説明

遅延復調デバイスの位相調整方法

【課題】従来実現するのが困難であった偏波乖離量が小さい、例えば偏波乖離量を0.5GHz(0.004nm)以下に抑えることが可能な遅延復調デバイスの位相調整方法を提供する。
【解決手段】DQPSK信号が入力されるマッハツェンダー干渉計(MZI)4,5と、各MZIの2つのアーム導波路8,9,12,13上に形成されたヒータA〜Hと、を備え、DQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイスの位相調整方法は、以下のステップを含む。各MZI4,5の2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータにそれぞれ給電して、偏波乖離量を低減させる第1のステップ。この後、各MZIの2つのアーム導波路に1/2波長板47,48を挿入する第2のステップ。この後、2つのMZIの少なくとも一方の、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに給電して、2つのMZI間での位相を調整する第3のステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信に用いる遅延復調デバイス、特に、高密度波長分割多重(DWDM:Dense Wavelength Division Multiplexing)伝送方式の光ファイバ通信においてDQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイスの位相調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブロードバンドの急速な普及を背景に、光伝送システムの高速化(伝送速度40Gbpsへ)の検討が盛んに行われている。しかしながら、伝送速度を上げると、光信号1bitあたりの時間幅が減少し、光ファイバの特性の影響により、信号波形が劣化し、通信回線の品質の劣化を引き起こしてしまうという問題がある。40Gbps級の長距離伝送を行う際には、伝送経路の途中で、光信号を電気に信号に変換して、再び、光信号に変換し直すといった中継器が必要であるため、既存のファイバ網を使用し、ネットワークを構築することを困難にさせている。
【0003】
このため、現在では光信号の時間幅を拡大させることによって信号波形劣化を低減できる多値変調の差動直交位相変調(DQPSK:Differential Quadrature Phase Shift Keying)等の研究開発が行われている。
【0004】
DQPSKは4つの情報を異なる4つの光位相差に対応させて伝送する、つまり、2ビットのデータから構成される各シンボルの値(0,1,2,3)の4つの情報を、隣接する2つのシンボルの値の変化に応じて搬送波の位相(θ,θ+π/2,θ+π,θ+3π/2)を変化させてデータを伝送する変調方式である。このDQPSK方式を用いた40GbpsDQPSK通信方式では、従来の2値変調方式を用いた40Gbps伝送よりも4倍の距離を伝送できることになる。このDQPSKにより、既存のファイバ網を利用した大都市間のネットワークの構築が可能になると考えられる。従来、このようなDQPSK信号を受信装置において復調するための遅延復調デバイスとして、例えば、特許文献1に開示された光受信回路が知られている。
【特許文献1】特開2007−60442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、伝送速度が40GbpsのDQPSK方式を用いた40GbpsDQPSK通信方式における遅延検波の際に、1シンボル時間(2ビット分の時間)遅延させる役割を果たすPLC型の2つのマッハツェンダー干渉計(MZI)回路が使用されている。
【0006】
40GbpsDQPSK通信方式において、遅延復調デバイスにおける偏波乖離量(PDλ)の許容量は、例えば0.5GHz(0.004nm)以下であると言われている。PDλを解消する方法として、MZI回路の2つのアーム導波路に1/2波長板を挿入することも考えられるが、0.5GHz以下に抑えるのは難しく、歩留りが低下してしまう。また、この遅延復調デバイスでは、2つのMZI回路間の位相差がπ/2になるように位相調整(位相トリミング)する必要がある。その位相調整のために、MZI回路の2つのアーム導波路上に形成したヒータ(薄膜ヒータ)に数十Vの電圧を給電させているが、この時に、PDλが大きくなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたもので、その目的は、従来実現するのが困難であった偏波乖離量が小さい、例えば偏波乖離量を0.5GHz(0.004nm)以下に抑えることが可能な遅延復調デバイスの位相調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに電圧をかける場合、給電時間ともに波長シフトは起こるが、偏波乖離量(PDλ)がある時間で一定になることを見出した。また、偏波乖離量がより小さい状態で1/2波長板を挿入することで、偏波乖離量がより低減できることを見出し、偏波乖離量低減の手法を発明した。
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、長さの異なる2つのアーム導波路をそれぞれ有し、DQPSK信号が分岐されて入力される2×2の2つのマッハツェンダー干渉計と、各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上にそれぞれ形成されたヒータと、を備え、DQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイスの位相調整方法であって、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータにそれぞれ給電して、偏波乖離量を低減させる第1のステップと、前記第1のステップで偏波乖離量を低減させた後、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路に1/2波長板を挿入する第2のステップと、前記1/2波長板の挿入後、前記2つのマッハツェンダー干渉計の少なくとも一方の、前記第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに給電して、前記2つのマッハツェンダー干渉計間での位相を調整する第3のステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、第1のステップで、各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータにそれぞれ給電することにより、偏波乖離量(PDλ)を低減させることができる。また、第1のステップで偏波乖離量を低減させた後、各マッハツェンダー干渉計の2つのアーム導波路に1/2波長板を挿入することにより、偏波乖離量(PDλ)をさらに低減することができる。また、1/2波長板の挿入後、第3のステップで、2つのマッハツェンダー干渉計の少なくとも一方の、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに給電して、各マッハツェンダー干渉計間での位相差がπ/2になるように位相を調整する。これにより、第1および第2のステップで低減された偏波乖離量を一定に保ったまま、各マッハツェンダー干渉計間での位相差がπ/2になるように位相を調整することができる。
【0011】
従って、従来実現するのが困難であった偏波乖離量が小さい、例えば偏波乖離量を0.5GHz(0.004nm)以下に抑えることが可能な遅延復調デバイス1を作製することができる。
【0012】
ここで、「偏波乖離量」は、分岐されたDQPSK信号が各マッハツェンダー干渉計を伝搬して、各マッハツェンダー干渉計の2つの出力ポートから出力される2つの光信号のTE偏波成分とTM偏波成分の差である。
【0013】
請求項2に記載の発明に係る遅延復調デバイスの位相調整方法は、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上にヒータが1つずつ形成されており、前記第1のステップでは、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方の1つのヒータに給電して偏波乖離量を低減させることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明に係る遅延復調デバイスの位相調整方法は、前記各第1のマッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上にヒータが2つずつ形成されており、前記第1のステップでは、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方の2つのヒータに給電して偏波乖離量を低減させることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明に係る遅延復調デバイスの位相調整方法は、前記第2のステップでは、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路の中央部に1/2波長板を挿入した後、挿入された各1/2波長板を平面光波回路上に接着固定する際に、偏波乖離量をモニターして偏波乖離量が最も小さくなる位置で、前記各1/2波長板を平面光波回路上に固定することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、第2のステップにおいて、各マッハツェンダー干渉計の2つのアーム導波路の中央部に1/2波長板を挿入した後、挿入された各1/2波長板を平面光波回路上に接着固定する際に、偏波乖離量をモニターして偏波乖離量が最も小さくなる位置で、各1/2波長板を平面光波回路上に固定するようにしている。これにより、より偏波乖離量が小さい遅延復調デバイスを作製することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の位相調整方法によれば、従来実現するのが困難であった偏波乖離量が小さい、例えば偏波乖離量を0.5GHz以下に抑えることが可能な遅延復調デバイスを作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を具体化した一実施形態に係る遅延復調デバイスの位相調整方法を、図1乃至図9に基づいて説明する。
【0019】
図1は一実施形態に係る位相調整方法を適用する遅延復調デバイスの概略構成を示す平面図である。図2はDQPSK方式を用いた光伝送システムの概略構成を示すブロック図である。図3は図1のX−X線に沿った断面図、図4は図1のY−Y線に沿った断面図である。図5は図1に示す遅延復調デバイスの第1遅延部を示す拡大図、図6は図1のZ部の拡大図である。図7は図1に示す遅延復調デバイスにおける、偏波乖離量(PDλ)とヒータへの給電時間、および波長シフトとその給電時間との関係を示すグラフである。図8(A),(B)は1/2波長板の挿入後に行うヒータへの給電を説明するための説明図である。図9は作製された遅延復調デバイスのスペクトルを示すグラフである。
【0020】
(遅延復調デバイスの構成)
図1に示す遅延復調デバイス1は、DQPSK信号を復調させる平面光波回路型(PLC型)の遅延復調デバイス(復調器)である。この遅延復調デバイス1は、例えば、伝送速度が40GbpsのDQPSK方式を用いた図2に示す光伝送システムに使用される40GbpsDQPSK用遅延復調デバイスである。
【0021】
この光伝送システムでは、光送信器40から光ファイバ伝送路54に、2ビットのデータから構成される各シンボルの値(0,1,2,3)の4つの情報を、隣接する2つのシンボルの値の変化に応じて搬送波の位相(θ,θ+π/2,θ+π,θ+3π/2)の位相情報に変調されたDQPSK信号が伝送される。光ファイバ伝送路54から光受信器50に送られてきたDQPSK信号は遅延復調デバイス1により4つの光強度信号に変換され、さらには、その光強度信号がバランスドレシーバ51,52により電気信号に変換される。受信電気回路53では、復号化処理などがなされる。
【0022】
図1に示す遅延復調デバイス1は、DQPSK信号が入力される光入力導波路2と、光入力導波路2を分岐するY分岐導波路3と、2×2の第1のマッハツェンダー干渉計4と、2×2の第2のマッハツェンダー干渉計5と、を備えている。
【0023】
第1のマッハツェンダー干渉計4は、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路の一方に接続された入力側カプラ6と、光出力導波路に接続された出力側カプラ7と、両カプラ6,7間に接続された長さの異なる2つのアーム導波路8,9とを有する。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5は、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路の他方に接続された入力側カプラ10と、光出力導波路に接続された出力側カプラ11と、両カプラ10,11間に接続された長さの異なる2つのアーム導波路12,13とを有する。
【0024】
入力側カプラ6,10および出力側カプラ7,11は、それぞれ2入力×2出力型3dBカプラ(50%方向性結合器)である。第1のマッハツェンダー干渉計4の入力側カプラ6の2つの入力端の一方が、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路14,15の一方の導波路14に接続されている。第2のマッハツェンダー干渉計5の入力側カプラ10の2つの入力端の一方が、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路14,15の他方の導波路15に接続されている。
【0025】
また、第1のマッハツェンダー干渉計4の出力側カプラ7の2つの出力端(スルーポートとクロスポート)は、第1光出力導波路21,第2光出力導波路22にそれぞれ接続されている。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5の出力側カプラ11の2つの出力端(スルーポートとクロスポートは、第3光出力導波路23,第4光出力導波路24にそれぞれ接続されている。
【0026】
また、第1のマッハツェンダー干渉計4の2つのアーム導波路8,9には、その一方(アーム導波路8)を伝搬するDQPSK信号の位相をその他方(アーム導波路9)を伝搬するDQPSK信号の位相に対してπだけ遅延させる光路長差ΔLを持たせてある。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5の2つのアーム導波路12,13には、その一方(アーム導波路12)を伝搬するDQPSK信号の位相をその他方(アーム導波路13)を伝搬するDQPSK信号の位相に対してπだけ遅延させる光路長差ΔLを持たせてある。
【0027】
第1のマッハツェンダー干渉計4のアーム導波路8,9の両端部および第2のマッハツェンダー干渉計5のアーム導波路12,13の両端部が、図1に示すように、平面光波回路(PLC)1Aの中心部側、つまり、平面光波回路1Aを有するPLCチップ1Bの中心部側に向けてそれぞれ曲げられている。ここで、「平面光波回路」は、石英系ガラスでそれぞれ構成された光入力導波路2、Y分岐導波路3、および、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5などの導波路を含む回路である。この平面光波回路1Aを有する遅延復調デバイス1は、具体的には、次のようにして作製される。
【0028】
火炎堆積法により、図3に示すシリコン基板などのPLC基板30上に、下部クラッド層およびコア層となるシリカ材料(SiO2系のガラス粒子)を堆積し、加熱してガラス膜を溶融透明化する。この後、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングで所望の導波路を形成し、再びFHD法により上部クラッドを形成する。図3では、PLC基板30上に、下部クラッド層および上部クラッド層からなるクラッド層31が形成され、このクラッド層31内にコア層としてアーム導波路8,9が形成されている。PLC基板30は、図1に示すように、略正方形の平面形状を有している。
【0029】
また、Y分岐導波路3で分岐された2つの導波路14,15は、図1に示すように、互いに離間するように上下に曲げられている。その一方の導波路14は第1のマッハツェンダー干渉計4の入力側カプラ6の2つの入力端の一方に接続され、その他方の導波路15はマッハツェンダー干渉計5の入力側カプラ10の2つの入力端の一方に接続されている。ここで、DQPSK信号が光入力導波路2を伝搬する方向をZ方向(図1参照)とすると、導波路14は、Z方向に略垂直な図1で上方向に湾曲しながら延びている。一方、導波路15は、図1でZ方向に略垂直な下方向に湾曲しながら延びている。
【0030】
また、第1のマッハツェンダー干渉計4の出力側カプラ7の2つの出力端(スルーポートとクロスポート)に第1および第2光出力導波路21,22がそれぞれ接続され、第2のマッハツェンダー干渉計5の出力側カプラ11の2つの出力端(スルーポートとクロスポート)に第3および第4光出力導波路23,24がそれぞれ接続されている。第1および第2光出力導波路21,22と第3および第4光出力導波路23,24とは、図1に示すように、互いに近づくように上下に曲げられている。
【0031】
具体的には、第1および第2光出力導波路21,22は、出力側カプラ7の2つの出力端から、Z方向に略垂直な図1で下方向に湾曲しながら延びている。このような湾曲形状により、第2光出力導波路22の光路長が第1光出力導波路21の光路長よりも長くなっている。一方、第3および第4光出力導波路23,24は、出力側カプラ11の2つの出力端から、Z方向に略垂直な図1で上方向に湾曲しながら延びている。このような湾曲形状により、第3光出力導波路23の光路長が第4光出力導波路24の光路長よりも長くなっている。
【0032】
また、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5は、図1に示すように、平面光波回路1Aの中央上部と中央下部に形成されている。より具体的には、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5は、平面光波回路1Aを有するPLCチップ1Bの仮想中心線、例えば、Z方向に延びる光入力導波路2を延長した直線に関して対称な位置に配置されている。
【0033】
マッハツェンダー干渉計4のアーム導波路8.9の中央部、および、マッハツェンダー干渉計5のアーム導波路12,13の中央部は、それぞれ互いに平行に延びている。
【0034】
また、第1および第2光出力導波路21,22には、図1に示すように、これら2つの光出力導波路21,22の光路長を一致させるための第1遅延部41が設けられている。第1遅延部41は、図1および図5に示すように、第1光出力導波路21に接続された導波路43と、第1光出力導波路21よりも光路長の長い第2光出力導波路22に接続された導波路44とを有する。第1遅延部41の2つの導波路43,44は、上記仮想中心線に対して上方へ凸に湾曲している。導波路43には、導波路44よりも光路長を長くするために、2つの直線部43a、43b(図5参照)を設けてある。第1遅延部41の各導波路43,44の出力端が、互いに位相がπだけずれた出力1,2の光信号(a)、(b)(図8参照)をそれぞれ出力する出力ポート(第1、第2出力ポート)になっている。
【0035】
一方、第3および第4光出力導波路23,24には、これら2つの光出力導波路23,24の光路長を一致させるための第2遅延部42が設けられている。第2遅延部42は、図1に示すように、第4光出力導波路24に接続された導波路45と、第4光出力導波路24よりも光路長の長い第3光出力導波路23に接続された導波路46とを有する。第2遅延部42の2つの導波路45,46は、上記仮想中心線に対して下方へ凸に湾曲している。導波路45には、導波路46よりも光路長を長くするために、図5に示す直線部43a、43と同様の2つの直線部を設けてある。第2遅延部42の各導波路46,45の出力端が、互いに位相がπだけずれた出力3,4の光信号(c)、(d)(図8参照)をそれぞれ出力する出力ポート(第3、第4出力ポート)になっている。
【0036】
第1のマッハツェンダー干渉計4は、図1および図3に示すように、一方のアーム導波路8上に形成された第1のヒータA及び第2のヒータCと、他方のアーム導波路9上に形成された第3のヒータB及び第4のヒータDとを備えている。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5は、図1に示すように、一方のアーム導波路12上に形成された第1のヒータE及び第2のヒータGと、他方のアーム導波路13上に形成された第3のヒータF及び第4のヒータHとを備えている。各ヒータA〜Hは、対応するアーム導波路の上方にあって、上部クラッド(図3のクラッド層31)上にスパッタにより形成されたTa系の薄膜ヒータである。図3には、アーム導波路8,9の上方にあって、クラッド層31上に形成されたヒータA,Bを示してある。
【0037】
また、各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部には、図1に示すように、偏波乖離量PDλを低減させるために、1/2波長板47,48がそれぞれ配置されている。1/2波長板47,48を挿入するための溝49は、各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部のみに形成されているのではなく、各マッハツェンダー干渉計4,5の中央部を通る図1に示すML間の直線に沿ってフルカットされた一つの溝である。また、この溝49は、Y分岐導波路3の分岐部からの漏れ光を溝49で遮断するために、Y分岐導波路3に対して光入力導波路2とは反対側に形成されている。
【0038】
さらに、溝49は、各1/2波長板47,48での反射による損失が起こらないように、各1/2波長板47,48が図4に示すように8°程度に傾けられて溝49内に配置されるように、8°程度傾斜した溝になっている。その溝49の中央部、つまり、Y分岐導波路3の分岐部に対向する部分(図1に示すZ部)には、図6に示すように、Y分岐導波路3の分岐部からの漏れ光をより効果的に遮断するために樹脂60が注入されている。
【0039】
上記構成を有する遅延復調デバイス1では、第1のマッハツェンダー干渉計4にあっては、光ファイバ伝送路54から光受信器50に送られるDQPSK信号(光信号)がY分岐導波路3で分岐され、その分岐されたDQPSK信号が長さの異なる2つのアーム導波路8,9を伝搬する。マッハツェンダー干渉計4は、一方のアーム導波路8を伝搬するDQPSK信号の位相を他方のアーム導波路9を伝搬する光信号の位相に対して1シンボル分(π)だけ遅延させるようになっている。同様に、第2のマッハツェンダー干渉計5は、一方のアーム導波路12を伝搬するDQPSK信号の位相を他方のアーム導波路13を伝搬する光信号の位相に対して1シンボル分(π)だけ遅延させるようになっている。
【0040】
(位相調整方法)
次に、上述したDQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイス1の位相調整方法を説明する。
【0041】
遅延復調デバイス1の位相調整方法は、以下のステップ(第1のステップ乃至第3のステップ)を備えている。
【0042】
(第1のステップ)
まず、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5の2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータにそれぞれ給電して、偏波乖離量を低減させる。
【0043】
具体的には、第1のマッハツェンダー干渉計4については、アーム導波路8上に形成された2つのヒータA,Cとアーム導波路9上に形成された2つのヒータB,Dのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータ(例えばヒータA,C)にそれぞれ給電して、偏波乖離量を低減させる。そして、第2のマッハツェンダー干渉計5については、アーム導波路12上に形成された2つのヒータE,Gとアーム導波路13上に形成された2つのヒータF,Hのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータ(例えばヒータE,G)にそれぞれ給電して、偏波乖離量を低減させる。
【0044】
ヒータA,Cにそれぞれ給電して、ヒータA,Cを駆動することにより、図7に示すように、給電時間ともに波長シフトが起こると共に、偏波乖離量(PDλ)が初期の偏波乖離量から短時間で低減され、ある時間で一定になる。波長シフトは、導波路長の長いアーム導波路8上のヒータA,Cに給電しているので、長波長側へシフトする。また、この給電時間は、偏波乖離量(PDλ)がこれ以上低減しなくなる(変化しなくなる)最初の時間にあたる。なお、波長シフトは、図9に示す出力1,2の光信号(a)、(b)の位相差がπに維持された状態で、各光信号(a)、(b)の中心波長が長波長側へシフトする。
【0045】
同様に、ヒータE,Gにそれぞれ給電して、ヒータE,Gを駆動することにより、図7に示すように、給電時間ともに波長シフトが起こると共に、偏波乖離量(PDλ)が初期の偏波乖離量から短時間で低減され、ある時間で一定になる。この場合も、波長シフトは、導波路長の長いアーム導波路12上のヒータE,G に給電しているので、長波長側へシフトする。また、この給電時間も、偏波乖離量(PDλ)がこれ以上低減しなくなる(変化しなくなる)最初の時間にあたる。そして、波長シフトは、図9に示す出力3,4の光信号(c)、(d)の位相差がπに維持された状態で、各光信号(c)、(d)の中心波長が長波長側へシフトする。
【0046】
(第2のステップ)
第1のステップで偏波乖離量を低減させた後、第1のマッハツェンダー干渉計4の2つのアーム導波路8,9の中央部に1/2波長板47を、第2のマッハツェンダー干渉計5の2つのアーム導波路12,13の中央部に1/2波長板48をそれぞれ挿入する。
【0047】
(第3のステップ)
1/2波長板47,48の挿入後、2つのマッハツェンダー干渉計4,5の少なくとも一方の、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに給電して、第1のマッハツェンダー干渉計4と第2のマッハツェンダー干渉計5間での位相差がπ/2になるように位相を調整する。
【0048】
本実施形態では、一例として、第1のマッハツェンダー干渉計4の、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に2つのヒータA,Cに給電したので、これら2つのA,Cに給電して、2つのマッハツェンダー干渉計4,5間での位相差がπ/2になるように位相を調整する。つまり、図9に示すように、出力1,2の光信号(a)、(b)と出力3,4の光信号(c)、(d)の位相差がπ/2になるように、ヒータA,Cに給電して2つのマッハツェンダー干渉計4,5の位相を調整する(位相トリミングを行う)。
【0049】
この第3のステップを、図8(A),(B)に基づいてより詳しく説明する。
【0050】
図8(A)は、2つのマッハツェンダー干渉計4,5間の位相差がπ/2になるように位相を調整するのに、各光信号(a)、(b)の中心波長を長波長側へシフトさせた方が、その中心波長を短波長側へシフトさせるよりもシフト量が小さくてすむ場合を示している。図8(A)のスペクトル(a´),(b´)は、出力3,4の光信号(c)、(d)に対して位相差がπ/2になる位相調整の目標位置である出力1,2の光信号(a)、(b)よりも短波長側にずれた出力1,2の光信号をそれぞれ示している。この場合、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータ、つまり、導波路長の長いアーム導波路8上のヒータA,Cに給電して、長波長側へシフトさせて、2つのマッハツェンダー干渉計4,5間の位相差がπ/2になるように位相を調整する。
【0051】
また、図8(B)は、2つのマッハツェンダー干渉計4,5間の位相差がπ/2になるように位相を調整するのに、各光信号(a)、(b)の中心波長を短波長側へシフトさせた方が、その中心波長を長波長側へシフトさせるよりもシフト量が小さくてすむ場合を示している。図8(B)のスペクトル(a´),(b´)は、出力3,4の光信号(c)、(d)に対して位相調整の目標位置である出力1,2の光信号(a)、(b)よりも長短波長側にずれた出力1,2の光信号をそれぞれ示している。この場合、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのとは異なるヒータ、つまり、導波路長の短いアーム導波路9上のヒータB,Dに給電して、短波長側へシフトさせたとすると、上記第1のステップで低減された偏波乖離量(PDλ)が大きくなってしまう。従って、第3のステップでは、各光信号(a)、(b)の中心波長を短波長側へシフトさせた方が、シフト量が小さくてすむ場合でも、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに電圧をかけるようにする。
【0052】
また、上記第2のステップでは、好ましくは、各マッハツェンダー干渉計4,5の2つのアーム導波路の中央部に1/2波長板47,48を挿入した後、挿入された各1/2波長板47,48を平面光波回路1A上に接着固定する際に、偏波乖離量(PDλ)をモニターして偏波乖離量が最も小さくなる位置で、各1/2波長板を平面光波回路1A上に固定する。
[実施例]
図3に示すシリコン基板30上に、石英系ガラスで構成される光入力導波路2、Y分岐導波路3、マッハツェンダー干渉計4,5、光出力導波路21乃至24、および2つの遅延部41,42を含む平面光波回路(PLC)1Aを、火炎堆積法(FHD法)、フォトリソグラフィ、反応性イオンエッチングにより形成した40GbpsのDQPSK用の遅延復調デバイス1を作製した。
【0053】
作製した遅延復調デバイス1では、ヒータA〜Hとして、Ta系の薄膜ヒータA〜Hがスパッタにより形成されている。各ヒータA〜Hのヒータ長を5000um、ヒータ幅を60umとし、これらの抵抗値はほとんど同じであることを確認している。はじめに、1/2波長板47を挿入する前の第1のマッハツェンダー干渉計4(MZI1)のPDλを測定したところ、0.074nm(図7参照)であった。ここで、MZI1のヒータA,Cにそれぞれ60Vを250sec間給電し、PDλを低減させたのち、MZI1の中央部に1/2波長板を挿入した。この給電時間は、PDλがこれ以上低減しなくなる(変化しなくなる)最初の時間にあたる。MZI1のPDλを測定したところ、3pm(0.003nm)であった。
【0054】
第2のマッハツェンダー干渉計5(MZI2)についてもMZI1と同様に行い、1/2波長板48を挿入した。その後、MZI1とMZI2の位相差をπ/2だけシフトさせるために、MZI1のヒータA,Cを使用して、それぞれ60Vを給電させて、位相調整を行った。このとき、MZI1のPDλは3pmと変化はなく、波長シフトのみが生じ、図9に示すようにMZI1とMZI2の位相調整ができた。
【0055】
図9では、第1遅延部41の各導波路43,44の出力端(第1、第2出力ポート)から出力される互いに位相がπだけずれた出力1,2の光信号(a)、(b)と、第2遅延部42の各導波路46,45の出力端(第3、第4出力ポート)から出力される互いに位相がπだけずれた出力3,4の光信号(c)、(d)とを示してある。そして、光信号(a)、(b)、(c)および(d)は、互いに位相がπ/2ずつずれている。
【0056】
以上の構成を有する一実施形態によれば、以下のような作用効果を奏する。
○第1のステップで、第1および第2のマッハツェンダー干渉計4,5の2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータにそれぞれ給電することにより、図7に示すように偏波乖離量(PDλ)を低減させることができる。
【0057】
○第1のステップで偏波乖離量を低減させた後、第2のステップで、各マッハツェンダー干渉計4,5のアーム導波路の中央部に1/2波長板47,48を挿入することにより、偏波乖離量(PDλ)をさらに低減することができる。
【0058】
○1/2波長板47,48の挿入後、2つのマッハツェンダー干渉計4,5の少なくとも一方の、第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに給電して、各マッハツェンダー干渉計4,5間での位相差がπ/2になるように位相を調整する。これにより、第1および第2のステップで低減された偏波乖離量を一定に保ったまま、各マッハツェンダー干渉計4,5間での位相差がπ/2になるように位相を調整することができる。
【0059】
○従って、従来実現するのが困難であった偏波乖離量が小さい、例えば偏波乖離量を0.5GHz(0.004nm)以下に抑えることが可能な遅延復調デバイス1を作製することができる。
【0060】
○第2のステップにおいて、各マッハツェンダー干渉計4,5の2つのアーム導波路の中央部に1/2波長板47,48を挿入した後、挿入された各1/2波長板47,48を平面光波回路1A上に接着固定する際に、偏波乖離量(PDλ)をモニターして偏波乖離量が最も小さくなる位置で、各1/2波長板を平面光波回路1A上に固定するようにしている。これにより、より偏波乖離量が小さい遅延復調デバイス1を作製することができる。
【0061】
なお、上記一実施形態では、上記第3のステップにおいて、位相調整のために、第1のマッハツェンダー干渉計4(MZI1)のヒータ、例えばヒータA,Cのみに給電したが、これに限ることなく、MZI1のヒータA,Cに給電すると共に、第2のマッハツェンダー干渉計5(MZI2)においても初期PDλ低減のために給電したヒータと同じヒータ、例えばヒータE,Gに給電して位相調整してもよい。或いは、上記第3のステップにおいて、位相調整のために、第1のマッハツェンダー干渉計4(MZI1)のヒータ、例えばヒータA,Cに給電せずに、第2のマッハツェンダー干渉計5(MZI2)の初期PDλ低減のために給電したヒータと同じヒータ、例えばヒータE,Gに給電させて位相調整してもよい。
【0062】
また、上記第1のステップにおいて、PDλを小さくするための給電電圧は60Vとしたがヒータ長やヒータ幅を変更すれば所望に変えることができる。
【0063】
また、上記一実施形態で説明した位相調整方法は、図1に示す平面光波回路型の遅延復調デバイス1に限らず、他の構成を有するDQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイスにも本発明は適用可能である。例えば、本発明は、長さの異なる2つのアーム導波路をそれぞれ有し、DQPSK信号が分岐されて入力される2×2の2つのマッハツェンダー干渉計と、各マッハツェンダー干渉計の2つのアーム導波路上にそれぞれ形成されたヒータと、を備える平面光波回路型の遅延復調デバイスに広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】一実施形態に係る遅延復調デバイスの概略構成を示す平面図。
【図2】DQPSK方式を用いた光伝送システムの概略構成を示すブロック図。
【図3】図1のX−X線に沿った断面図。
【図4】図1のY−Y線に沿った断面図。
【図5】図1に示す遅延復調デバイスの第1遅延部を示す拡大図。
【図6】図1のZ部の拡大図。
【図7】図1に示す遅延復調デバイスにおける、偏波乖離量(PDλ)とヒータへの給電時間、および波長シフトとその給電時間との関係を示すグラフ。
【図8】(A),(B)は1/2波長板の挿入後に行うヒータへの給電を説明するための説明図。
【図9】作製された遅延復調デバイスのスペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1…遅延復調デバイス
1A…平面光波回路
1B…PLCチップ
2…光入力導波路
3…Y分岐導波路
4…第1のマッハツェンダー干渉計
5…第2のマッハツェンダー干渉計
6,10…入力側カプラ
7,11…出力側カプラ
8,9,12,13…アーム導波路
14,15…Y分岐導波路で分岐された導波路
21,22,23,24…光出力導波路
30…PLC基板
31…クラッド層
41…第1遅延部
42…第2遅延部
A〜H…ヒータ
47,48…1/2波長板
49…溝
60…樹脂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さの異なる2つのアーム導波路をそれぞれ有し、DQPSK信号が分岐されて入力される2×2の2つのマッハツェンダー干渉計と、各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上にそれぞれ形成されたヒータと、を備え、DQPSK信号を復調させる平面光波回路型の遅延復調デバイスの位相調整方法であって、
前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方のヒータにそれぞれ給電して、偏波乖離量を低減させる第1のステップと、
前記第1のステップで偏波乖離量を低減させた後、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路に1/2波長板を挿入する第2のステップと、
前記1/2波長板の挿入後、前記2つのマッハツェンダー干渉計の少なくとも一方の、前記第1のステップで偏波乖離量を低減させた際に給電したのと同一のヒータに給電して、前記2つのマッハツェンダー干渉計間での位相を調整する第3のステップと、を備えることを特徴とする遅延復調デバイスの位相調整方法。
【請求項2】
前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上にヒータが1つずつ形成されており、
前記第1のステップでは、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方の1つのヒータに給電して偏波乖離量を低減させることを特徴とする請求項1に記載の遅延復調デバイスの位相調整方法。
【請求項3】
前記各第1のマッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上にヒータが2つずつ形成されており、
前記第1のステップでは、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路上のヒータのうち、偏波乖離量が小さくなる方の2つのヒータに給電して偏波乖離量を低減させることを特徴とする請求項1に記載の遅延復調デバイスの位相調整方法。
【請求項4】
前記第2のステップでは、前記各マッハツェンダー干渉計の前記2つのアーム導波路の中央部に1/2波長板を挿入した後、挿入された各1/2波長板を平面光波回路上に接着固定する際に、偏波乖離量をモニターして偏波乖離量が最も小さくなる位置で、前記各1/2波長板を平面光波回路上に固定することを特徴とする請求項2又は3に記載の遅延復調デバイスの位相調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−237300(P2009−237300A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83639(P2008−83639)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】