした。前チャージの鋳造終了後、注入管をタンディッシュから取り出し、保管ボックスに高温状態で保管した。保管ボックスには、内部に断熱シートが貼り付けられた鉄製のボックスを用いた。また、この保管ボックスは、上部から注入管を装入可能な構造のものであった。次に、保管ボックスに保管された注入管を用いて、極低炭素鋼を含む複数のチャージの連続鋳造を行った。極低炭素鋼には、表1,2に示す以下の組成(主要成分(主要元素))の溶鋼を用いた。なお、以下の極低炭素鋼の溶鋼成分(表1,2)は、タンディッシュ内の溶鋼の組成である。
<極低炭素鋼の溶鋼の組成(主な成分)>
C :34ppm以下
Mn:0.15〜0.25%
Al:0.015〜0.025%
N :44ppm以下
Ti:0.03〜0.07%
S :0.01%以下
P :0.035%以下
*1 その他(Fe,TiO,MgO,NaO,KO,ZrO
【0042】
複数のチャージの連続鋳造を終了した後、注入管をタンディッシュから取り出し、注入管の破損の有無を調べた。また、前チャージの鋳造及び複数のチャージの連続鋳造において、注入管をタンディッシュ内の溶鋼へ浸漬した浸漬時間を表1,2に示す合計浸漬時間とした。なお、鋳造途中において、注入管の浸漬深さは、タンディッシュ内の溶鋼量によって変化するが、上述の鋳造工程においては、溶鋼の重量(溶鋼量)を制御することによって、浸漬深さを一定に制御した。
【0043】
<極低炭素鋼の鋳造における炭素含有量の増加>
以下の方法によって、極低炭素鋼の鋳造における炭素含有量の増加の有無を調べた。
極低炭素鋼の鋳造を開始したら、取鍋内の溶鋼が注入管の内部を通過してタンディッシュ内へ供給される。タンディッシュ内の溶鋼は、浸漬ノズルを介して鋳型内に注入され、凝固シェルを形成しながら鋳型内を通過する。溶鋼が鋳型を通過したときを鋳造開始時(0分)として、鋳造開始時(0分)のタンディッシュ内の溶鋼を専用のサンプラーに採取した。その後、鋳造が安定したときに、タンディッシュ内の溶鋼を専用のサンプラーに採取した。これらのサンプル(試料)を分析して溶鋼の化学成分値を求めた。そして、鋳造安定時のサンプルの炭素含有量と、鋳造開始時(0分)のサンプルの炭素含有量と、の差を炭素増加量とした。炭素増加量が略0であるときを炭素増加「無」とし、それ以外のときを炭素増加「有」とした。
【0044】
<注入管の破損>
上述の全てのチャージ(前チャージ及び複数チャージ)の鋳造が完了した後、タンディッシュから取り出した注入管の下部を目視により観察し、注入管の浸漬部位の破損の有無を確認した。
【0045】
以上の方法によって行った実施例1〜10及び比較例1〜6における実験条件及びその結果を表1,2に示す。なお、表1,2における実験条件は、以下の通りである。
・注入管組成(未使用):(前チャージの鋳造前における)未使用の注入管の主な成分
・注入管の厚み(mm):未使用の注入管の下部(タンディッシュ内の溶鋼に浸漬される浸漬部位)の厚み(mm)
・前チャージの溶鋼のC含有量(%):前チャージ(初回のチャージ)の溶鋼の炭素含有量(%)
・前チャージの鋳造における浸漬時間(分):前チャージ(初回のチャージ)の鋳造において、注入管の下部をタンディッシュ内の溶鋼に浸漬した時間(分)
・極低炭素鋼の溶鋼成分(鋳造開始時):極低炭素鋼の鋳造開始時(0分)における、タンディッシュ内の溶鋼の主な成分
・注入管の浸漬深さ(mm):全てのチャージ(前チャージ及び複数チャージ)の鋳造が終了した後に、タンディッシュから取り出した注入管の下端を目視で観察した。そして、注入管の浸漬深さを以下の長さとした。タンディッシュ内の溶鋼の表面にはスラグが浮遊しており、スラグと注入管が接する部分では、注入管(耐火物)の損傷が大きかった。そこで、損傷の大きな部分を浸漬深さの上端とし、損傷の大きな部分から注入管の下端までの距離を浸漬深さとした。なお、注入管の浸漬深さは、最大400mmとした。
・合計浸漬時間(分):前チャージの鋳造のときに注入管をタンディッシュ内の溶鋼に浸漬した時間と、(前チャージの鋳造後に行った)複数チャージの連続鋳造のときに注入管をタンディッシュ内の溶鋼に浸漬した時間と、の合計浸漬時間(分)
【0046】
【表2】



【0047】
【表3】



【0048】
なお、表2において、比較例2〜5の炭素増加「有」では、炭素増加量が3ppmであった。
【0049】
本願発明に係る実施例1〜10では、極低炭素鋼の鋳造のときに炭素量が増加しなかった。これは、前チャージの溶鋼の鋳造のときに、注入管の浸漬部位に含まれた炭素が殆ど排出されたためと考えられる。一方、比較例2〜5では、極低炭素鋼の鋳造のときに炭素量が増加した。極低炭素鋼の鋳造においては、比較例2〜5のような、炭素含有量のわずかな増加(3ppm)でも、製品に対して大きな影響を与える。比較例2,4は、前チャージの溶鋼の炭素含有量が多かったため、前チャージの鋳造のときに、注入管の浸漬部位において脱炭反応が殆ど起こらず、浸漬部位に炭素が残存したものと考えられる。また、比較例3,5は、前チャージの鋳造のときに、注入管をタンディッシュ内の溶鋼に浸漬する時間が短かったため、脱炭反応が浸漬部位の内部まで十分に進行せず、浸漬部位に炭素が残存したもの考えられる。
【0050】
また、実施例1〜10では、注入管の破損が確認されなかったが、比較例1,6では、注入管の破損が確認された。比較例1,6では、前チャージ及び複数チャージの鋳造における注入管の合計浸漬時間が1000分を超えため、注入管が溶損し破損した。
【0051】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【産業上の利用分野】
【0052】
本発明は、鉄鋼業における連続鋳造プロセスにおいて、取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入するときに、取鍋とタンディッシュとの間を通過する溶鋼を大気からシールする目的で使用される注入管の使用方法に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 注入管
2 溶鋼
12 取鍋
11 タンディッシュ
13 浸漬ノズル
14 鋳型







【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造工程において取鍋の溶鋼をタンディッシュ内に注入するときに溶鋼流を通過させるために使用される注入管において、
前記注入管の組成が、C:28〜34%、SiO:19〜25%、Al:41〜49%であり、
前記注入管の前記タンディッシュ内の溶鋼に浸漬される部位の厚みが、40〜60mmであり、
溶鋼中の炭素含有量が40ppm以下の極低炭素鋼を鋳造するに際して、前記極低炭素鋼を鋳造する直前のチャージに前記注入管を使用して、前記注入管の下部を前記タンディッシュ内の溶鋼に浸漬するものとし、
前記直前のチャージの溶鋼成分の炭素含有量は、0.3%以下であり、
前記直前のチャージの溶鋼に前記注入管の下部を浸漬させる浸漬時間は、60分以上であることを特徴とする連続鋳造における注入管の使用方法。















【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−230154(P2011−230154A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102633(P2010−102633)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】