選択的なグリコシダーゼインヒビター、インヒビターを作製する方法、およびインヒビターの使用
本発明は、グリコシダーゼを選択的に阻害するための化合物、その化合物のプロドラッグ、およびその化合物または化合物のプロドラッグを含む薬学的組成物を含む。本発明はまた、O−GlcNAcaseの欠損または過剰発現、O−GlcNAcの蓄積または欠損に関連する疾患および障害、およびそのような疾患および障害の治療を研究するための、動物モデルおよびその動物モデルを作製する方法を含む。本発明はまた、そのような疾患および障害を治療する方法を含む。本発明はまた、その化合物を作製する方法、および選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年3月1日に出願された米国仮特許出願第60/656,878号(これは、参考として本明細書に援用される)の出願日の利益を主張する。
【0002】
(技術分野)
本出願は、選択的にグリコシダーゼを阻害する化合物、そのインヒビターを作製する方法、およびその使用に関連する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
広範囲の細胞タンパク質(核および細胞質の細胞タンパク質の両方)は、、単糖2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(β−N−アセチルグルコサミン)の付加によって翻訳後修飾され、それはO−グリコシド結合によって結合する[1]。この修飾は一般的に、O結合型N−アセチルグルコサミンまたはO−GlcNAcと呼ばれる。
【0004】
O−GlcNAc修飾タンパク質は、例えば転写[2−5]、プロテアソーム分解[6]、および細胞シグナル伝達[7]を含む、広範囲の重要な細胞機能を有する。O−GlcNAcはまた、多くの構造タンパク質においても見出される[8−10]。例えば、それは神経フィラメントタンパク質[11、12]、シナプシン[13、14]、シナプシン特異的クラスリン集合タンパク質AP−3[15]、およびアンキリンG[16]を含む、多くの細胞骨格タンパク質において見出された。O−GlcNAc修飾は、脳において豊富であることが見出された[17、18]。それはまた、II型糖尿病、アルツハイマー病(AD)および癌を含むいくつかの疾患の病因に明らかに関わっているタンパク質においても見出された。
【0005】
例えば、ADならびにダウン症候群、ピック病、ニーマン−ピック病C型、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む多くの関連するタウオパチー(tauopathy)は、部分的には、神経原線維変化(NFT)の発達によって特徴付けられることが、よく確立している。これらのNFTは、対らせんフィラメント(paired helical filament)(PHF)の凝集物であり、そして重要なタンパク質「タウ(tau)」の異常な形態から構成される。正常なタウは、ニューロン内のタンパク質および栄養素の分配に必須である微小管の重要な細胞ネットワークを安定化する。しかしAD患者においては、タウは過剰にリン酸化され、その正常な機能を破壊してPHFを形成し、そして最終的には凝集して有害なNFTを形成する。AD患者の脳内のNFTレベルと認知症の重症度との間の明らかな類似点は、ADにおけるタウ機能不全の重要な役割を強力に支持する[19、20]。このタウの過剰リン酸化の正確な原因は不明のままである。従って、a)タウ過剰リン酸化の分子生理学的な基礎を明らかにすること[6]、およびb)これらがアルツハイマー病の進行を停止させる、またはさらに逆転させ得ることを期待して、タウ過剰リン酸化を制限し得る戦略を同定すること[7、8]に、多くの努力がなされた。これまで、いくつかの証拠が、タウの過剰リン酸化に多くのキナーゼのアップレギュレーションが関与し得ることを示唆しているが[9、10、21]、最近、この過剰リン酸化の第2の基礎が提案された[21]。特に、タウのリン酸レベルが、タウにおけるO−GlcNAcのレベルによって調節されていることが最近明らかになった。ヒトAD脳における過剰リン酸化タウは、健常なヒト脳において見出されるものより顕著に低いレベルのO−GlcNAcを有する[2、3]。これらの結果は、タウO−GlcNAcレベルを調節するメカニズムにおける機能不全が、NFTの形成および関連した神経変性においてきわめて重要であり得ることを示唆する。
【0006】
ヒトは、複合糖質から末端のβ−N−アセチル−グルコサミン残基を切断する酵素をコードする、3つの遺伝子を有する。これらの最初のものは、酵素O−糖タンパク質2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシダーゼ(O−GlcNAcase)をコードする。O−GlcNAcaseは、グリコシドヒドロラーゼファミリー84のメンバーであり、それは原核生物の病原体からヒトまでのように多様な有機体由来の酵素を含む(グリコシドヒドロラーゼのファミリー分類に関しては、URL:http://afmb.cnrs−mrs.fr/CAZY/のCoutinho,P.M.およびHenrissat,B.(1999)Carbohydrate−Active Enzymesサーバーを参照のこと)[19、20]。O−GlcNAcaseは、翻訳後修飾されたタンパク質のセリンおよびスレオニン残基からO−GlcNAcを加水分解するよう作用する[1、22、23]。多くの細胞内タンパク質におけるO−GlcNAcの存在と一致して、酵素O−GlcNAcaseは、II型糖尿病[7、21]、AD[9、17、24]、および癌[18]を含むいくつかの疾患の病因に役割を果たしているようである。O−GlcNAcaseは、おそらく早くに単離されたが[11、12]、タンパク質のセリンおよびスレオニン残基からO−GlcNAcを切断する作用におけるその生化学的役割が理解されるまでに約20年が経過した[13]。より近年になって、O−GlcNAcaseがクローニングされ[15]、部分的に特徴付けられ[16]、そしてヒストンアセチルトランスフェラーゼとしてのさらなる活性を有することが示唆された[14]。しかし、この酵素の触媒メカニズムについてはほとんど知られていなかった。
【0007】
他の2つの酵素、HEXAおよびHEXBは、複合糖質からの末端β−N−アセチルグルコサミン残基の加水分解性の切断を触媒する酵素をコードする。HEXAおよびHEXBの遺伝子産物は、主に2つの二量体アイソザイム、それぞれヘキソサミニダーゼAおよびヘキソサミニダーゼBを生ずる。ヘテロダイマーアイソザイムであるヘキソサミニダーゼA(αβ)は、αおよびβサブユニットから成る。ホモダイマーアイソザイムであるヘキソサミニダーゼB(ββ)は、2つのβサブユニットから成る。2つのサブユニット、αおよびβは、高レベルの配列同一性を有する。これらの酵素はどちらも、グリコシドヒドロラーゼファミリー20のメンバーとして分類され、そして通常リソソーム内に局在する。これらリソソームのβ−ヘキソサミニダーゼが正しく機能することが、ヒトの発生に決定的であり、それはそれぞれヘキソサミニダーゼAおよびヘキソサミニダーゼBの機能不全から起こる悲劇的な遺伝病、テイ−サックス病およびサンドホフ病によって強調される事実である[25]。これらの酵素欠損は、リソソームにおける糖脂質および複合糖質の蓄積を引き起こし、神経機能障害および変形を引き起こす。有機体レベルにおけるガングリオシドの蓄積の有害な影響が、依然として明らかになりつつある[26]。
【0008】
これらのβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼの生物学的重要性の結果として、グリコシダーゼの小分子インヒビター[27−29](非特許文献1)[30]が、これらの酵素の生物学的プロセスにおける役割を明らかにするツールとして、および潜在的な治療的適用の開発において非常に注目された[31]。小分子を用いたグリコシダーゼ機能の調節は、遺伝的ノックアウト研究に対して、迅速に投与量を変化させるか、または完全に処置を停止する能力を含む、いくつかの利点を提供する。
【0009】
しかし、O−GlcNAcaseを含む哺乳類グリコシダーゼの機能を阻害するインヒビターの開発における主な難点は、高等真核生物の組織に存在する多数の機能的に関連した酵素である。従って、1つの特定の酵素の細胞および有機体での生理学的役割の研究において非選択的インヒビターを使用することは、そのような機能的に関連する酵素の同時阻害によって複雑な表現型が生じるので、複雑である。β−N−アセチルグルコサミニダーゼの場合には、O−GlcNAcase機能を阻害するよう作用する既存の化合物は、非特異的であり、そしてリソソームβ−ヘキソサミニダーゼを阻害するよう強力に作用する。今までに、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼより核細胞質O−GlcNAcaseに選択的な、強力なインヒビターは知られていない。
【0010】
細胞および組織の両方で、O−GlcNAc翻訳後修飾の研究において使用された、よりよく特徴付けられたβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼの少数のインヒビターは、ストレプトゾシン(STZ)、2’−メチル−α−D−グルコピラノ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(NAG−チアゾリン)およびO−(2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(PUGNAc)である[7、32−35]。
【0011】
STZは、β−島細胞に対して特に有害な影響を有するので、糖尿病誘発性化合物として長く使用されてきた[36]。STZは、細胞DNAのアルキル化[36、37]および一酸化窒素を含むラジカル種の産生[38]の両方によって、その細胞毒性効果を発揮する。生じたDNA鎖の切断は、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)[39]の活性化を促進し、最終的に細胞NAD+レベルを枯渇させ、そして最後には細胞死に至る[40、41]。他の研究者は別に、STZ毒性は、β−島細胞内で高度に発現しているO−GlcNAcaseの不可逆的阻害の結果であると提唱した[32、42]。しかし、この仮説は、2つの独立した研究グループによって疑問を投げかけられた[43、44]。タンパク質の細胞O−GlcNAcレベルは、多くの形式の細胞ストレスに反応して増加するので[45]、STZは、O−GlcNAcaseに対する特異的および直接的作用によってではなく、細胞ストレスを誘発することによって、タンパク質のO−GlcNAc修飾レベルの増加を引き起こす可能性がある。実際、Hanoverおよび同僚らは、STZはO−GlcNAcaseの弱く、そしていくらか選択的なインヒビターとして機能することを示し[46]、そしてSTZはO−GlcNAcaseを不可逆的に阻害するよう作用することが他の研究者によって提唱されたが[47]、この作用形式を明らかに示すものはない。
【0012】
NAG−チアゾリンは、ファミリー20ヘキソサミニダーゼ(非特許文献1)[30]、(非特許文献2)[48]、およびより近年には、ファミリー84O−GlcNAcase(非特許文献3)[49]の強力なインヒビターであることが見出された。その効力にもかかわらず、複雑な生物学的状態でNAG−チアゾリンを使用することの欠点は、それが選択性を欠き、そして従って複数の細胞のプロセスを混乱させることである。
【0013】
PUGNAcは、同じ選択性の欠如の問題をかかえる別の化合物であるが、ヒトO−GlcNAcase[13、50]およびファミリー20ヒトβ−ヘキソサミニダーゼ[51]の両方のインヒビターとして使用されてきた。Vasellaおよび同僚らによって開発されたこの分子は、Canavalia ensiformis、Mucor rouxii由来のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼ、およびウシ腎臓由来のβ−ヘキソサミニダーゼの強力な競合的インヒビターであることが見出された[28]。
【0014】
従って、グリコシダーゼの改善された選択的インヒビターに対する必要性が生じた。
【非特許文献1】S.Knappら、J.Am.Chem.Soc.(1996)118、6804〜6805
【非特許文献2】B.L.Markら、J Biol Chem(2001)276、10330〜10337
【非特許文献3】M.S.Macauleyら、J Biol Chem(2005)280、25313〜25322
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(要旨)
本発明の実施態様は、グリコシダーゼを選択的に阻害する化合物に関連する。本発明はまた、そのような化合物の作製方法、およびその使用にも関連する。
【0016】
本発明の1つの実施態様において、その化合物は、一般的な化学式(I):
【0017】
【化5】
を有し、ここでR3、R5、R6は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る;R2およびR4は、CH2、CHR1、NH、NR1、または任意のヘテロ原子であり、そしてR1は、H、エーテル、アミン、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択される。本発明は、上記の化合物の薬学的に受容可能な塩を含む。本発明のいくつかの実施態様において、R2はS、およびR1はCH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなるグループから選択され、そしてR4はOである。本発明はまた、その化合物のプロドラッグ、その化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物、ならびにその化合物のプロドラッグおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物に関連する。
【0018】
本発明の別の実施態様において、その化合物は、一般的な化学式(II):
【0019】
【化6】
およびその薬学的に受容可能な塩を有し、ここでX1−X6はO、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、そしてR1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る。
【0020】
いくつかの実施態様において、その化合物は、他のグリコシダーゼより特定のグリコシダーゼの活性を選択的に阻害する。本発明の1つの実施態様において、グリコシダーゼはグリコシドヒドロラーゼを含む。本発明の別の実施態様において、グリコシドヒドロラーゼは、ファミリー84グリコシドヒドロラーゼである。本発明の特定の実施態様において、グリコシダーゼはO−GlcNAcaseである。化合物は、β−ヘキソサミニダーゼよりO−GlcNAcaseの活性を選択的に阻害する。特に、この特定の実施態様において、化合物は2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(O−GlcNAc)のタンパク質からの切断を選択的に阻害する。
【0021】
その化合物は、O−GlcNAcaseの欠損、O−GlcNAcaseの過剰発現、O−GlcNAcの蓄積、O−GlcNAcの枯渇に関連する疾患または障害を研究するための、およびO−GlcNAcaseの欠損または過剰発現またはO−GlcNAcの蓄積または枯渇に関連する疾患および障害の治療を研究するための、動物モデルを開発するのに有用である。そのような疾患および障害は、糖尿病、アルツハイマー病を含む神経変性性疾患、および癌を含む。その化合物はまた、グリコシダーゼ阻害治療に反応性の疾患および障害の治療においても有用である。その化合物はまた、細胞および組織を組織損傷またはストレスに関連するストレスに備えること、細胞を刺激すること、および細胞の分化を促進することにも有用である。これらの化合物はまた、特定のグリコシダーゼ、例えばファミリー84グリコシドヒドロラーゼのメンバーである微生物の毒素を阻害するのにも有用であり得、そして従って抗菌剤としての用途が見出され得る。
【0022】
本発明はまた、その化合物を作製する方法にも関連する。1つの実施態様において、その方法は、以下の工程を含み得る:
a)2−アミノ−2−デオキシ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノースの塩酸塩を、ある範囲のアシル化剤でアシル化して、一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体を得る工程;
b)一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体のアミドを、対応するチオアミドへ変換し、そしてチオアミドを環化して一連の3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程;そして
c)チアゾリン化合物を脱アシル化して、一連の1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程。
【0023】
本発明はまた、以下のことを含む、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法にも関連する:
a)2つまたはそれ以上のグリコシダーゼまたは1つのクラスのグリコシダーゼのインヒビターを選択する工程;
b)側鎖を拡張または縮小することによって、インヒビターの1つまたはそれ以上の側鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のグリコシダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0024】
本発明のいくつかの実施態様において、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法は、以下の工程を含む:
a)以下:
【0025】
【化7】
およびその薬学的に受容可能な塩から選択される一般式を有する、β−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼのインヒビターを選択する工程であって、ここでX1−X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、そしてR1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、工程;
b)側鎖の大きさを拡張または縮小することによって、インヒビターのR1側鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0026】
本発明のいくつかの実施態様において、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、またはそのヘテロ原子誘導体を側鎖へ挿入することによって、インヒビターのR1側鎖を拡張し得る。いくつかの特定の実施態様において、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択される基を挿入することによって、R1鎖を拡張する。
【0027】
図面において、本発明の実施態様を説明するよう意図される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
以下の説明を通して、本発明のより完全な理解を提供するために特定の詳細を述べる。しかし、本発明はこれらの詳細なしで実施し得る。他の場合には、本発明を不必要にわかりにくくするのを避けるために、周知の要素は詳細に示されないか、または説明されない。従って、明細書および図は、制限的ではなく、説明的な意味にみなされる。
【0029】
本発明は、グリコシダーゼを選択的に阻害する化合物を含む。本発明の1つの実施態様において、その化合物は、一般的な化学式(I):
【0030】
【化8】
を有し、ここでR3、R5、R6は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなるグループから選択されるアシル基を含み得る;R2およびR4は、CH2、CHR1、NH、NR1または任意のヘテロ原子であり、そしてR1は、H、エーテル、アミン、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択される。本発明は、上記の化合物の薬学的に受容可能な塩を含む。いくつかの実施態様において、R2はS、R1は、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択され、そしてR4はOである。本発明のいくつかの特定の実施態様において、その化合物は、1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを含む。
【0031】
当業者によって認識されるように、上記の式(I)は、代わりに以下:
【0032】
【化9】
のようにも示し得る。
【0033】
本発明の別の実施態様において、その化合物は一般的な化学式(II):
【0034】
【化10】
、およびその薬学的に受容可能な塩を有し、ここでX1−X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなるグループから選択されるアシル基を含み得る。
【0035】
本発明は、上記の化合物の薬学的に受容可能な塩を含む。いくつかの実施態様において、R1はCH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択され、R2、R3、およびR4はOHであり、X1およびX2はOであり、X3はNHであり、X4およびX5はOであり、X6はNHであり、そしてR5はC6H6である。本発明のいくつかの特定の実施態様において、その化合物は、O−(2−デオキシ−2−プロパミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−ブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−ヘキサミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−イソブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、またはO−(2−デオキシ−2−イソ吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメートを含む。
【0036】
この出願を通して、「化合物」という用語は、上記で議論された化合物を指し、そしてアシル保護誘導体を含むその化合物の誘導体、およびその化合物および誘導体の薬学的に受容可能な塩を含むことが企図される。本発明はまた、その化合物のプロドラッグ、その化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物、ならびにその化合物のプロドラッグおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物も含む。
【0037】
本発明のいくつかの実施態様において、その化合物は、他のグリコシダーゼより特定のグリコシダーゼの活性を選択的に阻害する。そのグリコシダーゼは、グリコシドヒドロラーゼを含み得る。例えば、そのグリコシドヒドロラーゼは、ファミリー84グリコシドヒドロラーゼであり得る。本発明の特定の実施態様において、そのグリコシダーゼはO−GlcNAcaseである。本発明は、β−ヘキソサミニダーゼよりO−GlcNAcaseの活性を選択的に阻害する化合物を含む。特に、その化合物は、O−GlcNAcのタンパク質からの切断を選択的に阻害する。
【0038】
本発明の化合物は、細胞および有機体レベルにおいてO−GlcNAcの生理学的役割を研究するための貴重なツールである。その化合物は、O−GlcNAcaseの欠損または過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積または枯渇に関連する疾患または障害を研究するための動物モデルを開発するためにか、あるいはこれらの疾患または障害の治療を研究するために有用である。一例として、その化合物は、I型またはII型糖尿病の発症に関する疾患モデルの開発に有用である。
【0039】
II型糖尿病は、ヒトまたは動物が血中グルコースレベルを適切に制御できない場合に発症する。組織は、グルコース利用能の変化および内分泌系の他の構成要素からのシグナルを感知し、そして迅速に応答できなければならない。グルコースは、インスリン合成および膵臓β-細胞からの分泌の調節に重要な栄養素である。細胞に入る全てのグルコースのうち、2−5%はヘキソサミン生合成経路へ向けられ、それによってこの経路の最終産物、ウリジン2リン酸−N−アセチルグルコサミン(UDP−GlcNAc)の細胞濃度を調節する[52]。UDP−GlcNAcは、核細胞質酵素O−GlcNAcトランスフェラーゼ(OGTase)の基質であり[53−56]、それは多数の核細胞質タンパク質の特定のセリンおよびスレオニン残基にGlcNAcを翻訳後に付加するように作用する。OGTaseは、そのテトラトリコペプチド反復(TPR)ドメイン[61、62]によって、多くのその基質[57、58]および結合パートナー[59、60]を認識する。上記で記載したように、O−GlcNAcase[13、15]は、この翻訳後修飾を除去してタンパク質を遊離し、O−GlcNAc修飾を、タンパク質の寿命の間に数回起こる動的なサイクルにする[63]。O−GlcNAcは、いくつかのタンパク質において公知のリン酸化部位に見出され[3、64−66]、細胞シグナル伝達におけるO−GlcNAcの役割を示唆した。さらに、OGTaseは、細胞内UDP−GlcNAc基質濃度、そしてそれゆえグルコース供給に対して鋭敏に感受的にする一般的ではない動態挙動を示す[67]。これらのデータは全て、栄養素感知メカニズムとして作用するO−GlcNAcレベルの論理的役割を示す。栄養素感知におけるそのような可能性のある役割を支持するために、末梢組織において上昇したO−GlcNAcレベルはインスリン抵抗性の発症を引き起こすことが示された[7、21]。実際、一塩基多型がメキシコ人集団におけるII型糖尿病の発症に関連することを示す最近の研究によって、顕著に上昇したO−GlcNAcレベルが、II型糖尿病を引き起こし得ることが提唱された[68]。増加したO−GlcNAcレベルがインスリン抵抗性を引き起こすことを示すために、培養細胞および組織において、PUGNAcが使用された[7、32−35]。類推によって、本発明の化合物も、同様の研究において使用し得、そして糖尿病の発症におけるO−GlcNAcレベルの役割を示すための動物モデルを開発するために使用し得る。
【0040】
本発明の化合物はまた、O−GlcNAcaseの欠損または過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積または枯渇に関連する疾患または障害、またはグリコシダーゼ阻害治療に反応性の任意の疾患または障害の治療においても有用である。そのような疾患および障害は、糖尿病、アルツハイマー病(AD)のような神経変性性疾患、および癌を含むがこれに限らない。そのような疾患および障害はまた、酵素OGTaseの蓄積または欠損に関連する疾患または障害を含み得る。
【0041】
例えば、上記で議論したようなO−GlcNAcレベルおよびタウのリン酸化レベルの間の関係のために、本発明の化合物を、ADおよび他のタウオパチー(tauopathy)を研究および治療するために使用し得る。ヒト脳において、タウの6個のアイソフォームが見出された。AD患者において、タウの6個のアイソフォームの全てがNFTにおいて見出され、そして全てが顕著に過剰リン酸化されている[69、70]。健常な脳組織におけるタウは、2または3つのリン酸基しか有していないが、AD患者の脳において見出されるものは平均で8個のリン酸基を有する[71、72]。
【0042】
タウにおけるO−GlcNAcの存在は、O−GlcNAcレベルをタウリン酸化レベルと関連付ける研究を刺激した。この分野における最近の関心は、多くのタンパク質においてリン酸化されることも公知であるアミノ酸残基において、O−GlcNAc修飾が起こることが見出されたという観察に由来する[65、66、73]。この観察と一致して、リン酸化レベルの増加は、O−GlcNAcレベルの減少を引き起こし、そして逆に、増加したO−GlcNAcレベルは減少したリン酸化レベルと関連することが見出された[74]。O−GlcNAcおよびリン酸化の間のこの相互関係は、「陰陽仮説」[75]と命名され、そして酵素OGTase[55]がタンパク質からリン酸基を除去するよう作用するホスファターゼと機能的複合体を形成するという最近の発見によって、強力な生化学的支持を得た[60]。リン酸化と同様に、O−GlcNAcは、タンパク質の寿命の間に数回除去および再設置され得る動的な修飾である。示唆的に、O−GlcNAcaseをコードする遺伝子が、ADに関連した染色体の遺伝子座にマッピングされた[15、76]。
【0043】
ごく最近、ADを発症したヒト脳由来の可溶性タウタンパク質のO−GlcNAcレベルは、健常な脳由来のものより顕著に低いことが示された[17]。さらに、罹患した脳由来のPHFは、いかなるO−GlcNAc修飾も完全に欠くことが示唆された[17]。このタウの低グリコシル化の分子的基礎は未知であるが、キナーゼの活性の増加および/またはO−GlcNAcのプロセシングに関係する酵素の1つの機能不全に起因し得る。この後者の視点を支持して、PC−12神経細胞およびマウスの脳組織切片の両方において、非選択的N−アセチルグルコサミニダーゼインヒビターを使用してタウO−GlcNAcレベルを増加させ、そこでリン酸化レベルが減少したことが観察された[17]。これらの集合的な結果は、O−GlcNAcaseの作用を阻害することによるように、AD患者において健常なO−GlcNAcレベルを維持することによって、タウの過剰リン酸化、およびNFTの形成および下流の影響を含む、タウ過剰リン酸化に関連する全ての影響を阻害できるはずであることを意味する。しかし、β−ヘキソサミニダーゼが正常に機能することが重要であるので、O−GlcNAcaseの作用を阻害するADの治療のためのあらゆる可能性のある治療的介入は、ヘキソサミニダーゼAおよびB両方の同時阻害を避けなければならない。この選択的阻害が、本発明の化合物によって提供される。
【0044】
本発明の化合物は、他の型のグリコシダーゼの選択的インヒビターとして有用である。例えば、いくつかの微生物毒素は、ファミリー84グリコシドヒドロラーゼのメンバーであり、そして従って本発明の化合物は、抗菌薬として有用であり得る。
【0045】
本発明の化合物はまた、多能性細胞を島β細胞へ促進するように、細胞の分化を促進するのにも有用である。例えば、O−GlcNAcは、いくつかの転写因子の機能を調節することが公知であり、そして転写因子PDX−1において見出されることが公知である。O−GlcNAc残基の修飾による、転写因子PDX−1の修飾は、PDX−1の活性に影響を与え、それは次に細胞分化に影響を与え得る。
【0046】
本発明の化合物はまた、ストレスに対して細胞を備えるのに有用である。最近の研究は、PUGNAcを動物モデルにおいて使用して、左冠動脈閉塞後の心筋梗塞の大きさを抑制し得ることを示した[77]。
【0047】
本発明はまた、その化合物を作製する様々な方法に関連する。1つの実施態様において、その方法は以下の工程を含み得る:
a)2−アミノ−2−デオキシ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノースの塩酸塩を、ある範囲のアシル化剤でアシル化して、一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体を得る工程;
b)一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体のアミドを、対応するチオアミドへ変換し、そしてチオアミドを環化して一連の3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程;そして
c)チアゾリン化合物を脱アシル化して、一連の1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程。
【0048】
本発明はまた、例えば以下の工程を含む、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法に関連する:
a)2つまたはそれ以上のグリコシダーゼまたは1つのクラスのグリコシダーゼのインヒビターを選択する工程;
b)側鎖を拡張または縮小することによって、インヒビターの1つまたはそれ以上の側鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のグリコシダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0049】
本発明のいくつかの実施態様において、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法は、以下の工程を含む:
a)以下:
【0050】
【化11】
およびその薬学的に受容可能な塩から選択される一般式を有する、β−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼのインヒビターを選択する工程であって、ここでX1−X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、工程;
b)側鎖の大きさを拡張または縮小することによって、インヒビターのR1鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0051】
本発明のいくつかの実施態様において、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、またはそのヘテロ原子誘導体を側鎖へ挿入することによって、インヒビターのR1鎖を拡張し得る。いくつかの特定の実施態様において、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択される基を挿入することによって、R1鎖を拡張する。
【実施例】
【0052】
以下の実施例は、本発明の実施態様を説明することを意図し、そして制限する形式で解釈することを意図しない。
【0053】
(実施例1:O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの触媒メカニズムの比較分析)
1.1 O−GlcNAcaseの可能性のある触媒メカニズム
O−GlcNAcaseのインヒビターを設計するための論理的な開始点は、O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの触媒メカニズムを考慮する。ファミリー20ヒトβ−ヘキソサミニダーゼAおよびBの触媒作用メカニズムはかなりよく確立されたが[78]、ファミリー84O−GlcNAcaseのものは未知のままである。従って、発明者はまず、ヒトO−GlcNAcaseの触媒メカニズムを明らかにし、そして次に、強力で、細胞透過性であり、そしてリソソームβ−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに高度に選択的な、単純なインヒビターを設計するためにこの情報を使用した。
【0054】
O−GlcNAcaseおよびファミリー84グリコシドヒドロラーゼに関して、3つの現実的なメカニズムの選択肢が存在する。最初の選択肢は、ファミリー23のグリコシドヒドロラーゼ由来のガチョウリゾチーム[79]に関して見出されたような、逆転メカニズム(図1A)である。この触媒メカニズムは一般的に、酸触媒された脱離基の離脱と同時に、アノマー中心における水の塩基触媒された求核攻撃を含む。
【0055】
2番目のメカニズムの可能性は、アノマー中心における配置の保持を引き起こす、標準的な(canonical)2段階2重置換メカニズムである(図1B)。このメカニズムは、ほとんどの保持性(retaining)β−グリコシダーゼによって使用され、そして、第1段階でアノマー中心における酵素求核試薬の攻撃を含み、一時的な共有結合性のグリコシル酵素中間体の形成を引き起こす[80]。アグリコン脱離基の離脱は、一般酸触媒として作用する酵素残基によって促進される。第2段階において、この同じ残基が一般塩基触媒として作用して、アノマー中心における水分子の攻撃を促進し、中間体を分解して立体化学の保持されたヘミアセタール産物を遊離させる。ファミリー3のグリコシドヒドロラーゼ由来のβ−N−アセチルグルコサミニダーゼは、ファミリー22のC型リゾチームと同様に[82]、このメカニズムを使用することが示された[81]。
【0056】
3番目のメカニズムの選択肢は、酵素の触媒求核試薬の代わりに、基質の2−アセトアミド基の求核性の関与を含む(図1C)。この最後のメカニズムの選択肢は、ファミリー20のグリコシドヒドロラーゼ由来のβ−ヘキソサミニダーゼによって利用される[30、48、83]。これらの3つのメカニズムは、いくつかの面で異なる。逆転メカニズムは、アノマー中心において逆転した立体化学を有する産物の形成を引き起こす1段階の反応である。他の2つの選択肢は、アノマー中心において立体化学を保持し、そして主に中間体の性質において互いに異なる。2番目のメカニズムにおいて、この種は共有結合の酵素付加物であり、一方3番目の場合にはそれは二環性のオキサゾリンまたはオキサゾリニウムイオンであると考えられる。
【0057】
これらのメカニズムの選択肢間の重要な違いは、基質の2−アセトアミド基の関与である。この部分は、リソソームβヘキソサミニダーゼに関するように、求核試薬として触媒作用に積極的に関与し得るか、または受動的に(as a bystander)作用し得る。
【0058】
1.2 基質アナログの合成
基質の2−アセトアミド基の役割に取り組むために、N−アセチル基に異なるレベルのフッ素置換を有する、いくつかの基質アナログを合成した(スキーム1)。高度に電気陰性のフッ素置換基は、カルボニル基の塩基性度を減少させ、そして隣接基補助を用いる酵素反応に対するそのような置換の期待される効果は、その速度を減少させることである。
【0059】
【化12】
1.2.1 基質アナログの合成に関する一般的な手順
この研究において使用した全ての緩衝液塩は、Sigma−Aldrichから得た。乾燥メタノールおよびトルエンは、Acros Organicsから購入した。ジクロロメタンおよびトリエチルアミンは、使用の前にCaH2に対して蒸留することによって乾燥した。β−ヘキソサミニダーゼは、Sigmaから購入した(ロット043K3783)。STZは、Sigma−Aldrichから購入し、そしてサンプルをアッセイの直前に新しく溶解した。PUGNAcはToronto Research Chemicalsから得た。他の試薬は全て、Sigma−Aldrichから購入し、そしてさらなる精製をせずに使用した。全ての緩衝液を調製するためにMilli−Q(18.2mΩ/cm)水を使用した。合成反応を、Merck Kieselgel 60 F254アルミニウム裏打ちシートを使用してTLCによってモニターした。2MのH2SO4中10%のモリブデン酸アンモニウムで焦がし、そして加熱することによって化合物を検出した。Merck Kieselgel 60(230−400メッシュ)によって、指定された溶離剤を用いて、陽圧下でのフラッシュクロマトグラフィーを行った。1H NMRスペクトルを、Varian AS500 Unity Innova分光計で500MHzにおいて記録した(適当な場合にCDCl3、CD3OD、または(CD3)2SOに対する相対的な化学シフトを引用した)。19F NMRスペクトルを、Varian AS500 Unity Innova分光計で470MHzにおいて記録し、そして参照としてCF3CO2Hとプロトンカップリングさせる。13C NMRスペクトルを、Varian AS500 Unity Innova分光計で125MHzにおいて記録した(CDCl3、CD3OD、または(CD3)2SOに対する相対的な化学シフトを引用した)。細胞培養および酵素アッセイにおいて使用した全ての化合物の元素分析を、Simon Fraser University Analytical Facilityにおいて行った。
【0060】
1.2.2 4−メチルウンベリフェロン2−デオキシ−2−アセトアミド−β−D−グルコピラノシドの合成
4−メチルウンベリフェリル2−アミノ−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド塩酸塩(3)を、本質的にRoeserおよびLegler[84]によって記載されたように調製し、そしてさらなる精製無しに使用した。
【0061】
1.2.3 4−メチルウンベリフェリル3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−フルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(4a)の合成
ジメチルホルムアミド(DMF、10mL)中の冷却した(0℃)塩酸塩3(0.50g、1.0mmol)の溶液に、トリエチルアミン(0.3mL、0.21g、2.1mmol)および乾燥ピリジン(10mL)を加えた。乾燥DOWEX−50H+樹脂(6g)を含む乾燥DMF(45mL)の攪拌した混合物に、フルオロ酢酸ナトリウム(0.9g)を加えた。1時間後ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、1.6g、7.8mmol)および30mLのフルオロ酢酸溶液(6.0mmol)を、塩酸塩3を含む反応容器へカニューレによって加えた。できた溶液を0℃で16時間置き、その後TLC分析によって反応が終わったことを判断した。減圧下で溶媒を部分的に除去し、その後酢酸エチル(50mL)および飽和塩化ナトリウム溶液(20mL)を加えた。有機層を回収し、そして水層を酢酸エチルで2回抽出した。あわせた有機抽出物を、水、飽和炭酸水素ナトリウムで2回、および最後に飽和塩化ナトリウムで連続的に洗浄した。有機抽出物を、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして減圧下で溶媒を除去して淡黄色のシロップを得た。フラッシュカラムシリカクロマトグラフィー(2:1;酢酸エチル−ヘキサン)を用いて望ましい産物を精製し、部分的に精製した望ましい化合物を、非晶質の白色固体として得て(約356mg、0.68mmol、68%)、それをさらなる精製なしに、次の工程で使用した。
【0062】
1.2.4 4−メチルウンベリフェリル3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−ジフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(4b)の合成
ジメチルホルムアミドの溶液(DMF、6mL)中の冷却した(0℃)塩酸塩3(0.15g、0.3mmol)の溶液に、トリエチルアミン(0.09mL、0.063g、0.62mmol)および乾燥ピリジン(3mL)を加えた。ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、0.48g、2.3mmol)およびジフルオロ酢酸(0.12mL、0.18g、1.3mmol)を、シリンジによって反応混合物中に加えた。できた溶液を0℃で16時間置き、その後2滴のジフルオロ酢酸を加えた。さらに室温で3.5時間後、TLC分析によって反応が終わったことを判断した。減圧下で溶媒を部分的に除去し、その後酢酸エチル(50mL)および飽和塩化ナトリウム溶液(20mL)を加えた。有機層を回収し、そして水層を酢酸エチルで2回抽出した。あわせた有機抽出物を、水、飽和炭酸水素ナトリウムで2回、および最後に飽和塩化ナトリウム溶液で連続的に洗浄した。有機抽出物を、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして減圧下で溶媒を除去して淡黄色のシロップを得た。グラジエント溶媒系(1:1;ヘキサン−酢酸エチル)を用いたフラッシュカラムシリカクロマトグラフィーを用いて望ましい産物を精製し、部分的に精製した望ましい化合物を、非晶質の白色固体として得て(約0.10mg、0.19mmol、64%)、それをさらなる精製なしに、次の工程で使用した。
【0063】
1.2.5 4−メチルウンベリフェリル3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−トリフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(4c)の合成
ジメチルホルムアミドの溶液(DMF、6mL)中の冷却した(0℃)塩酸塩3(0.10g、0.2mmol)の溶液に、トリエチルアミン(0.06mL、0.42g、0.41mmol)を加えた。次いで反応混合物を0℃まで冷却し、そしてシリンジによってトリフルオロ酢酸無水物(0.08mL、0.12g、5.7mmol)を加えた。できた溶液を0℃で16時間置き、その後TLC分析によって反応が終わったことを判断した。反応混合物を次いで酢酸エチル(20mL)で希釈し、そして飽和塩化ナトリウム溶液(40mL)を加えた。有機相を回収し、そして水相を酢酸エチルで2回抽出した。あわせた有機抽出物を、水、飽和炭酸水素ナトリウムで2回、および最後に飽和塩化ナトリウム溶液で連続的に洗浄した。有機抽出物を、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして減圧下で溶媒を除去して淡黄色のシロップを得た。グラジエント溶媒系(1:1;ヘキサン−酢酸エチル)を用いたフラッシュカラムシリカクロマトグラフィーを用いて望ましい産物を精製し、部分的に精製した望ましい化合物を、非晶質の白色固体として得て(約0.93g、0.17mmol、82%)、それをさらなる精製なしに、次の工程で使用した。
【0064】
1.2.6 4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−フルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(5a−c)の合成の一般的な手順
乾燥メタノール中の各グリコシドの溶液に、スパチュラの先ほどの無水ナトリウムメトキシドを加えた。できた塩基性溶液を、TLC分析によって反応が終わったことを判断するまで、窒素下で攪拌した。Dowex−50H+樹脂を、溶液のpHが中性になるまで、攪拌した反応混合物に加えた。懸濁液をろ過し、そしてフィルターケーキをメタノールで徹底的にすすぎ、その後あわせたろ過物からの溶媒を減圧下で除去した。望ましい脱保護グリコシドを、以下の溶媒システムを用いたフラッシュカラムシリカクロマトグラフィーによって単離した:N−トリ−およびN−ジフルオロアセチル誘導体(5bおよび5c)に関しては酢酸エチル−メタノール−水(12:1:1)、およびN−モノフルオロアセチル誘導体(5a)に関しては酢酸エチル−メタノール(1:1)。産物をエタノールおよびジエチルエーテルから再結晶化して望ましい産物を得、2つの工程の全体的な収率は、N−トリフルオロアセチル誘導体(5c)に関して66%、N−ジフルオロアセチル誘導体(5b)に関して37%、およびN−フルオロアセチル誘導体(5a)に関して45%であった。
【0065】
4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−フルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc−F)(5a)
【0066】
【化13】
4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−ジフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc−F2)(5b)
【0067】
【化14】
4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−トリフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc−F3)(5c)
【0068】
【化15】
1.3 O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの動態分析
1.3.1 動態分析のための実験手順
全てのアッセイを、停止アッセイ(stopped assay)手順を用いて、37℃で30分間、3組行い、ここで酵素反応(25μL)を、6倍過剰(150μL)の反応停止緩衝液(200mMのグリシン、pH10.75)を加えることによって反応停止させる。酵素(3μL)をシリンジで加えることによってアッセイを開始し、そして全ての場合においてできた反応停止溶液の最終的なpHは、10より高かった。β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの時間依存的アッセイは、どちらの酵素も、この期間中そのそれぞれの緩衝液;50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25および50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH6.5の中で安定であったことを明らかにした。30分の終了における反応の進行を、Varian CARY Eclipse Fluoresence−Spectrophotometer 96穴プレートシステムを用いた蛍光測定、および同一の緩衝液条件下での4−メチルウンベリフェロンの標準曲線との比較によって決定した、遊離した4−メチルウンベリフェロンの程度を測定することによって決定した。5mmのスリット開口で、それぞれ368および450nMの励起および発光波長を使用した。ヒト胎盤β−ヘキソサミニダーゼを、Sigma−Aldrichから購入した(ロット043K3783)。O−GlcNAcaseのクローニングおよび発現は、文献に記載されている[85]。両方の酵素を、PBS緩衝液に対して透析し、そしてその濃度をBradfordアッセイを用いて決定した。フッ素化した基質と共にアッセイで使用したβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの濃度(μg/μl)は以下の通りであった:4−メチルウンベリフェリル2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc)(5):0.00077、0.0126;MuGlcNAc−F(5a):0.0031、0.0189;MuGlcNAc−F2(5b):0.0154、0.0756、およびMuGlcNAc−F3(5c):0.0154、0.01523。それに加えて、β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseを、それぞれ0.0154および0.0378の濃度(μg/μL)で使用して、基質5を0.64mMの濃度で使用してインヒビターを試験した。8eのKI値が高いために、インヒビターをそのような高濃度にできないインヒビター8eとβ−ヘキソサミニダーゼのアッセイを除いて、全てのインヒビターを、KIの5倍から5分の1までの範囲の8つの濃度で試験した。KI値を、ディクソンプロットにおけるデータの線形回帰によって決定した。必要な場合には、アッセイを3組行い、そしてエラーバーをデータのプロットに含める。
【0069】
1.3.2 基質アナログを用いた動態分析の結果
リソソームヒトβ−ヘキソサミニダーゼは、隣接基補助を含むメカニズムによって進行することが公知であるので、これらの化合物を、最初にこの酵素と試験した(図2A)。全ての基質に関してMichaelian飽和動態は観察されなかったが(表1)、酵素触媒反応を支配する二次速度定数に比例するVmax[E]0/KMを、ミカエリス−メンテンプロットの最初の傾きから決定し得る(図2A挿入図)。N−アシル置換基のTaft電子パラメーター(σ*)に対するlog Vmax[E]0/KMのプロットは、増加するフッ素置換に対して負の線形の相関を示す(図2C)。予期されるように、カルボニル酸素の塩基性の減少は、触媒作用に有害な影響を有する。Taft様線形自由エネルギー分析の急な負の傾き(反応定数によって与えられる、ρ=−1.0±0.1)は、カルボニル酸素が、アノマー中心を攻撃する求核試薬として作用することを示唆する。
【0070】
【表1】
表1:一連の4−メチルウンベリフェロン2−N−アセチル−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシドのβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcase触媒加水分解に関するミカエリス−メンテンパラメーター。
a各N−アシル置換基に関して使用したTaft電子パラメーター(σ*)は、HanschおよびLeoから得た[86]。
bミカエリス−メンテンデータの非線形回帰によって値を推定した。限られた基質の溶解性のために、アッセイした基質濃度はKMに匹敵するが超えないことに注意。
c基質溶解性の制限のために飽和動態が観察されなかったので、これらの値は決定できなかった。
dミカエリス−メンテンプロットの2次領域の線形回帰によって値を決定した。
【0071】
このデータは、酵素触媒糖質加水分解に関して一般的に提唱された、アノマー中心の求電子性転移および結果としてのオキソカルベニウムイオン様転移状態を含むメカニズムと一致する[80、82]。O−GlcNAcaseに関しては、ミカエリス飽和動態が4つの基質すべてに関して観察され、従って両方の動態パラメーターを決定した(表1、図2B)。O−GlcNAcaseに関して、Vmax[E]0/KMの値もフッ素置換の程度に依存しているが、傾きはよりゆるやかである(ρ=−0.42±0.08、図2C)。これらの結果に基づいて、O−GlcNAcaseは、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼと共通で、隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用するようである。
【0072】
Taft様分析の相関関係の傾きである反応定数(ρ)は、異なる基質に対する反応の感受性の指標である。この定数は、以下の式によって、電気的要素(ρ*、置換基の電気的パラメーター、σ*に対する反応の感受性によって支配される)および空間的要素(δ、置換基の空間的Taftパラメーター、Esに対する反応の感受性によって支配される)の両方の関数であると考え得る。
【0073】
ρ=ρ*+δ(式1)。
【0074】
従って、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseに関して測定された傾きの間の差異は、反応座標に沿った転移状態の位置を反映し得るか、またはリソソームβ−ヘキソサミニダーゼはO−GlcNAcaseよりも空間的に制約のある活性部位構造を有することを示し得る。実際、よくある誤解は、フッ素(147pmのファンデルワールス半径および138pmのC−F結合距離)は、多くの場合水素(120pmのファンデルワールス半径および109pmのC−H結合距離)と比較して、大きさにわずかな違いしかないと考えられることである。従って、基質およびヒトβ−ヘキソサミニダーゼの活性部位の間の不利な空間的相互作用が、電子を超えて、様々なレベルのフッ素置換の間を区別することにさらなる役割を果たし得ることが可能である。実際、ヒトヘキソサミニダーゼBの最近の結晶構造は、3つのトリプトファン残基の間にアセトアミド基を堅固に抱える、注意深く構成されたポケットを明らかにした[78、87]。O−GlcNAcaseに関しては、3次元構造は入手可能でない。しかし、全ての基質アナログに関して測定された相対的な定数KM値は、空間的影響は主要な誘因ではなく、そしてN−アシル−フッ素置換基の電子的影響が優勢であることを示唆する。アセトアミド基に2つまたは3つのフッ素置換基を有する2つのパラ−ニトロフェニル2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(pNP−GlcNAc)を用いた、未知のファミリーの単離された酵素についての初期の研究は、−1.41±0.1のρ*を得た[88]。この値は、この研究においてリソソームβ−ヘキソサミニダーゼに関して見出されたもの(ρ*=−1.0±0.1)よりさらに大きく、Aspergillus nigerからKosmanおよびJonesが研究した酵素は、ファミリー84ではなく、ファミリー20のグリコシドヒドロラーゼのメンバーである可能性が高い。
【0075】
1.3.3 NAG−チアゾリンをインヒビターとして使用した動態分析の結果
O−GlcNAcaseが、隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用するかどうかのさらなる試験として、インヒビターNAG−チアゾリン(9a)をこの酵素と試験した。二環性オキサゾリン中間体の模倣物として設計されたNAG−チアゾリンは、ファミリー20ヘキソサミニダーゼのインヒビターとして機能することが以前に示された[30、48]。pNP−GlcNAcを基質として使用して、NAG−チアゾリンは、ファミリー84ヒトO−GlcNAcaseの強力なインヒビターであることが見出され、そして競合的阻害の明らかなパターンが観察された(図3)。非線形回帰が、pH7.4における180nMのKI値を明らかにし、そしてMU−GlcNAc(5)を用いた分析が、pH6.5における70nMのKI値を明らかにした。従って、NAG−チアゾリンは、O−GlcNAcaseの強力なインヒビターであり、pH6.5において親の糖類であるGlcNAc(KI=1.5mM)よりも約21000倍強く結合する。この強力な阻害は、NAG−チアゾリンの推定されるオキサゾリン中間体または構造的に関連する転移状態との類似に起因し得る。実際、観察された阻害データは、ファミリー20ヒトリソソームβ−ヘキソサミニダーゼ(KI=70nM、KI値が1.2mMであるGlcNAcより17000倍強い)に関して発明者が測定したものと同様であり、そしてO−GlcNAcaseは、ファミリー20β−ヘキソサミニダーゼと同様、隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用することを示すTaft様分析を強力に支持する。オリゴ糖鎖を切断するよう作用するエンドグリコシダーゼである、ファミリー18[89]および56[90]のグリコシドヒドロラーゼも、隣接基補助を含むメカニズムを使用することが示された[91]。従って、ファミリー18、20、56および84は全て、基質のアセトアミド基からの隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用する保持性グリコシダーゼから成る。これは、そのそれぞれの基質の2位にアセトアミド基を有する基質に作用するファミリー3および22の保持性β−グリコシダーゼ[81、82]、およびファミリー23逆転エンドグリコシダーゼと非常に対照的である。
【0076】
【表2】
表2:O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼ両方に関するインヒビターの阻害定数および選択性。全てのKI値を、ディクソンプロットの線形回帰を用いて決定した。
【0077】
(実施例2:選択的O−GlcNAcaseインヒビターの最初の実施態様の設計および合成)
2.1 選択的O−GlcNAcaseインヒビターの最初の実施態様の設計
ヒトO−GlcNAcase、および拡張して(by extenstion)ファミリー84のグリコシドヒドロラーゼの他のメンバーのメカニズムが確立され、ヒトリソソームβ−ヘキソサミニダーゼよりもこの酵素に選択的なインヒビターの設計にこの情報を使用することへ注意が向けられた。β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseはどちらも隣接基補助を含むメカニズムを使用するので、必要な選択性を生ずるよう作り上げ得る足場として、NAG−チアゾリンを選択した。3つの観察が、そのインヒビターの設計における開始点を提供した。最初のものは、リソソーム酵素のTaft様分析の傾きが、O−GlcNAcaseに関して測定されたものよりもかなり急で、それによってN−アシル基の大きさが、基質認識における決定要因であり得ることを示唆することである(前述を参照のこと)。2番目の、そして関連する考察は、ヒトリソソームβ−ヘキソサミニダーゼBの構造は、アセトアミド置換基のメチル基が釣り合う、ぴったり合うポケットを明らかにする[78]。3番目は、大きなN−アシル置換基を有するSTZが、β−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseにいくらかの選択性を示すことである[46]。
【0078】
2.2 選択的O−GlcNAcaseインヒビターの最初の実施態様の合成
一連の7つのインヒビターを調製し、ここでチアゾリン環を、これらの化合物がリソソームヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseについての明確な阻害を可能にすることを期待して、増加する長さの脂肪族の鎖と共に合成した。このインヒビターのパネルの合成を、スキーム2で概略を述べる。この容易な合成経路は、市販で入手可能な開始材料から3つの工程で、または安価な開始材料2−アミノ−2−デオキシ−グルコピラノースから6つの工程で、多量のインヒビターの産生を可能にする。
【0079】
【化16】
2.2.1 化合物の合成の一般的な手順
一般的な手順は、上記で述べた基質アナログの合成と同じである。
【0080】
2.2.2 1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース(7a−g)の合成の一般的な手順
1容積の乾燥ジクロロメタン中の2−アミノ−2−デオキシ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノース(6)[92]の塩酸塩の溶液に、2当量の乾燥トリエチルアミンを加え、このとき開始材料を溶解した。反応混合物を0℃に冷却し、そして1.2当量の適当な塩化アシルをシリンジで加えた。できた混合物を、室温で約2時間攪拌した。TLC分析によって反応混合物が完了したことを判断した時に、5容積の酢酸エチルを加えた。できた有機相を、水、1MのNaOH、および飽和塩化ナトリウムで連続的に洗浄した。有機相をMgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして濃縮して白色の結晶性固体を得た。その物質を、酢酸エチルおよびヘキサンの混合物を用いて再結晶化し、望ましいN−アシル化された物質を、46から74%の範囲の収率で得た。
【0081】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−プロピル−β−D−グルコピラノース(7b)
【0082】
【化17】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−ブチル−β−D−グルコピラノース(7c)
【0083】
【化18】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−ペンチル−β−D−グルコピラノース(7d)
【0084】
【化19】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−ヘキシル−β−D−グルコピラノース(7e)
【0085】
【化20】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−イソブチル−β−D−グルコピラノース(7f)
【0086】
【化21】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−イソペンチル−β−D−グルコピラノース(7g)
【0087】
【化22】
2.2.3 3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(3,4,6−トリ−O−アセチル−NAG−チアゾリンアナログ)(8a−g)の合成の一般的な手順
無水トルエン中の適当な1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−N−アシル−2−デオキシ−β−D−グルコピラノース(7a−g)の溶液に、ローソン試薬(0.6当量)を加え、そして反応混合物を2時間還流し、その後TLC分析によって反応が完了したことを判断した。溶液を室温に冷却し、そして溶媒を減圧下で除去した。残渣をトルエンに溶解し、そしてヘキサンおよび酢酸エチルの4:1から1:2まで範囲の適当な比の溶媒システムを用いて、フラッシュカラムシリカクロマトグラフィーによって望ましい物質を単離した。62から83%の範囲の収率で産物を単離した。3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−メチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8a)は、上記で記載されたような同様の反応条件を用いて以前に調製された[30]。全てのスペクトルの特徴は、文献の値と一致した。
【0088】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8b)
【0089】
【化23】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8c)
【0090】
【化24】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8d)
【0091】
【化25】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8e)
【0092】
【化26】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8f)
【0093】
【化27】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8g)
【0094】
【化28】
2.2.4 1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(NAG−チアゾリンアナログ)(9a−g)の合成の一般的な手順
乾燥メタノール中の適当な保護チアゾリン(8a−g)の溶液に、スパチュラの先ほどの無水ナトリウムメトキシドを加えた。その塩基性溶液を、TLC分析によって反応が完了したと判断するまで(典型的には2時間)攪拌した。メタノール中の氷酢酸の溶液(1:20)を、溶液のpHが中性になるまで、反応混合物中に1滴ずつ加えた。次いで溶媒を減圧下で除去し、そして酢酸エチルおよびメタノールの2:1から6:1までの範囲の適当な比の溶媒システムを用いて、フラッシュカラムシリカクロマトグラフィーによって望ましい物質(9a−g)を単離した。産物を86%から99%までの範囲の収率で単離した。1,2−ジデオキシ−2’−メチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9a)は、上記で記載されたような同様の反応条件を用いて以前に調製された[30]。全てのスペクトルの特徴は、これらのアッセイで使用したサンプルの元素分析と同様、文献の値と一致した。C8H13O4NSの計算値;C,43.82;H,5.98;N,6.39;実測値 C,43.45;H,6.23;N,6.18。
【0095】
1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9b)
【0096】
【化29】
1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9c)
【0097】
【化30】
1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9d)
【0098】
【化31】
1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9e)
【0099】
【化32】
1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9f)
【0100】
【化33】
1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9g)
【0101】
【化34】
2.3 インヒビター9a−gを用いた動態分析
2.3.1 動態分析の実験手順
全てのアッセイを、停止アッセイ手順を用いて、37℃で30分間、3組行い、ここで酵素反応(25μL)を、6倍過剰(150μL)の反応停止緩衝液(200mMのグリシン、pH10.75)を加えることによって反応停止させる。酵素(3μL)をシリンジで加えることによってアッセイを開始し、そして全ての場合においてできた反応停止溶液の最終的なpHは、10より高かった。β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの時間依存的アッセイは、どちらの酵素も、この期間中そのそれぞれの緩衝液;50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25および50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH6.5の中で安定であったことを明らかにした。30分の最後における反応の進行を、Varian CARY Eclipse Fluoresence−Spectrophotometer 96穴プレートシステムを用いた蛍光測定および同一の緩衝液条件下での4−メチルウンベリフェロンの標準曲線との比較によって決定した、遊離した4−メチルウンベリフェロンの程度を測定することによって決定した。5mmのスリット開口で、それぞれ368および450nMの励起および発光波長を使用した。可能性のあるO−GlcNAcaseの時間依存的不活性化を、10mMのSTZを、50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、1%のBSA、5mMのβ−メルカプトエタノール、pH6.5の存在下で0.016mg/mLのO−GlcNAcaseと、または50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25の存在下で0.036mg/mLのβ−ヘキソサミニダーゼとインキュベートすることによってアッセイした。いくつかの時間間隔で、不活性化混合物中に含まれる残留酵素活性をアッセイした。反応を、反応混合物のアリコートを5.7mMのMU−GlcNAcおよび各酵素に適当な緩衝液を含むアッセイ混合物に加えることによって始めた以外は、上記で各酵素に関して記載されたようにアッセイを行った。STZの安定性を、まずNMRによって重水素化水中でのその分解を追跡することによって試験した。室温での水性溶液におけるSTZの半減期は、室温でNMRによってその分解を追跡することによって決定したように、6時間より十分長かった。ヒト胎盤β−ヘキソサミニダーゼを、Sigma−Aldrichから購入した(ロット043K3783)。O−GlcNAcaseのクローニングおよび発現は、文献に記載されている[85]。両方の酵素を、PBS緩衝液に対して透析し、そしてその濃度をBradfordアッセイを用いて決定した。フッ素化した基質と共にアッセイで使用したβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの濃度(μg/μl)は以下の通りであった:4−メチルウンベリフェリル2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc)(5):0.00077、0.0126;MuGlcNAc−F(5a):0.0031、0.0189;MuGlcNAc−F2(5b):0.0154、0.0756、およびMuGlcNAc−F3(5c):0.0154、0.01523。それに加えて、β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseを、それぞれ0.0154および0.0378の濃度(μg/μL)で使用して、基質5を0.64mMの濃度で使用してインヒビターを試験した。インヒビター8eのKI値が高いために、インヒビターをそのような高濃度にできないインヒビター8eとβ−ヘキソサミニダーゼとのアッセイを除いて、全てのインヒビターを、KIの5倍から5分の1までの範囲の8つの濃度で試験した。KI値を、ディクソンプロットにおけるデータの線形回帰によって決定した。必要な場合には、アッセイを3組行い、そしてエラーバーをデータのプロットに含める。
【0102】
2.3.2 インヒビター9a−gを用いた動態分析の結果
ヒトβ−ヘキソサミニダーゼの阻害の分析は、鎖の長さを増加させることは、これらのインヒビターの効力の顕著な減少を引き起こすことを明らかにした(図4および表2)。1つのメチレンユニットの含有さえも(化合物9b)、親化合物NAG−チアゾリン(9a)と比較して、β−ヘキソサミニダーゼのKI値における460倍の増加を引き起こした。鎖の長さのさらなる増加は、KI値のさらに大きな増加を引き起こす。しかし、O−GlcNAcaseに関しては、状況は著しく異なる(図4および表2)。鎖の長さの増加は、非常によりよく許容され、そして2つのメチレンユニットの含有は、KI値(KI=230nM)が親化合物(9a)NAG−チアゾリン(KI=70nM)で測定されたものより3倍しか高くない化合物(9c)を生じる。化合物9fおよび9gはどちらもO−GlcNAcaseのよいインヒビターであるので、脂肪鎖の分枝も、結合を損なわない。データの分析から、化合物9b、9c、および9fはO−GlcNAcaseの強力なインヒビターであり、そしてリソソームヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに顕著な選択性を示すことを見出し得る。実際、β−ヘキソサミニダーゼに対するO−GlcNAcaseへの選択性の比は、化合物9dに関して3100倍、化合物9cに関して1500倍、および化合物9fに関して700倍である(図2および表2)。
【0103】
2.3.3 既存のインヒビターを用いた動態分析の結果
O−GlcNAcaseの既存のインヒビターも、その阻害特性および選択性に関して試験した。STZのO−GlcNAcase(KI=1.5mM)およびβ−ヘキソサミニダーゼ(KI=47mM)両方とのKI値を決定し(表2)、そしてO−GlcNAcaseに関して測定した値は、1から2.5mMの範囲であった以前のIC50の決定と一致することが見出された[42、46]。STZのβ−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに対する選択性は、この化合物のN−アシル基の大きさを考慮すると驚くほど中程度である(31倍)。おそらく、チアゾリン化合物は、転移状態または密接に結合した中間体を模倣し得るという事実のために、STZよりも高い選択性を示す。可能性のあるO−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼのSTZ誘導不可逆的不活性化も調査した。不可逆的インヒビターは、失活剤がタンパク質を修飾するので、酵素活性の時間依存的な喪失を引き起こす。まず水性溶液中でのSTZの安定性および市販で入手可能な物質の純度をチェックするために、重水素化水中に新しく溶解したSTZの時間依存的分解を、NMRによってモニターした。STZは、あきらかに6時間より長い半減期で、時間とともに分解した(図7を参照のこと)。発明者の手において、新しく溶解したSTZは、6時間を超えてはO−GlcNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼの時間依存的な失活剤として作用しなかった(図8を参照のこと)。PUGNAcの選択性も調査した。PUGNAcのKI値をO−GlcNAcaseで測定し(KI=46nM)、そして以前に決定された値(KI=50nM)とほぼ一致することが見出された[13]。しかし、この化合物は、β−ヘキソサミニダーゼ(KI=36nM)と比較して、O−GlcNAcaseに選択性を示さない。
【0104】
これらのデータはまた、上述の、フッ素置換基質のN−アシル基の立体容積は、O−GlcNAcaseで測定されたTaft様分析の傾き(ρ=−0.42)に大きくは寄与しないという見方を支持する。しかし、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼで測定された傾き(ρ=−1.0)は、式1による電気的効果および立体的効果の両方を複合したもののようである。フッ素置換基の電気的効果に対する反応の感受性(ρ*)は、従って両方の酵素に関して同じであり得るが、基質の立体的効果に対するリソソームβ−ヘキソサミニダーゼ触媒反応の有意な感受性(δ)は、O−GlcNAcaseで測定されたものよりも、β−ヘキソサミニダーゼに関して明らかに急な傾きをもたらす。合わせると、Taft様線形自由エネルギー分析および選択的阻害のデータは、O−GlcNAcaseの活性部位は、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼよりも、基質の2−アセトアミド基周囲の領域にかなり大きなスペースを有することを示唆する。
【0105】
(実施例3:選択的O−GlcNAcaseインヒビターの2番目の実施態様の設計および合成)
3.1 2番目のクラスの選択的O−GlcNAcaseインヒビターの設計
上記の観察に基づいて、PUGNAcのぶら下がったN−アシル鎖に修飾をして、異なるインヒビターの足場に基づいた、強力および選択的なO−GlcNAcaseのインヒビターの2番目の実施態様を得た。そのようなインヒビターは、異なる薬物動態の性質を有し、そして細胞および有機体レベルにおけるO−GlcNAc翻訳後修飾の役割を分析するために貴重なツールであり得る。
【0106】
3.2 選択的O−GlcNAcaseインヒビターの2番目の実施態様の合成
足場としてPUGNAcを用いた一連の6つのインヒビターの合成を、スキーム3において概略を述べる。
【0107】
【化35】
容易に利用可能な塩酸塩10[93]から開始して、Boc基を導入してアミン部分を保護し、四酢酸塩11[94]を得た(スキーム3)。四酢酸塩11を利用して、(NH4)2CO3を用いた選択的脱−O−アセチル化は、非常に良い収率でヘミアセタール12を産生した。このヘミアセタール12をNH2OH.HClで処理して、未精製のEおよびZオキシム13を良い収率で得た。
【0108】
次の反応である酸化的閉環反応は、MohanおよびVasellaによって、かなり神経質(temperamental)であることが報告された(スキーム4)。
【0109】
【化36】
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)およびN−クロロスクシンイミド(NCS)を用いてオキシム14を酸化する場合、NCSを加える間の反応混合物の温度の注意深いコントロールが、望ましくない1,4−ラクトンオキシム15の形成を避けるために重要である[95]。これらの観察と一致して、いくつかの14を用いた試行反応は、望ましくない1,4−ラクトンオキシム15よりも1,5−ラクトンオキシム16をうまく産生するために、温度が実際重要であることを示す。実際、わずかに上昇した温度(−20℃)においては、1,4−ラクトンオキシム15のみを得る。
【0110】
スキーム3に戻って参照して、文献の条件下[95]でオキシム13をDBU/NCSで処理して、望ましい1,5−ラクトン17および望ましくない1,4−ラクトンオキシム18を4:1の比で得た。しかし、NCSを既に溶液中に13と共に有し、そして次いでDBUを混合物に加えるだけで、いくらか低い収率ではあったが、17のみを得た。ここで直面する1つの複雑な状況は、これらの反応の副産物であるスクシンイミドは、17から分離するのが困難であることである。さらに、17のスペクトル分析は、1H NMRスペクトルにおいて得られるシグナルの広幅化のために複雑である。
【0111】
それにもかかわらず、純粋でないヒドロキシモラクトン(hydroximolactone)17をフェニルイソシアネートで処理すると、フラッシュクロマトグラフィーによる精製後、よい収率で純粋なカルバメート19を得る。実際、Boc保護基は、ジクロロメタン中で無水トリフルオロ酢酸を用いてスムーズに除去される。できた未精製のアミン塩20を適当な塩化アシルで処理すると、全体的によい収率でアミド21a−gを得る。21aおよび21bの詳細な分析は、化合物のこの全体的なN−アシル化系列の正体を支持する。続くメタノール中における飽和アンモニアによる21aの脱−O−アセチル化は、よい収率でPUGNAcを生ずる。同様の様式で22aを21bから得た。これらの変換の容易さを強調するために、共通の中間体、20をある範囲の塩化アシルで処理して、21c−gを未精製産物として得ることができる。これらの未精製中間体をすぐ脱−O−アセチル化して、よい収率でトリオール22b−fを容易に得る。
【0112】
3.2.1 化合物の合成の一般的な手順
全ての溶媒を、使用の前に乾燥した。合成反応を、Merck Kieselgel 60 F254アルミニウム裏打ちシートを用いて、TLCによってモニターした。エタノール溶液中10%の濃硫酸で焦がし、そして加熱することによって化合物を検出した。陽圧下でのフラッシュクロマトグラフィーを、Merck Kieselgel 60(230−400メッシュ)で、指定された溶出剤を用いて行った。1Hおよび13C NMRスペクトルを、Bruker AMX400で400MHzにおいて(13Cに関しては100MHz)、またはVarian AS500 Unity Innova 分光計で500MHzにおいて(13Cに関しては125MHz)記録した(ケミカルシフトは適当な場合にはCDCl3またはCD3ODと相対的に引用した)。酵素アッセイにおいて使用した全ての合成化合物の元素分析を、Simon Fraser Universityまたはthe University of British Columbia Analytical Facilityにおいて行った。
【0113】
3.2.2 (E)−および(Z)−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−tert−ブトキシカルボンアミド−2−デオキシ−D−グルコースオキシム(13)の合成
塩酸ヒドロキシルアミン(3.2g、46mmol)を、MeOH(200mL)中のヘミアセタール12[93](12g、31mmol)およびピリジン(6.3mL、77mmol)に加え、そしてできた溶液を還流しながら攪拌した(2h)。その溶液を濃縮し、そしてトルエン(2×20mL)と同時蒸発させた。残渣をEtOAcに取り、そして水(2×50mL)、ブライン(50mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、ろ過および濃縮して推定されるオキシム13(9.5g)を得た。残渣をさらなる精製無しに使用した。
【0114】
3.2.3 3,4,6−トリ−O−アセチル−2−tert−ブトキシカルボンアミド−2−デオキシ−D−グルコノヒドロキシモ−1,5−ラクトン(17)の合成
(a)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(0.98mL、6.6mmol)を、CH2Cl2(60mL)中の未精製のオキシム13(2.5g、5.9mmol)に−45℃で加え、そして混合物を攪拌した(5分)。次いでN−クロロスクシンイミド(0.87g、6.5mmol)を、温度が−40℃を超えないように、溶液に加え、そしてできた混合物をこの温度で30分間攪拌し、そして次いで2時間以上室温まで温めた。その混合物を水で反応停止し、そしてEtOAc(100mL)で希釈した。有機層を分離し、そして水(2×50mL)、ブライン(1×50mL)で洗浄し、乾燥(MgSO4)させ、ろ過および濃縮した。できた残渣のフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン2:3)で、表題化合物17を、無色の油状物(1.7g、68%)として得た。1Hおよび13C NMRスペクトルは、目的の化合物を示すようであったが、1,4−ラクトンオキシム18およびスクシンイミドが混入していた。
【0115】
(b)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(3.0mL、20mmol)を、−45℃においてCH2Cl2(110mL)中のオキシム13(7.7g、18mmol)およびN−クロロスクシミニド(2.7g、20mmol)に、温度が−40℃を超えないように加え、そしてできた混合物をこの温度で30分間攪拌し、そして次いで2時間以上室温まで暖めた。混合物を続いて(a)におけるように処理し、表題化合物17(4g、52%+)を得た。
【0116】
【化37】
3.2.4 O−(3,4,6−トリ−O−アセチル−2−tert−ブトキシカルボンアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(19)の合成
フェニルイソシアネート(0.5mL、3.7mmol)を、THF(50mL)中のラクトン17(1.3g、3.1mmol)およびEt3N(1.3mL、9.3mmol)に加え、そして溶液を攪拌した(室温、3h)。濃縮に続いて、残渣のフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン1:4)によって、カルバメート19を無色の油状物(1.2g、71%)として得た。
【0117】
【化38】
3.2.5 O−(3,4,6−トリ−O−アセチル−2−アシルアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(21a−g)の一般的な合成手順
トリフルオロ酢酸(13mmol)を、CH2Cl2(10mL)中のカルバメート19(1mmol)に0℃で加え、そして溶液を攪拌した(2h)。次いでピリジン(200mmol)を溶液にゆっくりと加え、そしてできた混合物を放置した(0℃、10分)。次いで適当な塩化アシル(3mmol)を0℃で加え、そして溶液を4℃で一晩置いた。混合物の濃縮によって、黄色がかった残渣を生じ、それをEtOAc(30mL)に溶解し、そして水(2×20mL)、ブライン(1×20mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、ろ過および濃縮した。推定される中間体トリ−O−アセテート21c−gに関して、これらをさらなる精製無しに維持した。21aおよび21bと推定される残渣のフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン1:1)は、望ましいアシル誘導体21aおよび21bを、それぞれ48%および42%の収率で生じた。
【0118】
O−(2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(21a)は、文献で見出されるものと一致する1Hおよび13C NMRスペクトルを生じた。[96](48%) Rf0.2(EtOAc/ヘキサン7:3)。
【0119】
O−(3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−プロパミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(21b)
【0120】
【化39】
3.2.6 O−(2−アシルアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(PUGNAc、22a−f)を合成するための一般的手順
MeOH(2mL)中のアンモニア飽和溶液を、MeOH(10mL)中のカルバメート(0.3mmol)に加え、そして溶液を放置した(室温、2h)。濃縮に続く、残渣のフラッシュクロマトグラフィー(MeOH/EtOAc3:97)によって、望ましいトリオールPUGNAc、22a−fを、21%から32%の範囲の収率で得た。
【0121】
O−(2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(PUGNAc)−(32%)は、文献で見出されるものと一致する1Hおよび13C NMRスペクトルを生じた。[96]
Rf 0.15(MeOH/EtOAc 1:19)。
【0122】
O−(2−デオキシ−2−プロパミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22a)−
【0123】
【化40】
O−(2−デオキシ−2−ブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22b)−
【0124】
【化41】
O−(2−デオキシ−2−吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22c)−
【0125】
【化42】
O−(2−デオキシ−2−ヘキサミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22d)−
【0126】
【化43】
O−(2−デオキシ−2−イソブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22e)−
【0127】
【化44】
O−(2−デオキシ−2−イソ吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22f)−
【0128】
【化45】
3.3 インヒビター22a−fを用いた動態分析
3.3.1 動態分析の実験手順
全てのアッセイを、停止アッセイ手順を用いて、37℃で30分間、3組行い、ここで酵素反応(50μL)を、4倍過剰(200μL)の反応停止緩衝液(200mMのグリシン、pH10.75)を加えることによって反応停止した。酵素(5μL)をピペットで注意深く加えることによってアッセイを開始し、そして全ての場合においてできた反応停止溶液の最終的なpHは、10より高かった。O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの時間依存的アッセイは、酵素は、アッセイの期間中そのそれぞれの緩衝液:50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH6.5、および50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25の中で安定であったことを明らかにした。30分の最後における反応の進行を、96穴プレート(Sarstedt)および96穴プレートリーダー(Molecular Devices)を用いて400nmにおけるUV測定によって決定される、遊離した4−ニトロフェノールの程度を測定することによって決定した。ヒト胎盤β−ヘキソサミニダーゼを、Sigmaから購入し(ロット043K3783)、そしてO−GlcNAcaseを使用の前に新しく過剰発現および精製した。[85]O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼを、阻害アッセイにおいて、それぞれ0.0406および0.012の濃度(μg/μL)で、基質pNP−GlcNAcを0.5mMの濃度で用いて使用した。その高いKI値のために、インヒビターをそのような高濃度にできないインヒビター22dとβ−ヘキソサミニダーゼとのアッセイを除いて、全てのインヒビターをKIの3倍から3分の1の範囲の7つの濃度で試験した。KI値を、ディクソンプロットからのデータの線形回帰によって決定した。
【0129】
3.3.2 インヒビター22a−fを用いた動態分析の結果
上記で述べたように、PUGNAcは、O−GlcNAcase[13、50]およびβ−ヘキソサミニダーゼ[28、51]両方の強力な競合的インヒビターである。ヒト酵素に関して、それぞれのKI値は46nMおよび36nMである[13、49]。インヒビター22a−fの選択性を評価し、そしてPUGNAcと比較した。pNP−GlcNAcを基質として用いて、これらの化合物22a−fは、ヒトO−GlcNAcaseおよびヒトβ−ヘキソサミニダーゼ両方のインヒビターであることが見出された(表3)。
【0130】
【表3】
(表3.O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼに対するインヒビターの阻害定数および選択性)
ヒトβ−ヘキソサミニダーゼの阻害の分析は、N−アシル基の鎖の長さの増加は、これらインヒビターの効力の顕著な減少を引き起こすことを明らかにする(表3)。1つのメチレン基のみを含むこと(化合物22a)は、親PUGNAcと比較して、β−ヘキソサミニダーゼに関してKI値の33倍の増加を引き起こす。鎖の長さのさらなる増加は、さらに大きなKI値の増加を引き起こす。さらに、O−GlcNAcaseは、β−ヘキソサミニダーゼよりもよく鎖の長さの増加を許容する(表3)。
【0131】
これら2つのヒト酵素、O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼに関して、以前に調製したNAG−チアゾリン誘導体、9b−g[49]のKI値との直接比較は、修飾チアゾリンは、対応するPUGNAcに基づく化合物、22a−fよりも選択的および強力なインヒビターであることを明らかにする。これらの観察は、インヒビターのアシル基の位置、および潜在的にアノマー炭素の混成状態の重要性を示す。sp3混成アノマー炭素を有するチアゾリン、NAG−チアゾリンおよび9b−gは、sp2混成アノマー炭素を有する対応するPUGNAc誘導体、PUGNAcおよび22a−fのアシル鎖と比較して、アシル鎖の動きを制限する二環性の足場を含む。同様に、活性部位内の側鎖の正確な配置は、これらの2つのセットの化合物の間で異なっているに相違ない。合わせると、これらの2つの因子が、チアゾリン誘導体と比較した、PUGNAc由来の化合物の全体的にいくらか弱い阻害および低い選択性の両方に寄与しているに相違ない。これらの観察と一致して、O−GlcNAcaseの弱いインヒビター(KI=1.5mM)であるストレプトゾトシン(STZ)も[46、47、49]、大きな、自由に回転するアシル鎖を有し、そしてβ−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに中程度の選択性を示す[46、47、49]。
【0132】
チアゾリンに基づく化合物、NAG−チアゾリンおよび9b−g、とPUGNAc誘導体、PUGNAcおよび22a−fとの間のこれらの違いは、O−GlcNAcase[49]およびβ−ヘキソサミニダーゼ[30、48、83、97]の触媒メカニズムに関与する、推定される二環性様の転移状態を模倣する前者の化合物に起因し得る。対照的に、PUGNAcアナログおよびSTZのN−アシル基の位置は、天然基質N−アセチル−D−グルコピラノシドのものに類似し得る。PUGNAcおよびチアゾリン誘導体のアノマー炭素の異なる混成状態も、これらのN−アシル基の正確な位置に寄与し得る。
【0133】
上記で調製した化合物は全て、ヒトO−GlcNAcaseおよびヒトβ−ヘキソサミニダーゼ両方のインヒビターであった。しかし、これらの化合物は、これら2つの酵素間の活性部位構造における違いを利用し、それはそれらをO−GlcNAcaseに対して選択性にする。チアゾリン誘導体と比較して、PUGNAcアナログの低い選択性にも関わらず、これらの化合物は、その異なる足場のために異なる薬物動態特性を有し得る。従って、チアゾリンおよびPUGNAc誘導体はどちらも、細胞および有機体レベルにおけるO−GlcNAc翻訳後修飾の役割を詳細に分析するための貴重なツールであることが示され得る。実際、他のグリコシダーゼインヒビターの合成が、全く異なる酵素を標的とした、臨床的に有用な化合物を生じた。[98]同様に、ここで概略を述べた戦略を用いた、他のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼインヒビターの足場の体系的な合成[99、100]も、ヒトO−GlcNAcaseの選択的インヒビターを生じ得る。
【0134】
(実施例4:細胞培養物における選択的インヒビターの評価)
インビトロにおいてこれらの化合物の選択性が示されたので、生きた細胞におけるその化合物の使用を評価した。
【0135】
4.1 実験手順
4.1.1 細胞培養物および阻害
COS−7細胞を、5−10%のFBS(Invitrogen)を補充したDMEM培地(Invitrogen)で培養した。インヒビターのアリコート(95%エタノール中50μLのストック)を、組織培養プレートに分け、そしてエタノールを蒸発させた。細胞を37℃で40時間培養し、その時それらは約80%コンフルエンスに達した。細胞において50μMの化合物9a、9c、または9gによる処理に反応した、O−GlcNAc修飾タンパク質の時間依存的な蓄積を、以下のように研究した。COS−7細胞を、5%のFBS中で25%コンフルエンスまで培養し、そして培地に溶解およびろ過滅菌したインヒビターのアリコート(100μL)を各プレートに加えて、最終的なインヒビターの濃度を50μMにした。COS−7細胞(2×10cmプレート)を、適当な時間に掻爬することによって採取し、そして遠心分離(200×g、10分)によってプールした。細胞をPBS、pH7.0(10mL)で1回洗浄し、そしてペレットにした(200×g、10分)。細胞をこの時点で−80℃で凍結し得る。インヒビターなしのコントロール培養物を、同じ方式で処理した。
【0136】
4.1.2 ウェスタンブロット分析
COS−7細胞を、上記で記載したようにインヒビター9a、9c、または9gの存在下で、約90%コンフルエンスまで培養した。コントロール細胞の培養物を、以下と同じ方式で処理したが、培養物はインヒビターを含まなかった。細胞を、上記で記載したように採取した。凍結細胞を4℃で解凍し、そして冷却溶解緩衝液(150mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのPMSF、1%のNP−40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、および1mMのインヒビター9fを含む1mLの50mM Tris、pH8.0)を加えた。4℃で10分後、溶液をエッペンドルフ5415C微量遠心機で、14,000rpmで遠心分離し、そして上清を回収した。SDS/PAGEローディング緩衝液を、各サンプルのアリコート(15μL)に加え、そして96℃に加熱した後、アリコートを10%または12%のTris・HClポリアクリルアミドゲルにロードした。電気泳動後、サンプルをニトロセルロース膜(0.45μm、Bio−Rad)に電気ブロットした。着色マーカー(Dual Colour Precision Plus Protein Standard−BioRad)の転移を目で検査することによって、転移を確認した。0.1%のTween20を含む、PBS中5%のBSA(画分V、Sigma)(マウス抗O−GlcNAcモノクローナルIgM抗体(MAb CTD 110.6−Covance)でプローブするサンプルのためのブロッキング緩衝液A)、または5%低脂肪乾燥粉乳(抗β−アクチンでプローブするサンプルのためのブロッキング緩衝液B)、pH7.4を用いて、室温で1時間または4℃で一晩ブロックした。ブロッキング溶液をデカントで捨て、そしてMAb CTD 110.6を含むブロッキング緩衝液A(ストックの1:2500)、またはマウスモノクローナル抗β−アクチンIgG(クローンAC−40−Sigma)を含むブロッキング緩衝液Bの溶液を、適当に加えた(1:1000希釈)。膜を室温で1時間、または4℃で一晩インキュベートし、その後ブロッキング緩衝液をデカントで捨て、そして0.1%のTween20を含むPBS、pH7.4(洗浄緩衝液)で膜をすすいだ。次いで膜を洗浄緩衝液で2×5分および3×15分すすいだ。O−GlcNAcの免疫学的検出のために、膜をブロッキング緩衝液A中で、RTで1時間インキュベートし、洗浄後、膜を2次ヤギ抗マウスIgM−HRP結合体(1:2500、Santa Cruz Biotech)と、RTで1時間、または4℃で一晩、ブロッキング溶液中でインキュベートした。β−アクチンレベルの検出のために、膜を2次ヤギ抗マウスIgG−HRP結合体(1:10000、Sigma)と、RTで1時間、または4℃で一晩、ブロッキング溶液B中でインキュベートした。膜を洗浄し、そして膜に結合したヤギ抗マウスIgG−HRP結合体の検出を、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Detection Kit(Pierce)およびフィルム(Kodak Biomax MR)を用いて、化学発光検出によって達成した。
【0137】
4.2 細胞研究の結果
50μMのインヒビター9a、9c、または9gとプレートでインキュベートしたCOS−7細胞は、コントロール細胞と比較して、増殖速度または形態において異常を示さなかった(データは示していない)。インヒビター9a、9c、または9gの存在下で、またはその非存在下で40時間培養した細胞内のO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルの検出を、O−GlcNAcに対するモノクローナル抗体(64)mAbCTD110.6を用いて実施した。コントロールと比較して、細胞内のO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルにおける顕著な増加が観察され(図5A)、これらの化合物は容易に細胞内部に入り、そこでO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示した。チアゾリンインヒビター(9c)がCOS−7細胞内でO−GlcNAcase作用を阻害するよう作用する速度も探索した。ウェスタンブロット分析を用いてO−GlcNAc修飾タンパク質のレベルをモニターすることによって、O−GlcNAc修飾タンパク質のレベルにおいて明らかな時間依存的増加が見出された。インヒビター(9c)への曝露の1時間後でさえ、O−GlcNAc修飾タンパク質レベルの増加が観察された。インヒビターは、細胞に迅速に入り、そこでO−GlcNAcaseをすぐに阻害して、O−GlcNAc修飾タンパク質の時間依存的な蓄積を引き起こすようである(図6)。最初の速い増加の後、インヒビター(9c)で処理した細胞におけるO−GlcNAc修飾タンパク質のレベルは、細胞内で漸近的に定常状態に近づくようである(図6)。この挙動は、PUGNAcとインキュベートしたHT29細胞に関して以前に観察された、同様の時間依存的増加と一致する[50]。α−β−アクチンに続いて適当な2次HRP結合体でプローブしたブロットのウェスタンブロット分析(図5B)は、全ての場合においてサンプルのローディングが等量であったことを明らかにした。親化合物NAG−チアゾリン(9a)は、細胞に入り、そこでリソソームβ−ヘキソサミニダーゼに影響を及ぼすことが以前に示されたことも注意するに値する[101]。
【0138】
(実施例5:II型糖尿病を研究するための動物モデルを開発するための選択的O−GlcNAcaseインヒビターの使用)
5.1 様々な組織型およびグルコースクリアランスに対するBut−NAG−チアゾリン(9c)の効果を示す動物研究
5.1.1 実験手順
8週齢(eight give−week)の健康なSprague−Dawleyラット(Charles River)を、対でかごに入れた。動物を、Simon Fraser University Animal Care Facilities(SFU ACF)で1週間、新しい環境に順応させた。3:00pm、4匹のラットに、PBS緩衝液(pH7.4)に溶解した400μlのインヒビター9cを、50mg/kgの投与量で、尾静脈注射で与えた。残りの4匹のラットには、コントロールとして400μlのPBSを尾静脈注射した。全ての溶液を、0.2μmのフィルター(Millipore)を通してあらかじめ滅菌し、そして28ゲージ×0.5”針(Terumo)を有する0.5mLシリンジで、10秒間のボーラスとして注射した。食餌をおよそ11:00pmに中止した。次の朝8:30amに、ラットに2回目の注射をした。3時間後、ラットをイソフルランで麻酔し、そして100μLの血液サンプルを頚静脈から採って、空腹時血中グルコースレベルを測定した。次いで静脈内グルコース負荷試験(IVGTT)を行った。PBS(滅菌済み)に溶解したグルコースの50%w/v溶液の0.5mLを、30秒かけて尾静脈に注射して投与した。グルコース注射の10、20、30、40、60、および90分後に、100μLの血液サンプルを頚静脈から採った。血液サンプル採取の直後、血液の少量のアリコートを使用して、glucometer(Accu−Check Advantage、Roche)を用いて血中グルコース濃度を測定し、そして残りの血液を氷上で20分間保存し、そして遠心分離して血清を単離した。IVGTTの終了後、ラットをCO2/O2の1:1混合物で屠殺した。組織サンプル(脳、筋肉、肝臓、脾臓、膵臓、脂肪)をすぐに採取し、そして液体窒素で急速冷凍し、そして−80℃で保存した。組織をホモジナイズして細胞抽出物を得るために、組織を乳鉢と乳棒で微細な粉末に粉砕する間、それらを冷凍したままにしておいた。次いでその粉末の100mgを、1mLの冷却溶解緩衝液(50mMのTris、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS、1%のノニデットP−40、1mMのEDTA、1mMのPMSF、および1mMのブチル−NAG−チアゾリン)中で、Jenke and Kunkel Ultra−Turrax組織ホモジナイザーで、2回の10秒パルスを用いてホモジナイズした。次いで組織を微量遠心機(エッペンドルフ)で13,000rpmで遠心沈殿して、細胞の破片を除去した。次いで可溶性の細胞抽出物を、細胞研究に関して上記で記載したように、ウェスタンブロット分析を用いて、O−GlcNAc修飾タンパク質レベルに関して分析した。
【0139】
5.1.2 様々な組織型に対するBut−NAG−チアゾリン(9c)の効果
尾静脈に様々な投与量のインヒビター9cを注射したラットは、インヒビター9cの静脈内投与が、様々な組織型においてO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに影響を与えることを示した(図9)。脳組織のサンプル(図9A)は、ラットに50、120、および300mg/kgの投与量のインヒビター9cを注射した場合、コントロールと比較して、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに顕著な増加があったことを示した。これは、インヒビター9cは容易に脳細胞の内部へ入り、そこでO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示す。筋肉および肝臓の組織サンプルに関して、同様の結果が観察された(図9Bおよび9C)。
【0140】
その結果から、インヒビターは、半用量依存的な様式で、O−GlcNAcaseのみを阻害するようである。これは、50mg/kgのインヒビター9cが、O−GlcNAc修飾タンパク質の最大の増加を誘発するのに十分であることを示す。同様に、これらの結果は、インヒビターが広く様々な組織に24時間以内に入ることができ、そして最低6時間は効果を保持することを示す。この研究で使用した、インヒビターで処理したラットは、コントロールラットと比較していかなる不快感も示さなかったようであることも注目すべきである。
【0141】
5.1.3 グルコースクリアランスに対するBut−NAG−チアゾリンの効果
インヒビター9cはラットにおいてO−GlcNAcaseを阻害し得ることを示したので、増加したレベルのO−GlcNAc修飾タンパク質が、ラットのグルコースホメオスタシスを維持する能力を変化させるかどうかに取り組むことに注意を向けた。静脈内グルコース負荷試験(IVGTT)を、1g/kgのグルコース負荷に反応する動物の能力を測定する手段として使用した。その結果は、インヒビターとの短期間の接触(<24時間)は、ラットにおいてグルコースクリアランス速度に影響を与えないことを明らかに示す(図10A)。インヒビターで処理した4匹のラットおよびPBS緩衝液のコントロール注射で処理した4匹のラットで行ったので、これらの結果は統計学的に有意であることに注目すべきである。ウェスタンブロット分析は、IVGTTにおいてインヒビターで処理した4匹のラットは、増加したレベルのO−GlcNAc修飾タンパク質を有していたことを示す(図10B)。
【0142】
培養脂肪細胞における上昇したレベルのO−GlcNAc修飾タンパク質は、インスリン抵抗性を引き起こすことが以前に示されたことを考慮すると、この結果は驚くべきである。本発明者らは、これらの結果の間の違いは、2つの可能性のうち1つに起因するという仮説を立てた。最初に、有機体全体から得られた結果は、培養細胞を用いて行った実験よりも生理学的に関連しており、そして従ってインスリン抵抗性は、末梢組織では発生しない。2番目の可能性は、インヒビター9cは実際により多くのインスリンを分泌させるように膵臓β細胞に影響するということである。この影響は、末梢組織におけるインスリン不感受性を克服し、おそらく観察されたような正常なグルコースクリアランスを引き起こす。インスリン産生を刺激する2つの転写因子(pdx−1およびsp1)のような、β細胞内でインスリンの産生および輸送に関わる多くのタンパク質が、それ自体O−GlcNAcで修飾されているという事実が、この2番目の仮説を支持する。
【0143】
5.2 But−NAG−チアゾリン(9c)のクリアランス速度を示す動物実験
5.2.1 実験手順
インヒビターがどれだけ速く組織から排出されるかに関する情報を得るために、5匹の10週齢Sprague−Dawleyラットに、インヒビター(50mg/kg)を尾静脈注射で与えた。動物を、注射の後3、7、24、27、および32時間後に順次屠殺した。さらに2匹のラットをコントロールとして使用した。O−GlcNAc修飾タンパク質の正常レベルについての情報を得るために、1匹のラットを、他のラットに注射する直前に屠殺した。また、1匹のラットには他のラットと共に滅菌PBS(pH7.4)を注射し、そして実験の最後(32時間)に屠殺した。組織の採取、ホモジナイゼーション、およびウェスタンブロット分析を、上記で記載したものと同じ様式で行った。
【0144】
5.2.2 クリアランス速度の結果
インヒビター9cを注射したラットは、インヒビター9cの静脈内投与は、注射から3時間という早期に様々な組織型においてO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに影響を与えることを示した(図11)。脳組織のサンプル(図11A)は、コントロールと比較して、注射の3時間後、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに顕著な増加があったことを示した。これは、インヒビター9cが脳細胞の内部に容易に入り、そこでO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示す。O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルは、7時間後も高いままであった。そのレベルは24時間後には減少し、そして32時間後には正常レベルに戻るようであった。筋肉組織サンプルに関して同様の結果が観察された(図11B)。
【0145】
5.3 But−NAG−チアゾリン(9c)の経口利用能を示す動物実験
5.3.1 実験手順
インヒビター9cが経口的に利用可能であるかどうかを決定するために、これを固形飼料(Lab Diet 5001 Rodent Diet、PMI Nutrition International、LLC)に組み込んだ。ラット固形飼料を作るために、600gの粉砕した固形飼料を、355mlの水およびエタノールに溶解した5mLのインヒビターと混合した。次いで小片をパスタマシン(Pasta Express、Creative)で調製し、そして37℃で一晩脱水した(Snackmaster Dehydrator、American Harvest)。以下の量のインヒビターで、5セットの固形飼料を作製した:0mg/kg/日、100または1000mg/kg/日の脱保護(極性)インヒビター、および100または1000mg/kg/日の保護(非極性)インヒビター。これらの数は、6週齢のラットは1日あたり約25gの餌を食べることを示す、以前の研究から得られたデータに基づく。次いで10匹の5週齢の健康なSprague−Dawleyラット(食餌1セットあたり2匹)に、3日間ラット固形飼料を給餌した。次いで動物を屠殺し、そして上記で記載したように組織を採取し、ホモジナイズし、そして分析した。
【0146】
5.3.2 経口利用能の結果
ラットに、2つの異なる投与量の保護(非極性)および脱保護(極性)形態のインヒビター9cを3日間給餌した。ウェスタンブロット分析は、両方の形態のインヒビター9cの経口投与が、様々な組織型においてO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに影響を与えることを示した(図12)。脳組織のサンプル(図12A)は、ラットに100mg/kg/日の投与量の保護または脱保護形態のインヒビター9cのいずれかを給餌した場合、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに顕著な増加があったことを示した。脳組織内でのO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルは、ラットにより高い投与量の1000mg/kg/日の投与量の保護または脱保護形態のいずれかのインヒビター9cを給餌した場合、さらに高かった。これは、インヒビター9cが、経口的に投与された場合でも、脳細胞の内部に容易に入り、そこで用量依存的な様式でO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示す。筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓を含む他の型の組織サンプルに関して、同様の結果が観察された(図12B−12E)。
【0147】
前述の開示にかんがみて当業者に明らかであるように、本発明の実施において、その意図または範囲から離れることなく、多くの変更および修飾が可能である。
【0148】
(参考文献)
【0149】
【化46】
【0150】
【化47】
【0151】
【化48】
【0152】
【化49】
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、O−GlcNAcaseの3つの可能性のある触媒メカニズムの説明である。経路A;単一工程反転メカニズム:経路B;共有結合性のグリコシル酵素中間体の形成および分解を含む二重置換保持(double displacement retaining)メカニズム;経路C;二環性オキサゾリン中間体の形成および分解を含む二重置換保持(double displacement retaining)メカニズム。
【図2】図2は、MU−GlcNAcのN−フルオロアセチル誘導体の存在下での、O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの活性を説明する。(A)MU−GlcNAcのN−フルオロアセチル誘導体の、ヒトβ−ヘキソサミニダーゼが触媒する加水分解の初速度;(黒塗りの菱形)MU−GlcNAc(5)、(黒塗りの逆三角形)MU−GlcNAc−F(5a)、(黒塗りの四角形)MU−GlcNAc−F2(5b)、(黒塗りの円)MU−GlcNAcF3(5c)。挿入図:軸の交点におけるプロットの領域の詳細。(B)MU−GlcNAcのN−フルオロアセチル誘導体の、ヒトO−GlcNAcaseが触媒する加水分解の初速度;(黒塗りの菱形)MU−GlcNAc(5)、(黒塗りの逆三角形)MU−GlcNAc−F(5a)、(黒塗りの四角形)MU−GlcNAc−F2(5b)、(黒塗りの円)MU−GlcNAcF3(5c)。挿入図:軸の交点におけるプロットの領域の詳細。(C)(黒塗りの円)O−GlcNAcaseおよび(白抜きの四角形)β−ヘキソサミニダーゼを用いて、パネルAおよびBにおいて示したように各基質に関して測定したlogVmax[E]0/KM値に対して、MU−GlcNAc基質アナログのN−フルオロアセチル置換基のTaftパラメーター(Taft parameter)(σ*)をプロットした線形自由エネルギー分析。
【図3】図3は、NAG−チアゾリン(9a)の存在下で、pNP−GlcNAcのヒトO−GlcNAcaseが触媒する加水分解の競合的阻害パターンを説明する。使用した9aの濃度(mM)は、0.00(黒塗りの菱形)、0.033(△)、0.100(黒塗りの円)、0.300(X)、0.900(黒塗りの四角形)、および3.04(○)であった。挿入図:NAG−チアゾリン(9a)濃度に対する見かけのKMのプロットからの、KIの図による分析。
【図4】図4は、チアゾリンインヒビターのパネルによる、β−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseの阻害に対する選択性を説明するグラフである。O−GlcNAcase(黒塗り)およびβ−ヘキソサミニダーゼ(網掛け)が触媒するMU−GlcNAcの加水分解の阻害に関して測定された、チアゾリンインヒビターパネル(9a−f)のKI値の棒グラフ。
【図5】図5は、50μMの異なるチアゾリンインヒビターの存在下または非存在下で40時間培養したCOS−7細胞由来のタンパク質のウェスタンブロットである。COS−7細胞のチアゾリンインヒビターとのインキュベーションは、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルの増加を引き起こす。レーン1、チアゾリン9a;レーン2、チアゾリン9c;レーン3、チアゾリン9g;レーン4、インヒビターなし。(A)抗O−GlcNAc MAb CTD110.6に続いて抗マウスIgG−HRP結合体を用いた、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルのウェスタンブロット分析。(B)抗βアクチンmAbクローンAC−40に続いて抗マウスIgG−HRP結合体で処理した、(A)でロードしたサンプルのウェスタンブロットは、各サンプルにおいてβアクチンレベルが同等であることを明らかにする。
【図6】図6は、50μMのチアゾリンインヒビター(9c)の存在下または非存在下で40時間以上培養したCOS−7細胞由来のタンパク質のウェスタンブロットである。COS−7細胞のチアゾリンインヒビター(9c)とのインキュベーションは、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルの時間依存的な増加を引き起こす。(A)抗O−GlcNAc MAb CTD 110.6に続いて抗マウスIgG−HRP結合体を用いた、インヒビター(9c)への曝露後の時間の関数としての、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルのウェスタンブロット分析。(B)抗βアクチンmAbクローンAC−40に続いて抗マウスIgG−HRP結合体で処理した、(A)でロードしたサンプルのウェスタンブロットは、各サンプルにおいてβアクチンレベルが同等であることを明らかにする。(C)インヒビターの非存在下における、時間の関数としての、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルのウェスタンブロット分析は、O−GlcNAc修飾タンパク質のレベルが、コンフルエンスの関数として有意に変化しないことを示す。0時間において、プレートは約25%コンフルエントであり、そして40時間後プレートは約90%コンフルエントであった。(D)パネル(B)と同様に処理した、(C)でロードしたサンプルのウェスタンブロットは、両方のサンプルにおいてβアクチンレベルが同等であることを明らかにする。
【図7】図7は、D2Oにおけるストレプトゾトシン(STZ)の分解を説明する。D2Oに溶解したSTZを、24時間以上の期間モニターした。アステリスク(*)をつけた共鳴は、STZのα−アノマーのH−1由来である。スペクトルを、新しくD2Oに溶解したSTZ(約10mM)のサンプルから室温で収集した。NMRスペクトルを、STZを溶解後、A)5分、B)20分、C)40分、D)2時間、E)4時間およびF)24時間後に収集した。
【図8】図8は、STZはO−GlcNAcaseの時間依存的な不活性化もβ−ヘキソサミニダーゼの時間依存的な不活性化も示さないことを説明するグラフである。A)O−GlcNAcase(0.016mg/mL)を、50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、1%のBSA、5mMのβ−メルカプトエタノール、pH6.5の存在下で、10mMのSTZとインキュベートした。いくつかの時間間隔で、不活性化混合物およびコントロールの酵素活性をアッセイした。アッセイ混合物中で1.2mMのSTZの最終濃度を生ずるために、Mu−GlcNAc(5.7mM)を含むアッセイ混合物(全部で25μL)へ、酵素のアリコート(3μL)と共にある程度のSTZが移されたので、これらの値は均一でない。実際、STZがO−GlcNAcaseの競合的インヒビター(KI=1.5mM)として作用すると仮定して計算した、コントロールおよび実験に関するアッセイの反応速度の期待される比(VControl/VSTZ)は、1.17であり、ここで6時間以上測定された値と全体的に一致する。B)β−ヘキソサミニダーゼ(0.036mg/mL)を、50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25の存在下で、10mMのSTZとインキュベートした。いくつかの時間間隔で、不活性化混合物およびコントロールの酵素活性を、方法および材料で記載されたようにアッセイした。アッセイ混合物中で1.2mMのSTZの最終濃度を生ずるために、Mu−GlcNAc(5.7mM)を含むアッセイ混合物(全部で25μL)へ、酵素のアリコート(3μL)と共にある程度のSTZが移されたので、これらの値は正確には均一でない。実際、STZがβ−ヘキソサミニダーゼの競合的インヒビター(KI=47mM)として作用すると仮定して計算した、コントロールおよび実験に関するアッセイの反応速度の期待される比(VControl/VSTZ)は、1.01であり、ここで6時間以上測定された値と一致する。
【図9】図9は、様々な投与量のインヒビター9cを注射したラットの脳、筋肉、および肝臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。4匹のラットを、異なる投与量のインヒビター9cまたは緩衝液コントロールの尾静脈注射によって処置した。約18時間離して2回の連続的な注射を行い、そして次いでラットを最初の注射の24時間後に屠殺した。α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析は、インヒビター9cが、脳(A)、筋肉(B)および肝臓(C)を含む様々な組織へ、容易に入ることを明らかに示し、そして50mg/kgのように低い投与量が、O−GlcNAcレベルの最大の増加を誘発するのにほぼ十分であることを示す。
【図10】図10は、ラットにおいて行われた静脈内グルコース負荷試験の結果を説明する。(A)8匹のラットを、そのうち4匹に50mg/kgのインヒビター9cの尾静脈注射に曝して、グルコースを除去する能力に関して試験した。静脈内グルコース負荷試験(IVGTT)を、これも尾静脈から送達された1g/kgのグルコースの負荷によって行った。エラーバーは、各条件下で使用した4匹のラットの間の分散を示す。(B)α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析は、IVGTTにおいてインヒビターで処置した4匹のラットにおいて、O−GlcNAc修飾タンパク質のレベルが増加したことを示す。
【図11】図11は、様々な時間でインヒビター9cを注射したラットの脳および筋肉組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。数匹のラットを、50mg/kgのインヒビター9cを尾静脈に注射することによって処置し、そして注射の後特定の時間に屠殺して、O−GlcNAcレベルが時間につれてどのように変化するのかを観察した。α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析を用いて、O−GlcNAcレベルをモニターした。脳(A)および筋肉(B)組織は、インヒビターが迅速に組織へ到達し得、そこで迅速にO−GlcNAcレベルを上昇させるよう作用することを示した(<3時間)。約24−32時間以内に、インヒビター9cは組織から排出され、そしてO−GlcNAcレベルは正常に戻る。時間0および32(−)は、0時間および32時間における未処置コントロール動物を示す。
【図12−1】図12は、2つの異なる形態および投与量のインヒビター9cを給餌したラットの脳、筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。ラットに、異なる量の脱保護(極性)または保護(非極性)インヒビター9cを含むか、またはインヒビターを全く含まない食餌を3日間与えた。組織におけるO−GlcNAcのレベルを、α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析によって評価した。脳(A)、筋肉(B)、膵臓(C)、脂肪(D)および脾臓(E)組織において、α−O−GlcNAc抗体を用いたウェスタンブロット分析によって判断されるように、100mg/kg/日の投与量が、O−GlcNAcaseを阻害し、そしてO−GlcNAc修飾タンパク質を大きく増加させるために十分である。1000mg/kg/日の投与量は、O−GlcNAc修飾タンパク質のわずかにより大きな増加を引き起こす。αアクチン抗体によるコントロールブロットまたはSDS−PAGEは、サンプルのローディングが等量であったことを示す。
【図12−2】図12は、2つの異なる形態および投与量のインヒビター9cを給餌したラットの脳、筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。ラットに、異なる量の脱保護(極性)または保護(非極性)インヒビター9cを含むか、またはインヒビターを全く含まない食餌を3日間与えた。組織におけるO−GlcNAcのレベルを、α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析によって評価した。脳(A)、筋肉(B)、膵臓(C)、脂肪(D)および脾臓(E)組織において、α−O−GlcNAc抗体を用いたウェスタンブロット分析によって判断されるように、100mg/kg/日の投与量が、O−GlcNAcaseを阻害し、そしてO−GlcNAc修飾タンパク質を大きく増加させるために十分である。1000mg/kg/日の投与量は、O−GlcNAc修飾タンパク質のわずかにより大きな増加を引き起こす。αアクチン抗体によるコントロールブロットまたはSDS−PAGEは、サンプルのローディングが等量であったことを示す。
【図12−3】図12は、2つの異なる形態および投与量のインヒビター9cを給餌したラットの脳、筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。ラットに、異なる量の脱保護(極性)または保護(非極性)インヒビター9cを含むか、またはインヒビターを全く含まない食餌を3日間与えた。組織におけるO−GlcNAcのレベルを、α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析によって評価した。脳(A)、筋肉(B)、膵臓(C)、脂肪(D)および脾臓(E)組織において、α−O−GlcNAc抗体を用いたウェスタンブロット分析によって判断されるように、100mg/kg/日の投与量が、O−GlcNAcaseを阻害し、そしてO−GlcNAc修飾タンパク質を大きく増加させるために十分である。1000mg/kg/日の投与量は、O−GlcNAc修飾タンパク質のわずかにより大きな増加を引き起こす。αアクチン抗体によるコントロールブロットまたはSDS−PAGEは、サンプルのローディングが等量であったことを示す。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年3月1日に出願された米国仮特許出願第60/656,878号(これは、参考として本明細書に援用される)の出願日の利益を主張する。
【0002】
(技術分野)
本出願は、選択的にグリコシダーゼを阻害する化合物、そのインヒビターを作製する方法、およびその使用に関連する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
広範囲の細胞タンパク質(核および細胞質の細胞タンパク質の両方)は、、単糖2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(β−N−アセチルグルコサミン)の付加によって翻訳後修飾され、それはO−グリコシド結合によって結合する[1]。この修飾は一般的に、O結合型N−アセチルグルコサミンまたはO−GlcNAcと呼ばれる。
【0004】
O−GlcNAc修飾タンパク質は、例えば転写[2−5]、プロテアソーム分解[6]、および細胞シグナル伝達[7]を含む、広範囲の重要な細胞機能を有する。O−GlcNAcはまた、多くの構造タンパク質においても見出される[8−10]。例えば、それは神経フィラメントタンパク質[11、12]、シナプシン[13、14]、シナプシン特異的クラスリン集合タンパク質AP−3[15]、およびアンキリンG[16]を含む、多くの細胞骨格タンパク質において見出された。O−GlcNAc修飾は、脳において豊富であることが見出された[17、18]。それはまた、II型糖尿病、アルツハイマー病(AD)および癌を含むいくつかの疾患の病因に明らかに関わっているタンパク質においても見出された。
【0005】
例えば、ADならびにダウン症候群、ピック病、ニーマン−ピック病C型、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む多くの関連するタウオパチー(tauopathy)は、部分的には、神経原線維変化(NFT)の発達によって特徴付けられることが、よく確立している。これらのNFTは、対らせんフィラメント(paired helical filament)(PHF)の凝集物であり、そして重要なタンパク質「タウ(tau)」の異常な形態から構成される。正常なタウは、ニューロン内のタンパク質および栄養素の分配に必須である微小管の重要な細胞ネットワークを安定化する。しかしAD患者においては、タウは過剰にリン酸化され、その正常な機能を破壊してPHFを形成し、そして最終的には凝集して有害なNFTを形成する。AD患者の脳内のNFTレベルと認知症の重症度との間の明らかな類似点は、ADにおけるタウ機能不全の重要な役割を強力に支持する[19、20]。このタウの過剰リン酸化の正確な原因は不明のままである。従って、a)タウ過剰リン酸化の分子生理学的な基礎を明らかにすること[6]、およびb)これらがアルツハイマー病の進行を停止させる、またはさらに逆転させ得ることを期待して、タウ過剰リン酸化を制限し得る戦略を同定すること[7、8]に、多くの努力がなされた。これまで、いくつかの証拠が、タウの過剰リン酸化に多くのキナーゼのアップレギュレーションが関与し得ることを示唆しているが[9、10、21]、最近、この過剰リン酸化の第2の基礎が提案された[21]。特に、タウのリン酸レベルが、タウにおけるO−GlcNAcのレベルによって調節されていることが最近明らかになった。ヒトAD脳における過剰リン酸化タウは、健常なヒト脳において見出されるものより顕著に低いレベルのO−GlcNAcを有する[2、3]。これらの結果は、タウO−GlcNAcレベルを調節するメカニズムにおける機能不全が、NFTの形成および関連した神経変性においてきわめて重要であり得ることを示唆する。
【0006】
ヒトは、複合糖質から末端のβ−N−アセチル−グルコサミン残基を切断する酵素をコードする、3つの遺伝子を有する。これらの最初のものは、酵素O−糖タンパク質2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシダーゼ(O−GlcNAcase)をコードする。O−GlcNAcaseは、グリコシドヒドロラーゼファミリー84のメンバーであり、それは原核生物の病原体からヒトまでのように多様な有機体由来の酵素を含む(グリコシドヒドロラーゼのファミリー分類に関しては、URL:http://afmb.cnrs−mrs.fr/CAZY/のCoutinho,P.M.およびHenrissat,B.(1999)Carbohydrate−Active Enzymesサーバーを参照のこと)[19、20]。O−GlcNAcaseは、翻訳後修飾されたタンパク質のセリンおよびスレオニン残基からO−GlcNAcを加水分解するよう作用する[1、22、23]。多くの細胞内タンパク質におけるO−GlcNAcの存在と一致して、酵素O−GlcNAcaseは、II型糖尿病[7、21]、AD[9、17、24]、および癌[18]を含むいくつかの疾患の病因に役割を果たしているようである。O−GlcNAcaseは、おそらく早くに単離されたが[11、12]、タンパク質のセリンおよびスレオニン残基からO−GlcNAcを切断する作用におけるその生化学的役割が理解されるまでに約20年が経過した[13]。より近年になって、O−GlcNAcaseがクローニングされ[15]、部分的に特徴付けられ[16]、そしてヒストンアセチルトランスフェラーゼとしてのさらなる活性を有することが示唆された[14]。しかし、この酵素の触媒メカニズムについてはほとんど知られていなかった。
【0007】
他の2つの酵素、HEXAおよびHEXBは、複合糖質からの末端β−N−アセチルグルコサミン残基の加水分解性の切断を触媒する酵素をコードする。HEXAおよびHEXBの遺伝子産物は、主に2つの二量体アイソザイム、それぞれヘキソサミニダーゼAおよびヘキソサミニダーゼBを生ずる。ヘテロダイマーアイソザイムであるヘキソサミニダーゼA(αβ)は、αおよびβサブユニットから成る。ホモダイマーアイソザイムであるヘキソサミニダーゼB(ββ)は、2つのβサブユニットから成る。2つのサブユニット、αおよびβは、高レベルの配列同一性を有する。これらの酵素はどちらも、グリコシドヒドロラーゼファミリー20のメンバーとして分類され、そして通常リソソーム内に局在する。これらリソソームのβ−ヘキソサミニダーゼが正しく機能することが、ヒトの発生に決定的であり、それはそれぞれヘキソサミニダーゼAおよびヘキソサミニダーゼBの機能不全から起こる悲劇的な遺伝病、テイ−サックス病およびサンドホフ病によって強調される事実である[25]。これらの酵素欠損は、リソソームにおける糖脂質および複合糖質の蓄積を引き起こし、神経機能障害および変形を引き起こす。有機体レベルにおけるガングリオシドの蓄積の有害な影響が、依然として明らかになりつつある[26]。
【0008】
これらのβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼの生物学的重要性の結果として、グリコシダーゼの小分子インヒビター[27−29](非特許文献1)[30]が、これらの酵素の生物学的プロセスにおける役割を明らかにするツールとして、および潜在的な治療的適用の開発において非常に注目された[31]。小分子を用いたグリコシダーゼ機能の調節は、遺伝的ノックアウト研究に対して、迅速に投与量を変化させるか、または完全に処置を停止する能力を含む、いくつかの利点を提供する。
【0009】
しかし、O−GlcNAcaseを含む哺乳類グリコシダーゼの機能を阻害するインヒビターの開発における主な難点は、高等真核生物の組織に存在する多数の機能的に関連した酵素である。従って、1つの特定の酵素の細胞および有機体での生理学的役割の研究において非選択的インヒビターを使用することは、そのような機能的に関連する酵素の同時阻害によって複雑な表現型が生じるので、複雑である。β−N−アセチルグルコサミニダーゼの場合には、O−GlcNAcase機能を阻害するよう作用する既存の化合物は、非特異的であり、そしてリソソームβ−ヘキソサミニダーゼを阻害するよう強力に作用する。今までに、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼより核細胞質O−GlcNAcaseに選択的な、強力なインヒビターは知られていない。
【0010】
細胞および組織の両方で、O−GlcNAc翻訳後修飾の研究において使用された、よりよく特徴付けられたβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼの少数のインヒビターは、ストレプトゾシン(STZ)、2’−メチル−α−D−グルコピラノ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(NAG−チアゾリン)およびO−(2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(PUGNAc)である[7、32−35]。
【0011】
STZは、β−島細胞に対して特に有害な影響を有するので、糖尿病誘発性化合物として長く使用されてきた[36]。STZは、細胞DNAのアルキル化[36、37]および一酸化窒素を含むラジカル種の産生[38]の両方によって、その細胞毒性効果を発揮する。生じたDNA鎖の切断は、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)[39]の活性化を促進し、最終的に細胞NAD+レベルを枯渇させ、そして最後には細胞死に至る[40、41]。他の研究者は別に、STZ毒性は、β−島細胞内で高度に発現しているO−GlcNAcaseの不可逆的阻害の結果であると提唱した[32、42]。しかし、この仮説は、2つの独立した研究グループによって疑問を投げかけられた[43、44]。タンパク質の細胞O−GlcNAcレベルは、多くの形式の細胞ストレスに反応して増加するので[45]、STZは、O−GlcNAcaseに対する特異的および直接的作用によってではなく、細胞ストレスを誘発することによって、タンパク質のO−GlcNAc修飾レベルの増加を引き起こす可能性がある。実際、Hanoverおよび同僚らは、STZはO−GlcNAcaseの弱く、そしていくらか選択的なインヒビターとして機能することを示し[46]、そしてSTZはO−GlcNAcaseを不可逆的に阻害するよう作用することが他の研究者によって提唱されたが[47]、この作用形式を明らかに示すものはない。
【0012】
NAG−チアゾリンは、ファミリー20ヘキソサミニダーゼ(非特許文献1)[30]、(非特許文献2)[48]、およびより近年には、ファミリー84O−GlcNAcase(非特許文献3)[49]の強力なインヒビターであることが見出された。その効力にもかかわらず、複雑な生物学的状態でNAG−チアゾリンを使用することの欠点は、それが選択性を欠き、そして従って複数の細胞のプロセスを混乱させることである。
【0013】
PUGNAcは、同じ選択性の欠如の問題をかかえる別の化合物であるが、ヒトO−GlcNAcase[13、50]およびファミリー20ヒトβ−ヘキソサミニダーゼ[51]の両方のインヒビターとして使用されてきた。Vasellaおよび同僚らによって開発されたこの分子は、Canavalia ensiformis、Mucor rouxii由来のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼ、およびウシ腎臓由来のβ−ヘキソサミニダーゼの強力な競合的インヒビターであることが見出された[28]。
【0014】
従って、グリコシダーゼの改善された選択的インヒビターに対する必要性が生じた。
【非特許文献1】S.Knappら、J.Am.Chem.Soc.(1996)118、6804〜6805
【非特許文献2】B.L.Markら、J Biol Chem(2001)276、10330〜10337
【非特許文献3】M.S.Macauleyら、J Biol Chem(2005)280、25313〜25322
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(要旨)
本発明の実施態様は、グリコシダーゼを選択的に阻害する化合物に関連する。本発明はまた、そのような化合物の作製方法、およびその使用にも関連する。
【0016】
本発明の1つの実施態様において、その化合物は、一般的な化学式(I):
【0017】
【化5】
を有し、ここでR3、R5、R6は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る;R2およびR4は、CH2、CHR1、NH、NR1、または任意のヘテロ原子であり、そしてR1は、H、エーテル、アミン、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択される。本発明は、上記の化合物の薬学的に受容可能な塩を含む。本発明のいくつかの実施態様において、R2はS、およびR1はCH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなるグループから選択され、そしてR4はOである。本発明はまた、その化合物のプロドラッグ、その化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物、ならびにその化合物のプロドラッグおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物に関連する。
【0018】
本発明の別の実施態様において、その化合物は、一般的な化学式(II):
【0019】
【化6】
およびその薬学的に受容可能な塩を有し、ここでX1−X6はO、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、そしてR1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る。
【0020】
いくつかの実施態様において、その化合物は、他のグリコシダーゼより特定のグリコシダーゼの活性を選択的に阻害する。本発明の1つの実施態様において、グリコシダーゼはグリコシドヒドロラーゼを含む。本発明の別の実施態様において、グリコシドヒドロラーゼは、ファミリー84グリコシドヒドロラーゼである。本発明の特定の実施態様において、グリコシダーゼはO−GlcNAcaseである。化合物は、β−ヘキソサミニダーゼよりO−GlcNAcaseの活性を選択的に阻害する。特に、この特定の実施態様において、化合物は2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(O−GlcNAc)のタンパク質からの切断を選択的に阻害する。
【0021】
その化合物は、O−GlcNAcaseの欠損、O−GlcNAcaseの過剰発現、O−GlcNAcの蓄積、O−GlcNAcの枯渇に関連する疾患または障害を研究するための、およびO−GlcNAcaseの欠損または過剰発現またはO−GlcNAcの蓄積または枯渇に関連する疾患および障害の治療を研究するための、動物モデルを開発するのに有用である。そのような疾患および障害は、糖尿病、アルツハイマー病を含む神経変性性疾患、および癌を含む。その化合物はまた、グリコシダーゼ阻害治療に反応性の疾患および障害の治療においても有用である。その化合物はまた、細胞および組織を組織損傷またはストレスに関連するストレスに備えること、細胞を刺激すること、および細胞の分化を促進することにも有用である。これらの化合物はまた、特定のグリコシダーゼ、例えばファミリー84グリコシドヒドロラーゼのメンバーである微生物の毒素を阻害するのにも有用であり得、そして従って抗菌剤としての用途が見出され得る。
【0022】
本発明はまた、その化合物を作製する方法にも関連する。1つの実施態様において、その方法は、以下の工程を含み得る:
a)2−アミノ−2−デオキシ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノースの塩酸塩を、ある範囲のアシル化剤でアシル化して、一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体を得る工程;
b)一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体のアミドを、対応するチオアミドへ変換し、そしてチオアミドを環化して一連の3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程;そして
c)チアゾリン化合物を脱アシル化して、一連の1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程。
【0023】
本発明はまた、以下のことを含む、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法にも関連する:
a)2つまたはそれ以上のグリコシダーゼまたは1つのクラスのグリコシダーゼのインヒビターを選択する工程;
b)側鎖を拡張または縮小することによって、インヒビターの1つまたはそれ以上の側鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のグリコシダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0024】
本発明のいくつかの実施態様において、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法は、以下の工程を含む:
a)以下:
【0025】
【化7】
およびその薬学的に受容可能な塩から選択される一般式を有する、β−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼのインヒビターを選択する工程であって、ここでX1−X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、そしてR1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、工程;
b)側鎖の大きさを拡張または縮小することによって、インヒビターのR1側鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0026】
本発明のいくつかの実施態様において、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、またはそのヘテロ原子誘導体を側鎖へ挿入することによって、インヒビターのR1側鎖を拡張し得る。いくつかの特定の実施態様において、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択される基を挿入することによって、R1鎖を拡張する。
【0027】
図面において、本発明の実施態様を説明するよう意図される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
以下の説明を通して、本発明のより完全な理解を提供するために特定の詳細を述べる。しかし、本発明はこれらの詳細なしで実施し得る。他の場合には、本発明を不必要にわかりにくくするのを避けるために、周知の要素は詳細に示されないか、または説明されない。従って、明細書および図は、制限的ではなく、説明的な意味にみなされる。
【0029】
本発明は、グリコシダーゼを選択的に阻害する化合物を含む。本発明の1つの実施態様において、その化合物は、一般的な化学式(I):
【0030】
【化8】
を有し、ここでR3、R5、R6は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなるグループから選択されるアシル基を含み得る;R2およびR4は、CH2、CHR1、NH、NR1または任意のヘテロ原子であり、そしてR1は、H、エーテル、アミン、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択される。本発明は、上記の化合物の薬学的に受容可能な塩を含む。いくつかの実施態様において、R2はS、R1は、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択され、そしてR4はOである。本発明のいくつかの特定の実施態様において、その化合物は、1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを含む。
【0031】
当業者によって認識されるように、上記の式(I)は、代わりに以下:
【0032】
【化9】
のようにも示し得る。
【0033】
本発明の別の実施態様において、その化合物は一般的な化学式(II):
【0034】
【化10】
、およびその薬学的に受容可能な塩を有し、ここでX1−X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなるグループから選択されるアシル基を含み得る。
【0035】
本発明は、上記の化合物の薬学的に受容可能な塩を含む。いくつかの実施態様において、R1はCH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択され、R2、R3、およびR4はOHであり、X1およびX2はOであり、X3はNHであり、X4およびX5はOであり、X6はNHであり、そしてR5はC6H6である。本発明のいくつかの特定の実施態様において、その化合物は、O−(2−デオキシ−2−プロパミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−ブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−ヘキサミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、O−(2−デオキシ−2−イソブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート、またはO−(2−デオキシ−2−イソ吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメートを含む。
【0036】
この出願を通して、「化合物」という用語は、上記で議論された化合物を指し、そしてアシル保護誘導体を含むその化合物の誘導体、およびその化合物および誘導体の薬学的に受容可能な塩を含むことが企図される。本発明はまた、その化合物のプロドラッグ、その化合物および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物、ならびにその化合物のプロドラッグおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物も含む。
【0037】
本発明のいくつかの実施態様において、その化合物は、他のグリコシダーゼより特定のグリコシダーゼの活性を選択的に阻害する。そのグリコシダーゼは、グリコシドヒドロラーゼを含み得る。例えば、そのグリコシドヒドロラーゼは、ファミリー84グリコシドヒドロラーゼであり得る。本発明の特定の実施態様において、そのグリコシダーゼはO−GlcNAcaseである。本発明は、β−ヘキソサミニダーゼよりO−GlcNAcaseの活性を選択的に阻害する化合物を含む。特に、その化合物は、O−GlcNAcのタンパク質からの切断を選択的に阻害する。
【0038】
本発明の化合物は、細胞および有機体レベルにおいてO−GlcNAcの生理学的役割を研究するための貴重なツールである。その化合物は、O−GlcNAcaseの欠損または過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積または枯渇に関連する疾患または障害を研究するための動物モデルを開発するためにか、あるいはこれらの疾患または障害の治療を研究するために有用である。一例として、その化合物は、I型またはII型糖尿病の発症に関する疾患モデルの開発に有用である。
【0039】
II型糖尿病は、ヒトまたは動物が血中グルコースレベルを適切に制御できない場合に発症する。組織は、グルコース利用能の変化および内分泌系の他の構成要素からのシグナルを感知し、そして迅速に応答できなければならない。グルコースは、インスリン合成および膵臓β-細胞からの分泌の調節に重要な栄養素である。細胞に入る全てのグルコースのうち、2−5%はヘキソサミン生合成経路へ向けられ、それによってこの経路の最終産物、ウリジン2リン酸−N−アセチルグルコサミン(UDP−GlcNAc)の細胞濃度を調節する[52]。UDP−GlcNAcは、核細胞質酵素O−GlcNAcトランスフェラーゼ(OGTase)の基質であり[53−56]、それは多数の核細胞質タンパク質の特定のセリンおよびスレオニン残基にGlcNAcを翻訳後に付加するように作用する。OGTaseは、そのテトラトリコペプチド反復(TPR)ドメイン[61、62]によって、多くのその基質[57、58]および結合パートナー[59、60]を認識する。上記で記載したように、O−GlcNAcase[13、15]は、この翻訳後修飾を除去してタンパク質を遊離し、O−GlcNAc修飾を、タンパク質の寿命の間に数回起こる動的なサイクルにする[63]。O−GlcNAcは、いくつかのタンパク質において公知のリン酸化部位に見出され[3、64−66]、細胞シグナル伝達におけるO−GlcNAcの役割を示唆した。さらに、OGTaseは、細胞内UDP−GlcNAc基質濃度、そしてそれゆえグルコース供給に対して鋭敏に感受的にする一般的ではない動態挙動を示す[67]。これらのデータは全て、栄養素感知メカニズムとして作用するO−GlcNAcレベルの論理的役割を示す。栄養素感知におけるそのような可能性のある役割を支持するために、末梢組織において上昇したO−GlcNAcレベルはインスリン抵抗性の発症を引き起こすことが示された[7、21]。実際、一塩基多型がメキシコ人集団におけるII型糖尿病の発症に関連することを示す最近の研究によって、顕著に上昇したO−GlcNAcレベルが、II型糖尿病を引き起こし得ることが提唱された[68]。増加したO−GlcNAcレベルがインスリン抵抗性を引き起こすことを示すために、培養細胞および組織において、PUGNAcが使用された[7、32−35]。類推によって、本発明の化合物も、同様の研究において使用し得、そして糖尿病の発症におけるO−GlcNAcレベルの役割を示すための動物モデルを開発するために使用し得る。
【0040】
本発明の化合物はまた、O−GlcNAcaseの欠損または過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積または枯渇に関連する疾患または障害、またはグリコシダーゼ阻害治療に反応性の任意の疾患または障害の治療においても有用である。そのような疾患および障害は、糖尿病、アルツハイマー病(AD)のような神経変性性疾患、および癌を含むがこれに限らない。そのような疾患および障害はまた、酵素OGTaseの蓄積または欠損に関連する疾患または障害を含み得る。
【0041】
例えば、上記で議論したようなO−GlcNAcレベルおよびタウのリン酸化レベルの間の関係のために、本発明の化合物を、ADおよび他のタウオパチー(tauopathy)を研究および治療するために使用し得る。ヒト脳において、タウの6個のアイソフォームが見出された。AD患者において、タウの6個のアイソフォームの全てがNFTにおいて見出され、そして全てが顕著に過剰リン酸化されている[69、70]。健常な脳組織におけるタウは、2または3つのリン酸基しか有していないが、AD患者の脳において見出されるものは平均で8個のリン酸基を有する[71、72]。
【0042】
タウにおけるO−GlcNAcの存在は、O−GlcNAcレベルをタウリン酸化レベルと関連付ける研究を刺激した。この分野における最近の関心は、多くのタンパク質においてリン酸化されることも公知であるアミノ酸残基において、O−GlcNAc修飾が起こることが見出されたという観察に由来する[65、66、73]。この観察と一致して、リン酸化レベルの増加は、O−GlcNAcレベルの減少を引き起こし、そして逆に、増加したO−GlcNAcレベルは減少したリン酸化レベルと関連することが見出された[74]。O−GlcNAcおよびリン酸化の間のこの相互関係は、「陰陽仮説」[75]と命名され、そして酵素OGTase[55]がタンパク質からリン酸基を除去するよう作用するホスファターゼと機能的複合体を形成するという最近の発見によって、強力な生化学的支持を得た[60]。リン酸化と同様に、O−GlcNAcは、タンパク質の寿命の間に数回除去および再設置され得る動的な修飾である。示唆的に、O−GlcNAcaseをコードする遺伝子が、ADに関連した染色体の遺伝子座にマッピングされた[15、76]。
【0043】
ごく最近、ADを発症したヒト脳由来の可溶性タウタンパク質のO−GlcNAcレベルは、健常な脳由来のものより顕著に低いことが示された[17]。さらに、罹患した脳由来のPHFは、いかなるO−GlcNAc修飾も完全に欠くことが示唆された[17]。このタウの低グリコシル化の分子的基礎は未知であるが、キナーゼの活性の増加および/またはO−GlcNAcのプロセシングに関係する酵素の1つの機能不全に起因し得る。この後者の視点を支持して、PC−12神経細胞およびマウスの脳組織切片の両方において、非選択的N−アセチルグルコサミニダーゼインヒビターを使用してタウO−GlcNAcレベルを増加させ、そこでリン酸化レベルが減少したことが観察された[17]。これらの集合的な結果は、O−GlcNAcaseの作用を阻害することによるように、AD患者において健常なO−GlcNAcレベルを維持することによって、タウの過剰リン酸化、およびNFTの形成および下流の影響を含む、タウ過剰リン酸化に関連する全ての影響を阻害できるはずであることを意味する。しかし、β−ヘキソサミニダーゼが正常に機能することが重要であるので、O−GlcNAcaseの作用を阻害するADの治療のためのあらゆる可能性のある治療的介入は、ヘキソサミニダーゼAおよびB両方の同時阻害を避けなければならない。この選択的阻害が、本発明の化合物によって提供される。
【0044】
本発明の化合物は、他の型のグリコシダーゼの選択的インヒビターとして有用である。例えば、いくつかの微生物毒素は、ファミリー84グリコシドヒドロラーゼのメンバーであり、そして従って本発明の化合物は、抗菌薬として有用であり得る。
【0045】
本発明の化合物はまた、多能性細胞を島β細胞へ促進するように、細胞の分化を促進するのにも有用である。例えば、O−GlcNAcは、いくつかの転写因子の機能を調節することが公知であり、そして転写因子PDX−1において見出されることが公知である。O−GlcNAc残基の修飾による、転写因子PDX−1の修飾は、PDX−1の活性に影響を与え、それは次に細胞分化に影響を与え得る。
【0046】
本発明の化合物はまた、ストレスに対して細胞を備えるのに有用である。最近の研究は、PUGNAcを動物モデルにおいて使用して、左冠動脈閉塞後の心筋梗塞の大きさを抑制し得ることを示した[77]。
【0047】
本発明はまた、その化合物を作製する様々な方法に関連する。1つの実施態様において、その方法は以下の工程を含み得る:
a)2−アミノ−2−デオキシ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノースの塩酸塩を、ある範囲のアシル化剤でアシル化して、一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体を得る工程;
b)一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体のアミドを、対応するチオアミドへ変換し、そしてチオアミドを環化して一連の3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程;そして
c)チアゾリン化合物を脱アシル化して、一連の1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程。
【0048】
本発明はまた、例えば以下の工程を含む、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法に関連する:
a)2つまたはそれ以上のグリコシダーゼまたは1つのクラスのグリコシダーゼのインヒビターを選択する工程;
b)側鎖を拡張または縮小することによって、インヒビターの1つまたはそれ以上の側鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のグリコシダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0049】
本発明のいくつかの実施態様において、選択的グリコシダーゼインヒビターを作製する方法は、以下の工程を含む:
a)以下:
【0050】
【化11】
およびその薬学的に受容可能な塩から選択される一般式を有する、β−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼのインヒビターを選択する工程であって、ここでX1−X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1からR5は、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換または非置換カルバメート、置換または非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびそのヘテロ原子を含む誘導体からなる群より選択され、ここで当該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびそのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、工程;
b)側鎖の大きさを拡張または縮小することによって、インヒビターのR1鎖を修飾する工程;そして
c)1つまたはそれ以上のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼの選択的阻害に関して、修飾したインヒビターを試験する工程。
【0051】
本発明のいくつかの実施態様において、分枝アルキル鎖、分枝していないアルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、またはそのヘテロ原子誘導体を側鎖へ挿入することによって、インヒビターのR1鎖を拡張し得る。いくつかの特定の実施態様において、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2、およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択される基を挿入することによって、R1鎖を拡張する。
【実施例】
【0052】
以下の実施例は、本発明の実施態様を説明することを意図し、そして制限する形式で解釈することを意図しない。
【0053】
(実施例1:O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの触媒メカニズムの比較分析)
1.1 O−GlcNAcaseの可能性のある触媒メカニズム
O−GlcNAcaseのインヒビターを設計するための論理的な開始点は、O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの触媒メカニズムを考慮する。ファミリー20ヒトβ−ヘキソサミニダーゼAおよびBの触媒作用メカニズムはかなりよく確立されたが[78]、ファミリー84O−GlcNAcaseのものは未知のままである。従って、発明者はまず、ヒトO−GlcNAcaseの触媒メカニズムを明らかにし、そして次に、強力で、細胞透過性であり、そしてリソソームβ−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに高度に選択的な、単純なインヒビターを設計するためにこの情報を使用した。
【0054】
O−GlcNAcaseおよびファミリー84グリコシドヒドロラーゼに関して、3つの現実的なメカニズムの選択肢が存在する。最初の選択肢は、ファミリー23のグリコシドヒドロラーゼ由来のガチョウリゾチーム[79]に関して見出されたような、逆転メカニズム(図1A)である。この触媒メカニズムは一般的に、酸触媒された脱離基の離脱と同時に、アノマー中心における水の塩基触媒された求核攻撃を含む。
【0055】
2番目のメカニズムの可能性は、アノマー中心における配置の保持を引き起こす、標準的な(canonical)2段階2重置換メカニズムである(図1B)。このメカニズムは、ほとんどの保持性(retaining)β−グリコシダーゼによって使用され、そして、第1段階でアノマー中心における酵素求核試薬の攻撃を含み、一時的な共有結合性のグリコシル酵素中間体の形成を引き起こす[80]。アグリコン脱離基の離脱は、一般酸触媒として作用する酵素残基によって促進される。第2段階において、この同じ残基が一般塩基触媒として作用して、アノマー中心における水分子の攻撃を促進し、中間体を分解して立体化学の保持されたヘミアセタール産物を遊離させる。ファミリー3のグリコシドヒドロラーゼ由来のβ−N−アセチルグルコサミニダーゼは、ファミリー22のC型リゾチームと同様に[82]、このメカニズムを使用することが示された[81]。
【0056】
3番目のメカニズムの選択肢は、酵素の触媒求核試薬の代わりに、基質の2−アセトアミド基の求核性の関与を含む(図1C)。この最後のメカニズムの選択肢は、ファミリー20のグリコシドヒドロラーゼ由来のβ−ヘキソサミニダーゼによって利用される[30、48、83]。これらの3つのメカニズムは、いくつかの面で異なる。逆転メカニズムは、アノマー中心において逆転した立体化学を有する産物の形成を引き起こす1段階の反応である。他の2つの選択肢は、アノマー中心において立体化学を保持し、そして主に中間体の性質において互いに異なる。2番目のメカニズムにおいて、この種は共有結合の酵素付加物であり、一方3番目の場合にはそれは二環性のオキサゾリンまたはオキサゾリニウムイオンであると考えられる。
【0057】
これらのメカニズムの選択肢間の重要な違いは、基質の2−アセトアミド基の関与である。この部分は、リソソームβヘキソサミニダーゼに関するように、求核試薬として触媒作用に積極的に関与し得るか、または受動的に(as a bystander)作用し得る。
【0058】
1.2 基質アナログの合成
基質の2−アセトアミド基の役割に取り組むために、N−アセチル基に異なるレベルのフッ素置換を有する、いくつかの基質アナログを合成した(スキーム1)。高度に電気陰性のフッ素置換基は、カルボニル基の塩基性度を減少させ、そして隣接基補助を用いる酵素反応に対するそのような置換の期待される効果は、その速度を減少させることである。
【0059】
【化12】
1.2.1 基質アナログの合成に関する一般的な手順
この研究において使用した全ての緩衝液塩は、Sigma−Aldrichから得た。乾燥メタノールおよびトルエンは、Acros Organicsから購入した。ジクロロメタンおよびトリエチルアミンは、使用の前にCaH2に対して蒸留することによって乾燥した。β−ヘキソサミニダーゼは、Sigmaから購入した(ロット043K3783)。STZは、Sigma−Aldrichから購入し、そしてサンプルをアッセイの直前に新しく溶解した。PUGNAcはToronto Research Chemicalsから得た。他の試薬は全て、Sigma−Aldrichから購入し、そしてさらなる精製をせずに使用した。全ての緩衝液を調製するためにMilli−Q(18.2mΩ/cm)水を使用した。合成反応を、Merck Kieselgel 60 F254アルミニウム裏打ちシートを使用してTLCによってモニターした。2MのH2SO4中10%のモリブデン酸アンモニウムで焦がし、そして加熱することによって化合物を検出した。Merck Kieselgel 60(230−400メッシュ)によって、指定された溶離剤を用いて、陽圧下でのフラッシュクロマトグラフィーを行った。1H NMRスペクトルを、Varian AS500 Unity Innova分光計で500MHzにおいて記録した(適当な場合にCDCl3、CD3OD、または(CD3)2SOに対する相対的な化学シフトを引用した)。19F NMRスペクトルを、Varian AS500 Unity Innova分光計で470MHzにおいて記録し、そして参照としてCF3CO2Hとプロトンカップリングさせる。13C NMRスペクトルを、Varian AS500 Unity Innova分光計で125MHzにおいて記録した(CDCl3、CD3OD、または(CD3)2SOに対する相対的な化学シフトを引用した)。細胞培養および酵素アッセイにおいて使用した全ての化合物の元素分析を、Simon Fraser University Analytical Facilityにおいて行った。
【0060】
1.2.2 4−メチルウンベリフェロン2−デオキシ−2−アセトアミド−β−D−グルコピラノシドの合成
4−メチルウンベリフェリル2−アミノ−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド塩酸塩(3)を、本質的にRoeserおよびLegler[84]によって記載されたように調製し、そしてさらなる精製無しに使用した。
【0061】
1.2.3 4−メチルウンベリフェリル3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−フルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(4a)の合成
ジメチルホルムアミド(DMF、10mL)中の冷却した(0℃)塩酸塩3(0.50g、1.0mmol)の溶液に、トリエチルアミン(0.3mL、0.21g、2.1mmol)および乾燥ピリジン(10mL)を加えた。乾燥DOWEX−50H+樹脂(6g)を含む乾燥DMF(45mL)の攪拌した混合物に、フルオロ酢酸ナトリウム(0.9g)を加えた。1時間後ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、1.6g、7.8mmol)および30mLのフルオロ酢酸溶液(6.0mmol)を、塩酸塩3を含む反応容器へカニューレによって加えた。できた溶液を0℃で16時間置き、その後TLC分析によって反応が終わったことを判断した。減圧下で溶媒を部分的に除去し、その後酢酸エチル(50mL)および飽和塩化ナトリウム溶液(20mL)を加えた。有機層を回収し、そして水層を酢酸エチルで2回抽出した。あわせた有機抽出物を、水、飽和炭酸水素ナトリウムで2回、および最後に飽和塩化ナトリウムで連続的に洗浄した。有機抽出物を、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして減圧下で溶媒を除去して淡黄色のシロップを得た。フラッシュカラムシリカクロマトグラフィー(2:1;酢酸エチル−ヘキサン)を用いて望ましい産物を精製し、部分的に精製した望ましい化合物を、非晶質の白色固体として得て(約356mg、0.68mmol、68%)、それをさらなる精製なしに、次の工程で使用した。
【0062】
1.2.4 4−メチルウンベリフェリル3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−ジフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(4b)の合成
ジメチルホルムアミドの溶液(DMF、6mL)中の冷却した(0℃)塩酸塩3(0.15g、0.3mmol)の溶液に、トリエチルアミン(0.09mL、0.063g、0.62mmol)および乾燥ピリジン(3mL)を加えた。ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、0.48g、2.3mmol)およびジフルオロ酢酸(0.12mL、0.18g、1.3mmol)を、シリンジによって反応混合物中に加えた。できた溶液を0℃で16時間置き、その後2滴のジフルオロ酢酸を加えた。さらに室温で3.5時間後、TLC分析によって反応が終わったことを判断した。減圧下で溶媒を部分的に除去し、その後酢酸エチル(50mL)および飽和塩化ナトリウム溶液(20mL)を加えた。有機層を回収し、そして水層を酢酸エチルで2回抽出した。あわせた有機抽出物を、水、飽和炭酸水素ナトリウムで2回、および最後に飽和塩化ナトリウム溶液で連続的に洗浄した。有機抽出物を、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして減圧下で溶媒を除去して淡黄色のシロップを得た。グラジエント溶媒系(1:1;ヘキサン−酢酸エチル)を用いたフラッシュカラムシリカクロマトグラフィーを用いて望ましい産物を精製し、部分的に精製した望ましい化合物を、非晶質の白色固体として得て(約0.10mg、0.19mmol、64%)、それをさらなる精製なしに、次の工程で使用した。
【0063】
1.2.5 4−メチルウンベリフェリル3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−トリフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(4c)の合成
ジメチルホルムアミドの溶液(DMF、6mL)中の冷却した(0℃)塩酸塩3(0.10g、0.2mmol)の溶液に、トリエチルアミン(0.06mL、0.42g、0.41mmol)を加えた。次いで反応混合物を0℃まで冷却し、そしてシリンジによってトリフルオロ酢酸無水物(0.08mL、0.12g、5.7mmol)を加えた。できた溶液を0℃で16時間置き、その後TLC分析によって反応が終わったことを判断した。反応混合物を次いで酢酸エチル(20mL)で希釈し、そして飽和塩化ナトリウム溶液(40mL)を加えた。有機相を回収し、そして水相を酢酸エチルで2回抽出した。あわせた有機抽出物を、水、飽和炭酸水素ナトリウムで2回、および最後に飽和塩化ナトリウム溶液で連続的に洗浄した。有機抽出物を、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして減圧下で溶媒を除去して淡黄色のシロップを得た。グラジエント溶媒系(1:1;ヘキサン−酢酸エチル)を用いたフラッシュカラムシリカクロマトグラフィーを用いて望ましい産物を精製し、部分的に精製した望ましい化合物を、非晶質の白色固体として得て(約0.93g、0.17mmol、82%)、それをさらなる精製なしに、次の工程で使用した。
【0064】
1.2.6 4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−フルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(5a−c)の合成の一般的な手順
乾燥メタノール中の各グリコシドの溶液に、スパチュラの先ほどの無水ナトリウムメトキシドを加えた。できた塩基性溶液を、TLC分析によって反応が終わったことを判断するまで、窒素下で攪拌した。Dowex−50H+樹脂を、溶液のpHが中性になるまで、攪拌した反応混合物に加えた。懸濁液をろ過し、そしてフィルターケーキをメタノールで徹底的にすすぎ、その後あわせたろ過物からの溶媒を減圧下で除去した。望ましい脱保護グリコシドを、以下の溶媒システムを用いたフラッシュカラムシリカクロマトグラフィーによって単離した:N−トリ−およびN−ジフルオロアセチル誘導体(5bおよび5c)に関しては酢酸エチル−メタノール−水(12:1:1)、およびN−モノフルオロアセチル誘導体(5a)に関しては酢酸エチル−メタノール(1:1)。産物をエタノールおよびジエチルエーテルから再結晶化して望ましい産物を得、2つの工程の全体的な収率は、N−トリフルオロアセチル誘導体(5c)に関して66%、N−ジフルオロアセチル誘導体(5b)に関して37%、およびN−フルオロアセチル誘導体(5a)に関して45%であった。
【0065】
4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−フルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc−F)(5a)
【0066】
【化13】
4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−ジフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc−F2)(5b)
【0067】
【化14】
4−メチルウンベリフェリル2−デオキシ−2−トリフルオロアセトアミド−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc−F3)(5c)
【0068】
【化15】
1.3 O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの動態分析
1.3.1 動態分析のための実験手順
全てのアッセイを、停止アッセイ(stopped assay)手順を用いて、37℃で30分間、3組行い、ここで酵素反応(25μL)を、6倍過剰(150μL)の反応停止緩衝液(200mMのグリシン、pH10.75)を加えることによって反応停止させる。酵素(3μL)をシリンジで加えることによってアッセイを開始し、そして全ての場合においてできた反応停止溶液の最終的なpHは、10より高かった。β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの時間依存的アッセイは、どちらの酵素も、この期間中そのそれぞれの緩衝液;50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25および50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH6.5の中で安定であったことを明らかにした。30分の終了における反応の進行を、Varian CARY Eclipse Fluoresence−Spectrophotometer 96穴プレートシステムを用いた蛍光測定、および同一の緩衝液条件下での4−メチルウンベリフェロンの標準曲線との比較によって決定した、遊離した4−メチルウンベリフェロンの程度を測定することによって決定した。5mmのスリット開口で、それぞれ368および450nMの励起および発光波長を使用した。ヒト胎盤β−ヘキソサミニダーゼを、Sigma−Aldrichから購入した(ロット043K3783)。O−GlcNAcaseのクローニングおよび発現は、文献に記載されている[85]。両方の酵素を、PBS緩衝液に対して透析し、そしてその濃度をBradfordアッセイを用いて決定した。フッ素化した基質と共にアッセイで使用したβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの濃度(μg/μl)は以下の通りであった:4−メチルウンベリフェリル2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc)(5):0.00077、0.0126;MuGlcNAc−F(5a):0.0031、0.0189;MuGlcNAc−F2(5b):0.0154、0.0756、およびMuGlcNAc−F3(5c):0.0154、0.01523。それに加えて、β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseを、それぞれ0.0154および0.0378の濃度(μg/μL)で使用して、基質5を0.64mMの濃度で使用してインヒビターを試験した。8eのKI値が高いために、インヒビターをそのような高濃度にできないインヒビター8eとβ−ヘキソサミニダーゼのアッセイを除いて、全てのインヒビターを、KIの5倍から5分の1までの範囲の8つの濃度で試験した。KI値を、ディクソンプロットにおけるデータの線形回帰によって決定した。必要な場合には、アッセイを3組行い、そしてエラーバーをデータのプロットに含める。
【0069】
1.3.2 基質アナログを用いた動態分析の結果
リソソームヒトβ−ヘキソサミニダーゼは、隣接基補助を含むメカニズムによって進行することが公知であるので、これらの化合物を、最初にこの酵素と試験した(図2A)。全ての基質に関してMichaelian飽和動態は観察されなかったが(表1)、酵素触媒反応を支配する二次速度定数に比例するVmax[E]0/KMを、ミカエリス−メンテンプロットの最初の傾きから決定し得る(図2A挿入図)。N−アシル置換基のTaft電子パラメーター(σ*)に対するlog Vmax[E]0/KMのプロットは、増加するフッ素置換に対して負の線形の相関を示す(図2C)。予期されるように、カルボニル酸素の塩基性の減少は、触媒作用に有害な影響を有する。Taft様線形自由エネルギー分析の急な負の傾き(反応定数によって与えられる、ρ=−1.0±0.1)は、カルボニル酸素が、アノマー中心を攻撃する求核試薬として作用することを示唆する。
【0070】
【表1】
表1:一連の4−メチルウンベリフェロン2−N−アセチル−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシドのβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcase触媒加水分解に関するミカエリス−メンテンパラメーター。
a各N−アシル置換基に関して使用したTaft電子パラメーター(σ*)は、HanschおよびLeoから得た[86]。
bミカエリス−メンテンデータの非線形回帰によって値を推定した。限られた基質の溶解性のために、アッセイした基質濃度はKMに匹敵するが超えないことに注意。
c基質溶解性の制限のために飽和動態が観察されなかったので、これらの値は決定できなかった。
dミカエリス−メンテンプロットの2次領域の線形回帰によって値を決定した。
【0071】
このデータは、酵素触媒糖質加水分解に関して一般的に提唱された、アノマー中心の求電子性転移および結果としてのオキソカルベニウムイオン様転移状態を含むメカニズムと一致する[80、82]。O−GlcNAcaseに関しては、ミカエリス飽和動態が4つの基質すべてに関して観察され、従って両方の動態パラメーターを決定した(表1、図2B)。O−GlcNAcaseに関して、Vmax[E]0/KMの値もフッ素置換の程度に依存しているが、傾きはよりゆるやかである(ρ=−0.42±0.08、図2C)。これらの結果に基づいて、O−GlcNAcaseは、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼと共通で、隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用するようである。
【0072】
Taft様分析の相関関係の傾きである反応定数(ρ)は、異なる基質に対する反応の感受性の指標である。この定数は、以下の式によって、電気的要素(ρ*、置換基の電気的パラメーター、σ*に対する反応の感受性によって支配される)および空間的要素(δ、置換基の空間的Taftパラメーター、Esに対する反応の感受性によって支配される)の両方の関数であると考え得る。
【0073】
ρ=ρ*+δ(式1)。
【0074】
従って、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseに関して測定された傾きの間の差異は、反応座標に沿った転移状態の位置を反映し得るか、またはリソソームβ−ヘキソサミニダーゼはO−GlcNAcaseよりも空間的に制約のある活性部位構造を有することを示し得る。実際、よくある誤解は、フッ素(147pmのファンデルワールス半径および138pmのC−F結合距離)は、多くの場合水素(120pmのファンデルワールス半径および109pmのC−H結合距離)と比較して、大きさにわずかな違いしかないと考えられることである。従って、基質およびヒトβ−ヘキソサミニダーゼの活性部位の間の不利な空間的相互作用が、電子を超えて、様々なレベルのフッ素置換の間を区別することにさらなる役割を果たし得ることが可能である。実際、ヒトヘキソサミニダーゼBの最近の結晶構造は、3つのトリプトファン残基の間にアセトアミド基を堅固に抱える、注意深く構成されたポケットを明らかにした[78、87]。O−GlcNAcaseに関しては、3次元構造は入手可能でない。しかし、全ての基質アナログに関して測定された相対的な定数KM値は、空間的影響は主要な誘因ではなく、そしてN−アシル−フッ素置換基の電子的影響が優勢であることを示唆する。アセトアミド基に2つまたは3つのフッ素置換基を有する2つのパラ−ニトロフェニル2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(pNP−GlcNAc)を用いた、未知のファミリーの単離された酵素についての初期の研究は、−1.41±0.1のρ*を得た[88]。この値は、この研究においてリソソームβ−ヘキソサミニダーゼに関して見出されたもの(ρ*=−1.0±0.1)よりさらに大きく、Aspergillus nigerからKosmanおよびJonesが研究した酵素は、ファミリー84ではなく、ファミリー20のグリコシドヒドロラーゼのメンバーである可能性が高い。
【0075】
1.3.3 NAG−チアゾリンをインヒビターとして使用した動態分析の結果
O−GlcNAcaseが、隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用するかどうかのさらなる試験として、インヒビターNAG−チアゾリン(9a)をこの酵素と試験した。二環性オキサゾリン中間体の模倣物として設計されたNAG−チアゾリンは、ファミリー20ヘキソサミニダーゼのインヒビターとして機能することが以前に示された[30、48]。pNP−GlcNAcを基質として使用して、NAG−チアゾリンは、ファミリー84ヒトO−GlcNAcaseの強力なインヒビターであることが見出され、そして競合的阻害の明らかなパターンが観察された(図3)。非線形回帰が、pH7.4における180nMのKI値を明らかにし、そしてMU−GlcNAc(5)を用いた分析が、pH6.5における70nMのKI値を明らかにした。従って、NAG−チアゾリンは、O−GlcNAcaseの強力なインヒビターであり、pH6.5において親の糖類であるGlcNAc(KI=1.5mM)よりも約21000倍強く結合する。この強力な阻害は、NAG−チアゾリンの推定されるオキサゾリン中間体または構造的に関連する転移状態との類似に起因し得る。実際、観察された阻害データは、ファミリー20ヒトリソソームβ−ヘキソサミニダーゼ(KI=70nM、KI値が1.2mMであるGlcNAcより17000倍強い)に関して発明者が測定したものと同様であり、そしてO−GlcNAcaseは、ファミリー20β−ヘキソサミニダーゼと同様、隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用することを示すTaft様分析を強力に支持する。オリゴ糖鎖を切断するよう作用するエンドグリコシダーゼである、ファミリー18[89]および56[90]のグリコシドヒドロラーゼも、隣接基補助を含むメカニズムを使用することが示された[91]。従って、ファミリー18、20、56および84は全て、基質のアセトアミド基からの隣接基補助を含む触媒メカニズムを使用する保持性グリコシダーゼから成る。これは、そのそれぞれの基質の2位にアセトアミド基を有する基質に作用するファミリー3および22の保持性β−グリコシダーゼ[81、82]、およびファミリー23逆転エンドグリコシダーゼと非常に対照的である。
【0076】
【表2】
表2:O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼ両方に関するインヒビターの阻害定数および選択性。全てのKI値を、ディクソンプロットの線形回帰を用いて決定した。
【0077】
(実施例2:選択的O−GlcNAcaseインヒビターの最初の実施態様の設計および合成)
2.1 選択的O−GlcNAcaseインヒビターの最初の実施態様の設計
ヒトO−GlcNAcase、および拡張して(by extenstion)ファミリー84のグリコシドヒドロラーゼの他のメンバーのメカニズムが確立され、ヒトリソソームβ−ヘキソサミニダーゼよりもこの酵素に選択的なインヒビターの設計にこの情報を使用することへ注意が向けられた。β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseはどちらも隣接基補助を含むメカニズムを使用するので、必要な選択性を生ずるよう作り上げ得る足場として、NAG−チアゾリンを選択した。3つの観察が、そのインヒビターの設計における開始点を提供した。最初のものは、リソソーム酵素のTaft様分析の傾きが、O−GlcNAcaseに関して測定されたものよりもかなり急で、それによってN−アシル基の大きさが、基質認識における決定要因であり得ることを示唆することである(前述を参照のこと)。2番目の、そして関連する考察は、ヒトリソソームβ−ヘキソサミニダーゼBの構造は、アセトアミド置換基のメチル基が釣り合う、ぴったり合うポケットを明らかにする[78]。3番目は、大きなN−アシル置換基を有するSTZが、β−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseにいくらかの選択性を示すことである[46]。
【0078】
2.2 選択的O−GlcNAcaseインヒビターの最初の実施態様の合成
一連の7つのインヒビターを調製し、ここでチアゾリン環を、これらの化合物がリソソームヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseについての明確な阻害を可能にすることを期待して、増加する長さの脂肪族の鎖と共に合成した。このインヒビターのパネルの合成を、スキーム2で概略を述べる。この容易な合成経路は、市販で入手可能な開始材料から3つの工程で、または安価な開始材料2−アミノ−2−デオキシ−グルコピラノースから6つの工程で、多量のインヒビターの産生を可能にする。
【0079】
【化16】
2.2.1 化合物の合成の一般的な手順
一般的な手順は、上記で述べた基質アナログの合成と同じである。
【0080】
2.2.2 1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース(7a−g)の合成の一般的な手順
1容積の乾燥ジクロロメタン中の2−アミノ−2−デオキシ−1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノース(6)[92]の塩酸塩の溶液に、2当量の乾燥トリエチルアミンを加え、このとき開始材料を溶解した。反応混合物を0℃に冷却し、そして1.2当量の適当な塩化アシルをシリンジで加えた。できた混合物を、室温で約2時間攪拌した。TLC分析によって反応混合物が完了したことを判断した時に、5容積の酢酸エチルを加えた。できた有機相を、水、1MのNaOH、および飽和塩化ナトリウムで連続的に洗浄した。有機相をMgSO4上で乾燥し、ろ過し、そして濃縮して白色の結晶性固体を得た。その物質を、酢酸エチルおよびヘキサンの混合物を用いて再結晶化し、望ましいN−アシル化された物質を、46から74%の範囲の収率で得た。
【0081】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−プロピル−β−D−グルコピラノース(7b)
【0082】
【化17】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−ブチル−β−D−グルコピラノース(7c)
【0083】
【化18】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−ペンチル−β−D−グルコピラノース(7d)
【0084】
【化19】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−ヘキシル−β−D−グルコピラノース(7e)
【0085】
【化20】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−イソブチル−β−D−グルコピラノース(7f)
【0086】
【化21】
1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−イソペンチル−β−D−グルコピラノース(7g)
【0087】
【化22】
2.2.3 3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(3,4,6−トリ−O−アセチル−NAG−チアゾリンアナログ)(8a−g)の合成の一般的な手順
無水トルエン中の適当な1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−N−アシル−2−デオキシ−β−D−グルコピラノース(7a−g)の溶液に、ローソン試薬(0.6当量)を加え、そして反応混合物を2時間還流し、その後TLC分析によって反応が完了したことを判断した。溶液を室温に冷却し、そして溶媒を減圧下で除去した。残渣をトルエンに溶解し、そしてヘキサンおよび酢酸エチルの4:1から1:2まで範囲の適当な比の溶媒システムを用いて、フラッシュカラムシリカクロマトグラフィーによって望ましい物質を単離した。62から83%の範囲の収率で産物を単離した。3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−メチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8a)は、上記で記載されたような同様の反応条件を用いて以前に調製された[30]。全てのスペクトルの特徴は、文献の値と一致した。
【0088】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8b)
【0089】
【化23】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8c)
【0090】
【化24】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8d)
【0091】
【化25】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8e)
【0092】
【化26】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8f)
【0093】
【化27】
3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(8g)
【0094】
【化28】
2.2.4 1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(NAG−チアゾリンアナログ)(9a−g)の合成の一般的な手順
乾燥メタノール中の適当な保護チアゾリン(8a−g)の溶液に、スパチュラの先ほどの無水ナトリウムメトキシドを加えた。その塩基性溶液を、TLC分析によって反応が完了したと判断するまで(典型的には2時間)攪拌した。メタノール中の氷酢酸の溶液(1:20)を、溶液のpHが中性になるまで、反応混合物中に1滴ずつ加えた。次いで溶媒を減圧下で除去し、そして酢酸エチルおよびメタノールの2:1から6:1までの範囲の適当な比の溶媒システムを用いて、フラッシュカラムシリカクロマトグラフィーによって望ましい物質(9a−g)を単離した。産物を86%から99%までの範囲の収率で単離した。1,2−ジデオキシ−2’−メチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9a)は、上記で記載されたような同様の反応条件を用いて以前に調製された[30]。全てのスペクトルの特徴は、これらのアッセイで使用したサンプルの元素分析と同様、文献の値と一致した。C8H13O4NSの計算値;C,43.82;H,5.98;N,6.39;実測値 C,43.45;H,6.23;N,6.18。
【0095】
1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9b)
【0096】
【化29】
1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9c)
【0097】
【化30】
1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9d)
【0098】
【化31】
1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9e)
【0099】
【化32】
1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9f)
【0100】
【化33】
1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリン(9g)
【0101】
【化34】
2.3 インヒビター9a−gを用いた動態分析
2.3.1 動態分析の実験手順
全てのアッセイを、停止アッセイ手順を用いて、37℃で30分間、3組行い、ここで酵素反応(25μL)を、6倍過剰(150μL)の反応停止緩衝液(200mMのグリシン、pH10.75)を加えることによって反応停止させる。酵素(3μL)をシリンジで加えることによってアッセイを開始し、そして全ての場合においてできた反応停止溶液の最終的なpHは、10より高かった。β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの時間依存的アッセイは、どちらの酵素も、この期間中そのそれぞれの緩衝液;50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25および50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH6.5の中で安定であったことを明らかにした。30分の最後における反応の進行を、Varian CARY Eclipse Fluoresence−Spectrophotometer 96穴プレートシステムを用いた蛍光測定および同一の緩衝液条件下での4−メチルウンベリフェロンの標準曲線との比較によって決定した、遊離した4−メチルウンベリフェロンの程度を測定することによって決定した。5mmのスリット開口で、それぞれ368および450nMの励起および発光波長を使用した。可能性のあるO−GlcNAcaseの時間依存的不活性化を、10mMのSTZを、50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、1%のBSA、5mMのβ−メルカプトエタノール、pH6.5の存在下で0.016mg/mLのO−GlcNAcaseと、または50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25の存在下で0.036mg/mLのβ−ヘキソサミニダーゼとインキュベートすることによってアッセイした。いくつかの時間間隔で、不活性化混合物中に含まれる残留酵素活性をアッセイした。反応を、反応混合物のアリコートを5.7mMのMU−GlcNAcおよび各酵素に適当な緩衝液を含むアッセイ混合物に加えることによって始めた以外は、上記で各酵素に関して記載されたようにアッセイを行った。STZの安定性を、まずNMRによって重水素化水中でのその分解を追跡することによって試験した。室温での水性溶液におけるSTZの半減期は、室温でNMRによってその分解を追跡することによって決定したように、6時間より十分長かった。ヒト胎盤β−ヘキソサミニダーゼを、Sigma−Aldrichから購入した(ロット043K3783)。O−GlcNAcaseのクローニングおよび発現は、文献に記載されている[85]。両方の酵素を、PBS緩衝液に対して透析し、そしてその濃度をBradfordアッセイを用いて決定した。フッ素化した基質と共にアッセイで使用したβ−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseの濃度(μg/μl)は以下の通りであった:4−メチルウンベリフェリル2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコピラノシド(MuGlcNAc)(5):0.00077、0.0126;MuGlcNAc−F(5a):0.0031、0.0189;MuGlcNAc−F2(5b):0.0154、0.0756、およびMuGlcNAc−F3(5c):0.0154、0.01523。それに加えて、β−ヘキソサミニダーゼおよびO−GlcNAcaseを、それぞれ0.0154および0.0378の濃度(μg/μL)で使用して、基質5を0.64mMの濃度で使用してインヒビターを試験した。インヒビター8eのKI値が高いために、インヒビターをそのような高濃度にできないインヒビター8eとβ−ヘキソサミニダーゼとのアッセイを除いて、全てのインヒビターを、KIの5倍から5分の1までの範囲の8つの濃度で試験した。KI値を、ディクソンプロットにおけるデータの線形回帰によって決定した。必要な場合には、アッセイを3組行い、そしてエラーバーをデータのプロットに含める。
【0102】
2.3.2 インヒビター9a−gを用いた動態分析の結果
ヒトβ−ヘキソサミニダーゼの阻害の分析は、鎖の長さを増加させることは、これらのインヒビターの効力の顕著な減少を引き起こすことを明らかにした(図4および表2)。1つのメチレンユニットの含有さえも(化合物9b)、親化合物NAG−チアゾリン(9a)と比較して、β−ヘキソサミニダーゼのKI値における460倍の増加を引き起こした。鎖の長さのさらなる増加は、KI値のさらに大きな増加を引き起こす。しかし、O−GlcNAcaseに関しては、状況は著しく異なる(図4および表2)。鎖の長さの増加は、非常によりよく許容され、そして2つのメチレンユニットの含有は、KI値(KI=230nM)が親化合物(9a)NAG−チアゾリン(KI=70nM)で測定されたものより3倍しか高くない化合物(9c)を生じる。化合物9fおよび9gはどちらもO−GlcNAcaseのよいインヒビターであるので、脂肪鎖の分枝も、結合を損なわない。データの分析から、化合物9b、9c、および9fはO−GlcNAcaseの強力なインヒビターであり、そしてリソソームヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに顕著な選択性を示すことを見出し得る。実際、β−ヘキソサミニダーゼに対するO−GlcNAcaseへの選択性の比は、化合物9dに関して3100倍、化合物9cに関して1500倍、および化合物9fに関して700倍である(図2および表2)。
【0103】
2.3.3 既存のインヒビターを用いた動態分析の結果
O−GlcNAcaseの既存のインヒビターも、その阻害特性および選択性に関して試験した。STZのO−GlcNAcase(KI=1.5mM)およびβ−ヘキソサミニダーゼ(KI=47mM)両方とのKI値を決定し(表2)、そしてO−GlcNAcaseに関して測定した値は、1から2.5mMの範囲であった以前のIC50の決定と一致することが見出された[42、46]。STZのβ−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに対する選択性は、この化合物のN−アシル基の大きさを考慮すると驚くほど中程度である(31倍)。おそらく、チアゾリン化合物は、転移状態または密接に結合した中間体を模倣し得るという事実のために、STZよりも高い選択性を示す。可能性のあるO−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼのSTZ誘導不可逆的不活性化も調査した。不可逆的インヒビターは、失活剤がタンパク質を修飾するので、酵素活性の時間依存的な喪失を引き起こす。まず水性溶液中でのSTZの安定性および市販で入手可能な物質の純度をチェックするために、重水素化水中に新しく溶解したSTZの時間依存的分解を、NMRによってモニターした。STZは、あきらかに6時間より長い半減期で、時間とともに分解した(図7を参照のこと)。発明者の手において、新しく溶解したSTZは、6時間を超えてはO−GlcNAcaseまたはβ−ヘキソサミニダーゼの時間依存的な失活剤として作用しなかった(図8を参照のこと)。PUGNAcの選択性も調査した。PUGNAcのKI値をO−GlcNAcaseで測定し(KI=46nM)、そして以前に決定された値(KI=50nM)とほぼ一致することが見出された[13]。しかし、この化合物は、β−ヘキソサミニダーゼ(KI=36nM)と比較して、O−GlcNAcaseに選択性を示さない。
【0104】
これらのデータはまた、上述の、フッ素置換基質のN−アシル基の立体容積は、O−GlcNAcaseで測定されたTaft様分析の傾き(ρ=−0.42)に大きくは寄与しないという見方を支持する。しかし、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼで測定された傾き(ρ=−1.0)は、式1による電気的効果および立体的効果の両方を複合したもののようである。フッ素置換基の電気的効果に対する反応の感受性(ρ*)は、従って両方の酵素に関して同じであり得るが、基質の立体的効果に対するリソソームβ−ヘキソサミニダーゼ触媒反応の有意な感受性(δ)は、O−GlcNAcaseで測定されたものよりも、β−ヘキソサミニダーゼに関して明らかに急な傾きをもたらす。合わせると、Taft様線形自由エネルギー分析および選択的阻害のデータは、O−GlcNAcaseの活性部位は、リソソームβ−ヘキソサミニダーゼよりも、基質の2−アセトアミド基周囲の領域にかなり大きなスペースを有することを示唆する。
【0105】
(実施例3:選択的O−GlcNAcaseインヒビターの2番目の実施態様の設計および合成)
3.1 2番目のクラスの選択的O−GlcNAcaseインヒビターの設計
上記の観察に基づいて、PUGNAcのぶら下がったN−アシル鎖に修飾をして、異なるインヒビターの足場に基づいた、強力および選択的なO−GlcNAcaseのインヒビターの2番目の実施態様を得た。そのようなインヒビターは、異なる薬物動態の性質を有し、そして細胞および有機体レベルにおけるO−GlcNAc翻訳後修飾の役割を分析するために貴重なツールであり得る。
【0106】
3.2 選択的O−GlcNAcaseインヒビターの2番目の実施態様の合成
足場としてPUGNAcを用いた一連の6つのインヒビターの合成を、スキーム3において概略を述べる。
【0107】
【化35】
容易に利用可能な塩酸塩10[93]から開始して、Boc基を導入してアミン部分を保護し、四酢酸塩11[94]を得た(スキーム3)。四酢酸塩11を利用して、(NH4)2CO3を用いた選択的脱−O−アセチル化は、非常に良い収率でヘミアセタール12を産生した。このヘミアセタール12をNH2OH.HClで処理して、未精製のEおよびZオキシム13を良い収率で得た。
【0108】
次の反応である酸化的閉環反応は、MohanおよびVasellaによって、かなり神経質(temperamental)であることが報告された(スキーム4)。
【0109】
【化36】
1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)およびN−クロロスクシンイミド(NCS)を用いてオキシム14を酸化する場合、NCSを加える間の反応混合物の温度の注意深いコントロールが、望ましくない1,4−ラクトンオキシム15の形成を避けるために重要である[95]。これらの観察と一致して、いくつかの14を用いた試行反応は、望ましくない1,4−ラクトンオキシム15よりも1,5−ラクトンオキシム16をうまく産生するために、温度が実際重要であることを示す。実際、わずかに上昇した温度(−20℃)においては、1,4−ラクトンオキシム15のみを得る。
【0110】
スキーム3に戻って参照して、文献の条件下[95]でオキシム13をDBU/NCSで処理して、望ましい1,5−ラクトン17および望ましくない1,4−ラクトンオキシム18を4:1の比で得た。しかし、NCSを既に溶液中に13と共に有し、そして次いでDBUを混合物に加えるだけで、いくらか低い収率ではあったが、17のみを得た。ここで直面する1つの複雑な状況は、これらの反応の副産物であるスクシンイミドは、17から分離するのが困難であることである。さらに、17のスペクトル分析は、1H NMRスペクトルにおいて得られるシグナルの広幅化のために複雑である。
【0111】
それにもかかわらず、純粋でないヒドロキシモラクトン(hydroximolactone)17をフェニルイソシアネートで処理すると、フラッシュクロマトグラフィーによる精製後、よい収率で純粋なカルバメート19を得る。実際、Boc保護基は、ジクロロメタン中で無水トリフルオロ酢酸を用いてスムーズに除去される。できた未精製のアミン塩20を適当な塩化アシルで処理すると、全体的によい収率でアミド21a−gを得る。21aおよび21bの詳細な分析は、化合物のこの全体的なN−アシル化系列の正体を支持する。続くメタノール中における飽和アンモニアによる21aの脱−O−アセチル化は、よい収率でPUGNAcを生ずる。同様の様式で22aを21bから得た。これらの変換の容易さを強調するために、共通の中間体、20をある範囲の塩化アシルで処理して、21c−gを未精製産物として得ることができる。これらの未精製中間体をすぐ脱−O−アセチル化して、よい収率でトリオール22b−fを容易に得る。
【0112】
3.2.1 化合物の合成の一般的な手順
全ての溶媒を、使用の前に乾燥した。合成反応を、Merck Kieselgel 60 F254アルミニウム裏打ちシートを用いて、TLCによってモニターした。エタノール溶液中10%の濃硫酸で焦がし、そして加熱することによって化合物を検出した。陽圧下でのフラッシュクロマトグラフィーを、Merck Kieselgel 60(230−400メッシュ)で、指定された溶出剤を用いて行った。1Hおよび13C NMRスペクトルを、Bruker AMX400で400MHzにおいて(13Cに関しては100MHz)、またはVarian AS500 Unity Innova 分光計で500MHzにおいて(13Cに関しては125MHz)記録した(ケミカルシフトは適当な場合にはCDCl3またはCD3ODと相対的に引用した)。酵素アッセイにおいて使用した全ての合成化合物の元素分析を、Simon Fraser Universityまたはthe University of British Columbia Analytical Facilityにおいて行った。
【0113】
3.2.2 (E)−および(Z)−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−tert−ブトキシカルボンアミド−2−デオキシ−D−グルコースオキシム(13)の合成
塩酸ヒドロキシルアミン(3.2g、46mmol)を、MeOH(200mL)中のヘミアセタール12[93](12g、31mmol)およびピリジン(6.3mL、77mmol)に加え、そしてできた溶液を還流しながら攪拌した(2h)。その溶液を濃縮し、そしてトルエン(2×20mL)と同時蒸発させた。残渣をEtOAcに取り、そして水(2×50mL)、ブライン(50mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、ろ過および濃縮して推定されるオキシム13(9.5g)を得た。残渣をさらなる精製無しに使用した。
【0114】
3.2.3 3,4,6−トリ−O−アセチル−2−tert−ブトキシカルボンアミド−2−デオキシ−D−グルコノヒドロキシモ−1,5−ラクトン(17)の合成
(a)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(0.98mL、6.6mmol)を、CH2Cl2(60mL)中の未精製のオキシム13(2.5g、5.9mmol)に−45℃で加え、そして混合物を攪拌した(5分)。次いでN−クロロスクシンイミド(0.87g、6.5mmol)を、温度が−40℃を超えないように、溶液に加え、そしてできた混合物をこの温度で30分間攪拌し、そして次いで2時間以上室温まで温めた。その混合物を水で反応停止し、そしてEtOAc(100mL)で希釈した。有機層を分離し、そして水(2×50mL)、ブライン(1×50mL)で洗浄し、乾燥(MgSO4)させ、ろ過および濃縮した。できた残渣のフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン2:3)で、表題化合物17を、無色の油状物(1.7g、68%)として得た。1Hおよび13C NMRスペクトルは、目的の化合物を示すようであったが、1,4−ラクトンオキシム18およびスクシンイミドが混入していた。
【0115】
(b)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(3.0mL、20mmol)を、−45℃においてCH2Cl2(110mL)中のオキシム13(7.7g、18mmol)およびN−クロロスクシミニド(2.7g、20mmol)に、温度が−40℃を超えないように加え、そしてできた混合物をこの温度で30分間攪拌し、そして次いで2時間以上室温まで暖めた。混合物を続いて(a)におけるように処理し、表題化合物17(4g、52%+)を得た。
【0116】
【化37】
3.2.4 O−(3,4,6−トリ−O−アセチル−2−tert−ブトキシカルボンアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(19)の合成
フェニルイソシアネート(0.5mL、3.7mmol)を、THF(50mL)中のラクトン17(1.3g、3.1mmol)およびEt3N(1.3mL、9.3mmol)に加え、そして溶液を攪拌した(室温、3h)。濃縮に続いて、残渣のフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン1:4)によって、カルバメート19を無色の油状物(1.2g、71%)として得た。
【0117】
【化38】
3.2.5 O−(3,4,6−トリ−O−アセチル−2−アシルアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(21a−g)の一般的な合成手順
トリフルオロ酢酸(13mmol)を、CH2Cl2(10mL)中のカルバメート19(1mmol)に0℃で加え、そして溶液を攪拌した(2h)。次いでピリジン(200mmol)を溶液にゆっくりと加え、そしてできた混合物を放置した(0℃、10分)。次いで適当な塩化アシル(3mmol)を0℃で加え、そして溶液を4℃で一晩置いた。混合物の濃縮によって、黄色がかった残渣を生じ、それをEtOAc(30mL)に溶解し、そして水(2×20mL)、ブライン(1×20mL)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、ろ過および濃縮した。推定される中間体トリ−O−アセテート21c−gに関して、これらをさらなる精製無しに維持した。21aおよび21bと推定される残渣のフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン1:1)は、望ましいアシル誘導体21aおよび21bを、それぞれ48%および42%の収率で生じた。
【0118】
O−(2−アセトアミド−3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(21a)は、文献で見出されるものと一致する1Hおよび13C NMRスペクトルを生じた。[96](48%) Rf0.2(EtOAc/ヘキサン7:3)。
【0119】
O−(3,4,6−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−2−プロパミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(21b)
【0120】
【化39】
3.2.6 O−(2−アシルアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(PUGNAc、22a−f)を合成するための一般的手順
MeOH(2mL)中のアンモニア飽和溶液を、MeOH(10mL)中のカルバメート(0.3mmol)に加え、そして溶液を放置した(室温、2h)。濃縮に続く、残渣のフラッシュクロマトグラフィー(MeOH/EtOAc3:97)によって、望ましいトリオールPUGNAc、22a−fを、21%から32%の範囲の収率で得た。
【0121】
O−(2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(PUGNAc)−(32%)は、文献で見出されるものと一致する1Hおよび13C NMRスペクトルを生じた。[96]
Rf 0.15(MeOH/EtOAc 1:19)。
【0122】
O−(2−デオキシ−2−プロパミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22a)−
【0123】
【化40】
O−(2−デオキシ−2−ブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22b)−
【0124】
【化41】
O−(2−デオキシ−2−吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22c)−
【0125】
【化42】
O−(2−デオキシ−2−ヘキサミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22d)−
【0126】
【化43】
O−(2−デオキシ−2−イソブタミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22e)−
【0127】
【化44】
O−(2−デオキシ−2−イソ吉草酸アミド−D−グルコピラノシリデン)アミノN−フェニルカルバメート(22f)−
【0128】
【化45】
3.3 インヒビター22a−fを用いた動態分析
3.3.1 動態分析の実験手順
全てのアッセイを、停止アッセイ手順を用いて、37℃で30分間、3組行い、ここで酵素反応(50μL)を、4倍過剰(200μL)の反応停止緩衝液(200mMのグリシン、pH10.75)を加えることによって反応停止した。酵素(5μL)をピペットで注意深く加えることによってアッセイを開始し、そして全ての場合においてできた反応停止溶液の最終的なpHは、10より高かった。O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの時間依存的アッセイは、酵素は、アッセイの期間中そのそれぞれの緩衝液:50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH6.5、および50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25の中で安定であったことを明らかにした。30分の最後における反応の進行を、96穴プレート(Sarstedt)および96穴プレートリーダー(Molecular Devices)を用いて400nmにおけるUV測定によって決定される、遊離した4−ニトロフェノールの程度を測定することによって決定した。ヒト胎盤β−ヘキソサミニダーゼを、Sigmaから購入し(ロット043K3783)、そしてO−GlcNAcaseを使用の前に新しく過剰発現および精製した。[85]O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼを、阻害アッセイにおいて、それぞれ0.0406および0.012の濃度(μg/μL)で、基質pNP−GlcNAcを0.5mMの濃度で用いて使用した。その高いKI値のために、インヒビターをそのような高濃度にできないインヒビター22dとβ−ヘキソサミニダーゼとのアッセイを除いて、全てのインヒビターをKIの3倍から3分の1の範囲の7つの濃度で試験した。KI値を、ディクソンプロットからのデータの線形回帰によって決定した。
【0129】
3.3.2 インヒビター22a−fを用いた動態分析の結果
上記で述べたように、PUGNAcは、O−GlcNAcase[13、50]およびβ−ヘキソサミニダーゼ[28、51]両方の強力な競合的インヒビターである。ヒト酵素に関して、それぞれのKI値は46nMおよび36nMである[13、49]。インヒビター22a−fの選択性を評価し、そしてPUGNAcと比較した。pNP−GlcNAcを基質として用いて、これらの化合物22a−fは、ヒトO−GlcNAcaseおよびヒトβ−ヘキソサミニダーゼ両方のインヒビターであることが見出された(表3)。
【0130】
【表3】
(表3.O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼに対するインヒビターの阻害定数および選択性)
ヒトβ−ヘキソサミニダーゼの阻害の分析は、N−アシル基の鎖の長さの増加は、これらインヒビターの効力の顕著な減少を引き起こすことを明らかにする(表3)。1つのメチレン基のみを含むこと(化合物22a)は、親PUGNAcと比較して、β−ヘキソサミニダーゼに関してKI値の33倍の増加を引き起こす。鎖の長さのさらなる増加は、さらに大きなKI値の増加を引き起こす。さらに、O−GlcNAcaseは、β−ヘキソサミニダーゼよりもよく鎖の長さの増加を許容する(表3)。
【0131】
これら2つのヒト酵素、O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼに関して、以前に調製したNAG−チアゾリン誘導体、9b−g[49]のKI値との直接比較は、修飾チアゾリンは、対応するPUGNAcに基づく化合物、22a−fよりも選択的および強力なインヒビターであることを明らかにする。これらの観察は、インヒビターのアシル基の位置、および潜在的にアノマー炭素の混成状態の重要性を示す。sp3混成アノマー炭素を有するチアゾリン、NAG−チアゾリンおよび9b−gは、sp2混成アノマー炭素を有する対応するPUGNAc誘導体、PUGNAcおよび22a−fのアシル鎖と比較して、アシル鎖の動きを制限する二環性の足場を含む。同様に、活性部位内の側鎖の正確な配置は、これらの2つのセットの化合物の間で異なっているに相違ない。合わせると、これらの2つの因子が、チアゾリン誘導体と比較した、PUGNAc由来の化合物の全体的にいくらか弱い阻害および低い選択性の両方に寄与しているに相違ない。これらの観察と一致して、O−GlcNAcaseの弱いインヒビター(KI=1.5mM)であるストレプトゾトシン(STZ)も[46、47、49]、大きな、自由に回転するアシル鎖を有し、そしてβ−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseに中程度の選択性を示す[46、47、49]。
【0132】
チアゾリンに基づく化合物、NAG−チアゾリンおよび9b−g、とPUGNAc誘導体、PUGNAcおよび22a−fとの間のこれらの違いは、O−GlcNAcase[49]およびβ−ヘキソサミニダーゼ[30、48、83、97]の触媒メカニズムに関与する、推定される二環性様の転移状態を模倣する前者の化合物に起因し得る。対照的に、PUGNAcアナログおよびSTZのN−アシル基の位置は、天然基質N−アセチル−D−グルコピラノシドのものに類似し得る。PUGNAcおよびチアゾリン誘導体のアノマー炭素の異なる混成状態も、これらのN−アシル基の正確な位置に寄与し得る。
【0133】
上記で調製した化合物は全て、ヒトO−GlcNAcaseおよびヒトβ−ヘキソサミニダーゼ両方のインヒビターであった。しかし、これらの化合物は、これら2つの酵素間の活性部位構造における違いを利用し、それはそれらをO−GlcNAcaseに対して選択性にする。チアゾリン誘導体と比較して、PUGNAcアナログの低い選択性にも関わらず、これらの化合物は、その異なる足場のために異なる薬物動態特性を有し得る。従って、チアゾリンおよびPUGNAc誘導体はどちらも、細胞および有機体レベルにおけるO−GlcNAc翻訳後修飾の役割を詳細に分析するための貴重なツールであることが示され得る。実際、他のグリコシダーゼインヒビターの合成が、全く異なる酵素を標的とした、臨床的に有用な化合物を生じた。[98]同様に、ここで概略を述べた戦略を用いた、他のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼインヒビターの足場の体系的な合成[99、100]も、ヒトO−GlcNAcaseの選択的インヒビターを生じ得る。
【0134】
(実施例4:細胞培養物における選択的インヒビターの評価)
インビトロにおいてこれらの化合物の選択性が示されたので、生きた細胞におけるその化合物の使用を評価した。
【0135】
4.1 実験手順
4.1.1 細胞培養物および阻害
COS−7細胞を、5−10%のFBS(Invitrogen)を補充したDMEM培地(Invitrogen)で培養した。インヒビターのアリコート(95%エタノール中50μLのストック)を、組織培養プレートに分け、そしてエタノールを蒸発させた。細胞を37℃で40時間培養し、その時それらは約80%コンフルエンスに達した。細胞において50μMの化合物9a、9c、または9gによる処理に反応した、O−GlcNAc修飾タンパク質の時間依存的な蓄積を、以下のように研究した。COS−7細胞を、5%のFBS中で25%コンフルエンスまで培養し、そして培地に溶解およびろ過滅菌したインヒビターのアリコート(100μL)を各プレートに加えて、最終的なインヒビターの濃度を50μMにした。COS−7細胞(2×10cmプレート)を、適当な時間に掻爬することによって採取し、そして遠心分離(200×g、10分)によってプールした。細胞をPBS、pH7.0(10mL)で1回洗浄し、そしてペレットにした(200×g、10分)。細胞をこの時点で−80℃で凍結し得る。インヒビターなしのコントロール培養物を、同じ方式で処理した。
【0136】
4.1.2 ウェスタンブロット分析
COS−7細胞を、上記で記載したようにインヒビター9a、9c、または9gの存在下で、約90%コンフルエンスまで培養した。コントロール細胞の培養物を、以下と同じ方式で処理したが、培養物はインヒビターを含まなかった。細胞を、上記で記載したように採取した。凍結細胞を4℃で解凍し、そして冷却溶解緩衝液(150mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのPMSF、1%のNP−40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、および1mMのインヒビター9fを含む1mLの50mM Tris、pH8.0)を加えた。4℃で10分後、溶液をエッペンドルフ5415C微量遠心機で、14,000rpmで遠心分離し、そして上清を回収した。SDS/PAGEローディング緩衝液を、各サンプルのアリコート(15μL)に加え、そして96℃に加熱した後、アリコートを10%または12%のTris・HClポリアクリルアミドゲルにロードした。電気泳動後、サンプルをニトロセルロース膜(0.45μm、Bio−Rad)に電気ブロットした。着色マーカー(Dual Colour Precision Plus Protein Standard−BioRad)の転移を目で検査することによって、転移を確認した。0.1%のTween20を含む、PBS中5%のBSA(画分V、Sigma)(マウス抗O−GlcNAcモノクローナルIgM抗体(MAb CTD 110.6−Covance)でプローブするサンプルのためのブロッキング緩衝液A)、または5%低脂肪乾燥粉乳(抗β−アクチンでプローブするサンプルのためのブロッキング緩衝液B)、pH7.4を用いて、室温で1時間または4℃で一晩ブロックした。ブロッキング溶液をデカントで捨て、そしてMAb CTD 110.6を含むブロッキング緩衝液A(ストックの1:2500)、またはマウスモノクローナル抗β−アクチンIgG(クローンAC−40−Sigma)を含むブロッキング緩衝液Bの溶液を、適当に加えた(1:1000希釈)。膜を室温で1時間、または4℃で一晩インキュベートし、その後ブロッキング緩衝液をデカントで捨て、そして0.1%のTween20を含むPBS、pH7.4(洗浄緩衝液)で膜をすすいだ。次いで膜を洗浄緩衝液で2×5分および3×15分すすいだ。O−GlcNAcの免疫学的検出のために、膜をブロッキング緩衝液A中で、RTで1時間インキュベートし、洗浄後、膜を2次ヤギ抗マウスIgM−HRP結合体(1:2500、Santa Cruz Biotech)と、RTで1時間、または4℃で一晩、ブロッキング溶液中でインキュベートした。β−アクチンレベルの検出のために、膜を2次ヤギ抗マウスIgG−HRP結合体(1:10000、Sigma)と、RTで1時間、または4℃で一晩、ブロッキング溶液B中でインキュベートした。膜を洗浄し、そして膜に結合したヤギ抗マウスIgG−HRP結合体の検出を、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Detection Kit(Pierce)およびフィルム(Kodak Biomax MR)を用いて、化学発光検出によって達成した。
【0137】
4.2 細胞研究の結果
50μMのインヒビター9a、9c、または9gとプレートでインキュベートしたCOS−7細胞は、コントロール細胞と比較して、増殖速度または形態において異常を示さなかった(データは示していない)。インヒビター9a、9c、または9gの存在下で、またはその非存在下で40時間培養した細胞内のO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルの検出を、O−GlcNAcに対するモノクローナル抗体(64)mAbCTD110.6を用いて実施した。コントロールと比較して、細胞内のO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルにおける顕著な増加が観察され(図5A)、これらの化合物は容易に細胞内部に入り、そこでO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示した。チアゾリンインヒビター(9c)がCOS−7細胞内でO−GlcNAcase作用を阻害するよう作用する速度も探索した。ウェスタンブロット分析を用いてO−GlcNAc修飾タンパク質のレベルをモニターすることによって、O−GlcNAc修飾タンパク質のレベルにおいて明らかな時間依存的増加が見出された。インヒビター(9c)への曝露の1時間後でさえ、O−GlcNAc修飾タンパク質レベルの増加が観察された。インヒビターは、細胞に迅速に入り、そこでO−GlcNAcaseをすぐに阻害して、O−GlcNAc修飾タンパク質の時間依存的な蓄積を引き起こすようである(図6)。最初の速い増加の後、インヒビター(9c)で処理した細胞におけるO−GlcNAc修飾タンパク質のレベルは、細胞内で漸近的に定常状態に近づくようである(図6)。この挙動は、PUGNAcとインキュベートしたHT29細胞に関して以前に観察された、同様の時間依存的増加と一致する[50]。α−β−アクチンに続いて適当な2次HRP結合体でプローブしたブロットのウェスタンブロット分析(図5B)は、全ての場合においてサンプルのローディングが等量であったことを明らかにした。親化合物NAG−チアゾリン(9a)は、細胞に入り、そこでリソソームβ−ヘキソサミニダーゼに影響を及ぼすことが以前に示されたことも注意するに値する[101]。
【0138】
(実施例5:II型糖尿病を研究するための動物モデルを開発するための選択的O−GlcNAcaseインヒビターの使用)
5.1 様々な組織型およびグルコースクリアランスに対するBut−NAG−チアゾリン(9c)の効果を示す動物研究
5.1.1 実験手順
8週齢(eight give−week)の健康なSprague−Dawleyラット(Charles River)を、対でかごに入れた。動物を、Simon Fraser University Animal Care Facilities(SFU ACF)で1週間、新しい環境に順応させた。3:00pm、4匹のラットに、PBS緩衝液(pH7.4)に溶解した400μlのインヒビター9cを、50mg/kgの投与量で、尾静脈注射で与えた。残りの4匹のラットには、コントロールとして400μlのPBSを尾静脈注射した。全ての溶液を、0.2μmのフィルター(Millipore)を通してあらかじめ滅菌し、そして28ゲージ×0.5”針(Terumo)を有する0.5mLシリンジで、10秒間のボーラスとして注射した。食餌をおよそ11:00pmに中止した。次の朝8:30amに、ラットに2回目の注射をした。3時間後、ラットをイソフルランで麻酔し、そして100μLの血液サンプルを頚静脈から採って、空腹時血中グルコースレベルを測定した。次いで静脈内グルコース負荷試験(IVGTT)を行った。PBS(滅菌済み)に溶解したグルコースの50%w/v溶液の0.5mLを、30秒かけて尾静脈に注射して投与した。グルコース注射の10、20、30、40、60、および90分後に、100μLの血液サンプルを頚静脈から採った。血液サンプル採取の直後、血液の少量のアリコートを使用して、glucometer(Accu−Check Advantage、Roche)を用いて血中グルコース濃度を測定し、そして残りの血液を氷上で20分間保存し、そして遠心分離して血清を単離した。IVGTTの終了後、ラットをCO2/O2の1:1混合物で屠殺した。組織サンプル(脳、筋肉、肝臓、脾臓、膵臓、脂肪)をすぐに採取し、そして液体窒素で急速冷凍し、そして−80℃で保存した。組織をホモジナイズして細胞抽出物を得るために、組織を乳鉢と乳棒で微細な粉末に粉砕する間、それらを冷凍したままにしておいた。次いでその粉末の100mgを、1mLの冷却溶解緩衝液(50mMのTris、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS、1%のノニデットP−40、1mMのEDTA、1mMのPMSF、および1mMのブチル−NAG−チアゾリン)中で、Jenke and Kunkel Ultra−Turrax組織ホモジナイザーで、2回の10秒パルスを用いてホモジナイズした。次いで組織を微量遠心機(エッペンドルフ)で13,000rpmで遠心沈殿して、細胞の破片を除去した。次いで可溶性の細胞抽出物を、細胞研究に関して上記で記載したように、ウェスタンブロット分析を用いて、O−GlcNAc修飾タンパク質レベルに関して分析した。
【0139】
5.1.2 様々な組織型に対するBut−NAG−チアゾリン(9c)の効果
尾静脈に様々な投与量のインヒビター9cを注射したラットは、インヒビター9cの静脈内投与が、様々な組織型においてO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに影響を与えることを示した(図9)。脳組織のサンプル(図9A)は、ラットに50、120、および300mg/kgの投与量のインヒビター9cを注射した場合、コントロールと比較して、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに顕著な増加があったことを示した。これは、インヒビター9cは容易に脳細胞の内部へ入り、そこでO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示す。筋肉および肝臓の組織サンプルに関して、同様の結果が観察された(図9Bおよび9C)。
【0140】
その結果から、インヒビターは、半用量依存的な様式で、O−GlcNAcaseのみを阻害するようである。これは、50mg/kgのインヒビター9cが、O−GlcNAc修飾タンパク質の最大の増加を誘発するのに十分であることを示す。同様に、これらの結果は、インヒビターが広く様々な組織に24時間以内に入ることができ、そして最低6時間は効果を保持することを示す。この研究で使用した、インヒビターで処理したラットは、コントロールラットと比較していかなる不快感も示さなかったようであることも注目すべきである。
【0141】
5.1.3 グルコースクリアランスに対するBut−NAG−チアゾリンの効果
インヒビター9cはラットにおいてO−GlcNAcaseを阻害し得ることを示したので、増加したレベルのO−GlcNAc修飾タンパク質が、ラットのグルコースホメオスタシスを維持する能力を変化させるかどうかに取り組むことに注意を向けた。静脈内グルコース負荷試験(IVGTT)を、1g/kgのグルコース負荷に反応する動物の能力を測定する手段として使用した。その結果は、インヒビターとの短期間の接触(<24時間)は、ラットにおいてグルコースクリアランス速度に影響を与えないことを明らかに示す(図10A)。インヒビターで処理した4匹のラットおよびPBS緩衝液のコントロール注射で処理した4匹のラットで行ったので、これらの結果は統計学的に有意であることに注目すべきである。ウェスタンブロット分析は、IVGTTにおいてインヒビターで処理した4匹のラットは、増加したレベルのO−GlcNAc修飾タンパク質を有していたことを示す(図10B)。
【0142】
培養脂肪細胞における上昇したレベルのO−GlcNAc修飾タンパク質は、インスリン抵抗性を引き起こすことが以前に示されたことを考慮すると、この結果は驚くべきである。本発明者らは、これらの結果の間の違いは、2つの可能性のうち1つに起因するという仮説を立てた。最初に、有機体全体から得られた結果は、培養細胞を用いて行った実験よりも生理学的に関連しており、そして従ってインスリン抵抗性は、末梢組織では発生しない。2番目の可能性は、インヒビター9cは実際により多くのインスリンを分泌させるように膵臓β細胞に影響するということである。この影響は、末梢組織におけるインスリン不感受性を克服し、おそらく観察されたような正常なグルコースクリアランスを引き起こす。インスリン産生を刺激する2つの転写因子(pdx−1およびsp1)のような、β細胞内でインスリンの産生および輸送に関わる多くのタンパク質が、それ自体O−GlcNAcで修飾されているという事実が、この2番目の仮説を支持する。
【0143】
5.2 But−NAG−チアゾリン(9c)のクリアランス速度を示す動物実験
5.2.1 実験手順
インヒビターがどれだけ速く組織から排出されるかに関する情報を得るために、5匹の10週齢Sprague−Dawleyラットに、インヒビター(50mg/kg)を尾静脈注射で与えた。動物を、注射の後3、7、24、27、および32時間後に順次屠殺した。さらに2匹のラットをコントロールとして使用した。O−GlcNAc修飾タンパク質の正常レベルについての情報を得るために、1匹のラットを、他のラットに注射する直前に屠殺した。また、1匹のラットには他のラットと共に滅菌PBS(pH7.4)を注射し、そして実験の最後(32時間)に屠殺した。組織の採取、ホモジナイゼーション、およびウェスタンブロット分析を、上記で記載したものと同じ様式で行った。
【0144】
5.2.2 クリアランス速度の結果
インヒビター9cを注射したラットは、インヒビター9cの静脈内投与は、注射から3時間という早期に様々な組織型においてO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに影響を与えることを示した(図11)。脳組織のサンプル(図11A)は、コントロールと比較して、注射の3時間後、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに顕著な増加があったことを示した。これは、インヒビター9cが脳細胞の内部に容易に入り、そこでO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示す。O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルは、7時間後も高いままであった。そのレベルは24時間後には減少し、そして32時間後には正常レベルに戻るようであった。筋肉組織サンプルに関して同様の結果が観察された(図11B)。
【0145】
5.3 But−NAG−チアゾリン(9c)の経口利用能を示す動物実験
5.3.1 実験手順
インヒビター9cが経口的に利用可能であるかどうかを決定するために、これを固形飼料(Lab Diet 5001 Rodent Diet、PMI Nutrition International、LLC)に組み込んだ。ラット固形飼料を作るために、600gの粉砕した固形飼料を、355mlの水およびエタノールに溶解した5mLのインヒビターと混合した。次いで小片をパスタマシン(Pasta Express、Creative)で調製し、そして37℃で一晩脱水した(Snackmaster Dehydrator、American Harvest)。以下の量のインヒビターで、5セットの固形飼料を作製した:0mg/kg/日、100または1000mg/kg/日の脱保護(極性)インヒビター、および100または1000mg/kg/日の保護(非極性)インヒビター。これらの数は、6週齢のラットは1日あたり約25gの餌を食べることを示す、以前の研究から得られたデータに基づく。次いで10匹の5週齢の健康なSprague−Dawleyラット(食餌1セットあたり2匹)に、3日間ラット固形飼料を給餌した。次いで動物を屠殺し、そして上記で記載したように組織を採取し、ホモジナイズし、そして分析した。
【0146】
5.3.2 経口利用能の結果
ラットに、2つの異なる投与量の保護(非極性)および脱保護(極性)形態のインヒビター9cを3日間給餌した。ウェスタンブロット分析は、両方の形態のインヒビター9cの経口投与が、様々な組織型においてO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに影響を与えることを示した(図12)。脳組織のサンプル(図12A)は、ラットに100mg/kg/日の投与量の保護または脱保護形態のインヒビター9cのいずれかを給餌した場合、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルに顕著な増加があったことを示した。脳組織内でのO−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルは、ラットにより高い投与量の1000mg/kg/日の投与量の保護または脱保護形態のいずれかのインヒビター9cを給餌した場合、さらに高かった。これは、インヒビター9cが、経口的に投与された場合でも、脳細胞の内部に容易に入り、そこで用量依存的な様式でO−GlcNAcase機能を阻害するよう作用することを示す。筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓を含む他の型の組織サンプルに関して、同様の結果が観察された(図12B−12E)。
【0147】
前述の開示にかんがみて当業者に明らかであるように、本発明の実施において、その意図または範囲から離れることなく、多くの変更および修飾が可能である。
【0148】
(参考文献)
【0149】
【化46】
【0150】
【化47】
【0151】
【化48】
【0152】
【化49】
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、O−GlcNAcaseの3つの可能性のある触媒メカニズムの説明である。経路A;単一工程反転メカニズム:経路B;共有結合性のグリコシル酵素中間体の形成および分解を含む二重置換保持(double displacement retaining)メカニズム;経路C;二環性オキサゾリン中間体の形成および分解を含む二重置換保持(double displacement retaining)メカニズム。
【図2】図2は、MU−GlcNAcのN−フルオロアセチル誘導体の存在下での、O−GlcNAcaseおよびβ−ヘキソサミニダーゼの活性を説明する。(A)MU−GlcNAcのN−フルオロアセチル誘導体の、ヒトβ−ヘキソサミニダーゼが触媒する加水分解の初速度;(黒塗りの菱形)MU−GlcNAc(5)、(黒塗りの逆三角形)MU−GlcNAc−F(5a)、(黒塗りの四角形)MU−GlcNAc−F2(5b)、(黒塗りの円)MU−GlcNAcF3(5c)。挿入図:軸の交点におけるプロットの領域の詳細。(B)MU−GlcNAcのN−フルオロアセチル誘導体の、ヒトO−GlcNAcaseが触媒する加水分解の初速度;(黒塗りの菱形)MU−GlcNAc(5)、(黒塗りの逆三角形)MU−GlcNAc−F(5a)、(黒塗りの四角形)MU−GlcNAc−F2(5b)、(黒塗りの円)MU−GlcNAcF3(5c)。挿入図:軸の交点におけるプロットの領域の詳細。(C)(黒塗りの円)O−GlcNAcaseおよび(白抜きの四角形)β−ヘキソサミニダーゼを用いて、パネルAおよびBにおいて示したように各基質に関して測定したlogVmax[E]0/KM値に対して、MU−GlcNAc基質アナログのN−フルオロアセチル置換基のTaftパラメーター(Taft parameter)(σ*)をプロットした線形自由エネルギー分析。
【図3】図3は、NAG−チアゾリン(9a)の存在下で、pNP−GlcNAcのヒトO−GlcNAcaseが触媒する加水分解の競合的阻害パターンを説明する。使用した9aの濃度(mM)は、0.00(黒塗りの菱形)、0.033(△)、0.100(黒塗りの円)、0.300(X)、0.900(黒塗りの四角形)、および3.04(○)であった。挿入図:NAG−チアゾリン(9a)濃度に対する見かけのKMのプロットからの、KIの図による分析。
【図4】図4は、チアゾリンインヒビターのパネルによる、β−ヘキソサミニダーゼよりもO−GlcNAcaseの阻害に対する選択性を説明するグラフである。O−GlcNAcase(黒塗り)およびβ−ヘキソサミニダーゼ(網掛け)が触媒するMU−GlcNAcの加水分解の阻害に関して測定された、チアゾリンインヒビターパネル(9a−f)のKI値の棒グラフ。
【図5】図5は、50μMの異なるチアゾリンインヒビターの存在下または非存在下で40時間培養したCOS−7細胞由来のタンパク質のウェスタンブロットである。COS−7細胞のチアゾリンインヒビターとのインキュベーションは、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルの増加を引き起こす。レーン1、チアゾリン9a;レーン2、チアゾリン9c;レーン3、チアゾリン9g;レーン4、インヒビターなし。(A)抗O−GlcNAc MAb CTD110.6に続いて抗マウスIgG−HRP結合体を用いた、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルのウェスタンブロット分析。(B)抗βアクチンmAbクローンAC−40に続いて抗マウスIgG−HRP結合体で処理した、(A)でロードしたサンプルのウェスタンブロットは、各サンプルにおいてβアクチンレベルが同等であることを明らかにする。
【図6】図6は、50μMのチアゾリンインヒビター(9c)の存在下または非存在下で40時間以上培養したCOS−7細胞由来のタンパク質のウェスタンブロットである。COS−7細胞のチアゾリンインヒビター(9c)とのインキュベーションは、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルの時間依存的な増加を引き起こす。(A)抗O−GlcNAc MAb CTD 110.6に続いて抗マウスIgG−HRP結合体を用いた、インヒビター(9c)への曝露後の時間の関数としての、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルのウェスタンブロット分析。(B)抗βアクチンmAbクローンAC−40に続いて抗マウスIgG−HRP結合体で処理した、(A)でロードしたサンプルのウェスタンブロットは、各サンプルにおいてβアクチンレベルが同等であることを明らかにする。(C)インヒビターの非存在下における、時間の関数としての、O−GlcNAc修飾タンパク質の細胞レベルのウェスタンブロット分析は、O−GlcNAc修飾タンパク質のレベルが、コンフルエンスの関数として有意に変化しないことを示す。0時間において、プレートは約25%コンフルエントであり、そして40時間後プレートは約90%コンフルエントであった。(D)パネル(B)と同様に処理した、(C)でロードしたサンプルのウェスタンブロットは、両方のサンプルにおいてβアクチンレベルが同等であることを明らかにする。
【図7】図7は、D2Oにおけるストレプトゾトシン(STZ)の分解を説明する。D2Oに溶解したSTZを、24時間以上の期間モニターした。アステリスク(*)をつけた共鳴は、STZのα−アノマーのH−1由来である。スペクトルを、新しくD2Oに溶解したSTZ(約10mM)のサンプルから室温で収集した。NMRスペクトルを、STZを溶解後、A)5分、B)20分、C)40分、D)2時間、E)4時間およびF)24時間後に収集した。
【図8】図8は、STZはO−GlcNAcaseの時間依存的な不活性化もβ−ヘキソサミニダーゼの時間依存的な不活性化も示さないことを説明するグラフである。A)O−GlcNAcase(0.016mg/mL)を、50mMのNaH2PO4、100mMのNaCl、1%のBSA、5mMのβ−メルカプトエタノール、pH6.5の存在下で、10mMのSTZとインキュベートした。いくつかの時間間隔で、不活性化混合物およびコントロールの酵素活性をアッセイした。アッセイ混合物中で1.2mMのSTZの最終濃度を生ずるために、Mu−GlcNAc(5.7mM)を含むアッセイ混合物(全部で25μL)へ、酵素のアリコート(3μL)と共にある程度のSTZが移されたので、これらの値は均一でない。実際、STZがO−GlcNAcaseの競合的インヒビター(KI=1.5mM)として作用すると仮定して計算した、コントロールおよび実験に関するアッセイの反応速度の期待される比(VControl/VSTZ)は、1.17であり、ここで6時間以上測定された値と全体的に一致する。B)β−ヘキソサミニダーゼ(0.036mg/mL)を、50mMのクエン酸、100mMのNaCl、0.1%のBSA、pH4.25の存在下で、10mMのSTZとインキュベートした。いくつかの時間間隔で、不活性化混合物およびコントロールの酵素活性を、方法および材料で記載されたようにアッセイした。アッセイ混合物中で1.2mMのSTZの最終濃度を生ずるために、Mu−GlcNAc(5.7mM)を含むアッセイ混合物(全部で25μL)へ、酵素のアリコート(3μL)と共にある程度のSTZが移されたので、これらの値は正確には均一でない。実際、STZがβ−ヘキソサミニダーゼの競合的インヒビター(KI=47mM)として作用すると仮定して計算した、コントロールおよび実験に関するアッセイの反応速度の期待される比(VControl/VSTZ)は、1.01であり、ここで6時間以上測定された値と一致する。
【図9】図9は、様々な投与量のインヒビター9cを注射したラットの脳、筋肉、および肝臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。4匹のラットを、異なる投与量のインヒビター9cまたは緩衝液コントロールの尾静脈注射によって処置した。約18時間離して2回の連続的な注射を行い、そして次いでラットを最初の注射の24時間後に屠殺した。α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析は、インヒビター9cが、脳(A)、筋肉(B)および肝臓(C)を含む様々な組織へ、容易に入ることを明らかに示し、そして50mg/kgのように低い投与量が、O−GlcNAcレベルの最大の増加を誘発するのにほぼ十分であることを示す。
【図10】図10は、ラットにおいて行われた静脈内グルコース負荷試験の結果を説明する。(A)8匹のラットを、そのうち4匹に50mg/kgのインヒビター9cの尾静脈注射に曝して、グルコースを除去する能力に関して試験した。静脈内グルコース負荷試験(IVGTT)を、これも尾静脈から送達された1g/kgのグルコースの負荷によって行った。エラーバーは、各条件下で使用した4匹のラットの間の分散を示す。(B)α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析は、IVGTTにおいてインヒビターで処置した4匹のラットにおいて、O−GlcNAc修飾タンパク質のレベルが増加したことを示す。
【図11】図11は、様々な時間でインヒビター9cを注射したラットの脳および筋肉組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。数匹のラットを、50mg/kgのインヒビター9cを尾静脈に注射することによって処置し、そして注射の後特定の時間に屠殺して、O−GlcNAcレベルが時間につれてどのように変化するのかを観察した。α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析を用いて、O−GlcNAcレベルをモニターした。脳(A)および筋肉(B)組織は、インヒビターが迅速に組織へ到達し得、そこで迅速にO−GlcNAcレベルを上昇させるよう作用することを示した(<3時間)。約24−32時間以内に、インヒビター9cは組織から排出され、そしてO−GlcNAcレベルは正常に戻る。時間0および32(−)は、0時間および32時間における未処置コントロール動物を示す。
【図12−1】図12は、2つの異なる形態および投与量のインヒビター9cを給餌したラットの脳、筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。ラットに、異なる量の脱保護(極性)または保護(非極性)インヒビター9cを含むか、またはインヒビターを全く含まない食餌を3日間与えた。組織におけるO−GlcNAcのレベルを、α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析によって評価した。脳(A)、筋肉(B)、膵臓(C)、脂肪(D)および脾臓(E)組織において、α−O−GlcNAc抗体を用いたウェスタンブロット分析によって判断されるように、100mg/kg/日の投与量が、O−GlcNAcaseを阻害し、そしてO−GlcNAc修飾タンパク質を大きく増加させるために十分である。1000mg/kg/日の投与量は、O−GlcNAc修飾タンパク質のわずかにより大きな増加を引き起こす。αアクチン抗体によるコントロールブロットまたはSDS−PAGEは、サンプルのローディングが等量であったことを示す。
【図12−2】図12は、2つの異なる形態および投与量のインヒビター9cを給餌したラットの脳、筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。ラットに、異なる量の脱保護(極性)または保護(非極性)インヒビター9cを含むか、またはインヒビターを全く含まない食餌を3日間与えた。組織におけるO−GlcNAcのレベルを、α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析によって評価した。脳(A)、筋肉(B)、膵臓(C)、脂肪(D)および脾臓(E)組織において、α−O−GlcNAc抗体を用いたウェスタンブロット分析によって判断されるように、100mg/kg/日の投与量が、O−GlcNAcaseを阻害し、そしてO−GlcNAc修飾タンパク質を大きく増加させるために十分である。1000mg/kg/日の投与量は、O−GlcNAc修飾タンパク質のわずかにより大きな増加を引き起こす。αアクチン抗体によるコントロールブロットまたはSDS−PAGEは、サンプルのローディングが等量であったことを示す。
【図12−3】図12は、2つの異なる形態および投与量のインヒビター9cを給餌したラットの脳、筋肉、膵臓、脂肪、および脾臓組織由来のタンパク質のウェスタンブロットを示す。ラットに、異なる量の脱保護(極性)または保護(非極性)インヒビター9cを含むか、またはインヒビターを全く含まない食餌を3日間与えた。組織におけるO−GlcNAcのレベルを、α−O−GlcNAc抗体(CTD110.6)を用いたウェスタンブロット分析によって評価した。脳(A)、筋肉(B)、膵臓(C)、脂肪(D)および脾臓(E)組織において、α−O−GlcNAc抗体を用いたウェスタンブロット分析によって判断されるように、100mg/kg/日の投与量が、O−GlcNAcaseを阻害し、そしてO−GlcNAc修飾タンパク質を大きく増加させるために十分である。1000mg/kg/日の投与量は、O−GlcNAc修飾タンパク質のわずかにより大きな増加を引き起こす。αアクチン抗体によるコントロールブロットまたはSDS−PAGEは、サンプルのローディングが等量であったことを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般的な化学式(I):
【化1】
を有する化合物およびその薬学的に受容可能な塩であって、ここで
R3、R5、R6は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得、そして
R2およびR4は、CH2、CHR1、NH、NR1、または任意のヘテロ原子であり、そして
R1は、H、エーテル、アミン、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択される、
化合物およびその薬学的に受容可能な塩。
【請求項2】
R3、R5およびR6がOHであり、R2はSであり、R1はCH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択され、そしてR4はOである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1がCH2CH3であり、そしてR4がOである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1が(CH2)2CH3であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1が(CH2)3CH3であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1が(CH2)4CH3であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1がCH(CH3)2であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1がCH2CH(CH3)2であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、および1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、ならびにその薬学的に受容可能な塩からなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1に記載の1以上の化合物を含むプロドラッグ。
【請求項11】
請求項1に記載の1以上の化合物を含むプロドラッグであって、R3、R5およびR6が、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含む、プロドラッグ。
【請求項12】
請求項1に記載の1以上の化合物と薬学的に受容可能なキャリアとを含む、薬学的組成物。
【請求項13】
請求項10に記載の1以上のプロドラッグと薬学的に受容可能なキャリアとを含む、薬学的組成物。
【請求項14】
請求項9に記載の1以上の化合物と薬学的に受容可能なキャリアとを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の1以上の化合物を投与する工程を包含する、グリコシダーゼを阻害する方法。
【請求項16】
前記グリコシダーゼが、グリコシドヒドロラーゼを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記グリコシドヒドロラーゼが、ファミリー84のグリコシドヒドロラーゼを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記グリコシドヒドロラーゼがO−GlcNAcaseを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の1以上の化合物を投与する工程を包含する、O−GlcNAcの切断を選択的に阻害する方法。
【請求項20】
請求項10に記載の1以上のプロドラッグを投与する工程を包含する、O−GlcNAcの切断を選択的に阻害する方法。
【請求項21】
O−GlcNAcaseの欠損もしくは過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積もしくは枯渇に関連する疾患もしくは障害を研究するか、あるいはO−GlcNAcaseの欠損もしくは過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積もしくは枯渇に関連する疾患もしくは障害の処置を研究するための、動物モデルを開発する方法であって、請求項1に記載の化合物を動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項22】
前記疾患または障害が、糖尿病、神経変性疾患、アルツハイマー病、および癌からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法にしたがって開発された動物モデル。
【請求項24】
請求項1に記載の化合物を投与する工程を包含する、グリコシダーゼ阻害療法に応答性の障害を処置する方法。
【請求項25】
請求項10に記載のプロドラッグを投与する工程を包含する、グリコシダーゼ阻害療法に応答性の障害を処置する方法。
【請求項26】
請求項1に記載の化合物を投与する工程を包含する、島β細胞の分化を促進する方法。
【請求項27】
請求項1に記載の化合物を投与する工程を包含する、ストレスに細胞を備えさせる方法。
【請求項28】
請求項1に記載の化合物を製造する方法であって、該方法は:
a)ある範囲のアシル化剤を使用して2−アミノ−2−デオキシ−l,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノースの塩をアシル化し、一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体を得る工程;
b)該一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体のアミドを、対応するチオアミドに変換し、該チオアミドを環化して、一連の3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程;そして
c)該チアゾリン化合物を脱アシル化して、一連の1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程、
を包含する、方法。
【請求項29】
選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法であって、該方法は:
a)2種以上のグリコシダーゼまたはグリコシダーゼのクラスのインヒビターを選択する工程;
b)該インヒビターの1以上の側鎖を拡張または縮小することによって該側鎖を改変する工程;そして
c)該1種以上のグリコシダーゼの選択的阻害に関して、該改変されたインヒビターを試験する工程、
を包含する、方法。
【請求項30】
請求項29に記載の選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法であって、該方法は:
a)以下:
【化2】
およびその薬学的に受容可能な塩から選択される一般式を有する、β−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼのインヒビターを選択する工程であって、ここで
X1〜X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1〜R5は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、工程;
b)該インヒビターのR1側鎖を拡張または縮小することによって、該鎖を改変する工程;そして
c)1種以上のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼの選択的阻害について該改変されたインヒビターを試験する工程、
を包含する、方法。
【請求項31】
前記インヒビターの側鎖が、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、官能族基、またはこれらのヘテロ原子誘導体を挿入することによって拡張される、請求項30に記載の選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法。
【請求項32】
前記インヒビターの側鎖R1が、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択される基を挿入することによって拡張される、請求項31に記載の選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法。
【請求項33】
以下の構造:
【化3】
からなる群より選択される化合物を含む選択的グリコシダーゼインヒビターおよびその薬学的に受容可能な塩であって、ここで、
X1〜X6はO、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1〜R5は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、
選択的グリコシダーゼインヒビターおよびその薬学的に受容可能な塩。
【請求項34】
一般的な化学式(II):
【化4】
を有する化合物およびその薬学的に受容可能な塩であって、ここで、
X1〜X6はO、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1〜R5は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、
選択的グリコシダーゼインヒビターおよびその薬学的に受容可能な塩。
【請求項35】
O−GlcNAcaseを選択的に阻害するインヒビターであって、該インヒビターは、請求項1および請求項34に記載の化合物の群から選択される、インヒビター。
【請求項1】
一般的な化学式(I):
【化1】
を有する化合物およびその薬学的に受容可能な塩であって、ここで
R3、R5、R6は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得、そして
R2およびR4は、CH2、CHR1、NH、NR1、または任意のヘテロ原子であり、そして
R1は、H、エーテル、アミン、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択される、
化合物およびその薬学的に受容可能な塩。
【請求項2】
R3、R5およびR6がOHであり、R2はSであり、R1はCH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択され、そしてR4はOである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1がCH2CH3であり、そしてR4がOである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1が(CH2)2CH3であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1が(CH2)3CH3であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1が(CH2)4CH3であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1がCH(CH3)2であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
R3、R5およびR6がOHであり、R2がSであり、そしてR1がCH2CH(CH3)2であり、そしてR4がOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
1,2−ジデオキシ−2’−エチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−プロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−ペンチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、1,2−ジデオキシ−2’−イソプロピル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、および1,2−ジデオキシ−2’−イソブチル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリン、ならびにその薬学的に受容可能な塩からなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1に記載の1以上の化合物を含むプロドラッグ。
【請求項11】
請求項1に記載の1以上の化合物を含むプロドラッグであって、R3、R5およびR6が、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含む、プロドラッグ。
【請求項12】
請求項1に記載の1以上の化合物と薬学的に受容可能なキャリアとを含む、薬学的組成物。
【請求項13】
請求項10に記載の1以上のプロドラッグと薬学的に受容可能なキャリアとを含む、薬学的組成物。
【請求項14】
請求項9に記載の1以上の化合物と薬学的に受容可能なキャリアとを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の1以上の化合物を投与する工程を包含する、グリコシダーゼを阻害する方法。
【請求項16】
前記グリコシダーゼが、グリコシドヒドロラーゼを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記グリコシドヒドロラーゼが、ファミリー84のグリコシドヒドロラーゼを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記グリコシドヒドロラーゼがO−GlcNAcaseを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の1以上の化合物を投与する工程を包含する、O−GlcNAcの切断を選択的に阻害する方法。
【請求項20】
請求項10に記載の1以上のプロドラッグを投与する工程を包含する、O−GlcNAcの切断を選択的に阻害する方法。
【請求項21】
O−GlcNAcaseの欠損もしくは過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積もしくは枯渇に関連する疾患もしくは障害を研究するか、あるいはO−GlcNAcaseの欠損もしくは過剰発現、またはO−GlcNAcの蓄積もしくは枯渇に関連する疾患もしくは障害の処置を研究するための、動物モデルを開発する方法であって、請求項1に記載の化合物を動物に投与する工程を包含する、方法。
【請求項22】
前記疾患または障害が、糖尿病、神経変性疾患、アルツハイマー病、および癌からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法にしたがって開発された動物モデル。
【請求項24】
請求項1に記載の化合物を投与する工程を包含する、グリコシダーゼ阻害療法に応答性の障害を処置する方法。
【請求項25】
請求項10に記載のプロドラッグを投与する工程を包含する、グリコシダーゼ阻害療法に応答性の障害を処置する方法。
【請求項26】
請求項1に記載の化合物を投与する工程を包含する、島β細胞の分化を促進する方法。
【請求項27】
請求項1に記載の化合物を投与する工程を包含する、ストレスに細胞を備えさせる方法。
【請求項28】
請求項1に記載の化合物を製造する方法であって、該方法は:
a)ある範囲のアシル化剤を使用して2−アミノ−2−デオキシ−l,3,4,6−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコピラノースの塩をアシル化し、一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体を得る工程;
b)該一連の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−2−N−アシル−β−D−グルコピラノース誘導体のアミドを、対応するチオアミドに変換し、該チオアミドを環化して、一連の3,4,6−トリ−O−アセチル−1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,1−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程;そして
c)該チアゾリン化合物を脱アシル化して、一連の1,2−ジデオキシ−2’−アルキル−α−D−グルコピラノソ−[2,l−d]−Δ2’−チアゾリンを得る工程、
を包含する、方法。
【請求項29】
選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法であって、該方法は:
a)2種以上のグリコシダーゼまたはグリコシダーゼのクラスのインヒビターを選択する工程;
b)該インヒビターの1以上の側鎖を拡張または縮小することによって該側鎖を改変する工程;そして
c)該1種以上のグリコシダーゼの選択的阻害に関して、該改変されたインヒビターを試験する工程、
を包含する、方法。
【請求項30】
請求項29に記載の選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法であって、該方法は:
a)以下:
【化2】
およびその薬学的に受容可能な塩から選択される一般式を有する、β−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼのインヒビターを選択する工程であって、ここで
X1〜X6は、O、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1〜R5は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、工程;
b)該インヒビターのR1側鎖を拡張または縮小することによって、該鎖を改変する工程;そして
c)1種以上のβ−N−アセチル−グルコサミニダーゼまたはβ−ヘキソサミニダーゼの選択的阻害について該改変されたインヒビターを試験する工程、
を包含する、方法。
【請求項31】
前記インヒビターの側鎖が、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、官能族基、またはこれらのヘテロ原子誘導体を挿入することによって拡張される、請求項30に記載の選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法。
【請求項32】
前記インヒビターの側鎖R1が、CH2CH3、(CH2)2CH3、(CH2)3CH3、(CH2)4CH3、CH(CH3)2およびCH2CH(CH3)2からなる群より選択される基を挿入することによって拡張される、請求項31に記載の選択的グリコシダーゼインヒビターを製造する方法。
【請求項33】
以下の構造:
【化3】
からなる群より選択される化合物を含む選択的グリコシダーゼインヒビターおよびその薬学的に受容可能な塩であって、ここで、
X1〜X6はO、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1〜R5は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、
選択的グリコシダーゼインヒビターおよびその薬学的に受容可能な塩。
【請求項34】
一般的な化学式(II):
【化4】
を有する化合物およびその薬学的に受容可能な塩であって、ここで、
X1〜X6はO、NH、NR1、CHR1、CH2または任意のヘテロ原子であり、R1〜R5は、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、アルコール、エーテル、アミン、置換カルバメートもしくは非置換カルバメート、置換尿素もしくは非置換尿素、エステル、アミド、アルデヒド、カルボン酸、およびヘテロ原子を含むこれらの誘導体からなる群より選択され、該エステルおよびアミドは、分枝アルキル鎖、非分枝アルキル鎖、シクロアルキル基、芳香族基、およびこれらのヘテロ原子誘導体からなる群より選択されるアシル基を含み得る、
選択的グリコシダーゼインヒビターおよびその薬学的に受容可能な塩。
【請求項35】
O−GlcNAcaseを選択的に阻害するインヒビターであって、該インヒビターは、請求項1および請求項34に記載の化合物の群から選択される、インヒビター。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図12−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図12−3】
【公表番号】特表2008−531604(P2008−531604A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557300(P2007−557300)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000300
【国際公開番号】WO2006/092049
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(507293413)サイモン フレイザー ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000300
【国際公開番号】WO2006/092049
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(507293413)サイモン フレイザー ユニバーシティ (4)
【Fターム(参考)】
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