説明

連続鋳造圧延銅線の製造方法

【課題】連続鋳造圧延後の銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却を確実に行うことができると共に、低級アルコールに替わる新たな還元剤を添加した水溶液を使用することにより、VOCの削減もしくは著しい低減を図ることができる、連続鋳造圧延銅線の製造方法を提供すること。
【解決手段】溶銅を連続鋳造することにより得られたキャストバーを引き続いて熱間圧延し、前記熱間圧延により所定のサイズに縮径された銅線の表面に形成された酸化膜を除去すると共に前記銅線を冷却する連続鋳造圧延銅線の製造方法において、前記銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却方法として、炭素からなる還元剤を添加した水溶液を使用し、前記水溶液に前記銅線を接触させることを特徴とする、連続鋳造圧延銅線の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造圧延銅線の製造方法に関するものであり、特に、連続鋳造圧延後の銅線の表面に形成された酸化膜を除去すると共に前記銅線を冷却する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、荒引き線と称する比較的太いサイズの銅線は、溶銅を連続鋳造することにより得られたキャストバーを引き続いて熱間圧延し、前記熱間圧延により所定のサイズに縮径された銅線の表面に形成された酸化膜を除去すると共に前記銅線を冷却し、前記により得られた銅線をコイル状に巻き取ることにより製造されるのが一般的である。
【0003】
この方法において、前記銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却方法としては、銅の酸化膜の還元あるいは溶解と共に、銅の酸化の進行の抑止及び冷却のため、還元剤として親水性のある低級アルコールを添加した水溶液を使用し、この水溶液に銅線を接触させることが行われている。
【0004】
還元剤としての低級アルコールは、揮発性有機化合物(以下、VOCと称する)の一つであり、このような低級アルコールを添加した水溶液に、例えば500〜600℃の温度に加熱された状態にある熱間圧延後の銅線を接触させると、水溶液が加熱され、VOCが揮発するという問題がある。
【0005】
VOCの揮発は、大気汚染とそれに伴う人体への影響が懸念される原因の一つとされるところであり、したがって、環境問題からVOCを削減しなければならず、VOCに替わる新たな還元剤の開発が要求されている。
【0006】
なお、連続鋳造圧延後の銅線の表面に形成された酸化膜の除去方法としては、上記以外に、ショットブラスト法やシェービング法などの機械的な除去方法、酸洗いによる除去方法、蒸気もしくは還元性ガスによるガス還元方法などが存在するが、製造工程の連続性、製造効率、設備コスト等を総合的に考えると、低級アルコールなど還元剤を添加した水溶液を使用する方法が工業的には非常に有利である。
【0007】
関連する先行技術として、特許文献1には、連続鋳造圧延後の銅線の表面を、脂肪族一価アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、アルキル及びアルカノール第一アミン類、第二アミン類、第三アミン類、それ等の混合物の各グループから選ばれた少なくとも1つの有機化合物の水溶液で処理することが記載されている。また、この有機化合物の添加剤に関しては、特許文献1には、水溶性であることが望ましい、そして、望ましい脂肪族一価アルコール類としては、炭素原子の数が6つ迄のものであるとあり、有機化合物として揮発性の低級アルコール類の使用が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、連続鋳造圧延後の銅線の表面を、イソプロピルアルコール、炭水化物(多糖類)、アルデヒド、ケトン、エステル、アミン又はそれらの水溶液からなる還元性溶液で処理することが記載されている。イソプロピルアルコールは低級アルコールの代表的なものである。
【0009】
また、特許文献3には、連続鋳造圧延後の銅線の表面を、イソプロピルアルコールやエタノールからなる還元剤を添加した炭化水素含有希釈水溶液で処理することが記載されている。イソプロピルアルコール及びエタノールは、いずれも揮発性の低級アルコールである。
【0010】
【特許文献1】特開昭49−134529号公報
【特許文献2】特開2006−255717号公報
【特許文献3】特表2003−533591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記したように、還元剤としての低級アルコールは、揮発性有機化合物(以下、VOCと称する)の一つであり、このような低級アルコールを添加した水溶液に、例えば500〜600℃の温度に加熱された状態にある熱間圧延後の銅線を接触させると、水溶液が加熱され、VOCが揮発するという問題がある。VOCの揮発は、大気汚染とそれに伴う人体への影響が懸念される原因の一つとされるところであり、したがって、環境問題からVOCを削減しなければならず、低級アルコールに替わる新たな還元剤の開発課題が存在する。
【0012】
これに対し、特許文献1〜3に記載の処理方法は、いずれも還元剤として揮発性の低級アルコール類を中心に使用するものである。特許文献2には、炭水化物(多糖類)の使用が記載されているが、低級アルコールの、イソプロルアルコールに替わる還元剤として列挙されているに過ぎない。
【0013】
したがって、本発明の目的は、連続鋳造圧延後の銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却を確実に行うことができると共に、低級アルコールに替わる新たな還元剤を添加した水溶液を使用することにより、VOCの削減もしくは著しい低減を図ることができる、連続鋳造圧延銅線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、溶銅を連続鋳造することにより得られたキャストバーを引き続いて熱間圧延し、前記熱間圧延により所定のサイズに縮径された銅線の表面に形成された酸化膜を除去すると共に前記銅線を冷却する連続鋳造圧延銅線の製造方法において、前記銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却方法として、炭素からなる還元剤を添加した水溶液を使用し、前記水溶液に前記銅線を接触させることを特徴とする連続鋳造圧延銅線の製造方法を提供する。
【0015】
上記において、前記炭素としては、例えば、工業用カーボンブラック、活性炭、グラファイトを使用することができる。
【0016】
また、上記において、銅線の冷却は、酸化の進行抑止の観点から、常温近くまで冷却することが好ましいが、常温より高くてもよい。
【0017】
この連続鋳造圧延銅線の製造方法によれば、特に、炭素からなる還元剤を添加した水溶液を使用することにより、連続鋳造圧延後の銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却を確実に行うことができると共に、還元剤として揮発性の低級アルコールを使用しないことから、VOCの揮発がなくなり、VOCの削減もしくは著しい低減を図ることができる。これにより環境問題を改善することができる。
【0018】
請求項2の発明は、前記還元剤が、炭素の粉末体からなることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造圧延銅線の製造方法を提供する。
【0019】
この連続鋳造圧延銅線の製造方法によれば、上記効果に加えて、還元剤として炭素の粉末体を使用することにより、還元剤の表面積の増加させることができるので、還元剤の還元効果を高めることができる。この意味で、前記炭素としてカーボンナノチューブ、カーボンナノホーンを使用すれば、その表面積を更に増加させることができるので、更なる効果の増大を期待することができる。
【0020】
請求項3の発明は、前記炭素が、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンのいずれか1種からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の連続鋳造圧延銅線の製造方法を提供する。
【0021】
この連続鋳造圧延銅線の製造方法によれば、上記効果に加えて、還元剤としての炭素に実用的な構造を採用することにより、本発明の工業的な実用化を可能にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の連続鋳造圧延銅線の製造方法によれば、連続鋳造圧延後の銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却を確実に行うことができると共に、低級アルコールに替わる新たな還元剤として炭素を添加した水溶液を使用することにより、VOCの削減もしくは著しい低減を図ることができる。これにより環境問題を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
図1は、連続鋳造圧延銅線の製造工程の概略をフローチャートで示したものである。図1の左から、(I)は銅の溶解・鋳造工程、(II)は銅線の熱間圧延工程、(III)は銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び銅線の冷却工程、(IV)は銅線のコイル巻き工程を示し、銅線は矢印に沿って順次右側に移行する。
【0025】
(I)の銅の溶解・鋳造工程では、シャフト炉、保持炉、ベルトキャスタータイプの連続鋳造機を使用して銅のキャストバーを製造し、(II)の銅線の熱間圧延工程では、前記連続鋳造機に連結された熱間圧延機を使用して前記キャストバーを段階的に所望のサイズ(通常10mm前後)に縮径する。(III)の銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び銅線の冷却工程では、所定に領域において、還元剤を添加した水溶液を使用して銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び銅線の冷却を行う。
【0026】
(I)〜(IV)の工程は、いずれも一つのライン中で連続的に行われる。なお、(IV)のコイル巻き工程では、コイリングマシーンが使用される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0028】
(実施例1)
溶銅を連続鋳造後熱間圧延して直径10mmの銅線を製造し、引き続き、500〜600℃に高温加熱された状態にある前記銅線の表面に形成された酸化膜を除去すると共に前記銅線を冷却するにあたり、還元剤として活性炭の部粉末を1wt%添加した水溶液を使用し、前記水溶液に前記銅線を接触させる処理を行った。
【0029】
この結果、前記処理により前記銅線の表面の酸化膜の厚さは、一つの基準値である0.05μm以下を満足し、且つ、前記水溶液からのVOCの揮発はゼロであることを確認した。
【0030】
本実施例によれば、還元剤として活性炭の微粉末を使用することにより、還元剤の表面積の増加させることができるので、還元剤による還元効果を高めることができる。また、従来のように還元剤として揮発性の低級アルコールを使用するものではないので、VOCの揮発がなくなり、VOCの削減もしくは著しい低減を図ることができる。
【0031】
また、本実施例では、還元剤として活性炭の微粉末を使用したが、これ以外に還元剤として工業用カーボンブラック、活性炭、グラファイトを使用しても同様の効果を得ることは勿論であり、特に、それらの粉末体や、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンを使用した場合には、還元剤の還元効果を高めることができるので、銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び銅線の冷却を極めて効率的に行うことができる。
【0032】
(比較例1)
溶銅を連続鋳造後熱間圧延して直径10mmの銅線を製造し、引き続き、500〜600℃に高温加熱された状態にある前記銅線の表面に形成された酸化膜を除去すると共に前記銅線を冷却するにあたり、還元剤としてイソプロピルアルコールを1wt%添加した水溶液を使用し、前記水溶液に前記銅線を接触させる処理を行った。
【0033】
この結果、前記処理により前記銅線の表面の酸化膜の厚さは、一つの基準値である0.05μm以下を満足したが、前記水溶液から、還元剤として添加したイソプロピルアルコールの90%が揮発したことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造圧延銅線の製造方法の工程フローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銅を連続鋳造することにより得られたキャストバーを引き続いて熱間圧延し、前記熱間圧延により所定のサイズに縮径された銅線の表面に形成された酸化膜を除去すると共に前記銅線を冷却する連続鋳造圧延銅線の製造方法において、前記銅線の表面に形成された酸化膜の除去及び前記銅線の冷却方法として、炭素からなる還元剤を添加した水溶液を使用し、前記水溶液に前記銅線を接触させることを特徴とする連続鋳造圧延銅線の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤が、炭素の粉末体からなることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造圧延銅線の製造方法。
【請求項3】
前記炭素が、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンのいずれか1種からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の連続鋳造圧延銅線の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−64078(P2010−64078A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229965(P2008−229965)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】