説明

過酢酸架橋非抗原性ICL移植片

【課題】哺乳動物患者に移植されたときに身体部分又は組織構造体の機能的代用品として使用でき、同時に患者の生活細胞による生物学的再構築を伴って生じる制御された生分解を受けるプロテーゼの提供。
【解決手段】腸材料、大腿筋膜、硬膜及び心膜から成る群から選択される哺乳動物由来コラーゲン組織から形成される無菌で、非発熱性かつ非抗原性プロテーゼであって、移植されたプロテーゼがコラーゲン組織中の成分に対して体液性免疫応答を誘発せず、並びにさらに生物学的再構築を可能にする架橋剤によって架橋された2層以上の重ねられて結合したコラーゲン組織層を含み、かつ前記プロテーゼが付随的に、本来の移植されたプロテーゼが患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる生物学的再構築を受けるプロテーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は移植可能な生物学的プロテーゼの分野に属する。本発明は、多様な形に加工されて、哺乳動物の組織及び器官の修復、増大又は置換に用いられることができる非抗原性で弾性の生体適合性組織プロテーゼである。プロテーゼは宿主細胞によって徐々に分解され、改造され(remodeled)、宿主細胞は移植されたプロテーゼに代わって、構造と機能を復活するので、プロテーゼは器官修復と再構成のために用いられる。
【背景技術】
【0002】
2.発明の背景の簡単な説明
医療技術がますます精緻になるにも拘わらず、損傷した器官の修復と置換は依然として健康ケアにおいて頻発する、費用のかかる重大な問題である。移植可能なプロテーゼは現在、多くの合成材料及び処理された天然材料から製造される。理想的なプロテーゼ材料は化学的に不活性で、非発癌性であり、機械的応力に耐えることができ、必要な形状で製造されることができ、滅菌可能であるべきであり、しかも組織液(tissue fluid)によって物理的に変化されるべきではなく、炎症性反応及び異物反応を惹起すべきではなく、アレルギー反応若しくは過敏症を誘導すべきではなく、場合によっては内蔵癒着を促進すべきではない(Jenkins S.D.等,Surgery94(2):392〜398,1983)。
【0003】
例えば、外傷、壊死又は他の原因による、自原性組織によって閉塞されることができない体壁欠陥は合成メッシュによる修復、増大又は置換を必要とする。腹壁欠陥を補強又は修復する場合には、タンタルガーゼ、ステンレス鋼メッシュ、DACRON(登録商標)、ORLON(登録商標)、FORTISAN(登録商標)、ナイロン、編んだポリプロピレン(MARLEX(登録商標))、微孔質発泡ポリテトラフルオロエチレン(GORE−TEX(登録商標))、ダクロン強化シリコーンゴム(SILASTIC(登録商標))、ポリグラクチン910(VICRYL(登録商標))、ポリエステル(MERSILENE(登録商標))、ポリグリコール酸(DEXON(登録商標))、加工した羊皮膚コラーゲン(PSDC(登録商標))、架橋したウシ心膜(PERI−GUARD(登録商標))及びヒト硬膜(LYODURA(登録商標))を包含する、数種類のプロテーゼ材料が用いられている。一般的に受容されている、単独のプロテーゼ材料は存在していない。
【0004】
金属メッシュの主な利点は、これらが不活性で、耐感染性であることであるが、これらは線維増殖症を刺激する可能性がある。これらの主な欠点は、移植の第1年後に生ずる分断と、可鍛性の欠如である。合成メッシュは容易に成形されるという利点を有し、ナイロン以外は、それらの引張り強さを身体中で保有する。合成メッシュの主な欠点はそれらが不活性さを有さず、感染しやすく、創傷治癒を妨害することである。
【0005】
吸収性合成メッシュは移植部位における非永久性(impermanence)という利点を有するが、細胞及び組織が充分に内部成長する前に宿主によって溶解するので、それらの機械的強度を失うという欠点をしばしば有する。
【0006】
腸壁置換と、ヘルニア修復とのために最も広く用いられている材料はMARLEX(登録商標)であるが、瘢痕拘縮(scar contracture)によってポリプロピレンメッシュ移植片が歪められ、輪状の線維質組織中で周囲組織から分離することを数人の研究者が報告している。他の研究者はMARLEX(登録商標)を用いた場合の中程度から重度までの癒着を報告している。
【0007】
GORE−TEX(登録商標)は化学的に最も不活性なポリマーであると現在考えられ、移植されたときに生ずる異物反応が最小であることが判明している。主要な問題は汚染された創傷におけるポリテトラフルオロエチレンの使用に関して存在する、この材料はマクロ分子のドレナージを可能にせず、このことが感染症の治療を限定するからである。
【0008】
コラーゲンは、種々な動物ソースから豊富に供給される天然の生物学的補綴用代替え物であったので、最初に医用材料としての有用性を獲得した。最初のコラーゲン補綴術の設計目的は合成ポリマープロテーゼの設計目的と同じであり;プロテーゼは存続して、本質的に不活性材料として作用すべきである。これらの目的に留意して、コラーゲンの機械的強度を高め、コラーゲンの分解速度を減ずるために精製方法と架橋方法とが開発された(Chvapil,M.等(1977)J.Biomed.Mater.Res.11:297〜314;Kligman,A.M.等(1986)J.Dermatol.Surg.Oncol.12(4):351〜357;Roe,S.C.等(1990),Artif.Organs.14:443〜448;Woodroff,E.A.(1978),J.Bioeng.2:1〜10)。最初に用いられた架橋剤はグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、ポリエポキシド、ジイソシアネート(Borick,P.M.等(1964)J.Pharm.Sci.52:1273〜1275)並びにアシルアジドを包含する。加工された皮膚の羊コラーゲンは種々な用途のためのインプラントとして研究されている。移植前に、羊皮膚コラーゲンは典型的にヘキサメチレンジイソシアネート(van Wachem,P.B.等,Biomaterials,12(3月):215〜223,1991)又はグルタルアルデヒド(Rudolphy,V.J.等,Ann.Thorac.Surg.52:821〜825,1991)によってなめされる。恐らく最も広く用いられ、研究されている架橋剤であるグルタルアルデヒドは、滅菌剤としても用いられた。一般に、これらの架橋剤は、機械的及び生物学的の両方から、天然の生物学的組織というよりも合成材料に類似したコラーゲン材料を生成した。
【0009】
ネイティブコラーゲンを架橋することは、抗原エピトープを連結して、抗原エピトープにファゴサイトーシスを受け難くさせるか又は免疫系によって認識されなくすることによって、材料の抗原性を低下させる(Chvapil,M.(1980)Reconstituted collagen.313〜324頁;Viidik,A.,Vuust,J.(編集),Biology of Collagen.Academic Press,London;Harjula,A.等(1980)Ann.Chir.Cynaecol.69:256〜262)。しかし、架橋剤としてグルタルアルデヒドを用いる研究からのデータは、グルタルアルデヒド処理が細胞毒性残基を残すことも知られているので、解釈することが困難である(Chvapil,M.(1980)上記文献;Cooke,A.等(1983)Br.J.Exp.Path.64:172〜176;Speer,D.P.等(1980)J.Biomed.Mater.Res.14:753〜764;Wiebe,D.等(1988)Surgery,104:26〜33)。それ故、グルタルアルデヒド架橋に関連した抗原性の低下は抗原決定基に対する特異的な効果というよりもむしろ非特異的な細胞毒性によるものである可能性がある。グルタルアルデヒド処理は、非架橋コラーゲン材料に比べて、コラーゲン材料の耐久性を高め、抗原性を低下させるための許容される方法である。しかし、コラーゲン材料のグルタルアルデヒド架橋は、身体がプロテーゼを改造する能力を顕著に限定する(Roe,S.C.等(1990)上記文献)。
【0010】
伝統的な材料に関連した上記問題の全ては、身体が移植片を“不活性”と認識することができないことにある程度由来する。起源では生物学的ではあるが、コラーゲンの広範囲な化学的修飾はコラーゲンを“異物”にする傾向がある。移植されたコラーゲンデバイスの長期間性能を改良するためには、天然コラーゲン組織の性質の多くを保持することが重要である。この“組織工学”アプローチでは、プロテーゼを永久的移植片としてではなく、再生又は改造のための足場(scaffold)又は鋳型として設計する。組織工学の設計原理は類質同形の組織置換の必要条件を含み、移植片マトリックスの生物学的分解(biodegradation)が組織置換とほぼ同じ機能的速度で生ずる(Yannas,I.V.(1995)Regeneration Templates,1619〜1635頁,Bronzino,J.D.(編集),The Biomedical Engineering Handbook,CRC Press社,Boca Raton,Florida)。
【0011】
このようなプロテーゼを移植する場合には、このプロテーゼは直ちに身体部分としてその必要な機械的及び/又は生物学的機能を果たさなければならない。プロテーゼはまた、間充織細胞(mesenchymal cell)の内部成長による適当な宿主細胞充実化(host cellularization)を支持すべきであり、将来は、類質同形の組織置換によって、最初の組織の機能的類似体である宿主組織と置換されるべきである。これをするためには、移植片は有意な体液性免疫反応を誘発してはならず、治癒及び新組織(neo-tissue)の発達を促進するために、細胞毒性若しくは発熱性であってもならない。 外植された哺乳動物組織に由来するプロテーゼ又は補綴材料は、外科的修復又は組織及び器官の置換のために広範囲に研究されている。組織は典型的に、細胞成分を除去して組織マトリックスを残すように加工される。例えば架橋、消毒又は成形(forming into shapes)のようなさらなる加工も研究されている。Braunへの米国特許第3,562,820号は、例えばコラーゲン線維ペーストのような結合剤ペーストを用いて又は酸性若しくは塩基性媒質を用いて接着させて、粘膜下組織から形成したプロテーゼの管形、シート形及びストリップ形を開示している。Woodroofへの米国特許第4,502,159号は、心臓周囲組織から脂肪、線維及び外来残屑(extraneous debris)を除去してから、心臓周囲組織をリン酸塩緩衝化生理的食塩水中に入れることによって、心臓周囲組織から形成される管状プロテーゼを提供している。次に、心臓周囲組織をマンドレル上に置き、シームを縫合によって閉じてから、組織を架橋させる。Silverへの米国特許第4,703,108号は、可溶性コラーゲン溶液又は不溶性コラーゲン分散液を凍結乾燥させてから、架橋させて、多孔質コラーゲンマトリックスを形成する、可溶性コラーゲン溶液又は不溶性コラーゲン分散液からの生分解性マトリックスを提供している。Klementへの米国特許第4,776,856号は、アルカリ性pHの高張性溶液を用いて細胞を抽出し、次に洗剤を含有する高濃度塩溶液(high salt solution)によって抽出し;次に、組織をプロテアーゼを含まない酵素溶液にさらし、次にアニオン洗剤溶液にさらすことを包含する、移植片用の生物学的材料の製造方法を提供している。Brendelへの米国特許第4,801,299号は、身体由来組織を洗剤によって処理して、細胞構造体、核酸及び脂質を除去して、細胞外マトリックスを残し、次にこのマトリックスを滅菌してから移植することによる、移植のための身体由来全構造体の加工方法を提供している。Badylakへの米国特許第4,902,508号は、粘膜下組織、粘膜筋板、及び粘膜下組織の緻密層を含む、小腸に由来する三層組織移植片組成物を開示している。組織移植片組成物を得る方法は、小腸組織を削り落とした後に、抗生物質溶液で処理することを含む。Liveseyへの米国特許第5,336,616号は、細胞を取り出すための組織の処理、抗凍結剤溶液による処理、凍結、再水和及び最後に、組織を再形成する(repopulate)ための細胞接種による生物学的組織の加工方法を開示している。
【0012】
例えば、腹壁欠陥及び脈管構造のような、哺乳動物組織を置換又は修復するために上首尾に用いることができる移植可能なプロテーゼを開発することが、研究者の永続的な目的である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は現在入手可能な材料の問題点を克服して、損傷した組織及び器官の修復、増大又は置換に用いるためのプロテーゼデバイスを提供する。本発明は、哺乳動物宿主に移植されたときに、制御された生分解を受け、それに伴って充分な生細胞置換又は新組織形成が生じて、最初に移植されたプロテーゼが最終的に改造され、宿主由来組織及び細胞によって置換されるようなプロテーゼに関する。本発明のプロテーゼ(組織修復のための材料)は、哺乳動物組織に由来する非抗原性コラーゲン材料を含む。このコラーゲン材料は積層して、相互に結合して、多層状シート、管、又は複雑な形状のプロテーゼを形成することもできる。本発明の結合したコラーゲン層は構造的に安定で、柔軟であり、半透性かつ縫合可能である。
【0014】
それ故、現在臨床的に用いられている移植片の多くに関連した欠点の多くを示さない組織修復布帛を提供することが、本発明の目的である。
【0015】
他の目的は、移植部位での組織内部及び/又は組織再生を可能にし、促進するプロテーゼ材料であって、哺乳動物コラーゲン組織に由来する、無菌の、非発熱性かつ非抗原性材料を提供することである。この材料から製造されたプロテーゼは、レシピエント宿主又は患者に移植されたときに、有意な免疫応答を誘発しない。この材料から形成されたプロテーゼは、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生物学的改造(bioremodeling)を同時に示すので、最初の移植されたプロテーゼは患者の生細胞によって改造されて、再生された器官又は組織を形成する。
【0016】
本発明の他の目的は、組織修復布帛を製造するための簡単で反復可能な方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、自家移植、同種移植又は異種移植適応症における新規な多目的修復布帛の使用方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、従来の外科的手法を用いて移植することができる、新規な組織修復布帛を提供することである。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、哺乳動物宿主に移植されたときに、機能的な修復、増大又は置換身体部分又は組織構造体として作用することができ、宿主細胞による改造と同時に生ずる制御された生分解を受ける組織工学プロテーゼに関する。本発明のプロテーゼは、本発明の種々な実施態様において、二重の性質を有する:第一に、このプロテーゼは代用身体部分として機能し、第二には、なおも代用身体部分として機能しながら、宿主細胞の内部成長のための改造鋳型として機能する。これをするために、非抗原性にされ、相互に結合されることができる哺乳動物由来コラーゲン組織を含む、本発明のプロテーゼ材料(組織修復布帛)が開発された。このプロテーゼを種々なデバイス及び構築体の構築によって説明するが、本発明はこれによって限定されない。デバイスの形状及び厚さにおけるデバイスの設計が構築体の最終的な適応に依存して選択されるべきであることは理解されるであろう。
【0020】
好ましい実施態様では、プロテーゼを形成するためのコラーゲン材料又はプロテーゼ自体を無菌、非発熱性及び非抗原性にする。このプロテーゼは、レシピエント宿主又は患者に移植された場合に、有意な体液性免疫応答を誘発しない。許容可能なレベルの応答は、プロテーゼのレシピエントから得られた血液血清をコラーゲン組織の抽出物中のタンパク質に対する抗体に関して試験した場合に、コラーゲン組織の抽出物中のタンパク質に対する抗体力価が基準(baseline)力価レベルからの有意な増加を示さないような応答である。
【0021】
好ましい方法では、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生物学的改造を同時に受けるプロテーゼの可能性を維持しながら、組織修復材料又はプロテーゼ自体を非抗原性にする。非抗原性プロテーゼのコラーゲン材料の製造方法は、材料の微生物による分解を阻止するための好ましくは過酢酸を含む溶液の使用によって材料を消毒することと;消毒済みコラーゲン材料を架橋剤、好ましくは1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)によって架橋することを含む。
【0022】
好ましい実施態様においても、哺乳動物由来のコラーゲン組織をコラーゲン材料の製造に使用する。コラーゲン組織の供給源は非限定的に腸、大腿筋膜、心膜及び硬膜を包含する。使用するために最も好ましい材料は小腸の粘膜下組織層である。粘膜下組織を小腸の他の層から分離し、離層することが好ましい。この層は以下では小腸コラーゲン層(“ICL”)と呼ぶことにする。さらに、プロテーゼデバイスのコラーゲン層は例えばICLの2層以上のような、同じコラーゲン材料から、又は例えばICLの1層以上と大腿筋層の1層以上のような、異なるコラーゲン材料から製造されることができる。
【0023】
哺乳動物ソース、好ましくはブタ、ウシ又はヒツジからの粘膜下組織又は小腸コラーゲン層(ICL)を、原料を対抗ローラー間で圧搾して筋層(tunica muscularis)と粘膜(tunica mucosa)とを除去することによって、機械的に浄化する。小腸の粘膜下組織は周囲組織よりも硬質かつ剛性であるので、ローラーは粘膜下組織から軟質成分を圧搾する。以下の実施例では、Bitterling腸浄化装置(gut cleaning machine)を用いてブタ小腸からICLを機械的に回収した。 機械的に浄化した粘膜下組織は機械的性質のコンシステンシー(consistency)に影響を与える若干の隠れた目に見えない残屑を含む可能性があるので、この粘膜下組織を例えば4℃の緩衝剤溶液中に浸漬することによって、又はNaOH若しくはトリプシンを用いて浸漬することによって、又は他の既知浄化方法によって化学的に浄化して、コラーゲン以外の残屑及び他の物質を除去することができる。例えばTRITON X−100TM(Rohm and Haas)若しくはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような洗剤;例えばジスパース(dispase)、トリプシン若しくはサーモリシン(thermolysin)のような酵素;及び/又は例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)若しくはエチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)のようなキレート化剤を用いる他の手段も化学的浄化方法に含めることもできる。
【0024】
浄化後に、この(ICL)を好ましくは米国特許第5,460,962号(本明細書に援用される)に述べられているように、希過酢酸溶液を用いて汚染除去又は消毒すべきである。材料の汚染除去又は消毒は細菌又はタンパク質分解酵素によるコラーゲンマトリックスの分解を防止するためにおこなわれる。コラーゲンに対して用いるための他の消毒溶液及び系も当該技術分野で知られており、消毒処理後に材料の改造の可能性が妨害されないかぎり、使用可能である。
【0025】
好ましい実施態様では、本発明のプロテーゼデバイスは相互に結合した、2個以上のスーパーインポーズしたコラーゲン層を有する。本明細書で用いるかぎり、“結合したコラーゲン層”は、層が相互にスーパーインパーズして、セルフーラミネーション(self-lamination)によって相互に充分に支持されるようなやり方で、処理された同じ又は異なるコラーゲン材料の2層以上から成ることを意味する。コラーゲン層の結合は数種類の方法:加熱溶着若しくは結合、接着剤、化学的結合又は縫合によって達成されることができる。
【0026】
好ましい方法では、かつ以下の実施例では、ICLをpH6〜pH8の中性化pHにおいて水中約0.01〜0.3%v/vの濃度(好ましくは、約0.1%)の過酢酸溶液によって消毒して、使用までリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)中約4℃において貯蔵する。ICLを縦に切断して、固体フラットプレート上で平らにする。次に、1個以上の連続層を相互にインポーズさせる。第2固体フラットプレートをこれらの層の頂部に置き、これらの2プレートを一緒にきつくクランプする。クランプされたプレートとコラーゲン層である完成装置を次に、コラーゲン層を相互に結合させるために充分な時間及び条件下で加熱する。加熱量はコラーゲンを結合させるために充分な高さであるべきであるが、コラーゲンを不可逆的に変性させるほど高くてはならない。加熱及び結合の時間は用いられるコラーゲン材料の種類、水分含量、材料の厚さ及び加熱に依存する。典型的な加熱範囲は約50℃〜約75℃、より典型的には60℃〜65℃、最も典型的には62℃である。典型的な時間範囲は約7分間〜約24時間、典型的には約1時間である。加熱度と加熱時間とは、ルーチンの実験により熱と時間のパラメータを変えることによって容易に確認することができる。結合工程は慣用的なオーブンで達成することができるが、非限定的に水浴、レーザーエネルギー又は電気的熱伝導を包含する、他の装置又は加熱手段(heat application)を用いることもできる。加熱及び結合の直後に、装置を空気中又は水浴中で、20℃の室温〜1℃の範囲において冷却する。急冷と呼ばれる、迅速な冷却は直ちに又は殆ど直ちに加熱作用を停止させる。この工程を達成するために、装置を典型的に水浴中で好ましくは約1℃〜約10℃、最も好ましくは約4℃の温度によって冷却することができる。1℃未満の温度を用いることができるが、コラーゲン層の凍結は構造破壊を惹起するので、コラーゲン層を凍結させないように注意する必要がある。さらに、10℃を越える温度も急冷に用いることができるが、急冷の温度が高すぎると、コラーゲン層をそれらの現行の形状で充分に固定させるために適時に加熱を停止させることができなくなる。
【0027】
次に、プロテーゼ材料又は多層状構築体を好ましくは架橋させる。結合したプロテーゼデバイスを架橋させることは、デバイスに強度とある程度の恒久性とを与え、デバイスの取り扱い性を改良する。架橋剤は、宿主細胞によって改造されうる生体適合性材料を生じるように選択すべきである。例えばリボース及び他の糖、酸化剤並びに脱水加熱(dehydrothermal)(DHT)方法のような、種々なタイプの架橋剤が当該技術分野で知られており、使用可能である。好ましい架橋剤は1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)である。EDCと水とを含有する架橋剤溶液はアセトンをも含有することができる。好ましい実施態様では、スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドを架橋剤に加える(Staros,J.V.,Biochem.21,3950〜3955,1982)。
【0028】
好ましい実施態様では、過酢酸による消毒と、その後のICL材料のEDCによる架橋とを含む方法をおこなって、材料の抗原性を低下させる。非滅菌非架橋ICL中に存在する免疫反応性タンパク質は減ぜられるか若しくは除去される、又はそれらのエピトープはそれらがもはや体液性免疫応答を誘発しないように改変されている。しかし、この材料の移植片インプラントは創傷治癒反応の結果としての初期の一時的炎症反応を示す。本明細書で用いるかぎり、“非抗原性”なる用語は、プロテーゼを移植された宿主又は患者に有意な体液性免疫応答を誘発しないことを意味する。許容できる応答レベルは、プロテーゼのレシピエントから得られた血液血清をコラーゲン組織の抽出物中のタンパク質に対する抗体に関して試験した場合に、コラーゲン組織の抽出物中のタンパク質に対する抗体力価が基準力価レベルからの有意な増加を示さないような応答レベルである。コラーゲン組織タンパク質に今までに感作されなかった患者又は宿主に関して、好ましい血清抗体力価は1:40以下である。
【0029】
好ましい実施態様のプロテーゼは非発熱性であることも好ましい。発熱性(pyrogenic)であるプロテーゼは、レシピエント宿主又は患者に移植した場合に、患者に発熱反応を惹起するので、プロテーゼが改造される可能性に影響を及ぼす。発熱物質は材料のサンプルを3匹の実験用ウサギに静脈内注入することによって検査する。感熱性プローブ(temperature sensing probe)をウサギの直腸に挿入して、温度変化をモニターする。ウサギの温度が0.5℃より大きく上昇する場合には、さらに5匹のウサギにおいてサンプルの試験を続ける。8匹のウサギの中の3匹以下がそれぞれ0.5℃以上の温度上昇を示す場合又は8匹のそれぞれの最大温度上昇の合計が3.3℃を越えない場合には、試験中の材料は発熱物質存在せずの必要条件を満たすことになる(発熱物質試験(151),1718〜1719頁,The United States Pharmacopeia(USP)23,The United States Pharmacopeial Convection社,Rockville,MD)。
【0030】
代用身体部分として機能する、本発明の組織修復布帛はフラット、管状又は複雑な形状であることができる。組織修復布帛の形状は予定用途によって決定される。したがって、本発明のプロテーゼの結合層を形成する場合には、所望の形状を考慮して、型又はプレートを形作ることができる。組織修復布帛を移植して、例えば腹壁欠陥、心膜、ヘルニア並びに、非限定的に骨、骨膜、軟骨膜、椎間円板、関節軟骨、真皮、表皮、腸、じん帯及び腱を包含する、他の種々な器官及び構造体のような、病的な又は損傷した器官を修復、増大又は置換することができる。さらに、組織修復布帛を血管パッチ若しくは心臓内パッチとして、又は代替え心臓弁として用いることができる。
【0031】
フラットシートを用いて、例えば、器官の吊り包帯(sling)としてシートを用いることによって、脱出した又は過度移動性器官を支持することができる。この吊り包帯は例えば膀胱又は子宮のような器官を支持することができる。
【0032】
管状移植片は例えば脈管構造、食堂、気管、腸及びファローピウス管のような管状器官の断面を置換するために用いることができる。これらの器官は外面及び内腔面と共に基礎管形を有する。
【0033】
さらに、フラットシートと管状構造体とを共に形成して、心臓弁又は静脈弁を置換する又は増大するための複雑な構造体を得ることができる。
【0034】
代用身体部分又はサポートとして機能することの他に、プロテーゼの第2機能は、生物学的改造のための鋳型又は足場としての機能である。本明細書で用いる“生物学的改造”なる用語は、移植されたプロテーゼの、宿主細胞及び酵素による生物学的分解速度にほぼ等しい機能的速度での宿主細胞の内部増殖による構造コラーゲンの産生、血管形成及び上皮形成を意味する。組織修復布帛は、宿主によって全ての又は実質的に全ての宿主組織に改造されながら、最初に移植されたプロテーゼの特性を保有し、それゆえに、それが修復若しくは置換する組織の類似体として機能する。
【0035】
機械的特性は、例えば組織修復布帛が生物学的改造中の亀裂に耐え、さらに柔軟でかつ縫合可能であるような、機械的結合性(mechanical integrity)を包含する。“柔軟な”なる意味は良好な取り扱い性を意味する。“縫合可能な”なる用語は、層の機械的性質がネイティブ組織のセクションにプロテーゼを縫合するときにプロテーゼ材料に針と縫合糸(suture material)とを通過させる縫合保持(suture retention)(吻合として知られたプロセス)を包含する。縫合中に、このようなプロテーゼは縫合によってプロテーゼに加えられる引張り力の結果として裂けてはならず、また縫合糸に結び目をつくるときに裂けてはならない。組織修復布帛の縫合可能性、即ち、縫合中のプロテーゼの耐引裂き性はプロテーゼ材料の固有機械的強度、移植片の厚さ、縫合に加えられる張力、及び結び目を引張り閉じる場合の速度に関係する。
【0036】
本明細書で用いるかぎり、“非クリープ性(non-creeping)”は、プロテーゼが移植後に延伸せず、膨張せず又は拡大しないような耐久性をプロテーゼの生体力学的(biomechanical)性質が与えることを意味する。以下で説明するように、本発明の移植されたプロテーゼの総合延伸(total stretch)は許容可能な範囲内である。本発明のプロテーゼは、生物学的分解と改造とによる移植された材料の機械的強度の低下よりも速い速度での宿主細胞による構造コラーゲン置換による移植後の細胞の生物学的改造の関数として耐延伸性を得る。本発明の組織修復布帛は、架橋されたとしても、”半透性”である。半透性は改造又はコラーゲン層付着のための宿主細胞の内部増殖を可能にする。プロテーゼの“無孔質”特性はプロテーゼの移植によって保有されることになる流体の通過を防止する。これに反して、プロテーゼの用途のために多孔質性が必要にされる場合には、プロテーゼに孔を形成することができる。
【0037】
本発明のプロテーゼの機械的結合性は、プロテーゼがドレープされる若しくは折り畳まれる可能性並びにプロテーゼをカット若しくはトリムして、構築体の離層若しくは縁のほつれのないきれいな縁を得る可能性にもある。
【0038】
さらに、本発明の他の実施態様では、コラーゲン層の間に機械的に剪断又は細断されたコラーゲン線維を含めて、構築体のかさを高めることができ、宿主細胞による種々な速度での改造の機構を可能にする。線維を含む構築体の性質は線維の長さと直径との変化、用いる線維の割合の変化、並びに線維の完全若しくは部分的架橋によって改変されることができる。線維の長さは0.1〜5.0cmの範囲であることができる。
【0039】
本発明の他の実施態様では、例えば米国特許第5,378,469号に述べられ、本明細書に援用されるような、コラーゲン糸を補強のため又は改造の種々な機能的速度のために多層状組織修復布帛に含めることができる。例えば、20〜200デニールのコラーゲン糸のブレード(braid)のヘリックス又は“ツイスト”を組織修復布帛の表面に貼付することができる。コラーゲン糸のヘリックス又はブレードの直径サイズは50〜500μ、好ましくは100〜200μの範囲であることができる。したがって、組織修復布帛層の特性は補強のために用いられる糸の形状によって変化する可能性がある。設計(design)の機能性はブレード又はツイストの形状(geometry)に依存する。さらに、例えばフェルト、フラットな編んだ布帛若しくは織布、又は三次元の編んだ、織った若しくはブレード状布帛のようなコラーゲン糸構築体を層の間又は構築体の表面に含めることができる。幾つかの実施態様はコラーゲンゲルを層の間に単独で又は、投与系として機能するために薬物、成長因子若しくは抗生物質と共に包含することもできる。さらに、コラーゲンゲルを糸又は糸構築体と共に層の間に含めることができる。
【0040】
当業者によって理解されるように、コラーゲンゲル、糸又は糸構築体を含む実施態様の多くは、例えばコンプライアンス(compliance)、半径方向強度、耐キンク性、縫合保持、及び柔軟性のような物理的性質にも影響を与える。糸又は糸構築体の物理的性質を糸の架橋によって変えることもできる。
【0041】
幾つかの実施態様では、結合したコラーゲン層の外面又は内面に付加的なコラーゲン層を加えて、PCT国際公開第WO95/22301号(この内容は本明細書に援用される)に述べられているように、その最終的用途のための平滑な流動面を形成することができる。この平滑なコラーゲン層は、内部増殖と生物学的改造とを容易にする細胞付着をも促進する。PCT国際公開第WO95/22301号に述べられているように、この平滑コラーゲン層は、主としてI型コラーゲンであるが、他の型のコラーゲンも包含することができる酸抽出フィブリル又は非フィブリルコラーゲンから製造することができる。用いるコラーゲンは数種類の哺乳動物ソース、典型的にはウシ、ブタ、又はヒツジの皮膚若しくは腱に由来することができる。コラーゲンは好ましくは、高純度のフィブリル分散液又はゲルを生じる酸抽出によって加工されている。コラーゲンは例えば酢酸、クエン酸又はギ酸のような弱酸を用いて、コラーゲンソースから酸抽出することができる。コラーゲンは、ひと度溶液中に抽出されたならば、NaClを用いて塩沈殿させ、例えば遠心分離又は濾過のような標準方法を用いて回収することができる。ウシの腱からの酸抽出コラーゲンの詳細は例えば米国特許第5,106,949号(本明細書に援用される)に述べられている。
【0042】
本明細書に用いるためのコラーゲン分散液又はゲルは一般に約1〜10mg/ml、好ましくは約2〜6mg/ml、最も好ましくは約3〜5mg/mlの濃度及び約2〜4のpHである。コラーゲンのために好ましい溶媒は例えば約0.05〜0.1%の希酢酸である。コラーゲンのための他の慣用的溶媒は、このような溶媒が相容性であるかぎり、用いることができる。
【0043】
プロテーゼデバイスが製造されたならば、プロテーゼデバイスを風乾させ、包装し、γ線照射(典型的には2.5Mrad)によって滅菌し、貯蔵する。米国特許第5,460,962号(本明細書に援用される)に述べられているような、例えば過酢酸のような化学的溶液を用いた最終的な滅菌も用いることができる。 以下の実施例では、ICLを縦に切断して、ガラスプレート上で平らにするが、不活性な非絶縁性(non-insulated)フィルム型を用いることができる。さらに、型は任意の形状:フラット、丸い又は複雑な形状であることができる。丸い又は複雑な型では、完成プロテーゼを所望の形状に形成するために、型下部と型上部とを適当に構成する。このように構成したならば、プロテーゼはその形状を維持する。したがって、例えば、プロテーゼを丸い形状に形成する場合には、プロテーゼを心臓弁リーフレット代用品(leaflet replacement)として用いることができる。
【0044】
多層状組織修復布帛は種々な他の手段又はそれらの組合せによって管形にすることができる。多層状組織修復布帛は正常な状態で又は裏返しの状態で管に形成することができる。管を適当な縫合糸による断続的な縫合を用いて縫合することによって機械的に製造することもでき、これは移植時に外科医が管をほぐすことなくトリム及び成形することを可能にするので、有利である。粘膜下組織を縫合するための他の方法は、例えばフィブリンに基づく接着剤又は例えばポリウレタン、酢酸ビニル若しくはポリエポキシのような工業用(industrial type)接着剤の使用のような、接着剤結合を包含することができる。好ましくは、シームのレーザー溶着又は加熱溶着と、その後の急冷とを包含する加熱結合方法を用いて、このように形成された管のサイス(sices)をシールすることができる。例えば爆発鋲(pop rivet)又はステープルのような、他の機械的手段も可能である。これらの管形成方法によって、両側の端部を突き合わせるか、又は重ね合わせることができる。両側を重ね合わせる場合には、管が形成されたならば、シームをトリムすることができる。さらに、これらの管形成方法は所望の直径を決定するために典型的にマンドレル上でおこなわれる。
【0045】
このように形成された構造管をさらに加工するためにマンドレル又は他の適当なスピンドル上に維持することができる。生分解の機能的速度と、それによる生物学的改造中のプロテーゼ強度低下速度とを制御するために、プロテーゼを例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)のような適当な架橋剤を用いて架橋させることが好ましい。プロテーゼの架橋は内腔クリープの防止、管直径の均一保持、及び破裂強さの増強に役立つ。シーム又は多層状プロテーゼの結合強度は、加熱又は脱水結合方法を用いる場合には、上昇する。腸コラーゲン層を架橋することは耐亀裂伝播性を改良することによって、縫合保持強さを改良すると考えられる。
【0046】
本明細書に援用される米国特許第5,256,418号の実施例5に述べられているように、コラーゲンはICL層の内面又は外面に付着することができる。簡単には、組織修復布帛を管形にする場合には、多層状布帛をルーエル(luer)(原文のまま)取付け具によってコラーゲン分散液を管に満たす。この工程は上記特許出願に述べられているように静水圧頭を用いて達成することもできる。管の両端部に同時にコラーゲンを流入することによって、コラーゲンの内側層を付着させることもできる。次に、管を等張性リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)(中性pH)中20%ポリエチレングリコール(PEG)の浴に入れる。組み合わせた、内部コラーゲン溶液と外部PEG溶液との浸透圧勾配が内部構造層壁の内腔に沿ってコラーゲンの同時濃縮と付着とを生じる。次に、管をPEG浴から取り出し、プロテーゼ内腔の所望の直径と同じ直径を有するガラスロッドをコラーゲン溶液中に挿入する、或いは、プロテーゼの1端部を閉じて、内部に空気圧を与えて、管内腔を開放状態に維持する。次に、プロテーゼを乾燥させ、その後に、PBS中で再水和する。濃厚なフィブリルコラーゲンとして、このように形成されたコラーゲン被膜は腸構造層の軽度の凹凸を満たして、平滑な流動面と均一な厚さの両方を有するプロテーゼを生成する。この方法も腸コラーゲン層へのコラーゲンゲルの結合を促進する。ルーチンのパラメータ変化によって決定することができる付着条件を変化させて、種々な厚さと密度のコラーゲン層を形成することができる。同じ方法を用いて、ICLの外面にコラーゲンを塗布して、三層プロテーゼを形成することができる。
【0047】
プロテーゼ構築体は小直径血管置換の場合には血栓形成性である。これは高流量(大直径)血管においてのみ使用可能である。それ故、プロテーゼを小直径血管の修復又は置換に用いる予定である場合には、プロテーゼを非血栓形成性にしなければならない。
【0048】
ヘパリンをプロテーゼに種々な周知の方法によって塗布することができる。例えば、ヘパリンを下記3方法でプロテーゼに塗布することができる。第一に、ベンズアルコニウムヘパリン(BA−Hep)溶液中にプロテーゼを浸漬して、次に風乾することによって、プロテーゼにこの溶液を塗布することができる。この方法はコラーゲンをイオン結合BA−Hep錯体によって処理する。第二に、EDCを用いて、ヘパリンを活性化してから、ヘパリンをコラーゲン線維に共有結合させる。第三に、EDCを用いて、コラーゲンを活性化し、次にプロタミンをコラーゲンに共有結合させ、ヘパリンをこのプロタミンにイオン結合させることができる。他の多くの被覆、結合及び付着方法が技術上周知であり、これらの方法も使用可能である。
【0049】
ヘパリンに加えて又はヘパリンの代わりに薬物による組織修復布帛の処理もおこなうことができる。これらの薬物は例えば血管形成及び上皮形成を促進するための成長因子、例えばマクロファージ由来成長因子(MDGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、内皮細胞由来成長因子(ECDGF);外科移植片からの可能な感染症を抑制するための抗生物質;又はプロテーゼを神経再生のための導管(conduit)として用いる場合に内側コラーゲン層に組み込まれる神経成長因子を包含することができる。薬物に加えて又は薬物の代わりに、例えばプロテオグリカン又は糖タンパク質又はグリコサミノグリカンのようなマトリックス成分を構築体内に含めることができる。
【0050】
例えばエキシマーレーザー(例えば、KrF又はArF波長において)を用いて、細胞の内部増殖を助けるために、組織修復布帛にレーザー穿孔して、ミクロンサイズの孔を完成プロテーゼに形成することができる。孔度は10μから500μまで変化することができるが、約15〜50μが好ましい、間隔は変化することができるが、約500μの中心間隔が好ましい。組織修復布帛はプロテーゼ製造プロセス中の任意の時点でレーザー穿孔することができるが、汚染除去又は滅菌の前にレーザー穿孔することが好ましい。
【0051】
空隙又はスペースも転相方法によって形成することができる。ICLを積層する時点において、結合のための液体熱源中には不溶性であるが、急冷浴又は架橋溶液中には可溶性であるべきである結晶質粒子が層の間に分布される。レーザー又は乾燥熱を層の結合に用いる場合には、任意の可溶性結晶質固体を急冷浴又は架橋溶液中には可溶性であるかぎり用いることができる。結晶質固体が可溶化されて、拡散している場合には、固体が占有しているスペースが依然として存在する。粒度は10〜100μの範囲でありうるが、好ましくは約15〜50μの範囲であり、間隔は層間に分布した場合に粒子の間で変化することができる。形成される空隙の数とサイズも物理的性質(即ち、コンプライアンス、耐キンク性、縫合保持、柔軟性)に影響を与える。
【0052】
下記実施例は本発明の実施をより良く説明するために提供するものであり、如何なる意味でも本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。当業者は本明細書に述べた方法に、本発明の要旨及び範囲から逸脱せずに、改変を加えることができることを理解するであろう。
【実施例】
【0053】
実施例1.ブタ腸からの腸コラーゲン層の回収と加工
ブタの小腸を回収し、機械的作用と熱水を用いた洗浄との組合せを用いて粘膜下組織から脂肪、筋肉及び粘膜層を強制的に除くBitterling腸洗浄装置(Nottingham,UK)によって、機械的にストリップした。機械的作用は、ローラーの間を完全な腸が通されるときに粘膜下組織から連続層を圧縮し、ストリップする、一連のローラーとして説明されることができる。小腸の粘膜下組織は周囲組織よりも硬く、剛性であるので、ローラーは粘膜下組織から軟組織を圧搾する。装置洗浄の結果、腸の粘膜下組織層のみが残存した。最終的に、粘膜下組織を4℃において18時間0.3%過酢酸で汚染除去し、次にリン酸緩衝化生理的食塩水において洗浄した。残存した生成物は腸コラーゲン層(ICL)であった。
【0054】
実施例2.ICLの種々な溶着温度及びEDC濃度
溶着強度に対する、溶着温度(その後急冷)、溶着時間、溶着後の、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド(EDC)濃度、アセトン濃度及び架橋時間の効果を、ICL二層状管適用に関して調べた。ICLは、実施例1に述べたようにブタから得た。強度特性は、縫合保持試験及び極限引張り強さ(UTS)試験を用いて測定した。
【0055】
ICLは、ICL取り付けフレームに挿入された一対のマンドレル上で逆にし、伸ばした。マンドレルは、4.75mmの外径を有するステレンス鋼管であった。次に、ICL及びマンドレルを、4℃、20%相対湿度に設定した脱水室に約60分間置いた。脱水後、ICLを、室及びマンドレルから除去した。リンパ管のタグ領域(tag area)を除去し、ICLをマンドレルに手動で2回巻き付けて、非溶着二層構築体を形成した。巻き付けたICLは、脱水室に戻し、約50%湿度±10%になるまでなお20%相対湿度においてさらに90分間乾燥させた。サンプル構築体中に存在する水分の量を測定するために、CEMTMオーブンを用いた。
【0056】
THERMOCENTERTMオーブンを溶着すべき構築体のための指定温度範囲に設定した。溶着のために試験した温度は55℃〜70℃であった。構築体をひと度オーブンに入れたならば、オーブンを平衡させてから、計時を開始した。構築体をその条件のために必要な時間室に留めさせた。溶着時間は7〜30分間の範囲であった。この時間が完了するや否や、構築体を室から取り出し、4℃の水浴に約2〜5分間入れた。溶着した構築体を次に脱水室に約30分間、約20%±10%に脱水されるまで戻した。
【0057】
脱水後に、構築体を脱イオン水中又は脱イオン水とアセトン中に試験した条件に適当な濃度でEDCを含有する容器に挿入した。試験したEDC濃度は50、100及び200mMであった。試験したアセトン濃度は水中0%、50%及び90%であった。架橋のための持続時間は試験した条件によって決定された。架橋時間は6、12及び24時間であった。架橋後に、構築体を溶液から取り出し、生理的pHのリン酸塩緩衝化食塩水(PBS)によって室温において3回すすぎ洗いした。溶着し、架橋した構築体を次にマンドレルから取り外し、試験まで、PBS中に貯蔵した。製造した30個の構築体の他に、他の2個の二層構築体を62℃における15分間の溶着と、100%H2O中の100mMEDC中での18時間の架橋とによって製造した。
【0058】
縫合保持試験を用いて、構築体が縫合を維持する能力を測定した。1個の構築体をCHATTILIONTM力測定デバイスに固定し、1〜2mmの喰込みをSURGILENETM6−0縫合によって要し、構築体の1つの壁から引張って、固定した。次に、デバイスが縫合を引張り、構築体材料を引き裂くために要する力を測定する。平均的な縫合は400〜500gの力で破壊し;外科医の引張りは150gの力である傾向がある。
【0059】
構築体のUTSを測定するために、溶着/材料強度試験をおこなった。各管から5mm長さのサンプル環を切り取り、各々を機械的試験系MTSTMを用いてそれらの極限引張り強さ(UTS)に関して試験した。各管に対しておこなった3回の試験引張り(全体で90回の引張り)のために各管から3個のサンプル環を切り取った。環をMTSTMのグリップ(grip)に入れ、0.02kg力/秒の速度で、溶着部がスリップ若しくは破壊するまで、又は材料(溶着部ではなく)が破壊するまで引っ張る。
【0060】
実施例3:ICLの種々な溶着温度
溶着強度に対する溶着温度と溶着後急冷との影響をICL二層状管適用に関して試験した。
【0061】
10フィートノ長さのICLサンプルをその長さに沿って切断し、実施例2に略述した方法と同様に準備した。6個の6mm直径管(15〜20cm範囲の長さ)を各温度条件に対して用意した。
【0062】
管を湿った状態で温度条件に3.5時間さらした。温度条件は室温(20℃)、55℃、62℃、及び62℃この後直ちに4℃浴中で1分間急冷であった。全ての管を次にEDC中で架橋させた。6個の管を一緒に300mlの100mM EDC中で室温において一晩入れた。次に、管を架橋後に生理的濃度のリン酸塩緩衝化食塩水によってすすぎ洗いした。
【0063】
5mm長さのサンプル環を各管から切り取り、各々をMTSTMを用いて極限引張り強さ(UTS)に関して試験した。条件毎に6管の各管に対する5回の試験引張り(全体で30回の引張り)のために各管から5個のサンプル環を切り取った。
【0064】
室温における脱水によって結合した管の溶着強度は、他の温度処理に比べて、UTS試験を用いて試験した場合に、あまり一貫していなかった。室温において溶着した6管の中の1管は他の処理の管に匹敵するUTS測定値を有した。他の温度において溶着した管に関しては、急冷の有無に拘わらず、溶着強度の差異が存在しなかった。UTSの試験後に、材料の破壊が溶着部の分離ではなく、全ての場合に材料の破損であることが判明した。
【0065】
実施例4:架橋した腸コラーゲン層の抗原性
ブタ粘膜下組織腸層の新鮮なサンプルを、実施例1に述べたような浄化工程後に、得た。次に、サンプルを未処理のままで水中に保存し、生理的濃度のリン酸塩緩衝化食塩水中に浸漬し、0.1%過酢酸で処理し、又は0.1%過酢酸で処理してから、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)によって架橋させた。次に、サンプルを0.5M NaCl/0.1M 酒石酸の溶液によって約18時間抽出した。
【0066】
2つの12%Tris−グリシン ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル(Novex Precast Gels cat#EC6009)をランし、次に、約18時間後に、0.45μニトロセルロースペーパーに移した。未処理ICL又は処理ICLの酒石酸抽出物を下記標準を含有する対照標準レーンに対してランした:10μlのKaleidoscope Prestained標準(Bio−Rad cat#161−0324);2μlのビオチニル化SDS−PAGE低範囲分子量標準(Bio−Rad cat#161−0306);6μlの装填緩衝液(loading buffer);10μlの対照標準を各レーンに装填した。ゲルを約2時間、リン酸塩緩衝化生理的食塩水中の1%脱脂ミルク(Carnation)によってブロットした。次に、ゲルをホウ酸塩緩衝化生理的食塩水/Tweenによって(レーンにつき200μlの洗浄液)3回洗浄した。200μlのRb血清とホウ酸塩緩衝化生理的食塩水(100mMホウ酸;25mMホウ酸ナトリウム;150mM NaCl)/Tween中の一次抗体を種々な力価範囲(1:40、1:160、1:640及び1:2560)で各レーンに加えた。次に、このゲルを室温において、10に設定した速度のロッカープラットフォーム(rocker platform)(Bellco Biotechnology)上で1時間インキュベートした。次に、このゲルを再びホウ酸塩緩衝化生理的食塩水/Tweenによって3回洗浄した。二次抗体、1:1000希釈度のヤギ抗ウサギIg−AP(Southern Biotechnology Associates社、cat#4010−04)を200μl/レーンでレーンに加え、ゲルを室温においてロッカープラットフォーム上で1時間インキュベートした。次に、ニトロセルロース膜をAP発色溶液中に浸漬し、発色が完成するまで、室温においてロッカープラットフォーム上でインキュベートした。膜を脱イオン水中で10分間洗浄することによって、発色を停止させ、10分間に1回水を交換した。次に、膜を風乾した。
【0067】
ゲル分析から得られた結果は、過酢酸とEDCとによって処理したブタ由来ICLの抗原性が他の処理に比べて大きく低下した抗原性であること示唆した。
【0068】
実施例5:腹壁パッチとしての六層状組織修復布帛
ブタ腸コラーゲンの6層をガラスプレート上で相互にスーパーインポーズさせた。第2ガラスプレートを腸コラーゲン層の頂部に載せ、第1プレートにきつくクランプした。この装置を慣用型のオーブンに62℃において1時間入れた。加熱の直後に、装置を4℃の水浴に10分間入れた。装置を分解し、腸コラーゲン層を取り出し、50%アセトン中の100mM 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)によって25℃において4時間処理した。この材料を袋に入れ、γ線照射(2.5Mrad)によって滅菌した。
【0069】
組織修復布帛をニュージーランド白ウサギ(4kg)の正中線における3cmx5cm欠損部に、連続2−0プロレン(prolene)縫合糸によって縫合した。4週間目、10週間目及び16週間目に動物を殺して、肉眼的に、機械的に及び組織学的に検査した。肉眼的検査は最小の炎症と膨潤とを示した。移植片は光沢ある組織層で被覆され、この層は壁側腹膜と接続するように見えた。小血管がパッチの周囲から円周的に中心まで続行するのを見ることができた。移植片は機械的に安定であり、再度の異常脱出(reherniation)は見られなかった。組織学的検査は、炎症細胞が比較的少ないことを示し、観察された炎症細胞は主として移植片の縁近くであった(プロレン縫合糸の存在による)。腹膜表面は平滑であり、中皮によって全体的に覆われていた。
【0070】
実施例6:心膜修復パッチとしての二層状組織修復布帛
ブタ腸コラーゲンの2層をガラスプレート上で相互にスーパーインポーズさせた。第2ガラスプレートを腸コラーゲン層の頂部に載せ、第1プレートにきつくクランプした。この装置を慣用型のオーブンに62℃において1時間入れた。加熱の直後に、装置を4℃の水浴に10分間入れた。装置を分解し、腸コラーゲン層を取り出し、50%アセトン中の10mM 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)によって25℃において4時間処理した。この材料を袋に入れ、γ線照射(2.5Mrad)によって滅菌した。
【0071】
ニュージーランド白ウサギの心膜の3cmx3cm部分を切り取り、同じ大きさの組織修復布帛片によって置換した(2−0プロレンの断続的縫合によって吻合した)。動物を4週間目と180日目に殺し、肉眼的に、機械的に及び組織学的に検査した。肉眼的検査は最小の炎症と膨潤とを示した。小血管が移植編の周囲から円周的に中心まで続行するのを見ることができた。移植片は機械的に安定であり、胸骨又は心臓周囲組織への癒着はなかった。組織学的検査は、炎症細胞が比較的少ないことを示し、観察された炎症細胞は主として移植片の縁近くであった(プロレン縫合糸の存在による)。
【0072】
実施例7:ヘルニア修復デバイス
ヘルニア修復の基本型デバイスを中空内部領域を有するようにICLを用いて開発した。このデバイスは、完成したときに、周囲に結合した丸い形態と、生理的濃度のリン酸塩緩衝化食塩水の封入(inclusion)によって膨潤した膨潤内部領域とを有した。内部領域は任意に、剛性を加えるためにワイヤメッシュを、又は構造的サポート若しくは物質の投与のための他の物質を収容することができる。
【0073】
ICL多層状シートを組み合わせるために、15cm長さのICLからリンパ管タグをトリムし、タグの付いた側を切断して、シートを形成した。シートをTexwipeによって乾燥状態まで軽く叩いた。清潔なガラスプレート(6”x8”)上に、シートを粘膜側を下にして、積層した。この場合に、2つの二層パッチと2つの四層パッチをガラスプレート上にICLの2層又は4層を積層することによって構築した。第2ガラスプレート(6”x8”)を最後のICL層の頂部上に載せ、これらのプレートを一緒にクランプしてから、62℃の水和オーブン(hydrated oven)に1時間入れた。構築体を次に4℃の脱イオン水中で約10分間急冷した。次にガラスプレートを浴から取り出し、プレートを各パッチから取り外した。今や結合したICL層を次に平らにして、しわ又は気泡を除去した。ガラスプレートをICL層上に再び載せ、水和オーブンに乾燥するまで30〜60分間戻した。パッチをイオーブンから取り出し、生理的濃度のリン酸塩緩衝化食塩水を散布することによって部分的に水和させた。
【0074】
二層構築体を構築するために、1つの二層パッチをガラスプレートから取り出し、他方のガラスプレート上にまだ存在する他方の二層パッチの上に載せた。環状プレート(dout=8.75cm;din=6cm)を第2パッチ上に載せた。約10ccの生理的濃度のリン酸塩緩衝化生理的食塩水を25ゲージ針から2つの二層パッチの間に注入した。次に、第2ガラスプレートを環状プレートの頂部上に載せ、一緒にクランプした。四層構築体を構築するためには、同じ工程に従ったが、この場合には、2つの二層パッチではなく、2つの四層パッチを用いた。構築体を62℃の水和オーブンに1時間入れた。構築体を次に4℃の脱イオン水中で約15分間急冷した。次に、構築体を50%アセトン中の100mM EDC(200ml)によって約18時間架橋させてから、脱イオン水によってすすぎ洗いした。構築体を次にトリムして、環状プレートの外縁のサイズに合わせて、安全カミソリの刃で成形した。
【0075】
実施例8:椎間円板の置換
ICL、濃厚なフィブリルコラーゲン及びヒアルロン酸を椎間円板の解剖学的構造と組成とに密接に近似するように設計した。
【0076】
ヒアルロン酸を含有する濃厚なフィブリルコラーゲンディスケットを用意した。ウシ気管に由来するヒアルロン酸ナトリウム塩(Sigma)(9mg)を3mlの0.5N酢酸中に溶解した。15mlの5mg/mlコラーゲン(Antek)を加えて、混合した。混合物を遠心分離して、気泡を除去した。6孔プレート(Costar)中の3トランスウェル(transwell)(Costar)に5mlのこの溶液を加えた。トランスウェル外の領域には、N600PEGを加えて、膜の底部を被覆した。プレートを低速度のオービタルシェーカー台(orbital shaker table)上で4℃に約22時間維持し、5.5時間後にPEG溶液を1回交換した。PEG溶液を除去し、トランスウェルを4℃/20%Rhにおいて一晩脱水した。
【0077】
ICL多層状シートを組み合わせるために、15cm長さのICLからリンパ管タグをトリムし、タグの付いた側を切断して、シートを形成した。シートをTexwipeによって乾燥状態まで軽く叩いた。清潔なガラスプレート上に、シートを粘膜側を下にして、5層厚さに積層し、第5層の頂部に第2ガラスプレートを載せた。5個の五層パッチを構築した。ICLを間に挟んだプレートを一緒にクランプして、62℃の水和オーブンに1時間入れた。構築体を次に4℃のRODI水中で約10分間急冷してから、急冷浴から取り出し、ディスクを組み立てるまで、4℃に貯蔵した。
【0078】
別のガラスプレートに、1つの大きいパッチを載せた。最初のパッチの上に大きいパッチの1つの縁に合わせて、やや小さいパッチを載せた。1つのパッチを半分に切断し、各々の中心に、DFCディスケットのサイズに近似する孔を切り抜いた。中心孔を合わせて、2つの半体を同じ縁に合わせた第2パッチ上に載せた。3個の再水和DFC/HAディスケットを中心孔中に入れた。別のやや小さいパッチをDFCディスケットを含有する2個の半体上に載せ、大きいパッチを小さいパッチ上に載せて、両方を同じ縁に合わせた。第2ガラスプレートを構築体の頂部に載せた。得られた形状は楔の形状であり、厚い側は合わせられた縁を有する側であり、反対側に対してテーパ状である。このように形成されたデバイスを62℃の水和オーブンに1時間入れ、次に4℃のRODI水中で約10分間急冷した。デバイスを次に90%アセトン(Baxter)中の100mM EDC(Sigma)中で約5時間架橋させてから、リン酸塩緩衝化生理的食塩水を3回取り替えてすすぎ洗いした。デバイスの縁を安全カミソリの刃でトリムした。
【0079】
実施例9:血管移植片構築体の形成
ブタの近位空腸を回収し、腸浄化装置(Bitterling,Nottingham,英国)によって処理し、実施例1に述べたように、過酢酸溶液によって汚染除去した。過酢酸処理したICL(PA−ICL)を縦に切断して開いて、リンパ管タグ部分を除去して、ICLシートを形成した。このICLシートを6.0mm直径ステンレス鋼マンドレルに巻き付けて、二層構築体を形成した。これらの構築体(マンドレル上)を62℃に設定された平衡化THERMOCENTERTMオーブン室に約1時間入れた。構築体を室から取り出し、4℃の水浴に約2〜5分間入れた。構築体を50/50水/アセトン溶液中の100mM 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)(50ml)中で18時間架橋させて、過酢酸処理済みEDC架橋(PA/EDC−ICL)血管移植片構築体を形成した。構築体をマンドレルから取り外し、残留EDC溶液を除去するために水ですすぎ洗いした。
【0080】
マンドレルから取り外した後に、ウシ腱から抽出したI型コラーゲンの層(約200μm厚さ)を米国特許第5,256,418号(本明細書に援用される)に述べられた方法によって構築体の内腔面に付着させた。ポリカーボネートバーブ(一端部が円錐状の形状であるルーエルロック(luer lock)取付け具)を構築体のいずれかの端部にシール可能に取り付け、構築体を付着取付け具(deposition fixture)内に水平に入れた。米国特許第5,106,949号(本明細書に援用される)に述べられている方法によって調製された2.5mg/ml酸抽出コラーゲンの50ml貯槽をバーブ(barb)によって取り付けた。ICL管の内腔にコラーゲンを充填させ、次に、20%MW8000ポリエチレングリコールの撹拌浴(Sigma Chemicals Co.)に4℃において16時間入れた。次に、装置を取り外し、4mm直径ガラスロッドをコラーゲン充填ICL管に挿入して、内腔直径を固定した。プロテーゼを次に乾燥させた。
【0081】
ベンズアルコニウムクロリドヘパリン(HBAC)の800U/ml溶液中に移植片を3回浸漬させ、乾燥させることによって、内腔DFC層をHBACによって被覆した。最後に、移植片は0.1%v/v過酢酸中での最終的滅菌処理を受けた。移植処置まで移植片を乾燥状態で貯蔵した。
【0082】
実施例10:動物モデルでの移植片試験
25匹の雑種イヌ(体重15〜25kg)を一晩絶食させ、静脈内チオペンタル(30mg/kg)によって麻酔し、エンツベートし(entubated)、ハロタンと亜酸化窒素とによって維持した。Cefazolin(1000mg)を手術前と手術後に静脈内投与した。各イヌは大動脈バイパス移植片か又は大腿挿入移植片(femoral interposition graft)を受容した。大動脈バイパス移植片のためには、正中線腹部切開をおこない、大動脈を腎動脈から大動脈分岐まで露出した後に、静脈内ヘパリン(100U/kg)を投与した。遠位腎臓下大動脈(末端−側部吻合)と分岐近接大動脈(末端−側部吻合)との間に移植片(6mmx8cm)を挿入した。大動脈を近位吻合の遠位に結紮した。切開部を閉じて、イヌを手術後30日間アスピリンで維持した。大腿挿入移植片では、動物を両側から開いて、大腿動脈を露出させ、5cm長さを切除した。移植片(4mmx5cm)を末端−末端式に大腿動脈に吻合した。反対側では、対照移植片を挿入した。切開部を閉じ、動物を手術後30日間アスピリンで維持した。手術後フォローアップは30日間〜360日間の範囲であった。移植前、移植後4週間及び8週間の血液を採取した。動物を種々な時点(30日間、60日間、90日間、180日間及び360日間)で殺した。
【0083】
ニュージーランド白ウサギ(体重3.5〜4.5kg)を一晩絶食させ、アセプロマジン(20mg)とケタミン(40mg)とによって麻酔し、エンツベートし、必要に応じてケタミン(50mg/ml)を静脈内注射して、維持した。ペニシリン(60,000U)を手術前に筋肉内投与した。正中線腹部切開をおこない、大動脈を腎動脈から大動脈分岐まで露出した後に、静脈内ヘパリン(100U/kg)を投与した。3cm長さの大動脈を切除し、移植片(2.5mmx3cm)を末端−末端式に大動脈に吻合した。切開部を閉じて、動物を手術後の抗凝血治療せずに維持した。手術後フォローアップは30日間〜360日間の範囲であった。動物を種々な時点(30日間、60日間、90日間、180日間及び360日間)で殺した。
【0084】
殺した動物から摘出した隣接血管組織付きの移植片を透過電子顕微鏡検査(TEM)分析のために0.1Mカコジル酸ナトリウム(pH7.4)中の2.0%パラホルムルデヒド、2.5%グルタルアルデヒドの溶液中で4時間固定させた。次に、サンプルを1.0%OsO4(0.1Mカコジル酸ナトリウム中)中に再固定して、2.0%酢酸ウラニル(水性)によって一括して(en bloc)染色した。二次固定後に、全ての試験片を等級化エタノール系列とプロピレンオキシド中で脱水して、Epox812(Ernest,F.Fullam,Rochester,NY.USA)中に包埋した。Ultrathin(約700nm)切片を酢酸ウラニルとクエン酸鉛とによって染色した。切片をJEOL Instruments JEM100S上で80kVにおいて検査した。走査電子顕微鏡検査(SEM)では、サンプルを半分の濃度のKarnovsky溶液中に18時間固定し、Sorensenリン酸塩緩衝液中で5回すすぎ洗いしてから、1.0%OsO4中で1時間再固定した。次に、サンプルをSorensenリン酸塩緩衝液中で2回すすぎ洗いし、二重蒸留水中で3回すすぎ洗いした。エタノール系列(50%、70%、90%、及び100%)に通した後に、臨界点乾燥によって脱水をおこなった。サンプルを固定し、60/40金/パラジウムで被覆した。
【0085】
ICL移植片をイヌから外植し、ウサギを組織学的に検査して、宿主細胞の内部増殖を評価した。60日間外植片のMassonトリクロム染色は顕著な宿主浸潤を示した。暗青色の染色はICLコラーゲンを示し、明青色に染色された筋線維芽細胞を囲むマトリックスは豊富な宿主コラーゲンを示した。切片の高倍率の拡大はICL内に相互に混入した無数の細胞を示した。30日目に見られた炎症反応が解像されており、細胞反応は主として筋線維芽細胞であった。再構築(改造)された移植片の表面はSEMと第VIII因子染色とによって実証されるように、内皮細胞によって内張りされている。360日までに、完全に成熟した“新動脈”が形成されていた。新−血管外膜は線維芽細胞状細胞が存在する宿主コラーゲン束から構成された。細胞と再構築(改造)された構築体のマトリックスとは完全に成熟した、組織状であるように見えた。
【0086】
実施例11:抗ICL抗体の発生
ブタ粘膜下組織腸層の新鮮なサンプルを実施例1に述べた浄化工程後に得たが、これらは過酢酸処理しなかった。次に、サンプルを未処理のまま残し(NC−ICL)、0.1%過酢酸で処理し(PA−ICL)、又は0.1%過酢酸で処理してから、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)によって架橋させた(PA/EDC−ICL)。
【0087】
ニュージーランド白ウサギを3種類のICLサンプル(NC−ICL、PA−ICL、又はPA/EDC−ICL)のいずれかの0.5mgによって免疫化して、抗血清を生成させた。最初に、ウサギにFreund完全アジュバント(1:1.1mg/ml)中均質化未処理ICL(0.5ml)を皮下注射した。模擬(sham)ウサギはFreund完全アジュバント中のリン酸塩緩衝化生理的食塩水(0.5ml)を受容した。ウサギを3〜4か月毎にFreund不完全アジュバント(0.25mg/ml)中の適当な型のICL(0.5ml)によってブーストした(boosted)。各ブーストの10〜14日後に血清を回収した。
【0088】
実施例12:ICL抽出物の形成と、ネイティブコラーゲンに関連した可能な抗原性タンパク質の特徴付け
NC−ICL、PA−ICL、又はPA/EDC−ICLから酒石酸を用いて(Bellon,G.等(1988)Anal.Biochem.175:263〜273)又はTRITON X−100(Rohm and Haas)を用いて、タンパク質を抽出した。粉末化NC−ICL、PA−ICL、又はPA/EDC−ICL(10%w/v)を酒石酸(0.1M酒石酸、0.5M NaCl)又はTRITON X−100(Rohm and Haas)抽出用緩衝液(TEB:20mM Tris HCl(pH7.2)中の1%TRITON X−100、2mM EGTA、2mM EDTA、1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド、及びアプロチニン、ロイペプチン及びペプスタチン(Sigma,St.Louis,MO)の各25mg/ml)のいずれかと混合した。混合物を4℃において一晩インキュベートした。抽出物をガーゼで濾過して残屑を除去し、PBSに対して透析し、Centriprep−30(Amicon,Danvers,MA)を用いて濃縮した。抽出物は用いるまで−80℃において保存した。
【0089】
酒石酸とTEB抽出物とを、Laemmli(Laemmli,U.K.(1970)Nature,227:680〜685)に従って、10%ポリアクリルアミドゲル上でSDS−PAGEによって分離した。ゲルを銀染色したか(Bio−Rad,Hercules,CA)又はニトロセルロース膜(Amersham,Arlington Heights,IL)に移した。NC−ICL中では銀染色によって多重タンパク質帯が可視化された。これとは対照的に、PA−ICL抽出物中では2帯のみが見られ、PA/EDC−ICL含有レーンではタンパク質帯が全く見られなかった。これらの結果は、過酢酸とEDC処理とが組合せでICL中の抽出可能な非コラーゲンタンパク質を減少させることを示唆する。
【0090】
Tris−Glycine 20%メタノール転移緩衝液中でTrans−Blot−Cell(Bio−Rad)を用いて、イムノブロット転移(immunoblot transfer)をおこなった。ICL転移タンパク質含有ニトロセルロース膜をBlotto緩衝液(0.1%Tween−20を含むホウ酸塩緩衝化生理的食塩水(BBS/Tween)中の1%脱脂ミルク)によって室温において1時間ブロックした。このニトロセルロース膜を12個の個別レーンを含有するマルチスクリーン装置に移した。膜をBBS/Tweenで3回洗浄した。陽性対照又は試験血清(100μl/レーン)を膜に加えて、室温において1時間おだやかに振とうした。各レーンをBBS/Tweenで3回洗浄した。二次抗体:ALPH標識ヤギ抗ウサギIg又はALPH標識ヤギ抗イヌIg(Southern Biotechnology)を適当なレーンに加え(100μl/レーン)、ストレプトアヴィジン−AP(100μl)をKareidoscope分子量標準(Bio−Rad)を含むレーンの1つに加えた。アルカリホスファターゼコンジュゲート基質キット(Bio−Rad)を用いて、イムノブロットを可視化した。
【0091】
NC−ICLによる反復免疫化によって得られた、ウサギ抗NC−ICL血清を用いて、可能な免疫反応性タンパク質を検出した。免疫化ウサギからの血清は酒石酸抽出物中の<30、40〜70、及び100>kDaの範囲内の分子量を有する抗原を認識した。これらの同じ血清をNC−ICLからのTEB抽出物のイムノブロットに関して調べた。酒石酸抽出物中で検出された範囲と同じ範囲の分子量を有する免疫反応性タンパク質が検出されたが、70〜100kDa範囲内に追加の反応性が検出された。結果は、NC−ICLが免疫反応性である多重タンパク質を含有すること及びこれらのタンパク質が酒石酸又はTEBによって抽出されることができることを実証した。TEB抽出物中に多数の免疫反応性タンパク質が存在することは、酒石酸に比べてTEBによって抽出されるタンパク質の増加と相関した。
【0092】
実施例13:ICL中のI型コラーゲンの抗原性に対するICLのPA又はEDC処理の影響
NC−ICL、PA−ICL、又はPA/EDC−ICLによって免疫化されたウサギからの血清(実施例11に述べたように調製された血清)又は酸抽出されたI型コラーゲン(Organogenesis,Canton,MA)をELISAによってI型コラーゲン特異性抗原に関して試験した。ELISAプレート(Immulon II,NUNC,Bridgeport,NJ)を0.05M炭酸塩緩衝液(pH9.6)中の1mg/mlの酸抽出I型コラーゲン(200ml/孔)によって4℃において一晩被覆した。プレートをPBS/Tween20(0.1%)によって2回洗浄した。動物又はウサギ抗I型コラーゲン抗体(Southern Biotechnology,Birmingham,AL)からの血清サンプルを孔に加え(100ml/孔)、室温において1時間インキュベートした。プレートをPBS/Tweenによって3回洗浄した。二次抗体:ALPH標識ヤギ抗ウサギIg又はALPH標識ヤギ抗イヌIg(Southern Biotechnology)を適当な孔に加え、室温において1時間インキュベートした。プレートをPBS/Tweenによって3回洗浄した。p−ニトロフェニルホスフェート(PNPP)基質(1mg/ml)を各孔に加えた(100ml/孔)。SpectraMaxマイクロプレート読み取り機(Molecular Devices,Sunnydale,CA)上で吸光度を405nmにおいて読み取った。
【0093】
ICLの何らかの型によって免疫化したウサギからの血清中では、1:40の血清希釈度においても、抗I型コラーゲン抗体を検出することができなかった。これに反して、精製されたI型コラーゲンによって免疫化されたウサギは1:2560の抗体力価を有した。これらのデータは、NC−ICLによって免疫化されたウサギは抗コラーゲンI型抗体を生成しなかったので、コラーゲンI型の抗原性を減ずるために架橋が必ずしも必要でないことを示唆する。したがって、これらのデータは、NC−ICL中の免疫優性タンパク質が非コラーゲンタンパク質であることを示唆する。また、ICLの抗原性の軽減に対するPA及びEDCの効果は非コラーゲンタンパク質指向性でもある。
【0094】
実施例14:ICLの抗原性に対する消毒と架橋との効果
ICLの抗原性に対するPAとEDCとの効果を抗NC−ICL抗血清を用いて調べて、PA又はPA/EDC処理ICLの酒石酸又はTEB抽出物中に存在する免疫反応性タンパク質を検出した。
【0095】
PA−ICLの酒石酸抽出物と、PA/EDC−ICLのTEB抽出物とを10%SDS−PAGEゲル上で分離させて、実施例12に述べたようなイムノブロット分析のためにニトロセルロース膜に移した。NC−ICL特異性抗血清を用いて、各抽出物中の免疫反応性タンパク質を検出した。PA−ICL及びPA/EDC−ICLのイムノブロットをオーバーイクスポーズした(overexposed)場合にも、抗NC−ICL抗体を含むレーンに反応性は検出されることができず、このことはNC−ICL中に検出された免疫反応性タンパク質が欠失しているか又はそれらのエピトープが抗NC−ICL抗血清によってもはや認識されないように改変されているかのいずれかであることを示唆する。この後者の問題に対処するために、PA−ICL又はPA/EDC−ICLのいずれかによって免疫化されたウサギからの血清も試験した。上記バックグラウンドのいずれのレーンにも抗体結合は検出されなかった。これらのデータは、ウサギが修飾ICLによって免疫化された場合にも、ウサギが修飾ICL抽出タンパク質を認識することができる抗体を生成しなかったことを実証する。これらの結果は、消毒又は架橋のプロセス中に除去された又は改変されたタンパク質がNC−ICLの抗原性の原因となる同じタンパク質であることを示唆する。
【0096】
PA−ICL又はPA/EDC−ICLによって免疫化されたウサギの抗体反応を実施例12に述べたような免疫ブロッティングによって分析した。このアプローチを利用して、EDCによるコラーゲン材料の架橋がICLから抽出されるタンパク質の量及び質を減ずるので、PA/EDC−ICLに対する抗NC−ICL血清の反応性の欠如がICL中にタンパク質が存在しないことによるためであり、in vivo免疫系に接近可能であるタンパク質を抽出することができないからではないことを確認することができる。PA−ICL又はPA/EDC−ICLを用いて抗ICL抗血清を形成して、ウサギを免疫化する。これらのウサギからの血清を、NC−ICLの酒石酸タンパク質抽出物又はTEBタンパク質抽出物中のタンパク質特異性抗体に関して試験した。抗PA−ICLは抗NC−ICLによって認識された207、170、及び38〜24kDaタンパク質を認識したが、低分子量タンパク質に対する反応性を有さなかった。1匹のウサギからの抗PA/EDC−ICL血清によって帯(band)は検出されなかった。他の抗PA/EDC−ICLウサギからの血清は24〜38kDaタンパク質と反応した。これらのデータは、PA−ICL及びPA/EDC−ICLの両方がNC−ICLよりも抗原性が低いことを示唆した。ICLの抗原性エピトープは消毒又は架橋のプロセス中に除去されるか、又はそれらの抗原性を減ずるように改変されるかのいずれかである。いずれの場合にも、消毒又は架橋は抗原性が有意に低下した物質を生じた。
【0097】
実施例15:移植片レシピエントにおける体液性免疫応答の測定
イヌをICL移植片成分に対する体液性免疫応答に関して調べて、移植片中への細胞内部増殖を刺激するためにICLはその抗原性を有するべきであるかどうかを判定した。PA/EDC−ICL血管移植片を受容した15匹のイヌから、移植前、移植後4週間後及び8週間後に血液サンプルを採取した。各血液サンプルからの血清をNC−ICLの酒石酸抽出物及びTEB抽出物の両方中のタンパク質に対する抗体に関して検査した。血清の1:40の希釈度においても、検査したいずれのイヌもICLタンパク質と反応する抗体を有さなかった。これらの同じ血清サンプルを抗I型コラーゲン抗体の存在に関してELISAによって調べた。全ての血清サンプルは1:40の血清希釈度においてもI型コラーゲンに対する抗体に関して陰性であった。これらのイヌからの外植パラフィン切片のMassonトリクロム染色は宿主細胞の浸潤を示した。これらの結果は、宿主が活性に材料を再構築(改造)するときにPA/EDC−ICLが抗体反応を誘発しないことを実証する。
【0098】
本発明の解明と理解のために上記発明を例示と実施例とに基づいてある程度詳しく説明したが、添付請求の範囲内である一定の変化及び修正がなされうることは当業者に明らかであろう。
【0099】
本発明の態様
(1)2個以上の重ね合わせて結合したコラーゲン組織層を含むプロテーゼであって、哺乳動物患者に移植されたときに、本来の移植されたプロテーゼが患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生分解を受けるプロテーゼ。
【0100】
(2)その形状がフラット、管状、又は複雑な形状である、(1)記載のプロテーゼ。
【0101】
(3)前記コラーゲン組織が哺乳動物ソースから得られ、腸材料、大腿筋膜、硬膜及び心膜である、(1)記載のプロテーゼ。
【0102】
(4)前記コラーゲン組織が小腸の粘膜下組織である、(3)記載のプロテーゼ。
【0103】
(5)コラーゲン組織層を結合させるために充分な時間及び条件での加熱溶着によって、前記コラーゲン層が一緒に結合される、(1)記載のプロテーゼ。
【0104】
(6)架橋剤によって架橋される、(1)記載のプロテーゼ。
【0105】
(7)架橋剤の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩によって、架橋される、(6)記載のプロテーゼ。
【0106】
(8)架橋剤にスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドが加えられる、(6)記載のプロテーゼ。
【0107】
(9)架橋剤にアセトンが加えられる、(6)記載のプロテーゼ。
【0108】
(10)過酢酸によって滅菌される、(1)記載のプロテーゼ。
【0109】
(11)非抗原性である、(10)記載のプロテーゼ。
【0110】
(12)その1つ以上の表面が平滑な流動面として作用するコラーゲン分散系又はゲルによって被覆されている、(1)記載のプロテーゼ。
【0111】
(13)さらに孔を含有する、(1)記載のプロテーゼ。
【0112】
(14)細断されたコラーゲン繊維をさらに含む、(1)記載のプロテーゼ。
【0113】
(15)コラーゲン糸をさらに含む、(1)記載のプロテーゼ。
【0114】
(16)前記コラーゲン糸がフェルト、束、織物又はブレードを形成するように配置される、(15)記載のプロテーゼ。
【0115】
(17)前記コラーゲン繊維又は糸が部分的に又は完全に架橋される、(14)〜(16)のいずれかに記載のプロテーゼ。
【0116】
(18)さらに抗凝固剤、1種以上の抗生物質、又は1種以上の成長因子を含有する、(1)記載のプロテーゼ。
【0117】
(19)2個以上の重ね合わせて結合したコラーゲン組織層を有するプロテーゼの製造方法であって、(a)コラーゲン組織層を結合させて、プロテーゼを形成するために充分な時間及び条件でコラーゲン組織層を加熱することによる加熱溶着を用いて、2個以上のコラーゲン組織層を一緒に結合させる工程と;(b)前記加熱されたプロテーゼを冷却する工程と;(c)前記プロテーゼを架橋させる工程と;を含み、このように形成された前記プロテーゼが、哺乳動物患者に移植されたときに、本来の移植されたプロテーゼが患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生分解を受ける、上記方法。
【0118】
(20)前記コラーゲン組織層が、哺乳動物ソースから得られる、腸材料、大腿筋膜、硬膜及び心膜であるコラーゲン組織の2層以上から形成される、(19)記載の方法。
【0119】
(21)前記コラーゲン組織が小腸の粘膜下組織である、(20)記載の方法。
【0120】
(22)前記加熱溶着が約50℃〜約75℃、より好ましくは約60℃〜約65℃、最も好ましくは約62℃においておこなわれる、(19)記載の方法。
【0121】
(23)前記冷却が急冷によって達成される、(19)記載の方法。
【0122】
(24)前記加熱溶着が約7分間〜約24時間、好ましくは約1時間で達成される、(19)記載の方法。
【0123】
(25)前記プロテーゼを架橋剤の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩によって架橋する、(19)記載の方法。
【0124】
(26)前記プロテーゼを過酢酸によって滅菌する、(19)記載の方法。
【0125】
(27)前記プロテーゼが非抗原性である、(26)記載の方法。
【0126】
(28)損傷した組織の修復又は置換方法であって、2個以上の重ねられて結合したコラーゲン組織層を含み、哺乳動物患者に移植されたときに、本来の移植されたプロテーゼが患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生分解を受けるプロテーゼを患者に移植することを含む方法。
【0127】
(29)レシピエント患者に移植するための哺乳動物由来コラーゲン組織から形成される、無菌で、非発熱性かつ非抗原性プロテーゼであって、移植されたプロテーゼがコラーゲン組織中の成分に対して体液性免疫応答を誘発せず、かつ前記プロテーゼが付随的に、本来の移植されたプロテーゼが患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる生物学的再構築を受けるプロテーゼ。
【0128】
(30)プロテーゼレシピエントから得た血液血清をコラーゲン組織の抽出物中のタンパク質に対する抗体に関して調べた場合に、前記コラーゲン組織由来の成分に対する前記体液性免疫応答が、基礎力価レベルから、コラーゲン組織タンパク質に対する抗体の抗体力価の有意な上昇を示さない、(29)記載のプロテーゼ。
【0129】
(31)前記抗体力価レベルが、コラーゲン組織タンパク質に対して予め感作されていない患者又は宿主に対して1:40以下である、(30)記載のプロテーゼ。
【0130】
(32)哺乳動物ソースに由来するコラーゲン組織から製造される非抗原性プロテーゼの製造方法であって、(a)前記材料の生物学的再構築可能な特性を維持する作用剤によってコラーゲン組織を消毒する工程と;(b)前記消毒済みコラーゲン組織を架橋剤によって架橋させる工程と;を含み、このような形成されたプロテーゼが哺乳動物患者に移植されたときに、本来の移植されたプロテーゼが体液性免疫応答を誘発せずに患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生分解を受ける、上記方法。
【0131】
(33)前記哺乳動物ソースが腸材料、大腿筋膜、硬膜及び心膜から成る群から選択される、(32)記載の方法。
【0132】
(34)前記コラーゲン組織が小腸の粘膜下組織である、(33)記載の方法。
【0133】
(35)前記コラーゲン組織が2層以上の重ねられて結合したコラーゲン組織層から形成される、(32)記載の方法。
【0134】
(36)前記過酢酸が水中約0.01〜0.3%v/vの濃度である、(32)記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシピエント患者に移植するための、腸材料、大腿筋膜、硬膜及び心膜から成る群から選択される哺乳動物由来コラーゲン組織から形成される、無菌で、非発熱性かつ非抗原性プロテーゼであって、移植されたプロテーゼがコラーゲン組織中の成分に対して体液性免疫応答を誘発せず、かつさらに生物学的再構築を可能にする架橋剤によって架橋された2層以上の重ねられて結合したコラーゲン組織層を含み、かつ前記プロテーゼが付随的に、本来の移植されたプロテーゼが患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる生物学的再構築を受けるプロテーゼ。
【請求項2】
プロテーゼレシピエントから得た血液血清をコラーゲン組織の抽出物中のタンパク質に対する抗体に関して調べた場合に、前記コラーゲン組織由来の成分に対する前記体液性免疫応答が、基礎力価レベルから、コラーゲン組織タンパク質に対する抗体の抗体力価の有意な上昇を示さない、請求項1記載のプロテーゼ。
【請求項3】
前記抗体力価レベルが、コラーゲン組織タンパク質に対して予め感作されていない患者又は宿主に対して1:40以下である、請求項2記載のプロテーゼ。
【請求項4】
腸材料、大腿筋膜、硬膜及び心膜から成る群から選択される、哺乳動物ソースに由来するコラーゲン組織から製造される非抗原性プロテーゼの製造方法であって、
(a)前記材料の生物学的再構築可能な特性を維持する作用剤によってコラーゲン組織を消毒する工程;
(b)2層以上の結合したコラーゲン組織層を重ね合わせる工程;および
(c)前記消毒済みコラーゲン組織を架橋剤によって架橋させる工程;
を含み、
このような形成されたプロテーゼが哺乳動物患者に移植されたときに、本来の移植されたプロテーゼが体液性免疫応答を誘発せずに患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生物学的再構築を受ける、上記方法。
【請求項5】
前記コラーゲン組織が小腸の粘膜下組織である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記コラーゲン組織が2層以上の重ねられて結合したコラーゲン組織層から形成される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記作用剤が過酢酸であり、そして水中約0.01〜0.3%v/vの濃度である、請求項4ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記コラーゲン組織が小腸の粘膜下組織である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロテーゼ。
【請求項9】
生物学的再構築を可能にする架橋剤で架橋された2層以上の重ね合わせて結合したコラーゲン組織層を含むプロテーゼであって、前期コラーゲン組織は腸材料、大腿筋膜、硬膜及び心膜から成る群から選択され、哺乳動物患者に移植されたときに、本来の移植されたプロテーゼが患者の生細胞によって再構築されるような、充分な生細胞置換を伴って生ずる制御された生分解を受けるプロテーゼ。
【請求項10】
前記コラーゲン組織が小腸の粘膜下組織である、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項11】
その形状がフラットまたは管状である、請求項9または10に記載のプロテーゼ。
【請求項12】
架橋剤の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩によって架橋される、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項13】
架橋剤にスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドが加えられる、請求項13に記載のプロテーゼ。
【請求項14】
架橋剤にアセトンが加えられる、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項15】
過酢酸によって滅菌される、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項16】
非抗原性である、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項17】
その1つ以上の表面が平滑な流動面として作用するコラーゲン分散液又はゲルによって被覆されている、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項18】
さらに孔を含有する、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項19】
さらに抗凝固剤、1種以上の抗生物質、又は1種以上の成長因子を含有する、請求項9に記載のプロテーゼ。
【請求項20】
前記プロテーゼを、架橋剤の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩によって架橋する、請求項4に記載の方法。
【請求項21】
架橋剤にスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミドが加えられる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
架橋剤にアセトンが加えられる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
プロテーゼが非抗原性である、請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2012−101100(P2012−101100A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−286563(P2011−286563)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【分割の表示】特願2004−134191(P2004−134191)の分割
【原出願日】平成8年3月12日(1996.3.12)
【出願人】(501077000)オーガノジェネシス インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】