説明

過給機および密封装置

【課題】 第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときにこれらの部材の間に形成される筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールする密封装置において、上記第1の部材と上記第2の部材との相対的な位置関係が僅かに変化しても、流体の漏れを防ぐ。
【解決手段】 第1の部材21に設けられた孔51に第2の部材26を設けたときにこれらの部材の間に形成される筒状の空間SP3における流体の漏れをシールするための密封装置55において、上記筒状の空間SP3を形成している上記孔51の壁に、外周のほぼ全周が付勢力を持って接触するリング状の部材53と、上記リング状の部材53の一方の底面を、上記筒状の空間SP3の延伸方向と交差する方向で上記第2の部材26に形成された環状の面に、付勢力を持って接触させる付勢手段57とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機および密封装置に係り、特に、第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときに、上記各部材の間に形成される筒状の空間における流体の漏れを、上記孔の壁に外周が付勢力を持って接触するリング状の部材を、このリング状の部材の底面を上記第2の部材に形成された環状の面に付勢することによって防ぐことができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスと環境の問題が世界的にクローズアップされているなか、乗用車クラスの小型ディーゼルエンジン市場をはじめとして、エミッション規制への対応と低燃費化、性能向上のため過給機の使用が必須となりつつあり、低速から高速域まで広い範囲での性能向上を図ることができる可変容量型過給機が注目されている。
【0003】
このような可変容量型過給機の一つにマルチベーン方式の可変容量型過給機が存在する。
【0004】
ここで、図1を参照しつつ上記従来の可変容量型過給機100について説明する。
【0005】
上記可変容量型過給機100はハウジング(筐体)3を備え、このハウジング3の一端部側には遠心式コンプレッサ5が設けられ、他端部側には遠心式タービン7が設けられている。
【0006】
上記タービン7と上記コンプレッサ5との間における上記ハウジング3の内部には、上記ハウジング3に対して回転自在なように、回転軸部材9がたとえば流体軸受け11を介して設けられている。
【0007】
上記回転軸部材9の一端部には、上記コンプレッサ5を構成しているコンプレッサインペラ13が一体的に固定されており、上記回転軸部材9の他端部には、上記タービン7を構成しているタービンインペラ15が一体的に固定されている。
【0008】
上記ハウジング3は、上記回転軸部材9を支持しているベアリングハウジング17と、上記コンプレッサインペラ13を囲むように上記コンプレッサインペラ13側で上記ベアリングハウジング17に一体的に設けられているコンプレッサハウジング19と、上記タービンインペラ15を囲むように上記タービンインペラ15側で上記ベアリングハウジング17に一体的に設けられているタービンハウジング21とにより構成されている。
【0009】
また、上記タービンハウジング21には、一端にガス入口(図示せず)を供えたスクロール通路23が設けられており、このスクロール通路23の内周部(上記スクロール通路23と上記タービンインペラ15との間)には、環状のガス流路25が形成されている。
【0010】
詳しく説明すると、上記環状のガス流路25は、上記タービンインペラ15の先端部側(上記コンプレッサ5とは反対側)で上記タービンインペラ15と上記タービンハウジング21との間に設けられた環状のシュラウド102と、上記シュラウド102から所定の間隔をあけて上記コンプレッサ5側に設けられた環状のノズル支持リング28との間に形成されている。
【0011】
上記スクロール通路23、上記ガス流路25を通って、自動車のエンジンから出てきた排ガスが上記タービンインペラ15に供給されて上記タービンインペラ15が回転し、上記回転軸部材9を介して上記コンプレッサインペラ13を回転し空気を圧縮するようになっている。
【0012】
上記タービンインペラ15を回転駆動した後のガスは、上記タービンハウジング21の中心部(上記ベアリングハウジング17とは反対側に位置している中心部)に形成されたガス出口27から排出されるようになっている。
【0013】
次に、上記可変容量型過給機100のマルチベーンノズル方式の可変容量装置29について、図1、図2を参照し説明する。
【0014】
上記マルチベーンノズル方式の可変容量装置29は、図2(図1におけるIIA−IIB断面を示す図)に示すように、上記環状のガス流路25の円周上に配置された複数のノズルベーン31によって構成されたベーンノズル32を備えている。上記各ノズルベーン31は、上記回転軸部材9の回転中心軸CL1と平行な中心軸を回動中心にして、上記環状のノズル支持リング28および上記環状のシュラウド102に対して回動可能に設けられている。
【0015】
上記ノズル支持リング28は、スライドジョイント方式などの方式で構成されたベーンノズル駆動機構33(図1参照)を介して、たとえば、図2に実線で示す姿勢から破線で示す姿勢の間で回動するようになっている。なお、図2に実線で示す姿勢に各ノズルベーン31があるときには、上記ベーンノズル32におけるガス流路の幅W1が最も狭くなっており、図2に破線で示す姿勢に各ノズルベーン31があるときには、上記ベーンノズル32におけるガス流路の幅W3が最も広くなっている。
【0016】
このように、各ノズルベーン31のそれぞれを同じように回動することで、上記ベーンノズル32の流路の大きさを変えることができ、上記タービン7(タービンインペラ15)に供給されるガスの流速を変えることができる。
【0017】
上記ベーンノズル駆動機構33は、上記コンプレッサ5側で上記タービン7(ガス流路25、スクロール通路23)に隣接して設けられた環状の駆動機構設置室35内に設けられている。上記駆動機構設置室35を構成している上記コンプレッサ5側の壁は、上記タービンハウジング21側に形成されている上記ベアリングハウジング17のフランジ状の部位17Aによって構成されている。
【0018】
また、上記ベアリングハウジング17の壁(フランジ状の部位)17Aには、円筒状のブッシュ41が貫通して一体的に設けられており、このブッシュ41に、上記ベーンノズル駆動機構33を駆動するための駆動軸39が回動自在に係合している。
【0019】
上記駆動軸39は、上記駆動機構設置室35内に一端部側が位置し、上記駆動機構設置室35内に設けられたベーンノズル駆動機構33に連結部材43を介して上記一端部側が連動連結され、上記ベアリングハウジング17の外に他端部側が位置している。
【0020】
上記駆動軸39の他端部側は、外側の連結部材45を介して、たとえばダイヤフラムシリンダ(図示せず)のピストンロッドと係合している。そして、上記ダイヤフラムシリンダによって上記駆動軸39が回動し、上記内側の連結部材43と上記ベーンノズル駆動機構33とを介して、上記各ノズルベーン31が回動するようになっている。
【0021】
次に、上記シュラウド102とノズル支持リング28について詳しく説明する。
【0022】
ノズル支持リング28は、所定の厚さを備えた板状の素材からリング状に形成された部材で構成されており、上記スクロール通路23の内径よりも僅かに大きな外径を備え、上記タービンインペラ15の外径よりも僅かに大きな内径を備えている。また、上記ノズル支持リング28は、この軸が上記回転軸部材9の回転中心軸CL1と一致するように、上記タービンインペラ15の背面側(コンプレッサ5側)で上記タービンインペラ15の近傍に設置されている。
【0023】
また、上記ノズル支持リング28の先端部側(上記タービンインペラ15の先端側;上記コンプレッサ5とは反対の側)には、上記ノズル支持リング28の円周上で所定の間隔をあけて設けられた複数のスペーサ47を間にして、上記ノズル支持リング28に対して上記シュラウド102が一体的に設けられている。
【0024】
より詳しく説明すると、上記シュラウド102は、上記ノズル支持リング28と同様な形態の円環状部位102Aを備えている(図1、図9参照)。そして、上記円環状部位102Aと上記ノズル支持リング28とが、上記各スペーサ47を間にして上記所定の間隔をあけて互いに平行になっている。また、上記円環状部位102Aと上記ノズル支持リング28との各軸は互いに一致している。
【0025】
上記ノズル支持リング28と上記シュラウド102の上記円環状部位102Aとの間には、上記ガス流路25が形成されており、上記各ノズルベーン31が設置されている。
【0026】
また、上記ノズル支持リング28と上記シュラウド102とは、一端部側が上記ノズル支持リング28に固定され他端部側が上記ハウジング3に固定されていると共に薄い板状の素材から環状に形成された支持部材49を介して、上記ハウジング3に支持されている。
【0027】
ここで、上記シュラウド102についてさらに説明すると、上記シュラウド102は、上記環状部位102Aの先端部側(上記タービンインペラ15の先端側)に、上記環状部位102Aよりも小さい径の円筒状の部位102Bを一体的に設けることにより形成されている。したがって、上記シュラウド102は、基端部側(ノズル支持リング28側)に外径の大きいフランジ部(円環状部位102A)を備え、先端部側に外径の小さな円筒状部102Bを備えた形状に形成されている。
【0028】
なお、上記シュラウド102の内径は、上記タービンインペラ15の外径に応じて、上記環状部位102Aでは、上記基端部側(上記環状部位102A側)から上記先端部側(上記円筒状部102B側)に向かうにしたがって徐々に小さくなり、上記円筒状部102Bではほぼ一定になっている。
【0029】
上記タービンハウジング21には、上記シュラウド102を設置するための孔51が形成されており、上記タービンハウジング21と上記シュラウド102との間には、環状の空間(隙間)SP1が形成されている。また、すでに理解されるように、上記空間SP1の先端部側(上記円筒状部位102Bが設けられている箇所)には、上記孔51と上記円筒状部位102Bとの間で円筒状の空間SP3が形成されている(図1、図9参照)。
【0030】
また、可変容量型過給機1の運転中に、上記空間SP1を通って、上記スクロール通路23から上記ガス出口27へガスが漏れることを防ぐために、上記空間SP3には密封装置104が設けられている。
【0031】
ここで、上記密封装置104について詳しく説明する。
【0032】
図9は、従来の可変容量型過給機100における密封装置104の概略構成を示す図であると共に、図1のIII部の拡大図に対応した図である。
【0033】
上記密封装置104は、2つのCリング状の部材53を用いてシールを行う装置である。
【0034】
図10は、上記Cリング状の部材53の概略構成を示す斜視図である。
【0035】
上記Cリング状の部材53は、あいくち54を備えている。シール性能向上するために、上側のCリング状の部材53を矢印AR11の方向に移動し、各あいくち54が互いに異なるところに位置するようにして、下側のCリング状の部材53に重ねあわせたものを、上記密封装置104に使用している。
【0036】
図9に示すように、上記2つのCリング状の部材53は、上記シュラウド102の円環状部位102Aの外周に形成されたリング状の溝106に設けられていることによって、シュラウド102の軸方向には移動できないようになっていると共に、上記2つのCリング状の部材53の外周の全周が、所定の付勢力を持って、上記タービンハウジング21の貫通孔51の内壁(円柱側面形状の内壁)に接触している。
【0037】
そして、図9に示す矢印AR13のように上記スクロール通路23から流れてきたガスが、上記ガス出口27へ漏れることを防止している。
【0038】
なお、密封装置104を上述したような構成にすることにより、上記支持部材49によって支持されているシュラウド102と上記タービンハウジング21との相対的な位置関係が、排ガスからの熱によって変化しても、上記2つのCリング状の部材53の外周の全周が、所定の付勢力を持って上記タービンハウジング21の貫通孔51の内壁に接触し続けるので、密封装置104の機能を維持することができる。
【0039】
なお、上記従来の可変容量型過給機100に関連する技術として、たとえば、特許文献1に記載の技術が提案されている。
【特許文献1】特願2003−201810
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
ところで、上記従来の可変容量型過給機100に設けられている密封装置104では、上記シュラウド102に上記Cリング状の部材53を設置し、上記Cリング状の部材53が設置された上記シュラウド102を上記タービンハウジング21の貫通孔51に挿入するために、上記シュラウド102の外周に形成された溝106の幅が、上記2つのCリング状の部材53の厚さより僅かに広くなっており、さらに、上記溝106の内径は、上記密封装置104に設置されたCリング状の部材53の内径よりも僅かに小さくなっている。
【0041】
したがって、上記溝106と上記Cリング状の部材53との間には僅かな隙間SP5が形成され、この隙間SP5を通ってガスが漏れるという問題がある。
【0042】
なお、上記問題は、上記可変容量型過給機100のみならず、上記タービンハウジング21に相当する第1の部材に設けられた孔に上記シュラウド102に相当する第2の部材を設けたときに上記第1の部材と上記第2の部材との間に形成される筒状の空間でこの筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールするための密封装置においても同様に発生する問題である。
【0043】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときに上記第1の部材と上記第2の部材との間に形成される筒状の空間でこの筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールするための密封装置において、上記第1の部材と上記第2の部材との相対的な位置関係が僅かに変化しても、流体の漏れを防ぐことができる密封装置およびこの密封装置を備えた過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0044】
請求項1に記載の発明は、第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときに、上記第1の部材と上記第2の部材との間に形成される筒状の空間で、この筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールするための密封装置において、上記筒状の空間を形成している上記第1の部材の孔の壁に、外周のほぼ全周が付勢力を持って接触するリング状の部材と、上記リング状の部材の一方の底面のほぼ環状に形成された部位を、上記筒状の空間の延伸方向と交差する方向で上記第2の部材に形成された環状の面に、付勢力を持って接触させる付勢手段とを有する密封装置である。
【0045】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の密封装置において、上記第1の部材は、過給機のハウジングであり、上記第2の部材は、上記過給機のタービンインペラまたはコンプレッサインペラと上記ハウジングとの間に設けられたシュラウドである密封装置である。
【0046】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の密封装置において、上記リング状の部材の一方の底面の環状の部位は、上記過給機のタービンのガス出口側に位置している上記シュラウドの端面に接しており、また、上記リング状の部材の外周は、上記ハウジングの孔の内壁に接触しており、上記付勢手段は、上記リング状の部材の他方の底面と、上記シュラウドの端面と対向するように上記ハウジングに設けられた面との間に弾性体を挟み込むことによって、上記リング状の部材を押している構成である密封装置である。
【0047】
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の密封装置において、上記リング状の部材は、弾性体でCリング状に構成されており、常態においては、外径がハウジングの孔の内径よりも僅かに大きく形成されており、上記付勢手段は、波ワッシャまたは皿バネを用いて構成されている密封装置である。
【0048】
請求項5に記載の発明は、タービンとこのタービンによって駆動するコンプレッサとを備えた過給機において、上記請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の密封装置を有する過給機である。
【0049】
請求項6に記載の発明は、第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときに上記第1の部材と上記第2の部材との間に形成される筒状の空間で、この筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールするための密封装置において、上記筒状の空間を形成している上記第2の部材の壁に、内周のほぼ全周が付勢力を持って接触するリング状の部材と、上記リング状の部材の一方の底面のほぼ環状に形成された部位を上記筒状の空間の延伸方向と交差する方向で上記第1の部材に形成された環状の面に、付勢力を持って接触させる付勢手段とを有する密封装置である。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときに上記第1の部材と上記第2の部材との間に形成される筒状の空間でこの筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールするための密封装置において、上記第1の部材と上記第2の部材との相対的な位置関係が僅かに変化しても、流体の漏れを防ぐことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る可変容量型過給機1の概略構成を示す図である。
【0052】
図3は図1におけるIII部の拡大図である。
【0053】
本発明の第1の実施形態に係る可変容量型過給機1と上記従来の可変容量型過給機100との主な相違点は、タービンハウジング21とシュラウド26との間の空間に設けられている密封装置の構成が異なるところにあり、その他の点は上記従来の可変容量型過給機100とほぼ同様に構成されている。
【0054】
したがって、以下の説明においては、上記従来の可変容量型過給機100の説明と重複する説明を一部省略してあると共に、同様に構成されているものには、同じ符号を付してある。
【0055】
上記可変容量型過給機1は、第1の部材の例であるタービンハウジング21に設けられた貫通孔51に、第2の部材の例であるシュラウド26を設けたときに、上記タービンハウジング21と上記シュラウド26との間に形成される薄い円筒状の空間SP3で、この円筒状の空間SP3の軸方向における流体(たとえば排ガス)の流れ(漏れ)を防止可能な密封装置(シール装置)55を備えている。
【0056】
なお、シュラウド26は、リング状の溝106が形成されていない点を除いて、上記可変容量型過給機100のシュラウド102とほぼ同様に形成され、上記タービンインペラ15と上記タービンハウジング21との間に設けられている。
【0057】
より、詳しく説明すると、上記シュラウド26は、従来の過給機100のシュラウド102と同様に、上記シュラウド102の環状部位102Aに相当する環状部位26Aに、上記シュラウド102の円筒状部位102Bに相当する円筒状の部位26Bを一体的に設けることにより形成されている。
【0058】
上記シュラウド26を設置するために上記タービンハウジング21に設けられた孔51は、上記シュラウド26の上記円筒状部位26Bを収納するために円柱形状に形成されており、上記孔51の内壁と上記シュラウド26の円筒状部位26Bとによって、タービン7のガス出口27側には、薄い円筒状の空間SP3が形成されている。
【0059】
また、上記孔51の入口側(上記コンプレッサ5側)のタービンハウジング21の部位には、上記孔51を囲むように平面状で環状に形成された平面環状部位52が形成されている。そして、上記平面環状部位52から、上記シュラウド26の環状部位26Aが僅かに離れて設置されていることによって、上記薄い円筒状の空間SP3と連続しこの空間SP3と共に上記空間SP1を構成している薄いリング状の空間が、上記スクロール通路23側に形成されている。
【0060】
上記密封装置55は、上記筒状の空間SP3を形成している上記タービンハウジング21の孔51の内壁に外周のほぼ全周が付勢力を持って接触するリング状の部材の例であるCリング状の部材53を備えている(図3参照)。
【0061】
上記Cリング状の部材53は、耐熱性を備えた金属等の弾性体でCリング状に形成されている。すなわち環状に形成されている部材の一部を開口した形状に形成されている。より詳しく説明すると、断面形状が四角形状の細長い部材を、各両端部が僅かに離れるようにしてCリング状に加工した形状に形成されている(図10参照)。上記各両端部の間に形成されている隙間54は、上述した「あいくち」と呼ばれることがある。
【0062】
また、常態においては、(上記密封装置55に非設置の状態においては、)上記Cリング状の部材53の外径は上記タービンハウジング21の孔51の内径よりも僅かに大きく形成されている。そして、上記密封装置55に設置したときに、上記Cリング状の部材53の外径が、上記タービンハウジング21の孔51の内径の大きさまで縮み、上記Cリング状の部材53の外周のほぼ全周が付勢力を持って、上記タービンハウジング21の孔51の壁に接触するようになっている。
【0063】
また、上記密封装置55は、上記Cリング状の部材53を上記シュラウド26に付勢力を持って接触させる付勢手段57を備えている。
【0064】
より詳しく説明すると、上記付勢手段57は、上記Cリング状の部材53の一方の底面(上記Cリング状の部材53の外周と内周との間に存在している環状の面)53Aのうちの内周側に位置し環状に形成された部位53Bを、上記筒状の空間SP3の延伸方向と交差する方向(たとえば、ほぼ直交する方向)で上記シュラウド26に形成された環状の平面(上記過給機1のタービン7のガス出口27側に位置している上記シュラウド26の端面)30に、付勢しているものである。
【0065】
また、上記付勢手段57は、耐熱性を備え金属等で構成された波ワッシャ59を用いて構成されている。上記波ワッシャ59は、図4に示すように、平ワッシャ状の部材にこの部材の周方向で波状の凹凸を繰り返し形成することにより得られるものである。上記凹凸は上記波ワッシャ59が挟み込まれる方向で凹凸に形成されている。
【0066】
さらに、上記付勢手段57は、上記Cリング状の部材53の他方の底面(上記一方の底面53Aとは反対側に位置している面)53Cと、上記シュラウド26の端面と対向するように設けられた上記孔51の端面(環状であって上記シュラウド26の端面30から僅かに離れ上記端面30と平行に形成されている平面状であって環状の面)51Aとの間に、上記波ワッシャ59を挟み込むことによって、上記リング状の部材53を、上記シュラウド26側に押している。
【0067】
また、図3に示すように、上記波ワッシャ59の内径は、上記密封装置55に使用された状態における上記Cリング状の部材53の内径とほぼ等しくなっており、上記波ワッシャ59の外径は、上記シュラウド26の円筒状部位26Bの外径とほぼ等しいかそれよりも大きくなっている。
【0068】
上記波ワッシャ59の外径を、円筒状部位26Bの外径よりも大きくし上記孔51の内径よりも僅かに小さく形成することにより、上記波ワッシャ59の位置ずれ(上記回転軸部材9の回転中心軸CL1と交差する方向の位置ずれ)を防止することができ、安定した状態で、上記Cリング状の部材53を付勢することができる。
【0069】
なお、上記波ワッシャ59に代えて、皿バネ等の弾性体を用いてもよい。
【0070】
次に、上記稼動時における上記密封装置55の動作について説明する。
【0071】
可変容量型過給機1の稼動時には、エンジンからの排ガスが、上記スクロール通路23、ガス流路25を通って、上記タービンインペラ15に供給され、上記タービンインペラ15が回転している。
【0072】
このとき、上記スクロール通路23、ガス流路25を通らないで、上記スクロール通路23から上記ガス出口27へ、上記空間SP1(空間SP3)を通って排ガスが漏れ出そうとするが、上記密封装置55のCリング状の部材53の外径のほぼ全周が上記孔51の内壁に接触し、上記密封装置55のCリング状の部材53の底面53Aの環状の部位53Bが上記シュラウド26の端面30に接触しているので、上記空間SP3と上記ガス出口27との間が遮断されている。
【0073】
したがって、密封装置55によれば、上記Cリング状の部材53の外周と上記Cリング状の部材53の一方の底面53Aの部位53Bとによって、上記筒状の空間SP3がこの筒状の空間の軸方向において遮断され、上記スクロール通路23と上記ガス出口27との間のガス漏れを、従来の密封装置104よりも少なくすることができる。
【0074】
また、熱変形等によって、上記シュラウド26と上記タービンハウジング21(上記貫通孔51)との間の相対的な位置関係が僅かに変化しても、上記Cリング状の部材53が上記貫通孔51の内壁や上記シュラウド26に形成された環状の端面30に接触し続けるので、上記スクロール通路23と上記ガス出口27との間のガス漏れを防ぐことができる。
【0075】
また、可変容量型過給機1では、エンジンからの排ガスの熱によって、上記タービンハウジング21と上記シュラウド26との間の相対的な位置関係が変化しやすいが、上記密封装置55では上述したように上記位置関係が変化してもガス漏れを防ぐことができる。したがって、上記タービンハウジング21のような第1の部材と、上記シュラウド26のような第2の部材との間で相対的な位置のずれが生じる上記可変容量型過給機1のような装置に、上記密封装置55を好適に採用することができる。
【0076】
また、上記密封装置55によれば、Cリング状の部材53でシール部材が構成されており、また、上記Cリング状の部材53を、波ワッシャ59を用いて付勢しているので、簡素な構成の部材で密封装置を構成することができると共に、密封装置の構成を簡素化することができる。
【0077】
さらに、上記密封装置55によれば、上記Cリング状の部材53の一方の底面53Aの内周側の環状の部位53Bが上記ガス出口27側に位置している上記シュラウド26の端面30に接しており、また、上記Cリング状の部材53の外周が上記タービンハウジング21の孔51の内壁に接触しており、上記付勢手段57が、上記Cリング状の部材53の他方の底面53Cと、上記シュラウド26の端面30と対向するように上記タービンハウジング21に設けられた面(環状であって平面状である上記孔51の端面)51Aとの間に波ワッシャ59等の弾性体を挟み込むことによって、上記Cリング状の部材53を押しているので、従来の密封装置104(過給機100)の構成をほとんど変更することなく、本実施形態に係る密封装置55を設置することができる。
【0078】
また、上記密封装置55において、図5に示すように、上記Cリング状の部材53を複数(たとえば2つ)設けてもよい。
【0079】
すなわち、上記各Cリング状の部材53の各あいくち54の位置が互いにずれた状態で上記各Cリング状の部材53の各軸が同心上に位置するように、上記各Cリング状の部材53を互いに重ね合わせて(図10参照)、密封装置に設置してもよい。
【0080】
このように、各Cリング状の部材53を、上記各Cリング状の部材53の各あいくち54の位置が互いにずれた状態で設けることによって、上記各Cリング状の部材53のあいくち54からのガス漏れを防ぐことができる。
【0081】
[第2の実施形態]
図6は、本発明の第2の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置の概略構成を示す図であり、図1におけるIII部の拡大図に対応する図である。
【0082】
第2の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置61は、Cリング状の部材53、付勢手段57を構成している波ワッシャ59の設置形態が、上記第1の実施形態に係る可変容量型過給機1に設けられている密封装置55とは異なり、その他の点は、上記第1の実施形態に係る可変容量型過給機1に設けられている密封装置55とほぼ同様に構成されておりほぼ同様の効果を奏する。
【0083】
すなわち、上記密封装置61では、上記第1の実施形態にかかる可変容量型過給機1に採用されているシュラウド26の円筒状の部位26Bの外周に、リング状の溝26Cを設け、このリング状の溝26Cに、Cリング状の部材53と波ワッシャ59とを設けてある。なお、上記リング状の溝26Cの断面(シュラウド26の軸方向に延伸した平面による断面)は矩形状に形成されていると共に、上記リング状の溝26Cの幅は、上記Cリング状の部材53の厚さよりもやや広く形成されている。
【0084】
そして、上記Cリング状の部材53の外周のほぼ全周が、上記タービンハウジング21の孔51の壁に付勢力を持って接触し、また、上記Cリング状の部材53の一方の底面53Aのうちの内周側に位置し環状に形成された部位53Bが、上記リング状の溝26Cの一方の側面(上記ノズル支持リング28側に位置している平面状かつ円環状の面)26Dに、付勢手段57により付勢されている。
【0085】
なお、上記付勢手段57は、上記リング状の溝26Cの他方の側面(上記一方の側面26Dと対向している側面)26Eと、上記Cリング状の部材53の他方の底面53Cとの間に、波ワッシャ59を設置して構成されている。
【0086】
なお、第1の実施形態に係る密封装置55と同様に、波ワッシャ59の代わりに、皿バネ等の弾性体を設けてもよい。
【0087】
そして、上記第1の実施形態に係る密封装置55と同様に、上記Cリング状の部材53の外周と上記孔51の内壁との接触と、上記Cリング状の部材53の一方の底面53Aの内周部位53Bと上記リング状の溝26Cの一方の側面26Dとの接触によって、上記筒状の空間SP3を流れてくる排ガスをシールすることができるようになっている。
【0088】
[第3の実施形態]
図7は、本発明の第3の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置の概略構成を示す図であり、図1におけるIII部の拡大図に対応する図である。
【0089】
第3の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置63は、Cリング状の部材53の設置位置と波ワッシャ59の設置位置とを交換した点が、上記第2の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置61とは異なり、その他の点は、上記第2の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置61とほぼ同様に構成されておりほぼ同様の効果を奏する。
【0090】
すなわち、上記密封装置63では、Cリング状の部材53が、シュラウド26のリング状の溝26Cの他方の側面(上記タービン7のガス出口27側の側面)26E側に設置されており、波ワッシャ59が、上記リング状の溝26Cの一方の側面(上記スクロール通路23側の側面;上記ノズル支持リング28側の側面)26D側に設置されている。
【0091】
上記密封装置63によれば、シュラウド26の溝26Cに対してCリング状の部材53が、波ワッシャ59で付勢されるだけでなく、上記スクロール通路23から上記空間SP3を流れてくる排ガスの圧力によっても付勢されるので、上記シュラウド26の溝26Cに対して上記Cリング状の部材53を一層確実に付勢することができ、ガスの漏れを一層確実に防ぐことができる。
【0092】
[第4の実施形態]
図8は、本発明の第4の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置の概略構成を示す図であり、図1におけるIII部の拡大図に対応する図である。
【0093】
第4の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置65は、Cリング状の部材と波ワッシャとを、タービンハウジング21側に設置した点が、上記第2の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置61とは異なり、その他の点は、上記第2の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置61とほぼ同様に構成されておりほぼ同様の効果を奏する。
【0094】
すなわち、上記密封装置65では、タービンハウジング21の孔51の円柱側面形状の内壁にリング状の溝21Aを設け、このリング状の溝21Aに、Cリング状の部材67と波ワッシャ59とを設けてある。なお、上記リング状の溝21Aの断面(シュラウド26の軸方向に延伸している平面による断面)は矩形状に形成されていると共に、上記リング状の溝21Aの幅は、上記Cリング状の部材67の厚さよりもやや広く形成されている。
【0095】
上記Cリング状の部材67は、上記Cリング状の部材67とほぼ同様に構成されているが、常態においては、(上記密封装置65に非設置の状態においては、)上記Cリング状の部材67の内径は上記シュラウド26の円筒状の部位26Bの外径よりも僅かに小きく形成されている。そして、上記密封装置65に設置したときに、上記Cリング状の部材67の内径が、上記シュラウド26の円筒状の部位26Bの外径まで広がり、上記Cリング状の部材67の内周のほぼ全周が付勢力を持って、上記シュラウド26の円筒状の部位26Bの外壁に接触するようになっている。
【0096】
また、上記Cリング状の部材67の一方の底面67Aのうちの外周側に位置し環状に形成された部位67Bが、上記リング状の溝21Aの一方の側面(上記ノズル支持リング28側に位置している平面状かつ円環状の面)21Bに、付勢手段により付勢されている。
【0097】
なお、上記付勢手段は、上記リング状の溝21Aの他方の側面(上記一方の側面21Bと対向している側面)21Cと、上記Cリング状の部材67の他方の底面67Cとの間に、波ワッシャ59を設置して構成されている。
【0098】
また、第2の実施形態に係る密封装置61と同様に、波ワッシャ59の代わりに、皿バネ等の弾性体を設けてもよい。
【0099】
そして、上記第2の実施形態に係る密封装置61と同様に、上記Cリング状の部材67の内周と上記シュラウド26の外壁との接触と、上記Cリング状の部材67の一方の底面67Aの外周部位67Bと上記リング状の溝21Aの一方の側面21Bとの接触によって、上記筒状の空間SP3を流れてくる排ガスをールすることができるようになっている。
【0100】
また、上記各実施形態では、可変容量型過給機を例に掲げて説明したが、可変容量型過給機に限定する必要はなく、可変ノズルを設けていない過給機にも、上記各実施形態を適用することができる。また、コンプレッサ側にシュラウドを設けた場合にも、上記各実施形態を適用することができる。さらに、過給機以外の装置にも上記各実施形態を適用することができる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る可変容量型過給機の概略構成を示す図である。
【図2】図1におけるIIA−IIB断面を示す図である。
【図3】図1におけるIII部の拡大図である。
【図4】波ワッシャの概略構成を示す斜視図である。
【図5】密封装置の変形例を示す図であり、図1におけるIII部の拡大図に対応する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置の概略構成を示す図であり、図1におけるIII部の拡大図に対応する図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置の概略構成を示す図であり、図1におけるIII部の拡大図に対応する図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る可変容量型過給機に設けられている密封装置の概略構成を示す図であり、図1におけるIII部の拡大図に対応する図である。
【図9】従来の可変容量型過給機における密封装置の概略構成を示す図であると共に、図1のIII部の拡大図に対応した図である。
【図10】Cリング状の部材の概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0102】
1 過給機
5 コンプレッサ
7 タービン
21 タービンハウジング
26 シュラウド
27 ガス出口
30 シュラウドの端面
51 孔
53、67 Cリング状の部材
53A、67A Cリング状の部材の一方の底面
53B、67B 環状の部位
53C Cリング状の部材の他方の底面
55、65 密封装置
57 付勢手段
59 波ワッシャ
SP3 筒状の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときに、上記第1の部材と上記第2の部材との間に形成される筒状の空間で、この筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールするための密封装置において、
上記筒状の空間を形成している上記第1の部材の孔の壁に、外周のほぼ全周が付勢力を持って接触するリング状の部材と;
上記リング状の部材の一方の底面のほぼ環状に形成された部位を、上記筒状の空間の延伸方向と交差する方向で上記第2の部材に形成された環状の面に、付勢力を持って接触させる付勢手段と;
を有することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、
上記第1の部材は、過給機のハウジングであり、
上記第2の部材は、上記過給機のタービンインペラまたはコンプレッサインペラと上記ハウジングとの間に設けられたシュラウドであることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項2に記載の密封装置において、
上記リング状の部材の一方の底面の環状の部位は、上記過給機のタービンのガス出口側に位置している上記シュラウドの端面に接しており、また、上記リング状の部材の外周は、上記ハウジングの孔の内壁に接触しており、
上記付勢手段は、上記リング状の部材の他方の底面と、上記シュラウドの端面と対向するように上記ハウジングに設けられた面との間に弾性体を挟み込むことによって、上記リング状の部材を押している構成であることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の密封装置において、
上記リング状の部材は、弾性体でCリング状に構成されており、常態においては、外径がハウジングの孔の内径よりも僅かに大きく形成されており、
上記付勢手段は、波ワッシャまたは皿バネを用いて構成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
タービンとこのタービンによって駆動するコンプレッサとを備えた過給機において、
上記請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の密封装置を有することを特徴とする過給機。
【請求項6】
第1の部材に設けられた孔に第2の部材を設けたときに上記第1の部材と上記第2の部材との間に形成される筒状の空間で、この筒状の空間の軸方向における流体の漏れをシールするための密封装置において、
上記筒状の空間を形成している上記第2の部材の壁に、内周のほぼ全周が付勢力を持って接触するリング状の部材と;
上記リング状の部材の一方の底面のほぼ環状に形成された部位を上記筒状の空間の延伸方向と交差する方向で上記第1の部材に形成された環状の面に、付勢力を持って接触させる付勢手段と;
を有することを特徴とする密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−125588(P2006−125588A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317634(P2004−317634)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】