説明

還元有機物質を用いた表面改質電極及びデバイス

【課題】 還元有機物質を含んでなる電気光学デバイス及び表面改質電極を提供する。
【解決手段】 還元有機物質は電極表面の仕事関数を低下させると共に、電子活性でもある。これらの能力は、効率の高い電気光学デバイスの製造での使用を容易にする。電気光学デバイスは、少なくとも、第一の導電層、第二の導電層、並びに第一及び第二の導電層の間に配設された還元有機物質の電子活性層を有している。表面改質電極は、1以上の導電層及び1種以上の還元有機物質を含んでなる。有機電子活性物質を用いて電気光学デバイスを製造する方法、及び電気光学デバイスを動作させる方法も開示される。還元ポリマー物質を含んでなる被覆組成物及び被覆物品も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には還元有機物質を含む表面改質電極及びデバイスに関する。さらに本発明は、表面改質電極を製造するために適した被覆組成物、及びかかる表面改質電極を含む電気光学デバイスに関する。さらに本発明は、エレクトロルミネセンスを示す1以上の電子活性層を有する電気光学デバイスに関する。さらに詳しくは、本発明は還元有機物質を含むかかる電子活性層に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学デバイスは、コンピューターディスプレイ、グラフィックディスプレイ、標識ディスプレイ、看板やビジュアルサイン、照明、光検出器などの様々な電子製品で使用されることがある。電気光学デバイスの例には、エレクトロルミネセンスデバイス及び有機発光電気化学セルがある。一般に、電気光学デバイスの設計及び動作には、光エネルギーと電気エネルギーとの間の変換の原理が組み込まれている。その上、電気光学デバイスの設計及び動作は、一部では電気光学デバイス中における電極と隣接媒体との間での電荷輸送に依存している。残念ながら、電極(例えば、陰極)と隣接媒体(例えば、光を放出する活性層)との間での電荷輸送の効率が悪いと、電気光学デバイスの動作に問題が生じることがある。
【0003】
エレクトロルミネセンス(「EL」)デバイスは、有機又は無機として分類できる電気光学デバイスである。エレクトロルミネセンスデバイスは多くの用途のために様々な形状で製造されてきており、グラフィックディスプレイ及びイメージング技術の分野で公知である。特に、最近開発された有機ELデバイス(「OELD」)は、無機ELデバイスに比べて電子輸送に対する障壁の低下を示し、したがって低い活性化エネルギー及び高い輝度の利益を与える。加えて、OELDは一般に無機ELデバイスよりも製造が簡単である。その結果、OELDは一層広汎な用途にとって有望である。しかし、OELDについては、その電極(例えば、陰極)と活性層との間での電子輸送又は電荷輸送に対する障壁をさらに低下させることが有益であろう。
【0004】
OELDは、通例はガラス又はプラスチックのような基体上に形成された薄膜構造物である。有機EL物質の発光層及び任意の隣接有機半導体層が陰極と陽極との間にサンドイッチされる。有機半導体層は有機物質を含み、正孔(正電荷)注入層又は電子(負電荷)注入層であり得る。OELDの発光層用の材料は、様々な波長の光を放出する多くの有機EL物質から選択できる。その上、発光有機層は複数の二次層を含むことができ、その各々は例えば異種の有機EL物質を有し得る。通常、最新の有機EL物質は可視スペクトル中の狭い波長範囲を有する電磁(「EM」)放射を放出し得る。特記しない限り、「EM放射」及び「光」という用語は、一般に紫外(「UV」)から中赤外(「mid−IR」)までの範囲内の波長、換言すれば約300ナノメートルから約10マイクロメートルまでの範囲内の波長を有する放射を意味するために本明細書中で互換的に使用されることに注意すべきである。
【0005】
通例、大抵の最新デバイスで使用される電子活性物質は1種以上の非ドープ又は非修飾有機物質を含んでいる。即ち、これらの有機物質は化学的に修飾されていない。かかる非修飾有機物質は、電流を流すことで固有の発光を示す。固有EL有機物質の界面ドーピングは、電極からの電荷注入を向上させることが知られており、これは一般に固有EL有機物質上に反応性金属を蒸着することで達成されてきた。しかし、界面ドーピング操作は固有EL有機物質の損傷を引き起こすばかりでなく、そのホトルミネセンス挙動に悪影響を及ぼしてデバイスの総合性能を損なうこともある。
【0006】
電子活性有機物質層と電極との間の電荷注入に対する障壁を低下又は排除することは、デバイス効率を高める。アルカリ金属及びアルカリ土類金属のような、低い仕事関数を有する金属は、電子注入を促進するため陰極材料中にしばしば使用される。しかし、これの金属は環境への暴露時に劣化を受け易い。したがって、陰極材料としてこれらの金属を用いたデバイスは、厳格なカプセル封入を必要とする。光電池及び有機発光電気化学セル(LEC)のような他の電気光学デバイス又はオプトエレクトロニックデバイスについても、活性層と隣接陰極との界面を通しての電子輸送に対する障壁を低くすることは有益であり得る。
【特許文献1】米国特許第4769292号
【特許文献2】米国特許第5294870号
【特許文献3】米国特許第5998803号
【特許文献4】米国特許第6023371号
【非特許文献1】Hiroyuki Suzuki et al.,“Near−Ultraviolet Electroluminescence From Polysilanes”,Elsevier,Science S.A.,Thin Solid Films,Volume 331,pp.64−70,1998.
【非特許文献2】Ullrich Mitschke et al.,“The Electroluminescence of Organic Materials”,J.Mater.Chem.,Volume 10,pp.1471−1507,2000.
【非特許文献3】P.F.Gordon et al.,“Organic Chemisty in Colour”,Springer−Verlag,Berlin,pp.95−108,1983.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
比較的低い電流密度及び短いターンオン時間での高いデバイス効率(例えば、光出力)などの良好な性能特性を有する電気光学デバイスを製造するために使用できる電子活性物質及び方法に対するニーズが存在している。特に、電荷注入障壁を低下させることで、電気光学デバイス中における電子活性有機物質層と電極との間での電荷注入を容易にすると同時に、デバイスの長期安定性を実質的に保ち続ける物質に対するニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
簡単にいえば、本発明の一態様では、第一の導電層と、第二の導電層と、第一及び第二の導電層の間に配設された電子活性層とを含んでなる電気光学デバイスが提供される。電子活性層は第一の有機電子活性物質を含み、第一の有機電子活性物質は還元有機物質を含んでいる。
【0009】
本発明の別の実施形態では、陰極と、陽極と、陰極及び陽極の間に配設された電子活性層とを含んでなる電気光学デバイスであって、電子活性層が還元ポリフルオレンを含む電気光学デバイスが提供される。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態では、電気光学デバイスの作製方法が提供される。この方法は、第一の導電層と第二の導電層との間に電子活性物質の層を配設することを含んでなり、電子活性物質は第一の電子活性有機物質を含み、第一の電子活性有機物質は還元有機物質を含んでいる。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、1種以上のカチオン化学種及び還元有機物質を含んでなる電子活性有機物質であって、前記還元有機物質が対応する還元可能な中性前駆体に比べて1以上の追加電子を含む電子活性有機物質である。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、複数の電気光学デバイスを含んでなるディスプレイをなす装置である。電気光学デバイスの1以上は第一の有機電子活性物質を含み、前記第一の有機電子活性物質は還元有機物質を含んでいる。
【0013】
別の態様では、本発明は、1以上の導電層と、前記導電層の表面上に配設された1種以上の還元有機物質であって、対応する中性有機前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含む還元有機物質とを含んでなる表面改質電極を提供する。
【0014】
さらに別の態様では、本発明は、1以上の導電層と、1種以上の還元ポリマー有機物質であって、対応する中性ポリマー有機前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含む還元ポリマー有機物質とを含んでなる表面改質電極を提供する。
【0015】
本発明の別の態様は、1種以上の還元ポリマー有機物質であって、対応する中性ポリマー有機前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含む還元ポリマー有機物質と、1種以上の極性非プロトン性溶媒とを含んでなる被覆組成物である。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、表面改質された第一の電極と、第二の電極と、第一の電極及び第二の電極の間に配設されたエレクトロルミネセンス有機物質とを含んでなる電気光学デバイスであって、表面改質された第一の電極が1以上の導電層及び1種以上の還元ポリマー有機物質を含むと共に、還元ポリマー有機物質が対応する中性ポリマー有機前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含む電気光学デバイスである。
【0017】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳しい説明を読んだ場合に一層良く理解されよう。図面中では、すべての図を通じて類似の部分は同じ符号で表されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書及び特許請求の範囲では多くの用語を用いるが、以下の意味をもつものと定義される。
【0019】
単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。
【0020】
「任意」又は「任意には」という用語は、その用語に続いて記載された事象又は状況が起きても起きなくてもよいことを意味しており、かかる記載はその事象が起こる場合と起こらない場合を包含する。
【0021】
特記しない限り、「電磁放射」、「EM放射」及び「光」は本明細書中で互換的に使用され、一般に紫外(「UV」)から中赤外(「mid−IR」)までの範囲内の波長、換言すれば約300ナノメートルから約10マイクロメートルまでの範囲内の波長を有する放射を意味する。
【0022】
本明細書中で使用する「脂肪族基」という用語は、環状でない線状又は枝分れ原子配列からなる原子価1以上の有機基をいう。脂肪族基は1以上の炭素原子を含むものと定義される。脂肪族基をなす原子配列は、窒素、硫黄、ケイ素、セレン及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。便宜上、本明細書中での「脂肪族基」という用語は、「環状でない線状又は枝分れ原子配列」の一部として、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広範囲の官能基を含むものと定義される。例えば、4−メチルペント−1−イル基はメチル基を含むC脂肪族基であり、メチル基はアルキル基である官能基である。同様に、4−ニトロブト−1−イル基はニトロ基を含むC脂肪族基であり、ニトロ基は官能基である。脂肪族基は、同一のもの又は相異なるものであり得る1以上のハロゲン原子を含むハロアルキル基であり得る。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1以上のハロゲン原子を含む脂肪族基には、ハロゲン化アルキルであるトリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ヘキサフルオロイソプロピリデン、クロロメチル、ジフルオロビニリデン、トリクロロメチル、ブロモジクロロメチル、ブロモエチル、2−ブロモトリメチレン(例えば、−CHCHBrCH−)などがある。脂肪族基のさらに他の例には、アリル、アミノカルボニル(即ち、−CONH)、カルボニル、ジシアノイソプロピリデン(即ち、−CHC(CN)CH−)、メチル(即ち、−CH)、メチレン(即ち、−CH−)、エチル、エチレン、ホルミル(即ち、−CHO)、ヘキシル、ヘキサメチレン、ヒドロキシメチル(即ち、−CHOH)、メルカプトメチル(即ち、−CHSH)、メチルチオ(即ち、−SCH)、メチルチオメチル(即ち、−CHSCH)、メトキシ、メトキシカルボニル(即ち、CHOCO−)、ニトロメチル(即ち、−CHNO)、チオカルボニル、トリメチルシリル(即ち、(CH)Si−)、t−ブチルジメチルシリル、トリメトキシシリルプロピル(即ち、(CHO)SiCHCHCH−),ビニル、ビニリデンなどがある。さらに他の例としては、C〜C10脂肪族基は1以上で10以下の炭素原子を含む。メチル基(即ち、−CH)はC脂肪族基の例である。デシル基(即ち、CH(CH)−)はC10脂肪族基の例である。
【0023】
本明細書中で使用する「芳香族基」という用語は、1以上の芳香族原子団を含む原子価1以上の原子配列をいう。1以上の芳香族原子団を含む原子価1以上の原子配列は、窒素、硫黄、ケイ素及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。本明細書中で使用する「芳香族基」という用語は、特に限定されないが、フェニル基、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、ナフチル基、フェニレン基及びビフェニル基を包含する。上述の通り、芳香族基は1以上の芳香族原子団を含む。芳香族原子団は常に4n+2(式中、nは1以上の整数である)の「非局在化」電子を有する環状構造であり、フェニル基(n=1)、チエニル基(n=1)、フラニル基(n=1)、ナフチル基(n=2)、アズレニル基(n=2)、アントセニル基(n=3)などで例示される。芳香族基は、非芳香族成分も含み得る。例えば、ベンジル基はフェニル環(芳香族原子団)及びメチレン基(非芳香族成分)からなる芳香族基である。同様に、テトラヒドロナフチル基は芳香族原子団(C)が非芳香族成分−(CH)−に縮合してなる芳香族基である。便宜上、本明細書中での「芳香族基」という用語は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロ芳香族基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広範囲の官能基を含むものと定義される。例えば、4−メチルフェニル基はメチル基を含むC芳香族基であり、メチル基はアルキル基である官能基である。同様に、4−ニトロフェニル基はニトロ基を含むC芳香族基であり、ニトロ基は官能基である。芳香族基は、トリフルオロメチルフェニル、ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(4−フェン−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CF)PhO−)、クロロメチルフェニル、3−トリフルオロビニル−2−チエニル、3−トリクロロメチルフェン−1−イル(即ち、3−CClPh−)、4−(3−ブロモプロプ−1−イル)フェン−1−イル(即ち、BrCHCHCHPh−)などのハロゲン化芳香族基を包含する。芳香族基のさらに他の例には、4−アリルオキシフェン−1−オキシ、4−アミノフェン−1−イル(即ち、HNPh−)、3−アミノカルボニルフェン−1−イル(即ち、NHCOPh−)、4−ベンゾイルフェン−1−イル、ジシアノイソプロピリデンビス(4−フェン−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CN)PhO−)、3−メチルフェン−1−イル、メチレンビス(フェン−4−イルオキシ)(即ち、−OPhCHPhO−)、2−エチルフェン−1−イル、フェニルエテニル、3−ホルミル−2−チエニル、2−ヘキシル−5−フラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(フェン−4−イルオキシ)(即ち、−OPh(CH)PhO−)、4−ヒドロキシメチルフェン−1−イル(即ち、4−HOCHPh−)、4−メルカプトメチルフェン−1−イル(即ち、4−HSCHPh−)、4−メチルチオフェン−1−イル(即ち、4−CHSPh−)、3−メトキシフェン−1−イル、2−メトキシカルボニルフェン−1−イルオキシ(例えば、メチルサリチル)、2−ニトロメチルフェン−1−イル(即ち、−PhCHNO)、3−トリメチルシリルフェン−1−イル、4−t−ブチルジメチルシリルフェン−1−イル、4−ビニルフェン−1−イル、ビニリデンビス(フェニル)などがある。「C〜C10芳香族基」という用語は、3以上で10以下の炭素原子を含む芳香族基を包含する。芳香族基1−イミダゾリル(C−)はC芳香族基を代表する。ベンジル基(C−)はC芳香族基を代表する。
【0024】
本明細書中で使用する「脂環式基」という用語は、環状であるが芳香族でない原子配列を含む原子価1以上の基をいう。本明細書中で定義される「脂環式基」は、芳香族原子団を含まない。「脂環式基」は1以上の非環式成分を含み得る。例えば、シクロヘキシルメチル基(C11CH−)は、シクロヘキシル環(環状であるが芳香族でない原子配列)及びメチレン基(非環式成分)からなる脂環式基である。脂環式基は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。便宜上、本明細書中での「脂環式基」という用語は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広範囲の官能基を含むものと定義される。例えば、4−メチルシクロペント−1−イル基はメチル基を含むC脂環式基であり、メチル基はアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロシクロブト−1−イル基はニトロ基を含むC脂環式基であり、ニトロ基は官能基である。脂環式基は、同一のもの又は相異なるものであり得る1以上のハロゲン原子を含み得る。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1以上のハロゲン原子を含む脂環式基には、2−トリフルオロメチルシクロヘキス−1−イル、4−ブロモジフルオロメチルシクロオクト−1−イル、2−クロロジフルオロメチルシクロヘキス−1−イル、ヘキサフルオロイソプロピリデン−2,2−ビス(シクロヘキス−1−イル)(即ち、−C10C(CF)10−)、2−クロロメチルシクロヘキス−1−イル、3−ジフルオロメチレンシクロヘキス−1−イル、4−トリクロロメチルシクロヘキス−1−イルオキシ、4−ブロモジクロロメチルシクロヘキス−1−イルチオ、2−ブロモエチルシクロペント−1−イル、2−ブロモプロピルシクロヘキス−1−イルオキシ(例えば、CHCHBrCH10−)などがある。脂環式基のさらに他の例には、4−アリルオキシシクロヘキス−1−イル、4−アミノシクロヘキス−1−イル(即ち、HNC10−)、4−アミノシクロペント−1−イル(即ち、NHCOC−)、4−アセチルオキシシクロヘキス−1−イル、2,2−ジシアノイソプロピリデンビス(シクロヘキス−1−イルオキシ)(即ち、−OC10C(CN)10O−)、3−メチルシクロヘキス−1−イル、メチレンビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(即ち、−OC10CH10O−)、1−エチルシクロブト−1−イル、シクロプロピルエテニル、3−ホルミル−2−テトラヒドロフラニル、2−ヘキシル−5−テトラヒドロフラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(即ち、−OC10(CH)10O−)、4−ヒドロキシメチルシクロヘキス−1−イル(即ち、4−HOCH10−)、4−メルカプトメチルシクロヘキス−1−イル(即ち、4−HSCH10−)、4−メチルチオシクロヘキス−1−イル(即ち、4−CHSC10−)、4−メトキシシクロヘキス−1−イル、2−メトキシカルボニルシクロヘキス−1−イルオキシ(2−CHOCOC10O−)、4−ニトロメチルシクロヘキス−1−イル(即ち、NOCH10−)、3−トリメチルシリルシクロヘキス−1−イル、2−t−ブチルジメチルシリルシクロペント−1−イル、4−トリメトキシシリルエチルシクロヘキス−1−イル、(例えば、(CHO)SiCHCH10−)、4−ビニルシクロヘキス−1−イル、ビニリデンビス(シクロヘキシル)などがある。「C〜C10脂環式基」という用語は、3以上で10以下の炭素原子を含む脂環式基を包含する。脂環式基2−テトラヒドロフラニル(CO−)はC脂環式基を代表する。シクロヘキシルメチル基(C11CH−)はC脂環式基を代表する。
【0025】
本明細書中で使用する「電気光学デバイス」という用語は、一般に電気エネルギーと光エネルギーとの間で変換を行うデバイスをいう。即ち、電気光学デバイスは電気エネルギーを光エネルギーに変換すると共に、光エネルギーを電気エネルギーに変換するのが通例である。
【0026】
本明細書中で使用する「還元有機物質」という用語は、対応する中性有機前駆体が電子供与体から1以上の電子を受容することで得られる有機物質をいう。電子供与体は、本明細書中では「還元体」又は「還元剤」ということもある。還元有機物質は、対応する中性有機前駆体の部分還元又は完全還元で得ることができる。還元有機物質は、還元ポリマー有機物質(「還元ポリマー化学種」)、還元非ポリマー有機物質又はこれらの混合物であり得る。かくして、「還元ポリマー化学種」という用語は、対応する還元可能な中性ポリマー有機前駆体が電子供与体から1以上の電子を受容した場合に得られる還元ポリマー有機物質をいう。便宜上、「還元ポリマー物質」、「還元ポリマー化学種」及び「還元ポリマー有機物質」という用語は本明細書中で互換的に使用されると共に、各々は時には「アニオン化学種」ともいわれる。還元有機物質は、対応する還元可能な中性有機前駆体に比べてただ1つの追加電子を含むラジカルアニオンであり得る。別法として、還元有機物質は、対応する還元可能な中性有機前駆体に比べて2つの追加電子を含むジアニオンであり得る。別法として、還元有機物質は、対応する還元可能な中性有機前駆体に比べて3以上の追加電子を含むラジカルポリアニオンであり得る。別法として、還元有機物質は、対応する還元可能な中性有機前駆体に比べて4以上の追加電子を含むポリアニオンであり得る。当業者ならば、複数の電子を受容し得る中性有機前駆体から導かれる還元有機物質中には、広範囲の様々な種類のラジカルアニオン及びカチオン化学種があり得ることが理解されよう。かくして、「還元有機物質」という用語は還元ポリマー有機物質及び還元非ポリマー有機物質の両方をいい、ラジカルアニオン化学種、ジアニオン化学種、ラジカルポリアニオン化学種、ポリアニオン化学種、及び上述の化学種の2種以上の組合せの1以上をいう。例えば、中性ポリマー有機前駆体であるポリビニルナフタレンは複数のペンダントナフチル基を含み、これらの各々が電子供与体による還元を受け易い。金属カリウムのような還元剤からただ1つの電子を受容すると、ポリビニルナフタレンはナフチルラジカルアニオン部分を含む還元ポリマー化学種を生成する。最初に生成したナフチルラジカルアニオン部分に第二の電子が付加されると、ナフチルジアニオン部分を含む還元ポリマー化学種が得られる。最初に生成したナフチルラジカルアニオン部分以外のナフチル基に第二の電子が付加されると、2つのナフチルラジカルアニオン部分を含む還元ポリマー化学種が得られる。当業者ならば、中性有機前駆体中に存在する、還元体から1以上の電子を受容し得る部分の性質及び数に応じて数多くの還元タイプ及び還元度があり得ることが理解されよう。使用する還元体の量及び還元を行う条件のような、当技術分野で認められている他のパラメーターも、還元度に影響を及ぼす。一実施形態では、中性有機前駆体は「部分還元」されるといわれ、生成物である還元有機物質は「部分還元」生成物といわれる。1000の重合度(DP)を有するポリビニルナフタレンにただ1つの電子を付加することで得られるラジカルアニオンは、「部分還元」された還元ポリマー有機物質の例である。これは、追加の還元体が存在すれば、ラジカルアニオン部分又はポリマー鎖中の別のナフチル基に対する第二の電子の付加が起こり得るからである。別の実施形態では、還元有機物質は「完全還元」されているといわれる。即ち、対応する還元可能な中性有機前駆体の完全な還元が起こっており、追加の還元体の存在下でも、還元を受けた還元有機物質による追加電子の受容は起こり得ない。ナトリウムのような還元体から中性ベンゾフェノンが2つの電子を受容した場合の生成物であるベンゾフェノンのジアニオンは、「完全還元」された還元有機物質を例示している。これは、追加の還元体の存在下でも、ジアニオンによる追加電子の受容が起こり得ないからである。1000の重合度(DP)を有するポリビニルナフタレンのような中性有機前駆体がどの時点で、追加の還元体の存在下でも1つの追加電子の受容を起こり得なくするのに十分な数の電子を受容してしまうかを予め予測することは一般に不可能であるが、還元ポリマーが実際に「完全還元」される時点は実験で決定できる。
【0027】
「中性有機前駆体」という用語は、還元体から1以上の電子を受容し得る(即ち、還元可能である)中性有機物質をいう。中性有機前駆体は、中性ポリマー有機前駆体、通例は1以上の芳香族基を含むポリマーであり得る。或いは、中性有機前駆体は、中性非ポリマー有機前駆体、通例は1以上の芳香族基を含む非ポリマー物質であり得る。一実施形態では、中性有機前駆体は中性ポリマー有機前駆体と中性非ポリマー有機前駆体との混合物である。通例、中性有機前駆体は還元体から1以上の電子を受容し得る1以上の有機基を含み、前記有機基は2以上の共役二重結合を有する。中性有機前駆体中に存在する、2以上の共役二重結合を有する有機基は、共役二重結合の骨格中に、又は共役二重結合を含む有機基に付随した置換基の成分としてヘテロ原子を含み得る。本明細書中で定義されるいずれの芳香族基も、2以上の共役二重結合を有する1以上の有機基を有している。様々な実施形態では、中性有機前駆体はポリマー鎖中に1種以上の繰返し単位を有するポリマー前駆体、例えばスチレンとビニルナフタレンとのコポリマーである。他の実施形態では、中性有機前駆体は低分子前駆体(例えば、ベンゾフェノン)のような非ポリマー前駆体である。
【0028】
本明細書中で使用する下記の記号は、還元ポリマー化学種及び対応する還元可能な中性ポリマー前駆体に関する様々な構造に適用される場合、有機基を表す。
【0029】
【化1】

かかる有機基はポリマー鎖の一部であることもあり、或いはポリマー鎖を表すこともある。それは、窒素、酸素、硫黄、セレンなどの1以上のヘテロ原子を含みこともできる。例えば、下記の記号の意味は三価窒素原子に結合した任意の有機基又はポリマー鎖を包含する。
【0030】
【化2】

本発明の一態様では、少なくとも第一の導電層、第二の導電層、並びに第一及び第二の導電層の間に配設された第一の有機電子活性層を有する電気光学デバイスであって、第一の有機電子活性物質が還元有機物質である電気光学デバイスが提供される。本発明の別の態様では、1以上の導電層及び1種以上の還元有機物質を含んでなる、電気光学デバイスのような電子デバイスで使用するのに適した表面改質電極が提供される。本発明の一実施形態では、表面改質電極は1以上の導電層及び1種以上の還元ポリマー有機物質を含んでいる。還元ポリマー有機物質は、対応する中性ポリマー有機前駆体に比べて1以上の追加電子を含んでいる。還元ポリマー有機物質は、ある物質から隣接する物質への電荷の供与又は移動を促進することができる。電気光学デバイスの電子活性層は、還元有機物質を含む第一の有機電子活性物質からなる。還元有機物質は、対応する中性ポリマー有機前駆体及び中性非ポリマー有機前駆体からそれぞれ得られる還元ポリマー有機物質及び還元非ポリマー有機物質を包含する。還元有機物質は、デバイス中においてある物質から隣接する物質への電荷の供与又は移動を促進すると考えられる。一実施形態では、アルミニウム又はITO(酸化インジウムスズ)のような電極表面への還元ポリマー有機物質の堆積は電極表面の仕事関数を低下させる。さらに、低下した仕事関数は空気暴露後にも持続し、したがって電気光学デバイスの組立てに際して被覆電極表面を使用するのに十分な作業時間が得られる。本発明の様々な実施形態では、電極表面の仕事関数の空気誘起低下に対する抵抗性は、コポリマー形態の対応する中性ポリマー有機前駆体(例えば、スチレン−ビニルナフタレンコポリマー)を用いて達成できる。
【0031】
さらに、還元ポリマー化学種はそれ自体が電気エネルギーと光エネルギーとの間の変換のための有効な電子活性物質として機能し得るので、一実施形態では、これのポリマー化学種は電気光学デバイスを製造するために一層有用である。図1は、第一の導電層20と第二の導電層30との間に第一の有機電子活性物質層40を配設した電気光学デバイス10の一実施形態を示している。第一及び第二の導電層(以後はそれぞれ第一及び第二の電極ということもある)の間に電源50から電圧を供給した場合、電子活性層40は電気エネルギーを光エネルギーに変換する。
【0032】
第一及び第二の導電層又は電極用として使用できる好適な材料には、金属、金属酸化物及び導電性ポリマーがある。導電性金属酸化物の例には、公知の酸化インジウムスズ(ITO)及び他の関連材料がある。電子の伝導を容易にするために共役二重結合系を有する導電性ポリマーも使用できる。広範囲の様々な種類のかかる導電性ポリマーが当技術分野で知られている。好ましい導電層には、1種以上の金属、1種以上の金属酸化物、及びこれらの組合せがある。
【0033】
電子活性層を形成するために有用な還元有機物質は、1種以上のカチオン化学種と、対応する還元可能な中性有機前駆体に比べて1以上の追加電子とを含んでいる。好適な中性有機前駆体は、中性ポリマー有機前駆物質及び中性非ポリマー有機前駆物質から選択できる。
【0034】
還元ポリマー有機物質は、対応する中性ポリマー有機前駆体から導かれる。一実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は1以上の芳香族基を含んでいる。一例では、中性ポリマー有機前駆体は(例えば、ポリスチレンのように)ポリマー鎖上に位置するペンダント芳香族基を有している。一実施形態では、還元ポリマー有機物質は、電子を供与し得る金属化学種よる還元を受けた中性ポリマー有機前駆体から導かれる。当業者には、金属ナトリウム(Na)や金属カリウム(K)のようなアルカリ金属が電子を供与することができ、したがって好適な還元体であると認められている。特定の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は、中性ポリマー有機前駆体と金属の原子又はイオンとの相互作用で還元ポリマー有機物質を生じる。「相互作用する」又は「相互作用」という用語は、金属原子又はイオンから電子を受容し、捕獲し、保持し、所定の位置に安定化し、或いはその他のやり方で結合を形成することを含む。一実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は、還元金属(負の酸化状態にある金属)、ゼロ酸化状態にある金属、又は金属イオン(正の酸化状態にある金属)と電子を共有して安定化し得る。別の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は分極可能又はイオン化可能な部分である。さらに別の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は金属原子又はイオンと錯体を生成し得る。
【0035】
フェニル、フェニレン、ナフチル、ナフチレン、アントラセニルなどの芳香族基は、電子供与体の金属化学種(原子又はイオン)から電子を受容して負に帯電したラジカルアニオン化学種を生成し得る。電子供与体は通例は金属化学種であって、中性ポリマー有機前駆体に電子を供与した後、これは残留して還元ポリマー有機物質中に存在する電荷をバランスさせる。その起源が何であれ、還元ポリマー有機物質は1以上の電荷バランス用カチオン化学種を有する。カチオン化学種は、ナトリウムイオン(Na)のような単純カチオンであったり、或いはラジカルカチオン化学種又は錯体カチオン化学種であったりする。還元ポリマー有機物質中に存在するカチオン化学種は、中性ポリマー有機前駆体に電子を供与して還元ポリマー有機物質及びラジカルカチオンを生成し得る有機化学種のような有機化学種から生成することもできる。このようにしてラジカルカチオンを生成し得る有機化学種の非限定的な例には、有機窒素化合物(例えば、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)アミン)及び有機リン化合物(例えば、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)ホスフィン)があり、これらはそれぞれ窒素を中心とするラジカルカチオン及びリンを中心とするラジカルカチオンに変化する。ラジカルアニオンはさらに還元することができる。例えば、中性ポリマー有機前駆体は2以上の電子を受容して、アニオン化学種(例えば、ジアニオン化学種)、2以上のラジカルアニオン部分を有する系、又は1以上のラジカルアニオン部分と1以上のジアニオン部分との組合せを有する系を生成し得る。電子供与体の非限定的な例には、第1族金属、第2族金属、第3族金属、第4族金属、スカンジウム、イットリウム、希土類金属、ランタニド系列の金属、及びこれらの組合せからなる群から選択されるものがある。本明細書中で使用する周期表の族の名称は、International Union of Pure and Applied Chemistry(「IUPAC」)によって命名されたものであることを理解すべきである。好適な電子供与体の具体例には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、インジウム、スズ、ジルコニウム、ユウロピウム、セリウム及びアルミニウムがある。
【0036】
還元ポリマー有機物質に対応する中性ポリマー有機前駆体は、一般には非局在化電子を含むポリマー物質であり、例えば、共役二重結合を含むポリマー、共役三重結合を含むポリマー、及び共役二重結合と共役三重結合との組合せを含むポリマーである。大抵の場合、還元ポリマー有機物質は、1以上の芳香族環中に形成された共役二重結合を含む中性ポリマー有機前駆体の還元で製造するのが好都合である。いかなる特定の理論によっても拘束されることは望まないが、還元ポリマー有機物質は、一実施形態では電気光学デバイスの陰極から隣接する電子活性物質への電子注入を促進し、また一実施形態では電気光学デバイスの陰極から隣接する電子活性物質層への電子注入を促進する電子移動促進物質として機能すると考えられる。電子的に活性の物質は、時には「エレクトロルミネセンス物質」又は「電子活性物質」といわれる。電子供与体から1以上の電子を受容し得る中性ポリマー有機物質としては、広範囲の様々な種類のものが当技術分野で知られている。かかる中性ポリマー有機物質及び中性非ポリマー有機物質の好適な例には、Akcelrudによって「Electrolumnescent Polymers」(Progress in Polymer Science,Vol 28(2003),pp.875−962)中に開示されたものがある。これらの物質は、当技術分野で電子活性であると知られているか又は電子活性である可能性があると予想される構造又は構造単位と、デバイス性能を高めるために重要な他の機能(例えば、正孔輸送、電子輸送、電荷輸送及び電荷閉込め)を果たすことが知られているか又は果たす可能性があると予想される構造との様々な組合せを含む構造をもったポリマー物質を包含し得る。
【0037】
一実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(I)を含んでいる。
【0038】
【化3】

式中、R及びRは各々独立にハロゲン原子、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基、C〜C10脂環式基、ニトロ基又はシアノ基である。変数「m」及び「n」は、独立に値0及び4を含めて0〜4の値を有する整数である。変数「o」及び「p」は、独立に0〜1を有する整数である。変数「o」+「p」の和は0より大きい。即ち、変数「o」及び「p」の両方がゼロではあり得ない。Wは、結合、次式の基、
【0039】
【化4】

酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、C−R基、N−R基又は次式の基である。
【0040】
【化5】

式中、R、R及びRは独立に水素原子、ハロゲン原子、ポリマー鎖、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基又はC〜C10脂環式基である。Qは、結合、カルボニル基又は次式の基である。
【0041】
【化6】

式中、R及びRは独立に水素原子、ハロゲン原子、ポリマー鎖、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基又はC〜C10脂環式基である。一実施形態では、次式の記号
【0042】
【化7】

は、5000グラム/モルを超える数平均分子量を有するポリマー鎖(即ち、次式)に結合した三価窒素を表す。
【0043】
【化8】

一実施形態では、窒素上にある1以上の有機基は、窒素、酸素、硫黄及びセレンのようなヘテロ原子を含み得る。構造単位(I)を含む中性ポリマー有機前駆体の例には、「n」及び「m」がゼロであり、Wが結合であり、QがN−R基(式中、Rはポリスチレンを含むポリマー鎖である。)である化合物としての(N−ポリスチレニル)カルバゾールがある。構造単位(I)を含む中性ポリマー前駆体の追加の例には、ポリ(3−ビニルアントラセン)(m=1、R=C三価脂肪族基、n=0、Q=W=C−R(式中、Rは水素である。))、ポリ(9−メチル−9−ビニルキサンテン)(m=n=0、W=酸素原子、Q=R−C−R(式中、RはC脂肪族基(メチル基)であり、Rは三価C脂肪族基(C)である。)、ポリ(3−エチニルアントラセン)、ポリ(3−エチニル−9,9−ジメチルキサンテン)、ポリ(3−ビニル−N−メチルカルバゾール)などがある。
【0044】
第二の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(II)を含んでいる。
【0045】
【化9】

式中、R及びRは各々独立にハロゲン原子、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基、C〜C10脂環式基、ニトロ基、シアノ基又は次式のポリマー鎖である。
【0046】
【化10】

変数「q」及び「r」は、独立に値0及び4を含めて0〜4の値を有する整数である。「q」及び「r」の値の和(q+r)は0より大きい。変数「o」及び「p」は独立に0〜1の値を有していて、o+pは0より大きい。Wは、結合、次式の基、
【0047】
【化11】

酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、C−R基、N−R基又は次式の基である。
【0048】
【化12】

式中、R、R及びRは独立に水素原子、ハロゲン原子、ポリマー鎖、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基又はC〜C10脂環式基の1つである。Qは、結合、カルボニル基、又は次式の基の中から選択される基である。
【0049】
【化13】

式中、R及びRは独立に水素原子、ハロゲン原子、ポリマー鎖、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基又はC〜C10脂環式基である。構造単位(II)を含む中性ポリマー前駆体の例には、9,9−ジメチルキサンテンで末端封鎖されたポリスチレン(「q」=1、「r」=0、Rはポリスチレンからなるポリマー鎖であり、oは1であり、Q=R−C−R(式中、R=R=C脂肪族基(メチル基))、pは1であり、Wは酸素原子である。)がある。
【0050】
第三の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(III)を含んでいる。
【0051】
【化14】

式中、R及びRは各々独立にハロゲン原子、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基、C〜C10脂環式基、ニトロ基又はシアノ基であり、「s」は0及び4を含めた0〜4の整数であり、「t」は0及び3を含めた0〜3の整数である。構造単位(III)を含む中性ポリマー前駆体の例には、ポリ(1−ビニルナフタレン)、ポリ(2−ビニルナフタレン)、ポリ(2−ビニルナフタレン−スチレン)コポリマーなどがある。
【0052】
第四の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(IV)を含んでいる。
【0053】
【化15】

式中、R10は各々独立にハロゲン原子、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基、C〜C10脂環式基、ニトロ基又はシアノ基であり、「u」は0及び5を含めた0〜5の整数である。構造単位(IV)を含む中性ポリマー有機前駆体の例には、ポリスチレン、ポリ(4−クロロスチレン)、ポリ(4−フェニルスチレン)、ポリ(3−フェニルスチレン)などがある。
【0054】
第五の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(V)を含んでいる。
【0055】
【化16】

第六の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(VI)を含んでいる。
【0056】
【化17】

式中、R及びRは独立に水素、C〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基又はC〜C10脂環式基である。脂肪族基の非限定的な例には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソオクチルなどがある。芳香族基の若干の例には、フェニル、アルキルフェニル、ナフチルなどがある。脂環式基の若干の例には、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシルメチルなどがある。
【0057】
第七の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体はシロキサン繰返し単位を有する次式の構造単位(VII)を含んでいる。
【0058】
【化18】

式中、Rは各々独立にC〜C20脂肪族基、C〜C10芳香族基又はC〜C10脂環式基である。
【0059】
第八の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(VIII)を含んでいる。
【0060】
【化19】

式中、Qはナフチル基又はビナフチル基である。構造単位(VIII)を含む中性ポリマー有機前駆体の例には、ポリ(3−ビニル−1,1’−ビナフタレン)、ポリ(2−ビニル−1,1’−ビナフタレン)、ポリ(2−ビニルナフタレン−スチレン)コポリマーなどがある。
【0061】
第九の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は次式の構造単位(IX)を含んでいる。
【0062】
【化20】

式中、Qはフェニル基又はビフェニル基である。構造単位(IX)を含む中性ポリマー有機前駆体の例には、ポリ(4−ビニル−1,1’−ビフェニル)、ポリ(3−ビニル−1,1’−ビフェニル)などがある。
【0063】
他の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は、1種以上の重合性モノマーから導かれる構造単位を含んでいる。好適な重合性モノマーの例には、特に限定されないが、ビニルナフタレン、スチレン、ビニルアントラセン、ビニルペンタセン、ビニルクリセン、ビニルカルバゾール、ビニルチオフェン、ビニルピリジン、(1,4−ジエチニル)芳香族化合物(例えば、(1,4−ジエチニル)ベンゼン)、及び上述の重合性モノマーの組合せがある。さらに、重合性モノマーは1種以上の架橋性基(例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基及びアルキニル基)を含み得る。還元可能な中性ポリマー有機前駆体の若干の例は、ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)、及び次式の構造Xで例示されるもののようなポリ(フルオレニレンエチニレン)ポリマー、
【0064】
【化21】

及びポリ(1,4−フェニレンビニレン)ポリマー(例えば、ポリ{[2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシルオキシ)]−1,4−フェニレンビニレン})である。
【0065】
中性ポリマー有機前駆体は、1種以上のオルガノシリコンヒドリドから導かれる構造単位を含み得る。オルガノシリコンヒドリドは、1以上のS−H結合を含むものとして定義される。2以上のオルガノシリコンモノヒドリド基を含む化合物、オルガノシリコンジヒドリド化合物、及びオルガノシリコントリヒドリド化合物のような2以上のS−H結合を含むオルガノシリコンヒドリドを使用した場合には、架橋ポリマー物質が生じることがある。一実施形態では、1種以上のオルガノシリコンヒドリドから導かれる構造単位を含む中性ポリマー前駆体は、次式の構造XI、XII及びXIIIからなる群から選択される1種以上の構造単位を含んでいる。
【0066】
【化22】

特定の実施形態では、中性ポリマー有機前駆体は、(CH)Si(H)O−[Si(CH)O]−Si(CH)(H)及び(CH)SiO−[SiCH(H)O]x’−[Si(CH)O]y’−Si(CH)(式中、x’及びy’は独立に約1〜約30の値を有する。)からなる群から選択される1種以上のオルガノシリコンヒドリドから導かれる構造単位を含んでいる。
【0067】
還元ポリマー有機物質は、DME(1,2−ジメトキシエタン)、THF(テトラヒドロフラン)、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、DEE(エチレングリコールジエチルエーテル)又はキシレンのような適当な溶媒中で金属を反応させることにより、対応する中性ポリマー前駆体を(アルカリ金属(例えば、カリウム)のような)金属と接触させることで製造できる。溶媒の使用は、原理的には、中性ポリマー前駆体の高温融液を電子供与体金属に直接接触させることで回避できる。かくして、本発明の一実施形態では、当技術分野で公知の技術を用いて、(前述のような)1種以上の還元物質及び1種以上の極性非プロトン性溶媒を含む被覆組成物を電極表面上に被膜として設置できる。こうして得られる改質電極はELデバイスの製造に使用できる。
【0068】
上述のようにして製造される還元有機物質は、電気エネルギーを光エネルギーに変換するため又はその逆のための電子活性物質としても使用できる。したがって、かかる電子活性物質は、電気エネルギーを可視光エネルギーに変換するデバイス中でエレクトロルミネセンス層として使用できる。さらに、かかる電子活性物質は、光エネルギーを電気エネルギーに変換するための光起電力デバイス中でも使用できる。
【0069】
還元されて第一の有機電子活性物質を生成し得る中性有機前駆体は、ポリ[9,9−ジ(2−エチルヘキシル)フルオレニル−2,7−ジイル]系の化合物のようなポリマーフルオレニル化合物で例示される。さらに詳しくは、(American Dye Sources,Inc.(カナダ国)からADS131BEとして商業的に入手できる)3,5−ジメチルフェニル基で末端封鎖されたポリ[9,9−ジ(2−エチルヘキシル)フルオレニル−2,7−ジイル]をそのまま使用してもよく、或いは所望ならばさらに精製してから使用してもよい。適当な極性非プロトン性溶媒中においてADS131BEを金属カリウムで還元すればカリウム−ADS131BEの溶液が得られ、これは様々な目的のために使用できる。カリウム−ADS131BEは陰極から電子活性層への電子注入を向上させるので、電気光学デバイス用の被覆電極を製造するための被覆剤として使用できる。また、それは本発明の電気光学デバイスを製造するための固有電子活性物質(即ち、第一の有機電子活性物質)としても使用できる。かくして、一実施形態では、陰極と、陽極と、陰極及び陽極の間に配設された電子活性層とを含んでなる電気光学デバイスであって、電子活性層が還元ポリフルオレンである第一の有機電子活性物質を含む電気光学デバイスが提供される。
【0070】
他の好適な中性有機前駆物質には、中性ポリマー有機前駆物質であるポリ(ビニルカルバゾール)、並びに次式のトライマーXIV及びポリマーXVで代表される中性有機前駆物質がある。
【0071】
【化23】

構造XIV及びXVの各々については、カッコ内の構造はポリマー物質の繰返し単位を表す。構造XVを有する物質は、American Dye Sources,Inc.(カナダ国)からADS132として商業的に入手できる。
【0072】
還元ポリマー化学種を含む組成物が第一の有機電子活性物質として役立ち得るという証拠は、そのホトルミネセンススペクトルが対応する中性有機電子活性物質と同等な効率を示すことから得られる。例えば、ADS131のフィルム及びADS131を金属カリウムで処理した後に得られる生成物(対応する還元ポリマー化学種を含む生成物)のフィルムのホトルミネセンススペクトルは、フィルム厚さの差を補償するために適当な補正率を適用した後には、(スペクトルピークを積分することで測定される)同等なスペクトル効率を示す。その上、カリウム還元ADS131は電子注入性能の向上も示し、これもデバイス性能を向上させるために役立つ。
【0073】
還元有機物質、特に還元ポリマー有機物質は、電子ディスプレイデバイスを製造するためにも有用である。いかなる理論によっても制限されることはないが、かかる物質は電子供与体から電子活性物質(又はエレクトロルミネセンス物質)中への電子注入を容易にし、かかる還元ポリマー有機物質を含む電子ディスプレイデバイスの動作に際して効率の向上をもたらすと考えられる。さらに、還元有機物質は単独でも電子活性を示し得るので、かかる物質は電子ディスプレイデバイスを製造するために一層有用である。電気光学デバイス中における還元有機物質の様々な配置が、デバイスの効率を向上させるのに有用である。例えば、一実施形態では、有機エレクトロルミネセンス(「EL」)デバイスにとって、陰極と有機エレクトロルミネセンス物質を含む層との間に配設された本発明の還元有機物質が有益であり得る。別の実施形態では、有機電子活性物質は還元有機物質を含み、例えば図1に示すように、陰極と陽極との間に配設されている。通常の有機エレクトロルミネセンス物質の場合と同じく、還元有機物質(例えば、還元ポリマー有機物質)を含む本発明の有機エレクトロルミネセンス物質は印加電圧の下で光を放出する。還元有機物質は、本来のEL物質と明確な界面を形成するようにして、或いは実質的に純粋な還元有機物質から実質的に純粋な有機EL物質まで変化する組成をもった連続遷移領域を形成するようにして、デバイス中に配置できる。
【0074】
一実施形態では、還元有機物質は、スピンコーティング、吹付け塗り、漬け塗り、ローラー塗り及びインクジェット印刷からなる群から選択される方法により、下方に位置する材料(例えば、電極又は導電性表面)上に堆積させることができる。
【0075】
図2に示す別の例示的な実施形態では、電気光学デバイス60は、下から上に向かって第一の導電層20と、電荷注入層、電荷輸送層又は電荷閉込め層の1つからなる層70と、本発明の電子活性還元ポリマー有機物質を含む第一の有機電子活性物質層40と、第二の導電層30とを含んでなる積層デバイスである。電源50から電圧を印加すると、電気光学デバイス60は光を放出する。
【0076】
図3に示すさらに別の例示的な実施形態では、電気光学デバイス80は、下から上に向かって第一の導電層20と、還元有機物質を含む第一の有機電子活性物質層40と、還元有機物質を含む第二の有機電子活性物質層90と、第二の導電層30とを含んでなる積層デバイスである。電源50から電圧を印加すると、電気光学デバイス80は光を放出する。一実施形態では、第二の有機電子活性物質層は、第一の有機電子活性物質層中に存在する還元有機物質と異なる還元有機物質を含んでいる。別の実施形態では、第二の有機電子活性物質層は、エレクトロルミネセンス性の中性ポリマー有機物質(例えば、電気エネルギーを光エネルギーに変換するために当技術分野で知られているもの)を含んでいる。かかる積層デバイスは、発光デバイス全体から放出される光の色を調整するための融通性を提供する。
【0077】
本明細書中に記載されるようにして製造される本発明の表面改質電極は、電気光学デバイスを形成するために有用である。かかる電気光学デバイスは、一実施形態では、表面改質された第一の電極と、第二の電極と、第一の電極及び第二の電極の間に配設されたエレクトロルミネセンス有機物質とを含んでいて、表面改質された第一の電極は1以上の導電層及び1種以上の還元ポリマー有機物質を含み、前記還元ポリマー有機物質は対応する中性ポリマー有機前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含んでいる。一実施形態では、第一及び第二の電極の1以上は透明であり得る。透明な電極は、一実施形態では約90%以上、別の実施形態では95%以上のパーセント光透過率を有し得る。一実施形態では、本発明は、1以上の表面改質電極を含む発光デバイスであって、前記表面改質電極がエレクトロルミネセンスを示す有機電子活性物質を含み、前記有機電子活性物質がエレクトロルミネセンスを示す還元有機物質(例えば、エレクトロルミネセンス性の還元ポリマー有機物質)を含む発光デバイスを提供する。
【0078】
電気光学デバイスの陽極は、一般に、(例えば、約4.4電子ボルトを超える)高い仕事関数を有する材料からなっている。このような目的には、酸化インジウムスズ(「ITO」)が通例使用される。これは光透過に対して実質的に透明であり、有機EL層から放出された光が顕著に減衰することなくITO陽極層を通して容易に脱出し得るからである。「実質的に透明」という用語は、可視波長域内の光の50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上が10度以下の入射角で厚さ約0.5マイクロメートルのフィルムを透過し得ることを意味する。陽極層として使用するのに適した他の材料は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化亜鉛インジウムスズ、酸化アンチモン及びこれらの混合物である。陽極層は、物理蒸着、化学蒸着又はスパッタリングによって下方の構成要素上に堆積させることができる。かかる導電性酸化物を含む陽極の厚さは、一実施形態では約10〜約500ナノメートル、別の実施形態では約10〜約200ナノメートル、さらに別の実施形態では約50〜約200ナノメートルの範囲内にあり得る。例えば約50ナノメートル未満の厚さを有する金属の薄くて実質的に透明な層も、好適な導電層として使用できる。陽極用の好適な金属は、約4.4電子ボルトを超えるような高い仕事関数を有するもの、例えば、銀、銅、タングステン、ニッケル、コバルト、鉄、セレン、ゲルマニウム、金、白金、アルミニウム或いはこれらの混合物又は合金である。一実施形態では、陽極を実質的に透明な基板(例えば、ガラス又はポリマー材料からなるもの)上に配設するのが望ましいことがある。
【0079】
陰極は負の電荷キャリヤー(電子)を電子活性層中に注入するもので、(例えば、約4電子ボルト未満の)低い仕事関数を有する材料で形成される。一実施形態では、陰極として使用するのに適した低仕事関数材料は、K、Li、Na、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ag、In、Sn、Zn、Zr、Sc、Y、ランタニド系列の元素、これらの合金又はこれらの混合物のような金属である。陰極層を形成するための好適な合金材料は、Ag−Mg、Al−Li、In−Mg及びAl−Ca合金である。カルシウムのような金属又はLiFのような非金属の薄い層を何らかの他の金属(例えば、アルミニウム又は銀)の厚い層で被覆したもののような成層非合金構造物も可能である。陰極は、物理蒸着、化学蒸着又はスパッタリングによって下方の構成要素上に堆積させることができる。
【0080】
一実施形態では、還元有機物質を用いて有機エレクトロルミネセンスデバイス中に含まれる表面改質電極を製造する場合、有機エレクトロルミネセンス層は正孔及び電子の両方に対する輸送媒体として役立つと考えられる。別の実施形態では、還元有機物質はエレクトロルミネセンスデバイスの層中に含まれる第一及び/又は第二の有機電子活性物質中に存在し、正孔及び電子の両方に対する輸送媒体として役立つと考えられる。エレクトロルミネセンスデバイスに関する簡単な理論モデルでは、エレクトロルミネセンス物質を含む電子活性層中で「正孔」及び電子が結合して励起状態の化学種を生じ、これが低エネルギーレベルに降下すると同時に可視範囲内のEM放射を放出すると描写されている。エレクトロルミネセンスデバイスが共にエレクトロルミネセンスを示す第一及び第二の有機電子活性物質を含む本発明の様々な実施形態では、第一及び第二の有機電子活性物質は、デバイスが所望の波長範囲内の光を発生するように選択できる。一実施形態では、第一及び第二のエレクトロルミネセンス物質は別々の層(それぞれ第一の有機電子活性物質層及び第二の有機電子活性物質層という)としてデバイス中に配置される。これらの層の厚さは、通例、約50〜約300ナノメートルの範囲内にある。一実施形態では、第一及び第二の有機電子活性物質層のいずれか一方又は両方が還元有機物質を含んでいる。様々な実施形態では、第一の電子活性層中に存在する有機EL物質は還元有機物質を含み、第二の電子活性層は不飽和結合を有するポリマー、コポリマー、ポリマー混合物又は低分子量有機分子であり得る1種以上の中性物質のみを含んでいる。かかる物質は非局在化π電子系を有していて、これがポリマー鎖又は有機分子に高い移動度を有する正又は負電荷キャリヤーを支持する能力を付与する。好適な中性ポリマーは、ポリ(n−ビニルカルバゾール)(「PVK」、約380〜500ナノメートルの波長の紫色ないし青色の光を放出する)及びその誘導体、ポリフルオレン及びポリ(アルキルフルオレン)(例えば、ポリ(9,9−ジヘキシルフルオレン)(410〜550ナノメートル)、ポリ(ジオクチルフルオレン)(436ナノメートルのピークEL発光波長)及びポリ{9,9−ビス(3,6−ジオキサヘプチル)フルオレン−2,7−ジイル}(400〜550ナノメートル))のようなその誘導体、ポリ(パラフェニレン)(「PPP」)及びポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(400〜550ナノメートル)やポリ(2,5−ジヘプチル−1,4−フェニレン)のようなその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)(「PPV」)及びジアルコキシ置換PPVやシアノ置換PPVのようなその誘導体、ポリチオフェン及びポリ(3−アルキルチオフェン)やポリ(4,4’−ジアルキル−2,2’−ビチオフェン)やポリ(2,5−チエニレンビニレン)のようなその誘導体、ポリ(ピリジンヒニレン)及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、並びにポリキノリン及びその誘導体である。これらのポリマーの混合物又はこれらのポリマー及び他のポリマーの1種以上に基づくコポリマーも、放出される光の色を調整するために使用できる。
【0081】
エレクトロルミネセンスを示す別の部類の好適な中性ポリマーはポリシランである。ポリシランは、各種のアルキル及び/又はアリール側基で置換された線状のケイ素主鎖ポリマーである。これらは、ポリマー主鎖に沿って非局在化σ共役電子を有する準一次元物質である。ポリシランの例は、H.Suzuki et al.,“Near−Ultraviolet Electroluminescence From Polysilanes”,331 Thin Solid Films 64−70(1998)に開示されているポリ(ジ−n−ブチルシラン)、ポリ(ジ−n−ペンチルシラン)、ポリ(ジ−n−ヘキシルシラン)、ポリ(メチルフェニルシラン)及びポリ{ビス(p−ブチルフェニル)シラン}である。これらのポリシランは、約320〜約420ナノメートルの範囲内の波長を有する光を放出する。
【0082】
例えば約5000グラム/モル未満の分子量を有すると共に、還元可能な芳香族単位を含む有機物質も、電子活性層中に含まれる有機電子活性物質として適用できる。かかる物質の例は1,3,5−トリス{n−(4−ジフェニルアミノフェニル)フェニルアミノ}ベンゼンであり、これは380〜500ナノメートルの波長範囲内の光を放出する。一実施形態では、電子活性層は、非ポリマーである中性有機EL物質(例えば、フェニルアントラセン、テトラアリールエテン、クマリン、ルブレン、テトラフェニルブタジエン、アントラセン、ペリレン、コロネン又はこれらの誘導体のような低分子量有機分子)を含み得る。これらの物質は、一般に約520ナノメートルの最大波長を有する光を放出する。さらに他の好適な物質は、415〜457ナノメートルの波長範囲内の光を放出するアルミニウムアセチルアセトネートやガリウムアセチルアセトネートやインジウムアセチルアセトネート及び420〜433ナノメートルの範囲内の光を放出するアルミニウム−(ピコリルメチルケトン)−ビス{2,6−ジ(t−ブチル)フェノキシド}やスカンジウム−(4−メトキシ−ピコリルメチルケトン)−ビス(アセチルアセトネート)のような金属有機錯体である。白色光用途のためには、好ましい中性有機EL物質は青緑色波長の光を放出するものである。
【0083】
可視波長範囲内の光を放出する他の好適な中性有機EL物質は、U.Mitschke and P.Bauerle,“The Electroluminescence of Organic Materials”,J.Mater.Chem.,Vol.10,pp.1471−1507(2000)(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に開示されているトリス(8−キノリノラト)アルミニウム及び他の物質のような8−ヒドロキシキノリンの有機金属錯体である。
【0084】
有機電子活性物質を含む1以上の電子活性層(例えば、有機EL層)を順次に重ねて形成することができ、各層は異なる波長範囲内の光を放出する異種の有機EL物質を含む。かかる構成は、発光デバイス全体から放出される光の色の調整を容易にすることができる。一実施形態では、本発明は、複数のエレクトロルミネセンス層を含むエレクトロルミネセンスデバイスであって、その1以上が還元有機物質を含むエレクトロルミネセンスデバイスを提供する。
【0085】
一実施形態では、本発明の電気光学デバイスは本明細書中に前述した層以外に1以上の層を含んでいて、これらはデバイスの効率をさらに高めるためデバイス中に含めることができる。例えば、ELデバイスの効率は、有機EL層中への正電荷(「正孔」)の注入及び/又は輸送を向上させる追加層を含めることで高めることができる。これらの層の各々の厚さは、通例は500ナノメートル未満、好ましくは100ナノメートル未満である。これらの追加層用の好適な物質は、低分子量ないし中分子量(例えば、約2000グラム/モル未満)の有機分子、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(「PEDOT:PSS」)及びポリアニリンである。これらは、吹付け塗り、漬け塗り或いは物理又は化学蒸着のような通常の方法により、デバイスの製造中に適用できる。本発明の一実施形態では、所定の順方向バイアスの下で一層高い注入電流を得るため及び/又はデバイスの破損までに一層高い最大電流を得るため、陽極層と有機EL層との間に正孔注入向上層を導入できる。このようにすれば、正孔注入向上層は陽極からの正孔の注入を容易にする。正孔注入向上層用の好適な材料は、米国特許第5,998,803号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に開示されている3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジアンヒドリド又はビス(1,2,5−チアジアゾロ)−p−キノビス(1,3−ジチオール)のようなアリーレン系化合物である。
【0086】
一実施形態では、本発明は、正孔注入向上層とエレクトロルミネセンス性の第一の有機電子活性層との間に配設された正孔輸送層を含む発光電気光学デバイスを提供する。正孔輸送層は正孔を輸送すると共に電子の輸送をブロックする結果、正孔及び電子は有機EL層中で最適に結合する。正孔輸送層用として適する例示的な材料には、米国特許第6,023,371号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に開示されているようなトリアリールジアミン、テトラフェニルジアミン、芳香族第三アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、及びポリチオフェンがある。
【0087】
他の実施形態では、本発明は、追加層として「電子注入及び/又は輸送向上層」又は「電荷注入及び/又は輸送向上層」を含む電気光学デバイスを提供する。かかる層は、一実施形態では電子供与物質と有機EL層との間に配設でき、図2に示すように第一の導電層20と第一の電子活性層40との間に配設できる。電子注入及び/又は輸送向上層用として適する材料は、米国特許第6,023,371号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に開示されているような、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムなどの有機金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体及びニトロ置換フルオレン誘導体である。
【0088】
一実施形態では、本発明は、1以上の電荷ブロック層又は電荷閉込め層を含む電気光学デバイスを提供する。例示的な電荷閉込め層材料を次式の構造XVI(「poly(TPD)」とも略示、商業的に入手可能)に示す。
【0089】
【化24】

様々な種類の電荷輸送層及び/又は正孔輸送層を有する電気光学デバイスは、本明細書中に記載されるような有機電子活性物質としての還元有機物質と共に使用できるが、第一の導電層と、第二の導電層と、第一及び第二の導電層の間に配設された電子活性層とから実質的になる電気光学デバイスであって、電子活性層が有機電子活性物質を含み、有機電子活性物質が還元有機物質を含む電気光学デバイスを形成することも可能である。かかるデバイスは、有機電子活性物質の単層を含むので、時には「単層デバイス」といわれることもある。
【0090】
一実施形態では、本発明は、米国特許第6,847,162号に開示されているもののような、還元有機物質と1以上のホトルミネセンス(「PL」)層とを含むと共に、少なくとも蛍光層及び/又はりん光層を有する発光デバイスを提供する。
【0091】
別の実施形態では、本発明は、還元有機物質を含む光起電力(「PV」)セルであるオプトエレクトロニックデバイスを提供する。還元有機物質は、電極と隣接するEL活性物質との界面を横切る電子の効率的な輸送により、PVセルの性能を高める。
【0092】
一態様では、本発明は電気光学デバイスの作製方法を提供する。この方法は、第一の導電層と第二の導電層との間に電子活性物質の層を配設して電気光学デバイスを形成することを含んでなり、電子活性物質は第一の有機電子活性物質を含み、第一の有機電子活性物質は還元有機物質を含んでいる。
【0093】
別の実施形態では、本発明は、オプトエレクトロニックデバイスの製造方法であって、(a)(本明細書中に前述したようにして製造した)表面改質された第一の電極を設け、(b)表面改質された第一の電極上に電荷移動促進物質を配設し、(c)電荷移動促進物質上に有機電子活性物質(例えば、有機EL物質)を配設し、(d)有機電子活性物質上に第二の電極を設けることを含んでなる方法を提供する。別の実施形態では、本発明は、電気光学デバイスの製造方法であって、(a)陰極のような第一の導電層を設け、(b)還元ポリマー有機物質を含む第一の有機電子活性物質の層を第一の導電層上に配設し、(c)陽極層のような第二の導電層を電子活性物質層上に配設することを含んでなる方法を提供する。
【0094】
本発明の還元有機物質を含む表面改質電極及び有機電子活性物質を用いて製造できる有用なデバイスには、有機光起電力デバイス、光検出器、ディスプレイ装置及び有機発光デバイスがある。ディスプレイ装置は、ビジュアルサインを生み出すために使用する装置及び他の用途で例示される。かくして、一実施形態では、複数の電気光学デバイスを含んでなるディスプレイ装置であって、該デバイスが本明細書中に記載される1種以上の還元ポリマー物質を含むディスプレイ装置が提供される。本発明によって提供される方法を用いて組み立てられた電気光学デバイスは、動作させるのが容易である。一実施形態では、この方法は電気光学デバイスに電界又は光エネルギーを印加することを含んでいる。一実施形態では、本発明の第一の有機電子活性物質は電気エネルギーを光エネルギーに変換する。別の実施形態では、第一の有機電子活性物質は光起電力デバイスの場合のように光エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0095】
本発明によって提供される電気光学デバイスは、照明及びビジュアルサイン用途、並びにコンピューターディスプレイ、クラフィックディスプレイ、標識、光検出器などをはじめとする製品のような、ほとんど無制限の種類の用途及び製品で利用できることを強調しておきたい。
【0096】
さらに別の実施形態では、本発明は、(a)第一の導電層と、(b)第二の導電層と、(c)第一及び第二の導電層の間に配設された電子活性層とを含んでなる電気光学デバイスであって、電子活性層が第一の有機電子活性物質を含むと共に、前記第一の有機電子活性物質が中性有機前駆体を該中性有機前駆体に1以上の電子を移動させ得る還元剤に接触させる段階を含む方法で製造されたものである電気光学デバイスを提供する。本明細書中の別の場所で述べた通り、前記接触段階に際して使用できる好適な還元剤には、ナトリウム、カリウム及びカルシウムのようなアルカリ金属及びアルカリ土類金属がある。通例、接触段階には、約0〜約150℃の温度の溶媒中で還元剤(例えば、金属ナトリウム)を中性ポリマー前駆体と約30秒ないし約30時間にわたり化合させることが含まれる。好適な溶媒には、脂肪族エーテル溶剤、脂環式エーテル溶剤及び芳香族溶剤がある。脂肪族エーテル溶剤は、DME、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどで例示される。脂環式エーテル溶剤は、テトラヒドロフラン、N−メチルモルホリン、ジオキサンなどで例示される。芳香族溶剤は、トルエン、キシレン、アニソールなどで例示される。一実施形態では、第一の有機電子活性物質はポリマー有機電子活性物質からなる群から選択される。
【実施例】
【0097】
以下の実施例は、特許請求の範囲に記載した方法をいかに評価するかを当業者に詳しく説明するために示すものであり、本発明者らが発明として把握している範囲を限定するものではない。特記しない限り、部は重量部であり、温度は摂氏温度(℃)である。CPDの単位はボルト(V)であり、有効仕事関数についての単位は電子ボルト(eV)である。一般に、CPDが大きいほど、有効仕事関数は低くなる。溶媒はカリウムからの蒸留で乾燥し、活性化シーブ上で貯蔵した。
【0098】
実施例1
この実施例では、アルミニウム電極表面の仕事関数を0.66電子ボルトだけ低下させる還元ポリマー有機物質を製造する際におけるスチレン−ビニルナフタレンコポリマー(「Naphstyr」と略す)の使用を実証する。
【0099】
トルエン中でスチレン(1グラム)、ビニルナフタレン(1.3グラム)及びAIBN(アゾビス(イソブチロニトリル)、50ミリグラム)開始剤を用いて、スチレン及びビニルナフタレンの1:1コポリマーを製造した。重合を実施するため、混合物を脱気し、130℃の温度で14時間加熱した。加熱後、固体をジクロロメタンに溶解し、次いでメタノールの添加で沈殿させた。沈殿物を単離し、ジクロロメタンに再溶解し、次いでメタノール中に再沈殿させた。最終生成物を濾過によって回収し、メタノールで洗い、真空乾燥することで、0.44グラムの所望生成物を固体として得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析により、ポリマーは22000の数平均分子量(M)及び56000の重量平均分子量(M)を有することがわかった。
【0100】
上記で得られたコポリマー0.1グラムを5ミリリットルの乾燥エチレングリコールジメチルエーテル(DME)に溶解した。得られた溶液に凍結/脱気/融解サイクルを3回施し、次いで金属カリウム(59ミリグラム)と共に周囲温度で攪拌した。1〜2時間の攪拌後にnaphthstyr−Kの緑色溶液を得た。この溶液をグローブボックス内でAl−ガラス上に(毎分4000回転で)スピンコートした。Al/Naphstyr−Kのケルビンプローブ分析は、1.76ボルトの接触電位差(CPD)を示した。Al−ガラスのCPDは1.1ボルトであり、したがって0.66eVの有効仕事関数低下を示している。空気に約1分間暴露した後、CPDを再び測定したところ、変化せずに1.76ボルトであることが判明した。
【0101】
実施例2
Naphthstyr−KのDME溶液のスピンコーティングを毎分1000回転で行った点を除き、実施例1の手順を繰り返した。表面改質電極の初期ケルビンプローブ測定は、1.82Vの仕事関数値を示した。空気に約1分間暴露した後、ケルビンプローブ値は変化しなかった。表面改質電極を周囲空気に1晩暴露した。次の日に行ったケルビンプローブ測定は、1.38VのCPD値を示した。この値はAl−ガラス対照試料の値(1.18ボルト)よりなお0.2ボルト高く、0.2電子ボルトの有効仕事関数低下を表している。
【0102】
実施例3
この実施例では、アルミニウム電極表面の有効仕事関数を0.42電子ボルトだけ低下させる還元ポリマー有機物質を製造する際におけるポリ(ビニルナフタレン)の使用を実証する。
【0103】
ポリ(ビニルナフタレン)は、トルエン中でのAIBN開始剤による遊離基重合で製造した。生成物は、メタノール/塩化メチレン混合溶媒からの2回の沈殿で精製した。精製ポリマーは9230のM、4332のM、及び2.13のM/Mを有していた。
【0104】
THF中のポリビニルナフタレンをカリウム還元したところ、暗色の溶液が得られた。この物質(K−polyNaph)をグローブボックス内でAl/ガラス上にスピンコートした。ケルビンプローブ分析は1.48ボルトのCPD値を示した。空気に24時間暴露した後、ケルビンプローブは1.21ボルトのCPD値を示した。
【0105】
実施例1〜3の結果は、還元フェニル及び/又はナフチルペンダント基を含む還元ポリマー有機物質が低い仕事関数及び空気による再酸化に対するある程度の抵抗性を付与することを示している。
【0106】
実施例4
市販のポリビニルカルバゾール(PVK)をTHFに溶解し、次いでカリウムで還元して濃青色の溶液を得た。K−PVK溶液をAl/ガラス上にスピンコートした。ケルビンプローブ分析は1.42ボルトのCPD値を示した。
【0107】
実施例5
この実施例では、9,9−ジ(5−ヘキセニル)フルオレンとM(D)15M[MeSiO−(MeSiHO)−(SiMe−O)15−OSiMe]との反応による中性ポリマー有機前駆体の合成を実証する。
【0108】
フルオレン(5グラム、30.1ミリモル)及び−ブロモ−5−ヘキセン(15.7グラム、64ミリモル)を50ミリリットルのジメチルスルホキシド(DMSO)及び50ミリリットルの50%水酸化ナトリウム水溶液と混合し、約120℃に14時間加熱した。周囲温度に冷却した後、反応混合物は3つの層を含んでいたが、これらを分液漏斗で分離した。最上層は黄色であり、中間層は桃色であり、下層は乳白色であった。下層を除去し、2つの上部有機層を飽和塩化ナトリウム溶液で洗った。塩化ナトリウム水溶液を添加したところ、桃色が消失した。黄色の有機層が生じたが、これを分離し、減圧蒸留を施してDMSO及び未反応の臭化n−ヘキシルを除去した。
【0109】
蒸留フラスコ内の残留物質のGC分析は、それが90重量%を超える9,9−ジ(5−ヘキセニル)フルオレンと10重量%未満の9−(5−ヘキセニル)フルオレンとの混合物であることを示した。フルオレンの完全な消費も推論された。ガスクロマトグラフィー及びプロトンNMR分析による所望生成物の分析は、それが92%の9,9−ジ(5−ヘキセニル)フルオレンからなることを示した。
【0110】
実施例6
この実施例では、9,9−ジ(5−ヘキセニル)フルオレンのオレフィン基とM(D)15MのSi−H基との相対モル比がそれぞれ1:2に相当するヒドロシリル化生成物の製造を記載する。
【0111】
DME(5ミリリットル)中で9,9−ジ(5−ヘキセニル)フルオレン(0.124グラム、0.376ミリモル)の溶液を調製した。この溶液1ミリリットルをGE Silicones社の中間体88405(式M(D)15Mを有するもの、0.12グラム)及びKarstedt白金触媒(キシレン中での5重量%溶液1マイクロリットル)と混合して2:1のSi−H/オレフィンモル比を得た。ヒドロシリル化反応はプロトンNMR分光分析で追跡した。80℃で1時間加熱した後、分光分析はすべてのオレフィン基の完全な消費を示した。得られた生成物は所望の架橋ヒドロシリル化生成物であった。
【0112】
実施例7
この実施例では、9,9−ジ(5−ヘキセニル)フルオレンのオレフィン基とM(D)15MのSi−H基との相対モル比がそれぞれ1:1に相当するヒドロシリル化生成物の製造を記載する。
【0113】
DME(5ミリリットル)中で9,9−ジ(5−ヘキセニル)フルオレン(0.124グラム、0.376ミリモル)の溶液を調製した。この溶液1ミリリットルをGE Silicones社の中間体88405(式M(D)15Mを有するもの、0.06グラム)及びKarstedt白金触媒(キシレン中での5重量%溶液1マイクロリットル)と混合して1:1のSi−H/オレフィンモル比を得た。ヒドロシリル化反応はプロトンNMR分光分析で追跡した。80℃で1時間加熱した後、分光分析はすべてのオレフィン基の完全な消費を示した。得られた生成物は所望の架橋ヒドロシリル化生成物であった。
【0114】
実施例8
この実施例では、上記実施例7で製造した中性ポリマー有機前駆体から導かれる還元ポリマー有機物質の製造を記載する。
【0115】
実施例11に後述されるようにして調製したカリウム−9,9−ジ(n−ヘキシル−5−ヘキセニル)フルオレンの青色溶液(DME溶液1ミリリットル)を、上述のKarstedt白金触媒溶液1マイクロリットルを含むバイアルに加えた。次いでこの溶液を、M(D)15M(0.058グラム)を含む第二のバイアルに加えた。Si−H結合を含むM(D)15Mポリマーに添加した後、青色は赤色に変化した。次いで、混合溶液をドライボックス内でAl−ガラス上に毎分4000回転でスピンコートした。次いで、スライドを90℃で1時間加熱した。ケルビンプローブ分析は1.45VのCPD値を示した。次いで、スライドを空気に約1分間暴露した。空気暴露後の新しいCPD値は1.26Vであり、被覆前に測定したAl対照品の値に比べてなお約0.3ボルト高かった(これは0.3電子ボルトの有効仕事関数低下に相当していた)。最後に、フィルム被覆スライドにScotch Tape引張試験を施し、次いでCPD値を再び測定した。CPD値は変化せずに1.26Vのままであった。
【0116】
実施例8の結果は、実施例12及び13(後述)の結果と考え合わせると、架橋オルガノシリコン還元ポリマー化学種は90℃の加熱した後でもアルミニウム表面に対して良好な密着性を有することを実証している。
【0117】
実施例9及び10
ベンゾフェノン(0.1グラム)をそれぞれ2モル当量のナトリウム及びカリウムで処理し、周囲温度で約1時間攪拌することで、ナトリウムベンゾフェノンケチル及びカリウムベンゾフェノンケチルを製造した。得られた溶液をAl−ガラス上にスピンコートして対応する表面改質電極を製造した。CPD測定は、両方の改質電極がAl−ガラスに比べて低い仕事関数を有することを示した。即ち、ナトリウムベンゾフェノンケチル被覆電極に関するCPD値は1.34Vであった。しかし、約1分間の空気暴露後、CPDは対照Al−ガラスに関して観測された値(1.18eV)に比べて直ちに1.006Vに低下した。同様に、カリウムベンゾフェノンケチル被覆電極に関するCPD値は1.87Vであった。しかし、短時間の空気暴露はこの値を1.2Vに上昇させ、これは対照試料のCPDとほぼ同じであった。
【0118】
実施例11
この実施例では、カリウム−9,9−ジ(n−ヘキセニル)フルオレンを含む被覆溶液でAl−ガラス試料を被覆することで得られる結果を例示する。
【0119】
Schlenkフラスコ内で、実施例5に記載したようにして調製した9,9−ジ(n−ヘキシル)フルオレン(0.12グラム、0.36ミリモル)を5ミリリットルの乾燥DMEに溶解し、次いでカリウム(0.034グラム、0.87ミリモル)を添加した。次に、この混合物に凍結−脱気−融解サイクルを3回施し、次いで周囲温度で攪拌した。溶液は45分以内に青色になった。青色の溶液をグローブボックス内でAl/ガラス上に4000rpm(毎分回転数)でスピンコートした。ブランクAl/ガラスのケルビンプローブ測定は、0.87VのCPD(接触電位差)を示した。青色の溶液で被覆したAl/ガラス片は1.76VのCPD値を有し、したがって0.8電子ボルトの有効仕事関数低下を示している。
【0120】
実施例12
M(D)15M及び白金触媒のDME溶液をAl/ガラス上に4000rpmでスピンコートし、次いで90℃で1時間加熱した。CPD値は0.98Vであった。
【0121】
実施例13
9,9−ジ(n−ヘキシル)フルオレン、白金触媒及びM(D)15MのDME溶液を、前述のようにスピンコートして加熱した。CPD値は1.13Vであった。
【0122】
実施例9〜13では、電極を改質するために使用する還元有機物質がポリマーでない場合にも電極の仕事関数の向上が達成できることを実証している。
【0123】
実施例14
ADS131BEは、さらに精製することなく受け入れたままで使用した。ガス入口及び磁気攪拌棒を備え、炉から取り出した直後のSchlenk管内に、0.01グラムのADS131BE及び0.01グラムのカリウムを配置した。この混合物に、注射器で5ミリリットルのテトラヒドロフラン(又はエチレングリコールジメチルエーテル)を添加した。混合物を攪拌し、真空ラインを用いて凍結−脱気−融解サイクルを3回施した。連続攪拌で混合物を周囲温度に加温した。2〜6時間以内に青色が認められた。得られた溶液は、水分レベルが約1ppm未満であり、酸素レベルが約10ppm未満であるグローブボックス内に貯蔵した。同じグローブボックス内で、還元ADS131BEのDME溶液を用いて、予め清浄にした石英基体上にポリマーフィルムをスピンコートした。外周に光学接着剤を用いて、被覆石英基体を別の石英基体で封鎖した。HP8254ホトダイオードアレイスペクトロメーターでUV−可視吸収測定を行った。未還元ADS131BEについても上述の手順を繰り返した。フィルム厚さの差を補償するため、励起波長でのインライン吸収を用いてPL強度を補正した。PLスペクトルは、カリウムによるADS131BEの還元がホトルミネセンス特性に影響を及ぼさないことを示した。
【0124】
実施例15
この実施例では、電子活性ポリマー物質としてのカリウム−還元ADS131BE及び裸のAl陰極を用いた単層電気光学デバイスITO/PEDOT/K−ADS131BE/Alの製造及び性能を記載する。まず、PEDOT(Bayer Corporationから入手したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))の水溶液を(予め紫外線及びオゾンで10分間処理した)ガラス/ITO基体上にスピンコートし、次いで空気中において180℃で60分間ベークした。かくして、厚さ約65ナノメートルのPEDOT層を有するガラス/ITO基体を得た。PEDOT被覆ガラス/ITO基体を制御雰囲気のグローブボックス(そこでは水分及び酸素の両方が1ppm未満の濃度に調節されている)内に配置した。次に、(上記実施例18に記載したようにして製造した)カリウム−還元ADS131BEの溶液をグローブボックス内で調製した。PEDOT被覆ガラス/ITO層上に、K−還元ADS131BE(時にはK−ADS131BEともいう)のフィルムをDME溶液からスピンコートした。次に、2×10−6トルの基礎真空度でAlを熱蒸着することで、K−ADS131BE層上に陰極層を形成した。最後に、ガラススライドを用いてデバイスをカプセル封入し、光学接着剤で封鎖した。
【0125】
比較例1
K−ADS131BEの代わりにADS131BEを用いてITOガラス基体を被覆し、裸のAl陰極の代わりにAl−NaF二層陰極を用いた点を除き、実施例15で使用した手順と同様な手順を用いて電気光学デバイス(ITO/PEDOT/ADS131BE/Al−NaF)を製造した。
【0126】
比較例2
NaF−Al二層陰極の代わりに裸のAl陰極を用いた点を除き、比較例1で使用した手順と同様な手順を用いて電気光学デバイス(ITO/PEDOT/ADS131BE/Al)を製造した。
【0127】
実施例16
この実施例では、電気光学デバイスITO/PEDOT/poly(TPD)/K−ADS131BE/Alの製造及び性能を記載する。poly(TPD)は電荷閉込め層として使用した。poly(TPD)は、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン](American Dye Sources,Inc.(カナダ国)から購入し、さらに精製することなく受け入れたままで使用したADS254BE)を表す。使用した手順は、ITO/PEDOT層上にpoly(TPD)を堆積させ、次いでK−ADS131BE層及びAl陰極層を堆積させた点を除き、実施例19に記載した手順と同様であった。
【0128】
比較例3
K−ADS131BEの代わりに中性ポリマー物質ADS131BEを用い、裸のAlの代わりにNaF/Al二層陰極を用いた点を除き、実施例16に記載したものと同じ一般手順を用いて電気光学デバイスITO/PEDOT/poly(TPD)/ADS131BE/NaF−Al)を製造した。
【0129】
上記で製造したデバイスの性能を図4及び5に示す。図4及び5は、ミリアンペア/平方センチメートル(mA/cm)単位の電流密度をカンデラ/アンペア(cd/A)単位で示す効率の関数としてプロットしたグラフを示している。実施例15及び比較例1の電気光学デバイスのそれぞれに関する図4中のプロット100及び110は、電子活性層としてのK−ADS131及び裸のAl陰極を有する実施例15のデバイスが比較例1の従来デバイスと同等の(カンデラ/アンペア(cd/A)が、電子活性層としての非ドープADS131及びNaF/Al二層陰極を有する比較例1の従来デバイスの効率と同等の(カンデラ/アンペア(cd/A)で測定した)効率を有することを示している。さらに、実施例15及び比較例2の電気光学デバイスのそれぞれに関するプロット110及び120を比較すると、実施例15のデバイスは、電子活性層としての中性ポリマー化学種ADS131BE及び裸のAl陰極を使用した比較例2のデバイスよりはるかに高い(10倍を超える)効率を有することがわかる。実施例16のように、ITO/PEDOT層と電子活性層との間にpoly(TPD)層を電荷閉込め層として含む場合には、図4中のプロット110と図5中のプロット130との比較からわかるように、実施例15のデバイスに比べてデバイス効率のさらに顕著な向上が達成できる。比較例3及び実施例16のデバイスの性能を比較すると、図5中のプロット130及び140を比較することでわかるように、電荷ブロック層としてのpoly(TPD)層、電子活性層としてのK−ADS131BE及び裸のAl陰極を有するデバイスの効率は、少なくとも約40ミリアンペア/平方センチメートルの電流密度までは、電荷ブロック層としてのpoly(TPD)層、電子活性層としてのADS131BE及びNaF−Al二層陰極を有するデバイスの効率より高い。これらの結果は、電子活性物質として還元ポリマー有機物質を使用することで、デバイス効率の顕著な向上なしにデバイス寿命の短縮を引き起こすことがあるNaFのような腐食性物質を使用する必要なしに良好なデバイス性能を達成できることを明確に示している。
【0130】
以上、本発明の特定の特徴のみを例示し説明してきたが、当業者には数多くの修正及び変更が想起されるであろう。したがって、特許請求の範囲は本発明の真の技術的思想に含まれるかかる修正及び変更のすべてを包含するものと想定されていることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の例示的な一実施形態に従い、第一及び第二の導電層の間に配設された第一の有機電子活性物質層を有する電気光学デバイスの略図である。
【図2】本発明の例示的な一実施形態に従い、第一及び第二の導電層の間に配設された隣接層、即ち第一の有機電子活性物質層及び電子輸送層か正孔輸送層か電荷閉込め層の1以上を有する電気光学デバイスの略図である。
【図3】本発明の例示的な一実施形態に従い、第一及び第二の導電層の間に配設された隣接層、即ち第一及び第二の有機電子活性物質層を有する電気光学デバイスの略図である。
【図4】本発明の例示的な一実施形態に係る電気光学デバイスITO/PEDOT/K−ADS131BE/Al、ITO/PEDOT/ADS131BE/NaF−Al及びITO/PEDOT/ADS131BE/Alに関し、効率に対して電流密度をプロットしたグラフである。
【図5】本発明の例示的な一実施形態に係る電気光学デバイスITO/PEDOT/ポリ(TPD)/K−ADS131BE/Al、ITO/PEDOT/ポリ(TPD)/ADS131BE/NaF−Al及びITO/PEDOT/ADS131BE/NaF−Alに関し、効率に対して電流密度をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0132】
10 電気光学デバイス
20 第一の導電層
30 第二の導電層
40 第一の電子活性層
50 電源
60 電気光学デバイス
70 電荷注入/輸送/閉込め層
80 電気光学デバイス
90 第二の電子活性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の導電層と、
第二の導電層と、
第一及び第二の導電層の間に配設され、第一の有機電子活性物質を含む電子活性層であって、第一の有機電子活性物質が還元有機物質を含む電子
活性層と
を含んでなる電気光学デバイス。
【請求項2】
電気光学デバイスの作製方法であって、
第一の導電層と第二の導電層との間に電子活性物質の層を配設して電気光学デバイスを形成することを含んでなり、電子活性物質が第一の有機電子活性物質を含み、第一の有機電子活性物質が還元有機物質を含む、方法。
【請求項3】
1種以上のカチオン化学種及び還元有機物質を含んでなる電子活性有機物質であって、前記還元有機物質が対応する還元可能な中性前駆体に比べて1以上の追加電子を含む、電子活性有機物質。
【請求項4】
複数の電気光学デバイスを含んでなるディスプレイ装置であって、前記電気光学デバイスの1以上が第一の電子活性有機物質を含み、前記第一の有機電子活性物質が還元有機物質を含む、ディスプレイ装置。
【請求項5】
1以上の導電層と、
前記導電層の表面上に配設された1種以上の還元ポリマー物質であって、対応する中性ポリマー前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含む還元ポリマー物質と
を含んでなる表面改質電極。
【請求項6】
1種以上の還元ポリマー有機物質であって、対応する中性ポリマー有機前駆体に比べて1以上の追加電子を含むと共に、1種以上のカチオン化学種を含む還元ポリマー有機物質と、
1種以上の極性非プロトン性溶媒と
を含んでなる被覆組成物。
【請求項7】
表面改質された第一の電極と、
第二の電極と、
第一の電極及び第二の電極の間に配設されたエレクトロルミネセント有機物質と
を含んでなる電気光学デバイスであって、表面改質された第一の電極が1以上の導電層及び前記導電層の表面上に配設された1種以上の還元ポリマー物質を含むと共に、還元ポリマー物質が対応する中性ポリマー前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含む、電気光学デバイス。
【請求項8】
1以上の導電層と、
1種以上の還元有機物質であって、対応する中性ポリマー前駆体に比べて1以上の追加電子及び1種以上のカチオン化学種を含む還元有機物質と
を含んでなる表面改質電極。
【請求項9】
陰極と、
陽極と、
陰極及び陽極の間に配設された電子活性層と
を含んでなる電気光学デバイスであって、電子活性層が還元ポリフルオレンを含む、電気光学デバイス。
【請求項10】
第一の導電層と、
第二の導電層と、
第一及び第二の導電層の間に配設され、第一の有機電子活性物質を含む電子活性層であって、前記第一の有機電子活性物質が、中性有機前駆体を該中性有機前駆体に1以上の電子を移動させ得る還元剤に接触させる段階を含む方法で製造されたものである電子活性層と
を含んでなる電気光学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−179900(P2006−179900A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359692(P2005−359692)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】