説明

運動制御装置

【課題】制御対象である可動体に付与する制動力を調節可能とする。
【解決手段】本発明は、第1及び第2弁機構50,60が、第1及び第2通路21,22を閉鎖し得るとともに、外周面の一部又は全部がテーパ面とされた弁部材51,61と、内周面の一部又は全部が内部に収容される弁部材51,61のテーパ面との間に粘性液体の流量を絞る隙間を形成するテーパ面とされた作動室52,62と、弁部材51,61が粘性液体の圧力を受けることにより開方向へ移動しようとするときに、該弁部材51,61に抵抗を付与するばね53,63と、弁部材51,61の開方向への移動限界位置Pを調節し得る調節部材54,64とを有して構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動制御装置に関し、より詳細には、所定値を超える外力が制御対象である可動体に加えられない限り、任意の位置で停止する可動体の運動停止状態を保持することができ、更に可動体の運動が開始された後は、可動体に対する外力が運動開始時よりも低下しても、可動体の運動を継続させることができる運動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、国際公開第2005/073589号パンフレットには、第1室と第2室とを連通させる第1通路と、第3室と第4室とを連通させる第2通路と、第1室と第4室とを連通させる第3通路と、第2室と第3室とを連通させる第4通路と、第1乃至第4室に充填された粘性液体を回転運動により押圧する押圧部材と、第1通路に設けられる第1弁機構と、第2通路に設けられる第2弁機構とを備えた運動制御装置が開示されている。
【0003】
ここで、第1弁機構は、第2室から第1室への粘性液体の逆流を阻止する機能を有する。また、第1弁機構は、第1室の粘性液体が一方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第1室の内圧が所定値以下のときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを阻止し、第1室の内圧が所定値を超えたときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを可能とし、かつその後、第1室の内圧が所定値以下に低下しても第1通路を通じた粘性液体の移動を許容し、押圧部材の回転運動が停止したときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを阻止する機能を有する。さらに、第1弁機構は、第1通路を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有する。
【0004】
他方、第2弁機構は、第4室から第3室への粘性液体の逆流を阻止する機能を有する。また、第2弁機構は、第3室の粘性液体が逆方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第3室の内圧が所定値以下のときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを阻止し、第3室の内圧が所定値を超えたときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを可能とし、かつその後、第3室の内圧が所定値以下に低下しても第2通路を通じた粘性液体の移動を許容し、押圧部材の回転運動が停止したときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを阻止する機能を有する。さらに、第2弁機構は、第2通路を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有する。
【0005】
しかしながら、従来の運動制御装置では、第1及び第2弁機構が、それぞれ第1及び第2通路を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有していても、その絞り量を増大させたり又は減少させたりすることができなかった。
【0006】
従って、かかる運動制御装置を、例えば、自動車のドアに適用した場合には、ドアの開閉を操作する者の腕力に個人差があるにもかかわらず、ドアを開閉させるために一様な外力を加えなければならなかった。
そこで、ドアの開閉を操作する者の腕力に合わせてドアの開閉時に付与される制動力を調節することが可能な運動制御装置が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/073589号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、制御対象である可動体に付与する制動力を調節することができる運動制御装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の運動制御装置を提供する。
(1)第1室と第2室とを連通させる第1通路と、
第3室と第4室とを連通させる第2通路と、
第1室と第4室とを連通させる第3通路と、
第2室と第3室とを連通させる第4通路と、
第1乃至第4室に充填された粘性液体を回転運動により押圧する押圧部材と、
第1通路に設けられ、第2室から第1室への粘性液体の逆流を阻止するとともに、第1室の粘性液体が一方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第1室の内圧が所定値以下のときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを阻止し、第1室の内圧が所定値を超えたときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを可能とし、かつその後、第1室の内圧が所定値以下に低下しても、第1通路を通じた粘性液体の移動を許容し、押圧部材の回転運動が停止したときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを阻止する第1弁機構と、
第2通路に設けられ、第4室から第3室への粘性液体の逆流を阻止するとともに、第3室の粘性液体が逆方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第3室の内圧が所定値以下のときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを阻止し、第3室の内圧が所定値を超えたときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを可能とし、かつその後、第3室の内圧が所定値以下に低下しても、第2通路を通じた粘性液体の移動を許容し、押圧部材の回転運動が停止したときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを阻止する第2弁機構とを備え、
第1及び/又は第2弁機構が、第1及び/又は第2通路を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有し、かつ絞り量を可変とする調節機能を有することを特徴とする運動制御装置。
(2)第1及び/又は第2弁機構が、第1及び/又は第2通路を閉鎖し得るとともに、外周面の一部又は全部がテーパ面とされた弁部材と、内周面の一部又は全部が内部に収容される前記弁部材のテーパ面との間に粘性液体の流量を絞る隙間を形成するテーパ面とされた作動室と、前記弁部材が粘性液体の圧力を受けることにより開方向へ移動しようとするときに、該弁部材に抵抗を付与するばねと、前記弁部材の開方向への移動限界位置を調節し得る調節部材とを有して構成されることを特徴とする前記(1)に記載の運動制御装置。
(3)前記調節部材が、前記ばねの抵抗力と前記弁部材の開方向への移動限界位置とを同時に調節し得るものであることを特徴とする前記(2)に記載の運動制御装置。
【発明の効果】
【0010】
前記(1)に記載の本発明によれば、第1及び/又は第2弁機構が、第1及び/又は第2通路を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有し、かつ絞り量を可変とする調節機能を有するため、制御対象である可動体に付与する制動力を調節することが可能となる。
前記(2)に記載の本発明によれば、弁部材のテーパ面と作動室のテーパ面との間に粘性液体の流量を絞る隙間が形成されるため、弁部材の開方向への移動距離が長いほど、隙間の断面積が大きくなり、絞り量が低下することになるところ、さらに、弁部材の開方向への移動限界位置を調節し得る調節部材を備えるため、調節部材により弁部材の開方向への移動限界位置を調節することによって、弁部材の開方向への移動距離を短くしたり長くしたりすることができる。従って、それにより絞り量を増大又は減少させ、制動力を可変とすることが可能となる。
前記(3)に記載の本発明によれば、調節部材が、ばねの抵抗力と弁部材の開方向への移動限界位置とを同時に調節し得るものであるため、調節部材を操作することにより、制御対象である可動体の運動停止状態を保持する力と、可動体が運動を開始した後に、可動体に付与する制動力の両方を同時に増大又は減少させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に示した実施例に従って説明する。
【実施例1】
【0012】
図1乃至図6は、本発明の実施例1に係る運動制御装置の内部構造を示す図である。これらの図に示したように、本実施例に係る運動制御装置は、第1乃至第4室11〜14、第1乃至第4通路21〜24、押圧部材として機能するベーン31,32又は隔壁41,42、第1弁機構50及び第2弁機構60を有して構成される。
【0013】
第1乃至第4室11〜14は、図1に示したように、ケーシング10内に形成される空間が、2つの隔壁41,42及び2つのベーン31,32によって仕切られることにより形成される。第1乃至第4室11〜14には、粘性液体が充填される。粘性液体としては、シリコンオイルなどを用いることができる。
【0014】
2つの隔壁41,42のうち、一方の隔壁41には、シール部材71が設けられている(図1及び図2参照)。シール部材71は、第1及び第2室11,12の粘性液体が、ケーシング10と隔壁41との間に形成される隙間や軸30と隔壁41との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。また、他方の隔壁42にも同様に、シール部材72が設けられている(図1及び図2参照)。シール部材72は、第3及び第4室13,14の粘性液体が、ケーシング10と隔壁42との間に形成される隙間や軸30と隔壁42との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。
【0015】
また、2つのベーン31,32のうち、一方のベーン31には、シール部材73が設けられている(図1参照)。シール部材73は、第1及び第3室11,13の粘性液体が、ケーシング10とベーン31との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。また、他方のベーン32にも同様に、シール部材74が設けられている(図1参照)。シール部材74は、第2及び第4室12,14の粘性液体が、ケーシング10とベーン32との間に形成される隙間などを通じて相互に移動することを防止する働きをするものである。
【0016】
上記した2つの隔壁41,42は、軸30が回転した場合でも、移動しないようケーシング10に固定されている。上記した2つのベーン31,32は、軸30とともに回転し得るよう軸30と一体に成形されている(図1参照)。
【0017】
ケーシング10の底壁15には、第1及び第2通路21,22が設けられている(図2,図3,図5及び図6参照)。第1通路21は、第1室11と第2室12とを連通させるよう形成され、第2通路22は、第3室13と第4室14とを連通させるよう形成される。また、軸30には、第3及び第4通路23,24が設けられている(図1及び図2参照)。第3通路23は、第1室11と第4室14とを連通させるよう形成され、第4通路24は、第2室12と第3室13とを連通させるよう形成される。
【0018】
押圧部材は、第1乃至第4室11〜14に充填された粘性液体を回転運動により押圧するものである。例えば、ケーシング10が固定され、軸30が回転するときには、2つのベーン31,32が押圧部材に相当する。一方、軸30が固定され、ケーシング10が軸30の周りを回転するときには、2つの隔壁41,42が押圧部材に相当する。
【0019】
第1弁機構50は、第1通路21に設けられる(図4参照)。本実施例において採用した第1弁機構50は、以下の機能を有するものである。
(1)第2室12から第1室11への粘性液体の逆流を阻止する機能、
(2)第1室11の粘性液体が一方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第1室11の内圧が所定値以下のときは、第1室11の粘性液体が第1通路21を通じて第2室12へ移動することを阻止する機能、
(3)第1室11の内圧が所定値を超えたときは、第1室11の粘性液体が第1通路21を通じて第2室12へ移動することを可能とし、かつその後、第1室11の内圧が所定値以下に低下しても、第1通路21を通じた粘性液体の移動を許容する機能、
(4)押圧部材の回転運動が停止したときは、第1室11の粘性液体が第1通路21を通じて第2室12へ移動することを阻止する機能、
(5)第1通路21を通過する粘性液体の流量を絞る機能、
(6)絞り量を可変とする調節機能、及び
(7)制御対象である可動体の運動停止状態を保持する力を可変とする調節機能。
【0020】
本実施例で採用した第1弁機構50は、図4に示したように、第1通路21を閉鎖し得るとともに、外周面がテーパ面とされた弁部材51と、内周面が内部に収容される弁部材51のテーパ面との間に粘性液体の流量を絞る隙間aを形成するテーパ面とされた作動室52と、弁部材51が粘性液体の圧力を受けることにより開方向へ移動しようとするときに、弁部材51に抵抗を付与するばね53と、ばね53の抵抗力と弁部材51の開方向への移動限界位置とを同時に調節し得る調節部材54とを有して構成される。
【0021】
弁部材51は、さらに、球状の弁体51aと、弁体51aとばね53との間に介在するように設けられる弁押さえ51bとを有して構成される(図4参照)。この弁部材51によれば、弁体51aの球面が弁座(作動室52に開口する第1通路21の開口部)に当接することにより、閉弁時の密閉性を高めることができる。
【0022】
第1室11から作動室52へ流入しようとする粘性液体の圧力を受ける弁部材51の受圧面の大きさは、上記した(3)の機能を発揮する上で重要である。つまり、弁部材と、該弁部材が開方向へ移動しようとするときに該弁部材に抵抗を付与するばねと有して構成される通常の逆止弁では、閉弁時における受圧面の大きさと開弁後の受圧面の大きさに大きな差がないため、開弁後に粘性液体の圧力が低下すると、ばねの抵抗力により弁部材が押し戻されることになる。従って、通常の逆止弁では、第1室11の内圧が所定値を超えたときは、第1室11の粘性液体が第1通路21を通じて第2室12へ移動することを可能とすることはできても、その後、第1室11の内圧が所定値以下に低下すると、弁体が第1通路21を閉鎖してしまうので、第1通路21を通じた粘性液体の移動を許容することができない。そこで、開弁後に粘性流体の圧力が低下しても弁部材51がばね53の抵抗力によって押し戻されないようにするため、閉弁時における受圧面の大きさと開弁後の受圧面の大きさに大きな差を設け、開弁後に大きな受圧面が提供されるよう設定する必要がある。
【0023】
本実施例では、弁体51aの受圧面を小さく設定するとともに、弁押さえ51bの受圧面を大きく設定することにより、開弁後に粘性液体の圧力が低下しても、弁部材51がばね53の抵抗力によって押し戻されないようにされている。
【0024】
弁部材51に形成されるテーパ面は、弁部材51の外周面の全部に形成されていてもよいし、一部に形成されていてもよい。また、作動室52の形成されるテーパ面も、作動室52の内周面の全部に形成されていてもよいし、一部に形成されていてもよい。本実施例のように、弁部材51と作動室52の相互の対向面をテーパ面とすることにより、弁部材51の開方向への移動距離Rに応じて、粘性液体の流量を絞る隙間aの大きさを変化させることができる(図7参照)。
【0025】
ばね53は、弁部材51と調節部材54との間に介在するように設けられている。ばね53としては、圧縮コイルばねを用いることができる。
【0026】
調節部材54は、外周面に沿って螺旋状の溝が切られたねじからなり、ばね53の一端を支持し得るようにケーシング10に取り付けられている。また、調節部材54の先端には、突起54aが設けられている。調節部材54は、外部から操作することができる。
【0027】
第2弁機構60は、第2通路22に設けられる(図4参照)。本実施例で採用した第2弁機構60は、以下の機能を有するものである。
(1)第4室14から第3室13への粘性液体の逆流を阻止する機能、
(2)第3室13の粘性液体が逆方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第3室13の内圧が所定値以下のときは、第3室13の粘性液体が第2通路22を通じて第4室14へ移動することを阻止する機能、
(3)第3室13の内圧が所定値を超えたときは、第3室13の粘性液体が第2通路22を通じて第4室14へ移動することを可能とし、かつその後、第3室13の内圧が所定値以下に低下しても、第2通路22を通じた粘性液体の移動を許容する機能、
(4)押圧部材の回転運動が停止したときは、第3室13の粘性液体が第2通路22を通じて第4室14へ移動することを阻止する機能、
(5)第2通路22を通過する粘性液体の流量を絞る機能、
(6)絞り量を可変とする調節機能、及び
(7)制御対象である可動体の運動停止状態を保持する力を可変とする調節機能。
【0028】
本実施例で採用した第2弁機構60は、図4に示したように、第1弁機構50と同様に構成される。すなわち、第2弁機構60は、第1弁機構50を構成する弁部材51、作動室52、ばね53及び調節部材54とそれぞれ同様に構成される弁部材61、作動室62、ばね63及び調節部材64を有して構成される。
【0029】
上記のように構成される運動制御装置は、例えば、ケーシング10が回転不能に固定され、軸30が制御対象である可動体の回転運動により回転するように設置され、使用される。
【0030】
本実施例の運動制御装置を、例えば、自動車のドアに適用した場合には、軸30がドアの開閉に伴う回転運動により回転するように設置される。
【0031】
例えば、ドアを全閉位置から少し開け、その回動を停止させたときに、そのドアに対して突風が吹き付けたり、あるいは人や物が不用意に接触するなどすると、ドアは、そのような意図しない外力を受けることにより回動しようとする。しかし、この際、ドアが回動しようとしても、ドアに対する外力が所定値以下であれば、本実施例の運動制御装置により、ドアの停止状態を保持することができる。
【0032】
すなわち、ドアが意図しない外力を受けることにより、例えば、開方向へ回動しようとすると、軸30とともに押圧部材として機能するベーン31,32が一方向(図1において反時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアに対する外力が所定値以下であれば、ベーン31が第1室11の粘性液体を押圧する力も弱いため、第1室11の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第1通路21に設けられた第1弁機構50は、第1室11の粘性液体が一方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第1室11の内圧が所定値以下のときは、弁部材51が第1通路21を閉鎖して、第1室11の粘性液体が第1通路21を通じて第2室12へ移動することを阻止する。また、第2通路22に設けられた第2弁機構60は、第4室14から第3室13への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第4室14の粘性液体は、第1弁機構50が開弁しない限り、第3通路23を通じて第1室11へ移動できない。従って、ベーン31,32は一方向へ回転できなくなる。その結果、ドアの停止状態が保持されることになる。
【0033】
一方、ドアが意図しない外力を受けることにより、例えば、閉方向へ回動しようとすると、軸30とともに押圧部材として機能するベーン31,32が逆方向(図1において時計回り方向)へ回転しようとする。このとき、ドアに対する外力が所定値以下であれば、ベーン31が第3室13の粘性液体を押圧する力も弱いため、第3室13の内圧があまり高まらず、所定値に達しない。第2通路22に設けられた第2弁機構60は、第3室13の粘性液体が逆方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第3室13の内圧が所定値以下のときは、弁部材61が第2通路22を閉鎖して、第3室13の粘性液体が第2通路22を通じて第4室14へ移動することを阻止する。また、第1通路21に設けられた第1弁機構50は、第2室12から第1室11への粘性液体の逆流を阻止する。さらに、第2室12の粘性液体は、第2弁機構60が開弁しない限り、第4通路24を通じて第3室13へ移動できない。従って、ベーン31,32は逆方向へ回転できなくなる。その結果、ドアの停止状態が保持されることになる。
【0034】
本実施例の運動制御装置によれば、上記のように任意の位置で停止状態が保持されたドアを意図的に回動させる際には、ドアの停止状態を解除するときに、一時的に大きな外力を要するが、ドアの回動が開始された後は、小さな外力でドアの回動を継続させることができる。
【0035】
すなわち、停止状態のドアを意図的に開方向へ回動させるときには、停止状態のドアに対して大きな外力を加える。それにより、第1室11の粘性液体がベーン31に強く押圧されることになり、第1室11の内圧が高まる。このとき、第1室11の内圧が所定値を超えると、第1通路21に設けられた第1弁機構50は、第1室11の粘性液体が第1通路21を通じて第2室12へ移動することを可能とする。すなわち、第1室11の内圧が所定値を超えたときには、弁部材51(弁体51a)が受ける粘性液体の圧力がばね53の抵抗力よりも大きくなるため、図7(a)に示したように、弁部材51が開方向へ移動し、粘性液体が第1通路21を通過可能となる。これにより、ベーン32に押圧される第4室14の粘性液体は、第1室11へ移動し、第2室12の粘性液体は、第4通路24を通じて第3室13へ移動する。従って、ベーン31,32は一方向へ回転可能となる。その結果、ドアの停止状態が解除されることになる。
【0036】
ドアの回動が開始された後は、弁部材51が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材51(弁押さえ51b)の大きな受圧面が提供されるため、ばね53の抵抗力によって弁部材51が押し戻されることがない。従って、ベーン31,32は一方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアを回動させることができる。
【0037】
また、第1弁機構50は、第1通路21を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアの停止状態が解除された後に、そのドアが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材51のテーパ面と作動室52のテーパ面との間に形成される隙間aを通過するときに、第1通路21を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じてベーン31,32の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアに制動力が付与されることになる。
【0038】
一方、停止状態のドアを意図的に閉方向へ回動させるときには、ドアを開方向へ回動させるときと同様に、停止状態のドアに対して大きな外力を加える。それにより、第3室13の粘性液体がベーン31に強く押圧されることになり、第3室13の内圧が高まる。このとき、第3室13の内圧が所定値を超えると、第2通路22に設けられた第2弁機構60は、第3室13の粘性液体が第2通路22を通じて第4室14へ移動することを可能とする。すなわち、第3室13の内圧が所定値を超えたときには、弁部材61(弁体61a)が受ける粘性液体の圧力がばね63の抵抗力よりも大きくなるため、図8(a)に示したように、弁部材61が開方向へ移動し、粘性液体が第2通路22を通過可能となる。これにより、ベーン32に押圧される第2室12の粘性液体は、第3室13へ移動し、第4室14の粘性液体は、第3通路23を通じて第1室11へ移動する。従って、ベーン31,32は逆方向へ回転可能となり、その結果、ドアの停止状態が解除されることになる。
【0039】
ドアの回動が開始された後は、弁部材61が受ける粘性液体の圧力が低下しても、弁部材61(弁押さえ61b)の大きな受圧面が提供されるため、ばね63の抵抗力によって弁部材61が押し戻されることがない。従って、ベーン31,32は逆方向への回転を継続することができる。その結果、小さな外力でドアを回動させることができる。
【0040】
また、第2弁機構60は、第2通路22を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有するため、ドアの停止状態が解除された後に、そのドアが勢いよく回動することを防止することができる。すなわち、粘性液体が弁部材61のテーパ面と作動室62のテーパ面との間に形成される隙間aを通過するときに、第2通路22を通過する粘性液体の流量が絞られることにより、粘性液体に抵抗が生じてベーン31,32の回転運動を緩慢にさせる。その結果、ドアに制動力が付与されることになる。
【0041】
もっとも、本実施例で採用した第1及び第2弁機構50,60は、図7及び図8に示したように、調節部材54,64を一方向へ回転させることにより、調節部材54,64を弁部材51,61に近接する方向へ移動させることができ、また、調節部材54,64を逆方向へ回転させることにより、調節部材54,64を弁部材から離間する方向へ移動させることができる。一方、弁部材51,61は、調節部材54,64の突起54a,64aに当接することにより、開方向へ移動できなくなるため、調節部材54,64を弁部材51,61に対して近接又は離間させる方向へ移動させることにより、弁部材51,61が開方向へ移動し得る限界位置Pを調節することが可能となる。そして、図7(a)及び図8(a)に示したように、調節部材54,64を操作して、弁部材51,61の開方向への移動距離Rが短くなるよう設定したときには、粘性液体の流量を絞る隙間aの大きさが小さくなるので、第1及び第2弁機構50,60の絞り量を大きくし、ドアに付与する制動力を大きくすることができる。一方、図7(b)及び図8(b)に示したように、調節部材54,64を操作して、弁部材51,61の開方向への移動距離Rが長くなるよう設定したときには、粘性液体の流量を絞る隙間aの大きさが大きくなるので、第1及び第2弁機構50,60の絞り量を小さくし、ドアに付与する制動力を小さくすることができる。従って、本実施例に係る運動制御装置によれば、ドアの開閉を操作する者の腕力に合わせてドアの開閉時に付与される制動力を調節することができる。
【0042】
また、上記のように調節部材54,64を弁部材51,61に近接する方向へ移動させることにより、ばね53,63が圧縮される。それにより、ばね53,63の抵抗力が高められる。従って、弁部材51,61を開方向へ移動させるには、より大きな粘性液体の圧力を要することになるため、制御対象である可動体の運動停止状態を保持する力(保持力)を高めることができる。一方、上記のように調節部材54,64を弁部材51,61から離間する方向へ移動させることにより、ばね53,63が弛緩される。それにより、ばね53,63の抵抗力が低下する。従って、比較的小さな粘性液体の圧力で弁部材51,61を開方向へ移動させることが可能になるため、保持力を低下させることができる。つまり、本実施例によれば、調節部材54,64を操作することにより、保持力と制動力の両方を同時に増大又は減少させることができる。
【0043】
図9は、本実施例に係る運動制御装置の特性を示すグラフである。この図に示したように、本実施例の運動制御装置によれば、第1弁機構50の調節部材54を操作して、弁部材51の開方向への移動距離Rが短くなるよう設定した場合、そのように設定する前よりも、制御対象である可動体に付与する制動力(制動トルク)を高めることができるとともに、可動体の運動停止状態が解除される時点を示す制動トルクのピークを大きくすることができる。なお、図9において、Aは調節部材54により弁部材51の開方向への移動距離Rが短くなるよう設定した後の制動トルクであり、Bは第1弁機構50をそのように設定する前の制動トルクであり、X軸は可動体の回転角度である。
【実施例2】
【0044】
本実施例に係る運動制御装置は、図10に示したように、第1及び第2弁機構50,60を構成するばね53,63の一端が調節部材54,64に支持されていない点で、実施例1に係る運動制御装置と相違し、その他の構成については、実施例1に係る運動制御装置と同じである。
【0045】
本実施例では、調節部材54,64を操作しても、ばね53,63が圧縮又は弛緩されないため、ばね53,63の抵抗力を変化させることはできない。本実施例では、調節部材54,64を弁部材51,61に対して近接又は離間させる方向へ移動させることにより、弁部材51,61が開方向へ移動し得る限界位置Pを調節することができる。そして、図10(a)に示したように、調節部材54,64を操作して、弁部材51,61の開方向への移動距離Rが短くなるよう設定したときには、粘性液体の流量を絞る隙間aの大きさが小さくなるので、第1及び第2弁機構50,60の絞り量を大きくすることができる。一方、図10(b)に示したように、調節部材54,64を操作して、弁部材51,61の開方向への移動距離Rが長くなるよう設定したときには、粘性液体の流量を絞る隙間aの大きさが大きくなるので、第1及び第2弁機構50,60の絞り量を小さくすることができる。つまり、本実施例に係る運動制御装置によれば、制御対象である可動体に付与する制動力のみを可変とすることができる。
【0046】
図11は、本実施例に係る運動制御装置の特性を示すグラフである。この図に示したように、例えば、第1弁機構50の調節部材51を操作して、弁部材51の開方向への移動距離Rが短くなるよう設定した場合、そのように設定する前よりも、制御対象である可動体に付与する制動力(制動トルク)を高めることができる。しかし、可動体の運動停止状態が解除される時点を示す制動トルクのピークは、設定の前後において変化がない。なお、図11において、Cは調節部材54により弁部材51の開方向への移動距離Rが短くなるよう設定した後の制動トルクであり、Dはそのように設定する前の制動トルクであり、X軸は可動体の回転角度である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例1に係る運動制御装置の内部構造を示す図である。
【図2】図1におけるA−A部断面図である。
【図3】図1におけるB−B部部分断面図である。
【図4】図1におけるC−C部部分拡大断面図である。
【図5】図1におけるD−D部部分断面図であって、第1弁機構を構成する弁部材及びばねを取り除いた状態を示す図である。
【図6】図2におけるE−E部断面図であって、第1及び第2弁機構を構成する弁部材及びばねを取り除いた状態を示す図である。
【図7】第1弁機構の作用を説明するための図である。
【図8】第2弁機構の作用を説明するための図である。
【図9】実施例1に係る運動制御装置の特性を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2に係る運動制御装置において採用した第1及び第2弁機構の構成を示す図である。
【図11】実施例2に係る運動制御装置の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
10 ケーシング
11 第1室
12 第2室
13 第3室
14 第4室
15 底壁
21 第1通路
22 第2通路
23 第3通路
24 第4通路
30 軸
31,32 ベーン
41,42 隔壁
50 第1弁機構
51 弁部材
51a 弁体
51b 弁押さえ
52 作動室
53 ばね
54 調節部材
54a 突起
60 第2弁機構
61 弁部材
61a 弁体
61b 弁押さえ
62 作動室
63 ばね
64 調節部材
64a 突起
71〜74 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1室と第2室とを連通させる第1通路と、
第3室と第4室とを連通させる第2通路と、
第1室と第4室とを連通させる第3通路と、
第2室と第3室とを連通させる第4通路と、
第1乃至第4室に充填された粘性液体を回転運動により押圧する押圧部材と、
第1通路に設けられ、第2室から第1室への粘性液体の逆流を阻止するとともに、第1室の粘性液体が一方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第1室の内圧が所定値以下のときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを阻止し、第1室の内圧が所定値を超えたときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを可能とし、かつその後、第1室の内圧が所定値以下に低下しても、第1通路を通じた粘性液体の移動を許容し、押圧部材の回転運動が停止したときは、第1室の粘性液体が第1通路を通じて第2室へ移動することを阻止する第1弁機構と、
第2通路に設けられ、第4室から第3室への粘性液体の逆流を阻止するとともに、第3室の粘性液体が逆方向へ回転しようとする押圧部材に押圧されることにより高まる第3室の内圧が所定値以下のときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを阻止し、第3室の内圧が所定値を超えたときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを可能とし、かつその後、第3室の内圧が所定値以下に低下しても、第2通路を通じた粘性液体の移動を許容し、押圧部材の回転運動が停止したときは、第3室の粘性液体が第2通路を通じて第4室へ移動することを阻止する第2弁機構とを備え、
第1及び/又は第2弁機構が、第1及び/又は第2通路を通過する粘性液体の流量を絞る機能を有し、かつ絞り量を可変とする調節機能を有することを特徴とする運動制御装置。
【請求項2】
第1及び/又は第2弁機構が、第1及び/又は第2通路を閉鎖し得るとともに、外周面の一部又は全部がテーパ面とされた弁部材と、内周面の一部又は全部が内部に収容される前記弁部材のテーパ面との間に粘性液体の流量を絞る隙間を形成するテーパ面とされた作動室と、前記弁部材が粘性液体の圧力を受けることにより開方向へ移動しようとするときに、該弁部材に抵抗を付与するばねと、前記弁部材の開方向への移動限界位置を調節し得る調節部材とを有して構成されることを特徴とする請求項1記載の運動制御装置。
【請求項3】
前記調節部材が、前記ばねの抵抗力と前記弁部材の開方向への移動限界位置とを同時に調節し得るものであることを特徴とする請求項2記載の運動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−85505(P2007−85505A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277584(P2005−277584)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】