説明

連続鋳造鋳片の製造方法

【課題】鋳造条件の変動により鋳片温度が上昇した場合であっても中心偏析や中心ポロシティの抑制された鋳片の製造が可能な連続鋳造鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】凝固末期の鋳片を圧下して連続鋳造する連続鋳造鋳片の製造方法であって、通常の鋳片の二次冷却を終了した後に、鋳片厚み中心部の固相率が0.2〜1.0の範囲である部分を圧下するに際し、前記圧下開始前後の鋳片表面に、さらに局所冷却である鋳片の二次冷却を行うことにより、前記圧下開始直前の鋳片の表面温度を900〜950℃に制御することを特徴とする連続鋳造鋳片の製造方法。前記局所冷却を、エアーミストによる二次冷却とし、かつ、局所冷却全体での冷却水量を30L/min以上150L/min、エアー流量を冷却水量で除した値である気水比を30以上100以下とすることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素鋼、合金鋼全般における鋳片の連続鋳造において、中心偏析を抑制した、内部品質の良好な連続鋳造鋳片を得ることを可能とする、連続鋳造鋳片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続鋳造鋳片を製造する際において、中心偏析の発生は避けがたい問題である。この中心偏析は、連続鋳造鋳片の凝固過程における、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)等の溶鋼の成分元素の鋳片中心部への濃化現象によって発生する。中心偏析部を有する連続鋳造鋳片を圧延した場合には、中心偏析部の延性不良等に起因する破断等の品質欠陥問題が発生する。
【0003】
特許文献1には、連続鋳造鋳片の中心偏析抑制方法として、鋳片厚さの2〜5倍の直径を有する、連続鋳造機内に配置された圧下ロールを用いて鋳片の凝固末期部(最終凝固部)を圧下することにより、中心偏析やポロシティを低減させる方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、鋳片の最終凝固部の、鋳造方向の上流側に設置した電磁攪拌装置または超音波印加装置を用いて、鋳片内部の溶鋼を強制的に流動させ、凝固したデンドライトを切断することにより最終凝固部(凝固完了点)付近に等軸晶を形成させた上で、最終凝固部直前に配置した圧下ロールにより、凝固収縮相当量以上の3〜20mm程度の圧下を与えて強制的に凝固完了点を形成し、鋳片の内部割れを発生させることなく中心偏析を防止する方法が開示されている。
【0005】
連続鋳造鋳片の鋳造時には、鋳造条件が変動した場合、例えば鋳造速度が増加した場合や溶鋼温度が上昇した場合などには、鋳片圧下時の鋳片温度の上昇に伴って鋳片の変形抵抗の低下が生じる。鋳片の変形抵抗が低下すると、その結果として、鋳片中心部へのローラーによる圧下の浸透性が低下する。そして、圧下浸透性が低下することに起因して、中心偏析の悪化や中心ポロシティの残存といった鋳片の内部品質の悪化問題が生じる可能性が存在する。しかし、特許文献1および特許文献2に記載の技術では、ローラーによる圧下浸透性を向上させることができないため、この問題に対処することができない。
【0006】
特許文献3には、鋳片の厚み中心部の固相率が少なくとも0.5になる時点までは、鋳片の長辺側中央部の表面温度を750℃以上に保ち、鋳片の厚み中心部の固相率が0.5を超え且つ圧下を継続している時点で、鋳片の長辺側中央部の表面温度を850℃以下に制御することで、軽圧下を効果的に作用させ、鋳片の中心偏析を低減できる方法が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献3に記載の方法では、表面温度が850℃以下の鋳片を圧下するため、特に表面温度が800℃以下の鋳片を圧下した場合には、鋼の脆化温度域での圧下歪みに起因する鋳片の表面割れが発生する可能性がある。そのため、中心偏析が低減され、鋳片の中心の品質が良好であったとしても表面の品質が低下する問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−124352号公報
【特許文献2】特願昭61−42460号公報
【特許文献3】特願2008−207201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、特許文献1〜3に記載の連続鋳造鋳片の中心偏析を抑制する技術は、連続鋳造機内に設けられたローラーを用いて鋳片を圧下するという手法を用いるものであった。そして、特許文献1および2に記載の技術における、鋳片の温度が高い場合に、鋳片の中心部への圧下浸透性の低下にともなう中心偏析の悪化が生じる可能性があるという問題点、および特許文献3に記載の技術における、鋳片の中心偏析の発生を抑制できても、表面割れが発生するという問題点については、いずれの特許文献にも解決手法は明記されていなかった。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、鋳造条件の変動が生じ
鋳片温度が上昇しても、中心偏析、中心ポロシティおよび表面割れが抑制された鋳片の製造が可能な連続鋳造鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について検討した結果、鋳片の表面をローラーで圧下する直前に冷却して、局所的に鋳片の表面の温度を低下させることに想到した。温度低下をともなう鋳片の表層部に限定して変形抵抗を増加させ、鋳片の表層部の変形抵抗と鋳片の中心部の変形抵抗との比(鋳片の表層部の変形抵抗を鋳片の中心部の変形抵抗で除した値)を増大させることによって、鋳片の中心部へのローラー圧下の浸透性を向上させることができ、中心偏析を安定して抑制することが可能である。そして、本発明者らは、通常の連続鋳造では行われていない、鋳片の厚み中心部の固相率が0.2〜1.0である部分の圧下前後における二次冷却を局所的に行うことにより、実際に中心偏析の発生を抑制することができることを知見した。
【0012】
また、上記の連続鋳造鋳片の製造方法において、局所的な鋳片の表面の冷却の強度を適切に制御することによって、鋳片の脆化温度域を回避し、鋳片の表面割れの発生を防止することも可能であることを知見した。
【0013】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記(1)および(2)の連続鋳造鋳片の製造方法を要旨としている。
【0014】
(1)凝固末期の鋳片を圧下して連続鋳造する連続鋳造鋳片の製造方法であって、通常の鋳片の二次冷却を終了した後に、鋳片厚み中心部の固相率が0.2〜1.0の範囲である部分を圧下するに際し、前記圧下開始前後の鋳片表面に、さらに局所冷却である鋳片の二次冷却を行うことにより、前記圧下開始直前の鋳片の表面温度を900〜950℃に制御することを特徴とする連続鋳造鋳片の製造方法。
【0015】
(2)前記局所冷却が、エアーミストによる二次冷却であって、かつ、局所冷却全体での冷却水量が30L/min以上150L/minであり、エアー流量を冷却水量で除した値である気水比が30以上100以下であることを特徴とする(1)に記載の連続鋳造鋳片の製造方法。
【0016】
本発明において、「鋳片厚み中心部の固相率」とは、鋳片の厚さ方向の中心部における固相と液相の全体量に対する固相の割合を意味する。
【0017】
本明細書の記載において、「溶鋼過熱度」とは、実際に測定される溶鋼温度から平衡状態図等により求められる液相線温度を減じた温度差を意味する。
【0018】
また、以下の記述において、鋼の成分組成を表す「質量%」を、単に「%」とも表記する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の連続鋳造鋳片の製造方法によれば、炭素鋼、合金鋼全般を連続鋳造により製造する際に、鋳造条件の変動が生じて鋳片温度が上昇しても、鋳片の中心部へのローラー圧下の浸透性を向上させることができ、中心偏析や中心ポロシティの抑制された連続鋳造鋳片を安定して製造することができる。
【0020】
また、従来の鋳片の圧下方法では、圧下浸透性を向上させるには圧下量を増加させることが不可欠であったため、圧下量が過大となった場合には、圧下量とともに過大となった圧下歪みに起因する鋳片の表面割れが発生するという問題点が存在した。
【0021】
しかし、本発明の連続鋳造鋳片の製造方法では、圧下の対象となる鋳片の表面を局所的に冷却することによって、鋳片中心部へのローラー圧下の浸透性を向上させることが可能である。これにより、本発明の連続鋳造鋳片の製造方法では、鋳片の圧下量の増加は不要であり、圧下歪み自体は変化しないため、鋳片の表面割れ等の、鋳片の表面の品質への悪影響が生じる可能性は認められない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を実施するための連続鋳造機および周辺装置の縦断面の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.連続鋳造鋳片の製造方法の基本構成
図1は、本発明を実施するための連続鋳造機および周辺装置の縦断面の概略を示す図である。
【0024】
取鍋1に収容された溶鋼2は、タンディッシュ3に供給され、タンディッシュ3から浸漬ノズル4を経てメニスカス5を形成するように鋳型6内に注入される。鋳型6内に注入された溶鋼2は、鋳型6で冷却された後、鋳型6の下方に設けられた二次冷却ゾーン7において、図示しない二次冷却スプレーノズル群から噴射されるスプレー水により冷却され、凝固シェル8を形成して鋳片9となる。鋳片9は、その内部に未凝固の液相(溶鋼2)を保持したまま、ガイドロール対10によって支持されながらピンチロール対11により引き抜かれる。また、鋳片9は、ガイドロール対10のうち、鋳造方向下流側の鋳片圧下ゾーン12に配置されたものによって圧下される。図1では、複数対配置されたガイドロール対10のうち、1対にのみ符号を付している。
【0025】
2.圧下前鋳片冷却(局所冷却)
本発明の連続鋳造鋳片の製造方法では、二次冷却ゾーン7に加えて、二次冷却ゾーン7の鋳造方向下流側に設けられた圧下前鋳片冷却ゾーン(局所冷却ゾーン)13においても、さらなる二次冷却として、図示しない二次冷却スプレーノズル群から噴射されるスプレー水により鋳片9を局所的に冷却する(以下、このような鋳片の冷却を、「圧下前鋳片冷却」または「局所冷却」という)。鋳片9の局所冷却は、鋳片9の鋳片厚み中心部の固相率が0.2〜1.0の部分において、鋳片9のガイドロール対10に接する面(図1では天側および地側の両方の面)に対して行い、圧下開始直前の鋳片9の表面温度を900〜950℃に制御する。局所冷却ゾーン13は、図1に示すように、鋳片圧下ゾーン12の鋳造方向の上流端と重複する。
【0026】
このような鋳片の冷却を行うことによって、鋳片圧下ゾーン12に配置されたガイドロール対10によって圧下される鋳片9の表層部の変形抵抗と鋳片9の中心部の変形抵抗との比(鋳片9の表層部の変形抵抗を鋳片9の中心部の変形抵抗で除した値)を増大させることができる。そのため、鋳造条件が変動して鋳片9の温度が上昇しても、鋳片圧下ゾーン12に配置されたガイドロール対10による圧下の浸透性を向上させ、鋳片9の中心偏析や中心ポロシティを安定して抑制することができる。
【0027】
また、鋳片圧下ゾーン12に配置されたガイドロール対10による鋳片9の圧下量を増加させなくも、圧下の浸透性を向上させることができるため、鋳片9の圧下歪み自体は変化しない。そのため、鋳片9の表面割れ等の、鋳片9の表面の品質への悪影響が生じる可能性は認められない。
【0028】
鋳片厚み中心部の固相率が0.2〜1.0の部分(0.2を超えて大きくかつ1.0未満の部分)に対して局所冷却を行う理由は次の通りである。すなわち、鋳片厚み中心部の固相率が0.2以下の領域を圧下した場合には鋳片9の内部に圧下歪みによる内部割れが生じやすいからであり、鋳片9が完全に凝固して中心部固相率が1.0となった後では、鋳片9を圧下しても中心偏析を抑制する効果が得られないからである。
【0029】
鋳片9の局所冷却を行う領域は、鋳片圧下前5m以内であることが望ましい。すなわち鋳片9の局所冷却を行う領域の鋳造方向に対する上流端を、鋳片圧下ゾーン12の鋳造方向に対する上流端よりも上流側に5m以下とすることが望ましい。この範囲を超えて、鋳造方向の上流側から局所冷却を行った場合には、鋳片9全体の温度が低下して、単に鋳片9全体の変形抵抗が増大するだけである。そのため、期待する鋳片の中心偏析を抑制する効果を得ることは困難であるとともに、さらに脆化温度域での圧下歪みに起因する鋳片の表面割れが発生する可能性も生じる。
【0030】
鋳片9の局所冷却の冷却強度に関する条件は、局所冷却の範囲全体での冷却水量を30L/min以上150L/min未満、かつ気水比が30以上100以下とする。気水比とは、エアー流量と冷却水量の比、すなわちエアー流量を冷却水量で除した値である。冷却水量および気水比がともに上記範囲の最低値以下である場合には、鋳片の局所的温度低下が不足し、期待した中心偏析の抑制効果が得られない可能性が高い。冷却水量および気水比がともに上記範囲の最大値以上である場合には、鋳片の局所的温度低下が過大となり、圧下による鋳片の表面割れが生じ、表面疵指数の悪化にともなう問題が生じる可能性が高い。
【0031】
鋳片9の局所冷却は、圧下の対象面のみに行うことが、鋳片9の中心偏析を抑制する効果を得るための必要条件である。その理由は、非圧下面を冷却した場合には、非圧下面の変形抵抗が増大し、非圧下面を冷却しない場合よりも鋳片の中心部への圧下浸透性が低下するからである。
【0032】
上記条件で局所冷却を行う際に望ましい連続鋳造鋳片の製造条件は以下の通りである。鋳造速度:0.66〜0.85m/min、二次冷却比水量:0.18〜0.54L/kg−steel、局所冷却比水量:0.04〜0.18未満L/kg−steel、局所冷却ゾーン長さ:2.4〜7.2m、圧下速度:0.27〜1.28mm/min、総圧下量:40mm以下。
【0033】
上記製造条件のうち、二次冷却比水量とは、二次冷却ゾーン7における、通常の二次冷却での比水量である。圧下速度とは、鋳片圧下ゾーン12に配置されたガイドロール対10による圧下による単位時間当たりの圧下量であり、総圧下量とは、鋳片圧下ゾーン12に配置されたガイドロール対10による圧下の合計である。
【0034】
鋳片9の局所冷却は、エアーミスト冷却とすることが望ましい。また、その冷却水量は30〜150L/min、気水比は30〜100とすることが望ましい。
【0035】
また、本発明を実施することのできる炭素鋼および合金鋼の成分組成の一例は次の通りである。ただし、本発明による連続鋳造鋳片の中心偏析および中心ポロシティの抑制効果は、鋼種によらず得ることができる。
【0036】
炭素鋼の成分組成の一例は、[C]=0.10〜1.10%、[Si]=0.10〜0.50%、[Mn]=0.50〜1.20%、[P]=0.05%以下、[S]=0.060%以下である。
【0037】
合金鋼の成分組成の一例は、[C]=0.10〜1.10%、[Si]=0.10〜2.00%、[Mn]=0.50〜1.20%、[P]=0.05%以下、[S]=0.060%以下、[Al]=0.01〜0.10%、[N]=0.005〜0.03%であり、かつ[Cr]、[Ni]および[Mo]に関しては任意添加成分で、[Cr]=1.50%以下、[Mo]=1.0%以下、[Ni]=2.0%以下である。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。
【0039】
1.試験方法
1−1.鋳造試験方法
前記図1に示した連続鋳造機を用いて鋳造試験を行った。鋳造試験には、鋼成分組成が、C:0.56%、Si:0.20%、Mn:0.80%、P:0.020%、S:0.005%の炭素鋼の溶鋼を用い、幅が400〜440mm、厚みが300〜340mmの鋳片(ブルーム)を製造した。鋳造速度は0.71m/minで一定とし、二次冷却ゾーンでの二次冷却比水量は0.28L/kg−steelで一定とした。
【0040】
連続鋳造機において、鋳片圧下ゾーンはメニスカスから鋳造方向に17.1m下流側の位置から設定し、局所冷却ゾーンはメニスカスから鋳造方向に14.7〜21.9m下流側の位置に設定した。圧下前の鋳片冷却は、ガイドロール対による圧下対象面に対して行った。
【0041】
表1に、試験番号1〜7の各実施例について、鋳造速度、タンディッシュ内溶鋼過熱度、二次冷却比水量、圧下速度、鋳片総圧下量、圧下前冷却水量、圧下前冷却気水比、圧下前冷却比水量、圧下時の中心固相率および圧下対象面中央部の圧下前鋳片表面温度を記載した。各実施例とも、複数チャージの鋳造試験を行い、表1には、各チャージの設定数値の平均値を記載した。
【0042】
【表1】

【0043】
試験番号1および2は、圧下前の鋳片冷却を行わなかった比較例であり、試験番号1と2とではタンディッシュ内溶鋼過熱度を異なる値とした。試験番号3〜5は、本発明に係る圧下前の鋳片冷却を行った本発明例であり、試験番号3〜5は、それぞれタンディッシュ内溶鋼過熱度を異なる値とした。試験番号6は圧下前冷却比水量が本発明の規定範囲未満の条件で圧下前の鋳片冷却を行った比較例であり、試験番号7は圧下前冷却比水量が本発明の規定範囲を超えて多い条件で圧下前の鋳片冷却を行った比較例である。
【0044】
1−2.中心偏析の評価方法
鋳片の中心偏析の評価は、鋳片から切り出した試料の炭素濃度比(以下、「C/Co」ともいう)を指標として行った。
【0045】
C/Coは、鋳片の厚さ方向中心部を含む位置において、幅1mmのフライス刃を用いて、鋳片厚み方向へ2mmピッチで21箇所から切り粉を採取し、それぞれの切り粉の炭素濃度分析値C(質量%)を取鍋分析値すなわち取鍋中の溶鋼の炭素量の分析値Co(質量%)で除して算出した。それらのC/Coの最大値をその鋳片の中心偏析の評価の対象とした。
【0046】
2.試験結果
表1には、試験条件とともに試験結果を示す。評価項目は、C/Co最大値と、鋼片軽手入率とした。各実施例のデータの数値は、チャージ毎に測定したデータの平均値であり、各実施例について行った各チャージの結果を代表する数値である。
【0047】
一般に、鋳片の中心偏析は、C/Coを管理指標として用いた場合にはC/Coの上限しきい値を105%として管理することが望ましい。これは、製品鋳片の圧延時の中心偏析に起因する破断を安定して抑制できる範囲として、経験的に求められたC/Coの数値とほぼ一致する。
【0048】
鋼片軽手入率とは、分塊圧延後のビレットを、表面割れ疵の個数、およびグラインダーを用いた表面割れ疵の手入れに要した所要工数に基づいて評価した、試料の表面品質を表す指標である。鋳片軽手入率が大きいほど表面品質が良好であることを示しており、通常の鋳片製造時には、管理目標値は70%以上に設定している。
【0049】
表1に示すように、圧下前鋳片冷却を行わなかった比較例である試験番号1では、C/Coの最大値は119%と高い値であった。試験番号1と同様に圧下前鋳片冷却を行わず、試験番号1よりもタンディッシュ内溶鋼過熱度の高い試験番号2では、C/Coの最大値は127%とさらに高い値であり、試験番号1と比べて中心偏析が大きく悪化した。
【0050】
比較例である試験番号6は、圧下前冷却比水量が本発明の規定範囲未満であり、冷却水量不足のため、圧下前冷却効果を十分に得ることができず、C/Coの最大値は111%と、管理指標の上限しきい値である105%にまで低減させることができなかった。
【0051】
比較例である試験番号7は、圧下前冷却比水量が本発明の規定範囲を超えて大きく、圧下前鋳片冷却の強度が過大となった。そのため、C/Coの最大値は105%と、管理指標の範囲内を満足したものの、圧下前鋳片表面温度が798℃と800℃以下まで低下しており、脆化温度域での圧下歪みによって鋳片表面割れが生じた。この鋳片表面割れの影響で、分塊圧延後のビレットの表面疵手入れを行わなければならず、鋼片手入率は63%と他の実施例と比較して低位であり、表面疵手入れコストが悪化した。
【0052】
これに対して、本発明例であり、本発明の技術である局所的な鋳片冷却を適用し、鋳片中心部への圧下浸透性を向上させた試験番号3〜5では、C/Coの最大値は100〜104%であり、管理指標範囲内を達成し、大幅な中心偏析改善効果が認められた。冷却を行った後の鋳片の、圧下対象表面の温度は、試験番号3〜5のいずれも900℃以上であり、脆化温度域は回避された。そのため、圧下歪みに起因する表面割れは発生せず、鋳片軽手入率に悪影響は認められない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の連続鋳造鋳片の製造方法によれば、炭素鋼、合金鋼全般を連続鋳造により製造する際に、鋳造条件の変動が生じて鋳片温度が上昇しても、鋳片の中心部へのローラー圧下の浸透性を向上させることができ、中心偏析や中心ポロシティの抑制された連続鋳造鋳片を安定して製造することができる。さらに、鋳片の圧下量を増加する必要がないため、鋳片の表面の品質を低下させることもない。したがって、本発明の方法は、連続鋳造鋳片の製造に対して優れた効果を発揮する方法として、広く適用できる技術である。
【符号の説明】
【0054】
1:取鍋、2:溶鋼、3:タンディッシュ、4:浸漬ノズル、5:メニスカス、
6:鋳型、7:二次冷却ゾーン、8:凝固シェル、9:鋳片、
10:ガイドロール対、11:ピンチロール対、12:鋳片圧下ゾーン、
13、局所冷却ゾーン、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝固末期の鋳片を圧下して連続鋳造する連続鋳造鋳片の製造方法であって、
通常の鋳片の二次冷却を終了した後に、鋳片厚み中心部の固相率が0.2〜1.0の範囲である部分を圧下するに際し、
前記圧下開始前後の鋳片表面に、さらに局所冷却である鋳片の二次冷却を行うことにより、前記圧下開始直前の鋳片の表面温度を900〜950℃に制御することを特徴とする連続鋳造鋳片の製造方法。
【請求項2】
前記局所冷却が、エアーミストによる二次冷却であって、
かつ、局所冷却全体での冷却水量が30L/min以上150L/minであり、エアー流量を冷却水量で除した値である気水比が30以上100以下であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造鋳片の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−269328(P2010−269328A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122155(P2009−122155)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】