遺伝子、腫瘍及びウイルス感染の治療、並びにプログラムされた細胞死(アポトーシス)を予防するための方法及び組成物
【課題】遺伝子治療又は蛋白質の利用により、種々の神経退行性疾患におけるプログラムされた細胞死の阻止を生じることを目的とする。
【解決手段】HSV−1遺伝子γ134.5又はその発現産物ICP34.5の利用による、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の治療方法に関する。この遺伝子及びその発現は、HSV−1ニューロビルレンスを必要とすること、特に、ウイルスの複製を与えるニューロンのプログラムされた細胞死のインヒビターとして作用することが示された。本発明は又、修飾したヘルペスウイルスを含む遺伝子治療のための新規なベクター、γ134.5の発現又はICP34.5の活性を真似し、強化し又は阻止することの出来る物質の分析方法、癌を含む腫瘍形成性疾患、並びにヘルペス及び他のウイルス感染の、γ134.5発現又はICP34.5活性のインヒビターを用いた治療方法にも関する。
【解決手段】HSV−1遺伝子γ134.5又はその発現産物ICP34.5の利用による、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の治療方法に関する。この遺伝子及びその発現は、HSV−1ニューロビルレンスを必要とすること、特に、ウイルスの複製を与えるニューロンのプログラムされた細胞死のインヒビターとして作用することが示された。本発明は又、修飾したヘルペスウイルスを含む遺伝子治療のための新規なベクター、γ134.5の発現又はICP34.5の活性を真似し、強化し又は阻止することの出来る物質の分析方法、癌を含む腫瘍形成性疾患、並びにヘルペス及び他のウイルス感染の、γ134.5発現又はICP34.5活性のインヒビターを用いた治療方法にも関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、プログラムされた細胞死をブロックし又は遅延させる方法、特定の細胞への遺伝子治療の送達の方法、並びに癌及び他の腫瘍形成性疾患の治療の方法、並びに腫瘍又はウイルス宿主細胞のプログラムされた細胞死を強化することによるウイルス感染の治療に向けられている。本発明は又、プログラムされた細胞死を阻止し又は増加させる候補物質についてのアッセイにも向けられている。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
a.プログラムされた細胞死(アポトーシス)
最近10年間に、細胞が実際に内部でプログラムされてそれらのライフサイクルのある時点において死ぬという考えが科学界においてますます受け入れられるようになってきた。能動的細胞機構であるプログラムされた細胞死(又はアポトーシス)は、幾つかの重要な密接な関係を有する。第1に、かかる能動的プロセスは、細胞数並びに細胞の生物学的活性を制御する更なる手段を提供することが出来る。第2に、突然変異又はアポトーシスを強化する細胞事象は、未熟細胞死を生じ得る。第3に、特定の能動的細胞機構に依存するある型の細胞死は、少なくとも潜在的に、抑制することが出来る。最後に、予めプログラムされた細胞死の阻止は、異常型細胞の生存へと導くことが予想され、発癌に寄与することが予想され得る。
【0003】
一般に、アポトーシスは、核濃縮及びDNAのオリゴヌクレオソーム断片への分解を含む明確な形態学的変化を含む。ある種の環境において、アポトーシスが蛋白質合成の変化によって誘発され又は先行されることは明らかである。アポトーシスは、細胞破壊のための非常に巧みなプロセスを提供するように見えるが、そこでは、細胞は特異的認識及び食作用及びその後のバースティングによって処分される。この方法で、細胞は、周囲の細胞にダメージを与えることなく組織から除去され得る。こうして、プログラムされた細胞死は、形態発生、免疫系におけるクローン選択、他の組織及び器官系における正常細胞の成熟及び死を含む多くの生理学的プロセスにおいて重要であることを理解することが出来る。
【0004】
細胞が環境の情報に応答してアポトーシスを受け得ることも示された。例としては、未成熟胸腺細胞に対する糖質コルチコイドホルモン等の刺激の出現、或は成熟リンパ球からのインターロイキン2の撤去又は造血前駆細胞からのコロニー刺激因子の除去等の刺激の消失がある(総説としては、Williams,Cell,85;1097-1098,June28,1991を参照されたい)。更に、神経成長因子の確立された神経細胞培養物からの除去の応答は標的除去に似ていることが最近示され且つこの応答に含まれる細胞機構が神経成長因子除去に続く自殺プログラム又はプログラムされた細胞死の引き金であることが仮定された(Johnson等、Neurobiol.of Aging,10:549-552,1989)。これらの著者は、「死カスケード」又は「死プログラム」を提案しており、栄養因子奪取が新規なmRNAの転写及びそれに続くmRNAの、最終的に「キラー蛋白質」を生成するシーケンスにおいて作用する死関連蛋白質への翻訳を開始させることを想像している。かかる細胞内機構は、上述のアポトーシスの特徴とよく適合するように見える(例えば、有害物質の放出及び組織の完全性の崩壊を伴わない特定の細胞の死)。更に、著者等は、巨大分子合成のインヒビターが神経成長因子の不在下でニューロンの死を阻止したことを示している。
【0005】
研究は、腫瘍細胞が人為的に誘発したアポトーシスによって除去され得ることの可能性を探究することへと導かれた。APO−1モノクローナル抗体は、幾つかのトランスフォームしたヒトB及びT細胞系統においてアポトーシスを誘導することが出来る。この抗体は、表面蛋白質に結合して正の死誘導信号を真似るか又は生存に必要な因子の活性をブロックすることによるかの何れかによって作用することが出来よう。抗FAS抗体も又同様の効果を有し、FAS抗原の遺伝子の最近のクローニング及び配列決定は、それが63キロダルトンの膜貫通レセプターであることを示した(Itoh等、Cell 66:233-243(1991))。
【0006】
しかしながら、APO−1もFASも、排他的に細胞死の引き金として機能することは出来ないということに注意することは重要である。両者は、別の環境下では全く異なる応答を活性化し得る細胞表面レセプターである。更に、これらの抗原は、腫瘍細胞に限られず、それらの正常細胞における効果は確かに重要な問題である(もはやこれらの抗原を示さない変異体の出現があり得る)。
【0007】
ある範囲の細胞毒性剤(癌治療において用いられる幾つかを含む)により誘導された細胞死も又、アポトーシスの形成が見出された。事実、腫瘍細胞におけるアポトーシスの不足は、細胞数の生理学的制御の回避のみならず、自然防御及び臨床的治療の両者に対する抵抗への寄与において基本的に重要であり得よう。
【0008】
bcl−2遺伝子の発現はアポトーシスによる死を阻止することが出来ることも示された。bcl−2遺伝子は、濾胞性B細胞リンパ腫である最も普通のヒトリンパ腫の高い割合において染色体14と18との間の転座のブレークポイントから単離された。転座は、bcl−2遺伝子と免疫グロブリン重鎖遺伝子座を一緒に運び、B細胞において、異常に増加したbcl−2発現を生じる。続いて、Henderson等(Cell,65:1107-1115,1991)は、エプスタイン−バールウイルスに感染した細胞における潜在的膜蛋白質1の発現は、感染B細胞を、bcl−2遺伝子の発現を誘導することによりプログラムされた細胞死から保護することを示した。Sentman等(Cell,67:879-88,1991年11月29日)は、bcl−2遺伝子の発現が、多発型のアポトーシスを阻止し得るが胸腺細胞におけるネガティブ選択を阻止し得ないことを示し、Strasser等(Cell,67:889-899,1991年11月29日)は、bcl−2トランス遺伝子の発現は、T細胞死を阻止し且つ胸腺の自己検閲を混乱させ得るということを示した。Clem等(Science,245:1388-1390,1991年11月29日)は、バクロウイルス遺伝子産物を昆虫細胞におけるアポトーシスをブロックする原因として同定した。
【0009】
b.ヘルペスウイルス感染及びニューロビルレンス
ヘルペスウイルスのファミリーは、多くの病気の原因因子であるので臨床的に大いに興味のある動物ウイルスを含んでいる。エプスタイン−バールウイルスは、B細胞リンパ腫に関係し;サイトメガロウイルスは、AIDS患者に対して最大の感染脅威を与え;そして水痘−帯状疱疹ウイルスは、水痘及び帯状疱疹が深刻な健康上の問題である世界のある部分に大いに関係している。性的に伝染する単純ヘルペスウイルス(HSV)感染の発病率の世界的な増加が、新生児ヘルペスの増加を伴って、過去10年間に起きた。活性な潰瘍性病変又は無症候性排泄患者に触れることは、感染因子の伝染を生じ得る。伝染は、粘膜表面及びすりむいた皮膚におけるウイルスへの露出により、ウイルスの浸入及び上皮及び真皮の細胞内でのウイルス複製の開始を与える。臨床的に明らかな病変に加えて、特に知覚神経細胞内の潜在的感染が持続し得る。種々の刺激がHSV感染の再活性化を引き起こし得る。従って、これは撲滅するのが困難な感染である。この災いは、治療様式の不足の故に、抑制されずに大いに広がった。
【0010】
公知のヘルペスウイルスは、4つの重要な生物学的特性を共有しているらしい:
1.すべてのヘルペスウイルスは、核酸代謝に関与する酵素(例えば、チミジンキナーゼ、チミジレートシンテターゼ、dUTPアーゼ、リボヌクレオチドレダクターゼ等)、DNA合成に関与する酵素(例えば、DNAポリメラーゼ、ヘリカーゼ、プライマーゼ)、及び、可能であれば、蛋白質のプロセッシングに関与する酵素(例えば、プロテインキナーゼ)の大きい配列を、酵素の正確な配列があるヘルペスウイルスと他のものとで幾分か変化し得るにもかかわらず、規定する。
2.ウイルスDNAの合成とキャプシドのアセンブリーの両者が核内で起きる。ある種のヘルペスウイルスの場合には、ウイルスが細胞質を通過する際に脱エンベロープされ及び再エンベロープ形成し得ることが要求された。これらの結論の長所に関係なく、キャプシドのエンベロープ形成は、核膜を通過する際に必須である。
3.感染性の子孫ウイルスの生成は、常に、感染細胞の不可逆的破壊を伴っている。
4.現在まで調べられたすべてのヘルペスウイルスは、それらの天然の宿主内に潜在し続けることが出来る。潜在性ウイルスを有する細胞において、ウイルスゲノムは、閉環状分子の形態を取り、ウイルス遺伝子の少数のサブセットのみが発現している。
【0011】
ヘルペスウイルスは又、それらの生物学的特性を大いに変化させる。幾つかは、広い宿主細胞範囲を有して多くの結果を引き起こし、感染したそれらの細胞を急速に破壊する(例えば、HSV−1、HSV−2等)。他(例えば、EBV、HHV6)は、狭い宿主細胞範囲を有する。幾つかのヘルペスウイルス(例えば、HCMV)の増殖は、ゆっくりしているようである。すべてのヘルペスウイルスは特定の細胞セットにおいて潜在し続けるが、それらが潜在し続ける正確な細胞はウイルスごとに異なる。例えば、潜在性HSVは、知覚神経から回収されるが、潜在性EBVは、Bリンパ球から回収される。ヘルペスウイルスは、それらが引き起こす病気の臨床的現れに関して異なっている。
【0012】
単純ヘルペスウイルス1及び2(HSV−1、HSV−2)は、ヒトが出会う最も一般的な感染性因子のうちにある(Corey及びSpear,N.Eng.J.Med.,314:686-691,1986)。これらのウイルスは、穏やかで有害な感染(再発性単純ヘルペスラビアリス等)から重い生命を脅かす病気(年長の子供及び成人の単純ヘルペス脳炎(HSE)又は新生児の播種性感染等)に及ぶ広いスペクトルの病気を引き起こす。ヘルペス感染の臨床的結果は、初期の診断及び迅速な抗ウイルス治療の開始に依存している。しかしながら、幾つかの成功した治療にもかかわらず、真皮及び表皮の病変は再発し、新生児のHSV感染及び脳の感染は高い罹患率及び死亡率と結び付いている。現在可能なよりも一層早い診断は、治療の成功を改善するであろう。更に、改善された治療が、非常に必要とされている。
【0013】
外来の援助が、特に化学薬品の形態で、感染した個人に与えられてきた。例えば、ヘルペスウイルス複製の化学的インヒビターは、種々のヌクレオシドアナログ例えばアシクロバー(acyclovir)、5−フルロデオキシウリジン(FUDR)、5−ヨードデオキシウリジン、チミンアラビノシド等によって達成された。
【0014】
幾つかの保護が実験動物モデルにおいて、多特異的又は単一特異的抗HSV抗体、HSVプライムドリンパ球及び特定のウイルス抗原に対するクローン化T細胞により提供された(Corey及びSpear,N.Eng.J.Med.,314:686-691,1986)。しかしながら、満足出来る治療は見出されていない。
【0015】
単純ヘルペスウイルスのγ134.5遺伝子は、このウイルスのLコンポーネントに隣接するゲノムの逆方向反復領域内にマップされる。この遺伝子の発見及び特性決定は、幾つかの論文に報告された(Chou及びRoizman,J.Virol.,57:629-635,1986,及びJ.Virol.,64:1014-1020,1990;Ackermann等、J.Virol.,58:843-850,1986)。鍵となる特徴は、(i)この遺伝子が、263アミノ酸の長さの蛋白質をコードしていること;(ii)その蛋白質が、コード配列の中央に10回反復するAla−Thr−Pro3量体を含んでいること;(iii)この蛋白質が、天然で塩基性であり、多数のArg及びProアミノ酸からなること;(iv)この遺伝子のプロモーターが、ウイルスの幾つかの必須のウイルス機能の働きもするゲノムのa配列中にマップされること;(v)γ134.5遺伝子の発現に必須のシス作用性要素が、a配列特にDR2(22回反復する12塩基対配列)及びUb要素内に含まれることである。この型のプロモーター構造は、この遺伝子にユニークであり、他のウイルス遺伝子プロモーターと共通でない。
【0016】
中枢神経系(CNS)において、ウイルスを複製させ、増殖させ及び広げる能力におけるγ134.5遺伝子の機能は、組換えウイルスのセットにより及びマウスの脳における致命的脳炎を引き起こすそれらの能力を試験することにより示された。この遺伝子を欠く突然変異ウイルスは、それ故、CNS及び眼の中で増殖し広がる能力を喪失し、それ故、非病原性である(Chou等、Science,250:1212-1266,1990を参照されたい)。
【0017】
【非特許文献1】Williams,Cell,85;1097-1098,June28,1991
【非特許文献2】Johnson等、Neurobiol.ofAging,10:549-552,1989
【非特許文献3】Itoh等、Cell 66:233-243,1991
【非特許文献4】Henderson等、Cell,65:1107-1115,1991
【非特許文献5】Sentman等、Cell,67:879-88,1991年11月29日
【非特許文献6】Strasser等、Cell,67:889-899,1991年11月29日
【非特許文献7】Clem等、Science,245:1388-1390,1991年11月29日
【非特許文献8】Corey及びSpear,N.Eng.J.Med.,314:686-691,1986
【非特許文献9】Chou及びRoizman,J.Virol.,57:629-635,1986
【非特許文献10】Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014-1020,1990
【非特許文献11】Ackermann等、J.Virol.,58:843-850,1986
【非特許文献12】Chou等、Science,250:1212-1266,1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
γ134.5遺伝子は、神経細胞を、ニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死(アポトーシス)の特徴的な方法における全蛋白質合成の停止から保護することによって機能する。このプロモーターは、ストレス応答要素を含むようであり、UV照射にさらされること及び成長因子奪取によりトランス活性化される。これらのデータは、γ134.5遺伝子が神経細胞中でストレス時にトランス活性化されてアポトーシスを予防することを示唆している。
【0019】
それ故、これらの発見の重要性は、γ134.5が生存能力を拡大し又は神経細胞に保護を与え、その結果、この例では、ウイルスが複製して細胞から細胞へと広がること(ニューロビルレンスと定義する)が出来るという事実にある。この保護は、細胞が受ける他の毒性因子又は環境ストレスに対しても拡大し得るらしい。このニューロンの性質に関する重要な面は、ヒトの他の如何なる細胞とも違って、脳、眼又はCNSにおけるニューロンは再生せず、そのことが多くの神経障害疾患の基礎を形成しているという事実である。細胞の生命を死又は退行から延命させる如何なる遺伝子又は薬剤も、神経退行の領域に重大な影響を有することが予想され得る。
【0020】
γ134.5及び抗アポトーシス因子の感染細胞における役割は、解明の初期段階にある。最近の研究は、エプスタイン−バールウイルスが感染細胞の生存能力を、潜在的膜蛋白質1(LMP1)誘導されたbcl−2の上方制御を通して増大させることを示唆した。その系においては、LMP1誘導されたbcl−2上方制御がウイルス感染したB細胞に生理学的選択を回避して長生きの記憶B細胞プールへの直接的アクセスを獲得する潜在能力を与えるということが仮定される。しかしながら、bcl−2発現は、ある種の状況例えばインターロイキン2又はインターロイキン6の撤去においてアポトーシスを抑制することが出来ない。更に、bcl−2発現の作用の細胞内機構は未知のままである。
【0021】
c.プログラムされた細胞死及び病気治療
上述のことに照らして、CNS細胞におけるγ134.5の発現が保護の格別な特質をウイルス感染並びに天然の及びストレスで誘導されたアポトーシスに対してニューロンに加えたことは明らかである。この保護の格別の特質の評価は、中枢神経系(CNS)異常の制御及び治療のための新規且つ革新的な手段に利用することが出来る。特に、アルツハイマー病、パーキンソン病、ルーゲーリッグ病等(これらの病因はアポトーシスの型に帰することが出来、これらの治療は現在非常に貧弱である)を含むCNS退行性疾患の治療は、γ134.5遺伝子を遺伝子治療で用いるか又はγ134.5によって発現された蛋白質を治療剤として用いることによって有意に改善され得るであろう。これは、記載したようにニューロン細胞は有糸分裂後に再生しないという事実のためにかかる細胞の死が関係している場合に特に重要である。限られたニューロン数しかないので、それらの保護及び維持のための利用し得る方法及び薬剤を有することは重要である。γ134.5は又、γ134.5の効果を真似し及び生物学的に誘導されたプログラムされた細胞死のストレスをブロックする物質のアッセイのために非常に有用な遺伝子である。
【0022】
更に、HSV−1ウイルス(適当に修飾して非病原性にしたもの)は、ニューロンへの遺伝子治療の送達のためのビヒクルとして働くことが出来る。HSV−1ウイルスは、世界のヒト集団の90%の知覚神経節のニューロン内に存在する。このウイルスは、逆向性軸索輸送を介してニューロン細胞体中にのぼる(感染部位から神経向性プロセスによって軸索に到達する)。一度ニューロン細胞体内に入れば、このウイルスは、何らかの形態のストレス(例えば、UV露出、第2のウイルスの感染、外科手術又は軸索切断)がウイルス複製を誘導するまで休止し続ける。記載したように、HSV−1のベクターとしての利用は、安全な非病原性のベクターとして働くための欠失変異体の構築を必要とする。かかるウイルスは、ニューロンの遺伝子治療のための優れたベクターとして作用するであろうし又、その利用は、少数の遺伝子治療しか中枢神経系の血液脳関門を通過して遺伝子を送達する手段を提供しないので、特に重要な開発となろう。
【0023】
更に、他のウイルス例えばHSV−2、ピコルナウイルス、コロナウイルス、エウニアウイルス、トガウイルス、ラブドウイルス、レトロウイルス又はワクシニアウイルスは、γ134.5遺伝子治療のためのベクターとして利用することが出来る。HSV−1ウイルスの利用に関して論じたように、これらのベクターもそのような方法で変化させて非病原性にすることが出来よう。適当に変異させたウイルスの利用に加えて、トランスフェクトした多能性神経細胞系統の移植も、血液脳関門を回避するγ134.5遺伝子のCNSへの送達のための手段を提供する。
【0024】
更に、γ134.5遺伝子に特定の突然変異を有するHSV−1ウイルスの利用は、CNS及び身体の他のすべての部分における腫瘍形成性疾患の治療方法を提供する。「γ134.5マイナス」ウイルスは、アポトーシスを誘導することが出来、それ故、宿主細胞死を引き起こすが、このウイルスは複製して広がることは出来ない。それ故、CNS内の腫瘍を標的とする能力を与えたならば、γ134.5マイナスウイルスは、今まで治療不可能であった型のCNS癌に対する強力な治療剤であることが証明された。更に、標的腫瘍細胞内で抗アポトーシス効果を有する遺伝子の発現を阻止し又はブロックするウイルス以外の物質も又、腫瘍治療及びヘルペスウイルス感染の治療並びにニューロビルレンスが宿主細胞のプログラムされた細胞死機構との干渉に依存する他のウイルスの感染の治療における重要な開発として働き得る。
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明の要約
この発明は、神経退行性疾患に関連した治療のためのニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死即ちアポトーシスの予防又は治療のための方法、並びに癌及び他の腫瘍形成性疾患及びヘルペスウイルス感染の治療方法に関するものである。本発明は又、γ134.5遺伝子又はその蛋白質発現産物ICP34.5の効果を調節し得る物質(即ち、これらの効果を強め又は阻止することの出来る物質)の同定を可能にするアッセイ方法にも関係している。更に、本発明は又、γ134.5発現又はICP34.5の活性の何れかを真似ることの出来る候補物質を同定するためにデザインされたアッセイ方法にも関係する。本発明は又、遺伝子を遺伝子治療のために細胞に送達する方法にも関係している。
【0026】
本発明の1つの説明のための具体例において、ニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死を予防し又は治療する方法を説明するが、そこでは、γ134.5遺伝子を含む非病原性ベクターを調製する。このベクターを、次いで、プログラムされた細胞死を現在受けているか又は受けそうなニューロン細胞に導入する。当業者は、たとえ本発明がγ134.5遺伝子の送達に関して用いるために特にデザインされたあるユニーク且つ新規なベクターの利用を構想していても、幾つかのベクターがこの方法に用いるのに適していることを理解するであろう。
【0027】
本発明により構想されたかかる1つのベクターは、修飾して非病原性にしたHSV−1ウイルス自体である。軸索の内部輸送系を利用してニューロンの末梢神経の終末からニューロン細胞体中まで移動するHSV−1ウイルスのユニークな能力の故に、本発明は、影響されるニューロンのシナプス末端の近くに注入した非病原性HSV−1ウイルス、或は末梢の傷又は病変領域又は他の適当な周辺位置における該ウイルスの利用を提供する。γ134.5遺伝子を含むHSV−1ウイルスは、次いで、異なる標的特異的プロモーターの下で、逆向性軸索輸送によってニューロン細胞体内に輸送されるであろう。
【0028】
本発明は、HSV−1ウイルスを非細胞毒性にするために該ウイルス中に導入する特定のゲノムの修飾を構想している。これらの修飾は、ゲノムの欠失、特定のゲノム配列の再配列、又はその他の特定の突然変異を含むことが出来よう。かかる修飾の一例は、ICP4蛋白質をコードするα4遺伝子の修飾又は欠失を含む。ICP4を発現する遺伝子の欠失又は修飾は、HSV−1ウイルスがウイルスDNA及び構造蛋白質合成に必要な遺伝子を発現することを出来なくする。しかしながら、適当なプロモーターの下に置かれたγ134.5遺伝子は発現し、それ故、ニューロンにおいて、ストレス誘導されたニューロビルレンスの潜在能力を伴わずに抗アポトーシス効果を誘導する。修飾可能であろう他の遺伝子はα0遺伝子を含む。本発明は又、例えば、レトロウイルス、ピコルナウイルス、ワクシニアウイルス、HSV−2、コロナウイルス、エウニアウイルス、トガウイルス又はラブドウイルスベクターを含む他のベクターの利用をも構想している。再び、かかるウイルスのベクターとしての利用は、それらのベクターが安全で非病原性であるように欠失変異体の構築を必要とする。
【0029】
本発明がγ134.5遺伝子をプログラムされた細胞死を受けているか又は受けそうなニューロン細胞中に導入することを構想する他の方法は、多能性神経細胞系統の利用によるものである。かかる系統は、イン・ビトロで表現型を変えることが示され又、マウスの中枢神経系に統合され且つそれらを植え付けた部位に適した様式でニューロン又は節に分化することも示された(Snyder等、Cell,68:33-51,1992)。γ134.5遺伝子を導入した多能性神経細胞系統の、細胞がプログラムされた細胞死を受けているか又は受けそうな中枢神経系への移植又は植付けは、プログラムされた細胞死の逆転及び阻止へ導くことが予想される。
【0030】
γ134.5のアポトーシスを阻止する能力は、ヒトの医学においてのみならず、基礎的な科学の研究においても恩恵となるであろうことが期待される。この関係において、本発明は又、細胞培養におけるニューロン細胞の生命を延長させることにおけるγ134.5遺伝子の利用をも構想する。非細胞毒性ベクターの培養ニューロン細胞への導入は、抗アポトーシス効果を有し、それ故、細胞培養の生命を延長させるであろう。これは、更に、実験が行なわれる時間を延長し、基礎研究を行なうコストを減らすことをも期待することが出来る。
【0031】
γ134.5遺伝子を含むベクターを利用することに加えて、本発明は又、γ134.5遺伝子の発現の産物の利用を含む、ニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死を予防し又は治療する方法をも開示する。γ134.5により発現される蛋白質は、ICP34.5と呼ばれる。Ackermann等(J.Virol.,58:843-850,1986)は、ICP34.5がSDSポリアクリルアミドゲル上で見かけ分子量43,500を有し、HIV感染細胞の細胞質内に大いに蓄積するらしいことを報告し、多くのHSV−1蛋白質と対照的に、ICP34.5は生理的溶液に可溶性であることが示された。
【0032】
この方法の実施又はγ134.5遺伝子を細胞内に導入する方法の実施においては、γ134.5遺伝子又はその生物学的機能等価物を遺伝子治療に用いることが出来、精製した形態のICP34.5又はICP34.5蛋白質の生物学的機能等価物を抗アポトーシス剤として利用することが出来ることを想定している。ここで用いる場合、機能等価物とは、ある種の構造変化が起きているが、それにもかかわらず、ICP34.5の効果と同じ効果を明示する蛋白質であるか又はそれらをコードする、蛋白質及びそれらのコード核酸配列をいうことを意図している。
【0033】
規定の機能活性の測定し得る消失を伴わずに蛋白質中である種のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されるという事実に照らして、発明者は、測定可能な生物学的有用性又は活性の消失を伴わずに、ICP34.5蛋白質の配列(即ち、γ134.5遺伝子のアンダーラインを付けたDNA)中に種々の変化が起こり得るということを予想する。アミノ酸を、同様の水治療成績を有して、他のアミノ酸と互いに置換することが出来る(Kyte等、J.Mol.Biol.,157:105-132,1982を参照されたい。該文献を参考として本明細書中に援用する)(米国特許第4,554,101号(参考として本明細書中に援用する)に記載のように、類似の親水性値を有するアミノ酸であるので)。
【0034】
それ故、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性例えばそれらの疎水性、親水性、チャージ、寸法等に基づいている。上記の種々の性質を考慮した典型的な置換は当業者に周知であり、アルギニンとリジン;グルタメートとアルパルテート;セリンとスレオニン;グルタミンとアスパラギン;並びにバリン、ロイシン及びイソロイシンを含む。
【0035】
本発明のこの具体例は、製薬組成物を形成するためにICP34.5又はその生物学的機能等価物を製薬上許容し得るキャリアーと結合させることを含む方法を説明する。(γ134.5又はICP34.5というときには、発明者は、γ134.5の効果を真似る任意の化学薬品を含む生物学的機能等価物を含むことを意図しているということは後述の検討において理解されよう)。かかる組成物を、次いで、プログラムされた細胞死を受けそうな又は受けているニューロンに投与する。かかる組成物を、静脈注射、髄腔注射を用いて動物に投与することが出来よう(ある状況では、経口、大脳内又は脳室内投与が適している)。更に、培養中のニューロン細胞も又、それらが成長している培地に直接ICP34.5を投与することにより、その投与の恩恵を受けることが出来よう。
【0036】
ICP34.5を、ICP34.5をコードすることの出来る核酸断片(即ち、γ134.5遺伝子又は生物学的機能等価物)を用いて調製することが出来る。かかる断片は、例えば、γ134.5断片を宿主細胞にトランスファーし、その宿主細胞をその断片の発現に適した条件下で培養して発現を生じさせ、その後に、十分確立された蛋白質精製技術を用いてその蛋白質を単離精製することを含む技術を用いて発現され得よう。核酸断片を宿主細胞に、組換えベクターのトランスフェクション又はトランスフォーメーションによってトランスファーする。
【0037】
本発明の特に重要な具体例は、γ134.5遺伝子の効果又はICP34.5の効果を真似ることの出来る候補物質のアッセイ、並びにγ134.5の機能を強化するか又はICP34.5の保護機能を強化することの出来る候補物質のアッセイに関するものである。更に、γ134.5発現又はICP34.5の活性を阻止することの出来る候補物質のアッセイ方法も又本発明の具体例である。
【0038】
典型的具体例において、抗アポトーシス遺伝子の発現をブロックし又は抗アポトーシス蛋白質例えばICP34.5の活性を阻止する候補物質を試験するアッセイは、下記の流れに沿って進める。a配列プロモーター及びγ134.5のコード配列の部分を有する試験プラスミッド構築物を、lacZレポーター遺伝子又は任意の他のアッセイ可能なレポーター遺伝子と融合する。この構築物を、次いで、適当な細胞系統例えば神経芽細胞腫又はPC12細胞系統に、G418選択により導入する。スクリーニング目的のためのクローン化連続細胞系統を、次いで、確立する。HSV後期プロモーター(通常、細胞系統中では発現せず且つ通常アポトーシスを誘導するストレス因子によっては発現が誘導されない)を有する対照のプラスミッド構築物を同じ又は異なる指標遺伝子に融合する。この構築物も又、連続クローン化細胞系統に導入して試験細胞系統に対する対照として働くことが出来る。次いで、この抗アポトーシス薬剤を加える。典型的にa配列プロモーター活性化の引き金を引きプログラムされた細胞死を引き起こす環境ストレス例えばUV傷害、ウイルス感染又は神経成長因子の奪取等を、次いで、細胞に加える。対照用細胞において、ストレスは、それらの細胞に何らの効果をも有さず、アッセイにおいて何らの検出可能な反応を生じないであろう。試験細胞系統におけるストレスは、正の候補物質の不在下において、適当な反応、典型的には色彩反応を生じるであろう。候補物質の存在下での試験細胞系統へのストレスの導入は、候補物質がγ134.5遺伝子の発現と干渉するか又はICP34.5の抗アポトーシス活性と干渉する物質の能力と干渉することを示す逆の色彩反応を生じるであろう。
【0039】
同様に、本発明は、ICP34.5の活性を真似し若しくは強化するか又はγ134.5の発現を真似する候補物質のアッセイを説明するが、かかるアッセイは、上記と類似の流れに沿って進める。ICP34.5及び蛍光標識した細胞性遺伝子又は細胞の生存能力を知らせる容易に検出されるマーカーを与える任意の他の標識を構成的に発現している試験細胞系統(例えば、神経芽細胞種細胞系統)を生成する。更に、適当な指標遺伝子例えばa−lacZ指標遺伝子及び試験細胞系統と同じ宿主指標遺伝子からなる対応ヌル細胞系統も又生成する。又、同じ指標遺伝子及び同一宿主指標遺伝子からなる第3の細胞系統(例えば、vero細胞系統)も又生成する。再び、プログラムされた細胞死を引き起こす環境ストレスを、γ134.5の不在下でこれらの細胞に加える。それらがγ134.5発現の抗アポトーシス効果又はICP34.5若しくはその生物学的機能等価物の抗アポトーシス活性を真似るか強化するかどうかを決定するために候補物質も又加える。
【0040】
本発明は又、遺伝子治療のための遺伝子の送達方法を具体化する。典型的具体例において、この方法は、遺伝子治療に用いる遺伝子を上述のような突然変異したウイルス即ち非病原性を付与されたHSV−1ウイルスと結合させることを含む。この遺伝子及びウイルスを、次いで、製薬組成物を形成するために薬理学的に許容し得るキャリアーと結合させる。この製薬組成物を、次いで、治療のための遺伝子を含む突然変異したウイルス又はその遺伝子を含むHSV−1野生型ウイルスが適当な領域で細胞に取り込まれ得るような方法で投与する。例えば、HSV−1ウイルスを用いるときには、この組成物を、ウイルスがシナプス末端に取り込まれて軸索まで逆向性様式で、軸索細胞体中へ逆向性軸索輸送により輸送されるようにシナプス末端が位置する領域に投与することが出来よう。明らかに、末梢又は中枢神経系が遺伝子治療の標的とされた場合には、かかる方法のみが適当なものである。
【0041】
本発明は又、癌又は他の腫瘍形成性疾患並びにヘルペス感染又はビルレンスが抗アポトーシス効果に依存するウイルスに関する他の感染の治療のための方法及び組成物をも構想する。上述のアッセイ方法において同定されたICP34.5の発現又は活性に対する阻害効果を有するとして同定された候補物質を用いて、標的腫瘍細胞又はウイルス感染細胞における細胞死を誘導することが出来る。かかる物質を含む製薬組成物を、髄腔内注射、静脈注射又は直接の注射を用いて、腫瘍又は感染領域に適当に導入することが出来る。
【0042】
図面の簡単な説明
図1は、HSV−1F株(配列番号1〜5)、17syn+株(配列番号:6〜9)、MGH−10株(配列番号10〜15)、及びCVG−2株(配列番号16〜20)のICP34.5の遺伝子領域(左パネル)及びこれらの株におけるICP34.5(配列番号25〜34)の予測されるオープンフレーム(右パネル)のDNA配列を示している。図1Aは、番号665までの塩基配列であり、図1Bは、番号666〜1335までの塩基配列であり、図1Cは、対応するアミノ酸199までの配列であり、図1Dは、対応するアミノ酸200以降の配列である。新たな塩基(A、C、G又はTの挿入)、新たなアミノ酸(3文字記号)、或は塩基又はアミノ酸の不在(−)により示されない限り、HSV−1(17)syn+、HSV−1(MGH−10)及びHSV−1(CVG−2)株の配列は、HSV−1(F)と同じであった。アスタリスクは、9ヌクレオチド又は3アミノ酸の反復配列の始まりを示している。直列反復1(DR1)は、a配列荷隣接する20塩基対の反復配列を示している。直列反復1の上流の配列は、a配列内に含まれる。各行の末尾の数は、ヌクレオチド1(左パネル)又はアミノ酸1(右パネル)からの相対的位置を示す。HSV−1(F)配列の開始コドン及び終止コドンにはアンダーラインを引いてある。
【0043】
図2は、野生型株であるHSV−1F株[HSV−1(F)]及びそれに由来する組換えウイルスのゲノムの配列配置を示す。最上部の行は、HSV−1(F)Δ305の配列配置である。方形は、逆方向反復ab、b’a’c、及びcaを同定する。HSV−(F)a配列は、これらの2つのゲノム末端に順方向で存在し、ロング及びショートコンポーネント間の接合部に逆方向で存在する。これらのb及びc配列は、それぞれ、約9及び6kbp長である。TKと印した三角形は、tk遺伝子の位置及びHSV−1(F)Δ305から欠失したBamHIQ断片のBglII〜SacI配列の位置を同定する。上から2及び3行目は、b配列がICP34.5及びICP0を特定する遺伝子を含むこと及びb配列が逆方向で反復しているのでこれらの遺伝子がゲノム当り2コピー存在することを示す。糖蛋白質H遺伝子の部分を含むa24−tk断片の構築は記載された。Chou及びRoizman、J.Virol.,57:(1986);Ackerman等、J.Virol.,58:843(1986);Chou及びRoizman、J.Virol.,64:1014(1990)。7行目は、すべての3つのリーディングフレームにおける終止コドンを含むオリゴヌクレオチドの挿入の略図を示す。R4002及びR4004の構築においてそれぞれ用いたプラスミッドpRB3615及びpRB2976は、ほかの場所に記載したものである(Chou及びRoizman,J.Virol.,57:629(1986)及びJ.Virol.,64:1014(1990))。pRB3616を生成するために、プラスミッドpRB143をBstEII及びStuIで消化してT4ポリメラーゼで平滑末端化し、そしてリガーゼで再結合させた。アスタリスクは、合成オリゴマー(配列番号21〜22)との粘着末端を形成するベクターのプラスミッドからのヌクレオチドを示す。α4エピトープのICP34.5の第1のアミノ酸中への挿入(9行目)は、記載されたものである(Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014(1990))が、但し、この例においては、配列をγ134.5遺伝子の両コピー(配列番号23、24及び34)に挿入した。tk遺伝子は、マウスで試験したすべての組換えウイルスにおいて復原された。HSV−1(F)R(6行目)は、γ134.5及びtk遺伝子において欠失した配列の復原によって、R3617から誘導した。N、Be、S及びStは、それぞれ、NcoI、BstEII、SacI及びStuI制限エンドヌクレアーゼ(New England Biolabs社製)の略語である。括弧内の数は、マウスで試験した各構築物のtk+バージョンである。
【0044】
図3は、電気泳動で分離したプラスミッド(野生型及び突然変異ウイルスDNA)の消化物(固体支持体にトランスファーしてγ134.5及びtk遺伝子の存在に対する標識プローブとハイブリダイズさせたもの)のオートラジオグラフィー像を示す。示したプラスミッド又はウイルスDNAをBamHIで又は、レーン10に示したR4009の場合にはBamHIとSpeIの両方で消化した。これらのハイブリダイゼーションプローブは、γ134.5のコード配列(左パネル)内に完全に含まれるNcoI〜SphI断片及びHSV−1(F)のBamHIQ断片(右パネル)であった。これらのプローブを、[α−32P]デオキシシチジン三リン酸及びキット(Du Pont Biotechnology System社製 )中に与えられた試薬を用いて、全プラスミッドDNAのニックトランスレーションにより標識した。BamHI(全レーン)又はBamHIとSpeIの両方(左パネル、レーン10)で限定消化したDNAを、0.8%アガロースゲル上で、90mMトリホスフェート緩衝液中で、40Vで一晩、電気泳動により分離した。次いで、DNAを、ゲルをはさんだ2枚のニトロセルロースシートに、重力によりトランスファーし、各プローブと一晩ハイブリダイズさせた。γ134.5は、BamHIS及びSP断片中にマップされ、特徴的なバンドの梯子を、500bp増加にて形成する。これらの梯子は、ロング及びショートコンポーネント間の接合部のユニーク配列に隣接する反復中のa配列の変化する数の結果であるが、BamHISは、ロングコンポーネントの末端のウイルスゲノムの末端断片であり、BamHISPは、末端BamHIS断片とBamHIP(ショートコンポーネントの末端BamHI断片)との融合により形成された断片である。BamHIS、SP及びQ及びそれらの欠失バージョンであるΔBamHIS、ΔBamHISP及びΔBamHIQ(ΔQ)のバンドを、それぞれ、示してある。バンク1は、R4002中のBamHISP断片への1.7kbpのα27−tk挿入物を表し、それ故、この断片は、両標識プローブと反応した(レーン4)。バンド2は、BamHIS断片への同じ挿入物を表す。
【0045】
図4は、オートラジオグラフィー像(左パネル)及びHSV−1(F)及び組換えウイルスに疑似感染(M)又は感染した細胞の溶解物の写真(右パネル)を示す(変性ポリアクリルアミド(10%)ゲル中で電気泳動により分離し、ニトロセルロースシートに電気泳動によりトランスファーしてほかの場所で述べたウサギポリクローナル抗体R4で標識したもの)。Ackerman等、J.Virol.,58:843(1986);Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014(1990)。Vero細胞の重複培養を、感染させ、感染の12〜24時間後に[35S]メチオニン(Du Pont Biotechnology Systems )で標識し、等量の細胞溶解物を各スロットに載せた。この手順は、記載されたようにした(Ackerman等、Chou及びRoizman)、但し、結合した抗体を、Promega,Inc.により供給されたアルカリホスファターゼ基質システムを用いて可視化した。感染細胞の蛋白質を、Honess及びRoizman(J.Virol.,12:1346(1973))に従って番号で示した。R4003により特定されるキメラICP34.5は、エピトープの挿入により生じた増加した分子量の故に、他のウイルスにより生成された蛋白質よりゆっくりと移動した。
【0046】
図5は、HSV−1F株[HSV01(F)]及び関連変異体のゲノム構造及び配列配置の図式表示である。1行目:それぞれ、逆方向反復に隣接したユニークな配列からなる、HSV−1DNAの2つの共有結合したコンポーネント、L及びS(7、31)。ab及びb’a’で示されるLコンポーネントに隣接する反復配列は、それぞれ、9kbの大きさであり、他方、Sコンポーネントに隣接する反復は、6.3kbの大きさである(31)。2行目:γ134.5及びα0遺伝子を含む逆方向反復配列ab及びb’a’の部分の拡大。3行目:2行目に示した拡大部分の配列配置及び制限エンドヌクレアーゼ部位。開いたボックスは、a配列に隣接する20bpの直列反復配列(DR1)を表す(26、27)。制限部位表示は、N−NcoI;Be−BstEII;S−SacI;St−StuIである。4行目:細線及び塗りつぶした方形は、γ134.5遺伝子の転写されるコード領域を表す(406)。垂直の線は、γ134.5及びα0遺伝子の転写開始部位の位置を示す。R3616ウイルス組換え体において、γ134.5の28番目のアミノ酸にあるBstEIIから示した遺伝子の3’末端のStuIの間の1Kbを欠失させた。HSV−1(F)RDNAにおいて、R3616中のγ134.5遺伝子から欠失した配列を復原し、それ故、このウイルスは、野生型の表現型を示すことが予想されよう。R4009組換えウイルスDNAは、BstEII部位にフレームの合った翻訳終止コドンを含む。上部の垂直の矢印は、終止コドン挿入の部位を示している。
【0047】
図6は、規定の35S−メチオニンで90分間標識した感染細胞の電気泳動で分離した溶解物のオートラジオグラフィー像を示す。SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞系統を疑似感染(M)させ又は37℃で野生型又は突然変異ウイルスの5pfuに6ウェルディッシュ(マサチューセッツ州、Cambridge在、Costar)中でさらした。露出後2時間で、これらの細胞を1%仔ウシ血清を補った混合物199に重ねた。細胞のウイルスへの露出後5.5及び11.5時間にて、重複感染させた6ウェル培養を、未標識メチオニンを欠くが50μCiの35S−メチオニン(イリノイ州、Downers Grove在、Amersham Co.製、比活性>1,000Ci/ミリモル)を補った1mlの199v培地に重ねた。標識培地中での90分の後に、細胞を採集し、ドデシル硫酸ナトリウムを含む緩衝液中にて可溶化し、N,N’ジアリルタルタルジアミンで架橋した変性12%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動にかけ、ニトロセルロースシートへ電気泳動によりトランスファーして前記のようにしてオートラジオグラフィーにかけた(13)。感染細胞蛋白質(ICP)を、Honess及びRoizman,J.Virol.,12:1347-1365(1973)に従って示した。
【0048】
図7は、変性ゲル中にて電気泳動で分離した標識したポリペプチドのオートラジオグラフィー像及び抗体との反応性により可視化された蛋白質のバンドの写真を示す。SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞を、図6の説明で記載したように、1細胞当り5pfuのR3616又は親HSV−1(F)に、疑似感染(M)させるか又は感染させた。これらの培養を、細胞をウイルスにさらしてから13時間後に採集する前に、1.5時間にわたって標識した。細胞抽出物の調製、ポリペプチドの電気泳動、分離したポリペプチドのニトロセルロースシートへの電気的トランスファー及びオートラジオグラフィーを、ほかの場所(Ackerman等、J.Virol.,52:108-118,1984)に記載されたようにして行なった。ニトロセルロースシートを、Promega,Inc.(ウィスコンシン州、Madison在)からのキットの補助を受けて、製造者の支持に従って各抗体と反応させた。α27に対するモノクローナル抗体H1142及びUL26.5遺伝子の産物に対するH725は、San Franciscoのカリフォルニア大学のLenore Pereiraより寛大にも贈られた。US11蛋白質に対するM28モノクローナル抗体及びウイルス性チミジンキナーゼ(βtk)に対するウサギポリクローナル抗体R161を、この研究室の特定のペプチド(M.Sarmiento及びB.Roizman、未発表の研究)に対して作成した。ICPの表示は、前記の通りである。
【0049】
図8は、ホスホノアセテート(PAA)の存在又は不在下での、SK−N−SH神経芽細胞種細胞系統への感染の間に発現されたウイルス蛋白質のオートラジオグラフィー像を示す。二重のSK−N−SH神経芽細胞種細胞培養を、ホスホノアセテート(300μg/ml;ミズーリ州、St Louis在、Sigma Chemical Co.社製)で処理する(感染の1.5時間前に開始して、感染の終了まで続ける)か又は未処理のままで置いた。これらの培養を、5pfuのHSV−1(F)、R3616、R4009及びHSV−1(F)Rの何れかに疑似感染させるか又は5pfu/細胞でさらした。ウイルスへの露出の11.5時間後に、これらの細胞を、図6の説明に記載したようにして、50μCiの35S−メチオニンを含む培地に重ねた。ポリペプチド抽出、N,N’ジアリタルタルジアミンで架橋した12%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動、ニトロセルロースシートへの電気的トランスファー及びオートラジオグラフィーを、図6の説明に記載したようにして行なった。
【0050】
図9は、ウイルス性DNA及びRNAの感染SK−N−SH神経芽細胞腫及びVero細胞培養内の蓄積を示している。左パネル:疑似感染細胞又はHSV−1(F)、R3616、R4009又はHSV−1(F)Rウイルスを感染させた細胞から抽出した全DNAの、電気泳動により分離したBamHI消化物を含むエチジウムブロミド染色したアガロースゲルの写真。右パネル:電気泳動により分離してニトロセルロースシートにトランスファーしたRNAのハイブリダイゼーション(α47、US10及びUS11オープンリーディングフレームに対してアンチセンスのRNA配列をプローブとして使用)。SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞を、1細胞当り5pfuのHSV−1(F)又はR3616に疑似感染又は感染させた。全DNAを、感染後17時間で、Katz等、J.Virol.,64:4288-4295により公開された手順により細胞から抽出し、BamHIで消化し、0.8%アガロースゲル上で40Vで電気泳動してエチジウムブロミドで染色して可視化した。RNA分析のために、SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞を、前述のように、R3616及びHSV−1(F)に疑似感染又は感染させた。細胞をウイルスにさらしてから13時間後に、Peppel及びBaglioni(Bio Techniques,9:711-712,1990)の手順によってRNAを抽出した。次いで、それらのRNAを、1.2%アガロースゲル上で電気泳動により分離し、ニトロセルロースシートへ重力によりトランスファーし、Promega,Inc.からのキットを用いて、製造者の指示に従って、pRB3910オフT7プロモーターのイン・ビトロ転写により作成したアンチセンスRNAをプローブとして探った。α47、US10及びUS11転写物は、配列が重複し、同じ3’コターミナル配列を共有している。McGeoch等、J.Gen.Virol.,64:1531-1574(1988)。US10転写物は、少量であり、このアッセイでは検出されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
好適具体例の詳細な説明
序論
本発明は、HSV−1γ134.5遺伝子、その遺伝子により発現されるICP34.5蛋白質、及び(ニューロンの)プログラムされた細胞死に対する治療として類似の様式で機能するその蛋白質の誘導体の利用に関するものである。本発明は又、改変した、非病原性HSV−1ウイルス(並びに、他のウイルス)の遺伝子治療用ベクターとしての利用にも関係する。本発明の他の面は、抗アポトーシス剤として作用し得る候補物質を検出するアッセイ、並びに、腫瘍細胞におけるプログラムされた細胞死を誘導し得る候補物質を検出するためのアッセイに関するものである。更に、本発明は又、癌及びその他の腫瘍形成性疾患の治療方法にも関係する。最後に、本発明は又、γ134.5遺伝子又はICP34.5を不活性化し、それによりHSV−1及びその他のウイルス感染を抑制し得る候補物質の利用にも関係する。
【0052】
野生型HSV−1ゲノム(150キロ塩基対)は、2つのコンポーネントL及びSを有し、各々は、逆方向反復に隣接したユニーク配列を有している。Lコンポーネントのこれらの反復配列(ab及びb’a’で示す)は、各9キロ塩基対であり、他方、Sコンポーネントの反復配列(a’c’及びcaで示す)は、各6.5キロ塩基対である。Wadsworth等、J.Virol.,15:1487-1497(1975)。共通のa配列(HSV−1F株[HSV−1(F)]においては、500塩基対長)は、Sコンポーネント末端に1コピー存在し、L及びSコンポーネント間の接合部に同じ向きで1〜数コピー存在する。L及びSコンポーネントは、ウイルス粒子又は感染細胞から抽出したDNAが、L及びSコンポーネントの向きが異なるだけの4つの異性体からなるように、互いに逆向きになっている。Hayward等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,72:4243-4247(1975)。a配列は、ゲノム内のほかの場所へのa配列の挿入又は完全な内部の逆方向反復配列(b’a’c’)の欠失が、それぞれ、更なる逆転又はL及びSコンポーネントの逆転する能力の喪失へと導くので、シス作用部位であるらしい。このa配列は又、感染後のゲノムの環化、コンカテマーからのHSVゲノムの開裂及びDNAのキャプシド封入のためのシス作用部位をも含むことが示された。
【0053】
HSV−1ゲノムは、発現が調和して制御され、カスケード様式で順次的に指令される少なくとも73遺伝子を含む。α遺伝子が、最初に発現され、β、γ1及びγ2遺伝子が続いて発現される。β、γ1及びγ2遺伝子間の区別は、作動時のウイルスDNA合成のインヒビターの効果に基づいている。ウイルスDNA合成のインヒビターによって、β遺伝子の発現は刺激され、γ1遺伝子の発現は僅かに減じるが、γ2遺伝子の発現は、ウイルスDNA合成に厳重に必要である。
【0054】
a配列の機能の研究の過程で、Chou及びRoizman(Cell,41:803-811,1985)は、HSV−1のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子の5’非コード転写配列に融合させたa配列からなるキメラ構造がトランスファーした細胞中で誘導可能であり、ウイルスゲノムに挿入したときにはγ1遺伝子として制御されるということに注目した。この観察は、逆方向反復のb配列に最も近いa配列の末端が、構造配列がLコンポーネントに隣接するb配列中に位置している遺伝子のプロモーター及び転写開始部位を含むことを示唆している。感染細胞から抽出して電気泳動で分離したRNAに対する標識DNAプローブのハイブリダイゼーション及びS1ヌクレアーゼ分析を含む研究は、a配列から始まるRNA転写物の存在を確実にした。ヌクレオチド配列分析は、263アミノ酸長の蛋白質をコードすることの出来るオープンリーディングフレームの存在を示した。Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014-1020(1990)。
【0055】
前の研究は、Sコンポーネントの各逆方向反復が、その全長中に、α4で表される遺伝子を含み、他方、Lコンポーネントのものは、その全長中に、α0で表される遺伝子を含むということを示した。例えば、Mackem及びRoizman,J.Virol.,44:934-947(1982)を参照されたい。ヌクレオチド配列及びRNAの分析に基づいて同定された推定の遺伝子も又、ゲノム当り2コピー存在する。逆転、コンカテマーからのDNAの開裂及びDNAのパッキングのためのシス作用部位を含むa領域を有するこの遺伝子の領域の重複の故に、遺伝子産物を同定し特性決定することは興味深いことであった。この目的のために、このヌクレオチド配列は、蛋白質中に、10回反復するアミノ酸トリプレットAla−Thr−Proが存在することを予言するという観察が利用され、この配列に基づいて合成した合成ペプチドに対する抗体は、見かけ分子量43,500のHSV−1蛋白質と反応した。Ackerman等、J.Virol.,58:843-850,1986。
【0056】
ICP34.5をコードするオープンリーディングフレームの変異性の程度を、ヒト宿主の外で限られた回数継代された3種類のHSV−1株のヌクレオチド配列の比較により確立した。Chou及びRoizman(J.Virol.,64:1014-1020,1990)は、ICP34.5を特定する遺伝子は、3種類の限られた継代の株すべてにおいて保存されているが、HSV−1(17)syn+株の報告された配列中では保存されていない263コドンを含むことを報告した(図1)。予言された反復配列Ala−Thr−Proに対する抗体が類似の反復配列を有する異質蛋白質ではなくてICP34.5と反応することを確かめるために、他のHSV−1遺伝子の特徴であるエピトープをコードする45ヌクレオチドの短い配列をICP34.5コード領域の5’末端近くに挿入した。この組換えウイルスは、妥当な遅い電気泳動移動度を有し、挿入したエピトープに対するモノクローナル抗体及びAla−Thr−Pro反復要素に対するウサギ抗血清の両方と反応する蛋白質を発現した。
【0057】
ニューロビルレンスと関連した遺伝子の同定の研究は、HSV−1DNAのロングコンポーネントの末端又は末端近くに位置するDNA配列に関係していた。それ故、Centifanto-Fitzgerald等(J.Exp.Med.,155:475,1982)は、DNA断片によって、ビルレンスマーカーをビルレント株からHSV−1のアンチビルレント株へトランスファーした。HSV−1DNAのロングコンポーネントの一端に位置する遺伝子の欠失は、プロトタイプHSVワクチン株により示されたビルレンスの欠如に寄与した。Meignier等、J.Infect.Dis.,158:602(1988)。他の研究において、Javier等(J.Virol.,65:1978,1987)及びThompson等(Virology,172:435,1989)は、大部分HSV−1DNAからなるが、ロングコンポーネントの一端に位置するHSV−2配列を有するHSV−1×HSV−2組換えウイルスは、ビルレントでなく、ビルレンスは、相同なHSV−1断片を用いるレスキューによって復原され得るということを示した。Taha等(J.Gen.Virol.,70:705,1989)は、HSV−2株のロングコンポーネントの両端の1.5kbpが欠失している自発的欠失変異体を記載した。親ウイルス集団における不均一性の故に、マーカーレスキューにより得られた組換え体が欠失変異体より一層ビルレントであったにもかかわらず、ビルレンスの消失は、特定の欠失に明らかに関係しているとは言えなかった。何れの研究においても、特定の遺伝子又は遺伝子産物は突然変異遺伝子座に同定されなかったし、何れの遺伝子もビルレンス表現型に特異的に結び付けられなかった。
【0058】
γ134.5遺伝子の役割
γ134.5遺伝子の産物(ICP34.5)の役割を試験するために、一連の4種類のウイルス(図2)をPost及びRoizmanの手順(Cell,25:227,1981、本明細書中に参考として援用する)によって、遺伝子工学処理した。
【0059】
1)組換えウイルスR4002(図4、レーン3)は、ICP34.5コード配列の両コピー中のα27遺伝子(α27−tk)のプロモーターによって駆動されるチミジンキナーゼ(tk)遺伝子の挿入を含んだ。それは、ウサギ皮膚細胞を、tk遺伝子の部分を特異的に欠失したウイルスHSV−1(F)Δ305の完全なDNA及びBamHIS断片に含まれるγ134.5遺伝子に挿入したα27−tk遺伝子を含むプラスミッドpRB3615のDNAでコトランスフェクトすることによって構築した。tk+である組換え体を、次いで、ヒトの143のチミジンキナーゼマイナス(TK-)細胞上で選択した。α27−tk遺伝子を含む断片は、tk遺伝子から下流を含む:5’非転写プロモーター、非コード転写配列及び糖蛋白質H遺伝子の開始メチオニンコドン。α27−tk断片が挿入されたBstEII部位は、γ134.5オープンリーディングフレームのコドン29の直上流にある。結果として、糖蛋白質Hの開始コドンは、フレームを合わせて融合され、γ134.5遺伝子の切り詰めたオープンリーディングフレームの開始コドンとなった(図2、3行目)。更なる研究のために選択した組換え体R4002は、γ134.5遺伝子の両コピー中にα27−tk遺伝子挿入物を含むことが示され(図3、レーン4)、キメラγ134.5遺伝子の予言された切り詰めた産物のみを特定した(図4、右パネル、レーン3)。これらの及び以前の研究において検出された天然ICP34.5蛋白質の量は、一般に、低かった。糖蛋白質Hの5’非コード転写領域及び開始コドンと切り詰めたγ134.5遺伝子との(フレームをあわせた)融合によって形成されたキメラ遺伝子は、天然遺伝子より遥かに有効に発現した。
【0060】
2)γ134.5遺伝子の各コピー中の1kbのDNAを欠失している組換えウイルスR3617(図2、5行目)は、ウサギ皮膚細胞を完全なR4002DNA及びプラスミッドpRB3616のDNAでコトランスフェクトすることによって生成した。このプラスミッドにおいて、γ134.5のコード領域の大部分を含む配列は、欠失している(図2、5行目)。このトランスフェクションのtk-子孫を、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を含む培地に重ねた143TK-細胞上にプレートした。この手順は、tk-ウイルスを選択し、tk遺伝子はγ134.5遺伝子の両コピー中に存在するので、このトランスフェクションの選択した子孫は、両コピー中の欠失を含むことが予想され得よう。R3617と表示する選択したtk-ウイルスを、γ134.5遺伝子の両コピー中の欠失の存在について分析した。ニューロビルレンスのアッセイのために、R3617の天然のtk-遺伝子中の欠失(その起源をHSV−1(F)Δ305に帰する)を修復しなければならなかった。これは、ウサギ皮膚細胞を完全なR3617DNA及びtk遺伝子を含むBamHI Q断片でコトランスフェクトすることによって行なった。143TK-細胞中でtk+表現型について選択したウイルスをR3616と表示した。このウイルスは、野生型BamHI Q断片(図3、右パネル、レーン6)を含み、ICP34.5を作らない(図4、右パネル)。
【0061】
3)R3616の表現型が実際にγ134.5遺伝子における欠失を反映することを確かめるために、欠失した配列を、ウサギ皮膚細胞を、完全なR3617DNA、完全なtk遺伝子を含むHSV−1(F)BamHI QDNA断片及び完全なγ134.5遺伝子を含むBamHI SPDNA断片でコトランスフェクト(モル比、1:1:10)することによって復原した。次いで、tk+であるウイルスを、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地に重ねた143TK-細胞にて選択した。tk+候補を、次いで、野生型tk及びγ134.5遺伝子の存在についてスクリーニングした。予想されるように、選択したHSV−1(F)Rで表されるウイルス(図2、6行目)は、野生型末端ロングコンポーネント断片を含み(図3、左パネル、レーン2、7及び8を比較されたい)、ICP34.5を発現した(図4、右パネル、レーン6)。
【0062】
4)R3616の表現型が隠れたオープンリーディングフレーム中の欠失を反映している可能性を排除するために、ICP34.5コード領域の始めのすべての3つのリーディングフレーム中に翻訳終止コドンを含むウイルス(R4010、図2、7行目)を構築した。翻訳終止コドン及びその完全な配列を含む20塩基のオリゴヌクレオチド(図2)を、Applied Biosystems社製 380D DNAシンセサイザーにて作成し、等モル比で混合し、80℃に加熱し、そしてゆっくりと室温に冷却した。アニールしたDNAを、HSV−1(F)BamHIS断片に、BstEII部位に挿入した。その結果のプラスミッドpRB4009は、ICP34.5コード配列の始めに挿入された終止コドンを含んだ。この20ヌクレオチドオリゴマーDNA挿入は又、この挿入物の存在の迅速な確認を可能にするSpeI制限部位をも含んだ。組換えウイルスR4010を生成するために、ウサギ皮膚細胞を、R4002の完全なDNA及びpRB4009プラスミッドDNAでコトランスフェクトした。tk-である組換え体を、BrdUを含む培地中の143TK-細胞にて選択した。このウイルスのtk+バージョン(R4009と表示)を、完全なtk-R4010DNAをHSV−1(F)BamHI QDNA断片と共に用いるコトランスフェクション及びtk+子孫の選択により生成した。ニューロビルレンス研究のために選択したウイルス、R4009は、BamHIS及びSP断片の両方のSpeI制限エンドヌクレアーゼ開裂部位を含み(図3、左パネル、レーン9及び10)、ICP34.5を発現しなかった(図4、右パネル、レーン7)。
【0063】
5)R4004(図2、最下行)は、16アミノ酸をコードする配列の挿入により生成した組換えウイルスであった。この配列は、ICP4と表示されるウイルス蛋白質と反応性のモノクローナル抗体H943のエピトープであることが示された。Hubenthal-Voss等、J.Virol.,62:454(1988)。このウイルスを、完全なR4002DNA及び挿入物を含むプラスミッドpRB3976のDNAでコトランスフェクトすることにより生成し、選択したtk-子孫を挿入物の存在について分析した。ニューロビルレンス研究のために、そのtk遺伝子を上述のようにして復原した(組換えウイルスR4003)。このDNA配列を、フレームを合わせて、γ134.5遺伝子の開始メチオニンコドンのNcoI部位に挿入した。この挿入物は、開始メチオニンコドンを再生し、ICP34.5のエピトープと残りの部分との間のメチオニンコドンを生成した。追加のアミノ酸の故 に、この蛋白質は、変性ポリアクリルアミドゲル中で、一層ゆっくりと移動した(図4、右パネル、レーン4)。
【0064】
すべての組換え体のプラークの形態及び寸法は、Vero、143TK-及びウサギ皮膚細胞系統にプレートした場合に、野生型親HSV−1(F)のものに類似していた。HSV−1(F)及びR4003は、野生型ウイルスと同様に、Vero細胞複製培養において複製したが、R3616及びR4009の収量は、野生型の量の1/3〜1/4に減じた。ICP34.5は、培養細胞におけるHSV−1の生育に必須ではなかったが、表1に示す研究の結果は、γ134.5の欠失又は翻訳の終止がウイルスのビルレンスに深い影響を有することを示している。それ故、最高濃度[1.2×106プラーク形成単位(PFU)]のR3616を接種されたすべてのマウスは生き残った。R4009の場合には、最高濃度(〜107PFU)のウイルスの接種の結果、10匹のマウスの内3匹のみが死亡した。他の欠失変異体と比較して、R3616及びR4009は、今日まで報告された最も低病原性のウイルスにランクされる。γ134.5遺伝子が復原されたウイルスは、親ウイルスのビルレンスを示した。
【0065】
【表1】
【0066】
マウスの大脳内接種の後に死を引き起こす野生型及び組換えウイルスの比較能力。ノースカロライナ州、Raleigh在、Charles River Breeding Laboratories社からの21日齢の雌のBALB/Cマウス(体重±1.8g)で、ニューロビルレンス研究を行なった。ウイルスを、イーグルの塩類及び10%ウシ胎児血清、ペニシリン及びゲンタマイシンを含む最小必須培地にて稀釈した。マウスに、26ゲージ針を用いて、右大脳半球に、大脳内接種した。送達した容積は0.03mlであり、各稀釈のウイルスを10匹のマウスの群にて試験した。これらの動物を、毎日、21日間にわたって、死亡率をチェックした。LD50を、英国、ケンブリッジ在、Elsevier Biosoft社製の「投与量効果分析」コンピュータープログラムの助けを借りて計算した。
【0067】
野生型ウイルス及びすべての組換え体は、大脳細胞に取り付いて浸入するために必要な同じ表面糖蛋白質を有する。大脳への106PFUの注射は、有意の数の大脳細胞の感染及び死を生じるはずである。大脳内接種後の死は、ウイルスの複製、細胞から細胞への拡大及び免疫系が作用する機会をもつ前の細胞破壊から生じる。イーグル塩類及び10%ウシ胎児血清を含む最小必須培地に懸濁させた大脳組織の稀釈は、ICP34.5を作れないウイルスを接種されたこれらの動物の大脳が、非常に少量のウイルスを含むことを示した。それ故、R3616及びR4009ウイルスについては、回収率は、それぞれ、大脳組織1g当り120及び100PFUであった。接種物中のウイルス量(試験した最高濃度)を与えても、回収された少量のウイルスが、接種物の生き残りを表すのか新たに複製されたウイルスを表すのかは、はっきりしない。対照的に、HSV−1(F)R及びR4003を接種したマウスから回収されたウイルスの量は、それぞれ、6×106であった。これらの結果は、これらの2種類の組換えウイルスが死を引き起こせないのは、突然変異ウイルスがCNSにおいて複製することが出来ないことの結果としてのニューロン組織におけるウイルスの乏しい広がりに関連しているに違いなく、それらの宿主の範囲の減少を反映しているということを示している。
【0068】
γ134.5遺伝子産物の機能を求めるためにデザインした研究の過程で、ニューロナルオリジンの細胞にγ134.5遺伝子を発現することができない突然変異体を感染させると細胞蛋白質合成を停止することになるのに対し、非ニューロナルオリジンの細胞に野生型或は突然変異ウイルスを感染させると蛋白質合成及び感染性後代の産生を持続することになることを見出した。
【実施例】
【0069】
例1−γ134.5発現がプログラムされた(programmed)細胞死に与える影響物質及び方法
細胞 由来はATCCから得たVero細胞を、子牛血清5%を含有するDME培地で増殖させた。ヒトSK−N−SH神経芽細胞腫(NB)神経系統をATCC(HTB11)から得て牛胎児血清10%を含有するダルベッコの改変イーグル培地で増殖させた。
【0070】
ウイルス 単純疱疹ウイルス1菌種F[HSV−1(F)]の単離は、Ejercito等(J.Gen.Virol.、2:357〜364(1968))(本明細書中に援用する)によって記載された。組み換えウイルスR3616、R4009及びHSV−1(F)の構成は、Chou等(Science、250:1262〜1266、1990年11月30日)(本明細書中に援用する)によって報告された。図5に例示する通りに、R3616はγ134.5遺伝子の両コピーにおいて1Kbp欠失を含有する。組み換えR4009では、停止コードンをγ134.5遺伝子の両コピーに装入した。組み換えR3616におけるγ134.5遺伝子を回復して組み換えHSV−1(F)Rを生じた。
【0071】
ウイルス感染 細胞を通常感染の多重度5においてウイルスに37℃で2時間暴露し、次いで取り出し、子牛血清1%を含有する199v培地に取り換えた。感染は37℃で各々の実験について示す通りの時間の間続いた。次いで、細胞を新たな蛋白質合成或はウイルス性DNA及びRNAの合成のいずれかについて標識した。
【0072】
35S−メチオニン標識化 感染した後の示す時間で、35S−メチオニン(比活性>1,000Cimモル、イリノイ、ダウナーズグローブ在Amersham Co.社製)50μCiを、6つのウエル皿中の細胞にメチオニンを欠く199v培地1mlに加えた。標識化を1.5時間続けて、細胞を収穫した。細胞エキストラクトの調製;N,N’ジアリルタルタルジアミド(カリホルニア、リッチモンド在Bio−Rad Laboratories)で架橋したポリアクリルアミドゲルを変性させる際の電気泳動による蛋白質の分離;ポリペプチドのニトロセルロースシートへの転移;抗体によるオートラジオグラフィー及び免疫ブロットは、Ackermann等、J.Virol.,52:108〜118(1984)(本明細書中に援用する)によって記載された。
【0073】
結果
γ134.5遺伝子を欠くHSV−1(F)ウイルスは神経芽細胞腫細胞において蛋白質合成の停止を誘発する。 CNS組織に由来するヒト細胞系統をスクリーンする過程で、SK−N SH神経芽細胞腫細胞系統が産生する突然変異ウイルスは、完全に許容的なVero細胞に比べて100倍少ないことが明らかであった。また、図6に示す通りに、R3616、R4009で感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞は、7時間で収穫した細胞において蛋白質合成の減少を示し(左パネル)かつ感染した後13時間までに35S−メチオニンを取り込むのを止めた(右パネル)ことにも留意された。その現象は、SK−N−SH神経芽細胞腫細胞だけで観測され、欠失された配列の回復が感染した後13時間でウイルス性蛋白質を発現するウイルス[HSV−1(F)R]を生じ(図6、右パネル)かつ親の野生型表現型を示したのだから、γ134.5遺伝子における突然変異に特異的に帰し得た。
【0074】
α遺伝子を発現した後に、蛋白質合成の停止が起きた。 ウイルス性遺伝子は3つの主要なグループであって、それらの発現は同調調節されかつ逐次カスケード様式で並べられるものを形成する。Roizman及びSears,Fields’ Virology、第2版、Fields等、編集、1795〜1841(1990)参照。α遺伝子はそれらを発現するために新たに蛋白質合成を必要とせず、ウイルス性DNAを合成するために必要とするβ遺伝子は機能的α及びβ蛋白質の事前合成並びにウイルス性蛋白質合成の開始を必要とする。突然変異ウイルスで感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞においてウイルス性遺伝子機能の発現が終結された点を求めるために、ポリアクリルアミドゲルを変性させる際に電気泳動分離された感染された細胞リゼイトをニトロセルロースシートへ転移させ、α(α27)、αβ(ウイルス性チミジンキナーゼ)及び2種のたくさんある蛋白質への抗体によって立証した。Roller及びRoizman(J.Virol.、65:5873〜5879(1991))は、後者がUL26.5及びUS11遺伝子の産物であって、それらの最適レベルにおける発現がウイルス性DNA合成を必要とするものであることを示した。図7に示す通りに、突然変異ウイルスで感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞は、α27蛋白質を通常量(左パネル)、チミジンキナーゼ(β)蛋白質を減少した量(中央パネル)で産生したが、検出し得るγ蛋白質を産生しなかった(左及び右パネル)。対照して、野生型及び突然変異の両方のウイルスは、Vero細胞においてそれらの蛋白質の合成を複製する或は指図するそれらの能力に関し、差異を認めることができなかった(図7)。
【0075】
蛋白質合成を停止するためのシグナルをウイルス性DNA合成に関連付ける。 これらの実験は、蛋白質合成の停止が、遺伝子であってその発現がウイルス性DNA合成に依存するものに関連付けられるかどうかを求めるためにデザインした。キーの実験の結果を図8に示す。複製SK−N−SH及びVero細胞培養にHSV−1(F)及び組み換えウイルスを感染させ、ウイルス性DNA合成をブロックする薬剤であるホスホノアセテートを抑制濃度で存在させ或は存在させないで保った。細胞を、感染させた後13時間で、35S−メチオニンによってパルス標識した。結果の顕著な特徴は、R3616か或はR4009のいずれかで感染されたSK−N−SH細胞における蛋白質合成が、ホスホノアセテートの存在では少なくとも13時間持続されたが、その不存在では持続されなかったことであった。これらの結果は、突然変異ウイルスで感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞における蛋白質合成の停止についてのシグナルが、ウイルス性DNA合成或はそれを発現するためのウイルス性DNA合成に依存するγ遺伝子と関連することを示した。
【0076】
たとえ蛋白質合成の停止が後期(late)蛋白質の蓄積を排除したとしても、γ134.5突然変異体で感染されたヒト神経芽細胞腫細胞はウイルス性DNA及び蓄積された後期mRNAを合成した。 上に提示した証拠は、SK−N−SH神経芽細胞腫細胞において、ウイルス性DNA合成に関連する事象が蛋白質合成の停止を誘発しかつ後期(γ)ウイルス性蛋白質が蓄積しないことを示した。従って、本発明者等は、ウイルス性DNAをほとんど蓄積しない或は全く蓄積しないこと及びウイルス性DNA合成の不存在では、後期(γ)ウイルス性転写物(transcript)であって、それらの合成がウイルス性DNA合成に依存するものをほとんど蓄積しない或は全く蓄積しないことを予想した。本発明者等が驚いたことに、突然変異ウイルスで感染して17時間した後にSK−N−SH神経芽細胞腫細胞から回収されたウイルス性DNAの量は、野生型の親の或は修復された[HSV−1(F)R]ウイルスから得られる量に匹敵し得るものであった(図9、左パネル)。その上、SK−N−SH神経芽細胞腫細胞は証明できる量のUS11蛋白質を合成しなかったが、突然変異及び野生型ウイルスで感染された細胞中に蓄積したUS11遺伝子転写物の量は同様の大きさであった(図9、右パネル)。
【0077】
これらの結果の有意性は3つの観測から生じる。第一に、感染された細胞では、蛋白質合成は調節カスケードを反映し;α蛋白質合成はβでかつ後にγ蛋白質合成に替えられる。現在までに試験されたγ134.5突然変異体で感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞と異なるすべての細胞では、一群の蛋白質の合成におけるブロックは全蛋白質合成の停止に至らない。例えば、PAAのようなDNA合成の抑制剤で処理した細胞では、それらの合成がウイルス性DNA合成に依存するサブクラスのγ蛋白質は産生されない。しかし、これらの細胞では、β蛋白質合成は、未処理の感染された細胞におけるそれらの合成時間を越えて続く。γ134.5ヌル突然変異体で感染されたSK−N−SH細胞に関する研究でなされた顕著な観測は、(i)すべての蛋白質合成が完全に停止し、(ii)ウイルス性DNAが作成され、(iii)たとえ蛋白質合成が停止したとしても、US11mRNAによって例証される後期γmRNAが作成されたことである。ウイルス性複製についてのこれらの表現は前に報告されておらず、この報告に記載されるものと異なる細胞(例えば、Vero、HEp−2、ハムスター乳児肝臓、143tk−及びウサギスキン細胞系統及びヒト胎児肺細胞株)の野生型ウイルス或は任意の突然変異ウイルス感染により感染された細胞を特性表示するものではない。
【0078】
第二に、突然変異の修復は野生型表現型を回復するので、γ134.5遺伝子の機能はSK−N−SH細胞での蛋白質合成におけるこのブロックに打ち勝つことである。
【0079】
最後に、蛋白質合成の停止をウイルス性DNA複製の開始に関連付けることは、感染した後に作成される産物が停止の原因となる可能性を排除しないが、データは、蛋白質合成の停止が細胞の蛋白質合成機と相互作用する既知のウイルス性遺伝子産物により特異的に引き起こされるという仮定を強く支持する。例えば、vhsと表示されるHSV−1遺伝子の産物が、感染した後に細胞蛋白質合成を停止することができるということは確立されている。vhsはウイルスの構造的蛋白質であり、感染する間に細胞の中に導入される。それは感染において初期にmRNAを不安定にし、それの作用は感染した後に作成されるウイルス性遺伝子産物に依存しない。上述した実験では、野生型及び突然変異ウイルスの蛋白質合成が、ホスホノアセテートで処理した細胞では、感染した後13時間で識別することができなかった、故に、突然変異ウイルスの表現型はvhs遺伝子産物に帰することができない。この結論は、SK−N−SH細胞におけるウイルス性蛋白質合成が、野生型ウイルスによる感染の多重度を100pfu/細胞程に大きな値に増大させることによって影響されなかったという観測により強められる(データは示さない)。蛋白質合成を停止する遺伝情報についての一層ありそうな源は細胞それ自体である。
【0080】
ニューロナルオリジンの細胞から成長因子を奪取すると、プログラムされた細胞死になり、これは、初め蛋白質合成を停止し、次いでDNAを切断することによって表われることが報告された。リンパ球におけるアポトシスは、DNAの分解により表わされる。その他のヘルペスウイルスの場合、Epstein−Barrウイルスで感染されたBリンパ球では、ウイルス性LMP−1 遺伝子の産物がプログラムされたリンパ球死を排除する宿主遺伝子Bcl−2を含むことが示された(Henderson等、Cell 65:1107〜1991)。これより、ニューロナル細胞におけるウイルス性DNA合成の開始が蛋白質合成の停止によってプログラムされた細胞死を誘発すること及びHSV−1 γ134.5遺伝子がこのリスポンスを排除することは明らかである。
【0081】
ニューロナルストレスへのリスポンスを排除するHSV−1遺伝子の発生は驚くべきことではない。ニューロン、特に感覚ニューロンの感染は、HSV−1を潜伏のままにしかつヒト固体群において生き残るのを可能にさせるウイルス性繁殖ライフスタイルの本質的な特徴である。本発明者等が提案する通りに、γ134.5遺伝子の機能が細胞死を排除することであるならば、HSVは通常神経細胞を感染させるので、遺伝子の標的はリンパ球よりもむしろニューロンになろう。
【0082】
γ134.5遺伝子はいくつかの異常な特徴を有する。遺伝子は、よくTATAA−転写性の一層小さいユニットに関連される慣用のTATAAボックス或はリスポンスエレメントを欠く。遺伝子の発現を可能にする配列は長さ12bpであるが、この実験室で使用する野生型株では3回程多く反復させる。どこか他で報告された種々のアッセイは、非ニューロナル誘導の細胞において産生される遺伝子産物の量がほとんどのウイルス性遺伝子により発現される量に比べて少なくかつウイルス性DNA合成の不存在において作成される蛋白質の量がその存在において作成される蛋白質の量に比べて少なかったことを示す。遺伝子はアミノ酸263の蛋白質をコード化することが予想される。それはトリプレットAla−Thr−Proを10回反復させて含有し、細胞質において蓄積する。最近の記録は、γ134.5蛋白質のカルボキシル末端の近くの63アミノ酸残基が、インターロイキン6によって区別を生じさせられる骨髄性白血病細胞系統において見出されるマウス蛋白質MyD116とアイデンティティ83%を共有することを示す(Lord等、Nucleic Acid Res.18:2823、1990)。MyD116の機能は知られていない。上に提示した結果は、γ134.5遺伝子の産物である蛋白質ICP34.5が極めて明瞭にSK−N−SH神経芽細胞腫細胞において持続した蛋白質合成を可能にすることを立証し、かつ遺伝子の発現がアポトーシスを排除するのに十分であることは明らかである。
【0083】
γ134.5を発現させるために必須のプロモーター−調節エレメントは、a配列、すなわち直接反復DR2及びDR4並びに特有のUb配列の3つのエレメント内に含有される。ゲル遅延アッセイは、ウイルスの主要な調節蛋白質をコード化するα4遺伝子の産物を、γ134.5遺伝子の発現を調節するエレメントの内のいずれかに結合させることを示すことができなかった。一過性発現アッセイでは、α4或はα0遺伝子の産物 は、γ134.5遺伝子の5’非コード化配列に融合されたチミジン−キナーゼ遺伝子のコード化配列からなるキメラリポーター遺伝子をトランスアクチベートさせることができなかった。リポーター遺伝子は、α4及びα0の両方の遺伝子を含有するプラスミドによるコ−トランスフェクションによって誘発されたが、比較的低いレベルであった。α27遺伝子をコード化するプラスミドは、単独でトランスフェクトされるキメラリポーター遺伝子の発現に影響を与えなかったが、それはα4及びα0遺伝子を含有するプラスミドによりキメラリポーター遺伝子の誘発を低減させた。
【0084】
例2−プログラムされた細胞死(アポトーシス)の遺伝子治療による処置
本例では、アポトーシスの予防或は処置に向けるγ134.5遺伝子治療を記載する。本例のために、突然変異させたHSV−1ウイルスを、遺伝子をプログラムされた細胞死を受ける或は受けようとするニューロナル細胞に導入するためのベクターとして提案する。また、本発明のこの実施態様は、レトロウイルス性ベクター及びワクシニアウイルスであって、それらのゲノムをウイルスを非病原性にさせるように別の方法で処理したものを含む別のウイルス性或はファージベクターを使用して実施し得ることももくろむ。そのようなウイルス性突然変異を生じる方法は米国特許第4,769,331号に詳細に記載されており、同特許を本明細書中に援用する。その上、また、本発明のこの実施態様は、任意の遺伝子であって、その発現が遺伝子治療において有利なものを使用して実施し得、かつ非HSVウイルスの使用が非神経システムにおいて遺伝子治療を可能にすることももくろむ。
【0085】
単純疱疹ウイルスはヒトCNS組織について天然の向性を有する。ウイルスは、野生型条件下で、神経システムにおいて複製及び繁殖することができかつニューロ毒性である。ウイルスは、また、ニューロンにおいて潜在感染を確立することができかつ時折再活性化されることができる。遺伝子をニューロンの中に送達するベクターを樹立するには、提案したHSVベクターの構成体は下記の基準を満足しなければならない:1.そのようなベクターはCNS及び脳組織について天然の向性を有すべきである。2.そのようなベクターは非病原性、すなわち完全に無毒性であるべきでありかつ再活性化して感染を引き起こし得るべきでない。3.そのようなベクターは、ニューロ退化を受ける細胞における細胞死を防ぐために、γ134.5の構成発現からなるべきである。4.3においてそのように提案したそのようなベクターは、遺伝子治療のために更に外来の遺伝子を装入するのに適している。
【0086】
物質及び方法
α4遺伝子において突然変異性病巣を有するHSVベクターを構築する。提案したウイルスは、もはやCNSにおける潜在感染から複製、繁殖及び再活性化することができない。ウイルスは、α4遺伝子の不存在において、ニューロンにおいて潜在感染を樹立することができる。このウイルスは、α4発現性細胞系統を含有するプラスミドによるウイルス性DNAのコ−トランスフェクションによって得ることができる。α4発現性細胞系統及びウイルスは前に報告された。DeLuca等、J.Virol.,56:558〜570(1985)。
【0087】
加えて、構成発現プロモーター下でγ134.5遺伝子を有するそのようなHSVベクターもまたもくろむ。この構成発現プロモーターはHSV LATプロモーター、レトロウイルスのLTRプロモーター或は天然の遺伝子発現のために特異的な任意の他の外来のプロモーターにすることができる。適当に導入したそのようなウイルス性ベクターは、アポトーシスを受けるニューロナル細胞における細胞死を防ぐのに適している。
【0088】
その上、ウイルス性ゲノム上の中性位に装入した外来の遺伝子を有するそのようなHSVベクターは、外来の遺伝子を標的ニューロンに送達しかつCNS遺伝子治療するために適している。上記の組み換えウイルスを産生するための手順は、Post及びRoizman(Cell、25:227、1991)(本明細書中に援用する)により発表されたものである。また、米国特許第4,769,331号(本明細書中に援用する)も参照。
【0089】
突然変異させたHSV−1ウイルスを使用するのが適している場合では、ウイルスを緩衝生理食塩水のような製薬上許容し得るキャリヤーと組み合わせ、末梢神経末端であって、それらの軸索がアポトーシスを受ける或は受けようとする神経細胞体から始まるものの部位に注入することができる。医学分野の当業者ならば認める通りに、ウイルスの投与量は、取り分け、治療を必要とする細胞を標的にするベクターの能力(その程度に、遺伝子は標的細胞において発現される)及び発現された蛋白質の活性を含むいくつかの要因に応じて変わることになる。ホスフェート緩衝塩或はスキムミルク中にウイルスおよそ104〜105を含有する接種材料は、マウスにおいて好結果を生じた。そのように注入したウイルスは、末梢神経末端の中に吸収され、次いで逆向性軸索輸送によりニューロナル細胞体に輸送される。そのような末梢注入が有用でない或は適していない場合には、ウイルスの局在髄腔内或は心室内注入、もしくは直接微小注射を利用することができる。
【0090】
適当に変えた非HSVウイルス、すなわちウイルスを非病原性にさせるような方法で処理したゲノムを有するウイルスを同様にして使用することができる。逆向性軸索輸送により細胞体に送達するための直接微小注射或は末梢注入はウイルス性送達についての任意選択になる。最後に、また、生物学的機能的等価遺伝子を、本例に記載する任意のベクターにおいて遺伝子治療用に利用し得ることにも留意すべきである。
【0091】
例3−γ134.5遺伝子をCNSに送達するための多能神経細胞系統の使用
CNS及び脳組織へのウイルス性ベクター送達システムに加えて、最近生体外通過させた細胞系統を使用しかつこれらの細胞を動物に戻して植えつける別のベクターシステムが開発された。これらの手順は、胎児或は生後のCNSオリジンの細胞を採取し、それらを生体外で不滅にしかつ変換しそして細胞をマウス脳の中に戻して移植することを伴う。これらの細胞は、植えつけた後に、通常の脳細胞発達の移動パターン及び環境キューに従い、非腫瘍形成性の、細胞構造的に適した方法で分化する。この研究は、顕著にはSnyder等、Cell、68:33〜51,1992及びRanfranz等、Cell、66:713〜729,1991のいくつかの論文において例証された。適当に改正した技術を利用して、γ134.5遺伝子を単独で或は関心のあるその他の遺伝子と組み合わせて細胞の中に導入して植えつけることが可能である。このような手順は遺伝子をその天然の部位に送達するのを可能にする。これらのニューロンにおけるγ134.5遺伝子の適した発現は、神経退化における細胞死を防ぎかつ遺伝子治療に適した外来遺伝子を運ぶ細胞を保存することになる。
【0092】
物質及び方法
小脳細胞系統の増殖 小脳細胞系統は、Ryder等(J.Neurobiol.21:356〜375、1990)により記載される通りにして産生する。系統を、ポリ−L−リシン(PLL)(Sigma)(10μgml)被覆された組織培養皿(Corning)上の牛胎児血清(Gibco)10%、馬血清(Gib−co)5%及びグルタミン2mMを補ったダルベッコの改変イーグル培地で増殖させる。系統を標準の調湿した37℃のCO25%−空気インキュベーター内に保ち、これらに集約的培養からの状態調節した培地半分及びフレッシュ培地半分を週1回供給するかもしくは週1回或は週2回分けて(1:10〜1:20)フレッシュ培地にするかのいずれかにする。
【0093】
γ134.5遺伝子による小脳始原系統の形質導入 関心のある細胞系統の現世の1:10スプリットを60mm組織培養プレートにプレートする。プレートして24〜48時間した後に、細胞を、γ134.5遺伝子を単独で或は遺伝子治療に適したその他の遺伝子と組み合わせて導入するために、−myc遺伝子(106〜107コロニー形成性ユニット[cfu]/ml)+8μg/mlポリブレン(polybrene)を含有する複製−機能不全(incompetent)レトロウイルス性BAG、並びにネオマイシンG418マーカーと共に1〜4時間インキュベートする。次いで、細胞をフレッシュ供給培地において、細胞が少なくとも2つの倍加を受けたように見えるまで、およそ3日間培養する。次いで、培養をトリプシン化し(trypsi−nized)、低い密度(100mm組織培養皿上の細胞50〜5000)で播種する。およそ2週間した後に、プラスチッククローニングシリンダー内のトリプシンに短時間暴露することによって、良く分離されたコロニーが単離される。コロニーを24−ウエルPLL被覆したCoStarプレートにおいて平板培養する。これらの培養を、集密において、60mm組織培養皿に通過させ、消費させる。各々のサブクローンからの代表的な皿を、X−gel組織化学を用いて組織培養皿において直接染色する(Price等、1967;Cepko、1989a、1989b参照)。青色細胞のパーセンテージを顕微鏡下で求める。青色細胞を最も高いパーセンテージ(理想的には>90%;少なくとも>50%)で有するサブクローンを保ち、特性表示し、移植するために使用する。
【0094】
ウイルス感染についてのテスト ヘルパーウイルスの存在を、Goff等(1981)によって記載される通りにして細胞系統の上澄み中の逆転写酵素活性を測定することによりかつNIH 3T3細胞を感染させてX−gal+コロニーのG418耐性コロニーを産生する能力をテストする(Cepko、1989a、1989bに詳述されている)ことによって、アッセイする。移植用に用いる小脳細胞系統はすべて、これらの方法によって判断される通りに、ヘルパーウイルスが存在しない。
【0095】
神経細胞系統の一次小脳組織との共培養(cocu−lture) 新生マウス小脳の一次の解離された培養をRyder等(1990)の通りにして調製し、PLL被覆した8チャンバーLab Tekガラス或はプラスチックスライド(Miles)当り細胞2×106〜4×106の密度で播種する。細胞が沈降した後(通常24時間)、関心のある神経細胞系統のほぼ融合性の10cm皿10%を、トリプシン化した後に、スライドに播種する。共培養を、8或は14日の共培養まで、CO250%−空気の調湿したインキュベーターにおいて、隔日に再供給して増殖させる。
【0096】
移植用細胞系統の調製 ドナー細胞のほぼ融合性であるが、依然活性に増殖する皿からの細胞をホスフェート緩衝塩水(PBS)で2回洗浄し、トリプシン化し、血清含有培地において広い孔径のピペットで穏やかに研和し(トリプシンを不活性にするため)、穏やかにペレット化し(円筒形遠心機において1時間1100rp)、かつPBS5ml中に再懸濁させる。フレッシュPBSをペレット化しかつ再懸濁させることによる洗浄を2回反復し、細胞を最終的に容積の減少したPBS中に再懸濁させて高い細胞濃度(細胞少なくとも1×106/1μl)を生じる。トリパンブルー(0.05% w/v)を加えて接種材料を局限する。懸濁体を、穏やかではあるが、良く研和させ続け、氷上に保った後に移植して凝集を最少にする。
【0097】
生後の小脳への注入 新生児のCD−1或はCF−1マウスを冷凍麻酔し、頭を徹照することによって局限する。細胞を、斜角を付けた33ゲージ針を有するHamilton社製10μl注射器か或はFla−ming Brown Micropipette Puller(商標)によりボロシリレート毛管チュービング(メイン、ブランズウイック在FHC)から下記のパラメータ:熱750、引張力0、速度60、時間0を用いて生成された内直径0.75mm及び外直径1.0mmを有する引板ガラスマイクロピペット(Model p−87、Sutter Instruments社製)のいずれかによって投与する。最良の結果はガラスマイクロピペットにより達成される。チップを皮膚及び頭蓋骨を通して小脳の各々の半球及び虫部の中に装入し、そこで細胞懸濁液を注入した(通常1〜2μl/注入)。典型的には、下記の状態が存在すべきである:細胞1×107/懸濁液1ml;細胞×106〜2×106/注入;各々の小脳半球において及び虫部において1注入。重要なことに、凝集を少なくしかつ細胞を懸濁させ続けるために、細胞懸濁液を氷上にずっと保ち、各々の注入の前に穏やかに研和する。
【0098】
BAGウイルスの注入を細胞懸濁液について記載した通りにして行なった。BAGウイルス株(8×107G418耐性cfu/ml)は、トリパンブルーに加えて、ポリブレンを8μg/ml含有していた。
【0099】
例4−プログラムされた細胞死(アポトーシス)のICP34.5による処置
例2及び3において例示するために記載した遺伝子治療法の代替として、プログラムされた細胞死を受ける或は受けようとするニューロナル細胞を、また、γ134.5遺伝子、すなわちICP34.5によって発現した蛋白質を用いて治療することもできる。別法として、生物学的機能的等価蛋白質をかかる治療において使用することができる。
【0100】
例えば、ICP34.5を蛋白質を発現する細胞から単離し、Ackerman等(J.Virol.,58:843〜850、1986、本明細書中に援用する)によって記載される慣用のクロマトグラフィー精製及びイムノアフィニティー精製法を用いて精製する。次に、精製した蛋白質を、緩衝生理食塩水或は精製蒸留水のような製薬上適したキャリヤーと組み合わせる。製薬組成物は、投与するために、適する通りに下記のいくつかの方法の内の一つで注入することができる:(i)髄腔内注入;(ii)心室内注入;(iii)プログラムされた細胞死を受ける或は受けようとするニューロンを含有する領域への直接注入或は当業者により理解されるその他の任意の適した投与方法。そのような治療は切断された抹消神経を外科修復する際に特に適しており、蛋白質を治療剤として使用することは、本明細書に鑑みて、医学分野における現行の技術レベルの十分範囲内である。
【0101】
例5−プログラムされた細胞死(アポトーシス)を防ぐための候補物質のアッセイ
単純疱疹ウイルスのγ134.5遺伝子はウイルスを中枢神経システム及び脳において複製し、繁殖し及び広がるのを可能にし、それでウイルスは宿主に対してニューロ毒性になる。その遺伝子を欠いた組み換えウイルスは、宿主のCNSを浸透させるこの能力を失って、完全に無毒性になる。培養においてこの無毒性表現型の性質を調べる際に、その遺伝子を欠いた突然変異ウイルスはプログラムされた細胞死を特性表示する全トランスレーション停止表現型を示した。宿主細胞によって与えられるプログラムされた細胞死のこの機構は、ウイルスが繁殖しかつ広がる能力を大きく低減させた。従って、ウイルスにおけるγ134.5の機能は、細胞のプログラムされた死を不活性化し(抗アポトーシス)、従ってトランスレーションを回復しかつウイルスを宿主において完全なポテンシャルに複製させるのを可能にすることである。
【0102】
γ134.5のこの抗アポトーシス作用を更に調べ、神経細胞をアポトーシスに至る他の環境ストレスから保護するそれの能力を見出した。これらの環境ストレスはUV、神経成長因子奪取及びニューロナル細胞分化を含む。本例は、γ134.5遺伝子及びγ134.5の生体内機能に良く似た製薬剤及び薬剤についてスクリーンするそれの保護機能を用いてニューロ退化を予防することを記載する。このようなスクリーニング手順 は、γ134.5を発現する細胞系統及び遺伝子を持たないヌル細胞系統の構築並びにリポーター遺伝子を誘発することによりストレス処理した後の細胞の生存度の測定を構成する。これは蛍光インジケーターを付けた宿主遺伝子プロモーター或は生存度を信号で知らせるその他の任意の容易にアッセイし得るマーカーにすることができる。
【0103】
物質及び方法
γ134.5を構成発現しかつ蛍光を付けた(例えば、lacZに融合されたa配列プロモーター)細胞性遺伝子、或は生存度を信号で知らせる容易にアッセイし得るマーカーになる任意の標識を含有するテスト神経芽細胞腫細胞系統を樹立する。また、a−lacZインジケーター遺伝子及び同じ宿主インジケーター遺伝子からなる神経芽細胞腫ヌル細胞系統を、a−lacZインジケーター遺伝子及び同じ宿主インジケーター遺伝子からなるVero細胞系統と共に樹立する。次いで、通常、(1)a配列プロモーター活性化を誘発し;(2)ストレス処理した後に生存度が信号で知らされる通りにγ134.5によって与えられる保護を誘発し;及び (3)γ134.5の不存在において細胞プログラムされた死を誘発することになる環境ストレスをかける。ポジティブ候補を評価するためのアッセイの提案スキームを表2に概略形態で示す。
【0104】
【表2】
【0105】
例6−癌或は腫瘍形成性疾患を治療する及びHSV感染をおさえるためにプログラムされた細胞死(アポトーシス)を活性化するの候補物質のアッセイ
腫瘍細胞において細胞死を誘発させるために、抗アポトーシス遺伝子の発現或は遺伝子によって発現された蛋白質の活性をブロックするのが望ましい。それ故に、腫瘍細胞において細胞死を誘発させる候補物質についてスクリーニングを可能にすることになる手順を開発するのが望ましい。加えて、HSV−1のγ134.5遺伝子の発現はニューロナル細胞においてアポトーシスを防ぐのが示され、それでウイルスはCNSにおいて複製、繁殖し及び広がることができる(すなわち、それでウイルスはニューロ毒性になることができる)ので、γ134.5発現をブロックする或はICP34.5の作用を抑制することができる物質は、アポトーシスを感染されたニューロンにおいて生じさせることによって、HSVニューロ毒性(或は同様の機構によるその他のウイルスの毒性)を抑制するものと予期することができる。
【0106】
γ134.5によって与えられる保護はその他の細胞を環境ストレスから保護するのに拡張することができることが見出され、実際、遺伝子は一般化された抗アポトーシス作用を有する。遺伝子γ134.5についてのプロモーターはHSVのa配列中にあり、ストレスの時に、プロモーターは活性化される。a配列プロモーターはアポトーシスリスポンシブエレメントを含有し、抗アポトーシス遺伝子の発現を伝達する細胞性因子(特に、転写因子)は性質がアポプトチックであると仮定することができる。従って、これらの細胞性因子は、抗アポトーシス遺伝子を誘発するそれらの能力を不活性にする薬剤或は剤についてスクリーンするための本アッセイの目標物になる。アッセイはa配列プロモーター並びにアポトーシスを、抗アポトーシス遺伝子の発現をブロックすることができ、従って細胞をプログラムされた細胞死で死なせることができる治療剤及び薬剤についてスクリーンするインジケーターアッセイとして誘発させる条件によるその誘発性を使用することを伴う。
【0107】
a配列及びγ134.5の28番目のアミノ酸までのコード化配列を持つテストプラスミド構造をlacZリポーター遺伝子或はその他の任意の容易にアッセイし得るリポーター遺伝子に融合させる。その構造をG418選択により神経芽細胞腫或はPC12細胞系統の中に導入し、スクリーンするためのクローンかつ連続した細胞系統を樹立する。通常細胞系統において発現されず、更にアポトーシス誘発性ストレスによって発現するように誘発されないプロモーターであるHSV後期プロモーターを持つ対照プラスミド構造を同じインジケーター遺伝子に融合させる。この構造をまた連続したクローン細胞系統の中にも導入してテスト細胞系統についての対照として働らかせる。次いで、a配列プロモーター活性化を誘発しかつプログラムされた細胞死を引き起こす環境ストレスを規定する。これらの状態は、取り分け、UV障害、ウイルス感染、神経成長因子奪取及び抗体の細胞表面レセプターに与える影響を含む。次いで、候補物質或は製薬上適した薬剤及び剤を、ストレスの時にa配列プロモーター活性化をブロックするそれらの能力についてアッセイでテストする。
【0108】
本発明のアッセイは、抗アポトーシス遺伝子の発現を誘発する種々の細胞性因子に目標を定めた製薬上適した薬剤及び剤をスクリーンしかつ同定するのを可能にする。これらの剤は、本質的な細胞性因子を不活性にすることにより、細胞プログラムされた死を起きさせることができるべきである。このようなポジティブ候補を、次いで、腫瘍細胞において、ヘルペスウイルスで感染されたニューロンにおいて、或はウイルスであって、それの毒性が抗アポトーシス作用に依存するもので感染された細胞においてプログラムされた細胞死を誘発するために、適当に投与する(静脈内、くも膜下、或は直接注入により、もしくは経口投与により)。蛋白質及びその他の化学療法物質を抗腫瘍治療において用いることは当分野において良く知られており、従って、腫瘍形成性疾患(例えば、癌)或はヘルペス感染を治療するための候補物質の使用及び投与量は、本明細書に鑑みて、医学分野の現在の状態の技術の十分範囲内である。米国特許第4,457,916号;同第4,529,594号;同第4,447,355号;及び同第4,477,245号(これらはすべて本明細書中に援用する)参照。これらのポジティブ候補は、また、細胞プログラムされた死に至る経路において中間体の身元を確認するのにも用いることができる。
【0109】
物質及び方法
コラーゲンを被覆した96ウエル培養皿においてW5細胞系統を樹立する。プロモーター融合エレメントを含有する対照細胞系統もまたかかる96ウエル皿において樹立する。テスト候補物質を、96ウエル皿において生じさせたテスト及び対照の両方の細胞系統を収容する個々のウエルにおける媒体に加える。次いで、細胞をUV或はその他のストレスに短時間曝す。ストレス誘発して8時間した後に、細胞をPBS−Aで2回洗浄し、PBS中にホルムアルデヒド2%(v/v)及びグルタルアルデヒド0.2%を含有する0.5mlを用いて室温で5分間固定させる。細胞を再びPBSですすぎ、次いでPBS中2mlの5mMフェロシアン化カリウム、5mMフェロシアン化カリウム、2mM MgCl2及び1mg/mlのX−gal(ジメチルスルホキシド中の40mg/ml株溶液から希釈した)で染色する。37℃で2〜3日間インキュベートした後に、β−ガラクトシダーゼを発現する細胞が青色に染色された。
【0110】
結果
lacZリポーター遺伝子に関して上記した構造をPC12細胞系統に導入した。新しい細胞系統W5をG418選択によってクローン樹立した。次いで、W5細胞系統を上記3に挙げた最適以下の(sub−optimal)条件下でa配列プロモーターの活性化についてテストした。結果は下記の通りである:(a)上記の細胞は、UVに2分間簡潔に暴露した場合、UV暴露して6〜10時間後に固定された細胞をX−galで染色する際に、青色に変わる。(b)上記の細胞は、HSV−1(F)ウイルスに感染の多重度5で暴露した場合、感染して8時間後に染色する際に、また青色に変わる。(c)上記の細胞は、神経成長因子(ラット、7s)を媒体に導入して分化プロセスを可能にする場合に、明るい青色に変わる。(d)分化が完了した後に、神経成長因子を媒体から取り出すと、細胞は一層暗い青色に変わり、細胞は生存について神経成長因子に依存するようになった。(e)血清(牛胎児血清0%)が不足した細胞及び牛胎児血清10%において充分に供給したものでは、発色の差はほとんど或は全く見られない。(f)上記の実験を、毒性誘発される細胞死よりもむしろ抗アポトーシス遺伝子発現を真に抑制するために調節する対照プロモーター融合エレメントに関して、反復する。従って、この手順により、細胞において細胞死を誘発することができるポジティブ候補は下記の表現型を与えることになる:(i)この物質の不存在においてストレスをテスト細胞系統に導入すると青色の細胞を生じることになる。(ii)同じ物質の存在においてストレスをテスト細胞系統に導入すると白色細胞を生じることになる。(iii)ストレスをこの推定物質を有する或は有しない対照細胞系統に導入しても細胞の色に影響を及ぼさない。
【0111】
本発明を、発明者等が発明を実施するための最良モードと考える特定の実施態様に関して開示した。しかし、種々の分野の当業者は、本明細書中に挙げる開示に鑑みて、発明の意図する範囲から逸脱しないで変更をなすことができることを認めるものと思う。本明細書中に記載する例示の実施態様並びにその他の変更及び実施態様は、本発明及び添付の請求の範囲の範囲及び精神の内に入ることを意図する。
【0112】
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1A】HSV−1F株(配列番号1〜5)、17syn+株(配列番号:6〜9)、MGH−10株(配列番号10〜15)、及びCVG−2株(配列番号16〜20)のICP34.5の遺伝子領域(左パネル)及びこれらの株におけるICP34.5(配列番号25〜34)の予測されるオープンフレーム(右パネル)のDNA配列であり、番号665までの塩基配列を示す。
【図1B】図1AのDNA配列の、番号666〜1335までの塩基配列を示す。図1Cは、対応するアミノ酸199までの配列であり、図1Dは、対応するアミノ酸200以降の配列である。
【図1C】図1AのDNA配列の、対応するアミノ酸199までの配列を示す。
【図1D】図1AのDNA配列の、対応するアミノ酸200以降の配列を示す。
【図2】野生型株であるHSV−1F株[HSV−1(F)]及びそれに由来する組換えウイルスのゲノムの配列配置を示す。
【図3】電気泳動で分離したプラスミッド(野生型及び突然変異ウイルスDNA)の消化物(固体支持体にトランスファーしてγ134.5及びtk遺伝子の存在に対する標識プローブとハイブリダイズさせたもの)のオートラジオグラフィー像を示す。
【図4】オートラジオグラフィー像(左パネル)及びHSV−1(F)及び組換えウイルスに疑似感染(M)又は感染した細胞の溶解物の写真(右パネル)を示す。
【図5】HSV−1F株[HSV01(F)]及び関連変異体のゲノム構造及び配列配置を図示する。
【図6A】規定の35S−メチオニンで90分間標識した、7時間感染の感染細胞の電気泳動で分離した溶解物のオートラジオグラフィー像を示す。
【図6B】規定の35S−メチオニンで90分間標識した、13時間感染の感染細胞の電気泳動で分離した溶解物のオートラジオグラフィー像を示す。
【図7】変性ゲル中にて電気泳動で分離した標識したポリペプチドのオートラジオグラフィー像及び抗体との反応性により可視化された蛋白質のバンドの写真を示す。
【図8】ホスホノアセテート(PAA)の存在又は不在下での、SK−N−SH神経芽細胞種細胞系統への感染の間に発現されたウイルス蛋白質のオートラジオグラフィー像を示す。
【図9】ウイルス性DNA及びRNAの感染SK−N−SH神経芽細胞腫及びVero細胞培養内の蓄積を示す。
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、プログラムされた細胞死をブロックし又は遅延させる方法、特定の細胞への遺伝子治療の送達の方法、並びに癌及び他の腫瘍形成性疾患の治療の方法、並びに腫瘍又はウイルス宿主細胞のプログラムされた細胞死を強化することによるウイルス感染の治療に向けられている。本発明は又、プログラムされた細胞死を阻止し又は増加させる候補物質についてのアッセイにも向けられている。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
a.プログラムされた細胞死(アポトーシス)
最近10年間に、細胞が実際に内部でプログラムされてそれらのライフサイクルのある時点において死ぬという考えが科学界においてますます受け入れられるようになってきた。能動的細胞機構であるプログラムされた細胞死(又はアポトーシス)は、幾つかの重要な密接な関係を有する。第1に、かかる能動的プロセスは、細胞数並びに細胞の生物学的活性を制御する更なる手段を提供することが出来る。第2に、突然変異又はアポトーシスを強化する細胞事象は、未熟細胞死を生じ得る。第3に、特定の能動的細胞機構に依存するある型の細胞死は、少なくとも潜在的に、抑制することが出来る。最後に、予めプログラムされた細胞死の阻止は、異常型細胞の生存へと導くことが予想され、発癌に寄与することが予想され得る。
【0003】
一般に、アポトーシスは、核濃縮及びDNAのオリゴヌクレオソーム断片への分解を含む明確な形態学的変化を含む。ある種の環境において、アポトーシスが蛋白質合成の変化によって誘発され又は先行されることは明らかである。アポトーシスは、細胞破壊のための非常に巧みなプロセスを提供するように見えるが、そこでは、細胞は特異的認識及び食作用及びその後のバースティングによって処分される。この方法で、細胞は、周囲の細胞にダメージを与えることなく組織から除去され得る。こうして、プログラムされた細胞死は、形態発生、免疫系におけるクローン選択、他の組織及び器官系における正常細胞の成熟及び死を含む多くの生理学的プロセスにおいて重要であることを理解することが出来る。
【0004】
細胞が環境の情報に応答してアポトーシスを受け得ることも示された。例としては、未成熟胸腺細胞に対する糖質コルチコイドホルモン等の刺激の出現、或は成熟リンパ球からのインターロイキン2の撤去又は造血前駆細胞からのコロニー刺激因子の除去等の刺激の消失がある(総説としては、Williams,Cell,85;1097-1098,June28,1991を参照されたい)。更に、神経成長因子の確立された神経細胞培養物からの除去の応答は標的除去に似ていることが最近示され且つこの応答に含まれる細胞機構が神経成長因子除去に続く自殺プログラム又はプログラムされた細胞死の引き金であることが仮定された(Johnson等、Neurobiol.of Aging,10:549-552,1989)。これらの著者は、「死カスケード」又は「死プログラム」を提案しており、栄養因子奪取が新規なmRNAの転写及びそれに続くmRNAの、最終的に「キラー蛋白質」を生成するシーケンスにおいて作用する死関連蛋白質への翻訳を開始させることを想像している。かかる細胞内機構は、上述のアポトーシスの特徴とよく適合するように見える(例えば、有害物質の放出及び組織の完全性の崩壊を伴わない特定の細胞の死)。更に、著者等は、巨大分子合成のインヒビターが神経成長因子の不在下でニューロンの死を阻止したことを示している。
【0005】
研究は、腫瘍細胞が人為的に誘発したアポトーシスによって除去され得ることの可能性を探究することへと導かれた。APO−1モノクローナル抗体は、幾つかのトランスフォームしたヒトB及びT細胞系統においてアポトーシスを誘導することが出来る。この抗体は、表面蛋白質に結合して正の死誘導信号を真似るか又は生存に必要な因子の活性をブロックすることによるかの何れかによって作用することが出来よう。抗FAS抗体も又同様の効果を有し、FAS抗原の遺伝子の最近のクローニング及び配列決定は、それが63キロダルトンの膜貫通レセプターであることを示した(Itoh等、Cell 66:233-243(1991))。
【0006】
しかしながら、APO−1もFASも、排他的に細胞死の引き金として機能することは出来ないということに注意することは重要である。両者は、別の環境下では全く異なる応答を活性化し得る細胞表面レセプターである。更に、これらの抗原は、腫瘍細胞に限られず、それらの正常細胞における効果は確かに重要な問題である(もはやこれらの抗原を示さない変異体の出現があり得る)。
【0007】
ある範囲の細胞毒性剤(癌治療において用いられる幾つかを含む)により誘導された細胞死も又、アポトーシスの形成が見出された。事実、腫瘍細胞におけるアポトーシスの不足は、細胞数の生理学的制御の回避のみならず、自然防御及び臨床的治療の両者に対する抵抗への寄与において基本的に重要であり得よう。
【0008】
bcl−2遺伝子の発現はアポトーシスによる死を阻止することが出来ることも示された。bcl−2遺伝子は、濾胞性B細胞リンパ腫である最も普通のヒトリンパ腫の高い割合において染色体14と18との間の転座のブレークポイントから単離された。転座は、bcl−2遺伝子と免疫グロブリン重鎖遺伝子座を一緒に運び、B細胞において、異常に増加したbcl−2発現を生じる。続いて、Henderson等(Cell,65:1107-1115,1991)は、エプスタイン−バールウイルスに感染した細胞における潜在的膜蛋白質1の発現は、感染B細胞を、bcl−2遺伝子の発現を誘導することによりプログラムされた細胞死から保護することを示した。Sentman等(Cell,67:879-88,1991年11月29日)は、bcl−2遺伝子の発現が、多発型のアポトーシスを阻止し得るが胸腺細胞におけるネガティブ選択を阻止し得ないことを示し、Strasser等(Cell,67:889-899,1991年11月29日)は、bcl−2トランス遺伝子の発現は、T細胞死を阻止し且つ胸腺の自己検閲を混乱させ得るということを示した。Clem等(Science,245:1388-1390,1991年11月29日)は、バクロウイルス遺伝子産物を昆虫細胞におけるアポトーシスをブロックする原因として同定した。
【0009】
b.ヘルペスウイルス感染及びニューロビルレンス
ヘルペスウイルスのファミリーは、多くの病気の原因因子であるので臨床的に大いに興味のある動物ウイルスを含んでいる。エプスタイン−バールウイルスは、B細胞リンパ腫に関係し;サイトメガロウイルスは、AIDS患者に対して最大の感染脅威を与え;そして水痘−帯状疱疹ウイルスは、水痘及び帯状疱疹が深刻な健康上の問題である世界のある部分に大いに関係している。性的に伝染する単純ヘルペスウイルス(HSV)感染の発病率の世界的な増加が、新生児ヘルペスの増加を伴って、過去10年間に起きた。活性な潰瘍性病変又は無症候性排泄患者に触れることは、感染因子の伝染を生じ得る。伝染は、粘膜表面及びすりむいた皮膚におけるウイルスへの露出により、ウイルスの浸入及び上皮及び真皮の細胞内でのウイルス複製の開始を与える。臨床的に明らかな病変に加えて、特に知覚神経細胞内の潜在的感染が持続し得る。種々の刺激がHSV感染の再活性化を引き起こし得る。従って、これは撲滅するのが困難な感染である。この災いは、治療様式の不足の故に、抑制されずに大いに広がった。
【0010】
公知のヘルペスウイルスは、4つの重要な生物学的特性を共有しているらしい:
1.すべてのヘルペスウイルスは、核酸代謝に関与する酵素(例えば、チミジンキナーゼ、チミジレートシンテターゼ、dUTPアーゼ、リボヌクレオチドレダクターゼ等)、DNA合成に関与する酵素(例えば、DNAポリメラーゼ、ヘリカーゼ、プライマーゼ)、及び、可能であれば、蛋白質のプロセッシングに関与する酵素(例えば、プロテインキナーゼ)の大きい配列を、酵素の正確な配列があるヘルペスウイルスと他のものとで幾分か変化し得るにもかかわらず、規定する。
2.ウイルスDNAの合成とキャプシドのアセンブリーの両者が核内で起きる。ある種のヘルペスウイルスの場合には、ウイルスが細胞質を通過する際に脱エンベロープされ及び再エンベロープ形成し得ることが要求された。これらの結論の長所に関係なく、キャプシドのエンベロープ形成は、核膜を通過する際に必須である。
3.感染性の子孫ウイルスの生成は、常に、感染細胞の不可逆的破壊を伴っている。
4.現在まで調べられたすべてのヘルペスウイルスは、それらの天然の宿主内に潜在し続けることが出来る。潜在性ウイルスを有する細胞において、ウイルスゲノムは、閉環状分子の形態を取り、ウイルス遺伝子の少数のサブセットのみが発現している。
【0011】
ヘルペスウイルスは又、それらの生物学的特性を大いに変化させる。幾つかは、広い宿主細胞範囲を有して多くの結果を引き起こし、感染したそれらの細胞を急速に破壊する(例えば、HSV−1、HSV−2等)。他(例えば、EBV、HHV6)は、狭い宿主細胞範囲を有する。幾つかのヘルペスウイルス(例えば、HCMV)の増殖は、ゆっくりしているようである。すべてのヘルペスウイルスは特定の細胞セットにおいて潜在し続けるが、それらが潜在し続ける正確な細胞はウイルスごとに異なる。例えば、潜在性HSVは、知覚神経から回収されるが、潜在性EBVは、Bリンパ球から回収される。ヘルペスウイルスは、それらが引き起こす病気の臨床的現れに関して異なっている。
【0012】
単純ヘルペスウイルス1及び2(HSV−1、HSV−2)は、ヒトが出会う最も一般的な感染性因子のうちにある(Corey及びSpear,N.Eng.J.Med.,314:686-691,1986)。これらのウイルスは、穏やかで有害な感染(再発性単純ヘルペスラビアリス等)から重い生命を脅かす病気(年長の子供及び成人の単純ヘルペス脳炎(HSE)又は新生児の播種性感染等)に及ぶ広いスペクトルの病気を引き起こす。ヘルペス感染の臨床的結果は、初期の診断及び迅速な抗ウイルス治療の開始に依存している。しかしながら、幾つかの成功した治療にもかかわらず、真皮及び表皮の病変は再発し、新生児のHSV感染及び脳の感染は高い罹患率及び死亡率と結び付いている。現在可能なよりも一層早い診断は、治療の成功を改善するであろう。更に、改善された治療が、非常に必要とされている。
【0013】
外来の援助が、特に化学薬品の形態で、感染した個人に与えられてきた。例えば、ヘルペスウイルス複製の化学的インヒビターは、種々のヌクレオシドアナログ例えばアシクロバー(acyclovir)、5−フルロデオキシウリジン(FUDR)、5−ヨードデオキシウリジン、チミンアラビノシド等によって達成された。
【0014】
幾つかの保護が実験動物モデルにおいて、多特異的又は単一特異的抗HSV抗体、HSVプライムドリンパ球及び特定のウイルス抗原に対するクローン化T細胞により提供された(Corey及びSpear,N.Eng.J.Med.,314:686-691,1986)。しかしながら、満足出来る治療は見出されていない。
【0015】
単純ヘルペスウイルスのγ134.5遺伝子は、このウイルスのLコンポーネントに隣接するゲノムの逆方向反復領域内にマップされる。この遺伝子の発見及び特性決定は、幾つかの論文に報告された(Chou及びRoizman,J.Virol.,57:629-635,1986,及びJ.Virol.,64:1014-1020,1990;Ackermann等、J.Virol.,58:843-850,1986)。鍵となる特徴は、(i)この遺伝子が、263アミノ酸の長さの蛋白質をコードしていること;(ii)その蛋白質が、コード配列の中央に10回反復するAla−Thr−Pro3量体を含んでいること;(iii)この蛋白質が、天然で塩基性であり、多数のArg及びProアミノ酸からなること;(iv)この遺伝子のプロモーターが、ウイルスの幾つかの必須のウイルス機能の働きもするゲノムのa配列中にマップされること;(v)γ134.5遺伝子の発現に必須のシス作用性要素が、a配列特にDR2(22回反復する12塩基対配列)及びUb要素内に含まれることである。この型のプロモーター構造は、この遺伝子にユニークであり、他のウイルス遺伝子プロモーターと共通でない。
【0016】
中枢神経系(CNS)において、ウイルスを複製させ、増殖させ及び広げる能力におけるγ134.5遺伝子の機能は、組換えウイルスのセットにより及びマウスの脳における致命的脳炎を引き起こすそれらの能力を試験することにより示された。この遺伝子を欠く突然変異ウイルスは、それ故、CNS及び眼の中で増殖し広がる能力を喪失し、それ故、非病原性である(Chou等、Science,250:1212-1266,1990を参照されたい)。
【0017】
【非特許文献1】Williams,Cell,85;1097-1098,June28,1991
【非特許文献2】Johnson等、Neurobiol.ofAging,10:549-552,1989
【非特許文献3】Itoh等、Cell 66:233-243,1991
【非特許文献4】Henderson等、Cell,65:1107-1115,1991
【非特許文献5】Sentman等、Cell,67:879-88,1991年11月29日
【非特許文献6】Strasser等、Cell,67:889-899,1991年11月29日
【非特許文献7】Clem等、Science,245:1388-1390,1991年11月29日
【非特許文献8】Corey及びSpear,N.Eng.J.Med.,314:686-691,1986
【非特許文献9】Chou及びRoizman,J.Virol.,57:629-635,1986
【非特許文献10】Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014-1020,1990
【非特許文献11】Ackermann等、J.Virol.,58:843-850,1986
【非特許文献12】Chou等、Science,250:1212-1266,1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
γ134.5遺伝子は、神経細胞を、ニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死(アポトーシス)の特徴的な方法における全蛋白質合成の停止から保護することによって機能する。このプロモーターは、ストレス応答要素を含むようであり、UV照射にさらされること及び成長因子奪取によりトランス活性化される。これらのデータは、γ134.5遺伝子が神経細胞中でストレス時にトランス活性化されてアポトーシスを予防することを示唆している。
【0019】
それ故、これらの発見の重要性は、γ134.5が生存能力を拡大し又は神経細胞に保護を与え、その結果、この例では、ウイルスが複製して細胞から細胞へと広がること(ニューロビルレンスと定義する)が出来るという事実にある。この保護は、細胞が受ける他の毒性因子又は環境ストレスに対しても拡大し得るらしい。このニューロンの性質に関する重要な面は、ヒトの他の如何なる細胞とも違って、脳、眼又はCNSにおけるニューロンは再生せず、そのことが多くの神経障害疾患の基礎を形成しているという事実である。細胞の生命を死又は退行から延命させる如何なる遺伝子又は薬剤も、神経退行の領域に重大な影響を有することが予想され得る。
【0020】
γ134.5及び抗アポトーシス因子の感染細胞における役割は、解明の初期段階にある。最近の研究は、エプスタイン−バールウイルスが感染細胞の生存能力を、潜在的膜蛋白質1(LMP1)誘導されたbcl−2の上方制御を通して増大させることを示唆した。その系においては、LMP1誘導されたbcl−2上方制御がウイルス感染したB細胞に生理学的選択を回避して長生きの記憶B細胞プールへの直接的アクセスを獲得する潜在能力を与えるということが仮定される。しかしながら、bcl−2発現は、ある種の状況例えばインターロイキン2又はインターロイキン6の撤去においてアポトーシスを抑制することが出来ない。更に、bcl−2発現の作用の細胞内機構は未知のままである。
【0021】
c.プログラムされた細胞死及び病気治療
上述のことに照らして、CNS細胞におけるγ134.5の発現が保護の格別な特質をウイルス感染並びに天然の及びストレスで誘導されたアポトーシスに対してニューロンに加えたことは明らかである。この保護の格別の特質の評価は、中枢神経系(CNS)異常の制御及び治療のための新規且つ革新的な手段に利用することが出来る。特に、アルツハイマー病、パーキンソン病、ルーゲーリッグ病等(これらの病因はアポトーシスの型に帰することが出来、これらの治療は現在非常に貧弱である)を含むCNS退行性疾患の治療は、γ134.5遺伝子を遺伝子治療で用いるか又はγ134.5によって発現された蛋白質を治療剤として用いることによって有意に改善され得るであろう。これは、記載したようにニューロン細胞は有糸分裂後に再生しないという事実のためにかかる細胞の死が関係している場合に特に重要である。限られたニューロン数しかないので、それらの保護及び維持のための利用し得る方法及び薬剤を有することは重要である。γ134.5は又、γ134.5の効果を真似し及び生物学的に誘導されたプログラムされた細胞死のストレスをブロックする物質のアッセイのために非常に有用な遺伝子である。
【0022】
更に、HSV−1ウイルス(適当に修飾して非病原性にしたもの)は、ニューロンへの遺伝子治療の送達のためのビヒクルとして働くことが出来る。HSV−1ウイルスは、世界のヒト集団の90%の知覚神経節のニューロン内に存在する。このウイルスは、逆向性軸索輸送を介してニューロン細胞体中にのぼる(感染部位から神経向性プロセスによって軸索に到達する)。一度ニューロン細胞体内に入れば、このウイルスは、何らかの形態のストレス(例えば、UV露出、第2のウイルスの感染、外科手術又は軸索切断)がウイルス複製を誘導するまで休止し続ける。記載したように、HSV−1のベクターとしての利用は、安全な非病原性のベクターとして働くための欠失変異体の構築を必要とする。かかるウイルスは、ニューロンの遺伝子治療のための優れたベクターとして作用するであろうし又、その利用は、少数の遺伝子治療しか中枢神経系の血液脳関門を通過して遺伝子を送達する手段を提供しないので、特に重要な開発となろう。
【0023】
更に、他のウイルス例えばHSV−2、ピコルナウイルス、コロナウイルス、エウニアウイルス、トガウイルス、ラブドウイルス、レトロウイルス又はワクシニアウイルスは、γ134.5遺伝子治療のためのベクターとして利用することが出来る。HSV−1ウイルスの利用に関して論じたように、これらのベクターもそのような方法で変化させて非病原性にすることが出来よう。適当に変異させたウイルスの利用に加えて、トランスフェクトした多能性神経細胞系統の移植も、血液脳関門を回避するγ134.5遺伝子のCNSへの送達のための手段を提供する。
【0024】
更に、γ134.5遺伝子に特定の突然変異を有するHSV−1ウイルスの利用は、CNS及び身体の他のすべての部分における腫瘍形成性疾患の治療方法を提供する。「γ134.5マイナス」ウイルスは、アポトーシスを誘導することが出来、それ故、宿主細胞死を引き起こすが、このウイルスは複製して広がることは出来ない。それ故、CNS内の腫瘍を標的とする能力を与えたならば、γ134.5マイナスウイルスは、今まで治療不可能であった型のCNS癌に対する強力な治療剤であることが証明された。更に、標的腫瘍細胞内で抗アポトーシス効果を有する遺伝子の発現を阻止し又はブロックするウイルス以外の物質も又、腫瘍治療及びヘルペスウイルス感染の治療並びにニューロビルレンスが宿主細胞のプログラムされた細胞死機構との干渉に依存する他のウイルスの感染の治療における重要な開発として働き得る。
【課題を解決するための手段】
【0025】
発明の要約
この発明は、神経退行性疾患に関連した治療のためのニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死即ちアポトーシスの予防又は治療のための方法、並びに癌及び他の腫瘍形成性疾患及びヘルペスウイルス感染の治療方法に関するものである。本発明は又、γ134.5遺伝子又はその蛋白質発現産物ICP34.5の効果を調節し得る物質(即ち、これらの効果を強め又は阻止することの出来る物質)の同定を可能にするアッセイ方法にも関係している。更に、本発明は又、γ134.5発現又はICP34.5の活性の何れかを真似ることの出来る候補物質を同定するためにデザインされたアッセイ方法にも関係する。本発明は又、遺伝子を遺伝子治療のために細胞に送達する方法にも関係している。
【0026】
本発明の1つの説明のための具体例において、ニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死を予防し又は治療する方法を説明するが、そこでは、γ134.5遺伝子を含む非病原性ベクターを調製する。このベクターを、次いで、プログラムされた細胞死を現在受けているか又は受けそうなニューロン細胞に導入する。当業者は、たとえ本発明がγ134.5遺伝子の送達に関して用いるために特にデザインされたあるユニーク且つ新規なベクターの利用を構想していても、幾つかのベクターがこの方法に用いるのに適していることを理解するであろう。
【0027】
本発明により構想されたかかる1つのベクターは、修飾して非病原性にしたHSV−1ウイルス自体である。軸索の内部輸送系を利用してニューロンの末梢神経の終末からニューロン細胞体中まで移動するHSV−1ウイルスのユニークな能力の故に、本発明は、影響されるニューロンのシナプス末端の近くに注入した非病原性HSV−1ウイルス、或は末梢の傷又は病変領域又は他の適当な周辺位置における該ウイルスの利用を提供する。γ134.5遺伝子を含むHSV−1ウイルスは、次いで、異なる標的特異的プロモーターの下で、逆向性軸索輸送によってニューロン細胞体内に輸送されるであろう。
【0028】
本発明は、HSV−1ウイルスを非細胞毒性にするために該ウイルス中に導入する特定のゲノムの修飾を構想している。これらの修飾は、ゲノムの欠失、特定のゲノム配列の再配列、又はその他の特定の突然変異を含むことが出来よう。かかる修飾の一例は、ICP4蛋白質をコードするα4遺伝子の修飾又は欠失を含む。ICP4を発現する遺伝子の欠失又は修飾は、HSV−1ウイルスがウイルスDNA及び構造蛋白質合成に必要な遺伝子を発現することを出来なくする。しかしながら、適当なプロモーターの下に置かれたγ134.5遺伝子は発現し、それ故、ニューロンにおいて、ストレス誘導されたニューロビルレンスの潜在能力を伴わずに抗アポトーシス効果を誘導する。修飾可能であろう他の遺伝子はα0遺伝子を含む。本発明は又、例えば、レトロウイルス、ピコルナウイルス、ワクシニアウイルス、HSV−2、コロナウイルス、エウニアウイルス、トガウイルス又はラブドウイルスベクターを含む他のベクターの利用をも構想している。再び、かかるウイルスのベクターとしての利用は、それらのベクターが安全で非病原性であるように欠失変異体の構築を必要とする。
【0029】
本発明がγ134.5遺伝子をプログラムされた細胞死を受けているか又は受けそうなニューロン細胞中に導入することを構想する他の方法は、多能性神経細胞系統の利用によるものである。かかる系統は、イン・ビトロで表現型を変えることが示され又、マウスの中枢神経系に統合され且つそれらを植え付けた部位に適した様式でニューロン又は節に分化することも示された(Snyder等、Cell,68:33-51,1992)。γ134.5遺伝子を導入した多能性神経細胞系統の、細胞がプログラムされた細胞死を受けているか又は受けそうな中枢神経系への移植又は植付けは、プログラムされた細胞死の逆転及び阻止へ導くことが予想される。
【0030】
γ134.5のアポトーシスを阻止する能力は、ヒトの医学においてのみならず、基礎的な科学の研究においても恩恵となるであろうことが期待される。この関係において、本発明は又、細胞培養におけるニューロン細胞の生命を延長させることにおけるγ134.5遺伝子の利用をも構想する。非細胞毒性ベクターの培養ニューロン細胞への導入は、抗アポトーシス効果を有し、それ故、細胞培養の生命を延長させるであろう。これは、更に、実験が行なわれる時間を延長し、基礎研究を行なうコストを減らすことをも期待することが出来る。
【0031】
γ134.5遺伝子を含むベクターを利用することに加えて、本発明は又、γ134.5遺伝子の発現の産物の利用を含む、ニューロン細胞におけるプログラムされた細胞死を予防し又は治療する方法をも開示する。γ134.5により発現される蛋白質は、ICP34.5と呼ばれる。Ackermann等(J.Virol.,58:843-850,1986)は、ICP34.5がSDSポリアクリルアミドゲル上で見かけ分子量43,500を有し、HIV感染細胞の細胞質内に大いに蓄積するらしいことを報告し、多くのHSV−1蛋白質と対照的に、ICP34.5は生理的溶液に可溶性であることが示された。
【0032】
この方法の実施又はγ134.5遺伝子を細胞内に導入する方法の実施においては、γ134.5遺伝子又はその生物学的機能等価物を遺伝子治療に用いることが出来、精製した形態のICP34.5又はICP34.5蛋白質の生物学的機能等価物を抗アポトーシス剤として利用することが出来ることを想定している。ここで用いる場合、機能等価物とは、ある種の構造変化が起きているが、それにもかかわらず、ICP34.5の効果と同じ効果を明示する蛋白質であるか又はそれらをコードする、蛋白質及びそれらのコード核酸配列をいうことを意図している。
【0033】
規定の機能活性の測定し得る消失を伴わずに蛋白質中である種のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されるという事実に照らして、発明者は、測定可能な生物学的有用性又は活性の消失を伴わずに、ICP34.5蛋白質の配列(即ち、γ134.5遺伝子のアンダーラインを付けたDNA)中に種々の変化が起こり得るということを予想する。アミノ酸を、同様の水治療成績を有して、他のアミノ酸と互いに置換することが出来る(Kyte等、J.Mol.Biol.,157:105-132,1982を参照されたい。該文献を参考として本明細書中に援用する)(米国特許第4,554,101号(参考として本明細書中に援用する)に記載のように、類似の親水性値を有するアミノ酸であるので)。
【0034】
それ故、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性例えばそれらの疎水性、親水性、チャージ、寸法等に基づいている。上記の種々の性質を考慮した典型的な置換は当業者に周知であり、アルギニンとリジン;グルタメートとアルパルテート;セリンとスレオニン;グルタミンとアスパラギン;並びにバリン、ロイシン及びイソロイシンを含む。
【0035】
本発明のこの具体例は、製薬組成物を形成するためにICP34.5又はその生物学的機能等価物を製薬上許容し得るキャリアーと結合させることを含む方法を説明する。(γ134.5又はICP34.5というときには、発明者は、γ134.5の効果を真似る任意の化学薬品を含む生物学的機能等価物を含むことを意図しているということは後述の検討において理解されよう)。かかる組成物を、次いで、プログラムされた細胞死を受けそうな又は受けているニューロンに投与する。かかる組成物を、静脈注射、髄腔注射を用いて動物に投与することが出来よう(ある状況では、経口、大脳内又は脳室内投与が適している)。更に、培養中のニューロン細胞も又、それらが成長している培地に直接ICP34.5を投与することにより、その投与の恩恵を受けることが出来よう。
【0036】
ICP34.5を、ICP34.5をコードすることの出来る核酸断片(即ち、γ134.5遺伝子又は生物学的機能等価物)を用いて調製することが出来る。かかる断片は、例えば、γ134.5断片を宿主細胞にトランスファーし、その宿主細胞をその断片の発現に適した条件下で培養して発現を生じさせ、その後に、十分確立された蛋白質精製技術を用いてその蛋白質を単離精製することを含む技術を用いて発現され得よう。核酸断片を宿主細胞に、組換えベクターのトランスフェクション又はトランスフォーメーションによってトランスファーする。
【0037】
本発明の特に重要な具体例は、γ134.5遺伝子の効果又はICP34.5の効果を真似ることの出来る候補物質のアッセイ、並びにγ134.5の機能を強化するか又はICP34.5の保護機能を強化することの出来る候補物質のアッセイに関するものである。更に、γ134.5発現又はICP34.5の活性を阻止することの出来る候補物質のアッセイ方法も又本発明の具体例である。
【0038】
典型的具体例において、抗アポトーシス遺伝子の発現をブロックし又は抗アポトーシス蛋白質例えばICP34.5の活性を阻止する候補物質を試験するアッセイは、下記の流れに沿って進める。a配列プロモーター及びγ134.5のコード配列の部分を有する試験プラスミッド構築物を、lacZレポーター遺伝子又は任意の他のアッセイ可能なレポーター遺伝子と融合する。この構築物を、次いで、適当な細胞系統例えば神経芽細胞腫又はPC12細胞系統に、G418選択により導入する。スクリーニング目的のためのクローン化連続細胞系統を、次いで、確立する。HSV後期プロモーター(通常、細胞系統中では発現せず且つ通常アポトーシスを誘導するストレス因子によっては発現が誘導されない)を有する対照のプラスミッド構築物を同じ又は異なる指標遺伝子に融合する。この構築物も又、連続クローン化細胞系統に導入して試験細胞系統に対する対照として働くことが出来る。次いで、この抗アポトーシス薬剤を加える。典型的にa配列プロモーター活性化の引き金を引きプログラムされた細胞死を引き起こす環境ストレス例えばUV傷害、ウイルス感染又は神経成長因子の奪取等を、次いで、細胞に加える。対照用細胞において、ストレスは、それらの細胞に何らの効果をも有さず、アッセイにおいて何らの検出可能な反応を生じないであろう。試験細胞系統におけるストレスは、正の候補物質の不在下において、適当な反応、典型的には色彩反応を生じるであろう。候補物質の存在下での試験細胞系統へのストレスの導入は、候補物質がγ134.5遺伝子の発現と干渉するか又はICP34.5の抗アポトーシス活性と干渉する物質の能力と干渉することを示す逆の色彩反応を生じるであろう。
【0039】
同様に、本発明は、ICP34.5の活性を真似し若しくは強化するか又はγ134.5の発現を真似する候補物質のアッセイを説明するが、かかるアッセイは、上記と類似の流れに沿って進める。ICP34.5及び蛍光標識した細胞性遺伝子又は細胞の生存能力を知らせる容易に検出されるマーカーを与える任意の他の標識を構成的に発現している試験細胞系統(例えば、神経芽細胞種細胞系統)を生成する。更に、適当な指標遺伝子例えばa−lacZ指標遺伝子及び試験細胞系統と同じ宿主指標遺伝子からなる対応ヌル細胞系統も又生成する。又、同じ指標遺伝子及び同一宿主指標遺伝子からなる第3の細胞系統(例えば、vero細胞系統)も又生成する。再び、プログラムされた細胞死を引き起こす環境ストレスを、γ134.5の不在下でこれらの細胞に加える。それらがγ134.5発現の抗アポトーシス効果又はICP34.5若しくはその生物学的機能等価物の抗アポトーシス活性を真似るか強化するかどうかを決定するために候補物質も又加える。
【0040】
本発明は又、遺伝子治療のための遺伝子の送達方法を具体化する。典型的具体例において、この方法は、遺伝子治療に用いる遺伝子を上述のような突然変異したウイルス即ち非病原性を付与されたHSV−1ウイルスと結合させることを含む。この遺伝子及びウイルスを、次いで、製薬組成物を形成するために薬理学的に許容し得るキャリアーと結合させる。この製薬組成物を、次いで、治療のための遺伝子を含む突然変異したウイルス又はその遺伝子を含むHSV−1野生型ウイルスが適当な領域で細胞に取り込まれ得るような方法で投与する。例えば、HSV−1ウイルスを用いるときには、この組成物を、ウイルスがシナプス末端に取り込まれて軸索まで逆向性様式で、軸索細胞体中へ逆向性軸索輸送により輸送されるようにシナプス末端が位置する領域に投与することが出来よう。明らかに、末梢又は中枢神経系が遺伝子治療の標的とされた場合には、かかる方法のみが適当なものである。
【0041】
本発明は又、癌又は他の腫瘍形成性疾患並びにヘルペス感染又はビルレンスが抗アポトーシス効果に依存するウイルスに関する他の感染の治療のための方法及び組成物をも構想する。上述のアッセイ方法において同定されたICP34.5の発現又は活性に対する阻害効果を有するとして同定された候補物質を用いて、標的腫瘍細胞又はウイルス感染細胞における細胞死を誘導することが出来る。かかる物質を含む製薬組成物を、髄腔内注射、静脈注射又は直接の注射を用いて、腫瘍又は感染領域に適当に導入することが出来る。
【0042】
図面の簡単な説明
図1は、HSV−1F株(配列番号1〜5)、17syn+株(配列番号:6〜9)、MGH−10株(配列番号10〜15)、及びCVG−2株(配列番号16〜20)のICP34.5の遺伝子領域(左パネル)及びこれらの株におけるICP34.5(配列番号25〜34)の予測されるオープンフレーム(右パネル)のDNA配列を示している。図1Aは、番号665までの塩基配列であり、図1Bは、番号666〜1335までの塩基配列であり、図1Cは、対応するアミノ酸199までの配列であり、図1Dは、対応するアミノ酸200以降の配列である。新たな塩基(A、C、G又はTの挿入)、新たなアミノ酸(3文字記号)、或は塩基又はアミノ酸の不在(−)により示されない限り、HSV−1(17)syn+、HSV−1(MGH−10)及びHSV−1(CVG−2)株の配列は、HSV−1(F)と同じであった。アスタリスクは、9ヌクレオチド又は3アミノ酸の反復配列の始まりを示している。直列反復1(DR1)は、a配列荷隣接する20塩基対の反復配列を示している。直列反復1の上流の配列は、a配列内に含まれる。各行の末尾の数は、ヌクレオチド1(左パネル)又はアミノ酸1(右パネル)からの相対的位置を示す。HSV−1(F)配列の開始コドン及び終止コドンにはアンダーラインを引いてある。
【0043】
図2は、野生型株であるHSV−1F株[HSV−1(F)]及びそれに由来する組換えウイルスのゲノムの配列配置を示す。最上部の行は、HSV−1(F)Δ305の配列配置である。方形は、逆方向反復ab、b’a’c、及びcaを同定する。HSV−(F)a配列は、これらの2つのゲノム末端に順方向で存在し、ロング及びショートコンポーネント間の接合部に逆方向で存在する。これらのb及びc配列は、それぞれ、約9及び6kbp長である。TKと印した三角形は、tk遺伝子の位置及びHSV−1(F)Δ305から欠失したBamHIQ断片のBglII〜SacI配列の位置を同定する。上から2及び3行目は、b配列がICP34.5及びICP0を特定する遺伝子を含むこと及びb配列が逆方向で反復しているのでこれらの遺伝子がゲノム当り2コピー存在することを示す。糖蛋白質H遺伝子の部分を含むa24−tk断片の構築は記載された。Chou及びRoizman、J.Virol.,57:(1986);Ackerman等、J.Virol.,58:843(1986);Chou及びRoizman、J.Virol.,64:1014(1990)。7行目は、すべての3つのリーディングフレームにおける終止コドンを含むオリゴヌクレオチドの挿入の略図を示す。R4002及びR4004の構築においてそれぞれ用いたプラスミッドpRB3615及びpRB2976は、ほかの場所に記載したものである(Chou及びRoizman,J.Virol.,57:629(1986)及びJ.Virol.,64:1014(1990))。pRB3616を生成するために、プラスミッドpRB143をBstEII及びStuIで消化してT4ポリメラーゼで平滑末端化し、そしてリガーゼで再結合させた。アスタリスクは、合成オリゴマー(配列番号21〜22)との粘着末端を形成するベクターのプラスミッドからのヌクレオチドを示す。α4エピトープのICP34.5の第1のアミノ酸中への挿入(9行目)は、記載されたものである(Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014(1990))が、但し、この例においては、配列をγ134.5遺伝子の両コピー(配列番号23、24及び34)に挿入した。tk遺伝子は、マウスで試験したすべての組換えウイルスにおいて復原された。HSV−1(F)R(6行目)は、γ134.5及びtk遺伝子において欠失した配列の復原によって、R3617から誘導した。N、Be、S及びStは、それぞれ、NcoI、BstEII、SacI及びStuI制限エンドヌクレアーゼ(New England Biolabs社製)の略語である。括弧内の数は、マウスで試験した各構築物のtk+バージョンである。
【0044】
図3は、電気泳動で分離したプラスミッド(野生型及び突然変異ウイルスDNA)の消化物(固体支持体にトランスファーしてγ134.5及びtk遺伝子の存在に対する標識プローブとハイブリダイズさせたもの)のオートラジオグラフィー像を示す。示したプラスミッド又はウイルスDNAをBamHIで又は、レーン10に示したR4009の場合にはBamHIとSpeIの両方で消化した。これらのハイブリダイゼーションプローブは、γ134.5のコード配列(左パネル)内に完全に含まれるNcoI〜SphI断片及びHSV−1(F)のBamHIQ断片(右パネル)であった。これらのプローブを、[α−32P]デオキシシチジン三リン酸及びキット(Du Pont Biotechnology System社製 )中に与えられた試薬を用いて、全プラスミッドDNAのニックトランスレーションにより標識した。BamHI(全レーン)又はBamHIとSpeIの両方(左パネル、レーン10)で限定消化したDNAを、0.8%アガロースゲル上で、90mMトリホスフェート緩衝液中で、40Vで一晩、電気泳動により分離した。次いで、DNAを、ゲルをはさんだ2枚のニトロセルロースシートに、重力によりトランスファーし、各プローブと一晩ハイブリダイズさせた。γ134.5は、BamHIS及びSP断片中にマップされ、特徴的なバンドの梯子を、500bp増加にて形成する。これらの梯子は、ロング及びショートコンポーネント間の接合部のユニーク配列に隣接する反復中のa配列の変化する数の結果であるが、BamHISは、ロングコンポーネントの末端のウイルスゲノムの末端断片であり、BamHISPは、末端BamHIS断片とBamHIP(ショートコンポーネントの末端BamHI断片)との融合により形成された断片である。BamHIS、SP及びQ及びそれらの欠失バージョンであるΔBamHIS、ΔBamHISP及びΔBamHIQ(ΔQ)のバンドを、それぞれ、示してある。バンク1は、R4002中のBamHISP断片への1.7kbpのα27−tk挿入物を表し、それ故、この断片は、両標識プローブと反応した(レーン4)。バンド2は、BamHIS断片への同じ挿入物を表す。
【0045】
図4は、オートラジオグラフィー像(左パネル)及びHSV−1(F)及び組換えウイルスに疑似感染(M)又は感染した細胞の溶解物の写真(右パネル)を示す(変性ポリアクリルアミド(10%)ゲル中で電気泳動により分離し、ニトロセルロースシートに電気泳動によりトランスファーしてほかの場所で述べたウサギポリクローナル抗体R4で標識したもの)。Ackerman等、J.Virol.,58:843(1986);Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014(1990)。Vero細胞の重複培養を、感染させ、感染の12〜24時間後に[35S]メチオニン(Du Pont Biotechnology Systems )で標識し、等量の細胞溶解物を各スロットに載せた。この手順は、記載されたようにした(Ackerman等、Chou及びRoizman)、但し、結合した抗体を、Promega,Inc.により供給されたアルカリホスファターゼ基質システムを用いて可視化した。感染細胞の蛋白質を、Honess及びRoizman(J.Virol.,12:1346(1973))に従って番号で示した。R4003により特定されるキメラICP34.5は、エピトープの挿入により生じた増加した分子量の故に、他のウイルスにより生成された蛋白質よりゆっくりと移動した。
【0046】
図5は、HSV−1F株[HSV01(F)]及び関連変異体のゲノム構造及び配列配置の図式表示である。1行目:それぞれ、逆方向反復に隣接したユニークな配列からなる、HSV−1DNAの2つの共有結合したコンポーネント、L及びS(7、31)。ab及びb’a’で示されるLコンポーネントに隣接する反復配列は、それぞれ、9kbの大きさであり、他方、Sコンポーネントに隣接する反復は、6.3kbの大きさである(31)。2行目:γ134.5及びα0遺伝子を含む逆方向反復配列ab及びb’a’の部分の拡大。3行目:2行目に示した拡大部分の配列配置及び制限エンドヌクレアーゼ部位。開いたボックスは、a配列に隣接する20bpの直列反復配列(DR1)を表す(26、27)。制限部位表示は、N−NcoI;Be−BstEII;S−SacI;St−StuIである。4行目:細線及び塗りつぶした方形は、γ134.5遺伝子の転写されるコード領域を表す(406)。垂直の線は、γ134.5及びα0遺伝子の転写開始部位の位置を示す。R3616ウイルス組換え体において、γ134.5の28番目のアミノ酸にあるBstEIIから示した遺伝子の3’末端のStuIの間の1Kbを欠失させた。HSV−1(F)RDNAにおいて、R3616中のγ134.5遺伝子から欠失した配列を復原し、それ故、このウイルスは、野生型の表現型を示すことが予想されよう。R4009組換えウイルスDNAは、BstEII部位にフレームの合った翻訳終止コドンを含む。上部の垂直の矢印は、終止コドン挿入の部位を示している。
【0047】
図6は、規定の35S−メチオニンで90分間標識した感染細胞の電気泳動で分離した溶解物のオートラジオグラフィー像を示す。SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞系統を疑似感染(M)させ又は37℃で野生型又は突然変異ウイルスの5pfuに6ウェルディッシュ(マサチューセッツ州、Cambridge在、Costar)中でさらした。露出後2時間で、これらの細胞を1%仔ウシ血清を補った混合物199に重ねた。細胞のウイルスへの露出後5.5及び11.5時間にて、重複感染させた6ウェル培養を、未標識メチオニンを欠くが50μCiの35S−メチオニン(イリノイ州、Downers Grove在、Amersham Co.製、比活性>1,000Ci/ミリモル)を補った1mlの199v培地に重ねた。標識培地中での90分の後に、細胞を採集し、ドデシル硫酸ナトリウムを含む緩衝液中にて可溶化し、N,N’ジアリルタルタルジアミンで架橋した変性12%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動にかけ、ニトロセルロースシートへ電気泳動によりトランスファーして前記のようにしてオートラジオグラフィーにかけた(13)。感染細胞蛋白質(ICP)を、Honess及びRoizman,J.Virol.,12:1347-1365(1973)に従って示した。
【0048】
図7は、変性ゲル中にて電気泳動で分離した標識したポリペプチドのオートラジオグラフィー像及び抗体との反応性により可視化された蛋白質のバンドの写真を示す。SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞を、図6の説明で記載したように、1細胞当り5pfuのR3616又は親HSV−1(F)に、疑似感染(M)させるか又は感染させた。これらの培養を、細胞をウイルスにさらしてから13時間後に採集する前に、1.5時間にわたって標識した。細胞抽出物の調製、ポリペプチドの電気泳動、分離したポリペプチドのニトロセルロースシートへの電気的トランスファー及びオートラジオグラフィーを、ほかの場所(Ackerman等、J.Virol.,52:108-118,1984)に記載されたようにして行なった。ニトロセルロースシートを、Promega,Inc.(ウィスコンシン州、Madison在)からのキットの補助を受けて、製造者の支持に従って各抗体と反応させた。α27に対するモノクローナル抗体H1142及びUL26.5遺伝子の産物に対するH725は、San Franciscoのカリフォルニア大学のLenore Pereiraより寛大にも贈られた。US11蛋白質に対するM28モノクローナル抗体及びウイルス性チミジンキナーゼ(βtk)に対するウサギポリクローナル抗体R161を、この研究室の特定のペプチド(M.Sarmiento及びB.Roizman、未発表の研究)に対して作成した。ICPの表示は、前記の通りである。
【0049】
図8は、ホスホノアセテート(PAA)の存在又は不在下での、SK−N−SH神経芽細胞種細胞系統への感染の間に発現されたウイルス蛋白質のオートラジオグラフィー像を示す。二重のSK−N−SH神経芽細胞種細胞培養を、ホスホノアセテート(300μg/ml;ミズーリ州、St Louis在、Sigma Chemical Co.社製)で処理する(感染の1.5時間前に開始して、感染の終了まで続ける)か又は未処理のままで置いた。これらの培養を、5pfuのHSV−1(F)、R3616、R4009及びHSV−1(F)Rの何れかに疑似感染させるか又は5pfu/細胞でさらした。ウイルスへの露出の11.5時間後に、これらの細胞を、図6の説明に記載したようにして、50μCiの35S−メチオニンを含む培地に重ねた。ポリペプチド抽出、N,N’ジアリタルタルジアミンで架橋した12%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動、ニトロセルロースシートへの電気的トランスファー及びオートラジオグラフィーを、図6の説明に記載したようにして行なった。
【0050】
図9は、ウイルス性DNA及びRNAの感染SK−N−SH神経芽細胞腫及びVero細胞培養内の蓄積を示している。左パネル:疑似感染細胞又はHSV−1(F)、R3616、R4009又はHSV−1(F)Rウイルスを感染させた細胞から抽出した全DNAの、電気泳動により分離したBamHI消化物を含むエチジウムブロミド染色したアガロースゲルの写真。右パネル:電気泳動により分離してニトロセルロースシートにトランスファーしたRNAのハイブリダイゼーション(α47、US10及びUS11オープンリーディングフレームに対してアンチセンスのRNA配列をプローブとして使用)。SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞を、1細胞当り5pfuのHSV−1(F)又はR3616に疑似感染又は感染させた。全DNAを、感染後17時間で、Katz等、J.Virol.,64:4288-4295により公開された手順により細胞から抽出し、BamHIで消化し、0.8%アガロースゲル上で40Vで電気泳動してエチジウムブロミドで染色して可視化した。RNA分析のために、SK−N−SH神経芽細胞種及びVero細胞を、前述のように、R3616及びHSV−1(F)に疑似感染又は感染させた。細胞をウイルスにさらしてから13時間後に、Peppel及びBaglioni(Bio Techniques,9:711-712,1990)の手順によってRNAを抽出した。次いで、それらのRNAを、1.2%アガロースゲル上で電気泳動により分離し、ニトロセルロースシートへ重力によりトランスファーし、Promega,Inc.からのキットを用いて、製造者の指示に従って、pRB3910オフT7プロモーターのイン・ビトロ転写により作成したアンチセンスRNAをプローブとして探った。α47、US10及びUS11転写物は、配列が重複し、同じ3’コターミナル配列を共有している。McGeoch等、J.Gen.Virol.,64:1531-1574(1988)。US10転写物は、少量であり、このアッセイでは検出されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
好適具体例の詳細な説明
序論
本発明は、HSV−1γ134.5遺伝子、その遺伝子により発現されるICP34.5蛋白質、及び(ニューロンの)プログラムされた細胞死に対する治療として類似の様式で機能するその蛋白質の誘導体の利用に関するものである。本発明は又、改変した、非病原性HSV−1ウイルス(並びに、他のウイルス)の遺伝子治療用ベクターとしての利用にも関係する。本発明の他の面は、抗アポトーシス剤として作用し得る候補物質を検出するアッセイ、並びに、腫瘍細胞におけるプログラムされた細胞死を誘導し得る候補物質を検出するためのアッセイに関するものである。更に、本発明は又、癌及びその他の腫瘍形成性疾患の治療方法にも関係する。最後に、本発明は又、γ134.5遺伝子又はICP34.5を不活性化し、それによりHSV−1及びその他のウイルス感染を抑制し得る候補物質の利用にも関係する。
【0052】
野生型HSV−1ゲノム(150キロ塩基対)は、2つのコンポーネントL及びSを有し、各々は、逆方向反復に隣接したユニーク配列を有している。Lコンポーネントのこれらの反復配列(ab及びb’a’で示す)は、各9キロ塩基対であり、他方、Sコンポーネントの反復配列(a’c’及びcaで示す)は、各6.5キロ塩基対である。Wadsworth等、J.Virol.,15:1487-1497(1975)。共通のa配列(HSV−1F株[HSV−1(F)]においては、500塩基対長)は、Sコンポーネント末端に1コピー存在し、L及びSコンポーネント間の接合部に同じ向きで1〜数コピー存在する。L及びSコンポーネントは、ウイルス粒子又は感染細胞から抽出したDNAが、L及びSコンポーネントの向きが異なるだけの4つの異性体からなるように、互いに逆向きになっている。Hayward等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,72:4243-4247(1975)。a配列は、ゲノム内のほかの場所へのa配列の挿入又は完全な内部の逆方向反復配列(b’a’c’)の欠失が、それぞれ、更なる逆転又はL及びSコンポーネントの逆転する能力の喪失へと導くので、シス作用部位であるらしい。このa配列は又、感染後のゲノムの環化、コンカテマーからのHSVゲノムの開裂及びDNAのキャプシド封入のためのシス作用部位をも含むことが示された。
【0053】
HSV−1ゲノムは、発現が調和して制御され、カスケード様式で順次的に指令される少なくとも73遺伝子を含む。α遺伝子が、最初に発現され、β、γ1及びγ2遺伝子が続いて発現される。β、γ1及びγ2遺伝子間の区別は、作動時のウイルスDNA合成のインヒビターの効果に基づいている。ウイルスDNA合成のインヒビターによって、β遺伝子の発現は刺激され、γ1遺伝子の発現は僅かに減じるが、γ2遺伝子の発現は、ウイルスDNA合成に厳重に必要である。
【0054】
a配列の機能の研究の過程で、Chou及びRoizman(Cell,41:803-811,1985)は、HSV−1のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子の5’非コード転写配列に融合させたa配列からなるキメラ構造がトランスファーした細胞中で誘導可能であり、ウイルスゲノムに挿入したときにはγ1遺伝子として制御されるということに注目した。この観察は、逆方向反復のb配列に最も近いa配列の末端が、構造配列がLコンポーネントに隣接するb配列中に位置している遺伝子のプロモーター及び転写開始部位を含むことを示唆している。感染細胞から抽出して電気泳動で分離したRNAに対する標識DNAプローブのハイブリダイゼーション及びS1ヌクレアーゼ分析を含む研究は、a配列から始まるRNA転写物の存在を確実にした。ヌクレオチド配列分析は、263アミノ酸長の蛋白質をコードすることの出来るオープンリーディングフレームの存在を示した。Chou及びRoizman,J.Virol.,64:1014-1020(1990)。
【0055】
前の研究は、Sコンポーネントの各逆方向反復が、その全長中に、α4で表される遺伝子を含み、他方、Lコンポーネントのものは、その全長中に、α0で表される遺伝子を含むということを示した。例えば、Mackem及びRoizman,J.Virol.,44:934-947(1982)を参照されたい。ヌクレオチド配列及びRNAの分析に基づいて同定された推定の遺伝子も又、ゲノム当り2コピー存在する。逆転、コンカテマーからのDNAの開裂及びDNAのパッキングのためのシス作用部位を含むa領域を有するこの遺伝子の領域の重複の故に、遺伝子産物を同定し特性決定することは興味深いことであった。この目的のために、このヌクレオチド配列は、蛋白質中に、10回反復するアミノ酸トリプレットAla−Thr−Proが存在することを予言するという観察が利用され、この配列に基づいて合成した合成ペプチドに対する抗体は、見かけ分子量43,500のHSV−1蛋白質と反応した。Ackerman等、J.Virol.,58:843-850,1986。
【0056】
ICP34.5をコードするオープンリーディングフレームの変異性の程度を、ヒト宿主の外で限られた回数継代された3種類のHSV−1株のヌクレオチド配列の比較により確立した。Chou及びRoizman(J.Virol.,64:1014-1020,1990)は、ICP34.5を特定する遺伝子は、3種類の限られた継代の株すべてにおいて保存されているが、HSV−1(17)syn+株の報告された配列中では保存されていない263コドンを含むことを報告した(図1)。予言された反復配列Ala−Thr−Proに対する抗体が類似の反復配列を有する異質蛋白質ではなくてICP34.5と反応することを確かめるために、他のHSV−1遺伝子の特徴であるエピトープをコードする45ヌクレオチドの短い配列をICP34.5コード領域の5’末端近くに挿入した。この組換えウイルスは、妥当な遅い電気泳動移動度を有し、挿入したエピトープに対するモノクローナル抗体及びAla−Thr−Pro反復要素に対するウサギ抗血清の両方と反応する蛋白質を発現した。
【0057】
ニューロビルレンスと関連した遺伝子の同定の研究は、HSV−1DNAのロングコンポーネントの末端又は末端近くに位置するDNA配列に関係していた。それ故、Centifanto-Fitzgerald等(J.Exp.Med.,155:475,1982)は、DNA断片によって、ビルレンスマーカーをビルレント株からHSV−1のアンチビルレント株へトランスファーした。HSV−1DNAのロングコンポーネントの一端に位置する遺伝子の欠失は、プロトタイプHSVワクチン株により示されたビルレンスの欠如に寄与した。Meignier等、J.Infect.Dis.,158:602(1988)。他の研究において、Javier等(J.Virol.,65:1978,1987)及びThompson等(Virology,172:435,1989)は、大部分HSV−1DNAからなるが、ロングコンポーネントの一端に位置するHSV−2配列を有するHSV−1×HSV−2組換えウイルスは、ビルレントでなく、ビルレンスは、相同なHSV−1断片を用いるレスキューによって復原され得るということを示した。Taha等(J.Gen.Virol.,70:705,1989)は、HSV−2株のロングコンポーネントの両端の1.5kbpが欠失している自発的欠失変異体を記載した。親ウイルス集団における不均一性の故に、マーカーレスキューにより得られた組換え体が欠失変異体より一層ビルレントであったにもかかわらず、ビルレンスの消失は、特定の欠失に明らかに関係しているとは言えなかった。何れの研究においても、特定の遺伝子又は遺伝子産物は突然変異遺伝子座に同定されなかったし、何れの遺伝子もビルレンス表現型に特異的に結び付けられなかった。
【0058】
γ134.5遺伝子の役割
γ134.5遺伝子の産物(ICP34.5)の役割を試験するために、一連の4種類のウイルス(図2)をPost及びRoizmanの手順(Cell,25:227,1981、本明細書中に参考として援用する)によって、遺伝子工学処理した。
【0059】
1)組換えウイルスR4002(図4、レーン3)は、ICP34.5コード配列の両コピー中のα27遺伝子(α27−tk)のプロモーターによって駆動されるチミジンキナーゼ(tk)遺伝子の挿入を含んだ。それは、ウサギ皮膚細胞を、tk遺伝子の部分を特異的に欠失したウイルスHSV−1(F)Δ305の完全なDNA及びBamHIS断片に含まれるγ134.5遺伝子に挿入したα27−tk遺伝子を含むプラスミッドpRB3615のDNAでコトランスフェクトすることによって構築した。tk+である組換え体を、次いで、ヒトの143のチミジンキナーゼマイナス(TK-)細胞上で選択した。α27−tk遺伝子を含む断片は、tk遺伝子から下流を含む:5’非転写プロモーター、非コード転写配列及び糖蛋白質H遺伝子の開始メチオニンコドン。α27−tk断片が挿入されたBstEII部位は、γ134.5オープンリーディングフレームのコドン29の直上流にある。結果として、糖蛋白質Hの開始コドンは、フレームを合わせて融合され、γ134.5遺伝子の切り詰めたオープンリーディングフレームの開始コドンとなった(図2、3行目)。更なる研究のために選択した組換え体R4002は、γ134.5遺伝子の両コピー中にα27−tk遺伝子挿入物を含むことが示され(図3、レーン4)、キメラγ134.5遺伝子の予言された切り詰めた産物のみを特定した(図4、右パネル、レーン3)。これらの及び以前の研究において検出された天然ICP34.5蛋白質の量は、一般に、低かった。糖蛋白質Hの5’非コード転写領域及び開始コドンと切り詰めたγ134.5遺伝子との(フレームをあわせた)融合によって形成されたキメラ遺伝子は、天然遺伝子より遥かに有効に発現した。
【0060】
2)γ134.5遺伝子の各コピー中の1kbのDNAを欠失している組換えウイルスR3617(図2、5行目)は、ウサギ皮膚細胞を完全なR4002DNA及びプラスミッドpRB3616のDNAでコトランスフェクトすることによって生成した。このプラスミッドにおいて、γ134.5のコード領域の大部分を含む配列は、欠失している(図2、5行目)。このトランスフェクションのtk-子孫を、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を含む培地に重ねた143TK-細胞上にプレートした。この手順は、tk-ウイルスを選択し、tk遺伝子はγ134.5遺伝子の両コピー中に存在するので、このトランスフェクションの選択した子孫は、両コピー中の欠失を含むことが予想され得よう。R3617と表示する選択したtk-ウイルスを、γ134.5遺伝子の両コピー中の欠失の存在について分析した。ニューロビルレンスのアッセイのために、R3617の天然のtk-遺伝子中の欠失(その起源をHSV−1(F)Δ305に帰する)を修復しなければならなかった。これは、ウサギ皮膚細胞を完全なR3617DNA及びtk遺伝子を含むBamHI Q断片でコトランスフェクトすることによって行なった。143TK-細胞中でtk+表現型について選択したウイルスをR3616と表示した。このウイルスは、野生型BamHI Q断片(図3、右パネル、レーン6)を含み、ICP34.5を作らない(図4、右パネル)。
【0061】
3)R3616の表現型が実際にγ134.5遺伝子における欠失を反映することを確かめるために、欠失した配列を、ウサギ皮膚細胞を、完全なR3617DNA、完全なtk遺伝子を含むHSV−1(F)BamHI QDNA断片及び完全なγ134.5遺伝子を含むBamHI SPDNA断片でコトランスフェクト(モル比、1:1:10)することによって復原した。次いで、tk+であるウイルスを、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地に重ねた143TK-細胞にて選択した。tk+候補を、次いで、野生型tk及びγ134.5遺伝子の存在についてスクリーニングした。予想されるように、選択したHSV−1(F)Rで表されるウイルス(図2、6行目)は、野生型末端ロングコンポーネント断片を含み(図3、左パネル、レーン2、7及び8を比較されたい)、ICP34.5を発現した(図4、右パネル、レーン6)。
【0062】
4)R3616の表現型が隠れたオープンリーディングフレーム中の欠失を反映している可能性を排除するために、ICP34.5コード領域の始めのすべての3つのリーディングフレーム中に翻訳終止コドンを含むウイルス(R4010、図2、7行目)を構築した。翻訳終止コドン及びその完全な配列を含む20塩基のオリゴヌクレオチド(図2)を、Applied Biosystems社製 380D DNAシンセサイザーにて作成し、等モル比で混合し、80℃に加熱し、そしてゆっくりと室温に冷却した。アニールしたDNAを、HSV−1(F)BamHIS断片に、BstEII部位に挿入した。その結果のプラスミッドpRB4009は、ICP34.5コード配列の始めに挿入された終止コドンを含んだ。この20ヌクレオチドオリゴマーDNA挿入は又、この挿入物の存在の迅速な確認を可能にするSpeI制限部位をも含んだ。組換えウイルスR4010を生成するために、ウサギ皮膚細胞を、R4002の完全なDNA及びpRB4009プラスミッドDNAでコトランスフェクトした。tk-である組換え体を、BrdUを含む培地中の143TK-細胞にて選択した。このウイルスのtk+バージョン(R4009と表示)を、完全なtk-R4010DNAをHSV−1(F)BamHI QDNA断片と共に用いるコトランスフェクション及びtk+子孫の選択により生成した。ニューロビルレンス研究のために選択したウイルス、R4009は、BamHIS及びSP断片の両方のSpeI制限エンドヌクレアーゼ開裂部位を含み(図3、左パネル、レーン9及び10)、ICP34.5を発現しなかった(図4、右パネル、レーン7)。
【0063】
5)R4004(図2、最下行)は、16アミノ酸をコードする配列の挿入により生成した組換えウイルスであった。この配列は、ICP4と表示されるウイルス蛋白質と反応性のモノクローナル抗体H943のエピトープであることが示された。Hubenthal-Voss等、J.Virol.,62:454(1988)。このウイルスを、完全なR4002DNA及び挿入物を含むプラスミッドpRB3976のDNAでコトランスフェクトすることにより生成し、選択したtk-子孫を挿入物の存在について分析した。ニューロビルレンス研究のために、そのtk遺伝子を上述のようにして復原した(組換えウイルスR4003)。このDNA配列を、フレームを合わせて、γ134.5遺伝子の開始メチオニンコドンのNcoI部位に挿入した。この挿入物は、開始メチオニンコドンを再生し、ICP34.5のエピトープと残りの部分との間のメチオニンコドンを生成した。追加のアミノ酸の故 に、この蛋白質は、変性ポリアクリルアミドゲル中で、一層ゆっくりと移動した(図4、右パネル、レーン4)。
【0064】
すべての組換え体のプラークの形態及び寸法は、Vero、143TK-及びウサギ皮膚細胞系統にプレートした場合に、野生型親HSV−1(F)のものに類似していた。HSV−1(F)及びR4003は、野生型ウイルスと同様に、Vero細胞複製培養において複製したが、R3616及びR4009の収量は、野生型の量の1/3〜1/4に減じた。ICP34.5は、培養細胞におけるHSV−1の生育に必須ではなかったが、表1に示す研究の結果は、γ134.5の欠失又は翻訳の終止がウイルスのビルレンスに深い影響を有することを示している。それ故、最高濃度[1.2×106プラーク形成単位(PFU)]のR3616を接種されたすべてのマウスは生き残った。R4009の場合には、最高濃度(〜107PFU)のウイルスの接種の結果、10匹のマウスの内3匹のみが死亡した。他の欠失変異体と比較して、R3616及びR4009は、今日まで報告された最も低病原性のウイルスにランクされる。γ134.5遺伝子が復原されたウイルスは、親ウイルスのビルレンスを示した。
【0065】
【表1】
【0066】
マウスの大脳内接種の後に死を引き起こす野生型及び組換えウイルスの比較能力。ノースカロライナ州、Raleigh在、Charles River Breeding Laboratories社からの21日齢の雌のBALB/Cマウス(体重±1.8g)で、ニューロビルレンス研究を行なった。ウイルスを、イーグルの塩類及び10%ウシ胎児血清、ペニシリン及びゲンタマイシンを含む最小必須培地にて稀釈した。マウスに、26ゲージ針を用いて、右大脳半球に、大脳内接種した。送達した容積は0.03mlであり、各稀釈のウイルスを10匹のマウスの群にて試験した。これらの動物を、毎日、21日間にわたって、死亡率をチェックした。LD50を、英国、ケンブリッジ在、Elsevier Biosoft社製の「投与量効果分析」コンピュータープログラムの助けを借りて計算した。
【0067】
野生型ウイルス及びすべての組換え体は、大脳細胞に取り付いて浸入するために必要な同じ表面糖蛋白質を有する。大脳への106PFUの注射は、有意の数の大脳細胞の感染及び死を生じるはずである。大脳内接種後の死は、ウイルスの複製、細胞から細胞への拡大及び免疫系が作用する機会をもつ前の細胞破壊から生じる。イーグル塩類及び10%ウシ胎児血清を含む最小必須培地に懸濁させた大脳組織の稀釈は、ICP34.5を作れないウイルスを接種されたこれらの動物の大脳が、非常に少量のウイルスを含むことを示した。それ故、R3616及びR4009ウイルスについては、回収率は、それぞれ、大脳組織1g当り120及び100PFUであった。接種物中のウイルス量(試験した最高濃度)を与えても、回収された少量のウイルスが、接種物の生き残りを表すのか新たに複製されたウイルスを表すのかは、はっきりしない。対照的に、HSV−1(F)R及びR4003を接種したマウスから回収されたウイルスの量は、それぞれ、6×106であった。これらの結果は、これらの2種類の組換えウイルスが死を引き起こせないのは、突然変異ウイルスがCNSにおいて複製することが出来ないことの結果としてのニューロン組織におけるウイルスの乏しい広がりに関連しているに違いなく、それらの宿主の範囲の減少を反映しているということを示している。
【0068】
γ134.5遺伝子産物の機能を求めるためにデザインした研究の過程で、ニューロナルオリジンの細胞にγ134.5遺伝子を発現することができない突然変異体を感染させると細胞蛋白質合成を停止することになるのに対し、非ニューロナルオリジンの細胞に野生型或は突然変異ウイルスを感染させると蛋白質合成及び感染性後代の産生を持続することになることを見出した。
【実施例】
【0069】
例1−γ134.5発現がプログラムされた(programmed)細胞死に与える影響物質及び方法
細胞 由来はATCCから得たVero細胞を、子牛血清5%を含有するDME培地で増殖させた。ヒトSK−N−SH神経芽細胞腫(NB)神経系統をATCC(HTB11)から得て牛胎児血清10%を含有するダルベッコの改変イーグル培地で増殖させた。
【0070】
ウイルス 単純疱疹ウイルス1菌種F[HSV−1(F)]の単離は、Ejercito等(J.Gen.Virol.、2:357〜364(1968))(本明細書中に援用する)によって記載された。組み換えウイルスR3616、R4009及びHSV−1(F)の構成は、Chou等(Science、250:1262〜1266、1990年11月30日)(本明細書中に援用する)によって報告された。図5に例示する通りに、R3616はγ134.5遺伝子の両コピーにおいて1Kbp欠失を含有する。組み換えR4009では、停止コードンをγ134.5遺伝子の両コピーに装入した。組み換えR3616におけるγ134.5遺伝子を回復して組み換えHSV−1(F)Rを生じた。
【0071】
ウイルス感染 細胞を通常感染の多重度5においてウイルスに37℃で2時間暴露し、次いで取り出し、子牛血清1%を含有する199v培地に取り換えた。感染は37℃で各々の実験について示す通りの時間の間続いた。次いで、細胞を新たな蛋白質合成或はウイルス性DNA及びRNAの合成のいずれかについて標識した。
【0072】
35S−メチオニン標識化 感染した後の示す時間で、35S−メチオニン(比活性>1,000Cimモル、イリノイ、ダウナーズグローブ在Amersham Co.社製)50μCiを、6つのウエル皿中の細胞にメチオニンを欠く199v培地1mlに加えた。標識化を1.5時間続けて、細胞を収穫した。細胞エキストラクトの調製;N,N’ジアリルタルタルジアミド(カリホルニア、リッチモンド在Bio−Rad Laboratories)で架橋したポリアクリルアミドゲルを変性させる際の電気泳動による蛋白質の分離;ポリペプチドのニトロセルロースシートへの転移;抗体によるオートラジオグラフィー及び免疫ブロットは、Ackermann等、J.Virol.,52:108〜118(1984)(本明細書中に援用する)によって記載された。
【0073】
結果
γ134.5遺伝子を欠くHSV−1(F)ウイルスは神経芽細胞腫細胞において蛋白質合成の停止を誘発する。 CNS組織に由来するヒト細胞系統をスクリーンする過程で、SK−N SH神経芽細胞腫細胞系統が産生する突然変異ウイルスは、完全に許容的なVero細胞に比べて100倍少ないことが明らかであった。また、図6に示す通りに、R3616、R4009で感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞は、7時間で収穫した細胞において蛋白質合成の減少を示し(左パネル)かつ感染した後13時間までに35S−メチオニンを取り込むのを止めた(右パネル)ことにも留意された。その現象は、SK−N−SH神経芽細胞腫細胞だけで観測され、欠失された配列の回復が感染した後13時間でウイルス性蛋白質を発現するウイルス[HSV−1(F)R]を生じ(図6、右パネル)かつ親の野生型表現型を示したのだから、γ134.5遺伝子における突然変異に特異的に帰し得た。
【0074】
α遺伝子を発現した後に、蛋白質合成の停止が起きた。 ウイルス性遺伝子は3つの主要なグループであって、それらの発現は同調調節されかつ逐次カスケード様式で並べられるものを形成する。Roizman及びSears,Fields’ Virology、第2版、Fields等、編集、1795〜1841(1990)参照。α遺伝子はそれらを発現するために新たに蛋白質合成を必要とせず、ウイルス性DNAを合成するために必要とするβ遺伝子は機能的α及びβ蛋白質の事前合成並びにウイルス性蛋白質合成の開始を必要とする。突然変異ウイルスで感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞においてウイルス性遺伝子機能の発現が終結された点を求めるために、ポリアクリルアミドゲルを変性させる際に電気泳動分離された感染された細胞リゼイトをニトロセルロースシートへ転移させ、α(α27)、αβ(ウイルス性チミジンキナーゼ)及び2種のたくさんある蛋白質への抗体によって立証した。Roller及びRoizman(J.Virol.、65:5873〜5879(1991))は、後者がUL26.5及びUS11遺伝子の産物であって、それらの最適レベルにおける発現がウイルス性DNA合成を必要とするものであることを示した。図7に示す通りに、突然変異ウイルスで感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞は、α27蛋白質を通常量(左パネル)、チミジンキナーゼ(β)蛋白質を減少した量(中央パネル)で産生したが、検出し得るγ蛋白質を産生しなかった(左及び右パネル)。対照して、野生型及び突然変異の両方のウイルスは、Vero細胞においてそれらの蛋白質の合成を複製する或は指図するそれらの能力に関し、差異を認めることができなかった(図7)。
【0075】
蛋白質合成を停止するためのシグナルをウイルス性DNA合成に関連付ける。 これらの実験は、蛋白質合成の停止が、遺伝子であってその発現がウイルス性DNA合成に依存するものに関連付けられるかどうかを求めるためにデザインした。キーの実験の結果を図8に示す。複製SK−N−SH及びVero細胞培養にHSV−1(F)及び組み換えウイルスを感染させ、ウイルス性DNA合成をブロックする薬剤であるホスホノアセテートを抑制濃度で存在させ或は存在させないで保った。細胞を、感染させた後13時間で、35S−メチオニンによってパルス標識した。結果の顕著な特徴は、R3616か或はR4009のいずれかで感染されたSK−N−SH細胞における蛋白質合成が、ホスホノアセテートの存在では少なくとも13時間持続されたが、その不存在では持続されなかったことであった。これらの結果は、突然変異ウイルスで感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞における蛋白質合成の停止についてのシグナルが、ウイルス性DNA合成或はそれを発現するためのウイルス性DNA合成に依存するγ遺伝子と関連することを示した。
【0076】
たとえ蛋白質合成の停止が後期(late)蛋白質の蓄積を排除したとしても、γ134.5突然変異体で感染されたヒト神経芽細胞腫細胞はウイルス性DNA及び蓄積された後期mRNAを合成した。 上に提示した証拠は、SK−N−SH神経芽細胞腫細胞において、ウイルス性DNA合成に関連する事象が蛋白質合成の停止を誘発しかつ後期(γ)ウイルス性蛋白質が蓄積しないことを示した。従って、本発明者等は、ウイルス性DNAをほとんど蓄積しない或は全く蓄積しないこと及びウイルス性DNA合成の不存在では、後期(γ)ウイルス性転写物(transcript)であって、それらの合成がウイルス性DNA合成に依存するものをほとんど蓄積しない或は全く蓄積しないことを予想した。本発明者等が驚いたことに、突然変異ウイルスで感染して17時間した後にSK−N−SH神経芽細胞腫細胞から回収されたウイルス性DNAの量は、野生型の親の或は修復された[HSV−1(F)R]ウイルスから得られる量に匹敵し得るものであった(図9、左パネル)。その上、SK−N−SH神経芽細胞腫細胞は証明できる量のUS11蛋白質を合成しなかったが、突然変異及び野生型ウイルスで感染された細胞中に蓄積したUS11遺伝子転写物の量は同様の大きさであった(図9、右パネル)。
【0077】
これらの結果の有意性は3つの観測から生じる。第一に、感染された細胞では、蛋白質合成は調節カスケードを反映し;α蛋白質合成はβでかつ後にγ蛋白質合成に替えられる。現在までに試験されたγ134.5突然変異体で感染されたSK−N−SH神経芽細胞腫細胞と異なるすべての細胞では、一群の蛋白質の合成におけるブロックは全蛋白質合成の停止に至らない。例えば、PAAのようなDNA合成の抑制剤で処理した細胞では、それらの合成がウイルス性DNA合成に依存するサブクラスのγ蛋白質は産生されない。しかし、これらの細胞では、β蛋白質合成は、未処理の感染された細胞におけるそれらの合成時間を越えて続く。γ134.5ヌル突然変異体で感染されたSK−N−SH細胞に関する研究でなされた顕著な観測は、(i)すべての蛋白質合成が完全に停止し、(ii)ウイルス性DNAが作成され、(iii)たとえ蛋白質合成が停止したとしても、US11mRNAによって例証される後期γmRNAが作成されたことである。ウイルス性複製についてのこれらの表現は前に報告されておらず、この報告に記載されるものと異なる細胞(例えば、Vero、HEp−2、ハムスター乳児肝臓、143tk−及びウサギスキン細胞系統及びヒト胎児肺細胞株)の野生型ウイルス或は任意の突然変異ウイルス感染により感染された細胞を特性表示するものではない。
【0078】
第二に、突然変異の修復は野生型表現型を回復するので、γ134.5遺伝子の機能はSK−N−SH細胞での蛋白質合成におけるこのブロックに打ち勝つことである。
【0079】
最後に、蛋白質合成の停止をウイルス性DNA複製の開始に関連付けることは、感染した後に作成される産物が停止の原因となる可能性を排除しないが、データは、蛋白質合成の停止が細胞の蛋白質合成機と相互作用する既知のウイルス性遺伝子産物により特異的に引き起こされるという仮定を強く支持する。例えば、vhsと表示されるHSV−1遺伝子の産物が、感染した後に細胞蛋白質合成を停止することができるということは確立されている。vhsはウイルスの構造的蛋白質であり、感染する間に細胞の中に導入される。それは感染において初期にmRNAを不安定にし、それの作用は感染した後に作成されるウイルス性遺伝子産物に依存しない。上述した実験では、野生型及び突然変異ウイルスの蛋白質合成が、ホスホノアセテートで処理した細胞では、感染した後13時間で識別することができなかった、故に、突然変異ウイルスの表現型はvhs遺伝子産物に帰することができない。この結論は、SK−N−SH細胞におけるウイルス性蛋白質合成が、野生型ウイルスによる感染の多重度を100pfu/細胞程に大きな値に増大させることによって影響されなかったという観測により強められる(データは示さない)。蛋白質合成を停止する遺伝情報についての一層ありそうな源は細胞それ自体である。
【0080】
ニューロナルオリジンの細胞から成長因子を奪取すると、プログラムされた細胞死になり、これは、初め蛋白質合成を停止し、次いでDNAを切断することによって表われることが報告された。リンパ球におけるアポトシスは、DNAの分解により表わされる。その他のヘルペスウイルスの場合、Epstein−Barrウイルスで感染されたBリンパ球では、ウイルス性LMP−1 遺伝子の産物がプログラムされたリンパ球死を排除する宿主遺伝子Bcl−2を含むことが示された(Henderson等、Cell 65:1107〜1991)。これより、ニューロナル細胞におけるウイルス性DNA合成の開始が蛋白質合成の停止によってプログラムされた細胞死を誘発すること及びHSV−1 γ134.5遺伝子がこのリスポンスを排除することは明らかである。
【0081】
ニューロナルストレスへのリスポンスを排除するHSV−1遺伝子の発生は驚くべきことではない。ニューロン、特に感覚ニューロンの感染は、HSV−1を潜伏のままにしかつヒト固体群において生き残るのを可能にさせるウイルス性繁殖ライフスタイルの本質的な特徴である。本発明者等が提案する通りに、γ134.5遺伝子の機能が細胞死を排除することであるならば、HSVは通常神経細胞を感染させるので、遺伝子の標的はリンパ球よりもむしろニューロンになろう。
【0082】
γ134.5遺伝子はいくつかの異常な特徴を有する。遺伝子は、よくTATAA−転写性の一層小さいユニットに関連される慣用のTATAAボックス或はリスポンスエレメントを欠く。遺伝子の発現を可能にする配列は長さ12bpであるが、この実験室で使用する野生型株では3回程多く反復させる。どこか他で報告された種々のアッセイは、非ニューロナル誘導の細胞において産生される遺伝子産物の量がほとんどのウイルス性遺伝子により発現される量に比べて少なくかつウイルス性DNA合成の不存在において作成される蛋白質の量がその存在において作成される蛋白質の量に比べて少なかったことを示す。遺伝子はアミノ酸263の蛋白質をコード化することが予想される。それはトリプレットAla−Thr−Proを10回反復させて含有し、細胞質において蓄積する。最近の記録は、γ134.5蛋白質のカルボキシル末端の近くの63アミノ酸残基が、インターロイキン6によって区別を生じさせられる骨髄性白血病細胞系統において見出されるマウス蛋白質MyD116とアイデンティティ83%を共有することを示す(Lord等、Nucleic Acid Res.18:2823、1990)。MyD116の機能は知られていない。上に提示した結果は、γ134.5遺伝子の産物である蛋白質ICP34.5が極めて明瞭にSK−N−SH神経芽細胞腫細胞において持続した蛋白質合成を可能にすることを立証し、かつ遺伝子の発現がアポトーシスを排除するのに十分であることは明らかである。
【0083】
γ134.5を発現させるために必須のプロモーター−調節エレメントは、a配列、すなわち直接反復DR2及びDR4並びに特有のUb配列の3つのエレメント内に含有される。ゲル遅延アッセイは、ウイルスの主要な調節蛋白質をコード化するα4遺伝子の産物を、γ134.5遺伝子の発現を調節するエレメントの内のいずれかに結合させることを示すことができなかった。一過性発現アッセイでは、α4或はα0遺伝子の産物 は、γ134.5遺伝子の5’非コード化配列に融合されたチミジン−キナーゼ遺伝子のコード化配列からなるキメラリポーター遺伝子をトランスアクチベートさせることができなかった。リポーター遺伝子は、α4及びα0の両方の遺伝子を含有するプラスミドによるコ−トランスフェクションによって誘発されたが、比較的低いレベルであった。α27遺伝子をコード化するプラスミドは、単独でトランスフェクトされるキメラリポーター遺伝子の発現に影響を与えなかったが、それはα4及びα0遺伝子を含有するプラスミドによりキメラリポーター遺伝子の誘発を低減させた。
【0084】
例2−プログラムされた細胞死(アポトーシス)の遺伝子治療による処置
本例では、アポトーシスの予防或は処置に向けるγ134.5遺伝子治療を記載する。本例のために、突然変異させたHSV−1ウイルスを、遺伝子をプログラムされた細胞死を受ける或は受けようとするニューロナル細胞に導入するためのベクターとして提案する。また、本発明のこの実施態様は、レトロウイルス性ベクター及びワクシニアウイルスであって、それらのゲノムをウイルスを非病原性にさせるように別の方法で処理したものを含む別のウイルス性或はファージベクターを使用して実施し得ることももくろむ。そのようなウイルス性突然変異を生じる方法は米国特許第4,769,331号に詳細に記載されており、同特許を本明細書中に援用する。その上、また、本発明のこの実施態様は、任意の遺伝子であって、その発現が遺伝子治療において有利なものを使用して実施し得、かつ非HSVウイルスの使用が非神経システムにおいて遺伝子治療を可能にすることももくろむ。
【0085】
単純疱疹ウイルスはヒトCNS組織について天然の向性を有する。ウイルスは、野生型条件下で、神経システムにおいて複製及び繁殖することができかつニューロ毒性である。ウイルスは、また、ニューロンにおいて潜在感染を確立することができかつ時折再活性化されることができる。遺伝子をニューロンの中に送達するベクターを樹立するには、提案したHSVベクターの構成体は下記の基準を満足しなければならない:1.そのようなベクターはCNS及び脳組織について天然の向性を有すべきである。2.そのようなベクターは非病原性、すなわち完全に無毒性であるべきでありかつ再活性化して感染を引き起こし得るべきでない。3.そのようなベクターは、ニューロ退化を受ける細胞における細胞死を防ぐために、γ134.5の構成発現からなるべきである。4.3においてそのように提案したそのようなベクターは、遺伝子治療のために更に外来の遺伝子を装入するのに適している。
【0086】
物質及び方法
α4遺伝子において突然変異性病巣を有するHSVベクターを構築する。提案したウイルスは、もはやCNSにおける潜在感染から複製、繁殖及び再活性化することができない。ウイルスは、α4遺伝子の不存在において、ニューロンにおいて潜在感染を樹立することができる。このウイルスは、α4発現性細胞系統を含有するプラスミドによるウイルス性DNAのコ−トランスフェクションによって得ることができる。α4発現性細胞系統及びウイルスは前に報告された。DeLuca等、J.Virol.,56:558〜570(1985)。
【0087】
加えて、構成発現プロモーター下でγ134.5遺伝子を有するそのようなHSVベクターもまたもくろむ。この構成発現プロモーターはHSV LATプロモーター、レトロウイルスのLTRプロモーター或は天然の遺伝子発現のために特異的な任意の他の外来のプロモーターにすることができる。適当に導入したそのようなウイルス性ベクターは、アポトーシスを受けるニューロナル細胞における細胞死を防ぐのに適している。
【0088】
その上、ウイルス性ゲノム上の中性位に装入した外来の遺伝子を有するそのようなHSVベクターは、外来の遺伝子を標的ニューロンに送達しかつCNS遺伝子治療するために適している。上記の組み換えウイルスを産生するための手順は、Post及びRoizman(Cell、25:227、1991)(本明細書中に援用する)により発表されたものである。また、米国特許第4,769,331号(本明細書中に援用する)も参照。
【0089】
突然変異させたHSV−1ウイルスを使用するのが適している場合では、ウイルスを緩衝生理食塩水のような製薬上許容し得るキャリヤーと組み合わせ、末梢神経末端であって、それらの軸索がアポトーシスを受ける或は受けようとする神経細胞体から始まるものの部位に注入することができる。医学分野の当業者ならば認める通りに、ウイルスの投与量は、取り分け、治療を必要とする細胞を標的にするベクターの能力(その程度に、遺伝子は標的細胞において発現される)及び発現された蛋白質の活性を含むいくつかの要因に応じて変わることになる。ホスフェート緩衝塩或はスキムミルク中にウイルスおよそ104〜105を含有する接種材料は、マウスにおいて好結果を生じた。そのように注入したウイルスは、末梢神経末端の中に吸収され、次いで逆向性軸索輸送によりニューロナル細胞体に輸送される。そのような末梢注入が有用でない或は適していない場合には、ウイルスの局在髄腔内或は心室内注入、もしくは直接微小注射を利用することができる。
【0090】
適当に変えた非HSVウイルス、すなわちウイルスを非病原性にさせるような方法で処理したゲノムを有するウイルスを同様にして使用することができる。逆向性軸索輸送により細胞体に送達するための直接微小注射或は末梢注入はウイルス性送達についての任意選択になる。最後に、また、生物学的機能的等価遺伝子を、本例に記載する任意のベクターにおいて遺伝子治療用に利用し得ることにも留意すべきである。
【0091】
例3−γ134.5遺伝子をCNSに送達するための多能神経細胞系統の使用
CNS及び脳組織へのウイルス性ベクター送達システムに加えて、最近生体外通過させた細胞系統を使用しかつこれらの細胞を動物に戻して植えつける別のベクターシステムが開発された。これらの手順は、胎児或は生後のCNSオリジンの細胞を採取し、それらを生体外で不滅にしかつ変換しそして細胞をマウス脳の中に戻して移植することを伴う。これらの細胞は、植えつけた後に、通常の脳細胞発達の移動パターン及び環境キューに従い、非腫瘍形成性の、細胞構造的に適した方法で分化する。この研究は、顕著にはSnyder等、Cell、68:33〜51,1992及びRanfranz等、Cell、66:713〜729,1991のいくつかの論文において例証された。適当に改正した技術を利用して、γ134.5遺伝子を単独で或は関心のあるその他の遺伝子と組み合わせて細胞の中に導入して植えつけることが可能である。このような手順は遺伝子をその天然の部位に送達するのを可能にする。これらのニューロンにおけるγ134.5遺伝子の適した発現は、神経退化における細胞死を防ぎかつ遺伝子治療に適した外来遺伝子を運ぶ細胞を保存することになる。
【0092】
物質及び方法
小脳細胞系統の増殖 小脳細胞系統は、Ryder等(J.Neurobiol.21:356〜375、1990)により記載される通りにして産生する。系統を、ポリ−L−リシン(PLL)(Sigma)(10μgml)被覆された組織培養皿(Corning)上の牛胎児血清(Gibco)10%、馬血清(Gib−co)5%及びグルタミン2mMを補ったダルベッコの改変イーグル培地で増殖させる。系統を標準の調湿した37℃のCO25%−空気インキュベーター内に保ち、これらに集約的培養からの状態調節した培地半分及びフレッシュ培地半分を週1回供給するかもしくは週1回或は週2回分けて(1:10〜1:20)フレッシュ培地にするかのいずれかにする。
【0093】
γ134.5遺伝子による小脳始原系統の形質導入 関心のある細胞系統の現世の1:10スプリットを60mm組織培養プレートにプレートする。プレートして24〜48時間した後に、細胞を、γ134.5遺伝子を単独で或は遺伝子治療に適したその他の遺伝子と組み合わせて導入するために、−myc遺伝子(106〜107コロニー形成性ユニット[cfu]/ml)+8μg/mlポリブレン(polybrene)を含有する複製−機能不全(incompetent)レトロウイルス性BAG、並びにネオマイシンG418マーカーと共に1〜4時間インキュベートする。次いで、細胞をフレッシュ供給培地において、細胞が少なくとも2つの倍加を受けたように見えるまで、およそ3日間培養する。次いで、培養をトリプシン化し(trypsi−nized)、低い密度(100mm組織培養皿上の細胞50〜5000)で播種する。およそ2週間した後に、プラスチッククローニングシリンダー内のトリプシンに短時間暴露することによって、良く分離されたコロニーが単離される。コロニーを24−ウエルPLL被覆したCoStarプレートにおいて平板培養する。これらの培養を、集密において、60mm組織培養皿に通過させ、消費させる。各々のサブクローンからの代表的な皿を、X−gel組織化学を用いて組織培養皿において直接染色する(Price等、1967;Cepko、1989a、1989b参照)。青色細胞のパーセンテージを顕微鏡下で求める。青色細胞を最も高いパーセンテージ(理想的には>90%;少なくとも>50%)で有するサブクローンを保ち、特性表示し、移植するために使用する。
【0094】
ウイルス感染についてのテスト ヘルパーウイルスの存在を、Goff等(1981)によって記載される通りにして細胞系統の上澄み中の逆転写酵素活性を測定することによりかつNIH 3T3細胞を感染させてX−gal+コロニーのG418耐性コロニーを産生する能力をテストする(Cepko、1989a、1989bに詳述されている)ことによって、アッセイする。移植用に用いる小脳細胞系統はすべて、これらの方法によって判断される通りに、ヘルパーウイルスが存在しない。
【0095】
神経細胞系統の一次小脳組織との共培養(cocu−lture) 新生マウス小脳の一次の解離された培養をRyder等(1990)の通りにして調製し、PLL被覆した8チャンバーLab Tekガラス或はプラスチックスライド(Miles)当り細胞2×106〜4×106の密度で播種する。細胞が沈降した後(通常24時間)、関心のある神経細胞系統のほぼ融合性の10cm皿10%を、トリプシン化した後に、スライドに播種する。共培養を、8或は14日の共培養まで、CO250%−空気の調湿したインキュベーターにおいて、隔日に再供給して増殖させる。
【0096】
移植用細胞系統の調製 ドナー細胞のほぼ融合性であるが、依然活性に増殖する皿からの細胞をホスフェート緩衝塩水(PBS)で2回洗浄し、トリプシン化し、血清含有培地において広い孔径のピペットで穏やかに研和し(トリプシンを不活性にするため)、穏やかにペレット化し(円筒形遠心機において1時間1100rp)、かつPBS5ml中に再懸濁させる。フレッシュPBSをペレット化しかつ再懸濁させることによる洗浄を2回反復し、細胞を最終的に容積の減少したPBS中に再懸濁させて高い細胞濃度(細胞少なくとも1×106/1μl)を生じる。トリパンブルー(0.05% w/v)を加えて接種材料を局限する。懸濁体を、穏やかではあるが、良く研和させ続け、氷上に保った後に移植して凝集を最少にする。
【0097】
生後の小脳への注入 新生児のCD−1或はCF−1マウスを冷凍麻酔し、頭を徹照することによって局限する。細胞を、斜角を付けた33ゲージ針を有するHamilton社製10μl注射器か或はFla−ming Brown Micropipette Puller(商標)によりボロシリレート毛管チュービング(メイン、ブランズウイック在FHC)から下記のパラメータ:熱750、引張力0、速度60、時間0を用いて生成された内直径0.75mm及び外直径1.0mmを有する引板ガラスマイクロピペット(Model p−87、Sutter Instruments社製)のいずれかによって投与する。最良の結果はガラスマイクロピペットにより達成される。チップを皮膚及び頭蓋骨を通して小脳の各々の半球及び虫部の中に装入し、そこで細胞懸濁液を注入した(通常1〜2μl/注入)。典型的には、下記の状態が存在すべきである:細胞1×107/懸濁液1ml;細胞×106〜2×106/注入;各々の小脳半球において及び虫部において1注入。重要なことに、凝集を少なくしかつ細胞を懸濁させ続けるために、細胞懸濁液を氷上にずっと保ち、各々の注入の前に穏やかに研和する。
【0098】
BAGウイルスの注入を細胞懸濁液について記載した通りにして行なった。BAGウイルス株(8×107G418耐性cfu/ml)は、トリパンブルーに加えて、ポリブレンを8μg/ml含有していた。
【0099】
例4−プログラムされた細胞死(アポトーシス)のICP34.5による処置
例2及び3において例示するために記載した遺伝子治療法の代替として、プログラムされた細胞死を受ける或は受けようとするニューロナル細胞を、また、γ134.5遺伝子、すなわちICP34.5によって発現した蛋白質を用いて治療することもできる。別法として、生物学的機能的等価蛋白質をかかる治療において使用することができる。
【0100】
例えば、ICP34.5を蛋白質を発現する細胞から単離し、Ackerman等(J.Virol.,58:843〜850、1986、本明細書中に援用する)によって記載される慣用のクロマトグラフィー精製及びイムノアフィニティー精製法を用いて精製する。次に、精製した蛋白質を、緩衝生理食塩水或は精製蒸留水のような製薬上適したキャリヤーと組み合わせる。製薬組成物は、投与するために、適する通りに下記のいくつかの方法の内の一つで注入することができる:(i)髄腔内注入;(ii)心室内注入;(iii)プログラムされた細胞死を受ける或は受けようとするニューロンを含有する領域への直接注入或は当業者により理解されるその他の任意の適した投与方法。そのような治療は切断された抹消神経を外科修復する際に特に適しており、蛋白質を治療剤として使用することは、本明細書に鑑みて、医学分野における現行の技術レベルの十分範囲内である。
【0101】
例5−プログラムされた細胞死(アポトーシス)を防ぐための候補物質のアッセイ
単純疱疹ウイルスのγ134.5遺伝子はウイルスを中枢神経システム及び脳において複製し、繁殖し及び広がるのを可能にし、それでウイルスは宿主に対してニューロ毒性になる。その遺伝子を欠いた組み換えウイルスは、宿主のCNSを浸透させるこの能力を失って、完全に無毒性になる。培養においてこの無毒性表現型の性質を調べる際に、その遺伝子を欠いた突然変異ウイルスはプログラムされた細胞死を特性表示する全トランスレーション停止表現型を示した。宿主細胞によって与えられるプログラムされた細胞死のこの機構は、ウイルスが繁殖しかつ広がる能力を大きく低減させた。従って、ウイルスにおけるγ134.5の機能は、細胞のプログラムされた死を不活性化し(抗アポトーシス)、従ってトランスレーションを回復しかつウイルスを宿主において完全なポテンシャルに複製させるのを可能にすることである。
【0102】
γ134.5のこの抗アポトーシス作用を更に調べ、神経細胞をアポトーシスに至る他の環境ストレスから保護するそれの能力を見出した。これらの環境ストレスはUV、神経成長因子奪取及びニューロナル細胞分化を含む。本例は、γ134.5遺伝子及びγ134.5の生体内機能に良く似た製薬剤及び薬剤についてスクリーンするそれの保護機能を用いてニューロ退化を予防することを記載する。このようなスクリーニング手順 は、γ134.5を発現する細胞系統及び遺伝子を持たないヌル細胞系統の構築並びにリポーター遺伝子を誘発することによりストレス処理した後の細胞の生存度の測定を構成する。これは蛍光インジケーターを付けた宿主遺伝子プロモーター或は生存度を信号で知らせるその他の任意の容易にアッセイし得るマーカーにすることができる。
【0103】
物質及び方法
γ134.5を構成発現しかつ蛍光を付けた(例えば、lacZに融合されたa配列プロモーター)細胞性遺伝子、或は生存度を信号で知らせる容易にアッセイし得るマーカーになる任意の標識を含有するテスト神経芽細胞腫細胞系統を樹立する。また、a−lacZインジケーター遺伝子及び同じ宿主インジケーター遺伝子からなる神経芽細胞腫ヌル細胞系統を、a−lacZインジケーター遺伝子及び同じ宿主インジケーター遺伝子からなるVero細胞系統と共に樹立する。次いで、通常、(1)a配列プロモーター活性化を誘発し;(2)ストレス処理した後に生存度が信号で知らされる通りにγ134.5によって与えられる保護を誘発し;及び (3)γ134.5の不存在において細胞プログラムされた死を誘発することになる環境ストレスをかける。ポジティブ候補を評価するためのアッセイの提案スキームを表2に概略形態で示す。
【0104】
【表2】
【0105】
例6−癌或は腫瘍形成性疾患を治療する及びHSV感染をおさえるためにプログラムされた細胞死(アポトーシス)を活性化するの候補物質のアッセイ
腫瘍細胞において細胞死を誘発させるために、抗アポトーシス遺伝子の発現或は遺伝子によって発現された蛋白質の活性をブロックするのが望ましい。それ故に、腫瘍細胞において細胞死を誘発させる候補物質についてスクリーニングを可能にすることになる手順を開発するのが望ましい。加えて、HSV−1のγ134.5遺伝子の発現はニューロナル細胞においてアポトーシスを防ぐのが示され、それでウイルスはCNSにおいて複製、繁殖し及び広がることができる(すなわち、それでウイルスはニューロ毒性になることができる)ので、γ134.5発現をブロックする或はICP34.5の作用を抑制することができる物質は、アポトーシスを感染されたニューロンにおいて生じさせることによって、HSVニューロ毒性(或は同様の機構によるその他のウイルスの毒性)を抑制するものと予期することができる。
【0106】
γ134.5によって与えられる保護はその他の細胞を環境ストレスから保護するのに拡張することができることが見出され、実際、遺伝子は一般化された抗アポトーシス作用を有する。遺伝子γ134.5についてのプロモーターはHSVのa配列中にあり、ストレスの時に、プロモーターは活性化される。a配列プロモーターはアポトーシスリスポンシブエレメントを含有し、抗アポトーシス遺伝子の発現を伝達する細胞性因子(特に、転写因子)は性質がアポプトチックであると仮定することができる。従って、これらの細胞性因子は、抗アポトーシス遺伝子を誘発するそれらの能力を不活性にする薬剤或は剤についてスクリーンするための本アッセイの目標物になる。アッセイはa配列プロモーター並びにアポトーシスを、抗アポトーシス遺伝子の発現をブロックすることができ、従って細胞をプログラムされた細胞死で死なせることができる治療剤及び薬剤についてスクリーンするインジケーターアッセイとして誘発させる条件によるその誘発性を使用することを伴う。
【0107】
a配列及びγ134.5の28番目のアミノ酸までのコード化配列を持つテストプラスミド構造をlacZリポーター遺伝子或はその他の任意の容易にアッセイし得るリポーター遺伝子に融合させる。その構造をG418選択により神経芽細胞腫或はPC12細胞系統の中に導入し、スクリーンするためのクローンかつ連続した細胞系統を樹立する。通常細胞系統において発現されず、更にアポトーシス誘発性ストレスによって発現するように誘発されないプロモーターであるHSV後期プロモーターを持つ対照プラスミド構造を同じインジケーター遺伝子に融合させる。この構造をまた連続したクローン細胞系統の中にも導入してテスト細胞系統についての対照として働らかせる。次いで、a配列プロモーター活性化を誘発しかつプログラムされた細胞死を引き起こす環境ストレスを規定する。これらの状態は、取り分け、UV障害、ウイルス感染、神経成長因子奪取及び抗体の細胞表面レセプターに与える影響を含む。次いで、候補物質或は製薬上適した薬剤及び剤を、ストレスの時にa配列プロモーター活性化をブロックするそれらの能力についてアッセイでテストする。
【0108】
本発明のアッセイは、抗アポトーシス遺伝子の発現を誘発する種々の細胞性因子に目標を定めた製薬上適した薬剤及び剤をスクリーンしかつ同定するのを可能にする。これらの剤は、本質的な細胞性因子を不活性にすることにより、細胞プログラムされた死を起きさせることができるべきである。このようなポジティブ候補を、次いで、腫瘍細胞において、ヘルペスウイルスで感染されたニューロンにおいて、或はウイルスであって、それの毒性が抗アポトーシス作用に依存するもので感染された細胞においてプログラムされた細胞死を誘発するために、適当に投与する(静脈内、くも膜下、或は直接注入により、もしくは経口投与により)。蛋白質及びその他の化学療法物質を抗腫瘍治療において用いることは当分野において良く知られており、従って、腫瘍形成性疾患(例えば、癌)或はヘルペス感染を治療するための候補物質の使用及び投与量は、本明細書に鑑みて、医学分野の現在の状態の技術の十分範囲内である。米国特許第4,457,916号;同第4,529,594号;同第4,447,355号;及び同第4,477,245号(これらはすべて本明細書中に援用する)参照。これらのポジティブ候補は、また、細胞プログラムされた死に至る経路において中間体の身元を確認するのにも用いることができる。
【0109】
物質及び方法
コラーゲンを被覆した96ウエル培養皿においてW5細胞系統を樹立する。プロモーター融合エレメントを含有する対照細胞系統もまたかかる96ウエル皿において樹立する。テスト候補物質を、96ウエル皿において生じさせたテスト及び対照の両方の細胞系統を収容する個々のウエルにおける媒体に加える。次いで、細胞をUV或はその他のストレスに短時間曝す。ストレス誘発して8時間した後に、細胞をPBS−Aで2回洗浄し、PBS中にホルムアルデヒド2%(v/v)及びグルタルアルデヒド0.2%を含有する0.5mlを用いて室温で5分間固定させる。細胞を再びPBSですすぎ、次いでPBS中2mlの5mMフェロシアン化カリウム、5mMフェロシアン化カリウム、2mM MgCl2及び1mg/mlのX−gal(ジメチルスルホキシド中の40mg/ml株溶液から希釈した)で染色する。37℃で2〜3日間インキュベートした後に、β−ガラクトシダーゼを発現する細胞が青色に染色された。
【0110】
結果
lacZリポーター遺伝子に関して上記した構造をPC12細胞系統に導入した。新しい細胞系統W5をG418選択によってクローン樹立した。次いで、W5細胞系統を上記3に挙げた最適以下の(sub−optimal)条件下でa配列プロモーターの活性化についてテストした。結果は下記の通りである:(a)上記の細胞は、UVに2分間簡潔に暴露した場合、UV暴露して6〜10時間後に固定された細胞をX−galで染色する際に、青色に変わる。(b)上記の細胞は、HSV−1(F)ウイルスに感染の多重度5で暴露した場合、感染して8時間後に染色する際に、また青色に変わる。(c)上記の細胞は、神経成長因子(ラット、7s)を媒体に導入して分化プロセスを可能にする場合に、明るい青色に変わる。(d)分化が完了した後に、神経成長因子を媒体から取り出すと、細胞は一層暗い青色に変わり、細胞は生存について神経成長因子に依存するようになった。(e)血清(牛胎児血清0%)が不足した細胞及び牛胎児血清10%において充分に供給したものでは、発色の差はほとんど或は全く見られない。(f)上記の実験を、毒性誘発される細胞死よりもむしろ抗アポトーシス遺伝子発現を真に抑制するために調節する対照プロモーター融合エレメントに関して、反復する。従って、この手順により、細胞において細胞死を誘発することができるポジティブ候補は下記の表現型を与えることになる:(i)この物質の不存在においてストレスをテスト細胞系統に導入すると青色の細胞を生じることになる。(ii)同じ物質の存在においてストレスをテスト細胞系統に導入すると白色細胞を生じることになる。(iii)ストレスをこの推定物質を有する或は有しない対照細胞系統に導入しても細胞の色に影響を及ぼさない。
【0111】
本発明を、発明者等が発明を実施するための最良モードと考える特定の実施態様に関して開示した。しかし、種々の分野の当業者は、本明細書中に挙げる開示に鑑みて、発明の意図する範囲から逸脱しないで変更をなすことができることを認めるものと思う。本明細書中に記載する例示の実施態様並びにその他の変更及び実施態様は、本発明及び添付の請求の範囲の範囲及び精神の内に入ることを意図する。
【0112】
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1A】HSV−1F株(配列番号1〜5)、17syn+株(配列番号:6〜9)、MGH−10株(配列番号10〜15)、及びCVG−2株(配列番号16〜20)のICP34.5の遺伝子領域(左パネル)及びこれらの株におけるICP34.5(配列番号25〜34)の予測されるオープンフレーム(右パネル)のDNA配列であり、番号665までの塩基配列を示す。
【図1B】図1AのDNA配列の、番号666〜1335までの塩基配列を示す。図1Cは、対応するアミノ酸199までの配列であり、図1Dは、対応するアミノ酸200以降の配列である。
【図1C】図1AのDNA配列の、対応するアミノ酸199までの配列を示す。
【図1D】図1AのDNA配列の、対応するアミノ酸200以降の配列を示す。
【図2】野生型株であるHSV−1F株[HSV−1(F)]及びそれに由来する組換えウイルスのゲノムの配列配置を示す。
【図3】電気泳動で分離したプラスミッド(野生型及び突然変異ウイルスDNA)の消化物(固体支持体にトランスファーしてγ134.5及びtk遺伝子の存在に対する標識プローブとハイブリダイズさせたもの)のオートラジオグラフィー像を示す。
【図4】オートラジオグラフィー像(左パネル)及びHSV−1(F)及び組換えウイルスに疑似感染(M)又は感染した細胞の溶解物の写真(右パネル)を示す。
【図5】HSV−1F株[HSV01(F)]及び関連変異体のゲノム構造及び配列配置を図示する。
【図6A】規定の35S−メチオニンで90分間標識した、7時間感染の感染細胞の電気泳動で分離した溶解物のオートラジオグラフィー像を示す。
【図6B】規定の35S−メチオニンで90分間標識した、13時間感染の感染細胞の電気泳動で分離した溶解物のオートラジオグラフィー像を示す。
【図7】変性ゲル中にて電気泳動で分離した標識したポリペプチドのオートラジオグラフィー像及び抗体との反応性により可視化された蛋白質のバンドの写真を示す。
【図8】ホスホノアセテート(PAA)の存在又は不在下での、SK−N−SH神経芽細胞種細胞系統への感染の間に発現されたウイルス蛋白質のオートラジオグラフィー像を示す。
【図9】ウイルス性DNA及びRNAの感染SK−N−SH神経芽細胞腫及びVero細胞培養内の蓄積を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現可能なγ134.5遺伝子を欠く単純ヘルペスウイルスベクターを含む哺乳動物の腫瘍形成性疾患の治療剤。
【請求項2】
γ134.5遺伝子がリーディングフレーム中に停止コドンを含む、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
γ134.5遺伝子が欠失変異を含む、請求項1に記載の治療剤。
【請求項4】
単純ヘルペスウイルスベクターがHSV−1である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項5】
単純ヘルペスウイルスベクターがHSV−2である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項6】
前記の腫瘍形成性疾患の腫瘍に直接注射により投与する、請求項1に記載の治療剤。
【請求項7】
腫瘍形成性疾患が中枢神経系の腫瘍形成性疾患である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項1】
発現可能なγ134.5遺伝子を欠く単純ヘルペスウイルスベクターを含む哺乳動物の腫瘍形成性疾患の治療剤。
【請求項2】
γ134.5遺伝子がリーディングフレーム中に停止コドンを含む、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
γ134.5遺伝子が欠失変異を含む、請求項1に記載の治療剤。
【請求項4】
単純ヘルペスウイルスベクターがHSV−1である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項5】
単純ヘルペスウイルスベクターがHSV−2である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項6】
前記の腫瘍形成性疾患の腫瘍に直接注射により投与する、請求項1に記載の治療剤。
【請求項7】
腫瘍形成性疾患が中枢神経系の腫瘍形成性疾患である、請求項1に記載の治療剤。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−335763(P2006−335763A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179944(P2006−179944)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【分割の表示】特願平5−517439の分割
【原出願日】平成5年2月26日(1993.2.26)
【出願人】(506183867)アーチ デベロプメント コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【分割の表示】特願平5−517439の分割
【原出願日】平成5年2月26日(1993.2.26)
【出願人】(506183867)アーチ デベロプメント コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】
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