説明

遊星歯車機構を備えた回転伝達機構と画像形成装置

【課題】製品個々の部品精度や温度変化によらず、回転部材におけるトルク、例えば、中間転写ベルトとレジストローラの転写材搬送トルク又は定着ローラの転写材搬送トルクが一定である状態を安定して維持して、転写材を介した過剰な引っ張りや押し合いによる変動要因がなく、高品質な画像形成が可能な画像形成装置のための回転駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動源から回転部材に回転駆動力を伝達するための回転伝達機構であって、該回転伝達機構は、太陽歯車を入力側とし、内歯車を回転不能に支持し、遊星歯車の公転を拾う遊星キャリアを出力側とする遊星歯車機構であり、太陽歯車、内歯車及び遊星歯車がそれぞれはすば歯車であり、内歯車は、回転部材の回転負荷トルク変動に応じてスラスト方向に移動可能に支持され、内歯車へのスラスト方向にかかる力に抗するための付勢手段を内歯車端面に配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写紙等の転写材を所定のタイミングで送り出すレジスト回転部材や転写材にトナーを定着させる定着回転部材を備えた複写機、プリンタ、ファクシミリあるいはこれら機能を兼ね備えた複合機等、画像形成装置の、特に回転体駆動のための回転伝達機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式の画像形成装置では、図1に示すように、レジストローラ16のローラ対によって所定タイミングで送り出される転写材35に、中間転写ベルト10に担持された未定着画像を、転写ローラ19と駆動ローラ18で挟持して転写し、定着ローラ17のローラ対によって転写材35にその未定着画像を定着し、不図示の排出ローラ対によって画像定着された転写材を装置外に排出するようにしている。
【0003】
定着ローラ17のローラ対は、未定着画像を転写材に加熱定着するが、この定着処理により定着ローラから一時的に奪われる熱は、転写材に転写された未定着画像をなす現像剤の付着量、定着ローラ対を通過する単位時間当たりの転写材の通過枚数、転写材の熱容量の違い等によって様々に変化する。この定着ローラ対に発生する一時的な温度変化は、ローラの外径変化となって現れる。このため、定着ローラ対による転写材搬送速度と駆動ローラ18、転写ローラ19のローラ対による転写材搬送速度とに差が生じる場合がある。
【0004】
また、レジストローラ16のローラ対では、機内温度、特に定着部からの排熱によりローラ温度が上昇し、外径変化が発生する。また、表面の定着処理が終了した転写材が裏面の画像形成のためにレジストローラに再搬送された際に転写材の熱がレジストローラに伝達する現象があり、ここでもレジストローラ対を通過する転写材の枚数、転写材の熱容量の違い等により様々に変化する。
【0005】
このようにレジストローラ16のローラ対、定着ローラ17のローラ対、駆動ローラ18と転写ローラ19のローラ対それぞれの転写材搬送速度に差が生じると、画像劣化を招く場合がある。即ち、定着ローラ対による転写材搬送速度が駆動ローラ18と転写ローラ19のローラ対による転写材搬送速度よりも速いと、定着ローラ対と駆動ローラ18、転写ローラ19のローラ対との間で転写材35が引っ張られ、ローラ対18,19による転写材35への転写時に画像の乱れ等が発生し、画像劣化を招く場合がある。一方、定着ローラ対による転写材搬送速度が駆動ローラ18、転写ローラ19のローラ対による転写材搬送速度よりも遅いと、定着ローラ対とローラ対18,19との間で転写材35を介して互いに押し合うように転写材35を搬送し、転写時の画像の乱れ等が発生し、画像劣化を招く場合がある。
【0006】
また、カラー画像形成装置においては、プリントスピードの向上が強く望まれている。そのため、近年では、図1のように複数の像担持体が並列配置するように構成された、所謂タンデム型で直接転写方式又は中間転写方式を採用したカラー画像形成装置が主流になっている。直接転写方式のタンデム型のカラー画像形成装置では、転写材を用紙搬送ベルト(転写材搬送部材)の表面に担持して搬送する。そして、レジストローラ(レジスト回転部材)で送り出され用紙搬送ベルトによって搬送される転写材上に各像担持体上のトナー像を互いに重なり合うように順次転写することで、その転写材上にカラー画像を形成する。中間転写方式のタンデム型のカラー画像形成装置では、各像担持体上のトナー像を互いに重なり合うように中間転写ベルト上に順次転写し、そして、レジストローラで送り出された転写材上に、中間転写ベルト上のカラー画像を一括転写する。
【0007】
このようなタンデム型のカラー画像形成装置においては、転写材搬送中に各像担持体上で画像を形成するため、定着ローラ周面の移動速度(定着線速)やレジストローラの周面の移動速度(レジスト線速)が転写ベルトの表面移動速度(ベルト移動速度)と異なると、その影響が転写材に転写している画像のみならず、像担持体で形成中の画像にも影響し、カラー画像の劣化はより顕著なものとなる。
【0008】
以下、4つの像担持体を備えた直接転写方式のタンデム型のカラー画像形成装置を例に挙げて、レジスト線速と用紙搬送ベルトのベルト移動速度とが異なる場合に画像劣化が生じる理由について説明する。なお、以下の説明では、転写ローラ19に近い順に、第一像担持体2y、第二像担持体2m、第三像担持体2c、第四像担持体2kとする。
【0009】
まず、レジスト線速を用紙搬送ベルトのベルト移動速度よりも大きく設定した場合について説明する。レジストローラから送り出された転写材は、中間転写ベルト10の駆動ローラ18と転写ローラ19のニップ部である転写領域へ搬送される。この転写材35と中間転写ベルト10は完全に密着し、外乱に対して全く影響を受けないことが理想的であり、そうであれば画像劣化はほとんど発生しない。しかし、実際は、外乱により転写材35と中間転写ベルト10との間で数μm〜数百μm程度の滑りが起こる。このような滑りを生じさせる外乱は、主として、中間転写ベルト10のベルト移動速度とレジストローラのレジスト線速が一致しないことである。
【0010】
具体的に説明すると、レジスト線速Vrで駆動されているレジストローラ16のローラ対から転写材35が送り出されると、転写材35は、ベルト移動速度Vt(Vt<Vr)で駆動されている中間転写ベルト10に吸着される。このとき、中間転写ベルト上でニップされている部分の転写材35の移動速度は、ベルト移動速度と同じVtではなく、Vta(Vt<Vta<Vr)であり、その移動速度で転写材35の先端から画像が転写される。その後、転写材35が搬送され、転写材後端がレジストローラ対を抜けると、転写材35の移動速度は、中間転写ベルト10によって支配されるようになる。そして、転写材35の後端の画像は、中間転写ベルト10のベルト移動速度Vtと一致した状態で転写される。タンデム型のカラー画像形成装置においては、転写領域を通過する際の転写材の移動速度が一定でないと、画像劣化が生じてしまう。本例において、転写材35の移動速度は、画像前半部の転写をする際にはVtaであるが、その後、画像後半部の転写をする際にはVtとなる。したがって、転写後のトナー像は、その差分だけ濃度差が発生する。
【0011】
また、転写材35と中間転写ベルト10との吸着力が強い場合、前記速度差によって中間転写ベルト10に加わる負荷が変化し、そのベルト移動速度が変動することもある。ベルト移動速度の変動はカラー画像の色ずれとなって劣化を招く。
【0012】
以上のような現象は、転写材搬送方向における中間転写ベルトの下流側で転写材を挾持する定着ローラ等の定着回転部材の線速による外乱によっても発生する。
上述のような画像劣化を防止するために、従来、以下の技術が知られている。例えば、レジストローラによる転写材搬送速度を、用紙搬送ベルト(転写ベルト)による転写材搬送速度よりも若干速い速度に設定すると共に、レジストローラを用紙搬送ベルトの転写材進入口に対して、上下方向に斜めにずれた位置に配置する。このような速度設定とレジストローラの配置により、転写材を用紙搬送ベルトとレジストローラとの間で撓ませて、ベルト移動速度とレジストローラによる転写材搬送速度との速度差を吸収するようにした技術が知られている。この技術は定着回転部材と転写ベルトの間においても同様に適用可能である。
【0013】
特許文献1では、用紙搬送ベルトとそのベルトに用紙を送り出すレジストローラとの線速差を検出して調整する手法を提案している。この技術は、ベルトとレジストローラの両者に記録紙(転写材)が接触しているときのベルトを支持する従動ローラ回転の情報の値と、予め求めておいたベルトとレジストローラの少なくとも一方に記録紙が接触していないときの従動ローラ回転の情報の値とで差が最小になるように回転駆動速度の目標値を決定する。駆動ローラ駆動手段とレジストローラ駆動手段の少なくとも一方の駆動回転速度の設定を、前記決定した回転駆動速度の目標値に変更する。
【0014】
しかし、特許文献1の提案技術では、記録紙を搬送して従動ローラ回転情報から駆動速度の目標値を求める調整ステップを要する。基本的に製造工程で一度行えばよいステップであるが、使用環境の変化が激しい場合には、頻繁にこの調整ステップを実施する必要が生じてしまう。
【0015】
また、特許文献2では、中間転写ベルトの2次転写とレジストローラの間、中間転写ベルトの2次転写と定着回転部材の間において、両者の速度差を吸収できる分だけ転写材を撓ませて、その撓み量を検出し、その撓み量が適当な量となるように各回転部の速度を調整する手法が提案されている。
【0016】
しかし、特許文献2の提案技術では、厚紙等、搬送方向の撓みに対する剛性の高い転写材の場合には、用紙搬送ベルトとレジストローラとの間で撓ませようとしても、転写材の剛性により上述した外乱が中間転写ベルトに伝達される。また、画像形成装置の小型化を図る場合には、用紙搬送ベルトとレジストローラの間、用紙搬送ベルトと定着回転部材の間の距離を短くしなければならない。そのため、両者の速度差を吸収できる分だけの転写材撓ませスペースを確保することが困難となる。
【0017】
そこで、本発明者らは、既に上記問題を解決すべく提案している(特許文献3)。この技術では、図2に示すように、レジストローラや定着部の回転伝達機構に、矢印Aのスラスト方向に移動可能なはすば歯車32を採用している。回転部材27(例えば定着ローラ)に生じる負荷トルク変動に応じて、はすば歯車32にスラスト力が発生し、スプライン40に沿ってはすば歯車32がスラスト移動することで負荷トルク変動を吸収する。つまり、このような機構を採用することにより、2つの転写材搬送装置間の線速差によって発生する転写材を介した押し合い、引っ張り合いによる負荷トルク変動に対して、発生するスラスト力により、負荷トルク変動を逃がすようにはすば歯車32はスラスト方向に移動し、過剰な負荷トルク変動に対し、負荷トルク変動を吸収し、転写材をより安定した速度で搬送可能とする。
【0018】
しかしながら、特許文献3で提案する構成を実施した際に、二つの新たな課題が発生した。回転部材27がスラスト方向へ移動してしまう問題と、はすば歯車32に傾きが生じ易い問題である。まず、転写材を搬送する回転部材27がスラスト方向に移動してしまう問題は以下に説明する通りである。これは、出力軸であるスプライン40と出力ギヤであるはす歯歯車32とをスラスト方向に移動可能にしたことにより生じる問題である。図2において、回転部材27は軸受33によって回転自在に支持され、スラスト方向には固定支持されている。しかし、実際には組付を容易とするためにスラスト方向ガタを有しているので、はすば歯車32にスラスト力が発生する場合、コイルばね36を介して回転部材27がスラスト方向に移動してしまう。また、スプライン40によってはすば歯車32は回転軸34とスプライン連結しているため、スプライン連結部の摩擦によって、回転部材27がスラスト方向に移動してしまう。回転部材27は転写材を搬送しているため、スラスト方向の移動が発生すると、転写材をスキューさせ、転写画像を歪ませてしまう。また、最悪の場合、転写材のジャムが発生し、画像形成装置が停止してしまう。
【0019】
次に、スラスト方向に移動可能なはすば歯車32に傾きが発生し易い問題は以下の通りである。例えば、図2において、はすば歯車31とはすば歯車32の噛み合い部において、スラスト力Bが発生する場合、はすば歯車32は歯車中央を回転中心として矢印Cの方向に傾いてしまう。はすば歯車32が傾くと、はすば歯車31との噛み合い歯面が偏り、回転部材27に回転変動が発生し、転写材への画像形成に影響を与える。最悪の場合には、歯車の偏磨耗が発生し、歯車寿命の低下、破損による画像形成装置の停止が発生してしまう。
【0020】
出力軸と出力ギヤではなく、アイドラギヤを設けて、このアイドラギヤを図2に示す機構のように移動可能とすることは、以下の理由により難しく、実質的に不可能である。それは、はす歯歯車で構成したアイドラギヤは、その直前と直後に配置されるはす歯歯車と噛み合うが、回転部材27に負荷変動が生じたときに、アイドラギヤとその下流側の出力ギヤ(回転軸に固定されている)との噛み合いによる力が大きくなるが、その噛み合いによりアイドラギヤに生じる噛み合いの反力(図2の構成で歯車32を移動させる力に相当する)は、アイドラギヤの上流側のギヤ(回転軸に固定されている)との噛み合いによる反力と相殺されてしまうため、アイドラギヤ自体はスラスト方向に移動しない。
【0021】
また、出力軸と出力ギヤではなく、入力軸と入力ギヤを図2に示す機構のように移動可能とすることは、以下の理由により難しい。それは、入力軸が接続される駆動源が、この回転部材27専用の駆動源ならばあるいは可能かもしれないが、通常採用されるような共通の駆動源で複数の回転部材に駆動を伝達するように構成する場合には、回転部材27の負荷トルク変動に応じてはすば歯車(入力ギヤ)が移動すると、回転部材27の回転にも影響を及ぼし、また逆に回転部材27の負荷トルク変動に応じてはすば歯車(入力ギヤ)が移動すると、回転部材27の回転にも影響を及ぼすため、意図する効果が得られなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点に鑑み、製品個々の部品精度や温度変化によらず、回転部材におけるトルク、例えば、中間転写ベルトとレジストローラの転写材搬送トルク又は定着ローラの転写材搬送トルクが一定である状態を安定して維持して、転写材を介した過剰な引っ張りや押し合いによる変動要因がなく、高品質な画像形成が可能な画像形成装置のための回転駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題は、駆動源から回転部材に回転駆動力を伝達するための回転伝達機構であって、該回転伝達機構が、太陽歯車を入力側とし、内歯車を回転不能に支持し、遊星歯車の公転を拾う遊星キャリアを出力側とする遊星歯車機構であり、太陽歯車、内歯車及び遊星歯車がそれぞれはすば歯車であり、内歯車が、回転部材の回転負荷トルク変動に応じてスラスト方向に移動可能に支持され、内歯車へのスラスト方向にかかる力に抗するための付勢手段を内歯車端面に配する。
【0024】
内歯車を回転不能に且つスラスト方向に移動可能に支持するために、内歯車側端に形成された複数の穴を形成し、回転伝達機構の側板に固定された回り止めピンを前記複数の穴のそれぞれに挿入するのがよい。三個の回り止めピンを内歯車の周方向に等間隔で設置するのが、好都合である。三個の遊星歯車を太陽歯車の周囲に等間隔で配置するのも、効果的である。また付勢手段を内歯車のスラスト方向両端面に配しているのも好ましい。
【0025】
上記回転伝達機構を、画像形成装置において、圧接する二つの回転体の一方に取り付けることが想定される。その際、圧接する二つの回転体が、転写部に転写材を所定タイミングで搬送するレジスト搬送装置に属すること、圧接する二つの回転体が、定着装置に属することが考えられる。これらの場合、内歯車のスラスト方向移動を一時的に規制する規制手段を有するのが、構成上一層好ましい。内歯車のスラスト方向移動の際に内歯車が所定位置に達したことを検知するための検知手段を設け、該検知手段による検知結果に基づいて駆動源の回転速度を変更するのも、好適である。
【発明の効果】
【0026】
駆動源から回転部材に回転駆動力を伝達するための回転伝達機構が、太陽歯車を入力側とし、内歯車を回転不能に支持し、遊星歯車の公転を拾う遊星キャリアを出力側とする遊星歯車機構であり、太陽歯車、内歯車及び遊星歯車がそれぞれはすば歯車であり、内歯車が、回転部材の回転負荷トルク変動に応じてスラスト方向に移動可能に支持され、内歯車へのスラスト方向にかかる力に抗するための付勢手段を内歯車端面に配するので、回転部材にかかる負荷トルクの変動によって内歯車にスラスト方向の力がかかっても弾性手段によってそれを吸収する一方、回転部材をスラスト方向に変位させることなく、安定して回転させることが可能である。
【0027】
内歯車側端に形成された複数の穴を形成し、回転伝達機構の側板に固定された回り止めピンを前記複数の穴のそれぞれに挿入すれば、簡単な構成で確実に、内歯車を回転不能に且つスラスト方向に移動可能に支持することができる。三個の回り止めピンを内歯車の周方向に等間隔で設置すれば、はすば歯車に傾きが生じることなく、また振動が発生することもなく、内歯車のスラスト移動をスムーズに実現できる。三個の遊星歯車を太陽歯車の周囲に等間隔で配置しても、同様にはすば歯車に傾きを生じることがない。内歯車のスラスト方向移動を復元する付勢手段を内歯車端面に配していれば、回転部材の回転負荷トルクが元に戻った際にスラスト移動した内歯車をすみやかに元の位置に戻すことができる。付勢手段を内歯車のスラスト方向両端面に配していれば、負荷トルク変動の増加と減少の両方に対応することが可能である。
【0028】
圧接する二つの回転体の一方に上記回転伝達機構が取り付けられ、それら回転体が、転写部に転写材を所定タイミングで搬送するレジスト搬送装置に属するならば、レジストローラと転写ローラの間で転写材を介した押し合い、引っ張り合いによる負荷トルク変動が起こる場合に、レジストローラの線速が転写ローラの線速に近づくように変化して、転写中の転写材をより安定した速度で搬送することができる。また、圧接する二つの回転体が、定着装置に属するならば、転写ローラと定着ローラの間で転写材を介した押し合い、引っ張り合いによる負荷トルク変動が起こる場合に、定着ローラの線速が転写ローラの線速に近づくように変化して、転写中の転写材をより安定した速度で搬送することができる。これらの場合、内歯車のスラスト方向移動を一時的に規制する規制手段を有していれば、転写材が二つのローラ対の間で挟持されていないタイミングであるレジスト搬送装置や定着装置に転写材が進入する際に負荷トルク変動が生じても、規制手段を機能させて内歯車のスラスト方向移動を規制することで一定の線速を維持でき、画像先頭位置のずれや転写画像のブレを阻止することができる。内歯車のスラスト方向移動の際に内歯車が所定位置に達したことを検知するための検知手段を設け、該検知手段による検知結果に基づいて駆動源の回転速度を変更すれば、駆動源であるモータの個体差による平均速度の逸脱の問題を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】画像形成装置の要部を示す概念図である。
【図2】従来技術に係る回転伝達機構を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る回転伝達機構を示す縦断面図である。
【図4】本発明に係る回転伝達機構を示す横断面図である。
【図5】本発明に係る回転伝達機構における遊星歯車機構の歯車噛み合いを説明する図であり、(a)は全体概念、(b)は太陽歯車と遊星歯車の噛み合い、(c)は遊星歯車と内歯車の噛み合いを示す図である。
【図6】本発明に係る回転伝達機構を画像形成装置に適用する場合の概念模式図である。
【図7】定着ローラの線速が二次転写線速よりも大きい場合の負荷トルクと時間の関係を示すグラフであり、(a)は本発明に係る回転伝達機構を設置していない場合、(b)は本発明に係る回転伝達機構を設置している場合である。
【図8】定着ローラの線速が二次転写線速よりも小さい場合の負荷トルクと時間の関係を示すグラフであり、(a)は本発明に係る回転伝達機構を設置していない場合、(b)は本発明に係る回転伝達機構を設置している場合である。
【図9】レジストローラの線速が二次転写線速よりも大きい場合の負荷トルクと時間の関係を示すグラフであり、(a)は本発明に係る回転伝達機構を設置していない場合、(b)は本発明に係る回転伝達機構を設置している場合である。
【図10】レジストローラの線速が二次転写線速よりも小さい場合の負荷トルクと時間の関係を示すグラフであり、(a)は本発明に係る回転伝達機構を設置していない場合、(b)は本発明に係る回転伝達機構を設置している場合である。
【図11】はすば歯車対が噛み合う場合の力の関係を示す説明図である。
【図12】負荷トルクと並進力の関係を実験データと関係式を用いた近似で導出した例を示す図である。
【図13】本発明に係る回転伝達機構の別例を示す縦断面図である。
【図14】本発明に係る回転伝達機構の異なる例を示す縦断面図である。
【図15】本発明に係る回転伝達機構の更に異なる例を示す縦断面図である。
【図16】本発明に係る回転伝達機構を画像形成装置に適用する別例の場合の概念模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施対象となる画像形成装置の例を図1に示す。この画像形成装置の基本構成は背景技術の項において説明した通りのものであるが、定着ローラ17のローラ対、駆動ローラ18と転写ローラ19のローラ対、レジストローラ16のローラ対のそれぞれには、転写材をニップして搬送力を伝達するローラ対回転伝達機構が付設されており、これらのローラ対は一枚の転写材に対して複数のローラ対がニップし得る互いに短い間隔で設置されている。また、これらのローラ対が転写材を搬送するための回転駆動力を発生する不図示のモータが設置されている。モータは、各ローラ対共通の駆動源として一個だけ設置しても、各ローラ対毎の駆動源として複数個を設置してもよい。本発明の特徴部分は、モータの回転駆動力をローラ対に伝達する回転伝達機構である。
【0031】
図3に、回転伝達機構の一例として、定着ローラ17に対する回転伝達機構9を示す。これは、不図示のモータの回転駆動力を定着ローラ17に伝達する遊星歯車機構であり、各歯車は、はすば歯車で構成されている。入力軸100の端部領域に形成された太陽歯車101は、図4に示すように太陽歯車の周りに均等分布した三個の遊星歯車107と噛み合っており、これらの遊星歯車107は内歯車105と噛み合っている。内歯車105の入力側側端面に複数個の円筒状空隙106が分布形成されており、第一支持側板102に立設された固定ガイドピン103が空隙106内に嵌まり込み、回り止めピンとして内歯車105を第一支持側板102に対し回転不能に支持している。同時に、ガイドピン103は内歯車105を図中矢印D方向に移動自在にガイド支持している。遊星歯車107は、軸受108によって、キャリア110に回転自在に支持されている。内歯車105が回転不能に固定されているので、入力軸100のモータ回転駆動力によって、遊星歯車107が太陽歯車101の周りを公転しながら自転する。キャリア110が第二支持側板109に回転自在に支持されており、モータの回転駆動力は遊星歯車107を支持するキャリア110の回転となって定着ローラ17に伝達する。本構成の遊星歯車機構は減速機構の働きを有し、減速比は(Zs+Zi)/Zs(Zs:太陽歯車の歯数、Zi:内歯車の歯数)となる。内歯車105は、軸線111に対し図中矢印D方向に移動自在に支持されており、その移動を弾性的に阻止する弾性手段104がガイドピン103の根元に設置されている。本例では、弾性手段としてコイルばねを使用した。弾性手段104の一端は、内歯車105の基礎体の一方の端面に当接し、他端が第一支持側板102に固定されている。弾性手段の他の例としては、波状の中空円盤の板バネが好適である。
【0032】
定着ローラ17による転写材搬送中において、転写ローラ19との線速差によって生じる定着ローラ17の負荷トルク変動に応じて、内歯車105に作用するスラスト方向(図中矢印D方向に一致する)の力により、第一支持側板102に対して、内歯車105が図中矢印D方向に沿って移動する。太陽歯車101と入力軸100は、不図示のモータ出力軸に連結され、又はモータ出力軸に一体成形されており、モータは不図示の筐体又は第一支持側板102に取り付けられており、太陽歯車101に作用するスラスト方向の力は、第一支持側板の軸受112により受容されるようになっている。一方、内歯車105が図中矢印D方向に移動自在となるようにガイドピン103で支持されていることによって、内歯車105に作用するスラスト方向の力と弾性手段104の圧接力が均衡する位置に内歯車105はスライドする。
【0033】
内歯車105に作用するスラスト力の発生について、図5を用いて説明する。図5aは本構成の遊星歯車機構のうち、ギヤ部材に限定した構成の正面略式図である。太陽歯車101を中心に三個の遊星歯車107が均等間隔に配置されている。遊星歯車107は内周円側で太陽歯車107と、外周円側で内歯車105と噛み合っている。図5aにおける各噛み合い部には、模式的に代表的な一歯対の噛み合い状態を示している。内歯車105は回転不能に固定されていて、太陽歯車101が図中矢印E方向に回転すると、遊星歯車107は矢印G方向に回転しながら、キャリア110を矢印H方向へ回転伝達する。このとき、各歯車の噛み合い部で発生するスラスト力を図5b,5cに示す。図5bは、太陽歯車101と遊星歯車107の噛み合い部(遊星歯車の内周円側)の概念斜視図である。図5cは、遊星歯車107と内歯車105の噛み合い部(遊星歯車の外周円側)の概念斜視図である。
【0034】
まず、太陽歯車101と遊星歯車107の噛み合い部において、太陽歯車101は矢印E方向に回転しており、遊星歯車107とはすば歯車の噛み合いによって、太陽歯車の軸方向にスラスト力Fs1が発生する。このスラスト力は、太陽歯車の入力軸100を支持する軸受112やモータ本体で受けるように設計されている。一方、遊星歯車107には、遊星歯車の軸方向にスラスト力Fp1が発生する。
【0035】
次に、遊星歯車107と内歯車105の噛み合い部において、遊星歯車107は矢印G方向に回転しており、内歯車105とはすば歯車の噛み合いによって、遊星歯車の軸方向にスラスト力Fp2が発生する。このスラスト力Fp2は太陽歯車101と遊星歯車107の噛み合い部で発生しているスラスト力Fp1と逆方向で大きさが一致するため、遊星歯車107に働くスラスト力は相殺される。一方、内歯車105には内歯車の軸方向にスラスト力Fi2が発生する。
【0036】
このように、はすば歯車で構成された遊星歯車機構を採用して、内歯車を回転不能に固定し、太陽歯車の入力回転を遊星歯車の公転であるキャリア110の回転で減速出力する伝達機構とすることで、遊星歯車のスラスト力は相殺される関係にあり、キャリア110のスラスト移動は発生することなく、定着ローラ17をスラスト方向にずらすことなく回転駆動することができる。したがって、第一の新たな課題である「転写材を搬送するローラ17(回転部材)がスラスト方向に移動し易いこと」を解消することができる。
【0037】
また、本構成の遊星歯車機構では、三個の遊星歯車107を均等配置している。そのため、内歯車105に発生するスラスト力Fi2は、三個の遊星歯車107との各噛み合い部(各遊星歯車の外周円側)で発生する。内歯車105は、円周方向三箇所の位置で発生するスラスト力でスラスト移動することになる。したがって、第二の新たな課題である「スラスト方向に移動可能なはすば歯車に傾きが発生し易いこと」を解消し、内歯車105は傾くことなくスラスト移動することが可能である。
【0038】
また本例では、内歯車105を回転不能に且つスラスト方向に移動可能に支持する構成として、内歯車105の端面に分布形成された円筒状空隙106と、入力側の側板である第一支持側板102に立設された固定ガイドピン103とが嵌合摺動するようになっているが、回り止めピンであるガイドピン103の数が例えば上下に二本だけで、遊星歯車107も二個だけであったりすると、ピンと空隙の間隙に応じて、上下に振動してしまい、搬送すべき転写材に振動が伝わって画像劣化の原因になることも考えられる。またガイドピン103の数が四本以上になると、ピンの設置位置誤差によって、四本のうち二本が空隙106の周面に接触し、他の二本が接触しない等の状態が生じて、同じく振動が生じ得る。更に、負荷状態で接触するガイドピンの数が二本になったり、三本になったりと変動することで振動が生じる。図4に示すように、ガイドピン103を中心角120°間隔で三本配置する場合、各ガイドピン103と空隙106が円周方向に対し等荷重で接触する位置に内歯車105が安定して固定される。したがって、振動が発生せず、スムーズなスラスト移動が実現する。
【0039】
以上のように形成された回転伝達機構9を、画像形成装置の例えば定着ローラ対とレジストローラ対の伝達機構に設置する。図6は、本例の概略模式図である。回転伝達機構9aは、定着ローラ対の伝達機構として設置されており、回転伝達機構9bは、レジストローラ対の伝達機構として設置されている。回転伝達機構9a,9bのはすば歯車対のそれぞれの減速比は、定着ローラ17とレジストローラ16がほぼ同一線速となるように設定されている。回転伝達機構9a,9bのはすば歯車対とは別に歯車対を連結して所望の減速比を実現してもよい。定着ローラ17やレジストローラ16の対向側ローラは、定着ローラ、レジストローラに加圧されており、同一線速で回転する。対向側ローラのローラ軸にも歯車を設けて、回転伝達するようにしてもよい。二次転写部を構成する駆動ローラ18はモータ44により一定速度で駆動されており、転写ローラ19が中間転写ベルトを介して駆動ローラ18に圧接している。
【0040】
本例のように、回転伝達機構9をレジストローラ16、二次転写部(駆動ローラ18)、定着ローラ17のうち、レジストローラ16と定着ローラ17に設置する理由を以下に述べる。本発明に係る回転伝達機構9は、ローラを取り付ける回転軸にかかる過剰な負荷トルク変動を吸収する機能を有する。過剰な負荷トルク変動は、基準となるローラ対に対して回転伝達機構9を設置したローラの線速が異なる場合に、両ローラ対が転写材を挟んだまま引っ張り合う時、又は押し合う時に発生する。本例では、基準のローラ対を駆動ローラ18と転写ローラ19の対とし、このローラ対の線速に対し、レジストローラ対と定着ローラ対の線速が異なることによって生じる負荷トルク変動を本発明に係る回転伝達機構9a、9bが吸収するものである。基準となるローラ対は、定着ローラ対やレジストローラ対とすることも可能であるが、二次転写部の駆動ローラ、転写ローラが好ましい。回転伝達機構9は負荷トルク変動を吸収する一方、ローラの線速も変化する。画像を転写材に転写する二次転写部の駆動ローラの回転軸に本発明に係る回転伝達機構9を設置しようとする場合、駆動ローラの線速変化は移動搬送するベルト上の画像形成に悪影響を及ぼす。本例で説明すると、二次転写部の駆動ローラ18の線速に変動が発生すると、書き込み装置から感光体ドラムへ書き込まれ、感光体ドラムから中間転写ベルトへ一次転写する画像部分に濃度ムラが発生してしまう。よって、駆動ローラ18は一定線速で駆動することが望ましく、基準ローラ対として本発明に係る回転伝達機構を付設せず、他のローラ対に回転伝達機構9を設置する。
【0041】
ちなみに、複数のローラ対の線速差は理論上存在しないのが好ましいが、実際には、(1)装置内温度変化によるローラ径の熱膨張、(2)紙種(紙厚)、(3)設計公差、(4)経時的なゴムローラ表面摩耗による径変動等の理由によって線速差が生じる。装置内では定着の熱で20℃以上の温度変化が発生する。そのため定着ローラ外径変化により搬送速度が変化する。また、紙厚に応じてニップ搬送時のゴム変形量が変化し、転写材搬送速度が変化する。レジストローラ対、二次転写ローラ対、定着ローラ対には表層や中間層に弾性変形するゴムローラを一般に利用しており、この変形量が搬送する紙厚によって異なるため線速差が生じる。更には、設計公差や磨耗のために理論通りの外径でなくなり、線速差が生じる。定着線速>二次転写線速>レジスト線速のように転写材を引っ張る状態にすると画像劣化が顕著になる。特に二次転写部は画像形成の重要な箇所であり、ここを速度変動させないことが要求される。そこで、転写材に張力が発生した状態にならないように、設計時には、予め、上記線速変動要因を考慮して、定着線速<二次転写線速<レジスト線速となるようにしている。とりわけ定着−二次転写間では転写材が撓んだ状態に基づき設計がなされる。同様に二次転写−レジストローラ間も転写材が撓む状態で設計されている。
【0042】
図6に戻って、回転伝達機構9a,9bの回転軸48(太陽歯車の入力軸100に連結する)にはそれぞれ共通駆動源のモータ43が連結されている。モータ二個を用いて、それぞれ別の駆動源としてもよいが、本例では、低コスト化のために共通のモータ43で二つのローラ対を駆動する構成を採用している。また、レジストローラ対側では、モータ43の回転駆動力の伝達と遮断を目的とするクラッチ機構46を設けている。これは、レジストローラは、所定のタイミングで転写材35を二次転写部へ搬送する目的で設置されたローラであり、レジストローラの起動と停止を所望のタイミングで行う必要があるためである。これによって、不図示の給送機構から搬送された転写材35を、所定のタイミングでクラッチ46のON動作で二次転写部に搬送し、転写材上の画像転写位置が所望の位置となるようにできる。
【0043】
定着ローラ側にもクラッチを設置してもよい。定着ローラ側のクラッチ機構は、搬送不良により転写材が停止した場合の転写材除去の実現を容易にする。転写材がレジストローラ16又は定着ローラ17に挟持されている間に停止し、停止した転写材を引き抜こうとする際、回転伝達機構を介してモータ43までが連結していると非常に大きな力を要する。そこで、ローラからモータ間にクラッチを設け、力の伝達を遮断し容易に引き抜くことを可能とする。クラッチは、ローラとモータ間の伝達経路上のどの位置に配置しても構わない。制御基板45は、モータ43へ駆動信号を送信する。制御基板45では、要求されたタイミングで、所定の回転速度で回転するようにモータ43へ駆動信号を送信する。モータ43は、ステッピングモータやDCサーボモータが使用され、制御基板45からの駆動指令に応じて、一定の回転角速度で回転する。
【0044】
以下の説明では、定着ローラ側回転伝達機構の各部品番号にaを添えて、レジストローラ側ではbを添えて説明する。
転写材35上に画像を転写し定着して排紙するべく、モータ43が動作して、所定のタイミングでクラッチ機構46がONして駆動力を伝達すると、回転伝達機構9bの回転軸48bと入力軸100bが回転し、互いに噛み合ったはすば歯車の遊星歯車機構を介してレジストローラ16の回転軸113bに伝達される。回転軸113bが回転するとレジストローラ16が回転して、転写材35を二次転写部に送り出す。二次転写部に到達すると、転写材35は駆動ローラ18と転写ローラ19のニップ部で搬送される。一方、モータ43が動作すると、回転伝達機構9aの回転軸48aが回転し、互いに噛み合ったはすば歯車の遊星歯車機構を介して定着ローラ17の回転軸113aに伝達される。回転軸113aが回転すると定着ローラ17が回転して、搬送されてくる転写材35に対し定着動作を行う。
【0045】
例えば、製造誤差によりレジストローラ16の直径が狙いより大きく、レジストローラ16の線速が駆動ローラ18の線速よりも速い場合、レジストローラ16が二次転写部へ転写材35を押し込むような状態となる。転写材の剛性が低い場合は、レジストローラ16と駆動ローラ18の搬送量の差に応じて転写材35が撓むことで問題ないが、転写材の剛性が高い場合には、駆動ローラ18は一定速度で回転するように制御されているため、レジストローラ16と駆動ローラ18が転写材35を介して押し合う状態が続く。レジストローラ16に回転力を伝達する回転伝達機構9bの回転軸113bの負荷トルクが増大する。
【0046】
この時、各遊星歯車107bへの噛み合いにより内歯車105bに生じるスラスト方向の力が発生し、図3に示すように、遊星歯車107bに対して内歯車105bが図中矢印D方向に沿って、図中左方向にコイルばねの弾性手段104を圧縮するように移動する。この移動により負荷トルクの増加分が吸収される。つまり、負荷トルクの増加に伴い、内歯車105bが移動し、レジストローラ16の回転速度は低下する。常に一定速度で回転するモータ43とそれに連結した回転軸48b及び回転軸100b、遊星歯車107bに対し、内歯車105bのスラスト方向の移動により回転軸113bの回転速度は変化する。
【0047】
本例では、内歯車105が図3で左方向に移動する時、回転軸113の回転速度は低下し、内歯車105が左方向に移動する時は、回転速度が増加する。内歯車105bのスラスト方向の移動は、転写材35がレジストローラ16と駆動ローラ18の両方に挟持されている間に発生する。転写材35の後端がレジストローラ16のローラ対を抜けると、増加した負荷トルクは無くなり、元の負荷トルクに戻る。転写材35を搬送中に移動した内歯車105bは、弾性手段104bの加圧力で回転軸方向の元の位置に移動する。元の位置とは、図3に示す内歯車105bの位置であり、この位置は、レジストローラ16のローラ対を回転するための負荷トルクによるスラスト方向の力と弾性手段104bの加圧力とが均衡した位置である。これに加えて、レジストローラ対のみに転写材35がニップされ搬送される時には、転写材を搬送する分の負荷トルクが増加して、スラスト方向の弾性手段104bを圧縮する方向に少し移動する。転写材35を搬送する際の負荷トルクの増加量は、先述した線速差による負荷トルク変動に対して非常に小さいため、この時の内歯車105bの移動量は少ない。
【0048】
また、レジストローラ16の線速が駆動ローラ18の線速よりも遅い場合、内歯車105bは先述した方向とは逆の方向に移動する。これは、転写材35を介して、レジストローラ16が駆動ローラ18に引っ張られるように回転し負荷トルクが減少するためである。
【0049】
定着ローラ17側の回転伝達機構9aの動作も同様である。定着ローラ17の線速が駆動ローラ18の線速よりも速い場合、定着ローラ17の負荷トルクが増大し、内歯車105aは、スラスト方向の図中左方向に移動する。また、定着ローラ17の線速が駆動ローラ18の線速よりも遅い場合、定着ローラ17の負荷トルクが減少し、内歯車105aは、スラスト方向の図中右方向に移動する。
【0050】
次に、定着ローラ17、レジストローラ16にかかる負荷トルク変動の実例を示し、本発明に係る回転伝達機構9の動作とその効果について具体的に説明する。
定着ローラ17の線速が駆動ローラ18の線速(二次転写部の線速)よりも速い場合の、定着ローラ17の回転軸にかかる負荷の変動を計測した結果を図7aに示す。本計測では、定着ローラ17の減速機構に本発明に係る回転伝達機構9は設置されていない構成(回転伝達機構を設置しても内歯車105のスラスト方向の移動を規制した状態とすれば同じである)で計測を行った。
【0051】
図5aにおける時間帯52は、モータ43が起動し、定着ローラ17が回転を開始し、所望の回転速度で回転している時間帯である。この時、転写材を搬送していない状態の定着ローラ17は、負荷トルク約100mN・mが回転軸にかかっている。二次転写部と定着ローラ17に転写材35がニップされている時間帯53では、定着ローラ17は、二次転写部よりも速い線速で転写材35を搬送するため、二次転写部にニップされている転写材35を引っ張る状態で負荷トルクが増加する。ニップ部でのローラと転写材との間で滑りが無い場合、この負荷トルクは右肩上がりに上昇し、転写材の破断や伝達歯車の破損が発生し得る。しかし、実際には、接触部ですべりが発生する。本例では、二次転写部の中間転写ベルト10と転写材35の間で摩擦力が最も弱く、滑りが生じる。二次転写部でトナー画像を転写材35に転写するため、トナーが潤滑材として働き、中間転写ベルト10と転写材35とで滑りを発生させる。この時間帯53の負荷トルクは上昇せずに、或る一定範囲で変動する。本計測では、約250mN・mの負荷トルクであった。このような、負荷トルクの上昇による二次転写部での転写材35と中間転写ベルト10の間の滑りは画像劣化を招来する。つまり、トナー画像は崩れ、線画が不明瞭になってしまう。時間帯53の最初に見られるショック的な変動51は、膜厚が大きい転写材を搬送した際に顕著に発生する現象で、その詳細については、後述する。転写材35の後端が二次転写部を抜けて、定着ローラ17のみに転写材35がニップされる時間帯54になると、時間帯52と比較して転写材35を搬送するために若干の負荷トルクの増加がみられるが、負荷トルク約100mN・mに戻っている。
【0052】
定着ローラ17の回転軸に回転伝達機構9aを設置した場合の入力軸100にかかる負荷の変動を計測した結果を図7bに示す。なお、入力軸100の負荷トルクは、定着ローラ17の回転軸に比べて回転伝達機構(減速機構)のため低くなるが、比較のために回転軸113(定着ローラ17の回転軸)の負荷トルクに換算した結果として示す。時間帯52における一定の負荷トルク状態において、内歯車105aのスラスト方向の位置は、弾性手段104の加圧力と定着ローラ17の駆動トルクによるスラスト力との平衡位置である。時間帯53で負荷トルクが増加すると、内歯車105aは図3における矢印D方向(スラスト方向)の左方向に移動する。時間帯53の間、この移動は常に起こり、内歯車105aは左方向に移動を続ける。この移動により負荷トルクの増加を吸収する。トルク増加分の吸収とは、本例では二次転写部において、中間転写ベルト10の線速に対し転写材35をより速い線速で引っ張る過剰な搬送力を吸収する意味である。負荷トルクの増加に伴い、一定回転速度で回転する遊星歯車107aに対し、内歯車105aがスラスト方向に移動することで、はすば歯車対の回転伝達トルクが低下し、回転軸113aの回転速度は低下する。回転軸113aの回転速度の低下は、定着ローラ17と二次転写部の線速を一致させる方向であり、二次転写部での滑りが抑制され、高画質な転写画像が得られるようになる。時間帯54では、負荷トルクの増加は無くなり、内歯車105aは、弾性手段104の加圧力により、時間帯52の位置と同じ位置に戻り、次の転写材35ニップ時の負荷トルク変動に備える。
【0053】
次に、定着ローラ17の線速が駆動ローラ18の線速(二次転写部の線速)よりも遅い場合の、定着ローラ17の回転軸にかかる負荷の変動を計測した結果を図8aに示す。時間帯55は、二次転写部と定着ローラ17に転写材35がニップされている時間帯である。定着ローラ17は、二次転写部よりも遅い線速で転写材35を搬送するため、二次転写部にニップされている転写材35に定着ローラ17が回転方向に押される負荷トルクが発生する。つまり、定着ローラの回転軸113aの負荷トルクが減少する。実際には、定着ローラと二次転写部の間において転写材の撓みが生じた後、二次転写部での転写材35と中間転写ベルト10とで滑りが発生し、図8aに示すように、緩やかに負荷トルクが減少した後、一定の負荷トルクとなる。
【0054】
定着ローラ17の回転軸に回転伝達機構9aを設置した場合の入力軸100にかかる負荷の変動を計測した結果を図8bに示す。先ほどと同様に回転軸113(定着ローラ17の回転軸)の負荷トルクに換算した結果を示す。時間帯55で負荷トルクが減少すると、内歯車105aは図3の矢印D方向の右向きに移動する。時間帯55の間、この移動は常に起こり、内歯車105aは右方向に移動を続ける。この移動により負荷トルクの減少を補足する。トルク減少分の補足とは、本例では、二次転写部において、中間転写ベルト10の線速に対し転写材35をより遅い線速のために不足する搬送量を増加させる意味である。負荷トルクの減少に伴い、一定回転速度で回転する遊星歯車107aに対し、内歯車105aがスラスト方向の図3での右方向に移動することで、回転軸113aの回転速度が増加する。回転軸113aの回転速度の増加は、定着ローラ17と二次転写部の線速を一致させる方向に対応し、二次転写部での滑りが抑制され、高画質な転写画像が得られるようになる。
【0055】
同様に、レジストローラ16の線速が駆動ローラ18の線速(二次転写部の線速)よりも速い場合の、レジストローラ16の回転軸にかかる負荷の変動を計測した結果を図9aに示す。本計測も、レジストローラ16の減速機構に本発明に係る回転伝達機構9は設置されていない構成(回転伝達機構を設置しても内歯車105のスラスト方向の移動を規制した状態とすれば同じである)で計測を行った。図9aにおける時間帯57は、モータ43が起動し、レジストローラ16が回転を開始し、所望の回転速度で回転している時間帯である。この時、転写材を搬送していない状態のレジストローラ16は、負荷トルク約40mN・mが回転軸にかかっている。二次転写部とレジストローラ16に転写材35がニップされている時間帯58では、レジストローラ16は、二次転写部よりも速い線速で転写材35を搬送するため、二次転写部にニップされている転写材35を押し込む負荷トルクが発生する。実際には、レジストローラ16と二次転写部との間で、転写材35は撓みながら搬送される。転写材35の撓み方で、この時間帯の負荷トルク変動は変化する。本計測では、最大約100mN・mまで負荷トルクが増加した。このような、負荷トルクの上昇でも同様に転写画像の劣化は発生する。時間帯59は、転写材35の後端がレジストローラ16を通過した時間帯である。時間帯57の最初に見られるショック的な変動56については、後述する。
【0056】
レジストローラ16の回転軸に回転伝達機構9bを設置した場合の入力軸100にかかる負荷の変動を計測した結果を図9bに示す。時間帯58で負荷トルクが増加すると、内歯車105bは図3における矢印D方向(スラスト方向)の左方向に移動する。時間帯58の間、この移動は常に起こり、内歯車105bは左方向に移動を続ける。この移動により負荷トルクの増加を吸収する。
【0057】
次に、レジストローラ16の線速が駆動ローラ18の線速(二次転写部の線速)よりも遅い場合の、レジストローラ16の回転軸にかかる負荷の変動を計測した結果を図10aに示す。時間帯62は、二次転写部とレジストローラ16に転写材35がニップされている時間帯である。レジストローラ16は、二次転写部よりも遅い線速で転写材35を搬送するため、二次転写部にニップされている転写材35にレジストローラ16が回転方向に引っ張られて負荷トルクが減少する。つまり、レジストローラの回転軸113bの負荷トルクが減少する。実際には、二次転写部での転写材35と中間転写ベルト10とで滑りが発生し、図10aに示すように、或る範囲の負荷トルク変動となる。
【0058】
レジストローラ16の回転軸に回転伝達機構9bを設置した場合の入力軸100にかかる負荷の変動を計測した結果を図10bに示す。時間帯62で負荷トルクが減少すると、内歯車105bは図3の矢印D方向の右向きに移動する。時間帯62の間、この移動は常に起こり、内歯車105bは右方向に移動を続ける。この移動により負荷トルクの減少を補足する。
【0059】
このように転写材35がレジストローラ16と二次転写部にニップされている時の負荷トルクの増加、減少に対する回転伝達機構9bの内歯車105bの動きは、先述した定着ローラ17の回転伝達機構9aと同様である。負荷トルクが増加すると、内歯車105bは図3の矢印Dの左方向に移動する。負荷トルクが減少すると、内歯車105bは図3の矢印Dの右方向に移動する。その結果、回転軸113bの回転速度がレジストローラ16と二次転写部の線速を一致させるように変化し、二次転写部での滑りが抑制され、高画質な転写画像が得られるようになる。
【0060】
次に、回転軸100にかかる負荷トルクと、その時に内歯車105のスラスト方向に発生する力の関係について説明する。この関係は、弾性部材104の設計において重要な特性となる。設計したはすば歯車対における負荷トルクと、スラスト方向に発生する力(以下、並進力という。)の関係を求める。転写材35搬送時に発生する負荷トルク変動を計測することで、内歯車105の並進力が得られ、効果的に、はすば歯車がスラスト方向に移動するように弾性部材104の加圧力を設定する。
【0061】
図11は、はすば歯車対が噛み合う際の力の関係を示す説明図である。はすば歯車はねじれ角βで設計製造されている場合、噛み合い力Ft、回転方向の駆動力Fθ、軸方向の並進力Fzは、図11の関係となる。はすば歯車のねじれ角βによって、噛み合い力Ftが回転方向の駆動力Fθと軸方向の並進力Fzに分けられ、これらの関係は、Fz=Fθ・tanβとなる。つまり、負荷トルク増加時には、駆動力Fθが大きくなり、それに伴い、並進力Fzも大きくなる。また、はすば歯車では、複数の歯が順次に噛み合ってトルクを伝達するため、この並進力は常に発生している。
【0062】
本発明では、遊星歯車機構を採用し、本構成例では遊星歯車三個を設置しており、各遊星歯車において並進力を考慮する必要があるが、各遊星歯車との噛み合いにて均等に並進力が発生し、最終的にその合力が内歯車105の並進力として重畳されるため、遊星歯車を一個として簡略化して検討することができる。
【0063】
上記並進力の関係式と、内歯車105がスラスト方向に移動する際のガイドピン103の摩擦係数を考慮して、内歯車105の回転軸100にかかる負荷トルクと内歯車105の並進力の関係を求める。負荷トルクと並進力の関係を実験データと関係式を用いた近似で導出した例を図12に示す。前述したように、定着ローラ線速が二次転写部よりも速い場合の負荷トルク変動は図7aである。時間帯53の負荷トルクは約250mN・mであり、この負荷トルクに対して内歯車105がスラスト方向に移動するように弾性手段104の加圧力を設計する。時間帯53の負荷トルクをTfとして、図12から、内歯車105の並進力Hfを導出する。弾性手段104の加圧力は、この並進力Hfよりも弱く設計する。また、図7aの時間帯52及び54の負荷トルク約100mN・mをTf’として、図12から、内歯車105の並進力Hf’を導出する。弾性手段104の加圧力は、この並進力Hf’から、時間帯52及び54において、内歯車105が平衡してガイドピン103で停止するように設計する。このように設計することで、定着ローラと二次転写部に転写材がニップされているときに発生する負荷トルク変動に対して、内歯車105がスラスト方向に移動して、所望の効果が得られるようになる。また、時間帯53の負荷トルク変動量は、各ローラの製造公差や転写材の膜厚等によって変化する。そのため、設計時には図12の幅65のようにトルク変動範囲から、内歯車105の並進力の変動範囲66を求めて、弾性部材104の加圧力を設計する。
【0064】
また、図8aに示す定着ローラ線速が二次転写部よりも遅い場合の負荷トルクの減少については、時間帯52及び54において、内歯車105が平衡してガイドピン103で停止するように設計することで、同様の効果が得られる。
【0065】
図3に係る例と異なる構成を図13に基づき説明する。これは、異なる弾性部材104,104’を用いて内歯車105の側面を両側(スラスト方向両側)から加圧する構成である。このような構成によって、負荷トルクの増加と減少の両方に対応したより高精度な加圧力設計が可能となる。弾性部材104’は、ガイドピン103の先端部に固定される。
【0066】
更に別の構成として、図14に示すようにリミットスイッチ85を設置してもよい。図3の構成では、転写材35の搬送中の負荷トルク変動により、内歯車105がスラスト方向に移動し、ガイドピン103の端部(弾性手段104の限界)に到達すると、期待する効果は得られなくなってしまう。そこで、内歯車105がガイドピン103の端部に到達したことを検知する手段であるリミットスイッチ85を設ける。このリミットスイッチ85は、筐体固定され、内歯車105がセンサ部に到達すると、内歯車105の外周に備えられた突起105aがリミットスイッチ85の作動棒に接触してスラスト方向に押し込むことでリミットスイッチが動作して、内歯車105の到達を検知する。内歯車105が端部に到達する状態とは、二次転写部とレジストローラ16や定着ローラ17の線速差が想定以上となっていて、過剰な負荷トルク変動が発生している状態である。リミットスイッチ85の動作信号を受信すると、制御基板45は負荷トルクが減少するようにモータ43の平均速度を変更して調整を行う。あるいは、異常として不図示の画像形成装置本体に送信して、オペレータに報知する。
【0067】
図3に示した構成に戻って、内歯車105のスラスト方向の移動量に基づいたガイドピン103の長さの設計方法について説明する。内歯車105は、図7aに示した負荷トルクが変動している時間帯53において、常にスラスト方向に移動していく。内歯車のスラスト方向移動量は、以下に説明するように試算することが可能である。試算したスラスト方向移動量に基づいて、内歯車105のスラスト移動を可能とするガイドピン103の長さを設計する。
【0068】
以下では定着ローラ側の回転伝達機構9aについて説明するが、レジストローラ側についても同様である。表1には、内歯車105aのスラスト方向の移動量(表中「歯車スライド量」)を算出した結果と、算出に用いた各設計数値を示す。
【表1】

【0069】
まず、負荷トルク変動の要因である定着ローラ17と二次転写部の線速差を求める。この線速差は、以下に挙げる各部品の寸法公差と熱膨張から算出される。部品寸法としては、定着ローラ17の直径、駆動ローラ18の直径、中間転写ベルト10の公差である。また、定着ローラと駆動ローラの各対向ローラの加圧力と各ローラの表層ゴムの変形量も考慮することが望ましい。本例では、定着ローラ17と二次転写部の線速差は、最大で1.2%生じると算出された。定着ローラ17の線速が二次転写部より1.2%だけ速い場合、A3縦サイズ(長さ420mm)の転写材35を搬送する際には、約5mmの搬送量の差が生じる。つまり、二次転写部がA3サイズ420mmの転写材を搬送する際に、定着ローラは、約5mm分多く、周面上の長さ換算で425mm回転する。転写材35に撓みやローラとの滑りが無いと仮定して、回転伝達機構9aの内歯車105aは、この定着ローラの過剰な回転量(円周表面上5mm分)を吸収するようにスラスト方向に移動する。定着ローラ17の直径が30mm、内歯車105のピッチ円直径が40mm、はすば歯車のねじれ角βが10度(0.17rad)のとき、定着ローラの周上5mm分の回転に相当する内歯車105aのスラスト方向の移動量は、過剰な搬送量×はすば歯車のピッチ円直径/定着ローラの直径/tan(ねじれ角)より算出され、この場合、38mmとなる。これが、A3サイズの転写材35を搬送する際の内歯車105のスラスト方向最大移動量となる。スプライン連結幅(ガイドピンの有効長さ)は、最大移動量を確保できる幅に設計される。
【0070】
本例では、搬送する転写材の最大サイズをA3と想定して、内歯車105の最大移動量を算出した。最大サイズが異なる場合には、別途算出する必要がある。転写材35の長さが大きくなれば、より広いスプライン連結幅が必要となる。本発明はロール状のエンドレスな転写材には対応することができないので、そのような転写材の場合には適当な長さでカットして搬送する必要がある。
【0071】
以上の各例においては、二つのローラ対に転写材35がニップされている際に発生する負荷トルク変動を吸収するように内歯車をスラスト方向に移動するという本発明に要求される機能に絞って説明した。しかしながら、膜厚が大きい転写材35を搬送する場合、膜厚が大きい転写材35がレジストローラ16や定着ローラ17の各ローラ対のニップ部に突入する際に大きな負荷トルクが発生し、内歯車105がスラスト方向に移動してしまうことがある。これが、先に示した図7aから図10aでのショック的な変動に起因したスラスト方向移動である。図7aから図10aの負荷トルク変動のグラフは、膜厚が約300μmの転写材を使用した計測値を示している。転写材35が定着ローラ17のニップ部に突入する際に定着ローラ17の回転軸にかかる負荷トルクのショック的な変動を示しているのが、図7a及び図8aの変動51である。また、レジストローラ16の場合を示すのが図9a及び図10aの変動56である。どちらも、加圧されているローラニップ部に転写材35が進入する際に、ローラを転写材35の膜厚分だけ押上げて進入するために必要となるトルクである。転写材35の膜厚が大きいほど変動51や56は顕著となる。このような、転写材35突入時の負荷トルク変動に内歯車105が反応してスラスト方向に移動してしまうと、二つのローラ対に転写材35がニップされる際の負荷トルク変動に対し、既に内歯車105がスラスト方向に移動している状態となっていて、十分に機能できない可能性がある。また、転写材35突入時の負荷トルク変動に対して内歯車105がスラスト方向に移動すると、同時にローラ回転速度が低下するので、定着ローラ17突入時には、二次転写部での転写画像にブレが生じ、またレジストローラ16突入時には、二次転写部への転写材35の到着時間が遅れ、画像先頭位置に誤差が生じてしまう問題もある。
【0072】
これらの問題に対処する例として、転写材35がレジストローラ16や定着ローラ17のニップ部に突入する際に、一時的に内歯車105がスラスト方向に移動しないように規制手段を設けた例を図15に示す。なお以下では、図3に示した構成に追加された構成のみを説明する。
【0073】
スラスト方向規制手段は、転写材35がニップ部に進入する時に一時的に内歯車105のスラスト方向変位を規制する機構である。この規制手段として、回転軸にかかる負荷トルクが減少して内歯車105が移動する方向には自由に移動し、負荷トルクが増加するときには内歯車105がロックされるワンウェイクラッチを採用する。図15では、ラチェット式ワンウェイクラッチを採用している。内歯車105の外側面に第一クラッチプレート72が固定配置されている。そのため、内歯車105のスラスト方向の移動に従って第一クラッチプレート72もスラスト方向に移動することになる。第一クラッチプレート72と対向する位置で、第一クラッチプレート72に対して接離自在な第二クラッチプレート73が配置されている。第二クラッチプレートは、不図示の筐体に固定されたプレートガイド部材74に取り付けられ、図中鉛直方向に移動可能で、水平方向に固定されている。また、第二クラッチプレートは、弾力のあるクラッチ付勢手段75によって、第一クラッチプレート72に押し付けられるように付勢される。第一、第二クラッチプレート72,73の対向面には、のこぎり形状の突起が形成されていて(図面ではデフォルメして描いている)、噛み合うことでロック状態となる。スラスト方向規制手段であるこのクラッチ機構は、内歯車105に負荷トルクが増加する際に移動する方向に対して規制作用して、ロックする。一方、負荷トルクが減少する際に移動する方向では移動自在となっている。第二クラッチプレート73の突起部を第一クラッチプレート72の突起部から強制的に離すリリース機構として、不図示のプル型のソレノイドを用いる。ソレノイドは、不図示の筐体に固定され、第二クラッチプレート73をクラッチ付勢部材75に抗して第一クラッチプレート72から離間させる。これによって、規制手段のロック状態が解除される。プレート付勢手段としては、圧縮バネのほか、板バネ、ゴム材を利用してもよい。
【0074】
内歯車105のスラスト方向規制手段の動作について説明する。本例では、一時的にスラスト方向の移動を規制するタイミングを、本例の概略模式図を示す図13に表わす位置に設置した転写材35用の検知センサ76,77の出力を基に決定する。即ち、定着ローラ17側では、定着ローラ17の下流側近傍に設置された検知センサ76の出力を基に、一枚目の転写材35を搬送する前、又は一枚目以降の転写材35の後端を検知する際、ソレノイドを動作させ、回転伝達機構9aにおけるスラスト方向規制手段の両クラッチプレートを係合させ、定着ローラ対への一枚目又は次の転写材35の先端突入時には内歯車105aをスラスト方向に確実にロックした状態とする。次に、検知センサ76で転写材35の先端を検知すると、ロックが解除されて内歯車105aはスラスト方向に自在に移動可能となる。
【0075】
一方、レジストローラ16側については、二次転写部の下流側近傍に設置した検知センサ77を利用する。レジストローラ16側でも定着ローラ側と同様にレジストローラ近傍に検知センサを設置して利用してもよい。本例では、所望のタイミングで転写材35を二次転写部に搬送するレジストローラの機能を精度良く実施できるよう二次転写部の下流側近傍に検知センサを設置した。検知センサ77の出力を基に、一枚目の転写材35を搬送する前、又は一枚目以降の転写材35の後端を検知するとソレノイドを動作させ、回転伝達機構9bのスラスト方向規制手段の両クラッチプレートを係合させ、レジストローラ対への一枚目又は次の転写材35の先端突入から二次転写部でのニップ始めの期間は、内歯車105bをスラスト方向に確実にロックした状態とする。次に、検知センサ77で転写材35の先端を検知すると、ロックが解除されて内歯車105bはスラスト方向に自在に移動可能となる。
【0076】
このように動作することで、レジストローラや定着ローラにおいて、膜厚が大きい転写材の搬送においても、本来の搬送機能と本発明の負荷トルク変動を吸収する機能を両立することが可能となる。なお、転写材35の検知センサ76,77の設置位置は図16に示したものに限られるものではなく、転写材35がレジストローラ16、定着ローラ17のニップ部に突入するタイミングが推定できればどこでもよい。また、動作タイミングに関しても、説明したものに限られるものではなく、転写材35がそれぞれのローラニップ部に突入する際にロック状態となるように動作すればよい。
【符号の説明】
【0077】
9 回転伝達機構
17 定着ローラ
100 入力軸
101 太陽歯車
102 第一支持側板
103 ガイドピン
104 弾性手段
105 内歯車
106 空隙
107 遊星歯車
108 軸受
109 第二支持側板
110 遊星キャリア
111 軸線
112 軸受
113 回転軸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0078】
【特許文献1】特開2006−195016号公報
【特許文献2】特開2006−309189号公報
【特許文献3】特開2009−67561号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から回転部材に回転駆動力を伝達するための回転伝達機構であって、該回転伝達機構は、太陽歯車を入力側とし、内歯車を回転不能に支持し、遊星歯車の公転を拾う遊星キャリアを出力側とする遊星歯車機構であり、太陽歯車、内歯車及び遊星歯車がそれぞれはすば歯車であり、内歯車は、回転部材の回転負荷トルク変動に応じてスラスト方向に移動可能に支持され、内歯車へのスラスト方向にかかる力に抗するための付勢手段を内歯車端面に配することを特徴とする回転伝達機構。
【請求項2】
内歯車を回転不能に且つスラスト方向に移動可能に支持するために、内歯車側端に形成された複数の穴を形成し、回転伝達機構の側板に固定された回り止めピンを前記複数の穴のそれぞれに挿入することを特徴とする請求項1に記載の回転伝達機構。
【請求項3】
三個の回り止めピンを内歯車の周方向に等間隔で設置することを特徴とする請求項2に記載の回転伝達機構。
【請求項4】
三個の遊星歯車を太陽歯車の周囲に等間隔で配置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転伝達機構。
【請求項5】
付勢手段を内歯車のスラスト方向両端面に配することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転伝達機構。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の回転伝達機構を、圧接する二つの回転体の一方に取り付けたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
圧接する二つの回転体が、転写部に転写材を所定タイミングで搬送するレジスト搬送装置に属することを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項8】
圧接する二つの回転体が、定着装置に属することを特徴とする請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項9】
内歯車のスラスト方向移動を一時的に規制する規制手段を有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
内歯車のスラスト方向移動の際に内歯車が所定位置に達したことを検知するための検知手段を設け、該検知手段による検知結果に基づいて駆動源の回転速度を変更することを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−191507(P2011−191507A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57419(P2010−57419)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】