説明

遠心載荷実験方法および遠心載荷実験用試験体

【課題】一般的な模型縮尺に見合うような時間縮尺を実現し、地中コンクリート構造物の築造を適切に模擬することができる遠心載荷実験方法および遠心載荷実験用試験体を提供すること。
【解決手段】実験土槽1内に粘土層9、砕石層11からなる地盤2を形成し、地盤2に溝15を掘削し、地盤2とほぼ同等の比重の溶液33を満たす。溝15は、薄膜17で複数に分割される。次に、遠心載荷装置19を用いて実験土槽1に遠心載荷を行いつつ、溝15a、溝15c、溝15b内の溶液33を、比重1.1〜1.2程度で金属イオンとの親和性に優れた嫌気性接着剤35で順次置きかえる。さらに、嫌気性接着剤35中に、表面に金属イオンを有する粒状材(図示せず)を流し込み、固化体37を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心載荷実験方法および遠心載荷実験用試験体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤を含む模型実験試験体に重力の導入が必要である場合には、遠心載荷装置が用いられる。遠心載荷実験では、縮尺が1/nである模型にn×g(重力加速度)なる加速度を模型に与えることにより、短い時間で実際の現象が再現される。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−350296号公報
【0004】
遠心載荷装置を用いた模型実験において、模型の縮尺が1/nであれば時間の縮尺は1/nとなることが既往の研究により知られている。構造物を築造する場合に用いられるコンクリートは、28日強度と呼ばれる材料強度を想定して施工されている。ここで、実験模型の縮尺を一般的な1/50として、地中コンクリート構造物の築造を模擬するには、28日×1/50の時間内に実際のコンクリートと同等の強度および変形係数を表現できる材料が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、適切な時間縮尺でコンクリート構造物の築造を表現できるような試験体や試験方法は、確立されていない。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、地中コンクリート構造物の築造を、一般的な模型縮尺に見合うような時間縮尺で模擬することができる遠心載荷実験方法および遠心載荷実験用試験体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための第1の発明は、土の層に掘削された孔に、気中で流動性を保持できる接着剤を満たす工程(a)と、前記接着剤中に、表面に金属イオンを有する粒状材を流し込む工程(b)とを具備し、前記工程(a)および前記工程(b)が遠心載荷中に実施されることを特徴とする遠心載荷実験方法である。
【0008】
孔は、実験用の土槽内の土の層に掘削され、必要に応じて、薄膜によって複数部分に分割される。工程(a)で用いられる接着剤は、比重が1.1〜1.2程度で、金属イオンとの親和性に優れた嫌気性接着剤とするのが望ましい。この接着剤は、建設現場で用いるベントナイト泥水の単位体積重量とほぼ同等の単位体積重量を有する。
【0009】
工程(b)で用いられる粒状材は、例えば、金属粉と、金属イオンを塗布した金属粉より比重の小さい粒状体との混合物である。粒状体への金属イオンの塗布は、嫌気性接着剤の硬化促進剤である金属イオン入りのプライマで処理することにより、行われる。工程(b)では、金属粉と、金属粉より比重の小さい粒状体との混合比を変化させて、粒状材の比重を適切な値に調整する。
【0010】
工程(a)の前には、必要に応じて、遠心載荷を行わない状態で、孔内に金属イオンを有する溶液を満たす工程(c)がさらに設けられる。このとき、工程(a)では、孔内に満たされた溶液を接着剤と置き換える。工程(c)で用いられらる金属イオンは地盤材料とほぼ同等の単位体積重量を有する。工程(c)で用いられる溶液は、例えば、メタタングステン酸アンモニウム水溶液等のタングステン溶液や塩化亜鉛溶液等である。
【0011】
第1の発明では、遠心載荷中に、土の層に掘削された孔内に、気中で流動性を保持できる接着剤を満たす。さらに、接着剤中に、表面に金属イオンを有する粒状材を流し込む。
【0012】
第2の発明は、遠心載荷を行いつつ、土の層に形成された孔内に、気中で流動性を保持できる接着剤を満たし、前記接着剤中に、表面に金属イオンを有する粒状材を流し込むことによって作製されたことを特徴とする遠心載荷実験用試験体である。
【0013】
試験体は、実験用の土槽内の土の層に孔を掘削して形成される。孔は、必要に応じて、薄膜によって複数部分に分割される。接着剤は、比重が1.1〜1.2程度で、金属イオンとの親和性に優れた嫌気性接着剤とするのが望ましい。粒状材は、例えば、金属粉と、金属イオンを塗布した金属粉より比重の小さい粒状体との混合物とする。粒状材の比重は、金属粉と、金属粉より比重の小さい粒状体との混合比を変化させることにより調整される。
【0014】
第2の発明では、遠心載荷を行いつつ、土の層に形成された孔内に、気中で流動性を保持できる接着剤と置き換える。さらに、接着剤中に、表面に金属イオンを有する粒状材を流し込んで、遠心載荷実験用試験体を得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地中コンクリート構造物の築造を、一般的な模型縮尺に見合うような時間縮尺で模擬することができる遠心載荷実験方法および遠心載荷実験用試験体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、遠心載荷実験において、1/50〜1/100程度の縮尺の模型を用いて、実際の地中連続壁の築造過程を模擬する。
【0017】
遠心載荷実験では、実験土槽への遠心載荷を行う前に、まず、実験土槽内に地盤を再現する。図1は、地盤2を再現した実験土槽1を垂直面で切断したものの斜視図を示す。実験土槽1は、対向する底面3および上面7と、4つの側面5からなる箱体である。実験土槽1の底面3上には台13が設置される。台13上には地盤2が形成される。
【0018】
地盤2は、例えば、台13上に配置される砕石層11と、砕石層11上に配置される粘土層9とで構成される。砕石層11および粘土層9を形成する際には、実験土槽1内に砕石や粘土を入れ、必要に応じて遠心載荷を行う。
【0019】
砕石層11および粘土層9を形成した後、遠心載荷を行わない状態で、地盤2内に溝15を掘削し、溝15内に溶液33を満たす。溝15は、ゴム製等の薄膜17により、溝15a、溝15b、溝15cに分割される。溝15の寸法は、築造を模擬する地中連続壁の寸法から決定する。
【0020】
溶液33は、地盤2と同等の単位体積重量で、金属イオンを有するものとする。溶液33には、メタタングステン酸アンモニウム水溶液や塩化亜鉛溶液等を用いることができるが、無公害であるメタタングステン酸アンモニウム水溶液を用いるのが望ましい。
【0021】
図1に示すように、地盤2とほぼ同等の単位体積重量の溶液33を溝15に満たすことにより、実際の地中連続壁の築造を再現する準備が整う。図1に示す状態において、溶液33は、地盤2と一体となって、実際の地盤を模擬するものとみなされる。図1に示すような実験土槽1を準備した後、実験土槽1への遠心載荷を開始する。
【0022】
図2は、遠心載荷装置19の概略図である。図2に示すように、遠心載荷装置19は、中心軸21、中心軸21を中心に回転する水平アーム23、水平アーム23の両端に設けられたプラットホーム25、駆動モータ27、中心軸21と駆動モータ27の間に設けられた減速機31および駆動軸29等で構成される。
【0023】
遠心載荷を行う際には、図2に示す遠心載荷装置19の一方のプラットホーム25に実験土槽1を、他方のプラットホーム25に錘を設置する。そして、駆動モータ27を駆動させ、駆動軸29、減速機31を介して中心軸21を回転させる。中心軸21が回転すると、水平アーム23およびプラットホーム25が回転し、実験土槽1に遠心加速度が作用する。
【0024】
遠心載荷で実験土槽1に与える加速度は、従来の遠心載荷実験と同様に設定する。すなわち、実験土槽1内に再現する模型の縮尺が1/nの場合、n×g(重力加速度)なる加速度を与える。
【0025】
図3は、遠心載荷中の各工程を示す図である。図3(a)に示すようにシリンダ51の内部には、ピストン53が設けられる。シリンダ51内部には、嫌気性接着剤35が充填されている。シリンダ51には、管57が設けられ、管57の端部は、3本の管61a、61b、61cに分岐され、各管にバルブ59a、59b、59cが設けられる。各管61a、61b、61cの端部は、溝15a、15b、15cの内部に至る。
【0026】
また、シリンダ51には、管71が設けられ、管71の端部は、3本の管75a、75b、75cに分岐され、各管にバルブ73a、73b、73cが設けられる。各管73a、73b、73cの端部は、溝15a、15b、15cの内部に挿入される。
【0027】
図3(a)に示すように、溝15aから溶液33を抜き取り、嫌気性接着剤35を満たす場合、バルブ59a、73aを開き、他のバルブは閉じる。そして、ピストン53をA方向に移動させる。シリンダ51内の嫌気性接着剤35は、管57、管61aを介して溝15a内に送り込まれる。また、溝15a内の溶液33は、管75aを介して、シリンダ51に吸い込まれる。
【0028】
このようにして、遠心載荷装置19を用いて実験土槽1に遠心載荷した状態で、図3(a)に示すように、溝15aに満たされた溶液33を、嫌気性接着剤35に置き換える。すなわち、溝15aから溶液33を抜き取り、嫌気性接着剤35を満たす。
【0029】
続いて、溝15cに満たされた溶液33を、嫌気性接着剤35に置き換える。
すなわち、バルブ59c、73cを開き、他のバルブは閉じる。そして、ピストン53をA方向に移動させる。シリンダ51内の嫌気性接着剤35は、管57、管61cを介して溝15c内に送り込まれる。また、溝15c内の溶液33は、管75cを介して、シリンダ51に吸い込まれる。
【0030】
さらに、図3(b)に示すように、溝15bに満たされた溶液33を、嫌気性接着剤35に置き換える。
【0031】
すなわちバルブ59b、73bを開き、他のバルブは閉じる。そして、ピストン53をA方向に移動させる。シリンダ51内の嫌気性接着剤35は、管57、管61bを介して溝15b内に送り込まれる。また、溝15b内の溶液33は、管75bを介して、シリンダ51に吸い込まれる。
【0032】
嫌気性接着剤35は、比重1.1〜1.2程度で、金属イオンとの親和性に優れ、空気中で流動性が保持できるものとする。
【0033】
実験土槽1において、地盤2と同等の比重の溶液33を溝15から抜き取る工程は、実際の地中連続壁の築造において、地盤に溝を掘削する工程に相当する。また、実験土槽1において、溝15に地盤2より比重が小さい順次嫌気性接着剤35を満たす工程は、実際の地中連続壁の築造において、溝壁を安定させるために泥水を満たす工程に相当する。
【0034】
次に、実験土槽1に遠心載荷を行ったまま、溝15に満たした嫌気性接着剤35に粒状材(図示せず)を混入する。粒状材(図示せず)は、例えば、金属粉と、金属イオンを塗布した金属粉より比重の小さい流動性のある粒状体との混合物である。金属粉は、例えば、ステンレススチール製とする。粒状体は、例えば、パラジウムイオン等の金属イオンを主成分とするプライマで処理した珪砂とする。金属イオンの塗布は、嫌気性接着剤35との反応性を高めるための処理である。
【0035】
実験土槽1において、嫌気性接着剤35に粒状材(図示せず)を混入する工程は、実際の地中連続壁の築造において、溝中の泥水をコンクリートに置き換える工程に相当する。
【0036】
嫌気性接着剤35に粒状材(図示せず)を混入すると、図3の(c)図に示すように、固化体37が得られる。固化体37は、溶液33の残留イオンおよび粒状材(図示せず)が、嫌気性接着剤35を介して結合、固化することにより形成される。
【0037】
実験土槽1において、固化体37を得る工程は、実際の地中連続壁の築造において、コンクリートを硬化させて連続壁を完成させる工程に相当する。図3の(a)図、図3の(b)図では、掘削溝に満たされる泥水に相当するものであった嫌気性接着剤35は、図3の(c)図では骨材に対するセメントペーストに相当するものとして機能する。
【0038】
上述したように、縮尺が1/50の実験模型を用いて遠心載荷実験を行う場合、コンクリート構造物の築造を模擬するには、28日×1/50=16.12分以内に実際のコンクリートと同等の強度および変形係数を表現する必要がある。本実施の形態で形成した固化体37は、この条件を満たす。
【0039】
なお、固化体37の比重は、嫌気性接着剤35に混入する粒状材(図示せず)の比重を変化させることで調整可能である。粒状材(図示せず)の比重は、金属粉と、金属イオンを塗布した金属粉より比重の小さい流動性のある粒状体との混合比を調整することで変化する。粒状材(図示せず)の比重を調整することにより、多様な単位体積重量のコンクリートを再現することができる。
【0040】
このように、本実施の形態では、実験土槽1内の地盤2に形成された溝15に溶液33を満たした後、遠心載荷装置19を稼動させつつ、溶液33を嫌気性接着剤35と置き換え、嫌気性接着剤35に粒状材(図示せず)を混入して固化体37を得ることで、地中コンクリート構造物の築造を適切に模擬することができる。本実施の形態は、変位計、土圧計、間隙水圧計等を実験土槽1に設置することにより、種々の遠心載荷実験に対応できる。
【0041】
本実施の形態では、金属イオンとの親和性に優れた嫌気性接着剤35と、表層に金属イオンを有する粒状材(図示せず)を適切に選択することにより、一般的な模型縮尺に見合うような時間縮尺を実現できる。また、粒状材(図示せず)の比重を調整することにより、様々な比重のコンクリートを模擬できる。
【0042】
なお、本実施の形態では、地盤2内に形成した溝15に満たした溶液33を嫌気性接着剤35と置きかえることで、地盤を掘削して泥水を満たす工程を模擬したが、溶液33と嫌気性接着剤35との置き換えを省略してもよい。すなわち、地盤2に形成した溝に嫌気性接着剤35を満たす作業から開始し、地盤に泥水を満たす工程以降を模擬してもよい。
【0043】
また、地盤2に、図1、図3に示すような3分割された溝15以外の溝、孔を形成してもよい。地盤2に形成する溝、孔の形状や、薄膜によって分割される数等を変更することにより、連続地中壁以外のコンクリート構造物(杭等)の築造工程を模擬することができる。
【0044】
さらに、粒状材(図示せず)を構成する金属紛の材質は、ステンレススチールでなくてもよい。また、粒状体は、主成分がパラジウムイオンであるプライマで処理した珪砂に限らず、表面に金属イオンを塗布できる他種の砂や、砂以外の材質でもよい。主成分がパラジウムイオン以外の金属イオンであるプライマを用いて金属イオンを塗布してもよい。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかる遠心載荷実験方法および遠心載荷実験用試験体の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】地盤2を再現した実験土槽1を垂直面で切断したものの斜視図
【図2】遠心載荷装置19の概略図
【図3(a)】遠心載荷中の各工程を示す図
【図3(b)】遠心載荷中の各工程を示す図
【図3(c)】遠心載荷中の各工程を示す図
【符号の説明】
【0047】
1………実験土槽
2………地盤
9………粘土層
11………砕石層
15、15a、15b、15c………溝
17………薄膜
19………遠心載荷装置
33………溶液
35………嫌気性接着材
37………固化体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土の層に掘削された孔に、気中で流動性を保持できる接着剤を満たす工程(a)と、
前記接着剤中に、表面に金属イオンを有する粒状材を流し込む工程(b)と、
を具備し、
前記工程(a)および前記工程(b)が遠心載荷中に実施されることを特徴とする遠心載荷実験方法。
【請求項2】
前記孔が、薄膜によって複数部分に分割されることを特徴とする請求項1記載の遠心載荷実験方法。
【請求項3】
前記粒状材が、金属粉と、金属イオンを塗布した前記金属粉より比重の小さい粒状体との混合物であることを特徴とする請求項1記載の遠心載荷実験方法。
【請求項4】
前記金属粉と、前記金属粉より比重の小さい粒状体との混合比を変化させて、前記粒状材の比重を調整することを特徴とする請求項3記載の遠心載荷実験方法。
【請求項5】
前記工程(a)の前に、遠心載荷を行わない状態で、前記孔内に金属イオンを有する溶液を満たす工程(c)をさらに具備し、
前記工程(a)で、前記溶液を前記接着剤と置き換えることを特徴とする請求項1記載の遠心載荷実験方法。
【請求項6】
前記溶液が、タングステン溶液であることを特徴とする請求項5記載の遠心載荷実験方法。
【請求項7】
遠心載荷を行いつつ、土の層に形成された孔内に、気中で流動性を保持できる接着剤を満たし、前記接着剤中に、表面に金属イオンを有する粒状材を流し込むことによって作製されたことを特徴とする遠心載荷実験用試験体。
【請求項8】
前記孔が、薄膜によって複数部分に分割されたことを特徴とする請求項7記載の遠心載荷実験用試験体。
【請求項9】
前記粒状材が、金属粉と、金属イオンを塗布した前記金属粉より比重の小さい粒状体との混合物であることを特徴とする請求項7記載の遠心載荷実験用試験体。
【請求項10】
前記金属粉と、前記金属粉より比重の小さい粒状体との混合比を変化させて、前記粒状材の比重を調整することを特徴とする請求項9記載の遠心載荷実験用試験体。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【公開番号】特開2006−58141(P2006−58141A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240604(P2004−240604)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】